(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】尿代謝物と毒素を検知するための超疎水性プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
B32B 5/16 20060101AFI20230807BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20230807BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230807BHJP
B32B 15/02 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B32B5/16
G01N21/65
C09K3/00 R
B32B15/02
(21)【出願番号】P 2020539001
(86)(22)【出願日】2019-01-15
(86)【国際出願番号】 SG2019050022
(87)【国際公開番号】W WO2019139543
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】10201800322W
(32)【優先日】2018-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】506076891
【氏名又は名称】ナンヤン テクノロジカル ユニヴァーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リン、シン イー
(72)【発明者】
【氏名】リー、イ ホン
(72)【発明者】
【氏名】タン、ヌァン スーン
(72)【発明者】
【氏名】ハン、シュエメイ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ヒャン クエ
(72)【発明者】
【氏名】カオ、ヤ-チュアン
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0287427(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0058697(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0266555(US,A1)
【文献】特表2017-522172(JP,A)
【文献】Xing Li,Superhydrophobic-Oleophobic Ag Nanowire Platform: An Analyte-Concentrating and Quantitative Aqueous and Organic Toxin Surface-Enhanced Raman Scattering Sensor,analytical chemistry,2014年,Vol.86,pp.10437-10444
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面増強ラマン散乱に使用するのに適した複合超疎水性材料であって:
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む、
単層の金属ナノ粒子コーティング;
前記
単層の金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;及び
前記金属層の上の第1の超疎水性層を含み:
前記金属ナノ粒子コーティングは、
前記基材上に単層として配置された第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子
の混合物を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は、第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有し;
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記基材層及び前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的であ
り、前記第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子が前記基材層に静電的に結合している、複合超疎水性材料。
【請求項2】
前記基材層の表面の前記金属ナノ粒子コーティングの密度が、2~20粒子/μm
2、例えば2.5~10粒子/μm
2、例えば、3~5粒子/μm
2、例えば4.4粒子/μm
2である;及び/又は、
前記複合
超疎水性材料が、前記金属ナノ粒子コーティングと前記金属層との間に挟まれた第2の超疎水性層をさらに含む、請求項1に記載の複合超疎水性材料。
【請求項3】
水との静的接触角が、150°を超える、例えば151°~170°、例えば155°~165°を示す、請求項1又は2に記載の複合超疎水性材料。
【請求項4】
前記第1のセットのナノ粒子が、10~250nm、例えば20~100nm、例えば30~50nm、例えば130~240nm、例えば135~230nmの平均直径を有する;及び/又は
前記第2のセットのナノ粒子が、250~1,000nm、例えば300~600nm、例えば311~540nmの平均直径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項5】
(ia)前記第1のセットの金属ナノ粒子が、前記第2のセットの直径よりも0.2~60%小さい、例えば、第2のセットの直径よりも0.5~57%、例えば1~55%、例えば10~50%、例えば25~45%小さい、例えば、前記第2のセットの直径よりも61~89%小さい、例えば、前記第2のセットの直径よりも75~85%、例えば79~83%小さい;及び/又は
(iia)前記複合
超疎水性材料は、30~150nm、例えば40~140nm、例えば50~125nm、例えば110~125nmの二乗平均平方根表面粗さを有する;及び/又は
(iiia)前記複合
超疎水性材料上の第2のセットのナノ粒子中の粒子の総数と第1のセットのナノ粒子中の粒子の総数の比が、1:10~10:1、例えば1:5~5:1、例えば2:1~4:1である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項6】
前記基材層上の荷電した官能基のセットが正に荷電し、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が負に荷電している、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項7】
前記基材層上の正に荷電した官能基のセットがアンモニウムイオンであり、及び/又は、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の負に荷電した官能基のセットがカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンである、請求項6に記載の複合超疎水性材料。
【請求項8】
前記基材層上の荷電した官能基のセットが負に荷電し、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が正に荷電している、請求項1~5のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項9】
前記基材層上の負に荷電した官能基のセットがカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、及び/又は、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子の正に荷電した官能基のセットがアンモニウムイオンである、請求項8に記載の複合超疎水性材料。
【請求項10】
(ib)前記金属層が、厚さ5~53nm、例えば厚さ15~43nm、例えば厚さ20~33nm、例えば厚さ25~30nmである;及び/又は
(iib)前記金属層が、銀層、金層又は銀及び金層を含み、任意選択で、前記銀層、金層又は銀及び金層が、厚さ5~48nm、厚さ10~38nm、厚さ15~28nm、厚さ20~25nmである;及び/又は
(iiib)前記金属ナノ粒子コーティング中のナノ粒子間のギャップを介して、前記金属層と前記基材層との間が直接付着している;及び/又は
(ivb)前記第1の超疎水性層が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC
10~C
20チオールを含み、任意選択で、前記第1の超疎水性層が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群の1種以上を含む;及び/又は
(vb)前記第2の超疎水性層が、非置換であるか1つ以上のフルオロ基によって置換されたC
10~C
20チオールを含み、任意選択で、前記第2の超疎水性層が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群の1種以上を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項11】
前記第1のセットの金属ナノ粒子がナノキューブであり、前記第2のセットの金属ナノ粒子が6つを超える面を有するナノ多面体であって、7~30個の面を有する1種以上のナノ多面体から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項12】
前記第2のセットの金属ナノ粒子が、ナノ八面体である、請求項11に記載の複合超疎水性材料。
【請求項13】
前記第1及び第2のセットのナノ粒子が、銀ナノ粒子である、請求項1~12のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【請求項14】
以下の部材を含むキット:
(ai)請求項1~13のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料;及び
(bi)チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤:ここで、
前記ナノ粒子は、前記複合超疎水性材料に使用されるのと同じ金属から形成され、及び/又は、前記ボロン酸は4-メルカプトフェニルボロン酸である。
【請求項15】
自然流産のリスク増加を予測する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)対象から得られた尿試料の非塩成分を含む水溶液を提供すること;
(b)前記水溶液を、チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤と、第1の期間反応させて、複合体化試料を提供すること(任意選択で、前記ナノ粒子は複合超疎水性材料に使用されるのと同じ金属から形成され、及び/又は前記ボロン酸は4-メルカプトフェニルボロン酸である);
(c)請求項1~13のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料上に前記複合体化試料を置き、蒸発によって水を除去して、乾燥試料を提供すること;及び
(d)前記乾燥試料をラマン分光法に供して、プレグナン及びテトラヒドロコルチゾンの存在量を決定し、次の式に基づいて自然流産のリスクを予測すること:
【数1】
ここで、閾値よりも低い値は自然流産のリスクの増加を示し、任意選択で、前記第1の期間は、3~48時間、例えば3時間である。
【請求項16】
前記工程(a)で提供される水溶液が、以下の工程によって得られる、請求項15に記載の方法:
(i)対象から得られた塩及び非塩成分を含む尿試料を逆相カラムに添加して、ロードされたカラムを提供すること;
(ii)水で溶出することによって前記ロードされたカラムから塩成分を除去し、次いで、C
1-4アルコール(例えば、メタノール)で溶出することによって前記ロードされたカラムから非塩成分を除去して分離し、次いで、C
1-4アルコールを除去すること;及び
(iii)前記分離された非塩成分に水溶液を添加して、前記工程(a)の水溶液を提供すること。
【請求項17】
前記ラマン分光法が、532nmのレーザー励起波長を使用して行われ、0.01~1mWのレーザー出力と、1~60秒の取得時間とを使用して行われ、任意選択で、前記レーザー出力は0.2mWであり、前記取得時間は1秒である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
以下の(ia)及び(ib)を含む、表面増強ラマン散乱に使用に適した複合超疎水性材料の製造方法:
(ia)以下を含む金属被覆複合材料を提供すること:
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む
単層の金属ナノ粒子コーティングであって、
前記基材上に単層として配置された第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子
の混合物を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有する、金属ナノ粒子コーティング;及び
前記
単層の金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;並びに、
(ib)前記金属被覆複合材料を、超疎水性材料を含む溶液に浸漬して、前記金属層の上に超疎水性層を形成し、それによって複合超疎水性材料を形成すること:ここで、
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記基材層及び前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的であ
り、前記第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子が前記基材層に静電的に結合している。
【請求項19】
前記金属被覆複合材料が以下の(A)及び(B)によって形成される、請求項18に記載の方法:
(A)正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層と、
前記基材層上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子コーティングであって、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、金属ナノ粒子コーティングを含む、
金属ナノ粒子被覆基材を提供すること;並びに
(B)前記金属ナノ粒子被覆基材の上に金属層を堆積させること(ここで、任意選択で、前記堆積は金属の熱蒸発による薄膜堆積である)。
【請求項20】
(id)前記金属被覆複合材料が、前記金属ナノ粒子コーティングと前記金属層との間に挟まれた、さらなる超疎水性層を含む;及び/又は
(iid)前記金属層が、厚さが5~53nm、例えば厚さ15~43nm、例えば厚さ20~33nm、例えば厚さ25~30nmである;及び/又は
(iid)前記金属層が、銀層、金層又は銀及び金層を含み、任意選択で、前記銀層、金層又は銀及び金層が、厚さ5~48nm、例えば厚さ10~38nm、例えば厚さ15~28nm、例えば厚さ20~25nmである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記金属ナノ粒子被覆基材が、正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材を、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子を含む溶液と接触させることによって形成され、
前記金属ナノ粒子が、第1及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
(ie)前記第1のセットのナノ粒子が、10~250nm、例えば20~100nm、例えば30~50nm、例えば130~240nm、例えば135~230nmの平均直径を有する;及び/又は
(iie)前記第2のセットのナノ粒子が、250~1,000nm、例えば300~600nm、例えば311~540nmの平均直径を有する;及び/又は
(iiie)前記第1のセットの金属ナノ粒子が、前記第2のセットの直径より0.2~60%、例えば、0.5~57%、例えば1~55%、例えば10~50%、例えば25~45%小さい直径を有する、前記第2のセットの直径より、例えば61~89%小さい直径を有する、前記第2のセットの直径より例えば75~85%、例えば79~83%小さい直径を有する;及び/又は
(ive)前記複合
超疎水性材料が、30nm~150nm、例えば40~140nm、例えば50nm~125nm、例えば110~125nmの二乗平均平方根表面粗さを有する;及び/又は
(ve)前記複合材料上の第2のセットのナノ粒子の粒子の総数と、第1のセットのナノ粒子の粒子の総数の比が、1:10~10:1、例えば1:5~5:1、例えば2:1~4:1である、請求項19~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記基材層上の荷電した官能基のセットが正に荷電しており、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が負に荷電している、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記基材層上の正に荷電した官能基のセットがアンモニウムイオンであり、及び/又は、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の負に荷電した官能基のセットがカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記基材層上の荷電した官能基のセットが負に荷電しており、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が正に荷電している、請求項18~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記基材層上の負に荷電した官能基のセットがカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、及び/又は、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の正に荷電した官能基のセットがアンモニウムイオンである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項18の工程(ib)において使用される超疎水性材料が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC
10~C
20チオールであり、任意選択で、前記超疎水性材料が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群より選ばれる1種以上である、及び/又は、
前記さらなる超疎水性層を形成するために使用される超疎水性材料が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC
10~C
20チオールであり、任意選択で、超疎水性材料が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群より選ばれる1種以上である、請求項18~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のセットの金属ナノ粒子がナノキューブであり、前記第2のセットの金属ナノ粒子が6つを超える面を有するナノ多面体であって、7~30面を有する1種以上のナノ多面体から選択される、請求項18~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第2のセットの金属ナノ粒子が、ナノ八面体である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記第1及び第2のセットのナノ粒子が、銀ナノ粒子である、請求項18~29のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強ラマン散乱(SERS)での使用に適した複合超疎水性材料、前記材料の製造方法、及びSERSによる自然流産の危険性の増大を予測するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書における先行公開文献の一覧又は考察は、必ずしも当該文献が技術水準の一部であること又は技術常識であることを認めたものとみなすべきではない。
【0003】
自然流産は、切迫流産全体の約25%を占める。切迫流産は、腟出血を伴う進行中の妊娠と定義され、腹痛を伴うことがある。自然流産の発生率が高いにもかかわらず、現在の出生前ケアでは自然流産の可能性が高い妊婦を正確に特定することはできない。
【0004】
加えて、自然流産の現在の管理もまた、過度に医薬化されているかもしれない。例えば、流産のリスクを低下させるために、患者はジドロゲステロンのようなプロゲステロンアナログをルーチンに処方されるが、ジドロゲステロンが切迫流産の症状を呈する患者における流産のリスクを予防又は低下させることができるという決定的な証拠はない。さらに、これらの患者のほとんど(約75%)は、最終的にはジドロゲステロンの処方の有無にかかわらず、健康な出産に進む。したがって、現行のプロトコールでは、切迫流産の症状を呈しているにもかかわらず、自然流産を受けない可能性のある患者に不必要なストレスや医療費をかけているようである。
【0005】
最近、液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)によって、6つの尿代謝物が、自然流産と関連することが同定された(PCT公開番号WO 2018/199849を参照のこと)。典型的には、自然流産を患う妊婦は、出産が成功した女性と比較して、テトラヒドロコルチゾン及びヘキサノイルカルニチンのレベルが高く、5β-プレグナン-3α、20α-ジオールグルクロニド、プロピオニルカルニチン、イソバリルシカルニチン及び3-メチルグルタリルカルニチンのレベルが低い。
【0006】
しかし、標的尿代謝物を同定するためのLC/MSの使用は、非実用的であり得、そして臨床設定において広く適用され得ない。第1に、計装は費用がかかり(>S$500,000)、計装を収容するために大きな面積(>1m2)を必要とする。さらに、試料の準備及び試験結果の解読を含む、サンプリングプロセス全体を実行することは、訓練された人員を必要とする。全サンプリングプロセスは完了するのに少なくとも数時間を必要とし、したがって、病院環境において高い患者体積を取り扱うことができない。上記の限界を考慮すると、流産の症状を呈する患者群から自然流産に罹患するリスクのある患者を容易かつ迅速に鑑別できる利用可能な検査キットは、現時点では存在しないようである。
【0007】
これを踏まえると、自然流産のリスクが高い妊婦を同定するために、重要な尿代謝物の迅速かつ高感度な検出を可能にする新たなロバストなセンシングプラットフォーム又は検出キットが依然として必要である。これにより、高リスク患者を早期かつ迅速に特定でき、必要な治療を迅速に行えるようになる。より重要なことに、これらの方法又はキットは正確であり、費用効果があり、実施が容易でなければならない。
【0008】
表面増強ラマン散乱(SERS)は、プラズモン金属ナノ粒子の表面上又は表面付近に吸着された分子のラマン散乱を増強する技術である。典型的には、分子のラマンシグナルがSERS基材上の関連する「ホットスポット」での電磁増強のために、数桁増強することができる。SERS現象に加えて、超疎水性SERSプラットフォームはまた、水溶液のランダムな拡散を減少させることによって検出感度をさらに増強するための理想的なプラットフォームとして機能し得る(Phys.Chem.Phys.,2014,16,26983-26990; Anal.Chem.,2014,86,10437-10444)。超疎水性表面は濡れにくい、又は150°を超える水滴の静止接触角を有し、ロールオフ角が10°未満である表面として定義することができる。
【発明の概要】
【0009】
本発明の態様及び実施形態は、以下の番号付けされた節によって提供される。
【0010】
<1>
表面増強ラマン散乱に使用するのに適した複合超疎水性材料であって:
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む、金属ナノ粒子コーティング;
前記金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;及び
前記金属層の上の第1の超疎水性層を含み:
前記金属ナノ粒子コーティングは、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は、第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有し;
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;かつ
前記基材層及び前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的である、複合超疎水性材料。
【0011】
<2>
前記基材層の表面の前記金属ナノ粒子コーティングの密度が、2~20粒子/μm2、例えば2.5~10粒子/μm2、例えば、3~5μm2、例えば4.4粒子/μm2である、<1>に記載の複合超疎水性材料。
【0012】
<3>
前記複合材料が、前記金属ナノ粒子コーティングと前記金属層との間に挟まれた第2の超疎水性層をさらに含む、<1>又は<2>に記載の複合超疎水性材料。
【0013】
<4>
水との静的接触角が、150°を超える、例えば151°~170°、例えば155°~165°を示す、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0014】
<5>
前記第1のセットのナノ粒子が、10~250nm、例えば20~100nm、例えば30~50nm、例えば130~240nm、例えば135~230nmの平均直径を有する、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0015】
<6>
前記第2のセットのナノ粒子が、250~1,000nm、例えば300~600nm、例えば311~540nmの平均直径を有する、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0016】
<7>
前記第1のセットの金属ナノ粒子が、前記第2のセットの直径よりも0.2~60%小さい、例えば、第2のセットの直径よりも0.5~57%、例えば1~55%、例えば10~50%、例えば25~45%小さい、例えば、前記第2のセットの直径よりも61~89%小さい、例えば、前記第2のセットの直径よりも75~85%、例えば79~83%小さい、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0017】
<8>
30~150nm、例えば40~140nm、例えば50~125nm、例えば110~125nmの二乗平均平方根表面粗さを有する、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0018】
<9>
前記複合材料の前記第2のセットのナノ粒子中の粒子の総数と前記第1のセットのナノ粒子中の粒子の総数の比が、1:10~10:1、例えば1:5~5:1、例えば2:1~4:1である、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0019】
<10>
前記基材層が、ポリ(ジメチルシロキサン)、ガラス及びシリコンからなる群の1種以上から形成される、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0020】
<11>
前記基材層上の荷電した官能基のセットが正に荷電し、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が負に荷電している、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0021】
<12>
前記基材層上の正に荷電した官能基のセットがアンモニウムイオンであり、任意選択で、前記基材層上にある正に荷電した官能基のセットが、1又は2つのアミノ基を含むシラン化合物、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシランから誘導される、<11>に記載の複合超疎水性材料。
【0022】
<13>
前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子の負に荷電した官能基のセットが、カルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、任意選択で、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子の負に荷電した官能基のセットが、1つ以上のカルボン酸基を含むアルキルチオール又は1つ以上の水酸基を含むアルキルチオール、例えば11-メルカプトウンデカン酸から誘導される、<11>又は<12>に記載の複合超疎水性材料。
【0023】
<14>
前記基材層上の荷電した官能基のセットが負に荷電し、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が正に荷電している、<1>~<10>のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0024】
<15>
前記基材層上の負に荷電した官能基のセットが、カルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、任意選択で、前記基材層上の負に荷電した官能基のセットが、1つ又は複数のカルボン酸基を含むシラン化合物又は1つ又は複数の水酸基を含むシラン化合物から誘導される、<14>に記載の複合超疎水性材料。
【0025】
<16>
前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子の正に荷電した官能基のセットが、アンモニウムイオンであり、任意選択で、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子の正に荷電した官能基のセットが、1つ以上のアミノ基を含むアルキルチオール化合物から誘導される、<14>又は<15>に記載の複合超疎水性材料。
【0026】
<17>
前記金属層が、厚さ5~53nm、例えば厚さ15~43nm、例えば厚さ20~33nm、例えば厚さ25~30nmである、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0027】
<18>
前記金属層が、銀層、金層又は銀及び金層を含み、任意選択で、前記銀層、金層又は銀及び金層が、厚さ5~48nm、厚さ10~38nm、厚さ15~28nm、厚さ20~25nmである、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0028】
<19>
前記金属層が、さらにクロム層を含み、任意選択で、前記クロム層が厚さ2~5nmである、<18>に記載の複合超疎水性材料。
【0029】
<20>
前記クロム層が前記金属ナノ粒子コーティングの上にあり、前記金属層が前記クロム層の上にある、<18>又は<19>に記載の複合超疎水性材料。
【0030】
<21>
前記金属ナノ粒子コーティング中のナノ粒子間のギャップを介して、前記金属層と前記基材層との間が直接付着している、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0031】
<22>
前記第1の超疎水性層が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC10~C20チオールを含み、任意選択で、前記第1の超疎水性層が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群の1つ以上を含む、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0032】
<23>
前記第2の超疎水性層が、非置換であるか1つ以上のフルオロ基によって置換されたC10~C20チオールを含み、任意選択で、前記第2の超疎水性層が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群の1種以上を含む、<3>~<22>のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0033】
<24>
前記第1のセットの金属ナノ粒子がナノキューブであり、前記第2のセットの金属ナノ粒子が6つを超える面を有するナノ多面体であって、7~30の面を有する1種以上のナノ多面体から選択される、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0034】
<25>
前記第2のセットの金属ナノ粒子が、ナノ八面体である、<24>に記載の複合超疎水性材料。
【0035】
<26>
前記第1及び第2のセットのナノ粒子が、銀ナノ粒子である、前項のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料。
【0036】
<27>
以下の部材を含むキット:
(ai)<1>~<26>のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料;及び
(bi)チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤:ここで、
前記ナノ粒子は、前記複合超疎水性材料に使用されるのと同じ金属から形成され;及び/又は、前記ボロン酸は4-メルカプトフェニルボロン酸である。
【0037】
<28>
自然流産のリスク増加を予測する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)対象から得られた尿試料の非塩成分を含む水溶液を提供すること;
(b)前記水溶液を、チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤と、第1の期間反応させて、複合体化試料を提供すること(任意選択で、前記ナノ粒子は複合超疎水性材料に使用されるのと同じ金属から形成される、及び/又は、前記ボロン酸は4-メルカプトフェニルボロン酸である);
(c)<1>~<26>のいずれか一項に記載の複合超疎水性材料上に前記複合体化試料を置き、蒸発によって水を除去して、乾燥試料を提供すること;及び
(d)前記乾燥試料をラマン分光法に供して、プレグナン及びテトラヒドロコルチゾンの存在量を決定し、次の式に基づいて自然流産のリスクを予測すること:
【数1】
ここで、閾値よりも低い値は自然流産のリスクの増加を示し、任意選択で、前記第1の期間は、3~48時間、例えば3時間である。
【0038】
<29>
前記反応がpH10~12のpH値、例えば11で行われる、<28>に記載の方法。
【0039】
<30>
前記工程(c)を実行する前に、前記工程(b)の反応生成物を第2の期間で遠心分離し、上清を除去し、pH10~12、例えば11の液体で置換し、
前記の遠心分離、上清の除去及び液体の置換は、さらに1~4回、例えばさらに2回繰り返される、<29>に記載の方法。
【0040】
<31>
前記方法の工程(a)で提供される水溶液が、以下の工程で得られる、<28>~<30>のいずれか一項に記載の方法:
(i)対象から得られた塩及び非塩成分を含む尿試料を逆相カラムに添加して、ロードされたカラムを提供すること;
(ii)水で溶出することによって前記ロードされたカラムから塩成分を除去し、次いで、C1-4アルコール(例えば、メタノール)で溶出することによって前記ロードされたカラムから非塩成分を除去して分離し、次いで、C1-4アルコールを除去すること;及び
(iii)前記分離された非塩成分に水溶液を添加して、工程(a)の水溶液を提供すること(ここで、任意選択で、該水溶液は、pH値が10~12、例えば11である)。
【0041】
<32>
前記ラマン分光法が、532nmのレーザー励起波長を使用して行われ、0.01~1mWのレーザー出力と、1~60秒の取得時間とを使用して行われ、任意選択で、前記レーザー出力は0.2mWであり、前記取得時間は1秒である、<28>~<31>のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
<33>
以下の(ia)及び(ib)を含む、表面増強ラマン散乱に使用に適した複合超疎水性材料の製造方法:
(ia)以下を含む金属被覆複合材料を提供すること:
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子コーティングであって、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有する、金属ナノ粒子コーティング;及び
前記金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;並びに、
(ib)前記金属被覆複合材料を、超疎水性材料を含む溶液に浸漬して、前記金属層の上に超疎水性層を形成し、それによって複合超疎水性材料を形成すること:ここで、
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記基材層及び金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的である。
【0043】
<34>
前記金属被覆複合材料が以下の(A)及び(B)によって形成される、<33>に記載の方法:
(A)正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層と、
前記基材層上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子コーティングであって、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、金属ナノ粒子コーティングを含む、
金属ナノ粒子被覆基材を提供すること;並びに
(B)前記金属ナノ粒子被覆基材の上に金属層を堆積させること(ここで、任意選択で、前記堆積は金属の熱蒸発による薄膜堆積である)。
【0044】
<35>
前記金属被覆複合材料が、前記金属ナノ粒子コーティングと前記金属層との間に挟まれた、さらなる超疎水性層を含む、<34>に記載の方法。
【0045】
<36>
前記さらなる超疎水性層が、前記金属ナノ粒子被覆基材を、超疎水性材料を含む溶液に浸漬して、前記金属ナノ粒子の層の上に超疎水性層を形成することによって形成され、
前記金属ナノ粒子被覆基材が、正又はは負に荷電した官能基のセットを含む基材層と、負又は正に荷電した官能基を含む基材層のセットの上の金属ナノ粒子コーティングとを含み、
前記金属ナノ粒子コーティングが、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、<35>に記載の方法。
【0046】
<37>
前記金属層が、厚さが5~53nm、例えば厚さ15~43nm、例えば厚さ20~33nm、例えば厚さ25~30nmである、<33>~<36>のいずれか一項に記載の方法。
【0047】
<38>
前記金属層が、銀層、金層又は銀及び金層を含み、任意選択で、前記銀層、金層又は銀及び金層が、厚さ5~48nm、例えば厚さ10~38nm、例えば厚さ15~28nm、例えば厚さ20~25nmである、<33>~<37>のいずれか一項に記載の方法。
【0048】
<39>
前記金属層が、クロム層をさらに含み、任意選択で、該クロム層が、厚さ2~5nmである、<38>に記載の方法。
【0049】
<40>
前記クロム層が、前記金属ナノ粒子層の上にあり、前記銀層、金層又は銀及び金層が、前記クロム層の上にある、<38>又は<39>に記載の方法。
【0050】
<41>
前記金属ナノ粒子被覆基材が、正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材を、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子を含む溶液と接触させることによって形成され、
前記金属ナノ粒子が、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、<33>~<40>のいずれか一項に記載の方法。
【0051】
<42>
前記第1のセットのナノ粒子が、10~250nm、例えば20~100nm、例えば30~50nm、例えば130~240nm、例えば135~230nmの平均直径を有する、<33>~<41>のいずれか一項に記載の方法。
【0052】
<43>
前記第2のセットのナノ粒子が、250~1,000nm、例えば300~600nm、例えば311~540nmの平均直径を有する、<33>~<42>のいずれか一項に記載の方法。
【0053】
<44>
前記第1のセットの金属ナノ粒子が、前記第2のセットの直径より0.2~60%、例えば、0.5~57%、例えば1~55%、例えば10~50%、例えば25~45%小さい直径を有する、前記第2のセットの直径より、例えば61~89%小さい直径を有する、前記第2のセットの直径より、例えば75~85%、例えば79~83%小さい直径を有する、<33>~<43>のいずれか一項に記載の方法。
【0054】
<45>
前記複合物が、30nm~150nm、例えば40~140nm、例えば50nm~125nm、例えば110~125nmの二乗平均平方根表面粗さを有する、<33>~<44>のいずれか一項に記載の方法。
【0055】
<46>
前記複合材料上の第2のセットのナノ粒子の粒子の総数と、第1のセットのナノ粒子の粒子の総数の比が、1:10~10:1、例えば1:5~5:1、例えば2:1~4:1である、<33>~<45>のいずれか一項に記載の方法。
【0056】
<47>
前記基材が、ポリ(ジメチルシロキサン)、ガラス及びシリコンからなる群の1種以上である、<33>~<46>のいずれかに一項に記載の方法。
【0057】
<48>
前記基材層上の荷電した官能基のセットが正に荷電し、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が負に荷電している、<33>~<47>のいずれか一項に記載の方法。
【0058】
<49>
前記基材層上の正に荷電した官能基のセットが、アンモニウムイオンであり、任意選択で、前記基材層の正に帯電した官能基のセットが、1又は2個のアミノ基を含むシラン化合物、例えば3-アミノプロピルトリエトキシシランから誘導される、<48>に記載の方法。
【0059】
<50>
前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の負に荷電した官能基のセットが、カルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、任意選択で、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の負に荷電した官能基のセットが、1つ以上のカルボン酸基を含有するアルキルチオール又は1つ以上の水酸基を含有するアルキルチオール、例えば11-メルカプトウンデカン酸から誘導される、<48>又は<49>に記載の方法。
【0060】
<51>
前記基材層上の荷電した官能基のセットが負に荷電しており、前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が正に荷電している、<33>~<47>のいずれか一項に記載の方法。
【0061】
<52>
前記基材層上の負に荷電した官能基のセットが、カルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり、任意選択で、前記基材層上の負に荷電した官能基のセットが、1つ以上のカルボン酸基を含むシラン化合物又は1つ以上の水酸基を含むシラン化合物から誘導される、<51>に記載の方法。
【0062】
<53>
前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の正に荷電した官能基のセットが、アンモニウムイオンであり、任意選択で、前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の正に荷電した官能基のセットが、1つ以上のアミノ基を含むアルキルチオール化合物から誘導される、<51>又は<52>に記載の方法。
【0063】
<54>
<33>の工程(ib)において使用される超疎水性材料が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC10~C20チオールであり、任意選択で、前記超疎水性材料が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群から選択される1種以上である、<33>~<53>のいずれか一項に記載の方法。
【0064】
<55>
前記のさらなる超疎水性層を形成するために使用される超疎水性材料が、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC10~C20チオールであり、任意選択で、超疎水性材料が、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群のうちの1種以上から選択される、<35>~<54>のいずれか一項に記載の方法。
【0065】
<56>
前記第1のセットの金属ナノ粒子がナノキューブであり、前記第2のセットの金属ナノ粒子が6つを超える面を有するナノ多面体であって、7~30面を有する1種以上のナノ多面体から選択される、<33>~<55>のいずれか一項に記載の方法。
【0066】
<57>
前記第2のセットの金属ナノ粒子が、ナノ八面体である、<56>に記載の方法。
【0067】
<58>
前記第1及び第2のセットのナノ粒子が、銀ナノ粒子である、<33>~<57>のいずれか一項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】
図1は、(a、c)SEM像;(b、d)吸収スペクトル;及び(e、f)本発明の実施形態において使用されるAgNC及びAgNOのサイズ分布を示す。
【
図2】
図2は、それぞれ、(a、b)AgNO;及び(c、d)水及びエタノール中のAgNCのSEM像を示す。
【
図3】
図3は、(a)シリコン基材の表面官能基化の概略図、及び(b)処理された又は官能基化された基材40、60及び80の静的接触角を示す。
【
図4】
図4は、(a)超疎水性基材107の初期バッチ、及び(b)超疎水性基材109の最適化されたバッチの製造の概略図を示す。
【
図5】
図5は、(a~f)20~120分のAgナノ粒子混合物中での基材80のインキュベーション時間を使用して調製された超疎水性基材107のSEM像及び静的接触角を示す。
【
図6】
図6は、PFDT溶液に15~45時間浸漬した後の超疎水性基材107のSERSスペクトルを示す。
【
図7】
図7は(a~c)AgNC、AgNO、及びAgNCとAgNOの両方をそれぞれ含む基材のAFM像、(d、e)AgNCのみを含む基材のSEM像及び静的接触角、(f、g)AgNOのみを含む基材のSEM像及び静的接触角、を示す。
【
図8】
図8は、親水性基材と比較した超疎水性基材の液体濃縮効果を示す:(a、b)それぞれ親水性及び超疎水性基材107の静的接触角;(c)親水性基材上の乾燥試料のスポット領域の光学画像;(d)基材107上の乾燥試料のSEM像;(e、f)親水性及び超疎水性基材109それぞれの静的接触角;(g)親水性基材上の乾燥試料のスポット領域の光学画像;(h)基材109上の乾燥試料のSEM像。
【
図9】
図9は、(a)静的接触角、及び(b)超疎水性基材109の粒子密度に対するAgNC対AgNOの粒子比の効果を示す。
【
図10】
図10は、(a)静的接触角、及び(b)超疎水性基材109の粒子密度に対する、Agナノ粒子混合物(AgNC及びAgNO)における基材80のインキュベーション時間の効果を示す。
【
図11】
図11は、(a)超疎水性基材109の静的接触角に対する、AgNC又はAgNO単独、並びにAgNC及びAgNOの二成分集合体を有することの効果;及び(b)それぞれの基材のAFM像を示す。
【
図12】
図12は、(a)超疎水性シリカビーズアレイ;(b)超疎水性基材109;及び(c)AgNC/4-MPBAを有する超疎水性基材109の、メチレンブルーのSERSスペクトル及び対応する分析増強因子(analytical enhancement factor;AEF)を示す。
【
図13】
図13は、尿代謝物及び毒素を検出するための超疎水性基材107の初期バッチの使用を示す:(a、b)種々の濃度での5β-プレグナン-3α,20α-ジオールグルクロニド(プレグナン)のSERSスペクトル、及び濃度の関数としてのシグナル強度の較正曲線をそれぞれ示す;(c、d)種々の濃度でのp-アルサニル酸及びロキサルソンのSERSスペクトルをそれぞれ示す。
【
図14】
図14は、(a)AgNC表面135上に固定された4-MPBA(130)上へのTHC(120)及びプレグナン(125)の結合の概略図;(b)4-MPBAのSERSスペクトル及び、AgNC/4-MPBAを有する超疎水性基材109を用いてTHC及びプレグナンとそれぞれインキュベートした後の4-MPBAのSERSスペクトル;(c)領域(i)における実験的及びシミュレートされたSERSスペクトル;並びに(d)THC(120)及びプレグナン(125)に結合した際の4-MPBAのスペクトルの領域(ii)。
【
図15】
図15は、(a、b)超疎水性基材109上の10
-4~10
-9Mの異なる濃度で、それぞれプレグナン及びTHCとインキュベートした後のAgNC/4-MPBAのSERSスペクトル;(c)AgNC/4-MPBAに関連するそれぞれのSERSスペクトル、及びそれぞれプレグナン及びTHCとインキュベートした後のSERSスペクトルのPCAクラスタリング;(d、e)10
-4~10
-9Mのプレグナン及びTHCのそれぞれのPLS濃度予測モデル;並びに(f)異なるプレグナン百分率でのプレグナン及びTHCの混合物のPLSモデルを示す。
【
図16】
図16は(a)人工又は実際の尿試料のZIPTIP前処理の概略図;(b)処理された試料238をAgNC/4-MPBAで処理し、続いて超疎水性基材109上でSERSを検出し、ケモメトリック分析240を行う概略図である。
【
図17】
図17は、(a)人工尿中の様々な濃度のプレグナンを用いて調製されたPLS予測モデル;(b)安定妊娠をシミュレートする人工尿試料(プレグナン98.7%)及び流産をシミュレートする尿試料(プレグナン97.4%)から得られたSERSスペクトルのPCAクラスタリング;(c)様々な濃度のプレグナンを有する人工尿試料とインキュベートした後の、AgNC/4-MPBAに関するSERSスペクトル;(d)98.7%プレグナン(安定妊娠をシミュレートするため)及び97.4%プレグナン(流産のリスクをシミュレートするため)をスパイクした人工尿試料とインキュベートした後のそれぞれAgNC/4-MPBAに関連するSERSスペクトル;及び(e)模擬安定妊娠及び模擬流産を表す2点(星印)でフィットさせた、人工尿中の様々な濃度のプレグナンを用いて確立されたPLSモデルを示す。
【
図18】
図18は、(a)妊娠していない女性の実際の尿試料中の様々な濃度のプレグナンを使用して作成されたPLS予測モデルを示す。予測プロットは、出産が成功した個体(S1-S3)及び流産した個体(M1-M3)に対応する点(星印)でフィットされた;(b)異なる濃度のプレグナンをスパイクした非妊婦の実際の尿試料のSERSスペクトル;(c)出産が成功した女性(S1-S3)及び流産した個体(M1-M3)に対応する妊婦からの実際の尿試料のSERSスペクトル;並びに(d)出産が成功した妊婦(S1)及び流産した妊婦(M1)からの実際の試料から得られたSERSスペクトルのPCAクラスタリング、を表す。
【
図19】
図19は、(a、b)それぞれAgNSのSEM像及び粒度分布、(c)SEM像及び静的接触角、及び(d)AgNS及びAgNOの二成分集合体を含む超疎水性基材の粒子密度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
上述したように、本発明は、表面増強ラマン散乱に使用するのに適した複合超疎水性材料に関し、当該材料は
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む、金属ナノ粒子コーティング;
前記金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;及び
前記金属層の上の第1の超疎水性層を含み:
前記金属ナノ粒子コーティングは、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は、第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有し;
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記基材層及び前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的である。
【0070】
本明細書中で使用される場合、用語「超疎水性」は高度に疎水性である1つ以上の表面を有し、これらの表面を湿潤させることを極めて困難にする材料をいう。例えば、本明細書で言及される超疎水性材料は、150°を超える水との静的接触角を示す1つ以上の表面を有する材料であり得る。本明細書で言及することができる水との適切な静的接触角の例には151°~170°、例えば155°~165°の接触角が含まれるが、これらに限定されない。静的接触角測定手法の詳細は、以下の実施例の節に記載されている。
【0071】
誤解を避けるために、本出願において数値が提示される場合、エンドポイントの任意の適切な組み合わせが本明細書において明示的に企図される。例えば、以下の接触角範囲が考えられる:150°超、150°超151°以下、150°超155°以下、150°超165°以下、150°超170°以下;151°~155°、151°~165°、151°~170°、155°~165°、155°~170°。
【0072】
表面増強ラマン散乱(SERS)は、粗い金属表面上に吸着された分子によって、又は表面上のナノ構造によってラマン散乱を増強する表面感応技術である。したがって、本明細書で論じられる結果として得られる複合材料は、SERS分析を可能にする適切に粗い表面を有することができる。例えば、複合材料は、30~150nm、例えば40~140nm、例えば50~125nm、例えば110~125nmの二乗平均平方根粗さを有することができる。
【0073】
本明細書で使用される場合、用語「基材」は、正又は負の官能基での官能基化に適した任意の適切な基材を指す。適切な基材の例としてはセレン、ポリ(ジメチルシロキサン)、シリコン、ガラス、プラスチックなどが挙げられるが、これらに限定されない。前記基材は、チップ又はウェーハなどの任意の適切な平面形態で提供されてもよい。このような基材をどのように官能基化して荷電表面を提示することができるかの詳細は、以下に提供される。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「正に荷電した官能基」は、適切な条件下で正の電荷を有する官能基をいう。適切な官能基の例としては、アミノ官能基(例えば、アンモニウム基の形態)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本明細書中で使用される場合、用語「負に荷電した官能基」は、適切な条件下で負の電荷を有する官能基をいう。適切な官能基の例としてはカルボン酸及びアルコール官能基(例えば、カルボキシレート基及びアルコキシドの形態)、スルホン酸、核酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
用語「金属ナノ粒子」は、本明細書では金ナノ粒子、銀ナノ粒子、金と銀の合金、及びそれらの任意の適切な組合せを指すものとする。
【0077】
上記のように、基材層の上の金属ナノ粒子コーティングは、基材層の電荷と反対の電荷を有する。例えば、基材が正に荷電している場合、金属ナノ粒子コーティングは負に荷電している金属ナノ粒子を含み、その逆も同様である。これにより、基材と金属ナノ粒子との間に静電引力が形成され、コーティング層の形成が可能となる。
【0078】
金属ナノ粒子コーティング層は、基材の表面上に堆積された2つの異なるサイズの金属ナノ粒子のセットによって形成される。示されるように、金属ナノ粒子の第1のセットは、第2のセットの直径よりも0.1~90%小さい直径を有する。例えば、金属ナノ粒子の第1のセットは、第2のセットの直径よりも0.2~60%、例えば0.5~57%、例えば1~55%、例えば10~50%、例えば25~45%小さい直径を有することができる。代替の実施形態では、金属ナノ粒子の第1のセットが第2のセットの直径よりも61~89%、例えば75~85%、例えば第2のセットの直径よりも79~83%小さい直径を有することができる。誤解を避けるために、上記の全ての数値を組み合わせて適切な範囲を提供することが特に意図される。例えば、上記の値はまた、0.2~89%、0.5~89%、及び0.5~83%などの範囲を開示する。
【0079】
本明細書で言及され得る特定の実施形態では、ナノ粒子の第1のセットが10~250nm、例えば20~100nm、例えば30~50nm、又は130~240nm、例えば135~230nmの平均直径を有してもよく、及び/又はナノ粒子の第2のセットは250~1,000nm、例えば300~600nm、例えば311~540nmの平均直径を有してもよい。理解されるように、これらの範囲は、任意の適切な方法で組み合わせることができる。例えば、第1のセットのナノ粒子が130~250nmの平均直径を有する場合、第2のセットのナノ粒子は、250~300nm、250~311nm、250~540nm、250~600nm、及び250~1,000nmの範囲から選択される直径を有する可能性がある。第1のセットのナノ粒子が250nmの直径を有する状況では、第2のセットのナノ粒子の下限は、それに応じて、少なくとも0.1%大きくなるように(すなわち、直径が少なくとも約250.25nmになるように)調整される。
【0080】
ナノ粒子の第1及び第2のセットの任意の適切な比率を使用することができる。例えば、本明細書で言及することができる本発明の実施形態では、複合材料の第2のセットのナノ粒子中の粒子の総数と第1のセットのナノ粒子中の粒子の総数の比は、1:10~10:1、例えば、1:5~5:1、例えば、2:1~4:1であってよい。
【0081】
第1及び第2のセットの金属ナノ粒子は、任意の適切な形状を有し得る。例えば、第1及び第2のセットの金属ナノ粒子は、回転楕円体形状又は多面体形状を有することができる。適切な多面体形状の例には、立方体、及び6つを超える面を有する多面体(例えば7~30個の面を有する多面体)が含まれる。第1及び第2のセットの金属ナノ粒子は、同一の形状(したがって、サイズのみによって区別される)を有しても、又は異なる形状(したがって、サイズ及び形状の両方によって区別される)を有してもよい。本明細書で言及され得る特定の実施形態では、第1のセットの金属ナノ粒子はナノキューブであり得、第2のセットの金属ナノ粒子は7~30の面を有する1つ又は複数のナノ多面体から選択することができる6つを超える面を有するナノ多面体であり得る(例えば、第2のセットの金属ナノ粒子はナノ八面体とすることができる)。
【0082】
金属ナノ粒子層は、金属ナノ粒子の表面上の荷電官能基のそれぞれのセットと基材との間の電荷引力によって基材層の表面に静電的に結合される個々のナノ粒子から構成される。
【0083】
特定の実施形態では、基材層上の荷電官能基のセットは、正に荷電されてもよく、金属ナノ粒子コーティング上の荷電官能基は負に荷電されてもよい。基材層上の官能基が正に荷電している場合、それらはアンモニウムイオンであり得る。基材に結合し、アンモニウムイオンを提供することができる任意の適切なリガンドが、この目的のために使用され得る。例えば、基材層上の正に荷電した官能基のセットは、3-アミノプロピルトリエトキシシランのような、1個又は2個のアミノ基を含有するシラン化合物から誘導され得る。第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の官能基が負に荷電している場合、それらはカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり得る。金属に結合し、カルボキシレートイオン又は水酸化物イオンを提供することができる任意の適切なリガンドを、この目的のために使用することができる。例えば、第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の負に荷電した官能基のセットは、1つ以上のカルボン酸基を含むアルキルチオール又は1つ以上の水酸基を含むアルキルチオール、例えば11-メルカプトウンデカン酸から誘導され得る。
【0084】
特定の実施形態では、基材層上の荷電官能基のセットが負に荷電されてもよく、金属ナノ粒子コーティング上の荷電官能基は正に荷電されてもよい。基材層上の官能基が負に荷電している場合、それらはカルボキシレートイオン又はアルコキシドイオンであり得る。基材に結合し、カルボキシレート又はアルコキシドイオンを提供することができる任意の適切なリガンドを、この目的のために使用することができる。例えば、基材層上の負に荷電した官能基のセットは、1つ以上のカルボン酸基を含むシラン化合物又は1つ以上の水酸基を含むシラン化合物から誘導されてもよい。第1及び第2のセットの金属ナノ粒子上の官能基が正に荷電している場合、それらはアンモニウムイオンであり得る。金属に結合し、アンモニウムイオンを提供することができる任意の適切なリガンドを、この目的のために使用することができる。例えば、金属ナノ粒子の第1及び第2のセット上の正に荷電した官能基のセットは、1つ以上のアミノ基を含有するアルキルチオール化合物から誘導され得る。
【0085】
基材層の表面上の金属ナノ粒子コーティングは、2~20粒子/μm2、例えば2.5~10粒子/μm2、例えば3~5粒子/μm2、例えば4.4粒子/μm2の濃度を有し得る。理解されるように、上記の密度は、隣接する金属ナノ粒子間に存在するギャップをもたらす可能性があり、これは、金属ナノ粒子コーティング層の上に配置された層との相互作用のために、基材の表面の一部を露出させる可能性がある。例えば、金属ナノ粒子コーティング中のギャップは、金属ナノ粒子コーティングの上に配置された金属層を、当該ギャップを介して基材層に直接付着させることを可能にし、それによって、物理的制約を通して、並びに金属ナノ粒子上の正及び負に荷電した官能基と基材との間の静電相互作用を通して、基材の表面上の適所に金属ナノ粒子を固定することができる。
【0086】
金属層は、厚さ5~53nm、例えば厚さ15~43nm、例えば厚さ20~33nm、例えば厚さ25~30nmとすることができる。金属層は、銀層、金層、又は銀及び金層であってもよく、厚さ5~48nm、例えば厚さ10~38nm、例えば厚さ15~28nm、例えば厚さ20~25nmであってもよい。特定の実施形態では、金属層が2~5nmの厚さであり得るクロム層をさらに含み得る。存在する場合、クロム層は金属ナノ粒子コーティングの上に直接存在し得、金属層の残り(すなわち、銀、金又は銀及び金層)は、クロム層の上に存在する。
【0087】
第1の超疎水性層は、任意の適切な超疎水性材料又はそれらの組み合わせを使用することができる。適切な超疎水性材料の例としては、非置換であるか又は1つ以上のフルオロ基によって置換されたC10~C20チオールが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、第1の超疎水性層は、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、及び1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオールからなる群の1つ以上から形成されてもよい。
【0088】
本発明の特定の実施形態では、金属ナノ粒子コーティングと金属層との間に第2の超疎水性層が挟まれる。理論に束縛されることを望むものではないが、第2の疎水性層は金属ナノ粒子の露出表面上の荷電官能基を置き換え、それによって、よりクリーンなSERS基材バックグラウンドスペクトルを提供する。第2の超疎水性層は、第1の超疎水性層と同じ材料から形成することができる。
【0089】
本発明の実施形態では、金属ナノ粒子及び金属層は、銀、金、又はそれらの組み合わせ/合金から選択されてもよい。任意の適切な組み合わせが可能であるが、本明細書で言及される特定の実施形態では、金属ナノ粒子及び金属層は、銀から形成され得る(金属層は、任意選択で、クロムの層及び銀の層から形成される)。
【0090】
表面増強ラマン散乱での使用に適した複合超疎水性材料は、以下を含む方法によって製造することができる:
(ia)以下を含む金属被覆複合材料を提供すること:
正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層;
前記基材層の上にあり、負又は正に荷電した官能基のセットを含み、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含み、第1のセットの金属ナノ粒子は第2のセットの直径より0.1~90%小さい直径を有する、金属ナノ粒子コーティング;及び
前記金属ナノ粒子コーティングの上の金属層;並びに、
(ib)前記金属被覆複合材料を、超疎水性材料を含む溶液に浸漬して、前記金属層の上に超疎水性層を形成し、それによって複合超疎水性材料を形成すること:ここで、
前記第1のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記第2のセットの金属ナノ粒子の金属が、金及び/又は銀であり;
前記基材層及び前記金属ナノ粒子コーティング上の荷電した官能基が、互いに電子的に相補的である。
【0091】
理解されるように、上記の方法によって作製された複合超疎水性材料の結果として生じる構成要素及び寸法は、上記のものと同一であり、したがって、本明細書では、この方法に関連して記載される。
【0092】
金属被覆複合材料は、以下の(A)及び(B)によって形成してもよい:
(A)正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層と、
前記基材層の上の、負又は正に荷電した官能基のセットを含む金属ナノ粒子コーティングを含み、
前記金属ナノ粒子コーティングが、第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む、金属ナノ粒子被覆基材を提供すること;並びに
(B)前記金属ナノ粒子被覆基材の上に金属層を堆積させること(ここで、任意選択で、前記堆積は、金属の熱蒸発による薄膜堆積で行われる)。
【0093】
金属層及び金属ナノ粒子の詳細は、複合超疎水性材料製品に関して上記で説明されている。
【0094】
特定の実施形態では、金属被覆複合材料が金属ナノ粒子コーティングと金属層との間に挟まれたさらなる超疎水性層を含んでもよい。このさらなる超疎水性層が存在する実施形態では、金属ナノ粒子被覆基材を、超疎水性材料を含む溶液に浸漬して、金属ナノ粒子層の上に超疎水性層を形成することによって形成することができ、金属ナノ粒子被覆基材は、正又は負に荷電した官能基のセットを含む基材層と、負又は正に荷電した官能基のセットを含む基材層の上に金属ナノ粒子コーティングとを含み、金属ナノ粒子コーティングは第1のセット及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む。
【0095】
金属ナノ粒子でコーティングされた基材は一組の正又は負に荷電した官能基を含む基材を、一組の負又は正に荷電した官能基を含む金属ナノ粒子を含む溶液と接触させることによって形成することができる。ここで、金属ナノ粒子は、第1及び第2のセットの金属ナノ粒子を含む。前記第1及び第2のセットの金属ナノ粒子は、複合超疎水性材料製品に関連して上で説明されている。
【0096】
上記の複合超疎水性材料の単独で使用すると、試料中の分析物のSERS検出を改善することができるが、尿の処理済み試料に直接添加することができる金属ナノ粒子と組み合わせて使用する場合に特に有効である。したがって、本発明は、以下を含む部材のキットも含む:
(ai)上記の複合超疎水性材料;及び(bi)チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤。
【0097】
理解されるように、複合超疎水性材料を単独で使用すると、分析物のSERS検出及び定量を直接可能にし得る。すなわち、プレグナン及び/又はテトラヒドロコルチゾンの直接検出によるものであり、これは以下の実施例2においてより詳細に考察される。実施例2に記載される技術は、テトラヒドロコルチゾンを検出するために使用され得ることが理解される。あるいは複合超疎水性材料が金属ナノ粒子と組み合わせて使用される場合、SERS検出は間接的手段によるものであってもよく、それにより、分析物の定量はボロン酸のSERSスペクトルに対するそれらの影響によって得られる(以下の実施例3~6を参照のこと)。チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子は以下の実施例により詳細に記載されるように、基材の分析増強因子をさらに増強する「ミラー効果」を提供し得ることに留意されたい。
【0098】
尿分析処方物の銀及び/又は金ナノ粒子は、その複合超疎水性材料を形成するために使用される金属と同じ金属から形成され得る。すなわち、超疎水性材料が金属ナノ粒子及び金属層に銀を使用して形成される場合、尿分析製剤のナノ粒子は、銀ナノ粒子であり得る。超疎水性材料が金属ナノ粒子及び金属層のために金を使用して形成される場合、尿分析製剤のナノ粒子は、金ナノ粒子などであり得る。
【0099】
任意の適切なボロン酸を使用することができ、適切なボロン酸の例は、以下の式Iの化合物によって提供される:
【化1】
ここで:
X
1がN又はCR
3;
X
2がN又はCR
4;
X
3がN又はCR
5;であり、
R
1~R
5は、独立して、H、B(OH)
2、CH
3、CHO、CO
2H、CN、NH
2、OH、SH、NO
2、F、Br、Clを表し、
ここで、X
1~X
3のいずれもNではない又はいずれか1つがNであり、
X
1~X
3のいずれか一つがNであるとき、R
1~R
5は、独立して、H、B(OH)
2、CH
3、CO
2H、CN、NH
2、OH、SH、NO
2、F、Br、Clを表す。
【0100】
本明細書中で言及され得る適切なボロン酸は、4-メルカプトフェニルボロン酸である。
【0101】
尿分析製剤のナノ粒子は、任意の適切なサイズ又は形状を有し得る。例えば、尿分析製剤のナノ粒子は、回転楕円体又は立方体などの多面体の形態であってもよい。前記ナノ粒子は、50,000~150,000nm2などの任意の好適な表面積を有し得る。本明細書中で言及され得る特定の例において、尿分析製剤のナノ粒子は、99,810.4nm2の表面積を提供する、128.9nmのエッジ長を有する立方体の形状であり得る。ボロン酸が4-メルカプトフェニルボロン酸である場合、この分子は、ナノ粒子の表面に結合したときに約0.34nm2の表面積を有すると推定される。したがって、立方体の表面に結合した4-メルカプトフェニルボロン酸分子の総数(完全な被覆を仮定する)は、293,560分子であると推定される。
【0102】
参照によりその全体が本明細書に組み込まれるPCT特許出願公開第WO2018/199849号に概説されるように、妊娠中の女性の尿中の特定の分子のレベルは、対象における流産のリスクを確認するために使用され得る。WO2018/199849号に示される分子のいずれか又は全ては、SERSを使用して上記の部材のキットと組み合わせて使用され得るが、プレグナン(すなわち、3α,20α-ジヒドロキシ-5-プレグナン-3-グルクロニド又は5β-プレグナン-3α,20α-ジオールグルクロニド)及びテトラヒドロコルチゾンが、このような方法において特に有用であり得ることが見出された。したがって、自然流産のリスク増加を予測する方法が提供され、この方法は以下の工程を含む:
(a)対象から得られた尿試料の非塩成分を含む水溶液を提供すること;
(b)前記水溶液を、チオール基を含むボロン酸でコーティングされた銀及び/又は金ナノ粒子を含む尿分析製剤と、第1の期間反応させて、複合体化試料を提供すること(任意選択で、前記ナノ粒子は複合超疎水性材料に使用されるのと同じ金属から形成され、及び/又はボロン酸は4-メルカプトフェニルボロン酸である);
(c)複合超疎水性材料上に上記の複合体化試料を置き、蒸発によって水を除去して、乾燥試料を提供すること;及び
(d)乾燥試料をラマン分光法に供して、プレグナン及びテトラヒドロコルチゾンの存在量を決定し、次の式に基づいて自然流産のリスクを予測すること:
【数2】
ここで、閾値より低い値は自然流産のリスクの増加を示し、任意選択で、前記第1の期間は、3~48時間、例えば3時間である。
【0103】
本明細書(及び国際公開第2018/199849号)に記載されるように、76のプレグナン/テトラヒドロコルチゾンの比率は安定した妊娠を示し、その対応するプレグナンパーセンテージは98.7%である。38のプレグナン/テトラヒドロコルチゾン比は流産リスクを示し、対応するプレグナンのパーセンテージは97.4%である。
【0104】
上記の反応工程(b)は、任意の適切なpHで実施され得るが、反応は10~12、例えば11のpH範囲で最もスムーズに進行し得る。工程(b)のpHが10~12であるいくつかの実施形態では、工程(b)の生成物を第2の期間で遠心分離し、上清を除去し、pH10~12(例えば11)のKOH水溶液などの液体で置換することができ、この遠心分離、上清除去及び液体置換工程を、上記方法の工程(c)を行う前にさらに1~4回(例えばさらに2回)繰り返すことができる。
【0105】
上記方法の工程(a)で使用される水溶液は、以下の工程によって得ることができる:
(i)対象から得られた塩及び非塩成分を含む尿試料を逆相カラムに添加して、ロードされたカラムを提供すること;
(ii)前記ロードされたカラムから水で溶出することによって塩成分を除去し、次いで、C1-4アルコール(例えば、メタノール)で溶出することによって前記ロードされたカラムから非塩成分を除去及び分離し、次いで、C1-4アルコールを除去すること;及び
(iii)分離された非塩成分に水溶液を添加して、工程(a)の水溶液を提供すること。特定の実施形態において、工程(a)の水溶液は、10~12、例えば11のpHを有し得る。
【0106】
ラマン分光法のための任意の適切な設定が選択され得るが、本明細書で言及され得る好適な条件のセットは、ラマン分光法が0.01~1mWのレーザー出力及び1~60秒の取得時間を使用して、532nmのレーザー励起波長を使用して行われる場合である。例えば、レーザー出力は0.2mWであってもよく、取得時間は1秒であってもよい。
【0107】
各試料について得られるスペクトルの数は、10~5,000 SERSスペクトル、例えば20~2,000 SERSスペクトルであり得る。本発明の実施形態では、合計30個のSERSスペクトルが最適であり得る。
【0108】
理解されるように、実際の試料が分析される前に、11-メルカプトウンデカン酸から生じる干渉シグナルがないことを確認するために、超疎水性(SPHB)基材自体のバックグラウンドスキャンが実行される。試料は、SPHB基材バックグラウンドからのSERSシグナルのベースラインが平坦で特徴のない場合にのみ分析される。較正曲線を確立するために、90~100%の、異なる量のプレグナン/テトラヒドロコルチゾン濃度比でスパイクした非妊娠女性の尿試料を用いて、SERS実験及び分析を行った。次いで、この較正曲線を使用して、試験試料中のTHCと比較したプレグナンの相対的存在量を予測した。各特定の分析物の定量化には、分析物固有の較正曲線が必要であることに留意されたい。
【0109】
SERS分析のさらなる詳細は、以下の実施例のセクションに提供される。
【0110】
本発明のさらなる態様及び実施形態は、以下の非限定的な実施例に関してここで考察される。
【実施例】
【0111】
[材料]
硝酸銀(≧99%)、無水1,5-ペンタンジオール(PD、≧97%)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP、平均MW=55,000g/mol)、トルエン(99.5%)、11‐メルカプトウンデカン酸(95%)、4‐メルカプトフェニルボロン酸(90%)、アンモニア溶液(28~30%)、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオール(PFDT,97+%)は、Sigma Aldrichから購入した。塩化銅(II)(≧98%)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(98%)は、Alfa Aesarから購入した。エタノール(ACS、ISO、Reag.Ph Eur)はEMSUREから購入した。塩酸(HCl、37%)はAnalar Normapurから購入した。テトラヒドロコルチゾン(THC)は、Scientific Resourcesから購入した。5β-プレグナン-3α,20α-ジオールグルクロニド(「プレグナン」と呼ぶ)は、AXIL Scientific Pte Ltd.から購入した。全ての化学物質をさらに精製することなく使用した。Milli-Q水(>18.0MΩ・cm)は、Sartorius Arium 611 UV超純水システムを用いて得た。
【0112】
[全般的な方法]
SEMイメージングは、JEOL-JSM-7600F顕微鏡を用いて加速電圧5kVで行った。UV-vis分光測定は、Cary 60 UV-Vis分光計を用いて行った。ゼータ電位測定は、ZETASIZER NANOを用いて、DTS1070折り畳みキャピラリーセルを用いて行った。Agの熱蒸発はSyskey Thermal Evaporator(台湾)を用いて行った。試料の粗さは、Zeiss倒立顕微鏡上でJPK Nanowizard 3 BioScience原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。x-y SERS測定はRamantouch Microspectrometer(Nanophoton Inc、大阪、日本)により、励起波長532nm(出力0.01~1mW、取得時間1~60秒)で行った。500cm-1~1600cm-1の間のデータ収集には、蓄積時間10秒で、20×(N.A.0.45)対物レンズを使用した。すべてのSERSスペクトルは、ラマン画像ごとに少なくとも10個の個々のスペクトルを平均化することによって得られた。サンプルの前処理には、C18カラムを充填したZIPTIP(Merck Millipore)を使用した。PCA及びPLS分析は、Panoramaソフトウェア(LabCognition、Analytical Software GmbH & Co.KG)を用いて行った。
【0113】
[接触角測定]
接触角は、Firewireデジタルカメラを装備したTheta Lite張力計を用いて測定した。静的接触角は、4μLの水滴の固着液滴を基材上に滴下することによって測定した。固液界面と液気界面のなす角度が静的接触角である。前進接触角は、少量の液体(20μL)を液滴にゆっくりと添加することによって測定される接触角の最大値として測定された。液体の添加中、接触線は残ったが、湿潤プロセスの間に接触角は増加した。また、後退接触角が、液滴から少量の液体をゆっくりと除去した場合の接触角の最小値として測定された。液体の除去中、接触線は残ったが、脱湿潤プロセス中に接触角は減少した。前進接触角と後退接触角の差により、接触角ヒステリシスが生じた。各タイプの接触角測定は平均ぬれ角を得るために、各基材にわたって少なくとも5回行った。
【0114】
[基材の液体濃縮効果]
基材の液体濃縮効果を測定するために、改変Stober法を用いて合成したシリカ粒子懸濁液を基材上で使用した。
【0115】
典型的には、脱イオン水(1.5mL)及びアンモニア溶液(1.5mL)の混合物を、30分間激しく撹拌しながら、オルトケイ酸テトラエチルのエタノール溶液(0.35M、0.76mL)に滴下した。遠心分離でシリカビーズを得てから、エタノールと水で洗い、その後脱イオン水に再懸濁した。水溶性シリカビーズの1μLをそれぞれの超疎水性基材とO2プラズマ処理されたSi基材(親水性基材)に投入し、周囲条件下で乾燥させた。次いで、乾燥したスポットをSEMで特性評価し、超疎水性表面及び親水性表面の両方の表面積を、ImageJソフトウェアを使用して測定した。
【0116】
[全般的手順1-銀ナノキューブ(AgNC)の合成及び精製]
銀ナノキューブ(AgNC)の調製は、Angew.Chem.Int.Ed.2006、45、4597.に記載のポリオール法に従って行った。典型的には、まず、固体がPDに完全に溶解するまで、混合物を繰り返しボルテックス及び超音波処理を行って、CuCl2(8mg/mL)及びPVP(20mg/mL)の2つの10mL溶液を別々に調製した。次いで、35μLのCuCl2溶液をAgNO3(20mg/mL、10mL)の溶液に加え、固体が完全に溶解するまで、ボルテックス及び超音波処理を繰り返し行った。
【0117】
100mL丸底フラスコを王水で洗浄し、190℃で10分間加熱し、1,5-ペンタンジオール(PD)20mLを加え、30秒毎に250μLのポリ(ビニルピロリドン)(PVP)溶液(PVPはAgNCを安定化する)を滴下し、500μLのAgNO3溶液(CuCl2を含む)を1分ごとに素早く加えた。このプロセスを、反応混合物が赤褐色に変わるまで続けた。「一般手順2」における銀ナノ八面体(AgNO)のその後の成長のために、この溶液をさらに処理せずに使用した。
【0118】
さらなる自己組織化実験のためのAgNCを精製するために、AgNC溶液にアセトンを添加し、遠心分離して過剰なPDを除去し、次いで上清をエタノールに分散させて過剰なアセトンを除去した。得られた懸濁液を10mLのエタノールに分散させ、続いて100mLのPVP水溶液(0.2g/L)で希釈した。次いで、混合物を、孔径5000、650、450及び220nmのPVDFフィルター膜を用いて、各孔径で数回真空濾過した。
【0119】
AgNCの初期バッチを、紫外可視分光法及びSEMイメージングによって特性分析し、AgNCの吸光度(プラズモン共鳴)及びエッジ長を決定した(
図1a及び1b)。エッジ長は、ImageJソフトウェアを用いてSEM像で測定し、116±3nmであると決定した(
図1e)。
【0120】
その後の最適化されたAgNCバッチについて、100個の粒子についてImageJソフトウェアを使用してエッジ長を測定及び分析し、128±7nmであると決定した。合成されたままのAgNC濃度は約2mg/mLで、1.2×1011粒子/mLの粒子濃度であった。
【0121】
[全般的手順2-銀ナノ八面体(AgNO)の合成及び精製]
AgNOの合成は、「全般的手順1」で合成したAgNCを用いて行った。最初に、固体が完全に溶解するまで、10mLのPD中で繰り返しボルテックス及び超音波処理することによって、CuCl2(8mg/mL)及びPVP(20mg/mL)の前駆体溶液を別々に調製した。次いで、40μLのCuCl2溶液をAgNO3溶液(PD中40mg/mL)に添加し、完全に溶解するまで繰り返しボルテックス及び超音波処理した。
【0122】
PD中の合成されたままのAgNC溶液を含む丸底フラスコを190℃に10分間加熱した。その後、30秒ごとに250μLのPVP溶液を滴下し、毎分500μLのAgNO3溶液(CuCl2を含む)を素早く添加した。このプロセスを約1時間続け、反応混合物は灰褐色になった。
【0123】
合成されたままのAgNOを精製するために、アセトンをAgNO溶液に添加し、8000rpmで10分間遠心分離して過剰のPDを除去し、続いて10mLのエタノールに分散させて過剰なアセトンを除去した。次いで、得られた懸濁液を10mLのエタノール(ARグレード)に再分散させ、次いで100mLのPVP水溶液(0.2g/L)で希釈した。次いで、混合物を、孔径5000及び650nmのPVDFフィルター膜を用いて、各孔径で数回真空濾過した。
【0124】
AgNOの初期バッチは、紫外可視分光法及びSEMイメージングによって特性評価し、AgNOの吸光度(プラズモン共鳴)及びエッジ長を決定した(
図1c及びd)。エッジ長はImageJソフトウェアを用いてSEM像で測定し、270±6nmであると決定した(
図1f)。
【0125】
その後の最適化されたAgNOのバッチについて、100個の粒子についてImageJソフトウェアを使用してエッジ長を測定及び分析し、299±22nmであることが決定された。合成されたままのAgNOは約13.7mg/mLの濃度を有し、粒子濃度は1.2×1011粒子/mLであった。
【0126】
[全般的手順3-負に荷電したAgNC(85)及びAgNO(90)の調製]
典型的には、1mLのエタノールをAgNC溶液(0.1mL、1.2×1011粒子/mL)に添加し、続いて遠心分離して上清を捨てた。次いで、AgNCを1.5mlのIPA/エタノール(1:1、v/v)中に再懸濁し、25℃にて500rpmで攪拌し続けた。11-メルカプトウンデカン酸(11-MUA、0.05mL、0.1mM)のIPA溶液を、AgNCの攪拌溶液に滴下して加え、反応混合物を室温で4時間攪拌した。次いで、反応混合物を撹拌から外し、6500rpmで4.5分間遠心分離して、上清を除去した。このプロセスをもう一度繰り返し、AgNCをIPA中の11MUAの新鮮な溶液とさらに3時間インキュベートした。その後、得られた溶液を遠心分離し、上清を除去した。次いで、AgNCを1.5mLのIPA/エタノール(1:1、v/v)中に分散させ、超音波処理し、遠心分離した。このプロセスを2回繰り返し、得られた負に荷電したAgNC(80)を窒素環境中に貯蔵して酸化を防止した。ゼータ電位測定を行って、AgNCが負に荷電していることを確認した。
【0127】
IPA中の11-MUA(0.1mL、10mM)の溶液を使用して、4つの別々のAgNO溶液(0.1mL、1.2×1011粒子/mL)について上記の合成プロセスを繰り返し、負に荷電したAgNO(90)を得た。AgNOのゼータ電位は約-27mVであると決定された。
【0128】
11-MUAで官能基化されたAgNC及びAgNOの最初のバッチのゼータ電位を、試料を水及びエタノール中にそれぞれ分散させて測定した(表1)。また、水及びエタノール中のAgNC及びAgNOのSEM像は
図2a~dに示す通りである。
【0129】
【0130】
[全般的手順4- 4-メルカプトフェニルボロン酸(4-MPBA)によるAgNCの官能基化]
AgNCの4-MPBAによる官能基化は、IPA中の11-MUA(0.05mL,0.1mM)溶液が、IPA中の4-MPBA(0.05mL,0.1mM)溶液に置き換えられた点を除き、「全般的手順3」で述べた手順と同一の手順で行った。
【0131】
典型的には、1mLのエタノールをAgNC溶液(0.1mL、1.2×1011粒子/mL)に添加し、遠心分離して続いて上清を捨てた。次いで、AgNCを1.5mlのIPA/エタノール(1:1、v/v)中に再分散させ、25℃にて500rpmで攪拌し続けた。IPA中の4-MPBA(0.05mL、0.1mM)の溶液をAgNCの撹拌溶液に滴下し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。次いで、反応混合物を撹拌から外し、6500rpmで4.5分間遠心分離して、上清を除去した。このプロセスをもう一度繰り返し、AgNCをIPA中の4-MPBAの新鮮な溶液とさらに3時間インキュベートした。その後、得られた溶液を遠心分離し、上清を除去した。次いで、AgNCを1.5mLのIPA/エタノール(1:1、v/v)中に分散させ、超音波処理し、遠心分離した。このプロセスを2回繰り返し、得られた官能基化AgNCを窒素環境中に貯蔵して酸化を防止した。合成されたボロン酸官能基化AgNCは、以降の実施例において「AgNC/4-MBPA」と表記する。
【0132】
AgNC上のボロン酸官能基により、AgNCの表面への尿代謝物(例えば、THC及びプレグナン)の捕捉することができる。これは、THC及びプレグナンの水酸基をアルカリ条件下でボロン酸と縮合反応させて、溶液中にボロン酸エステルを形成することによって行われる(
図14a、c及びd)。
【0133】
AgNC表面上の4-MPBAの密度は、以下の計算に示すように推定された。
AgNCのエッジ長=128.9nm
AgNCの表面積=6×(128.9nm)2=99,810.4nm2
4-MPBA分子の推定表面積(シミュレーションから導出)=0.34nm2
AgNC表面上の4MPBA分子数(フルカバレッジを仮定)
=99810.4/0.34=293,560分子
【0134】
[全般的手順5-シリコン基材の表面官能基化]
典型的には、シリコン(Si)基材10は、H
2SO
4/H
2O
2の混合物20でクリーニングされるか、あるいは5分間、酸素プラズマ処理30に供される(
図3a)。その後、処理された基材40は、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(2体積%)を有する無水トルエン液50中に5分間浸漬して、Si基材を官能基化した。続いて、アミン終端Si基材60を無水トルエン及びメタノールでリンスした後、N
2ガスでブロー乾燥してリガンド及び溶媒を除去した。次いで、官能基化された基材を、pH5の塩酸溶液(70)にさらに5分間浸漬して、基材表面をさらにプロトン化し、正に荷電させた。次いで、得られた基材80を、さらなる使用のために窒素環境中に保持した。種々の処理された基材40、60及び80の静的接触角を決定し、
図3bに示した。
【0135】
[全般的手順6-銀ナノスフェア(AgNS)の合成]
AgNSの合成は、Chem.Mater.,2014,26,2836-2846.に記載された方法に従って行った。典型的には、5mMクエン酸ナトリウム及び0.1mMタンニン酸を含む100mLの水溶液を調製し、激しく攪拌しながら3つ口丸底フラスコ中で15分間加熱し、次いで、1mLのAgNO
3(25mM)をこの沸騰溶液中に添加した。溶液は直ちに明黄色になった。その結果得られたAgNSを、過剰なTAを除去するために、遠心法(10,000g~18,000g、サイズに応じて)精製し、Milli-Q水又はクエン酸ナトリウム溶液(2.2mM)に再分散してから、試料の特性評価を行った。AgNSのゼータ電位は-30mVであると決定され、AgNSのサイズは約41nmであった(
図19a及びb)。
【0136】
[実施例1.超疎水性基材の製造及び特性評価]
(超疎水性基材107の初期バッチ)
(超疎水性基材107の初期バッチの作製)
静電自己組織化は、正に荷電したSi基材80(「一般手順5」から調製したもの)を、AgNO(85)及びAgNC(90)を粒子比5:1で含む2mLの負に荷電した水性Agナノ粒子混合物に100分間浸漬することによって行った(
図4a)。自己組織化は、基材80のNH
3
+終端に結合するAgナノ粒子上の11-MUA層95のCOO
-官能性による静電引力を介して行われた。この自己組織化アプローチにより、Agナノ粒子の単層を生成した。二成分自己組織化基材をAgナノ粒子水溶液から取り出し、エタノールですすぎ、N
2ガスを用いて2回ブロー乾燥した。
【0137】
次いで、得られた基材を熱蒸発により、2nmのCrの金属層(100)で被覆し、続いて、それぞれ0.1及び0.5Å/sで25nmのAgで被覆した。これは、二成分Agナノ粒子が基材80へ付着するのを改善するのに役立つ。次いで、基材を1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオール(PFDT)105(5mM、1:1エタノール/ヘキサン、v/v)の溶液中に一晩沈め、超疎水性基材107を得た。
【0138】
その後のSERS測定においてクリーンなスペクトルバックグラウンドを作り出すために、基材を5mMのPFDT溶液に15時間浸漬し、エタノールで洗浄し、少なくとも6回ブロー乾燥して過剰なPFDT溶液を除去した。浸漬の各サイクルの後、溶液を新鮮なPFDT溶液と交換した。基材のSERSバックグラウンドノイズは、浸漬時間を45時間に長くすると減少することが観察された(
図6)。
【0139】
(PFDTで基材を官能基化した場合の疎水性に及ぼす影響)
基材103及び107の静的接触角を測定して、基材のPFDAでのコーティングによるのそれらの疎水性への影響を決定した。両方の基材の静的接触角は、Agナノ粒子との20分及び40分のインキュベーションした後に測定され、表2に示すようになった。
【0140】
【0141】
(基材107の疎水性に対するAgナノ粒子混合物(85+90)中の基材80のインキュベーション時間の影響)
基材の疎水性に対するAgナノ粒子懸濁液中の基材80のインキュベーション時間の影響を調べるために、20~120分の異なるインキュベーション時間で上記の手順を繰り返し、それぞれの基材107を得た。
【0142】
異なるインキュベーション時間にてAgナノ粒子で処理した種々の基材107のSEM像及び静的接触角は、
図5に示されるように決定された。基材80をAgナノ粒子と共に100分間インキュベートすると、163°±1.5°の最大の接触角が得られることが観察された。
【0143】
粒子密度と接触角ヒステリシスも決定され、表3に示す通りであった。インキュベーション時間が長いと、より粒子密度が高くなり、より接触角ヒステリシスが低くなることが観察された。
【0144】
【0145】
(AgNC又はAgNO単独を有する場合と比較した、基材107の疎水性に対するAgNC及びAgNOの二成分集合体の影響)
基材の疎水性に対するAgNC及びAgNOの二成分集合体を有することの効果を理解するために、AgNC又はAgNOのみを含む基材を、100分のインキュベーション時間で、上記の手順に従って合成した。
【0146】
基材の静的接触角及び二乗平均平方根(RMS)表面粗さを決定し、表4に示した。それぞれの基材のAFM像は
図7a-cに示すとおりであり、AgNC及びAgNO基材のSEM像及び静的接触角は、
図7d及びe、並びに
図7f及びgにそれぞれ示した。
【0147】
【0148】
(親水性基材と比較した基材107の液体濃縮効果)
基材107の液体濃縮効果は、上記の「基材の液体濃縮効果」において説明した手順に従って決定した。
【0149】
基材107上及び親水性基材上のシリカ懸濁液の液滴を比較すると、基材107上の液体-固体接触面積が51倍減少していることが観察された(
図8a及びb)。基材107上の液滴を乾燥させると、乾燥した接触面積は0.08mm
2と測定され、これは乾燥前の接触面積からさらに3.4倍減少した(
図8b及びd)。一方、乾燥時の親水性基材の接触面積は1.2倍にしか減少しなかった。従って、超疎水性基材の全体的な濃縮効果は、約148倍であると決定された。
【0150】
このように、超疎水性基材107上の分析物試料の接触面積の顕著な減少は、高感度検出に必要とされるより小さな面積への分析物の濃縮をもたらすことができる。
【0151】
(超疎水性基材109の最適化及び改良バッチ)
(超疎水性基材109の最適化されたバッチの作製)
静電自己組織化は、AgNO(85)及びAgNC(90)を4:1の粒子比で含む負に荷電した水性Agナノ粒子混合物2mL中に、正に荷電したSi基材80(「全般的手順5」から調製したもの)を20分間浸漬することによって行った(
図4b)。自己組織化は、基材80のNH
3
+終端に結合するAgナノ粒子上の11-MUA層95のCOO
-官能性による静電引力を介して行われた。この自己組織化アプローチは、Agナノ粒子の単層を生成した。二成分自己組織化基材をAgナノ粒子水溶液から取り出し、エタノールですすぎ、N
2ガスを用いて2回ブロー乾燥した。
【0152】
その後、基材は、エタノール/ヘキサン(1:1、v/v)中の1H,1H,2H,2H-パーフルオロデカンチオール105溶液(PFDT,5mM)に72時間浸した。このステップは、表面から11-MUAを置き換えることによって、PFDTがAgナノ粒子85及び90の露出表面に結合することができた。これは、SERS検出のためのクリーンなスペクトルバックグラウンドを与えるのに役立つ。
【0153】
次に、得られた基材を熱蒸着によって25nmのAg層(103)で0.5Å/sでコーティングして、二成分Agナノ粒子のSiへの接着を促進した。次いで、基材をエタノール/ヘキサン(1:1、v/v)中のPFDT 105(5mM)に少なくとも15時間浸漬して、超疎水性を達成した。その後のSERS測定においてきれいなスペクトルバックグラウンドを作り出すために、基材をエタノール/ヘキサン(1:1、v/v)中の10mMのPFDTに1週間浸漬し、24時間ごとに溶液を新鮮なPFDT溶液で置き換えた。
【0154】
(基材109の疎水性に対してAgNC対AgNOの粒子比の違いが及ぼす影響)
基材の疎水性に対するAgNC対AgNOの粒子比の効果を理解するために、「超疎水性基材の最適化されたバッチの作製」に記載の手順を、2:1、1:1、1:2及び1:4のAgNC:AgNOの粒子比で繰り返した。AgNC:AgNO比率が1:4の場合、最大の粒子密度であり、158°±8°の最大の接触角を与えることが観察された(
図9a及びb)
【0155】
(基材109の疎水性に対するAgナノ粒子混合物(85+90)中の基材80のインキュベーション時間の影響)
基材の疎水性に対するAgナノ粒子懸濁液中の基材80のインキュベーション時間の影響を調べるために、20~100分の異なるインキュベーション時間で上記の手順を繰り返し、それぞれの基材109を得た。
【0156】
異なるインキュベーション時間にてAgナノ粒子で処理した様々な基材109の静的接触角及び粒子密度を測定し、それぞれ
図10a及びbに示した。20分の浸漬時間を最適化時間として選択したが、これは基材に一貫して高い静的接触角を与える最短のインキュベーション時間であったためである。粒子比が4:1の場合、粒子密度は4.4±0.2粒子/μm
2(SEM像中の粒子の数のカウントから推定)であると決定された。この粒子比では、二乗平均平方根表面粗さも116.4±6.2nmで最大となる。
【0157】
(AgNC又はAgNO単独を有する場合と比較した、基材109の疎水性に対するAgNC及びAgNOの二成分集合化の効果)
AgNC及びAgNOの二成分集合体を有することの基材の疎水性に対する効果を理解するために、AgNC又はAgNOのみを含有する基材を、20分のインキュベーション時間で、上記の手順に従って合成した。それぞれの基材109の静的接触角及びAFM像を決定し、
図11a及びbに示した。二成分集合体は、158°±8°の最大の静止接触角を与えることが観察された。
【0158】
(親水性基材と比較した基材109の液体濃縮効果)
基材109の液体濃縮効果は、「基材の液体濃縮効果」に記載された手順に従って決定した。基材109上のシリカ懸濁液の液滴の乾燥接触面積を親水性基材と比較すると、基材109上の乾燥接触面積は0.13mm
2であり、これは親水性基材上の24mm
2の面積よりも顕著に低かった(
図8g及びh)。計算された濃縮係数は、約180であると決定された。
【0159】
このように、超疎水性基材109上の分析物試料の接触面積の有意な減少は、高感度検出に必要とされるより小さな面積への分析物の濃縮をもたらし得る。
【0160】
(AgNSとAgNOの二成分集合体を含む超疎水性基材)
AgNCがAgNSで置き換えられたことを除いて、AgNS/AgNO超疎水性基材を、超疎水性基材109について上述した方法に従って合成した。
【0161】
最初に、2:1の粒子比でAgNO及びAgNSを含む負に荷電した水性Agナノ粒子混合物2mLに、正に荷電したSi基材を40分間浸漬することによって、静電自己組織化を行った(粒子の各部分は、1.2×1011粒子/mLを含有した)。二成分自己組織化基材を水性Agナノ粒子混合物から取り出し、エタノールですすぎ、N2ガスを用いて2回ブロー乾燥した。次いで、基材をPFDT溶液(5mM)の溶液に72時間浸漬して、Agナノ粒子の表面上で、11-MUAリガンド及びクエン酸ナトリウムを置換した。
【0162】
次に、得られた基材を、熱蒸発によって0.5Å/sで25nmのAgの層でコーティングして、二成分Agナノ粒子のSiへの接着を促進し、次いで、基材を、エタノール/ヘキサン(1:1、v/v)中のPFDT(5mM)に少なくとも15時間浸漬して、超疎水性を達成した。
【0163】
合成したままの基材をSEMで特性分析し、静的接触角と粒子密度を求めた(
図19cとd)。静止接触角は、脱イオン水の液滴(4μL)を使用して決定され、150.2°±1.0°が得られた。
【0164】
[実施例2.初期超疎水性基材107を用いたプレグナン、p-アルサニル酸及びロキサルソンのSERS検出]
基材107の性能を検証するために、これらの基材を用いて、尿代謝物及び毒素の直接SERS検出を行った。
【0165】
本実験の尿代謝物として、自然流産を決定する際に重要な尿代謝物とみなされている5β-プレグナン-3α,20α-ジオールグルクロニド(プレグナン)を選択した。プレグナンの水溶液(1×10-6M)をまず調製し、続いて脱イオン水で一連の10倍連続希釈して、様々な濃度(1×10-7M~1×10-9M)の希釈溶液を得た:次に、プレグナン溶液の1μLの液滴を、SERSによる分析のために基材107上にドロップキャストした。液滴を乾燥した後に、レーザー照射(波長、532nm;出力、0.06mW)及び取得時間10秒の下で、SERSスペクトルが得られた。
【0166】
基材107上の種々の濃度のプレグナンのSERSスペクトルは、
図13aに示す通りである。
図13bに示すように、614cm
-1におけるピークの強度を使用して較正曲線を得た。プレグナンに起因するSERSシグナルは、1nM程度の低い濃度で検出され得ることが観察された。これは、プレグナン自体のSERSスペクトルの強度を使用して、超疎水性基材107上のプレグナンを直接検出し、定量化する方法を表す。
【0167】
同様に、SERS検出は、p-アルサニル酸及びロキサルソンのような超微量毒素の検出に拡張された。p-アルサニル酸及びロキサルソンの水溶液(1×10
-3M)を、10mLの脱イオン水に固体を溶解することによって最初に調製した。次いで、これに続いて、脱イオン水で一連の10倍連続希釈を行い、種々の濃度(1×10
-4M~1×10
-9M)の希釈溶液を得た:溶液の1μLの液滴を、SERSによる分析のために基材107上にドロップキャストした。SERSスペクトルは液滴を乾燥させた後、
図13c及びdにそれぞれ示すように、上記と同じパラメーター下で得た。p-アルサニル酸及びロキサルソンのSERSスペクトルを分析し、表5に示すように帰属された。
【0168】
p-アルサニル酸については、1131cm-1及び783cm-1でのピークの強度は濃度の低下に伴って低下し、ロキサルソンについても、1355cm-1でのピーク強度が濃度の低下に伴って同様の傾向を示した(表6)。
【0169】
【0170】
【0171】
[実施例3.AgNC/4-MPBAと共に使用した場合の、最適化された超疎水性基材109のSERS分析増強因子(AEF)の決定(基材109単独及び超疎水性シリカビーズアレイのSERS分析増強因子(AEF)と比較して)]
SERS基材のAEFは、SERS検出の性能の重要な指標である。したがって、超疎水性基材109単独、AgNC/4-MPBA、及び超疎水性シリカビーズアレイと共に使用された場合のAEFを、分析物としてメチレンブルーを使用して決定し、比較した。
【0172】
(実験手順)
AgNC/4-MPBAを有する超疎水性基材109を用いて得られたSERSスペクトルについては、メチレンブルー(1×10-7M~1×10-14M)及びAgNC/4-MPBA(~1.2×107粒子)を含む1μLの液滴を基材109上に滴下し、SERSスペクトルを記録する前に乾燥させた。4-MPBAはメチレンブルーに結合できないが、乾燥過程で隣接するAgNC粒子間のスペースにメチレンブルー分子が物理的にトラップされ、超疎水性基材109からの濃縮効果に起因して、メチレンブルーのSERS増強はなお起こりうる。
【0173】
同様に、基材109単独又はシリカビーズアレイを使用して得られたSERSスペクトルについて、メチレンブルー溶液(1×10-3Mから1×10-11Mまで)の1μLの液滴を基材(基材109単独又はシリカビーズアレイ)上にドロップキャストし、SERSスペクトルを記録する前に乾燥させた。
【0174】
通常のラマンシグナル測定では、Si基材10上にメチレンブルー溶液(10-3M)の1μLを滴下したものを用いて、メチレンブルーのラマンスペクトルを得た。1秒及び100秒の取得時間を使用して、SERS及びラマンスペクトルをそれぞれ取得した。
【0175】
超疎水性シリカビーズアレイは、最初にシリコン基材80をシリカビーズ(1重量%)の水性懸濁液中に10分間浸漬することによって作製した。次いで、この基材を窒素気流下でブロー乾燥し、続いてPFDT(5mM)で一晩官能基化した。
【0176】
(結果と考察)
超疎水性SERS基材上に吸着した分析物分子のSERS増強を定量するための分析増強因子(AEF)を、以下の式に従って決定した。
AEF=[ISERS/IRaman]×[CRaman/CSERS]、
ここで:
ISERSはSERS基材を用いて記録された最低濃度でのSERSシグナルの強度;
CSERSはSERS基材を用いて測定された分析物の対応する濃度;
IRamanは最低濃度での通常のラマンシグナル(SERS基材なし)の強度;
CRamanは通常のラマン検出(SERS基材なし)に使用した分析物の対応する濃度である。
【0177】
AEFは、個々の基材の検知限界が、超疎水性シリカビーズアレイ、超疎水性基材109単独、及びAgNC/4-MPBAと共に使用した場合で、それぞれ、10-6、10-11、及び10-14Mであることに基づいて計算される。
【0178】
SERS基材のAEFを決定するために任意の他の分析物を使用することができるが、この実施例のAEFはメチレンブルーの1628cm-1バンドでの強度(C=C伸縮に起因する)に基づいて計算した。
【0179】
種々の基材のAEFを決定し、
図12a-cに示した。超疎水性基材109単独のAEFは、2.4×10
9を達成しており、超疎水性シリカビーズアレイのAEFである5.0×10
2よりもはるかに優れていることが観察された。
【0180】
さらに、基材109と共にAgNC/4-MPBAを使用すると、SERSシグナル強度がさらに向上し、2.4×10
12のAEFが達成された(
図12c)。これは、超疎水性シリカビーズアレイ及び基材109それぞれのAEFよりも約10
10倍及び10
3倍高かった。超疎水性基材109によって提供されるSERS増強以外に、AgNCの使用は、基材109とAgNCとの間に挟まれた分析物のSERS信号をさらに増強するための追加のプラズモン表面(及び「ホットスポット」)を提供する。したがって、AgNC/4-MPBAは、基材のAEFを増強するための「ミラー効果」を提供し、検出のためのより高いSERS感度を与える。
【0181】
[実施例4.AgNC/4-MPBAを含む超疎水性基材109を用いたプレグナン及び/又はTHCのSERS定量]
AgNC/4-MPBAと超疎水性基材109との組み合わせを、目的の尿代謝物の検出及び定量に適用した。標的となる尿代謝物は、5β-プレグナン-3α,20α-ジオールグルクロニド125(プレグナン)及びテトラヒドロコルチゾン120(THC)であり、妊婦の尿試料中のこれら2つの代謝産物の濃度は、自然流産の可能性の予測指標として役立つことが確認されている(PCT公開番号WO2018/199849参照)。
【0182】
尿は、多数の代謝産物から構成される複雑な生物学的マトリックスであり、尿試料中のプレグナン及びTHCのSERS検出及び定量を潜在的に妨害し得る。このことを踏まえると、測定及び分析のために超疎水性SERS基材109を使用する前に、溶液中の標的尿代謝物を分離することが重要である。THC120及びプレグナン125はともに、複数の水酸基(-OH)を含み、アルカリ条件下で、AgNC表面135にグラフトされたボロン酸130(4-MBPA)と縮合反応し、ボロン酸エステルを形成した(
図14a)。次いで、捕捉された代謝産物を有するAgNC/4-MPBAは、分離され、(AgNC及び基材109の両方を有する「ミラー効果」を利用することによる)より高いSERS感度のために超疎水性基材109上にドロップキャストすることができる。
【0183】
(実験手順)
純粋なプレグナンとTHCについて、最初に個別のSERS実験を行った。10μLのプレグナン又はTHC溶液(10-4~10-9M)を、pH11のKOH水溶液中のAgNC/4-MPBA(~0.2mg/mL)と混合し、超音波処理し、次いで3時間反応させた。3時間後、混合物を8000rpmで10分間遠心分離した。上清を除去し、生成物を10μLのpH11溶液に再分散させた。このプロセスを、超疎水性基材109上にドロップキャスティングする前に2回繰り返し、次いで、周囲条件下で乾燥させた。532nmのレーザー励起波長を用いて、0.2mW、1秒の収集時間で、ラマンスペクトルを収集した。
【0184】
試料の分析を実行する前に、基材109のバックグラウンドスキャンを実行した。これは、11-MUAから生じる干渉シグナルがないことを保証するためであった。実際の試料の分析は、ラマンスペクトルのベースラインが平坦で特徴のない場合にのみ行った。
【0185】
多重測定では、0.1mMストック溶液を用いて、90~100%の範囲の比率で、プレグナン:THCの様々な濃度比を調製した。例えば、測定用の90%プレグナン:THC溶液を調製するために、90μLのプレグナンを10μLのTHCと混合し、次いで、この混合物を、先に記載したのと同じ条件下でAgNC/4-MPBAと反応させた。SERS測定も、上記と同じ実験パラメーターに従って行った。
【0186】
(データ解析)
(主成分分析(PCA))
検出方法のロバスト性及び信頼性を改善するために、ハイパースペクトルSERS測定を使用して、測定当たり2000を超えるSERSスペクトルを生成した。多数のデータセットに基づいて検出方法を構築することで、統計的により信頼性が高くなるが、スペクトルを手動で分析することは困難であり、実用的ではない。さらに、プレグナン(125)及びTHC(120)と結合した際の4-MPBA(130)のスペクトル変化は、濃度範囲にわたって劇的ではなく、特定のスペクトル領域に限定される(
図15a及びb)。
【0187】
そのため、主成分分析(PCA)を用いて、抽出されたSERSスペクトルを分析し、測定されたスペクトル範囲全体にわたって、4-MPBA、4-MPBA-プレグナン、及び4-MPBA-THCに特有のスペクトルの特徴を識別し、分類した。PCAは大きなデータセットを分析するための標準的な統計的手順であり、市販のソフトウェア(Panorama)を使用してPCAを実施した。
【0188】
典型的には、AgNC/4-MPBA(pH 11)、THCと共にインキュベートしたAgNC/4-MPBA、及びプレグナンと共にインキュベートしたAgNC/4-MPBAについての25の未処理スペクトルを、それぞれソフトウェアに入力した(合計75スペクトル)。標準正規変量(standard normal variate)補正とSavitzky-Golay微分アルゴリズムを適用して、スペクトルノイズを低減し、バックグラウンドシグナルからの干渉を除去した。PCA解析では、実験的に測定した全スペクトル範囲を選択し、2つのPCを適用することで、少なくとも98%の精度でスペクトル同定が可能であった。
【0189】
(部分最小二乗(PLS)回帰)
さらに、部分最小二乗回帰(PLS)を用いて、異なる濃度のプレグナン及びTHCに対するSERS測定の予測力を試験した。これは、個々の尿代謝物についての標準較正曲線を確立することによって行われた。純粋な分析物については、測定された各濃度について25のスペクトルを入力し、150のスペクトルを使用して、各分析物について10-4~10-9Mの間の検量線を導出した。
【0190】
標準正規変量補正とSavitzky-Golay微分アルゴリズムを適用して、スペクトルノイズを低減し、干渉を除去した。解析では、実験的に測定したスペクトル範囲全体を選択し、交差検証における二乗平均平方根誤差(RMSECV)の最小値を与えるために適切な数のローディングベクトルを採用した。プレグナンを含むスペクトルには3つのローディングベクトルを使用し、THCには2つのローディングベクトルを使用した。ローディングベクトルの最小数は1)オーバーフィッティング(すなわち、偶然の相関とノイズ成分の取り込み)の可能性を最小化する、2)最小RMSECVからの偏差を5%未満にする、という2つの考えに基づいて選択された。
【0191】
(結果と考察)
THCとプレグナンでそれぞれインキュベートした後の4-MPBAのSERSスペクトルについて、明瞭なスペクトル変化が観察された(
図14b)。特に、AgNC/4-MPBAは、1182cm
-1及び1328cm
-1で特徴的な4-MPBA振動モードを示し、これはそれぞれボロン酸(δBO+νCB)の芳香族C-H変角モードと伸縮モードに対応する。THC及びプレグナンと相互作用すると、SERSスペクトルは主に2つのスペクトル領域(すなわち、領域(i)及び(ii))において劇的な変化を示した。
【0192】
領域(i)では、4-MPBA 130の芳香族C-H変角ピークがTHC 120及びプレグナン125(
図14c)の両方でブロードになったが、領域(ii)では、δBO+νCBの強度が劇的に減少し、THC 120とプレグナン 125で、それぞれ1328cm
-1~1332cm
-1、~1333cm
-1にブルーシフトした(
図14d)。SERS強度の低下は、4-MPBA 130に結合することに伴う、尿代謝物120と125によるB-OとC-B結合の制約によるものである。スペクトル変化の実験的観察は、また理論的にシミュレートしたスペクトルで裏付けられた(
図14c及びd)。これらの変化により、AgNC/4-MPBAによる純粋な形態での尿代謝物の捕捉が成功していることが明確に確認され、プレグナン125とTHC 120が4-MPBA 130に結合する間のスペクトル変化の違いにより、これら2つの代謝物を区別して検出する方法が可能となった。従って、AgNC/4-MPBAとタンデムに超疎水性基材109を使用することにより、THC及び/又はプレグナンに結合した際の4-MPBAのスペクトル変化を検出することで、標的代謝物の間接的なSERS検出及び定量化が可能となった。この場合、4-MPBAは捕捉剤及びラマンレポーターの両方として効果的に作用し、分析物に結合した際の化学結合に対する変化を反映する。
【0193】
図15cは、個別に測定された4-MPBA、4-MPBA-プレグナン、及び4-MPBA-THCについてのPCA処理SERSデータの代表的な2Dプロットを示す。様々なSERSスペクトルを分解するために2つの主成分(PC)を使用することによって、SERSスペクトルは、それぞれ4-MPBA単独、プレグナンを有する4-MPBA、及びTHCを有する4-MPBAから生じる3つの別個のクラスターに分類することができる。これらの2つのPCは、3つのスペクトルデータセットすべての間の正味の分散の98.1%に対応している。プレグナンの定量について、
図15dは、4-MPBA-プレグナンについてのPLS回帰を示しており、99%を超える予測精度及び1nMの検出限界であった。同様に、
図15eは4-MPBA-THCに対するPLS回帰を示しており、予測精度は99%を超え、検出限界は1nMであった。
【0194】
さらに、プレグナン及びTHCの両方の同時多重分析のためのPLS予測モデルも確立した。両代謝物は実際の患者の試料中に存在するため、両代謝物の多重解析は実際的に重要であり、両代謝物の存在量の比は、自然流産のリスクを決定する重要な因子である。
【0195】
PLS予測モデルを作成するために、種々の比率のプレグナン:THCとの混合物からSERSシグナルを収集した。特定の比率のプレグナン及びTHCをAgNC/4-MPBAと反応させ、続いて、上記の実験手順で説明したように精製した。この比は90%~100%プレグナンの範囲であり、これは、実際の患者の試料中の生理学的に関連するプレグナンレベルに対応する。
図15fは、9つのローディングベクトルを用いて確立された、多重測定のためのPLSモデルを示す。この多重モデルの予測精度は約98.5%であり、SERS測定からプレグナン及びTHCの両方の相対的存在量を予測するその能力が際立っている。
【0196】
[実施例5.AgNC/4-MPBAを含む超疎水性基材109を用いた人工尿試料中のプレグナン及び/又はTHCのSERS定量]
実施例4で考察した実験プロトコール及び結果は、実際の尿試料中に存在する複雑な試料マトリックスの非存在下での代謝産物の検出に関する。従って、より現実的な試料マトリックスにおける本発明の適用性を調べるために、検出方法を人工尿における検出に拡張した。
【0197】
(実験手順)
(人工尿の調製とスパイキング)
人工尿は実際の尿を制御された条件でシミュレーションすることを可能にし、様々な成分の相対的な存在量を適宜調節することができる。まず、人工尿を、24.2gの尿素、10.0gの塩化ナトリウム、6.0gのリン酸一カリウム、6.4gのリン酸ナトリウムを100mLの脱イオン水に混合することによって調製した。
【0198】
次いで、この人工尿試料に特定の比率のプレグナン及びTHCを加えて、標準較正曲線を導き、安定な妊娠及び流産に関連する試料をシミュレートした。この実施例のために使用したプレグナン及びTHCの原液の濃度は1nMであった。多重測定のために異なる比率のプレグナン及びTHCを有する人工尿をスパイクするために、10μLのプレグナン及び/又はTHC溶液を90μLの人工尿に添加し、プレグナンの比率は90~100%の範囲とした。例えば、人工尿を90%プレグナンでスパイクするために、90μLの人工尿に9μLのプレグナン及び1μLのTHCを添加した。
【0199】
先行研究に基づくと、安定した妊娠は、76:1のプレグナン:THC比(98.7%プレグナン)に相当し、一方、自然流産は38:1の比(97.4%プレグナン)に相当する。したがって、この実施例で使用したプレグナン:THCの濃度範囲は、プレグナン及びTHCの生理学的濃度を網羅している。
【0200】
(人工尿試料のZIPTIP前処理)
ZIPTIPは、C-18樹脂で充填された市販のミニカラムであり、これは、生物学的試料の脱塩、濃縮、及び精製のために日常的に使用される。試料の前処理の前に、20μLのメタノール及び20μLの脱イオン水で溶出することによって、ZIPTIPカラムを活性化した。
【0201】
次いで、10μLのスパイクした人工尿試料をZIPTIPカラム210に通して溶出し、次いで10μLの水(220)で洗浄して、塩225を除去した(
図16a)。次いで、10μLのメタノール(230)を使用して、カラムから分析物235を溶出した。その後、メタノール溶媒を蒸発させ、濾過した試料をpH11のKOH水溶液(236)10μLに溶解させて試料238とした。
【0202】
(SERS検出のためのAgNC/4-MPBAによる試料の処理)
次いで、試料分析物238をAgNC/4-MPBA(0.2mg/mL、10μL)と混合し、超音波処理し、3時間反応させた(
図16b)。3時間後、混合物を8000rpmで10分間遠心分離した。上清を除去し、生成物をpH11のKOH水溶液10μL中に再分散させた。このプロセスを2回繰り返してから、SERS検出のために超疎水性基材109上にドロップキャスティングした。平均読み取り値を得るために、基材109の異なる位置に試料をドロップキャスティングして、最低3つの個々の試料を調製した。SERSスペクトルを収集し、ケモメトリック分析240に使用した。
【0203】
(データ解析)
SERSスペクトルを、主成分分析(PCA)及び部分最小二乗(PLS)分析に供し、各シミュレートした条件からの25のスペクトルを、実施例4に記載したのと同じプロトコールを使用して分析した。
【0204】
PLS分析を使用して、人工尿中の分析物の多重検出のための標準較正曲線を確立した。PLSモデルは、スパイクした人工尿中の90~100%のプレグナンから構築した。
【0205】
(結果と考察)
図17aは、種々の濃度のプレグナンでスパイクした人工尿試料から得られたPLS予測モデルを示す。>97%の高い精度で、試験された範囲のプレグナン濃度について良好な線形相関が観察された。これは、実験プロトコール及びデータ分析アプローチが、正確度を失うことなく、人工尿試料に適用され得ることを示す。
【0206】
安定妊娠と自然流産をシミュレートした飼料のPCA分析(2つのPCを使用して種々のSERSスペクトルを分解する)も実施した。SERSスペクトルは安定妊娠と自然流産にそれぞれ対応する2つの異なるクラスターに分類され(
図17b)、予測結果はそれぞれ98.9±0.3%と97.2±0.8%であった。2つのPCは、2つのスペクトルデータセット間の正味の分散の89.8%に対応した。種々の比率のプレグナン:THC(90~100%)のSERSスペクトルは、
図17cに示す通りである。安定妊娠(98.7%のプレグナン)及び流産(97.4%のプレグナン)に対応するSERSスペクトルは、
図17dに示されるとおりである。
【0207】
PLS回帰はまた、両方の模擬尿試料におけるプレグナンの相対量を正確に予測することができた(
図17e)。プレグナン:THC比が76:1の安定妊娠をシミュレートした試料について、理論上のプレグナンのパーセンテージは98.9%であり、本モデルのPLS予測正確性は、98.9±0.3%と、エラーウィンドウは非常に狭かった。プレグナン:THC比が38:1の自然流産をシミュレートした試料では、理論上のプレグナンのパーセンテージは97.3%であり、PLS予測正確性は97.2±0.8%に対応し、エラーウィンドウは非常に狭かった。したがって、実験的及び分析的アプローチは、正確さを失うことなく、人工尿試料にうまく適用できることは明らかである。
【0208】
[実施例6.AgNC/4-MPBAを含む超疎水性基材109を用いた実際の尿試料中のプレグナン及び/又はTHCのSERS定量]
自然流産の診断における本実験プロトコール及び分析アプローチの適用性をさらに実証するために、本実施例では実際の尿試料を使用した。
【0209】
まず、血清プロゲステロン値が1.01nmol/Lである非妊婦から採取した尿検体を用いて標準的な較正曲線を設定した。これらの尿試料に、特定の比率のプレグナン及びTHCをスパイクし、続いて、標準的なZIPTIP処理、AgNC/4-MPBAとの反応、遠心分離による精製、SERS測定及び分析(実施例4及び5に記載)を行った。プレグナン及びTHCの原液の濃度は0.1nMであった。較正曲線は、その特定の検体のSERS応答に非常に依存するので、使用される全ての検体について新しい較正曲線を作成した。定量の正確性をより高めるために、全ての基材について新しい較正曲線を作成することも好ましい。
【0210】
安定した妊娠と自然流産を表す尿試料については、患者の血清プロゲステロンレベルに基づいて6つの尿試料を選択し、尿試料のプレグナン:THC存在比をLC/MSにより決定した(表7)。妊娠が安定している患者の血清プロゲステロン濃度は、74.88、106.45、64.42nmol/Lであり、尿試料中の対応するプレグナン:THC存在比はそれぞれ98.7、99.3、99.1%であった。自然流産患者の血清プロゲステロンレベルは7.72、8.9、及び15.42nmol/Lであり、対応する尿試料中のプレグナン:THC存在比はそれぞれ94.1、93.1、及び93.6%であった。これらの尿試料を、標準的なZIPTIP処理、AgNC/4-MPBAとの反応、遠心分離による精製、測定及び分析(実施例5に記載)に供した。
【0211】
図18aは、様々な濃度のプレグナンでスパイクされた実際の非妊娠尿試料から得られたPLS予測モデルを示す。試験されたプレグナン濃度範囲については、99%を超える高い正確度で良好な線形相関が観察され、これは、本実験プロトコール及びデータ分析アプローチが正確さを失うことなく、実際の尿試料に適用され得ることを示す。異なるプレグナン濃度でスパイクした非妊娠女性の尿のSERSスペクトル、及び妊娠女性からの実際の尿試料のSERSスペクトルは、それぞれ
図18b及びcに示されるとおりである。PCAクラスタリングはまた、それぞれ25の未処理スペクトルを用いて、2つの実際の尿試料(1つは自然流産(M1)であり、もう1つは成功出産(S1)である)にも適用された(
図18d)。
【0212】
さらに、PLS回帰はまた、実際の尿試料中のプレグナンの相対量を正確に予測した。プレグナン:THC比が98.7、99.3、及び99.3%の安定妊娠に対応する尿試料について、本モデルを使用したPLS予測では、それぞれ101.3±0.2、99.2±0.2、98.6±0.7%の濃度を与え、非常に狭いエラーウィンドウを示した(表7)。プレグナン:THC比が94.1%、93.1%、及び93.6%の自然流産に対応する試料について、本モデルは、それぞれ96.9±0.8%、94.8±0.5%、及び94.7±0.6%の濃度を与え、これらも非常に狭いエラーウィンドウを示した(表7)。
【0213】
SERS測定値は、LC/MS測定値から得られる既知の測定値と非常によく相関したため、本発明は尿からの尿代謝物のポイントオブケア非侵襲的検出を達成することができ、これは自然流産の非侵襲的診断として役立ち得ることは明白である。さらに、この性能は、異なるレベルのウロビリン(尿の色の違いで定性的に観察される)を有する実際の尿試料で最も明白に実証された。ウロビリンの量が異なっていても、流産リスクに対するPLS予測の精度への影響は最小限であった。
【0214】