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特許7325742肺がんの検査方法及び肺がん評価用の尿検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】肺がんの検査方法及び肺がん評価用の尿検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20230807BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20230807BHJP
   C12Q 1/6886 20180101ALI20230807BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C12Q1/68 ZNA
C12Q1/37
C12Q1/6886 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022082254
(22)【出願日】2022-05-19
【審査請求日】2022-05-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年9月2日 公益財団法人 喫煙科学研究財団 令和2年度 助成研究発表会において、岡崎 勲、安藤 航、植松 崇之、尾鳥 勝也、横森 弘昭、曽我部 将哉、石川 成美、遠藤 俊輔、坪地 宏嘉が発明した受動喫煙によると考えられる肺癌患者における血中および尿中EXSOMESのmicroRNA分析について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和3年6月 令和2年度 喫煙科学研究財団研究年報において、岡崎 勲、安藤 航、植松 崇之、尾鳥 勝也、横森 弘昭、曽我部 将哉、石川 成美、遠藤 俊輔、坪地 宏嘉が発明した受動喫煙によると考えられる肺癌患者における血中および尿中EXSOMESのmicroRNA分析について公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】519353215
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 勲
(73)【特許権者】
【識別番号】522198863
【氏名又は名称】石川 成美
(73)【特許権者】
【識別番号】519353237
【氏名又は名称】安藤 航
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 勲
(72)【発明者】
【氏名】安藤 航
(72)【発明者】
【氏名】植松 崇之
(72)【発明者】
【氏名】尾鳥 勝也
(72)【発明者】
【氏名】横森 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】曽我部 将哉
(72)【発明者】
【氏名】石川 成美
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】坪地 宏嘉
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0136056(US,A1)
【文献】特開2016-028584(JP,A)
【文献】YAO et al.,FEBS Open Bio,2019年,Vol. 9, No. 12,p.2149-2158,DOI: 10.1002/2211-5463.12753
【文献】WU et al.,Cancer Management and Research,2020年,Vol. 12,p.485-495,DOI: 10.2147/CMAR.S232383
【文献】LI et al.,ELECTROPHORESIS,2011年,Vol. 32,No. 15,p.1976-1983,DOI: 10.1002/elps.201000598
【文献】LI et al.,Lung Cancer,2010年,Vol. 69, No. 3,p.341-347,DOI: 10.1016/j.lungcan.2009.12.007
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量を測定する工程(A1)、
前記対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、
前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び
前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)
を含む、肺がんの検査方法であって、
前記対象が男性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きく、かつ、工程(B3)で得られたMMP-1の発現量/エクソソーム特異的タンパク質の発現量が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示し、
前記対象が女性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さく、かつ、工程(B3)で得られたMMP-1の発現量/エクソソーム特異的タンパク質の発現量が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示し、
前記基準値(M)が、男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量であり、
前記基準値(F)が、女性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量であり、
前記基準値(T)が、健常人の尿中エクソソームに含まれるMMP-1の発現量/前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量である、検査方法
【請求項2】
前記エクソソーム特異的タンパク質がCD63である、請求項に記載の検査方法。
【請求項3】
尿からエクソソームを分離、精製するエクソソーム調製試薬マイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬、マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬、およびエクソソーム特異的タンパク質測定試薬を含む、肺がん評価用の尿検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺がんの検査方法及び肺がん評価用の尿検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
肺がん(LC)は、先進国だけでなく後進国においても、2018年における男性の死亡原因の第1位であり、女性の死亡原因の第3位である。日本においても、2019年の統計によれば、肺がんは、男性での死亡率が最も高く、罹患率が4番目に高い疾患であり、女性においても死亡率が3番目、罹患率が4番目に高い。低被爆量のCTやMRIにより、主に早期肺がん、特に腫瘍の大きさが2cm以下の症例の発見が増えていることから、肺がんの治療成績は劇的に改善しつつあるが、肺がんの予後は依然として悪いままである。日本では、労働安全衛生法により、労働災害による結核や肺疾患を予防するために、すべての労働者に胸部X線検査を受けることが求められているものの、単純X線写真では早期の肺がんを診断することが難しく、特異性や感度も不十分であるため、肺がんの検出には適していない。そのため、早期の肺がん患者を発見するためには、簡便に行えて、感度が高く、非侵襲で、安価な肺がん検査方法を開発する必要がある。
【0003】
近年、がんを早期発見するために、様々なバイオマーカーとがんとの関連性が研究されている。がん細胞は、自身の生存に有利なタンパク質やマイクロRNA(miRNA)等の分子をエクソソームに内包して分泌することにより、近傍だけでなく遠隔地にある細胞へも情報を伝達し、がん微小環境の形成や前転移ニッチェの形成などを行うことが明らかになってきた。そのため、エクソソームが内包する分子をバイオマーカーとしてがんとの関連を探る研究が行われている。
【0004】
エクソソームに内包されるmiRNAについては、例えば、尿中エクソソームのmiRNAの発現レベルを測定することにより前立腺がんを早期発見する方法等が報告されている(特許文献1)。
また、尿中のエクソソームに含まれるマイクロRNA-21(miRNA-21、miR-21とも称する)とマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の組み合わせを用いて、早期の乳がんを検出できる乳がんスクリーニング法も報告されている(特許文献2)。
しかし、尿中のエクソソームを用いた肺がん検査方法はこれまで報告されていない。
【0005】
MMP-1は、早期の肺がんで発現量が増加することが報告されているものの(非特許文献1)、肺がんを診断するバイオマーカーとする研究は行われていない。
【0006】
肺がんとの関連が報告されているmiRNAとしては、マイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)がある。miR-486-5pは、腫瘍細胞の増殖抑制に関与するPIK3R1遺伝子を標的としたmiRNAであり、種々のがんやメタボリックシンドローム、冠動脈疾患との関連が報告されている(非特許文献1)。特に、非小細胞肺がん患者の組織および血清におけるmiR-486-5pの発現量は、健常人に比べて低いため、miR-486-5pは、非小細胞肺がんを診断するバイオマーカーになり得ることが報告されている(非特許文献2)。しかし、これらの報告では、組織および血清中のmiR-486-5pを直接分析しているため、エクソソーム中のmiR-486-5pの発現量については不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2018-504915号公報
【文献】特開2021-56103号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Sauter W, Rosenberger A, Beckmann L, Kropp S, Mittelst rass K, Timofeeva M, et al. Matrix metalloproteinase 1 (MMP 1) is associated with early onset lung cancer. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 2008; 17:1127-35
【文献】ElKhouly AM, Youness RA, Gad MZ, MicroRNA-486-5p and microRNA-486-3p, Multifaceted pleiotropic mediators in oncological and non-oncological conditions. Noncoding RNA Res 2020, 5(1):11-21
【文献】Tian F, Wang J, Ouyang T, Lu N, Lu J, Shen Y, Bai Y, Xie X, Ge Q, MiR-486-5p Serves as a Good Biomarker in Nonsmall Cell Lung Cancer and Suppresses Cell Growth With the Involvement of a Target PIK3R1, Front Genet 2019, 10:688
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、早期の肺がん患者を発見するために、低費用で気軽に受けることができる肺がん検査を提供したいと考えた。安価で簡便な肺がん検査があれば、まずその検査でスクリーニングを行い、肺がんの疑いがあった場合にのみ従来の肺がん検診や精密検査を受ければよいので、従来よりも低費用、かつ短時間で肺がん検査をうけることができるようになる。そこで、本発明は、簡便で、感度が高く、非侵襲的な肺がんの検査方法、および肺がん評価用の尿検査キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、以下の構成を有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の〔1〕~〔10〕に関する。
〔1〕 対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量を測定する工程(A1)を含む、肺がんの検査方法。
〔2〕 前記対象が男性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、〔1〕に記載の検査方法。
〔3〕 前記対象が女性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、〔1〕に記載の検査方法。
〔4〕 さらに、前記対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の検査方法。
〔5〕 前記エクソソーム特異的タンパク質がCD63である、〔4〕に記載の検査方法。
〔6〕 対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)を含む、肺がんの検査方法。
〔7〕 工程(B3)で得られた値が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示す、〔6〕に記載の検査方法。
〔8〕 前記エクソソーム特異的タンパク質がCD63である、〔6〕又は〔7〕に記載の検査方法。
〔9〕 エクソソーム調製試薬とマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キット。
〔10〕 エクソソーム調製試薬とマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬とエクソソーム特異的タンパク質測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡便で、感度が高く、非侵襲的な肺がんの検査方法、および肺がん評価用の尿検査キットが得られる。
【0012】
本発明の効果は、より具体的には以下の通りである。
1.対象の尿を検査試料とするので、対象は痛みを感じずに検査を受けることができ、試料の採取も簡便である。
2.対象が放射線被ばくを受けたり、体に傷跡が残る危険性がない。
3.高価で大型の検査機器を必要とせず、安価に検査が行える。また、多数の検査試料を同時に解析できる。
4.肺がん、特に早期の肺がんを高感度で検出することができる。本発明は、特に非喫煙者の女性の肺がんおよび非喫煙者の腺がんの検出に好適である。
5.従来の肺がんスクリーニング法、例えば、問診、胸部X線検査、喀痰細胞診等の前に行う、肺がん一次スクリーニングとして行うことにより、忙しい人や、お金のない人でも肺がん検診を気軽に受けられる。
6.従来の肺がん診断方法、例えば、問診、胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査、気管支鏡検査、生検による病理組織学的所見等と組み合わせることにより、医師による肺がんの確定診断をより的確なものとするための検査データを収集し、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、尿由来エクソソーム調製物中のエクソソームを電子顕微鏡で観察した写真である。
図2図2は、健常人と肺がん患者の尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1およびCD63をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す図である。
図3A図3Aは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図3B図3Bは、男性において、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を20人の健常人と24人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図3C図3Cは、女性において、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を20人の健常人と11人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図3D図3Dは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて健常人と比較したグラフである。
図3E図3Eは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を24人の男性肺がん患者の臨床ステージに基づいて男性健常人と比較したグラフである。
図3F図3Fは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を11人の女性肺がん患者の臨床ステージに基づいて女性健常人と比較したグラフである。
図3G図3Gは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を35人の肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図3H図3Hは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を24人の男性肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図3I図3Iは、尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を11人の女性肺がん患者者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図4A図4Aは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図4B図4Bは、男性において、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を20人の健常人と24人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図4C図4Cは、女性において、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を20人の健常人と11人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図4D図4Dは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて健常人と比較したグラフである。
図4E図4Eは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を24人の男性肺がん患者の臨床ステージに基づいて男性健常人と比較したグラフである。
図4F図4Fは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を11人の女性肺がん患者の臨床ステージに基づいて女性健常人と比較したグラフである。
図4G図4Gは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を35人の肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図4H図4Hは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を24人の男性肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図4I図4Iは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を11人の女性肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図5A図5Aは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図5B図5Bは、男性において、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を20人の健常人と24人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図5C図5Cは、女性において、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を20人の健常人と11人の肺がん患者とで比較したグラフである。
図5D図5Dは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて健常人と比較したグラフである。
図5E図5Eは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を24人の男性肺がん患者の臨床ステージに基づいて男性健常人と比較したグラフである。
図5F図5Fは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を11人の女性肺がん患者の臨床ステージに基づいて女性健常人と比較したグラフである。
図5G図5Gは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21p相対発現量を35人の肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図5H図5Hは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を24人の男性肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図5I図5Iは、尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を11人の女性肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較したグラフである。
図6A図6Aは、MMP-1/CD63を用いた肺がんの検出が妥当であるかを検討したROC曲線である。図中の「MMP-1」は、MMP-1/CD63の意味である。
図6B図6Bは、男性における、miR-486-5p相対発現量を用いた肺がんの検出が妥当であるかを検討したROC曲線である。図中の「mir-486」は、miR-486-5pの意味である。
図6C図6Cは、女性における、miR-486-5p相対発現量を用いた肺がんの検出が妥当であるかを検討したROC曲線である。図中の「mir-486」は、miR-486-5pの意味である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明について具体的に説明する。
本発明は、大きく分けて4つの態様がある。
【0015】
第一の態様は、対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量を測定する工程(A1)を含む、肺がんの検査方法である。該検査方法を肺がんの検査方法(I)と称する。
【0016】
第二の態様は、対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)を含む、肺がんの検査方法である。該検査方法を肺がんの検査方法(II)と称する。
【0017】
第三の態様は、エクソソーム調製試薬とマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットである。該尿検査キットを肺がん評価用の尿検査キット(I)と称する。
【0018】
第四の態様は、エクソソーム調製試薬とマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬とエクソソーム特異的タンパク質測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットである。該尿検査キットを肺がん評価用の尿検査キット(II)と称する。
【0019】
〈対象〉
本発明における対象は、特に制限されないが、通常ヒトである。
【0020】
〈尿〉
本発明に用いる尿は、対象から採取された通常の尿であればよく、採取の時刻やタイミングは制限されない。尿道や外陰部からの細菌の混入を防ぐため、中間尿が好ましく、体動や運動の影響が除外され、濃縮尿であるため、感度がよいことから、起床後最初に採取した早朝尿がより好ましい。
【0021】
採取後の尿は、すぐに工程(A1)または工程(B1)に供してもよいし、保存してから供してもよい。尿の保存は通常、-80℃クラスの超低温層で行う。
採取後の尿は、通常、赤血球や白血球、尿酸結晶、細胞、細菌などの固形物を除くために、工程(A1)又は工程(B1)を行う前に遠心分離を行う。また、工程(A1)又は工程(B1)を行う前に、miR-486-5p又はMMP-1の発現量の測定に影響しない範囲で、フィルターろ過、濃縮、希釈等の前処理を行ってもよい。
工程(A1)または工程(B1)に供する尿の量は、miR-486-5p又はMMP-1の発現量の測定ができれば特に制限されないが、1.0mL~15mLが好ましく、2.0mL~10mLがより好ましい。
【0022】
〈エクソソーム〉
エクソソームは細胞から分泌される、直径が20nm~200nmの膜小胞である。エクソソームの直径は、より好ましくは30nm~150nmである。
工程(A1)又は工程(B1)は、エクソソームの存在を確認できることから、尿からエクソソームを分離及び精製したエクソソーム調製物を調製し、そのエクソソーム調製物中のmiR-486-5pの発現量又はMMP-1の発現量を測定することが好ましい。
【0023】
尿からエクソソーム調製物を調製する場合、その方法は、特に制限されず、例えば超遠心分離や限外ろ過、ゲル濾過、HPLC、フィルター法、ポリマーを用いた沈殿法、抗体やレクチンを利用してビーズやカラムに吸着させる方法などが挙げられ、これらを応用した市販品としてExosome Isolation Kit、Total Exosome Isolationシリーズ、ExoTrapTM、PureExoTM、DIAG ExoTM等の市販のエクソソーム分離、精製用のスピンカラム、キット等が挙げられる。本発明においてエクソソーム調製物を調製するためには、操作が簡便で、エクソソームの純度が高いことから、ビーズ法を用いることが好ましく、Myltenyi社製のExosome Isolation Kitを用いることがより好ましい。
【0024】
エクソソームは、その形状が丸いこと、および大きさを確認することが好ましく、その手段としては例えば電子顕微鏡や動的光散乱法が挙げられる。エクソソームの大きさだけでなく形状も目視で確認できることから、電子顕微鏡が好ましい。
【0025】
エクソソームは、エクソソーム特異的タンパク質の存在を確認することが好ましく、その手段としては、例えばウエスタンブロッティングが挙げられる。エクソソーム特異的タンパク質については後述する。
【0026】
〈測定〉
本発明において、測定、または測定するとは、相対存在量または絶対存在量を求めることを意味する。
【0027】
〈肺がん〉
本発明における肺がんとは、肺のいずれかの組織に発生する悪性腫瘍をいう。肺がんは、原発性肺がん、転移性肺がんのいずれであってもよいが、好ましくは原発性肺がんである。肺がんは、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、大細胞がん等の非小細胞がんと呼ばれるものが多く、次いで小細胞肺がん、多形がんや肉腫などがある。本発明における肺がんはこれらのいずれであってもよい。このうち、腺がんとは、肺の分泌腺組織に発生するがんをいう。
【0028】
本発明における肺がんは、肺がんTNM分類第8版による臨床ステージが0期、IA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、IIB期、IIIA期、IIIB期、IIIC期、IVA期、IVB期のいずれのステージのものであってもよい。がん腫瘤の大きさが2cm以下である肺がん又は肺がんTNM分類第8版による臨床ステージ0期、IA1期、IA2期、IA3期、またはIB期のいずれかの肺がんは、早期肺がんの中でも初期の肺がんであり、従来の肺がん検査方法、特に単純X線写真での発見が難しい肺がんである。なお、早期肺がんとは、一般的には転移のない肺がんをいう。
【0029】
〈肺がんの検査方法〉
本発明の肺がんの検査方法は、人体等の対象から収集された試料(尿)を用いて検査を行う方法であり、対象がヒトである場合であっても、人間を診断する方法(医療目的で人間の病状や健康状態等の身体状態または精神状態について判断する工程を含む方法)を含まない。
本発明の肺がんの検査方法は、「肺がんに関するデータを提供する、肺がんに関する検査方法」、「対象が肺がんに罹患している可能性を判定する方法」、「対象が肺がんに罹患している可能性を評価する方法」、「対象が肺がんに罹患している可能性を試験する方法」、「対象の肺がんへの罹患の有無を判定する方法」又は「肺がんの判定のための方法」等と言い換えることができる。また、本発明の肺がんの検査方法は、対象の肺がんについて医師が診断を行うための材料となる検査結果を提供するものであるから、「肺がんの診断のためにデータを収集する方法」、「対象が肺がんに罹患していると推定するための診断用情報の分析方法」、又は「対象が肺がんに罹患しているとの推定を補助するための診断用情報の分析方法」と言い換えることもできる。
【0030】
本発明の肺がんの検査方法は、初期の肺がんのスクリーニングに有用であることから、症状がなく健康と思われる人に対する肺がんスクリーニング検査として用いることが好ましい。本発明の肺がんの検査方法は、簡便で安価に行うことができることから、胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査、気管支鏡検査、又は生検の前段階として用いることが好ましい。前記肺がんの検査方法は、前記肺がんの検査方法により、対象が肺がんに罹患している可能性が高いことが示された場合に、専門の医師による問診、胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査、気管支鏡検査、又は生検を推奨するために用いることがより好ましい。
【0031】
〈肺がんの検査方法(I)〉
肺がんの検査方法(I)は、対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量を測定する工程(A1)を含む、肺がんの検査方法である。
【0032】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(I)における肺がんは、臨床ステージIA1期、IA2期、IA3期、またはIB期のいずれかの肺がんである。
【0033】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(I)における肺がんは、好ましくは非喫煙者の肺がんであり、より好ましくは女性非喫煙者の肺がんである。
【0034】
〈工程(A1)〉
前記工程(A1)は、対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p、microRNA-486-5p、miRNA-486-5p、hsa-miR-486-5pとも称する)の発現量を測定する工程である。
【0035】
〈マイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)〉
miR-486-5pは、ヒトゲノムの8番染色体(8p11.21)上にあるMIR486-1遺伝子によってコードされているマイクロRNA-486(miR-486)の5p型である。
MIR486-1遺伝子から、RNAポリメラーゼIIによって転写されたPri-miR-486は、核内においてDroshaによって切断され、Pre-miR-486が生成される。Pre-miR-486はその後、細胞質基質においてRNA-induced silencing complex(RISC)を経て、一本鎖RNAである、miR-486-5p及びmiR-486-3pを生ずる。Pre-miR-486において5’側にあったmiR-486をmiR-486-5p、3’側にあったmiR-486をmiR-486-3p型と称する。miR-486-5p(miRBase Accession:MIMAT0002177)の配列は、UCCUGUACUGAGCUGCCCCGAG(配列番号1)である。
【0036】
miR-486-5pの発現量は、絶対発現量又は相対対発現量のいずれであってもよい。
miR-486-5pの絶対発現量としては、miR-486-5pのコピー数、又は重量を用いることができる。
【0037】
miR-486-5pの発現量を測定する方法は、miR-486-5pの発現量を測定できれば特に制限されず、公知の方法を用いることができるが、例えば、定量RT-PCR、マイクロRNAアレイ、RNA Sequencing(RNA-Seq)、Multiplex miRNA profiling等が挙げられる。
miR-486-5pの発現量は、市販のキットを使用して測定してもよい。定量RT-PCRの市販品のキットとしては、miRNA-486-5p assay kit(Applied Biosystems社製)が挙げられる。
miR-486-5pを測定する方法は、操作が簡便で定量性に優れることから、定量RT-PCRが好ましく、miRNA-486-5p assay kit(Applied Biosystems社製)を用いる定量RT-PCRがより好ましい。
【0038】
miR-486-5pの発現量は、定量RT-PCRにより測定する場合、健常人の発現量に対する相対発現量であることが好ましく、定量RT-PCRにおける肺がん患者または健常人の個々のmiR-486-5pのCT(Threshold Cycle)から、健常人全員でのmiR-486-5pのCT値の平均値を差し引いて算出したΔCTから求めた2ΔCTの値(2のΔCT乗)であることがより好ましい。
定量的RT-PCRにおいてmiR-486-5pが増幅するサイクル数は、健常人男性と健常人女性で異なっているため、健常人全員でのmiR-486-5pのCT値の平均値は、性別ごとに算出し、肺がん患者または健常人の性別に応じた値を差し引いて、ΔCTを算出することが好ましい。
【0039】
miR-486-5pの発現量は、健常人と肺がん患者で異なることから、肺がんの検査方法(I)は、肺がんへの罹患の有無の判定に利用できる。
肺がんの検査方法(I)は、好ましくは、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量を、健常人のmiR-486-5pの発現量から得られた基準値と比較することにより、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定するものである。
【0040】
男性肺がん患者のmiR-486-5pの発現量は、男性健常人よりも大きいことから、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きい場合に、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定することができる。
そのため、肺がんの検査方法(I)は、好ましくは、対象が男性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示すものである。
【0041】
基準値(M)は、特に制限されず、男性肺がん患者の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量と、男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量とを比較することにより適宜決定することができる。
【0042】
基準値(M)は、好ましくは、男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量である。前記男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量は、好ましくは複数の男性健常人のグループから得られた上記miR-486-5pの発現量の測定方法、好適には定量RT-PCRにより得られた複数の測定結果から算出された値、または数値範囲であり、例えば平均値、中央値、平均値±標準偏差等が挙げられる。
基準値(M)は、ROC曲線に基づいて決定することが好ましい。
【0043】
男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量は、男性健常人の尿をサンプルとして前記工程(A1)と同様にして測定すればよい。
健常人とは、胸部X線検査において肺がんの疑いがない者、または肺がんと診断されていない者をいう。
【0044】
女性肺がん患者のmiR-486-5pの発現量は、女性健常人よりも少ないことから、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さい場合に、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定することができる。
そのため、肺がんの検査方法(I)は、好ましくは、対象が女性である場合、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示すものである。
【0045】
基準値(F)は、特に制限されず、女性肺がん患者の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量と、女性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量とを比較することにより適宜決定することができる。
【0046】
基準値(F)は、好ましくは、女性健常人の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量である。前記女性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量は、好ましくは複数の女性健常人のグループから得られた上記miR-486-5pの発現量の測定方法、好適には定量RT-PCRにより得られた複数の測定結果から算出された値、または数値範囲であり、例えば平均値、中央値、平均値±標準偏差等が挙げられる。
基準値(F)は、ROC曲線に基づいて決定することが好ましい。
【0047】
女性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量は、女性健常人の尿をサンプルとして前記工程(A1)と同様にして測定すればよい。
【0048】
〈工程(A2)、工程(A3)〉
肺がんの検査方法(I)は、工程(A1)に加えて、
健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量を測定する工程(A2)、及び
前記工程(A1)で得られた結果を前記工程(A2)で得られた結果と比較して、肺がんに罹患している可能性を判定する工程(A3)
を含んでもよい。
【0049】
肺がんの検査方法(I)は、対象が男性である場合、工程(A1)に加えて、
男性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量を測定する工程(A2M1)、
前記工程(A2M1)で得られた結果から基準値(M)を算出する工程(A2M2)、及び
前記工程(A1)で得られた結果を基準値(M)と比較して、前記工程(A1)で得られた結果が基準値(M)よりも大きい場合に、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定する工程(A3M)
を含んでもよい。
【0050】
肺がんの検査方法(I)は、対象が女性である場合、工程(A1)に加えて、
女性健常人の尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの発現量を測定する工程(A2F1)、
前記工程(A2M1)で得られた結果から基準値(F)を算出する工程(A2F2)、及び
前記工程(A1)で得られた結果を基準値(F)と比較して、前記工程(A1)で得られた結果が基準値(F)よりも小さい場合に、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定する工程(A3F)
を含んでもよい。
【0051】
〈その他の工程〉
肺がんの検査方法(I)は、肺がん罹患の可能性の判定の感度と特異度を向上させるため、好ましくは、さらに、前記対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)を含む。
すなわち、肺がんの検査方法(I)は、肺がんの検査方法(II)と組み合わせることが好ましい。肺がんの検査方法(I)と、肺がんの検査方法(II)とを組み合わせた肺がんの検査方法を肺がんの検査方法(III)と称する。
肺がんの検査方法(II)、工程(B1)、工程(B2)及び工程(B3)の詳細については後述する。
【0052】
肺がんの検査方法(I)における工程(B1)に用いる尿は、工程(A1)に用いる尿と同一の対象から得られたものであればよく、採取の時期は制限されない。試験を簡便に行うために、工程(B1)に用いる尿は、工程(A1)に用いる尿と同時に採取されたものであることが好ましい。
工程(A1)と工程(B1)を行う順序は制限されず、2つの工程を同時に行ってもよい。
【0053】
〈肺がんの検査方法(II)〉
肺がんの検査方法(II)は、対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程(B1)、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B2)、及び前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B3)を含む、肺がんの検査方法である。
【0054】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(II)における肺がんは、好ましくは臨床ステージ0期、IA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、又はIIB期のいずれかの肺がんであり、より好ましくは臨床ステージIA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、又はIIB期のいずれかの肺がんであり、さらに好ましくは臨床ステージIA1期、IA2期、IA3期、又はIB期のいずれかの肺がんである。
【0055】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(II)における肺がんは、好ましくは腺がん又は小細胞がんであり、より好ましくは腺がんである。
【0056】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(II)における肺がんは、好ましくは非喫煙者における肺がんであり、より好ましくは非喫煙者における腺がんであり、さらに好ましくは非喫煙者の女性における腺がんである。
【0057】
<工程(B1)>
工程(B1)は、前記対象の尿中エクソソームに含まれるマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)の発現量を測定する工程である。
【0058】
マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)は、MMP-1、mmp-1とも称する。
MMP-1は、コラゲナーゼ1とも呼ばれる、コラーゲンタイプI、II、IIIを分解するプロテアーゼであり、N末から3:1の部位でコラーゲン分子を切断する。MMP-1は、がん細胞周囲のコラーゲンを分解することにより、がん細胞が増殖したり運動したりするスペースを作るといわれており、がん浸潤における細胞外マトリックス(Extra Cellular Matrix、ECM)分解の中心的な役割を果たす酵素である。
【0059】
MMP-1は、まず不活性な潜在型MMP-1(ProMMP-1)として発現し、ProMMP-1のプロペプチド部分が切断されて54kDaの活性型MMP-1となる。ProMMP-1、活性型MMP-1と、MMP-1のインヒビターであるマトリックスメタロプロテアーゼ阻害因子(Tissue Inhibitor of metalloproteinases、TIMPs)が複合体を形成することにより、MMP-1の活性は制御される。
【0060】
本発明において発現量を測定するMMP-1は活性型MMP-1である。
MMP-1の発現量は、絶対発現量又は相対発現量のいずれであってもよい。
MMP-1の発現量を測定する方法は、MMP-1タンパク質の発現量を測定できる方法であれば特に制限されず、例えば、ウエスタンブロッティング、ELISA等の抗MMP-1抗体を用いる方法、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MC/MC)、multiple reaction monitorting(MRM)等の質量分析を用いる方法が挙げられる。MMP-1の発現量を測定する方法は、操作が簡便で定量性に優れることから、抗MMP-1抗体を用いるウエスタンブロッティングが好ましく、抗MMP-1抗体を用いるウエスタンブロッティングにより54kDa付近に検出されるバンドの濃さから測定する方法がより好ましい。
抗MMP-1抗体は市販品を使用してもよく、例えば、抗MMP-1ウサギポリクローナル抗体であるウサギ由来抗MMP-1抗体(abcam社製、NO.ab134184)が挙げられる。
【0061】
<工程(B2)>
工程(B2)は、前記尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程である。
【0062】
エクソソーム特異的タンパク質としては、例えばエクソソーム表面に発現するテトラスパニンファミリーに属するタンパク質やエクソソーム内に存在するHSP70やRabファミリーに属するタンパク質等、より具体的にはCD63、CD9、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、CD86、ICAM-1、Rab5、Annexin V、及びLAMP1が挙げられる。エクソソーム特異的タンパク質は、これらの中でも好ましくは、テトラスパニンファミリーに属するタンパク質であり、より好ましくは、CD63、CD9、CD81、CD37、CD53、CD82、CD13、CD11、又はCD86であり、さらに好ましくはCD63、CD9、又はCD81であり、特に好ましくはCD63である。
【0063】
エクソソーム特異的タンパク質の発現量は、絶対発現量又は相対発現量のいずれであってもよい。
エクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する方法は、エクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定できる方法であれば特に制限されず、例えば、ウエスタンブロッティング、ELISA等のエクソソーム特異的タンパク質に対する抗体を用いる方法、液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC-MC/MC)、multiple reaction monitorting(MRM)等の質量分析を用いる方法が挙げられる。エクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する方法は、操作が簡便で定量性に優れることから、エクソソーム特異的タンパク質に対する抗体を用いる方法が好ましく、エクソソーム特異的タンパク質に対する抗体を用いるウエスタンブロッティングがより好ましく、ウエスタンブロッティングにより検出される、エクソソーム特異的タンパク質に特異的なバンドの濃さから測定する方法がさらに好ましい。
【0064】
エクソソーム特異的タンパク質に対する抗体は、特に制限されず、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ビオチン化抗CD63抗体(BioLegend社製、NO.353017)、Purified Mouse Anti-Human CD63(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:H5C6)、Purified Mouse Anti-Human CD9(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:M-L13)、Purified Mouse Anti-Human CD81(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:JS-81)、Purified Mouse Anti-Human CD37(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:M-B371)、Purified Mouse Anti-Human CD53(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:HI29)、Anti-CD82 antibody[C33](アブカム社製)、Purified Mouse Anti-Human CD13(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:WM15)、Purified Mouse Anti-Human CD11a(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:27/CD11a)、Purified Mouse Anti-Human CD11b/Mac-1(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:ICRF44)、Purified Mouse Anti-Human CD11c(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:3.9)、Purified Mouse Anti-Human CD86(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:2331 (FUN-1))、Anti-ICAM1 antibody[HM1](アブカム社製)、Purified Mouse Anti-Rab5(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:1/Rab5)、Anti-Annexin V antibody[EPR3979](アブカム社製)、Purified Mouse Anti-Human Lamp-1(日本ベクトン・ディッキンソン社製、クローン:25/Lamp-1)等が挙げられる。
【0065】
工程(B2)に用いる尿は、工程(B1)に用いる尿と同一である。
工程(B1)と工程(B2)を行う順序は制限されず、2つの工程を同時に行ってもよい。
【0066】
<工程(B3)>
工程(B3)は、前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程である。
工程(B3)では、MMP-1の発現量をエクソソーム特異的タンパク質の発現量で除して、MMP-1とエクソソーム特異的タンパク質の発現量比である、MMP-1/エクソソーム特異的タンパク質を算出する。例えば、エクソソーム特異的タンパク質としてCD63を用いる場合、MMP-1タンパク質の発現量をCD63タンパク質の発現量で除した値である、MMP-1/CD63を算出する。
【0067】
エクソソーム特異的タンパク質の発現量は、肺がん患者か健常人かによって変化しないので、MMP-1タンパク質の発現量をエクソソーム特異的タンパク質の発現量で除することにより、尿中エクソソーム量やサンプル調整によるばらつき等を排除して標準化することができる。
【0068】
工程(B3)で得られた値、すなわち、MMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、健常人と肺がん患者で異なることから、肺がんの検査方法(II)は、肺がんへの罹患の可能性の判定に利用できる。
肺がんの検査方法(II)は、好ましくは、MMP-1/エクソソーム特異的タンパク質を、健常人のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質から得られた基準値と比較することにより、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定するものである。
【0069】
肺がん患者のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、健常人よりも高いことから、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きい場合に、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定することができる。
そのため、肺がんの検査方法(II)は、好ましくは、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示すものである。
【0070】
基準値(T)は、特に制限されず、肺がん患者のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質と、健常人のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質とを比較することにより適宜決定することができる。
基準値(T)は、好ましくは、健常人のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質である。前記健常人のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、好ましくは複数の健常人のグループから得られた複数の測定結果から算出された値、または数値範囲であり、例えば平均値、中央値、平均値±標準偏差等が挙げられる。
基準値(T)は、ROC曲線に基づいて決定することが好ましい。
【0071】
健常人のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、健常人の尿をサンプルとして前記工程(B1)、工程(B2)、及び(B3)と同様にして測定および算出すればよい。
健常人とは、胸部X線検査において肺がんの疑いがない者、または肺がんと診断されていない者をいう。
【0072】
<その他の工程>
肺がんの検査方法(II)は、工程(B1)、工程(B2)、及び工程(B3)に加えて、
健常人の尿中エクソソームに含まれるMMP-1の発現量を測定する工程(B4)、
前記健常人の尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B5)、
前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B6)、及び
前記工程(B3)で得られた結果を前記工程(B6)で得られた結果と比較して、肺がんに罹患している可能性を判定する工程(B7-1)
を含んでもよい。
【0073】
肺がんの検査方法(II)は、工程(B1)、工程(B2)、及び工程(B3)に加えて、
健常人の尿中エクソソームに含まれるMMP-1の発現量を測定する工程(B4)、
前記健常人の尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質の発現量を測定する工程(B5)、及び
前記MMP-1の発現量/前記エクソソーム特異的タンパク質の発現量を算出する工程(B6)、
前記工程(B6)で得られた結果から基準値(T)を算出する工程(B6-2)、
前記工程(B3)で得られた結果を基準値(T)と比較して、前記工程(B3)で得られた結果が基準値(T)よりも大きい場合に、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定する工程(B7-2)
を含んでもよい。
【0074】
〈肺がんの検査方法(III)〉
肺がんの検査方法(III)は、肺がんの検査方法(I)と肺がんの検査方法(II)とを組み合わせることにより、肺がんの検査方法(I)単独又は肺がんの検査方法(II)単独よりも肺がんへの罹患の可能性をより精度よく判定できる。
【0075】
miR-486-5pの発現量に変化がある場合、偽陽性及び偽陰性も含まれ得るが、miR-486-5p発現量に加えてMMP-1の発現量を測定することにより、偽陽性及び偽陰性を減らすことができる。また、MMP-1の発現量は、乳がん、前立腺がん、肝細胞がん等においても変化するので、miR-486-5pの発現量及びMMP-1の発現量に変化がある場合、対象の訴え、理学的所見、肺がんの検査方法(III)以外の検査データ等を併せて考慮することにより、肺以外に原発巣があること、又は、がんが肺以外に転移していることを疑うことが可能になる。
【0076】
MMP-1の発現量に変化がある場合、既存の情報から乳がん、前立腺がん、肝細胞がん等の疾病も疑われるが、MMP-1発現量に加えてmiR-486-5pの発現量を測定することにより、他の疾病よりも優先して肺がんを疑うことが可能になる。
【0077】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(III)における肺がんは、好ましくは臨床ステージ0期、IA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、又はIIB期のいずれかの肺がんであり、より好ましくは臨床ステージIA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、又はIIB期のいずれかの肺がんであり、さらに好ましくは臨床ステージIA1期、IA2期、IA3期、又はIB期のいずれかの肺がんである。
【0078】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(III)における肺がんは、好ましくは腺がん又は小細胞がんであり、より好ましくは腺がんである。
【0079】
精度良く肺がんへの罹患の可能性を判定できることから、肺がんの検査方法(III)における肺がんは、好ましくは非喫煙者における肺がんであり、より好ましくは非喫煙者における腺がん又は非喫煙の女性における肺がんであり、さらに好ましくは非喫煙者の女性における腺がんである。
【0080】
男性肺がん患者のmiR-486-5pの発現量は、男性健常人よりも大きく、また、肺がん患者のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、健常人よりも高いことから、対象が男性である場合、肺がんの検査方法(I)において、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きく、かつ、肺がんの検査方法(II)において、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きい場合に、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定することができる。
そのため、対象が男性である場合、肺がんの検査方法(III)は、好ましくは、肺がんの検査方法(I)において、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(M)よりも大きく、かつ、肺がんの検査方法(II)において、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示すものである。
【0081】
女性肺がん患者のmiR-486-5pの発現量は、女性健常人よりも小さく、また、肺がん患者のMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質は、健常人よりも高いことから、対象が女性である場合、肺がんの検査方法(I)において、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さく、かつ、肺がんの検査方法(II)において、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きい場合に、対象は肺がんに罹患している可能性が高いと判定することができる。
そのため、対象が女性である場合、肺がんの検査方法(III)は、好ましくは、肺がんの検査方法(I)において、工程(A1)で得られたmiR-486-5pの発現量が基準値(F)よりも小さく、かつ、肺がんの検査方法(II)において、工程(B1)で得られたMMP-1/エクソソーム特異的タンパク質が基準値(T)よりも大きいことが、前記対象は肺がんに罹患している可能性が高いことを示すものである。
【0082】
〈肺がん評価用の尿検査キット〉
本発明の肺がん評価用の尿検査キットは、対象から収集された試料(尿)を用いて肺がんを評価するためのキットである。
肺がんを評価するとは、肺がんを診断する、肺がんへの罹患の有無又は罹患の可能性を推定する、判定する、又は評価する、若しくはそれらを補助すること等を含み、肺がんの臨床ステージ又は肺がんの分類を推定する、判定する、又は評価する、若しくはそれらを補助することを含む。
【0083】
本発明の肺がん評価用の尿検査キットは、検査を受ける対象が自ら用いてもよく、医療従事者(医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師等)が用いてもよいが、肺がんの評価は医師が行うことが好ましい。
【0084】
本発明の肺がん評価用の尿検査キットは、簡便で安価に行うことができることから、胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査、気管支鏡検査、又は生検の前段階の検査に用いることが好ましい。前記本発明の肺がん評価用の尿検査キットは、前記本発明の肺がん評価用の尿検査キットにより、対象が肺がんに罹患している可能性が示された場合に、専門の医師による問診、胸部X線検査、喀痰細胞診、胸部CT検査、気管支鏡検査、又は生検を推奨するために用いることがより好ましい。
【0085】
<肺がん評価用の尿検査キット(I)>
肺がん評価用の尿検査キット(I)は、エクソソーム調製試薬とマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットである。
【0086】
エクソソーム調製試薬は、尿からエクソソームを分離、精製し、エクソソーム調製物を調製するための試薬であり、その調製方法は特に制限されない。例えば超遠心分離や限外ろ過、ゲル濾過、HPLC、フィルター法、ポリマーを用いた沈殿法、抗体やレクチンを利用してビーズやカラムに吸着させる方法などが挙げられ、これらを応用した市販品としてExosome Isolation Kit、Total Exosome Isolationシリーズ、ExoTrapTM、PureExoTM、DIAG ExoTM等の市販のエクソソーム分離、精製用のスピンカラム、キット等が挙げられる。
【0087】
マイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬は、尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5pの量を測定するための試薬であり、その測定方法は制限されない。miR-486-5p測定試薬としては、例えば、定量RT-PCR、マイクロRNAアレイ、RNA Sequencing(RNA-Seq)、又はMultiplex miRNA profiling等に用いられる、miR-486-5p特異的なプライマー、及びmiR-486-5p特異的なプローブ等が挙げられる。
【0088】
尿からエクソソーム調製物を調製せずに、尿から直接エクソソームを検出する場合、肺がん評価用の尿検査キット(I)は、エクソソーム調製試薬の代わりに、エクソソーム検出試薬を含んでもよい。すなわち、肺がん評価用の尿検査キット(I)は、エクソソーム検出試薬とマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットであってもよい。
エクソソーム検出試薬は、エクソソームの分離及び精製をせずに尿から直接エクソソームを検出するための試薬であり、その検出方法は特に制限されない。例えばフローサイトメトリー、マイクロアレイや表面プラズモン共鳴等によりエクソソームを含む画分を機器上で検出するために用いる、エクソソームを特異的に認識する抗体、アプタマー等が挙げられる。
【0089】
エクソソーム調製試薬、エクソソーム検出試薬又はmiR-486-5p測定試薬は、本発明の効果を妨げない限り、さらに安定化剤、pH調整剤や乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。
【0090】
肺がん評価用の尿検査キット(I)は、エクソソーム調製試薬、又はエクソソーム検出試薬及びmiR-486-5p測定試薬以外に、洗浄、濃縮、希釈、固定、乾燥、保存、染色、発色、観察等のためのその他の試薬を含んでもよく、必要に応じて実験器具等を含んでもよい。
【0091】
<肺がん評価用の尿検査キット(II)>
肺がん評価用の尿検査キット(II)は、エクソソーム調製試薬とマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬とエクソソーム特異的タンパク質測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットである。
【0092】
肺がん評価用の尿検査キット(II)におけるエクソソーム調製試薬は、肺がん評価用の尿検査キット(I)におけるエクソソーム調製試薬と同様である。
【0093】
マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬は、尿中エクソソームに含まれるMMP-1を測定するための試薬であり、その測定方法は制限されない。例えばウエスタンブロッティングやELISAに用いる、MMP-1分子を特異的に認識する抗体、アプタマー等が挙げられる。
【0094】
エクソソーム特異的タンパク質測定試薬は、尿中エクソソームに含まれるエクソソーム特異的タンパク質を測定するための試薬であり、その測定方法は制限されない。例えばウエスタンブロッティングやELISAに用いる、エクソソーム特異的タンパク質を特異的に認識する抗体、アプタマー等が挙げられる。
【0095】
尿からエクソソーム調製物を調製せずに、直接エクソソームを検出する場合、肺がん評価用の尿検査キット(II)は、エクソソーム調製試薬の代わりに、エクソソーム検出試薬を用いることができる。すなわち、肺がん評価用の尿検査キット(II)は、エクソソーム検出試薬とマトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬とエクソソーム特異的タンパク質測定試薬とを含む、肺がん評価用の尿検査キットであってもよい。
エクソソーム検出試薬は、エクソソームの分離・精製をせずに尿から直接エクソソームを検出するための試薬であり、その検出方法は特に制限されない。例えばフローサイトメトリー、マイクロアレイや表面プラズモン共鳴等によりエクソソームを含む画分を機器上で検出するために用いる、エクソソームを特異的に認識する抗体、アプタマー等が挙げられる。
【0096】
エクソソーム調製試薬、エクソソーム検出試薬、マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬、又はエクソソーム特異的タンパク質測定試薬は、本発明の効果を妨げない限り、さらに安定化剤、pH調整剤や乳化剤等の公知の任意成分を含有してもよい。
【0097】
肺がん評価用の尿検査キット(II)は、エクソソーム調製試薬、又はエクソソーム検出試薬、マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MMP-1)測定試薬及びエクソソーム特異的タンパク質測定試薬以外に、洗浄、濃縮、希釈、固定、乾燥、保存、染色、発色、観察等のためのその他の試薬を含んでもよく、必要に応じて実験器具等を含んでもよい。
【実施例
【0098】
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0099】
〔実施例1〕尿中エクソソームに含まれるmiR-486-5p及びMMP-1/CD63と肺がんとの関連性
〔被験者〕
本試験は、国際医療福祉大学病院及び北里大学メディカルセンターの倫理委員会の承認を受け、被験者の書面によるインフォームドコンセントを得てから行われた。35人の肺がん患者及び40人の健常人を被験者とした。
肺がん患者35人(男性24人、女性11人、平均年齢はそれぞれ71.0±8.4歳、64.8±9.5歳)は、胸部X線、胸部CT、胸部MRIを用いて肺がんと診断され、必要に応じて手術前に針生検を行った。最終的な病理診断は、外科的切除により行った。
【0100】
試験対照は、国際医療福祉大学病院予防医学科に健康診断で来院した533名(男性351人、女性182人)の中から選ばれた40人(男性20人、女性20人)の健常人とした。各性別における40歳代、50歳代、60歳代、70歳代以上の選択者数は5名以上であった(表3)。40人の健常人は全員、愁訴はなく、肥満や血液性高血圧などの身体所見の異常、末梢血液検査や血液化学検査の異常、心電図所見の異常、胸部X線検査や上部消化管内視鏡検査、腹部エコー検査の異常もなかった。また、がん、異形成の兆候、炎症性疾患、自己免疫疾患、心疾患、肝疾患、腎疾患などの慢性疾患の既往もなかった。
【0101】
被験者は、身長、体重を測定し、アルコール摂取量(g/日)、喫煙についても事前に調査した。被験者から採血し、常法に従い、腫瘍マーカーであるCEA(Carcinoembryonic antigen)、クレアチニンCRNN(mg/dL)、総たんぱく量(TP;total protein、g/dL)、及びALT(alanine aminotransferase、IL/dL)を測定した。
また、外科的切除された肺癌の病理組織を、抗PD-L1マウスモノクローナル抗体(クローン:22C3)で免疫染色して主要細胞中のPDL-1発現陽性細胞の割合を測定し、PDL1(Programmed cell Death 1-Ligand 1)(%)とした。
【0102】
〔尿サンプルの採取〕
朝食を摂取する前に採取した早朝尿の中間尿をサンプルとし、エクソソームを分離するまで-80℃で保存した。すべてのサンプルは、患者が手術、化学療法、又は放射線療法を受ける前、若しくは遠隔転移の証拠がない状態で採取された。
【0103】
〔肺がんの臨床ステージ〕
肺がんの臨床ステージは、肺がんTNM分類第8版に従って分類した。基準の概略は以下の通りである。
【0104】
T:原発腫瘍
TX:原発腫瘍の存在が判定できない,あるいは喀痰または気管支洗浄液細胞診でのみ陽性で画像診断や気管支鏡では観察できない
T0:原発腫瘍を認めない
Tis:上皮内癌(carcinoma in situ):肺野型の場合は,充実成分径0cmかつ病変全体径≦3cm
T1:腫瘍の充実成分径≦3cm,肺または臓側胸膜に覆われている,葉気管支より中枢への浸潤が気管支鏡上認められない(すなわち主気管支に及んでいない)
T1mi:微少浸潤性腺癌:部分充実型を示し,充実成分径≦0.5cmかつ病変全体径≦3cm
T1a:充実成分径≦1cmでかつTis・T1miには相当しない
T1b:充実成分径>1cmでかつ≦2cm
T1c:充実成分径>2cmでかつ≦3cm
【0105】
T2:充実成分径>3cmでかつ≦5cm,または充実成分径≦3cmでも以下のいずれかであるもの
‐主気管支に及ぶが気管分岐部には及ばない
‐臓側胸膜に浸潤
‐肺門まで連続する部分的または一側全体の無気肺か閉塞性肺炎がある
T2a:充実成分径>3cmでかつ≦4cm
T2b:充実成分径>4cmでかつ≦5cm
【0106】
T3:充実成分径>5cmでかつ≦7cm,または充実成分径≦5cmでも以下のいずれかであるもの
‐壁側胸膜,胸壁(superior sulcus tumorを含む),横隔神経,心膜のいずれかに直接浸潤
‐同一葉内の不連続な副腫瘍結節
【0107】
T4:充実成分径>7cm,または大きさを問わず横隔膜,縦隔,心臓,大血管,気管,反回神経,食道,椎体,気管分岐部への浸潤,あるいは同側の異なった肺葉内の副腫瘍結節
【0108】
N:所属リンパ節
NX:所属リンパ節評価不能
N0:所属リンパ節転移なし
N1:同側の気管支周囲かつ/または同側肺門,肺内リンパ節への転移で原発腫瘍の直接浸潤を含める
N2:同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移
N3:対側縦隔,対側肺門,同側あるいは対側の前斜角筋,鎖骨上窩リンパ節への転移
【0109】
M:遠隔転移
M0:遠隔転移なし
M1:遠隔転移がある
M1a:対側肺内の副腫瘍結節,胸膜または心膜の結節,悪性胸水(同側・対側),悪性心嚢水
M1b:肺以外の一臓器への単発遠隔転移がある
M1c:肺以外の一臓器または多臓器への多発遠隔転移がある
【0110】
TNM分類の3つの因子を組み合わせて、TNM臨床病期分類(UICC-8版)に従い、臨床ステージを0期、IA1期、IA2期、IA3期、IB期、IIA期、IIB期、IIIA期、IIIB期、IIIC期、IVA期、IVB期に分類した。
【0111】
〔肺がんの病理組織学的診断〕
肺がん患者から手術時に切除した組織を、常法に従い、病理組織学的に解析した。
AC:adenocarcinoma、腺がん
SC:squamous cell carcinoma、扁平上皮がん
SCLC:small cell lung carcinoma、小細胞肺がん
LCC:large cell carcinoma、大細胞がん
pleomorphic(Sarcoma)、多形性(肉腫)
【0112】
〔エクソソーム調製物〕
尿サンプルは溶解後、2mLを4℃にて3000gで15分間遠心分離し、上清を0.22μmのナイロンフィルターでろ過した。ろ過後の上清から、Exosome Isolation Kit(Myltenyi社製)を用いて分離、精製したものをエクソソーム調製物とした。
【0113】
得られたエクソソーム調製物は、電子顕微鏡により観察した。エクソソーム調製物はcarbon/FormvarでコートしたTEMグリッド(応研商事株式会社製)にのせ、2%酢酸ウラニルで2分間染色した。電子顕微鏡はHitachi H-7600を用いた。観察の結果、直径100nm程度の球形のエクソソームが存在することを確認できた。写真を図1に示す。
【0114】
〔ウエスタンブロッティング〕
2mlの尿から得られたエクソソーム調製物の6分の1を用いて、エクソソーム調製物中のMMP-1の発現を、抗MMP-1抗体(abcam社製、NO.ab134184)を用いたウエスタンブロッティングにより解析した。54kDa付近に検出されたバンドの強度をイメージアナライザー(Image J 1.52a)で定量することにより、MMP-1を定量した。同様にビオチン化抗CD63抗体(BioLegend社製、NO.353017)を用いて、53kDa付近に検出されたバンドの強度を定量することにより、エクソソーム特異的タンパク質であるCD63を定量した。抗MMP-1抗体及びビオチン化抗CD63抗体は、1:1000で用いた。MMP-1の定量結果をCD63の定量結果で除して、MMP-1の発現量とCD63の発現量の比であるMMP-1/CD63を算出した。すべての実験は2回行い、平均値または中央値を用いた。
抗MMP-1抗体および抗CD63抗体により検出されたバンドの画像を図2に示す。
【0115】
〔RT-PCR〕
得られたエクソソーム調製物からTotal Exosome RNA&Protein Isolation Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてRNAを抽出した。得られたRNAをテンプレートとして、Taqman MicroRNA Reverse Transcription Kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、逆転写を行いcDNAを合成した。なお、採取したmiRNAの5ngを用いて逆転写反応を行い、多数のサンプル間のmiRNA量を補正した。このcDNAをテンプレートとし、miR-486-5pの定量RT-PCRはmiRNA-486-5p assay kit(Applied Biosystems社製)を用い、製造者のプロトコールに従って行った。また、miR21の定量RT-PCRはmiR-21 Assay kit(Applied Biosystems社製)を用い、製造者のプロトコールに従って行った。1サンプルあたり、デュプリケートで反応を行った。定量RT-PCRシステムはStep One PlusTM(Applied Biosystems社製)を用いた。
【0116】
健常人40人のmiR-486-5pの発現量と、35人の肺がん患者のmiR-486-5pの発現量は、相対値として算出した。肺がん患者または健常人の個々のmiR-486-5pのCT(Threshold Cycle)値から、健常人全員でのmiR-486-5pのCT値の平均値を差し引いてΔCTを算出した。ただし、定量的RT-PCRのサイクル数は、健常人男性と健常人女性で異なっていた。そのため、健常人全員でのmiR-486-5pのCT値の平均値は、性別ごとに算出し、肺がん患者または健常人の性別に応じた値を差し引いて、ΔCTを算出した。最後に、2ΔCT(2のΔCT乗)を算出し、miR-486-5pの相対発現量として用いた。2ΔCTの値を以下、miR-486-5p相対発現量とも称する。
【0117】
健常人40人のmiR-21の相対発現量と、35人の肺がん患者のmiR-21の相対発現量も、miR-486-5pの相対発現量と同様にして算出した。
【0118】
〔統計解析〕
統計解析は、PRISM 7 for Mac OS X(GraphPad Software.Inc社製)を用いて行った。データは、パラメトリック検定の妥当性を確認するために正規性と等分散性を試験した。正規分布に従うデータは、Student t検定を行った。集団間の差を評価するために、Mann-Whitney U test、Wilcoxon/Kruskal-Wallis testおよびBonferroni's post hoc testを用いた。p値0.05未満を統計学的に有意とした。データは平均値±標準偏差(SD)または中央値(95%信頼区間[CI])で示す。
【0119】
〔結果〕
〔被験者のプロファイルとmiR-486-5p相対発現量、miR-21相対発現量、およびMMP-1/CD63〕
肺がん患者のプロファイルとTNM分類、臨床ステージ、病理組織学的診断、MMP-1/CD63、miR-21相対発現量(2ΔCT)、miR-486-5p相対発現量(2ΔCT)、家族歴を表1-1、表1-2に示す。
【0120】
【表1-1】
【0121】
【表1-2】
【0122】
[肺がん患者の臨床的特徴と病理組織学的所見]
対象となった肺がん患者は、そのほとんどが肺がん検診を含む健康診断のために受診し、疑わしい病変は肺CTやMRIを用いて検査されていたため、比較的早期に発見された症例であった(表1-1、表1-2)。
【0123】
手術で切除された組織の病理所見は、非小細胞肺がん(NSCLC)が30例、より詳細には、腺がん(AC)が24例(男性15例、女性9例)、扁平上皮がん(SC)が5例(男性4例、女性1例)、大細胞がん(LC)が男性1例に認められた。小細胞肺がん(SCLC)は4名(男性3名、女性1名)、多形性(肉腫)は男性1名に認められた。
【0124】
35人の肺がん患者のうち、0期は男性1人、I期は19人(男性10人、女性9人)、II期は男性5人、III期は3人(男性2人、女性1人)、IV期は7人(男性6人、女性1人)であった。
【0125】
肺がん患者の臨床データを表2-1、表2-2に示す。
【0126】
【表2-1】
【0127】
【表2-2】
【0128】
表2-1、表2-2中、タバコの欄の数字は現在の一日あたり喫煙本数を示し、f(former)が記載されている場合は、過去の一日あたり喫煙本数を示す。現在喫煙している者を能動喫煙者(current)、過去に喫煙していた者を喫煙歴がある者(former)、生来全く喫煙していない者を非喫煙者(never)として分類した。
【0129】
表2-1、表2-2中の治療法の略号は以下の通りである。
VATS:video-assisted thoracic surgery、ビデオ補助下胸部手術
LUw:Left upper lobe wedge resection、左上葉楔状切除
RUw:Right upper lobe wedge resection、右上葉楔状切除
RMw:Right middle lobe wedge resection、右中葉楔状切除
RLw:Right lower lobe wedge resection、右下葉楔状切除
RUL:Right upper lobectomy、右上葉切除
LUL:Left upper lobectomy、左上葉切除
RLL:Right lower lobectomy、右下葉切除
LLL:Left lower lobectomy、左下葉切除
R6seg:Right S6 segmentectomy、右S6区域切除
LPn:Left pneumonectomy、左肺切除
Cx:Chest wall resection、胸壁切除
BSC:Best supportive care、ベストサポーティブケア
LLw:Left lower lobe wedge resection、左下葉楔状切除
EGFR-TKI:EGFR-tyrosine kinase inhibitor(epidermal growth factor receptor-tyrosine kinase inhibitor)、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬
CBDCA:carboplatin、カルボプラチン
CPT11:irinotecan hydrochloride hydrate、イリノテカン
VP16:etoposide、エトポシド
PEM:pemetrexed sodium hydrate、ペメトレキセド
Pembro:pembrolizumab、ペムブロリズマブ
【0130】
健常人のプロファイルと、MMP-1/CD63、miR-21相対発現量(2ΔCT)、miR-486-5p相対発現量(2ΔCT)を表3-1、表3-2に示す。
【0131】
【表3-1】
【0132】
【表3-2】
【0133】
肺がん患者と健常人における、MMP-1/CD63、miR-21相対発現量(2ΔCT)、及びmiR-486-5p相対発現量(2ΔCT)の性別及び年齢グループ(60歳以下及び60歳超)ごとの値を表4に示す。数値は中央値[95%信頼区間(CD)]で示した。
【0134】
【表4】
【0135】
肺がん患者における、MMP-1/CD63とmiR-486-5p相対発現量(2ΔCT)を、喫煙歴と肺がんのタイプに基づいて比較した結果を表5に示す。数値は中央値[95%信頼区間(CD)]で示した。
【0136】
【表5】
【0137】
尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較した結果を図3Aに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図3B図3Cに示す。
【0138】
尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて比較した結果を図3Dに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図3E図3Fに示す。
【0139】
尿由来エクソソーム調製物中のMMP-1/CD63を35人の肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較した結果を図3Gに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図3H図3Iに示す。
【0140】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較した結果を図4Aに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図4B図4Cに示す。
【0141】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて比較した結果を図4Dに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図4E図4Fに示す。
【0142】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-486-5p相対発現量を35人の肺がん患者の喫煙歴に基づいて比較した結果を図4Gに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図4H図4Iに示す。
【0143】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を40人の健常人と35人の肺がん患者とで比較した結果を図5Aに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図5B図5Cに示す。
【0144】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を35人の肺がん患者の臨床ステージに基づいて比較した結果を図5Dに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図5E図5Fに示す。
【0145】
尿由来エクソソーム調製物中のmiR-21相対発現量を35人の肺がん患者の喫煙習慣に基づいて比較した結果を図5Gに、さらに性別ごとに分けて比較した結果を図5H図5Iに示す。
【0146】
[MMP-1/CD63について]
表4Aより、健常人の男性と女性におけるMMP-1/CD63は同じ分布傾向を示した。また、MMP-1/CD63は、60歳以下及び60歳超の年齢グループ及び合計、男性、女性の全てのグループにおいて、健常人よりも肺がん患者の方が高かった。特に、男性、女性どちらにおいても、60歳以下のグループで、肺がん患者のMMP-1/CD63は、健常人よりも顕著に高かった。
【0147】
MMP-1/CD63は、All(被験者全員)で比較した場合、健常人よりも肺がん患者の方が高かった(図3A)。肺がん患者のMMP-1/CD63の中央値は1.342(95%CI:0.890-1.974)であり、健常人の0.600(95%CI:0.490-0.900)よりも有意に高かった(p<0.0001)。また、男性(Male)及び女性(Female)においても、MMP-1/CD63は、健常人よりも肺がん患者の方が高く(図3B図3C)、性別に関係なく、同じ傾向を示した。
これらの結果から、MMP-1/CD63は、バイオマーカーとして、肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0148】
MMP-1/CD63は、All(被験者全員)で比較した場合、ステージI及びステージIIの肺がん患者において、健常人よりも有意に高かった(図3D)。ステージ0およびIの肺がん患者におけるMMP-1/CD63は1.342(95%CI:0.888-2.319)であり、健常人よりも有意に高かった(p=0.0029)。また、ステージIIの肺がん患者におけるMMP-1/CD63は1.795(95%CI:1.105-4.414)であり、健常人よりも高かった(p=0.0077)。
また、MMP-1/CD63は、男性(Male)においては、ステージIIの肺がん患者において、健常人よりも有意に高かった(図3E)。MMP-1/CD63は、女性(Female)においては、ステージIの肺がん患者において、健常人よりも有意に高かった(図3F)。
MMP-1/CD63は、特にステージ0、I、又はIIの肺がんで高いことが明らかになった。
これらの結果から、MMP-1/CD63は、バイオマーカーとして、特に初期の肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0149】
MMP-1/CD63は、All(肺がん患者全員)で比較した場合、非喫煙者(never)において、能動喫煙者(current)よりも有意に高く、喫煙歴がある者(former)よりも有意に高かった(図3G)。男性(Male)、女性(Female)に分類した場合、肺がん患者における、MMP-1/CD63の喫煙歴による差は有意ではなかった(図3H図3I)。
【0150】
表5Aより、非喫煙者(never)である腺がん(AC)患者のMMP-1/CD63(2.32、CI:1.85-4.02)は、能動喫煙者(current)(0.90、CI:0.76-0.99)および喫煙歴がある者(former)(0.85、CI:0.54-1.16)よりも高かった。
35名の肺がん患者のうち、11名が非喫煙者(never)であった(男性4名、女性7名)。MMP-1/CD63は、非喫煙者(never)11名のうち9名(男性3名、女性6名)で1.25を超えていた。興味深いことに、非喫煙者(never)11名は全員が腺がん(AC)であり、そのうち、64%(7/11)が女性であった(表1)。また、非喫煙者(never)のACグループでは、MMP-1/CD63はSCグループに比べてやや高い比率であった(表5A)。さらに、小細胞肺がん(SCLC)ではMMP-1/CD63が増加していた(表5A)。
これらの結果から、MMP-1/CD63は、特に非喫煙者における腺がん(AC)において高い傾向にあり、この傾向は女性において顕著であることが明らかになった。
これらの結果から、MMP-1/CD63は、バイオマーカーとして、特に非喫煙者(特に女性)における肺がん(特に腺がん)のスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0151】
[miR-486-5p相対発現量について]
表4Cより、60歳以下の年齢グループの健常人では、男性のmiR-486-5p相対発現量は女性よりも低く(p<0.01)、60歳超の年齢グループの健常人では、男性のmiR-486-5p相対発現量は女性よりも高かった(p<0.05)。
表4Cより、miR-486-5p相対発現量は、60歳以下及び60歳超の年齢グループにおいて、合計及び男性において、健常人よりも肺がん患者の方が高かったが、女性においては、健常人よりも肺がん患者の方が低かった。また、健常人におけるmiR-486-5p相対発現量には性差があることがあることが明らかになった。
【0152】
miR-486-5p相対発現量は、All(被験者全員)で比較した場合、健常人よりも肺がん患者の方が高かった(図4A)。男性肺がん患者のmiR-486-5p相対発現量の中央値は2.565(95%CI:1.800-4.420)であり、男性健常人の中央値(1.254、95%CI:0.790-1.530)よりも有意に高かった(p=0.0004、図4B)。女性肺がん患者のmiR-486-5p相対発現量の中央値は、0.460(95%CI:0.060-2.130)であり、女性健常人の中央値(1.250、95%CI:0.470-2.510、p=0.1566)よりも低い傾向にあった(図4C)。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量の健常人と肺がん患者との違いには性差があることがあることが明らかになった。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量は、バイオマーカーとして、性別に応じた肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0153】
miR-486-5p相対発現量は、ステージI及びステージIVの男性(Male)肺がん患者においては、健常人よりも有意に高かった(図4E)。miR-486-5p相対発現量は、ステージIの女性(Female)肺がん患者においては、健常人より低い傾向にあった(図4F)。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量は、肺がん患者の中でもステージIの肺がんにおいて健常人との違いが見られる可能性が示唆された。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量は、バイオマーカーとして、特に初期の肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0154】
肺がん患者におけるmiR-486-5p相対発現量は、肺がん患者全員で解析すると、男性(Male)においても、女性(Female)においても、喫煙歴によって有意な差は見られなかった(図4H図4I)。
しかし、データをより詳細に見ると、非喫煙者の女性肺がん患者7例では、2例を除いて、miR-486-5p相対発現量が女性健常人の中央値(1.250、95%CI:0.470-2.510、p=0.1566)よりも低かった(表1-1、表1-2)。一方、非喫煙者である男性肺がん患者4例では、2例のmiR-486-5p相対発現量が男性健常人の平均値(1.254、95%CI:0.790-1.530)よりも大きく、2例のみが男性健常人の中央値よりも小さかった。(表1-1、表1-2)。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量は、肺がん患者の中でも特に非喫煙者において健常人との違いが見られ、この傾向は女性において顕著である可能性が示唆された。
これらの結果から、miR-486-5p相対発現量は、バイオマーカーとして、特に非喫煙者(特に女性)における肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0155】
[miR-21相対発現量について]
表4Bより、健常人におけるmiRNA-21の相対発現量は、男女ともに、60歳超の健常者は、60歳以下の健常人に比べてやや高い値を示したが、統計的な差はなかった。60歳以下と60歳超を含む健常人男性では、健常人女性よりもやや高い値を示したが、統計的な差はなかった(表2B)。
【0156】
図5Aより、miR-21相対発現量は、肺がん患者と健常人の間に僅かに差が見られたが、その差は有意ではなかった(p=0.4378)。男性と女性に分けて解析した場合も同様であった(図5B図5C)。これは、miR-486-5p相対発現量については、肺がん患者と健常人の間のp値が、男性でp=0.0004、女性でp=0.1566と低値であったこととは対照的であった。
【0157】
図5D図5Fより、miR-21相対発現量は、肺がんの臨床ステージによる有意な差は見られなかった。
図5G図5Iより、miR-21相対発現量は、肺がん患者の喫煙習慣による有意な差は見られなかった。
【0158】
これらの結果から、miR-21相対発現量では、肺がんへの罹患の可能性を判定することができないことが明らかになった。miR-21は、循環血漿エクソソームを用いた肺がんの診断/スクリーニングに有用であることが数多くの文献で報告されており、また、乳がん患者の尿中エクソソームに含まれるmiR21は健常人に比べて有意に低いことが報告されているが、予想に反して、肺がん患者の尿中エクソソームに含まれるmiR21は健常人との間に有意な差はないことが明らかになった。
【0159】
〔miR-486-5p相対発現量、およびMMP-1/CD63を用いた肺がん判定の妥当性〕
miR-486-5p相対発現量、およびMMP-1/CD63を用いた肺がん検査の妥当性をROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)を用いて検討した。MMP-1/CD63のROC曲線を図6A、男性におけるmiR-486-5p相対発現量のROC曲線を図6B、女性におけるmiR-486-5p相対発現量のROC曲線を図6Cに示す。
【0160】
MMP-1/CD63を用いた肺がん検査のAUROC(Area under ROC)は、0.755(95%CI:0.640-0.871)であった(図6A)。また、最適カットオフ値1.25としたときの、MMP-1/CD63を用いた肺がん検査の感度は0.925、特異度は0.543であった。
【0161】
miR-486-5p相対発現量を用いた、男性における肺がん検査のAUROCは0.801(95%CI: 0.669-0.939)であった(図6B)。また、最適カットオフ値2.14としたときの、miR-486-5p相対発現量を用いた男性における肺がん検査の感度と特異度はそれぞれ0.850と0.708であった。
【0162】
miR-486-5p相対発現量を用いた、女性における肺がん検査のAUROCは0.627(95%CI: 0.396-0.858)であった(図6C)。また、最適カットオフ値0.91としたときの、miR-486-5p相対発現量を用いた女性における肺がん検査の感度と特異度はそれぞれ0.700と0.727であった。
【0163】
MMP-1/CD63とmiR-486-5p相対発現量を組み合わせて用いる肺がん検査では、MMP-1/CD63の最適カットオフ値1.25、miR-486-5p相対発現量の最適カットオフ値を男性2.14、女性0.91として算出すると、感度0.86、特異度0.85となった。MMP-1/CD63とmiR-486-5p相対発現量を組み合わせて用いる肺がん検査では、MMP-1/CD63又はmiR-486-5p相対発現量を単独で用いるよりも、感度と特異度は向上した。
これらの結果から、MMP-1/CD63とmiR-486-5p相対発現量の組み合わせは、バイオマーカーとして、性別に応じた肺がんのスクリーニングに有用であることが示唆された。
【0164】
[ロジスティック回帰分析]
肺がんの有無を従属変数とし、MMP-1/CD63及びmiR-486-5p相対発現量を独立変数として、年齢、性別、喫煙習慣を共変量として調整したロジスティック回帰分析を行った。ロジスティック回帰モデルの予測にはROC解析を適用し、カットオフ値はYouden indexで算出した。ロジスティック回帰分析とそのROC解析は、IBM SPSS ver 26.0によって行った。
【0165】
分析の結果、MMP-1/CD63と肺がんの有無の関連は、オッズ比が31.70(95%CI:4.12-243.67)、miR-486-5p相対発現量と肺がん有無の関連はオッズ比が1.56(95%CI:1.01-2.42)であり、MMP-1/CD63及びmiR-486-5p相対発現量は、どちらも肺がんの有無と有意な関連があった。また、このモデルを元に、MMP-1/CD63とmiR-486-5p相対発現量を組み合わせて用いる肺がん検査のROC曲線とAUROCを求めたところ、カットオフ値0.48で、AUROCは0.954(95%CI:0.908-1.000)、感度は89%、特異性は88%であり、予測精度が高いことが明らかになった。
【0166】
配列番号1:miR-486-5pの核酸配列
【要約】
【課題】簡便で、感度が高く、非侵襲的な肺がんの検査方法、および肺がん評価用の尿検査キットを提供することを課題とする。
【解決手段】対象の尿中エクソソームに含まれるマイクロRNA-486-5p(miR-486-5p)の発現量を測定する工程(A1)を含む、肺がんの検査方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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