IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東芝三菱電機産業システム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図1A
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図1B
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図2
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図3A
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図3B
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図4
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図5
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図6
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図7
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図8
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図9
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図10
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図11
  • 特許-ドライブシステム及び制御方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-03
(45)【発行日】2023-08-14
(54)【発明の名称】ドライブシステム及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/16 20160101AFI20230804BHJP
【FI】
H02P6/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022557710
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2021040116
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100207192
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 拓巳
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-120513(JP,A)
【文献】特開2000-324881(JP,A)
【文献】特開2012-19626(JP,A)
【文献】特開2015-149875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期電動機の起動段階の初期位相を基準にして回転子の位相を推定して得た第1位相を生成する第1位相推定部と、
回転する前記回転子の位相を、前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する第2位相推定部と、
前記同期電動機の動作状態を判定する状態判定部と、
前記同期電動機の動作状態の判定結果によって、前記第1位相と前記第2位相の何れかを用いて前記同期電動機の駆動を制御する駆動制御部と、
を備え、
前記第1位相推定部は、
前記初期位相と、前記同期電動機の起動処置の開始からの前記同期電動機の速度指令の積算の結果とに基づいて前記第1位相に係る初期位相指令を算出し、さらに
前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて、前記初期位相指令の値を補正した前記第1位相を生成する、
ドライブシステム。
【請求項3】
前記同期電動機は、励磁型同期電動機であり、
前記第1位相推定部は、
前記同期電動機の励磁による前記同期電動機の起動処置の開始から所定時間経過後に、位置検出器によって検出された前記回転子位置の検出結果を用いて前記第1位相の値を補正する、
請求項1に記載のドライブシステム。
【請求項4】
前記第1位相推定部は、
前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された前記回転子位置の検出結果から、実際の前記回転子位置に対する位相が前記第1位相よりも遅れていることを検出した場合には、前記第1位相の値を補正する、
請求項3に記載のドライブシステム。
【請求項5】
前記第1位相推定部は、
実際の前記回転子位置に対する位相が前記第1位相よりも遅れていることを検出した場合に、前記第1位相の補正値を用いて前記第1位相の値を減少させることによって前記第1位相の値を遅れ方向に補正する、
請求項4に記載のドライブシステム。
【請求項6】
前記第1位相推定部は、
実際の前記回転子位置に対する位相が前記第1位相よりも遅れていることを検出した場合に、前記検出後の前記同期電動機を駆動させるための制御量を、前記検出の前に前記同期電動機を駆動させた制御量よりも低減させた値に補正する、
請求項5に記載のドライブシステム。
【請求項7】
前記第1位相推定部が算出した前記第1位相を用いて前記同期電動機の起動処置がとられている間に、
前記第2位相推定部は、
前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する
請求項1に記載のドライブシステム。
【請求項8】
同期電動機の起動段階の初期位相を基準にして回転子の位相を推定して得た第1位相を生成し、
回転する前記回転子の位相を、前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成し、前記同期電動機の動作状態を判定し、前記同期電動機の動作状態の判定結果によって、前記第1位相と前記第2位相の何れかを用いて前記同期電動機の駆動を制御するステップと、
前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて値を補正した前記第1位相を生成するステップと
を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ドライブシステム及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
励磁型同期電動機(以下、単に同期電動機という。)の速度制御可能なドライブシステムは、同期電動機の停止時及び起動時の低速域における位相及び速度を推定することが困難な場合があり、起動時の低速域の制御で同期電動機を失速又は脱調させないことが要求される場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2009-27799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、同期電動機を失速させないで起動させることができるドライブシステム及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の一態様のドライブシステムは、第1位相推定部と、第2位相推定部と、状態判定部と、駆動制御部と、を備える。前記第1位相推定部は、同期電動機の起動段階の初期位相を基準にして回転子の位相を推定して得た第1位相を生成する。前記第2位相推定部は、回転する前記回転子の位相を、前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する。前記状態判定部は、前記同期電動機の動作状態を判定する。前記駆動制御部は、前記同期電動機の動作状態の判定結果によって、前記第1位相と前記第2位相の何れかを用いて前記同期電動機の駆動を制御する。前記第1位相推定部は、前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて前記第1位相を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】実施形態のドライブシステムの構成図。
図1B】実施形態の第2位相推定部の構成図。
図2】実施形態の位置検出器の配置を示す模式図。
図3A】実施形態の位置制御に用いる回転子位相と位置検出器の出力信号の関係を示す図。
図3B】実施形態の位置制御に用いる回転子座標を示す図。
図4】実施形態の起動時の初期磁極位置検出に係るタイミングチャート。
図5】実施形態の位置検出部が出力するポジション番号と位置の関係を示す図。
図6】実施形態の正常に起動する事例を示す図。
図7】実施形態の正常に起動しない事例を示す図。
図8図7に示した状態から動作状態を補正する第1事例を示す図。
図9図7図8に示した状態から動作状態を補正する第2事例を示す図。
図10】実施形態の同期電動機が起動した後の制御を説明するための図。
図11】変形例のドライブシステムの構成図。
図12】変形例のドライブシステムの起動時の制御を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のドライブシステム及び制御方法を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。
【0008】
図1Aは、実施形態のドライブシステム1の構成図である。図1Bは、実施形態の制御部10内の第2位相推定部12の構成図である。
【0009】
ドライブシステム1は、例えば、同期電動機2と、インバータ3と、励磁装置4と、計器用変圧器5と、制御部10とを備える。
【0010】
同期電動機2は、本体21と、位置検出器22(図2)とを備える。
同期電動機2は、例えば界磁巻線24が設けられている励磁型同期電動機である。
同期電動機2の本体21内に回転子21R(図2)、固定子巻線(不図示)と、界磁巻線24とが設けられている。同期電動機2は、例えば、U相V相W相の3相交流電力によって駆動される。同期電動機2の本体21の詳細な説明を省略するが、一般的な構造の励磁型同期電動機を適用してよい。
【0011】
図2から図3Bを参照して、実施形態の回転子21Rの位置検出について説明する。
図2は、実施形態の位置検出器22の配置を示す模式図である。図3Aは、実施形態の位置制御に用いる回転子位相と位置検出器22の出力信号の関係を示す図である。図3Bは、実施形態の位置制御に用いる回転子座標を示す図である。
【0012】
図2に示す模式図は、位置検出器22を軸方向から見た位置検出器22の位置を示す。
回転子21Rの軸には、軸とともに回転する位置検出器22用の回転体22Rが設けられている。位置検出器22は、回転体22Rの位置を検出することで回転子21Rの位置(回転子位置という。)を検出する。なお、位置検出器22の検出精度は、1周を数等分に分けた角度領域を識別しうる精度を有していればよい。
【0013】
例えば、位置検出器22は近接センサのスイッチ(近接スイッチという。)である。位置検出器22は、半円上の回転体22Rと、軸の周方向に120°ずらして配置された3つの近接スイッチを用いて、60°の分解能で回転子位置を検出する。例えば、1から6までの識別番号を用いて、この回転子位置を示す。位置検出器22は、検出した回転子位置を、1から6までの値を用いたポジション番号で示し、このポジション番号を位置情報として出力する。
【0014】
図3Aに、回転中に位置検出器22の3つの近接スイッチが夫々出力するPS1信号、PS2信号、及びPS3信号と、位置検出器22の検出結果との関係を、タイミングチャートにして示す。
【0015】
PS1信号、PS2信号、及びPS3信号は、duty比が50%の2値の信号である。近接スイッチが配置された位置により、上記の各信号の位相が互いに120°ずれている。位置検出器22は、PS1信号、PS2信号、及びPS3信号が示す論理値の組み合わせを変換して、例えば1から6の値で識別される位置情報を生成する。このように、位置検出器22は、一般的な位置制御用に利用されるロータリーエンコーダなどの位置センサの分解能に比べて低分解能に形成されている。なお、位置検出器22として、比較的高分解能のロータリーエンコーダの適用を制限するものではない。例えば、比較的高分解能のロータリーエンコーダによって検出された信号を低分解能な信号に変換すれば、位置検出器22と同様に扱うことができる。
【0016】
図3Bに、位置検出器22による検出結果の位置を、回転子座標を用いて示す。回転子座標は、直交するd軸とq軸とを有する。+q軸の方向を起点にして反時計回りに、1から6までの領域に区分されている。
【0017】
図1Aに戻り、ドライブシステム1の説明を続ける。
インバータ3は、複数の半導体スイッチング素子を含む電力変換器である。インバータ3は、直流電力を3相交流電力に変換して、同期電動機2に供給する。インバータ3の構成に制限はなく、一般的な構成を適用してよい。
【0018】
励磁装置4は、同期電動機2の界磁巻線24に所望の直流電力を供給する。
【0019】
計器用変圧器5は、インバータ3と同期電動機2とを繋ぐ各相の電線路に1次巻線が接続され、2次巻線に、各相の電圧に応じた電圧を出力する。
【0020】
制御部10は、第1位相推定部11と、第2位相推定部12と、駆動制御部13と、電圧積算部(状態推定部)14と、状態判定部15と、シーケンス制御部16とを備える。
なお、制御部10は、例えば、CPUなどのプロセッサを含み、プロセッサが所定のプログラムを実行することによって、第1位相推定部11と、第2位相推定部12と、駆動制御部13と、電圧積算部14と、状態判定部15と、シーケンス制御部16などの機能部の一部又は全部を実現してもよく、電気回路の組み合わせ(circuitry)によって上記を実現してもよい。制御部10は、内部に備える記憶部の記憶領域を利用して各データの転送処理、及び解析のための演算処理を、プロセッサによる所定のプログラムの実行によって実行してもよい。
【0021】
シーケンス制御部16は、所定のタイミングに、以下に示す各部を制御して、所望の動作を実行させる。その制御の詳細については後述する。
【0022】
第1位相推定部11は、同期電動機2の起動段階の実際の回転子位置に対応付けられた回転子座標系における初期位相を基準にして回転子21Rの位相を推定して得た第1位相θsを生成する。第1位相推定部11は、同期電動機2の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて前記第1位相を補正する。
【0023】
第2位相推定部12は、回転子21Rの位相を、同期電動機2の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する。前記状態判定部は、同期電動機2の動作状態を判定する。
【0024】
駆動制御部13は、同期電動機2の動作状態の判定結果によって、第1位相θsと前記第2位相の何れかを用いて同期電動機2の駆動を制御する。
【0025】
電圧積算部(状態推定部)14と、同期電動機2の相電圧を積算して検出値に基づいて、電圧ベクトルVuvw_fbkを演算し、さらに相電圧の振幅を示す指標の電圧値V_fbk^absを演算する。
【0026】
状態判定部15は、同期電動機2の動作状態を判定する。例えば、状態判定部15は、電圧値V_fbk^absと、後述する速度ω_fbkとに基づいて同期電動機2の動作状態を判定するとよい。
【0027】
以下、上記の各部のより具体的な構成例について説明する。
図1Bに示すように、第2位相推定部12は、例えば、座標変換部121と、PI演算部122と、積分器123とを備える。
【0028】
座標変換部121は、電圧積算部14によって生成された界磁電圧フィードバックVuvw_fbkに基づいて、第2位相θsyncを用いて界磁電圧フィードバックVdq_fbkを演算する。この演算は、例えば、3相信号を、回転子座標系の2相信号に変換するdq変換である。
【0029】
PI演算部122は、前述の界磁電圧フィードバックVdq_fbkのq軸成分の値(電圧Vq_fbk)に基づいて、所定の値の係数によって特性が規定される比例積分演算を実施する。
【0030】
例えば、PI演算部122は、演算ブロック122a、122b、122c、及び122dを備える。演算ブロック122aは、係数Kpを用いて、電圧Vq_fbkに対する比例演算を実施する。演算ブロック122bは、係数Kiを用いて、電圧Vq_fbkに対する比例演算を実施する。なお、係数Kiは、積分演算の係数として用いられる。演算ブロック122cは、演算ブロック122bの演算結果である、係数Kiと電圧Vq_fbkの積に対する積分演算を実施する。演算ブロック122dは、演算ブロック122aの比例演算の結果と、演算ブロック122cの積分演算の結果とを加算する。
【0031】
積分器123は、PI演算部122による比例積分演算の結果を積分して、第2位相θsyncを生成する。
【0032】
これにより、第2位相推定部12は、座標変換部121と、PI演算部122と、積分器123とを用いて、PLLを構成する。
【0033】
図1Aに示すように、第1位相推定部11は、例えば比例演算部111と、積分演算部112と、初期磁束位置推定部113と、加算演算部114と、初期位置指令生成部115と、加算演算部116とを備える。
【0034】
比例演算部111は、係数Kを用いて、速度指令ω_refに対する比例演算を実施する。
積分演算部112(積分)は、比例演算部111による比例演算の結果を積分して、位相Δθを生成する。位相Δθは、始動後に回転子21Rが回転した角度に相当する。
初期磁束位置推定部113は、界磁電圧フィードバックVdq_fbkに基づいて初期磁束位置θ_fbkを推定する。初期磁束位置推定部113は、次の式(1)を用いて初期磁束位置θ_fbkを演算する。
【0035】
θ_fbk = tan^-1 (Vd_fbk/Vq_fbk) ・・・(1)
【0036】
加算演算部114は、初期磁束位置θ_fbkに、位相のオフセット値θ_moを加算する。初期位置指令生成部115は、加算演算部114による演算結果に基づいて、初期位置指令θ0を生成する。加算演算部116は、初期位置指令生成部115によって生成された初期位置指令θ0に、積分演算部112によって生成された位相Δθを加算して、第1位相θsを生成する。この第1位相θsは、同期電動機2の起動段階に用いられる。
【0037】
上記の通り、第1位相θsは、回転子座標系における初期位相を基準にして回転子21Rの位相から推定される。第1位相推定部11は、同期電動機2の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて第1位相を補正する。同期電動機2の起動処置の開始とは、例えば、界磁巻線24に励磁電流を流し始めたことをいう。
【0038】
図1Aに示すように、駆動制御部13は、例えば速度制御部132と、電流制御部134と、GP制御部135と、切替部136とを備える。
【0039】
速度制御部132は、速度指令ω_refに基づいて、推定速度ω_fbkが速度指令ω_refに一致するような電流指令を生成する。電流制御部134は、電流指令に基づいて、推定電流が電流指令に一致するような電圧指令Euvw_refを生成する。GP制御部135は、電圧指令Euvw_refと、位相θとに基づいて、ゲートパルスを生成する。例えば、GP制御部135は、電圧指令Euvw_refを係数にして、位相θの正弦値を用いて、UVWの各相の正弦波を生成する。GP制御部135は、UVWの各相の正弦波を、三角波のキャリア信号を用いたPWM変調によって、各相のゲートパルスを生成する。なお、GP制御部135による各相のゲートパルスの生成は、上記の手法に制限されず、これに換えて一般的な手法を適用できる。
【0040】
切替部136は、状態判定部15の判定結果に基づいて、第1位相推定部11によって生成された第1位相θsと、第2位相推定部12によって生成された第2位相θsyncとの何れか選択して、選択の結果を位相θとして出力する。
【0041】
このように駆動制御部13は、同期電動機2の動作状態の判定結果によって、第1位相θsと前記第2位相の何れかを用いて同期電動機2の駆動を制御する。
【0042】
次に、図4を参照して、実施形態の起動時の初期磁極位置検出について説明する。
図4は、実施形態の起動時の初期磁極位置検出に係るタイミングチャートである。
【0043】
図4において、上段側から、運転指令B_EXTと、励磁装置運転指令FL_CMDと、界磁電流基準FC_refと、励磁装置運転FL_RNTDと、ゲートブロックGATE_CMDと、界磁電流フィードバックFC_fbkと、界磁電圧フィードバックVuvw_fbkと、交流電圧フィードバックVAC_fbkと、の各信号が順に並べて配置され、各信号の振幅の変化が示されている。
【0044】
運転指令B_EXTは、上位装置から供給されるドライブシステム1の運転指令である。
この信号のHレベルは、同期電動機2に対する運転を指定し、この信号のLレベルは、停止を指定する。例えば、この信号のLレベルからHレベルへの遷移は、運転開始(又は起動)を示す。
【0045】
運転指令B_EXTによって運転開始を示すHレベルが供給されると、シーケンス制御部16は、同期電動機2を起動するための信号を生成する。励磁装置運転指令FL_CMDと、界磁電流基準FC_refと、励磁装置運転FL_RNTDとの各信号は、同期電動機2を起動するための信号の一例である。励磁装置運転指令FL_CMDは、励磁装置4を活性化して、励磁電流を出力可能な状態にする。界磁電流基準FC_refは、界磁電流の大きさを規定する基準レベルを示す。励磁装置運転FL_RNTDは、励磁装置4が活性化した後に、励磁装置4から励磁電流を出力させるための信号である。
【0046】
ゲートブロックGATE_CMDは、インバータ3に対するゲートパルスの供給を制御する制御信号である。この信号がHレベルになると、インバータ3に対するゲートパルスが供給され、この信号がLレベルになると、インバータ3に対するゲートパルスの供給が停止される。シーケンス制御部16は、励磁装置運転指令FL_CMDと、界磁電流基準FC_refと、励磁装置運転FL_RNTDと、ゲートブロックGATE_CMDとを生成して、これらを用いて制御部10内の各部を制御する。
【0047】
界磁電流フィードバックFC_fbkは、界磁巻線24に接続される配線に設けられた変成器によって検出される界磁巻線24に流れる電流の検出値が示す電流の振幅である。界磁電圧フィードバックVuvw_fbkは、界磁巻線24の両端に掛かる電圧の検出値が示す電圧の振幅である。交流電圧フィードバックVAC_fbk^abs(VAC_fbkという。)は、3相交流電圧の検出値である。
【0048】
この図4に示す初期段階では、同期電動機2が停止している状態にある。運転指令B_EXTと、励磁装置運転指令FL_CMDと、励磁装置運転FL_RNTDと、ゲートブロックGATE_CMDは、Lレベルである。界磁電流基準FC_refと、界磁電流フィードバックFC_fbkと、界磁電圧フィードバックVuvw_fbkと、交流電圧フィードバックVAC_fbkは、何れも低レベルになっている。
【0049】
時刻t0に、運転指令B_EXTがHレベルに遷移する。シーケンス制御部16は、この遷移を検出して、タイマーT1をスタートする。タイマーT1の期間は予め定められていてよい。
【0050】
時刻t1にタイマーT1が満了する。シーケンス制御部16は、これに応じて、励磁装置運転指令FL_CMDをHレベルにして出力し、さらに界磁電流基準FC_refを所望のレベルまでステップ状に変化させて、タイマーT2からT4をスタートする。タイマーT2からT4の期間は予め定められていてよい。なお、シーケンス制御部16は、その他の信号の出力レベルを維持する。
【0051】
時刻t2にタイマーT2が満了する。シーケンス制御部16は、これに応じて、励磁装置運転FL_RNTDをHレベルにして出力する。励磁装置4は、これを検出して、電圧の出力と界磁電流の供給を開始する。励磁装置4の出力電圧もこれと同時に上昇する。これに応じて、界磁電流フィードバックFC_fbkと、界磁電圧フィードバックVuvw_fbkの振幅が変化する。電圧積算部14は、界磁電圧フィードバックVuvw_fbkを積算して、交流電圧フィードバックVAC_fbkを生成する。
【0052】
時刻t3にタイマーT3が満了する。このタイマーT3の期間は、初期位置を計算するための期間に対応する。座標変換部121は、第2位相θsyncの初期値を用いた界磁電圧フィードバックVuvw_fbkに基づいて、界磁電圧フィードバックVdq_fbkを演算する。この演算は、例えば、所謂3相信号を、回転子座標系の2相信号に変換するdq変換である。初期磁束位置推定部113は、界磁電圧フィードバックVdq_fbkの要素を用いて、前述した式(1)に従い、初期磁束位置θ_fbkを演算する。
【0053】
加算演算部114は、次の式(2)に従い、初期磁束位置オフセットθ_moと、初期磁束位置θ_fbkとを加算して、初期位置θ_0を算出する。
【0054】
θ_0 = θ_mo +θ_fbk ・・・(2)
【0055】
時刻t4にタイマーT4が満了する。初期位置指令生成部115は、加算演算部114による演算結果の初期位置θ_0が示す位相のポジション番号と、位置検出器22によって検出されたポジション番号とを対比して、位置検出器22によって検出された実際の位相が、初期位置指令θ0に追従できていない場合には、所定の方法で初期位置指令θ0を調整する。この調整について、後述する。初期位置指令θ0を用いた同期電動機2の起動が成功した場合、シーケンス制御部16は、これに応じて、ゲートブロックGATE_CMDをHレベルにして、インバータ3から同期電動機2に交流電力の供給を開始する。
【0056】
図5を参照して、実施形態の位置検出器22が出力するポジション番号と位置との関係について説明する。図5は、実施形態の位置検出器22が出力するポジション番号と位置の関係を示す図である。
【0057】
P1からP6の識別情報PIDを用いて識別される6つの領域と、その領域に割り当てられた角度範囲θPと、その領域内の中央の位置の識別情報PCIDと、中央の位置の角度θPCとの関係を示す。例えば、識別情報PIDがP1として識別される領域は、識別情報PCIDがPC1をその領域内の中央の位置とする。PC1の位置がθPC1であり、領域P1の角度範囲は、θPC1を中心とした±αの範囲になる。PC2からPC6を中心とする他の領域P2からP6も上記と同様である。
【0058】
図6から図10を参照して、実施形態の起動時の動作について説明する。
【0059】
CASE1:
図6は、実施形態の正常に起動する事例を示す図である。図6に示す一例は、正常に起動する事例である。図10は、実施形態の同期電動機2が起動した後の制御を説明するための図である。
【0060】
初期磁極位置の推定に問題がなく、かつ必要な起動トルクに対して十分な通電電流を流すことができた場合には、位相指令に基づいてモータが所望の速度で回転する。
【0061】
なお、図10に示すように、同期電動機2が起動した後は、制御部10は、時刻t4以降に切替部136を切り替えて第2位相θsyncに基づく位相指令θを用いて、同期電動機2を脱調させないように決定された速度指令ω_refを用いて加速させる。図10に示す位相指令θに基づいて、一般的な電圧型インバータによって、U相V相W相の各相のゲートパルスを生成する。以下に説明する各場合も、同期電動機2が起動した後は、この説明と同様である。
【0062】
CASE2:
図7から図9を参照して、実施形態の正常に起動しない事例について説明する。
図7は、実施形態の正常に起動しない事例を示す図である。図8は、図7に示した状態から動作状態を補正する第1事例を示す図である。図9は、図7図8に示した状態から動作状態を補正する第2事例を示す図である。
【0063】
例えば、起動の段階で、初期磁極検出を誤る場合は、上記の典型的な一例である。
図7に示すように、初期磁極位置検出により推定したポジション番号と、実際のポジション番号とが、同期電動機2の起動前に、互いに異なっている場合がある。このような場合に、初期磁極位置検出に誤りがあったと判断するとよい。この事例の場合には、実際のポジション番号と、その隣の境界に初期位相を補正し、その位置から位相回転を開始する。
【0064】
例えば、シーケンス制御部16が生成する速度指令ω_refの加速レートが高すぎた場合に、モータが位相指令に追従できず失速(脱調)してしまうことがある。このような事象は、シーケンス制御部16が速度指令ω_refを増加させながら、同期電動機2の速度を上昇させていく際に、同期電動機2の慣性に対して高すぎる加速レートが設定されていた場合などに発生する。
【0065】
制御部10は、このような事象が生じていることを次のような方法で検出できる。
図7に示すように位相指令θが、これに対応する角度領域の各ポジションの中央(例えば、PC2。)に到達した際に、初期位置指令生成部115は、実際の回転子21Rの位相のポジション番号と位相指令θのポジション番号が一致しているかを識別する。この識別結果が一致していた場合には、初期位置指令生成部115は、回転子21Rの実位相が位相指令θに追従できていると判断して、制御を継続する。これに対して、図7に示すように、この識別結果が不一致だった場合には、初期位置指令生成部115は、位相指令θをその位置(例えば、PC2。)で一旦停止させて、位相指令θのポジションと回転子21Rの実位相に対応するポジション番号が一致するまで待機する。
【0066】
上記の待機に伴う位相指令θの調整は、初期位置指令生成部115が位相θ0にオフセットを付与して調整してもよく、これに代えて、初期位置指令生成部115の指示により、積分演算部112が、その出力値である位相Δθの値を直接変更する調整方法でもよい。
【0067】
上記の位相指令θを調整したことによって、この調整時から所定の時間が経過するまでにポジション番号が一致した場合には、同期電動機2は回転しているものの、回転子21Rを含む回転体の慣性に対して加速レートが若干高い状態にあるとみなすことができる。この場合、シーケンス制御部16は、速度指令ω_refの加速レートを、所定量下げて、これ以降の位相回転を継続させるとよい。
【0068】
これに対して、上記の位相指令θを調整したときから所定の時間が経過してもポジション番号が一致しなかった場合には、速度指令ω_refの加速レートが高すぎるか、同期電動機2に対する通電電流が必要な起動トルクに対して不足している状態にあるとみなすことができる。この場合、初期位置指令生成部115は、位相指令θを、ポジション番号PC1とPC2の境界の位相に戻し、電機子あるいは界磁電流を、所定の比率(k倍)で増加させて、位相指令θの回転を再開する。なお、上記の所定の比率(k倍)は、同期電動機2とインバータ3の定格容量や過負荷耐量に応じて決定するとよい。その後の位相判定時に、実際のポジション番号が所望のポジション番号の位置に遷移していた場合には、無事に起動できたとみなすことができる。この場合、初期位置指令生成部115は、電機子あるいは界磁電流を、上記の増加させる前の元の値に戻す。
【0069】
上記のそれぞれの処置を実施してもポジション番号が一致に至らない場合には、初期位置指令生成部115は、起動失敗と識別して、同期電動機2の駆動を停止させる。
【0070】
上記の実施形態によれば、ドライブシステム1の第1位相推定部11は、同期電動機2の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて、同期電動機2の位相指令θに係る第1位相θsを補正する。これにより、ドライブシステム1は、同期電動機2を失速させないで起動させることができる。
【0071】
例えば、第1位相推定部11は、初期位相θと、同期電動機2の起動処置の開始からの同期電動機2の速度指令ω_refの積算の結果に基づいて、第1位相θsを算出するとよい。
第1位相推定部11は、同期電動機2の励磁による同期電動機2の起動処置の開始から所定時間経過後に、位置検出器22によって検出された回転子位置の検出結果(ポジションの値)を用いて第1位相θsの値を補正するとよい。
第1位相推定部11は、同期電動機2の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果から、実際の回転子位置に対する位相が第1位相θsよりも遅れていることを検出した場合には、第1位相θsの値を補正するとよい。
第1位相推定部11は、実際の回転子位置に対する位相が第1位相θsよりも遅れていることを検出した場合に、第1位相θsの補正値を用いて第1位相θsの値を減少させることによって第1位相θsの値を遅れ方向に補正するとよい。
第1位相推定部11は、実際の回転子位置に対する位相が第1位相θsよりも遅れていることを検出した場合に、検出後の同期電動機2を駆動させるための制御量を、その検出の前に同期電動機2を駆動させた制御量よりも低減させた値に補正するとよい。なお、速度指令ω_refは、上記の制御量の一例である。
第1位相推定部11が算出した第1位相θsを用いて同期電動機2の起動処置がとられている間に、第2位相推定部12は、同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する。このように、第2位相推定部12の第2位相の生成が、第1位相θsを用いて同期電動機2の起動処置を実施している間に始められていることにより、第1位相θsに基づく位相指令θを用いた制御から第2位相θsyncに基づく位相指令θを用いた制御に切り替えるときの制御の安定性を高めることができる。
【0072】
このようなドライブシステム1であれば、同期電動機2をセンサレス制御によって駆動させる場合であっても、起動段階に補助的に位置検出器22を利用することを可能にする。例えば、停止時の磁極位置が不明であり、また、誘起電圧の振幅が小さく速度推定が困難な極低速領域がある。このような条件の下では、位相指令に対して実位相が追従しているか否かを判断することは困難であった。
【0073】
このような事象に対して、ドライブシステム1は、起動時に同期電動機2が失速(脱調)しないように制御することができる。
【0074】
(変形例)
図11図12とを参照して、実施形態の変形例について説明する。
図11は、変形例のドライブシステム1Aの構成図である。図12は、変形例のドライブシステム1Aの起動時の制御を説明するための図である。
【0075】
上記の実施形態では、同期電動機2を失速させずに起動させるドライブシステム1について説明した。本変形例では、より早く、同期電動機2を起動させるドライブシステム1Aについて説明する。
【0076】
比較例の場合、同期電動機の誘起電圧に基づいて速度推定を実施するのに十分な誘起電圧が得られるまでの極低速時は、同期電動機が脱調しないように、速度指令ω_refを十分にゆっくりと上昇させている。そのため、必要以上に速度指令ω_refの変化量(速度レート)を下げていて、起動時間が遅くなる場合があった。
【0077】
そこで、本変形例のドライブシステム1Aの制御部10は、ドライブシステム1のシーケンス制御部16に代えて、シーケンス制御部16Aを備える。シーケンス制御部16Aは、シーケンス制御部16とは下記の点が異なる。
【0078】
シーケンス制御部16Aは、位置検出器22から実位相のポジション番号と、第1位相推定部11から位置θsとを取得する。シーケンス制御部16Aは、位置θsに代えて、駆動制御部13から位相指令θを取得してもよい。本変形例が適用されるときには、位相指令θとして位置θsが選択されている状況である。以下の説明は、位相指令θを用いた事例を例示する。
【0079】
シーケンス制御部16Aは、実位相のポジション番号が1つ変化する時間Δt1と、位相指令θのポジション番号が1つ変化する時間Δt2とを計測する。例えば、シーケンス制御部16Aは、この時間Δt1と速度指令ω_refとの積を導出し、時間Δt2と速度指令ω_refとの積を導出する。上記の積の差分が一定レベル以下であれば、追従している状況とみなすことができる。この場合、シーケンス制御部16Aは、次の位相回転時の速度レートを、予め定められた増加量に従い高める。なお、予め定められた増加量は、同期電動機2を脱調させないように速度指令ω_refを徐々に増加させるように定められている。シーケンス制御部16Aは、これを繰り返すことにより、脱調しない範囲で高めた加速レートを用いて同期電動機2を起動させるドライブシステム1Aを提供できる。
【0080】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、ドライブシステムは、第1位相推定部と、第2位相推定部と、状態判定部と、駆動制御部と、を備える。前記第1位相推定部は、同期電動機の起動段階の初期位相を基準にして回転子の位相を推定して得た第1位相を生成する。前記第2位相推定部は、回転する前記回転子の位相を、前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する。前記状態判定部は、前記同期電動機の動作状態を判定する。前記駆動制御部は、前記同期電動機の動作状態の判定結果によって、前記第1位相と前記第2位相の何れかを用いて前記同期電動機の駆動を制御する。前記第1位相推定部は、前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された前記回転子位置の検出結果を用いて前記第1位相を補正する。これにより、モータを失速させないで起動させることができる。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0082】
1…ドライブシステム、2…同期電動機、3…インバータ、4…励磁装置、10…制御部、11…第1位相推定部、12…第2位相推定部、13…駆動制御部、14…電圧積算部(状態推定部)、15…状態判定部、16…シーケンス制御部、22…位置検出器
【要約】
実施形態の一態様のドライブシステムは、第1位相推定部と、第2位相推定部と、状態判定部と、駆動制御部と、を備える。前記第1位相推定部は、同期電動機の起動段階の初期位相を基準にして回転子の位相を推定して得た第1位相を生成する。前記第2位相推定部は、回転する前記回転子の位相を、前記同期電動機の動作状態に基づいて推定して得た第2位相を生成する。前記状態判定部は、前記同期電動機の動作状態を判定する。前記駆動制御部は、前記同期電動機の動作状態の判定結果によって、前記第1位相と前記第2位相の何れかを用いて前記同期電動機の駆動を制御する。前記第1位相推定部は、前記同期電動機の起動処置の開始から起動成功までの間に検出された回転子位置の検出結果を用いて前記第1位相を補正する。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12