(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット
(51)【国際特許分類】
C08G 65/48 20060101AFI20230807BHJP
C08G 81/00 20060101ALI20230807BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230807BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C08G65/48
C08G81/00
C09K3/00 112D
C09K3/18 101
C09K3/18 102
(21)【出願番号】P 2017039457
(22)【出願日】2017-03-02
【審査請求日】2020-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】細井 龍史
【審判官】小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-290264(JP,A)
【文献】特表2013-544311(JP,A)
【文献】特開平9-302328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G5/00-67/04
C08G81/00-85/00
C09K3/00,3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
HO-A-R
F-A-OH 〔I〕
(ここで、R
Fは炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1~6のアルキレン基である)で表されるフルオロエーテルアルコール、トリアジン誘導体およびポリアルキレングリコールの縮合物であって、フルオロエーテルアルコール100重量部に対し、トリアジン誘導体5.7~
68重量部およびポリアルキレングリコール70~1,000重量部が用いられた
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット。
【請求項2】
一般式〔I〕で表されるフルオロエーテルアルコールが、一般式
HO(CH
2)
aC
mF
2m(OC
nF
2n)
bO(CF
2)
cO(C
nF
2nO)
dC
mF
2m(CH
2)
aOH 〔II〕
(ここで、aは1~6の整数、b+dは0~50の整数、cは1~6の整数、mは1~2の整数、nは1~3の整数である)で表される含フッ素ジオール化合物である請求項1記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット。
【請求項3】
一般式〔II〕で表されるフルオロエーテルアルコールが、一般式
HO(CH
2)
aCF(CF
3)〔OCF
2CF(CF
3)〕
bO(CF
2)
cO〔CF(CF
3)CF
2O〕
dCF(CF
3)(CH
2)
aOH 〔III〕
(ここで、aは1~6の整数、b+dは0~50の整数、cは1~6の整数である)で表される含フッ素ジオール化合物である請求項2記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット。
【請求項4】
トリアジン誘導体が2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジン、1,3,5-s-トリアジン、2,4-ジクロロ-1,3,5-トリアジンまたは2-アルキル-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジンである請求項1記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット。
【請求項5】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項1記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジット。
【請求項6】
請求項1、2または3記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットの有機溶媒分散液。
【請求項7】
請求項1、2または3記載の
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットを有効成分とする表面処理剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットに関する。さらに詳しくは、防汚剤等として好適に用いられるフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
防汚に必要な性能としては、汚れの付着を防止するための撥油性と付着した汚れを洗い流すための親水性とが必要とされている。
【0003】
基材表面に親水性を付与するために、そこに酸化チタンを固定させ、光触媒の作用による超親水化を図り、基材表面の汚れを洗い流す方法などが知られている。しかしながら、酸化チタンによる超親水化技術では、汚れの付着防止を図る性能が不十分であり、その上汚れの付着により、光触媒として十分に機能し得ない場合が生ずるなどの問題が残っている。
【0004】
一方、基材表面に撥油性を付与するために、主としてフッ素化合物、特にパーフルオロアルキル基含有化合物の重合体を表面処理剤として用いる方法が知られているが、含フッ素化合物重合体は撥油性と同時に撥水性をも示し、親水化されていないため、基材表面に汚れだけ残る状態が生じることがあり、問題となっている。
【0005】
このことから、水洗による自動洗浄を可能にする表面処理剤としては、撥油性と親水性とを併せ持つ親水撥油剤が必要とされ、すぐれた親水撥油剤であれば、防汚性能を示す表面処理剤としてだけではなく、濡れ性の向上により、水の速乾性や油水分離性なども期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-38015号公報
【文献】米国特許第3,574,770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、親水撥油性を示し、特に親水性において卓越した性能を示すフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、一般式
HO-A-RF-A-OH 〔I〕
(ここで、RFは炭素数6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有する、直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはポリフルオロアルキレン基であり、Aは炭素数1~6のアルキレン基である)で表されるフルオロエーテルアルコール、トリアジン誘導体およびポリアルキレングリコールの縮合物であって、フルオロエーテルアルコール100重量部に対し、トリアジン誘導体5.7~68重量部およびポリアルキレングリコール70~1,000重量部が用いられたフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットによって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットは、各種基材に対して適用したとき親水撥油性を示し、特に親水性において卓越した性能を示すので、防汚剤等として有効に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンポジットは、フルオロエーテルアルコール、トリアジン誘導体およびポリアルキレングリコールの縮合物からなる。
【0011】
フルオロエーテルアルコールとしては、一般式
HO-A-RF-A-OH 〔I〕
RF:C6以下のパーフルオロアルキレン基およびエーテル結合を有し、炭素数5~
160の直鎖状または分岐状のパーフルオロアルキレン基またはそれのフッ素
原子の一部が水素原子で置換されたポリフルオロアルキレン基
A:C1~C6のアルキレン基
で表される化合物で用いられる。
【0012】
一般式〔I〕で表されるフルオロエーテルアルコールとしては、一般式
HO(CH2)aCmF2m(OCnF2n)bO(CF2)cO(CnF2nO)dCmF2m(CH2)aOH 〔II〕
a:1~6
b+d:0~50
c:1~6
m:1~2
n:1~3
で表される化合物が挙げられる。
【0013】
一般式〔II〕で表されるフルオロエーテルアルコールとしては、例えば一般式
HO(CH2)aCF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)(CH2)aOH 〔III〕
a:1~6、好ましくは1~3、特に好ましくは1
b+d:0~50、好ましくは1~20
b+dの値に関しては、分布を有する混合物であってもよい
c:1~6、好ましくは2~4
で表される化合物等が用いられる。
【0014】
一般式〔III〕で表されるフルオロエーテルアルコールにおいて、a=1の化合物は特許文献1~2に記載されており、次のような一連の工程を経て合成される。
FOCRfCOF → H3COOCRfCOOCH3 → HOCH2RfCH2OH
Rf:-CF(CF3)〔OCF2CF(CF3)〕bO(CF2)cO〔CF(CF3)CF2O〕dCF(CF3)-
【0015】
一般式〔I〕で表される、ポリフルオロアルキレン基を有するフルオロエーテルアルコールとしては、例えば一般式
HO(CH2CH2O)pCH2CF2(OCF2CF2)q(OCF2)rOCF2CH2(OCH2CH2)pOH 〔IV〕
p:0~6、好ましくは1~4
q+r:0~50、好ましくは10~40
で表される化合物等が用いられる。
【0016】
トリアジン誘導体としては、2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジン、1,3,5-s-トリアジン、2,4-ジクロロ-1,3,5-トリアジン、2-アルキル-4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン等が用いられ、好ましくは2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジンが用いられる。
【0017】
トリアジン誘導体は、フルオロエーテルアルコール100重量部に対して5.7~68重量部の割合で用いられる。
【0018】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピルグリコール等が用いられ、好ましくはポリエチレングリコール〔PEG〕が用いられる。
【0019】
親水性を付与するために用いられるポリエチレングリコールは、親水性を調整するためにそれの分子量での制御が行われ、平均分子量は約400~4,000、好ましくは400~3,000、特に好ましくは2,000~3,000程度である。平均分子量がこれよりも大きくなると、親水性のみが強く発現し、撥油性が低下する場合がみられる。
【0020】
ポリアルキレングリコールは、フルオロエーテルアルコール100重量部に対し70~1,000重量部、好ましくは100~700重量部の割合で用いられる。
【0021】
フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットの調製には、有機溶媒、例えばC1~C3の炭化水素アルコール、C1~C6のフルオロアルコール、テトラヒドロフラン等が、好ましくはメタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、テトラヒドロフラン、特に好ましくはメタノール、テトラヒドロフランが用いられ、5~10℃で4~6時間攪拌することにより、縮合反応が行われる。縮合反応は、0.1M水酸化ナトリウム、水酸化カリウム水溶液等の存在下で行われる。
【0022】
生成物は、フルオロエーテルアルコール、トリアジン誘導体およびポリアルキレングリコールの縮合反応生成物と考えられるコンポジットであり、有機溶媒分散液として得られる。
【0023】
コンポジットは、それ自体で親水性、撥油性または親水撥油性を示すが、それを水洗浄することによって、撥油性の向上あるいは親水性の経時的な低下の抑制に有効である。
【0024】
具体的には、基質としてガラスに適用した場合には、水洗浄による撥油性の向上に有効である。
【0025】
各種無機質基質、有機質基質へのフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットの適用は、例えば固形分濃度(フルオロエーテルアルコール、トリアジン誘導体およびポリアルキレングリコールの重量割合)約0.05~50重量%のコンポジット有機溶媒分散液を基質にディッピング法、キャスティング法、スプレー法、コーティング法など一般的に用いられている適用方法によって適用し、室温条件下で乾燥させた後、約70~80℃で約5~7時間程度加熱することにより行われる。なお、コンポジット水性分散液の固形分濃度は、フルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットが溶媒に分散可能な範囲であれば特に限定されない。
【0026】
本発明のフルオロエーテルアルコール/トリアジン誘導体/ポリアルキレングリコールコンポジットは、有機溶媒分散液の形で、親水剤、撥油剤、親水撥油剤、離型剤、防汚剤等の各種基材への表面処理剤として有効に用いられる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0028】
比較例1
容量30mlの反応容器に、
HOCH2CF(CF3)[OCF2CF(CF3)]bOCF2CF2O[CF(CF3)CF2O]dCF(CF3)CH2OH
[OXF8PO-OH(b+d=6)]
21mgおよびメタノール5mlを仕込み、5~10℃で攪拌を開始した。その後、2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジン(トリアジン誘導体)1.2mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して5.7重量部)の10重量%水溶液、PEG(PEG 300)13mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して62重量部)および0.1M水酸化ナトリウム水溶液5mlの混合水溶液を徐々に滴下させて加え、5~10℃で5時間攪拌することにより、目的とするコンポジット分散液を得た。
【0029】
得られたコンポジット分散液(固形分濃度0.39重量%)について、液滴の接触角の測定を行った。
液滴の接触角(単位:°)の測定:
コンポジット分散液に、カバーガラス(松浪ガラス工業製品硼ケイ酸ガラス;18×18mm)を1分間ディッピングし、室温条件下で乾燥させた後、75℃のホットプレート上で6時間加熱した。得られた表面改質基材に水洗浄を行った後、n-ドデカンまたは水の液滴4μlを静かに接触させ、付着した液滴の接触角をθ/2法により、接触角計(協和界面化学製Drop Master 300)を用いて測定した。なお、水については、経時的な測定が行われた。
【0030】
実施例1
比較例1において、PEGとしてPEG 600が25mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して119重量部)が用いられた。得られたコンポジット分散液の固形分濃度は0.52重量%であった。
【0031】
実施例2
比較例1において、PEGとしてPEG 3000が126mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して600重量部)が用いられた。得られたコンポジット分散液の固形分濃度は1.63重量%であった。
【0032】
実施例3
比較例1において、OXF8PO-OH量が25mg、2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジン量が17mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して68重量部)にそれぞれ変更され、PEGとしてPEG 3000が216mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して864重量部)が用いられ、溶媒としてメタノールの代わりにテトラヒドロフラン5mlが用いられた。得られたコンポジット分散液の固形分濃度は2.5重量%であった。
【0033】
比較例2~4
実施例3において、2,4-ジクロロ-6-ソジオオキシ-1,3,5-トリアジン量が34mg、68mgまたは136mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して136重量部、272重量部または544重量部)、PEG 3000量が432mg、864mgまたは1728mg(OXF8PO-OH 100重量部に対して1728重量部、3456重量部または6912重量部)にそれぞれ変更されて用いられた。得られたコンポジット分散液の固形分濃度は、それぞれ4.63、8.69、15.58重量%であった。
【0034】
比較例5
カバーガラス基材(松浪ガラス工業製品硼ケイ酸ガラス;18×18mm)について、接触角の測定が行われた。
【0035】
以上の各実施例、比較例での測定結果は、次の表に示される。
表
接触角(°)
水 (経過時間:分)
例 C
12
H
26
0 5 10 15 20 25 30
比較例1 58 75 66 64 63 62 62 62
実施例1 60 23 20 19 18 15 13 11
〃 2 57 12 9 8 7 6 4 2
〃 3 61 79 30 28 27 26 25 23
比較例2 61 91 53 53 52 52 50 50
〃 3 54 95 47 46 43 43 43 43
〃 4 54 81 46 44 44 43 40 39
〃 5 0 54 42 35 24 20 20 20