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特許7325470非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0587 20100101AFI20230804BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230804BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230804BHJP
【FI】
H01M10/0587
H01M4/13
H01M10/0566
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021057178
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154250
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】神山 彰
(72)【発明者】
【氏名】佐野 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 直利
(72)【発明者】
【氏名】仲西 梓
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-058264(JP,A)
【文献】特開2019-040696(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065187(WO,A1)
【文献】特開2010-021104(JP,A)
【文献】特開2005-108682(JP,A)
【文献】特開2012-084332(JP,A)
【文献】特開2010-009983(JP,A)
【文献】特開2016-035900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/0587
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、
非水電解液と、
前記捲回電極体および前記非水電解液を収容する電池ケースと、
を備える非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記負極板は、負極芯体と、該負極芯体上に形成された負極活物質層とを有しており、
前記捲回電極体の捲回軸方向における前記負極活物質層の長さが少なくとも20cmであり、
前記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、前記開口を封口する封口板と、を備えており、
前記捲回電極体は、前記捲回軸が前記底部と平行になる向きで前記外装体内に配置されており、
以下の工程:
前記捲回電極体と前記非水電解液とを前記電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する組立工程;
充電深度が5%以上30%以下となるように、前記二次電池組立体に対して初期充電を行う第1工程
記第1工程の後に、前記捲回電極体の温度を50℃以下にして、この状態を少なくとも72時間維持する第2工程
前記第2工程の後に、充電深度が40%以下となるように、前記二次電池組立体を充電する第3工程;および、
前記第3工程の後に、50℃以上80℃以下の温度で前記二次電池組立体を高温エージングする第4工程;
を有する、製造方法。
【請求項2】
前記二次電池組立体が前記捲回電極体の厚み方向に拘束された状態で、前記第2工程を実施する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池および非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、車両や携帯端末等の様々な分野において広く使用されている。この種の二次電池の典型例として、正極板および負極板を有する電極体と、非水電解液と、該電極体および該非水電解液を収容する電池ケースと、を備える非水電解液二次電池が挙げられる。
【0003】
非水電解液二次電池の製造において、一般的に、電極体と非水電解液とが電池ケースに収容された状態の二次電池組立体を初期充電する。初期充電を行うことによって、負極板の表面に、いわゆるSEI被膜を形成することができる。一方で、初期充電時には、二次電池組立体に含まれる成分に由来するガスが、電極体内で発生し得る。このような電極体内でのガス発生は、電極体における充電ムラ発生の要因となり得る。そのため、上記ガス発生に起因する充電ムラの発生を抑制するための技術開発が求められている。ここで、電極体内でのガス発生に関する先行技術の一例として、特許文献1が挙げられる。当該文献に開示される二次電池の製造方法では、二次電池前駆体が鉛直方向で最上位に開口部を有するように立設され、発生するガスを該開口部から逃がしながら初期充電を行うことが提案されている。上記製造方法によると、二次電池前駆体において、気泡による充電ムラをより十分に防止できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/044560
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記電極体の一例として、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体が挙げられる。また、近年の二次電池の普及にともない、非水電解液二次電池のさらなる高エネルギー化が求められている。かかる要求を満たすため、本発明者らは、例えば正極板や負極板における電極活物質層の形成幅(即ち捲回電極体の捲回軸方向の長さ)を大きくすることを考えた。しかし、本発明者らは、電極活物質層の形成幅が大きい捲回電極体の初期充電および高温エージングを行った時に、該捲回電極体の一部の領域で、該一部の領域を除く他の領域よりも黒い黒色領域が形成され得ることを新たに知得した。また、本発明者らは、黒色領域は他の領域よりも抵抗が高いため、黒色領域が形成された捲回電極体を備える非水電解液二次電池では、その電池特性(例えば、容量維持率等)が低くなり得ることを見出した。そして、本発明者らの鋭意検討の結果、初期充電時のガス発生によって、負極活物質層に良質なSEI被膜が形成されない部分が生じ、この状態のまま高温エージングを行うと、当該部分に非良質な被膜(即ち、上記黒色領域)が形成されることを突き止めた。
【0006】
本発明は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、捲回電極体を備える非水電解液二次電池において、該捲回電極体における黒色領域の形成を抑制する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示される製造方法は、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、非水電解液と、上記捲回電極体および上記非水電解液を収容する電池ケースと、を備える非水電解液二次電池の製造方法である。上記負極板は、負極芯体と、該負極芯体上に形成された負極活物質層とを有している。上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極活物質層の長さが少なくとも20cmである。この製造方法は、以下の工程:上記捲回電極体と上記非水電解液とを上記電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する組立工程;上記二次電池組立体に対して初期充電を行う第1工程;および、上記第1工程の後に、上記捲回電極体の温度を50℃以下にして、この状態を少なくとも72時間維持する第2工程、を有する。
【0008】
上記構成の製造方法では、第1工程における初期充電を行った後に、第2工程において二次電池組立体を所定の非高温状態で所定時間放置する。これによって、初期充電時に捲回電極体内で発生したガスを捲回電極体外に十分放出するとともに、このガスによって良質な被膜が形成されなかった部分に、追加的に良質な被膜を形成することができる。このため、上記のような捲回電極体での黒色領域の形成を抑制することができる。
【0009】
ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記二次電池組立体が上記捲回電極体の厚み方向に拘束された状態で、上記第2工程を実施する。二次電池組立体を拘束した状態で第2工程を実施することによって、該工程における捲回電極体外へのガス放出を促進することができる。そのため、上記黒色領域の形成抑制効果をより高めることができる。
【0010】
ここで開示される製造方法を用いると、以下の構成の非水電解液二次電池を製造できる。当該非水電解液二次電池は、上記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、上記開口を封口する封口板と、を備えている。上記捲回電極体は、上記捲回軸が上記底部と平行になる向きで上記外装体内に配置されている。
【0011】
ここで開示される技術によると、帯状の正極板および帯状の負極板が、帯状のセパレータを介在させつつ捲回された扁平形状の捲回電極体と、非水電解液と、上記捲回電極体および上記非水電解液を収容する電池ケースと、を備える非水電解液二次電池が提供される。上記負極板は、負極芯体と、上記負極芯体上に形成された負極活物質層とを有している。上記捲回電極体の捲回軸方向における上記負極活物質層の長さが少なくとも20cmである。ここで、上記負極板における巻き始め端部領域において、該端部領域の平均極板抵抗Raveと、当該領域の最大極板抵抗Rmaxとの比(Rmax/Rave)が2.7以下である。かかる構成の非水電解液二次電池では、負極板における巻き始め端部領域において、局所的な抵抗の増大が抑制されている。そのため、当該非水電解液二次電池では、電池性能の低下が抑制されている。
【0012】
ここで開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記電池ケースは、開口および該開口に対向する底部を含む外装体と、上記開口を封口する封口板と、を備えている。上記外装体は、一対の対向する大面積側壁と、該大面積側壁の面積よりも小さい面積を有する。上記一対の大面積側壁の間の距離は少なくとも3cmである。上記外装体内には、複数個の上記捲回電極体が収容されている。上記のとおり、ここで開示される非水電解液二次電池では、電池性能の低下が抑制されている。そのため、複数個の捲回電極体を備えることによって、非水電解液二次電池からより効率よくエネルギーを得ることができる。
【0013】
ここで開示される非水電解液二次電池の一態様では、上記捲回電極体に電気的に接続された正極集電体および負極集電体と、上記捲回電極体の上記捲回軸方向の一方の端部に突出した複数のタブを含む正極タブ群と、同方向の他方の端部に突出した複数のタブを含む負極タブ群と、を備えている。上記正極集電体と上記正極タブ群とが接続され、上記負極集電体と上記負極タブ群とが接続されている。ここで開示される技術の効果は、上記構成の非水電解液二次電池において適切に発揮され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係る製造方法で製造される非水電解液二次電池を模式的に示す斜視図である。
図2図1のII-II線に沿う模式的な横断面図である。
図3】第1実施形態に係る製造方法で用いられる捲回電極体を模式的に示す斜視図である。
図4】第1実施形態に係る製造方法で用いられる捲回電極体の構成を示す模式図である。
図5】初期充電後の負極活物質層上の状態を説明する模式図である。
図6】第1実施形態に係る製造方法で用いられる負極板における巻き始め端部領域を説明する平面図である。
図7】第1実施形態における非水電解液二次電池の製造方法の工程図である。
図8】第1実施形態に係る製造方法における拘束体の斜視図である。
図9】第1実施形態に係る製造方法の作用効果を説明する模式図である。
図10】第2実施形態に係る製造方法における拘束体の斜視図である。
図11】第3実施形態に係る製造方法における拘束体の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、ここで開示される技術を特徴付けない二次電池の一般的な構成および製造プロセス)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電が可能な蓄電デバイス全般を指す用語であって、リチウムイオン二次電池等のいわゆる蓄電池(化学電池)と、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(物理電池)と、を包含する概念である。本明細書において「活物質」とは、電荷担体(例えばリチウムイオン)を可逆的に吸蔵・放出できる材料をいう。
【0017】
本明細書において参照する各図における符号Xは「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「高さ方向」を示す。また、奥行方向XにおけるFは「前」を示し、Rrは「後」を示す。幅方向YにおけるLは「左」を示し、Rは「右」を示す。そして、高さ方向ZにおけるUは「上」を示し、Dは「下」を示す。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、二次電池の設置形態を何ら限定するものではない。また、本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」という意味と共に、「Aを上回り、かつ、Bを下回る」という意味も包含する。
【0018】
<第1実施形態>
ここで開示される製造方法において製造される非水電解液二次電池の一例を、図1,2に示す。非水電解液二次電池100は、捲回電極体20、および図示されない非水電解液と、該捲回電極体、および該非水電解液を収容する電池ケース10と、を備えている。非水電解液二次電池100は、ここではリチウムイオン二次電池である。
【0019】
非水電解液は、非水溶媒と支持塩とを含み得る。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる各種のカーボネート類等の有機溶媒を、特に制限なく用いることができる。具体例として、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)等の鎖状カーボネート;エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチレンカーボネート、エチルエチレンカーボネート等の環状カーボネート;メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート(MTFEC)等のフッ素化鎖状カーボネート;モノフルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のフッ素化環状カーボネート;が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0020】
支持塩としては、LiPF、LiBF等が挙げられる。非水電解液中の支持塩の濃度は、0.7mol/L~1.3mol/Lの範囲で設定するとよい。非水電解液は、上述した成分以外の成分として、例えば、ホウ素(B)原子および/またはリン(P)原子を含むオキサラト錯体化合物(例えば、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB))、ビニレンカーボネート(VC)、ジフルオロリン酸リチウム等の被膜形成剤;ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;を含み得る。また、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限り、増粘剤;分散剤;等の従来公知の添加剤を含み得る。
【0021】
ここで開示される技術の効果を好ましく実現する観点から、上記非水溶媒は、環状カーボネートであることが好ましい。なかでも、エチレンカーボネート(EC)を好ましく使用し得る。また、同様の観点から、上記被膜形成剤は、ビニレンカーボネート(VC)であることが好ましい。
【0022】
電池ケース10は、開口を有する外装体12と、該開口を封口する封口板(蓋体)14と、を備えている。電池ケース10は、外装体12の開口の周縁に封口板14が接合されることによって、一体化されて気密に封止(密閉)されている。外装体12は、上記開口と、該開口に対向する矩形状の底部12aと、底部12aの長辺から立ち上がった一対の大面積側壁12bと、底部12aの短辺から立ち上がった一対の小面積側壁12cとを含む、有底角筒状の角形外装体である。小面積側壁12cは、大面積側壁12bの面積よりも小さい面積を有する。封口板14には、非水電解液の注液孔15と、ガス排出弁17と、正極端子30と、負極端子40と、が設けられている。注液孔15は、封止部材16で封止されている。正極端子30および負極端子40は、電池ケース10内に収容された捲回電極体20と電気的に接続されている。電池ケース10は、例えば金属製である。電池ケース10を構成する金属材料としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金等が挙げられる。
【0023】
電池ケース10のサイズは、特に限定されない。後述のように、いくつかの態様において外装体12内に複数の捲回電極体20が収容される場合、一対の大面積側壁12bの間の距離は、収容される捲回電極体20の数やサイズ等に応じて適宜設定され得る。上記距離は、例えば、少なくとも3cmあるとよく、3cm以上であってよく、4cm以上であってよく、また、5cm以上であってよい。また、上記距離は、例えば、10cm以下であってよく、8cm以下であってよく、また、6cm以下であってよい。
【0024】
捲回電極体20は、非水電解液二次電池100の発電要素であり、正極板、負極板、およびセパレータを備えている。本実施形態では、図2に示すように、電池ケース10(外装体12)内に、複数個(例えば、2個以上、3個以上、あるいは4個以上。図2では3個)の捲回電極体20が奥行方向Xに配列された状態で収容されている。図1~4に示すように、捲回電極体20は、捲回軸WLが底部12aと平行になる向きで、外装体12の内部に配置されている。捲回電極体20は、電極体ホルダ70内に収容された状態で、電池ケース10に収容されている。なお、捲回電極体20を構成する各部材(正極板、負極板およびセパレータ等)の構成材料は、一般的な非水電解液二次電池で使用され得る材料を特に制限なく使用でき、ここで開示される技術を限定するものではないため詳細な説明を省略することがある。
【0025】
捲回電極体20の捲回軸WL方向の長さL1は、少なくとも20cmであり、例えば20cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。また、上記長さL1は、例えば60cm以下、50cm以下、あるいは40cm以下であり得る。なお、上記長さL1には、後述の正極タブ22tの長さおよび負極タブ24tの長さのいずれも含まれない。
【0026】
図4に示すように、捲回電極体20は、正極板22および負極板24を有する。捲回電極体20は、ここでは、長尺な帯状の正極板22と長尺な帯状の負極板24とが長尺な帯状のセパレータ26を介在させつつ長手方向に直交する捲回軸WLを中心として捲回された、扁平形状の捲回電極体である。図3に示すように、捲回電極体20は、一対の扁平部20aと、一対の幅方向Yの端部20bと、を有している。端部20bは、正極板22、負極板24、およびセパレータ26の積層面であり、捲回電極体20の外部に対して開放されている。
【0027】
正極板22は、長尺な帯状の正極芯体22cと、正極芯体22c(例えば、アルミニウム箔やアルミニウム合金箔等)の少なくとも一方の表面上(好ましくは両面)に固着された正極活物質層22aとを有する。特に限定するものではないが、正極板22の幅方向Yにおける一方の側縁部には、必要に応じて、正極保護層22pが設けられてもよい。正極芯体22cの幅方向Yの一方の端部(図4の左端部)には、複数の正極タブ22tが設けられている。複数の正極タブ22tは、それぞれ幅方向Yの一方側(図4の左側)に向かって突出している。複数の正極タブ22tは、正極板22の長手方向に沿って間隔を置いて(間欠的に)設けられている。正極タブ22tは、正極芯体22cの一部であり、正極芯体22cの正極活物質層22aおよび正極保護層22pが形成されていない部分(芯体露出部)である。複数の正極タブ22tは幅方向Yの一方の端部(図4の左端部)で積層され、複数の正極タブ22tを含む正極タブ群23を構成している。正極タブ群23に、正極集電体50が接合されている(図2~4参照)。
【0028】
正極板22のサイズは、捲回電極体20の上記長さL1を実現するように設定され得る。捲回軸WL方向における正極板22の長さは、例えば20cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。また、当該長さは、例えば60cm以下、50cm以下、あるいは40cm以下であり得る。なお、上記長さには、正極タブ22tの長さは含まれない。
【0029】
負極板24は、長尺な帯状の負極芯体24c(例えば、銅箔や銅合金箔等)と、負極芯体24cの少なくとも一方の表面上(好ましくは両面)に固着された負極活物質層24aと、を有する。負極芯体24cの幅方向Yの一方の端部(図4の右端部)には、複数の負極タブ24tが設けられている。複数の負極タブ24tは、幅方向Yの一方側(図4の右側)に向かって突出している。複数の負極タブ24tは、負極板24の長手方向に沿って間隔を置いて(間欠的に)設けられている。負極タブ24tは、ここでは負極芯体24cの一部であり、負極芯体24cの負極活物質層24aが形成されていない部分(芯体露出部)である。複数の負極タブ24tは幅方向Yの一方の端部(図4の右端部)で積層され、複数の負極タブ24tを含む負極タブ群25を構成している。負極タブ群25に、負極集電体60が接合されている(図2~4参照)。
【0030】
負極板24のサイズは、捲回電極体20の上記長さL1を実現するように設定され得る。捲回軸WL方向における負極板24の長さ(例えば負極活物質層24aの長さ)は、少なくとも20cmであり、例えば20cm以上、あるいは30cm以上に設定され得る。また、当該長さは、例えば60cm以下、50cm以下、あるいは40cm以下であり得る。なお、上記長さには、負極タブ24tの長さは含まれない。
【0031】
ところで、二次電池組立体の初期充電を行うと、負極活物質は、所定の電位以上で接触する有機物(例えば非水電解液成分、被膜形成剤等の添加剤等)を分解する。このような分解産物は、SEI被膜として負極活物質層の表面に堆積する。SEI被膜には電子伝導性はないが、完全な連続膜ではないため、イオンの通過を許容する。そのため、SEI被膜は、活物質表面を安定化および/または不活化させて、非水電解液成分等の過剰な分解を抑制することができる。一方、初期充電によって、二次電池組立体に含まれる成分(例えば水分、非水電解液の構成成分等)に由来するガスが、電極体の内部で発生し得る。電極体内で発生したガスは、該電極体の開放面から電極体外に放出される。ここで、電極体が例えば捲回電極体20のような構成であると、上記ガスの放出が捲回電極体20の開放面である端部20bからに限られるため、発生したガスの一部が電極体内に残りやすい。
【0032】
本発明者らは、初期充電時のガス発生に起因して黒色領域が形成されることについて、以下のメカニズムを推察している。図5に示すように、初期充電後の負極活物質層24aの表面には、被膜3(SEI被膜)が形成されている。また、負極活物質層24aとセパレータ26との間には、ガスGが存在している。ガスGが存在する部分では充電反応が生じにくいため、被膜3の形成が妨げられている。ガスGは、その後の高温エージング等によって、捲回電極体20外に放出される。ガスGが抜けた部分では被膜3の形成が不十分であるため、例えば非水電解液成分と負極活物質とが高温によって急速に反応する。そうすると、被膜3とは性質の異なる非良質な被膜(黒色領域)が形成される。黒色領域は他の領域よりも抵抗が高いため、黒色領域の形成によって、捲回電極体20に充電ムラが発生し、非水電解液二次電池の電池性能を低下させ得る。
【0033】
また、本発明者らの検討により、黒色領域は、負極板24における巻き始め端部領域(詳しくは、負極活物質層24a上)において、形成しやすいことがわかった。なかでも、当該領域における、捲回電極体20の中央部201と重なる部分でより高頻度に発生することがわかった(図3参照)。図6に示すように、巻き始め端部領域240は、負極板24における巻き始め端部241から負極板24の長手方向における他方の端部242に長さL3向かった領域をいう。負極板24の長手方向の長さL4と同方向における巻き始め端部領域240の長さL3との比(L3/L4)は、例えば1/10以上、1/8以上、1/5以上、また、1/2以下、1/3以下、1/4以下であり得る。なお、図6において、巻き始め端部領域240における負極タブ24tの形成数は、巻き始め端部領域の設定を何ら限定するものではない。
【0034】
中央部201は、捲回電極体20の扁平部20aの幅方向Yの中心線Cを含む領域をいう。同方向における中央部201の長さL2と、上記長さL1との比(L2/L1)は、例えば、1/6以上、1/4以上、また、1/2以下、1/3以下であり得る。「中心線Cを含む」とは、中央部201中に中心線Cを含んでいればよく、例えば、中央部201の中心線と中心線Cとの距離が1/4L2以下である。
【0035】
そして、本発明者らの鋭意検討の結果、ここで開示される技術を用いて非水電解液二次電池を製造することによって、上記黒色領域の形成を抑制できることがわかった。この製造方法は、図7に示すように、少なくとも組立工程S1、第1工程S2、および第2工程S3を有する。組立工程S1では、捲回電極体と非水電解液とを電池ケースに収容して二次電池組立体を構築する。まず、捲回電極体20を、上記の材料を用いて従来公知の方法で作製する。次いで、捲回電極体20の正極タブ群23に正極集電体50を取り付け、さらに負極タブ群25に負極集電体60を取り付けて、捲回電極体と電極集電体との合体物(第1合体物)を用意する(図3参照)。本実施形態では、3個の第1合体物を用意する。
【0036】
次いで、3個の第1合体物と封口板14とを一体化して、第2合体物を用意する。具体的には、例えば、封口板14に予め取り付けられた正極端子30と、第1合体物の正極集電体50とを接合する。同様に、蓋体14に予め取り付けられた負極端子40と、第1合体物の負極集電体60とを接合する。接合手段としては、例えば、超音波接合、抵抗溶接、レーザ溶接等を用いることができる。
【0037】
次いで、第2合体物を、外装体12に収容する。具体的には、例えば、絶縁性の樹脂シート(例えばポリエチレン(PE)等のポリオレフィン製)を、袋状または箱状に折り曲げて作製した電極体ホルダ70に3個の捲回電極体20を収容する。そして、電極体ホルダ70で覆われた捲回電極体20を、外装体12に挿入する。この状態で、外装体12の開口部に封口板14を重ね合わせて、外装体12と封口板14とを溶接し、外装体12を封口する。そして、従来公知の方法にて注液孔15を介して、電池ケース10に非水電解液を注液する。注液した非水電解液を捲回電極体20に含浸させる。このようにして、捲回電極体20と非水電解液とが電池ケース10に収容された二次電池組立体を構築する。
【0038】
第1工程S2では、二次電池組立体に対して初期充電を行う。本工程では、公知の充放電手段を用いて、組立工程S1で得られた二次電池組立体を初期充電する。本工程を行うことによって、良質な被膜を形成することができる。本工程では、上記二次電池組立体の充電深度(以下、適宜「SOC;state of charge」とも称する。)を所望の充電深度となるように充電する。上記充電深度は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。一方、上記充電深度は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。初期充電の温度条件は、45℃以下であることが好ましく、15℃~35℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることがさらに好ましい。初期充電のための充電レートは特に限定されず、適宜設定し得るが、例えば1C以下とすることができる。なお、特に限定するものではないが、本工程の実施によって発生したガスを放出する観点から、第1工程S2は、注液孔15を開放した状態(即ち、電池ケース10を開放した状態)で行うことが好ましい。
【0039】
特に限定するものではないが、捲回電極体20内でのガスの移動・拡散や捲回電極体20外へのガス放出の観点から、第1工程S2の後、二次電池組立体を拘束してよい。二次電池組立体が拘束された状態で、第2工程S3を実施することが好ましい。図8に示すように、二次電池組立体101は電池ケース10の奥行方向X(即ち、捲回電極体20の厚み方向(図3等参照))に拘束するとよい。具体的には、一対の拘束治具80を、電池ケース10(外装体12)の一対の大面積側壁12b(図1参照)の全体に対向するように配置するとよい。
【0040】
上記のようにして、二次電池組立体101および一対の拘束治具80からなる拘束体180を構築する。そして、例えば、拘束体180の奥行方向Xの両端(即ち、一対の拘束治具80)を拘束ベルトで架橋することによって、二次電池組立体101に所定の拘束圧を付与することができる。上記拘束圧は、特に限定されないが、例えば1kN以上であり、3kN~15kNであることが好ましく、6kN~10kNであることがより好ましい。あるいは、複数の拘束体180を奥行方向Xに配列し、両端の拘束体を拘束ベルトで架橋することによって、各々の二次電池組立体101に上記拘束圧を付与してよい。この場合、各々の二次電池組立体101に対して均一に拘束圧を付与する観点から、拘束体180と拘束体180との間に、バネ等の弾性体を配置するとよい。
【0041】
第2工程S3では、第1工程S2の後に、捲回電極体20の温度を50℃以下にして、この状態を少なくとも72時間維持する。詳しくは後述するが、本工程を行うことによって、第1工程S2で発生したガスを捲回電極体20外に十分放出することができる。第2工程S3における二次電池組立体の充電深度は、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。上記充電深度は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。上記充電深度は、例えば10%~15%であることが好ましい。なお、本工程において好適な充電深度とするために、第1工程S2の後の二次電池組立体を放電してもよく、放電しなくてもよい。
【0042】
第2工程S3における温度条件は、上記範囲内で適宜設定され得る。上記温度条件は、45℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。また、上記温度条件は、例えば0℃以上であり、5℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましい。なお、第1工程S2の後、二次電池組立体の温度が50℃を超えた場合、その温度が120秒を超えて維持されないことが好ましい。
【0043】
第2工程S3における二次電池組立体の維持時間(放置時間)は、上記範囲内で適宜設定され得る。上記維持時間は、例えば72時間以上であり、144時間以上とすることが好ましく、200時間以上としてもよい。上記維持時間の上限値は特に限定されないが、ここで開示される技術の効果を効率よく得る観点から、例えば336時間以下、あるいは300時間以下としてもよい。いくつかの態様において、二次電池組立体を拘束しない場合は、ここで開示される技術の効果をよりよく得る観点から、上記維持時間を144時間以上とすることが好ましい。
【0044】
この製造方法は、さらに第3工程S4および第4工程S5を有し得る。第3工程S4では、第2工程S3の後、二次電池組立体に対して充電を行う。本工程では、上記充放電手段を用いて、第2工程S3の後の二次電池組立体の充電深度が所望の範囲内となるように充電する。上記充電深度は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。一方、上記充電深度は、50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。また、初期充電の温度条件は、45℃以下であることが好ましく、15℃~35℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることがさらに好ましい。上記充電のための充電レートは特に限定されず、適宜設定し得るが、例えば1C以下とすることができる。なお、上記のように二次電池組立体を拘束している場合は、本工程の開始時に解除しておくとよい。
【0045】
第4工程S5では、第3工程S4後の二次電池組立体に対して高温でのエージングを行う。高温エージングは、充電状態を維持しながら、二次電池組立体を高温環境で保持する処理である。ここでは、第3工程S4後の二次電池組立体を、その充電深度のまま高温環境に配置し、高温エージングを開始する。高温エージングにおける温度は、特に限定されず、例えば50℃より高くてよく、55℃以上であってよく、また、80℃以下とするとよく、70℃以下としてもよい。上述のとおり、ここで開示される製造方法を実施することによって、使用可能状態の非水電解液二次電池を製造することができる。
【0046】
ここで開示される技術の効果が実現されるメカニズムに関する本発明者らの考察を、図5、9を参照しつつ、説明する。ただし、上記効果のカニズムを下記のものに限定する意図ではない。初期充電の後、第2工程S3において、少なくとも72時間、二次電池組立体を50℃以下の非高温状態のまま維持すると、この間に、第1工程S2の初期充電で発生したガスGがセパレータ26と負極活物質層24aとの間から移動し、やがて捲回電極体外に放出される。次いで、非高温状態において、被膜成分の供与体としての非水電解液成分が負極活物質と反応して分解し、ガスGが存在して良質被膜が形成されていない部分(良質被膜非形成部)(図5参照)に、良質な被膜3aが追加的に形成される(図9参照)。そのため、第4工程S5において二次電池組立体を高温状態に置いても、非水電解液成分と負極活物質とが高温によって急速に反応することが抑制される。これによって、負極板における非良質な被膜(黒色領域)の形成が抑制される。
【0047】
ここで開示される製造方法を実施することによって、黒色領域の形成が抑制された非水電解液二次電池を提供することができる。黒色領域の形成抑制効果は、例えば高温エージング後の捲回電極体を解体し、負極板を目視で観察することによって評価することができる。また、負極板における上記巻き始め端部領域の平均極板抵抗Raveと最大極板抵抗Rmaxとを測定し、これらの比(Rmax/Rave)を算出することによって、上記効果を評価することができる。比(Rmax/Rave)が2.7以下(好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下)であるとき、上記効果有りと評価し得る。特に限定するものではないが、比(Rmax/Rave)の下限値は概ね1.0以上であり得る。平均極板抵抗Raveおよび最大極板抵抗Rmaxの算出方法の一例は、下記実施例に記載のとおりである。
【0048】
あるいは、上記効果は、上記巻き始め端部領域における黒色領域の形成面積を測定することによって、評価することができる。例えば、まず、市販の画像取得装置(例えばカメラ等)を用いて上記巻き始め端部領域の画像を取得する。次いで、市販のイメージ解析ソフトを用いて、黒色領域の形成面積を測定する。そして、上記巻き始め端部領域の面積を100%としたときの黒色領域の形成面積の割合(%)を算出する。黒色領域形成の判断基準は、例えば充放電実施前の電極表面と実施後の電極表面(ともに電解液での洗浄後)の画像データを二値化で比較し、局所に変色部が確認されるかどうかで判定を行う。また同時に抽出された該当部分に対し、局所抵抗値が増大している場合、同種の変色を黒色領域と判断する。上記割合が例えば3.0%以下(好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下)である場合に、上記効果ありと評価し得る。
【0049】
あるいは、上記巻き始め端部領域を1cm×1cmの区画に分けて、黒色領域形成区画数をカウントして評価を行ってもよい。例えば、上記イメージ解析ソフトを用いて、各区画について黒色領域の有無を判断する。そして、黒色領域の形成区画数をカウントし、比(黒色領域形成区画数/総区画数)を算出する。当該比が例えば0.3以下(好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下)である場合に、上記効果ありと評価し得る。なお、この評価方法における黒色領域形成の判断基準は、上記のとおりである。
【0050】
[試験例]
以下、本発明に関する試験例を説明する。なお、以下に記載する試験例の内容は、本発明を限定することを意図したものではない。
【0051】
―組立工程-
正極活物質としてのリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物(NCM)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)とを、質量比がNCM:PVdF:AB=98:1:1となるように秤量し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)中で混合して、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、長尺な帯状の正極芯体(アルミニウム箔、厚み18μm)の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定のサイズに切り取り、ロールプレスで圧延することにより、正極芯体の両面に正極活物質層を備えた正極板を得た。なお、正極活物質層の密度は3.4g/cmであり、厚みは片面110μmであった。また、正極板の長手方向の長さは72mであり、幅方向の長さは242mmであった。
【0052】
負極活物質としての黒鉛粉末(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、質量比がC:SBR:CMC=98:1:1となるように秤量し、水中で混合して、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを長尺な帯状の負極芯体(銅箔、12μm)の両面に塗布し、乾燥させた。これを所定のサイズに切り取り、ロールプレスで圧延することにより、負極芯体の両面に負極活物質層を備えた負極板を得た。なお、負極活物質層の密度は1.4g/cmであり、厚みは片面200μmであった。また、正極板の長手方向の長さは80mであり、幅方向の長さは252mmであった。
【0053】
次に、上記作製した正極板と負極板とを、セパレータ(セパレータシート)を介して対向させて積層した。これをシート長手方向に捲回することにより、図4に示すような捲回電極体を作製した。なお、上記セパレータは、ポリオレフィン製の多孔質層からなる基材と、アルミナおよび樹脂バインダを含む耐熱層を備えていた。上記基材の厚みは16μmであり、上記耐熱層の厚みは4μmであった。また、耐熱層は、上記正極板側の面に形成されていた。また、セパレータの長手方向の長さは82mであり、幅方向の長さは260mmであった。
【0054】
上記のとおり作製した捲回電極体の寸法関係については、以下のとおり:
W:8mm;
L1:260mm;および、
H:82mm、
であった。なお、各符号は、図3に記載のとおりである。具体的には、Wは、捲回電極体20の厚みである。L1は、捲回電極体20の幅である。Hは、捲回電極体20の高さである。
【0055】
次いで、正極集電体および負極集電体を介して、捲回電極体と電池ケースの蓋体とを接続した。これをケース本体に挿入し、該ケース本体と蓋体とを溶接した。次いで、電池ケース(封口板)の注液孔から非水電解液を注入した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=30:40:30の体積比(25℃、1atm)で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1mol/L、および添加剤(被膜形成剤)としてのビニレンカーボネート(VC)を0.3重量%の濃度で溶解させたものを用いた。このようにして、試験用二次電池組立体を構築した。
【0056】
(例1)
-第1工程-
上記のとおり電池ケース内に非水電解液を注液した後、封口板の注液孔を開放した状態で(封止せずに)、25℃、窒素雰囲気、および1atmの環境下で、初期充電を行った。上記初期充電では、0.3Cの電流で、試験用二次電池組立体の規定容量に対してSOCが15%となるまで充電を行った。
【0057】
-第2工程-
試験用二次電池組立体を、封口板の注液孔を開放した状態で(封止せずに)、25℃、窒素雰囲気、および1atmの環境下で72時間放置した。
【0058】
-第3工程-
次いで、封口板の注液孔を封止部材により封止し、電池ケースを密閉した。そして、0.5Cの電流で、試験用二次電池組立体の規定容量に対してSOCが35%となるまで充電を行った。
【0059】
-第4工程-
次いで、試験用二次電池組立体を60℃の環境下に置いて、15時間放置した。このようにして、例1に係る試験用二次電池を用意した。
【0060】
(例2,3)
第2工程における放置時間を表1の該当欄に記載した期間としたこと以外は、例1と同様の手順で上記第1工程から上記第4工程の各工程を実施し、各例に係る試験用二次電池を用意した。
【0061】
(例4~6)
第1工程の後、試験用二次電池組立体の拘束を行った。具体的には、図8に示すような一対の拘束板で試験用二次電池組立体を厚み方向両側から拘束した。この時の拘束圧は、6kNであった。第2工程において、試験用二次電池組立体を表1の該当欄に記載した期間放置した。第2工程の後、試験用二次電池組立体の拘束を解除した。これら以外は、例1と同様の手順で上記第1工程から上記第4工程の各工程を実施し、各例に係る試験用二次電池を用意した。
【0062】
(例7)
上記第1工程の後、上記第2工程を実施しなかった。それ以外は、例1と同様の手順で上記第3工程および上記第4工程を実施し、本例に係る試験用二次電池を用意した。なお、表1の「第2工程」欄中に記載の「-」は、該工程の不実施を示している。
【0063】
<黒色領域形成の評価>
上記のように用意した例1~7に係る試験用二次電池を、0.5Cの電流で、該試験用二次電池の規定容量に対して充電深度が0%となるまで放電を行った。次いで、各例の試験用二次電池を解体して、負極板を洗浄液(ジメチルカーボネート(DMC)、100vol%)で洗浄し、乾燥させた。乾燥後の負極板について、目視で黒色化している箇所の有無を確認した。解体した負極板について、捲回の半周分を1T(ターン)とした。負極板の全35T中で、目視にて黒色領域の形成が認められたターン数を表1の「黒色領域(負極板の全35T中)」欄に示す。なお、表1の該当欄中、「-」は、黒色領域の形成が認められなかったことを示している。
【0064】
<負極板の極板抵抗測定>
上記のように黒色領域の有無を確認した負極板について、交流インピーダンス測定法を用いて極板表面の抵抗値を測定した。そして、得られたCole-Coleプロット(ナイキスト・プロット)に、等価回路をフィッティングさせることによって、抵抗値(Ω)を算出した。測定は、電気化学インピーダンス装置(Solartron Metrology社製、「Solartron 1250E)を用いた2端子法にて行った。まず、負極板における巻き始め端部領域(ここでは、負極板における巻き始め端部から該負極板の長手方向における他方の端部に所定の長さ向かった領域)をカットし、測定用試料として使用した。この測定試料を1cm×1cmの区画に分けて、上記測定装置を用いて各区画の抵抗値を算出した。このように得られた各区画の抵抗値の平均値を算出して平均極板抵抗Raveを得た。また、得られた各区画の抵抗値における最大値を最大極板抵抗Rmaxとした。そして、比(Rmax/Rave)を算出した。結果を表1の該当欄に示す。
【0065】
<容量維持率の測定>
上記第4工程後の試験用二次電池について、0.5Cの電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電を行った。次いで、0.5Cの電流で電池電圧が4.1Vとなるまで充電を行った。次いで、0.5Cの電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電を行った。この時の試験用二次電池の容量を初期容量として規定した。初期容量測定後の試験用二次電池について、0.3Cの電流で3.0V-4.1V間の充放電を500サイクル行った。当該500サイクル後の電池容量を取得し、この値を耐久後容量とした。そして、上記初期容量と上記耐久後容量を用いて、下記式(1):
容量維持率(%)=耐久後容量/初期容量×100 (1)
に基づいて、サイクル試験における容量維持率(%)を算出した。結果を表1の該当欄に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示されるように、例1~6と例7とを比較すると、第1工程における初期充電後に第2工程における少なくとも72時間の放置を実施することによって、負極板における黒色領域の形成を抑制できることが確認された。また、第2工程の実施によって、比(Rmax/Rave)が2.7以下であり、負極板における抵抗ムラの発生が抑制されることが確認された。さらに、第2工程の実施によって、電池性能(ここでは容量維持率)の低下が抑制されることが確認された。例1~3の結果と例4~6の結果とを比較すると、二次電池組立体を拘束した状態で第2工程を実施することによって、黒色領域の形成抑制効果が高まり得ることが確認された。さらに、第2工程における放置時間を長くすることによって、黒色領域の形成抑制効果がより高まり得ることが確認された。
【0068】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、図8に示すように、一対の拘束治具80を、電池ケース10(外装体12)の一対の大面積側壁12b(図1参照)の全体に対向するように配置している。しかし、少なくとも捲回電極体20の中央部201に所定の拘束圧が付与されていればよく、これが実現される限り、拘束治具の形状、寸法等は限定されない。図10に示すように、二次電池組立体101を、電池ケース10の奥行方向X(即ち、捲回電極体20の厚み方向(図3等参照))において、捲回電極体20の中央部201に所定の拘束圧を付与できるように、一対の拘束治具82で挟み込むとよい。このようにして、二次電池組立体101および一対の拘束治具82からなる拘束体280を構築する。
【0069】
拘束治具82を用いると、捲回電極体20の中央部201に所定の拘束圧を付与するが、端部202および端部203に拘束圧を付与しない。中央部201に対して選択的に拘束圧を付与することによって、中央部201からのガス放出を促進することができる。なお、第2実施形態に係る製造方法は、拘束治具82を使用する点を除いて、第1実施形態に係る製造方法と同様であってよい。
【0070】
<第3実施形態>
あるいは、他の例として、図11に示す拘束治具83を使用することもできる。図11に示すように、二次電池組立体101を、電池ケース10の奥行方向X(即ち、捲回電極体20の厚み方向(図3等参照))において、一対の拘束治具83で挟み込むとよい。このようにして、二次電池組立体101および一対の拘束治具83からなる拘束体380を構築する。
【0071】
ここで、拘束治具83は、平坦な幅広面83aと、幅広面83aに対向する湾曲面83bとを有している。湾曲面83bは、電池ケース10の大面積側壁12bに対向しており、大面積側壁12bに向かって湾曲している。湾曲面83bの湾曲頂点83tを含む拘束部831は、大面積側壁12bと接している。ここで、湾曲頂点83tの位置および拘束部831の幅方向Yにおける長さは特に限定されず、拘束によって捲回電極体20の中央部201に所定の拘束圧が付与されるように適宜設定することができる。湾曲面83bにおける、拘束部831を除く他の部分は、大面積側壁12bと接していない。
【0072】
拘束治具83を用いると、捲回電極体20の中央部201に所定の拘束圧を付与するが、端部202および端部203に拘束圧を付与しない。中央部201に対して選択的に拘束圧を付与することによって、中央部201からのガス放出を促進することができる。なお、第3実施形態に係る製造方法は、拘束治具83を使用する点を除いて、第1実施形態に係る製造方法と同様であってよい。
【0073】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。ここで開示される技術には上記の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0074】
10 電池ケース
12 外装体
14 封口板(蓋体)
15 注液孔
16 封止部材
17 ガス排出弁
20 捲回電極体
22 正極板
23 正極タブ群
24 負極板
25 負極タブ群
26 セパレータ
30 正極端子
40 負極端子
50 正極集電体
60 負極集電体
70 電極体ホルダ
80、82、83 拘束治具
100 非水電解液二次電池
101 二次電池組立体
180、280、380 拘束体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11