(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】車両安全装置のガス発生器用イニシエータ
(51)【国際特許分類】
B60R 21/264 20060101AFI20230804BHJP
B01J 7/00 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
B60R21/264
B01J7/00 A
(21)【出願番号】P 2022048514
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2022-03-24
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598122843
【氏名又は名称】オートリブ エー・エス・ピー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100098143
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】ペレマルティ・フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】ハバード・ライアン マーク
(72)【発明者】
【氏名】ウェイメント、メイソン
(72)【発明者】
【氏名】ガイモン・ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】カーヴァー・ポール ロバート
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-166496(JP,A)
【文献】特開2003-285712(JP,A)
【文献】特開2007-225160(JP,A)
【文献】米国特許第10760880(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0083576(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0320735(US,A1)
【文献】米国特許第05844164(US,A)
【文献】米国特許第6412817(US,B2)
【文献】特開2010-260388(JP,A)
【文献】米国特許第05951042(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/264
B01J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両安全装置のガス発生器用のイニシエータであって、
カップと、
前記カップの内部に配置された一次火工材料と、
前記カップの内部に配置された二次火工材料と、
前記一次火工材料を前記二次火工材料から密閉分離する分離部材と、
前記カップの内部に少なくとも部分的に配置され、前記一次火工材料を収容する空洞を有するアダプタとを備え、
前記空洞が前記分離部材によって閉じられることを特徴とするイニシエータ。
【請求項2】
前記アダプタと前記分離部材が別体として形成されていることを特徴とする請求項1に記載のイニシエータ。
【請求項3】
前記分離部材が、前記一次火工材料の点火に応答して開くように構成された弱化ゾーンを含む、請求項1又は2に記載のイニシエータ。
【請求項4】
前記分離部材が、金属から構築されている、請求項1、2又は3に記載のイニシエータ。
【請求項5】
前記分離部材が、前記弱化ゾーンを含む円盤形状部分を含む、請求項3に記載のイニシエータ。
【請求項6】
前記分離部材が、円盤形状部分から延びる円筒形側壁を含み、前記円筒形側壁が、前記アダプタの一部分の外周を取り囲む、請求項1乃至5の何れか1項に記載のイニシエータ。
【請求項7】
前記アダプタが、前記一次火工材料を収容する第1の部分を含む中央開口部を含む、請求項1乃至
6の何れか1項に記載のイニシエータ。
【請求項8】
前記イニシエータが、第1の電気コネクタと、第2の電気コネクタとを更に備え、前記第1の電気コネクタ及び前記第2の電気コネクタが、前記アダプタの前記中央開口部内に延び、反応して前記一次火工材料との連通を開始する、請求項
7に記載のイニシエータ。
【請求項9】
前記アダプタ、前記カップ、及び前記分離部材がそれぞれ、金属から構築されている、請求項1乃至
8の何れか1項に記載のイニシエータ。
【請求項10】
前記カップが、前記アダプタに溶接されており、前記分離部材が、前記アダプタに溶接されている、請求項
9に記載のイニシエータ。
【請求項11】
前記アダプタが、円筒形の形状を有し、前記カップが、前記アダプタの第1の軸方向端近接の前記アダプタに溶接されており、前記分離部材が、前記アダプタの第2の軸方向端近接の前記アダプタに溶接されている、請求項
10に記載のイニシエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、膨張可能なエアバッグ及びプリテンション式シートベルトなどの車両安全装置のガス発生器用のイニシエータに関する。特に、本開示は、二次火工材料(pyrotechnic material)から密閉分離された一次火工材料を有する、ガス発生器用のイニシエータに関する。
【背景技術】
【0002】
この項は、本開示に関する背景技術情報を提供し、背景技術情報は、必ずしも先行技術ではない。
【0003】
エアバッグを含む膨張可能な乗員拘束システムは、通常、受動的な乗員保護のために自動車に含まれる。正面衝撃保護に使用されるエアバッグは、一般に、運転者のために車両ステアリングホイール内に設置されており、他の前座席乗員のために車両計器パネルの後ろに設置されている。正面衝撃保護に加えて、膨張可能な拘束装置は、側面衝撃からの乗員保護のために使用される。例えば、サイドカーテンエアバッグは、典型的には、車両のルーフレールに沿って装着されており、下向き方向に展開して、乗員の頭部及び上部胴体と車室構成要素との間にエネルギー吸収構造を提供する。サイドエアバッグはまた、車両シートに搭載され得る。
【0004】
インフレータ装置は、衝突の事象において膨張可能なエアバッグを膨張させるための膨張ガスを生成又は供給するために採用されている。このような用途のためのインフレータ装置は、しばしば、インフレータ装置のハウジング内に保管されたガス発生材料(gas generant material)と、車両内のセンサが事故状態を感知した(例えば、異常な減速を測定した)ときにガス発生材料を作動させるためのイニシエータとを含む。ガス発生材料の作動は、エアバッグの膨張を生成されたガスで数ミリ秒以内にトリガする。膨張したエアバッグは、車両の乗員を衝撃力から保護する。イニシエータはまた、シートベルトのプリテンションのために使用される。
【0005】
イニシエータは、通常、第1の又は一次火工材料と、第2の又は二次火工材料とを有し得る。一次火工材料は、電気信号によって点火され、次いで、二次火工材料を点火する。二次火工材料の燃焼からの熱は、インフレータ装置のガス発生材料を点火して、エアバッグのための膨張ガスを生成する。
【0006】
膨張可能な乗員拘束装置用の既知のイニシエータは、一般に、これらのイニシエータの意図された使用に好適であることが判明しているが、関連技術における改善の必要性が継続してある。これらの点については、一次火工材料と二次火工材料との間の化学的不適合性(chemical incompatibility)から生じ得るイニシエータの性能変化を排除する又は最小にすることが望ましい。
【発明の概要】
【0007】
この項は、本開示の概要を提供し、本開示の全範囲又は本開示の特徴の全ての包括的な開示ではない。
【0008】
本教示の1つの全般的な目的は、一次火工材料を二次火工材料から密閉分離する、車両安全装置のガス発生器用のイニシエータを提供することである。
【0009】
1つの特定の態様によれば、本教示は、車両安全装置のガス発生器用のイニシエータを提供し、イニシエータは、内部を画定するカップと、カップの内部に配置された一次火工材料と、カップの内部に配置された二次火工材料とを含む。分離部材は、一次火工材料を二次火工材料から密閉分離する。
【0010】
別の特定の態様によれば、本教示は、車両安全装置のガス発生器用のイニシエータを提供する。イニシエータは、カップと、ベース部材と、分離部材とを含む。カップは、内部を画定し、閉端、開端、及び閉端と開端との間で延びる円筒形側壁を含む。ベース部材は、カップ内に少なくとも部分的に配置されている。ベース部材は、軸方向に延びる開口部を含み、軸方向に延びる開口部は、第1の火工材料を収容する部分を有する。カップの円筒形側壁は、ベース部材の外周の周りでベース部材に取り付けられている。第2の火工材料は、カップの内部に配置されている。分離部材は、ベース部材に取り付けられており、軸方向に延びる開口部の1つの端を閉じて第1の火工材料を第2の火工材料から密閉分離する。
【0011】
利用可能性の更なる領域は、本明細書に提供されている説明から明らかになる。この概要における説明及び特定の例は、例示のためにのみが意図されており、本開示の範囲を限定することは意図されていない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書に示す図面は、全ての可能な実装形態ではなく、選択された実施形態を例示するためのみであり、本開示の範囲を限定することは意図されていない。
【0013】
【
図1】本教示による、車両乗員拘束装置のガス発生器用のイニシエータの側面図である。
【0014】
【
図2】本教示による、ガス発生器用のイニシエータの別の側面図であり、イニシエータは、イニシエータの軸を中心として90度回転されて図示されており、イニシエータの絶縁抵抗カバーは、図示のために、取り除かれて図示されている。
【0015】
【0016】
【
図4】図示のためにイニシエータから取り除かれた、イニシエータの分離部材の上面側面斜視図である。
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、1つ以上の例示的な実施形態について、添付の図面を参照してより十分に説明する。1つ以上の例示的な実施形態は、本開示の範囲が当業者に十分に伝わるように提供されている。特定の構成要素、装置、及び方法の例などの多数の具体的な詳細が、本開示の実施形態の十分な理解をもたらすために記載されている。具体的な詳細は採用される必要がないこと、及び例示的な実施形態は本開示の範囲を限定すると解釈されるべきではないことが、当業者には明らかである。周知のプロセス、周知の装置構造、及び周知の技術は、本明細書に詳細に記載されていない。
【0019】
「に接続された」、「に結合された」、及び「と連通する」という語句は、機械的な、電気的な、磁気的な、電磁的な、流体的な、及び熱的な相互作用を含む、2つ以上のエンティティ間の相互作用のいずれかの形態を指す。2つの構成要素は、2つの構成要素が互いに直接接触していなくても、互いに結合され得る。「隣接する」という用語は、ものが互いに物理的に近接するが、当該ものが必ずしも直接接触しなくてもよいことを指す。「流体連通」という語句は、2つの特徴が接続されており、これにより、一方の特徴内の流体が他方の特徴内へ通ることができることを指す。本明細書で使用される「例示的な」は、典型的又は代表的な例又は事例として機能することを意味し、特別又は好ましいことを必ずしも意味しない。
【0020】
図面を参照すると、本教示による、車両安全装置のガス発生器用のイニシエータが、図示されており、概して参照符号10で識別される。イニシエータ10は、例えば、ガス発生器及び膨張可能なエアバッグ(特に図示せず)を含む、自動車の乗員拘束システムの一部分であり得る。図示の特定のインフレータ又は火工インフレータ(pyrotechnical inflator)10は、乗員拘束システムの運転席側フロントエアバッグに特に適合されている。しかしながら、本明細書に記載のイニシエータは、多くの他の火工装置(pyrotechnical device)において本教示の範囲内で使用され得ることが理解されよう。しかしながら、本教示の様々な態様は、他のエアバッグ又はシートベルトプリテンショナとの使用に容易に適合され得ることが理解されよう。
【0021】
イニシエータ10は、一般に、カップ又はケース12と、第1の又は一次火工材料と、第2の又は二次火工材料16とを含んで図示されている。一次材料及び二次材料は、カップ12の内部18に配置又は保管されている。カップ12は、円筒形側壁20、及び円形ベースを含む。イニシエータ10の軸Aに沿って閉端22と開端24との間で延びる円筒形側壁20。カップ12は、金属から形成されてもよく、コールドストライキング(cold striking)によって形成されてもよい。1つの具体的な例では、カップ12は、DC04又はDC06などのニッケル化鋼(nickeled steel)のシートを打ち抜く(stamp)ことによって形成されてもよく、0.3~0.6mmの厚さを有してもよい。
【0022】
カップ12は、好ましくは、複数の弱化ゾーン26を含むように形成されている。以下でより十分に理解されるように、カップ12の弱化ゾーン26は、二次火工材料16の燃焼によって生じたカップ12内からの圧力に応答して開く。図示の実施形態では、側壁20は、軸Aを中心として均一に分配された4つの弱化ゾーン26を含む。複数の弱化ゾーン26の構成又は数は、本教示の範囲内で変更され得る。
【0023】
図示の実施形態では、第1の火工材料14は、二次火工材料16と異なる。一次火工材料14は、カップ12の内部18内で分離部材28によって二次火工材料16から分離され得る。一次火工材料14は、スラリーの形態であり得る。二次火工材料16は、ホウ素系材料を含むがこれらに限定されない粒状の材料であり得る。特定の火工材料は、本教示の範囲外であり、当技術分野で周知の様々な火工材料から選択されてもよいことが理解されよう。
【0024】
本教示のイニシエータ10は、アダプタ又はベース部材30を更に含み得る。アダプタ30は、第1の火工材料14を収容するように機能し、カップ12と分離部材28との間にインターフェースを提供するように機能する。アダプタ30は、ステンレス鋼又は他の好適な材料から形成され得る。1つの好適な材料は、タイプ304Lステンレス鋼である。アダプタ30は、円筒形の形状を有し、第1の又は下部分32と、第2の又は上部分34とを有する段付き構成を含む。第1の部分32は、第1の直径を有し、第2の部分34は、より小さい第2の直径を有する。
【0025】
アダプタ30は、カップ12内に少なくとも部分的に配置されている。図示のように、アダプタ30は、カップ12内に完全に又は実質的に完全に配置されている。アダプタ30は、カップ12の開端24内に受容されるサイズを有する。カップ12の円筒形側壁20は、アダプタ30の外周の周りでアダプタ30に取り付けられ得る。図示の実施形態では、アダプタ30の第1の部分32は、カップ12に溶接され得る。
【0026】
アダプタ30の第1の部分32は、点火装置38を受容する中央開口部36を画定する。点火装置38は、従来のように、一対の電気コネクタ又はピン40と、ブリッジワイヤ42とを含む。一対の電気ピン40は、反応してブリッジワイヤ42を介する第1の火工材料14との連通を開始する。この点については、ピン40に送達された電流は、ブリッジワイヤ42を溶融し第1の火工材料14を点火するように機能する。
【0027】
アダプタ30の第2の部分34は、中央空洞44を画定する。空洞44は、一次火工材料14を収容する。空洞は、分離部材28によって閉じられた開端を有する。分離部材28は、一次火工材料14を二次火工材料16から密閉分離する。本明細書で使用される場合、一次火工材料14と二次火工材料16との間の分離を説明する「密閉」という用語は、一次材料14及び二次材料16が互いから完全に封止されていることを意味する。一次火工材料14と二次火工材料16との間の密閉封止は、機械的分離を提供し、機械的分離は、さもなければイニシエータ10の性能を劣化又は変化させ得る、二次火工材料16から一次火工材料14の間の化学的不適合性を排除する又は実質的に排除する。
【0028】
図4及び
図5に特に示すように、分離部材28は、円筒形側壁46を含む。円筒形側壁48は、イニシエータ10の軸Aに沿って閉端48と開端50との間で延びる。閉端48は、円盤形状部分を画定する。分離部材28は、金属から形成されてもよく、コールドストライキングによって形成されてもよい。1つの特定の例では、分離部材28は、ステンレス鋼のシートを打ち抜くことによって形成され得る。分離部材28の円筒形側壁46は、アダプタ30の第2の部分34に溶接されてもよく、又はそうでなければ固定して取り付けられてもよい。分離部材28は、円筒形であるとして図示及び説明されているが、代替として、分離部材は、円盤のみの形状を有してもよい(すなわち、側壁46を含まない)。このような代替の形状では、分離部材28は、アダプタ30の第2の部分34の軸方向上端に溶接されてもよく、又はそうでなければ好適に取り付けられてもよい。
【0029】
分離部材28の閉端又は円盤形状部分48は、弱化ゾーン52を含むように形成され得る。打ち抜かれて円盤形状部分48になされ得る弱化ゾーン52は、第1の火工材料14の燃焼によって生じたアダプタ30の空洞44内の圧力に応答して開くように構成されている。図示の実施形態では、弱化ゾーン52は、半径方向に延びる複数のアーム54を含む。アーム54は、円盤形状部分48の半径方向中心における共通点56を起点として図示されている。弱化ゾーン52の構成は、本教示の範囲内で変更されてもよい。
【0030】
本教示のイニシエータ28は、絶縁抵抗カバー又は静電気カバー58と、エラストマーのオーバーモールド(overmolding又はovermolded)部材60とを更に含んで図示されている。これらの要素58及び要素60は、本発明が関わる範囲で従来のようであることが理解されよう。簡潔には、オーバーモールド部材60は、ガラス充填ナイロン6材料の射出成形金型であり得る。静電気カバー58は、ナイロン6又は他のプラスチック材料から構築され得る。
【0031】
使用中、電流は、点火装置38のピン40に送達される。電流は、ブリッジワイヤ42を溶融し、ブリッジワイヤ42は、次いで、一次火工材料14を点火する。一次火工材料14の点火は、アダプタ30のチャンバ44内に圧力を引き起こし、圧力は、分離部材28の弱化ゾーン52を開く。一次火工材料14の点火からの熱は、開いた弱化ゾーンを介して排出され、二次火工材料16を点火する。二次火工材料16の燃焼からの圧力は、カップ12の弱化ゾーン26を開く。
【0032】
本開示の特定の実施形態及び用途が、図示及び説明されているが、本発明は、本明細書に開示の正確な構成及び構成要素に限定されないことが理解されよう。当業者には明らかである様々な修正形態、変更形態、及び変形形態が、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、本開示の方法及びシステムの配置、動作、及び詳細においてなされてもよい。