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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】イオン生成装置およびイオン注入装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/317 20060101AFI20230804BHJP
   H01J 37/08 20060101ALI20230804BHJP
【FI】
H01J37/317 Z
H01J37/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022196812
(22)【出願日】2022-12-09
(62)【分割の表示】P 2019049842の分割
【原出願日】2019-03-18
(65)【公開番号】P2023025239
(43)【公開日】2023-02-21
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000183196
【氏名又は名称】住友重機械イオンテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】越智 秀太
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-523562(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0270093(US,A1)
【文献】特表2016-522964(JP,A)
【文献】特開平8-264143(JP,A)
【文献】特表2010-509714(JP,A)
【文献】特開2007-123270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
H01J 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ生成空間を区画するアークチャンバと、
前記プラズマ生成空間に向けて熱電子を放出するカソードと、を備え、
前記アークチャンバは、イオンを引き出すためのスリットが設けられ、
前記プラズマ生成空間に露出する前記アークチャンバの内面は、高融点金属材料で構成される部分を含み、
前記カソードは、前記プラズマ生成空間に露出するカソードヘッドを有し、前記カソードヘッドは、前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料よりも高純度の高融点金属材料で構成されることを特徴とするイオン生成装置。
【請求項2】
前記プラズマ生成空間を挟んで前記カソードと対向するリペラーをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のイオン生成装置。
【請求項3】
前記リペラーは、前記プラズマ生成空間に露出するリペラーヘッドを有し、前記リペラーヘッドは、前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料よりも高純度の高融点金属材料で構成されることを特徴とする請求項2に記載のイオン生成装置。
【請求項4】
前記スリットは、前記カソードと前記リペラーが対向する軸方向に延在することを特徴とする請求項2または3に記載のイオン生成装置。
【請求項5】
前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料は、高融点金属元素の含有率が99.99重量%未満であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項6】
前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料は、高融点金属元素の含有率が99.95重量%未満であることを特徴とする請求項5に記載のイオン生成装置。
【請求項7】
前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料は、高融点金属元素の含有率が99.9重量%未満であることを特徴とする請求項6に記載のイオン生成装置。
【請求項8】
前記アークチャンバの前記内面を構成する高融点金属材料は、高融点金属元素の含有率が99.8重量%未満であることを特徴とする請求項7に記載のイオン生成装置。
【請求項9】
前記高融点金属材料は、タングステン、モリブデンおよびタンタルの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項10】
前記イオン生成装置は、硼素、リンまたは砒素の多価イオンを生成することを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載のイオン生成装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載のイオン生成装置と、
前記イオン生成装置から引き出されるイオンビームを1MeV以上のエネルギーに加速させるビーム加速装置と、
前記ビーム加速装置から出射されるイオンビームが被処理物に照射される注入処理室と、を備えることを特徴とするイオン注入装置。
【請求項12】
前記ビーム加速装置は、前記イオン生成装置から引き出されるイオンビームを4MeV以上のエネルギーに加速させることを特徴とする請求項11に記載のイオン注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン生成装置およびそれを含むイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程では、半導体の導電性を変化させる目的、半導体の結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウェハにイオンを注入する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。このようなイオン注入装置では、傍熱型のカソード構造と、アークチャンバとを備えたイオン生成装置によってイオンが生成される。生成されたイオンは、引出電極を通じてアークチャンバの外に引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-227688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ウェハ表面のより深い領域にイオン注入するために高エネルギーイオンビームの生成が求められることがある。高エネルギーイオンビームを生成するには、イオン生成装置にて多価イオンを生成し、多価イオンを直流加速機構や高周波加速機構(例えば線形加速機構)を利用して加速することが必要となる。イオン生成装置にて十分な量の多価イオンを生成する場合には、アーク電圧やアーク電流をより大きくする必要があり、アークチャンバの損耗やアークチャンバと引出電極の間の放電がより顕著となりうる。このような条件下では、アークチャンバの損耗による汚染物混入や、放電による装置の損傷等が問題となりうる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、より多くの多価イオンを生成する条件下での汚染物混入および放電による損傷を抑制しうるイオン生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様のイオン生成装置は、プラズマ生成空間を区画するアークチャンバと、プラズマ生成空間に向けて熱電子を放出するカソードと、プラズマ生成空間を挟んでカソードと対向するリペラーと、を備える。アークチャンバは、前面が開口する箱形の本体部と、本体部の前面に取り付けられ、イオンを引き出すためのフロントスリットが設けられるスリット部材とを有する。プラズマ生成空間に露出する本体部の内面が高融点金属材料で構成され、プラズマ生成空間に露出するスリット部材の内面がグラファイトで構成される。
【0007】
本発明の別の態様は、イオン注入装置である。このイオン注入装置は、ある態様のイオン生成装置と、イオン生成装置から引き出されるイオンビームを1MeV以上のエネルギーに加速させるビーム加速装置と、ビーム加速装置から出射されるイオンビームがウェハに照射される注入処理室と、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高純度の多価イオンを安定的に生成可能なイオン生成装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係るイオン注入装置の概略構成を示す上面図である。
図2】実施の形態に係るイオン生成装置の概略構成を示す断面図である。
図3】スリット部材の外面側の概略構成を示す平面図である。
図4】スリット部材の内面側の概略構成を示す平面図である。
図5】アークチャンバの概略構成を示す断面図である。
図6】アークチャンバの概略構成を示す断面図である。
図7】アークチャンバの概略構成を示す断面図である。
図8】スリット部材の固定方法を概略的に示す側面図である。
図9】スリット部材の固定方法を概略的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
図1は、実施の形態に係るイオン注入装置100の概略構成を示す上面図である。イオン注入装置100は、いわゆる高エネルギーイオン注入装置である。イオン注入装置100は、イオン生成装置10で発生させたイオンを引き出して加速することでイオンビームIBを生成し、イオンビームIBをビームラインに沿って被処理物(例えば基板またはウェハW)まで輸送し、被処理物にイオンを注入する。
【0013】
イオン注入装置100は、イオンを生成して質量分離するビーム生成ユニット12と、イオンビームIBをさらに加速して高エネルギーイオンビームにするビーム加速ユニット14と、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行うビーム偏向ユニット16と、分析された高エネルギーイオンビームをウェハWまで輸送するビーム輸送ユニット18と、輸送された高エネルギーイオンビームを半導体ウェハに注入する基板搬送処理ユニット20とを備える。
【0014】
ビーム生成ユニット12は、イオン生成装置10と、引出電極11と、質量分析装置22と、を有する。ビーム生成ユニット12では、イオン生成装置10から引出電極11を通してイオンが引き出されると同時に加速され、引出加速されたイオンビームは質量分析装置22により質量分析される。質量分析装置22は、質量分析磁石22a、質量分析スリット22bを有する。質量分析装置22による質量分析の結果、注入に必要なイオン種が選別され、選別されたイオン種のイオンビームは、次のビーム加速ユニット14に導かれる。
【0015】
ビーム加速ユニット14は、イオンビームの加速を行う複数の線形加速装置、すなわち、一つ以上の高周波共振器を備えている。ビーム加速ユニット14は、高周波(RF)電場の作用によりイオンを加速する高周波加速機構である。ビーム加速ユニット14は、基本的な複数段の高周波共振器を備える第1線形加速器15aと、高エネルギーイオン注入用の追加の複数段の高周波共振器を備える第2線形加速器15bとを備える。ビーム加速ユニット14により加速されたイオンビームは、ビーム偏向ユニット16により方向が変化させられる。
【0016】
ビーム加速ユニット14から出射される高エネルギーイオンビームは、ある範囲のエネルギー分布を持っている。このため、ビーム加速ユニット14の下流で高エネルギーのイオンビームを往復走査および平行化させてウェハに照射するためには、事前に高い精度のエネルギー分析と、軌道補正及びビームの収束/発散の調整を実施しておくことが必要となる。
【0017】
ビーム偏向ユニット16は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析、エネルギー分散の制御、軌道補正を行う。ビーム偏向ユニット16は、少なくとも二つの高精度偏向電磁石と、少なくとも一つのエネルギー幅制限スリットと、少なくとも一つのエネルギー分析スリットと、少なくとも一つの横収束機器とを備える。複数の偏向電磁石は、高エネルギーイオンビームのエネルギー分析と、イオン注入角度の精密な補正とを行うよう構成されている。
【0018】
ビーム偏向ユニット16は、エネルギー分析電磁石24と、エネルギー分散を抑制する横収束四重極レンズ26と、エネルギー分析スリット28と、ステアリング(イオンビームの軌道補正)を提供する偏向電磁石30とを有する。なお、エネルギー分析電磁石24は、エネルギーフィルタ電磁石(EFM)と呼ばれることもある。高エネルギーイオンビームは、ビーム偏向ユニット16によって方向転換され、ウェハWの方向へ向かう。
【0019】
ビーム輸送ユニット18は、ビーム偏向ユニット16から出たイオンビームIBを輸送するビームライン装置であり、収束/発散レンズ群から構成されるビーム整形器32と、ビーム走査器34と、ビーム平行化器36と、最終エネルギーフィルタ38(最終エネルギー分離スリットを含む)とを有する。ビーム輸送ユニット18の長さは、ビーム生成ユニット12とビーム加速ユニット14とを合計した長さに合わせて設計されており、ビーム偏向ユニット16で結ばれて、全体でU字状のレイアウトを形成する。
【0020】
ビーム輸送ユニット18の下流側の終端には、基板搬送処理ユニット20が設けられる。基板搬送処理ユニット20は、注入処理室42と、基板搬送部44とを含む。注入処理室42には、イオン注入中のウェハWを保持し、ウェハWをビーム走査方向と直角方向に動かすプラテン駆動装置40が設けられる。基板搬送部44には、イオン注入前のウェハWを注入処理室42に搬入し、イオン注入済のウェハWを注入処理室42から搬出するための搬送ロボットなどのウェハ搬送機構が設けられる。
【0021】
イオン生成装置10は、例えば、硼素(B)、リン(P)または砒素(As)の多価イオンを生成するよう構成される。ビーム加速ユニット14は、イオン生成装置10から引き出される多価イオンを加速させ、1MeV以上または4MeV以上の高エネルギーイオンビームを生成する。多価イオン(例えば2価、3価、4価以上)を加速させることで、1価のイオンを加速させる場合よりも効率的に高エネルギーイオンビームを生成できる。
【0022】
ビーム加速ユニット14は、図示するような二段式の線形加速装置ではなく、全体が一つの線形加速装置として構成されてもよいし、三段以上の線形加速装置に分かれて実装されてもよい。また、ビーム加速ユニット14が他の任意の形式の加速装置で構成されてもよく、例えば直流加速機構を備えてもよい。本実施の形態は、特定のイオン加速方式には限定されず、1MeV以上または4MeV以上の高エネルギーイオンビームを生成可能であれば任意のビーム加速装置を採用することができる。
【0023】
高エネルギーのイオン注入によれば、1MeV未満のエネルギーのイオン注入に比べてより高エネルギーで所望の不純物イオンがウェハ表面に打ち込まれるので、ウェハ表面のより深い領域(例えば深さ5μm以上)に所望の不純物を注入することができる。高エネルギーイオン注入の用途は、例えば、最新のイメージセンサ等の半導体デバイス製造におけるP型領域および/またはN型領域の形成である。
【0024】
本実施の形態に係るイオン生成装置10は、いわゆる傍熱型カソード(IHC;Indirecvtly Heated Cathode)を用いる形式であり、アークチャンバ内でアーク放電を発生させて多価イオンを生成する。多価イオンを生成するためには、原子からより多くの電子を剥ぎ取るためにアーク電圧やアーク電流を大きくする必要がある。このようなアーク条件では、アークチャンバ内部の損耗が激しくなり、アークチャンバの内壁を構成する部材の一部もイオン化されてアークチャンバの外部に引き出される可能性が高くなる。その結果、アークチャンバの構成部材が汚染物として混入したイオンビームIBがウェハWに注入され、ウェハWに形成される半導体素子の特性に影響を及ぼすおそれがある。
【0025】
また、アーク電圧やアーク電流が大きい条件下では、アークチャンバから引き出されるイオンの量が多くなり、アークチャンバと引出電極の間で放電が発生しやすくなる。放電の発生態様によってはアークチャンバが損傷するおそれがあり、放電や損傷が頻発する場合にはアークチャンバの寿命が短くなることから、頻繁に装置をメンテナンスする必要が生じる。そうすると、イオン注入装置100の稼働率が低下し、半導体デバイスの生産効率が低下してしまう。
【0026】
そこで、本実施の形態では、より多くの多価イオンを生成する場合であっても、イオンビームへの汚染物混入や放電によるアークチャンバの損傷を抑制しうるイオン生成装置を提供する。イオンビームへの汚染物混入を防ぐには、アークチャンバを構成する部材の純度を高めることが重要であり、汚染物抑制の観点では、高純度かつ高融点のグラファイトが適している。その一方で、グラファイトは、アークチャンバ内で生成されるプラズマにより損耗されやすい材料であり、また、プラズマと反応して生成される炭素化合物がイオン生成装置の構成部材の表面に堆積することで汚れを生じさせる。また、グラファイトは、高融点金属材料と比べて放電が発生しやすく、放電が発生したときに損傷しやすい。そこで、本実施の形態では、材料の特性の違いに基づいてグラファイトと高融点金属材料を適切に組み合わせることで、汚染物混入と放電による損傷を抑制しうるイオン生成装置を提供する。
【0027】
図2は、実施の形態に係るイオン生成装置10の概略構成を示す図である。イオン生成装置10は、傍熱型のイオン源であり、アークチャンバ50と、カソード56と、リペラー58と、各種電源を備える。
【0028】
イオン生成装置10の近傍には、アークチャンバ50のフロントスリット60を通じてイオンビームIBを引き出すための引出電極11が配置される。引出電極11は、サプレッション電極66と、グランド電極68とを備える。サプレッション電極66にはサプレッション電源64fが接続され、負のサプレッション電圧が印加される。グランド電極68は、グランド64gに接続される。
【0029】
アークチャンバ50は、略直方体の箱形状を有する。アークチャンバ50は、プラズマが生成されるプラズマ生成空間Sを区画する。図面において高濃度のプラズマが形成されるプラズマ形成領域Pを破線で模式的に示している。アークチャンバ50は、前面52gが開口する箱形の本体部52と、本体部52の前面52gに取り付けられるスリット部材54とを有する。スリット部材54には、イオンビームIBを引き出すためのフロントスリット60が設けられる。フロントスリット60は、カソード56からリペラー58に向かう方向(軸方向ともいう)に延びる細長い形状を有している。アークチャンバ50には、引出電源64dによってグランド64gに対して正の引出電圧が印加されている。
【0030】
本体部52は、背面壁52bと、第1側壁52cおよび第2側壁52dを含む四つの側壁とを有する。背面壁52bは、プラズマ生成空間Sを挟んでフロントスリット60と対向する位置に設けられ、軸方向に延在するように配置される。背面壁52bには、ソースガスを導入するためのガス導入口62が設けられている。第1側壁52cおよび第2側壁52dを含む四つの側壁は、本体部52の前面52gの矩形状の開口を規定するように設けられる。第1側壁52cおよび第2側壁52dは、軸方向に対向するように配置される。第1側壁52cは、軸方向に延在するカソード挿通口52eを有し、カソード挿通口52eにカソード56が配置される。第2側壁52dは、軸方向に延在するリペラー挿通口52fを有し、リペラー挿通口52fにリペラー58が配置される。
【0031】
本体部52は、プラズマ生成空間Sに露出する内面52aが高融点金属材料で構成され、例えば、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)などの高融点金属またはそれらの合金が用いられる。本体部52は、その全体が高融点金属材料で構成されてもよいし、内面52aのみが選択的に高融点金属材料で構成されてもよい。本体部52は、例えば、高融点(約3400℃)のタングステンで構成されることができる。本体部52に用いる高融点金属材料の純度は、他の部材(例えば、後述するカソード56)より低い標準純度であってもよく、例えば、高融点金属元素の含有率が99.99重量%未満である。本体部52に用いる材料の高融点金属元素の含有率の一例は、99.8重量%未満、99.9重量%未満または99.95重量%未満である。
【0032】
スリット部材54は、フロントスリット60が設けられる板状部材である。スリット部材54は、本体部52の前面52gの開口を塞ぐように前面52gに取り付けられる。スリット部材54は、プラズマ生成空間Sに露出する内面54aがグラファイトで構成され、アークチャンバ50の外側に露出する外面54bが高融点金属材料で構成される。スリット部材54は、グラファイトで構成される内側部材70と、高融点金属材料で構成される外側部材80とを有し、内側部材70と外側部材80とを重ね合わせた二重構造となっている。外側部材80は、本体部52と同様、標準純度の高融点金属材料で構成することができ、例えばタングステンで構成される。
【0033】
内側部材70は、プラズマ生成空間Sに露出する内面54aを有する。内側部材70は、フロントスリット60を形成するための内側開口72を有し、内側開口72の近傍ないし周囲においてアークチャンバ50の外側に向けて突出する突出部74を有する。突出部74の外面74bの厚み方向(アークチャンバ50の内側から外側に向かう方向)の位置は、スリット部材54(または外側部材80)の外面54bの厚み方向の位置と一致している。突出部74の内側にはスリット凹部76が形成されており、内側開口72の近傍において内側開口72の内面54aがプラズマ形成領域Pから離間するようにしている。内側部材70は、アークチャンバ50の内側から外側に向けて開口サイズが大きくなるように内側開口72の縁に設けられるテーパー面72aを有する。内側開口72の縁をテーパー状とすることにより、アークチャンバ50の内側から外側に向けて引き出されるイオンビームIBの流れを阻害しにくいフロントスリット60とすることができる。
【0034】
外側部材80は、アークチャンバ50の外側に露出する外面54bを有し、引出電極11(サプレッション電極66)と対向するように設けられる。外側部材80は、内側部材70の外側を被覆するカバーであり、機械的強度の低いグラファイト製の内側部材70を支持して強度を高める役割を有する。外側部材80は、フロントスリット60を形成するための外側開口82を有する。外側開口82の開口サイズは、内側開口72の開口サイズよりも大きい。外側開口82の開口サイズは、突出部74の外周74aのサイズよりも大きい。外側開口82の開口サイズは、突出部74の外周74aのサイズと同程度であってもよく、例えば、突出部74の外周74aに沿って外側開口82の縁が設けられるように外側開口82が構成される。
【0035】
外側部材80は、内側開口72を通るイオンビームIBの引き出しを阻害しないように構成されることが好ましい。具体的には、内側開口72のテーパー面72aをアークチャンバ50の外側に延長させた仮想面72bよりもフロントスリット60の中心60cから離れた位置に外側開口82の縁が位置するように外側部材80が構成されることが好ましい。その結果、フロントスリット60の開口形状を内側開口72のみによって規定することができ、アークチャンバ50から引き出されるイオンビームIBに対して外側部材80が露出しないようにできる。
【0036】
カソード56は、プラズマ生成空間Sに熱電子を放出する。カソード56は、カソード挿通口52eに挿通され、アークチャンバ50と電気的に絶縁された状態で固定される。カソード56は、フィラメント56aと、カソードヘッド56bと、サーマルブレイク56cと、サーマルリフレクタ56dとを有する。
【0037】
カソードヘッド56bは、中実の円柱状部材であり、その先端がプラズマ生成空間Sに露出している。サーマルブレイク56cは、カソードヘッド56bを支持する円筒状部材であり、アークチャンバ50の外部から内部に向けて軸方向に延在する。サーマルブレイク56cは、カソードヘッド56bの高温状態を維持するために熱絶縁性の高い形状を有することが望ましく、肉厚の薄い形状を有する。サーマルリフレクタ56dは、カソードヘッド56bおよびサーマルブレイク56cの外周を包囲するように設けられる円筒状部材である。サーマルリフレクタ56dは、高温状態となるカソードヘッド56bおよびサーマルブレイク56cからの輻射熱を反射し、カソードヘッド56bおよびサーマルブレイク56cの高温が維持されるようにする。フィラメント56aは、サーマルブレイク56cの内部においてカソードヘッド56bと対向するように配置される。
【0038】
フィラメント56aは、フィラメント電源64aで加熱され、先端に熱電子を発生させる。フィラメント56aで発生した1次熱電子は、カソード電源64bによるカソード電圧(例えば300~600V)で加速され、カソードヘッド56bに衝突し、その衝突により発生する熱でカソードヘッド56bを加熱する。加熱されたカソードヘッド56bは2次熱電子を発生させ、この2次熱電子が、アーク電源64cによってカソードヘッド56bとアークチャンバ50との間に印加されたアーク電圧(例えば70~150V)によって加速される。加速された2次熱電子は、ガス導入口62から導入されるソースガスを電離させ、多価イオンを含むプラズマを生成するために十分なエネルギーを持ったビーム電子としてプラズマ生成空間Sに放出される。プラズマ生成空間Sに放出されるビーム電子は、プラズマ生成空間Sに軸方向に印加される磁場Bに束縛され、磁場Bに沿って螺旋状に運動する。プラズマ生成空間Sにおいて電子を螺旋状に運動させることにより、電子の運動をプラズマ生成領域Pに制限してプラズマ生成効率を高めることができる。
【0039】
カソードヘッド56bは高融点金属材料で構成され、例えばタングステンで構成される。カソードヘッド56bは、標準純度よりも高純度の高融点金属材料で構成されてもよく、高融点金属元素の含有率が99.99重量%以上であってもよい。カソードヘッド56bに用いる材料の高融点金属元素の含有率の一例は、99.995重量%以上、99.9995重量%以上または99.9999重量%以上である。カソードヘッド56bは、高濃度のプラズマに曝されて損耗しやすい部材であり、イオンビームIBへの汚染物の混入の原因となりやすい部材である。カソードヘッド56bを構成する高融点金属材料の純度を高めることにより、カソードヘッド56bを構成する材料のプラズマ化によるイオンビームIBへの汚染物の混入の影響を軽減できる。なお、サーマルブレイク56cおよびサーマルリフレクタ56dの少なくとも一方は、標準純度の高融点金属材料で構成されてもよいし、カソードヘッド56bと同様に高純度の高融点金属材料で構成されてもよい。
【0040】
リペラー58は、アークチャンバ50内の電子を跳ね返し、プラズマ生成領域Pに電子を滞留させてプラズマ生成効率を高める。リペラー58は、リペラー挿通口52fに挿通され、アークチャンバ50と電気的に絶縁された状態で固定される。リペラー58とアークチャンバ50との間にはリペラー電源64eによってリペラー電圧(例えば120~200V)が印加されており、プラズマ生成領域Pに向けて電子を跳ね返すように構成される。
【0041】
リペラー58は、リペラーヘッド58aと、リペラー軸58bと、リペラー支持部58cとを有する。リペラーヘッド58aは、アークチャンバ50の内部に設けられ、プラズマ生成空間Sを挟んでカソードヘッド56bと軸方向に対向する位置に設けられる。リペラー支持部58cは、アークチャンバ50の外部に設けられ、図示しない支持構造に固定される。リペラー軸58bは、リペラー挿通口52fに挿通される円筒状部材であり、リペラーヘッド58aとリペラー支持部58cを接続する。例えば、リペラー軸58bに雌ねじが形成され、リペラーヘッド58aおよびリペラー支持部58cに雄ねじが形成され、リペラーヘッド58a、リペラー軸58bおよびリペラー支持部58cがねじ構造により互いに接続される。
【0042】
リペラーヘッド58aは、高融点金属材料で構成され、例えばタングステンで構成される。リペラーヘッド58aは、カソードヘッド56bと同様に高純度の高融点金属材料で構成されてよい。リペラーヘッド58aは、カソードヘッド56bと同様に高濃度のプラズマに曝されて損耗しやすい部材であるため、リペラーヘッド58aを構成する材料の純度を高めることにより、イオンビームIBへの汚染物の混入の影響を軽減できる。リペラーヘッド58aが高融点金属材料で構成される場合、リペラー軸58bがグラファイトで構成されることが好ましい。これにより、ねじ構造で接続されるリペラーヘッド58aとリペラー軸58bの焼き付きを防止できる。なお、リペラーヘッド58aは、グラファイトで構成されてもよい。
【0043】
図3は、スリット部材54の外面54b側の概略構成を示す平面図であり、フロントスリット60を引出電極11から見たときの正面図を示す。図3のA-A線断面が図2に相当する。外側部材80は、軸方向に長い略矩形の外形形状を有する。また、破線で示される内側部材70も軸方向に長い略矩形の外形形状を有する。フロントスリット60は、スリット部材54の中央に設けられ、軸方向に細長い略矩形の内側開口72により開口形状が規定される。突出部74の外周74aも略矩形であり、外側開口82の縁も略矩形である。外側部材80は、フロントスリット60の近傍ないし周囲の突出部74を除いて、内側部材70を完全に被覆するように構成される。したがって、外側部材80の外形サイズは、破線で示される内側部材70の外形サイズよりも大きい。外側部材80の外周には、外側部材80を固定するための外側係合部86a,86b,86c,86dが四箇所に設けられる。外側係合部86a~86dは、外側部材80の外周の二つの長辺に沿って二つずつ設けられている。
【0044】
図4は、スリット部材54の内面54a側の概略構成を示す平面図であり、フロントスリット60をプラズマ生成空間Sから見たときの背面図を示す。図4のA-A線断面が図2に相当する。内側部材70の内面54aには、カソード収容凹部78a、リペラー収容凹部78bおよび中央凹部78cが設けられる。カソード収容凹部78aは、カソード56と対向する位置に設けられ、リペラー収容凹部78bはリペラー58と対向する位置に設けられる。中央凹部78cは、フロントスリット60に沿って軸方向に延在し、カソード収容凹部78aとリペラー収容凹部78bの間を接続するように設けられる。カソード収容凹部78aおよびリペラー収容凹部78bのそれぞれは、カソード56およびリペラー58のそれぞれと対向する内面が平坦面または円筒状の曲面となるよう構成される。中央凹部78cは、プラズマ生成空間Sに露出する内面が略円筒状の曲面となるよう構成される。カソード収容凹部78a、リペラー収容凹部78bおよび中央凹部78cを設けることにより、高濃度のプラズマが生成されるプラズマ生成領域Pから内側部材70の内面54aまでの距離を大きくすることができ、内側部材70の内面54aの損耗を軽減できる。
【0045】
内側部材70の内面54aにはカソード外周凹部78dが設けられる。カソード外周凹部78dは、内側部材70の外周においてカソード56と対向する位置に設けられる。カソード外周凹部78dは、円筒状のカソード56に対応する円筒状の曲面で構成される。カソード外周凹部78dは、カソード56から離間してカソード56とスリット部材54の間の電気的絶縁を確保する。
【0046】
内側部材70の内面54aには内側係合部78p,78qが設けられる。内側係合部78p,78qは、アークチャンバ50の本体部52に設けられる本体側係合部と係合して本体部52に対する内側部材70の位置を規制する。内側係合部78p,78qは、内側部材70の内面54aに設けられる凹部であり、本体部52から突起する本体側係合部が挿入される。第1内側係合部78pは、カソード収容凹部78aの近傍に設けられ、第2内側係合部78qは、リペラー収容凹部78bの近傍に設けられている。第1内側係合部78pは、軸方向の大きさと、軸方向に直交する横方向の大きさとがほぼ同じとなるように形成されている。一方、第2内側係合部78qは、軸方向に長い形状となるように形成されており、軸方向の大きさが横方向の大きさよりも大きい。なお、第1内側係合部78pおよび第2内側係合部78qの形状は図示するものに限られず、本体側係合部と係合して位置を規制できる限りにおいて他の形状であってもよい。
【0047】
外側部材80には、内側部材収容凹部84、第1外周凹部88aおよび第2外周凹部88bが設けられる。内側部材収容凹部84は、内側部材70の外形に対応する大きさを有し、内側部材70を収容する。第1外周凹部88aは、外側部材80の外周においてカソード56と対向する位置に設けられ、円筒状のカソード56に対応する円筒状の曲面で構成される。第1外周凹部88aは、カソード56から離間してカソード56とスリット部材54の間の電気的絶縁を確保する。第2外周凹部88bは、外側部材80の外周においてリペラー58と対向する位置に設けられる。第2外周凹部88bは、第1外周凹部88aと同様の形状および大きさとなるよう構成されており、外側部材80が上下対称形状となるように構成される。したがって、外側部材80は、上下を反転させて使用することができ、第1外周凹部88aとリペラー58が対向し、第2外周凹部88bとカソード56が対向するように取り付けることも可能である。なお、第2外周凹部88bが外側部材80に設けられなくてもよい。第2外周凹部88bと対向しうるリペラー軸58bは、リペラーヘッド58aに比べて径方向の大きさが小さい(つまり、細い)ため、第2外周凹部88bを設けなくても、リペラー58とスリット部材54の間の電気的絶縁を十分に確保できる。
【0048】
図5は、アークチャンバ50の概略構成を示す断面図であり、フロントスリット60の中心60cにおける軸方向に直交する断面を示している。図5は、図4のC-C線断面に相当し、カソード56からリペラー58を見たときの断面を示す。図示されるように、リペラー58は、本体部52の前面52gから外側にはみ出すように配置されており、リペラー58の一部がスリット部材54と軸方向に重なっている。なお、カソード56も同様に本体部52の前面52gから外側にはみ出すように配置され、カソード56の一部がスリット部材54と軸方向に重なっている。突出部74は、内側開口72の周囲においてアークチャンバ50の外側に向けて突出しており、突出部74の内側にはスリット凹部76が設けられる。スリット凹部76は、カソード56およびリペラー58と軸方向に重ならないように、カソード56およびリペラー58から軸方向と直交する径方向に離間するように構成される。
【0049】
図6は、アークチャンバ50の概略構成を示す断面図であり、図4のD-D線断面に相当する。図6は、カソード収容凹部78aおよび第1内側係合部78pに対応する位置における軸方向に直交する断面を示している。図示されるように、カソード56は、本体部52の前面52gから外側にはみ出すように配置されており、カソード56の一部がカソード収容凹部78aの内側に配置される。また、本体部52には前面52gから突出する第1本体側係合部52pが設けられている。第1本体側係合部52pは、対応する第1内側係合部78pと係合して内側部材70の位置を規制する。
【0050】
図7は、アークチャンバ50の概略構成を示す断面図であり、図4のE-E線断面に相当する。図7は、リペラー収容凹部78bおよび第2内側係合部78qに対応する位置における軸方向に直交する断面を示している。図示されるように、リペラー58は、本体部52の前面52gから外側にはみ出すように配置されており、リペラー58の一部がリペラー収容凹部78bの内側に配置される。また、本体部52には前面52gから突出する第2本体側係合部52qが設けられている。第2本体側係合部52qは、対応する第2内側係合部78qと係合して内側部材70の位置を規制する。
【0051】
図8および図9は、スリット部材54の固定方法を概略的に示す側面図である。図8は、スリット部材54を本体部52から外した状態を示し、図9は、スリット部材54を本体部52に固定した状態を示す。アークチャンバ50は、構造体90に対して固定される。構造体90は、本体部52を収容して支持する収容凹部92と、スリット部材54を固定するための係止構造94a,94bとを備える。係止構造94a,94bは、外側部材80に設けられる外側係合部86a,86bと係合し、本体部52に向かって引く力を外側部材80に加えることによりスリット部材54を本体部52に対して固定する。第1係止構造94aは、第1外側係合部86aと係合する先端部を有する第1ロッド96aと、第1ロッド96aを支持する第1軸受部97aと、第1ロッド96aに引張力を加えるための第1バネ98aとを有する。第1ロッド96aは、第1軸受部97aを支点として長手方向および長手方向と直交する方向に変位可能となるよう構成され、ロッド96aの着脱時にアークチャンバ50から離れる方向およびアークチャンバ50に近づける方向に角度が可変となるように構成される。
【0052】
第2係止構造94bは、第1係止構造94aと同様に構成され、第2ロッド96b、第2軸受部97bおよび第2バネ98bを有する。第2係止構造94bは、第2外側係合部86bと係合してスリット部材54を本体部52に対して固定する。なお、構造体90には、図示しない第3係止構造および第4係止構造が設けられる。第3係止構造は、図3に示される第3外側係合部86cと係合し、第4係止構造は、図3に示される第4外側係合部86dと係合する。スリット部材54は、四つの係止構造により本体部52に向けて引っ張られ、本体部52に対して固定される。このとき、第1本体側係合部52pと第1内側係合部78pが係合し、第2本体側係合部52qと第2内側係合部78qが係合することにより、本体部52に対して内側部材70が正確に位置決めされる。
【0053】
つづいて、イオン生成装置10が奏する作用効果について説明する。本実施の形態によれば、スリット部材54の内面54aをグラファイトで構成し、フロントスリット60をグラファイトで構成される内側開口72により規定することで、イオンビームIBへの汚染物混入を最小化できる。スリット部材54の内面54aは、プラズマ生成領域Pにおける高濃度プラズマに曝される箇所であり、フロントスリット60から引き出されるイオンビームIBへの汚染物混入の寄与が最も大きい箇所と言える。このような箇所にグラファイトを用いることで、イオンビームIBへの汚染物混入を好適に抑制することができ、特に高融点金属材料自体の金属元素や高融点金属材料に微量に含まれる金属元素の混入を効果的に抑制できる。
【0054】
本実施の形態によれば、カソードヘッド56bおよびリペラーヘッド58aを高融点金属材料で構成することで、これらの部材をグラファイトで構成する場合と比較してプラズマによる損耗を軽減し、アークチャンバ50の内部に堆積しうる汚れを軽減できる。また、カソードヘッド56bおよびリペラーヘッド58aを構成する高融点金属材料の純度を高めることで、プラズマ生成領域Pにて生成されるプラズマへの汚染物混入を好適に抑制できる。また、プラズマによる損耗を受けにくい本体部52の内面52aを標準純度の高融点金属材料で構成することで、高純度化によるコスト増を抑制しつつ、プラズマ生成領域Pにて生成されるプラズマへの汚染物混入を好適に抑制できる。
【0055】
本実施の形態によれば、スリット部材54の外面54b側に高融点金属材料で構成される外側部材80のカバーを取り付けることで、スリット部材54と引出電極11の間で生じうる放電を抑制でき、また、放電による損傷を抑制できる。特に、内側開口72の周囲の突出部74の外面74bの露出面積をできるだけ小さくすることで、グラファイトが引出電極11に対して露出することによる放電および放電による損傷の抑制効果を高めることができる。また、外側部材80の外側開口82の縁を内側開口72のテーパー面72aおよび仮想面72bよりもフロントスリット60の中心60cから離れた位置に設けることで、フロントスリット60から引き出されるイオンビームIBへの外側部材80に起因する汚染物混入を抑制できる。
【0056】
本実施の形態によれば、内側部材70にカソード収容凹部78a、リペラー収容凹部78bおよび中央凹部78cを設けることで、内側部材70の外周の厚みを大きくして機械的強度を高めつつ、カソード56およびリペラー58をスリット部材54により近接して配置できる。その結果、カソード56とリペラー58に挟まれたプラズマ生成領域Pからフロントスリット60までの距離を短くし、プラズマ生成領域Pの中央付近でより多く生成される多価イオンの引出効率を高めることができる。これにより、より多くの多価イオンをイオン生成装置10の下流側に供給できる。また、多価イオンの供給量が同程度の条件であれば、本実施の形態の構成を採用することで、アーク電圧やアーク電流を相対的に小さくすることが可能となり、アークチャンバの損耗やアークチャンバと引出電極の間の放電を抑制できる。
【0057】
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。
【符号の説明】
【0058】
10…イオン生成装置、50…アークチャンバ、52…本体部、54…スリット部材、56…カソード、58…リペラー、60…フロントスリット、70…内側部材、80…外側部材、100…イオン注入装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9