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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】組換えアクチビンA前駆体タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20230807BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/16 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230807BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20230807BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230807BHJP
   C07K 1/12 20060101ALI20230807BHJP
   C07K 14/475 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/82 20060101ALI20230807BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/16
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A01H5/00 A
C12P21/02 H
C07K1/12
C07K14/475
C12N15/82 Z
C12N15/63 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020507821
(86)(22)【出願日】2019-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2019011357
(87)【国際公開番号】W WO2019181910
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018053947
(32)【優先日】2018-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100162422
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 将
(72)【発明者】
【氏名】平野 博人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 健一郎
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-265083(JP,A)
【文献】国際公開第02/099067(WO,A2)
【文献】Nat. Commun.,2016年07月04日,Vol.7,p.1-11
【文献】Science,1990年03月16日,Vol.247, No.4948,p.1328-1330
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質であって、天然に存在するアクチビンA前駆体タンパク質ではない、組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項2】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、両生類、爬虫類又は魚類のアクチビンAプロドメインである、請求項1に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項3】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、魚類のアクチビンAプロドメインである、請求項1又は2に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項4】
前記魚類のアクチビンAプロドメインが、配列番号:1で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する配列を含む、請求項3に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項5】
前記魚類のアクチビンAプロドメインが、配列番号:1で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する配列を、配列番号:2で示される配列の187位~196位に対応する位置に有する、請求項4に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項6】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:2で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項7】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:3で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項8】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:4で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項9】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:5で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項10】
前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:6で示される配列と90%以上のアミノ酸配列同一性を有する、請求項1又は2に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項11】
前記ヒトアクチビンA成熟配列と前記非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
【請求項14】
請求項12に記載のポリヌクレオチド又は請求項13に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項15】
請求項1~11のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法であって、請求項12に記載のポリヌクレオチド又は請求項13に記載の組換えベクターを導入した植物細胞又は前記植物細胞を含む植物において、前記ポリヌクレオチドを発現させる工程を含む方法。
【請求項16】
ヒトアクチビンAを製造する方法であって、
請求項11に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを導入した植物細胞又は前記植物細胞を含む植物において、前記ポリヌクレオチドを発現させ、前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成する工程、及び
前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を前記プロテアーゼにより処理する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質、及びこれを用いてヒトアクチビンAを製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
TGF-βファミリーに属するタンパク質は、生物の発生、分化、及び細胞増殖の調節等に関与しており、未分化細胞の分化因子としても重要である。しかしながら、これらのタンパク質は分子内に複雑なジスルフィド結合を有することから、大腸菌等で産生させる場合、タンパク質が正確に折りたたまれずに高次構造を再現できず、活性を持たないものとなることが多い。
TGF-βファミリーに属するアクチビンAは、複数のジスルフィド結合を介して2つのポリペプチド鎖が結合したホモ2量体として存在するタンパク質である。アクチビンAは、前駆体(プロアクチビンAとも言う。)の状態で発現し、前駆体はアクチビンA成熟配列とアクチビンAプロドメインを有する。アクチビンAは前駆体(プロアクチビンA)の状態では活性を持たず、プロドメイン部分を切断することによりアクチビンA成熟配列が遊離し、これが所定の高次構造を有する活性型のアクチビンAを構成することが知られている(Xuelu Wang et al., Nature Communications, 2016, 7:12052)。また、アクチビンAは、iPS細胞を胚体内胚葉(Definitive Endoderm)へと分化誘導することが知られている。
【0003】
宿主として大腸菌等の微生物を利用してヒトアクチビンAを産生する試みがなされているが、正確な折りたたみがなされず、高次構造を再現できずに活性を持たないものとなることが多い。そのため、宿主として大腸菌等の微生物を利用して活性を有するヒトアクチビンAを産生することは困難である。
活性を持たないヒトアクチビンAの高次構造を、活性を有するヒトアクチビンAの高次構造へとリフォールディングする方法が知られているが(国際公開第97/23638号公報)、この方法では、宿主として大腸菌等の微生物を利用してヒトアクチビンAを産生した後、別途、リフォールディング方法を行う必要があり簡便とは言えない。
【0004】
また、前述のとおり、アクチビンAは前駆体の状態では活性を持たず、プロドメイン部分を切断することによりアクチビンA成熟配列が遊離し、活性型のアクチビンAとなることが知られている。これまで、プロドメイン部分を有しながらも活性を持ったアクチビンA前駆体タンパク質は知られていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、ヒトアクチビンAを製造するための新規な方法を提供することを1つの目的とする。
また、本発明の別の一態様は、ヒトアクチビンAを製造するための新規な方法において用いられる組換えアクチビンA前駆体タンパク質を提供することを1つの目的とする。
更に、本発明のまた別の一態様は、ヒトアクチビンA活性を有する組換えアクチビンA前駆体タンパク質を提供することを1つの目的とする。
【0006】
本発明者らは、植物細胞を用いて、ヒトアクチビンAを製造することを試みた。しかしながら、活性を有するヒトアクチビンAを構成するヒトアクチビンA成熟配列のみをコードする遺伝子を植物細胞において発現させただけでは、目的のヒトアクチビンAの蓄積を確認することはできなかった。元来、アクチビンAを発現している動物でも活性型(アクチビン成熟配列)のみを発現させることができておらず、活性型(アクチビン成熟配列)のみを発現させることは極めて困難であることがわかった。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ヒトアクチビンA成熟配列のみをコードする遺伝子ではなく、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードする遺伝子を植物細胞において発現させて、前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成し、次いで、前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質からヒトアクチビンA成熟配列を切り出すことにより、活性を有するヒトアクチビンAを製造できることを新たに見出した。
また、本発明者らは、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質自身が、ヒトアクチビンA活性を有することを新たに見出した。
本発明は、このような新たな知見に基づくものである。
【0008】
本発明は、例えば、以下の態様を含み得る。
〔1〕ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質であって、天然に存在するアクチビンA前駆体タンパク質ではない、組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔2〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、両生類、爬虫類又は魚類のアクチビンAプロドメインである、前記〔1〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔3〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、魚類のアクチビンAプロドメインである、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔4〕前記魚類のアクチビンAプロドメインが、配列番号:1で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する配列を含む、前記〔3〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔5〕前記魚類のアクチビンAプロドメインが、配列番号:1で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する配列を、配列番号:2で示される配列の187位~196位に対応する位置に有する、前記〔4〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔6〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:2で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔7〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:3で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔8〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:4で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔9〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:5で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔10〕前記非ヒトアクチビンAプロドメインが、配列番号:6で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔11〕前記ヒトアクチビンA成熟配列と前記非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含む、前記〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質。
〔12〕前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔13〕前記〔12〕に記載のポリヌクレオチドを含む組換えベクター。
〔14〕前記〔12〕に記載のポリヌクレオチド又は前記〔13〕に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
〔15〕前記〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法であって、前記〔12〕に記載のポリヌクレオチド又は前記〔13〕に記載の組換えベクターを導入した植物細胞又は前記植物細胞を含む植物において、前記ポリヌクレオチドを発現させる工程を含む方法。
〔16〕ヒトアクチビンAを製造する方法であって、
前記〔11〕に記載の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを導入した植物細胞又は前記植物細胞を含む植物において、前記ポリヌクレオチドを発現させ、前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成する工程、及び
前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を前記プロテアーゼにより処理する工程
を含む方法。
【0009】
一実施態様において、ヒトアクチビンA活性を有する組換えアクチビンA前駆体タンパク質を提供することができる。本明細書において、「ヒトアクチビンA活性」は、シグナル伝達因子であるSmadタンパク質を活性化する性質、及び/又はiPS細胞を胚体内胚葉へと分化誘導する性質を意味し得る。
一実施態様において、ヒトアクチビンAを製造するための新規な方法を提供することができる。この製造方法の一態様は、従来の方法よりも簡便であり得る。また、この製造方法の一態様は、従来の方法よりも経済的であり得る。更に、この製造方法の一態様は、従来の方法よりも生産効率が高いものであり得る。
本発明の製造方法により、大腸菌等の微生物を利用する製造方法と異なり、ヒトアクチビンA活性を保持した状態のヒトアクチビンAを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】抗HA抗体でのウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。レーン1及び2は、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をベンサミアナタバコに発現させ、それぞれ4日目及び5日目にタンパク質抽出を行って得た抽出物を用いたものである。レーン3及び4は、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をベンサミアナタバコに発現させ、それぞれ4日目及び5日目にタンパク質抽出を行って得た抽出物を用いたものである。
図2】抗アクチビンA抗体でのウエスタンブロッティングの結果を示す写真である。レーン1は、Coカラム精製したfurinΔCプロテアーゼ;レーン2は、Coカラム精製したゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質;レーン3は、Coカラム精製したfurinΔCプロテアーゼとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質の混合物の還元条件;レーン4は、Coカラム精製したfurinΔCプロテアーゼとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質の混合物の非還元条件をそれぞれ示す。
図3】アクチビンA生物活性測定の結果を示すグラフである。横軸において、左から順に、ネガティブコントロールとしてアクチビンAを含まない試験区(Activin A 0);ポジティブコントロールとしてR&D社製アクチビンAを含む試験区(Activin A 100ng/ml);本発明の方法により製造したアクチビンAを培地の1/1000量含む試験区(ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔCプロテアーゼ 1/1000);本発明の方法により製造したアクチビンAを培地の1/100量含む試験区(ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔCプロテアーゼ 1/100)をそれぞれ示す。縦軸は、Cerberus 1 量(pM)を示す。
図4】Smadレポーターアッセイによる組換えアクチビンA前駆体タンパク質の活性評価を示すグラフである。左から順に、R&D社製アクチビンA(R&D ActA);アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Xeno-Pro ActA);アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔC(Xeno-Pro ActA/Furin);アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Umi-Pro ActA);アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔC(Umi-Pro ActA/Furin);ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Zeb-Pro ActA);アクチビンAを加えていないサンプル(Mock)である。R&D ActAにおける横軸は濃度(ng/mL)を表し、R&D ActAとMock以外における横軸は、精製したタンパク質抽出液の培地に対する希釈率、又は精製したfurinΔCと組換えアクチビンA前駆体タンパク質を混ぜ合わせた粗精製混合溶液の培地に対する希釈率を表す。縦軸は、相対的なSmad活性を示す。
図5】Smadレポーターアッセイによる組換えアクチビンA前駆体タンパク質の活性評価を示すグラフである。左から順に、R&D社製アクチビンA(R&D ActA);ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Zeb-Pro ActA);アメリカナマズ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Amenama-Pro ActA);シーラカンス由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質(Latime-Pro ActA);アクチビンAを加えていないサンプル(Mock)である。R&D ActAにおける横軸は濃度(ng/mL)を表し、R&D ActAとMock以外における横軸は、精製したタンパク質抽出液の培地に対する希釈率を表す。縦軸は、相対的なSmad活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[組換えアクチビンA前駆体タンパク質]
本発明の一実施態様は、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質であって、天然に存在するアクチビンA前駆体タンパク質ではない、組換えアクチビンA前駆体タンパク質(以下、「本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質」と言うことがある。)に関する。本発明の一態様では、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、ヒトアクチビンAを製造するための新規な方法において用いられ得る。また、非ヒトアクチビンAプロドメインを含むアクチビンAの前駆体タンパク質の状態では、ヒトアクチビンA活性を持たないことがこれまで知られていたが、本発明の一態様では、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質はヒトアクチビンA活性を有するものであり得る。
本明細書において、「ヒトアクチビンA成熟配列」とは、ヒト生体内で発現するアクチビンAの前駆体タンパク質(プロアクチビンA)から切り出されて実際に活性を有するアクチビンAのC末端アミノ酸配列のことを言う。「ヒトアクチビンA成熟配列」は、116個のアミノ酸からなる配列であり、後述の配列番号:8で示される配列の304位~419位におけるアミノ酸配列である。
【0012】
本明細書において、「非ヒトアクチビンAプロドメイン」とは、ヒト以外の生物が生体内で発現するアクチビンAの前駆体タンパク質(プロアクチビンA)中に含まれる不活性なN末端アミノ酸配列であって、切り出されて実際に活性を有するアクチビンAのC末端アミノ酸配列と、当該C末端アミノ酸配列のN末端側に隣接しているプロテアーゼ認識配列を除いた部分のアミノ酸配列のことを言う。
本発明の一実施態様において、非ヒトアクチビンAプロドメインは、ヒトを除く哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類又は魚類のアクチビンAプロドメインであり、好ましくは、両生類、爬虫類又は魚類のアクチビンAプロドメインである。下記に、非ヒトアクチビンAプロドメインの例示を挙げるが、非ヒトアクチビンAプロドメインは、本発明において下記の例示のみに限定されるものではない。
本発明において、魚類のアクチビンAプロドメインとしては、DTRRSGWHTL(配列番号:1)のアミノ酸配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する配列を含むものが好ましく、配列番号:1で示される配列と90%以上のアミノ酸配列相同性を有する配列を、後述の配列番号:2で示される配列の187位~196位に対応する位置に有することがより好ましいが、これらに限定されない。
【0013】
例えば、魚類のアクチビンAプロドメインとしては、以下の生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択されるものが挙げられる。ゼブラフィッシュ(Danio rerio)、アメリカナマズ(Ictalurus punctatus)、シーラカンス(Latimeria chalumnae)、Sinocyclocheilus rhinocerous、Sinocyclocheilus anshuiensis、Sinocyclocheilus grahami、コイ(Cyprinus carpio)、キンギョ(Carassius auratus auratus)、ソウギョ(Ctenopharyngodon idellus)、プンダミリア・ニエレリ(Pundamilia nyererei)、メキシカンテトラ(Astyanax mexicanus)、メイランディアゼブラ(Maylandia zebra)、メダカ(Oryzias latipes)、プラティ(Xiphophorus maculatus)、グッピー(Poecilia reticulata)、セイルフィンモーリー(Poecilia latipinna)、アマゾンモーリー(Poecilia formosa)、スリコギモーリー(Poecilia mexicana)、バラマンディ(Lates calcarifer)、タイセイヨウサケ(Salmo salar)、ノーザンパイク(Esox lucius)、アジアアロワナ(Scleropages formosus)、メイランディアゼブラ(Maylandia Zebra)、ハプロクロミス(Haplochromis burutoni)、フウセイ(Larimichthys crocea)、マングローブキリフィッシュ(Kryptolebias marmoratus)、スパイニークロミス(Acanthochromis polyacanthus)、ヒラマサ(Seriola lalandi dorsalis)、スポッテッドガー(Lepisosteus oculatus)、ギンザケ(Oncorhynchus kisutch)、タイセイヨウニシン(Clupea harengus)、ウォーキングキャットフィッシュ(Clarias batrachus)、ピラニア(Pygocentrus nattereri)、ニジマス(Oncorhynchus mykiss)、カクレクマノミ(Amphiprion ocellaris)、バイカラーダムセルフィッシュ(Stegastes partitus)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒレナマズ(Clarias gariepinus)、ティラピア(Oreochromis niloticus)、一年生メダカ(Austrofundulus limnaeus)、マミチョグ(Fundulus heteroclitus)、サザンプラティフィッシュ(Xiphophorus maculatus)、ネオランプロログス・ブリシャルディ(Neolamprologus brichardi)、ベラ(Labrus bergylta)、タウナギ(Monopterus albus)。
魚類のアクチビンAプロドメインは、コイ目、ナマズ目又はシーラカンス目に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。また、魚類のアクチビンAプロドメインは、コイ科、アメリカナマズ科又はラティメリア科に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得、ダニオ属、アメリカナマズ属又はラティメリア属に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。
【0014】
本発明において、非ヒトアクチビンAプロドメインは、上記例示に限定されない魚類のアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有するものであってもよい。
本発明において、好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、ゼブラフィッシュに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列(配列番号:2)と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有する。本発明において、より好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、ゼブラフィッシュに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列を含む。本発明において、更に好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、ゼブラフィッシュに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列からなる。
本明細書において、アミノ酸配列相同性は、公知の解析ツールを用いて算出することができ、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)を用いることにより算出することができる。また、アミノ酸配列相同性の算出には、解析ツールにおけるデフォルト(初期設定)のパラメータを用いればよい。
【0015】
本発明において、好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アメリカナマズに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列(配列番号:3)と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有する。本発明において、より好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アメリカナマズに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列を含む。本発明において、更に好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アメリカナマズに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列からなる。
本発明において、好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、シーラカンスに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列(配列番号:4)と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有する。本発明において、より好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、シーラカンスに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列を含む。本発明において、更に好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、シーラカンスに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列からなる。
【0016】
例えば、両生類のアクチビンAプロドメインとしては、以下の生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択されるものが挙げられる。アフリカツメガエル(Xenopus laevis)、アカハライモリ(Cynops pyrrhogaster)、ネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis)、Nanorana parkeri、コキーコヤスガエル(Eleutherodactylus coqui)、ウシガエル(Lithobates catesbeiana)。
両生類のアクチビンAプロドメインは、無尾目に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。また、両生類のアクチビンAプロドメインは、ピパ科に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得、ツメガエル属に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。
本発明において、非ヒトアクチビンAプロドメインは、上記例示に限定されない両生類のアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有するものであってもよい。
本発明において、好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アフリカツメガエルに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列(配列番号:5)と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有する。本発明において、より好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アフリカツメガエルに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列を含む。本発明において、更に好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アフリカツメガエルに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列からなる。
【0017】
例えば、爬虫類のアクチビンAプロドメインとしては、以下の生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択されるものが挙げられる。アオウミガメ(Chelonia mydas)、インドニシキヘビ(Python molurus)、グリーンアノール(Anolis carolinensis)、フトアゴヒゲトカゲ(Pogona vitticeps)、ニホンヤモリ(Gekko japonicus)、キングコブラ(Ophiophagus hannah)、ガーターヘビ(Thamnophis sirtalis)、タイワンハブ(Protobothrops mucrosquamatus)、ニシキガメ(Chrysemys picta)、ヨウスコウアリゲーター(Alligator sinensis)、インドガビアル(Gavialis gangeticus)、アメリカアリゲーター(Alligator mississippiensis)。
爬虫類のアクチビンAプロドメインは、カメ目に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。また、爬虫類のアクチビンAプロドメインは、ウミガメ科に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得、アオウミガメ属に属する生物に由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列から選択され得る。
本発明において、非ヒトアクチビンAプロドメインは、上記例示に限定されない爬虫類のアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有するものであってもよい。
本発明において、好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アオウミガメに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列(配列番号:6)と90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上のアミノ酸配列相同性を有する。本発明において、より好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アオウミガメに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列を含む。本発明において、更に好ましくは、非ヒトアクチビンAプロドメインは、アオウミガメに由来するアクチビンAプロドメインのアミノ酸配列からなる。
【0018】
本明細書において、「天然に存在するアクチビンA前駆体タンパク質ではない」とは、遺伝子組み換えされていない天然の生物が有する遺伝子の発現により産生されるアクチビンAの前駆体タンパク質(プロアクチビンA)とアミノ酸配列が異なっていることを意味する。即ち、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、遺伝子組み換えされていない天然の生物が有する遺伝子の発現により産生されるアクチビンAの前駆体タンパク質とアミノ酸配列が異なるものである。
例えば、サルなど霊長類におけるアクチビンA成熟配列は、ヒトのアクチビンA成熟配列と同一配列を有するものが存在する。従って、サルのアクチビンA成熟配列とサルのアクチビンAプロドメインを含むアクチビンA前駆体タンパク質は、ヒトのアクチビンA成熟配列とサルのアクチビンAプロドメインを含むアクチビンA前駆体タンパク質と同一ということになるが、本明細書において「天然に存在するアクチビンA前駆体タンパク質ではない」とは、このようなアクチビンA前駆体タンパク質は発明の範囲から除外されていることを意図する。
【0019】
ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含む本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質において、ヒトアクチビンA成熟配列は非ヒトアクチビンAプロドメインよりもC末端側に存在することが好ましい。また、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含むことがより好ましい。プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列は、ヒトアクチビンA成熟配列及び非ヒトアクチビンAプロドメインと隣接していることが好ましく、非ヒトアクチビンAプロドメインのC末端側かつヒトアクチビンA成熟配列のN末端側に隣接していることがより好ましい。
プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列の例としては、フリン(Furin)認識配列、TEVプロテアーゼ認識配列、HRV 3Cプロテアーゼ認識配列、トロンビン認識配列、Xa因子認識配列、エンテロキナーゼ認識配列等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列としては、当該配列のC末端側で切断され得るものであることが好ましく、フリン認識配列がより好ましい。フリン認識配列は、一般的にC末端にアルギニンを有し(C末端がリジンである場合もある)、フリンにより該C末端側が切断され得る配列であり、例えば、標準的なものとしてR-X-(K/R)-R(Xは任意のアミノ酸)で示されるアミノ酸配列で表すことができるが、これに限定されるものではない。
【0020】
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、遺伝子工学的に結合させた任意のタグ、例えば、Hisタグ、HAタグ、FLAGタグ、Mycタグ等を含んでもよい。タグは、アクチビンA前駆体タンパク質の立体構造に影響を与えないものを用いることが好ましく、5~15個のアミノ酸残基からなるものがより好ましい。本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質がタグを含む場合、タグは非ヒトアクチビンAプロドメインのN末端側に存在することが好ましい。
【0021】
[組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド]
本発明の一実施態様は、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドに関する。ポリヌクレオチドは、技術常識に基づき当業者が適宜合成し得る。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、N末端側に遺伝子工学的に結合させた任意のシグナル配列をコードする塩基配列を含み得る。シグナル配列は、小胞体移行シグナル配列であることが好ましく、シロイヌナズナ由来小胞体移行シグナル配列等、当業者に公知のものを用い得る。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質が非ヒトアクチビンAプロドメインのN末端側にタグを含む場合、当該組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、タグをコードする塩基配列の更にN末端側にシグナル配列をコードする塩基配列を含むことが好ましい。
【0022】
[組換えベクター]
本発明の一実施態様は、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターに関する。使用し得るベクターとしては、当該ポリヌクレオチドを機能的に挿入することができ、宿主細胞内で異種核酸断片の複製又は発現をもたらすよう当該断片を宿主細胞内に運搬することができるものであればよく、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド及びウイルスが挙げられる。ベクターは、想定される宿主細胞の種類に応じて当業者が適宜選択し得る。
本発明において、宿主細胞としては、例えば、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞(酵母)、原核細胞(大腸菌)及び動物細胞(CHO)等が挙げられる。その中でも、宿主細胞として特に植物細胞が想定されるため、ベクターはpRI 201 DNAシリーズ(TAKARA BIO社)等の植物細胞用発現ベクターであることが好ましいが、これに限定されるものではない。植物細胞の種類に応じて、それぞれ適したベクターを選択して用いればよい。
【0023】
[形質転換体]
本発明の一実施態様は、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む形質転換体、又は本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む組換えベクターを含む形質転換体に関する。
本明細書において、「形質転換体」とは、異種核酸断片を導入された宿主又は宿主細胞のことを意味する。形質転換用核酸断片、即ち、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、宿主又は宿主細胞のゲノム内に組み入れられてもよく、また組み入れられていなくてもよい。例えば、形質転換用核酸断片はエピソームやプラスミドにおいて維持されてもよい。遺伝子の導入は、技術常識に基づき当業者が適宜行い得る。例えば、形質転換体は植物細胞又は植物体であることが好ましいが、遺伝子を植物細胞又は植物体に導入する手法としては、アグロインフィルトレーション法や植物ウイルスベクター法等が知られている。
【0024】
[組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法]
本発明の一実施態様は、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法である。本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法は、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド若しくは当該ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを導入した植物細胞、又は当該植物細胞を含む植物において、当該ポリヌクレオチドを発現させる工程を含む。これにより、植物細胞又は植物が目的の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を産生し得る。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において、ポリヌクレオチドの発現は、植物細胞又は植物において一過性であっても安定的であってもよい。植物細胞の培養条件は、用いる植物細胞の種類に応じて、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。例えば、培養を行う環境の温度、湿度及び二酸化炭素濃度等の条件や培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得る。植物の栽培条件においても同様に、用いる植物の種類に応じて、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
【0025】
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において用いられ得る植物は、特に限定されないが、アグロバクテリウムに感染する植物であることが好ましい。例えば、植物は、双子葉植物であってもよいし、単子葉植物であってもよい。双子葉植物としては、タバコ、トマト、ジャガイモ等のナス科植物、シロイヌナズナ、セイヨウアブラナ、ブロッコリー、キャベツ等のアブラナ科植物、シュンギク、レタス等のキク科植物、イチゴ、ウメ、リンゴ、モモ等のバラ科植物、ダイズ、ラッカセイ、リョクトウ等のマメ科植物、ニンジン、セロリ等のセリ科植物、メロン、スイカ、キュウリ等のウリ科植物、アサガオ、サツマイモ等のヒルガオ科植物、ホウレンソウ、キヌア、テンサイ等のアカザ科植物等が挙げられる。単子葉植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等のイネ科植物、ニンニク、タマネギ、ネギ等のユリ科植物等が挙げられる。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において用いられる植物として好ましいのは、ナス科植物であり、タバコがより好ましい。タバコとしては、例えば、ベンサミアナアタバコ(Nicotiana benthamiana)、ニコチアナタバカム(Nicotiana tabacum)、ルスティカタバコ(Nicotiana rustica)、トメントシフォルミス(Nicotiana tomentosiformis)、シルベストリス(Nicotiana sylvestris)等が挙げられ、好ましくはベンサミアナアタバコである。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において用いられ得る植物細胞も特に限定されず、上記植物の細胞を使用することができる。
【0026】
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法において、当該組換えアクチビンA前駆体タンパク質が、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含む場合、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列は、宿主細胞として使用する植物細胞中に内在するプロテアーゼにより切断されないものである。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法は、植物細胞又は植物体において産生された組換えアクチビンA前駆体タンパク質を、植物細胞又は植物体から抽出する工程を更に含み得る。例えば、植物細胞からのタンパク質の抽出は、水やバッファーと共にミキサーや乳鉢のようなもので組織を破砕することによって行うことができる。このような抽出工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質を製造する方法は、植物細胞又は植物体から抽出して得た組換えアクチビンA前駆体タンパク質を含む抽出液を精製する工程を更に含み得る。例えば、組換えタンパク質にはあらかじめエピトープタグを付加し、付加したエピトープに応じた精製手法によって精製することができる。エピトープタグとしては、ヒスチジンタグ、HAタグ、GSTタグ、MBPタグ、MYCタグ、DYKDDDDKタグ、ストレプトアビジンタグ等があげられる。このような精製工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
【0027】
[ヒトアクチビンAの製造方法]
本発明の一実施態様は、ヒトアクチビンAを製造する方法(以下、「本発明のヒトアクチビンAの製造方法」と言うことがある。)であり、この製造方法により製造されたヒトアクチビンAは、ヒトアクチビンA活性を有するものであり得る。
本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、少なくとも以下の2つの工程を含む。
1.本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は前記ポリヌクレオチドを含む組換えベクターを導入した植物細胞又は前記植物細胞を含む植物において、前記ポリヌクレオチドを発現させ、前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成する工程。ここで、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含み、かつ前記ヒトアクチビンA成熟配列と前記非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含むものである。
2.前記組換えアクチビンA前駆体タンパク質を前記プロテアーゼにより処理する工程。
【0028】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法において、組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、上述した本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質のうち、ヒトアクチビンA成熟配列と非ヒトアクチビンAプロドメインを含み、かつ前記ヒトアクチビンA成熟配列と前記非ヒトアクチビンAプロドメインとの間に、プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列を含む態様のものである。プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列は、ヒトアクチビンA成熟配列及び非ヒトアクチビンAプロドメインと隣接していることが好ましく、非ヒトアクチビンAプロドメインのC末端側かつヒトアクチビンA成熟配列のN末端側に隣接していることがより好ましい。
プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列の例としては、フリン(Furin)認識配列、TEVプロテアーゼ認識配列、HRV 3Cプロテアーゼ認識配列、トロンビン認識配列、Xa因子認識配列、エンテロキナーゼ認識配列等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。プロテアーゼにより特異的に切断可能な配列としては、当該配列のC末端側で切断され得るものであることが好ましく、フリン認識配列がより好ましい。フリン認識配列は、一般的にC末端にアルギニンを有し(C末端がリジンである場合もある)、フリンにより該C末端側が切断され得る配列であり、例えば、標準的なものとしてR-X-(K/R)-R(Xは任意のアミノ酸)で示されるアミノ酸配列で表すことができるが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法において、ポリヌクレオチドの発現は、植物細胞又は植物において一過性であっても安定的であってもよい。植物細胞の培養条件は、用いる植物細胞の種類に応じて、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。例えば、培養を行う環境の温度、湿度及び二酸化炭素濃度等の条件や培養培地は、それぞれの細胞に適したものであれば特に限定されず、従来公知のものから選択し得る。植物の栽培条件においても同様に、用いる植物の種類に応じて、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
【0030】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法において用いられ得る植物は、特に限定されないが、アグロバクテリウムに感染する植物であることが好ましい。例えば、植物は、双子葉植物であってもよいし、単子葉植物であってもよい。双子葉植物としては、タバコ、トマト、ジャガイモ等のナス科植物、シロイヌナズナ、セイヨウアブラナ、ブロッコリー、キャベツ等のアブラナ科植物、シュンギク、レタス等のキク科植物、イチゴ、ウメ、リンゴ、モモ等のバラ科植物、ダイズ、ラッカセイ、リョクトウ等のマメ科植物、ニンジン、セロリ等のセリ科植物、メロン、スイカ、キュウリ等のウリ科植物、アサガオ、サツマイモ等のヒルガオ科植物、ホウレンソウ、キヌア、テンサイ等のアカザ科植物等が挙げられる。単子葉植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、トウモロコシ等のイネ科植物、ニンニク、タマネギ、ネギ等のユリ科植物等が挙げられる。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において用いられる植物として好ましいのは、ナス科植物であり、タバコがより好ましい。タバコとしては、例えば、ベンサミアナアタバコ(Nicotiana benthamiana)、ニコチアナタバカム(Nicotiana tabacum)、ルスティカタバコ(Nicotiana rustica)、トメントシフォルミス(Nicotiana tomentosiformis)、シルベストリス(Nicotiana sylvestris)等が挙げられ、好ましくはベンサミアナアタバコである。
本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の製造方法において用いられ得る植物細胞も特に限定されず、上記植物の細胞を使用することができる。
【0031】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法において、植物細胞内又は植物体内で生成した組換えアクチビンA前駆体タンパク質をプロテアーゼにより処理することで、ヒトアクチビンA成熟配列が切り出される。ヒトアクチビンA成熟配列は、それ自体でヒトアクチビンAを構成しているものであり、このように本発明のヒトアクチビンAの製造方法により製造されるヒトアクチビンAは、その活性を保持した状態であることができる。
本発明のヒトアクチビンAの製造方法において用いられ得るプロテアーゼとしては、furinプロテアーゼ、TEVプロテアーゼ、HRV 3Cプロテアーゼ、トロンビン、Xa因子、エンテロキナーゼ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、プロテアーゼは、認識配列のC末端を切断するものであり、より好ましくはfurinプロテアーゼである。なお、furinプロテアーゼは脂質ラフト型で本来は不溶性のプロテアーゼであるが、昆虫細胞を用いて脂質ラフト領域を欠失させて分泌可溶化型に変換した報告があり(Bravo, D. a., Gleason, J. B., Sanchez, R. I., Roth, R. a. & Fuller, R. S. Accurate and efficient cleavage of the human insulin proreceptor by the human proprotein-processing protease furin. Characterization and kinetic parameters using the purified, secreted soluble protease expressed by a recombinant baculovirus. J. Biol. Chem. 269, 25830-25837 (1994)、ここに本明細書の一部を構成するものとして当該文献の内容を参照により引用する。)、このようなfurinプロテアーゼのC末端に存在する脂質ラフト領域を欠失させたfurinフリンプロテアーゼを本発明のヒトアクチビンAの製造方法において用いることができる。
【0032】
プロテアーゼによる処理は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成した植物細胞内又は植物体内で行われてもよい。この場合、プロテアーゼは、植物細胞内又は植物体内に自然発生的に存在するプロテアーゼでもよいし、植物細胞内又は植物体内に自然発生的には存在しないプロテアーゼを、遺伝子導入による形質転換によって植物細胞内又は植物体内で発現させるようにしたものでもよい。このような遺伝子の植物細胞又は植物体への導入は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができ、アグロインフィルトレーション法や植物ウイルスベクター法等の手法により行うことができる。
また、プロテアーゼによる処理は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質を生成した植物細胞外又は植物体外で行われてもよい。この場合、プロテアーゼは市販のものでもよいし、組換えアクチビンA前駆体タンパク質とは別に作成したものでもよい。例えば、furinプロテアーゼのC末端に存在する脂質ラフト領域を欠失させたfurinフリンプロテアーゼは、分泌可溶化型に変換したものであり、このfurinフリンプロテアーゼを組換えアクチビンA前駆体タンパク質とは別に作成し用いることで、furinプロテアーゼを植物細胞外又は植物体外で組換えアクチビンA前駆体タンパク質に作用させることができる。
【0033】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、植物細胞又は植物体において生成した組換えアクチビンA前駆体タンパク質を、植物細胞又は植物体から抽出する工程を更に含み得る。例えば、植物細胞からのタンパク質の抽出は、水やバッファーと共にミキサーや乳鉢のようなもので組織を破砕することによって行うことができる。このような抽出工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。当該抽出工程は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質をプロテアーゼにより処理する工程の前に行われる。
本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、植物細胞又は植物体から抽出して得た組換えアクチビンA前駆体タンパク質を含む抽出液を精製する工程を更に含み得る。例えば、組換えタンパク質にはあらかじめエピトープタグを付加し、付加したエピトープに応じた精製手法によって精製することができる。エピトープタグとしては、ヒスチジンタグ、HAタグ、GSTタグ、MBPタグ、MYCタグ、DYKDDDDKタグ、ストレプトアビジンタグ等が挙げられる。このような精製工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。当該精製工程は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質をプロテアーゼにより処理する工程の前に行われる。
【0034】
本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、組換えアクチビンA前駆体タンパク質をプロテアーゼにより処理する工程を植物細胞内又は植物体内で行った場合、当該処理工程の後に、植物細胞又は植物体において生成したヒトアクチビンAを、植物細胞又は植物体から抽出する工程を更に含み得る。例えば、植物細胞からのタンパク質の抽出は、水やバッファーと共にミキサーや乳鉢のようなもので組織を破砕することによって行うことができる。このような抽出工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、植物細胞又は植物体から抽出して得たヒトアクチビンAを含む抽出液を精製する工程を更に含み得る。例えば、組換えタンパク質にはあらかじめエピトープタグを付加し、付加したエピトープに応じた精製手法によって精製することができる。エピトープタグとしては、ヒスチジンタグ、HAタグ、GSTタグ、MBPタグ、MYCタグ、DYKDDDDKタグ、ストレプトアビジンタグ等が挙げられる。このような精製工程は、技術常識に基づき当業者が適宜行うことができる。
【実施例
【0035】
以下において、本発明について、具体的な実施例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
[材料及び方法]
1.使用した植物とその栽培方法
植物としてタバコ(品種:ベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana))を用いた。クミアイニッピ園芸培土1号とバーミキュライトを1:1で混合した培土を調製し、調製した培土をプラグトレイに充填した。タバコ種子をプラグトレイ上に播種し、約4週間栽培を行った後、3号ポリポットに移植を行った。アグロインフィルトレーションにはポリポット移植後、2~3週目の植物を用いた。光強度はアグロインフィルトレーション前までは約70μmol m-2 s-1(バイオトロンB室下段)で行い、アグロインフィルトレーション後は約150μmol m-2 s-1(バイオトロンB室上段)で栽培を行った。
【0037】
2.プラスミドベクターの構築と人工遺伝子合成
pRI201-ANベクター(TAKARA BIO社)を用い、AtADH 5’UTRの直下にあるNdeIサイトとさらに下流のSalIサイトの間に、人工遺伝子である各種インサートDNAを挿入した。インサートDNAの挿入はGibson Assembly(登録商標) Master Mixを用いた。
人工遺伝子の合成はThermo Fisher Scientific社のGeneArt(登録商標) StringsTM DNA Fragmentsサービスにて合成を行った。合成した遺伝子はThermo Fisher Scientific社が提供しているGeneArt(登録商標) GeneOptimizer(登録商標)を用いてNicotiana benthamianaのコドン出現頻度に合わせて最適化した。
実験に使用した人工遺伝子を表1に示す。
【0038】
【表1】
ABC-SP:Arabidopsis basic chitinase由来小胞体移行シグナルペプチド
ゼブラフィッシュPro-domain:ゼブラフィッシュに由来するアクチビンAプロドメイン
アメリカナマズPro-domain:アメリカナマズに由来するアクチビンAプロドメイン
シーラカンスPro-domain:シーラカンスに由来するアクチビンAプロドメイン
アフリカツメガエルPro-domain:アフリカツメガエルに由来するアクチビンAプロドメイン
アオウミガメPro-domain:アオウミガメに由来するアクチビンAプロドメイン
Furin:Furin認識配列
ヒトActivin A:ヒトアクチビンA成熟配列
【0039】
3.大腸菌及びアグロバクテリウムの系統と形質転換
大腸菌はNEB(登録商標)10-beta株(NEB社)、アグロバクテリウムはLBA4404株(TAKARA BIO社)を用い、製品に添付のプロトコールに従いそれぞれ形質転換を行った。第一に大腸菌で各々のプラスミドベクターを増やしてから回収し、次いで、各々のプラスミドベクターをアグロバクテリウムに導入した。培養には、大腸菌、アグロバクテリウムともにLB培地を用いた。大腸菌は37℃、アグロバクテリウムは28℃にて培養を行った。
【0040】
4.アグロインフィルトレーション
各々の導入遺伝子を保持しているアグロバクテリウムを、3mlのLB培地、28℃で一晩前培養した。前培養したアグロバクテリウム懸濁液をLB培地で10倍希釈(9mlのLBに1mlのアグロ溶液)し、終濃度100μMとなるようにアセトシリンゴンを加えて4時間本培養を行った。本培養した懸濁液を4000gで5分間遠心し、菌体を回収した。回収したペレットを10mM MES (pH5.5)+10mM MgCl2溶液でO.D.600=0.5になるように懸濁し、アセトシリンゴンを終濃度200μMとなるように添加した。このように調製した菌液を室温25℃で1時間~3時間静置した。その後、1mlの針なしシリンジを用い、タバコ葉の裏面からシリンジをあて、上面を指で挟むことによって加圧状態にし、葉に菌液を注入(アグロインフィルトレーション)した。アグロインフィルトレーション後は約150μmol m-2 s-1(バイオトロンB室上段)で栽培を行い、接種後4日~7日の間でサンプリングを行った。
【0041】
5.タンパク質抽出
アグロインフィルトレーションした葉を回収し、新鮮重量を計量した後、冷蔵した抽出バッファーを新鮮重量の3倍量添加し、生のままもしくは-80℃で冷凍させた葉を乳鉢にて破砕した。抽出バッファーには、D-PBSに対してNaClを終濃度0.3~1Mになるように添加し、さらにTween-20を0.5%から1%になるように添加し、pHを7.4に調製したバッファーを用いた。金属アフィニティー精製に用いる場合は、イミダゾールを終濃度5~15mMになるように添加した。また、金属アフィニティー精製専用のバッファーとして市販のxTractorバッファー(TAKARA BIO社)も使用した。
【0042】
6.金属アフィニティー精製
タンパク質抽出液をCR22G III遠心機(日立社)、18,000g、4℃で15分間遠心し、細胞の破片を沈殿させて上清を回収した。上清をhimac 50ml培養管(日立社)に移し、32,200g、4℃で30~60分間遠心することで、さらに細かな破片を沈殿させて上清を回収した。上清にTALON(登録商標) Metal Affinity Resin(TAKARA BIO社)又はHis60 Ni Superflow Resin(TAKARA BIO社)を適当量添加し、4℃で20分以上振盪してResinへタンパク質を吸着させた。その後、自然落下式カラムにResinを含む溶液を移し、フロースルーを回収した。次に、Resin体積の5倍容量のWashバッファー(D-PBS+終濃度0.3M NaCl、15mMイミダゾール、pH7.4)で洗浄した。溶出は、Coレジン用溶出バッファー(D-PBS+終濃度0.3M NaCl、150mMイミダゾール、1mM CaCl2、pH7.4)又はNiレジン用溶出バッファー(D-PBS+終濃度0.3M NaCl、0.5Mイミダゾール、1mM CaCl2、pH8.0)をResin体積の2倍量添加して行い、溶出液を回収した。
【0043】
7.ウエスタンブロッティング
タンパク泳動時のサンプルは、試料緩衝液(SDS-PAGE用、6倍濃縮、還元剤含有)pH6.0(ナカライ社)を添加後、100℃で3分間加熱した。還元剤としてDTT又はメルカプトエタノールを用いた。非還元用サンプルの調製には、NuPAGE(登録商標) 4X LDS Sample Bufferを添加し、70℃で10分間処理した。ポリアクリルアミドゲルはe・パジェル 15%(ATTO社)を用いて電気泳動を行った。その後、セミドライ式ブロッティング装置PoweredBlot Ace(ATTO社)を用いてPVDFメンブレンに転写した。1次抗体に目的タンパク質に対する抗体を、2次抗体に各宿主動物に対するHRP抗体を用いた。抗アクチビン抗体はヤギ由来ポリクローナル抗体(R&D systems社 製品コード AF338)を用いた。抗HA抗体はラットモノクローナル抗体Anti-HA High Affinity(Roche社)を用いた。検出には、GEヘルスケア社のECLTM Prime Western Blotting Detection Reagentを用い、LAS-3000(Fujifilm社)で検出した。
【0044】
抗HA抗体にて検出を行った結果を図1に示す。レーン1及び2は、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をベンサミアナタバコに発現させ、それぞれ4日目及び5日目にタンパク質抽出を行って得た抽出物を用いたものである。レーン3及び4は、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をベンサミアナタバコに発現させ、それぞれ4日目及び5日目にタンパク質抽出を行って得た抽出物を用いたものである。
図1に示されるとおり、還元状態で、単量体プロアクチビンAの推定分子量(約44kDa)付近にバンドが検出され、非還元状態で、2量体プロアクチビンAの推定分子量(約88kDa)付近にバンドが検出された。このことから、産生されたタンパク質は、還元剤でジスルフィド結合を切断することができる状態で存在しており、天然に近い状態で折りたたまれていることが示唆された。
【0045】
抗アクチビンA抗体にて検出を行った結果を図2に示す。レーン1は、furinプロテアーゼのC末端に存在する脂質ラフト領域を欠失させ、Hisタグを付加した可溶性のfurinプロテアーゼを合成し(furinΔCプロテアーゼ)、Coカラム精製したもの単独を示す。レーン2は、Coカラム精製したゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質単独を示す。レーン3は、Coカラム精製したfurinΔCプロテアーゼとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質の混合物の還元条件を示す。レーン4は、Coカラム精製したfurinΔCプロテアーゼとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質の混合物の非還元条件を示す。furinΔCプロテアーゼは、Bravo, D. a., Gleason, J. B., Sanchez, R. I., Roth, R. a. & Fuller, R. S. Accurate and efficient cleavage of the human insulin proreceptor by the human proprotein-processing protease furin. Characterization and kinetic parameters using the purified, secreted soluble protease expressed by a recombinant baculovirus. J. Biol. Chem. 269, 25830-25837 (1994)に記載のとおりfurinプロテアーゼのC末端に存在する脂質ラフト領域を欠失させて分泌可溶化型に変換しつつ、Hisタグを付加した可溶性のfurinプロテアーゼを植物細胞を用いて合成したものである(上記文献では昆虫細胞を用いているが、植物細胞においても同様に合成できる)。furinΔCプロテアーゼは、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質とは別々に合成し、精製した。これにより、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質がfurinプロテアーゼによって切断を受けてプロドメインと活性領域である成熟配列が分離した結果、成熟配列が植物体内の内生プロテアーゼによって分解されてしまう、という可能性を回避した。
別々に精製したfurinΔCプロテアーゼとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質を濃度比7:5で混ぜ合わせて30℃で30分間処理した結果、プロドメインがほとんど切断され、還元条件において活性型と考えられるバンドが推定分子量(約12kDa)付近に検出された。また、非還元条件では抗体の認識がうまくいかなかったためか、2量体の推定分子量(約24kDa)付近に薄いバンドが検出された。
【0046】
8.アクチビンAの生物活性測定
ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質をfurinΔCプロテアーゼで切断することによって活性型ヒトアクチビンAの推定分子量である約12kDa付近にバンドが検出されたことから、iPS細胞から胚体内胚葉(Definitive Endoderm, DE)への分化を指標としたアクチビンAの生物活性を以下のとおり確認した。
AK01培地で維持培養を行っていたヒトiPS細胞(1231A3株)を、iMatrixでコートした96 well plateに4 x 104 cells/wellで播種した。24時間後、DE分化培地(本発明の方法により製造したアクチビンA又は市販品, 2% B27 supplement, 3μM CHIR99021)に培地交換し、分化誘導を開始した。翌日同組成でCHIR99021を含まない培地に交換し、その後毎日培地交換を実施した。評価はR&D社の市販品を対照として実施し、培養上清中のCerberus 1量を測定することによりDE分化の指標とした。なお、Cerberus 1はDE段階に特異的に発現する分泌タンパク質であり、iPS細胞からDEへの分化にはアクチビンAが必須であることがわかっている。
本発明の方法により製造したアクチビンAは、Coカラムで精製したfurinΔCとゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質を混ぜ合わせた粗精製混合溶液として評価を行った。本発明の方法により植物で合成し、Coカラムで精製した組換えアクチビンA前駆体タンパク質は粗精製状態で濃度不明であったため、粗精製混合溶液を、培地の1/1000量あるいは1/100量をそれぞれ添加し使用した。分化誘導後5日目に上清を回収し、ES/iPS Differentiation Monitoring Kit(Dojindo, #ES01)を用いて培養上清中のCerberus 1量をELISA法にて定量した。
【0047】
アクチビンA生物活性測定の結果を図3に示す。横軸において、左から順に、ネガティブコントロールとしてアクチビンA含まない試験区(Activin A 0);ポジティブコントロールとしてR&D社製アクチビンAを含む試験区(Activin A 100ng/ml);本発明の方法により製造したアクチビンAを培地の1/1000量含む試験区(ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔC 1/1000);本発明の方法により製造したアクチビンAを培地の1/100量含む試験区(ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質 + furinΔC 1/100)をそれぞれ示す。縦軸は、Cerberus 1 量(pM)を示す。
図3に示されるとおり、DE分化を指標とした活性評価において、本発明の方法により植物を用いて製造された、furinプロテアーゼ切断により生成されたヒトアクチビンAには濃度依存的な活性が認められた。また、その活性の強さは、1/100 量添加で、R&D 100ng/mL の85%程度であった。
【0048】
9.Smadレポーターアッセイによる活性評価
本発明の方法により製造した、組換えアクチビンA前駆体タンパク質、及びfurinプロテアーゼ切断により生成されたヒトアクチビンAを用いて、アクチビンAで活性化されるSmadシグナルの強度をCignal Smad reporter assay (QIAGEN)を用いて定量した。
まず、Opti-MEM培地25μLに対し、0.6μLのAttractene試薬(QIAGEN)を添加し、室温で5分間インキュベートを行った。上記混合溶液に対し、Opti-MEM培地25μLと1μLのSmad reporter vector(QIAGEN)の混合溶液を加え、室温で20分間インキュベートした。この混合溶液をCollagen I-coated 96-well plate(IWAKI)に添加し、その上から40,000 cell/wellのHEK293E細胞を播種し、37 ℃、5% CO2インキュベータ内で終夜インキュベートすることで、Smad reporter vectorのトランスフェクションを行った。
トランスフェクションが完了した後、培養上清を全て除去した。0.5% FBS、1% NEAA及びペニシリン-ストレプトマイシンを含むOpti-MEM培地(飢餓培地)を75μL添加し、37 ℃で4時間培養することで、細胞を飢餓状態にした。
【0049】
本発明の方法により製造したヒトアクチビンA若しくは組換えアクチビンA前駆体タンパク質、又は対照としてR&D社製のアクチビンAを終濃度の2倍の濃度となるように加えた飢餓培地を、細胞に対して75μL加え、37 ℃、5% CO2インキュベータ内で終夜培養することで細胞への刺激を行った。本発明の方法により製造したヒトアクチビンAは、上記8と同じく、Coカラムで精製したfurinΔCとアフリカツメガエル又はアオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質を混ぜ合わせた粗精製混合溶液として評価を行い、図4に記載のとおりの倍率で希釈して使用した。本発明の方法により植物で合成した組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、上記のとおり作成したものであり、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含むものについてはNiカラムで精製したタンパク質抽出液を用い、その他のものについてはCoカラムで精製したタンパク質抽出液を用い、図4及び5に記載のとおりの倍率で希釈して使用した。各抽出液中の組換えアクチビンA前駆体タンパク質の濃度は、アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質が362 ng/μL、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質が63 ng/μL、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質が332 ng/μL、アメリカナマズ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質が178 ng/μL、シーラカンス由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質が114 ng/μLであった。濃度は、タンパク質精製後にBradford法で求めたものである。
【0050】
レポーターアッセイにはDual-Luciferase Reporter Assay System (Promega)を使用した。100μLの培地上清を除去し、Glo reagentを50μL添加し、室温で10分間細胞を溶解した。細胞の溶解液から発せられるFirefly luciferaseの発光をプレートリーダーで検出することで、Smad経路の活性化を定量した。続いて、50μLのGlo & Stop reagent溶液を添加し、10分後に内部標準であるRenilla luciferaseの発光を検出し、細胞数の定量を行った。Smad activity = (Firefly luciferaseの発光強度)/(Renilla luciferaseの発光強度) として、各サンプルのSmad activityを定量した。アクチビンAを加えていないサンプル(Mock)に対する相対的なSmad活性の値を求め、Relative Smad activityとした。
【0051】
結果を図4及び5に示す。図4において、左から順に、R&D社製アクチビンA、アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質を酵素切断して得られたヒトアクチビンA、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質を酵素切断して得られたヒトアクチビンA、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質である。
図5において、左から順に、R&D社製アクチビンA、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アメリカナマズ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、シーラカンス由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質である。
【0052】
これらの結果より、ゼブラフィッシュ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アフリカツメガエル由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アオウミガメ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、アメリカナマズ由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質、及びシーラカンス由来プロドメインを含む組換えアクチビンA前駆体タンパク質のいずれも活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、アクチビンのような折りたたみの難しいタンパク質であってもリフォールディングを経ずに活性型を得ることができる。本発明のヒトアクチビンAの製造方法は、工業的なヒトアクチビンA生産への利用が期待できる。
また、本発明の組換えアクチビンA前駆体タンパク質は、従来の知見とは異なり、ヒトアクチビンA活性を有しており、様々な場面での活用が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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