(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】協調ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60L 7/24 20060101AFI20230807BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B60L7/24 D
B60T8/17 C
(21)【出願番号】P 2019159059
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129643
【氏名又は名称】皆川 祐一
(72)【発明者】
【氏名】大渕 浩司
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014208(JP,A)
【文献】特開2015-143073(JP,A)
【文献】特開2011-115002(JP,A)
【文献】特開2006-312384(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 7/24
B60T 8/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧による摩擦制動力を車両の駆動系に付与する液圧制動装置と、
力行運転により駆動力を前記駆動系に付与し、回生運転により回生制動力を前記駆動系に付与する駆動モータと、
前記液圧制動装置を制御する液圧制動制御装置と、
前記液圧制動制御装置と通信可能に接続され、前記駆動モータの回生運転を制御する回生制動制御装置とを含み、
前記液圧制動制御装置は、摩擦制動力と回生制動力との協調により必要な制動力を前記駆動系に付与する場合に、前記駆動モータの回生運転の制御の実行を要求する回生協調要求を前記回生制動制御装置に送信し、
前記回生制動制御装置は、前記液圧制動制御装置からの前記回生協調要求を受信せずに、前記駆動系への制動力の付与の契機となる操作を検出した場合、当該検出に応じて、前記回生協調要求の受信を待たずに前記駆動モータの回生運転の制御を開始する、協調ブレーキシステム。
【請求項2】
前記回生制動制御装置は、前記液圧制動制御装置からの前記回生協調要求を受信せずに、前記駆動系への制動力の付与の契機となる操作を検出した場合、前記回生協調要求の受信を待たずに、将来的に必要となる回生制動力の見込みに基づいて、前記駆動モータの回生運転を制御する、請求項1に記載の協調ブレーキシステム。
【請求項3】
液圧による摩擦制動力を車両の駆動系に付与する液圧制動装置と、
力行運転により駆動力を前記駆動系に付与し、回生運転により回生制動力を前記駆動系に付与する駆動モータと、
前記液圧制動装置を制御する液圧制動制御装置と、
前記液圧制動制御装置と通信可能に接続され、前記駆動モータの回生運転を制御する回生制動制御装置とを含み、
前記液圧制動制御装置は、摩擦制動力と回生制動力との協調により必要な制動力を前記駆動系に付与する場合に、所定時間先までの摩擦制動力および回生制動力の推移を予測して、当該予測した回生制動力の推移を前記回生制動制御装置に送信し、かつ、当該予測から摩擦制動力の目標を決定し、その目標に基づいて、前記液圧制動装置を制御し、
前記回生制動制御装置は、前記液圧制動制御装置から受信する回生制動力の推移の予測から回生制動力の目標を決定し、その目標に基づいて、前記駆動モータの回生運転を制御する、協調ブレーキシステム。
【請求項4】
前記回生制動制御装置は、前記液圧制動制御装置から回生制動力の推移の予測を受信する前であって、前記駆動系への制動力の付与が見込まれる状況である場合に、将来的に必要となる回生制動力の見込みに基づいて、前記駆動モータの回生運転を制御する、請求項3に記載の協調ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)やハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)に搭載される協調ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド車などの車両では、走行用の駆動源としての駆動モータが回生運転されることにより、駆動モータの回転軸に入力される動力が電力に変換され、その電力で電池が充電される。このとき、駆動モータが駆動系の抵抗となり、その抵抗が車両を制動する回生制動力として作用する(回生ブレーキ)。
【0003】
また、車両には、油圧式の制動装置が広く採用されている。電気自動車やハイブリッド車に搭載される制動装置では、ブレーキペダルが踏まれると、たとえば、電動油圧ポンプが駆動されて、ブレーキアクチュエータに油圧が供給され、ブレーキアクチュエータから各車輪に設けられたブレーキシリンダに油圧が分配されて、ブレーキパッドが車輪と一体的に回転するブレーキロータに押しつけられることにより、車輪に摩擦制動力が付与される(油圧ブレーキ)。
【0004】
回生ブレーキと油圧ブレーキとは、回生協調制御により併用される。回生協調制御では、車速やブレーキペダルの踏み込み量などに応じて目標制動力が設定され、この目標制動力が回生制動力(回生ブレーキ量)と摩擦制動力(油圧ブレーキ量)とに配分される。そして、その回生制動力および摩擦制動力がそれぞれ得られるように、駆動モータおよび電動油圧ポンプなどが制御される。回生協調制御により、回生エネルギーを得ることができるので、車両の電費または燃費が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-173451号公報
【文献】特開2007-196924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両には、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。また、各ECUには、制御に必要な値を検出するセンサ類が接続されている。各ECUは、他のECUから入力される情報やセンサによる検出値などに基づいて制御対象を制御する。
【0007】
複数のECUには、たとえば、ブレーキECU、車両制御ECUおよびモータ制御ECUが含まれる。回生協調制御時には、ブレーキECUにより、回生制動力および摩擦制動力の各目標が設定されて、その目標の摩擦制動力が得られるように、駆動モータが制御される。また、ブレーキECUから車両制御ECUに回生制動力の要求値(目標)が送信されて、その要求値に応じた指示が車両制御ECUからモータ制御ECUに出され、その指示に従って、モータ制御ECUにより駆動モータが制御される。
【0008】
そのため、ECU間の通信に遅れが発生すると、車両のドライバによるブレーキ操作に対して回生制動力の立ち上がりが遅れ、ブレーキフィーリングが悪化する。また、ECU間の通信に遅れが発生すると、回生制動力および摩擦制動力の一方が低減されて他方がその低減分だけ増加されるときに、その増減のタイミングがずれることにより制動力が目標からずれ、ドライバビリティが悪化する。
【0009】
本発明の目的は、制御装置間の通信遅れによる問題の発生を抑制できる、協調ブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明の一の局面に係る協調ブレーキシステムは、液圧による摩擦制動力を車両の駆動系に付与する液圧制動装置と、力行運転により駆動力を駆動系に付与し、回生運転により回生制動力を駆動系に付与する駆動モータと、液圧制動装置を制御する液圧制動制御装置と、液圧制動制御装置と通信可能に接続され、駆動モータの回生運転を制御する回生制動制御装置とを含み、回生制動制御装置は、駆動系への制動力の付与が見込まれる状況である場合に、将来的に必要となる回生制動力の見込みに基づいて、駆動モータの回生運転を制御する。
【0011】
この構成によれば、液圧制動装置の液圧による摩擦制動力と駆動モータの回生運転による回生制動力との協調により、車両の減速ないしは停止に必要な制動力を駆動系に付与することができる。
【0012】
駆動系への制動力の付与が見込まれる状況では、その将来的に必要となる回生制動力の見込みに基づいて、駆動モータの回生運転が制御される。そのため、液圧制動制御装置および回生制動制御装置を含む制御装置間の通信に遅れが発生しても、回生制動力の立ち上がりの遅れを抑制でき、ブレーキフィーリングの悪化を抑制できる。また、回生制動力および摩擦制動力の一方が低減されて他方がその低減分だけ増加されるときに、その増減のタイミングが制御装置間の通信遅れの影響でずれることを抑制できる。その結果、制動力が目標からずれることを抑制でき、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0013】
本発明の他の局面に係る協調ブレーキシステムは、液圧による摩擦制動力を車両の駆動系に付与する液圧制動装置と、力行運転により駆動力を駆動系に付与し、回生運転により回生制動力を駆動系に付与する駆動モータと、液圧制動装置を制御する液圧制動制御装置と、液圧制動制御装置と通信可能に接続され、駆動モータの回生運転を制御する回生制動制御装置とを含み、液圧制動制御装置は、摩擦制動力と回生制動力との協調により必要な制動力を駆動系に付与する場合に、駆動モータの回生運転の制御の実行を要求する回生協調要求を回生制動制御装置に送信し、回生制動制御装置は、液圧制動制御装置からの回生協調要求を受信せずに、駆動系への制動力の付与の契機となる操作を検出した場合、当該検出に応じて、回生協調要求の受信を待たずに駆動モータの回生運転の制御を開始する。
【0014】
この構成によれば、液圧ブレーキの液圧による摩擦制動力と駆動モータの回生運転による回生制動力との協調により、車両の減速ないしは停止に必要な制動力を駆動系に付与する回生協調制御が可能である。
【0015】
回生協調制御の実行に際しては、液圧制動制御装置から回生制動制御装置に、駆動モータの回生運転の制御の実行を要求する回生協調要求が送信される。回生協調要求を回生制動制御装置が受信すると、その要求に従って、回生制動制御装置により駆動モータの回生運転が制御される。
【0016】
ただし、駆動系への制動力の付与の契機となる操作、たとえば、アクセルペダルの戻し操作またはブレーキペダルの操作が行われて、回生制動制御装置により、その操作が検出された場合、液圧制動制御装置からの回生協調要求の受信がなくても、駆動モータの回生運転の制御が開始される。そのため、液圧制動制御装置および回生制動制御装置を含む制御装置間の通信に遅れが発生しても、回生制動力の立ち上がりの遅れを抑制でき、ひいては、ブレーキフィーリングの悪化を抑制できる。
【0017】
本発明のさらに他の局面に係る協調ブレーキシステムは、液圧による摩擦制動力を車両の駆動系に付与する液圧制動装置と、力行運転により駆動力を駆動系に付与し、回生運転により回生制動力を駆動系に付与する駆動モータと、液圧制動装置を制御する液圧制動制御装置と、液圧制動制御装置と通信可能に接続され、駆動モータの回生運転を制御する回生制動制御装置とを含み、液圧制動制御装置は、摩擦制動力と回生制動力との協調により必要な制動力を駆動系に付与する場合に、所定時間先までの摩擦制動力および回生制動力の推移を予測して、当該予測した回生制動力の推移を回生制動制御装置に送信し、かつ、当該予測から摩擦制動力の目標を決定し、その目標に基づいて、液圧制動装置を制御し、回生制動制御装置は、液圧制動制御装置から受信する回生制動力の推移の予測から回生制動力の目標を決定し、その目標に基づいて、駆動モータの回生運転を制御する。
【0018】
この構成によれば、液圧制動装置の液圧による摩擦制動力と駆動モータの回生運転による回生制動力との協調により、車両の減速ないしは停止に必要な制動力を駆動系に付与することができる。
【0019】
摩擦制動力と回生制動力との協調により必要な制動力を駆動系に付与する場合、液圧制動制御装置により、所定時間先までの摩擦制動力および回生制動力の推移が予測されて、その予測から摩擦制動力の目標が決定される。そして、液圧制動制御装置により、その目標に基づいて、液圧制動装置が制御される。また、液圧制動制御装置から回生制動制御装置に予測された回生制動力の推移が送信されて、回生制動制御装置により、その所定時間先までの回生制動力の推移の予測から決定される目標に基づいて、駆動モータの回生運転が制御される。
【0020】
そのため、液圧制動制御装置および回生制動制御装置を含む制御装置間の通信に遅れが発生しても、回生制動力および摩擦制動力の一方が低減されて他方がその低減分だけ増加されるときに、その増減のタイミングがずれることを抑制できる。その結果、制動力が目標からずれることを抑制でき、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0021】
また、所定時間後の駆動モータの回生運転が不可である場合(たとえば、駆動モータの回生運転により発生する電力を電池が受入不可となる場合)、事前に、回生制動力を摩擦制動力に振り替えることができる。その結果、駆動モータの回生運転が不可となることによる減速度抜けの発生を抑制できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液圧制動制御装置および回生制動制御装置を含む制御装置間の通信の遅れによる回生制動力の立ち上がりの遅れや制動力が目標からずれることを抑制でき、ブレーキフィーリングやドライバビリティの悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る協調ブレーキシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】協調ブレーキシステムにおける回生協調制御について説明するための図である。
【
図3】回生協調制御時のブレーキオン/オフ、車速、回生ブレーキ指示値、回生ブレーキ実行値、油圧ブレーキ実行値および車両制動力の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0025】
<システム構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る協調ブレーキシステム1の構成を示すブロック図である。
【0026】
協調ブレーキシステム1は、たとえば、駆動モータ2を走行用の駆動源として搭載した電気自動車(EV:Electric Vehicle)に搭載される。駆動モータ2は、たとえば、回転子に永久磁石を用いた永久磁石同期モータ(PMSM:Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0027】
駆動モータ2の力行運転時には、電気自動車に搭載された電池から出力される直流電力がインバータで交流電力に変換され、その交流電力が駆動モータ2に供給される。これにより、駆動モータ2が動力を発生し、その動力がデファレンシャルギヤなどを介して左右の駆動輪に伝達される。
【0028】
一方、駆動モータ2の回生運転時には、駆動モータ2で駆動輪からの動力が交流電力に変換される。このとき、駆動モータ2が駆動系の抵抗となり、その抵抗による回生制動力が駆動輪に作用する。すなわち、駆動モータ2が回生ブレーキとして機能する。駆動モータ2で発生した交流電力は、インバータで直流電力に変換されて、電池に充電される。
【0029】
協調ブレーキシステム1には、油圧ブレーキ3が含まれる。油圧ブレーキ3では、ユーザ(電気自動車のドライバ)によりブレーキペダルが操作されると、電動油圧ポンプが駆動されて、ブレーキアクチュエータに油圧が供給され、ブレーキアクチュエータから各車輪(駆動輪、従動輪)に設けられたブレーキシリンダに油圧が分配されて、ブレーキパッドが車輪と一体的に回転するブレーキロータに押しつけられることにより、車輪に摩擦制動力が付与される。
【0030】
電気自動車には、各部を制御するため、複数のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。各ECUは、マイコン(マイクロコントローラ)を含む構成である。複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。複数のECUには、ブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6が含まれており、これらのブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6の協働により、協調ブレーキシステム1の制御機能が実現される。
【0031】
各ECUには、制御に必要な各種センサが接続されている。たとえば、ブレーキECU4および車両制御ECU5には、ブレーキセンサ7が接続されている。ブレーキセンサ7は、ブレーキペダルの操作量(以下、「ブレーキ操作量」という。)に応じた信号を検出信号として出力する。
【0032】
<回生協調制御>
図2は、協調ブレーキシステム1における回生協調制御について説明するための図である。
【0033】
協調ブレーキシステム1では、ブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6の協働により回生協調制御が実行される。
【0034】
ブレーキペダルが操作されると、ブレーキセンサ7からブレーキECU4および車両制御ECU5に、その操作量に応じた検出信号が入力される。
【0035】
ブレーキECU4では、ブレーキセンサ7の検出信号のレベルが所定以上であれば、ブレーキペダルが操作されているブレーキオンの状態であると判定され、ブレーキセンサ7の検出信号のレベルが所定未満であれば、ブレーキペダルが操作されていないブレーキオフの状態であると判定される。ブレーキオンの状態であると判定された場合、ブレーキECU4では、駆動モータ2が発生する電力を蓄える電池の充電状態(充電容量に対する充電残量の比率)を示すSOC(State Of Charge)などに基づいて、回生協調制御を実行するか否かが判断される(ステップS41)。たとえば、電池のSOCが所定未満である場合、回生協調制御の実行が決定され、SOCが所定以上である場合、回生協調制御を実行しないことが決定される。回生協調制御の実行が決定された場合、ブレーキECU4から車両制御ECU5に、回生ブレーキ制御の実行を要求する回生協調要求が送信される。
【0036】
その後、ブレーキECU4に回生協調制御に必要な各センサ値が入力されると(ステップS42)、ブレーキECU4では、そのセンサ値を用いて、所定時間先までの油圧ブレーキ3によるブレーキ量(以下、「油圧ブレーキ量」という。)および回生ブレーキ(駆動モータ2の回生トルク)によるブレーキ量(以下、「回生ブレーキ量」という。)の推移が予測される(ステップS43)。回生協調制御に必要なセンサ値には、ブレーキセンサ7のセンサ値および車速センサのセンサ値が含まれる。ブレーキセンサ7のセンサ値は、ブレーキセンサ7の検出信号から求められるブレーキ操作量である。車速センサのセンサ値は、車速センサの検出信号から求められる電気自動車の車速である。車速センサのセンサ値は、他のECUからブレーキECU4に通信にて入力される。
【0037】
回生ブレーキ量の推移の予測は、ブレーキECU4から車両制御ECU5に送信される。また、ブレーキECU4では、所定時間後までの油圧ブレーキ量の推移の予測が考慮されて、油圧ブレーキ量が滑らかに変化するように、油圧ブレーキ量の目標が決定される。そして、その目標の油圧ブレーキ量が得られるように、ブレーキECU4によって、油圧ブレーキ3が制御される(ステップS44)。
【0038】
一方、車両制御ECU5では、ブレーキECU4から回生協調要求を受信したか否かが判断される(ステップS51)。
【0039】
ブレーキペダルが操作されると、車両制御ECU5には、ブレーキECU4からの回生協調要求を受信する前に、ブレーキセンサ7から車両制御ECU5に検出信号が入力される。これに応答して、車両制御ECU5では、ブレーキセンサ7の検出信号のレベルが所定以上であれば、ブレーキペダルが操作されているブレーキオンの状態であると判定され、ブレーキセンサ7の検出信号のレベルが所定未満であれば、ブレーキペダルが操作されていないブレーキオフの状態であると判定される(ステップS52)。
【0040】
回生協調要求の受信前にブレーキオンの状態が判定されると(ステップS52のYES)、車両制御ECU5は、ブレーキセンサ7の検出信号からブレーキ操作量を求める。また、車両制御ECU5は、他のECUから車速の情報を取得する。そして、車両制御ECU5では、ブレーキ操作量および車速に応じた見込み回生量が設定される(ステップS53)。見込み回生量は、演算により設定されてもよいし、ブレーキ操作量および車速と見込み回生量とを対応づけたマップが内蔵メモリに保持されて、そのマップに従って設定されてもよい。
【0041】
その後、車両制御ECU5は、見込み回生量を回生ブレーキ量の目標として、その目標の回生ブレーキ量が得られるように、モータ制御ECU6に指示を送信する(ステップS54)。
【0042】
モータ制御ECU6は、車両制御ECU5からの指示を受けて、目標の回生ブレーキ量が得られるように、駆動モータ2の回生運転を制御する(ステップS61:回生ブレーキ制御)。
【0043】
その後、モータ制御ECU6では、駆動モータ2の回生運転により得られる回生トルクの実トルク値が推定される(ステップS62)。その推定された実トルク値は、モータ制御ECU6から車両制御ECU5に送信され、車両制御ECU5で実トルク推定値として確定される(ステップS55)。さらに、実トルク推定値は、車両制御ECU5からブレーキECU4に送信される。ブレーキECU4では、実トルク推定値は、油圧ブレーキ量および回生ブレーキ量の推移の予測にフィードバックされる(ステップS45)。
【0044】
また、車両制御ECU5がブレーキECU4から回生協調要求を受信した後の処理では、車両制御ECU5は、ブレーキECU4から受信する回生ブレーキ量の推移の予測を考慮して、回生ブレーキ量が滑らかに変化するように、回生ブレーキ量の目標を決定する。そして、その目標の回生ブレーキ量が得られるように、車両制御ECU5からモータ制御ECU6に指示が出される(ステップS54)。
【0045】
図3は、回生協調制御時のブレーキオン/オフ、車速、回生ブレーキ指示値、回生ブレーキ実行値、油圧ブレーキ実行値および車両制動力の時間変化の一例を示す図である。
【0046】
前述の回生協調制御では、車両制御ECU5は、ブレーキオンを判定すると、ブレーキECU4からの回生協調要求の受信を待たずに、見込み回生量を設定する。そして、車両制御ECU5は、その見込み回生量を回生ブレーキ量の目標(回生ブレーキ指示値)として、その目標の回生ブレーキ量が得られるように、モータ制御ECU6に駆動モータ2の回生運転の制御の指示を出力する。そのため、ブレーキペダルが操作された直後から回生ブレーキ量(回生ブレーキ実行値)が立ち上がり、電気自動車に作用する車両制動力の目標に対してさほど遅れることなく、車両制動力の実値が立ち上がる。
【0047】
また、その後も油圧ブレーキ量および回生ブレーキ量の各推移の予測に基づいて、油圧ブレーキ量および回生ブレーキ量の各目標が設定され、その目標の油圧ブレーキ量および回生ブレーキ量が得られるように、それぞれ油圧ブレーキ3および駆動モータ2が制御される。これにより、ブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6間での通信に遅れが発生した場合でも、油圧ブレーキ量と回生ブレーキ量とのすり替えのタイミングが合い、
図3に示されるように、車両制動力の実値が目標からずれずに安定する。
【0048】
<作用効果>
以上のように、回生協調制御の実行に際しては、ブレーキECU4から車両制御ECU5に、駆動モータ2の回生運転の制御の実行を要求する回生協調要求が送信される。回生協調要求を車両制御ECU5が受信すると、その要求に従って、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6により、駆動モータ2の回生運転が制御される。
【0049】
ただし、ブレーキペダルの操作が行われて、車両制御ECU5により、その操作が検出された場合、ブレーキECU4からの回生協調要求の受信がなくても、駆動モータ2の回生運転の制御が開始される。そのため、ブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6間での通信に遅れが発生した場合でも、回生制動力(回生ブレーキ量)の立ち上がりの遅れを抑制でき、ひいては、ブレーキフィーリングの悪化を抑制できる。
【0050】
また、回生協調制御では、ブレーキECU4により、所定時間先までの油圧ブレーキ量および回生ブレーキ量の推移が予測されて、その予測から油圧ブレーキ量の目標が決定される。そして、ブレーキECU4により、その目標に基づいて、油圧ブレーキ3が制御される。また、ブレーキECU4から車両制御ECU5に予測された回生ブレーキ量の推移が送信されて、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6により、その所定時間先までの回生ブレーキ量の推移の予測から決定される目標に基づいて、駆動モータ2の回生運転が制御される。
【0051】
そのため、ブレーキECU4、車両制御ECU5およびモータ制御ECU6間での通信に遅れが発生した場合でも、回生ブレーキ量および油圧ブレーキ量の一方が低減されて他方がその低減分だけ増加されるときに、その増減のタイミングがずれることを抑制できる。その結果、車両制動力が目標からずれることを抑制でき、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0052】
また、所定時間後の駆動モータ2の回生運転が不可である場合(たとえば、駆動モータ2の回生運転により発生する電力を電池が受入不可となる場合)、事前に、回生ブレーキ量を油圧ブレーキ量に振り替えることができる。その結果、駆動モータ2の回生運転が不可となることによる減速度抜けの発生を抑制できる。
【0053】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0054】
たとえば、前述の実施形態では、協調ブレーキシステム1が電気自動車に搭載されているとしたが、協調ブレーキシステム1が搭載される車両は、駆動モータ2を走行用の駆動源として搭載したハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)であってもよい。
【0055】
また、車両制御ECU5は、ブレーキECU4からの回生協調要求を受信していなくても、ブレーキオンの判定に応じて見込み回生量を設定するとしたが、たとえば、アクセルペダルの戻し操作を検出したことに応じて見込み回生量を設定してもよい。
【0056】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1:協調ブレーキシステム
2:駆動モータ
3:油圧ブレーキ(液圧制動装置)
4:ブレーキECU(液圧制動制御装置)
5:車両制御ECU(回生制動制御装置)
6:モータ制御ECU(回生制動制御装置)