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特許7325790硫酸鉛被膜除去装置、方法、及び、システム
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  • 特許-硫酸鉛被膜除去装置、方法、及び、システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】硫酸鉛被膜除去装置、方法、及び、システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20230807BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20230807BHJP
   H02J 7/04 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H02J7/04 G
H02J7/04 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023509361
(86)(22)【出願日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2023003821
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022017482
(32)【優先日】2022-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】322007453
【氏名又は名称】株式会社アルファブライト
(73)【特許権者】
【識別番号】596139122
【氏名又は名称】株式会社パワーサポート
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】久保 高士
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 克史
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-48886(JP,A)
【文献】特開2006-164540(JP,A)
【文献】特開2006-32065(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0139369(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去装置において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、
を備える、硫酸鉛被膜除去装置。
【請求項2】
鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去方法において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成するステップと、
前記生成した除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給するステップと、
を含む、硫酸鉛被膜除去方法。
【請求項3】
請求項1記載の硫酸鉛被膜除去装置と、
前記硫酸鉛被膜除去装置が接続される鉛蓄電池の性能を示す計測を行う計測装置と、
前記計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置と、
を備える硫酸鉛被膜除去システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸鉛被膜除去装置、方法、及び、システムに関し、特に、鉛蓄電池の負極電極で生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去装置、方法、及び、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉛蓄電池の正極電極及び負極電極に発生する硫酸鉛被膜の除去時における発熱を抑制しつつ、硫酸鉛被膜の除去に要する時間の短縮させることを課題とした硫酸鉛被膜除去装置が開示されている。この硫酸鉛被膜除去装置は、パルス幅1.6μsec(16000nsec)、周波数20000Hzのパルス波形駆動信号を用いてスイッチング回路を駆動し、スイッチング回路がオンすると、抵抗R1を介して500mAの電流がバッテリ(鉛蓄電池)から取り出され、スイッチング回路がオフすると、電流の取り出しは停止し、スイッチング回路がオフすると、鉛蓄電池に対して逆起電力および500mAのネガティブなスパイク状の逆電流が供給され、この電流が鉛蓄電池の電極に作用することによって、鉛蓄電池の電極に析出した硫酸鉛被膜が除去される、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-48886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置は、相対的に高消費電力であり、SDGs(Sustainable Development Goals)に掲げられているエネルギー目標を達成するためには、低消費電力化が不可欠である。
【0005】
また、特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置は、鉛蓄電池の電極に供給される逆電流の電流量乃至レベルが相対的に過多乃至高く、鉛蓄電池の電極にダメージを与えていた。特許文献1に開示されている硫酸鉛被膜除去装置を用いることで、鉛蓄電池の寿命が短くなるのでは本末転倒である。
【0006】
そこで、本発明は、低消費電力で、かつ、鉛蓄電池の電極にダメージを与えることのない硫酸鉛被膜除去装置及び方法を提供することを課題とする。
【0007】
また、鉛蓄電池を備える装置の管理者等にとっては、鉛蓄電池の交換目安を知ることができれば、特に鉛蓄電池と管理者等とが遠隔にある場合に便利であるので、それが可能な硫酸鉛被膜除去システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去するための除去信号について誠意研究した結果、そのピーク値が相対的に大きいほど、そのパルス幅が相対的に広いほど、その周波数が相対的に高いほど、硫酸鉛被膜の除去に寄与し、一方で、そのピーク値が相対的に小さいほど、そのパルス幅が相対的に狭いほど、その周波数が相対的に低いほど、低消費電力化に寄与するが、これらをバランスよく調整することによって、硫酸鉛被膜除去装置の消費電力を低下させ、かつ、鉛蓄電池の電極に与えるダメージを低下させられることを見出した。
【0009】
具体的には、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去装置において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、
前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、
を備える。
【0010】
また、本発明は、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去方法において、
前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成するステップと、
前記生成した除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給するステップと、
を含む。
【0011】
ここで、例えば、パルス幅及び周波数の条件を上記範囲として、ピーク値を550mA~750mAとした場合には、良い結果が得られることを確認した。具体的には、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0012】
同様に、周波数及びピーク値の条件を上記範囲として、パルス幅を5nsec~100nsecとした場合にも、良い結果が得られることを確認した。この場合にも、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0013】
さらに、パルス幅及びピーク値の条件を上記範囲として、周波数を5kHz~50kHzとした場合にも、良い結果が得られることを確認した。この場合にも、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0014】
したがって、本発明は、除去信号のピーク値、パルス幅、及び、周波数を最適化することによって、低消費電力で、かつ、鉛蓄電池の電極にダメージを与えることのない硫酸鉛被膜除去装置を提供することができる。
【0015】
また、本発明の硫酸鉛被膜除去装置は、その小型化という副次的効果も得られた。特許文献1の特許権者の販売品の大きさは、筐体ベースで、約11cm×約5.5cm×約2cmであるが、これを、約6cm×約3cm×約1.5cmにまで小型化できた。
【0016】
さらに、本発明の硫酸鉛被膜除去装置は、低消費電力化を図ることによって特許文献1が課題としていた温度上昇の抑制効果も大幅に上回る硫酸鉛被膜除去装置を実現できた。
【0017】
さらにまた、本発明の硫酸鉛被膜除去システムは、
前記硫酸鉛被膜除去装置と、
前記硫酸鉛被膜除去装置が接続される鉛蓄電池の性能を示す計測を行う計測装置と、
前記計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置と、
を備える。
【0018】
本発明の硫酸鉛被膜除去システムによれば、山間部などで用いられる通信基地局の鉛蓄電池に生じる硫酸鉛被膜除去をすることに加えて、例えば遠隔地にいる管理者に鉛蓄電池の交換目安の判断材料となる計測結果を送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置の回路構成を一部機能的に示すブロック図である。
図2図1に示す基板正極端子100A及び基板負極端子100Bと鉛蓄電池正極端子及び鉛蓄電池負極端子とを図示しない接続線によって接続した状態で計測した電流値の計測結果を示す図である。
図3】車両等に搭載されている鉛蓄電池に対する硫酸鉛被膜除去装置10による回復前後の電圧値等の計測結果を示す図である。
【符号の説明】
【0020】
10 硫酸鉛被膜除去装置
100A 基板正極端子
100B 基板負極端子
110 電源ユニット
120 ドライブ抵抗
130,140 分圧抵抗
150 スイッチング回路
160 信号生成部
170 パルスドライバ
【発明の実施の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置、方法及びシステムについて、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施形態の硫酸鉛被膜除去装置の回路構成を一部機能的に示すブロック図である。硫酸鉛被膜除去装置10は、以下説明する、基板正極端子100A及び基板負極端子100Bと、電源ユニット110と、ドライブ抵抗120と、分圧抵抗130,140と、スイッチング回路150と、信号生成部160と、パルスドライバ170と、を備えている。
【0023】
基板正極端子100A及び基板負極端子100Bは、図示しない鉛蓄電池の鉛蓄電池正極端子及び鉛蓄電池負極端子に対して図示しない接続線を通じてそれぞれ電気的に接続されるものである。基板正極端子100Aは、ドライブ抵抗120と分圧抵抗130,140及び電源ユニット110とに並列に接続されている。
【0024】
基板正極端子100Aを流れる電流(鉛蓄電池から取り出した信号)は、その一部が、ドライブ抵抗120を通じて、その下流に位置するパルスドライバ170に向けて流れる。また、当該電流の一部は、分圧抵抗130,140のうち分圧抵抗130を通じて、信号生成部160に向けて流れる。当該電流の残りは、電源ユニット110に向けて流れる。
【0025】
電源ユニット110は、例えば、相対的に高圧の前段電源回路及び相対的に低圧の後段電源回路を備え、それらは直列に接続されている。このため、鉛蓄電池を電源として生成される、前段電源回路の相対的に高圧の出力電圧Vがスイッチング回路150を介して間接的に信号生成部160に印加され、後段電源回路の相対的に低圧の出力電圧Vが直接的に信号生成部160に印加される。もちろん、物理的には一つの電源回路を分圧して、出力電圧V及び出力電圧Vを得るという構成としてもよい。
【0026】
ドライブ抵抗120は、パルスドライバ170に流れる電流値を規定するものである。ドライブ抵抗120の抵抗値は、鉛蓄電池の電圧値、分圧抵抗130,140の抵抗値、及び、電源ユニット110の入力抵抗値等に応じて決定すればよいが、これらを後述する条件とする場合には、10Ω~30Ω程度(例えば約15Ω)とすることができる。
【0027】
分圧抵抗130,140は、信号生成部160に向けて流れる電流の値を規定するものである。分圧抵抗130,140の各抵抗値は、鉛蓄電池の電圧、ドライブ抵抗120の抵抗値、及び、電源ユニット110の入力抵抗値等に応じて決定すればよいが、分圧抵抗130の抵抗値は0Ω~20kΩ程度(例えば約0Ω)、分圧抵抗140の抵抗値は100Ω~300kΩ程度(約200kΩ)とすることができる。
【0028】
スイッチング回路150は、この例ではFETなどのトランジスタによって実現され、信号生成部160から出力される後述のオン/オフ信号に従ったスイッチング動作を実行する。スイッチング回路150がオン状態のときには、電源ユニット110の前段電源回路の出力電圧Vが信号生成部160に印加され、スイッチング回路150がオフ状態のときには、信号生成部160に対する出力電圧Vの印加は停止される。
【0029】
信号生成部160は、出力電圧V,Vに基づいてスイッチング回路150に供給する前掲のオン/オフ信号を生成するものである。このオン/オフ信号は、スイッチング回路150に供給される。また、信号生成部160は、定電流源出力回路、発振器及び分周回路等を備えており、電圧V,Vに基づいて除去信号を生成するための制御信号を生成するものである。この制御信号は、のこぎり波形をしており、パルスドライバ170のゲートに出力されるゲート電流となる。
【0030】
ここで、信号生成部160は、最終的に鉛蓄電池の電極に供給する除去信号を、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、のこぎり波形をしたパルス信号となるように、例えば、以下の条件で動作させる。
【0031】
すなわち、電源ユニット110の前段電源回路の出力電圧Vを9.0V~11.0V程度(例えば10.0V)、後段電源回路の出力電圧Vを5.0V~6.0V程度(例えば5.5V)、信号生成部160の発振器の発信周波数を約1.0MHz~約5.0MHz程度(例えば約2.5MHz)、分周回路を例えば2分周回路と例えば同期型の62分周回路とによって構成し、前者によって周波数を約0.6MHz~約2.5MHz程度(例えば約1.25MHz)、後者によって周波数を約9.67kHz~約40.32kHz程度(例えば約20.16kHz)とする。この結果、鉛蓄電池の電圧が、分周後の周波数によってパルス幅が約5nsec~約100nsecのパルス信号を生成することができる。
【0032】
このパルス信号を、電圧V,Vが供給されるPMOSトランジスタで構成した定電流源出力回路及びNMOSで構成したスイッチに供給すれば、ピーク値が約550mA~約750mAであり、パルス幅が約5nsec~約100nsecであり、周波数が約5kHz~約50kHzである、のこぎり波形の制御信号を生成することができる。
【0033】
パルスドライバ170は、信号生成部160から出力される制御信号に従って、除去信号を生成するものである。パルスドライバ170は、例えばFETなどのトランジスタによって実現することができる。この構成の場合、理論上、除去信号は当該制御信号と同じパルス幅及び同じ周波数となる。この除去信号は、基板正極端子110A及び基板負極端子100Bを通じて鉛蓄電池に供給され、鉛蓄電池負極電極の硫酸鉛被膜を除去することができる。
【0034】
図2は、図1に示す基板正極端子100A及び基板負極端子100Bと鉛蓄電池の鉛蓄電池正極端子及び鉛蓄電池負極端子とを、長さが60cm、線幅が1.4mmの黄銅製の汎用的な接続線を通じて接続した状態で計測した電流値及び電圧値の計測結果を示す図である。したがって、各計測結果には当該接続線のインピーダンスの影響も含んでいる。また、図2に示す全計測結果は、10回の計測結果の平均値を示している。
【0035】
図2に示す各計測結果は、次のように定義される。「鉛蓄電池電圧値」とは、鉛蓄電池正極端子と鉛蓄電池負極端子との間の電圧値である。「ピーク電流値」とは、鉛蓄電池正極端子から硫酸鉛被膜除去装置10を介して鉛蓄電池負極端子に流れる電流値である。
【0036】
図2の上側に示す計測結果は、2つの12V鉛蓄電池A,Bを計測対象としたものである。図2の下側に示す計測結果は、2つの24V鉛蓄電池C,Dを計測対象としたものである。
【0037】
なお、図2に示す計測結果、及び、後述の図3に示す計測結果のいずれにおいても、種々の計測をする際には、充電完了直後の鉛蓄電池を対象とし、周囲の環境温度などの条件はほぼ同一とし、計測結果に影響を及ぼす要因は可能な限り排除している。また、硫酸鉛被膜除去装置10の各素子のスペックは、図1を用いてした説明のうちかっこ書きで例示した値を採用した。すなわち、ドライブ抵抗120を例にすれば、約15Ωという値を採用とした。
【0038】
鉛蓄電池Aの計測結果は、「鉛蓄電池電圧値」が12.9V、「ピーク電流値」が570mAであった。鉛蓄電池Bの計測結果は、「鉛蓄電池電圧値」が13.9V、「ピーク電流値」が600mAであった。鉛蓄電池Cの計測結果は、「鉛蓄電池電圧値」が25.8V、「ピーク電流値」が610mAであった。鉛蓄電池Dの計測結果は、「鉛蓄電池電圧値」が27.8V、「ピーク電流値」が660mAであった。
【0039】
図2に示す計測結果によれば、図1を用いて説明したスペックの素子を用いることによって、ピーク電流が570mA~660mAとなることがわかる。なお、当業者にとって、ドライブ抵抗120、分圧抵抗130,140のいずれかの抵抗値を変更することによって、ピーク電流の値を容易に制御できることは自明である。
【0040】
本発明者らは、ピーク電流を550mA~750mAの範囲で検証したところ、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0041】
なお、信号生成部160における、定電流源出力回路、発振器及び分周回路等のスペックを適宜変更することによって、パルス信号のパルス幅や周波数を容易に制御することができることも当業者にとって自明である。周波数及びピーク値の条件を上記範囲として、パルス幅を5nsec~100nsecとした場合、ピーク値及びパルス幅の条件を上記範囲として、周波数を5kHz~50kHzにした場合にも、鉛蓄電池負極端子に対する硫酸鉛被膜の発生量よりも硫酸鉛被膜の除去量が上回り、効果的に硫酸鉛被膜を除去することができたし、その一方で鉛蓄電池電極にダメージが見受けられなかった。
【0042】
図3は、車両等に搭載されている鉛蓄電池に対する硫酸鉛被膜除去装置10の回復前後の鉛蓄電池電圧値等の計測結果を示す図である。この電圧値は、鉛蓄電池正極端子及び鉛蓄電池負極端子の近傍で計測したものであり、硫酸鉛被膜除去装置10は図1を用いて説明したスペックの素子を用いた。
【0043】
また、硫酸鉛被膜除去装置10を装着する車両等の種別によって、計測項目が異なっている場合がある(例えば、「比重値」の計測結果を示す場合もあれば、内部抵抗値を示す場合もある。)。このことは、計測対象によって、硫酸鉛被膜の除去効果の評価可能な計測項目が異なったり、そもそも計測対象については特定の計測項目の計測結果を得ることが困難或いは不可であったりなどの理由による。
【0044】
まず、2台のフォークリフトa,bに搭載された鉛蓄電池に関して説明する。これらのフォークリフトa,bは、2V鉛蓄電池を24個搭載しており、当該計測結果は24個の鉛蓄電池についての各々の計測結果の計測値の平均を記載している。
【0045】
フォークリフトa,bの比重値は、電解液を比重計で吸引して計測したものである。比重値は、充電によって上昇して放電によって下降するが、1.25~1.30程度が一つのメルクマールとされており、鉛蓄電池電極に対する硫酸鉛の付着量が多いほど低下する。
【0046】
フォークリフトa,bの比重値偏差は、電解液の比重値の最大値から最小値を差し引いた値である。したがって、この値が小さいほど、鉛蓄電池間での比重値のバラつきが小さく、鉛蓄電池の状態が良好であることを意味する。比重値偏差は、約0.04が一つのメルクマールとされている。
【0047】
まず、フォークリフトaの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に2.16Vであったものが、回復後には2.14Vとなり大きな変化は見られない。比重値は、回復前に1.01であったものが、回復後には1.31となり、大きく改善したことがわかる。比重値偏差は、回復前に1.25であったものが、回復後には0.02となりバラつきが少なくなったことがわかる。
【0048】
つぎに、フォークリフトbの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に2.14Vであったものが、回復後にも2.14Vであり変化は見られなかった。比重値は、回復前に1.30であったものが、回復後には1.29であり、実質的な変化は見られなかった。比重値偏差は、回復前に0.03であったものが、回復後には0.01となりバラつきが少なくなったことがわかる。
【0049】
考察結果をまとめると、フォークリフトaの計測結果によれば、比重値が大幅に改善され、その偏差も改善されたので、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、硫酸鉛被膜の除去効果は絶大であるといえる。一方、フォークリフトbの計測結果によれば、若干の除去効果が認められ、換言すると、フォークリフトbの鉛蓄電池負極電極に硫酸鉛がそれほど付着していなかったと推測される。
【0050】
つぎに、2台のゴルフカートc,dに搭載された鉛蓄電池に関して説明する。これらのゴルフカートc,dは、12V鉛蓄電池を6個搭載しており、当該計測結果は、6個の鉛蓄電池についての各々の計測結果の計測値の平均を記載している。
【0051】
ゴルフカートc,dの内部抵抗値は、鉛蓄電池の開放電圧と負荷抵抗との間の電圧降下に基づいて計測したものである。内部抵抗値は、鉛蓄電池の使用期間が長くなるにつれて上昇していき、これに比例して鉛蓄電池の能力は低下していく。内部抵抗値は、一概にメルクマールとなる絶対的な値はなく、相対的な値の大小によって硫酸鉛被膜の除去効果を評価できる。
【0052】
ゴルフカートc,dの各抵抗差は、鉛蓄電池の内部抵抗値の最大値から最小値を差し引いた値である。したがって、この値が小さいほど、鉛蓄電池間での抵抗差のバラつきが小さく、鉛蓄電池の状態が良好であることを意味する。
【0053】
まず、ゴルフカートcの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に12.65Vであったものが、回復後には12.51Vとなり大きな変化は見られない。内部抵抗値は、回復前に12.50であったものが、回復後には6.14となり、大きく改善したことがわかる。抵抗差は、回復前に10.76mΩであったものが、回復後には0.69mΩとなりバラつきが少なくなったことがわかる。
【0054】
つぎに、ゴルフカートdの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に11.85Vであったものが、回復後には12.72Vとなりやや改善が見られる。内部抵抗値は、回復前に8.78mΩであったものが、回復後には6.10mΩとなり、改善したことがわかる。抵抗差は、回復前に1.47mΩであったものが、回復後には1.35mΩとなりバラつきが多少少なくなったことがわかる。
【0055】
考察結果をまとめると、ゴルフカートcの計測結果によれば、内部抵抗値が大幅に改善され、その抵抗差も改善されたので、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果は絶大であるといえる。一方、ゴルフカートdの計測結果によれば、若干の除去効果が認められるが、換言すると、ゴルフカートdの鉛蓄電池負極電極に硫酸鉛がそれほど付着していなかったと推測される。
【0056】
つぎに、2台の自動車e,fに搭載された開放型の鉛蓄電池に関して説明する。これらの自動車は、12V鉛蓄電池を1個搭載したものであり、このため、当該計測結果は、これまでに説明した複数の鉛蓄電池の計測値の「平均」ではなく、当該鉛蓄電池自体の計測値を記載している。
【0057】
自動車e,fのCCA(Cold Cranking Ampere)値は、鉛蓄電池にエンジンを始動させる能力を示す性能基準値である。CCA値は、当該鉛蓄電池のメーカ、種類などによって基準値が異なるので、一概にメルクマールとなる絶対的な値はなく、相対的な値の大小によって硫酸鉛被膜の除去効果を評価できる。
【0058】
自動車e,fの内部抵抗値は、ゴルフカートc,dに関して説明したものと同じである。したがって、内部抵抗値は、相対的に小さい値であるほど硫酸鉛被膜の除去効果が高いという評価ができる。
【0059】
まず、自動車eの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に12.61Vであったものが、回復後には12.72Vとなり大きな変化は見られない。CCA値は、回復前に171であったものが、回復後には297となり、大きく改善したことがわかる。内部抵抗値は、回復前に14.35mΩであったものが、回復後には8.28mΩとなり大きく改善したことがわかる。
【0060】
自動車fの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に12.19Vであったものが、回復後には12.39Vとなり大きな変化は見られない。CCA値は、回復前に402であったものが、回復後には458となり、改善したことがわかる。内部抵抗値は、回復前に7.65mΩであったものが、回復後には6.32mΩとなり改善したことがわかる。
【0061】
考察結果をまとめると、自動車eの計測結果によれば、CCA値及び内部抵抗値が大幅に改善され、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果は絶大であるといえる。一方、自動車fの計測結果によれば、大きな除去効果が認められるが、自動車eとの関係で見れば、自動車fの鉛蓄電池負極電極に硫酸鉛がそれほど付着していなかったと推測される。
【0062】
つぎに、2台の防災無線g,hに搭載された密閉型の鉛蓄電池に関して説明する。これらの防災無線g,hも、自動車e,fの場合と同じく12V鉛蓄電池を1個搭載しており、このため、複数の鉛蓄電池の計測値の平均ではなく、当該鉛蓄電池自体の計測値を記載している。
【0063】
防災無線g,hの内部抵抗値は、ゴルフカートc,dに関して説明したものと同じである。したがって、内部抵抗値は、相対的に小さい値であるほど硫酸鉛被膜の除去効果が高いという評価ができる。
【0064】
防災無線gの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に13.46Vであったものが、回復後には13.44Vとなり大きな変化は見られない。内部抵抗値は、回復前に9.26mΩであったものが、回復後には8.54mΩとなり、改善したことがわかる。なお、防災無線gの内部抵抗値の公称値は8.55mΩであり、新品の状態まで回復したのである。
【0065】
防災無線hの計測結果について考察する。電圧値は、回復前に13.56Vであったものが、回復後には13.47Vとなり大きな変化は見られない。内部抵抗値は、回復前に9.31mΩであったものが、回復後には8.55mΩとなり、改善したことがわかる。なお、防災無線gの内部抵抗値の公称値は8.55mΩであり、新品の状態まで回復したのである。
【0066】
考察結果をまとめると、防災無線g,hの計測結果によれば、いずれも内部抵抗値が改善され、硫酸鉛被膜除去装置10を使用したことによる、塩被膜の除去効果は大きいといえる。
【0067】
以上説明した硫酸鉛被膜除去装置10は、硫酸鉛被膜除去装置10が接続される鉛蓄電池の性能を示す計測を行う計測装置と、計測装置によって計測された計測結果を送信する送信装置とともに、これらを備えた硫酸鉛被膜除去システムとすることもできる。
【0068】
当該計測装置が計測を行う鉛蓄電池の性能を示す計測対象としては、図2に示すピーク電圧、ピーク電流、図3に示す内部抵抗値が典型例として挙げられる。さらに、内部抵抗値は温度による影響を受けやすいので温度も考慮した評価が可能なように周辺温度も含めることができる。したがって、当該計測装置は、これらの幾つかを計測するセンサーなどを有するものとすればよい。
【0069】
当該送信装置が送信する計測結果の送信先は、鉛蓄電池が搭載された電気機器の管理者及び/又は本実施形態の硫酸鉛被膜除去システムの管理者などのいくつか考えられる。また、計測結果は、これらの者に直接送信してもよいし、図示しないクラウドサーバに一度送信し、その後にクラウドサーバからそれらの者に間接送信してもよい。送信技術としてはLPWA(Low Power Wide Area)などの通信規格を用い、送信媒体としては無線や光ファイバ等を用い、送信頻度としては例えば毎月1回とすることが一法であるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
本実施形態の硫酸鉛被膜除去システムによれば、山間部などで用いられる通信基地局の鉛蓄電池に生じる硫酸鉛被膜除去をすることに加えて、例えば遠隔地にいる管理者が鉛蓄電池の交換目安の判断材料となる計測結果を得ることができる。
【0071】
以上、本実施形態では、鉛蓄電池負極電極に付着する硫酸鉛被膜を除去する場合を例に説明したが、鉛蓄電池には複数のセルから構成されているものもあり、その場合にそれらの各セルの負極電極に付着した硫酸鉛被膜を除去することも可能である。
【要約】
【課題】低消費電力で、かつ、鉛蓄電池の電極にダメージを与えることのない硫酸鉛被膜除去装置を提供することを課題とする。
【解決手段】硫酸鉛被膜除去装置、鉛蓄電池の電極に生じる硫酸鉛被膜を除去する硫酸鉛被膜除去装置において、前記鉛蓄電池から取り出した信号に基づいて、ピーク値が550mA~750mAであり、パルス幅が5nsec~100nsecであり、周波数が5kHz~50kHzである、硫酸鉛被膜の除去信号を生成する生成部と、前記生成部によって生成された除去信号を前記鉛蓄電池の電極に供給する供給部と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3