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  • 特許-穿刺練習具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】穿刺練習具
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/28 20060101AFI20230807BHJP
   G09B 9/00 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
G09B23/28
G09B9/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018222743
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2019101432
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2017229236
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西森 久和
(72)【発明者】
【氏名】澤 達也
(72)【発明者】
【氏名】片場 久徳
【審査官】遠藤 孝徳
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203941650(CN,U)
【文献】中国実用新案第201359805(CN,Y)
【文献】特開昭52-70623(JP,A)
【文献】実開昭59-79876(JP,U)
【文献】国際公開第2012/032810(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103413485(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 23/00 - 23/40
G09B 9/00 - 9/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺針または生検針による穿刺の練習に用いられ、前記穿刺針または前記生検針によって穿刺される穿刺練習具であって、
所定形状とした基体と、この基体の表面を被覆した被覆層とを備え、
前記基体をコルク製としており、
前記被覆層は、エポキシ樹脂製であるとともに、前記基体よりも硬い硬質樹脂層であり
前記基体は、コルク粒をバインダー樹脂により接合して所定形状に成形された成形体からなり、
前記コルク粒は、その平均粒径が1.0~5.0mmで、
前記基体のコルクの平均密度が200~260Kg/m 3 であり、
前記被覆層の厚みは、1.0~1.6mmである穿刺練習具。
【請求項2】
前記被覆層の上面に、所定厚みの人工皮膚または弾性シート体装着されている請求項1に記載の穿刺練習具。
【請求項3】
前記被覆層は、エポキシパテ製である請求項1又は請求項2に記載の穿刺練習具。
【請求項4】
前記基体のコルクの平均粒径が1.0~2.0mmであり、前記基体のコルクの平均密度が220~240kg/m3である請求項1~3のいずれか1項に記載の穿刺練習具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穿刺針または生検針による穿刺の練習に用いる穿刺練習具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医学生等における医療技能の習得を目的として、人体を模した様々な練習具が開発されている。とくに、注射器による穿刺の練習として、可撓性チューブで模した血管を備えた人体模型が知られている(例えば、特許文献1参照。)。血管の穿刺であれば、適度な可撓性を有した素材を用いるだけで、人体を穿刺している感覚に近い状況を再現することができている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-161730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血管ではなく骨髄穿刺を行う場合には、皮膚や血管と比較して密度が高い骨髄を穿刺するとともに、骨髄の前に硬い骨皮質を貫く必要があるため、その際の針に生じる抵抗を知りつつ、ある程度の力を入れて穿刺する必要がある。そのため、この感触と力加減を習得するための練習具が必要であったが、この目的を満たすことができる汎用的な練習具がなく、一般的には、比較的柔らかい木材やリンゴ等が代用されていた。
【0005】
比較的柔らかい木材やリンゴでは、穿刺針や生検針で穿刺した際に針に生じる抵抗が骨髄を穿刺している状態と比較して違っており、技能を正しく習得できているかを判断することができなかった。
【0006】
本発明者らは、このような現状に鑑み、骨髄穿刺、生検の練習に利用できる穿刺練習具を提供すべく研究開発を行い、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の穿刺練習具では、穿刺針または生検針による穿刺の練習に用いられ、前記穿刺針または前記生検針によって穿刺される穿刺練習具であって、所定形状とした基体と、この基体の表面を被覆した被覆層とを備え、前記基体をコルク製としており、前記被覆層は、エポキシ樹脂製であるとともに、前記基体よりも硬い硬質樹脂層であり、前記基体は、コルク粒をバインダー樹脂により接合して所定形状に成形された成形体からなり、前記コルク粒は、その平均粒径が1.0~5.0mmで、前記基体のコルクの平均密度が200~260Kg/m 3 であり、前記被覆層の厚みを、1.0~1.6mmである
【0008】
さらに、本発明の穿刺練習具では、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)被覆層の上面に所定厚みの人工皮膚または弾性シート体が装着されていること。
(2)被覆層は、エポキシパテ製であること。
(3)基体のコルクの平均粒径が1.0~2.0mmであり、基体のコルクの平均密度が220~240kg/m 3 であること。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定形状とした基体と、この基体の表面を被覆した被覆層とを備え、基体をコルク製とした穿刺練習具とすることで、穿刺針や生検針で穿刺練習具を穿刺した際に針に生じる抵抗が骨髄を穿刺している状態と近く、しかも、生検針の外針で刺し抜かれたコルクを外針内に留置させることができるので、技能を正しく習得できているかを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】穿刺圧入試験による試験結果のグラフである。
図2】穿刺圧入試験による試験結果のグラフである。
図3】穿刺圧入試験による試験結果のグラフである。
図4】穿刺練習具の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の穿刺練習具は、穿刺針または生検針による穿刺の練習に用いる穿刺練習具であって、所定形状とした基体と、この基体の表面を被覆した被覆層とを備えているものであり、とくに、基体をコルク製としているものである。
【0012】
コルク製の基体を穿刺針や生検針で穿刺することで、実際の骨髄を穿刺している状態に近い感覚が得られるとともに、生検針の外針で刺し抜かれたコルクを外針内に留置させることができる。したがって、外針内へのコルクの留置を確認することで、技能を正しく習得できているかを判断することもできる。
【0013】
基体は、コルク粒をバインダー樹脂により接合して所定形状に成形されたコルク成形体としている。とくに、コルク粒は、外針内にコルクを留置させることを考慮して、その平均粒径が1.0~5.0mmであるものが望ましい。このようなコルク粒を用いて形成されるコルク成形体は、コルク粒の大きさによって密度の異なる複数種類が一般的に流通している。そこで、一般的に流通しているコルク成形体から4種類のコルク成形体を選び、各コルク成形体で、50mm×50mm×50mmの立方体のコルクブロックを作製し、このコルクブロックに対して生検針による官能試験を行った。ここで、選択した4種類のコルクブロックは、下表のようにコルク粒径と平均密度で特徴付けられる。
【表1】
【0014】
官能試験の結果を下表に示す。とくに、コルクブロックの表面には骨皮質を模した被覆層を設けている。被覆層は、基体のコルク成形体よりも硬い硬質層となっていればよいが、より骨皮質に近い感触が得られるように各種材料を用いて被覆層を作製し、官能試験を行った。
【0015】
上表に示すように、サンプル1とサンプル2は実際の骨髄を穿刺している状態に近い感覚があり、とくに、サンプル2の方が実際の骨髄を穿刺している状態に近い感覚があった。また、サンプル3とサンプル4では、実際の骨髄を穿刺している状態よりも硬い感覚であった。また、サンプル3とサンプル4では、生検針の外針内へのコルクの留置が生じないことがあった。
【0016】
被覆層の素材としては、セメダイン社のエポキシパテが、実際の骨皮質を貫く感覚に近かった。これは、セメダイン社のエポキシパテを使用することで、被覆層が基体であるコルク成形体よりも硬い硬質樹脂層となるため、骨皮質の硬さを適切に模すことができるようになったためと考えられる。また、穿刺針または生検針で被覆層を貫く際に、針を回動させながら押し込むことで被覆層を貫くが、この針の回動操作によって被覆層との摩擦音としての鳴き音が生じることがあった。そこで、被覆層の表面にシリコンスプレーを噴霧したり、酢ビ系接着剤を塗布したりして潤滑性を向上させることで鳴き音防止対策を施したが、鳴き音防止対策の有無(No.1~4とNo.12の比較)の差はなく、また、多少の鳴き音は気にならないとのことから、鳴き音防止対策は必ずしも必要ではないとの結論に至った。
【0017】
No.9~11では、サンプル2のコルクを用いているが、被覆層による差があり、被覆層に穿刺針または生検針への粘着感があったり(No.9)、被覆層が割れる感触が生じたり(No.10,11)することで、実用性が認められなかった。
【0018】
また、各コルクブロックに対して、穿刺圧入試験を行った。ここで、試験設備にはインストロン社の引張圧縮試験機を用い、コルクブロックに生検針の針先を接触させた状態から、生検針を5mm/sの圧入速度で、20mmまで圧入させて荷重計測を行った。それぞれ2回計測した結果を図1に示す。ここで、コルクブロックには被覆層を設けていない状態とした。
【0019】
図1に示すように、サンプル1とサンプル2はほぼ同じ結果であったが、サンプル3とサンプル4ではサンプル2と比較して荷重が大きくなる傾向があり、官能試験の結果が再現されていると考えられる。
【0020】
コルクブロックに被覆層を設けた場合の穿刺圧入試験の結果を図2に示す。ここで、穿刺圧入試験は、上表のNo.1~4のコルクブロックに対して行っており、サンプル1とサンプル2が安定していることがわかる。図2において、2mm近傍及び6mm近傍でピークが生じているが、これらのピークは、引張圧縮試験機の検査針の形状に起因するものである。すなわち、検査針は、針先から2mmまでは先鋭状に尖った形態となっており、針先から2~5mmの部分は円柱状となって、針先から5~6mmの部分で拡径状となっているため、拡径形状となっている部分で被覆層の抵抗を受けることで、ピークが生じているものと考えている。
【0021】
以上のことから、基体となるコルクブロックはサンプル1及びサンプル2が望ましく、好適にはサンプル2であり、基体の平均密度としては200~260Kg/m3が好ましく、好適には220~240Kg/m3が望ましい。なお、骨髄質が脆くなっている高齢者や患者を想定した穿刺練習具を提供する場合には、200Kg/m3としたコルクブロックよりもさらに柔らかい感触が求められ、基体の平均密度としては170~240Kg/m3が望ましい。また、基体の平均密度を240Kg/m3以下に設定することを考慮した場合には、コルク粒の粒径としては2mm以上がより望ましい。また、コルク粒を接合するバインダー樹脂は、とくに限定されないが、ポリウレタン樹脂を主成分としたバインダー樹脂が好ましい。
【0022】
また、被覆層はエポキシ製であることが望ましく、好適にはエポキシパテであり、とくにセメダイン社のエポキシパテ(HC-115)が好適である。エポキシパテとは、例えば、エポキシ樹脂を主成分とした二液反応硬化型の塗料を意味する。エポキシパテは、硬化して被覆層として構成された状態では、コルク製の基体よりも硬い硬質樹脂層となる。ただし、被覆層は、エポキシ製の硬質樹脂層に限らず、ポリエステル樹脂、石膏、炭酸カルシウム等、コルク製の基体よりも硬い硬質層として構成できるのであれば、その他の材料から構成してもよい。また、被覆層は、二液反応硬化型の塗料に限らず、例えば、一液湿気硬化型の塗料から構成してもよい。また、被覆層に適した材料であれば、塗料に限らず、接着剤やその他用途の材料を用いてもよい。
【0023】
なお、エポキシパテの厚みによって生検針で被覆層を貫く際の感覚が異なっていたことから、エポキシパテの厚み依存性の確認を行った。すなわち、サンプル2のコルク成形体であって、50mm×50mm×50mmの立方体としたコルクブロックの表面に、エポキシパテで厚みの異なる被覆層を作製し、生検針による官能試験を行った。結果を下表に示す。
【表3】
【0024】
表3に示すように、被覆層の厚みが0.8mm以下の場合には、骨髄生検針が簡単に被覆層を貫いてしまうことで骨皮質を貫く感覚が得られなかったが、被覆層の厚みを1.0mm以上とすることで、骨皮質を貫く感覚に近い感覚が得られた。とくに、被覆層の厚みを1.4mm以上とすると硬い感覚となるが、実際の患者においてはこの程度の硬さの場合も有り、被覆層の厚みを1.0~1.4mmとした通常患者用と、被覆層の厚みを1.4~1.6mmとした硬い骨皮質を有する患者用と作り分けることで、より現実的な練習が可能となる。
【0025】
図3に、引張圧縮試験機を用いた穿刺圧入試験の結果を示す。被覆層の厚みが0.8mm以下の場合では、2mm及び6mm近傍で明瞭なピークが検出できていないことからも、被覆層の貫きを感じにくいことが示されている。
【0026】
被覆層の厚みは1.6mm以上としてもよいが、均一な厚みを有した被覆層の形成が困難となることから、被覆層の厚みは1.0~1.6mmとしている。
【0027】
このように、穿刺練習具は、コルク製の基体の表面にエポキシ製の被覆層を設けて穿刺練習具とすることもできるが、図4の模式図に示すように、人体模型の一部として構成することもできる。
【0028】
すなわち、人体の臀部を模した支持基体10を作製し、この支持基体10の腸骨部分には挿入空間11を形成しておき、この挿入空間11に穿刺練習具20を差し込んで使用することとしている。
【0029】
この場合の穿刺練習具20では、コルク製の基体21の表面にエポキシ製の被覆層22を設け、この被覆層22の上面に所定厚みの人工皮膚23を貼着している。
【0030】
基体21は、上面側を腸骨形状に模した凸状とすることで、より現実感を醸し出させることができる。場合によっては、腸骨の三次元データを利用して、CAD/CAM加工により精密な腸骨形状に加工することもできる。
【0031】
人工皮膚23は、適度の弾性を有していることで、指先の感覚による穿刺位置の確認が行えるようにしておくことが望ましい。なお、人工皮膚23の代わりに適宜の弾性シート体を用いてもよい。
【0032】
穿刺練習具20は、支持基体10の挿入空間11に着脱自在としており、頻回の使用により穿刺痕が目立つようになったところで新品の穿刺練習具20に取り替えることとしており、必要最小限の部分を交換部品とすることで、低コストで穿刺練習具20を提供可能としている。なお、穿刺練習具20の使用態様は、上記実施形態で説明した態様に限らず、要望に応じて適宜変更してもよい。例えば、人体の臀部を模した支持基体10の代わりに、円錐台形状の発泡樹脂からなる支持基体を準備し、支持基体の平面に凹状の挿入空間を設けて、この挿入空間に穿刺練習具を差し込んで使用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10 支持基体
11 挿入空間
20 穿刺練習具
21 基体
22 被覆層
23 人工皮膚
図1
図2
図3
図4