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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】構造物の異常検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20230807BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019138742
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021646
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(73)【特許権者】
【識別番号】505398952
【氏名又は名称】中日本高速道路株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519275674
【氏名又は名称】株式会社むらじ
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 篤
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山岸 貴俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋幸
(72)【発明者】
【氏名】連 重俊
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-228471(JP,A)
【文献】特開2015-064346(JP,A)
【文献】特開2017-194331(JP,A)
【文献】特開2017-190983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設置され、物理量を測定可能な1以上のセンサと、
前記1以上のセンサにより測定された前記物理量から複数の特徴量を算出し、算出した前記複数の特徴量のそれぞれを軸として多次元空間上に表記することを、時間経過とともに繰返し実行することで、前記多次元空間上に表記された前記複数の特徴量の分布データを生成し、前記分布データから前記構造物の取り付け状態の異常診断を行う診断部と
を備え
前記診断部は、前記分布データにおいて、分散が最大となる第一主成分の方向を算出し、前記第一主成分の方向における前記分布データの幅と、前記第一主成分の方向と直交する第二主成分の方向における前記分布データの幅との比から前記構造物の取り付け状態の異常診断を行う
構造物の異常検出システム。
【請求項2】
構造物に設置され、物理量を測定可能な1以上のセンサと、
前記1以上のセンサにより測定された前記物理量から複数の特徴量を算出し、算出した前記複数の特徴量のそれぞれを軸として多次元空間上に表記することを、時間経過とともに繰返し実行することで、前記多次元空間上に表記された前記複数の特徴量の分布データを生成し、前記分布データから前記構造物の取り付け状態の異常診断を行う診断部と
を備え
前記診断部は、前記分布データにおいて、分散が最大となる第一主成分の方向を算出し、前記第一主成分の方向における前記分布データの幅と、前記第一主成分の方向と直交する第二主成分の方向における前記分布データの幅との比、および前記第一主成分の方向における前記分布データの幅と、前記第一主成分の方向と前記第二主成分の方向と直交する第三主成分の方向における前記分布データの幅との比、から前記構造物の取り付け状態の異常診断を行う
構造物の異常検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、支柱などに設置された構造物の取付状態の異常診断を行う構造物の異常検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の取付状態を検出する方法としては、検査員による定期検査により、目視あるいは何らかの計器を用いて行われることが主流であった。また、取付状態の異常診断対象である構造物に経年的に発生する亀裂に関して、定量的な検査を、簡単かつ迅速に行う従来技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、紫外線または青色系可視光などの励起光によって発光する蛍光色素を、異常診断対象である構造物にあらかじめ混入させている。そして、この構造物に紫外線または青色系可視光などを発光する光源を照射し、目視あるいはCCDカメラ等による撮像画像の解析処理により、亀裂の発生を定量的に判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-83493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、取付状態の定量的な異常診断を可能にしてはいるものの、あくまでも、検査員による定期検査を基本としている。さらに、特許文献1は、異常診断対象の構造物に対して、蛍光色素をあらかじめ混入させておく必要があった。
【0006】
一方、近年では、構造物の取付状態の異常診断を定期検査よりも短い周期で、検査員を介さずに無人で行うことのできる異常診断システムが望まれている。また、支柱などに設置された構造物の取付状態の劣化を、定量的に長期間にわたって診断する必要性も高まっている。さらに、新規の構造物だけでなく、既存の構造物に対しても、容易に対応できることが望まれる。
【0007】
また、道路上の構造物をモニタリングするシステムを考えると、診断対象である構造物は、道路上に数多く広く点在している。それぞれの構造物で収集されたセンサデータを、ネットワーク経由で上位のデータ処理装置へ集めるためには、膨大なデータ転送が必要であり、有限の通信容量を圧迫してしまう。しかしながら、長期間にわたり、センサを用いて構造物の異常診断を行うためには、膨大なデータ処理が必要である。
【0008】
このように相反する要求を実現するためには、各構造物の設置現場ごとで、データ処理能力と記憶部を持たせたシステムを設置し、膨大なデータ処理は、各現場のシステム内で行うことが有効と考えられる。さらに、データ量が大幅に圧縮された統計データまでは各現場で作成し、通信によるデータの受け渡しは、統計データで行うことが、通信路を有効に活用する上で有効と考えられる。
【0009】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、構造物の取付状態の劣化を、長期間にわたり、検査員よる定期検査を必要とせずに、定量的に診断することのできる構造物の異常診断システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る構造物の異常診断システムは、構造物に設置され、物理量を測定可能な1以上のセンサと、1以上のセンサにより測定された物理量から複数の特徴量を算出し、算出した複数の特徴量のそれぞれを軸として多次元空間軸上に表記することを、時間経過とともに繰返し実行することで、多次元空間上に表記された複数の特徴量の分布データを生成し、分布データから構造物の取り付け状態の異常診断を行う診断部とを備え、診断部は、分布データにおいて、分散が最大となる第一主成分の方向を算出し、第一主成分の方向における分布データの幅と、第一主成分の方向と直交する第二主成分の方向における分布データの幅との比から構造物の取り付け状態の異常診断を行うものである。
また、本発明に係る構造物の異常診断システムは、構造物に設置され、物理量を測定可能な1以上のセンサと、1以上のセンサにより測定された物理量から複数の特徴量を算出し、算出した複数の特徴量のそれぞれを軸として多次元空間上に表記することを、時間経過とともに繰返し実行することで、多次元空間上に表記された複数の特徴量の分布データを生成し、分布データから構造物の取り付け状態の異常診断を行う診断部とを備え、診断部は、分布データにおいて、分散が最大となる第一主成分の方向を算出し、第一主成分の方向における分布データの幅と、第一主成分の方向と直交する第二主成分の方向における分布データの幅との比、および第一主成分の方向における分布データの幅と、第一主成分の方向と第二主成分の方向と直交する第三主成分の方向における分布データの幅との比、から構造物の取り付け状態の異常診断を行うものである
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加速度センサからのデータに基づいて、長期間にわたる構造物の変位軌跡を分布データに変換し、取付状態の劣化診断を行うことができる構成を備えている。この結果、構造物の取付状態の劣化を、長期間にわたり、検査員よる定期検査を必要とせずに、定量的に診断することのできる構造物の異常診断システムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1において、異常診断対象である構造物を示した説明図であり、(A)が正面図、(B)が上面図、(C)が側面図である。
図2】本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムの構成図である。
図3】本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムにおいて実行される一連の異常検出処理を示したフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態1において、中継装置によって生成された変位軌跡の濃淡画像データに対して、データ処理装置により、変位軌跡に対する主成分分析を行った結果を示した説明図である。
図5】本発明の実施の形態1において、データ処理装置によって構造物の取付状態が正常であると判断される場合の、変位軌跡の濃淡画像データの具体例を示した図である。
図6】本発明の実施の形態1において、データ処理装置によって構造物の取付状態が異常であると判断される場合の、変位軌跡の濃淡画像データの具体例を示した図である。
図7】本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムにおいて実行される、3成分の加速度情報を同時に用いた際の一連の異常検出処理を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構造物の異常検出システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本発明は、構造物の取付状態の異常診断を行うに当たって、時間経過とともに加速度センサによって取得される物理量から、構造物の取付状態の診断指標となる特徴量を抽出するとともに、特徴量の確率分布データを、分布頻度に対応する多階調の画像情報として順次更新しながら記憶部に保存していくことで、記憶すべき情報量の削減を図った上で、異常診断精度の向上を実現する。
【0014】
具体的には、情報板支柱の頭頂部の変位軌跡は、支柱基部、および支柱を固定するブラケット部の健全性に密接な関係がある。例えば、基部、あるいはブラケット部の一部に異常があった場合には、異常箇所が構造的に脆弱であるが故に、その部分の揺れが増大し、頭頂部の変位軌跡は、極端に扁平した軌跡をたどる。そこで、本発明は、このような変位軌跡の異常を検出することで、情報板の異常を迅速に検出できることを技術的特徴としている。
【0015】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1において、異常診断対象である構造物を示した説明図であり、(A)が正面図、(B)が上面図、(C)が側面図である。この図1において、取付状態の診断対象である構造物は、情報板1が支柱2の上方部分に取り付けられることで構成されている。情報板1としては、例えば、道路に設置された道路情報板が挙げられ、歩行者あるいはドライバは、道路情報板を視認することで、必要な情報を取得することができる。
【0016】
支柱2の上部に情報板1が設置されたこのような構造物は、上部荷重を持つ。従って、図1(A)における左右方向の両矢印、図1(B)における上下方向の両矢印、および図1(C)における左右方向の両矢印として例示したように、外力による繰り返し応力の加振が構造物に加わる。そして、継続的にこのような加振が構造物に加わるにより、構造物の疲労が進行し、損傷に至る場合がある。
【0017】
蓄積疲労による損傷は、応力集中部に発生する。すなわち、図1のように、情報板1が支柱2に設置されている場合には、主には、支柱2を支持する部位に蓄積疲労の発生が集中する。
【0018】
支柱2の剛性は、支持部の部位によって異なっている。このため、損傷した支柱2は、外力により加振された場合の振動軌跡に関して、それぞれの部位によって偏りが生じる。そこで、本実施の形態1に係る構造物の異常検出システムは、このような支柱構造物の損傷を、長期間に渡って高精度に診断するためのものである。
【0019】
具体的には、本実施の形態1に係る構造物の異常検出システムは、支柱2の頭頂部に設置された加速度センサ20を用いて、支柱の振動変位軌跡を観測することで、支柱構造物の損傷を長期間に渡って高精度に検出する。
【0020】
情報板1は、交通振動、風などによる外力を常に受け続けており、この外力により支柱2が振動する。支柱2の振動軌跡をモニタリングすると、外力がどの方向から受けているかを知ることができるとともに、構造的な欠損を知ることもできる。そこで、中継装置30は、加速度センサ20から得られる加速度情報に基づいて、振動軌跡を算出する。図1においては、中継装置30が支柱2に設置されている状態を例示している。
【0021】
次に、本実施の形態1に係る構造物の異常検出システムの構成について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムの構成図である。本実施の形態1における構造物の異常検出システムは、データ処理装置10、N個(Nは、2以上の整数)のセンサ20(1)~20(N)、および中継装置30を備えて構成されている。
【0022】
なお、本実施の形態1における構造物の異常検出システムでは、最低限、1個のセンサ20を設けておけば、取付状態の異常判定を実施することが可能である。すなわち、物理量を検出可能なセンサ20は、1以上として構成することができる。また、複数用いる場合のN個のセンサのそれぞれの機能は、全て共通である。そこで、以下の説明では、それぞれのセンサを区別する必要がない場合には、(1)~(N)の添字を用いずに、単にセンサ20と記載する。
【0023】
N個のセンサ20のそれぞれは、センサ部21と、加速度情報出力部22を有しており、診断対象物の異なる位置に設置されている。本発明の異常検出システムによって、長期にわたって診断対象物の取付状態の異常判定が行われることとなる。
【0024】
センサ部21は、例えば、薄膜の水晶振動子を用いる3軸加速度センサである。また、加速度情報出力部22は、センサの設置箇所における構造物の3軸の加速度に関するアナログ信号を、所定のサンプリングレート(例えば、50Hzのサンプリングレート)でデジタル信号に変換し、加速度情報として中継装置30へ送信する。
【0025】
中継装置30は、図1に示したように、支柱2に取り付けられている。そして、中継装置30は、それぞれのセンサ20内の加速度情報出力部22から受信した加速度情報に基づいて、振動軌跡を算出する。
【0026】
中継装置30は、加速度を2階積分することで得られる変位量を特徴量として、変位軌跡を算出することができる。また、加速度が周期関数の場合には、変位Xと加速度Aとの関係は、下式(1)となる。
変位X=加速度A/ω (1)
【0027】
上式(1)のωは、ω=2πfであり、変位と加速度との関係は、周波数fに依存する。このため、狭帯域のバンドパスフィルタでf周辺のみを抽出すると、fは定数のため、加速度は、変位に密接に依存したパラメータとして等価に扱うことができる。従って、加速度が周期関数の場合には、2階積分せずに、加速度の軌跡をプロットするだけでも、変位Xに等価なデータを得ることができる。
【0028】
中継装置30は、それぞれのセンサ20内の加速度情報出力部22から受信した加速度情報に基づいて、上述した演算処理を施すことで、振動軌跡を算出することができる。
【0029】
さらに、本実施の形態1に係る構造物の異常検出システムでは、中継装置30を設け、この中継装置30で変位軌跡を算出した後のデータを、データ処理装置10へ送信後、データ処理装置10で取付状態の分析を行うことができる。ここで、大量の情報板1の管理を、1台のデータ処理装置10で統括処理するためには、ネットワークを経由して、各中継装置30からデータ処理装置10に送るデータ量は、少ないほど良い。
【0030】
そこで、本実施の形態1に係る中継装置30は、データ処理装置10に対して、軌跡データそのものを送信するのではなく、軌跡情報を画像化したデータを送信することで、データ量の削減を図っていることを特徴としている。すなわち、中継装置30は、センサ20から得られた加速度情報の時系列データを、情報量を削減した画像データ(画像情報)に変換するデータ生成部として機能している。
【0031】
画像データは、多階調の濃淡データとなるため、軌跡が頻繁に通る画素は、より明るく、軌跡が頻繁に通らない画素は、より暗く表現することができる。そこで、中継装置30は、変位軌跡を確率分布化して画像データに変換する。このように表現すれば、長期間にわたる変位軌跡を、小さなデータサイズで無理なく表現することが可能となる。
【0032】
このような変位軌跡の画像データを得る具体的な手法を、図3図6に基づいて、以下に説明する。図3は、本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムにおいて実行される一連の異常検出処理を示したフローチャートである。また、図4図6は、本発明の実施の形態1における中継装置30によって生成される変位軌跡の画像データに関する説明図である。
【0033】
なお、以下では、ステップS301~ステップS305における濃淡画像データの生成処理までを中継装置30側で行い、その後のステップS306~ステップS311による診断処理は、中継装置30から変位軌跡の濃淡画像データを受信したデータ処理装置10側の診断部11で実施する構成として、図3のフローチャートを説明する。
【0034】
これに対して、ステップS301~ステップS311の一連処理のすべてを、中継装置30で実施し、最終的な判断結果および警報出力をデータ処理装置10に送信することも可能である。
【0035】
ステップS301において、中継装置30は、加速度センサ20から取得した加速度情報から、加速度のX成分、Y成分およびZ成分を抽出する。ここで、XY成分とは、図1(B)に示した両矢印の方向に相当し、YZ成分とは、図1(A)に示した両矢印の方向、XZ成分とは、図1(C)に示した両矢印の方向に相当する。
【0036】
すなわち、支柱2の上部に情報板1が設置された状態の構造物に関するX、Y、Zの各座標は、構造物の高さ方向がZ座標あり、Z軸に直交する平面がXY平面であり、XY平面内における情報板1の長手方向がX座標であり、XY平面内における情報板1の長手方向と直交する方向がY座標であるとして規定している。
【0037】
なお、この図3の説明では、X成分、Y成分およびZ成分の3成分をすべて抽出する場合について説明するが、2成分のみを抽出することによって、その2成分により規定される2軸による2次元平面内での異常検出処理を行うことができる。換言すると、X成分、Y成分およびZ成分の3成分のうち、任意の2つの成分に対応する方向を第一方向、第二方向とし、残りの1成分の方向を第三方向と設定することができる。
【0038】
次に、ステップS302において、中継装置30は、加速度のX成分、Y成分およびZ成分のそれぞれについて、一次固有振動数を解析する。さらに、ステップS303において、中継装置30は、解析した一次固有振動数に対してフィルタリング処理を施すことで、X成分、Y成分およびZ成分のそれぞれについて、固有振動成分を抽出する。
【0039】
次に、ステップS304において、中継装置30は、抽出した固有振動成分を2階積分することで、X成分、Y成分およびZ成分のそれぞれにおける構造物の変位を算出する。さらに、ステップS305において、中継装置30は、単位時間当たりの変位を、XY-YZ-ZX、それぞれの平面上にプロットしていくことで、変位軌跡を生成する。
【0040】
より具体的には、中継装置30は、単位時間当たりの変位をXY-YZ-ZX、それぞれの平面上にプロットしていくことで、変位軌跡を確率分布化して、濃淡画像データを生成する。すなわち、中継装置30は、同じ2次元座標値に関して、変位軌跡が通過する回数が多くなるほど、その回数の累積により、より明るい画素として濃淡画像を生成することができる。
【0041】
さらに、中継装置30は、生成した濃淡画像データをデータ処理装置10に送信する。このように、送信データとして濃淡画像データを用いることで、中継装置30からデータ処理装置10に送信する情報量を削減することができる。
【0042】
次に、ステップS306において、データ処理装置10は、変位軌跡の濃淡画像データに対して主成分分析を行い、第一主成分および第二主成分を算出する。ここで、第一主成分とは、XY平面で示された濃淡画像による変位軌跡においては、原点を通り、最も広い幅でデータが分布している方向、すなわち、分散が最大となる方向に相当する。また、第二主成分とは、原点を通り、第一主成分に直交する方向に相当する。YZ平面、ZX平面における第一主成分と第二主成分も、同様である。
【0043】
なお、XY平面、YZ平面、ZX平面の3平面のそれぞれに対して行うステップS307以降の処理は、同じであり、3平面に共通した内容として、以下に説明する。また、3平面すべてについて、以降の演算処理を実施することは必ずしも必要なく、データ処理装置10は、1平面、あるいは2平面について演算処理を実施することで、構造物の取付状態の劣化を、定量的に診断することができる。
【0044】
次に、ステップS307において、データ処理装置10は、第一主成分の方向における変位軌跡の分散V1、および第二主成分の方向における変位軌跡の分散V2を算出する。また、ステップS308において、データ処理装置10は、分散V1と分散V2との比率であるV1/V2を算出し、時系列データとして記憶部に記憶させる。さらに、ステップS309において、データ処理装置10は、第一主成分とX軸との角度θを算出し、時系列データとして記憶部に記憶させる。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態1において、中継装置30によって生成された変位軌跡の濃淡画像データに対して、データ処理装置10により、変位軌跡に対する主成分分析を行った結果を示した説明図である。中継装置30は、加速度センサ20から取得した加速度情報に基づいて、図4に示すような変位軌跡の濃淡画像データを生成することができる。一方、濃淡画像データを受信したデータ処理装置10は、主成分分析の結果として、第一主成分、第二主成分、および角度θを特定することができる。
【0046】
次に、ステップS310において、データ処理装置10は、比率V1/V2があらかじめ設定した許容値を超えるか、あるいは過去の値からあらかじめ設定した倍率以上変化した場合には、構造物の取付状態に異常が発生したと判断し、警報を出力する。
【0047】
さらに、ステップS311において、データ処理装置10は、角度θが、過去の所定期間における変動幅を逸脱した値になった場合にも、構造物の取付状態に異常が発生したと判断し、警報を出力する。
【0048】
図5は、本発明の実施の形態1において、データ処理装置10によって構造物の取付状態が正常であると判断される場合の、変位軌跡の濃淡画像データの具体例を示した図である。図5(A)、図5(B)のような変位軌跡であれば、データ処理装置10は、ステップS310およびステップS311の判定処理により、構造物の取付状態に異常が発生していないと判断する。
【0049】
一方、図6は、本発明の実施の形態1において、データ処理装置10によって構造物の取付状態が異常であると判断される場合の、変位軌跡の濃淡画像データの具体例を示した図である。図6のような変位軌跡であれば、データ処理装置10は、ステップS310およびステップS311の判定処理により、構造物の取付状態に異常が発生したと判断する。
【0050】
なお、先の図3図6では、加速度情報として、2成分を用いた2次元空間上での変位分布に基づいて、構造物の異常検出を定量的に行う場合について説明した。ただし、本願発明は、加速度情報として、X成分、Y成分、Z成分の3成分を同時に用いた3次元空間上での変位分布に基づいて、構造物の異常検出を定量的に行うことも可能である。
【0051】
図7は、本発明の実施の形態1に係る構造物の異常検出システムにおいて実行される、3成分の加速度情報を同時に用いた際の一連の異常検出処理を示したフローチャートである。
【0052】
なお、以下では、ステップS701~ステップS705における濃淡画像データの生成処理までを中継装置30側で行い、その後のステップS706~ステップS711による診断処理は、中継装置30から変位軌跡の濃淡画像データを受信したデータ処理装置10側の診断部11で実施する構成として、図7のフローチャートを説明する。
【0053】
ステップS701において、中継装置30は、加速度センサ20から取得した加速度情報から、加速度のX成分、Y成分、およびZ成分を抽出する。ここで、X成分、Y成分、Z成分は、先の図3の場合と同じである。
【0054】
次に、ステップS702において、中継装置30は、加速度のX成分、Y成分、およびZ成分のそれぞれについて、一次固有振動数を解析する。さらに、ステップS703において、中継装置30は、解析した一次固有振動数に対してフィルタリング処理を施すことで、X成分、Y成分およびZ成分のそれぞれについて、固有振動成分を抽出する。
【0055】
次に、ステップS704において、中継装置30は、抽出した固有振動成分を2階積分することで、X成分、Y成分およびZ成分のそれぞれにおける構造物の変位を算出する。さらに、ステップS705において、中継装置30は、単位時間当たりの変位を、XYZの3次元空間上にプロットしていくことで、3次元空間上の変位軌跡を生成する。より具体的には、中継装置30は、単位時間当たりの変位をXYZ空間上にプロットしていくことで、変位軌跡の3次元データを生成する。
【0056】
ここで、変位軌跡の3次元データが、X、Y、Xそれぞれ100画素として規定されているとする。この場合、中継装置30は、変位軌跡の3次元データから、XY平面における100画素×100画素として確率分布化された濃淡画像データをZ方向に100枚有して構成される100枚の濃淡画像データに変換することができる。すなわち、中継装置30は、変位軌跡の3次元データから、複数枚の濃淡画像データを生成することができる。
【0057】
さらに、中継装置30は、得られた複数枚の濃淡画像データをデータ処理装置10に送信する。このように、複数枚の濃淡画像データを用いることで、中継装置30からデータ処理装置10に送信するデータ情報量を削減することができる。
【0058】
次に、ステップS706において、データ処理装置10は、中継装置30から受信した複数枚の濃淡画像データを組み合わせることで、変位軌跡の3次元データを再構築する。そして、データ処理装置10は、3次元化された変位軌跡に対して主成分分析を行い、第一主成分および第二主成分を算出する。ここで、第一主成分とは、XYZ空間で示された変位軌跡において、最も広い幅でデータが分布している方向に相当する。また、第二主成分とは、第一主成分に直交する方向であり、かつ、その中で最も広い幅でデータが分布している方向に相当する。
【0059】
なお、データ処理装置10は、第一主成分および第二主成分に直交する方向に相当する第三主成分をさらに特定することもできる。以下の説明では、第三主成分も特定した場合を例に、説明する。
【0060】
次に、ステップS707において、データ処理装置10は、第一主成分の方向における変位軌跡の分散V1、第二主成分の方向における変位軌跡の分散V2、および第三主成分の方向における変位軌跡の分散V3を算出する。また、ステップS708において、データ処理装置10は、分散V1と分散V2との比率であるV1/V2、および分散V1と分散V3との比率であるV1/V3を算出し、時系列データとして記憶部に記憶させる。なお、データ処理装置10は、分散V2と分散V3との比率であるV2/V3を算出し、時系列データとして記憶部にさらに記憶させることも可能である。
【0061】
さらに、ステップS709において、データ処理装置10は、第一主成分をXY平面に投影したときのX軸との角度θ1、および第一主成分軸をXZ平面に投影したときのX軸との角度θ2を算出し、それぞれ、時系列データとして記憶部に記憶させる。
【0062】
次に、ステップS710において、データ処理装置10は、比率V1/V2および比率V1/V3の少なくともいずれかが、あらかじめ設定した許容値を超えるか、あるいは過去の値からあらかじめ設定した倍率以上変化した場合には、構造物の取付状態に異常が発生したと判断し、警報を出力する。
【0063】
さらに、ステップS711において、データ処理装置10は、角度θ1、θ2の少なくとも何れか一方が、過去の所定期間における変動幅を逸脱した値になった場合にも、構造物の取付状態に異常が発生したと判断し、警報を出力する。
【0064】
このような一連処理を行うことで、3次元空間上のX成分、Y成分、Z成分の3成分を用いて、構造物の異常検出を定量的に行うことができる。
【0065】
以上のように、実施の形態1によれば、構造物の取付状態の劣化を、検査員よる定期検査を必要とせずに、定量的に診断することのできる構造物の異常診断システムを実現できる。特に、実施の形態1によれば、加速度センサからのデータに基づいて、長期間にわたる変位軌跡を、情報量を削減した分布データに変換することができる。この結果、必要とされるメモリ容量を抑制した上で、長期間にわたる変位測定結果に基づいて構造物の異常検出を定量的に行うことができる。
【0066】
このような検出処理において、変位軌跡を確率分布化した濃淡画像データの生成までは、中継装置で実施することができる。一方、大量に存在する構造物に関する異常状態を統括管理するデータ処理装置は、それぞれの中継装置から、データ量が削減された濃淡画像データを取得して、長期間にわたって、構造物の取付状態に関する異常診断を、定量的に実施することができる。
【0067】
また、上述した実施の形態では、センサ20が加速度センサである場合を例示した。しかしながら、センサ20は、加速度情報を導出できる物理量を測定可能なセンサであれば、加速度センサ以外のものを適用することも可能である。
【0068】
また、図3のフローチャートで示した一連処理を行うことで、2次元空間上での変位軌跡に基づいて構造物の取付状態に関する異常診断を定量的に実施することができ、図7のフローチャートで示した一連処理を行うことで、3次元空間上での変位軌跡に基づいて構造物の取付状態に関する異常診断を定量的に実施することができる。すなわち、本願発明は、1以上のセンサにより測定された物理量から複数の特徴量を算出し、算出した複数の特徴量のそれぞれを軸として多次元空間上に表記することを、時間経過とともに繰返し実行することで、多次元空間上に表記された複数の特徴量の分布データを生成することができる。
【0069】
また、濃淡画像データの生成から、異常診断までの一貫した処理を、診断対象の近傍に設置されている中継装置で実施することも可能である。異常診断を、データ処理装置あるいは中継装置のいずれで実施するにせよ、情報量を圧縮した分布データを生成するデータ生成部と、データ分布に基づいて異常診断を行う診断部とを用いた本発明の診断処理方法を採用することで、必要とされるメモリ容量を抑制した上で、長期間にわたる変位測定結果に基づいて構造物の異常検出を定量的に行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
1 情報板、2 支柱、10 データ処理装置、11 診断部、20 センサ(加速度センサ)、21 センサ部、22 加速度情報出力部、30 中継装置。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7