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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】円偏波共用平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20230807BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20230807BHJP
   H01Q 1/42 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q21/08
H01Q1/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019119376
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021005817
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】須賀 智文
(72)【発明者】
【氏名】夏原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】石田 克義
(72)【発明者】
【氏名】大川 貴容美
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-103037(JP,A)
【文献】特開2004-088185(JP,A)
【文献】実開昭62-114519(JP,U)
【文献】特開2010-206683(JP,A)
【文献】特開平05-327344(JP,A)
【文献】特開平06-177640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/00- 21/30
H01Q 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板と下層給電素子基板が積層された直線偏波平面アンテナと、
前記直線偏波平面アンテナの放射面側に積層され、メアンダーラインポラライザで構成されて、前記2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換する偏波変換器と、
前記直線偏波平面アンテナと前記偏波変換器との間に介在されたレドームと、を備え、
前記直線偏波平面アンテナと前記偏波変換器との積層方向を回転軸として、前記直線偏波平面アンテナ又は前記偏波変換器を前記回転軸の軸周り方向に90°回転させることで、円偏波の切替を行う、
ことを特徴とする円偏波共用平面アンテナ。
【請求項2】
前記レドームは、前記直線偏波平面アンテナ側レドームと、前記偏波変換器側レドームとに分けられており、
前記直線偏波平面アンテナ及び前記直線偏波平面アンテナ側レドームと前記偏波変換器及び前記偏波変換器側レドームとがそれぞれ防水処理又は防塵処理あるいは防水処理及び防塵処理された、
ことを特徴とする請求項1に記載の円偏波共用平面アンテナ。
【請求項3】
前記偏波変換器の表面に、空間に放射する円偏波が左旋円偏波か右旋円偏波かを見分けるための識別子を設けた、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直交する直線偏波の電波を放射する直線偏波共用平面アンテナに、円偏波変換器を積層することで、2つの円偏波信号を送受信可能な円偏波共用平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信では、アップリンクとダウンリンクとで周波数および偏波を変えて、通信を行う方法が一般に採られている。また、地上でのユーザは移動体通信を目的とし、そのアンテナの向きが変化するため、この変化に対応できるように円偏波が用いられている。すなわち、送信と受信とで周波数を変えるとともに、その円偏波も右旋円偏波と左旋円偏波との2つの円偏波を用いている。
【0003】
そして、円偏波を送受信するためには、例えば、右旋円偏波用アンテナと左旋円偏波用アンテナを横並べに配置することが考えられるが、これでは、放射方向に直角な面における占有面積が大きくなる。このため、小型軽量化が可能な円偏波共用アンテナが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。この円偏波共用アンテナは、2つのマイクロストリップアレイアンテナをそれぞれの偏波面が直交するように重ねた直交2直線偏波アンテナに、偏波変換器を重ねたものである。また、偏波変換器は、導体からなる偏波線と格子を付着させた誘電体の偏波偏向シートの間に、比誘電率と厚さが空間インピーダンスに広帯域整合するように設定された誘電体シートを挿入したものである。
【0004】
ところで、近年、高周波数化が進んでいるが、特許文献1に記載の技術では、高い周波数に対応することが実質上困難となる場合がある。すなわち、特許文献1に記載の技術では、周波数が高くなるに従って偏波線の幅などを小さくする必要があるが、周波数の高さによっては偏波線などを形成することが困難な場合が生じる。例えば、周波数が30GHzの場合、偏波線の最小幅が0.045mm(0.0045λ)となり、形成、生産することが困難となる。
【0005】
そこで、図9に示すような円偏波共用平面アンテナが開発されている。
【0006】
この円偏波共用平面アンテナ6は、マイクロ波帯の衛星通信において、2つの円偏波信号(右旋円偏波と左旋円偏波)を送受信するアレイアンテナであり、下層から順に、直線偏波平面アンテナ7、偏波変換器8および上カバー体9が積層されている。
【0007】
直線偏波平面アンテナ7は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板732と下層給電素子基板716が積層されたアンテナで、下層から順に、第1の積層部71、第2の積層部72、第3の積層部73、第4の積層部74、第5の積層部75および第6の積層部76が積層されている。
【0008】
第1の積層部71は、下層から順に、下カバー711、ベース板712、発泡シート(誘電体)713、グランド板714、発泡シート715および下層給電素子基板716が積層されている。
【0009】
下層給電素子基板716は、偏波信号を受信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層給電基板と、所定間隔で配列された複数の矩形の下層給電パッチ(給電素子)と、この下層給電パッチに給電を行う下層給電線路とを備えている。
【0010】
第2の積層部72は、下層から順に、発泡シート721および下層スロット板722が積層されている。下層スロット板722は、下層給電パッチに対面する位置に、矩形のスロット開口が設けられている。
【0011】
第3の積層部73は、下層から順に、発泡シート731および上層給電素子基板732が積層されている。上層給電素子基板732は、偏波信号を送信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層給電基板と、下層給電パッチと同一に配列、配設された複数の矩形の上層給電パッチ(給電素子)と、この上層給電パッチに給電を行う上層給電線路とを備えている。
【0012】
第4の積層部74は、下層から順に、発泡シート741および上層スロット板742が積層されている。上層スロット板742は、上層給電パッチに対面する位置に、矩形のスロット開口が設けられている。
【0013】
第5の積層部75は、下層から順に、発泡シート751および下層無給電素子基板752が積層されている。下層無給電素子基板752は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層絶縁基板と、上層給電パッチ(給電素子)と同一に配列、配設された矩形で導電箔の複数の下層無給電パッチ(無給電素子)とを備えている。
【0014】
第6の積層部76は、下層から順に、発泡シート761および上層無給電素子基板762が積層されている。上層無給電素子基板762は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層絶縁基板と、下層給電パッチ(給電素子)と同一に配列、配設された略菱形状で導電箔の複数の上層無給電パッチ(無給電素子)とを備えている。
【0015】
偏波変換器8は、直線偏波平面アンテナ7の放射面側つまり上側に積層され、メアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852で構成されて、2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するものである。この実施の形態では、所定の帯域を得るために下層から順に、5つのメアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852が積層され、各メアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852の下側には発泡シート811、821、831、841、851が配設されている。
【0016】
上カバー体9は、偏波変換器8の上側を覆う積層体であり、下層から順に、発泡シート91、第1の中カバー92、発泡シート93、第2の中カバー94、発泡シート95および上カバー96が積層されている。
【0017】
このような構成の円偏波共用平面アンテナ6は、偏波変換器8がメアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852で構成されているため、高い周波数に適正に対応することが可能で、偏波偏向シートの場合に比べて線幅を大きくすることができ、実質的に製作することが可能となる。例えば、周波数が30GHzの場合であっても、単層メアンダーラインの最小線幅Wが約0.15mmとなり、エッチングによって容易かつ適正に形成、生産することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】特開2004-88185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ところが、上記の円偏波共用平面アンテナ6にあっては、直線偏波平面アンテナ7と偏波変換器8とを一体化しているため、直線偏波において一偏波を円偏波に変換して偏波切替(円偏波共用)をすることはできるが、偏波共用直線偏波アンテナ(二偏波)で円偏波化し、偏波切替をすることは出来なかった。
【0020】
仮に、偏波切替をしようとすれば、偏波変換器(ポラライザ)を90°回転させる必要があり、一体化されているため、このままでは偏波切替をすることが容易にはできず、アンテナ7と偏波変換器8とを分解しなければ、偏波切替をすることができないという問題があった。
【0021】
そこで本発明は、分解することなく、簡単に偏波切替を行うことができ、偏波共用直線偏波アンテナ(二偏波)で円偏波化を可能にする円偏波共用平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板と下層給電素子基板が積層された直線偏波平面アンテナと、前記直線偏波平面アンテナの放射面側に積層され、メアンダーラインポラライザで構成されて、前記2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換する偏波変換器と、前記直線偏波平面アンテナと前記偏波変換器との間に介在されたレドームと、を備え、前記直線偏波平面アンテナと前記偏波変換器との積層方向を回転軸として、前記直線偏波平面アンテナ又は前記偏波変換器を前記回転軸の軸周り方向に90°回転させることで円偏波の切替を行う、ことを特徴とする円偏波共用平面アンテナである。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記レドームは、前記直線偏波平面アンテナ側レドームと、前記偏波変換器側レドームとに分けられており、前記直線偏波平面アンテナ及び前記直線偏波平面アンテナ側レドームと前記偏波変換器及び前記偏波変換器側レドームとがそれぞれ防水処理又は防塵処理あるいは防水処理及び防塵処理された、ことを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記偏波変換器の表面に、空間に放射する円偏波が前記直線偏波平面アンテナに対して左旋円偏波か右旋円偏波かを見分けるための識別子を設けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、直線偏波平面アンテナと偏波変換器とをレドームを介して回転可能にしたので、直線偏波平面アンテナに対して偏波変換器を90°回転させるだけで、円偏波の切替を行うことができ、しかも、両者を着脱自在にすることにより偏波共用直線偏波平面アンテナ(送信:水平偏波、受信:垂直偏波、又は送信:垂直偏波、受信:水平偏波)としても使用できる。
【0026】
請求項2に記載の発明によれば、前記直線偏波平面アンテナ及び前記直線偏波平面アンテナ側レドームと前記偏波変換器及び前記偏波変換器側レドームとをそれぞれ防水、防塵処理したので、雨水、塵埃に対して強く、使用場所の環境に捉われず、送受信を可能にする。
【0027】
請求項3に記載の発明によれば、前記偏波変換器の表面に、空間に放射する円偏波が左旋円偏波か右旋円偏波かを見分けるための識別子を設けたので、円偏波共用平面アンテナが、左旋円偏波を放射する状態か右旋円偏波を放射する状態かを一見しただけで認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の実施の形態に係る円偏波共用平面アンテナの積層構造を示す分解斜視図である。
図2図1の円偏波共用平面アンテナの偏波変換器を示す分解斜視図である。
図3図1の円偏波共用平面アンテナの直線偏波平面アンテナを示す分解斜視図である。
図4図1の円偏波共用平面アンテナの直線偏波平面アンテナの1素子分を示す分解斜視図である。
図5図1の円偏波共用平面アンテナの単層メアンダーラインの設計パラメータを示す図である。
図6】直線偏波平面アンテナに対して偏波変換器を90°回転させた2つの状態で示す分解斜視図である。
図7図1の円偏波共用平面アンテナの周波数に対する軸比特性を示すグラフである。
図8図3の直線偏波平面アンテナの周波数に対するXPD特性を示すグラフである。
図9】従来の円偏波共用平面アンテナの積層構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0030】
図1図8は、この発明の実施の形態を示し、図1は、この実施の形態に係る円偏波共用平面アンテナ1の積層構造を示す分解斜視図である。この円偏波共用平面アンテナ1は、マイクロ波帯の衛星通信において、2つの円偏波信号(右旋円偏波と左旋円偏波)を送受信するアレイアンテナであり、下層から順に、直線偏波平面アンテナ2、レドーム3、偏波変換器4および上カバー体5が積層されている。
【0031】
直線偏波平面アンテナ2は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板232と下層給電素子基板216が積層されたアンテナである。具体的には、下層から順に、第1の積層部21、第2の積層部22、第3の積層部23、第4の積層部24、第5の積層部25および第6の積層部26が積層されている。
【0032】
第1の積層部21は、下層から順に、下カバー211、ベース板212、発泡シート(誘電体)213、グランド板214、発泡シート215および下層給電素子基板216が積層されている。発泡シート213、215は、発泡ポリエチレンや発泡ポリプロピレンのシート材で、後述する他の発泡シートについても同様である。また、グランド板214は、シールド用の遮蔽板で導電性を有する薄板、例えばアルミニウム板で構成され、後述する下層スロット板222および上層スロット板242も同様である。
【0033】
下層給電素子基板216は、偏波信号を受信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、図4に示すように、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層給電基板216aと、所定間隔で配列された複数の矩形の下層給電パッチ(給電素子)216bと、この下層給電パッチ216bに給電を行う下層給電線路216cとを備えている。下層給電パッチ216bおよび下層給電線路216cは、銅、アルミニウム、金などの導電箔によって形成されている。また、下層給電線路216cは、所定の方向に沿って延び、下層給電基板216a上で共通の給電幹線に接続されている。
【0034】
第2の積層部22は、下層から順に、発泡シート221および下層スロット板222が積層されている。下層スロット板222は、下層給電パッチ216bに対面する位置に、矩形のスロット開口222aが設けられている。また、このスロット開口222aには、対角線方向を横切るブリッジ部222bが設けられている。このブリッジ部222bは、後述する上層給電パッチ232bの励振方向と平行に設けられており、上層給電パッチ232bの給電時には、励振に対し強い影響を及ぼして、指向性などのアンテナ特性を改善する。また、下層給電パッチ216bの励振方向と直交し、しかも、その幅が下層給電パッチ216bに比べて十分狭いため、その影響は殆どなく、他のアンテナ特性を劣化させることはない。
【0035】
第3の積層部23は、下層から順に、発泡シート231および上層給電素子基板232が積層されている。上層給電素子基板232は、偏波信号を送信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層給電基板232aと、下層給電パッチ216bと同一に配列、配設された複数の矩形の上層給電パッチ(給電素子)232bと、この上層給電パッチ232bに給電を行う上層給電線路232cとを備えている。上層給電パッチ232bおよび上層給電線路232cは、下層給電パッチ216bなどと同様の導電箔によって形成されている。また、上層給電線路232cは、所定の方向(下層給電線路216cに直交する方向)に沿って延び、上層給電基板232a上で共通の給電幹線に接続されている。
【0036】
ここで、下層給電素子基板216が上層給電素子基板232よりも低い周波数帯域の偏波信号を受信する場合、下層給電パッチ216bのサイズは、上層給電パッチ232bよりも大きく設定されている。また、この実施の形態では、下層給電素子基板216は、受信偏波面と平行で紙面に垂直な面となる偏波信号を受信する。従って、下層給電素子基板216の励振方向もこの受信偏波面の方向となる。同様に、上層給電素子基板232は、送信偏波面と平行で紙面に垂直な面となる偏波信号を送信する。従って、上層給電素子基板232の励振方向もこの送信偏波面の方向となる。
【0037】
第4の積層部24は、下層から順に、発泡シート241および上層スロット板242が積層されている。上層スロット板242は、上層給電パッチ232bに対面する位置に、矩形のスロット開口242aが設けられている。
【0038】
第5の積層部25は、下層から順に、発泡シート251および下層無給電素子基板252が積層されている。下層無給電素子基板252は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層絶縁基板252aと、上層給電パッチ(給電素子)232bと同一に配列、配設された矩形で導電箔の複数の下層無給電パッチ(無給電素子)252bとを備えている。この下層無給電素子基板252は、その下層の発泡シート251によって、送信用の上層給電素子基板232の指向性に影響を及ぼす高さ位置に設置されており、上層給電素子基板232のビーム幅を狭くして正面利得を向上させる。
【0039】
第6の積層部26は、下層から順に、発泡シート261および上層無給電素子基板262が積層されている。上層無給電素子基板262は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層絶縁基板262aと、下層給電パッチ(給電素子)216bと同一に配列、配設された略菱形状で導電箔の複数の上層無給電パッチ(無給電素子)262bとを備えている。この上層無給電素子基板262は、その下層の発泡シート261によって、受信用の下層給電素子基板216に影響を及ぼす高さ位置に設置されている。さらに、下層給電素子基板216の励振方向に沿って延ばされた上層無給電パッチ262bの形状と発泡シート261とによって、下層給電素子基板216の指向性に影響を及ぼし、下層給電素子基板216のビーム幅を狭くして正面利得を向上させる。
【0040】
レドーム3は、直線偏波平面アンテナ2の放射面側つまり上側と、後述する偏波変換器4の下側との間に介在され、発泡シート311、313、322とカバー312、314、321、323とで構成され、直線偏波平面アンテナ2と偏波変換器4とを独立にするためのものである。この実施の形態では、レドーム3は五層レドームで、三層レドーム31、32を二つ積層することにより構成されている。
【0041】
具体的には、直線偏波平面アンテナ2の上側に積層された直線偏波平面アンテナ側レドーム31と偏波変換器4の下側に積層された偏波変換器側レドーム32とを有し、下層から順に、発泡シート311、カバー312、発泡シート313、カバー314、カバー321、発泡シート322、カバー323が積層されている。
【0042】
偏波変換器4は、図1に示すように、直線偏波平面アンテナ2の放射面側つまり上側に積層され、メアンダーラインポラライザ412、422、432、442、452で構成されて、2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するものである。この実施の形態では、所定の帯域を得るために下層から順に、5つのメアンダーラインポラライザ412、422、432、442、452が積層され、各メアンダーラインポラライザ412、422、432、442、452の下側には発泡シート411、421、431、441、451が配設されている。
【0043】
メアンダーラインポラライザ412、422、432、442、452は、絶縁性を有するフレキシブル基板などの上に、導線をクランク状に折り曲げた単層メアンダーライン4aを配置したものであり、メアンダーラインポラライザ412、452が第1の同一構造、メアンダーラインポラライザ422、442が第2の同一構造、メアンダーラインポラライザ432が第3の構造となっている。
【0044】
ここで、単層メアンダーライン4aの性能、特性は、図5に示すように、ピッチP、高さH、周期D、幅Wの4つの設計パラメータ等に依存し、所望の特性が得られるように設計パラメータが設定されている。この際、所望の軸比特性、円偏波性能が得られるように、メアンダーラインポラライザ412、452のピッチP、高さH、周期D、幅W、メアンダーラインポラライザ422、442のピッチP、高さH、周期D、幅W、メアンダーラインポラライザ432のピッチP、高さH、周期D、幅Wが設定されている。
【0045】
上カバー体5は、偏波変換器4の上側を覆う積層体であり、図1に示すように、下層から順に、発泡シート51、第1の中カバー52、発泡シート53、第2の中カバー54、発泡シート55および上カバー56が積層されている。
【0046】
このように構成された円偏波共用平面アンテナ1のうち、下側の直線偏波平面アンテナ2及び直線偏波平面アンテナ側レドーム31は、防水、防塵処理が施され、また、上側の偏波変換器側レドーム32、偏波変換器4及び上カバー体5は、防水、防塵処理が施されており、これにより、円偏波共用平面アンテナ1は雨水、塵埃にから保護されている。
【0047】
そして、これら直線偏波平面アンテナ2及び直線偏波平面アンテナ側レドーム31と、偏波変換器側レドーム32、偏波変換器4及び上カバー体5とは、回転自在にされており、図6に示すように、直線偏波平面アンテナ2側(図6の下側)を固定しておいて、上側の偏波変換器4側を回転すること(図6の上側の右から図6の上側の左へ)で、偏波切替を行うことができる。例えば、受信側において、回転前の図6の上側の右の状態が左旋円偏波を、回転後の図6の上側の左の状態が右旋円偏波を、放射するようになっている。
【0048】
なお、図6の下側半分は直線偏波平面アンテナ2を、上側半分には2つの状態(回転前、回転後)の偏波変換器4を示す。
【0049】
このような両者を回転可能にするために、直線偏波平面アンテナ2側と偏波変換器4側とに中心軸と中心孔とをそれぞれに設けることが考えられるが、他には、両者を着脱自在にしておき、両者を分離した後、一方を90°回転させて、再度取付けるようにしても良い。この場合、直線偏波平面アンテナ2側と偏波変換器4側とにそれぞれ位置決め用の凹部、凸部を設けるようにしておいても良い。
【0050】
また、上記上カバー体5の表面(上面)の2つの角部には、それぞれ、異なった識別子(○印、×印)Aが設けられている。この識別子Aは上述のように偏波変換器4側を90°回転させたときに左旋円偏波か右旋円偏波かを見分けるためのものである。
【0051】
下側の直線偏波平面アンテナ2の正面側の角部には識別子Bが設けられている。なお、識別子Bを図6で厚さ部分に黒塗りで表現したが、第1の積層部21の下面(図面では隠れた位置)に設けられている。
【0052】
これにより、偏波変換器4を回転させたときに、下側の直線偏波平面アンテナ2との位置関係で、現時点で左旋円偏波か右旋円偏波かを判別することができる。
【0053】
図6で明らかなように、回転前の偏波変換器4の識別子Aの「×印」が正面の位置にあり(右側の図)、回転後の偏波変換器4の識別子Aの「○印」が正面の位置にあり(左側の図)、その時の下側の直線偏波の識別子Bは動かないため、直線偏波平面アンテナ2の識別子Bが偏波変換器4の識別子Aが「○印」か「×印」かに対応しているかにより、左旋円偏波か右旋円偏波かを特定することができる。
【0054】
なお、下側の直線偏波に識別子Bが無い場合にあっても、このような直線偏波平面アンテナ2は取付け台等に取り付けて使用されるため、その取付け台などと円偏波の識別子Aとの位置関係で左旋円偏波か右旋円偏波かを判断することができる。
【0055】
また、このような構成の円偏波共用平面アンテナ1によれば、偏波変換器4がメアンダーラインポラライザ412、422、432、442、452で構成されているため、高い周波数に適正に対応することが可能で、偏波偏向シートの場合に比べて線幅を大きくすることができ、実質的に製作することが可能となる。例えば、周波数が30GHzの場合であっても、単層メアンダーライン4aの最小線幅Wが約0.15mmとなり、エッチングによって容易かつ適正に形成、生産することが可能となる。
【0056】
上記のように、単層メアンダーライン4aの設計パラメータを適正値に設定することで、所望の軸比特性が得られる。例えば、図7に示すように、受信側(a)で中心周波数F0の0.93~1.07倍の周波数範囲に渡って1.5dB以下(左旋円偏波、右旋円偏波共に)で良好であり、送信側(b)においても中心周波数F0の0.96~1.04倍の周波数範囲に渡って1.5dB以下(左旋円偏波、右旋円偏波共に)であり良好な(低い)軸比であることを示している。
【0057】
また、図1の直線偏波平面アンテナ2およびレドーム31のみの状態において、図8に示すように、受信側(a)で中心周波数F0の0.93~1.07倍の周波数範囲に渡って30dB以上で良好であり、送信側(b)においても中心周波数F0の0.96~1.04倍の周波数範囲に渡って30dB以上であり良好なXPD値であることを示している。
【0058】
一方、給電素子基板216、232の上側に無給電素子基板252、262が積層されているため、ビームが絞られて正面利得が向上する。また、無給電素子基板252、262が、フレキシブル基板などの薄い絶縁基板252a、262aに導電箔などからなる無給電パッチ252b、262bを設けた薄型、軽量なものであるため、小型軽量化が可能となる。
【0059】
また、給電素子基板216、232と無給電素子基板252、262との間に、無給電素子基板252、262の高さ位置を調整する発泡シート251、261が積層されているため、偏波信号の波長に応じて最適な高さ位置に無給電素子基板252、262を配置することができる。すなわち、給電素子基板216、232の給電素子の正面利得に影響する高さ位置に、無給電素子基板252、262の高さ位置を調節することで、2つの給電素子の正面利得に対して同時に改善を施すことが可能となる。
【0060】
さらに、下層給電素子基板216(下層給電パッチ216b)の励振方向に沿って延びるように上層無給電パッチ262bが設けられているため、下層給電素子基板216の正面利得に対して改善を施すことが可能となる。
【0061】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、無給電素子を積層したものについて説明したが、この発明においては、無給電素子の有無及び枚数などは問わず、また、偏波変換器に関してもその枚数は問わず、偏波変換器を90°回転させるだけで、円偏波の切替を行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
1 円偏波共用平面アンテナ
2 直線偏波平面アンテナ
216 下層給電素子基板
216b 下層給電パッチ(給電素子)
232 上層給電素子基板
3 レドーム
31 3層レドーム(直線偏波平面アンテナ側)
32 3層レドーム(偏波変換器側)
4 偏波変換器
412、422、432、442、452 メアンダーラインポラライザ
A 識別子(偏波変換器側)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9