IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人法政大学の特許一覧 ▶ 海和工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-送水装置及び送水方法 図1
  • 特許-送水装置及び送水方法 図2
  • 特許-送水装置及び送水方法 図3
  • 特許-送水装置及び送水方法 図4
  • 特許-送水装置及び送水方法 図5
  • 特許-送水装置及び送水方法 図6
  • 特許-送水装置及び送水方法 図7
  • 特許-送水装置及び送水方法 図8
  • 特許-送水装置及び送水方法 図9
  • 特許-送水装置及び送水方法 図10
  • 特許-送水装置及び送水方法 図11
  • 特許-送水装置及び送水方法 図12
  • 特許-送水装置及び送水方法 図13
  • 特許-送水装置及び送水方法 図14
  • 特許-送水装置及び送水方法 図15
  • 特許-送水装置及び送水方法 図16
  • 特許-送水装置及び送水方法 図17
  • 特許-送水装置及び送水方法 図18
  • 特許-送水装置及び送水方法 図19
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】送水装置及び送水方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 33/00 20060101AFI20230807BHJP
   B01J 4/04 20060101ALI20230807BHJP
   F03G 7/05 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
F04D33/00
B01J4/04
F03G7/05 511
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019077845
(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2019194470
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2018086714
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(73)【特許権者】
【識別番号】593011036
【氏名又は名称】海和工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173495
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 高正
(72)【発明者】
【氏名】森 隆昌
(72)【発明者】
【氏名】椿 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 克彦
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511146(JP,A)
【文献】特開2016-147348(JP,A)
【文献】特開2005-233094(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0258099(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0108483(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 7/00、29/00、33/00
B01J 4/00- 7/02
F03G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の筒状のセルを備える送水装置であって、
前記各セルは、下端に半透膜が配設され、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられるとともに、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容し、
前記半透膜は、前記懸濁水と、前記半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設され、
前記半透膜上に前記懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成され、前記半透膜上の前記堆積層は上側に向けて膨張可能に構成され、当該堆積層において、前記粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生し、この浸透圧を駆動源として、前記半透膜を介して隣接する水から送水する送水装置。
【請求項2】
複数の筒状のセルを備える送水装置であって、
前記各セルは、下端に半透膜が配設され、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられるとともに、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容し、当該懸濁水の水面と前記セルの内壁との間に空間が形成され、当該空間内において、前記水面よりも上側に空気穴が設置され、
前記半透膜は、前記懸濁水と、前記半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設され、
前記半透膜上に前記懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成され、当該堆積層において、前記粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生し、この浸透圧を駆動源として、前記半透膜を介して隣接する水から送水する送水装置。
【請求項3】
前記セル内において、前記懸濁水中の粒子が沈降し、当該粒子が堆積した堆積層、当該堆積層の上側に隣接し、前記粒子が実質的に含まれない清澄層が形成される請求項1又は2に記載の送水装置。
【請求項4】
前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に空間が形成される請求項3に記載の送水装置。
【請求項5】
前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に形成された空間の圧力が大気圧となる請求項4に記載の送水装置。
【請求項6】
前記粒子が水中で電気二重層を形成する粒子である請求項1~5のいずれか1項に記載の送水装置。
【請求項7】
前記粒子が金属酸化物である請求項1~6のいずれか1項に記載の送水装置。
【請求項8】
水中に粒子が分散させられた懸濁水が充填され、下端に半透膜が配設されたセルを鉛直方向に積み重ねるステップと、
最下部に位置するセルの半透膜を当該セルの下端に隣接する水と接触させるステップと、
前記各セル内の前記半透膜上に沈降堆積した前記粒子からなる堆積層が上側に向けて膨張可能に構成され、前記半透膜上に沈降堆積した前記粒子の電気二重層の重なりにより生じる浸透圧を駆動源として、前記各セルの下端に隣接する水から半透膜を介して上方向に送水するステップと、を備える送水方法。
【請求項9】
前記各セル内において、前記懸濁水中の粒子が沈降し、当該粒子が堆積した堆積層、当該堆積層の上側に隣接し、前記粒子が実質的に含まれない清澄層を形成する請求項8に記載の送水方法。
【請求項10】
前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に空間を形成する請求項9に記載の送水方法。
【請求項11】
前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に形成された空間の圧力を大気圧とする請求項10に記載の送水方法。
【請求項12】
前記粒子を水中で電気二重層を形成する粒子とする請求項8~11のいずれか1項に記載の送水方法。
【請求項13】
前記粒子を金属酸化物とする請求項8~12のいずれか1項に記載の送水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送水装置及び送水方法に関する。更に詳しくは、モーターなどの動力を使用せずに、水を送水する送水装置及び送水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の砂漠化進行を阻止するため、世界各地の砂漠地帯及び乾燥地帯において、植物による緑化の試みがなされている。しかしながら、砂漠地帯及び乾燥地帯は、大きな河川等の水源から離れた地域に存在することが多く、砂漠の緑化では、植物に必要な水源の確保が重要な課題となっていた。河川等の水源から離れた地域では、井戸が掘削されて、地下水をポンプなどによって汲みあげることによって水源が確保されてきた。砂漠緑化のためには、大量の水を植物に継続的に、かつ安定して給水することが必要である。ポンプには、動力源として、ディーゼル機関、モーター、ガスタービンなどが使用されているので、これらの動力源を駆動するためには、大量の燃料若しくは電力が必要となる。砂漠地帯や乾燥地帯の多くは、辺鄙な場所に存在するので、ポンプの動力源を稼働させるために必要な燃料又は電力の輸送コストが緑化に際しての障害となっていた。
【0003】
従来、ポンプ稼働用の電力供給のために、風力発電や太陽光発電の導入が検討されてきたが、設備等の建設コストや発電効率の観点から導入が進まなかった。砂漠地帯若しくは乾燥地帯での緑化に際しては、燃料や電力を用いずに地下水等を汲み上げるポンプが望まれていた。
【0004】
燃料若しくは電力を使用せずに駆動するポンプとして、半透膜を用いて液体を移動させる浸透圧現象を利用した浸透圧ポンプが提案されている(特許文献1、特許文献2)。
【0005】
また、アルミナ粒子の高充填スラリーを多孔質層として用いて、かかる多孔質層を液体中に浸漬させ、多孔質層の第1の面側の液体層と第2の面側の液体層との間に圧力差を生じさせる揚水装置が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-115755号公報
【文献】特開2010-25067号公報
【文献】特開2005-233094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術は、半透膜で互いに仕切られた二つの液室内における溶液の濃度差に起因する浸透圧を駆動力として用いるものである。このような浸透圧ポンプは、二つの液室間において、常に溶液の濃度差が必要であり、各液室における濃度調整に手間がかかっていた。また、二つの液室間における溶液の濃度差がやがて一定に落ち着くと浸透圧も発生しなくなるため、長期間にわたって断続的に使用することが困難であった。更に、これらは、基板に形成されたマイクロチャンネルと呼ばれる微細流路やポートなどの微細構造における流体制御のための送液手段に用いられるものであり、送液量が微小であるという問題が存在した。
【0008】
また、特許文献3に記載された技術では、揚水原理が不明であるため、応用展開が困難であり、また、装置の能力を向上させることが困難であるという問題が存在した。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、燃料若しくは電力を必要とする動力源を使用しなくても送水することが可能であり、また、送水量を増大させることができ、更に、揚程の増大が可能な送水装置及び送水方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の目的は、半透膜を介して隣接する各水層の濃度調整や負圧の確保等の煩雑な操作を必要とせず、また、長期間にわたって断続的に使用することが可能な送水装置及び送水方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、粒子表面に存在する電気二重層の重なりにより発生する浸透圧を利用して水を送水できることを見出した。本発明によれば、以下に示す送水装置及び送水方法が提供される。
【0012】
[1]複数の筒状のセルを備える送水装置であって、前記各セルは、下端に半透膜が配設され、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられるとともに、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容し、前記半透膜は、前記懸濁水と、前記半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設され、前記半透膜上に前記懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成され、当該堆積層において、前記粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生し、この浸透圧を駆動源として、前記半透膜を介して隣接する水から送水する送水装置。
【0013】
[2]複数の筒状のセルを備える送水装置であって、前記各セルは、下端に半透膜が配設され、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられるとともに、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容し、当該懸濁水の水面と前記セルの内壁との間に空間が形成され、当該空間内において、前記水面よりも上側に空気穴が設置され、前記半透膜は、前記懸濁水と、前記半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設され、前記半透膜上に前記懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成され、当該堆積層において、前記粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生し、この浸透圧を駆動源として、前記半透膜を介して隣接する水から送水する送水装置。
【0014】
[3]前記セル内において、前記懸濁水中の粒子が沈降し、当該粒子が堆積した堆積層、当該堆積層の上側に隣接し、前記粒子が実質的に含まれない清澄層が形成される[1]又は[2]に記載の送水装置。
【0015】
[4]前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に空間が形成される[3]に記載の送水装置。
【0016】
[5]前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に形成された空間の圧力が大気圧となる[4]に記載の送水装置。
【0017】
[6]前記粒子が水中で電気二重層を形成する粒子である[1]~[5]のいずれかに記載の送水装置。
【0018】
[7]前記粒子が金属酸化物である[1]~[6]のいずれかに記載の送水装置。
【0019】
[8]水中に粒子が分散させられた懸濁水が充填され、下端に半透膜が配設されたセルを鉛直方向に積み重ねるステップと、最下部に位置するセルの半透膜を当該セルの下端に隣接する水と接触させるステップと、前記各セル内の前記半透膜上に沈降堆積した前記粒子の電気二重層の重なりにより生じる浸透圧を駆動源として、前記各セルの下端に隣接する水から半透膜を介して上方向に送水するステップと、を備える送水方法。
【0020】
[9]前記各セル内において、前記懸濁水中の粒子が沈降し、当該粒子が堆積した堆積層、当該堆積層の上側に隣接し、前記粒子が実質的に含まれない清澄層を形成する[8]に記載の送水方法。
【0021】
[10]前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に空間を形成する[9]に記載の送水方法。
【0022】
[11]前記セル内において、前記粒子が実質的に含まれない前記清澄層液面と前記セル内壁との間に形成された空間の圧力を大気圧とする[10]に記載の送水方法。
【0023】
[12]前記粒子を水中で電気二重層を形成する粒子とする[8]~[11]のいずれかに記載の送水方法。
【0024】
[13]前記粒子を金属酸化物とする[8]~[12]のいずれかに記載の送水方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の送水装置によれば、燃料若しくは電力を必要とする動力源を使用しなくても、水を送水することができ、また、送水量と揚程を増大させることができるという効果がある。また、本発明の送水装置によれば、半透膜を介して隣接する各水層の濃度調整等の煩雑な操作を必要とせず、また、長期間にわたって断続的に送水することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】水中に分散させられた粒子間の静電的相互作用による斥力の発生を示す模式図である。
図2】半透膜上に粒子が堆積して形成された堆積層による送水メカニズムを説明するための模式図である。
図3】本発明の送水装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
図4】セル内における懸濁水の様子を示す模式図である。
図5】本発明の送水装置の他の実施形態で使用されるセルを模式的に示す断面図である
図6】本発明の送水装置の他の実施形態を模式的に示す断面図である。
図7】送水メカニズムの確認実験に用いた実験装置を模式的に示す断面図である。
図8】スラリーのpHと静水圧の関係を示す図である。
図9】スラリーのpHとアルミナ粒子のポテンシャルエネルギーとの関係を示す図である。
図10】時間と静水圧の関係及び時間と吸水速度の関係を示す図である。
図11】時間と変換エネルギーの関係及び時間と積算吸水量の関係を示す図である。
図12】性能評価に使用した送水装置の写真である。
図13】時間と静水圧の関係を示す図である。
図14】水頭差19cmの場合の積算吸水量と時間の関係を示す図である。
図15】粒子帯電符号の影響確認実験に使用した吸水装置を模式的に示す断面図である。
図16】時間と積算吸水量の関係を示す図である。
図17】時間と積算吸水量の関係を示す図である。
図18】時間と積算吸水量の関係を示す図である。
図19】時間と積算吸水量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0028】
(1)送水メカニズム
本発明の実施形態の送水装置を説明する前に、送水メカニズムについて説明する。本実施形態の送水装置では、水中に粒子が分散させられた懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成される。そして、粒子が堆積した堆積層で発生する浸透圧を送水の駆動源とする。ここで、最初に、粒子表面に存在する電気二重層による浸透圧の発生について説明する。図1は、水中に分散させられた粒子間の静電的相互作用による斥力の発生を示す模式図である。水中に分散させられた粒子の表面は、解離基や吸着イオン等によって帯電している。粒子表面の電荷と反対符号の電解質イオン(以下、対イオンと称する)が粒子表面近傍に層を形成して分布する。このような対イオンの分布層は電気二重層と称される。このような電気二重層は、固定層(図示しない)と拡散層の2つの部分に分けられる。固定層とは、粒子表面との引力により対イオンが強く固定されている部分をいう。拡散層とは、熱運動によるイオンの拡散によって、対イオン濃度が徐々に減少していく部分をいう。図1に示されるように、電気二重層2を有する粒子1同士が接近すると、それぞれの粒子1が有する電気二重層2が重なる。電気二重層2が重なった領域Aは周囲よりも対イオン濃度が高くなり、この重なり領域Aに液体が入っていこうとする圧力(浸透圧)が発生する。この圧力(浸透圧)により、粒子1同士には斥力Bが作用する。
【0029】
本実施形態の送水装置は、浸透圧による斥力の作用により送水すると考えられる。このような浸透圧による斥力の作用による送水は、図2に示されるようなメカニズムによって行われていると考えられる。図2は、半透膜上に粒子が堆積して形成された堆積層による送水メカニズムを説明するための模式図である。図2に示されるように、各粒子1の表面には電気二重層2が存在し、粒子1を透過させない半透膜3上に沈降した粒子1が堆積して堆積層が形成される。堆積層内においては、粒子1同士の電気二重層2が重なり合う。堆積層の下部においては、粒子1が密に圧縮されているので、粒子1は動かない。堆積層の上部においては、堆積層の下部よりも粒子1は動くことが可能である。この堆積層において、粒子1同士の電気二重層2が重なり合い、浸透圧による斥力が発生する。ここで、粒子1同士の電気二重層2が重なりあう領域に水が浸入すると膨潤により膨張し、電気二重層2の重なりあいが減少して浸透圧が低下する。しかし、半透膜3によって、下方向への粒子1の膨潤による膨張が妨げられ、上側にしか膨張できないため、この膨張により矢印に示されるように上側への水の上昇流が発生する。さらに、堆積層中の粒子1の有効重力が流体効力と斥力による反発力の和に等しくなる平衡状態(動的平衡)となって、膨張が停止し、上方向への送水の継続が可能となる。
【0030】
(2)送水装置
以下、本発明の送水装置の一実施形態を図面を用いて説明する。図3は、本発明の送水装置の一実施形態を模式的に示す断面図である。
【0031】
本実施形態の送水装置は、複数の筒状のセルを備えるものである。各セルは、下端に半透膜が配設され、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられている。各セルは、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容する。セルの下端に配設された半透膜は、懸濁水と、半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設される。半透膜上に懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成され、堆積層において、粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生し、この浸透圧を駆動源として、半透膜を介して隣接する水から送水される。
【0032】
図3に示されるように、送水装置10は、複数の筒状のセル13を備えている。セル13は、筒状であり、上端及び下端がいずれも開口している。セル13は、このように両端が開口しているので、水がセルの内部空間を通過できる中空構造を有する。鉛直方向に直交する方向におけるセル13の断面形状として、円形、楕円、長円、多角形等が挙げられるが、これに制限されない。なお、多角形には、三角形、四角形、五角形、六角形等が含まれる。すなわち、セル13は、鉛直方向に直交する方向における断面形状が円等の円筒状のものとすることができ、又は鉛直方向に直交する方向の断面形状が多角形等の角柱状のものとすることができる。なお、送水効率の観点から、セル13のそれぞれは、鉛直方向に直交する方向における断面形状及び断面積を、全て同一のものに統一するのが好ましい。また、セル13のそれぞれは、鉛直方向の長さも同じ長さに統一するのが好ましい。
【0033】
セル13の各々は、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられている。積み重ねられたセル13の個数は、2以上であれば、その個数は制限されないが、送水の揚程等を考慮して適宜設定される。
【0034】
ここで、連通とは、積み重ねられた複数の筒状のセル13が連なって結合され、その内部空間を水が通過できるように構成された状態をいう。なお、隣接するセル13同士のずれを防止するために、セル13は互いに接合されているのが好ましい。このようなセル13同士を接合するために、各種手段を採用できる。例えば、下端が雄型とされ、その上端が雌型とされ、セル13の上端の雌型が上側に隣接するセル13の下端の雄型と嵌合して固着されるように構成されているものを採用できる。なお、隣接するセル13同士を接合する際、鉛直方向に直交する方向における、互いのセル13の断面形状の中心軸を一致させることが好ましい。なお、送水装置10において、最上部に位置するセル13には、水を流出させるための流出口(図示しない)が設けられていてもよい。セル13の材質としては、アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂、合成ゴム、ポリウレタン、ポリエステルエラストマー等の有機材料、ガラス等の無機材料、ステンレス等の金属が挙げられるが、これに制限されない。
【0035】
図3に示す送水装置10では、伝達管11の上側に複数の筒状のセル13が積み重ねられている。ここで、伝達管11は、セル13に送水する水を収容するものである。伝達管11は、貯水容器Cと連結管Dを介して連通されている。なお、貯水容器Cとの連通は、伝達管11の底部、側面部等任意の位置にホース等の連結管Dを用いて行われていてもよい。また、伝達管11は、鉛直方向に直交する方向における断面形状が、特に制限されない。例えば、伝達管11は、鉛直方向に直交する方向の断面形状が円等の円筒状、又は鉛直方向に直交する方向の断面形状が多角形等の角柱状のものとすることができる。なお、伝達管11は、鉛直方向に直交する方向の断面を、同方向におけるセル13の断面の形状及び断面積と一致させるのが好ましい。伝達管11の材質としては、アクリル、ポリプロピレン等の樹脂、合成ゴム、エラストマー等の有機材料、ガラス等の無機材料、ステンレス等の金属が挙げられる。
【0036】
伝達管11と、その上側に積み重ねられたセル13とのずれを防止するため、伝達管11とセル13とは接合されるのが好ましい。このような接合の手段として、セル13同士の接合と同じ手段を採用することができる。また、セル13同士が接合した接合部分、伝達管11とセル13とが接合した接合部分は、水漏れを防止する観点から、適宜、ゴム等の弾性素材から形成されたoリング等のパッキンを使用することが好ましい。
【0037】
セル13の内部には、水中に粒子が分散させられた懸濁水が収容されている。懸濁水とは、水中に粒子が分散させられたものをいう。水中に分散させられる粒子としては、水中で粒子表面に電気二重層が形成しうるものである。このような粒子として金属酸化物粒子、ポリマー微粒子等を用いることができる。金属酸化物粒子としては、アルミナ粒子、TiO粒子、ZrO粒子等が挙げられる。また、ポリマー微粒子等としては、例えば、カーボンブラック、パラフィン、ラテックス等が挙げられる。
【0038】
懸濁水において、水中に分散させられた粒子の表面は、解離基や吸着イオン等によって帯電している。本発明においては、粒子の表面が正に帯電しても粒子表面近傍に電気二重層が形成され、また、粒子の表面が負に帯電しても粒子表面近傍に電気二重層が形成され、いずれの場合も送水が可能である。表面が正に帯電する粒子としては、例えば、アルミナ粒子等が挙げられ、表面が負に帯電する粒子としては、例えば、TiO粒子(チタニア粒子)等が挙げられる。また、粒子に高分子電解質を吸着させることによっても、粒子表面を負に帯電させることができる。このような高分子電解質として、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(PCA)等が挙げられる。水中に分散させられて、通常、正に帯電するアルミナ粒子にポリカルボン酸アンモニウムを吸着させることにより、粒子の表面を負に帯電させることもできる。
【0039】
また、水中に分散させられる粒子は、粒子表面間距離を横軸とし、ポテンシャルエネルギーを縦軸とした図において、ポテンシャルエネルギー曲線がピークを有するものである。ポテンシャルエネルギー曲線がピークを有さない粒子の場合、粒子表面に電気二重層が形成されない。
【0040】
セル13に収容される懸濁水は、例えば、先ず、懸濁水中で所定の濃度となる量の粒子を水中に添加し、適宜、塩酸等の分散剤を配合して混合する。その後、所定時間、ボールミル等を用いて、更に混合し、真空脱泡することにより供され得る。なお、送水能力を最大限に発揮する観点からは、懸濁水の濃度は、高ければ高い程好ましく、粒子の分散が維持される最高の濃度となり、十分な厚さの堆積層を形成できるように適宜選択し得る。
【0041】
セル13の下端には、半透膜12が配設されている。半透膜12は、水分子を透過させて、粒子を透過させない機能を有する膜であればよく、特に制限されない。このような半透膜12の形態は、送水を行うことができる限り、特に、制限されない。例えば、単層膜であっても、多層膜(複合膜)であってもよい。特に、単層であり、平膜(シート状)であるのが好ましい。半透膜12の厚さは、適切な強度を確保できるとともに圧力損失が低いものである限り薄いものであるのが好ましい。半透膜12の材質としては、セルロースエステル等の各種ポリマー、紙、ガラス、セラミックス等が挙げられる。
【0042】
半透膜12は、セル13内に収容された懸濁水と、セル13の下側に隣接する水とを隔てるように配設されている。すなわち、別言すると半透膜12は、セル同士が積み重ねられたセル13のうち、セル13内に収容された懸濁水の水層とセル13の下側に隣接するセル13内に収容された懸濁水の水層との間の境界面に配設されている。送水装置10においては、セル13内への懸濁水の収容量(充填量)は、懸濁水の水面が、そのセル13の上側に隣接するセル13の下端に配設された半透膜12に接するように調整される。また、半透膜12は、セル13のうち最下部に位置するセル13内に収容された懸濁水層とセル13の下側に隣接する伝達管11内に収容された水層との間の境界面に配設されている。伝達管11内への懸濁水の収容量(充填量)は、懸濁水の水面が、その伝達管11の上側に隣接するセル13の下端に配設された半透膜12に接するように調整される。このように半透膜12を配設することにより、隣接するセル13同士は、セル13の間に配設された半透膜12を介して連通させられている。また、セル13のうち最下部に位置するセル13と伝達管11は、セル13と伝達管11との間に配設された半透膜12を介して連通させられている。なお、水が半透膜を透過して送水される際に、水の流れにより半透膜12が動かないように上側からセル13の断面形状に対応する形状(例えば、輪状)を有する、樹脂製、金属製等の半透膜押え(図示しない)によって半透膜12の外縁部を固定することが好ましい。また、セル13内に懸濁水を収容し、セル13を積み重ねる際に、懸濁水がセル13の下部から流出することを防止する観点から、セル13において、半透膜12は、多孔体の上に配設されることも好ましい。このような多孔体は、セル13の下部からの懸濁水の流出を妨げつつ、下側からの水の流入を阻害しない程度の抵抗となるものであれば、特に制限されない。例えば、キムワイプ(登録商標)等の紙、パルプから形成される不織布、スポンジ、セラミック、樹脂等からなる多孔体を用いることができる。多孔体の断面の形状は、セル13の断面の形状に対応させることが好ましく、多孔体の厚みは、下側からの水の流入を阻害しないように適宜設定される。
【0043】
送水装置10においては、例えば、伝達管11の上端まで水を充填した後、半透膜12を伝達管11の水面と接するように、セル13の下端に配設する。その後、所定濃度の懸濁水をセル13内の上端まで、その水面が達するように充填する。このように半透膜12を配設することにより、セル13の懸濁水は、セル13の下側に隣接する伝達管11に充填された水と隔てられている。引き続き、半透膜12をセル13の懸濁水の水面と接するように、上側に隣接するセル13の下端に配設し、そのセル13を積み重ねる。このように半透膜12を配設することにより、セル13の懸濁水は、セル13の下側に隣接するセル13に充填された懸濁水と隔てられている。なお、送水装置10において、積み重ねられたセル13の数を段数と称することがある。例えば、伝達管11の上側に、2個のセル13が積み重ねられている場合、2段の送水装置と称し、3個のセル13が積み重ねられている場合、3段の送水装置と称し、以下、N(2以上)個のセル13が積み重ねられている場合、N段の送水装置と称する。
【0044】
送水装置10においては、セル13に収容された懸濁水中に含まれる粒子が沈降し、半透膜12上に粒子の堆積層が形成される。セル13内の懸濁水の様子を図4を用いて説明する。図4はセル内における懸濁水の様子を示す模式図である。図4に示されるように、懸濁水を、水14の上側に半透膜12を介して隣接するセル13内に上側の半透膜12に水面が達するまで充填後、時間が経過するにつれて、懸濁水は、半透膜12上に粒子(図示しない)が沈降した堆積した堆積層15と、粒子(図示しない)が水中に分散したスラリー層16と、粒子が実質的に含まれていない上澄みである清澄層17の三層に分離する。なお、堆積層15においては、粒子表面に存在する電気二重層同士が重なり合う。なお、懸濁水中の全ての粒子が沈降して、スラリー層16が視認されないで、堆積層15と清澄層17の二層に分離することもある。本実施形態の送水装置10においては、粒子の堆積層が形成されるまで、セル13に懸濁水を充填した後、所定時間セル13を静置するのが好ましい。セル13を静置する時間は、粒子の種類、粒径、懸濁水の濃度、粘度等に応じて適宜設定すればよく、制限されない。例えば、セル13内において粒子が堆積した堆積層15と、上澄みである清澄層17が分離して、これらを肉眼で確認できれば堆積層15が形成されたと判断してもよい。
【0045】
本実施形態の送水装置10は、積み重ねられた複数のセル13の下端に配設された半透膜12上に粒子の堆積層が形成される。堆積層が形成されたセル13の各々において、図2で説明したメカニズムにより水の上昇流が発生する。積み重ねられたセル13のうち最下部に位置するセル13内では、下側に隣接する伝達管11内の水が半透膜12を介してセル13内に上昇させられている。セル13内まで上昇させられた水は、更に、そのセル13の上側に隣接するセル13内まで上昇させられる。以下、順に、水が、より上側に隣接するセル13内に向けて上昇させられる。このようにして、伝達管11内の水が複数のセル13が積み重ねられた送水装置10の最上部まで上昇させられる。なお、堆積層中の粒子の有効重力が流体効力と斥力による反発力の和に等しくなる平衡状態(動的平衡)となって、膨潤が停止し、上側への送水を継続できる。
【0046】
(3)送水装置
次に、本発明の送水装置の他の実施形態を図面を用いて説明する。図5は、本発明の送水装置の他の実施形態で使用されるセルを模式的に示す断面図である。図6は、本発明の送水装置の他の実施形態を模式的に示す断面図である
【0047】
本実施形態の送水装置は、複数の筒状のセルを備えるものである。各セルは、下端に半透膜が配設される。各セルは、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられている。各セルは、水中に粒子が分散させられた懸濁水を収容する。懸濁水の水面とセルの内壁との間に空間が形成され、その空間内において、水面よりも上側に空気穴が設置されている。また、セルの下端に配設された半透膜は、懸濁水と、半透膜が配設されたセルの下側に隣接する水とを隔てるように配設される。半透膜上に懸濁水中の粒子が沈降して堆積層が形成される。堆積層において、粒子表面に形成される電気二重層の重なりによる浸透圧が発生する。この浸透圧を駆動源として、半透膜を介して隣接する水から送水される。
【0048】
図5に示されるように、本実施形態の送水装置で使用されるセル20は、筒状であり、上端及び下端がいずれも開口している。このように、セル20は、両端が開口しているので水がセルの内部空間を通過できる中空構造を有する。鉛直方向に直交する方向におけるセル20の断面形状として、円形、楕円、長円、多角形等が挙げられるが、これに制限されない。なお、多角形には、三角形、四角形、五角形、六角形等が含まれる。すなわち、セル20は、鉛直方向に直交する方向における断面形状が円等の円筒状のものとすることができ、又は鉛直方向に直交する方向の断面形状が多角形等の角柱状のものとすることができる。また、図5に示されるように、セル20の下端側は、上端の開口よりも開口径が漸次小さくなる漏斗状に形成されていてもよい。なお、上端近傍には、空気穴23が設けられている。更に、図5に示されるように、セル20の下端には、内径が上端の開口径よりも小である水吸入口21が下方向に突出して設けられている。水吸入口21の突出方向に直交する方向の断面形状は、セル20の断面形状と同じものとするのが好ましい。また、水吸入口21は、突出方向に直交する方向の断面は、同方向におけるセル20の上端の開口の断面と、互いの中心軸を一致させることが好ましい。なお、水吸入口21には、半透膜22が配設されている。半透膜22としては、前述した実施形態で使用されるものと同じものを使用できる。
【0049】
図6に示されるように、本実施形態においては、複数のセル20が、鉛直方向に積み重ねられた状態で連通させられている。積み重ねられたセル20は、2以上であれば、その個数は制限されないが、希望する送水の揚程等を考慮して適宜設定される。ここで、連通とは、積み重ねられた複数の筒状のセル20が連なって結合され、その内部空間を水が通過できるように構成された状態をいう。なお、隣接するセル20同士のずれを防止するために、セル20は互いに接合されているのが好ましい。このようなセル20同士を接合するために、各種手段を採用できる。例えば、下端が雄型とされ、その上端が雌型とされ、セル20の上端の雌型が上側に隣接するセル20の下端の雄型と嵌合して固着されるように構成されているものを採用できる。なお、隣接するセル20同士を接合する際、鉛直方向に直交する方向における、互いのセル20の断面の中心軸を一致させることが好ましい。なお、送水装置30において、最上部に位置するセル20には、水を流出させるための流出口28が設けられている。セル20の材質としては、前述した実施形態で使用されるセルと同じものを使用できる。
【0050】
セル20の内部には、水中に粒子が分散させられた懸濁水が収容されている。懸濁水としては、前述した実施形態で使用される懸濁水と同じものを使用できる。また、送水能力を最大限に発揮する観点からは、収容された懸濁水のセル20内における高さは(セル底面から懸濁水の液面までの高さ)、ある高さまでは高ければ高い方が好ましく、吸水量が最大となるように適宜選択し得る。なお、懸濁水は、所定時間経過後、堆積層25と清澄層26に分離している。本実施形態の送水装置30においては、粒子の堆積層が形成されるまで、セル20に懸濁水を充填した後、所定時間セル20を静置するのが好ましい。セル20を静置する時間は、粒子の種類、粒径、懸濁水の濃度、粘度等に応じて適宜設定すればよく、制限されない。
【0051】
セル20は、下端の水吸入口21に半透膜22が配設されている。このような半透膜22は、送水に際して、水の流れにより半透膜22が動かないように、前述した実施形態と同じ手段により固定されるのが好ましい。なお、半透膜22は、水吸入口21内に設けられた多孔体の上に配設されることも好ましい。このような多孔体としては前記したものを使用することができる。
【0052】
送水装置30では、容器24の上側に、複数のセル20が、鉛直方向に積み重ねられている。容器24は、セル20に送水する水を収容する。容器24は、鉛直方向に直交する方向における断面の形状が、特に制限されない。例えば、容器24は、鉛直方向に直交する方向の断面の形状が円等の円筒状、又は鉛直方向に直交する方向の断面形状が多角形等の角柱状のものとすることができる。容器24の材質としては、ステンレス等の金属、ガラス、陶器等の無機材料、各種樹脂等の有機材料が挙げられるが、特に制限されない。
【0053】
セル20には、収容された懸濁水の水面とセル20の内壁との間に空間27が形成されている。その空間27内においては、水面よりも上側に空気穴23が設置されている。このように空気穴23が設置されることにより、セル20内において、懸濁水の水面と、セル20の内壁との間に形成される空間27の圧力が大気圧となる。これにより、複数のセル20を積み重ねても、セル20の積み重ねに応じて、水頭差が増大することを防止でき、水頭差を一段のセル20のままとすることができる。このようにセル20に空気穴23を設置することにより、水頭差を小さいままとできるので、空気穴23が設置されていない場合よりも、セル20を積み重ねることによって揚程を高くすることが可能となる。
【0054】
隣接するセル20同士が連通させられたセル20の下端に設けられた水吸入口21は、下側に隣接するセル20の懸濁水の清澄層26に浸漬させられている。また、容器24の上側に隣接するセル20の水吸入口21は、容器24の内に収容された水に浸漬させられている。セル20のそれぞれに収容される懸濁水の量は、空気穴23が懸濁水の清澄層26の水面よりも上側に位置するように調整されている。また、セル20の下方向に突出して設けられた水吸入口21内に配設された半透膜22は、下側に位置するセル20内の清澄層26の水と多孔体を通じて接触させられている。このようにして、半透膜22は、セル20内に収容された懸濁水の清澄層26の水と、そのセル20の上側に隣接するセル20の半透膜22の上に堆積した堆積層25とを隔てている。また、容器24に収容される水の量は、その容器24の上側に隣接するセル20の下方向に突出して設けられた水吸入口21が、容器24の水と接触するように調整されている。なお、容器24は、外部貯水槽(図示しない)とホース等の連結管によって連結され、送水により容器24内の水が減少した分だけ、外部貯水槽から水が吸引されて容器24内の水位が一定となるように構成されることも好ましい。
【0055】
上記のように、セル20のそれぞれの懸濁水の量を適宜調整することにより、水吸入口21内に配設された半透膜22は、セル20内に収容された懸濁水の堆積層25の水と、セル20の下側に隣接するセル20の懸濁水の清澄層26の水とを隔てることが可能となる。また、容器24内の水の量を適宜調整することにより、水吸入口21内に配設された半透膜22は、セル20内に収容された懸濁水と、セル20の下側に隣接する容器24の水とを隔てることが可能となる。
【0056】
送水装置30においては、例えば、予め、セル20のそれぞれにおいて、下端の水吸入口21内の所定位置に多孔体を設け、その上に半透膜22を配設する。その後、セル20内に懸濁水を収容した際、収容した懸濁水が下側に流れることにより、半透膜22と多孔体が濡れて、下側から水が吸入されやすくなっている。セル内に収容する懸濁水量は、そのセル20の上側に隣接するセル20の水吸入口21内に配設された半透膜22が多孔体を通じて透過した水と接触するとともに、空気穴23が懸濁水の水面より上側に位置するように決定される。懸濁水量を決定後、最も下側に位置するセル20内に所定量の懸濁水を充填する。その後、懸濁水を収容したセル20の上に新たなセル20を積み重ねる。積み重ねられたセル20内に所定量の懸濁水を充填する。以下、セル20の積み重ね及び所定量の懸濁水の充填を繰り返す。なお、送水装置30において、積み重ねられたセル20の個数を段数と称することがある。例えば、容器24の上側に、2個のセル20が積み重ねられている場合、2段の送水装置と称し、3個のセル20が積み重ねられている場合、3段の送水装置と称し、以下、N(2以上)個のセル20が積み重ねられている場合、N段の送水装置と称する。
【0057】
送水装置30においても、セル20に収容された懸濁水中に含まれる粒子が沈降し、半透膜22上に粒子の堆積層25が形成され、その上に上澄みである清澄層26が形成される。
【0058】
本実施形態の送水装置30においては、堆積層が形成されたセル20の各々において、図2で説明したメカニズムにより水の上昇流が発生する。積み重ねられたセル20のうち最下部に位置するセル20内では、下側に隣接する容器24内の水が水吸入口21内に配設された半透膜22を介してセル20内に上昇させられている。セル20内まで上昇させられた水は、更に、そのセル20の上側に隣接するセル20内まで上昇させられる。以下、順に、水が、より上側に隣接するセル20内に向けて上昇させられる。このようにして、容器24内の水が複数のセル20が積み重ねられた送水装置30の最上部まで上昇させられ、流出口28から流出させられる。なお、堆積層中の粒子の有効重力が流体効力と斥力による反発力の和に等しくなる平衡状態(動的平衡)となって、膨張が停止し、上方向への送水の継続が可能となる。
【0059】
(4)送水方法
本発明の送水方法の一実施形態は、水中に粒子が分散させられた懸濁水が充填され、下端に半透膜が配設されたセルを鉛直方向に積み重ねるステップと、最下部に位置するセルの半透膜をそのセルの下端に隣接する水と接触させるステップと、各セル内の半透膜上に沈降堆積した粒子の電気二重層の重なりにより生じる浸透圧を駆動源として、各セルの下端に隣接する水から半透膜を介して上方向に送水するステップと、を備えるものである。本実施形態の送水方法は、前述した実施形態の送水装置を使用することにより達成される。
【実施例
【0060】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
最初に、本発明の送水装置の送水メカニズムの確認実験について説明する。
[送水メカニズム確認実験]
図7は送水メカニズムの確認実験に用いた実験装置を模式的に示す断面図である。図7に示すように、蒸留水を入れた内径20mm、長さ200mmのアクリル樹脂製の伝達管71と内径20mm、長さ200mmのアクリル樹脂製の沈降管72の間にメンブレンフィルター73(孔径;0.2μm、材質;セルロース混合エステル)を配置した。伝達管71の底部には圧力センサー(図示しない)を取り付けた。圧力センサーは管底位置の水圧を測定した。また、貯水槽74には蒸留水79を充填し、連結管75を用いて伝達管71と連通させた。貯水槽74の重量は電子天秤(図示しない)により秤量され、負圧により吸引された水の量を計測した。連結管75は開放状態とした。
【0062】
沈降管72内のメンブレンフィルター73の上に易焼結アルミナ(住友化学社製AES11E(商品名)、平均粒子径:0.48μm)を分散させてスラリーを調製した。スラリーは、用いるアルミナ粉体、蒸留水、分散剤であるHClを所定量混合し、ボールミルで1時間混合し、その後、スラリーを真空脱泡し実験に供した。スラリーの初期濃度を20vol%に調整した。また、スラリーの初期水頭差Δh(沈降管72内におけるスラリー液面と貯水槽74内の蒸留水の水面との間の差)を90mmとした。スラリーは、堆積層76、スラリー層77、清澄層78に分離していた。スラリーにおいてアルミナ粒子は分散状態にあった。
【0063】
スラリーのpHと圧力の関係を検討した。図8は、スラリーのpHと静水圧の関係を示す図である。図8は、図7の実験装置において易焼結アルミナ(平均粒子径:0.48μm)を用い、初期濃度20vol%、初期水頭差Δh=90mmのスラリーのpHを6.8、6.4、5.7、4.2と調整し、静水圧を測定した結果を示す。図8の結果よりpHが低くなるほど静水圧と大気圧(0kPa)との間に差が生じることが示された。
【0064】
また、スラリーのpHとアルミナ粒子のポテンシャルエネルギーとの関係を検討した。図9は、スラリーのpHとアルミナ粒子のポテンシャルエネルギーとの関係を示す図である。図9は、図7の実験装置において易焼結アルミナ(平均粒子径:0.48μm)を用い、初期濃度20vol%、初期水頭差Δh=90mmのスラリーのpHを6.8、6.4、5.7、4.2と調整し、DLVO理論を用いて、粒子表面間距離とポテンシャルエネルギーの関係を算出した結果を示す。図9の結果よりpHが低くなるほどポテンシャルエネルギー曲線のピークが鋭くなり、粒子間斥力が強くなることが示された。
【0065】
図7に示される実験装置を用い、連結管75を開放状態にして、貯水槽74から伝達管71を通じて沈降管72まで水を送水する際の時間と静水圧、時間と吸水速度の関係を検討した。使用したスラリーの種類、スラリー濃度、初期スラリーの初期水頭差Δhは、前記実験と同一条件とした。図10は、時間と静水圧の関係及び時間と吸水速度の関係を示す図である。図10において、破線は時間と静水圧の関係を示し、実線は時間と吸水速度の関係を示す。図10に示されるように、伝達管71と貯水槽74の間の連結管75を開放しても、実験開始後、しばらくは水が吐き出されるが、途中から吸水されることが示された。すなわち、最初に連結管75を閉止して、伝達管71及び沈降管72の系において負圧を確保しなくとも吸水(送水)が行われることが示された。これにより、送水に際し、負圧の確保という操作が必要なく、簡便に送水操作が行える。
【0066】
図7の実験装置において易焼結アルミナ(平均粒子径:0.48μm)を用い、初期濃度45vol%のスラリーを調製した。初期水頭差Δh=0mmの場合と150mmの場合における、連結管75を開放状態にして、貯水槽74から伝達管71を通じて沈降管72まで水を送水する際の時間と積算吸水量の関係、時間と変換エネルギー(ポテンシャルエネルギー)の関係を検討した。図11は、時間と変換エネルギーの関係及び時間と積算吸水量の関係を示す図である。図11において、破線は時間と変換エネルギー(ポテンシャルエネルギー)の関係を示し、実線は時間と積算吸水量の関係を示す。図11に示されるように、初期水頭差Δh=0mmの場合であっても、長期間にわたって送水が持続されることが示された。また、初期水頭差Δh=150mmの場合、長期間にわたって送水が持続されること及び初期水頭差Δh=0mmの場合よりも変換エネルギーが多くなることが示された。
【0067】
[送水実験]
(実施例1、2、比較例1)
次に、本実施形態の送水装置の性能について説明する。図12は、性能評価に使用した送水装置の写真である。図12に示される送水装置は、図3に模式的に示される。図3に示されるように、蒸留水を入れた内径20mm、長さ200mmのアクリル樹脂製の伝達管11の上に、下端にメンブレンフィルター12(孔径;0.2μm、材質;セルロース混合エステル)が配設された、内径20mm、長さ30mmのアクリル樹脂製のセル13を3段積み重ねた(実施例1)。伝達管11の底部には圧力センサー(図示しない)を取り付けた。圧力センサーは管底位置の水圧を測定した。また、貯水槽Cには蒸留水を充填し、連結管Dを用いて伝達管11と連通させた。貯水槽Cの重量は電子天秤により秤量され、負圧により吸引された水の量を計測した。連結管Dは開放状態とした。セル13内には、スラリーを収容した。スラリーは、粒子径0.48μmの易焼結アルミナをHClを分散剤として用いて、濃度45vol%、pH4.3の条件で混合し、ボールミルを用いて1時間混合し、真空脱泡することにより調製した。セル13内へのスラリーの投入は、スラリー投入後、その上にセル13を積み重ねてセル13同士を接合し、その後、セル13内へスラリーを投入することによって行った。実施例1におけるスラリーの投入高さは、90mmであった。最上部に位置するセル13の水面の高さが貯水槽Cの水面の高さより高くなるように設定し、最上部に位置するセル13内のスラリーの水面の高さと貯水槽C内の水面の高さとの差を水頭差とした。水頭差を190mmとした。また、図3において、メンブレンフィルター12、メンブレンフィルター12の2枚を配設した以外は、実施例1の装置と同じ2段の送水装置(実施例2)、メンブレンフィルター12のみを配設した以外は、実施例1の装置と同じ1段の送水装置(比較例1)を実験に用いた。
【0068】
測定結果を図13及び図14に示す。図13は、時間と静水圧の関係を示す図である。図13は、1段の送水装置(比較例1)よりも3段の送水装置(実施例1)及び2段の送水装置(実施例2)が、連結管Dを開放して系内で負圧を確保しなくても、吸水が初期から行われ、大きな圧力差を発生することを示している。従って、実施例1及び実施例2の多段の送水装置は、比較例1の1段の送水装置よりも送水の駆動力が大きく、送水の初期においても負圧を確保する必要がないので簡便な操作により送水を行うことができる。図14は、水頭差19cmの場合の積算吸水量と時間の関係を示す図である。実施例1の3段の送水装置は、時間経過に伴い、積算吸水量が増加しているのに対し、比較例1の1段の送水装置は、時間経過に伴っても積算吸水量が0gのままであり、吸水していないことが示された。
【0069】
[粒子帯電符号の影響確認実験]
送水メカニズム確認実験、実施例1、2の送水実験で使用した易焼結アルミナは正に帯電していた。負に帯電した粒子を使用しても送水操作が行われることを確認するため以下の実験を行った。
(実施例3)
図15は、粒子帯電符号の影響確認実験に使用した吸水装置を模式的に示す断面図である。図15に示すように、イオン交換水44が収容された貯水槽45と、スラリー42が投入されたセル41を配置した。貯水槽45の底部から垂直方向に突出して設けられた凸部46で、スラリー42が投入されたセル41を支持した。セル41内の底面に開口部が設けられ、その開口部において、メンブレンフィルター43(孔径;0.2μm、材質;セルロース混合エステル)が、セル41内のスラリー42と貯水槽45内のイオン交換水44との境界となるように設けられた。セル41の底面に設けられたメンブレンフィルター43からスラリー42の液面までの鉛直方向の距離hをスラリー投入高さとした。
【0070】
使用したスラリーは、粒子径(d50)が0.52μmのチタニア(富士チタン工業社製TA-300、3.90g/cm)をイオン交換水を分散媒として使用して分散させ、濃度45vol%、pH6(ζ=-55mV)の条件で混合し、ボールミルを用いて1時間混合し、真空脱泡することにより調製した。スラリーの投入高さhは、1.0cm、2.0cm、3.0cmであった。
【0071】
測定結果を図16に示す。図16は、積算吸水量と時間の関係を示す図である。図16より、負に帯電したチタニア粒子スラリーを使用しても、積算吸水量が増加し、吸水が行われていることが示された。また、スラリー投入高さが増加するにつれて積算吸水量が増加することが示されている。なお、スラリー投入高さ3.0cmの場合、積算吸水量が減少したのは水頭差の影響と推定された。
【0072】
[高分子電解質吸着粒子の送水確認実験]
図15に示される吸水装置を使用して、高分子電解質を吸着させた粒子によって送水が行われることを確認した。使用したスラリーは、粒子径(d50)が0.48μmの易焼結アルミナ(AES-11E、3.96g/cm)と、高分子電解質としてポリカルボン酸アンモニウム(PCA、セルナD-305)とを、イオン交換水を分散媒として、ポリカルボン酸アンモニウムの有効成分濃度を40wt%、アルミナの粒子濃度を45vol%となるように混合し、ボールミルを用いて1時間混合し、真空脱泡することにより調製した。ポリカルボン酸アンモニウムは、アルミナ1gに対し、3.6mgの割合で添加した。なお、図15の吸水装置において、スラリーの投入高さを2.0cmとした。
【0073】
測定結果を図17に示す。図17は、積算吸水量と時間の関係を示す図である。図17より、通常、粒子表面が正に帯電する易焼結アルミナ粒子に高分子電解質であるポリカルボン酸アンモニウムを吸着させることによって、アルミナ粒子表面を負に帯電させても積算吸水量が増加し、吸水が行われていることが示された。
【0074】
[粒子濃度の影響確認実験]
図15に示される吸水装置を使用して、スラリー中の粒子濃度を変化させた場合の吸水性能に与える影響について確認した。使用したスラリーは、粒子径(d50)が0.52μmの易焼結アルミナ(AES-11E、3.96g/cm)をイオン交換水を分散媒として使用して分散させ、濃度20vol%、45vol%、pH調整剤としてHClを使用し、pH3(ζ=60mV)の条件で混合し、ボールミルを用いて1時間混合し、真空脱泡することにより調製した。
【0075】
測定結果を図18に示す。図18は、積算吸水量と時間の関係を示す図である。図18より、粒子濃度が大きい程、積算吸水量が増加することが示された。
【0076】
[スラリー投入高さの影響確認実験]
図15に示される吸水装置を使用して、スラリー投入高さを変化させた場合の吸水性能に与える影響について確認確認した。使用したスラリーは、粒子径(d50)が0.48μmの易焼結アルミナ(AES-11E、3.96g/cm)をイオン交換水を分散媒として使用して分散させ、濃度45vol%、pH調整剤としてHClを使用し、pH3(ζ=60mV)の条件で混合し、ボールミルを用いて1時間混合し、真空脱泡することにより調製した。図15において、スラリー投入高さhを0.25cm、0.50cm、1.0cm、2.0cm、3.0cmと変化させた。
【0077】
測定結果を図19に示す。図19は、積算吸水量と時間の関係を示す図である。図19より、スラリー投入高さが高い程、積算吸水量が増加することが示された。なお、スラリー高さ3.0cmの場合、積算吸水量が減少しているが、これは、水頭差が原因と推定された。
【符号の説明】
【0078】
1:粒子、2:電気二重層、3:半透膜、10:送水装置、11:伝達管、12:半透膜、13:セル、14:水、15:堆積層、16:スラリー層、17:清澄層、20:セル、21:水吸入口、22:半透膜、23:空気穴、30:送水装置、31:セル、32:水吸入口、33:空気穴、34:容器、35:堆積層、36:清澄層、37:空間、38:流出口、40:吸水装置、41:セル、42:スラリー、43:メンブレンフィルター、44:イオン交換水、45:貯水槽、46:凸部、71:伝達管、72:沈降管、73:メンブレンフィルター、74:貯水槽、75:連結管、76:堆積層、77:スラリー層、78:清澄層、A:電気二重層が重なった領域、B:斥力、C:貯水容器、D:連結管、h:投入高さ
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の送水装置及び送水方法は、水を送水する送水装置及び送水方法として利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19