(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】細胞又はその細胞の集団のレシピエントへの移植時期を決定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6851 20180101AFI20230807BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20230807BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230807BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20230807BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230807BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12N5/10
C12N5/077
G01N33/53 D
G01N33/53 M
C12N15/09 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2021104610
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門田 真
(72)【発明者】
【氏名】柴 祐司
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】Circulation Research,2019年11月08日,Vol. 125,pp. 936-953,doi:10.1161/CIRCRESAHA.119.315305
【文献】東京体育学研究,2018年03月30日,Vol. 9,p. 69
【文献】幹細胞由来心筋細胞移植による不整脈抑制作用,医学のあゆみ,Vol. 248, No. 2,pp. 161, 162
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団におけるα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することと、
(2)前記測定値を、
前記測定値に対応する、対照幹細胞から心筋細胞に分化誘導した誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団における誘導開始から28日目のα-Bクリスタリンのタンパク質の対照測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの対照測定値と比較し、前記測定値が前記
対照測定値よりも高い場合に、前記細胞又はその細胞の集団がレシピエントの心臓に移植できる状態に達していると決定すること、又は
(2)’前記測定値を、
前記測定値に対応する、対照幹細胞から心筋細胞に分化誘導した誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団における誘導開始から28日目のα-Bクリスタリンのタンパク質の対照測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの対照測定値と比較し、前記測定値が前記
対照測定値以下の場合に、前記細胞又はその細胞の集団がレシピエントの心臓に移植できる状態に達していないと決定すること、
とを含む、
前記細胞又はその細胞の集団について、レシピエントへの移植時期をインビトロにおいて決定するための方法。
【請求項2】
(A)幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた、移植する細胞又はその細胞の集団におけるα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得すること、
(B)対照幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させる過程において、経時的に取得されたα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値に基づいて、対照幹細胞から取得された前記測定値と前記対象細胞の培養時間から構成される二次元データに基づく検量線を取得することと、
前記(A)において取得した測定値を検量線にあてはめ、前記(A)において取得した測定値を培養時間に換算した培養時間に関する情報を取得することと、
を含む、前記細胞又はその細胞の集団について、レシピエントへの移植時期をインビトロにおいて決定するための方法。
【請求項3】
さらに、前記(A)において取得した測定値に対応する培養時間と、前記基準値に対応する培養時間との差を算出することを含む、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
幹細胞が、多能性幹細胞、組織幹細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団におけるα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することを含む、
前記細胞又はその細胞の集団のインビボにおける血管遊走能を評価する方法。
【請求項6】
α-Bクリスタリンに結合する抗体、又はα-BクリスタリンのmRNAを検出するための核酸を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載する方法に使用するための検査試薬。
【請求項7】
請求項6に記載の検査試薬を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載する方法に使用するための検査キット。
【請求項8】
α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞であって、血管遊走能を有する前記細胞。
【請求項9】
α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞であって、血管遊走能を有する前記細胞の集団を含む、
心臓に移植するための細胞組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書には、細胞又はその細胞の集団のレシピエントへの移植時期を決定する方法、細胞又はその細胞の集団のインビボにおける血管遊走能を評価する方法、検査試薬、検査キット及び、細胞が開示される。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞(hPSC;ヒトES細胞とヒトiPS細胞)を用いた心臓再生治療は、無限に心筋細胞に分化する能力のあるため、心不全の次世代治療法として期待されている。蓄積された証拠により、ヒト多能性幹細胞由来心筋細胞(hPSC-CM)は、直接的な置換と間接的なパラクリン効果の両方を通じて、損傷した心筋を治療できることが明らかになっている。移植されたhPSC-CMの長期的な生着、すなわち「再心筋化」は、この再生治療の理想的な目標である。しかし、hPSC-CMによる治療には、生着不良、免疫拒絶反応、移植後の不整脈など、いくつかの課題がある。
【0003】
非特許文献1から3には、ヒトiPS細胞(hiPSC)から分化させた心筋細胞(hiPSC-CM)を移植前に従来よりも長く培養することにより、移植後のグラフトサイズが増大することが示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shin Kadota, Yuki Tanaka, Yuji Shiba,AHA2018米国心臓協会学術集会,抄録集, MoMDP164-2018, 2018年11月12日
【文献】Shin Kadota, et al., 第2回日本循環器学会基礎研究フォーラム, 抄録集,2018年,P07-7, 2018年9月22日
【文献】田中 夕祈、門田 真他、分子生物学会抄録、3P-0335, 2019年12月5日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
未熟なhPSC-CMは移植後の不整脈を引き起こすと考えられているため、hPSC-CMが移植に適する程度に充分に成熟しているか評価することが必要である。
本発明は、幹細胞から誘導された心筋細胞の移植時期を決定するための指標となる分子マーカーを用い、誘導された心筋細胞のレシピエントへの移植時期を決定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究を重ねたところ、α-Bクリスタリンを高発現するhPSC-CMは、移植後に移植片の増大が起こることを見出した。
本発明は、当該知見に基づいて完成されたものであり、以下の態様を含む。
項1.幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団におけるα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することを含む、前記細胞又はその細胞の集団のレシピエントへの移植時期を決定する方法。
項2.さらに、前記測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値以上である場合に、前記細胞又はその細胞の集団がレシピエントの心臓に移植できる状態に達していると決定することを含む、項1に記載の方法。
項3.さらに、前記測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値よりも低い場合に、前記細胞又はその細胞の集団をレシピエントの心臓に移植できる状態に達していないと決定することを含む、項1又は2に記載の方法。
項4.さらに、対照幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させる過程において、経時的に取得されたα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値に基づいて、前記測定値と培養時間の二次元データに基づく検量線を取得することと、前記項1において取得した測定値を検量線にあてはめ、前記測定値に対応する培養時間に関する情報を取得することと、を含む、項1から3に記載のいずれか一項に記載の方法。
項5.さらに、前記項1において取得した測定値に対応する培養時間と、前記基準値に対応する培養時間との差を算出することを含む、項2及び3を引用する項4に記載の方法。
項6.幹細胞が、多能性幹細胞、組織幹細胞である、項1から5のいずれか一項に記載の方法。
項7.幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団におけるα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することを含む、前記細胞又はその細胞の集団のインビボにおける血管遊走能を評価する方法。
項8.α-Bクリスタリンに結合する抗体、又はα-BクリスタリンのmRNAを検出するための核酸を含む、項1から7のいずれか一項に記載する方法に使用するための検査試薬。
項9.項8に記載の検査試薬を含む、項1から7のいずれか一項に記載する方法に使用するための検査キット。
項10.α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞であって、血管遊走能を有する前記細胞。
項11.α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞であって、血管遊走能を有する前記細胞の集団を含む、細胞組成物。
【発明の効果】
【0007】
hPSC-CMにおけるα-Bクリスタリンを測定することにより、hPSC-CMの移植時期を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】Aは、hiPSCのAAVS1遺伝子座に改変型ルシフェラーゼ(Akaluc)遺伝子をノックインする方法の概略を示す図である。水平方向の矢印は、AAVS1ターゲット遺伝子座、Akaluc配列、及び選択カセットをアッセイするためのPCRプライマー位置を表す。Bは、単層培養によるhiPSC-CMの分化誘導プロトコルの概略図を示す。
【
図3】qRT-PCRに使用したプライマーの一覧を示す。
【
図4】253G1ヒト人工多能性幹細胞由来心筋細胞(hiPSC-CM)の特性の評価結果を示す。Aは、実験計画の概略図を示す。分化後28日目又は56日目にhiPSC-CMを採取して凍結保存した(それぞれD28-CM又はD56-CMと表す)。Bは、心臓トロポニン(cTnT)の発現と5-エチニル-2'-デオキシウリジン(EdU)の取り込みをフローサイトメトリーにより解析した時のドットプロットを示す。Cは、D28-CMとD56-CMにおける cTnT陽性心臓細胞とcTnT + EdU二重陽性増殖心臓細胞の割合を示す(各グループあたりn = 3)。Dは、成熟サルコメア遺伝子(TNNI3, MYL2, MYH7)、未成熟サルコメア遺伝子(MYH6)の発現をqRT-PCRにより解析した結果を示す。**はp <0.01、***は p<0.001を示す。Eは、心肥大関連遺伝子(NPPA,NPPB)及びcalcium handling関連遺伝子(RYR2, ATP2A2)の発現をqRT-PCRにより解析した結果を示す。*はp <0.05を示す。
【
図5】Aは、in vitro生物発光イメージングにおけるAkaluc発現の細胞数依存的なシグナル強度を示す。Bは細胞数と発光強度の相関関係を示す。Cは、in vivo生物発光イメージングにおけるAkalucシグナル強度の移植後時間的変化を示す画像である。Dは、in vivo生物発光イメージングにおけるAkalucシグナル強度の移植後時間的変化を定量化したグラフである。Eは、D56-CM、D28-CM及びコントロールの細胞を移植した心臓と移植前の心エコー検査で評価した左室内径短縮率の移植後時間的変化を示す。#は 移植前に対してp < 0.001であること示し、 **はコントロールに対してp < 0.01であること示す。各群はn = 5である。Fは、D56-CM、D28-CM及びコントロールの細胞を移植した心臓の心エコー検査で移植後12週目に評価した左室内径短縮率を示す。***は、移植前に対してp < 0.001であること示す。各群はn = 5である。
【
図6】Aは、hiPSC-CMに由来するGFPを免疫染色した画像を示す。スケールバーは1 mmを示す。Bは、左心室(LV)面積で正規化した移植片面積のグラフを示す。*はp < 0.05であり、各グループはn = 10である。Cは、ピクロシリウスレッド(PSR、コラーゲン)とファストグリーンで染色された梗塞瘢痕の代表的な画像である。 PSR陽性の瘢痕領域に生着したhiPSC-CM(矢印)が確認された。Cは、LV面積で正規化した梗塞領域の面積を示す(各群あたりn=10)。Eは、wheat germ agglutinin (WGA)により細胞膜を染色した際の画像を示す。緑色のシグナルは、hiPSC-CMに由来するGFP陽性細胞を示す。スケールバーは50 μm示す。Fは、平均細胞断面積(μm
2)を定量化したグラフを示す。細胞数は、D28-CM群がn = 150、及びD56- CM群がn = 120である。Gは、βMHCとDAPI染色の染色画像を示す。スケールバーは50 μm示す。Hは、βMHC 陽性細胞中のDAPI染色による細胞核を定量したグラフを示す。カウントは、拡大画像0.1 mm
2をD28-CMについては28枚使用し、D56-CMについては32枚使用した。***はp < 0.001を示す。Iは、GFP陽性移植片(緑)中のα-アクチニン(赤)で染色されたサルコメアの横紋を示す画像である。スケールバーは、20 μmを示す。Jは、サルコメアの長さを定量化したグラフを示す。D28-CM群は、1500のサルコメアを、D56-CM は、1200のサルコメアについて計測した。****はp < 0.0001を示す。Kは、ヒト核(ヌクレオリン)陽性移植片(赤)において、心筋トロポニンI(cTnI、緑)が陽性であった成熟サルコメアの画像を示す。 スケールバーは、100 μmを示す。Lは、cTnI陽性領域の割合を示す。*はp <0.05を示す。各グループあたりn =10とした。
【
図7】Aは、EdUとBrdUによる二重標識のプロトコルを示す。Bは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるEdU(緑)、BrdU(赤)、Lamin A + C(白)、及び核(青)の4重染色画像を示す。スケールバーは、50μmを示す。Cは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるEdU陽性心筋細胞の割合を示す。各群の動物数は3匹とした。*はp < 0.05を示す。Dは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるBrdU陽性心筋細胞の割合を示す。各群の動物数は3匹とした。*はp < 0.05を示す。Eには、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるEdUとBrdUとが共陽性の心筋細胞の割合を示す。Fは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるKi67、Lamin A + C、及び核の3重染色画像を示す。スケールバーは50 μmを示す。Gは、定量したKi67陽性細胞の割合を示す。Hは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるGFPの免疫染色画像を示す。スケールバーは、1 mmを示す。Iは、移植後7日目のD28-CM移植片とD56-CM移植片の測定結果を示す。動物数は3匹とした。
【
図8】Aは、移植後1週目と12週目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるCD31(緑)とβMHC(赤)の二重免疫像を示す。スケールバーは、50 μmを示す。Bは、D28-CM移植片とD56-CM移植片における微小血管形成を経時的に示す。#は、移植後1週間目と比較した時にp < 0.01であることを示し、**はp < 0.01であることを示し、***はp < 0.001であることを示す。n 数は移植から1、4、及び 8週後は3であり、移植から12週後は 8である。Cは、遊走アッセイの概略を示す。Dは、hiPSC-CMとの共培養後22時間での遊走したHUVECを定量化したグラフを示す。
【
図9】Aは、移植前のin vitroで分化誘導されたhiPSC-CMサンプル(D28-CM及びD56-CM)、移植後12週間目で回収したin vivo移植片サンプルD28-CM(D28-12w1及びD28-12w2)及び移植D56-CM(D56-12w1およびD56-12w2)のRNAシークエンス解析における主成分分析の結果を示す。主成分分析には、成人、及び胎児の心臓サンプルとの比較を含む。Bは、移植されたD56-CMに見られる遺伝子発現変動のエンリッチメント解析において、上位10位にリストアップされた遺伝子オントロジー用語を示す。Cは、胎児(F)と成人(A)のヒト心臓サンプルを比較した、in vitro及びin vivoにおける一部の心臓及び血管新生関連遺伝子発現変動を示すヒートマップである。
【
図10】Aは、RNA-seq解析において、D28-CM及びD56-CMのTPM正規化カウントの間で生成された散布図を示す。赤の直線は4倍の変化を表す。Bは、qRT-PCRを使用して、D56-CMにおけるCRYAB及びHSPB6遺伝子の発現上昇を検証した結果である。各グループあたり、n=3とした。相対遺伝子発現比較において、基準となる成人心臓サンプルを 1とした。**は p <0.01を示す。Cは、D28-CM及び D56-CMにおけるCRYABをウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す。Dは、Cにおけるウエスタンブロッティングの結果を定量したグラフである。**は p <0.01を示す。各グループあたり、n =3とした。Eは、D28-CM及び D56-CMにおけるHSPB6をウエスタンブロッティングにより検出した結果を示す。Fは、Eにおけるウエスタンブロッティングの結果を定量したグラフである。*はp <0.05、**は p <0.01を示す。各グループあたり、n =3とした。
【
図11】Aは、各siRNAのトランスフェクションによる、ターゲット遺伝子の発現抑制効果を示す。si-HPRT1, si-CRYAB, 及び si-HSPB6 は、それぞれHPRT1, CRYAB, 及びHSPB6 genesを標的とするsiRNAs を示す。****は他のsiRNAを導入した群に治してp< 0.0001であることを示す。各グループn = 3とした。B は、各siRNAをトランスフェクションしたhiPSC-CMのHUVECの遊走効果を示す。*はp < 0.05を示し、**はp < 0.01を示す。各グループについて、n = 3とした。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.幹細胞からインビトロで心筋細胞の移植時期を決定する方法
本発明のある実施形態は、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団をレシピエントに移植する際の移植時期を決定する方法(以下、単に「移植時期決定方法」とも称することがある)に関する。前記方法は、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することを含む。
【0010】
(1)幹細胞からインビトロで心筋細胞を分化させる方法
幹細胞は、多能性幹細胞であっても、組織幹細胞であってもよい。好ましくは、多能性幹細胞である。
【0011】
多能性幹細胞は、多能性を維持している限り制限されない。多能性幹細胞として、例えば人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPSC)、胚性幹細胞(Embryonic Stem Cell)、生殖細胞由来多能性幹細胞を挙げることができる。多能性幹細胞として、好ましくは人工多能性幹細胞である。人工多能性幹細胞は、動物の体細胞をリプログラミングすることにより、多能性を獲得した細胞である限り制限されない。
【0012】
人工多能性幹細胞の作製に使用する動物の体細胞、胚性幹細胞、及び生殖細胞由来多能性幹細胞は、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、サル等の哺乳動物に由来する限り制限されない。また、本明細書に開示される誘導方法によって誘導された腹膜中皮細胞を、動物個体への移植に用いる場合、前記体細胞、胚性幹細胞、又は生殖細胞由来多能性幹細胞は、移植を受ける動物個体と同種の動物に由来することが好ましい。前記体細胞、胚性幹細胞、又は生殖細胞由来多能性幹細胞は、移植を受けるレシピエントと免疫適合性があることが好ましい。レシピエントは、心筋細胞移植が必要である動物個体である限り制限されない。例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ウシ、ヤギ、サル等の哺乳動物等を挙げることができる。
【0013】
免疫適合性は、HLA抗原、MHC抗原等の組織適合性抗原のタイプを解析することにより評価することができる。例えば、6種類のHLA抗原、MHC抗原等の組織適合性抗原のうち、5抗原以上一致する場合、免疫適合性があると評価することができる。
【0014】
人工多能性幹細胞は、公知の方法により製造することができる。例えば、体細胞がマウス由来である場合、Nature Protocols(VOL.4 NO.12 2009)、マウスiPS細胞の改良型樹立方法(CiRA M&M,2008年7月17日公開)等に記載の方法により人工多能性幹細胞を製造することができる。また、体細胞がヒト由来である場合、NATURE BIOTECHNOLOGY (VOL.26 NO.1 2008)、Current Protocols in Stem Cell Biology June, 2009 (01 June 2009, https://doi.org/10.1002/9780470151808.sc04a02s9)、Generation of Human induced Pluripotent Stem Cells(CiRA M&M, 2009年3月5日公開)、Human iPS cell culture under feeder-free conditions (CiRA_Ff-iPSC_protocol_Eng_v140310、2014年3月11日公開)、エピソーマルベクターを用いたヒトiPS細胞樹立方法(CiRA M&M, 2011年4月4日公開)、エピソーマルベクターを用いた末梢血からのiPS細胞樹立方法(CiRA M&M, 2013年1月10日公開)等に記載の方法により、人工多能性幹細胞を製造することができる。
【0015】
人工多能性幹細胞は、セルバンク等から入手してもよい。例えば、理化学研究所バイオリソース研究センター細胞材料開発室からは、ヒト由来の人工多能性幹細胞(HPS0002、HPS0354、HPS0014、HPS0003、HPS0009、HPS0029、HPS0223等)、マウス由来人工多能性幹細胞(APS0001、APS0002、APS0003、APS0004、APS0005、APS0006、APS0007等)及びウサギ由来の人工多能性幹細胞(APS0008、APS0009、APS00010、APS00011等)等を入手することができる。
【0016】
胚性幹細胞は、セルバンク等から入手してもよい。例えば、理化学研究所バイオリソース研究センター細胞材料開発室からは、ヒト由来の胚性幹細胞(HES0001、HES0002、HES0003、HES0004、HES0005、HES0006、HES0007、HES0008、HES0017、HES0018、HES0019、HES0020、HES0651、HES0652、HES0653等)、マウス由来の胚性幹細胞(AES0015、AES0016、AES0017、AES0018、AES0020等)、ウサギ由来の胚性幹細胞(AES0174、AES0175等)、マーモセット由来の胚性幹細胞(AES0166)等を入手することができる。
【0017】
幹細胞からインビトロで心筋細胞を分化させる方法は、幹細胞の心筋細胞への分化誘導を惹起できる限り制限されない。多能性幹細胞、特に人工多能性幹細胞の場合、例えば、Kadota S, et al. Stem Cell Reports. 2017;8:278-289. doi: 10.1016/j.stemcr.2016.10.009 及びIchimura H, et al. Sci Rep. 2020;10:11883. doi: 10.1038/s41598-020-68373-9.において報告された方法を例示できる。幹細胞の心筋細胞への分化誘導は、単層培養で行うことが好ましい。例えば、未分化の幹細胞を、Matrigel(Corning、NY、USA)等でコーティングしたディッシュ上で0.5から1.5 μM程度の CHIR99021を添加したEssential 8培地(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を用いて培養する。続いてday0からday 1は50~150 ng / mL程度のアクチビンAと B27サプリメント(minus insulin)加えたRPMI-1640培地で培養し、day1からday3は2から8 ng / mL程度の骨形成タンパク質4、0.5から1.5 μM程度の CHIR99021とB27サプリメント(minus insulin)を加えたRPMI-1640培地で培養し、day3からday5は0.5から1.5 μM程度のXAV939及びB27サプリメント(minus insulin)を添加したRPMI-1640培地で培養する。day5からday 7はB27サプリメント(minus insulin)を添加したRPMI-1640培地で培養する。その後、day7からB27サプリメントを添加したRPMI-1640培地等に交換し6日間程度培養する。さらに、グルコースを含まない乳酸を添加した培地に交換し、2-5日間程度培養する。その後、再度B27サプリメントを添加したRPMI-1640培地等に交換し所定期間培養を継続する。
【0018】
本明細書において、分化誘導の開始は、アクチビンA及びB27サプリメント(minus insulin)を添加したRPMI-1640培地に交換した時点とし、この時点を分化誘導0日目とする。また幹細胞から分化誘導して取得した心筋細胞を、以下「誘導心筋細胞」と呼ぶ。すなわち、誘導幹細胞が「幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞」に相当し、「誘導心筋細胞の集団」は、「幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞の集団」に相当する。
【0019】
(2)α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値の取得する方法
α-Bクリスタリン(alpha B crystallin:CRYAB)は、ヒートショックタンパク質の1つである。National Center for Biotechnology Information (NCBI)には、例えば、ヒトCRYAB 遺伝子はGene ID:1410として、ラットCRYAB 遺伝子はGene ID:116907364として、マウスCRYAB 遺伝子はGene ID: 12955として登録されている。
【0020】
誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団におけるα-Bクリスタリンをタンパク質として検出する方法として、免疫染色、ウエスタンブロッティング、フローサイトメトリー等の公知の方法を挙げることができる。また、α-BクリスタリンをmRNAとして検出する方法として、in situ ハイブリダイゼーション、RT-PCR(定量的RT-PCRを含む)、マイクロアレイ、RNA-Seq等の公知の方法を挙げることができる。また、α-Bクリスタリンタンパク質を発現する細胞は、α-Bクリスタリンを免疫染色で蛍光標識した後に、フローサイトメトリーで検出することができる。あるいは、α-BクリスタリンmRNAを発現する細胞は、α-BクリスタリンmRNAを、in situ ハイブリダイゼーションで蛍光標識した後に、フローサイトメトリーで検出することができる。
【0021】
誘導心筋細胞に対して、免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションを行う場合には、前処理として、誘導心筋細胞の集団をパラホルムアルデヒド、ホルマリン、及びアルコール等の公知の固定液で固定してから免疫染色又はin situ ハイブリダイゼーションに供することが好ましい。
【0022】
α-Bクリスタリンをタンパク質としてウエスタンブロッティング等で検出する場合には、前処理として、誘導心筋細胞の集団を所定の溶解バッファーで溶解する。溶解バッファーで溶解されたサンプルを検査サンプルとする。
【0023】
α-Bクリスタリンをタンパク質としてフローサイトメトリー等で検出する場合には、前処理として、トリプシン等の所定の酵素で細胞塊を剥離、分散し、個々の細胞を分散させることが好ましい。
【0024】
α-BクリスタリンをmRNAとしてRT-PCR、マイクロアレイ、RNA-Seq等で検出する場合には、前処理として、誘導心筋細胞の集団からtotal RNA又はmRNAを抽出する。また、必要に応じて、抽出したtotal RNA又はmRNAを鋳型として逆転写を行い、相補的DNA(cDNA)を合成しても良い。total RNA若しくはmRNA、又はcDNAを検査サンプルとする。
【0025】
免疫染色、ウエスタンブロッティング、又はフローサイトメトリーによってα-Bクリスタリンを検出するための一次抗体は、α-Bクリスタリンタンパク質を検出できる限り制限されない。例えば、抗α-Bクリスタリン抗体(1B6.1-3G4, ADI-SPA-222; Enzo Life Sciences)、抗α-Bクリスタリン抗体(ab281561; Abcam)等を挙げることができる。α-Bクリスタリンと結合した一次抗体は、一次抗体と結合する酵素標識二次抗体と、前記酵素と基質の反応により検出することができる。
in situ ハイブリダイゼーションに使用するプローブの作製方法は公知である。また、市販のプローブを使用してもよい。
【0026】
RT-PCRに使用するプライマー(定量的RT-PCRの場合にはプローブを含んでいても良い)は市販されているものを使用することができる。また、マイクロアレイも市販されているものを使用することができる。
RNA-Seqは、次世代シーケンサー(例えば、イルミナ社製)等を使用して、α-BクリスタリンmRNAのリード数を得ることができる。
【0027】
α-Bクリスタリンのタンパク質量の測定値は、例えば以下の方法により取得することができる。例えば、α-Bクリスタリンを免疫染色により検出する場合、顕微鏡下で一定の範囲におけるα-Bクリスタリン陽性細胞数をカウントすることで測定値として取得することができる。α-Bクリスタリンをウエスタンブロッティングにより検出する場合には、陽性シグナルの強度そのもの、シグナルの強度から得られたタンパク質量を測定値として取得することができる。α-Bクリスタリンをフローサイトメトリーにより検出する場合には、α-Bクリスタリンの陽性細胞の数、又は個々の細胞のα-Bクリスタリンのシグナルの強度を測定値として取得することができる。
【0028】
α-BクリスタリンのmRNAの測定値は、例えば以下の方法により取得することができる。α-BクリスタリンのmRNAをin situ ハイブリダイゼーションにより取得する場合、顕微鏡下で一定の範囲におけるα-Bクリスタリン陽性細胞数をカウントすることで測定値として取得することができる。α-BクリスタリンのmRNAをRT-PCRにより測定する場合、電気泳動により得られた陽性バインドのシグナルの強度を測定値として取得することができる。α-BクリスタリンのmRNAを定量的RT-PCRにより測定する場合には、定量値を測定値として取得することができる。α-BクリスタリンのmRNAをマイクロアレイにより検出する場合にはシグナルの強度を測定値として取得することができる。α-BクリスタリンのmRNAをRNA-Seqにより測定する場合、リード数を測定値として取得することができる。
【0029】
(2)誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団の状態を決定する方法
i.基準値との比較
本実施形態にかかる移植時期決定方法は、誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団の状態を決定すること含んでいてもよい。
【0030】
誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団の状態は、例えば、上記(1)において取得した測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値以上である場合に、前記誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団がレシピエントの心臓に移植できる状態に達していると決定することができる。また、上記(1)において取得した測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値よりも低い場合に、前記誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団をレシピエントの心臓に移植できる状態に達していないと決定することができる。
【0031】
基準値は、誘導心筋細胞の集団を心筋梗塞部位に移植した後に、移植細胞が増加し、移植片が心筋としての充分な大きさと機能を有することを評価できる値である限り制限されない。このような値は、例えば、次の方法で取得することができる。基準値を取得するために、対照幹細胞を使用する。対照幹細胞は、心筋細胞を分化誘導できる幹細胞である限り制限されない。上記(1)で述べた細胞を挙げることができる。好ましくは、レシピエントに移植する心筋細胞を分化誘導するために使用される幹細胞と同種であることが好ましい。上記(1)で述べた方法に従って、心筋細胞に分化誘導する。対照幹細胞に由来する誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団を誘導開始から、例えば、0日後、7日後、10日後、14日後、20日後、28日後、35日後、40日後、45日後、50日後、56日後、60日後、65日後、及びそれ以上の時点の少なくとも3つの時点で回収し、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値の取得と、心筋梗塞モデル動物の梗塞部位への移植を行う。移植後の心臓における移植部位の大きさ、左心室収縮機能等とα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を比較することにより、移植後の心臓における移植部位の大きさ、左心室収縮機能が良好となることを最も良く反映するα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を基準値とすることができる。又は、移植後の心臓における移植部位の大きさ、左心室収縮機能が良好となることを最も良く反映する基準値は、上記、各時点のα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値、及び移植部位の大きさ、左心室収縮機能等の評価値を、ROC(receiver operating characteristic curve)曲線、判別分析法、モード法、Kittler法、3σ法、p‐tile法等により解析することにより基準値を決定することもできる。また、基準値として、感度、特異度、陰性的中率、陽性的中率、第一四分位数等を例示できる。
【0032】
基準値は、あらかじめ取得指定おくことが好ましい。また、基準値を取得するための各時点のデータは複数、例えばn数が3から10程度であることが好ましい。基準値は、タンパク質の測定値及びmRNAの測定値それぞれについて取得する。タンパク質の基準値はタンパク質の測定値に対応し、mRNAの基準値はmRNAの測定値に対応する。
【0033】
ii.検量線の取得
本実施形態にかかる移植時期決定方法は、さらに、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値に基づいて培養時間に関する情報を取得することを含んでいてもよい。
【0034】
具体的には、(a)対照幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させる過程において、経時的に取得されたα-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値に基づいて、前記測定値と培養時間の二次元データに基づく検量線を取得することと、(b)前記測定値を検量線にあてはめ、前記測定値に対応する培養時間に関する情報を取得することと、を含む。
【0035】
培養時間に関する情報は、例えば、上記(2)において求めた実施に移植する予定である誘導心筋細胞、又は誘導心筋細胞の集団から取得された測定値を、対照幹細胞の誘導開始からの経過時間に換算した場合の培養時間を含む。
【0036】
(a)において、検量線は、以下の方法により取得することができる。例えば、基準値を取得する場合と同様に、対照幹細胞に由来する誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団を、誘導のため培養開始から、例えば、0日後、7日後、10日後、14日後、20日後、28日後、35日後、40日後、45日後、50日後、56日後、60日後、65日後、及びそれ以上の時点の少なくとも3つの時点で回収し、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得し、測定値と培養時間の二次元データから検量線を取得する。検量線は、タンパク質の測定値及びmRNAの測定値それぞれについて取得する。検量線は、回帰分析により求められた回帰直線又は回帰曲線であることが好ましい。
【0037】
続いて、(b)において、上記(2)において求めた実施に移植する予定である誘導心筋細胞、又は誘導心筋細胞の集団から取得された測定値を検量線にあてはめることで、測定時間に対応する培養時間に関する情報を取得する。タンパク質の検量線はタンパク質の測定値に対応し、mRNAの検量線はmRNAの測定値に対応する。
【0038】
実際に移植する誘導心筋細胞の集団は、レシピエント自身から調製された人工多能性幹細胞を使用することが想定される。このような場合、年齢的な要素等レシピエントの状態によって細胞の増殖速度や成熟速度が異なる場合がある。検量線を使って、培養時間に関する情報を取得することは、このような細胞の増殖速度や成熟速度の個体差を知るために有用である。
【0039】
本実施形態にかかる移植時期決定方法は、さらに、(c)上記(2)において取得した実際に移植する予定である誘導心筋細胞、又は誘導心筋細胞の集団から取得された測定値に対応する培養時間と、上記i.で述べた基準値に対応する培養時間との差を算出することを含む。基準値は、上記i.で述べたように対照幹細胞に由来する誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団を、誘導のため培養開始から経時的に回収することによって生成される情報である。したがって、基準値には、その基準値が取得された際の誘導開始からの培養時間が対応している。前記測定値に対応する培養時間と、前記基準値に対応する培養時間との差は、正の値であっても負の値であってもよい。例えば、基準値に対応する培養時間が56日であり、測定値に対応する培養時間が30日であるとき、差は、(56日)-(30日)=26日として算出してもよく、(30日)-(56日)=-26日としてもよい。このような差を算出することにより、移植手術のスケジュールを立てやすくする。
【0040】
2.インビボにおける血管遊走能を評価する方法
本発明のある実施形態は、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞又はその細胞の集団のインビボにおける血管遊走能を評価する方法(以下、単に「評価方法」とも称することがある)に関する。前記方法は、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得することを含む。
【0041】
幹細胞、幹細胞からインビトロで心筋細胞を分化させる方法、α-Bクリスタリンのタンパク質の測定値、又はα-BクリスタリンのmRNAの測定値を取得する方法、及びこれらに関連する用語の説明は、上記1.の記載をここに援用する。
【0042】
誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団のインビボにおける血管遊走能は、例えば、上記(1)において取得した測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値以上である場合に、前記誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞の集団はインビボにおける血管遊走能が高いと決定することができる。また、上記(1)において取得した測定値を、前記測定値に対応する基準値と比較し、前記測定値が前記基準値よりも低い場合に、前記誘導心筋細胞又は誘導心筋細胞はインビボにおける血管遊走能が低いと決定することができる。
基準値の取得方法は、上記1.(2) i.に記載の方法をここに援用する。
【0043】
3.血管遊走能を有する細胞
本発明のある実施形態は、α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞であって、血管遊走能を有する前記細胞に関する。
幹細胞、幹細胞からインビトロで心筋細胞を分化させる方法、及びこれらに関連する用語の説明は、上記1.の記載をここに援用する。
【0044】
血管遊走能を評価する方法は特に制限されない。例えば、血管内皮細胞の遊走アッセイを行うことにより評価することができる。結果において、少なくとも心筋細胞への誘導開始から28日目に回収された誘導心筋細胞よりも、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、1.7倍以上、又は2倍以上遊走能が高い場合、血管遊走能が高いと評価することができる。
【0045】
4.細胞組成物
細胞組成物は、α-Bクリスタリンを発現する、幹細胞からインビトロで心筋細胞に分化させた細胞の集団と、保存液を含む。細胞組成物は、心筋梗塞等で一部の心筋組織が死滅した部位等に移植することができる。また、細胞組成物は、移植後に血管遊走能を増強することができる。細胞組成物は単離した細胞集団の細胞浮遊液であっても凍結状態であってもよい。また、細胞組成物に含まれる細胞の集団は、シート状、又は球状等の塊状に組織化した心筋細胞の集団であってもよい。シート状に組織化した心筋細胞は、シャーレ内で、幹細胞から心筋細胞に分化させた際、シャーレの底にシート状に接着している心筋細胞をトリプシン等の酵素を用いずに、シート状のまま剥離することによって得られる。この剥離方法は公知である。塊状等に組織化した心筋細胞は、三次元培養下で、幹細胞から心筋細胞に分化させることにより調製できる。さらに、細胞集団は、培養中の細胞であってもよい。
【0046】
保存液は、細胞が移植後に心筋としての機能を発揮できる限り制限されない。例えば、CELLBANKER1 plus試薬(タカラバイオ)、クライオスカーレス(商標) DMSOフリー(バイオベルデ株式会社)、STEM-CELLBANKER DMSO Free GMP grade(タカラバイオ株式会社)等を使用することができる。また、保存液に替えて、細胞培養用の培地を使用してもよい。
【0047】
なお、凍結保存を行う場合、誘導心筋細胞の集団に対して、下記処理を行うことが好ましい。凍結保存の前日、誘導心筋細胞の集団を、例えば、42℃から44℃程度で25分から35分間程度熱ショックに晒す。誘導心筋細胞の集団を90~100 ng / mL程度のインスリン様成長因子1(IGF1)、180から220 nM程度のシクロスポリンA、及び8から12 μM 程度のY-27632添加した培地で12時間から24時間培養する。細胞をトリプシン等の酵素より細胞を剥離、単離する。単離した細胞を細胞保存液に懸濁して凍結保存する。
【0048】
5.検査試薬及び検査キット
本発明のある実施形態は、上記移植時期決定方法、又は評価方法に使用するための検査試薬、及び検査試薬を含む検査キットに関する。
検査試薬は、α-Bクリスタリンタンパク質検出試薬及び/又はα-BクリスタリンmRNA検出試薬を含み得る。
【0049】
α-Bクリスタリンタンパク質検出試薬は、少なくともα-Bクリスタリンタンパク質の一部に結合可能な一種又は複数の抗体(例えば、一次抗体)を含む。「抗体」は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらの断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab)2等)のいずれも用いることができる。免疫グロブリンのクラス及びサブクラスは特に制限されない。また、前記抗体は、抗体ライブラリからスクリーニングされたものであってもよく、キメラ抗体、scFv等であってもよい。
また、抗体は必ずしも精製されている必要はなく、抗体を含む抗血清、腹水、これらから画分された免疫グロブリン画分等であってもよい。
【0050】
検査試薬に含まれる抗体は、乾燥状態であってもよく、リン酸緩衝生理食塩水等のバッファーに溶解されていてもよい。さらに、検査試薬は、β-メルカプトエタノール、DTT等の安定化剤;アルブミン等の保護剤;ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル等の界面活性剤、アジ化ナトリウム等の防腐剤等の少なくとも一つを含んでいてもよい。
α-Bクリスタリンタンパク質と結合する抗体は、酵素や蛍光色素で標識されていてもよい。
【0051】
α-Bクリスタリンタンパク質検出試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、α-Bクリスタリンタンパク質と結合する抗体が未標識の一次抗体である場合には、検査キットに酵素又は蛍光色素で標識された二次抗体が含まれていてもよい。さらに、検査キットには前記酵素と反応する基質が含まれていてもよい。
【0052】
α-BクリスタリンmRNA検出試薬は、α-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAの全体又は一部とハイブリダイズする核酸を含む。核酸は、プライマー、及び/又はプローブとしての機能を有する検出用の核酸(DNA又はRNA)であることが好ましい。検出用核酸の長さは、特に制限されない。
【0053】
検出用核酸が、PCR反応に使用されるプライマーであれば、α-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは50 mer以下であり、より好ましくは30 mer以下であり、さらに好ましくは、15~25 mer程度である。プライマーには、α-Bクリスタリン又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。また、プライマーは、蛍光色素等で標識されていてもよい。
【0054】
また、RT-PCRには、プライマーの他にPCR産物のリアルタイムの定量のために使用される、PCR反応中に分解される定量用プローブを使用することもできる。定量用プローブもα-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNA cDNAとハイブリダイズする限り、制限されない。定量用プローブは、α-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAとハイブリダイズする配列を含む、5~20 mer程度の核酸であることが好ましい。さらに定量用プローブの一端には、蛍光色素が標識され、定量用プローブのもう一端には、当該蛍光色素のクエンチャーが標識されていることが好ましい。
【0055】
検出用核酸が、マイクロアレイ等においてキャプチャープローブとして使用されるものであれば、α-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAとハイブリダイズする配列が、好ましくは100 mer程度であり、より好ましくは60 mer程度であり、さらに好ましくは、20~30 mer程度である。キャプチャープローブには、α-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。さらにキャプチャープローブは、チップに固定化されていることが好ましい。
【0056】
検出用核酸が、in situハイブリダイゼーション用のプローブである場合、検出用核酸は、α-BクリスタリンmRNAとハイブリダイズする配列が、15~100 mer程度のオリゴヌクレオチドであってもよく、100 merを超えるポリヌクレオチドであってもよい。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。in situハイブリダイゼーション用のプローブには、ジゴキシゲニン、蛍光色素等の標識物質が結合されうる。プローブには、α-BクリスタリンmRNAとハイブリダイズしない配列が含まれていてもよい。
【0057】
α-BクリスタリンmRNA検出試薬は、検査試薬と試薬の使用方法を記載した又は試薬の使用方法を記載するウェブページのURLが記載された添付文書を含む検査キットとして提供されてもよい。また、RT-PCRによりα-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAを検出する場合には、検査キットに核酸増幅試薬(耐熱性DNAであってもポリメラーゼ、バッファー、dNTP等を含む)、逆転写酵素等を含んでいてもよい。核酸増幅試薬には、必要に応じてSYBER GREEN(登録商標)等の色素が含まれていてもよい。マイクロアレイによりα-BクリスタリンmRNA又はα-BクリスタリンmRNAのcDNAを検出する場合には、検査キットにハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。in situハイブリダイゼーションによりα-BクリスタリンmRNAを検出する場合には、検査キットに、プロティナーゼK等のタンパク質分解酵素、ハイブリダイゼーション用バッファー、洗浄用バッファー等が含まれていてもよい。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して、本発明の実施形態についてより詳細に説明するが、本発明は、実施形態に限定して解釈される者ではない。
【0059】
I.材料及び方法
1.蛍光及び発光レポーターhiPSCの作製
GCaMP3を恒常的に発現するトランスジーンを、ジンクフィンガーヌクレアーゼ介在遺伝子導入により、253G1 hiPSCのアデノ随伴ウイルス統合部位1(AAVS1)遺伝子座に導入した。導入方法は、Shiba Y, et al. Nature. 2012;489:322-325. doi: 10.1038/nature11317. 及びOgasawara T, et al. Sci Rep. 2017;7:8630. doi: 10.1038/s41598-017-09217-xにしたがった。Venus-Akalucを発現するhiPSCは、CRISPR / Cas9を介した遺伝子導入によって作製した。簡単に説明すると、pSF-CAG-Ub-Puroクローニングベクター(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国; OGS600)に、Venus-Akaluc を発現するためのCAG promoterを備える第1の配列と、LoxP部位に囲まれたUbcプロモーターによって発現が誘導されるピューロマイシン耐性遺伝子をコードする薬剤選択カセットとを含む8.4 kbインサートによって囲まれたAAVS1 gRNA(ccaatcctgtccctagtggcccc)切断サイトに隣接する約800 bpの長さの相同性アーム(
図1A)を導入したベクタープラスミドを作成した。Venus-Akaluc配列は、理研バイオリソースセンター(つくば、日本; pcDNA3 Venus-Akaluc; RDB15781)からを取得した。エレクトロポレーションの前日、hiPSCを10 μMバルプロ酸で24時間処理した。 6 μgの AAVS1-Venus-Akalucターゲティングベクターと、3 μgのGuide-it CRISPR / Cas9 gRNAプラスミドベクター(タカラバイオ、滋賀、日本; 632601)、及び1 μg のRAD51発現ベクターを253G1hiPSCにエレクトロポレーションした(Lonza、バーゼル、スイス; Nucreofector 2bシステム)。エレクトロポレーションの2日後、トランスフェクトされた細胞を1 μg / mLピューロマイシンで4日間選択培養した。拡大培養後、pCAG-iCreプラスミド(10 μg; Addgene 89573)をエレクトロポレーションし、ピューロマイシン耐性遺伝子を含む選択カセットを除去した。トランスフェクションが成功したかいなかは、PCRを使ったジェノタイピングによって確認した。
【0060】
2.hiPSCからの心筋細胞の分化誘導
hiPSCからの心筋細胞(hiPSC-CM)の分化誘導は、Kadota S, et al. Stem Cell Reports. 2017;8:278-289. doi: 10.1016/j.stemcr.2016.10.009 及びIchimura H, et al. Sci Rep. 2020;10:11883. doi: 10.1038/s41598-020-68373-9.において報告された方法に、いくつかの変更を加えて単層培養にて行った。細胞は、253G1、201B7、及び610B1 hiPSC(理研バイオリソースセンター)を使用した。簡単に説明すると、
図1Bに示すように、未分化のhiPSCを、Matrigel(Corning、NY、USA)等でコーティングしたディッシュ上で1 μMの CHIR99021を添加したEssential 8培地(Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)を用いて培養した。続いてday0-1に100 ng / mLのアクチビンAと B27サプリメント(minus insulin)加えたRPMI-1640培地で培養し、day1-3に5 ng / mLの骨形成タンパク質4、1 μMの CHIR99021とB27サプリメント(minus insulin)を加えたRPMI-1640培地で培養し、day3-5に1 μMのXAV939及びB27サプリメント(minus insulin)を添加したRPMI-1640培地で培養した。day5-7はB27サプリメント(minus insulin)を添加したRPMI-1640培地で培養した。その後、day7からB27サプリメントを添加したRPMI-1640培地等に交換し6日間培養した。さらに、グルコースを含まない乳酸を添加した培地に交換し、2日間培養した。その後、再度B27サプリメントを添加したRPMI-1640培地等に交換し所定期間培養を継続した。
【0061】
3.フローサイトメトリー
分化した心筋細胞の純度は、フローサイトメトリーを使用してcTnT陽性細胞を分析解析することによって決定した。細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、マウスモノクローナルcTnT抗体(Thermo Fisher Scientific、クローン13-11; 100倍希釈)又はマウス免疫グロブリンG1カッパアイソタイプコントロール(BioLegend、San Diego、CA、USA;クローンMG1-45;100倍希釈)とインキュベートした。続いてAlexa Fluor647標識ヤギ抗マウス二次抗体(Thermo Fisher Scientific、200倍希釈)とインキュベーションした。細胞増殖率は、Click-iT Plus EdU Pacific Blue Flow Cytometry Assay Kit(Thermo Fisher Scientific、C10636)を使用して測定した。蛍光シグナルは、BD FACS Canto II(BD Biosciences、San Jose、CA USA)で検出し、FlowJo(BD Biosciences)ソフトウェアを使用して解析した。
【0062】
4.移植細胞の準備
上記2.の方法で取得したhiPSC-CMを、分化誘導開始から28日目と56日目に凍結保存し(それぞれD28-CMとD56-CMとする)、細胞注入の直前に解凍した。凍結保存の前日、細胞に43℃で30分間熱ショックを与えた。細胞をTrypLE Select試薬(ThermoFisherScientific)で単離する前に、100 ng / mLインスリン様成長因子1(IGF1、PeproTech、ニュージャージー州クランベリー、米国)、200 nMシクロスポリンA(ノバルティス、バーゼル、スイス)、及び10 μM Y-27632を培養液に添加した。この培地で一晩培養し、細胞をTrypLE Select試薬(ThermoFisherScientific)とインキュベートすることにより単離した。
【0063】
単離したhiPSC-CMをCELLBANKER1 plus試薬(タカラバイオ、CB023)に再懸濁し、-80℃冷凍庫においてクライオバイアル内で-1℃/分緩徐に凍結してから、-150℃の冷凍庫に保管した。解凍は、凍結保存した細胞をB27サプリメント添加RPMI-1640培地で洗浄し、RPMI培地ベースの生存促進カクテルに再懸濁した。生存促進カクテルは、全体容量の50%に増殖因子除去マトリゲルを含み、その他は100 mM ZVAD[ベンジルオキシカルボニル-Val-Ala-Asp(O-メチル)-フルオロメチルケトン](Calbiochem、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)、50 nM Bcl-XL BH4(細胞透過性TATペプチド、Calbiochem)、200 nMシクロスポリンA(Novartis)、100 ng / mL IGF1(PeproTech)、及び50 μMピナシジル(Sigma-Aldrich)を添加したRPMI培地である。
【0064】
5.動物の手術
本実施例において、動物実験は、国の規制とガイドラインに従って、すべて動物実験委員会によってレビューされ、最終的に信州大学の学長による承認を受けた上で行った(承認番号290010、019131)。 雄の無胸腺ラット(9~11週齢)(F344 / NJcl-rnu / rnu、CLEA Japan、東京)に、D28-CM(n = 22)、D56-CM(n = 24)、又はコントロールとしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(n = 5)を投与した。 心筋梗塞を誘発してから7日目に、生存促進カクテル又はPBSに懸濁した2×107個のhiPSC-CMを、29ゲージの注射針を使用してラット心臓の前壁の2つの部位に注入した。
【0065】
心筋梗塞モデルは、以下の方法で作製した。ラットを、MMBの皮下投与、続いて機械的人工呼吸器を使用した2~3%のセボフルラン(Mylan、Canonsburg、PA、USA)の挿管及び吸入によって麻酔した。体温を維持するために、加温パッドで手術を行った。心筋梗塞を誘発するために、左前胸部を切開し、開胸装置で肋間腔を開いて心臓を露出させ、左前下行枝の中央部分を6-0絹製縫合糸(夏目製作所, 東京, 日本)で結紮した。 次に、4-0の絹製縫合糸(夏目製作所)を使用して胸を閉じた。生理食塩水(大塚製薬)で希釈したメロキシカム(0.2mg / kg; Metacam、ベーリンガーインゲルハイム、東京、日本)を0.05mL / kg体重の用量で皮下投与した。アチパメを筋肉内注射した後、自発呼吸が回復した時点でラットから抜管した。
【0066】
6.細胞移植
心筋梗塞を誘発してから7日目に、凍結保存したhiPSC-CM(2×107)を解凍し、マトリゲルを含む生存促進カクテルに懸濁して、動物あたりの容量を70 μLに調整した。細胞懸濁液又はリン酸緩衝生理食塩水(PBS;コントロール)は、29ゲージの注射針を使用してラット心臓の前壁の2つの部位に直接注入した。
【0067】
細胞移植中に使用されたMMB麻酔薬、拮抗薬、及び鎮痛薬は、心筋梗塞を誘発するための手術で使用したものと同じものを使用した。増殖中の細胞を可視化するために、hiPSC-CMを細胞採取の1日前に10μMの5-エチニル-2'-デオキシウリジン(EdU、Click-iT EdU Imaging Kits、C10337、Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で標識した。
図7Aに示すように、/ kgブロモデオキシウリジン(BrdU、Roche、バーゼル、スイス)を移植後5日目と6日目にラットに腹腔内投与し、7日目にラットの心臓を採取した。
【0068】
7.バイオ発光イメージング(BLI)
発光基質であるAkaLumine-HCl(TokeOni、Sigma-Aldrich、808350)を生理食塩水で10 mMに希釈し、-80℃で保存した。 BLIは、イメージングシステム(NightOWL II LB983、Berthold、Bad Wildbad、ドイツ)を使用して実行し、Indigo2ソフトウェアを使用して分析した。
【0069】
in vitro BLIでは、誘導後28日目又は56日目のAkaluc発現hiPSC-CMをさまざまな細胞数(0、1×103、5×103、1×104、5×104、及び1×105)となるように96ウェルプレートに播種した。翌日、500 μMのTokeOni(100 μL /ウェル)で細胞を処理した直後に、4×4のビニングと1分の露光時間で細胞画像を取得した。
【0070】
in vivo BLIの場合、ラットに麻酔をかけ、TokeOni(20 nmol / g)をラットに静脈内に投与した。ラットの画像は、hiPSC-CM移植後2、7、14、28、56、及び84日目、又はhiPSC移植後1日目に、8×8のビニング及び2分の曝露時間で取得した。
【0071】
8.組織学及び免疫組織化学
ラットの心臓を採取し、2 mmの厚さにスライスした。スライスした組織を4%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、パラフィンに包埋し、5μmの厚さに薄切した。切片を脱パラフィン、浸水処理し、一次及び二次抗体とインキュベートした。使用した抗体は
図2に示す。
【0072】
9.RNAシーケンシング(RNA-seq)
in vitroサンプルは、メーカーのプロトコルに従ってDNase処理を含むRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用してトータルRNAを単離した。ヒト胎児心臓RNA(タカラバイオ、Clontech、636583)及びヒト成人心臓RNA(タカラバイオ、Clontech、636532)は購入した。in vivoサンプルは、ラットの心臓を採取し、スライスし、すぐにOCT包埋化合物に包埋し、-80℃で凍結した。クリオスタット(Leica、Wetzlar、Germany)を使用して組織を厚さ10 μmで薄切した連続切片を作製し、4 '、6-ジアミジノ-2-フェニルインドールで覆って、緑色蛍光タンパク質の自家蛍光によって移植片領域を可視化した。移植片領域は、レーザーマイクロダイセクションシステム(Leica)を使用して、膜コーティングされたスライド(Leica、11600289)に貼られた未染色の固定されていない標本から採取した。 Arcturus PicoPure RNA分離キット(Thermo Fisher Scientific)を使用して、ラット心臓組織の移植片領域からトータルRNAを抽出した。SMART-Seq v4 ultra 4 low input RNA kit for sequencingを使用して抽出したRNAからcDNAを合成した。ライブラリ調製は、Nextera DNA Library Prep Kitを使用して実施し、NovaSeq 6000プラットフォーム(イルミナ、サンディエゴ、カリフォルニア州、米国)でシーケンスを行った。
【0073】
RNA-Seqリードを、SLIDINGWINDOW:10:30のパラメーターを使用してTrimmomatic(v0.39)を使用してトリミングした。すべてのリードは、Xenome(v1.0.0)を使用してヒトとラットのリードに分けた。さらに、ヒトとして分類されたリードは、STAR(v2.7.2a)を使用してhg38リファレンスにマッピングし、遺伝子カウントマトリックスはfeatureCounts(v1.6.4)を使用して生成した。差次的発現分析は、M値正規化法のトリム平均を使用してedgeRパッケージで行った。主成分分析(PCA)を行い、PCAtoolsパッケージ(https://github.com/kevinblighe/PCAtools)を使用して、TPM正規化して得られたリード数を使用してプロットを生成した。最後に、clusterProfilerパッケージを使用して遺伝子オントロジー(GO)エンリッチメント解析を実行した。
【0074】
10.定量的逆転写PCR(qRT-PCR)
cDNAは、SuperScript IV First-Strand Synthesis System (Thermo Fisher Scientific)を使用してトータルRNAから合成した。 qRT-PCRは、Fast SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher Scientific)及びQuantStudio 3リアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)を使用して行った。各転写産物のコピー数は、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)レベルと比較した相対値で表した。各サンプルについて、3回測定を行った。プライマー配列を
図3に示す。
【0075】
11.ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)遊走アッセイ
遊走アッセイには、直径6.5 mmの24ウェルトランスウェルプレートと、孔径8 μmのポリカーボネートメンブレンインサート(Corning 3422)を使用した。 hiPSC-CMをウェルあたり1×105細胞の密度で播種し、マトリゲルでプレコートした24ウェルトランスウェルプレートの下部チャンバー内で5 μM Y27632を含む500μL RPMI-B27培地で培養した。HUVEC(ロンザ C2519A、ロット18TL075851)は、EGM2サプリメント(Lonza CC-3162)を含むEBM2培地で培養した。HUVECは、3代継代した後実験に使用た。hiPSC-CMを播種してから24時間後に、培地をB27サプリメント加RPMI培地に交換した。このときY27632は使用しなかった。 hiPSC-CMの培養培地をB27サプリメント加RPMI培地に交換してから交2日後、HUVEC(200 μL B27サプリメント加RPMI培地で細胞を浮遊させ、5×104細胞/ウェルとなるように播種)を、マトリゲルでプレコートされた上部トランスウェルチャンバーに播種した。 37℃で22時間インキュベートした後、上部チャンバーの上面のHUVECを綿棒で清浄し、上部チャンバーの下面のHUVECを4%パラホルムアルデヒドで15分間固定した後、0.2%クリスタルバイオレット溶液(Sigma-Aldrich)で10分間染色した。染色された細胞を倒立顕微鏡(キーエンス、大阪、日本; BZ-X710)で観察し、10箇所のランダムな顕微鏡視野(倍率×200)でカウントした。
【0076】
small interfering RNA(siRNA)ノックダウン実験では、Integrated DNA Technologies (Coralville、IA、USA)から入手したTriFECTa RNAiキットに含まれるヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ1(HPRT1)(S1ポジティブコントロール)、熱ショックタンパク質ファミリーB (small)メンバー6(HSPB6)(hs.Ri.HSPB6.13.1)、及び(CRYAB(hs.Ri.CRYAB.13.2)siRNAを使用した。50 μLのOpti-MEMI(商Reduced Serum Media(Thermo Fisher Scientific)、2.5 μLのTransIT-TKOトランスフェクション試薬(タカラバイオ、V2154)、及び10 nM siRNAの混合物を、hiPSC-CMを24ウェルトランスウェルプレートに播種した後24時間後に添加し、siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後にHUVECとの上述した方法に従って共培養を行った。
【0077】
共培養を開始した後に、RNeasy Micro Kit(Qiagen)を使用して、siRNAをトランスフェクトしたhiPSC-CMからトータルRNAを採取した。
【0078】
12.統計分析
統計的有意差は、unpaired t-test又は一元配置分散分析(ANOVA)とTukey’s multiple comparison testを使用して検定した。p <0.05の時、統計的有意差があるとした。各実験データは、平均±標準誤差として表した。統計分析には、解析ソフトとしてSPSS、R、及びExcelを使用した。
【0079】
II.結果
1.in vitroにおける培養機関の延長によるhiPSC-CMの成熟の促進
図4Aに、実験計画の概略図を示す。hiPSCs (253G1, 201B7, and 610B1)から心筋細胞を分化誘導し、細胞分化誘導開始から28日目と56日目にhiPSC-CMを回収し、凍結保存した。
【0080】
心臓トロポニンT(cTnT)染色を用いたフローサイトメトリーで測定した心筋細胞の純度は70~90%であった(
図4B、
図4C)。 5-エチニル-2'-デオキシウリジン(EdU)染色で測定した平均増殖率は、28日目は9.7%であったが56日目には5.6%となり減少する傾向があった(n = 9、P = 0.10)。qRT-PCR解析により、hiPSC-CMの長期培養により、ベータミオシン重鎖(βMHC; MYH7)、MLC2v(MYL2)、心臓トロポニンI(cTnI; TNNI3)などの成熟サルコメア遺伝子の発現がアップレギュレートされた。未成熟サルコメア遺伝子MYH6の発現は減少した(
図4D)。さらに、心肥大関連遺伝子(NPPAおよびNPPB)及びcalcium handling関連遺伝子(RYR2およびATP2A2)の発現は、D56-CMにおいて亢進していた(
図4E)。非心筋細胞関連遺伝子(CD31; PECAM1、MYH11、及びTCF21)の発現に有意な変化はなかった。
【0081】
2.バイオ発光イメージング(BLI)
ラットに心筋梗塞を誘発してから7日後に、その心臓に253G1から誘導したAkalucを発現するD28-CM又はD56-CMを移植した後、in vitro BLIにより発光強度の細胞数依存的な増加を確認した(
図5A、
図5B)。続いて、ラット心臓のhiPSC-CM移植片からの信号強度の時間的変化を測定した(
図5C、D)。観察は、移植後2日目、4週間目、8週間目、12週間目に行った。時系列比較では、D56-CM移植片のシグナル強度は有意な増加を示した(n = 6、P <0.0001、一元配置分散分析)。一方、このような変化はD28-CM移植片では確認できなかった(n = 5)。D28-CMグループとD56-CMグループを比較すると、移植後2日目と7日目の初期段階における移植片生着率に有意差は観察されなかった。一方、D56-CM移植片は、2週目以降にD28-CM移植片よりも強いシグナル強度を示し、特に、移植後8週間で、D28-CM移植片よりもD56-CM移植片で有意に強いシグナルが検出された。以上のことからD56-CM移植片は移植後数か月してから細胞数が増加することを示唆された。心エコー検査の結果、D28-CM及びD56-CM移植群の両方において、移植後12週間で左心室収縮機能の有意な改善が認められた(
図5E、
図5F)。
【0082】
3.延長培養の効果
延長培養の効果を観察するため、移植後12週間目に移植部位の組織学的及び免疫組織化学的分析を行った。
図6Aに移植したhiPSC-CMに由来するGFPを免疫染色した画像を示す。また、
図6Bに左心室(LV)面積で正規化した移植片面積のグラフを示す(各グループあたりn = 10)。D56-CMの平均移植片サイズはD28-CMの平均移植片サイズよりも有意に大きかった。瘢痕をピクロシリウスレッド染色(PSR)で検出し(
図6C)、健常心筋はファストグリーン染色により確認した。瘢痕領域に生着したhiPSC-CM を確認した(
図6C矢印)、
図6Dに、LV面積で正規化した梗塞領域の面積を示す(各群あたりn=10)。D28-CM移植片とD56-CM移植片の間で、瘢痕サイズに有意差はなかった。
【0083】
図6Eに、hiPSC-CMに由来するGFP陽性細胞移植片領域(緑)内にwheat germ agglutinin (WGA)により細胞膜が赤く染色されている画像を示す。
図6Fに、平均細胞断面積(μm
2)を定量化したグラフを示す。細胞数は、D28-CM群がn = 150、及びD56- CM群がn = 120であった。D28-CM移植片とD56-CM移植片の間で、個々の細胞の断面積に有意差はなかった。しかし、βMHC陽性細胞中のDAPI染色陽性核をカウントしたところ、D56-CM移植片の細胞数は、D28-CM移植片の細胞数よりも有意に多かった(
図6G、
図6H)。これらの結果は、D56-CM移植片の拡大が肥大ではなく過形成によって引き起こされたことを示している。成熟した心筋細胞のマーカーであるサルコメアの長さ(
図6I、
図6J)を比較した。D28-CMと比較して、D56-CM移植片でサルコメアが伸張していた。また、ヒト核(ヌクレオリン)陽性移植片において、心筋トロポニンI(cTnI)の発現を確認した(
図6K、
図6L)。D28-CM移植片と比較した場合、D56-CM移植片で心筋トロポニンI陽性の成熟心筋を割合が多くなっていた。
以上の結果から、移植前のhiPSC-CMの延長期間培養により、移植後のhiPSC-CMの生着と成熟を促進することが示された。
【0084】
4.移植後の心筋細胞の細胞周期の再入
hiPSC-CM 特にD56-CM移植片増大のメカニズムを調べるために、移植直後のhiPSC-CMの増殖について検討した。
図7Aに示すプロトコルに従って、細胞採取の前日、in vitroで増殖しているhiPSC-CMをEdUで標識し、次に移植後in vivoで増殖しているhiPSC-CMをBrdUで標識した(各グループn=3)。
図7Bから
図7Iはすべて、移植後7日目のデータを示す。
図7Bにin vitroで標識されたEdUを緑色に、 in vivo で標識したBrdUを赤色に、Lamin A + C(ヒト核膜)を白色に、NKX2.5 (心筋細胞核)を青色に標識した免疫染色画像を示す。EdU陽性細胞の数はBrdU陽性細胞よりも少なく、二重陽性細胞の数はD28-CMとD56-CMの両方の移植片で非常に少なかった(
図7B)。増殖しているhiPSC-CMのほとんどが移植後7日目にin vivoで細胞周期に再入していることが示された。
図7Cに核移植片におけるEdU陽性心筋細胞の割合を示す。
図7Dには、BrdU陽性心筋細胞の割合を示す。
図7Eには、EdUとBrdUとが共陽性の心筋細胞の割合を示す。D56-CM移植片はより多くのEdU陽性細胞を含み、増殖中のD56-CMは増殖中のD28-CMよりも生存及び生着する可能性が高いことを示した(
図7C)。一方D56-CM移植片よりもD28-CM移植片の方にBrdU陽性細胞が多く存在し、細胞分裂静止状態のD28-CMは静止状態のD56-CMよりも細胞周期に再入しやすいと考えられた(
図7D)。さらに、同様の移植片サイズ(
図7H、
図7I)を有するにもかかわらず、D56-CM移植片よりもD28-CM移植片でより多くのKi67陽性増殖細胞が観察された(
図7F、
図7G)。
【0085】
5.D56-CMの血管新生効果
移植片拡大のメカニズムについて調べるため、移植片領域における血管新生を観察した。
図8Aには、移植後1週目と12週目のD28-CM移植片とD56-CM移植片におけるCD31(緑)とβMHC(赤)の二重免疫染色像を示す。
図8Bに、D28-CM移植片とD56-CM移植片における微小血管数の増加を経時的に示す。D28-CM移植片と比較して移植後4~12週間は一貫してD56-CM移植片でCD31(PECAM1)陽性微小血管の数の増加が観察された(
図8A、
図8B)。次に、hiPSC-CMによる血管新生の可能性を証明するために、in vitroでD28-CM又はD56-CMと共培養したHUVECで遊走アッセイを行った。実験モデルを
図8Cに示す。
図8Dに、hiPSC-CMとの共培養後22時間での遊走したHUVECを定量化したグラフを示す。D28-CMと比較して、D56-CMはHUVECの遊走能が強かった。D56-CMの血管新生に関わる因子を特定するため、血管新生因子のプロテオームプロファイラーヒト血管新生抗体アレイ分析及び血管内皮増殖因子A(VEGFA)、線維芽細胞増殖因子(FGF2)、及びアンジオポエチン1(ANGPT1)のqRT-PCR分析を行った。しかし、D28-CMとD56-CMの間で既知の血管新生因子の発現に有意差は観察されなかった。
このことから、別の因子が血管新生に関与していることが示唆された。
【0086】
6.ヒートショックタンパク質の発現
RNA-seq解析を行い、D28-CM又はD56-CMの移植前と移植12週後の遺伝的プロファイルの違いを解析した。移植前のin vitroにおいて誘導したhiPSC-CMと移植後in vivoにおいて生着した細胞の両方からRNAを抽出し、Xenomeソフトウェアを使用してヒト由来とラット由来のリードを区別し、ヒト由来のリードをさらなる解析に用いた。PCAの結果は、心筋細胞の段階的な成熟がin vitroでの長期培養とin vivoの両方の条件下で観察されることを示した(
図9A)。移植後の細胞生着後12週間目におけるGO分析の結果から、D56-CMが多く発現する遺伝子が血管調節に関連するGO用語に紐付けられていた(
図9B)。ヒト血管新生プロファイラーアレイ分析結果と同様に、VEGFA、ANGPT1、及びFGF2を含む既知の血管新生因子の発現は、in vitro及びin vivo条件下でD56-CMとD28-CMの間で有意な差が無かった(
図9C)。
【0087】
図10Aに示すように、RNA-seq 解析ではMYH7、MYL2、CRYAB、及びHSPB6遺伝子は、D28-CMと比較してD56-CMおいて高い発現を示した。
【0088】
MYH7、MYL2の発現亢進は、qRT-PCR解析の結果(
図4C)と一致していた。D56-CMにおける分子量が小さいヒートショックタンパク質であるCRYABとHSPB6の発現亢進は、RNA-seq解析だけでなく、qRT-PCR(
図10B)及びウエスタンブロット解析とも一致していた(
図10Cから
図10F)。
【0089】
7.CRYABのノックダウンによる血管遊走作用の抑制
CRYABとHSPB6の血管新生効果を調べるために、CRYAB、HSPB6、又はその両方のsiRNAをHUVEC遊走アッセイの2日前にD56-CMにトランスフェクトした。
【0090】
siRNAによる各遺伝子の発現抑制をqRT-PCR解析により確認した(
図11A)。
図11Bに各siRNAをそれぞれトランスフェクションしたD56-CM を使用してHUVEC遊走アッセイを行った。CRYAB-siRNAをトランスフェクションしたD56-CMにおいて、HUVECの遊走が有意に阻害された。しかし、HSPB6-又はHPRT1-siRNA(コントロール)をトランスフェクションしたD56-CMでは、遊走抑制効果は観察されなかった(
図11B)。 したがって、本発明者らは、D56-CMに強く発現するCRYABを新規の血管新生因子として同定した。
【配列表】