(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ジストロフィー病態の効率的な全身処置
(51)【国際特許分類】
A61K 48/00 20060101AFI20230804BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20230804BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20230804BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20230804BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20230804BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230804BHJP
【FI】
A61K48/00 ZNA
A61K35/76
A61K38/17
A61P21/04
C12N15/864 100Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021049979
(22)【出願日】2021-03-24
(62)【分割の表示】P 2020014974の分割
【原出願日】2015-06-29
【審査請求日】2021-04-14
(32)【優先日】2014-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2015/058964
(32)【優先日】2015-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】516388274
【氏名又は名称】ロイヤル・ホロウェイ・アンド・ベッドフォード・ニュー・カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】518220604
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・ディクソン
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ヴォワ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ムリエ
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ・ル・ギネ
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6656240(JP,B2)
【文献】TAEYOUNG KOO,LONG-TERM FUNCTIONAL ADENO-ASSOCIATED VIRUS-MICRODYSTROPHIN EXPRESSION IN THE DYSTROPHIC CXMDJ DOG,THE JOURNAL OF GENE MEDICINE,JOHN WILEY & SONS,2011年09月,VOL:13, NR:9,PAGE(S):497 - 506,http://dx.doi.org/10.1002/jgm.1602
【文献】Nat Biotechnol,2005年,Vol.23, No.3,p.321-328
【文献】PNAS,2006年,Vol.103, No.10,p.3758-3763
【文献】生化学 抄録CD,2008年,p.1P-1199
【文献】Drug Delivery System,2009年,24-6,582-591
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 48/00
A61K 35/76
A61K 38/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒ
トにおけるジストロフィー疾患の処置での使用のための遺伝子治療製品を含む組成物であって、
- 遺伝子治療製品が、配列番号1の配列を含む核酸配列を有する
、AAV2/8ベクターを除くAAV6、AAV8又はAAV9ベクターであるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを含み、
- 組成物が血管内注射によって全身投与されるものであり、
- ジストロフィー疾患がデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)である、組成物。
【請求項2】
静脈内注射によって投与される、請求項1に記載のその使用のための組成物。
【請求項3】
10
15vg/kg以下、有利には10
12vg/kgから10
14vg/kgの間の用量で投与される、請求項1
又は2に記載のその使用のための組成物。
【請求項4】
組成物の単回投与を含む、請求項1から
3のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項5】
筋肉機能を改善するための、請求項1から
4のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項6】
心機能を改善するための、請求項1から
5のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項7】
呼吸機能を改善するための、請求項1から
6のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項8】
消化機能を改善するための、請求項1から
7のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項9】
歩行を改善するための、請求項1から
8のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【請求項10】
生活の質及び/又は期待寿命を改善するための、請求項1から
9のいずれか一項に記載のその使用のための組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロジストロフィンをコードする配列によって定義された、特にヒト及びイヌにおけるジストロフィー疾患のための効率的な遺伝子治療製品、使用される送達媒体及び投与経路を提供する。
【背景技術】
【0002】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、最も頻度の高い進行性の筋肉変性疾患であり、3,500から5000人の出生男児のうちおよそ1人が罹患する。DMDは、X染色体に配置されたジストロフィンをコードする遺伝子の欠失又は突然変異によって引き起こされる。ジストロフィンは、ジストロフィン-糖タンパク質複合体のアセンブリに必要であり、筋線維の細胞骨格と細胞外マトリックスとの間に機械的及び機能的な連結を提供する。機能的ジストロフィンの非存在は、線維の変性、炎症、壊死、及び瘢痕や脂肪組織での筋肉の置き換わりを引き起こし、結果として10歳代から30歳代の間に進行性の筋肉の衰弱並びに呼吸不全及び心不全による早期死亡に至る(Moser, H.、Hum Genet、1984. 66(1):17~40頁)。
【0003】
ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)と呼ばれるより軽度の疾患の形態は、発病が遅いこと、後に車椅子のサポートを要すること、及び寿命がより長いことによってDMDとは区別される。BMDは、遺伝子のリーディングフレーム及び最も重要な部分を維持し、トランケートされているがそれでもなお機能的ジストロフィンタンパク質を生じる突然変異によって引き起こされる(Muntoni Fら、Lancet Neurol、2003)。
【0004】
DMD(Rodino-Klapac, L.R.ら、Curr Neurol Neurosci Rep、2013. 13(3):332頁)又はBMDに利用可能な治療法も有効な処置もない。従来の療法は、徴候及び症状を部分的に軽減するが、疾患メカニズムを直接標的としたり表現型を逆転させたりすることはない支持療法に限定されている。
【0005】
現在のところ、DMDに関して、インビボでの遺伝子治療、細胞移植療法、DMDナンセンス突然変異の薬理学的なレスキュー、及びDMD遺伝子リーディングフレームを修復するためのエクソンスキッピング戦略等の数々の治療戦略が開発されつつある。これらの戦略の全てが、異なる筋群を標的化すること、送達の最適化、導入遺伝子の長期発現、及び起こり得る免疫応答等の克服すべき問題がある(Jaminら、Expert Opin Biol Ther、2014)。
【0006】
ジストロフィン遺伝子は、ヒトゲノムにおいて最も大きい公知の遺伝子であり、公知の遺伝子治療用ベクター系の内部に当てはめるには大きすぎる。それゆえに、これまでに存在するウイルスベクターを用いたDMDのための本質的に2つの遺伝子治療戦略は、i)特定の突然変異にのみ適したエクソンスキッピングを促進するためのアンチセンスオリゴヌクレオチドの構成的発現、及び(ii)サイズを小さくした機能的ジストロフィンタンパク質(「マイクロジストロフィン」また「ミニジストロフィン」としても公知)をコードするcDNAの構成的発現である。
【0007】
小さいアンチセンス配列の使用又はマイクロジストロフィンの使用という両方の戦略は、DMD遺伝子治療におけるAAVベクター使用に関する主要な障害に取り組むものであり、この障害とはそれらのパッケージング能力である。AAVベクターは、約4.7kbを取り込むことができるが、野生型ジストロフィンcDNAのサイズは約14kbである。この問題を克服するために、多数の研究により、部分欠失しているが高度に機能的ジストロフィン遺伝子が開発されており、これらは、AAVベクターの内部にうまくパッケージングすることができ、動物モデルにおいて、完全に正常化される訳ではないが、ジストロフィーの表現型を向上させることが示された。
【0008】
mdxマウスモデルは、マイクロジストロフィンをコードする新しいコンストラクトを試験するのに一般的に使用される。しかしながら、mdxマウスは、あまり重症ではない疾患の形態を提示し、免疫反応がないことから、このモデルは欠点を有する。他の動物モデルは、GRMDイヌであり、これは、ヒトにおける遺伝子治療製品の治療上の可能性を予測するのにより信頼性があるとみなされている(Kornegayら、Mamm Genome、2012)。
【0009】
全ての提唱されているマイクロジストロフィン配列のなかでも、Foster H.ら(Mol Ther、2008. 16(11):1825~32頁)は、組換えAAVベクター(rAAV2/8)中の筋特異的プロモーター(Spc5-12)の制御下におけるマイクロジストロフィン遺伝子のマウスの2つの異なる配置、ΔAB/R3-R18/ΔCT及びΔR4-R23/ΔCTを比較した。マイクロジストロフィンのコドンのヒト最適化は、mdxマウスモデルにおいて、遺伝子導入及び筋機能を向上させることが報告された。合計3.1011vgのrAAV/8静脈内注射は、効率的な心臓の遺伝子導入並びに骨格筋中及び横隔膜内の著しいジストロフィン発現をもたらした。
【0010】
CXMDjイヌに関連して、Ohshima S.ら(Mol Ther、2009. 17(1):73~80頁)は、四肢灌流による、すなわち加圧下での静脈内注射による、CMVプロモーターの制御下におけるM3マイクロジストロフィンをコードするrAAV8のイヌへの投与を報告した。
【0011】
Zhang Y.ら(Hum Mol Genet、2013. 22(18):3720~29頁)は、DMDマウスにおける全身性(合計5.1012vg)の二重AAV9遺伝子治療を研究した。相同組換えにより、尾静脈を介して注射された二重AAVベクターは、ジストロフィン反復R16及びR17を含有するnNOS結合マイクロジストロフィンを再構築した。
【0012】
同様に、Odom G.ら(Mol Ther、2011. 19(1):36~45頁)は、中央の相同な組換えを生じる領域を共有する2種のrAAV6ベクター(合計2.1012vg)を血管内共送達した後のマウスにおけるΔH2-R19ミニジストロフィンをコードする発現カセットの再構築を実証した。
【0013】
Wang B.ら(J Orthop Res. 2009; 27(4):421~6頁)は、新生仔マウス(dKO及びmdx)における合計3.1011vgのrAAV1ベクターの腹膜内(i.p.)注射を開示した。これらのAAVベクターは、MCK又はCMVプロモーターの制御下に置かれたマイクロジストロフィンΔ3990をコードする。
【0014】
Koppanatiら(Gene therapy. 2010; 17(11):1355~62頁)は、CMVプロモーターの制御下に置かれたイヌマイクロジストロフィンをコードする合計6.4.1011vgのrAAV8ベクターの腹膜内(i.p.)注射を介したmdxマウスにおける子宮内遺伝子導入を報告した。
【0015】
Schinkelら(Human Gene therapy. 2012; 23(6):566~75頁)は、CMVプロモーター又は心臓特異的なMLC0.26プロモーターの制御下に置かれたマイクロジストロフィンをコードする合計1012vgのrAAV9ベクターの静脈内(IV)注射を介したmdxマウスにおける心臓の遺伝子治療を報告した。
【0016】
Gregorevicら(Mol. Therapy 2008; 16(4):657~64頁)は、CMVプロモーターの制御下に置かれたΔR4-R23/ΔCTマイクロジストロフィンをコードする合計1013vgのrAAV6ベクターの静脈内(IV)注射を介したmdxマウスにおける筋肉の遺伝子治療を報告した。
【0017】
Shinら(Gene Therapy 2011; 18(9):910~19頁)は、CMVプロモーターの制御下に置かれたマイクロジストロフィン(hΔCS2)をコードする合計3.1012vgのrAAV9ベクターの静脈内(IV)注射を介したmdxマウスにおける心臓の遺伝子治療を報告した。
【0018】
Shinら(J. of Gene Medicine 2008; 10(4):449頁)は、皮下注射又は静脈内注射による、CMVプロモーターの制御下に置かれたΔCS2マイクロジストロフィンをコードするrAAV8のマウスにおける送達効率を比較した。
【0019】
Colganら(Mol. Therapy 2014; 22(S1): S197頁)は、dKOマウスにおけるrAAV6ベクターの静脈内注射によるマイクロジストロフィン及びフォリスタチンのコンビナトリアル遺伝子送達を報告した。
【0020】
DMDの場面において、有用な治療的解決策は、以下の特徴を有する遺伝子治療製品となる:
- 適度な用量で(すなわち標的組織における適正な遺伝子導入)及び場合により独特な注射によって全身投与することができる製品であること;
- その用量で許容できる毒性を有し、特にジストロフィンタンパク質に対する有害な免疫応答を誘発しない製品であること;
- 十分な向性を有する、すなわち骨格筋の広い領域だけでなく横隔膜及び心筋へ広範にわたり遺伝子導入される製品であること;
- ヒトにおいてジストロフィー疾患を改善することができる製品であること。
【0021】
実際には、それは非常に難しい仕事であり、数々の試みが失敗してきたことが以前の報告で明らかになった。
【0022】
CMVプロモーター下にヒト特異的であるがコドン最適化されていないマイクロジストロフィン(ΔR4-R23/ΔCT)をコードするAAV2/6ベクターを使用した研究は、免疫抑制中止の6週間後、最初の筋肉内注射の22週間後に、限定的な発現及び免疫系を介した注射されたCXMDjイヌ筋線維の偶発的な破壊をもたらした(Wang, Z.ら、Mol Ther、2007. 15:1160~66頁)。
【0023】
CMVプロモーター下にヒト特異的であるがコドン最適化されていないマイクロジストロフィン(ΔR3-R21/ΔCT)をコードするAAV2/5ベクターの筋肉内注射に基づく臨床試験は、非常に限定的な導入遺伝子発現及び不適切な免疫応答をもたらした(Mendell, JRら、N Engl J Med、2010.363(15):1429~37頁; Bowles, DE.ら、Mol Ther、2012. 20(2):443~55頁)。
【0024】
それゆえに、生存、総合的な臨床スコア、消化、心臓及び/又は呼吸機能に関する全身性の利益を包含するヒトにおけるジストロフィー病態の効率的な処置が、当業界で求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】米国特許第7,282,199号
【文献】WO2005/033321
【文献】米国特許第6,156,303号
【文献】WO2003/042397
【非特許文献】
【0026】
【文献】Moser, H.、Hum Genet、1984. 66(1):17~40頁
【文献】Muntoni Fら、Lancet Neurol、2003
【文献】Rodino-Klapac, L.R.ら、Curr Neurol Neurosci Rep、2013. 13(3):332頁
【文献】Jaminら、Expert Opin Biol Ther、2014
【文献】Kornegayら、Mamm Genome、2012
【文献】Foster H.ら(Mol Ther、2008. 16(11):1825~32頁)
【文献】Ohshima S.ら(Mol Ther、2009. 17(1):73~80頁)
【文献】Zhang Y.ら(Hum Mol Genet、2013. 22(18):3720~29頁)
【文献】Odom G.ら(Mol Ther、2011. 19(1):36~45頁)
【文献】Wang B.ら(J Orthop Res. 2009; 27(4):421~6頁)
【文献】Koppanatiら(Gene therapy. 2010; 17(11):1355~62頁)
【文献】Schinkelら(Human Gene therapy. 2012; 23(6):566~75頁)
【文献】Gregorevicら(Mol. Therapy 2008; 16(4):657~64頁)
【文献】Shinら(Gene Therapy 2011; 18(9):910~19頁)
【文献】Shinら(J. of Gene Medicine 2008; 10(4):449頁)
【文献】Colganら(Mol. Therapy 2014; 22(S1): S197頁)
【文献】Wang, Z.ら、Mol Ther、2007. 15:1160~66頁
【文献】Mendell, JRら、N Engl J Med、2010.363(15):1429~37頁
【文献】Bowles, DE.ら、Mol Ther、2012. 20(2):443~55頁
【文献】Athanasopoulosら、Gene Ther 2004 Suppl 1:S109~21頁
【文献】「Remington's Pharmaceutical Sciences」、E. W. Martin
【文献】Zheng Fanら(2012、Molecular Therapy 20(2)、456~461頁)
【文献】Toromanoffら(2008、Molecular Therapy 16(7):1291~99頁)
【文献】Arrudaら(2010、Blood 115(23):4678~88頁)
【文献】Bushby及びConnor、Clin Investig (Lond). 2011; 1(9): 1217~1235頁
【文献】「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook、2012)
【文献】「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984)
【文献】「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010)
【文献】「Methods in Enzymology」、「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997)
【文献】「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987)
【文献】「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002)
【文献】「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」、(Babar、2011)
【文献】「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)
【文献】Wang, B.ら、Gene Ther、2008. 15(22):1489~99頁
【文献】Koo, T.ら、J Gene Med、2011. 13(9):497~506頁
【文献】Peters, I.R.ら、Vet Immunol Immunopathol、2007. 117(1-2):55~66頁
【文献】Thibaud, J.L.ら、Neuromuscul Disord、2012. 22 Suppl 2: S85~99頁
【文献】Wary, C.ら、NMR Biomed、2012. 25(10):1160~9頁
【文献】Thibaud, J.L.ら(Neuromuscul Disord、2007. 17(7):575~84頁)
【文献】Rouger, K.ら、Am J Pathol、2011. 179(5):2501~18頁
【文献】Barthelemy, I.ら、BMC Musculoskelet Disord、2011. 12:75頁
【文献】Thomas, W.P.ら、J Vet Intern Med、1993. 7(4):247~52頁
【文献】Barthelemy, I.ら、Myology congress、2011
【文献】van den Engel-Hoek、J Neurol、2013、260(5): 1295~303頁
【文献】Barthelemy, I.ら、BMC Musculoskelet Disord、2011. 12:75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、マイクロジストロフィンと呼ばれるより短いが機能的なジストロフィンポリペプチドを発現させることによって、致命的なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を軽減又は治癒することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は初めて、ジストロフィー疾患を処置するための、AAV8キャプシドに包まれた、有望な遺伝子治療製品である配列が最適化されたマイクロジストロフィンを提供する。単回用量の全身静脈内投与後、マイクロジストロフィンが複数の筋肉で高度に発現されるだけでなく、筋肉の病態の向上と臨床転帰尺度の向上がもたらされる。
【0029】
実際に、良好な状態での寿命の延長に相関する筋肉、消化、呼吸及び心臓のレスキューという観点でイヌモデルにおいて得られたこれほどの良好な結果は、この種の病態に関してこれまでに報告されてこなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】全長ジストロフィン(A)、様々なマイクロジストロフィン(B)及び発現コンストラクト(C)のスキームを示す図である。
【
図2】研究計画-GRMDイヌにおける全身処置の一般的なスキームを示す図である。
【
図3】Aは、rAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターをGRMD2イヌ(ICI)への静脈内全身送達により投与してから3ヶ月後に得られた筋肉生検である。 a/注射前の大腿二頭筋 b/健康なイヌ c/右の橈側手根伸筋: 82%のcMD+線維(cMDが線維の82%で検出された) 2.8vg/dg(二倍体ゲノム1つ当たりのベクターゲノム) d/右の総指伸筋: 59%のcMD+線維(cMDが線維の59%で検出された) 4.1vg/dg e/左の橈側手根伸筋: 62%のcMD+線維(cMDが線維の62%で検出された) 6.2vg/dg f/左の総指伸筋: 66%のcMD+線維(cMDが線維の66%で検出された) 2.6vg/dg。Bは、rAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターをGRMD2イヌ(ICI)への静脈内全身送達により投与してから8ヶ月後に得られた筋肉生検である。 a/右の大腿二頭筋: 58%のcMD+線維(cMDが線維の58%で検出された) 1.0vg/dg b/左の大腿二頭筋: 56%のcMD+線維(cMDが線維の56%で検出された) 0.8vg/dg。
【
図4】2ヶ月齢で10
14vg/kgのrAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターが全身投与されたGRMDコホートで得られた臨床スコアにおけるデータを示す図である。
*は、イヌがもはや生存しないことを意味する。
【
図5】包括的歩行指数におけるデータを示す図である。判別分析によって構築されたモデルを使用して曲線を計算した。未処置のGRMD及び健康なイヌに関して得られたデータを示す。後者に関して、平均の中心軌跡曲線及び95%の信頼区間が示される。
【
図6】処置済み及び未処置のGRMDイヌでモニターされた横隔膜可動域(ROM)を示す図である。健康なイヌは、90から110%の間のROM値を提示する。
【
図7】イヌμDysペプチドプールを使用したIFNγ ELISpotを示す図である(PBMCの動態)。2ヶ月齢で10
14vg/kgのrAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターが全身投与されたGRMDイヌ2(ICI)において、データを得た。
【
図8】注射されたイヌ血清におけるウェスタンブロットによる抗ジストロフィンIgG抗体の検出を示す図である。2ヶ月齢で10
14vg/kgのrAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターが全身投与されたGRMDイヌ2(ICI)において、データを得た。pCMV-イヌ-MD(cμDys)でトランスフェクトされた(又はされていない)293細胞の細胞抽出物で各血清の反応性を試験した。注射前(0日目)及び注射後(3週目、1.5ヶ月目、2.5ヶ月目、4ヶ月目及び7.5ヶ月目)の血清を試験した。陽性対照は、抗ジストロフィン抗体MANEX1011C、及びジストロフィンに対して免疫化されたGRMDイヌ由来の陽性イヌ血清(C+)で構成された。
【発明を実施するための形態】
【0031】
定義
冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書において、冠詞の文法上の目的語が1つ又は1つより多く(すなわち、少なくとも1つ)であることを指すものとして使用される。一例として、「エレメント(an element)」は、1つのエレメント又は1つより多くのエレメントを意味する。
【0032】
本明細書で使用されるような「約」又は「およそ」は、量、時間的な持続期間等の測定可能な値について述べられる場合、変動が開示された方法を行うのに適切になるように、指定された値から、±20%又は±10%、より好ましくは±5%、更により好ましくは±1%、更により好ましくは±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0033】
範囲:本開示全体にわたり、本発明の様々な態様は、範囲の様式で提供される場合がある。範囲の様式での記載は、単に便宜上及び簡潔さのためであり、本発明の範囲への融通性のない限定と解釈されるべきではないことが理解されるものとする。したがって、範囲の記載は、具体的には開示された全ての可能性のある部分範囲に加えてその範囲内の個々の数値も含むとみなされるものとする。例えば、1から6等の範囲の記載は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6等の具体的に開示された部分範囲に加えて、その範囲内の個々の数値、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3、及び6も含むとみなされるものとする。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0034】
「単離されている」は、天然状態から変更又は除去されていることを意味する。例えば、生きた動物中に天然に存在する核酸又はペプチドは「単離されていない」が、その天然状態の共存する材料から部分的又は完全に分離された同じ核酸又はペプチドは、「単離されている」。単離された核酸又はタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができるか、又は例えば宿主細胞等の非ネイティブの環境中で存在することができる。
【0035】
本発明の場面において、通常存在する核酸塩基に関して以下の略語が使用される。「A」は、アデノシンを指し、「C」は、シトシンを指し、「G」は、グアノシンを指し、「T」は、チミジンを指し、「U」は、ウリジンを指す。
【0036】
特に他の規定がない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型であり、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を包含する。また、タンパク質又はRNA又はcDNAをコードするヌクレオチド配列という成句は、一部のバージョンでタンパク質をコードするヌクレオチド配列がイントロンを含有し得る程度にイントロンを包含し得る。
【0037】
「~をコードする」は、ヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNA及びmRNA)の定義された配列又はアミノ酸の定義された配列のいずれかを有する、生物学的プロセスにおける他のポリマー及び高分子の合成のためのテンプレートとして役立つ、ポリヌクレオチド、例えば遺伝子、cDNA、又はmRNAにおけるヌクレオチドの特異的な配列の固有の特性及びそれから得られた生物学的な特性を指す。したがって、遺伝子に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞又は他の生物系でタンパク質をもたらす場合、その遺伝子はそのタンパク質をコードする。そのヌクレオチド配列がmRNA配列と同一であり、通常配列リストに記載されているコード鎖と、遺伝子又はcDNAの転写のためのテンプレートとして使用される非コード鎖とはどちらも、タンパク質又はその遺伝子若しくはcDNAの他の生成物をコードすると称することができる。
【0038】
本明細書で使用される用語「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドの鎖と定義される。更に核酸は、ヌクレオチドのポリマーである。したがって、本明細書で使用されるような核酸及びポリヌクレオチドは、交換可能である。当業者は、核酸はポリヌクレオチドであり、これはモノマーの「ヌクレオチド」に加水分解することができるという一般的な知識を有する。モノマーのヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解することができる。本明細書で使用される場合、ポリヌクレオチドとしては、これらに限定されないが、組換え手段、すなわち、通常のクローニング技術及びPCR等を使用した組換えライブラリー又は細胞ゲノムからの核酸配列のクローニング等の当業界において利用可能なあらゆる手段や合成手段によって得られる全ての核酸配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」、及び「タンパク質」は互換的に使用され、ペプチド結合により共有結合で連結されたアミノ酸残基で構成される化合物を指す。タンパク質又はペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有していなければならず、タンパク質又はペプチドの配列を構成することができるアミノ酸の最大数に課される制限はない。ポリペプチドは、互いにペプチド結合でつながった2つ以上のアミノ酸を含むあらゆるペプチド又はタンパク質を包含する。この用語は、本明細書で使用される場合、一般的に当業界では例えばペプチド、オリゴペプチド及びオリゴマーとも称される短鎖と、一般的に当業界ではタンパク質と称されるそれより長い鎖との両方を指し、それらの多くのタイプが存在する。「ポリペプチド」としては、なかでも、例えば、生物学的に活性なフラグメント、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロダイマー、ポリペプチドのバリアント、改変されたポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が挙げられる。ポリペプチドとしては、天然ペプチド、組換えペプチド、合成ペプチド、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0040】
「同一な」は、2つのポリペプチド間又は2つの核酸分子間の配列類似性又は配列同一性を指す。2つの比較される配列の両方における位置が同じ塩基又はアミノ酸モノマーサブユニットによって占められている場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおける位置がアデニンによって占められている場合、その分子はその位置において相同又は同一である。2つの配列間の相同性/同一性のパーセントは、2つの配列によって共有される一致する位置の数を比較された位置の数で割って100をかけた関数である。例えば、2つの配列における位置10個のうち6個が一致する場合、2つの配列は60%同一である。一般的に、2つの配列を並べて最大の相同性/同一性が得られたたときに比較がなされる。
【0041】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、単離された核酸を細胞内部に送達するのに使用できる物質の組成物である。これらに限定されないが、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性又は両親媒性化合物と会合したポリヌクレオチド、プラスミド、及びウイルス等の多数のベクターが当業界において公知である。したがって、用語「ベクター」は、自律複製型プラスミド又はウイルスを包含する。この用語は更に、例えばポリリシン化合物、リポソーム等の、細胞への核酸の移行を容易にする非プラスミド及び非ウイルス化合物を包含するとも解釈されるものとする。ウイルスベクターの例としては、これらに限定されないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター等が挙げられる。
【0042】
「発現ベクター」は、発現させるヌクレオチド配列に作動的に連結した発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは、発現のための十分なシス作用性エレメントを含み、発現のための他のエレメントは、宿主細胞から供給されるか又はインビトロでの発現系中に供給されてもよい。発現ベクターとしては、当業界において公知の全てのベクター、例えば、コスミド、プラスミド(例えば、裸の、又はリポソームに含有されている)、及び組換えポリヌクレオチドを取り込んでいるウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、及びアデノ随伴ウイルス)が挙げられる。
【0043】
本明細書で使用される用語「プロモーター」は、ポリヌクレオチド配列の特異的な転写を開始させるのに必要な、細胞の合成機構によって認識される、又は合成機構を導入したDNA配列と定義される。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「プロモーター/調節配列」は、プロモーター/調節配列に作動可能に連結した遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。いくつかの場合において、この配列は、コアプロモーター配列であってもよく、他の例において、この配列はまた、遺伝子産物の発現に必要なエンハンサー配列及び他の調節エレメントを包含していてもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な方式で遺伝子産物を発現するものであり得る。
【0045】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードするか又は特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、細胞のほとんど又は全ての生理学的条件下で細胞中での遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0046】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードするか又は特定するポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、実質的にプロモーターに対応する誘導物質が細胞中に存在するときのみ、細胞中での遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0047】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするか又は遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと作動可能に連結されている場合、細胞がプロモーターに対応する組織のタイプの細胞である場合に優先的に、細胞中で遺伝子産物の産生を引き起こすヌクレオチド配列である。
【0048】
用語「異常」は、生物、組織、細胞又はそれらの成分の場面で使用される場合、少なくとも1つの観察可能又は検出可能な特徴(例えば、年齢、処置、時刻等)において、「正常な」(予測される)それぞれの特徴を提示する生物、組織、細胞又はそれらの成分とは異なっている生物、組織、細胞又はそれらの成分を指す。ある細胞又は組織タイプにとっては正常な又は期待される特徴が、異なる細胞又は組織タイプにとっては異常な場合もある。
【0049】
用語「患者」、「対象」、「個体」等は本明細書において互換的に使用され、インビトロか又はインサイチュかどうかにかかわらず、本明細書に記載の方法に適用できるあらゆる動物、又はそれらの細胞を指す。ある特定の非限定的な実施形態において、患者、対象又は個体は、ヒトである。
【0050】
「疾患」は、動物がホメオスタシスを維持できず、疾患が改善されない場合、動物の健康が悪化し続ける動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」は、動物はホメオスタシスを維持することができるが、動物の健康状態が障害の非存在下よりも好ましくない健康状態である。未処置のままでも、障害は、必ずしも動物の健康状態の更なる低減を引き起こすとは限らない。
【0051】
疾患若しくは障害の症状の重症度、患者がこのような症状を経験する頻度、又はその両方が低減される場合、疾患又は障害は、「軽減」又は「改善」される。これはまた、疾患又は障害の進行を中断させることも包含する。疾患若しくは障害の症状の重症度、患者がこのような症状を経験する頻度、又はその両方がなくなった場合、疾患又は障害は、「治癒」される。
【0052】
「治療的」処置は、病理学的徴候を減じたり又はなくしたりする目的のために、そのような徴候を示す対象に投与される処置である。
【0053】
本明細書で使用される場合、「疾患又は障害を処置すること」は、対象が経験した疾患又は障害の少なくとも1つの徴候又は症状の頻度又は重症度を低減させることを意味する。本明細書において、疾患及び障害は、処置の場面では互換的に使用される。
【0054】
化合物の「有効量」は、化合物が投与される対象に有益な作用を提供するのに十分な化合物の量である。成句「治療有効量」は、本明細書で使用される場合、疾患又は状態を予防又は処置する(その発病を遅延させる又は予防する、その進行を予防する、それを阻害する、減少させる、又は回復させる)、例えばこのような疾患の症状を軽減するのに十分であるか又は有効な量を指す。送達媒体の「有効量」は、化合物と効果的に結合したり又は化合物を送達したりするのに十分な量である。
【0055】
一実施形態において、本発明は、対象におけるジストロフィー疾患の処置での使用のための遺伝子治療製品を含む組成物であって、
- 遺伝子治療製品が、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含み、
- 組成物が全身投与される、組成物に関する。
【0056】
言い換えれば、本発明は、対象においてジストロフィー疾患を処置するための方法であって、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含む組成物を対象に全身投与することを含む、方法を提供する。
【0057】
一実施形態において、本発明は、対象においてジストロフィー疾患を処置するための方法であって、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含む遺伝子治療製品を対象に全身投与することを含む、方法を提供する。本発明は、ジストロフィー疾患を処置するための医薬品を調製するための、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含む遺伝子治療製品の使用であって、医薬品は全身投与される、使用に関する。
【0058】
第1の態様によれば、本発明は、対象におけるジストロフィー疾患の処置での使用のための遺伝子治療製品に関する。
【0059】
典型的には、遺伝子治療製品は、2種の成分:
- 標的細胞/組織で一旦発現されたら治療上の利益を提供する発現カセットを定義する、キャプシドに包まれた組換え核酸配列;及び
- 適正な遺伝子導入及びある程度の組織向性を可能にする、ウイルスキャプシド
で構成される。
【0060】
一態様によれば、遺伝子治療製品は、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含む。
【0061】
本発明の枠組みにおいて、マイクロジストロフィンは、ネイティブ又は野生型ジストロフィンより短いペプチド又はタンパク質を意味する。本発明の場面において、用語「マイクロジストロフィン」及び「ミニジストロフィン」は、同じ意味を有する。本出願の残りの部分において、用語「マイクロジストロフィン」、加えて略語「MD」又は「μDys」が使用される。
【0062】
「機能的」マイクロジストロフィンは、対応するペプチド又はタンパク質が、野生型ジストロフィンタンパク質の機能の少なくとも一部を発揮することができ、ネイティブジストロフィンの非存在に関連する症状、特に線維の変性、炎症、壊死、瘢痕や脂肪組織での筋肉の置き換わり、筋肉の衰弱、消化不全、呼吸不全及び心不全、加えて早期死亡の1つ又は複数を少なくとも部分的に軽減することができることを意味する。
【0063】
ジストロフィンの構造は、十分に立証されており(
図1を参照)、それらの活性なフラグメントが開示されている(Athanasopoulosら、Gene Ther 2004 Suppl 1:S109~21頁)。当業界で理解されるように、活性なフラグメントは、全長配列の生物学的機能を保持する、全長配列の1つの部分又は複数の部分である。
【0064】
全長ジストロフィンは、様々なドメインによって特徴付けられる:
- アクチンに結合するN末端ドメイン;
- 4個のヒンジドメイン(H1からH4);
- 24個のスペクトリン様反復又はロッドドメイン(1から24);
- システインリッチドメイン;
- C末端ドメイン。
【0065】
一実施形態によれば、マイクロジストロフィンは、有利には少なくとも1つのスペクトリン様反復が欠失した少なくとも1つのドメインを有する。
【0066】
特定の実施形態によれば、マイクロジストロフィンは、4個のスペクトリン様反復、すなわち
図1で示される通りスペクトリン様反復1、2、3及び24を含む配置ΔR4-R23/ΔCTを有する。より正確に言えば、この配列は、ジストロフィンのロッドドメイン4~23及びCTドメインのエクソン71~78の欠失を含み、ジストロフィンのエクソン79の最後の3つのアミノ酸、それに続いて3つの終止コドンを含有する。
【0067】
このようなΔR4-R23/ΔCT又はMD1と記載されるマイクロジストロフィンは、例えば配列番号3、4又は7に示されるアミノ酸配列を有する。
【0068】
一実施形態において、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、「オープンリーディングフレーム」としてORFとも称され、cDNAである。しかしながら、例えば一本鎖又は二本鎖のDNA又はRNAも使用することができる。
【0069】
具体的な実施形態において、本発明は、野生型ジストロフィンのcDNAより短い核酸配列を含む組成物を提供する。
【0070】
約4.7kbに適応させることができるAAVベクターの場面で使用される場合、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列、加えてその適正な発現に必要な全ての配列は、このパッケージング容量を超えるべきでない。一実施形態において、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、4500、4000bpを超えず、好ましくは3900、3800、3700、3600又は更には3500bpを超えない。
【0071】
機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、有利にはヒト由来であるが、ヒト以外の霊長類、イヌ、ラット又はマウス配列であってもよい。一実施形態において、核酸配列は、それが投与される生物に由来する(例えばヒトではヒト配列)。
【0072】
別の実施形態によれば、前記マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、所与の対象、有利にはヒトで使用するために最適化される。好ましくは、この最適化された配列は、以下のように改変される:
- 翻訳の開始を向上させるために、配列は、mRNA内のAUG開始コドンの前にコンセンサスコザック配列を包含するように改変される。
- 配列は、ヒトにおけるトランスファーRNAの頻度に基づき最適化され、RNA安定性を助長するためにGC含量を増加させる。結果として、具体的なケースにおいて、ヒトの場合のコドンの最適化により、有利にはコドンの63%が改変され、GC含量は60%超に増加する。これは当然ながら、元の(最適化前の)マイクロジストロフィン配列及び標的宿主に依存する。
【0073】
一実施形態によれば、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、
- 配列番号5で示される、配列番号1の配列のヌクレオチド586~4185;又は
- 配列番号6で示される、配列番号2の配列のヌクレオチド586~4188
に相当する。
【0074】
一実施形態によれば、前記配列は、本明細書で開示されたペプチドに実質的な相同性又は同一性(60%、70%、80%、90%、95%又は更には99%)を有するマイクロジストロフィンをコードする単離された核酸、特に配列番号3、配列番号4、又は更には配列番号7の配列の単離された核酸であってもよい。
【0075】
好ましくは、本発明のペプチドをコードする単離された核酸のヌクレオチド配列は、「実質的に相同/同一」であり、すなわち、機能的マイクロジストロフィンをコードする単離された核酸のヌクレオチド配列、特に配列番号5、配列番号6又は更には配列番号8の配列のヌクレオチド配列に、約60%相同、より好ましくは約70%相同、更により好ましくは約80%相同、より好ましくは約90%相同、更により好ましくは、約95%相同、更により好ましくは約97%、98%又は更には99%相同である。
【0076】
別の態様によれば、本発明に係る発現ベクターが有するヌクレオチド配列は、配列番号1又は配列番号2の配列に、「実質的に相同/同一」であり、すなわち、約60%相同、より好ましくは約70%相同、更により好ましくは約80%相同、更により好ましくは約90%相同、更により好ましくは約95%相同、更により好ましくは約97%、98%又は更には99%相同である。
【0077】
別の実施形態において、組成物は、プラスミド又はベクターを含む。具体的な実施形態によれば、単離された核酸は、ベクターに挿入される。概要において、天然又は合成核酸の発現は、典型的には、核酸又はそれらの部分をプロモーターに作動可能に連結して、コンストラクトを発現ベクターに取り込むことによって達成される。使用されるベクターは、複製、任意選択で真核細胞における統合に好適である。典型的なベクターは、転写及び翻訳ターミネーター、開始配列、及び望ましい核酸配列の発現の調節に有用なプロモーターを含有する。
【0078】
一実施形態において、組成物は、発現ベクター、有利にはウイルスベクターを含む。なかでも特に重要なものは、パッケージング容量が(野生型)ジストロフィンcDNA等の(野生型)ジストロフィン遺伝子の適応を許容しない発現ベクターである。
【0079】
一実施形態において、ウイルスベクターは、バキュロウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターからなる群より選択される。
【0080】
本発明の具体的な実施形態によれば、発現コンストラクトを含有するウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0081】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、様々な障害の処置のための強力な遺伝子送達ツールになってきた。AAVベクターは、病原性の欠如、中程度の免疫原性、並びに有糸分裂後の細胞及び組織に安定で効率的な方式で形質導入する能力等の、理想的にそれらを遺伝子治療に適合させる数々の特徴を有する。AAVベクター内に含有される特定の遺伝子の発現は、AAV血清型、プロモーター、及び送達方法の適切な組合せを選ぶことによって1つ又は複数のタイプの細胞に特異的に標的化することができる。
【0082】
一実施形態において、コード配列は、AAVベクター内に含有される。100種を超える天然に存在するAAV血清型が公知である。AAVキャプシドにおける多くの天然バリアントが存在しており、ジストロフィー病態に特異的に適合した特性を有するAAVの同定及び使用が可能である。従来の分子生物学の技術を使用して、AAVウイルスを操作することにより、これらの粒子を、核酸配列の細胞特異的な送達、免疫原性の最小化、安定性及び粒子の寿命の調整、効率的な分解、細胞核への正確な送達のために最適化することができる。
【0083】
上述したように、AAVベクターの使用は、比較的非毒性であり、効率的な遺伝子導入を提供し、具体的な目的ごとに容易に最適化することができることから、DNAの外因性送達の一般的な様式である。ヒト又はヒト以外の霊長類(NHP)から単離され、よく特徴付けられたAAV血清型のなかでも、ヒト血清型2が、遺伝子導入ベクターとして開発された最初のAAVである。他の現在使用されているAAV血清型としては、AAV1、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11及びAAV12が挙げられる。加えて、非天然の操作されたバリアント及びキメラAAVも有用であり得る。
【0084】
ベクターへのアセンブリに望ましいAAVフラグメントとしては、vp1、vp2、vp3及び高度可変領域を包含するcapタンパク質、rep78、rep68、rep52、及びrep40を包含するrepタンパク質、並びにこれらのタンパク質をコードする配列が挙げられる。これらのフラグメントは、様々なベクター系及び宿主細胞で容易に利用することができる。
【0085】
このようなフラグメントは、単独で、他のAAV血清型の配列若しくはフラグメントと組み合わせて、又は他のAAV若しくは非AAVウイルス配列からのエレメントと組み合わせて使用することができる。本明細書で使用されるように、人工AAV血清型としては、これらに限定されないが、天然に存在しないキャプシドタンパク質を有するAAVが挙げられる。このような人工キャプシドは、あらゆる好適な技術によって、選択されたAAV配列(例えば、vp1キャプシドタンパク質のフラグメント)を、異なる選択されたAAV血清型、同じAAV血清型の連続していない部分、非AAVウイルス源、又は非ウイルス源から得ることができる異種配列と組み合わせて使用して生成され得る。人工AAV血清型は、これらに限定されないが、キメラAAVキャプシド、組換えAAVキャプシド、又は「ヒト化」AAVキャプシドであり得る。したがって例示的なAAV、又は人工AAVとしては、なかでも、AAV2/8(米国特許第7,282,199号)、AAV2/5(国立衛生研究所より入手可能)、AAV2/9(WO2005/033321)、AAV2/6(米国特許第6,156,303号)、及びAAVrh8(WO2003/042397)が挙げられる。一実施形態において、本明細書に記載の組成物及び方法において有用なベクターは、最小限でも、選択されたAAV血清型キャプシド、例えばAAV8キャプシド、又はそのフラグメントをコードする配列を含有する。別の実施形態において、有用なベクターは、最小限でも、選択されたAAV血清型のrepタンパク質、例えば、AAV8のrepタンパク質、又はそのフラグメントをコードする配列を含有する。任意選択で、このようなベクターは、AAVのcap及びrepタンパク質の両方を含有していてもよい。AAVのrep及びcapの両方が提供されているベクターにおいて、AAVのrep及びAAVのcap配列は、両方とも1つの血清型に由来していてもよく、例えば、全てAAV8由来でもよい。代替として、rep配列が、cap配列を提供するAAV血清型とは異なるAAV血清型由来であるベクターが使用されてもよい。一実施形態において、rep及びcap配列は、別々の源(例えば、別々のベクター、又は宿主細胞及びベクター)から発現される。別の実施形態において、これらのrep配列は、フレーム内で異なるAAV血清型のcap配列に融合されて、キメラAAVベクター、例えばAAV2/8(米国特許第7,282,199号)を形成する。
【0086】
一実施形態によれば、組成物は、血清型2、5、8又は9のAAVを含む。有利には、特許請求されたベクターは、AAV8又はAAV9ベクター、特にAAV2/8又はAAV2/9ベクターである。より有利には、特許請求されたベクターは、AAV8ベクター又はAAV2/8ベクターである。
【0087】
本発明で使用されるAAVベクターにおいて、AAVゲノムは、一本鎖(ss)核酸又は二本鎖(ds)/自己相補的(sc)核酸分子のいずれかであり得る。
【0088】
有利には、機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列は、AAVベクターのITR(「逆位末端反復」)配列間に挿入される。典型的なITR配列は、
- 配列番号1の配列又は配列番号2の配列のヌクレオチド1~128(5'ITR配列);
- 配列番号1の配列のヌクレオチド4511~4640又は配列番号2の配列のヌクレオチド4514~4643(3'ITR配列)
に相当する。
【0089】
組換えウイルス粒子は、当業者に公知のあらゆる方法によって得ることができ、例えば293HEK細胞のコトランスフェクション、単純疱疹ウイルス系及びバキュロウイルス系によって得ることができる。ベクターの力価は、通常、1mL当たりのウイルスゲノム数(vg/mL)として表される。
【0090】
一実施形態において、発現ベクターは、調節配列、特にプロモーター配列を含む。このようなプロモーターは、天然又は合成(人工)プロモーターであってもよく、誘導性又は構成的であってもよい。
【0091】
一実施形態において、プロモーターは、遍在性プロモーターであるか、又は低い組織特異性を有する。一例として、発現ベクターは、ホスホグリセリン酸キナーゼ1(PGK)、EF1、β-アクチン、CMVプロモーターを有していてもよい。
【0092】
好ましい実施形態において、プロモーター配列は、その制御下に置かれた核酸配列の発現を、発現レベルだけでなく組織特異性に関しても適切に管理するために選ばれる。一実施形態において、発現ベクターは、筋肉特異的なプロモーターを含む。このようなプロモーターは、骨格筋において、場合により心筋に加えて横隔膜においてロバストな発現を可能にする。当業者に公知の好適なプロモーターの例は、例えばデスミンプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、CK6プロモーター、及びSynプロモーターである。別のプロモーターは、配列番号1又は2の配列(ヌクレオチド215~537)で示される合成プロモーターC5-12(spC5-12)であり、これは、骨格筋及び心筋においてロバストな発現を可能にする。
【0093】
他の可能性のある調節配列の非網羅的な列挙は、以下の通りである:
- ポリアデニル化シグナル、例えば目的の遺伝子のポリA、SV40又はベータヘモグロビン(HBB2)のポリA、有利には機能的マイクロジストロフィンをコードする配列の3'におけるポリA;SV40のポリAは、配列番号1の配列(ヌクレオチド4223~4353)及び配列番号2の配列(ヌクレオチド4226~4356)に開示されている;
- 転写の安定化のための配列、例えばヘモグロビン(HBB2)のイントロン1;
- エンハンサー配列;
- 発現が望ましくない、例えば発現が毒性の可能性がある非標的組織において機能的ジストロフィンをコードする配列の前記発現を阻害することができる、miRNA標的配列。好ましくは、対応するmiRNAが骨格筋に存在せず、場合により横隔膜にも心臓にも存在しない。
【0094】
一実施形態によれば、遺伝子治療製品は、発現ベクター、有利には、配列番号1又は配列番号2、有利には配列番号1の配列を有するAAVベクターを含む。上述したように、本発明はまた、「実質的に相同な」配列、すなわち、配列番号1又は2の配列に、約60%の相同性、より好ましくは約70%の相同性、更により好ましくは約80%の相同性、より好ましくは約90%の相同性、更により好ましくは約95%の相同性、更により好ましくは約97%、98%又は更には99%の相同性を提示する配列も包含する。
【0095】
本発明によれば、組成物は、少なくとも前記遺伝子治療製品、及び場合により同じ疾患又は別の疾患の処置専用の他の活性分子(他の遺伝子治療製品、化学分子、ペプチド、タンパク質等)を含む。
【0096】
具体的な実施形態によれば、前記組成物は、いかなる免疫抑制剤も含まない。
【0097】
次いで本発明は、本発明の核酸、又は本発明のベクターを含む医薬組成物を提供する。このような組成物は、治療有効量の治療物質(本発明の核酸又はベクター)、及び薬学的に許容される担体を含む。具体的な実施形態において、用語「薬学的に許容される」は、連邦若しくは州政府の監督官庁により承認されていること、又は米国若しくは欧州薬局方若しくは動物及びヒトでの使用に関して一般的に認識されている他の薬局方に列挙されていることを意味する。用語「担体」は、希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指し、これらと共に治療物質が投与される。このような医薬担体は、滅菌された液体、例えば水及び油、例えば石油、動物、植物又は合成由来の油等、例えば落花生油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油等であり得る。医薬組成物が静脈内投与される場合、水が好ましい担体である。また、特に注射用溶液の場合、食塩溶液並びにデキストロース及びグリセロール水溶液も液体担体として採用することができる。好適な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0098】
組成物はまた、所望であれば、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有していてもよい。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、持続放出製剤等の形態をとることができる。好適な医薬担体の例は、E. W. Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、対象への適正な投与のための形態が提供されるように、好ましくは精製された形態で、好適な量の担体と共に治療有効量の治療物質を含有する。
【0099】
好ましい実施形態において、組成物は、慣例的な手順に従って、人間への静脈内投与に適合させた医薬組成物として製剤化される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要であれば、組成物はまた、可溶化剤、及び注射部位における痛みを和らげるためのリドカイン等の局所麻酔剤を包含していてもよい。
【0100】
一実施形態において、本発明に係る組成物は、ヒトにおける投与に好適である。組成物は、好ましくは液体の形態、有利には食塩水組成物、より有利にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)組成物又は乳酸リンゲル溶液である。
【0101】
ジストロフィー疾患の処置において有効となる本発明の治療物質(すなわち核酸又はベクター)の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。加えて、インビボ及び/又はインビトロでのアッセイは、任意選択で、最適な投薬量範囲の予測を助けるのに採用される場合がある。配合物で採用される正確な用量もまた、投与経路、疾患の質量及び深刻さに依存し、更に専門家の判断及び各患者の環境に従って決定すべきである。
【0102】
好適な投与は、標的組織、特に骨格筋、場合により平滑筋(例えば食道)、横隔膜及び心臓への治療有効量の遺伝子治療製品の送達を可能にするはずである。本発明の場面において、遺伝子治療製品が機能的マイクロジストロフィンをコードする核酸配列を含むウイルスベクターである場合、治療用量は、対象1キログラム(kg)当たりの投与されるマイクロジストロフィン配列を含有するウイルス粒子の量(ウイルスゲノムについてのvg)と定義される。
【0103】
利用可能な投与経路は、外用(局所)、経腸(全組織にわたる作用、ただし胃腸(GI)管を介して送達される)、又は非経口(全身性作用、ただしGI管以外の経路によって送達される)である。本明細書で開示された組成物の好ましい投与経路は、非経口であり、これには、筋肉内投与(すなわち筋肉への投与)及び全身投与(すなわち循環系への投与)が包含される。この場面において、用語「注射」(又は「灌流」若しくは「注入」)は、血管内、特には静脈内(IV)、及び筋肉内(IM)投与を包含する。注射は、通常、シリンジ又はカテーテルを使用して行われる。
【0104】
一実施形態において、組成物の全身送達は、局所的な処置部位の近くに、すなわち弱くなった筋肉に近接する静脈又は動脈中に組成物を投与することを含む。ある特定の実施形態において、本発明は、全身性作用をもたらす組成物の局所送達を含む。この投与経路は、通常、「局部的な(局所領域的な)注入」、「分離四肢灌流による投与」又は「高圧経静脈四肢灌流」と呼ばれており、筋ジストロフィーにおける遺伝子送達方法としてうまく使用されてきた(Zheng Fanら(2012、Molecular Therapy 20(2)、456~461頁))。
【0105】
一態様によれば、組成物は、分離四肢(局所領域的)に注入又は灌流によって投与される。言い換えれば、本発明は、血管内投与経路、すなわち静脈(経静脈)又は動脈による、加圧下での、脚及び/又は腕における組成物の領域的送達を含む。これは通常、注入された製品を局部的に拡散させつつ血液循環を一時的に止めるために止血帯を使用することによって達成され、例えば、Toromanoffら(2008、Molecular Therapy 16(7):1291~99頁)、Arrudaら(2010、Blood 115(23):4678~88頁)及びFanら(2012、Molecular Therapy 20(2)、456~461頁)によって開示された通りである。
【0106】
一実施形態において、組成物は、対象の四肢に注射される。一実施形態において、対象は、哺乳動物、好ましくはヒト、イヌ又はヒト以外の霊長類である。対象がヒトである場合、四肢は、腕又は脚であり得る。一実施形態によれば、組成物は、対象の下半身、例えばひざより下の部分、又は対象の上半身、例えば肘より下の部分に投与される。
【0107】
一実施形態において、組成物は、末梢静脈、例えば橈側皮静脈に投与される。注入される組成物の体積は、四肢の体積の約5から40%の間で変化する範囲内であってもよい。典型的な用量は、体重1kg当たり5から30mlの間で変化し得る。一実施形態において、適用される圧力(止血帯の圧力又は最大ラインの圧力)は、100000Pa未満、有利には50000Pa未満である。好ましい実施形態において、適用される圧力は、およそ300torr(40000Pa)である。
【0108】
一実施形態において、四肢の血液循環は、止血帯を使用して止められ、ここで止血帯は、数分間から1時間より長く、典型的には約1から80分の間、例えば約30分締められる。好ましい実施形態において、止血帯は、投与前、投与中及び投与後に適用され、例えば注入前に約10分、注入中に約20分、及び注入後に約15分適用された。より一般的には、圧力は、数分間、典型的には約1から80分の間、例えば約30分適用される。好ましい実施形態において、圧力は、投与前、投与中及び投与後に適用され、例えば注入前に約10分、注入中に約20分、及び注入後に約15分適用される。
【0109】
一実施形態において、平均流速は、5から150ml/分の間、有利には5から80ml/分の間、例えば10ml/分で構成される。当然ながら、流速は、血液循環が止められる期間及び適用された圧力も決定する。
【0110】
局所領域的な投与の場面において、注射される用量は、患者の体重1kg当たり1012から1014vgの間、好ましくは1012から1013vg/kgの間で変化し得る。
【0111】
本発明に係る好ましい投与方法は、全身投与である。全身注射は、心臓及び横隔膜を包含する対象の体の筋肉全体に到達させるための全身への注射、次いでこれらの全身性の及び未だ治療不能の疾患の現実的な処置の道を開くものである。ある特定の実施形態において、全身送達は、組成物が対象の全身に到達可能になるような対象への組成物の送達を含む。
【0112】
好ましい実施形態によれば、全身投与は、血管への組成物の注射、すなわち血管内(静脈内又は動脈内)投与を介してなされる。一実施形態によれば、組成物は、静脈内注射により末梢静脈を介して投与される。
【0113】
全身投与は、典型的には以下の条件で行われる:
- 1から10mL/分の間、有利には1から5mL/分の間、例えば3mL/分の流速;
- 注射される総体積は、1から20mLの間で変化してもよく、好ましくは対象1kg当たり5mLのベクター製剤である。注射される体積は、総血液体積の10%より多くならないものとし、好ましくはおよそ6%である。
【0114】
全身送達される場合、組成物は、好ましくは1015vg/kg以下、又は更には1014vg/kg、有利には1012vg/kgから1014vg/kgの間、より有利には5.1012vg/kgから1014vg/kgの間、例えば1、2、3、4、5、6、7、8若しくは9.1013vg/kgの用量で投与される。起こり得る毒性及び/又は免疫反応を回避するために、例えば1、2、3、4、5、6、7、8又は9.1012vg/kgのより低い用量も予期され得る。当業者に公知のように、効率という観点で十分な結果をもたらす可能な限り低い用量が好ましい。
【0115】
具体的な実施形態において、処置は、組成物の単回投与を含む。
【0116】
以下の実施例で例示されるように、本発明による遺伝子治療製品の投与は、有害な免疫反応を伴うとは考えられていない。それゆえに、一実施形態によれば、前記投与は、更なる又は余分な免疫抑制処置(免疫抑制)と組み合わせられない。
【0117】
一実施形態において、遺伝子治療製品の存在及び/又は機能的マイクロジストロフィンの発現、加えてそれに伴う治療上の利益は、1ヶ月まで、又は3ヶ月若しくは6ヶ月まで、又は更には1年、2年、5年、10年まで、又は更には対象の生涯にわたり観察される。
【0118】
本発明によれば、対象は、哺乳動物、好ましくはヒト又はイヌであるが、マウス、ラット又はヒト以外の霊長類であってもよい。
【0119】
「ジストロフィー疾患」は、ジストロフィン遺伝子における欠陥に関連する疾患を意味する。この欠陥は、低レベルの発現又は発現の非存在、オープンリーディングフレームにおける未成熟終止コドンの導入、又は不活性タンパク質の産生を引き起こす欠失又は突然変異であり得る。好ましいジストロフィー疾患は、ジストロフィン遺伝子の突然変異が原因で起こるデュシェンヌ型及びベッカー型筋ジストロフィー(DMD/BMD)である。前記突然変異は、ジストロフィン発現の非存在若しくは低レベル、又は部分的若しくは完全に不活性な、場合によりトランケートされたタンパク質の産生を引き起こす可能性がある。
【0120】
本発明の組成物によって利益を得る可能性がある対象は、筋ジストロフィーと診断された、又はこのような筋ジストロフィーを発症するリスクがある全ての患者を包含する。次いで処置される対象は、例えばジストロフィン遺伝子の配列決定等の当業者に公知のあらゆる方法によって、及び/又は当業者に公知のあらゆる方法によるジストロフィンの発現若しくは活性レベルの評価を介して、ジストロフィン遺伝子における突然変異又は欠失の同定に基づき選択することができる。それゆえに、前記対象は、すでにジストロフィー疾患の症状を示す対象と前記疾患を発症するリスクがある対象の両方を包含する。一実施形態において、前記対象は、すでにジストロフィー疾患の症状を示している対象を包含する。別の実施形態において、前記対象は、歩行可能な患者及び初期の歩行不可能な患者である。
【0121】
このような組成物は、遺伝子治療、特に、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)又はベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、有利にはDMDの処置を顕著に意図したものである。
【0122】
本発明の第1の目標は、安全な(非毒性の)処置を提供することである。更なる目的は、疾患の発症を延期する、スローダウンさせる、又は予防する、場合により、臨床レベルを容易にモニターすることができる患者の表現型を改善することを可能にする効率的な処置を提供することである。
【0123】
対象において、本発明による組成物は、
- 筋肉機能を改善するために使用することができ、なかでも特に重要なものは、骨格筋に加えて、心筋及び横隔膜であり;
- 歩行を改善するために使用することができ;
- 心機能を改善するために使用することができ;
- 呼吸機能を改善するために使用することができ;
- 消化機能を改善するために使用することができ;及び/又は
- 生存を長くするために、より一般的には生活の質及び期待寿命を改善するために使用することができる。
【0124】
一態様によれば、本発明は、有利には有害作用(細胞性及び/又は体液性免疫応答)のない、筋肉機能、歩行、消化機能、心機能及び/若しくは呼吸機能を改善するための、並びに/又は生存を長くするための方法であって、それらを必要とする対象に、上記で開示された治療量の遺伝子治療製品を投与することを含む、方法に関する。
【0125】
有利には、前記改善は、投与後1ヶ月まで、又は3ヶ月若しくは6ヶ月若しくは9ヶ月まで、より有利には投与後1年まで、2年、5年、10年まで、又は更には対象の生涯にわたり観察される。
【0126】
一実施形態において、前記改善は、症状の重症度及び/又は頻度の低減及び/又は出現の遅延をもたらし、ここで前記症状は、頻繁な転倒、歩行不能、嚥下困難、心筋症、唾液分泌過多、運動技能(ランニング、ホッピング、ジャンピング)の低下、呼吸異常、偽性肥大、腰部脊柱前彎過度、及び筋硬直からなる群から選ばれる。
【0127】
前記機能の改善は、当業界において公知の方法、例えば、
- ジストロフィンタンパク質を発現する筋線維のパーセンテージの査定;
- 歩行試験;
- 筋力計測定による強度の査定;
- 運動機能測定による正確な四肢の運動機能の査定;
- 運動モニターを使用した包括的活動の査定;
- 3つの軸での加速度計の記録による歩行の査定;
- 心エコー、ドップラー分析及びスペックルトラッキング分析による、心機能の査定;
- 横隔膜の動態の評価による呼吸機能の査定;
- 臨床的な経過観察による、生体機能、特に心、呼吸及び消化機能の査定;
- 臨床スコアによる生活の質及び期待寿命の査定
に基づいて評価することができる。
【0128】
実施例で例示されているように、特許請求された処置は、未処置の対象と比較して、上記で開示された臨床状態及び様々なパラメーターを向上させることを可能にする。
【0129】
一実施形態によれば、本発明は、対象に上記で開示された遺伝子治療製品を投与することを含むジストロフィー疾患の処置方法であって、
- 筋線維の少なくとも30%、有利には筋線維の40%、より有利には少なくとも50%が、ジストロフィンタンパク質を発現し;及び/又は
- 臨床スコアは、健康な対象のスコアの少なくとも50%、有利には少なくとも60%又は更には70%に相当するレベルに維持される、方法に関する。
【0130】
有利には、前記作用は、投与後1ヶ月まで、又は3ヶ月若しくは6ヶ月若しくは9ヶ月まで、より有利には投与後1年まで、2年、5年、10年まで、又はより更には対象の生涯にわたり観察される。
【0131】
当業界で公知のように、筋肉におけるジストロフィン発現のレベルは、当業者によって、有利には免疫組織化学によって、例えば上記で開示された抗ジストロフィン抗体を用いた筋肉生検の免疫染色によって容易に決定される。臨床スコアの計算も当業者に慣例的である。イヌに関して上記で詳述したように、このスコアは、嚥下困難、呼吸、唾液分泌過多及び包括的活動に基づき計算することができる。患者に関して、Bushby及びConnorは、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおける検査のための臨床転帰尺度を列挙している(Clin Investig (Lond). 2011; 1(9): 1217~1235頁)。
【0132】
本発明の実施は、特に他の指定がない限り、分子生物学(組換え技術等)、微生物学、細胞生物学、生化学及び免疫学の従来の技術を採用し、これらは十分に当業者の範囲内である。このような技術は、例えば「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook、2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010);「Methods in Enzymology」、「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller及びCalos、1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」、(Babar、2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)等の文献で詳細に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチド及びポリペプチドの生産に適用可能であり、そのようなものとして、本発明の作製及び実施において考察され得る。特定の実施形態にとって特に有用な技術は、以下に記載される章で論じられる。
【0133】
本明細書において引用されたありとあらゆる特許、特許出願、及び公報の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0134】
更なる説明がなくとも、当業者は、先に記載された説明及び以下の説明に役立つ例を使用して、本発明の化合物を作製及び利用すること、並びに特許請求された方法を実施することが可能であると考えられる。
【実施例】
【0135】
以下の実験の実施例及び添付された図面を参照することにより本発明を更に詳細に説明する。これらの実施例は、単に例示のために提供され、限定することを意図しない。
【0136】
以下に示される結果は、GRMD(ゴールデンレトリバー筋ジストロフィー)イヌモデルで得られた。これは、臨床試験前に、効率(治療用量、安定性、毒性等)だけでなく免疫応答に関して遺伝子治療製品の潜在力を評価するためのジストロフィー病態に関する最良の動物モデルである。
【0137】
材料及び方法:
1/動物
完全に全身性のマイクロジストロフィンベクター(rAAV2/8-SPc5.12-cMD)の注射の評価は、GRMDイヌモデルで行われた(Kornegayら、Mamm Genome、2012)。選択された雄のイヌを、不正確なmRNAプロセシングを誘発するジストロフィン遺伝子のイントロン6の3'コンセンサススプライス部位における単一塩基の変化(A>G)からなるDMD突然変異に関して遺伝子型解析した。
【0138】
以下のTable 1(表1)で示したようにしてイヌを処置した(免疫抑制なし):
【0139】
【0140】
対照のイヌは、未注射のGRMDイヌ及び健康なイヌに相当する。
【0141】
2/マイクロジストロフィンベクター
rAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターは、筋特異的プロモーター(SPc5.12)の制御下にmRNA配列最適化イヌジストロフィン(cMD)をコードする。
【0142】
イヌ特異的なmRNA配列に最適化されたcMDのcDNAの構造は、ジストロフィンのロッドドメイン4~23及びCTドメインのエクソン71~78の欠失を取り込んでおり(ΔR4-R23;
図1)、ジストロフィンのエクソン79の最後の3つのアミノ酸、それに続いて3つの終止コドンを含有し、SV40ポリアデニル化部位を取り込んでいた。コンセンサスコザック配列を包含するようにcDNA配列を改変した。mRNA配列をヒトにおけるトランスファーRNAの頻度に基づき最適化し、RNA安定性を助長するためにGC含量を増加させた。マイクロジストロフィンのmRNA配列の最適化は(GENEART、Regensburg、Germany)、イヌジストロフィンにおいて48%から61%へのGC含量の増加、同様にコドンの23.6%の改変をもたらした。cMD遺伝子のcDNAのサイズは3603bpであり、このベクターの端にある逆位末端反復(ITR)を含有する導入遺伝子カセットのサイズは4643bpであり、これは、野生型AAV2ゲノム長さである4682bpの99.2%に相当する。ジストロフィン遺伝子の5'及び3'-非翻訳領域を除去して、ジストロフィンカセットの端にあるITRのサイズを減少させた。発現は、筋特異的な合成プロモーター(SPc5-12)の制御下であった(Wang, B.ら、Gene Ther、2008. 15(22):1489~99頁)。
【0143】
この発現カセット(AAV_ITR、Spc512プロモーター、イヌMDのcDNA及びSV40ポリAを包含する配列番号2)は、デュシェンヌ型ビーグルをベースとしたCXMDJモデルで筋肉内注射した後、広範にわたり安定なジストロフィン発現をもたらすことを実証した(Koo, T.ら、J Gene Med、2011. 13(9):497~506頁)。加えて、このコンストラクトは、標的の筋肉組織における筋肉の病態の向上及び炎症性反応の低減をもたらした。
【0144】
3/rAAV2/8-SPc5.12-cMDの調製
SPc5-12プロモーター、rAAV2/8-SPc5.12-cMDによって調節されるイヌマイクロジストロフィンのcDNAを含有する組換えアデノ随伴ウイルスベクターをバキュロウイルス/Sf9系で生産した。2つのバキュロウイルスのバッチを生成し、ここで一方は、rep(AAV2のRepタンパク質をコードする)及びcap(AAV8のCapタンパク質をコードする)AAV遺伝子を発現するものであり、第2のものは、AAV2トランスファーベクターであった。ウイルスを生産し、寄託し、200リットルの使い捨てのバイオリアクター(Sartorius社)でSF9細胞を共感染させるのに使用した。3日間培養した後、細胞を回収し、溶解させ、浄化、免疫親和性カラムでの精製、タンジェンシャルフロー濾過、配合、滅菌濾過及び充填を介した濃縮により溶解産物を処理する。精製は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV5、AAV6、及びAAV8と結合する単鎖抗体を有する市販のゲル(GE Healthcare社製のAVB)に基づく。プロセスは、20%超の総収量を有し、1013vg/ml超のウイルス力価で製品4.5ml中に145ユニットを生成する。
【0145】
4/全身投与
GRMDイヌに治療物質候補(rAAV2/8-SPc5.12-cMD)ベクターを全身送達により注射した。このパイロットコホートに、1014vg/kg(合計でおよそ5×1014vg/動物)を投与した。カニューレ挿入された橈側皮静脈の末梢静脈を介して3mL/分の流速で簡単な全身注射を行った。ベクター製剤(5ml/kg)の注射された総体積はおよそ25mLであり、これは総血液体積の6%にあたり(10%が推奨された上限である)、非常によく許容されることがわかった。
【0146】
実験動物に、2ヶ月齢でTable 1(表1)で示された通りに注射した。実験動物は全て、血清中のAAV8中和因子の非存在に関して事前にスクリーニングされた。ベクターを静脈内(IV)注射する前に、深刻な衰弱及び/又は嚥下障害を示したGRMDイヌは実験から除外した。免疫抑制レジメンは決して使用せず、提供された医療のみを制限して、動物の快適性と良い生活状態を維持した。時期が来たら適切な規制文書(倫理及びGMOハンドリング)を得た。全ての手順は、実験動物のケア及び使用に関するガイドに従って実行され、動物の使用及びケアに関する臨時委員会によって承認される。
【0147】
5/全身処置の評価
罹患率及び死亡率は、1日2回査定される。死亡していることが発見された動物は、病理学者の存在下での剖検に供され、死亡原因を体系的に決定する試みにおいて適切な場合に組織サンプルが収集される。
【0148】
プロトコールの臨床的及び生物学的な許容度
全てのイヌにおいて、電解質、腎臓及び肝機能試験並びに全血球数等の臨床的な実験パラメーターが、注射後定期的にモニターされる。また心、呼吸、消化、運動器官及び神経機能等の各イヌの臨床状態も、プロトコール全体にわたって慎重に毎週評価される。
【0149】
Q-PCRによるベクターの発散及びベクターの生体内分布の査定
尿、血清、中間筋の生検、屈筋及び伸筋のなかでも四肢からの主要な骨格筋、心臓及び横隔膜、肝臓、脾臓、腎臓、リンパ節並びに精巣に対して、Q-PCRによるベクターの発散及びベクターの生体内分布が安楽死まで定期的に行われる。流体からのrAAVのDNAの抽出は、Qiamp Viral RNAミニキット(Qiagen社)を使用してなされる。rAAVは、140μLの血清から抽出される。抽出物の8分の1(10μL)がQ-PCR分析に使用される。組織からのゲノムDNA(gDNA)の抽出は、Gentra Puregeneキット(Qiagen社)及びTissue Lyzer II(Qiagen社)を使用してなされる。各gDNAサンプルの濃度は、ナノ分光光度計(Implen社)を使用して決定される。
【0150】
定量PCRは、StepOne Plus(Applied Biosystem社)で、2連で50ngのgDNA又は10μLの流体抽出物を使用して実行される。ベクターのコピー数は、SPc5.12-cMDカセットを特異的に増幅するように設計されたプライマー及びプローブを使用して決定される。gDNAのコピー数は、イヌグルクロニダーゼ遺伝子を増幅するように設計されたプライマー及びプローブを使用して決定される。各サンプルにつき、Ct(サイクル閾値)の値は、直線状にした標準プラスミド(SPc5.12-cMDカセット又はイヌグルクロニダーゼ遺伝子のいずれかを含有する)の様々な希釈物を用いて得られた値と比較される。結果は、二倍体ゲノム1つ当たりのベクターゲノム(vg/dg)で表される。流体の場合、導入遺伝子特異的なQ-PCRのみが行われ、結果は、抽出された流体1μl当たりのベクターゲノムで表される。gDNAの存在下におけるQ-PCR阻害の非存在は、脾臓、精巣、肝臓、腎臓又は骨格筋から抽出され、標準プラスミドの様々な希釈物でスパイクされた、10μLの流体抽出物又は50ngのgDNAを分析することによって事前にチェックされる。
【0151】
Q-RT-PCRによる様々な組織における導入遺伝子発現の査定
マイクロジストロフィン発現は、複数の骨格筋、心臓及び横隔膜、肝臓、脾臓、並びに高いベクターのコピー数を示す他のあらゆる組織で、Q-RT-PCRによって査定される。簡単に言えば、全RNAは、TRIzol試薬(Invitrogen社)を用いて筋肉、肝臓及び脾臓から抽出され、製造業者の説明書に従ってTURBO DNA非含有キット(Ambion社)からのRNアーゼ非含有DNアーゼIで処置される。逆転写は、ランダムプライマー及びM-MLV逆転写酵素(Invitrogen社)を使用して行われる。各サンプルにつき、逆転写酵素非含有の陰性対照(RT-)が処理される。定量PCRは、StepOne Plus(Applied Biosystem社)で希釈したcDNAで、2連で実行される。cMDメッセンジャーの相対的な定量は、この配列を特異的に増幅するように設計されたプライマーを使用して決定される。結果は、イヌの様々な組織で同様に発現されることが公知のイヌRPL32(リボソームタンパク質L32)メッセンジャーのQ-PCR分析によって正規化される(Peters, I.R.ら、Vet Immunol Immunopathol、2007. 117(1-2):55~66頁)。筋肉、肝臓及び脾臓のcDNAの存在下におけるQ-PCR阻害の非存在は、標準プラスミドの様々な希釈物でスパイクされた希釈cDNAを分析することによってチェックされる。
【0152】
各サンプルにつき、Ct(サイクル閾値)の値は、標準プラスミド(cMD発現カセット又はイヌRPL32メッセンジャーの配列を含有する)の様々な希釈物を用いて得られた値と比較される。結果は、相対的な量(RQ)で表される:
RQ=2-ΔCt=2-(Ct標的-Ct内因性対照)
【0153】
ウェスタンブロットによるジストロフィン発現の分析
特異的なウェスタンブロット分析を使用して、注射を受けたイヌの様々な筋肉において、
- 安楽死時にサンプリングされた、数種の骨格筋、加えて心臓及び横隔膜において、
- 安楽死時に高レベルの導入遺伝子コピー数が見出される肝臓、脾臓及び他のあらゆる組織において、マイクロジストロフィンの発現が評価される。
【0154】
総タンパク質が、組織サンプルから抽出される。タンパク質抽出物は、SDS-PAGEで分離されて、ニトロセルロース膜に移される。赤色のポンソー染色後、膜は、TBS中の5%スキムミルク中でブロッキングされ、抗ジストロフィンMANEX1011C抗体及び二次抗マウスIgG HRP-コンジュゲート抗体とハイブリダイズされる。
【0155】
免疫組織化学によるジストロフィン発現の分析
免疫化学によって、マイクロジストロフィン発現が、注射を受けたイヌの骨格筋において、
- 中間筋の生検において、
- 安楽死時にサンプリングされた、全ての骨格筋、加えて心臓及び横隔膜において、
- 安楽死時にサンプリングされた、肝臓、脾臓、精巣、腎臓及びリンパ節において評価される。マイクロジストロフィン発現及び局在化が、免疫組織化学によって査定される。マイクロジストロフィンポリペプチドの免疫染色は、Novocastraのマウス抗ジストロフィン抗体(NCL-DYSB)を使用して各筋肉の横断面に行われる。ジストロフィン関連タンパク質の復元は、筋細胞膜におけるラミニンとの共局在等を含めて、β-ジストログリカン、β-サルコグリカン、ガンマ-サルコグリカン及びウトロフィンの免疫染色によって評価される。
【0156】
筋肉における局所的な病理学的パターンの査定
病理学査定は、標的組織レベルにおける遺伝子治療製品の実際の利益を検討するのに重要である。形態測定分析を使用して、ECの資格を有する病理学者が、注射を受けたイヌの骨格筋における病理学的パターンを評価する。これらの分析は、I型線維が大半を占める姿勢筋(四肢近位筋、傍脊椎筋);II型線維が大半を占める運動器官の筋肉(四肢遠位筋からの屈筋及び伸筋);呼吸筋、横隔膜、肋間筋及び咀嚼筋になされる。心臓も同様に広範囲にわたり評価されるが、向きが平行ではないため線維の直径をとらえることが特に難しい。
【0157】
I型コラーゲンの免疫組織化学的な解明(免疫ペルオキシダーゼアッセイ)及び標識された領域のパーセンテージの自動測定の後に、筋内膜線維症が評価される。
【0158】
筋内膜線維症と同じスライドにおけるI型コラーゲンの免疫組織化学的な解明(免疫ペルオキシダーゼアッセイ)の後に全体の線維症が評価される。標識された総領域のパーセンテージの自動測定も行われる。
【0159】
筋周膜の線維症は、筋肉組織の同じ領域における全体の線維症と筋内膜線維症との差によって計算される。
【0160】
アノサイトーシス(anocytosis)(線維直径の変動)は、手作業での形態測定:少なくとも200本の筋線維及び分析された筋肉断面1つ当たり6つの領域に対する最小線維直径の決定によって評価される。
【0161】
壊死は、アリザリンレッド染色でのカルシウム蓄積の測定によって評価される。標識された領域のパーセンテージは、手作業での閾値設定後に測定される。
【0162】
再生は、発達中のミオシン重鎖アイソフォームの抗体特異性を用いた筋管の免疫組織化学的な解明(免疫ペルオキシダーゼアッセイ)の後に評価される。標識された領域のパーセンテージは、手作業での閾値設定後に測定される。
【0163】
炎症は、同じスライドでのT及びBリンパ球並びにマクロファージの免疫組織化学的な解明(免疫ペルオキシダーゼアッセイ)の後に評価される。標識された領域のパーセンテージは、手作業での閾値設定後に決定される。
【0164】
様々な組織での病理学的パターンの査定
オフターゲットの組織(肝臓、脾臓、腎臓等)に起因する潜在的な有害な副作用は、安楽死時のイヌの様々な組織におけるHE染色及び解剖病理学の技術を使用して評価される。
【0165】
骨格筋のNMRイメージング及び分光法の指数
非侵襲的な筋肉イメージング及び分光法指数は、安楽死の前の週に行われる。イヌは、Institute of Myology、Paris(Pierre Carlierのチーム)に送られ、未処置の健康な動物と比較してジストロフィーの筋異常を定量的及び連続的に説明するために、3T Siemens Trioスキャナーの核磁気共鳴(NMR)に供される。それに加えて、橈側手根伸筋のP31分光法が、Bruker社のバイオスペックスキャナーにおいて4Tで実行される。それぞれ個々の測定は、未処置の健康なイヌのグループにおける疾患進行の以前のNMR研究における参照データに対して位置付けされる。Thibaud, J.L.ら、Neuromuscul Disord、2012. 22 Suppl 2: S85~99頁;Wary, C.ら、NMR Biomed、2012. 25(10):1160~9頁。胸部及び骨盤/前肢は、3Tスキャナーで画像化される。Thibaud, J.L.ら(Neuromuscul Disord、2007. 17(7):575~84頁)で説明されるようにして、標準及び脂肪飽和T1、T2及びプロトン密度強調画像を獲得する。ガドリニウムキレート注射後の筋肉強化のT1測定及び2時間の反応速度論の研究も行われる。健康なイヌと未処置のGRMDイヌとで異なる10の指数が同定され、これは、大きい筋肉のテリトリーに対する遺伝子治療処置の作用を解釈することを可能にする。
【0166】
機能の査定:臨床的な格付け
臨床的な調査も1日2回行われ、これは、食物及び水の消費、活動(包括的な態度、外部刺激への応答)及び身体的外観(顔、被毛、四肢)を包含する。全ての動物に対して、各麻酔の間に体重による十分な調査が行われる。
【0167】
筋肉疾患に関する動物の全般的な臨床状態は、以前に公開されたプロトコールを使用して注射後に毎週行われる臨床的な格付けによって評価される(Rouger, K.ら、Am J Pathol、2011. 179(5):2501~18頁)。この評価は、11種の運動基準及び全体的な健康状態(嚥下困難、唾液分泌過多、包括的活動及び呼吸等)に関する6種の項目を包含する。各項目は、0から2にスコア付けされ、ここで0は症状がないことに相当し、2は最大の重症度に相当する。包括的な臨床スコアは、最大臨床スコアのパーセンテージとして表され(健康なイヌの場合が100%と定義される)、傾向曲線(可動は、3位を意味する)は、臨床スコアの進展を表すために構築される。注射を受けたイヌで得られた臨床スコアの進展は、注射を受けていないGRMDイヌの臨床スコアの進展と比較される。
【0168】
機能の査定:歩行分析(筋肉機能)
Locometrixによって定量化された歩行分析は、月2回行われる。Locometrix(登録商標)は、3つの直角に配置された加速度計で構成される3D加速度計デバイスである。この構造は、イヌの背腹軸、頭尾軸及び正中側面軸に沿った加速の記録を可能にする。速度、ストライド頻度、ストライド長さ、規則性、全体の筋力、背腹の筋力、頭尾の筋力、正中側の筋力及び力は、このデバイスで分析することができ、これらの指数のうちいくつかは、GRMDイヌにおいて疾患進行中に変化する(Barthelemy, I.ら、BMC Musculoskelet Disord、2011. 12:75頁)。
【0169】
機能の査定:心機能の評価
処置されたイヌの心機能は、心エコー及びドップラー分析、収縮性の障害の検出を可能にする高感度アプローチを使用して月1回評価される。
【0170】
データ収集:
従来の心エコー検査及び2Dカラー組織ドップラーイメージング(TDI)を立った姿勢の意識のあるイヌに行って、American College of Veterinary Internal Medicineからの推奨に従って、5~7.5及び2~5MHzのフェーズドアレイトランスデューサーを備えたVivid 7超音波ユニット(GE社、Waukesha、WI)を使用した継続的なECGでモニターする(Thomas, W.P.ら、J Vet Intern Med、1993. 7(4):247~52頁)。全てのデータは、イヌの臨床状態を知らされていない2人の調査官によって、特定のソフトウェア(Echo Pac 5.4、GE社)を使用してオフライン分析のために転送される。数々のパラメーターが、後述するような心筋の収縮性の査定のために測定される。
【0171】
従来のパラメーター:左心室(LV)の寸法、後壁及び心室間の隔壁の厚さが測定される。
【0172】
左心室の短縮率及び駆出率(Teichholz方法)が計算される。初期の拡張期における流速の後期の拡張期における流速に対する比率(E/A)を測定するために、僧帽弁流入のパルスドップラーが使用される。
【0173】
組織ドップラーイメージング:放射状の心筋速度及び歪み速度の測定値は、後壁における乳頭筋レベルにおける短軸像並びに隔壁及び側壁の基底部のレベルにおける心尖部四腔像から得られる。
【0174】
スペックルトラッキングイメージング:短軸像において、5つの事前に規定されたセグメントのそれぞれにおけるセグメントの歪みが測定される。円周方向及び放射方向の平均は、得られた測定値の平均を手作業で計算することによって決定される。四腔像において、包括的な縦歪が、6種の自動的に検出されたセグメントの分析から得られた測定値を統合するプログラムを用いて自動的に測定される。注射前のデータ及びmock注射を受けたGRMDは、参照として役立つ。
【0175】
機能の査定:呼吸機能の評価
呼吸機能は、月1回評価され、意識のあるイヌになされる胸部X線透視撮像を使用することによって行われる。呼気終末及び吸気終末画像を抽出した後、2つの指数が計算される:
- 横隔膜の尾側への退縮指数(RI)は、横隔膜の退縮を反映する;
- 横隔膜の可動域(ROM)は、横隔膜の移動度を反映する:これは、(i)終末吸気及び終末呼気で得られた2つの画像の重ね合わせ、(ii)各画像における尾側の大静脈孔の腹部ポイントの局在間の距離の測定、(iii)第13胸椎(T13)の長さによるこの距離の正規化の後に得られる。
【0176】
これらの2つの指数は、横隔膜の退縮及び移動度と相関しており、これらは、GRMDイヌにおいて疾患進行中に変化する(Barthelemy, I.ら、Myology congress、2011)。GRMDイヌで得られた結果は、注射を受けていない未処置の動物で得られた結果に対して位置付けされる。
【0177】
呼吸機能の臨床的な経過観察:
呼吸機能は、呼吸運動/サイクル、加えてそれらの変化の観察によっても評価され、横隔膜及び他の呼吸筋が衰弱した結果であり得る一部の呼吸異常が解明される。
【0178】
呼吸異常の出現及び悪化に関する動物の状態は、専門の獣医師により2ヶ月に1回行われる臨床調査によって評価される。特に、呼吸運動/サイクルの数及び規則性が評価される。
【0179】
機能の査定:消化機能の評価
消化機能の臨床的な経過観察:
DMD患者で見られるように、嚥下困難(すなわち嚥下が困難なこと)は、著しい口内及び咽頭筋の衰弱の結果としてのGRMDイヌにおける疾患進展の典型的な症状である(van den Engel-Hoek、J Neurol、2013、260(5): 1295~303頁)。
【0180】
嚥下困難の出現及び悪化に関する動物の状態は、専門の獣医師により2ヶ月に1回行われる臨床調査によって評価される。特に、舌のサイズ、口内における異常な量の唾液の存在、及び固形又は柔らかい食物を食べる動物の能力が評価される。
【0181】
免疫応答の追跡
全体の研究中、研究に登録されたイヌからの血液サンプル(血漿、血清及び末梢血単核細胞-PBMC)が、
- rAAV8に対する体液性免疫応答
- マイクロジストロフィンに対する体液性免疫応答
- rAAV8に対する細胞性免疫応答
- マイクロジストロフィンに対する細胞性免疫応答
- 注射後早期における炎症性免疫応答
をモニターするために回収される。
【0182】
血液サンプルは、フランスのL2バイオセーフティー要求事項に従って取り扱われ、血液学及び臨床生化学のために処理される。以下の免疫学査定:(i)抗AAV抗体及び抗ジストロフィン抗体;(ii)Luminexによる炎症性サイトカイン測定;(iii)補体活性化のために、専用の血清サンプリングを定期的に得る。末梢血単核細胞(PBMC)の単離とそれに続くAAV及び/又はジストロフィンポリペプチドに対する潜在的な細胞性免疫応答のモニターのために、処置の前及び後に全血も収集する。
【0183】
rAAV8ベクターに対する体液性免疫応答:
イヌ血清は、ベクター注射後の様々なタイムポイントで、
(i)カスタマイズされたELISAによって検出された、rAAV8に特異的なIgG及びIgMの存在;
(ii) カスタマイズされた中和アッセイによって解明されたrAAV8の中和能力
に関して評価される。
【0184】
ジストロフィンに対する体液性免疫応答:
IgG抗ジストロフィン抗体の検出は、ウェスタンブロット分析によって慣例的に行われる。簡単に言えば、イヌジストロフィンタンパク質を含有する細胞抽出物がSDS-PAGEに供され、次いでハイボンドECLニトロセルロース膜に移される。一晩飽和させた後、膜は、注射を受けた動物からの実験用のイヌ血清と共にインキュベートされる。その後、ペルオキシダーゼコンジュゲートウサギ抗イヌIgG抗体とのハイブリダイゼーション、それに続く増強型化学発光検出によって検出が行われる。陽性対照は、抗ジストロフィンMANEX1011C抗体で構成される(Wolfson Center for Inherited Neuromuscular Diseases)。
【0185】
AAV8及びジストロフィンポリペプチドに対する細胞性免疫応答は、以下のように評価される:簡単に言えば、IFN-γELISPOTアッセイは、AAV8のVPタンパク質又はイヌジストロフィンポリペプチドのいずれかをコードするレンチウイルスベクター(LV)を用いて行われる。LVベクターが、PBMCを形質導入するのに使用される。イヌジストロフィンポリペプチドのイヌ配列を網羅したオーバーラップするペプチドライブラリーを使用した補完的なアプローチも、リンパ球を刺激するのに使用される。
【0186】
炎症性免疫応答(サイトカイン)は、ベクター投与前に、及びベクター投与後の様々なタイムポイントでLuminex技術によって定量化され、IL2、IL4、IL6、IL8、IL10、IL15、IFN及びTNFが調査される。
【0187】
結果:
図2に示した通り、2ヶ月齢のGRMDイヌに、末梢静脈を介した簡単な全身注射により上述した1×10
14vg/kgのrAAV2/8-SPc5.12-cMDベクターを注射した。ベクター投与の直後も数ヶ月までも臨床的にも生化学的にも血液学にも有害な作用は検出されなかった。
【0188】
筋肉生検:
全身注射後3及び8ヶ月に、GRMDイヌの数々の様々な筋肉からの中間生検を得た。
【0189】
上述した手法に従って、ベクターの全身送達後3ヶ月におけるジストロフィンポリペプチドを発現する筋線維のパーセンテージを調査した。
図3Aに、GRMDイヌ2に関する結果を示す。
【0190】
同様に上述した手法に従って、治療的導入遺伝子を発現する線維のパーセンテージと共に、2倍体細胞1つ当たりのベクターゲノム数(vg/dg)を示す。平均2~4vg/dgで、ジストロフィンを発現する線維の平均パーセンテージは、生検において59から82%にランク付けされ(
図3Aのc/からf/)、これは、非常に有望と解釈された。主要な細胞浸潤の非存在及び極めて顕著な保存された組織構造に注目することができる。
【0191】
ベクターの全身送達後の8ヶ月において、1vg/dgで、ジストロフィンを発現する線維のパーセンテージは、生検において約50%であった(
図3B)。
【0192】
以下のTable 2(表2)に、全ての利用可能なデータを集約する。
【0193】
【0194】
更に、以下の表に、注射後7.5ヶ月にGRMDイヌ3の組織中に見出されたベクターゲノムコピーの更なる定量化を示す。
【0195】
【0196】
非常に興味深い方式で、この遅いタイムポイントでも、体の全ての骨格筋(注射部位から遠位、すなわち右の橈側皮静脈でも)だけでなく心臓及び横隔膜でも有意な量のトランスジェニック粒子が検出されることが観察される。これは、生物全身における導入遺伝子の優れた生体内分布を裏付けるものである。
【0197】
臨床評価:
8匹の他の未処置の年齢を適合させたGRMDイヌに対する5匹の処置されたGRMDイヌの臨床評価における予備的なデータを、上述したようにしてとった。
図4は、ベクター注射後の様々なタイムポイントにおける、嚥下困難、呼吸、唾液分泌過多、包括的活動に本質的に基づく臨床スコアの向上を示す。100%のスコア付けは、健康な個体に相当する。同じグループ内の処置された個体間で臨床転帰が変化する可能性がある場合であっても(未処置のGRMD間でみられるケースのように)、これらの結果は、それまでに処置されたGRMD動物は、未処置の動物の大部分より優れたある程度安定な表現型を示すことを示唆する。処置されたイヌで評価された臨床スコアは、健康なイヌで得られた最大スコア(100%)の少なくとも50%に相当するレベルに維持され、一部の動物は70%を超えるが、それに対して未処置の動物の大多数の臨床スコアは迅速に40%未満かそれよりも低く低下する(
図4)。
【0198】
注目すべきことに、臨床的な追跡から、1歳でも、処置されたGRMDイヌは、走ったり、障害物をジャンプしたり、それらの後肢で立ったりすることができることが示される。これは、期待寿命が1年を超えることがまずない未処置のGRMDイヌでは決して観察されなかった。
【0199】
図4に示したデータも、処置されたイヌにおける心及び呼吸機能の改善並びに未処置のイヌとの比較における生存の延長、それと共に生活の質の向上を裏付けるものである。
【0200】
歩行の特徴付け:
上述したように、歩行評価を、Locometrix(登録商標)デバイスを使用して2ヶ月に1回行った。加速度計の値を、3つの軸:背腹(DV)、正中側(ML)及び頭尾(CC)で記録した。
図5に、7種の歩行変数(ストライド頻度、規則性、全体の筋力、頭尾の筋力、背腹の筋力、正中側の筋力及びストライド長さ)の統計学的な判別因子分析による歩行の特徴付けを示す。
【0201】
注射を受けたイヌで得られた結果は、25匹の未処置のGRMD及び9匹の正常なイヌのグループにおける疾患進行の事前の3D-加速度計の研究中に収集された参照データに対して位置付けされる(Barthelemy, I.ら、BMC Musculoskelet Disord、2011. 12:75頁)。
【0202】
データから、μdysで処置されたGRMDイヌは、年齢を適合させた未処置のGRMDイヌで観察された包括的歩行指数とは非常に異なった十分に向上した包括的歩行指数を生じたことが示される。μdysで処置されたGRMDイヌは、注射後わずか3から4ヶ月後に、健康なイヌの歩行に非常に近い歩行を示すまでにそれらの歩行性能を迅速に向上させた。これらのデータから、μdysで処置されたGRMDイヌは、同血統の健康なイヌに近い歩行を示すと考えられる。
【0203】
心及び呼吸機能:
図4に示される臨床スコアは、心及び呼吸機能の改善を裏付けるものである。
【0204】
より具体的には、呼吸機能の向上は、イヌ間でも有意なばらつきがあるが、横隔膜の移動度の向上と関連して、処置されたGRMDイヌにおいてROM指数が優れた値であることを明示する
図6によって裏付けられる。
【0205】
これらのデータもまた、以下のTable 4(表4)で報告されるイヌの臨床的な追跡を確認するものである。
【0206】
【0207】
GRMDイヌにおける呼吸異常は、呼吸運動/サイクルの変化によって特徴付けられる。DMD患者の場合と同様に、これらの異常は、横隔膜及び他の呼吸筋の衰弱の低下の結果である。Table 4(表4)は、処置されたGRMD(μDys)イヌにおける呼吸異常の出現の遅延又は更には抑制を明示する。
【0208】
消化機能:
嚥下困難(嚥下が困難なこと)は、GRMDイヌにおける疾患進展の典型的な症状である。DMD患者の場合と同様に、嚥下困難は、著しい口内及び咽頭筋の衰弱の結果である。
【0209】
消化機能への処置の可能性のある利点が調査されており、結果は、以下のTable 5(表5)に報告される。
【0210】
【0211】
この臨床的な追跡は、処置されたGRMD(μDys)イヌにおける嚥下困難の出現における遅延、それと共により低い重症度の症状を明示する。
【0212】
免疫応答/毒性:
注射後3及び8ヶ月におけるタンパク質の検出(
図3)、加えて
図4に示される優れた臨床スコアは、組換えAAVベクター及びマイクロジストロフィンへの不利で有害な免疫応答がないことを示す。
【0213】
筋肉生検(
図3)、加えて
図4に示される優れた臨床スコアは、遺伝子治療製品の毒性がないことを裏付けるものである。
【0214】
バイオセーフティーに関して、cMDに対する細胞性免疫応答を、PBMCの動態において、インキュベートされたcMDYFペプチドプールを使用したインターフェロンガンマElispotによって評価した(
図7)。注射された用量にかかわらず、いずれの注射を受けた動物も検出可能なインターフェロンガンマ分泌を示さず、これは、cMDYFに対する細胞性免疫応答の非存在を示唆している。
【0215】
cMDに対する体液性免疫応答もイムノウェスタンブロットによって評価した(
図8)。以下のTable 6(表6)に、全ての利用可能な結果を集約する。
【0216】
【0217】
ここで、1014vg/kgのAAV-cMDベクターが注射された5匹のイヌのうち2匹において抗μジストロフィン抗体の存在が検出された。重要なことに、このcMDに対する体液性免疫応答は一過性に過ぎず(検出の最大範囲=注射後2週間から4ヶ月の間)、いかなる臨床的な有害作用にも関連しないようであり、これは、これらの動物において免疫寛容が起こる可能性があることを示唆している。
【0218】
生存:
図4から、生存の延長が明らかに示される:
- 8~9ヶ月齢で、8匹の未処置のGRMDイヌのうち2匹しか生存していない。それとは逆に処置されたGRMDイヌは全てまだ生存しており健康である;
- 一般的に、未処置のGRMDイヌの期待寿命はおよそ12ヶ月であり、この月齢での臨床的な状況は非常に悪い。それとは逆に、長期間の追跡で試験された2匹の処置されたGRMDイヌ(μDys1及び2)は、この期限の後も生き続けており(それぞれ19及び17ヶ月齢)、優れた臨床的な状況である。
【0219】
治療用量:
この研究は、全身投与にとって比較的低い用量である1014vg/kgが、イヌにおける効率及び毒性に関して適切な用量であることを明示する。
【0220】
結論:
まとめると、これらの機能的なデータは、中間筋肉生検において、ジストロフィンポリペプチドの実質的な発現とよく相関していた(50%を超えるマイクロジストロフィンを発現する線維)。これらの機能的なデータは、MDマイクロジストロフィンコンストラクトの治療作用を示し、疾患の進行を止める/低減するのに全身送達が有益な可能性があることを裏付けるものである。このGRMDの全身パイロットコホートから得られた結果から、分子的、病理学的及び機能的な観点からの数々の転帰尺度が、ヒトにおける全身遺伝子治療を支持していることが示される。
【0221】
この研究から、配列が最適化されたマイクロジストロフィンをコードし、AAV8キャプシド中に包まれたSPc5.12-cMD治療カセットは、単回用量を全身静脈内投与した後、デュシェンヌ型ミオパシーのイヌモデルに臨床上の利益を提供するという概念が証明される。マイクロジストロフィンポリペプチドは、複数の筋肉で高度に発現されただけでなく、有害な免疫応答を起こすことなく、歩行の向上、更に臨床転帰尺度の向上、生存の延長ももたらした。本発明者らが知る限り、これは、特に全身投与の場面において、まさに有望で驚くべき結果の最初の報告である。
【配列表】