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特許7325938燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法
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  • 特許-燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法 図1
  • 特許-燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230807BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20230807BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20230807BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20230807BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20230807BHJP
   H01M 8/16 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/86 H
H01M4/88 H
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M4/96 B
H01M8/16
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018145691
(22)【出願日】2018-08-02
(65)【公開番号】P2020021671
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】岡部 晃博
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 豊明
(72)【発明者】
【氏名】井上 謙吾
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-062687(JP,A)
【文献】国際公開第2016/166956(WO,A1)
【文献】特開2017-168457(JP,A)
【文献】特開2015-046361(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143352(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86-4/98
H01M 8/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の前記空気極に用いられる電極であって、
導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
前記酸素透過膜が前記導電性基材に非接合状態で当接しているとともに、前記導電性基材の表面に前記電極触媒の層が設けられており、
前記酸素透過膜の膜厚が0.1μm以上1000μm以下であり、
前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、燃料電池用電極。
【請求項2】
前記酸素透過膜の膜厚が1μm以上500μm以下である、請求項1に記載の燃料電池用電極。
【請求項3】
前記燃料極が、発電菌が定着できる導電性基材を含む、請求項1または2に記載の燃料電池用電極。
【請求項4】
前記燃料極が、導電性基材と、電極触媒としての発電菌と、を含む、請求項1~3いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項5】
前記空気極の前記導電性基材の材料が炭素材料である、請求項1~4いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項6】
前記燃料極が、炭素材料により構成された導電性基材を含む、請求項1~5いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項7】
前記燃料電池が家畜排泄物を燃料とする、請求項1~6いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項8】
前記空気極の前記電極触媒の材料が、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含む、請求項1~7いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
【請求項9】
前記空気極の前記電極触媒の材料がPtを含む、請求項8に記載の燃料電池用電極。
【請求項10】
請求項1~9いずれか1項に記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
【請求項11】
構成要素としてプロトン伝導膜を含まない、請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の空気極に用いられる電極の製造方法であって、
導電性基材と酸素透過膜とを非接合状態で当接させる工程と、
前記導電性基材の表面に電極触媒の層を形成する工程と、
を含み、
前記酸素透過膜の膜厚が0.1μm以上1000μm以下であり、
前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、燃料電池用電極の製造方法。
【請求項13】
前記酸素透過膜の膜厚が1μm以上500μm以下である、請求項12に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項14】
電極触媒の層を形成する前記工程が、前記導電性基材の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む前記層を形成する工程を含む、請求項12または13に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【請求項15】
電極触媒の層を形成する前記工程が、前記スパッタ法によりPtを含む前記層を形成する工程である、請求項14に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物燃料電池(Microbial Fuel Cell:MFC)の電極に関する技術として、特許文献1および2に記載のものがある。
特許文献1(特表2015-525692号公報)には、MFCにおいて使用するための膜が記載されている。具体的には、同文献には、高い酸素透過性を有するポリマーの第1の層と、織材料または不織材料から製造された第2の支持層とを含む膜であって、両方の層が、接着剤を使用することによって一緒にドット積層またはパターン積層される、膜を用いることが記載されており、これにより、特にMFCの分野において使用するための、改良された電極構成およびそれと共に電子-ガス/収集-透過システムを提供することができるとされている。
【0003】
また、特許文献2(国際公開第2015/025917号)には、導電性が高く、耐腐食性が高く、かつ安価である微生物燃料電池用電極及び微生物燃料電池用電極の製造方法を提供するための技術として、微生物燃料電池に用いられ、導電性基材と、導電性基材の表面を被覆している被膜とを備え、被膜が、導電性カーボン材料及び樹脂を用いて形成されており、導電性基材が被膜で被覆されることで構成される微生物燃料電池用電極であって、抵抗率が特定の範囲にある微生物燃料電池用電極について記載されている。そして、この電極は、樹脂及び有機溶剤を含む導電性カーボン材料含有液を、導電性基材に塗布した後、有機溶剤を蒸発させて除去することにより得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-525692号公報
【文献】国際公開第2015/025917号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、微生物燃料電池をはじめとする電解液を備える燃料電池の空気極について検討をおこなったところ、簡便な構造で良好な出力を得るという点において、改善の余地があることが明らかになった。
【0006】
そこで、本発明は、電解液を備える燃料電池の空気極に用いることができ、簡便な構造で良好な出力を得ることができる電極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下に示す燃料電池用電極、燃料電池および燃料電池用電極の製造方法が提供される。
[1] 空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の前記空気極に用いられる電極であって、
導電性基材、電極触媒および酸素透過膜を含み、
前記酸素透過膜が前記導電性基材に非接合状態で当接しているとともに、前記導電性基材の表面に前記電極触媒の層が設けられている燃料電池用電極。
[2] 前記酸素透過膜の膜厚が0.1μm以上1000μm以下である、上記[1]に記載の燃料電池用電極。
[3] 前記燃料極が、発電菌が定着できる導電性基材を含む、上記[1]または[2]に記載の燃料電池用電極。
[4] 前記燃料極が、導電性基材と、電極触媒としての発電菌と、を含む、上記[1]~[3]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[5] 前記空気極の前記導電性基材の材料が炭素材料である、上記[1]~[4]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[6] 前記燃料極が、炭素材料により構成された導電性基材を含む、上記[1]~[5]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[7] 前記空気極の前記酸素透過膜の材料が、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含む、上記[1]~[6]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[8] 前記空気極の前記酸素透過膜の材料がポリ4-メチル-1-ペンテンを含む、上記[7]に記載の燃料電池用電極。
[9] 前記燃料電池が家畜排泄物を燃料とする、上記[1]~[8]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[10] 前記空気極の前記電極触媒の材料が、Ru、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含む、上記[1]~[9]いずれか1項に記載の燃料電池用電極。
[11] 前記空気極の前記電極触媒の材料がPtを含む、上記[10]に記載の燃料電池用電極。
[12] 上記[1]~[11]いずれか1項に記載の燃料電池用電極を備える燃料電池。
[13] 構成要素としてプロトン伝導膜を含まない、上記[12]に記載の燃料電池。
[14] 空気極、燃料極、および、前記空気極と前記燃料極との間に配設される電解液を備える燃料電池の空気極に用いられる電極の製造方法であって、
導電性基材と酸素透過膜とを非接合状態で当接させる工程と、
前記導電性基材の表面に前記電極触媒の層を形成する工程と、
を含む、燃料電池用電極の製造方法。
[15] 電極触媒の層を形成する前記工程が、前記導電性基材の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む前記層を形成する工程を含む、上記[14]に記載の燃料電池用電極の製造方法。
[16] 電極触媒の層を形成する前記工程が、前記スパッタ法によりPtを含む前記層を形成する工程である、上記[15]に記載の燃料電池用電極の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電解液を備える燃料電池の空気極に用いることができ、簡便な構造で良好な出力を得ることができる電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における燃料電池の構成例を模式的に示す断面図である。
図2】実施形態における燃料電池用電極の構成例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。また、数値範囲を示す「A~B」は、断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0011】
図1は、本実施形態における燃料電池の構造の一例を模式的に示す断面図である。
図1において、燃料電池10は、空気極13、燃料極11、および、空気極13と燃料極11との間に配設される電解液12を備える。そして、かかる燃料電池10の空気極13に用いられる電極が、導電性基材15、電極触媒および酸素透過膜14を含み、酸素透過膜14が導電性基材15に非接合状態で当接しているとともに、導電性基材15の表面に電極触媒の層(図2の電極触媒層19)設けられている。
【0012】
また、図1において、燃料極11と空気極13とは、外部抵抗17を含む外部回路により接続されている。
また、燃料極11および空気極13は容器18に収容されるとともに、空気極13の酸素透過膜14は容器18の外壁の一部を構成しており、酸素透過膜14の導電性基材15との接触面と反対側の面において、空気極13が大気16に接する構成となっている。
電解液12は、たとえば燃料となる有機物を含み、好ましくは燃料有機物の水懸濁液である。燃料有機物の水懸濁液の具体例として、家畜排泄物を含む家畜農家における廃水や家庭廃水等が挙げられる。また電解液12には発電を促進するための添加物が加えてもよく、添加物には制限はないが、たとえば酸化鉄や水酸化鉄などの鉄化合物類が挙げられる。
また、燃料電池10は、好ましくは構成要素としてプロトン伝導膜を含まない。
【0013】
このように構成された燃料電池10において、燃料極11には、電解液12中の燃料、具体的には有機物が供給され、有機物が分解して水素イオンが生じると共に電子が放出される。
燃料極11にて生じた水素イオンは電解液12中を移動して空気極13に到達する。燃料極11から放出された電子は、外部回路を通じて空気極13に移動する。空気極13には、大気16すなわち空気が供給される。そして、空気極13においては、水素イオンおよび空気中の酸素から水が生成する。
以上の結果、外部回路では、燃料極11から空気極13に向かって電子が流れ、電力が取り出される。
【0014】
燃料電池10は、たとえば微生物燃料電池である。以下、燃料電池10が微生物燃料電池である場合を例に挙げて説明する。
【0015】
微生物燃料電池である燃料電池10は、たとえば家畜排泄物や食品廃棄物を燃料とする。また、電解液12として、家畜排泄物等の有機物を含む廃水、汚泥、その他のバイオマス懸濁液等が挙げられる。また、電解液12が発電菌を含むものが好ましい。
そして、燃料極11において、微生物の作用により有機物から水素イオンおよび電子が生じる。具体的には、燃料極11は、導電性基材および導電性基材に担持された微生物を含み、好ましくは、導電性基材と電極触媒としての発電菌とを含む。発電菌として、たとえば、細胞外電子伝達機構を有する細菌が挙げられる。
また、微生物は、燃料に含まれる有機物を酸化して電子を生成するものであればよく、1種および2種以上のいずれとしてもよい。微生物の具体例として、Shewanella属、Geobacter属、Geothrix属、Aeromonas属に属するものが挙げられる。所望の微生物を添加し導電性基材に担持させてもよいが、廃水中に含まれる微生物を利用して担持させてもよい。微生物の担持方法について制限はないが、燃料極11として微生物を担持していない導電性基材と微生物を含む電解液を用いて発電を開始し、発電に伴い導電性基材に微生物を付着させる方法等が挙げられる。
【0016】
燃料極11での反応を効率良く生じさせる観点から、燃料極11の導電性基材は、発電菌が定着できる導電性材料により構成されていることが好ましい。
導電性材料の具体例として、炭素、導電性の金属が挙げられる。
また、発電菌を担持できるとともに、燃料が導電性基材内を移動できる形状とする観点から、導電性基材として、たとえば、フェルト、織布、不織布、網状体、焼結体、発泡体等の多孔質基材が挙げられる。同様の観点から、燃料極11が、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の炭素材料やステンレス等の金属材料により構成された導電性基材を含むことが好ましく、中でも炭素材料がさらに好ましい。また、燃料極11の導電性基材は表面処理されていてもよい。
【0017】
燃料極11がシート状であるとき、燃料極11の厚さは、発電菌を安定的に担持する観点から、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは1mm以上である。また、燃料極11の小型化の観点から、燃料極11の厚さは好ましくは20mm以下であり、より好ましくは10mm以下である。
ここで、燃料極11の厚さは、燃料極11の導電性基材の厚さであってもよい。
【0018】
次に、空気極13について説明する。
空気極13においては、前述のとおり、酸素透過膜14が導電性基材15に非接合状態で当接している。すなわち、酸素透過膜14と導電性基材15とは、直接接しているが、互いに接着はされていない。また、空気極13は、好ましくは導電性基材15と酸素透過膜14との間に介在層を有しない。
【0019】
酸素透過膜14は、酸素透過性に優れるとともに、大気16への電解液12の漏れを抑制できる材料により構成されていることが好ましい。この点、酸素透過膜14の材料は、たとえば酸素透過性を有する樹脂であり、具体例として、ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン等のポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ化炭素樹脂;ポリジメチルシロキサン等のシリコーンが挙げられる。
酸素透過膜14の材料は、好ましくはポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリブテン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサンからなる群から選択されるいずれか1つの樹脂を含み、より好ましくは4-メチル-1-ペンテンを含む。
【0020】
酸素透過膜14の膜厚は、電解液12の漏れを抑制する観点から、好ましくは0.1μm以上であり、より好ましくは1μm以上であり、さらに好ましくは10μm以上である。
また、酸素透過性を向上させる観点から、酸素透過膜14の膜厚は、たとえば1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは200μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下であり、さらにより好ましくは50μm以下である。
【0021】
導電性基材15の材料としては、燃料極11の導電性基材の材料として前述したものが挙げられる。
導電性基材15は、燃料極11の導電性基材と同じ材料により形成されていてもよいし、異なる材料により形成されていてもよい。
導電性基材15は、酸素透過性および水に対する浸透性に優れる材料により構成されていることが好ましく、カーボンクロス、カーボンペーパー、カーボンフェルト等の炭素材料により構成されていることが好ましい。
【0022】
導電性基材15がシート状であるとき、導電性基材15の厚さは、電極触媒を安定的に担持する観点から、好ましくは10μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。また、空気極13の小型化の観点から、導電性基材15の厚さは好ましくは5mm以下であり、より好ましくは1mm以下である。
【0023】
また、空気極13において、電極触媒は、導電性基材15の表面に層状に設けられている。
図2は、空気極13として用いられる電極の構成例を示す断面図である。図2に示したように、空気極13は電極触媒層19を有する。電極触媒層19は、好ましくは、導電性基材15の表面すなわち酸素透過膜14との接合面の裏面に設けられている。電極触媒層19は、導電性基材15の上記裏面の全体に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよく、好ましくは上記裏面の全体に形成されている。また、電極触媒層19は、シート状の触媒から形成される層であってもよいが、粒子状の触媒から形成される層であってもよい。粒子状の触媒は互い接していなくても全体として層を形成していればよい。
電極触媒層19の厚さは、空気極13での反応効率を高める観点から、好ましくは1nm以上であり、より好ましくは10nm以上である。また、同様の観点から、単位電極表面積当たりの触媒物質量は0.01~10μmol/cm2であることが好ましく、0.1~5μmol/cm2であることがより好ましい。
【0024】
電極触媒の具体例として、金属触媒が挙げられる。また、電極触媒の材料として、空気極13にて触媒反応を進行させる観点から、たとえばRu、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、AgおよびAuからなる群から選択される1または2以上の金属を含み、好ましくはRu、Rh、Pd、PtまたはAgを含み、より好ましくはPtを含む。このとき、少ない触媒量で高い出力を得る観点から、導電性基材15の表面に、Ptを含む電極触媒層19が設けられているとより好ましく、Ptを含む電極触媒のスパッタ層が設けられているとさらに好ましい。
【0025】
空気極13全体の形状がシート状であるとき、空気極13の厚さは、強度維持の観点から、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは100μm以上である。また、空気極13の小型化の観点から、空気極13の厚さは好ましくは5mm以下であり、より好ましくは1mm以下である。
【0026】
次に、空気極13として用いる燃料電池用電極の製造方法を説明する。
本実施形態において、空気極13として用いる電極は、たとえば
(工程1)導電性基材15と酸素透過膜14とを非接合状態で当接させる工程、および
(工程2)導電性基材15の表面に電極触媒層19を形成する工程
を含む。
工程1および工程2の順序に制限はないが、電極触媒層19を導電性基材15の表面に安定的に形成する観点から、好ましくは、工程2をおこなった後、工程1をおこなう。
【0027】
工程1においては、たとえば酸素透過膜14および導電性基材15を直接重ねて配置する。
【0028】
また、工程2は、たとえば、導電性基材15の表面に、スパッタ法または電極還元法により、Ptを含む電極触媒層19を形成する工程を含み、好ましくはスパッタ法によりPtを含む電極触媒層19を形成する工程である。
スパッタの条件には制限は無く、温度、時間等の条件についてスパッタが可能でかつ材料の耐久の範囲内で実施すればよい。
【0029】
以上により、空気極13として用いられる電極が得られる。
そして、たとえば、微生物を担持させた燃料極11および空気極13を容器18の所定の位置に配置して外部抵抗17を介して接続し、容器18内に電解液12を供給することにより、燃料電池10を得ることができる。
【0030】
本実施形態により得られる燃料電池10においては、酸素透過膜14が導電性基材15に非接合状態で当接しているとともに、導電性基材15の表面に電極触媒層19が設けられている。このため、簡便な構造で良好な出力を得ることができる。たとえば、本実施形態によれば、少ない触媒量で高い出力を得ることも可能となる。また、本実施形態によれば、たとえば、空気極13として用いる電極の製造工程を簡素化することもできる。
【0031】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例
【0032】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
はじめに、空気極および燃料極の作製例を以下に示す。
【0034】
(空気極作製例1)
導電性基材としてカーボンクロス(AvCarb社製、HCB1071、厚さ350μm)を縦130mm×横60mmに切り取り、片面にのみスパッタリングによりPtを0.26μmol/cm2となるよう層状に付着させた後、導線を接続した。カーボンクロスのPtを付着させていない側の面に、酸素透過膜として縦130mm×横30mm×厚さ27μmのポリ4-メチル-1-ペンテン(三井化学社製TPX、MX002O)のフィルムを接着せず単に重ねることで空気極gを作製した。
【0035】
(空気極作製例2)
酸素透過膜として厚さ300μmのポリジメチルシロキサン(PDMS)のフィルムを用いた以外は空気極作製例1に準じて空気極hを作製した。
【0036】
(空気極作製例3)
酸素透過膜として厚さ300μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のフィルムを用いた以外は空気極作製例1に準じて空気極iを作製した。
【0037】
(空気極作製例4)
導電性基材としてカーボンクロス(AvCarb社製、HCB1071、厚さ350μm)を用い、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の60%水懸濁液(SIGMA Aldrich社製)にカーボンブラック(Valcan XC-72、Cabot社製)を加えた懸濁液をワニスとして片面に塗布し、酸素透過膜としてポリテトラフルオロエチレンを塗布したカーボンクロス/ポリテトラフルオロエチレン塗布フィルムを作製した。
得られた塗布フィルムを縦130mm×横60mmに切り取り、5wt%のNafion Perfluorinated resin溶液(SIGMA Aldrich社製)1.2mLに蒸留水1.8mLとPt/C(Pt 37.5wt%、田中貴金属社製TEC10E40E)105mgを加えた懸濁液をカーボンクロス側の表面にPt/Cを塗布し、Ptが2.56μmol/cm2となるよう付着させた。室温で12時間乾燥した後、導線を接続して空気極jを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0038】
(空気極作製例5)
Ptを0.26μmol/cm2となるようPt/Cを付着させた以外は、空気極作製例4に準じて空気極kを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0039】
(空気極作製例6)
導電性基材としてカーボンクロスに代わりカーボンペーパー(AvCarb社製P50、厚さ170μm)を使用した以外は、空気極作製例4に準じて空気極lを作製した。酸素透過膜の厚さは300μmであった。
【0040】
(空気極作製例7)
カーボンクロスのPtを付着させていない側の面に、酸素透過膜として縦130mm×横60mm×厚さ27μmのポリ4-メチル-1-ペンテンのフィルムを全面にエポキシ接着剤を塗布して接着した以外は、空気極作製例1に準じて空気極mを作製した。
【0041】
(燃料極作製例1)
導電性基材としてカーボンフェルト(綜合カーボン社製)を縦130mm×横60mmに切り取り、燃料極aとした。
【0042】
(実施例1~3、比較例1~4)
以上により作製した空気極および燃料極を用いて図1に示した構成の燃料電池10を作製し、出力を測定した。各例で用いた電極の構成および出力の測定結果を表1に示す。
【0043】
(実施例1)
牛糞を蒸留水に懸濁させ、懸濁液中の固形分が20g/Lとなるように電解液を調製し、1.0Lを発電用の電解液として用いた。
空気極gを、Ptが付着しているカーボンクロス側の面が電解液に接触し、酸素透過膜側の面が空気に接触するように設置し、燃料極aを電解液に浸漬するように設置して、図1に示した構成の燃料電池用を作製した。空気極gと燃料極aを150Ωの外部抵抗を通して接続することにより発電試験を開始し、発電に伴い電解液中に含まれる発電菌を燃料極aに付着させた。発電菌付着後の出力最高値として0.39mWを記録した。
【0044】
(実施例2)
空気極gに代わり空気極hを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.27mWを記録した。
【0045】
(実施例3)
空気極gに代わり空気極iを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.27mWを記録した。
【0046】
(比較例1)
空気極aに代わり空気極jを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.30mWを記録した。
【0047】
(比較例2)
空気極aに代わり空気極kを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.27mWを記録した。
【0048】
(比較例3)
空気極aに代わり空気極lを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.30mWを記録した。
【0049】
(比較例4)
空気極aに代わり空気極mを使用した以外は、実施例1に準じて発電試験を実施し、
出力最高値として0.05mWを記録した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より、実施例1~3では、いずれも、比較例1および3よりも空気極におけるPtの付着量が少ないにも関わらず、良好な出力特性を得ることができた。
また、比較例2および比較例4では、酸素透過膜と導電性基材とを接着したのに対し、実施例1~3では、いずれも、これらを接着せずに配置することにより製造工程を簡素化することができるとともに、良好な出力特性を得ることができた。
【符号の説明】
【0052】
10 燃料電池
11 燃料極
12 電解液
13 空気極
14 酸素透過膜
15 導電性基材
16 大気
17 外部抵抗
18 容器
19 電極触媒層
図1
図2