(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】撥液構造及び容器
(51)【国際特許分類】
B32B 5/16 20060101AFI20230807BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230807BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230807BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B32B5/16
B32B27/30 D
B32B27/00 H
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2019177701
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉野 慶
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188988(JP,A)
【文献】国際公開第2016/170882(WO,A1)
【文献】特開2019-038618(JP,A)
【文献】特開2007-121521(JP,A)
【文献】特開2017-024740(JP,A)
【文献】特開2018-086786(JP,A)
【文献】特開2019-137436(JP,A)
【文献】特開2013-180790(JP,A)
【文献】特開2014-196124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 35/44-35/54、39/00-55/16
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着性を有する表層と、
前記表層に各々接着し前記表層に沿って並ぶ粒子からなる粒子層とで構成され、
前記粒子層の前記粒子の表面と前記表層の表面とにより形成されたアンダーカット状の凹凸表面を有
し、
前記粒子層の前記粒子がフッ素樹脂で構成され、
前記粒子層の平均粒径が200~300μmであり、
前記粒子層の粒子間ピッチが250~400μmである、撥液構造。
【請求項2】
前記粒子層の粒子間ピッチが、前記粒子層の平均粒径以上、且つ前記粒子層の平均粒径の2倍以下である、請求項1に記載の撥液構造。
【請求項3】
前記表層が紫外線硬化樹脂で構成される、請求項1又は2に記載の撥液構造。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の撥液構造を有する容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥液構造及び容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ボトルやチューブ、パウチなどの様々な容器などにおいて、水や油、食品などの液体をはじく撥液性を発現する撥液構造を有するものが知られている。撥液構造は、容器の内面に設けた場合には例えば内容液の使い残しを低減することができ、容器の外面に設けた場合には例えば、吐出部からの液垂れなどによる容器の外面への内容液の付着を抑制することができる。したがって、優れた撥液性を発現できる撥液構造が求められている。
【0003】
優れた撥液性を発現できる撥液構造として、アンダーカット状の凹凸表面を有するものが知られている。例えば特許文献1に記載されるアンダーカット状の凹凸表面は、拡径した頭部を有する多数の柱状体をプラスチック成形体の表面に接合することで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、アンダーカット状の凹凸表面を有する撥液構造をより簡易に形成できれば望ましい。
【0006】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、アンダーカット状の凹凸表面を有する簡易に形成可能な撥液構造及び容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る撥液構造は、接着性を有する表層と、前記表層に各々接着し前記表層に沿って並ぶ粒子からなる粒子層とで構成され、前記粒子層の前記粒子の表面と前記表層の表面とにより形成されたアンダーカット状の凹凸表面を有し、前記粒子層の前記粒子がフッ素樹脂で構成され、前記粒子層の平均粒径が200~300μmであり、前記粒子層の粒子間ピッチが250~400μmである。
【0008】
本発明に係る撥液構造は、前記粒子層の粒子間ピッチが、前記粒子層の平均粒径以上、且つ前記粒子層の平均粒径の2倍以下であってもよい。
【0009】
本発明に係る撥液構造は、前記表層が紫外線硬化樹脂で構成されてもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る容器は、前記撥液構造を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アンダーカット状の凹凸表面を有する簡易に形成可能な撥液構造及び容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る撥液構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1に示す撥液構造を形成する要領の一例を示す説明図であり、(a)は表層配置工程、(b)は粒子層配置工程、(c)は表層硬化工程を示す。
【
図3】
図1に示す撥液構造の粒子層の粒子の平均粒径に対する蒸留水の接触角と滑落角の関係の一例を示すグラフである。
【
図4】212~250μmの粒径の粒子で粒子層を形成した本発明の実施例1について凹凸表面を正面から撮影した顕微鏡画像である。
【
図5】
図4に示す実施例1について凹凸表面の断面を撮影した顕微鏡画像である。
【
図6】250~300μmの粒径の粒子で粒子層を形成した本発明の実施例2について凹凸表面を正面から撮影した顕微鏡画像である。
【
図7】
図6に示す実施例2について凹凸表面の断面を撮影した顕微鏡画像である。
【
図8】
図6に示す実施例2について蒸留水に対する撥液性を評価したときの様子を示す写真である。
【
図9】
図6に示す実施例2について醤油に対する撥液性を評価したときの様子を示す写真である。
【
図10】
図6に示す実施例2についてキャノーラ油に対する撥液性を評価したときの様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る撥液構造及び容器について詳細に例示説明する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る撥液構造1は、接着性を有する表層2と、表層2に各々接着し表層2に沿って並ぶ粒子3からなる粒子層4とで構成されている。つまり、粒子層4は一層の粒子3のみで構成されている。表層2は基材5の表面5aに配置されている。基材5は単層又は複数層で構成することができる。なお、撥液構造1は、表層2が基材5の表面5aに配置されるものに限らない。
【0018】
撥液構造1は、粒子層4の粒子3の表面3aと表層2の表面2aとにより形成されたアンダーカット状の凹凸表面6を有している。つまり、粒子層4の粒子3の表面3aにおける下半部と表層2の表面2aとによりエアポケット7が形成されている。したがって、撥液構造1は優れた撥液性を発現することができる。なお、本願において粒子3の表面3aの下半部とは、粒子3の表面3aにおける表層2と対向する部分(つまり、
図1での下半部)を意味している。
【0019】
優れた撥液性をより確実に発現するためには、粒子層4の粒子間ピッチは、粒子層4の平均粒径以上、且つ粒子層4の平均粒径の2倍以下であることが好ましい。粒子間ピッチをこの範囲に設定することで、撥液性を得る上で好ましい密度で分布する一層の粒子3のみで構成される粒子層4を安定して得ることができる。ここで、粒子間ピッチとは、1mm×1mmの領域内にある隣接する全ての粒子3の頂点3b間の距離の平均値を意味している。なお、粒子3の頂点3bとは、表層2から最も遠い点を意味している。粒子間ピッチは、非接触レーザー共焦点顕微鏡(深さ1nmの解像度、OLS4100、オリンパス社)を使用して測定することができる。
【0020】
表層2は粒子3を接着する接着性を有している。表層2は紫外線硬化樹脂で構成することができるが、これに限らない。例えば、常温で硬化する接着剤で表層2を構成してもよい。
【0021】
表層2を紫外線硬化樹脂で構成する場合、例えば、表層配置工程(
図2(a)参照)、粒子層配置工程(
図2(b)参照)、表層硬化工程(
図2(c)参照)をこの順に経ることで容易に撥液構造1を得ることができる。表層配置工程は、基材5の表面5aに塗布等の手段により未硬化の表層2を配置する工程である。粒子層配置工程は、未硬化の表層2の表面2aに粒子層4を配置する工程である。表層硬化工程は、未硬化の表層2に紫外線8を照射して表層2を硬化させる工程である。
【0022】
粒子層4の粒子3は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂で構成することができるが、これに限らない。
【0023】
基材5を構成する材料は、表層2が基材5に対して接着可能である限り特に限定されず、例えば合成樹脂、ガラス、金属等であってよい。
【0024】
粒子層4の平均粒径は、例えば100~800μmであり、好ましくは200~300μmである。
図3に示すように、平均粒径が100~800μmである粒子3を用いることで、良好な接触角及び滑落角が得られることが分かっており、平均粒径が200~300μmである粒子3を用いることで、より良好な接触角及び滑落角が得られることが分かっている。なお、
図3は蒸留水の接触角と、蒸留水の水滴を滴下した凹凸表面6を徐々に傾けたときに水滴の滑落が始まった凹凸表面6の傾斜角を示している。
【0025】
粒子層4の粒子間ピッチは、好ましくは250~400μmである。粒子層4の粒子間ピッチを上記範囲内に設定することで、優れた撥液性をより確実に発現することができる。
【0026】
撥液構造1は例えば容器に設けると好適である。容器の種類は特に限定されず、例えばボトルやチューブ、パウチなどが挙げられる。容器に収容する内溶液の種類も特に限定されず、水や油、食品などが挙げられる。撥液構造1は、容器の内面に設けた場合には例えば内容液の使い残しを低減することができる。なおこの場合、例えば、容器の基材の内面を基材5の表面5aで構成することができる。撥液構造1は、例えば、容器本体の口部に装着されるキャップの内面に設けてもよい。また、撥液構造1は、容器の外面に設けた場合には例えば、吐出部からの液垂れなどによる容器の外面への内容液の付着を抑制することができる。なおこの場合、例えば、容器の基材の外面を基材5の表面5aで構成することができる。
【0027】
前述した本実施形態は、本発明の実施形態の一例にすぎず、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例1~2として、
図2に示した手順で上述した構成の撥液構造1を製作し、顕微鏡による観察と撥液性の評価を行った。いずれの実施例においても、その製作条件は以下のとおりである。
【0029】
表層2は紫外線硬化樹脂(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、M-405、アロニックス、粘度:3,700~5,700/25mPa・s/℃、東亞合成社、東京、日本)で構成した。基材5として、厚さ0.15mm、直径25mmのガラス基板(12-545-102、サーモフィッシャーサイエンティフィック社:Thermo Fisher Scientific K.K.、東京、日本)を使用した。粒子層4の粒子3として、PTFE製のマイクロビーズ(直径>40μm、182478、Merck KGaA、Darmstadt、ドイツ)を使用した。
【0030】
表層配置工程(
図2(a)参照)では紫外線硬化樹脂をガラス基板上にブラシで塗布し、スピンコーター(ACT-220DII、アクティブ社、埼玉県、日本)を用いてスピンコートを行い、紫外線硬化樹脂の厚さを約4.1μmに調整した。粒子層配置工程(
図2(b)参照)では複数種類の篩(ワイヤーピッチ:53~1000μm、日本国東京スクリーン社、JIS Z 8801)を用いて所定の粒径に選別したマイクロビーズの塊を紫外線硬化樹脂上に散布した。実施例1は212~250μmの粒径に選別したマイクロビーズを使用した。実施例2は250~300μmの粒径に選別したマイクロビーズを使用した。表層硬化工程(
図2(c)参照)では紫外線ランプ(FL4BLB、0.2W、352nm、2.16μW/cm
2、Toshiba Lighting&Technology Co.、横須賀、日本)を使用して、紫外線を紫外線硬化樹脂に照射した。
【0031】
顕微鏡による観察は、非接触レーザー共焦点顕微鏡(深さ1nmの解像度、OLS4100、オリンパス社)を使用した。観察結果を
図4~
図7に示す。実施例1~2のいずれにおいても、粒子層4の粒子3の表面3aと表層2の表面2aとによりアンダーカット状の凹凸表面6が形成されていることが分かる。断面はガラス基板をナイフでカットして撮影した。また、粒子間ピッチは、上記の非接触レーザー共焦点顕微鏡にて測定したところ、実施例1、2はいずれも280~380μmであった。
【0032】
撥液性の評価に使用した試料液は、蒸留水、醤油(キッコーマン社、野田、日本)、及びキャノーラ油(日清オイリオグループ、東京、日本)であった。市販の接触角分析器(DM-701)を使用し、各試料液10μLの球状の曲率表面を実施例1の凹凸表面6に押し付けた。その押し付けた状態を撮影した写真を
図8~
図10に示す。
図8は蒸留水、
図9は醤油、
図10はキャノーラ油を示している。いずれにおいても、優れた撥液性が示されていることが分かる。また、実施例1~2について、蒸留水の滑落角、醤油の接触角及び滑落角、キャノーラ油の接触角及び滑落角を測定した。接触角及び滑落角は上記の接触角分析器を使用し、24℃、55%の相対湿度の条件下で測定した。その結果、実施例1~2のいずれにおいても、蒸留水の滑落角は5°であり、醤油の接触角及び滑落角はそれぞれ128.6°と36°であり、キャノーラ油の接触角及び滑落角はそれぞれ123.4°と56°であった。なお、実施例1、2のそれぞれにおいて、粒子間ピッチが250μm未満となるものを別途製作したところ、これらにおいては撥液性が得られなかった。また、実施例1、2のそれぞれにおいて、粒子間ピッチが400μmを超えるものも製作したが、これらにおいても撥液性が得られなかった。
【符号の説明】
【0033】
1 撥液構造
2 表層
2a 表層の表面
3 粒子
3a 粒子の表面
3b 粒子の頂点
4 粒子層
5 基材
5a 基材の表面
6 凹凸表面
7 エアポケット