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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】倣い装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20230807BHJP
   B25J 17/02 20060101ALI20230807BHJP
   H05K 13/04 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
H01L21/52 F
B25J17/02 G
H05K13/04 Z
H05K13/04 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019084020
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020181889
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000102511
【氏名又は名称】SMC株式会社
(74)【代理人】
【氏名又は名称】林 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100119404
【弁理士】
【氏名又は名称】林 直生樹
(74)【代理人】
【識別番号】100177769
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】下田 洋己
(72)【発明者】
【氏名】西川 武志
(72)【発明者】
【氏名】石辺 二朗
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216265(JP,A)
【文献】特開平10-156779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B25J 17/02
H05K 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹球面を有する固定部材と、前記凹球面に嵌合する凸球面を有する可動部材とを備え、前記凹球面と凸球面との間にエアを供給することにより該凹球面と凸球面とを非接触状態にし、その状態で前記可動部材を前記凹球面に沿って変位させることにより、該可動部材に取り付けられる吸着治具に吸着されたワークを装着対象部位に平行に押し付けるように構成された倣い装置において、
前記倣い装置は、前記可動部材の凸球面を前記固定部材の凹球面に押し付けることにより該可動部材をロックするロック機構と、前記吸着治具に通じる吸引用流路とを有し、
前記ロック機構は、前記固定部材の内部を前記凹球面の中心軸に沿って延びるロッド孔と、該ロッド孔の内部に摺動自在に挿入されたロッドとを有し、該ロッドの基端部に、エアの作用により該ロッドを前進及び後退させるピストンが設けられ、該ロッドの先端は、前記可動部材の凸球面に形成された中心孔を遊動状態に貫通して該可動部材の内部の凹部内に進入し、該ロッドの先端に、前記凹部の底面に係止及び離脱する係止部が形成されており、
前記吸引用流路は、前記固定部材に形成された吸引用ポートと、前記ロッドの先端に開口して前記吸着治具に通じる吸引用開口と、前記吸引用ポートと前記吸引用開口とを結ぶ吸引用連通孔とを有
前記吸引用連通孔は、前記ロッドの外周を取り囲む環状孔と、該環状孔と前記吸引用ポートとを結ぶ第1連通孔と、前記ロッドの内部を前記中心軸方向に延びて前記吸引用開口に連通する第2連通孔と、該第2連通孔と前記環状孔とを結ぶ第3連通孔とを有する、
ことを特徴とする倣い装置。
【請求項2】
前記ロッドの先端の前記吸引用開口は、前記吸着治具のエア吸引管をねじ込んで接続するための螺子孔であることを特徴とする請求項に記載の倣い装置。
【請求項3】
前記可動部材に形成された前記凹部の底面は凹球面状をなし、
前記ロッドの先端の前記係止部は円形をなしていて、該係止部の背面の、前記凹部の底面に対向する係止面は平坦面をなし、前記係止部には、前記可動部材の中心孔を外部に開放する複数の排気孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の倣い装置。
【請求項4】
前記固定部材に形成された前記ロッド孔の孔端は前記凹球面に開口し、該孔端に拡大孔部が形成されており、該拡大孔部の孔径は前記可動部材の中心孔の孔径より大きいことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の倣い装置。
【請求項5】
前記固定部材は非磁性材からなり、前記可動部材は磁性材からなっており、
前記固定部材の前記凹球面には、前記中心軸を取り囲む環状の第1収容溝が形成され、該第1収容溝の内部に、非磁性材からなる環状の多孔質部材が前記凹球面の一部を形成するように収容されており、
前記第1収容溝の背後には、前記中心軸を取り囲む環状の第2収容溝が前記第1収容溝に連なるように形成され、該第2収容溝の内部に、環状の永久磁石が収容されると共に、該永久磁石の外周と前記第2収容溝の内周との間に環状のエア供給孔が形成され、該エア供給孔は、前記固定部材に形成されたフローティング用ポートに連通すると共に、前記第1収容溝に前記多孔質部材の背面側で連通している、
ことを特徴とする請求項1からの何れかに記載の倣い装置。
【請求項6】
前記第2収容溝の内径は前記第1収容溝の内径より大きく、該第2収容溝の外径は前記第1収容溝の外径より小さいことを特徴とする請求項に記載の倣い装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを装着対象部位に平行に倣わせて装着するのに用いる倣い装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体チップ等のワークをプリント基板などの装着対象部位に平行に倣わせて装着する場合、特許文献1や特許文献2あるいは特許文献3等に開示されているような倣い装置が使用される。この倣い装置は、図10に概略的に示すように、凹球面61を備えた固定部材60と、前記凹球面61に揺動自在に嵌合する凸球面63を備えた可動部材62とを有していて、前記可動部材62に、ワークWを吸着により保持する吸着治具64が取り付けられる。そして、前記吸着治具64の先端の吸着口65にワークWを吸着させた状態で、ポート66から前記凹球面61と凸球面63との間にエアを供給して該凹球面61と凸球面63とを非接触状態にし、その状態で、前記吸着治具64に保持されたワークWを装着対象部位67に押し付けることにより、前記可動部材62及び吸着治具64を前記凹球面61に沿って変位させ、前記吸着治具64に保持されたワークWを、前記装着対象部位67に平行に押し付けて装着するものである。図中の符号68で示す部材は、通気性を有する多孔質部材である。
【0003】
ところが、前記公知の倣い装置は、通常、前記吸着治具64の内部に、前記吸着口65に通じる吸引孔69が形成されると共に、該吸着治具64の側面に、前記吸引孔69に通じる配管接続口70が設けられていて、この配管接続口70に吸引用の配管(ホース)71を接続した状態で使用される。このため、前記可動部材62及び吸引治具64の変位によって前記配管71が変形した際に、該配管71の変形に伴う弾性力が前記治具64を介して前記可動部材62に作用し、この弾性力により、前記可動部材62の円滑且つ適正な変位が阻害されて倣い精度が低下するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4081247号公報
【文献】特許第4547652号公報
【文献】特許第5185886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の技術的課題は、ワークを吸着するための吸着治具に吸引用の配管を直接接続する必要がなく、従って、前記吸着治具に前記配管の変形に伴う弾性力が作用しないために倣い精度の低下を来すことのない、簡単で合理的な構造を有する倣い装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、凹球面を有する固定部材と、前記凹球面に嵌合する凸球面を有する可動部材とを備え、前記凹球面と凸球面との間にエアを供給することにより該凹球面と凸球面とを非接触状態にし、その状態で前記可動部材を前記凹球面に沿って変位させることにより、該可動部材に取り付けられる吸着治具に吸着されたワークを装着対象部位に平行に押し付けるように構成された倣い装置において、前記倣い装置は、前記可動部材の凸球面を前記固定部材の凹球面に押し付けることにより該可動部材をロックするロック機構と、前記吸着治具に通じる吸引用流路とを有し、前記ロック機構は、前記固定部材の内部を前記凹球面の中心軸に沿って延びるロッド孔と、該ロッド孔の内部に摺動自在に挿入されたロッドとを有し、該ロッドの基端部に、エアの作用により該ロッドを前進及び後退させるピストンが設けられ、該ロッドの先端は、前記可動部材の凸球面に形成された中心孔を遊動状態に貫通して該可動部材の内部の凹部内に進入し、該ロッドの先端に、前記凹部の底面に係止及び離脱する係止部が形成されており、前記吸引用流路は、前記固定部材に形成された吸引用ポートと、前記ロッドの先端に開口して前記吸着治具に通じる吸引用開口と、前記吸引用ポートと前記吸引用開口とを結ぶ吸引用連通孔とを有し、前記吸引用連通孔は、前記ロッドの外周を取り囲む環状孔と、該環状孔と前記吸引用ポートとを結ぶ第1連通孔と、前記ロッドの内部を前記中心軸方向に延びて前記吸引用開口に連通する第2連通孔と、該第2連通孔と前記環状孔とを結ぶ第3連通孔とを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の倣い装置において前記ロッドの先端の前記吸引用開口は、前記吸着治具のエア吸引管をねじ込んで接続するための螺子孔であることが望ましい。
【0008】
また、本発明の倣い装置においては、前記可動部材に形成された前記凹部の底面は凹球面状をなし、前記ロッドの先端の前記係止部は円形をなしていて、該係止部の背面の、前記凹部の底面に対向する係止面は平坦面をなし、前記係止部には、前記可動部材の中心孔を外部に開放する複数の排気孔が形成されていても良い。
【0009】
また、本発明の倣い装置において、前記固定部材に形成された前記ロッド孔の孔端は前記凹球面に開口し、該孔端に拡大孔部が形成されており、該拡大孔部の孔径は前記可動部材の中心孔の孔径より大きくても構わない。
【0010】
更に、本発明の倣い装置において、前記固定部材は非磁性材からなり、また、前記可動部材は磁性材からなっていて、前記固定部材の前記凹球面には、前記中心軸を取り囲む環状の第1収容溝が形成され、該第1収容溝の内部に、非磁性材からなる環状の多孔質部材が前記凹球面の一部を形成するように収容され、前記第1収容溝の背後には、前記中心軸を取り囲む環状の第2収容溝が前記第1収容溝に連なるように形成され、該第2収容溝の内部に、環状の永久磁石が収容されると共に、該永久磁石の外周と前記第2収容溝の内周との間に環状のエア供給孔が形成され、該エア供給孔は、前記固定部材に形成されたフローティング用ポートに連通すると共に、前記第1収容溝に前記多孔質部材の背面側で連通していても良い。
【0011】
この場合、前記第2収容溝の内径は前記第1収容溝の内径より大きく、該第2収容溝の外径は前記第1収容溝の外径より小さくても構わない。
【発明の効果】
【0012】
本発明の倣い装置は、可動部材をロックするためのロック機構を形成するロッドを、吸引用流路を形成するための部材として兼用し、該ロッドに形成した吸引用流路を通じて吸着治具にワーク吸着用の吸引力を作用させるようにしたので、従来の倣い装置のように前記吸着治具に吸引用の配管を接続する必要がなく、従って、前記配管が変形した場合の弾性力が前記吸着治具に作用することがないため、倣い精度の低下を来すことがない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る倣い装置の第1実施形態を示す断面図である。
図2図1の要部拡大図である。
図3図2の要部拡大図である。
図4】前記倣い装置の一つの動作状態を、吸着治具の中間部分を省略して示す断面図である。
図5】前記倣い装置の他の動作状態を、吸着治具の中間部分を省略して示す断面図である。
図6】前記倣い装置の他の動作状態を、吸着治具の中間部分を省略して示す断面図である。
図7】前記倣い装置の他の動作状態を、吸着治具の中間部分を省略して示す断面図である。
図8】本発明に係る倣い装置の変形例を示す断面図である。
図9】本発明に係る倣い装置の第2実施形態を示す要部断面図である。
図10】従来の倣い装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1図7は本発明に係る倣い装置の第1実施形態を示すものである。この倣い装置1は、凹球面3を有する固定部材2と、前記凹球面3に揺動自在に嵌合する凸球面5を有する可動部材4とを有していて、図7に示すように、前記凹球面3と凸球面5との間にエアを供給して該凹球面3と凸球面5とを非接触状態にし、その状態で、前記可動部材4の前面に取り付けられた吸着治具6に半導体チップ等のワークWを吸着により保持させて、該ワークWをプリント基板などの装着対象部位9に押し付けることにより、前記吸着治具6を介して前記可動部材4を前記凹球面3に沿って変位(傾斜)させ、それにより、前記ワークWを前記装着対象部位9に平行に倣わせて装着するものである。
【0015】
図1において、前記凹球面3の曲率半径と凸球面5の曲率半径とは互いに等しく、前記凸球面5の曲率中心Cは、前記装着対象部位9の中心に設定されている。従って、前記吸着治具6の中心軸L方向の長さは、前記曲率半径に見合う長さであるが、図示した例では、該吸着治具6の中間部分は省略されている。
【0016】
また、前記固定部材2は、ロボットアーム等の作業機器に取り付けるための部材であって、非磁性材からなる第1部材2aと非磁性材からなる第2部材2bとをシール部材10を介してボルト(不図示)で連結することにより、矩形のブロック形に形成され、前記第1部材2aの前面に前記凹球面3が形成され、前記第2部材2bの後面に前記作業機器に取り付けるための取付面2cが形成されている。
【0017】
前記固定部材2の凹球面3には、該凹球面3の中心を通る中心軸Lを取り囲む環状の第1収容溝11が形成され、該第1収容溝11の内部に、非磁性材からなる環状の多孔質部材13が収容され、該多孔質部材13の前面は前記凹球面3の一部を形成している。前記多孔質部材13は、連続気孔を有する焼結体からなっていて、通気性を有する。
【0018】
前記第1収容溝11の背後には、前記中心軸Lを取り囲む環状の第2収容溝12が、前記第1収容溝11に連なるように形成され、該第2収容溝12の内部に、環状の永久磁石14が、該永久磁石14の前面と前記多孔質部材13の背面との間に若干の間隔を保った状態で収容されている。
図2に示すように、前記第2収容溝12の内径d1は、前記第1収容溝11の内径D1より大きく、該第2収容溝12の外径d2は、前記第1収容溝11の外径D2より小さい。このため、前記永久磁石14は、前記多孔質部材13の真後ろに配置され、該永久磁石14の磁力が、磁性材製の前記可動部材4に、前記多孔質部材13を介して作用することになる。
【0019】
また、前記永久磁石14の外径d3を前記第2収容溝12の外径d2より小さくすることにより、該永久磁石14の外周と前記第2収容溝12の内周との間に環状のエア供給孔15が形成され、該エア供給孔15が、前記固定部材2の側面に形成されたフローティング用ポート16に連通孔17を通じて連通すると共に、前記第1収容溝11にも、前記多孔質部材13の背面側で連通している。該多孔質部材13の背面には、該背面と前記永久磁石14の前面との間の間隔を拡大するための環状の凹部18が形成され、この凹部18が前記エア供給孔15に連通している。
【0020】
これにより、前記フローティング用ポート16から前記エア供給孔15にエアが供給されると、該エアが、前記多孔質部材13の内部を通って前記凹球面3と凸球面5との間に流入し、該凹球面3と凸球面5とを非接触状態にするため、図5及び図7に示すように、前記可動部材4がフローティング状態になる。このとき、前記エアの圧力により前記凸球面5が前記凹球面3から離間する力と、前記永久磁石14により前記可動部材4が固定部材2側に吸引される力とが釣り合うことで、前記凹球面3と凸球面5とは、微少な空隙Gを介して非接触状態を維持する。
前記フローティング用ポート16が排気状態になると、前記可動部材4は、前記永久磁石14により前記固定部材2側に吸引され、図1及び図2に示すように、前記凸球面5が凹球面3に接触した状態になる。
【0021】
従って、前記フローティング用ポート16と、前記連通孔17及びエア供給孔15と、前記多孔質部材13と、前記凹球面3及び凸球面5とは、前記可動部材4をフローティング状態にするためのフローティング機構を形成するものである。
【0022】
前記可動部材4は、鉄等の磁性材により形成されていて、その後面に前記凸球面5が形成され、前面に前記吸着治具6を螺子で取り付けるための取付面4aが形成されている。前記凸球面5の正面視形状は円形であり、前記取付面の正面視形状は矩形である。
【0023】
また、前記倣い装置1は、前記可動部材4の凸球面5を前記固定部材2の凹球面3に押し付けることによって該可動部材4をロックするロック機構20を有している。
前記ロック機構20は、前記固定部材2の内部を前記中心軸Lに沿って延びるロッド孔21と、該ロッド孔21の内部に2つのリップ型のシール部材23a,23bを介して摺動自在に挿入されたロッド22とを有している。
【0024】
前記ロッド22の基端部には、エアの作用により該ロッド22を前進及び後退させるピストン24が、シール部材25を介して取り付けられている。前記ピストン24は、前記固定部材2の前記第1部材2aと第2部材2bとの間に形成されたピストン室26内に、ピストンシール27を介して摺動自在に収容され、該ピストン24によって前記ピストン室26の内部が、第1圧力室28と第2圧力室29とに区画されている。また、前記固定部材2の側面には、ロック用ポート30とロック解除用ポート31とが形成され、前記ロック用ポート30は前記第1圧力室28に連通し、前記ロック解除用ポート31は前記第2圧力室29に連通している。
【0025】
前記ロッド22とピストン24とを連結するため、該ロッド22の基端部には、小径化した取付部22aが形成され、該取付部22aが、前記ピストン24の中心に形成された取付孔24a内に挿入され、該ピストン24の一端は前記ロッド22の段部22bに係止し、該ピストン24の他端は、前記ロッド22に取り付けられたC形リング32に係止している。
【0026】
一方、前記ロッド22の先端には、該ロッド22の長さ方向の中央部分、即ち、前記ロッド孔21内を摺動する部分より径の小さい小径部22cが形成され、この小径部22cが、前記可動部材4の凸球面5の中心に形成された中心孔33を遊動状態に貫通して、該可動部材4の内部に形成された円形の凹部34内に進入し、該小径部22cの先端に、円形の係止部35が形成され、該係止部35が、前記凹部34の凹球面状をした底面34aに係止及び離脱するようになっている。
【0027】
前記係止部35の直径d4は、前記ロッド22の中央部分の直径d5及び前記中心孔33の孔径d6より大きいが、前記凹部34の内径d7よりは小さく、該係止部35の中心軸L方向の高さ(厚み)h1は、前記凹部34の深さh2より小さい。また、前記係止部35の背面、即ち、前記凹部34の底面34aに対向する係止面35aは、平坦面をなしている。更に、前記係止部35には、前記可動部材4の中心孔33を外部に開放する複数の排気孔36が、該係止部35を中心軸Lの方向に貫通するように形成されている。
【0028】
前記ロック機構20において、前記ロック用ポート30を排気状態にすると共に、前記ロック解除用ポート31を給気状態にすると、図1及び図5に示すように、前記ピストン24の作用によりロッド22が前進(下降)し、該ロッド22の先端の係止部35が可動部材4の凹部34の底面34aから離間するため、前記可動部材4のロックは解除される。その逆に、前記ロック解除用ポート31を排気状態にすると共に、前記ロック用ポート30を給気状態にすると、図4に示すように、前記ピストン24の作用によりロッド22が後退(上昇)して前記係止部35が可動部材4の凹部34の底面34aに係止し、該可動部材4を引き上げて前記凸球面5を前記固定部材2の凹球面3に押し付けるため、該可動部材4はロックされる。
【0029】
また、図2に示すように、前記固定部材2に形成されたロッド孔21の孔径は、前記ロッド22の中央部分の直径d5とほぼ同径であって、前記可動部材4の中心孔33の孔径d6より僅かに小さいが、該ロッド孔21の前端には、図3に示すように、該ロッド孔21の孔径を次第に拡大させて前記中心孔33の孔径d6に近づけるためのテーパー部21aが形成され、該テーパー部21aの前端に、拡大孔部21bが形成されている。該拡大孔部21bは、座繰りにより形成されたもので、該拡大孔部21bの孔径d8は、前記中心孔33の孔径d6より大きく、該拡大孔部21bの孔縁21cは、前記中心孔33の孔縁33aの回りを取り囲んでいる。
このような拡大孔部21bを前記ロッド孔21の孔端に形成したことにより、倣い動作のために前記凸球面5が凹球面3に対して変位した場合に、前記中心孔33の孔縁33aと前記拡大孔部21bの孔縁21cとが交叉しないか、あるいは交叉してもその度合いは小さいため、こじり等による動作不良が発生しにくい。
【0030】
前記倣い装置1には、更に、図1及び図2に示すように、前記吸着治具6に通じるワーク吸着のための吸引用流路40が形成されている。
前記吸引用流路40は、前記固定部材2の側面に形成された吸引用ポート41と、前記ロッド22の先端に開口して前記吸着治具6に通じる吸引用開口42と、前記吸引用ポート41と前記吸引用開口42とを結ぶ吸引用連通孔43とを有している。
【0031】
前記吸引用連通孔43は、前記2つのシール部材23a,23b間の位置で前記ロッド孔21の一部に前記ロッド22の外周を取り囲むように形成された環状孔43aと、該環状孔43aと前記吸引用ポート41とを結ぶ第1連通孔43bと、前記ロッド22の内部を中心軸L方向に延びて該ロッド22の先端の前記吸引用開口42に連通する第2連通孔43cと、前記第2連通孔43cと前記環状孔43aとを連通させるために前記ロッド22の内部に放射状に形成された複数の第3連通孔43dとを有している。
前記ロッド22の先端の前記吸引用開口42は、前記吸着治具6のエア吸引管51をねじ込んで接続するための螺子孔である。
【0032】
前記吸着治具6は、前記可動部材4の前端の前記取付面4aに取り付けられる中空の治具本体50と、該治具本体50の内部に配設された前記エア吸引管51とを有し、前記治具本体50の前端には、ワークWを吸着するための前記吸着口7が形成されている。また、前記エア吸引管51の基端には、前記吸引用開口42に螺着するための螺子部51aが形成され、該エア吸引管51の先端には、弾性変形可能な吸着パッド52が取り付けられ、該吸着パッド52の先端が、前記治具本体50の内部において、前記吸着口7の周りのシート部7aに気密に接触している。
【0033】
これにより、前記固定部材2の吸引用ポート41から、該固定部材2及びロッド22に形成された前記吸引用連通孔43、前記ロッド22の先端の吸引用開口42、及び前記エア吸引管51を通じてエアが吸引されると、前記治具本体50の前端の吸着口7にワークWが吸着され、また、前記吸引用ポート41が外気に開放されるか又は給気状態になると、前記ワークWが前記治具本体50から解放される。
従って、前記吸引用流路40と吸着治具6とによって、前記ワークWを吸着するための吸着機構が形成されていることになる。
【0034】
なお、図1中の符号47で示す部分は、前記可動部材4が固定部材2に対して中心軸Lの回りに回転するのを規制するための回転規制機構である。この回転規制機構47の構成は特許文献2等によって公知であり、本実施形態においては、この公知の回転規制機構と実質的に同じ構成の回転規制機構47を採用しているため、その構成の説明は省略することとする。
【0035】
次に、前記構成を有する倣い装置1を使用し、トレー等に置かれたワークWを吸着により保持して装着対象部位9まで搬送し、該装着対象部位9の傾きに倣わせた状態で装着するときの動作の一例について説明する。
【0036】
なお、以下の説明では、前記ロック機構20において、図4に示すように、前記ロック用ポート30を給気状態にすると共に前記ロック解除用ポート31を排気状態にすることによって前記可動部材4をロックした状態を、ロックオン又はロック機構がオンの状態にあるといい、図5に示すように、前記ロック用ポート30を排気状態にすると共に前記ロック解除用ポート31を給気状態にすることによって前記可動部材4のロックを解除した状態を、ロックオフ又はロック機構がオフの状態にあるといい、また、前記フローティング機構において、図5及び図7に示すように、前記フローティング用ポート16を給気状態にすることによって前記可動部材4をフローティング状態にした状態を、フローティングオン又はフローティング機構がオンの状態にあるといい、図4に示すように、前記フローティング用ポート16を開放状態(非給気状態)にすることによって前記可動部材4のフローティング状態を解除した状態を、フローティングオフ又はフローティング機構がオフの状態であるという。更に、前記吸着機構において、図6及び図7に示すように、前記吸引用ポート41を吸引状態にすることによって前記吸引治具でワークWを吸着した状態を、吸着オン又は吸着機構がオンの状態にあるといい、図4及び図5に示すように、前記吸引用ポート41を開放状態又は給気状態にすることによって前記吸引治具からワークWを解放した状態を、吸着オフ又は吸着機構がオフの状態にあるという。
【0037】
図1は、前記倣い装置1がイニシャルポジションにあって倣い動作が行われていないときの状態である。このとき、全てのポート16,30,31,41は排気状態(開放状態)にあるため、該倣い装置1は、ロックオフ、フローティングオフ、吸着オフの状態にあり、このため、前記可動部材4のロックは解除されていて、該可動部材4は、永久磁石14に吸引されて固定部材2に当接した状態にあり、また、前記吸着治具6の吸着口7に吸引力は作用していない。
【0038】
この状態から前記倣い装置1が、トレー等に置かれたワークWの位置まで移動する場合には、図4に示すように、前記ロック解除用ポート31を排気状態にすると共に前記ロック用ポート30を給気状態にすることにより、前記ロック機構20がオンの状態に切り換わり、前記可動部材4がロックされる。このとき、前記フローティング用ポート16及び吸引用ポート41はそれぞれ開放状態のままであるため、前記フローティング機構及び吸着機構はオフのままである。
【0039】
そして、前記倣い装置1がワークWの位置まで移動し、前記吸着治具6の先端が前記ワークWに当接すると、図5に示すように、該倣い装置1は、前記ロック用ポート30が排気状態になると共に前記ロック解除用ポート31が給気状態になることによりロックオフの状態になり、また、前記フローティング用ポート16が給気状態になることによりフローティングオンの状態になる。このため、前記可動部材4及び吸着治具6は、前記ワークWの姿勢に倣って変位する。しかし、前記吸着機構はオフのままである。
【0040】
このとき、前記フローティング用ポート16からエア供給孔15及び多孔質部材13を通じて前記凹球面3と凸球面5との間の空隙G内に噴射されたエアは、該空隙Gの外周から外部に流出するほか、前記空隙Gの内周からも、前記可動部材4の中心孔33の内周とロッド22の外周との間の空間部を通って前記凹部34内に流入し、主として前記係止部35の排気孔36から、前記可動部材4と吸着治具6との間に形成された排気孔37を通って外部に流出する。
【0041】
また、前記可動部材4が前記固定部材2に対して変位(傾斜)することができる角度範囲は、前記中心孔33の孔径d6の範囲であり、図5には、前記可動部材4が、前記中心孔33の内壁が前記ロッド22の側面に当接する位置まで、最大限傾斜した状態が示されている。
【0042】
また、前記倣い動作が行われたとき、前記可動部材4と、前記吸着治具6の治具本体50とは、前記中心軸Lに対して傾斜するのに対し、前記エア吸引管51は、その基端が前記ロッド22に連結されているため傾斜しない。この時の該エア吸引管51と前記治具本体50との間の角度のずれは、前記吸着パッド52が撓むことによって吸収される。
【0043】
前記倣い動作が完了したあと、前記倣い装置1は、図6に示すように、前記吸引用ポート41が吸引状態になることによって吸着オンの状態に切り換わるため、前記吸着治具6にワークWが吸着され、それと同時に、ロックオン及びフローティングオフの状態に切り換わることにより、前記可動部材4及び吸着治具6は、ロック機構20によってその時の姿勢にロックされる。
【0044】
次に、ワークWを吸着した前記倣い装置1は、図6の動作状態を維持したまま、図7に示すように装着対象部位9に移動し、該装着対象部位9に前記ワークWを押し当てる。そして、ロックオフ、フローティングオン、吸着オンの動作状態に切り換わることにより、前記ワークWを吸着治具6に吸着したまま、前記可動部材4及び吸着治具6の変位によって該ワークWを前記装着対象部位9に平行に倣わせ、該装着対象部位9に装着する。
【0045】
続いて前記倣い装置1は、前記吸引用ポート41を外部に開放するか又は該吸引用ポート41から吸引用流路40にエアを供給することにより吸着オフに切り換わり、前記ワークWを吸着治具6から解放する。そのあと該倣い装置1は、ロックオン及びフローティングオフの状態に切り換わることにより、図4に示すように、前記可動部材4及び吸着治具6はロックされる。
【0046】
そして、前記ワークWを解放した前記倣い装置1は、前記ロックオン、フローティングオフ、吸着オフの動作状態のまま、次の作業に移行するか、あるいは、イニシャルポジションに移動して次の作業のために待機する。
作業を終了する場合、前記倣い装置1は、ロックオフ、フローティングオフ、吸着オフの状態(図1参照)に切り換わる。
【0047】
以上に詳述したように、前記倣い装置1は、前記可動部材4をロックするためのロック機構20を形成するロッド22を、前記吸引用流路40を形成するための部材として兼用し、該ロッド22に形成した吸引用流路40を通じて吸着治具6にワーク吸着用の吸引力を作用させるように構成されているので、従来の倣い装置のように前記吸着治具6に吸引用の配管を直接接続する必要がなく、従って、前記配管が変形した場合の弾性力が、前記吸着治具6に、倣い動作に対する抵抗力として作用することがなく、このため、前記可動部材4の正常な変位が阻害されて倣い精度の低下を来すことがない。
【0048】
図8に示す変形例は、倣い装置1に取り付けられる吸着治具6Aの構成が、図1図7に示す吸着治具6の構成と相違している。
即ち、前記図1図7に示す吸着治具6は、治具本体50の前端の吸着口7にワークWを吸着するタイプであるが、図8に示す吸着治具6Aは、吸着パッド52でワークWを直接吸着するタイプである。このとき、前記治具本体50の前端の吸着口7Aの口径は、前記吸着パッド52の口径より大きく形成され、前記吸着パッド52に吸着されたワークWの外周部分が前記吸着口7Aの口縁に当接するようになっており、それにより、該ワークWが安定した姿勢に保たれるようになっている。
この変形例における倣い装置1の構成は、図1図7における倣い装置1の構成と同じである。
【0049】
図9は本発明に係る倣い装置の第2実施形態の要部を示すもので、この第2実施形態の倣い装置1Aでは、ロック機構20のロッド22とピストン24との取付構造が前記第1実施形態の倣い装置1と相違している。即ち、この第2実施形の倣い装置1Aにおいては、ロッド22の基端部の取付軸部22dをピストン24の取付孔24a内に挿入し、該取付軸部22dに取り付けた2つの係止リング48a,48bを前記ピストン24の一端及び他端に係止させている。
前記第2実施形態の倣い装置1のその他の構成は、前記第1実施形態の倣い装置1と実質的に同じである。
【符号の説明】
【0050】
1,1A 倣い装置
2 固定部材
3 凹球面
4 可動部材
5 凸球面
6,6A 吸着治具
9 装着対象部位
11 第1収容溝
12 第2収容溝
13 多孔質部材
14 永久磁石
15 エア供給孔
16 フローティング用ポート
20 ロック機構
21 ロッド孔
21b 拡大孔部
22 ロッド
24 ピストン
33 中心孔
34 凹部
34a 底面
35 係止部
35a 係止面
36 排気孔
40 吸引用流路
41 吸引用ポート
42 吸引用開口
43 吸引用連通孔
43a 環状溝
43b 第1連通孔
43c 第2連通孔
43d 第3連通孔
51 エア吸引管
W ワーク
L 中心軸
D1,d1 内径
D2,d2 外径
d6,d8 孔径
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10