(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】円偏波共用平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 3/12 20060101AFI20230807BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20230807BHJP
H01Q 15/24 20060101ALI20230807BHJP
H01Q 21/24 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01Q3/12
H01Q21/06
H01Q15/24
H01Q21/24
(21)【出願番号】P 2019124920
(22)【出願日】2019-07-04
【審査請求日】2022-06-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第53回宇宙通信研究会研究談話会、2018年7月13日開催
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 雅典
(72)【発明者】
【氏名】須賀 智文
(72)【発明者】
【氏名】夏原 啓一
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0109960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0172766(US,A1)
【文献】特開2019-103037(JP,A)
【文献】実開平04-086311(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 3/12
H01Q 21/00- 21/30
H01Q 15/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板と下層給電素子基板とが積層されたアンテナ部と、
前記アンテナ部の放射面側に積層され、メアンダーラインポラライザで構成されて前記2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するポラライザ部と、を有し、
前記アンテナ部と前記ポラライザ部とのうちのいずれか一方が軸を備えるとともに、他方が、前記軸が嵌合する軸受を備え、
前記アンテナ部と前記ポラライザ部とが所定の位置関係にあるときに、これらアンテナ部とポラライザ部との位置関係を固定する固定具を備える、
ことを特徴とする円偏波共用平面アンテナ。
【請求項2】
前記軸及び前記軸受は、一端が前記アンテナ部又は前記ポラライザ部の外表面側部材に固定され、他端が前記アンテナ部又は前記ポラライザ部の前記外表面側部材と対向配置される内表面側部材に固定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の円偏波共用平面アンテナ。
【請求項3】
前記軸が、前記軸受と嵌合する円柱状部分を有し、かつ、前記軸受が、前記円柱状部分が嵌合する横断面円形の凹部である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナ。
【請求項4】
前記軸が、前記軸受と嵌合する四角柱状部分を有し、かつ、前記軸受が、前記四角柱状部分が嵌合する横断面四角形の凹部である、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナ。
【請求項5】
前記固定具が、前記アンテナ部又は前記ポラライザ部に取着される一端部と、前記ポラライザ部又は前記アンテナ部に設けられた引掛具に引掛けられる他端部と、前記一端部と前記他端部との間の弾性部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1~請求項4の何れか1項に記載の円偏波共用平面アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直交する直線偏波の電波を放射する直線偏波平面アンテナ(アンテナ部)に、円偏波変換器(ポラライザ部)を積層することで、2つの円偏波信号を送受信可能にした円偏波共用平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星通信では、アップリンクとダウンリンクとで周波数および偏波を変えて、通信を行う方法が一般に採られている。また、地上でのユーザは移動体通信を目的とし、そのアンテナの向きが変化するため、この変化に対応できるように円偏波が用いられている。すなわち、送信と受信とで周波数を変えるとともに、その円偏波も右旋円偏波と左旋円偏波との2つの円偏波を用いている。
【0003】
そして、円偏波を送受信するためには、例えば、右旋円偏波用アンテナと左旋円偏波用アンテナを横並べに配置することが考えられるが、これでは、放射方向に直角な面における占有面積が大きくなる。このため、小型軽量化が可能な円偏波共用アンテナが知られている(例えば、特許文献1等参照。)。この円偏波共用アンテナは、2つのマイクロストリップアレイアンテナをそれぞれの偏波面が直交するように重ねた直交2直線偏波アンテナに、ポラライザ部を重ねたものである。また、ポラライザ部は、導体からなる偏波線と格子を付着させた誘電体の偏波偏向シートの間に、比誘電率と厚さが空間インピーダンスに広帯域整合するように設定された誘電体シートを挿入したものである。
【0004】
ところで、近年、高周波数化が進んでいるが、特許文献1に記載の技術では、高い周波数に対応することが実質上困難となる場合がある。すなわち、特許文献1に記載の技術では、周波数が高くなるに従って偏波線の幅などを小さくする必要があるが、周波数の高さによっては偏波線などを形成することが困難な場合が生じる。例えば、周波数が30GHzの場合、偏波線の最小幅が0.045mm(0.0045λ)となり、形成、生産することが困難となる。
【0005】
そこで、
図11に示すような円偏波共用平面アンテナが開発されている。
この円偏波共用平面アンテナ60は、マイクロ波帯の衛星通信において、2つの円偏波信号(右旋円偏波と左旋円偏波)を送受信するアレイアンテナであり、下層から順に、アンテナ部70、ポラライザ部80および上カバー体90が積層されている。
【0006】
アンテナ部70は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板732と下層給電素子基板716が積層されたアンテナで、下層から順に、第1の積層部71、第2の積層部72、第3の積層部73、第4の積層部74、第5の積層部75および第6の積層部76が積層されている。
【0007】
第1の積層部71は、下層から順に、下カバー711、ベース板712、発泡シート(誘電体)713、グランド板714、発泡シート715および下層給電素子基板716が積層されている。
【0008】
下層給電素子基板716は、偏波信号を受信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層給電基板と、所定間隔で配列された複数の矩形の下層給電パッチ(給電素子)と、この下層給電パッチに給電を行う下層給電線路とを備えている。
【0009】
第2の積層部72は、下層から順に、発泡シート721および下層スロット板722が積層されている。下層スロット板722は、下層給電パッチに対面する位置に、矩形のスロット開口が設けられている。
【0010】
第3の積層部73は、下層から順に、発泡シート731および上層給電素子基板732が積層されている。上層給電素子基板732は、偏波信号を送信するための給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層給電基板と、下層給電パッチと同一に配列、配設された複数の矩形の上層給電パッチ(給電素子)と、この上層給電パッチに給電を行う上層給電線路とを備えている。
【0011】
第4の積層部74は、下層から順に、発泡シート741および上層スロット板742が積層されている。上層スロット板742は、上層給電パッチに対面する位置に、矩形のスロット開口が設けられている。
【0012】
第5の積層部75は、下層から順に、発泡シート751および下層無給電素子基板752が積層されている。下層無給電素子基板752は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い下層絶縁基板と、上層給電パッチ(給電素子)と同一に配列、配設された矩形で導電箔の複数の下層無給電パッチ(無給電素子)とを備えている。
【0013】
第6の積層部76は、下層から順に、発泡シート761および上層無給電素子基板762が積層されている。上層無給電素子基板762は、無給電素子がマトリクス状に配列された基板であり、フレキシブル基板などの絶縁性を有する薄い上層絶縁基板と、下層給電パッチ(給電素子)と同一に配列、配設された略菱形状で導電箔の複数の上層無給電パッチ(無給電素子)とを備えている。
【0014】
ポラライザ部80は、アンテナ部70の放射面側つまり上側に積層され、メアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852で構成されて、2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するものである。この実施の形態では、所定の帯域を得るために下層から順に、5つのメアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852が積層され、各メアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852の下側には発泡シート811、821、831、841、851が配設されている。
【0015】
上カバー体90は、ポラライザ部80の上側を覆う積層体であり、下層から順に、発泡シート91、第1の中カバー92、発泡シート93、第2の中カバー94、発泡シート95および上カバー96が積層されている。
【0016】
このような構成の円偏波共用平面アンテナ60は、ポラライザ部80がメアンダーラインポラライザ812、822、832、842、852で構成されているため、高い周波数に対応することが可能で、偏波偏向シートの場合に比べて線幅を大きくすることができる。例えば、周波数が30GHzの場合であっても、単層メアンダーラインの最小線幅Wが約0.15mmとなり、エッチングによって形成、生産することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところが、上記の円偏波共用平面アンテナ60にあっては、アンテナ部70とポラライザ部80とを一体化しているため、直線偏波において一偏波を円偏波に変換して偏波切替(円偏波共用)をすることはできるが、偏波共用直線偏波アンテナ(二偏波)で円偏波化し、偏波切替をすることは出来なかった。
【0019】
仮に、偏波切替をしようとすれば、ポラライザ部(ポラライザ)を90°回転させる必要があり、一体化されているため、このままでは偏波切替をすることが容易にはできず、アンテナ部70とポラライザ部80とを分解しなければ、偏波切替をすることができないという問題があった。
【0020】
そこで本発明は、分解することなく、構造が簡単で容易に偏波切替を行うことができ、偏波共用直線偏波アンテナ(二偏波)で円偏波化を可能にする円偏波共用平面アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板と下層給電素子基板とが積層されたアンテナ部と、前記アンテナ部の放射面側に積層され、メアンダーラインポラライザで構成されて前記2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するポラライザ部と、を有し、前記アンテナ部と前記ポラライザ部とのうちのいずれか一方が軸を備えるとともに、他方が、前記軸が嵌合する軸受を備え、前記アンテナ部と前記ポラライザ部とが所定の位置関係にあるときに、これらアンテナ部とポラライザ部との位置関係を固定する固定具を備える、ことを特徴とする。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記軸及び前記軸受は、一端が前記アンテナ部又は前記ポラライザ部の外表面側部材に固定され、他端が前記アンテナ部又は前記ポラライザ部の前記外表面側部材と対向配置される内表面側部材に固定される、ことを特徴とする。
【0023】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記軸が、前記軸受と嵌合する円柱状部分を有し、かつ、前記軸受が、前記円柱状部分が嵌合する横断面円形の凹部である、ことを特徴とする。
【0024】
請求項4に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記軸が、前記軸受と嵌合する四角柱状部分を有し、かつ、前記軸受が、前記四角柱状部分が嵌合する横断面四角形の凹部である、ことを特徴とする。
【0025】
請求項5に記載の発明は、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の円偏波共用平面アンテナであって、前記固定具が、前記アンテナ部又は前記ポラライザ部に取着される一端部と、前記ポラライザ部又は前記アンテナ部に設けられた引掛具に引掛けられる他端部と、前記一端部と前記他端部との間の弾性部と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
請求項1に記載の発明によれば、アンテナ部とポラライザ部との平面視における中央部において、軸と軸受との連結により回転可能にしたので、アンテナ部に対してポラライザ部を90°回転させるだけで、円偏波の切替を行うことができ、しかも、アンテナ部とポラライザ部との軸周り方向の位置決めを固定具で行うようにしたので、精度良い送受信を行うことができる。
【0027】
請求項2に記載の発明によれば、アンテナ部とポラライザ部の平面視における中央部において、軸又は軸受を利用して、アンテナ部又はポラライザ部の外表面側部材と内表面側部材との厚さ寸法を規制したので、各スロット板の間隔が変化されず、また、給電素子基板と無給電素子基板との間隔が変化されず正面利得の悪化を防止することができる。
【0028】
請求項3に記載の発明によれば、前記軸を円柱状とし、かつ、前記軸受を前記円柱状の軸が嵌合する横断面円形の凹部としたので、アンテナ部とポラライザ部とを着脱せずに、回転させることで容易に円偏波の切替を行うことができる。
【0029】
請求項4に記載の発明によれば、前記軸を四角柱状とし、かつ、前記軸受を前記軸が嵌合する横断面四角形の凹部にしたので、着脱時にポラライザ部とを挿入しただけで、正確に90°回転させたことになり、簡単に精度良い送受信が可能となる。
【0030】
請求項5に記載の発明によれば、前記固定具が弾性部を有するので、発泡シートの膨張により厚さが変動したとしてもこれに追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る円偏波共用平面アンテナの平面図である。
【
図2】この発明の実施の形態1に係る円偏波共用平面アンテナの背面図である。
【
図3】
図1におけるIII-III線に沿う断面図で、アンテナ部とポラライザ部とを離間した状態で示す。
【
図4】軸と軸受けを拡大して示すもので、(a)はポラライザ部の軸が取着された部位の平面図、(b)は(a)図及び(c)図における(b)-(b)に沿う断面図、(c)はアンテナ部の軸受けが取着された部位の底面図である。
【
図5】
図1におけるV-V線に沿う拡大断面図である。
【
図6】アンテナ部を手前側を下方に、ポラライザ部を手前側を上方に開いて示す分解斜視図である。
【
図8】円偏波共用平面アンテナに送受信機、三脚などを取り付けた状態を示すもので、(a)は正面図、(b)は側面図、(c)は背面図である。
【
図9】円偏波共用平面アンテナの円偏波を切替える様子を順に示す正面図であり、(a)は所定の円偏波の状態を、(b)は(a)の状態からポラライザ部を45°回転させている状態を、(c)は示す(a)の状態からポラライザ部を90°回転させた状態を示すものである。
【
図10】この発明の実施の形態2を示す、要部拡大斜視図である。
【
図11】従来の円偏波共用平面アンテナの積層構造を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0033】
図1~
図9は、この発明の実施の形態1を示し、
図1は円偏波共用平面アンテナ1の平面図で、
図2は円偏波共用平面アンテナ1の底面図である。この円偏波共用平面アンテナ1は、マイクロ波帯の衛星通信において、2つの円偏波信号(右旋円偏波と左旋円偏波)を送受信するアレイアンテナであり、下層から順に、アンテナ部2、レドーム3、ポラライザ部4および上カバー体5が積層されている。
【0034】
円偏波共用平面アンテナ1の積層構造は前記従来例で示した円偏波共用平面アンテナ60とほぼ同じであるので、その詳細は省略する。
【0035】
アンテナ部2は、互いに直交する2つの偏波信号を送受信する2つの給電素子がそれぞれマトリクス状に同配列された、上層給電素子基板と下層給電素子基板が積層されたアンテナで、正方形皿状をした外表面側部材としての下カバー21と該下カバー21とほぼ同じ形状のレドーム側部材/内表面側部材としてのレドーム上カバー31との間に、発泡シート22、ベース板23、複数組の発泡シート25とスロット板24との組合せの層(
図4(b)に示す例では6層)、およびレドーム3側の発泡シート32が積層されている(レドーム3側の発泡シート32とレドーム上カバー31との間にレドーム板が配設される場合もある)。なお、
図4(b)において、符号24、25は一部のみ表記し、他は省略する。
【0036】
発泡シート22は、下カバー21とベース板23との間の隙間を埋めるために設けられ、発泡シート25は、誘電体として上下の距離(スロット板24とスロット板24との間隔など)を担保するために設けられている。ベース板23、スロット板24は、例えばアルミニウム板で構成され、また、上記下カバー21は、例えばASA樹脂で構成され、レドーム上カバー31は、例えば塩化ビニルで構成されている。なお、下カバー21、ベース板23、スロット板24、レドーム上カバー31の材質はこれらに限定されるものではない。
【0037】
レドーム3は、アンテナ部2とポラライザ部4との間に介在し、これらアンテナ部2とポラライザ部4とを独立にするためのものである。アンテナ部2は、レドーム3として、放射面側つまり上側に、該アンテナ部2の上面を構成するレドーム上カバー31と、発泡シート32とを備える。また、ポラライザ部4は、レドーム3として、下側に、該ポラライザ部4の下面を構成するレドーム下カバー33と発泡シート34とを備える。
【0038】
アンテナ部2の平面視における中央部には上方に開口する底浅の円形凹部31aがレドーム上カバー31に形成され、また、下カバー21の平面視における中央部には略矩形の開口が形成され、矩形凹部となっている。この矩形凹部には2つのアンテナポート18が設けられる。なお、2つのアンテナポート18は
図2のみに表記し、
図3及び
図4ではアンテナポートは省略している。
【0039】
レドーム上カバー31の前記円形凹部31aの底面に対して軸受6が取り付けられている。
【0040】
軸受6は、有底でやや厚めの筒状本体6aと筒状本体6aの底部に設けられたフランジ部6bとを有し、筒状本体6aはその内部に後述する軸10(特に軸部10c)が挿入されてスラスト軸受けとして機能する。
【0041】
また、レドーム上カバー31の円形凹部31aの底面には開口が形成され、軸受6の筒状本体6aの外周面にはネジ溝6cが形成されており、軸受6は、筒状本体6aが円形凹部31aの開口にその下方から挿通され、円形凹部31a内に突出したネジ溝6cに六角ナット7が螺合されることで、円形凹部31aの底面の開口の周縁部をフランジ部6bと六角ナット7とによって挟んだ状態で、レドーム側部材/内表面側部材としてのレドーム上カバー31に固定される。
【0042】
軸受6のアンテナ部2に対する固定は、ベース板23に上方に向かって圧入固定された4本のセルスペース8に前記フランジ部6bが載置され、フランジ部6bに形成されたネジ孔を通じて上方から4本の取付ネジ9を各セルスペース8にネジ止めすることによって為される。なお、ベース板23は、複数箇所において外表面側部材としての下カバー21に対してセルスペーサとネジにより一体化が図られており、従って、ベース板23のうち、下カバー21の平面視における中央部の開口から露出する部分は、外表面側部材の一部として機能するようになっている。
【0043】
これにより、アンテナ部2の下側の金属板である外表面側部材としてのベース板23とレドーム側部材/内表面側部材としてのレドーム上カバー31との間隔が軸受6の取付により規制され、これらに挟まれている発泡シート25、32が温度、湿度などの環境変化により膨張しようとしても、これを抑制することができる。
【0044】
発泡シート25、32などが膨張すると、各スロット板24の積層方向の間隔が変化し、給電素子基板と無給電素子基板との間隔が変化すると正面利得が悪化してしまうため、発泡シート25、32の膨張を抑制することは、正面利得の劣化を防止することになる。
【0045】
また、下カバー21とレドーム上カバー31のそれぞれの周縁には、一旦外方に折り曲げられさらにカールするように折り曲げられえた折返し部21a、31bが形成され、下カバー21とレドーム上カバー31との周縁が重なった状態で、前記2つの折返し部21a、31bを一緒に包むように縦断面C字状のゴムパッキン13が設けられている。ゴムパッキン13は比較的硬質なゴム材で構成され、これにより、下カバー21とレドーム上カバー31とが周縁部においても強固に密着され、防水、防塵されている。
【0046】
このように、下カバー21とレドーム上カバー31との周縁部においても積層方向の位置決めがなされていることより、アンテナ部2は平面視における中央部だけでなく周縁部においても、発泡シート25、32の膨張を抑制することができるようになっている。
【0047】
ポラライザ部4は、
図3に示すように、アンテナ部2の放射面側つまり上側に積層され、複数組のメアンダーラインポラライザ41と発泡シート42との組合せの層で構成されて、2つの偏波信号の一方を左旋円偏波に変換し他方を右旋円偏波に変換するものである。
【0048】
ポラライザ部4も、上記アンテナ部2とほぼ同様に、正方形皿状をした外表面側部材としての上カバー51と該上カバー51とほぼ同じ形状のレドーム側部材/内表面側部材としてのレドーム下カバー33との間に、発泡シート52、複数組のメアンダーラインポラライザ41と発泡シート42との組合せの層(
図4(b)に示す例では4層)、およびレドーム3側の発泡シート34などが積層されている(レドーム3側の発泡シート34とレドーム下カバー33との間にレドーム板が配設される場合もある)。
【0049】
ポラライザ部4の平面視における中央部には上下方向に貫通する軸取付孔が形成されている。また、レドーム下カバー33に、下方に開口する底浅の円形凹部33aが形成されている。そして、前記軸取付孔の下端は、円形凹部33aの底面(位置的には天面)に対して開口している。このような軸取付孔に軸10が取り付けられている。
【0050】
軸10は上述した軸受6に嵌合されて、アンテナ部2とポラライザ部4とを前記軸の軸周り方向に回転可能にしている。
【0051】
具体的には軸10は、上記軸取付孔に嵌合される胴部10aと、該胴部10aの一端に設けられたフランジ部10bと、他端に設けられた、胴部10aよりもやや細い軸部10cとを有する。軸10の長さは、上カバー51の底面に対してフランジ部10bが当接した状態で、レドーム下カバー33の下面から軸部10cが突出するように調節される。また、軸部10cの軸径は上記軸受6の凹部6dの口径よりやや細く形成される。さらに、胴部10aのうち、軸部10c側の一部であり、かつ、レドーム下カバー33の円形凹部33a内に突出する部分の外周面にネジ溝10dが形成されている。
【0052】
そして、このような軸10は、ポラライザ部4の前記軸取付孔の上方から挿入され、この状態で上カバー51を載置して、フランジ部10bが上カバー51の底面に当接した状態で3本の取付ネジ12により、上カバー51に対して固定される。
【0053】
さらに、レドーム下カバー33の円形凹部33a内に突出したネジ溝10dに六角ナット11を螺合することで、円形凹部33aの底面(天面)の開口の周縁部を六角ナット11によって押さえた状態で、軸10はポラライザ部4の中央部に固定される。これにより、上カバー51とレドーム下カバー33との距離が規制され、これらに挟まれている発泡シート42、52が温度、湿度などの環境変化により膨張しようとしても、これを抑制することができる。
【0054】
このように構成された円偏波共用平面アンテナ1のうち、下側のアンテナ部2及び該アンテナ部2側のレドーム3(レドーム上カバー31、発泡シート32)は、全体として防水、防塵処理が施され、また、上側の上カバー体5、ポラライザ部4、及び該ポラライザ部4側のレドーム3(レドーム下カバー33、発泡シート34)は、全体として防水、防塵処理が施されており、これにより、円偏波共用平面アンテナ1は雨水、塵埃から保護されている。
【0055】
次に、上記アンテナ部2とポラライザ部4との連結について説明する。
【0056】
先ず、上述のように、アンテナ部2の軸受6にポラライザ部4の軸10を嵌合することで、両者の連結が完了して、円偏波共用平面アンテナ1が完成する。
【0057】
そして、上述のようにアンテナ部2とポラライザ部4とは軸10と軸受6との関係により両者は軸周り方向に回転可能とされ、90°回転させることで、円偏波の切替を行うことができる。
【0058】
また、アンテナ部2とポラライザ部4との回転を阻止するには円偏波共用平面アンテナ1の四隅のそれぞれに設けた固定具15で行う。
【0059】
固定具15は、やや横長な矩形状の弾性部を有し、該弾性部の一端部がポラライザ部4の取付部16に取り付けられ、他端にリング17が設けられている。固定具15は、弾性部がゴム材料で構成され、ゴムバンドとして構成されるようにしてもよい。このような固定具15は、ポラライザ部4の4辺のうち対向する2つの辺の左右両端部(四隅部)寄りの位置それぞれの側縁に設けられたバンド取付部16に取り付けられる。なお、固定具15は、ポラライザ部4の平面視における対角の位置の2か所のみに設けられるようにしてもよい。
【0060】
また、アンテナ部2の底面であって四隅に寄った4箇所には、固定具15のリング17を引掛ける引掛金具14が設けられる。引掛金具14は、軸方向に薄肉な平ネジ状を呈し、頭部が上記固定具15のリング17が通る大きさに形成されている。
【0061】
そして、固定具15によるアンテナ部2とポラライザ部4との締結は、固定具15をポラライザ部4の側縁から下方に引っ張りアンテナ部2の底面に沿って折り曲げてリング17を上記引掛金具14に引掛けることにより行う。
【0062】
このとき、後述するようにアンテナ部2に対してポラライザ部4を90°回転させた状態でも、引掛金具14はアンテナ部2の四隅に形成しているため何れの側縁からも長さが同じであり、同じ張力で締結することができるようになっている。
【0063】
また、弾性部を有する固定具15でアンテナ部2とポラライザ部4とを積層方向に締結することで、発泡シートの集合体としては他方の厚さ方向での変動してしまうが、これに追従ことができる。
【0064】
次に、このようの構成された円偏波共用平面アンテナ1の使用例を説明する。
【0065】
先ず、このような円偏波共用平面アンテナ1はそのアンテナ部2の裏面側に箱状の送受信機20が取り付けられ、さらに、送受信機20を取付台30を介して三脚40に取り付けられる(
図8参照)。
【0066】
三脚40に取り付けられた円偏波共用平面アンテナ1は、平面正方形状の4つの角部が上下方向および水平方向に位置する向きで、また、全体として斜め45°くらいで使用される。
【0067】
そして、円偏波を切替える場合には、
図9(a)の状態で、上記固定具15のリング17をアンテナ部2の引掛金具14から取り外す。
図9(a)の状態は、例えば、送信を左旋円偏波で、受信を右旋円偏波で行う状態である。
【0068】
固定具15のリング17を引掛金具14から取り外すと、アンテナ部2に対してポラライザ部4が回転可能な状態となる。
【0069】
次に、ポラライザ部4を時計回り方向に回転させる。
図9(b)は45°回転させた状態である。
【0070】
更に、ポラライザ部4を時計回り方向に45°回転させて、
図9(c)の状態とすると、送信を右旋円偏波で、受信を左旋円偏波で行う状態に切り替わる。
【0071】
この状態で、固定具15のリング17をアンテナ部2の引掛金具14に引掛けて回転を阻止する。
【0072】
このようにこの実施の形態の円偏波共用平面アンテナ1によれば、固定具15を着脱するだけで簡単にポラライザ部4を回転させ、円偏波の切替を行うことができる。
【0073】
なお、アンテナ部2とポラライザ部4との現在の位置関係が左旋円偏波か右旋円偏波かを見分ける方法としては、例えば、ポラライザ部4の表面に識別子を設けることが考えられる。
【0074】
例えば、上記ポラライザ部4の上カバー51の2つの角部に、それぞれ、異なった識別子(○印、×印)Aが設け、一方、下側のアンテナ部2の正面側の角部に識別子B(図中では黒塗りにした部位)を設ける。これにより、識別子Bが識別子A「〇印」と対応したときは左旋円偏波で、識別子A「×印」と対応したときは右旋円偏波であることが容易に判別できる。
【0075】
なお、アンテナ部2からポラライザ部4を外した状態にすれば、アンテナ部2のみで直線偏波用の平面アンテナとして使用することもできる。
【0076】
次に、この発明の実施の形態2に係る円偏波共用平面アンテナについて説明する。
図10は実施の形態2の要部(軸と軸受)を説明する拡大斜視図である。
【0077】
この実施の形態2に係るポラライザ部4の軸10Aの軸部10Acは四角柱に形成されており、また、アンテナ部2の軸受6Aの凹部6Adは横断面四角形に形成されている。
【0078】
このような軸10Aと軸受6Aであっては、回転させることはできないが、アンテナ部2に対してポラライザ部4を一旦外して、ポラライザ部4を外した状態で90°回転させて再びアンテナ部2に取り付けることで円偏波の切替を行うことができる。
【0079】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、軸10をポラライザ部4に、軸受6をアンテナ部2に設けたものについて説明したが、この発明においては、逆に、軸受6をポラライザ部4に、軸10をアンテナ部2に設けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0080】
1 円偏波共用平面アンテナ
2 アンテナ部
3 レドーム
4 ポラライザ部
21 下カバー(外表面側部材)
24 スロット板
31 レドーム上カバー(レドーム側部材/内表面側部材)
33 レドーム下カバー(レドーム側部材/内表面側部材)
51 上カバー(外表面側部材)
6 軸受
7 六角ナット(締結具)
10 軸
11 六角ナット(締結具)
14 引掛金具(引掛具)
15 固定具
6A 軸受
10A 軸