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特許7325819レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラム
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  • 特許-レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラム 図1
  • 特許-レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラム 図2
  • 特許-レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/16 20060101AFI20230807BHJP
   B23K 26/38 20140101ALI20230807BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20230807BHJP
【FI】
B23K26/16
B23K26/38 Z
B23K26/00 N
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020031968
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021133401
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】593032916
【氏名又は名称】武井電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114627
【弁理士】
【氏名又は名称】有吉 修一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100182501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100175271
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 宣圭
(74)【代理人】
【識別番号】100190975
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 聡子
(72)【発明者】
【氏名】池田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】桑原 太郎
(72)【発明者】
【氏名】納富 純一
(72)【発明者】
【氏名】尾形 匡彦
(72)【発明者】
【氏名】野村 進二
(72)【発明者】
【氏名】下村 智紀
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-167296(JP,A)
【文献】特開2007-320124(JP,A)
【文献】特開2007-319893(JP,A)
【文献】特開2012-076110(JP,A)
【文献】特開平09-216076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/16
B23K 26/38
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のワークを設置する加工テーブルと、
所定の輪郭線に沿って、加工物を構成する有効領域以外の不要領域を前記ワークから切
断分離するレーザ光を照射するレーザ装置と、
前記ワークから前記不要領域を切断分離する際に、前記不要領域が所定の表面積の小片
を形成する切断軌道となる信号を前記レーザ装置に対して出力する制御装置と、
前記レーザ装置による切断分離により前記ワークから切断された小片を所定の風量で吸
引する集塵装置と、を備える
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記小片の表面積が略18mm~300mmである
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記集塵装置の風量は3.5m3/min~11.0m3/minである
請求項1または請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記レーザ装置により照射されるレーザ光の単位体積当たりの投入熱量は、略1.1J
/mm~4.5J/mmの範囲で設定される
請求項1から請求項3の何れか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
板状のワークから加工物の輪郭線情報に基づいて、加工物を構成する有効領域以外の不
要領域を判別する判別工程と、
前記不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道に沿って前記ワークを繰り返し
切断して前記有効領域の輪郭を形成する切断工程と、
前記切断工程で切断された前記不要領域の小片を、所定の風量で吸引する吸引工程と、
を備える
レーザ加工方法。
【請求項6】
前記切断工程は、
前記ワークの端縁上の所定の位置である始点から、前記輪郭線上の所定の位置である中
間点までの第1の切断軌道、前記中間点から前記輪郭線上の所定の位置である終点までの
前記輪郭線に沿った第2の切断軌道からなる切断軌道に基づいて前記ワークを切断する工
程をn回(nは2以上の整数)繰り返し、
n-1回目の始点とn回目の始点間の距離、及びn-1回目の中間点とn回目の中間点
間の距離が均等で、かつn-1回目の終点とn回目の中間点が合致する
請求項5に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記切断工程における前記第1の切断軌道、及び前記第2の切断軌道はそれぞれ直線状
であり、
前記第1の切断軌道と前記第2の切断軌道のなす角度が略110~150度の範囲であ

請求項6に記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記吸引工程は、
前記ワークから発生する飛散物を3.5m3/min~11.0m3/minの風量で吸
引する
請求項5から請求項7の何れか一項に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
板状のワークから加工物の輪郭線情報に基づいて、加工物を構成する有効領域以外の不
要領域を判別する判別ステップと、
前記不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道に沿って前記ワークを切断して
前記有効領域の輪郭を形成する切断ステップと、をコンピュータに対して指示する
レーザ加工プログラム。
【請求項10】
前記切断ステップは、
前記ワークの端縁上の所定の位置を始点として決定するステップ、
前記輪郭線上の所定の位置を中間点として決定するステップ、
前記中間点とは異なる前記輪郭線上の所定の位置を終点として決定するステップ、
前記始点から中間点までの第1の切断軌道に基づいて前記ワークを切断するステップ、
前記中間点から前記終点までの前記輪郭線に沿った第2の切断軌道に基づいて前記ワー
クを切断するステップを1度の切断フローとして、該切断フローをn回(nは2以上の整
数)繰り返し、
n-1回目の始点とn回目の始点間の距離、及びn-1回目の中間点とn回目の中間点
間の距離が均等で、かつn-1回目の終点とn回目の中間点が合致する
請求項9に記載のレーザ加工プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラムに関する。詳しくは、レーザ加工する際に発生する飛散物を効率良く回収することができるとともに、生産性を向上させ常に良好な加工状態を得ることができるレーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラムに係るものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に液晶パネルや有機ELパネルなどの光学表示パネルには、偏光フィルム(偏光板)や位相差フィルム(位相差板)などの光学フィルムが貼り付けられている。通常、これらの光学フィルムは、原反ロールから長尺のフィルムを巻き出し、この巻き出したフィルムを光学表示パネルに対応する幅や長さに切断加工して、ガラス基板に対して貼り付けられている。
【0003】
一方、前記のような方法では、切断された単品の光学表示パネルの周縁付近まで光学フィルムを貼り付けた場合、光学フィルムを切断した際に生じたバリがガラス基板からはみ出すおそれがある。このように光学フィルムは、光学表示パネルからはみ出した状態で貼り付けられると、そのはみ出し部分を基点として剥がれやすくなってしまう。
【0004】
そこで、例えば特許文献1には、光学フィルムが光学表示パネルから剥がれにくくするための製造方法が開示されている。即ち、光学表示パネルに対して一部がはみ出すように光学フィルムを貼り付け、該はみ出した部分を光学表示パネルと重なる位置でレーザ光により切断することで、光学フィルムの光学表示パネルからはみ出した部分を除去するというものである。
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示のレーザ加工方法においては、レーザ加工機による切断加工時に塵状、又は埃状の飛散物が発生する。飛散物は、被加工物の上方の四方に飛び散り、例えばレーザ光を伝搬する光学ミラーへの付着による反射率低下に伴って、加工ヘッドで得られるレーザ出力が低下し加工が不安定になったり、加工ヘッドを被加工物上で移動させるボールネジなどの精密駆動系部品に混入して、早期摩耗により加工精度が低下したりする等の問題が発生する。
【0006】
このような飛散物を回収するために、特許文献2には集塵ダクトにより吸引する方法が開示されている。具体的には、レーザ出射装置の周囲に、複数の遮蔽物を所定間隔で設置し、該遮蔽物により囲まれた遮蔽空間内の飛散物を集塵ダクトにより集塵して、飛散物の回収効率を高めることができるものとなっている。
【0007】
また、集塵ダクトによらない集塵方法として、特許文献3には皮膜材料を用いた集塵方法が開示されている。具体的には、レーザ光を吸収しにくく、かつレーザ光の照射によっても剥離しない皮膜材料で被加工物表面を被覆する。その後、この皮膜材料を介して被加工物表面にレーザ光を照射する。このとき、レーザ光の照射により発生した飛散物は皮膜材料に付着することになるが、レーザ光による加工後に皮膜材料を被加工物から剥がすことで、皮膜材料に付着した飛散物を除去することができるものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-228439号公報
【文献】特開平9-271980号公報
【文献】特開2005-313196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記した特許文献2、及び特許文献3に係る発明においては、以下のような問題が生じる。
【0010】
レーザ加工により切断された飛散物の大きさは、極小さなサイズのもの(例えば長さが3mm以下)から比較的大きなサイズのもの(例えば長さが3cm以上)まで、大小さまざまなサイズのものがある。このとき極小さなサイズの飛散物は、重量が軽すぎることにより集塵ダクトにより吸引しても吸引することができず、一方で大きなサイズの飛散物は集塵ダクトで吸引ができたとしても、集塵ダクトの内部で目詰まりを引き起こすことが懸念される。
【0011】
また、特許文献3に係る発明においては、飛散物を吸着させるための皮膜材料を別途準備する必要があるため、生産コストが上昇するとともに、レーザ加工の前後工程において皮膜材料の貼り付けと剥離の工程を繰り返すため、生産効率も低下することが懸念される。
【0012】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであって、レーザ加工する際に発生する飛散物を効率良く回収することができるとともに、生産性を向上させ常に良好な加工状態を得ることができるレーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラムに係るものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明のレーザ加工装置は、板状のワークを設置する加工テーブルと、所定の輪郭線に沿って、加工物を構成する有効領域以外の不要領域を前記ワークから切断分離するレーザ光を照射するレーザ装置と、前記ワークから前記不要領域を切断分離する際に、前記不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道となる信号を前記レーザ装置に対して出力する制御装置と、前記レーザ装置による切断分離により前記ワークから切断された小片を所定の風量で吸引する集塵装置とを備える。
【0014】
ここで、板状のワークを設置する加工テーブルを備えることにより、被加工物であるワークを載置して、レーザにより切断加工することができる。
【0015】
また、所定の輪郭線に沿って、加工物を構成する有効領域以外の不要領域をワークから切断分離するレーザ光を照射するレーザ装置を備えることにより、加工テーブルに載置されたワークから加工物を構成しない不要領域を判別して、該不要領域を切断分離して加工物を成形することができる。
【0016】
また、切断分離された小片となった不要領域を所定の風量で吸引する集塵装置を備えることにより、レーザ加工の際に発生する小片(飛散物)を吸引して、周囲に小片が飛散することを防止することができる。これにより、例えば小片がレーザ装置を構成する精密機器への付着を防止し、レーザの加工精度を一定に保つことが可能となる。
【0017】
また、ワークから不要領域を切断分離する際に、不要領域の表面積が略18mm~300mmの小片を形成する切断軌道となる信号をレーザ装置に対して出力する制御装置を備えることにより、係る信号に基づいて、レーザはワークの不要領域を所定の表面積となる小片に細分化しながら切断加工することができる。このように不要領域が細分化されることにより、集塵装置による吸引を効率的に行い得るものとなる。
【0018】
ここで、切断する不要領域の表面積が略18mm未満の場合には、小片が細分化されすぎてしまい、集塵装置により吸引をしても、ワーク等に吸着をしたまま飛散しにくくなる。そのため、全ての小片を集塵装置により吸引するためには、必然的に吸引風量を所定に上昇させる必要があり、集塵装置の負荷が大きくなる。
【0019】
一方、切断する不要領域の表面積が略300mmよりも大きくなる場合には、小片の表面積が大きくなるため、集塵装置内や集塵装置に接続された吸引パイプ内において吸引した小片が滞留し、目詰まりを起こす虞がある。
【0020】
また、集塵装置の風量が3.5m3/min~11.0m3/minである場合には、表面積が18mm~300mmの範囲で切断された小片について、効率的に集塵装置により回収することができる。
【0021】
ここで、集塵装置の風量として3.5m3/min未満である場合には、風量が弱いため、例えば小さな表面積からなる小片について吸引することができない虞がある。また、集塵装置の風量として11.0m3/minよりも大きい場合には、係る風量を実現するためには、吸引風量を上げるか、或いは集塵装置に連結される吸引パイプの径を大きくする必要があり、集塵装置に対する負荷が高まる虞がある。
【0022】
前記の目的を達成するために、本発明のレーザ加工方法は、板状のワークから加工物の輪郭線情報に基づいて、加工物を構成する有効領域以外の不要領域を判別する判別工程と、前記不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道に沿って前記ワークを切断して前記有効領域の輪郭を形成する切断工程と、前記切断工程で切断された前記不要領域の小片を、所定の風量で吸引する吸引工程とを備える。
【0023】
ここで、板状のワークから加工物の輪郭線情報に基づいて、加工物を構成する有効領域以外の不要領域を判別する判別工程を備えることにより、加工物を構成しない不要領域を判別することができる。
【0024】
また、不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道に沿ってワークを切断して有効領域の輪郭を形成する切断工程を備えることにより、ワークの不要領域を所定の表面積となる小片に細分化しながら切断して、加工物を成形することができる。このように不要領域を細分化することにより、後述する吸引工程による吸引を効率的に行い得るものとなる。
【0025】
また、切断工程により切断された小片を所定の風量で吸引する吸引工程を備えることにより、レーザによる切断分離作業の際に発生する小片を吸引して周囲に飛散物として飛散することを防止する。これにより、例えばレーザを含む精密機器への小片の付着を防止し、レーザの加工精度を一定に保つことが可能となる。
【0026】
また、切断工程は、ワークの端縁上の所定の位置である始点から、輪郭線上の所定の位置である中間点までの第1の切断軌道、中間点から輪郭線上の所定の位置である終点までの輪郭線に沿った第2の切断軌道からなる切断軌道に基づいてワークを切断する工程をn回(nは2以上の整数)繰り返す場合には、ワークから不要領域を切断分離する際に、不要領域を均一な大きさに細分化することができる。
【0027】
このとき、n-1回目の始点とn回目の始点間の距離、及びn-1回目の中間点とn回目の中間点間の距離が均等で、かつn-1回目の終点とn回目の中間点が合致するように切断軌道を設定することで、切断経路として最短距離においてワークを切断することができる。
【0028】
また、切断工程における第1の切断軌道、及び第2の切断軌道はそれぞれ直線状であり、第1の切断軌道と第2の切断軌道のなす角度が略110~150度の範囲である場合には、切断装置であるレーザによる熱影響を抑制することができ、加工物の仕上がりを向上させることができる。
【0029】
即ち、第1の切断軌道と第2の切断軌道のなす角度が鋭角である場合には、レーザにより第1の切断軌道から中間点を経由して第2の切断軌道に方向転換する際に、中間点付近の切断断面にレーザの熱影響に伴いワーク表面が盛り上がり、バリの発生の要因となる。係る加工により生じたバリは加工物の仕上がり成形に影響するため、後工程において手作業により取り除く必要がある。
【0030】
この点、第1の切断軌道と第2の切断軌道のなす角度を鈍角、詳しくは前記した通り略110~150度、より好ましくは130度とすることで、切断軌道に沿ったレーザの動きが滑らかとなり、中間点におけるバリの発生を抑制することができる。
【0031】
前記の目的を達成するために、本発明のレーザ加工プログラムは、板状のワークから加工物の輪郭線情報に基づいて、加工物を構成する有効領域以外の不要領域を判別する判別ステップと、前記不要領域が所定の表面積の小片を形成する切断軌道に沿って前記ワークを切断して前記有効領域の輪郭を形成する切断ステップと、をコンピュータに対して指示するものである。
【0032】
なお、前記した切断ステップは、ワークの端縁上の所定の位置を始点として決定するステップ、輪郭線上の所定の位置を中間点として決定するステップ、中間点とは異なる前記輪郭線上の所定の位置を終点として決定するステップ、始点から中間点までの第1の切断軌道に基づいてワークを切断するステップ、中間点から終点までの輪郭線に沿った第2の切断軌道に基づいてワークを切断するステップを1度の切断フローとして、該切断フローをn回(nは2以上の整数)繰り返し、n-1回目の始点とn回目の始点間の距離、及びn-1回目の中間点とn回目の中間点間の距離が均等で、かつn-1回目の終点とn回目の中間点が合致するようにコンピュータに対して指示するものである。
【0033】
ここで、ワークの端縁上の所定の位置を始点として決定するステップ、輪郭線上の所定の位置を中間点として決定するステップ、中間点とは異なる輪郭線上の所定の位置を終点として決定するステップをそれぞれ有することにより、レーザによる切断開始点から終点までの切断軌道を決定することができる。
【0034】
また、始点から中間点までの第1の切断軌道に基づいてワークを切断するステップと、中間点から終点までの第2の切断軌道に基づいてワークを切断するステップを1度の切断ステップとし、該切断ステップを繰り返すことにより、切断分離するワークの不要領域を均一な大きさに細分化することができる。
【0035】
さらに、n-1回目の始点とn回目の始点間の距離、及びn-1回目の中間点とn回目の中間点間の距離が均等で、かつn-1回目の終点とn回目の中間点が合致するようにコンピュータに対して指示する場合には、切断経路として最短距離においてワークを切断することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係るレーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラムは、レーザ加工する際に発生する飛散物を効率良く回収することができるとともに、生産性を向上させ常に良好な加工状態を得ることができるものとなっている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の全体概略図である。
図2】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置により切断するワークの切断軌跡を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るレーザ加工方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参酌しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0039】
まず、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1について図1を用いて説明する。レーザ加工装置1は、レーザ発振装置2、パルス発生装置3、制御装置4、集光装置5、XYステージ6、及び集塵回収装置7から主に構成されている。
【0040】
レーザ発振装置2は、所定のパルス波形からなるレーザ光を発振する装置である。レーザ光の発振には、制御装置4にて目標とするパルス波形が設定され、パルス発生装置3にて所定のパルス波形、及び出力からなるパルス波形が生成される。パルス発生装置3から送信される所定のタイミング信号をレーザ発振装置2で受信すると、目標とするパルス波形からなるレーザ光が発振されることになる。レーザ発振装置2は、炭酸ガスが充填された図示しない光共振器を備えており、この光共振器内の光を炭酸ガス中において誘導放出によって増幅し、レーザ光を発振する構成となっている。
【0041】
この炭酸ガスを用いたレーザ発振装置2からは、被加工物である光学フィルム(以下、「ワーク」という。)に吸収されやすいように赤外線領域のレーザ光が発振されることになる。なお、このレーザ発振装置2は、安定してレーザ光を発振するために、常時、レーザ光を発振した状態とされている。
【0042】
ここで、必ずしも、レーザ発振装置2として、炭酸ガスレーザを用いる必要はない。YAGレーザ、YVOレーザ、ファイバーレーザといった固体レーザ、その他いかなる種類のレーザを使用してもよいが、前記の通り、ワークとして光学フィルムを想定する場合、エネルギー吸収という観点では炭酸ガスレーザが好適である。
【0043】
また、必ずしも、レーザ発振装置2の数は1台に限定されるものではなく、複数台が設置されていてもよい。
【0044】
集光装置5は、レーザ発振装置2から伝送されたレーザ光の光軸上に設置され、XYステージ6上のワークに対してレーザ光を導くための装置である。集光装置5は、周知の構成であり、主にガルバノスキャナ51、及びFθレンズ52から構成されている。
【0045】
レーザ発振装置2から伝送されたレーザ光は、反射鏡(図示しない)で反射され、ビームエキスパンダ(図示しない)にて、その照射直径がガルバノスキャナ51のミラーに合った光束に調整される。また、このビームエキスパンダによりレーザ光の屈折率を調整することで、レーザ光の焦点距離を調整することができるものとなっている。
【0046】
ガルバノスキャナ51は、図示しないミラーと、ミラーに取り付けられた回転軸と、回転軸を制御する制御装置を備えている。このガルバノスキャナ51により、ミラーに入射したレーザ光を1次元方向に自在に偏向することが可能となる。即ち、ガルバノスキャナ51を2台組み合わせることで、2次元方向、すなわちXYステージ6上において、XY平面状の一定領域を占める加工領域上の所定の加工点にレーザ光を偏向することが可能となる。
【0047】
ガルバノスキャナ51により偏向されたレーザ光は、Fθレンズ52で集光される。Fθレンズ52は、周知の構造であり、入射角度θに比例した像高Yをもち、焦点距離がFである場合にY=Fθの関係を有するレンズである。このFθレンズ52を用いることにより、ガルバノスキャナ51により偏向されたレーザ光の焦点が平面上に分布するように、レーザ光を集光することができる。
【0048】
ここで、必ずしも、集光装置5としては以上の構成に限定されるものではない。集光装置5を構成する各装置の組み合わせや配置等は適宜変更することができるものとする。例えば、本発明の実施形態においては、XYステージ6がX軸方向、又はY軸方向に移動して任意の位置に位置決めされる構成となっているが、集光装置5の一部がX軸方向、又はY軸方向に移動するガントリータイプのものであってもよく、また、XYステージ6に代えてワークとして連続したシート状のロールを一方向に巻き戻しながらレーザ光を定点照射し、流れ方向に切断するロールスリッター機であってもよい。
【0049】
集塵回収装置7は、XYステージ6上に載置されたワークに対してレーザ光を照射した際に発生する飛散物を回収する装置であり、XYステージ6の上方であって、かつFθレンズ52の鉛直下方に配置された平面視略四角形で鉛直下方に向けて開放端が形成された回収箱71と、ファンの回転により気流を発生させる集塵機72と、一端が回収箱71の四方の側面に接続され、他端が集塵機72に接続され、回収箱71から集塵機72まで飛散物を導く吸引パイプ73から主に構成されている。
【0050】
ここで、必ずしも、回収箱71は平面視略四角形である必要はない。回収箱71の形状は、使用用途に応じて適宜選択することができるものとする。
【0051】
また、必ずしも、回収箱71はXYステージ6の上方に位置する必要はない。例えば、XYステージ6の下方に位置するように配置してもよい。
【0052】
また、必ずしも、吸引パイプ73は、回収箱71の四方にそれぞれ4つが配置されている必要はない。吸引パイプ73の配置数は特に限定されるものではない。
【0053】
以上が本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1の概要であるが、次にレーザ加工装置1を用いたレーザ加工方法について説明する。なお本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1は、様々な形状のワークに対して、様々な形状の加工物の成形に対応できるものであるが、説明の便宜上、一般的に広く用いられるディスプレイ用途であって、方形状のワークから、該ワークよりも一回り小さい方形状の加工物を成形する場合について説明する。
【0054】
図2は、本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1を用いて、ワークから不要領域A1を切断して、最終製品である有効領域A2からなる加工物を得るに際してのレーザ光による切断軌道を模式的に示した全体図、及び要部拡大図である。
【0055】
図2に示すように、本発明の実施形態におけるレーザ加工装置1は、加工物の輪郭線BLに沿ってレーザ光を照射する従来の方法とは異なり、ワークの端縁上の所定の開始点S1から加工物の輪郭線BL上の所定の位置である中間点C1を結んだ直線状の第1の切断軌道L1、中間点C1から輪郭線BL上の所定の位置である終点E1までを輪郭線BLに沿った直線状の第2の切断軌道L2からなる切断軌道を一回の切断工程とする。
【0056】
なお、第1の切断軌道L1から第2の切断軌道L2にかけては中間点C1を介して所定の角度に方向転換するが、このときの第1の切断軌道L1と第2の切断軌道L2のなす角度は略110度~150度の範囲であることが好ましい。
【0057】
ここで、必ずしも、第1の切断軌道L1から第2の切断軌道L2のなす角度は略110度~150度の範囲である必要はない。但し、第1の切断軌道L1から第2の切断軌道L2のなす角度が前記の範囲である場合には、加工工数に大きな影響がなく、レーザ加工により発生するワーク表面の盛上りを抑制することができる。
【0058】
例えば、第1の切断軌道L1と第2の切断軌道L2のなす角度が略90度未満の鋭角となる場合には、中間点付近におけるレーザ光による熱影響が過大となり、中間点付近においてレーザ光の照射に伴う盛上りが発生し易くなる。盛上りはバリとなり加工物の成形に影響を与えるため、後工程において係るバリを取り除く必要が生じることになる。
【0059】
一方、第1の切断軌道L1と第2の切断軌道L2のなす角度が大きくなると、レーザ光の走査距離が長くなるため、加工工数が増えるという問題が生じる。そこで、発明者らが検討した結果では、第1の切断軌道L1と第2の切断軌道L2のなす角度が略110度~150度の範囲である場合には、加工工数が極端に増えることなく、かつ熱影響を受けずにワークを切断することが確認できた。
【0060】
また、本発明の実施形態におけるレーザ光の単位体積当たりの投入熱量は、略1.1J/mm~4.5J/mmの範囲で設定される。
【0061】
ここで、必ずしも、レーザ光の投入熱量は前記した範囲に限定される必要はない。但し、発明者らが検討した結果では、前記の範囲の投入熱量によりレーザ光で照射すると、昇華物の付着が少なく、良好な加工品質となることが確認できた。
【0062】
切断軌道に沿って1回目の切断工程が完了すると、続いて2回目の切断工程に移行する。2回目の切断工程も1回目の切断工程に係る切断軌道と同一の切断軌道に沿って切断される。具体的には、1回目の切断工程の開始点S1に対して所定の距離だけワークの端縁上に沿って移動した位置を2回目の切断工程の開始点S2とし、1回目の切断工程の終点E1を2回目の切断工程における切断軌道の中間点C2、さらに中間点C2から輪郭線BL上の所定の位置である終点E2をそれぞれ決定する。なお、開始点S1と開始点S2の距離と、中間点C1と終点E1の距離は略均等な長さである。
【0063】
以後は1回目の切断工程と同じく、開始点S2、中間点C2、終点E2を結んだ切断軌道に沿ってレーザ光により不要領域A1を切断する。このとき、2回目の切断工程において、不要領域A1の小片Pが切り落とされるとともに、1回目の切断工程で形成された加工物の輪郭線に連続して、新たに輪郭線が形成される。係る工程を加工物の全ての輪郭線が形成されるまで、n回(nは2以上の整数)だけ順次繰り返すことにより、加工物を構成しない不要領域A1は均等な大きさの小片Pとして切り落とされる。
【0064】
ここで、必ずしも、不要領域A1を小片化するための切断軌道の長さは、全ての切断工程において同一である必要はない。例えば、n回目の切断軌道とn+1回目の切断軌道の長さが異なるように切断軌道を設定することも可能である。但し、後述する通り、小片化する飛散物の表面積の大きさに応じて集塵機72による風量が異なるため、全ての切断工程において一定の風量で飛散物を回収するという観点からは、切断軌道は1回目からn回目の全ての切断工程において同じ軌道であることが好ましい。
【0065】
なお、レーザ光の切断軌道に沿った照射位置の移動は、XYステージ6を固定した状態でレーザ発振装置2を切断軌道に沿って移動させるようにしもよく、或いはレーザ発振装置2を固定した状態でXYステージ6を切断軌道に沿って移動させるようにしもよい。
【0066】
また、回収箱71に接続された吸引パイプ73の吸引口の近傍で加工した方が飛散物の回収効率が高まる。そのため、レーザ光の切断軌道は、吸引パイプ73の吸引口の近傍を通るように設定される。
【0067】
ワークから切断分離された小片Pは、飛散物として集塵機72からの気流により回収箱71に集められ、吸引パイプ73から集塵機72内に回収される。表1は細分化された小片の大きさと、集塵機72の風量との関係を示すものである。
【0068】
ここで、表1中の小片長さは第1の切断軌道L1の長さ、小片幅は第2の切断軌道の長さをそれぞれ表す。また、必要風速は、細分化された小片Pの全てを回収するために必要な集塵機72から発生する気流の風速である。なお、ワークは一般的には、樹脂フィルムであり、その厚みは略0.01mm~0.5mm程度の薄厚であるため、小片Pの大きさとしては表面積のみを考慮するものとする。
【0069】
[表1]
【0070】
表1に示すように、小片Pの表面積が大きくなるにつれて、必要な風量は小さくなる。そのため、集塵機72のファンの負荷は小さくなるため、経済的な観点に基づくと、小片Pの表面積はなるべく大きいことが好ましい。一方で、発明者らが検討した結果では、小片Pの表面積として略300mmを超えると、一定量の小片Pを吸引すると、小片Pが吸引パイプ73内、或いは集塵機72内に滞留することにより目詰まりを起こし、吸引機能が低下することが懸念される。そのため、小片を長時間において安定的に吸引するには、小片の表面積としては略18mm~略300mmの大きさに細分化されることが好ましい。
【0071】
次に図3を用いて、本発明の実施形態に係るレーザ加工方法について説明する。
【0072】
[STEP1:領域の判別]
まず、制御装置4は、予め記憶されている加工物の輪郭形状に基づいて、被加工物であるワークから切断分離する不要領域A1と加工物を構成する有効領域A2を判別する。
【0073】
ここで、例えばラインスキャンカメラを使用してワーク全体をスキャニングし、不要領域A1と有効領域A2を判別するようにしてもよい。
【0074】
[STEP2:小片化する表面積の決定]
STEP1において不要領域A1を判別したら、小片化する不要領域A1の表面積を決定する。
【0075】
[STEP3:切断軌道の決定]
STEP1、STEP2の結果に基づいて判別した不要領域A1を切断するための切断軌道を決定する。切断軌道は、例えばSTEP2で決定された不要領域A1の小片の表面積に基づいて、各小片の表面積が均等となる切断軌道を自動的に演算する。以下、切断軌道を決定するための演算フローである。
【0076】
まず、ワークの端縁上の所定の位置(方形状のワークである場合には四隅のうちの一の点)を開始点Sとして決定する。
【0077】
開始点Sを決定したら、次に加工物の輪郭線BL上の所定の位置(輪郭線BLが方形状である場合には、四隅のうちの開始点から最短距離に位置する一の点)を中間点Cとして決定する。この開始点Sと中間点Cを結んだ仮想切断ラインが第1の切断軌道L1となる。
【0078】
次に、中間点Cから所定の距離だけ離間した位置であって、同じく輪郭線BL上の所定の位置を終点Eとして決定する。この中間点Cと終点Eを結んだ仮想切断ラインが第2の切断軌道L2となる。そして、前記の通り、第1の切断軌道L1と第2の切断軌道L2をあわせて切断軌道とよぶ。
【0079】
開始点Sを基点とする1回の切断工程で切断される切断軌道を決定したら、係る切断軌道を加工物の輪郭線BLに沿って所定の距離だけずらしながら不要領域A1全体の切断軌道を決定する。
【0080】
ここで、必ずしも、切断軌道は前記した演算フローに基づいて決定される必要はなく、適宜変更することが可能である。
【0081】
[STEP4:不要領域の切断]
STEP3において不要領域A1における全切断工程の切断軌道が決定されたら、レーザ発振装置2により、決定された切断軌道に沿って、切断が開始される。
【0082】
[STEP5:小片の回収]
STEP4における不要領域A1の切断により分離された小片は、集塵機72からの気流により飛散物となって回収箱71に集められ、吸引パイプ73から集塵機72に回収される。
【0083】
以上、本発明に係るレーザ加工装置、レーザ加工方法、及びレーザ加工プログラムは、レーザ加工する際に発生する飛散物を効率良く回収することができるとともに、生産性を向上させ常に良好な加工状態を得ることができるものとなっている。
【符号の説明】
【0084】
1 レーザ加工装置
2 レーザ発振装置
3 パルス発生装置
4 制御装置
5 集光装置
51 ガルバノスキャナ
52 Fθレンズ
6 XYステージ
7 集塵回収装置
71 回収箱
72 集塵機
73 吸引パイプ
A1 不要領域
A2 有効領域
BL 輪郭線
L1 第1の切断軌道
L2 第2の切断軌道
P 小片
図1
図2
図3