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特許7325959腫瘍特異的細胞の枯渇のための抗CD25 FCγ受容体二重特異性抗体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】腫瘍特異的細胞の枯渇のための抗CD25 FCγ受容体二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230807BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230807BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230807BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230807BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20230807BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230807BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZMD
A61K39/395 T
A61P35/00
A61P37/02
A61P43/00 121
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12P21/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018552062
(86)(22)【出願日】2017-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 EP2017056469
(87)【国際公開番号】W WO2017174331
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-16
(31)【優先権主張番号】1605947.9
(32)【優先日】2016-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】598176569
【氏名又は名称】キャンサー・リサーチ・テクノロジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CANCER RESEARCH TECHNOLOGY LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケサダ セルジオ
(72)【発明者】
【氏名】ペグス カール
(72)【発明者】
【氏名】バーガス アルセ フレデリック
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/145907(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0294759(US,A1)
【文献】国際公開第2010/030002(WO,A1)
【文献】特表2008-535883(JP,A)
【文献】JOHN H SAMPSON; ET AL,A PILOT STUDY OF IL-2Rα BLOCKADE DURING LYMPHOPENIA DEPLETES REGULATORY T-CELLS AND CORRELATES WITH ENHANCED IMMUNITY IN PATIENTS WITH GLIOBLASTOMA,PLOS ONE,2012年02月27日,VOL:7, NR:2,PAGE(S):E31046/1-11,https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0031046&type=printable
【文献】Cancer Vaccines, 2009, Vol.1174, pp.99-106
【文献】Trends in Immunology, 2015, Vol.36, No.6, pp.325-336
【文献】Science Translational Medicine, 2012, Vol.4, No.134, Article No.134ra62, pp.1-9
【文献】Eur. J. Immunol., 2010, Vol.40, pp.3325-3335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 16/00-16/46
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗CD25抗体を含を含む、固形腫瘍を治療するための医薬組成物であって、
前記抗CD25抗体は、FcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaから選択される少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に約10-6M未満の解離定数で結合し、腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させ、ADCC応答を誘導する、単一特異性ヒトIgG1抗体であり、
前記抗CD25抗体は、PD-1アンタゴニストとの組み合わせで対象に投与され、
前記PD-1アンタゴニストは、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、
医薬組成物。
【請求項2】
前記抗CD25抗体が、CD25に対して、10-8M未満の解離定数(K)を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗CD25抗体が、
(a)抑制型に対する活性化型の比(A/I)が1を上回る状態でFcγ受容体に結合し、かつ/または
(b)FcγRIIbに対する結合よりも高い親和性でFcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaのうちの少なくとも1つに結合する、
請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗CD25抗体がモノクローナル抗体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗CD25抗体が、ヒト抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗CD25抗体が、CDC及び/またはADCP応答を誘導する、請求項1~5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗CD25抗体が、定着腫瘍を有する対象に投与される、請求項1~のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
固形がんを治療するための薬剤の製造のための、請求項1~のいずれか一項に定義される抗CD25抗体の使用であって、前記抗体がPD-1アンタゴニストとの組み合わせで投与され、前記PD-1アンタゴニストは、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、使用。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体と、PD-1アンタゴニストとが同時に、個別に、または連続して投与され、前記PD-1アンタゴニストは、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、固形腫瘍を治療するための組み合わせ薬。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に定義される抗CD25抗体と、PD-1アンタゴニストとを含み、前記PD-1アンタゴニストは、抗PD-1抗体又は抗PD-L1抗体である、固形腫瘍の治療に使用するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がん免疫療法の分野のものであり、固形腫瘍を治療する方法を含む、がんを治療する方法に関し、当該方法は、CD25に対する抗体の使用を伴う。
【背景技術】
【0002】
がん免疫療法は、がんを治療または予防するために、対象自身の免疫系を使用することによって行われる。免疫療法は、多くの場合、免疫系によって検出され得るがん細胞の表面上の分子がわずかに異なるという事実を利用する。これらの分子、すなわち、がん抗原は、最も一般的にはタンパク質であるが、炭水化物などの分子を含むこともある。したがって、免疫療法は、これらの標的抗原を介して腫瘍細胞を攻撃するように免疫系を誘導することを伴う。しかしながら、悪性腫瘍、特に、固形腫瘍は、腫瘍細胞に固有であり、かつ腫瘍微小環境の構成要素によって媒介される様々な機構によって、免疫監視を回避することができる。腫瘍微小環境の構成要素のなかでも、制御性T細胞(Treg細胞またはTreg)による腫瘍浸潤、より具体的には、エフェクターT細胞(Teff)とTregの望ましくないバランス(すなわち、Tregに対するTeffの比率が低い)が重要な因子として提案されている(Smyth M et al.,2014,Immunol Cell Biol.92,473-4)。
【0003】
この発見以来、Tregは、免疫恒常性を左右すること、ならびに末梢性免疫寛容の確立及び維持を促進することに重要であることが判明している。しかしながら、その役割は、がんとの関係において、より複雑である。がん細胞は、自己抗原と腫瘍関連抗原の両方を発現するので、エフェクター細胞応答を弱めるようとするTregの存在は、腫瘍進行の一因となり得る。したがって、定着腫瘍におけるTregの浸潤は、効果的な抗腫瘍応答及び全般的ながん治療に対する主な障害の1つとなっている。Tregが活用する抑制機構は、現行の治療法、特に、抗腫瘍応答の誘導または強化に依存している免疫療法に制限をもたらし、更には失敗させる、大きな原因であると考えられる(Onishi H et al;,2012 Anticanc.Res.32,997-1003)。
【0004】
がんを治療するための治療アプローチとしてのTregの枯渇は、Tregがネズミモデルにおける腫瘍の確立及び進行の一因となることを示した研究によって裏付けられているアプローチである。更に、Tregによる腫瘍浸潤は、いくつかのヒトがんにおいて、予後不良とも関連している(Shang B et al.,2015,Sci Rep.5:15179)。しかしながら、腫瘍におけるTregの枯渇は複雑であり、この分野における研究結果には矛盾が生じている。そのため、当該技術分野では、Tregの枯渇を伴う、がんの治療法が必要とされている。
【0005】
Tregの枯渇を達成する可能性のある分子標的のなかでも、IL-2/CD25相互作用は、ネズミモデルでの一部の研究の対象となっており、そのうちのいくつかは、ラット抗マウスCD25抗体であるPC61の使用を含んでいる(Setiady Y et al.,2010.Eur J Immunol.40:780-6)。この抗体のCD25結合及び機能的活性については、様々な著者によって作製されたモノクローナル抗体パネルのものと比較されている(Lowenthal J.W et al.,1985.J.Immunol.,135,3988-3994;Moreau,J.-L et al.,1987.Eur.J.Immunol.17,929-935;Volk HD et al.,1989 Clin.exp.Immunol.76,121-5;Dantal J et al.,1991,Transplantation 52:110-5)。
【0006】
このような方法で、マウスIL-2結合部位とは異なるまたは共通している、当該標的内の抗マウスCD25の3つのエピトープが特徴付けられた。PC61(マウスIgG1アイソタイプを有する)は、IL-2がCD25に結合するのを遮断または阻害し、抗マウスCD25抗体(抗ヒトCD25抗体として開示されているもののほとんど;例えば、WO2004/045512、WO2006/108670、WO1993/011238及びWO1990/007861参照)の他の多くのハイブリドーマも同様である。更に、マウスCD25へのPC61の結合は、7D4などの他の抗マウスCD25抗体の場合と同様に、IL-2結合部位におけるCD25のADPリボース化による影響を受けない(Teege S et al.,2015,Sci Rep 5:8959)。
【0007】
一部の文献は、がんまたはTreg枯渇に関連して、抗CD25を単独でまたは組み合わせて使用することに言及している(WO2004/074437;WO2006/108670;WO2006/050172;WO2011/077245;WO2016/021720;WO2004/045512;Grauer O et al.,2007 Int.J.Cancer:121:95-105)。しかしながら、がんのマウスモデルで試験すると、ラット抗マウスCD25 PC61は、腫瘍確立後に送達した場合、抗腫瘍活性を示さなかった。
【0008】
自己免疫のネズミモデルの場合では、抗CD25 PC61抗体を更に操作して、IL-2受容体の遮断及び末梢Tregの枯渇に対する、抗CD25抗体の大幅に異なるFcエフェクター機能の作用について評価された(Huss D et al.,2016.Immunol.148:276-86)。しかしながら、PC61(それ自体として、操作された抗体として、またはマウスCD25に対するPC61と同様のCD25結合特徴を有するように設計され、もしくは特徴付けられた抗ヒトCD25として)に関して、単独または他の抗体もしくは抗がん化合物との組み合わせで、腫瘍中のTregを枯渇させる能力または抗腫瘍治療活性を媒介する能力については、評価されていない。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、Tregを特に腫瘍内で効率的に枯渇させる構造要素を特徴とする、新規抗CD25抗体及び抗CD25抗体の新規使用を提供する。本目的において、単独または他の抗がん剤との組み合わせにおけるTreg枯渇としての使用及び腫瘍に対する有効性という点で驚くほど改善された特徴を呈する抗体を提供するために、ラットIgG1 PC-61(マウスCD25に関して記載されているもの)の構造上及び機能上の特徴を変更した。これらの知見を使用して、ヒト対象の腫瘍に対して同等の効果を提供する新しい抗ヒトCD25を定義し、作製することができる。
【0010】
したがって、発明者らによる重要な発見は、抗マウス抗CD25 PC61が、リンパ節及び循環中のTregは枯渇させられるのに対し、腫瘍内ではTregを枯渇させられないという予期しない知見である。腫瘍におけるTreg枯渇の欠如は、抗腫瘍活性の欠如と相関する。この新しい予期せぬデータに促され、発明者らは、腫瘍内Tregの強力な枯渇及び抗腫瘍活性をもたらすFc操作によって、抗マウスCD25の枯渇活性を増大させた。
【0011】
主要な態様において、本発明は、がんを有するヒト対象を治療する方法であって、抗CD25抗体を対象に投与するステップを含み、当該対象は、腫瘍(好ましくは、固形腫瘍)を有し、当該抗CD25抗体は、少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体(好ましくは、FcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaから選択される)に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である、方法を提供する。
【0012】
このような抗体は、好ましくは、CD25に対して、10-8M未満の解離定数(K)を有し、かつ/または少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に対して、約10-6M未満の解離定数を有する。最も好ましくは、抗CD25抗体は、Fcγ受容体に関する他の特徴、特に、
(a)抑制型に対する活性化型の比(A/I)が1を上回る状態でFcγ受容体に結合し、かつ/または
(b)FcγRIIbに対する結合よりも高い親和性でFcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaのうちの少なくとも1つに結合することを特徴とする。
治療方法において抗CD25抗体を使用することを想定する場合、更に好ましい特徴を呈することができる。抗CD25抗体は、好ましくは、モノクローナル抗体、特に、ヒト抗体またはヒト化抗体である。更に、免疫細胞及び/またはその活性を発揮するための免疫系構成要素の他の構成要素との相互作用を考慮して、抗CD25抗体は、向上したCDC、ADCC及び/またはADCP応答、好ましくは、増大したADCC及び/またはADCP応答、より好ましくは、増大したADCC応答を更に誘導し得る。
【0013】
本発明の抗CD25抗体(上で概ね定義され、「発明を実施するための形態」において詳述されるもの)は、ヒト対象を治療する方法において使用することができ、当該抗CD25抗体は、定着した固形腫瘍を有する対象に投与される(好ましくは、固形腫瘍を有する対象を特定するステップを更に含む方法において)。このような方法は、当該対象に免疫チェックポイント阻害薬を、例えば、抗体結合の形態で、投与することと、免疫チェックポイントタンパク質を阻害することを更に含み得る。好ましい免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1アンタゴニストであり、抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体であり得る。より一般的には、抗CD25抗体は、対象の固形腫瘍中の制御性T細胞を枯渇させる方法であって、当該抗CD25抗体を当該対象に投与するステップを含む方法において使用することができる。
【0014】
更なる態様において、本発明の抗CD25抗体は、ヒト対象のがんを治療するための薬剤の製造に使用することができ、当該対象は、固形腫瘍を有する。この目的において、当該抗体は、免疫チェックポイント阻害薬、好ましくは、PD-1アンタゴニストと組み合わせて投与するためのものである。
【0015】
更なる態様において、本発明は、ヒト対象のがんの治療に使用するための、上に定義される抗CD25抗体と別の抗がん化合物(好ましくは、「発明を実施するための形態」に示される免疫チェックポイント阻害薬または他の化合物)との組み合わせを提供し、当該対象は、固形腫瘍を有し、抗CD25抗体及び抗がん化合物(例えば、PD-1アンタゴニストなどの免疫チェックポイント阻害薬)は、同時に、個別に、または連続して投与される。この目的において、本発明はまた、上に定義される抗CD25抗体と、抗がん化合物(例えば、PD-1アンタゴニストなどの免疫チェックポイント阻害薬)とを含む、がんの治療に使用するためのキットを提供する。
【0016】
更なる態様において、本発明はまた、薬学的に許容される媒体中に、上に定義される抗CD25抗体を含む、医薬組成物を提供する。このような組成物は、抗がん化合物(例えば、PD-1アンタゴニストなどの免疫チェックポイント阻害薬)も含み得る。
【0017】
なお更なる態様において、本発明はまた、
(a)CD25に結合する第1の抗原結合部分と、
(b)別の抗原に結合する第2の抗原結合部分とを含む、二重特異性抗体であって、
二重特異性抗体は、少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である、二重特異性抗体を提供する。好ましくは、かかる第2の抗原結合部分は、免疫チェックポイントタンパク質、腫瘍関連抗原から選択される抗原に結合するか、抗ヒト活性化型Fc受容体抗体(抗FcγRI、抗FcγRIIcまたは抗FcγRIIIa抗体)であるか(または当該抗体をベースにするか)、抗ヒトFcγRIIbアンタゴニスト抗体である(または当該抗体をベースにする)。
【0018】
好ましくは、このような二重特異性抗体は、PD-1、CTLA-4、BTLA、KIR、LAG3、VISTA、TIGIT、TIM3、PD-L1、B7H3、B7H4、PD-L2、CD80、CD86、HVEM、LLT1、GAL9、GITR、OX40、CD137及びICOSからなる群から選択される免疫チェックポイントタンパク質に結合する、第2の抗原結合部分を含む。このような免疫チェックポイントタンパク質は、好ましくは、腫瘍細胞上に発現され、最も好ましくは、PD-1、PD-L1及びCTLA-4から選択される。免疫チェックポイントタンパク質に結合する第2の抗原結合部分は、免疫チェックポイント阻害薬として作用する市販の抗体に含まれるものであってもよいし、それをベースにしてもよく、例えば、
(a)PD-1の場合、抗PD-1抗体は、ニボルマブまたはペンブロリズマブであり得、
(b)PD-L1の場合、抗PD-L1は、アテゾリズマブであり、
(c)CTLA-4の場合、抗CTLA-4は、イピリムマブである。
このような二重特異性抗体は、デュオボディ、BiTE DART、CrossMab、ノブ・イントゥ・ホール、トリオマブまたは二重特異性抗体及びその断片の他の適切な分子フォーマットを含む、任意の市販のフォーマットで提供され得る。
【0019】
あるいは、このような二重特異性抗体は、腫瘍関連抗原に結合する第2の抗原結合部分を含む。この代替的実施形態において、このような抗原及び対応する抗体には、限定するものではないが、CD22(ブリナツモマブ)、CD20(リツキシマブ、トシツモマブ)、CD56(ロルボツズマブ)、CD66e/CEA(ラベツズマブ)、CD152/CTLA-4(イピリムマブ)、CD221/IGF1R(MK-0646)、CD326/Epcam(エドレコロマブ)、CD340/HER2(トラスツズマブ、ペルツズマブ)及びEGFR(セツキシマブ、パニツムマブ)が挙げられる。
【0020】
本発明の抗CD25抗体と別の抗がん化合物の組み合わせ、または上に定義される二重特異性抗体は、特に、対象が固形腫瘍を有するとき、かつ対象のがんの治療に使用するために、当該組み合わせまたは当該二重特異性抗体を対象に投与するステップを含む、がんを治療する方法において使用することができる。
【0021】
本発明の更なる目的は、本発明の抗ヒトCD25抗体、及びがんを治療する方法、医薬組成物、他の抗がん化合物との組み合わせ、二重特異性抗体におけるその使用に関する更なる定義を含め、「発明を実施するための形態」及び「実施例」に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、対象のがん、特に固形腫瘍を治療または予防する方法であって、CD25に結合する抗体を当該対象に投与するステップを含み、抗CD25抗体は、Tregを特に腫瘍内で効率的に枯渇させる構造要素を特徴とする、方法を提供する。本発明はまた、がん、特に固形腫瘍の治療または予防に使用するための、本発明に定義される、CD25に結合する抗体を提供する。あるいは、本発明は、がん、特に固形腫瘍を治療または予防するための薬剤の製造のための、CD25に結合し、Tregを効率的に枯渇させる抗体の使用を提供する。本発明はまた、がん、特に固形腫瘍の治療または予防における、CD25に結合し、Tregを効率的に枯渇させる抗体の使用を提供する。
【0023】
本発明は、どのようにして抗CD25抗体のアイソタイプ(ラット抗マウスCD25抗体PC61によって例示されるもの)を枯渇型アイソタイプ(PC61の場合、マウスIgG2であるが、ヒトにおいてIgG1に相当する)に切り替えて、固形腫瘍の状況において制御性T細胞の枯渇を改善させるかを開示する。更に、本発明者らは、CD25が、治療的状況、例えば、定着した固形腫瘍において、制御性T細胞を枯渇させるための標的になり得、CD25が、制御性T細胞に優先的に発現しているということを初めて見出した。本発明者らは、活性化型Fcγ受容体への結合を向上させた操作された抗CD25抗体が、腫瘍浸潤制御性T細胞の効果的な枯渇をもたらし、例えば、他のがん標的化合物、例えば、免疫チェックポイントタンパク質、腫瘍関連抗原または抑制型Fcγ受容体を標的にするものなどと関係付けることができる治療アプローチ(二重特異性抗体との組み合わせ、または二重特異性抗体中)になることを見出した。
【0024】
本発明者らはまた、抑制型Fcγ受容体IIbが腫瘍部位で上方制御されていることで、元の抗マウスCD25抗体PC61による効果的な腫瘍内制御性T細胞の枯渇が阻害されているということを初めて見出した。したがって、本発明は、CD25及びFcγ受容体IIbを標的にすること含む併用アプローチを伴う、治療用途を包含する。
【0025】
CD25は、IL-2受容体のα鎖であり、活性化T細胞、制御性T細胞、活性化B細胞、いくつかの胸腺細胞、骨髄前駆細胞及び希突起膠細胞上に認められる。CD25は、CD122及びCD132と会合し、IL-2の高親和性受容体として作用するヘテロ三量体を形成する。ヒトCD25のコンセンサス配列を以下の配列番号1に示す(Uniprotアクセッション番号P01589;アミノ酸22~240に対応する成熟ヒトCD25細胞外ドメインを下線で示し、配列番号2に示す)。
【0026】
本明細書で使用されるとき、「CD25に結合する抗体」は、IL-2受容体のCD25サブユニットに結合することができる抗体を指す。このサブユニットは、IL-2受容体のαサブユニットとしても知られている。このような抗体は、本明細書中、「抗CD25抗体」とも呼ばれる。
【0027】
抗CD25抗体は、IL-2受容体のCD25サブユニット(抗原)に特異的に結合することができる抗体である。「特異的結合」、「特異的に結合」及び「特異的に結合する」は、抗体が、目的の抗原に対して、約10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11Mまたは10-12M未満の解離定数(K)を有することを意味するものと理解される。好ましい実施形態において、解離定数は、10-8M未満、例えば、10-9M、10-10M、10-11Mまたは10-12Mの範囲である。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリン分子、及び抗原結合部位を含むその断片の両方を指す。これらには、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、遺伝子操作された抗体及び別様に改変された形態の抗体が含まれ、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヘテロコンジュゲート及び/または多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体、ダイアボディ、トリボディ及びテトラボディ)、ならびに抗体の抗原結合断片、例えば、Fab’、F(ab’)、Fab、Fv、rIlgG、ポリペプチド-Fc融合体、単鎖バリアント(scFv断片、VHH、トランスボディ(登録商標)、アフィボディ(登録商標)、サメ単一ドメイン抗体、単鎖またはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標))、VHH、アンチカリン(登録商標)、ナノボディ(登録商標)、ミニボディ、BiTE(登録商標)、二環式ペプチド及び他の代替的免疫グロブリンタンパク質足場)が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、抗体は、天然に産生される場合には有し得る共有結合修飾(例えば、グリカンの付加)を欠いていてもよい。いくつかの実施形態において、抗体は、共有結合修飾(例えば、グリカン、検出可能部分、治療部分、触媒部分、または抗体の安定性もしくは投与を改善するポリエチレングリコールなどの他の化学基の付加)を含有してもよい。「抗体」は、ラクダ抗体(重鎖のみの抗体)及びアンチカリンなどの抗体様分子も指し得る(Skerra(2008)FEBS J 275,2677-83)。いくつかの実施形態において、抗体は、各々が単一の抗体配列に関連付けられ、抗原内の大なり小なり異なるエピトープ(様々な参照抗ヒトCD25抗体に結合する、ヒトCD25細胞外ドメイン内の異なるエピトープなど)に結合する、抗体パネルとして作製されたポリクローナルまたはオリゴクローナルである。ポリクローナル抗体またはオリゴクローナル抗体は、文献に記載されているように、医学的使用のための単一調製物で提供することができる(Kearns JD et al.,2015.Mol Cancer Ther.14:1625-36)。
【0029】
本発明の一態様において、抗体は、モノクローナルである。抗体は、追加的または代替的に、ヒト化抗体またはヒト抗体であってもよい。更なる態様において、抗体は、ヒト抗体であり、いずれにせよ、ヒト対象における使用及び投与が可能なフォーマット及び特徴を有する抗体である。
【0030】
抗体(Ab)及び免疫グロブリン(Ig)は、同じ構造上の特徴を有する糖タンパク質である。免疫グロブリンは、lgA、lgD、lgG、lgEまたはlgMなどの任意のクラスに由来し得る。免疫グロブリンは、lgG、lgG、lgGまたはlgGなどの任意のサブクラスであり得る。本発明の好ましい態様において、抗CD25抗体は、IgGクラス、好ましくは、lgGサブクラスに由来する。一態様において、抗CD25抗体は、ヒトlgGサブクラスに由来する。
【0031】
IgG抗体のFc領域は、いくつかの細胞のFcγ受容体(FcγR)と相互作用して、下流のエフェクター機構を刺激し、制御する。5つの活性化型受容体、すなわち、FcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32a)、FcγRIIc(CD32c)、FcγRIIIa(CD16a)及びFcγRIIIb(CD16b)と、1つの抑制型受容体FcγRIIb(CD32b)がある。IgG抗体と免疫系との連絡は、特に生物学的製剤の場合、抗体によって感知及び収集される情報を免疫系に中継し、自然免疫系と適応免疫系との間の連係をもたらすFcγRによって制御及び媒介される(Hayes J et al.,2016.J Inflamm Res 9:209-219)。
【0032】
IgGサブクラスは、FcγRに結合する能力が異なり、この結合の差が一連の機能的応答を誘導する能力を決定する。例えば、ヒトにおいて、FcγRIIIaは、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の活性化に関与する主な受容体であり、この受容体に対して最も高い親和性を示し、ADCCを強力に誘導する能力をもたらすのは、IgG3であり、そのすぐ後にIgG1が続く。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、抗体は、FcγRに高親和性で結合し、好ましくは、活性化型受容体に高親和性で結合する。好ましくは、抗体は、FcγRI及び/またはFcγRIIa及び/またはFcγRIIIaに高親和性で結合する。具体的な実施形態において、抗体は、約10-6M、10-7M、10-8M、10-9Mまたは10-10M未満の解離定数でFcγRに結合する。
【0034】
一態様において、抗体は、少なくとも1つのFc活性化型受容体に結合することができる、IgG抗体、好ましくは、ヒトIgG抗体である。例えば、抗体は、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIc、FcγRIIIa及びFcγRIIIbから選択される1つ以上の受容体に結合し得る。一態様において、抗体は、FcγRIIIaに結合することができる。一態様において、抗体は、FcγRIIIa及びFcγRIIaに結合することができ、任意選択によりFcγRIに結合することができる。一態様において、抗体は、これらの受容体に、高親和性、例えば、約10-7M、10-8M、10-9Mまたは10-10M未満の解離定数で結合することができる。
【0035】
一態様において、抗体は、抑制型受容体FcγRIIbに低親和性で結合する。一態様において、抗体は、FcγRIIbに、10-7M超、10-6M超または10-5M超の解離定数で結合する。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、抗ヒトCD25抗体は、ヒトIgGサブクラスに由来し、好ましくは、本明細書で論じられるように、特に、ヒト起源の細胞に関して、ADCC及び/またはADCP活性を有する。実際に、先に記載されているように(Nimmerjahn F et al.,2005.Science,310:1510-2)、mIgG2aアイソタイプ(ヒトIgG1アイソタイプに相当)は、全てのFcγRサブタイプに結合するが、抑制型に対する活性化型の比(A/I)が高く、少なくとも1を超える。対照的に、他のアイソタイプ(rIgG1アイソタイプなど)は、1つの活性化型FcγRのみ(FcγRIII)及び抑制型FcγRIIbに同等の親和性で結合することから、A/I比が低い(<1)。実施例において示されるように、この低A/I比は、腫瘍内Treg枯渇の低さ及びアイソタイプの抗腫瘍治療活性の低さに相関する。
【0037】
好ましい実施形態において、本明細書に記載される抗CD25抗体は、ヒトCD25に、好ましくは、高親和性で結合する。更に好ましくは、抗CD25抗体は、上に示されるように、ヒトCD25の細胞外領域に結合する。一態様において、本発明は、本明細書に記載される抗CD25抗体を提供する。特に、実施例は、PC-61.5.3ハイブリドーマによって分泌され、PC61またはPC-61のいずれかとして概ね特定された抗体を用いて生成された実験データを提供する。文献(例えば、Setiady Y et al.,2010.Eur.J.Immunol.40:780-6;McNeill A et al.,2007.Scand J Immunol.65:63-9;Teege S et al.,2015,Sci Rep 5:8959)中のPC-61及びマウスCD25を含むアッセイは、実施例に開示されるもの(PC61のCD25結合ドメインを含む組み換え抗体を含む)とともに、実施例に記載されるように適切なアイソタイプと関連付けられたときのCD25との相互作用レベル(特に、IL-2結合を遮断することによる)及びFcγ受容体との相互作用レベル(特に、好ましくは、ヒト活性化型Fcγ受容体に結合し、Tregを効率的に枯渇させることによる)の両方で、PC61と同じ機能的特徴を有するヒトCD25を認識するヒト抗体を特徴付けられるように、適合させてもよい。本明細書に記載される抗体の所望の機能的特徴を達成するのに適した方法は、当業者に知られている。
【0038】
好ましい実施形態において、がんを有するヒト対象を治療する方法は、抗CD25抗体を対象に投与するステップを含み、当該対象は、好ましくは、固形腫瘍を有し、当該抗CD25抗体は、好ましくは、FcγRI(CD64)、FcγRIIc(CD32c)及びFcγRIIIa(CD16a)から選択される少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、ヒトIgG1抗体である。好ましくは、抗CD25抗体は、CD25に対して、10-8M未満の解離定数(K)を有する。より好ましくは、抗CD25抗体は、ヒトCD25に結合し、マウスCD25と同様に、IL-2結合及びTreg枯渇に作用する。更なる実施形態において、抗CD25抗体は、抑制型に対する活性化型の比(A/I)が1を上回る状態でFcγ受容体に結合し、かつ/またはFcγRIIb(CD32b)に対する結合よりも高い親和性でFcγRI(CD64)、FcγRIIc(CD32c)、FcγRIIIa(CD16a)に結合する。
【0039】
PC-61抗体のCD25結合ドメインは、クローン化され、適切な定常領域と融合された組み換えタンパク質として発現されている。任意の適切な技術(例えば、CD25で免疫化されたげっ歯類に由来するハイブリドーマパネルを増殖させるか、組み換え抗体ライブラリーを作製した後、本明細書に記載されるような機能的特徴付けについて、CD25断片を含むこれらの抗体レパートリーをスクリーニングすることによる)によって作製及びスクリーニングされた抗CD25抗体候補を比較するために、PC-61抗体のCD25結合ドメインの配列を使用することができ、CD25細胞外ドメイン内の別個のエピトープに対する特異性及び/またはその他の機能的活性も同様である。その結果として特定される抗CD25抗体は、本明細書に記載される組み換え抗体、特に、完全抗体または断片もしくはバリアントとして産生することもできる。
【0040】
天然抗体及び免疫グロブリンは、通常、2つの同一の軽鎖(L)と2つの同一の重鎖(H)から構成される、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各重鎖は、アミノ末端に可変ドメイン(V)を有し、これにいくつかの定常ドメインが続く。各軽鎖は、アミノ末端に可変ドメイン(V)と、カルボキシ末端に定常ドメインを有する。
【0041】
可変領域は、構造上相補的である抗原標的と相互作用することができ、異なる抗原特異性を持つ抗体とはアミノ酸配列の相違によって特徴付けられる。H鎖またはL鎖は、どちらの可変領域も、抗原標的に特異的に結合することができるアミノ酸配列を含有する。これらの配列内には、特異性が異なる抗体間で極端に可変であることから、「超可変」と呼ばれる更に小さい配列がある。このような超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」領域とも呼ばれる。
【0042】
これらのCDR領域は、特定の抗原決定基構造に対する抗体の基本的な特異性を担う。CDRは、可変領域内の非連続的なアミノ酸ストレッチであるが、可変重鎖及び可変軽鎖領域内のこれらの重要なアミノ酸配列の位置は、種にかかわらず、可変鎖のアミノ酸配列内で類似の位置を持つことがわかっている。全ての抗体の可変重鎖及び可変軽鎖は、それぞれ3つのCDR領域を有し、その各々は、各軽鎖(L)及び重鎖(H)の他のもの(L1、L2、L3、H1、H2、H3と呼ばれる)と連続していない。一般に認められているCDR領域は、先に記載されている(Kabat et al.,1977.J Biol Chem 252,6609-6616)。
【0043】
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)及び/または抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)及び/または抗体依存性細胞食作用(ADCP)ならびにTreg細胞の標的化、増殖阻害及び/または枯渇を可能にする任意の他の機構を介して機能し得る。
【0044】
「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下における、本発明の抗体による抗原発現細胞の溶解を指す。
【0045】
「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)が標的細胞上に結合した抗体を認識し、これにより、標的細胞の溶解をもたらす、細胞媒介性反応を指す。
【0046】
「抗体依存性細胞食作用」(ADCP)は、Fc受容体(FcR)を発現する食細胞(マクロファージなど)が標的細胞上に結合した抗体を認識し、これにより、標的細胞の食作用をもたらす、細胞媒介性反応を指す。
【0047】
CDC、ADCC及びADCPは、当該技術分野において知られ、かつ利用可能であるアッセイを使用して測定することができる(Clynes et al.(1998)Proc Natl Acad Sci USA 95,652-6)。抗体の定常領域は、補体を固定し、細胞依存性細胞傷害及び食作用を媒介する抗体の能力において重要である。したがって、本明細書で論じられるように、抗体のアイソタイプは、抗体が細胞傷害/食作用を媒介することが望ましいかどうかに基づいて選択され得る。
【0048】
本明細書で論じられるように、本発明の実施形態において、Treg細胞の枯渇をもたらす抗CD25抗体が使用される。例えば、強力なCDC応答及び/または強力なADCC及び/または強力なADCP応答を誘導する抗CD25抗体を使用することができる。CDC、ADCC及び/またはADCPを増大させる方法は、当該技術分野において知られている。例えば、CDC応答は、C1q結合の親和性を高める抗体の変異により増大し得る(ldusogie et al.(2001)J lmmunol 166,2571-5)。
【0049】
ADCCは、YB2/0細胞株で抗体を産生することなどにより抗体グリカンからフコース部分を除去する方法によって、またはヒトIgGのFc部分に特異的変異(例えば、S298A/E333A/K334A、S239D/I332E/A330L、G236A/S239D/A330L/I332E)を導入することによって増大し得る(Lazar et al.(2006)Proc Natl Acad Sci USA 103,2005-2010;Smith et al.(2012)Proc Natl Acad Sci USA 109,6181-6)。ADCPは、ヒトIgG1のFc部分に特異的変異を導入することによって増大し得る(Richards et al.(2008)Mol Cancer Ther 7,2517-27)。
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、抗体は、ADCC応答を有するように最適化され、すなわち、他の抗CD25抗体または例示的な修飾されていない抗CD25モノクローナル抗体と比較して、ADCC応答が向上、増大または改善されている。
【0051】
本明細書で使用されるとき、「キメラ抗体」は、ラットまたはマウス抗体などの1つの種に由来する免疫グロブリンから得られた可変配列と、ヒト抗体などの別の種から得られた免疫グロブリン定常領域とを有する抗体を指し得る。いくつかの実施形態において、キメラ抗体は、ADCCを誘導するように強化された定常領域を有し得る。
【0052】
本発明による抗体は、部分的または完全に合成されてもよく、この場合、抗体のポリペプチド鎖の少なくとも一部分が合成され、場合により、その同種抗原に結合するように最適化される。このような抗体は、キメラ抗体であってもヒト化抗体であってもよく、完全に四量体の構造であっても二量体であってもよく、単一の重鎖と単一の軽鎖のみを含んでもよい。
【0053】
本発明の抗体はまた、モノクローナル抗体であってもよい。本明細書で使用されるとき、「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ法によって産生される抗体に限定されない。「モノクローナル抗体」という用語は、抗体が産生される方法ではなく、あらゆる真核生物、原核生物またはファージクローンを含む単一のクローンから得られる抗体を指す。
【0054】
本発明の抗体はまた、ヒト抗体であってもよい。本明細書で使用されるとき、「ヒト抗体」は、フレームワークとCDR領域の両方がヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域を有する抗体を指す。更に、抗体が定常領域を含有する場合、定常領域もまたヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に由来する。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列をコードしないアミノ酸残基(例えば、in vitroでのランダムもしくは部位特異的変異導入またはin vivoでの体細胞変異によって導入される変異)を含み得る。
【0055】
本明細書に記載される特徴を示す抗CD25抗体は、本発明の更なる目的である。更なる実施形態において、本発明は、本明細書に定義される抗CD25抗体をコードする核酸分子を提供する。いくつかの実施形態において、提供されるこのような核酸分子は、コドン最適化された核酸配列を含有し得、かつ/または宿主細胞、例えば、細菌、酵母、昆虫、魚、ネズミ、サルまたはヒトの細胞などにおける発現のための適切な核酸ベクター内の発現カセット中に含まれ得る。いくつかの実施形態において、本発明は、所望の抗体を発現する異種核酸分子(例えば、DNAベクター)を含む宿主細胞を提供する。
【0056】
いくつかの実施形態において、本発明は、上に定義される単離された抗CD25抗体を調製する方法を提供する。いくつかの実施形態において、かかる方法は、核酸(例えば、宿主細胞に含まれ得、かつ/またはベクターを介して宿主細胞に送達され得る異種核酸)を含む宿主細胞を培養することを含み得る。好ましくは、宿主細胞(及び/または異種核酸配列)は、抗体またはその抗原結合断片が宿主細胞から分泌され、細胞培養上清から単離されるように、準備及び構築される。
【0057】
本発明の抗体は、単一特異性、二重特異性または多重特異性であり得る。「多重特異性抗体」は、1つの標的抗原またはポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、2つ以上の標的抗原またはポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含有し得る(Kufer et al.(2004)Trends Biotechnol 22,238-44)。
【0058】
本発明の一態様において、抗体は、単一特異性抗体である。以下に詳細に論じられるように、代替的態様において、抗体は、二重特異性抗体である。
【0059】
本明細書で使用されるとき、「二重特異性抗体」は、1つの抗原もしくはポリペプチド上、または2つの異なる抗原もしくはポリペプチド上の2つの異なるエピトープに結合する能力を有する抗体を指す。
【0060】
本明細書で論じられる本発明の二重特異性抗体は、体細胞ハイブリダイゼーションなどの生物学的方法;もしくは細胞株もしくは生物中における所望の抗体構造をコードする非天然DNA配列の発現などの遺伝的方法;化学的方法(例えば、別の抗体または抗体断片などの1つ以上の分子実体との化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合またはその他の方法による);またはこれらの組み合わせを介して作製することができる。
【0061】
単一特異性または二重特異性の作製を可能にする技術及び製品は、当該技術分野において知られ、文献でも広く検討されており、代替的フォーマット、抗体-薬物コンジュゲート、抗体設計法、in vitroスクリーニング法、定常領域、翻訳後修飾及び化学修飾、Fc操作などのがん細胞死を誘発する改善された特徴についても同様である(Tiller K and Tessier P,2015 Annu Rev Biomed Eng.17:191-216;Speiss C et al.,2015.Molecular Immunology 67:95-106;Weiner G,2015.Nat Rev Cancer,15:361-370;Fan G et al.,2015.J Hematol Oncol 8:130)。
【0062】
本明細書で使用されるとき、「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原上の部位を指す。当該技術分野においてよく知られているように、エピトープは、連続アミノ酸(線状エピトープ)またはタンパク質の三次フォールディングによって並置される非連続アミノ酸(高次構造エピトープ)の両方から形成され得る。連続アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的に、変性溶媒に曝された場合でも維持されるが、三次フォールディングから形成されるエピトープは、典型的に、変性溶媒による処理で失われる。エピトープは、典型的に、固有の空間構造で、少なくとも3、より一般的には少なくとも5または8~10アミノ酸を含む。エピトープの空間構造を決定する方法は、当該技術分野においてよく知られており、例えば、X線結晶学及び2D核磁気共鳴が挙げられる。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology,Vol.66,Glenn E.Morris,Ed(1996)を参照されたい。
【0063】
いくつかの実施形態において、抗CD25抗体は、特に、がんの治療または診断のための治療薬または診断薬などのコンジュゲートされたペイロードを更に含む薬剤中に含まれ得る。放射性核種または毒素との抗CD25抗体コンジュゲートを使用してもよい。一般に使用される放射性核種の例は、とりわけ、例えば、90Y、131I及び67Cuであり、一般に使用される毒素の例は、ドキソルビシン及びカリケアミシンである。更なる実施形態において、抗CD25抗体は、改変された半減期を有するように修飾され得る。半減期の改変を達成する方法は、当該技術分野において知られている。
【0064】
一実施形態において、抗体は、好ましくは、CD25発現細胞の枯渇を(ADCC、ADCP及び/またはCDCを介して)促進することに加えて、ヒトCD25の機能を遮断することができる。好ましくは、抗体は、ヒトIL-2がヒトCD25に結合するのを阻害し、最も好ましくは、CD25発現細胞のヒトIL-2シグナル伝達を遮断する。
【0065】
本発明の好ましい実施形態において、本明細書に記載される本発明の態様のいずれかの対象は、哺乳動物、好ましくは、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、ハムスター、マウス、ラット、ウサギまたはモルモットであるが、最も好ましくは、対象は、ヒトである。したがって、本明細書に記載される本発明の全ての態様において、対象は、好ましくは、ヒトである。
【0066】
本明細書で使用されるとき、「がん」、「がん性」または「悪性」という用語は、典型的に無秩序な細胞増殖を特徴とする、哺乳類の生理学的状態を指すか、当該状態を記述するものである。
【0067】
がんの例には、癌腫、リンパ腫、白血病、芽細胞腫及び肉腫が挙げられるが、これらに限定されない。このようながんのより具体的な例には、扁平上皮癌、骨髄腫、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、神経膠腫、肝細胞癌(HCC)、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、多発性骨髄腫、胃腸(管)癌、腎癌、卵巣癌、肝癌、リンパ芽球性白血病、リンパ性白血病、大腸癌、子宮内膜癌、腎癌、前立腺癌、甲状腺癌、黒色腫、軟骨肉腫、神経芽細胞腫、膵癌、多形膠芽腫、子宮頸癌、脳癌、胃癌、膀胱癌、ヘパトーマ、乳癌、結腸癌及び頭頸部癌が挙げられる。
【0068】
一態様において、がんは、固形腫瘍を含む。固形腫瘍の例は、肉腫(海綿骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、造血組織または線維性結合組織などの組織における、間葉起源の形質転換細胞から生じるがんを含む)、癌腫(上皮細胞から生じる腫瘍を含む)、中皮腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫などである。固形腫瘍を伴う癌には、限定するものではないが、脳癌、肺癌、胃癌、十二指腸癌、食道癌、乳癌、結腸直腸癌、腎癌、膀胱癌、腎臓癌、膵癌、前立腺癌、卵巣癌、黒色腫、口腔癌、肉腫、眼癌、甲状腺癌、尿道癌、膣癌、頸部癌、リンパ腫などが挙げられる。
【0069】
本発明の一態様において、がんは、黒色腫、非小細胞肺癌、腎癌、卵巣癌、膀胱癌、肉腫及び大腸癌から選択される。本発明の好ましい態様において、がんは、黒色腫、卵巣癌、非小細胞肺癌及び腎癌から選択される。一実施形態において、がんは、黒色腫、卵巣癌または乳癌ではない。好ましい態様において、がんは、肉腫、結腸癌、黒色腫または大腸癌、より一般的にはMCA205、CT26、B16またはMC38細胞株(実施例で特定されているもの)が化合物の治療管理有用性を検証するための前臨床モデルとなり得る任意のヒトがんである。
【0070】
本明細書で使用されるとき、「腫瘍」という用語は、がんと診断された対象またはがんの疑いがある対象に対して適用される場合、悪性または悪性と思われる任意の大きさの新生物または組織の塊を指し、原発腫瘍及び続発性新生物を含む。「がん」、「悪性腫瘍」、「新生物」、「腫瘍」及び「癌腫」という用語はまた、比較的異常で、無秩序であり、かつ/または自律性の増殖を示し、これにより、細胞増殖の著しい制御不能を特徴とする異常な増殖表現型を呈する、腫瘍及び腫瘍細胞を指すために本明細書において区別なく使用され得る。一般に、検出または治療の対象となる細胞には、前がん性(例えば、良性)、悪性、前転移性、転移性及び非転移性細胞が含まれる。本開示の教示は、あらゆるがんに関連し得る。
【0071】
本明細書で使用されるとき、「固形腫瘍」は、通常、嚢胞または液体部分を含まない、組織の異常な増殖または塊であり、特に、白血病または非充実性リンパ性癌以外の腫瘍及び/または転移(場所を問わない)である。固形腫瘍は、良性または悪性であり得る。固形腫瘍の各種類は、固形腫瘍を形成する細胞の種類及び/または固形腫瘍が位置する組織または器官によって名付けられる。固形腫瘍の例は、肉腫(海綿骨、軟骨、脂肪、筋肉、血管、造血組織または線維性結合組織などの組織における、間葉起源の形質転換細胞から生じるがんを含む)、癌腫(上皮細胞から生じる腫瘍を含む)、黒色腫、リンパ腫、中皮腫、神経芽細胞腫及び網膜芽細胞腫である。
【0072】
本発明に係る特に好ましいがんには、固形腫瘍の存在、すなわち、対象が非固形腫瘍を有していないことを特徴とするものが含まれる。本明細書で論じられる本発明の全ての態様において、がんは、固形腫瘍であること、すなわち、対象が固形腫瘍を有していること(及び非固形腫瘍を有していないこと)が好ましい。
【0073】
本明細書で使用される場合、がんを「治療する」または「治療すること」への言及は、少なくとも1つの肯定的な治療効果、例えば、がん細胞数の減少、腫瘍サイズの縮小、周辺器官へのがん細胞浸潤率の低下、または腫瘍移転率もしくは腫瘍増殖率の低下の達成を定義するものである。
【0074】
がんにおける肯定的な治療効果は、様々な方法で測定することができる(例えば、Weber(2009)J Nucl Med 50,1S-10S)。例として、腫瘍増殖抑制に関しては、米国国立がん研究所(NCI)基準によれば、42%以下のT/Cが抗腫瘍活性の最低レベルであり、T/Cが10%未満であると、抗腫瘍活性レベルが高いとみなされる(T/C(%)=処置群の腫瘍体積の中央値/対照群の腫瘍体積の中央値×100)。いくつかの実施形態において、治療上有効な量によって達成される治療は、無増悪生存期間(PFS)、無病生存期間(DFS)または全生存期間(OS)のいずれかである。PFSは、「腫瘍無進行期間」とも呼ばれ、治療期間中及び治療期間後のがん増殖のない期間を示し、患者が完全奏効または部分奏効を得た時間量だけでなく、患者が安定を得た時間量も示す。DFSは、治療期間中及び治療期間後に、患者が疾患のない状況を維持している期間を指す。OSは、ナイーブまたは未処置の個体または患者と比較した平均寿命の延長を指す。
【0075】
本明細書で使用される場合、「予防」(または防止)への言及は、がんの症状の発生を遅延または予防することを指す。予防は、完全なもの(疾患が生じない)であっても、一部の個体でのみ、または限られた時間内に有効であってもよい。
【0076】
本発明の好ましい態様において、対象は、定着腫瘍を有し、すなわち、対象は、例えば、固形腫瘍に分類される腫瘍を既に有する。そのため、本明細書に記載される本発明は、対象が固形腫瘍などの腫瘍を既に有するときに使用することができる。したがって、本発明は、既存の腫瘍を治療するために使用することができる治療選択肢を提供する。本発明の一態様において、対象は、既存の固形腫瘍を有する。本発明は、固形腫瘍を既に有する対象における予防として、または好ましくは治療として使用することができる。一態様において、本発明は、予防または防止として使用されない。
【0077】
一態様において、本明細書に記載される本発明を使用すると、例えば、他のがん治療(例えば、所与のがんのための標準治療)と比較して、腫瘍退縮が増大し得、腫瘍増殖が低下もしくは減少し得、かつ/または生存期間が延長され得る。
【0078】
本発明の一態様において、本明細書に記載されるがんを治療または予防する方法は、がんを有する対象を特定するステップ、特に、固形腫瘍などの腫瘍を有する対象を特定するステップを更に含む。
【0079】
がん患者の治療に効果的である本明細書に記載の治療法の投薬レジメンは、患者の病状、年齢及び体重、ならびに抗がん応答を対象において誘導する治療法の効能などの因子によって変動し得る。適切な用量の選択は、当業者の能力の範囲内である。例えば、0.01、0.1、0.3、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40または50mg/kg。いくつかの実施形態において、かかる量は、関連する集団に投与されたときに所望の成果または有益な成果と相関することが判明している投与レジメン(すなわち、治療投与レジメン)に基づいた投与に適切な単位投与量(またはその分割の全量)である。
【0080】
本明細書に記載される本発明のいずれかの態様による抗体は、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤を追加で含む、医薬組成物の形態であってよい。これらの組成物には、例えば、液体溶液(例えば、注射可能及び注入可能な溶液)、分散液または懸濁液、錠剤、丸剤またはリポソームなどの液体、半固形及び固形の製剤が含まれる。いくつかの実施形態において、好ましい形態は、意図される投与方法及び/または治療用途に依存し得る。抗体を含有する医薬組成物は、当該技術分野において知られている任意の適切な方法によって投与することができ、限定するものではないが、経口、粘膜、吸入、局所、頬側、鼻、直腸または非経口(例えば、静脈内、注入、腫瘍内、結節内、皮下、腹腔内、筋肉内、皮内、経皮、または対象の組織を物理的に破壊すること及び組織の破壊を介した医薬組成物の投与を伴う他の種類の投与)が挙げられる。このような製剤は、例えば、皮内、腫瘍内もしくは皮下投与、または静脈内注入に好適である、注射可能または注入可能な溶液の形態であってよい。投与は、断続的な投与を伴い得る。あるいは、投与は、他の化合物の投与と同時か、それまでの間における、少なくとも選択された期間の連続的な投与(例えば、灌流)を伴い得る。
【0081】
いくつかの実施形態において、抗体は、インプラント、経皮パッチ及びマイクロカプセル化された送達系などの制御放出製剤のように、急速な放出及び/または分解を防ぐ担体とともに調製することができる。生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。
【0082】
当業者は、例えば、送達経路(例えば、経口vs静脈内vs皮下vs腫瘍内など)が投与量に影響を及ぼすことがあり、かつ/または必要投与量が送達経路に影響を及ぼすことがあることを理解するであろう。例えば、特定の部位または位置(例えば、腫瘍内)内で薬剤を著しく高濃度にすることを目的にする場合、集中的送達(例えば、この例では腫瘍内送達)が望ましく、かつ/または有用であり得る。所与の治療レジメンのための経路及び/または投与計画を最適にする際に検討すべき他の要素は、例えば、治療対象の特定のがん(例えば、種類、病期、位置など)、対象の臨床状態(例えば、年齢、全体的な健康状態など)、併用療法の有無、及び医師に知られている他の要素を含み得る。
【0083】
医薬組成物は、典型的に、滅菌され、製造及び保存の条件下で安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソーム、または高濃度薬物に好適な他の規則構造体として製剤化することができる。注射可能な無菌溶液は、必要量の抗体を、必要に応じて、上に列挙される成分のうちの1つまたは組み合わせとともに適切な溶媒中に組み込み、続いて、滅菌濾過することによって、調製することができる。非経口投与用製剤には、懸濁剤、液剤、油性または水性ビヒクル中の乳剤、ペースト、及び本明細書で論じられる埋め込み可能な徐放性または生分解性製剤が挙げられるが、これらに限定されない。注射可能な無菌製剤は、非経口的に認められる非毒性の希釈剤または溶媒を使用して調製することができる。本発明に従って使用される各医薬組成物は、採用される用量及び濃度で対象に非毒性である、薬学的に許容される分散剤、湿潤剤、懸濁化剤、等張化剤、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、担体、賦形剤、塩または安定剤を含み得る。好ましくは、このような組成物は、がんの治療に使用するために、所与の投与方法及び/または投与部位、例えば、非経口(例えば、皮下、皮内または静脈内注射)、腫瘍内、または腫瘍周囲投与に適合する、薬学的に許容される担体または賦形剤を更に含み得る。
【0084】
本発明に従って使用される治療方法または組成物の実施形態は、全ての対象において肯定的な治療効果を達成するのに功を奏さないこともあるが、一貫して正しい医療行為をもって使用される医薬組成物及び投与レジメン、ならびにスチューデントのt検定、χ検定、マン-ホイットニーによるU検定、クラスカル-ウォリス検定(H検定)、ヨンクヒール-タプストラ検定及びウィルコクソン検定などの当該技術分野において知られている任意の統計的検定によって求められる統計的に有意な数の対象においては、効果的である。
【0085】
腫瘍、腫瘍疾患、癌腫またはがんについて上記または以下に記載される場合、元の器官もしくは組織及び/または任意の他の位置における転移もまた、その腫瘍及び/または転移の位置がどこであれ、代替的または付加的に意図される。
【0086】
本明細書で論じられるように、本発明は、制御性T細胞(Treg)の枯渇に関する。したがって、本発明の一態様において、抗CD25抗体は、腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇または減少させる。一態様において、当該枯渇は、ADCCを介する。別の態様において、当該枯渇は、ADCPを介する。抗CD25抗体は、循環する制御性T細胞を枯渇または減少させ得る。一態様において、当該枯渇は、ADCCを介する。別の態様において、当該枯渇は、ADCPを介する。
【0087】
したがって、本発明は、対象の腫瘍中の制御性T細胞を枯渇させる方法であって、当該対象に抗CD25抗体を投与することを含む、方法を提供する。好ましい実施形態において、Tregは、固形腫瘍内で枯渇する。「枯渇」とは、Tregの数、比率またはパーセンテージが、抗CD25抗体を投与しない場合と比較して減少することを意味する。本明細書に記載される本発明の特定の実施形態において、腫瘍浸潤制御性T細胞の約5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または99%超が枯渇する。
【0088】
本明細書で使用されるとき、「制御性T細胞」(「Treg」、「Treg細胞」または「Tregs」)は、自己免疫、アレルギー及び感染の制御に特化したCD4+Tリンパ球系統を指す。典型的に、制御性T細胞は、T細胞集団の活性を制御するが、ある特定の自然免疫系細胞種にも影響し得る。Tregは、通常、バイオマーカーCD4、CD25及びFoxp3の発現によって特定される。内在性Treg細胞は、通常、末梢性CD4+Tリンパ球の約5~10%を構成する。しかしながら、腫瘍微小環境内(すなわち、腫瘍浸潤Treg細胞)では、全CD4+Tリンパ球集団の20~30%をも構成し得る。
【0089】
活性化ヒトTreg細胞は、パーフォリンまたはグランザイムB依存性経路を介して、エフェクターT細胞及びAPCなどの標的細胞を直接殺傷することができ、細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA4+)Treg細胞は、APCによるインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ(IDO)発現を誘導し、それによりトリプトファンを減少させることによってT細胞の活性化を阻害し、Treg細胞は、in vivoでインターロイキン-10(IL-10)及びトランスフォーミング増殖因子(TGFβ)を放出することができ、これにより、T細胞活性化を直接阻害し、MHC分子、CD80、CD86及びIL-12の発現を阻害することによって、APC機能を抑制する。Treg細胞はまた、抗原提示細胞上のCD80及びCD86に結合し、エフェクターT細胞の適切な活性化を妨げることができるCTLA4を高レベルで発現することによって、免疫を抑制することもできる。
【0090】
本発明の好ましい実施形態において、固形腫瘍における制御性T細胞に対するエフェクターT細胞の比は、増加する。いくつかの実施形態において、固形腫瘍における制御性T細胞に対するエフェクターT細胞の比は、5、10、15、20、40または80超まで増加する。
【0091】
免疫エフェクター細胞は、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。例示的な免疫細胞には、骨髄系またはリンパ系起源の細胞、例えば、リンパ球(例えば、B細胞及び細胞傷害性T細胞(CTL)を含むT細胞)、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球、好中球、多形核細胞、顆粒球、マスト細胞及び好塩基球が挙げられる。
【0092】
免疫応答のエフェクター相に関与する免疫エフェクター細胞は、特定のFc受容体を発現し、特定の免疫機能を発揮する。エフェクター細胞は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)を誘導することができ、例えば、ADCCを誘導することができる好中球である。例えば、FcαRを発現する単球、マクロファージ、好中球、好酸球及びリンパ球は、標的細胞の特異的殺傷及び免疫系の他の構成要素への抗原提示または抗原提示細胞への結合に関与する。エフェクター細胞はまた、標的抗原、標的細胞または微生物を貪食することもできる。本明細書で論じられるように、本発明による抗体は、ADCCを誘導する能力について最適化され得る。
【0093】
いくつかの実施形態において、がんに対する異なる薬剤を当該抗体と組み合わせて、同一もしくは異なる送達経路を介して、及び/または異なる計画に従って、投与することができる。代替的または追加的に、いくつかの実施形態において、第1の有効薬剤の1回または複数回の用量は、1つ以上の他の有効薬剤とともに実質的に同時に投与され、いくつかの実施形態では、共通の経路を介して、及び/または1つ以上の他の有効薬剤との単一組成物の一部として、実質的に同時に投与される。当業者であれば、本発明に従って提供される併用療法のいくつかの実施形態は、相乗効果をもたらすことを更に理解するであろう。このようないくつかの実施形態において、組み合わせて使用される1つ以上の薬剤の用量は、大きく異なり得(例えば、低い)、かつ/または当該薬剤が別の治療レジメンにおいて(例えば、単剤療法として、及び/または異なる併用療法の一部として)使用されるときには標準的である経路、好ましい経路、もしくは必要な経路とは別の経路を介して送達され得る。
【0094】
いくつかの実施形態において、2つ以上の有効薬剤が本発明に従って使用される場合、かかる薬剤は、同時にまたは連続して投与され得る。いくつかの実施形態において、ある薬剤の投与は、別の薬剤の投与に対して明確に時間が決められる。例えば、いくつかの実施形態において、第1の薬剤は、特定の効果が観察されるように(または、例えば、所与の投与レジメンと目的の特定の効果との間の相関関係を示す集団研究に基づいて観察されることが予想されるように)投与される。いくつかの実施形態において、組み合わせて投与される薬剤の所望の相対的投与レジメンは、例えば、ex vivo、in vivo及び/またはin vitroモデルを使用して評価され、または経験的に決定され得、いくつかの実施形態において、かかる評価または経験的決定は、患者集団(例えば、相関が確立されるように)、または特定の対象患者において、in vivoで行われる。
【0095】
本発明の別の態様において、本発明者らは、抗CD25抗体が、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせたときに、治療効果の改善を示すことを明らかにした。本実施例に示されるように、抗CD25抗体と免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は、定着腫瘍の治療において、相乗効果を有し得る。本実施例におけるPD-1/PD-L1に関するデータは、PD-1/PD-L1相互作用の妨害に関する。したがって、PD-1受容体とPD-L1リガンドとの間の相互作用が遮断され得、「PD-1遮断」がもたらされる。一態様において、この組み合わせは、本明細書に記載される本発明を使用すると、例えば、抗CD25抗体またはPD-1/PD-L1遮断(抗PD1抗体を使用して直接的に、または抗PD-L1抗体を使用して間接的に)のみのいずれかと比較して、腫瘍退縮の増大、腫瘍増殖の低下もしくは減少の増大をもたらし得、かつ/または生存期間が延長され得る。
【0096】
本明細書で使用されるとき、「免疫チェックポイント」または「免疫チェックポイントタンパク質」は、免疫系の抑制経路に属するタンパク質、特に、T細胞応答を調節するタンパク質を指す。正常な生理学的条件下において、免疫チェックポイントは、特に、病原体に対する応答中に、自己免疫を防ぐために重要である。がん細胞は、免疫監視を回避するために、免疫チェックポイントタンパク質の発現制御を変えることができる。
【0097】
免疫チェックポイントタンパク質の例には、PD-1、CTLA-4、BTLA、KIR、LAG3、TIGIT、CD155、B7H3、B7H4、VISTA及びTIM3が挙げられ、またOX40、GITR、ICOS、4-1BB及びHVEMが挙げられるが、これらに限定されない。免疫チェックポイントタンパク質はまた、免疫応答を抑制するように調節する他の免疫チェックポイントタンパク質に結合するタンパク質も指し得る。このようなタンパク質には、PD-L1、PD-L2、CD80、CD86、HVEM、LLT1及びGAL9が挙げられる。
【0098】
「免疫チェックポイントタンパク質阻害薬」は、免疫チェックポイントタンパク質によって媒介されるシグナル伝達及び/またはタンパク質間相互作用を妨害することができる、任意のタンパク質を指す。本発明の一態様において、免疫チェックポイントタンパク質は、PD-1またはPD-L1である。本明細書に記載される本発明の好ましい態様において、免疫チェックポイント阻害薬は、抗PD-1または抗PD-L1抗体を介するPD-1/PD-L1相互作用を妨害する。
【0099】
したがって、本発明はまた、抗CD25抗体及びチェックポイント阻害薬を対象に投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。本発明はまた、がんの治療に使用するための抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬を提供する。
【0100】
本発明は、がんを治療するための薬剤の製造のための抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬の使用を更に提供する。抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬の投与は、同時、個別、または連続であり得る。
【0101】
本発明は、対象のがんの治療に使用するための、抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせを提供し、抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬は、同時に、個別に、または連続して投与される。このような抗ヒトCD25抗体は、好ましくは、ヒトIgG1であり、ADCC、ADCP及び/またはCDCを可能にする配列を示すか、それを欠く、免疫チェックポイントを標的にする抗体と特に組み合わせて使用することができる。
【0102】
代替的態様において、本発明は、がんの治療に使用するための抗CD25抗体を提供し、当該抗体は、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて投与するためのものである。本発明はまた、がんを治療するための薬剤の製造における抗CD25抗体の使用を提供し、当該薬剤は、免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて投与するためのものである。
【0103】
本発明は、薬学的に許容される媒体中に、抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬を含む、医薬組成物を提供する。上で論じられるように、免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1の阻害薬、すなわち、PD-1アンタゴニストであり得る。
【0104】
CD279としても知られるPD-1(プログラム細胞死タンパク質1)は、活性化したT細胞及びB細胞上に発現される細胞表面受容体である。そのリガンドとの相互作用は、in vitro及びin vivoの両方において、T細胞の応答を弱めることが示されている。PD-1は、2つのリガンド、PD-L1及びPD-L2に結合する。PD-1は、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する。PD-1シグナル伝達には、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって提示されたペプチド抗原のすぐそばにあるPD-1リガンドへの結合が必要である(Freeman(2008)Proc Natl Acad Sci USA 105,10275-6)。したがって、T細胞膜上におけるPD-1とTCRとのコライゲーションを阻止するタンパク質、抗体または小分子は、有用なPD-1アンタゴニストである。
【0105】
一実施形態において、PD-1受容体アンタゴニストは、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片であり、PD-1に特異的に結合し、PD-L1のPD-1への結合を阻止する。抗PD-1抗体は、モノクローナル抗体であり得る。抗PD-1抗体は、ヒト抗体またはヒト化抗体であり得る。抗PD-1抗体は、PD-1受容体に特異的に結合することができる抗体である。当該技術分野において知られている抗PD-1抗体には、ニボルマブ及びペンブロリズマブが挙げられる。
【0106】
本発明のPD-1アンタゴニストはまた、PD-1のリガンドに結合し、かつ/またはこれを遮断して、リガンドがPD-1受容体に結合するのを妨害または阻害するか、PD-1受容体を介した抑制シグナル伝達を誘導することなく、PD-1受容体に直接結合し、これを遮断する、化合物または薬剤を含み得る。あるいは、PD-1受容体アンタゴニストは、抑制シグナル伝達を誘発することなく、PD-1受容体に直接結合することができ、またPD-1受容体のリガンドに結合して、リガンドがPD-1受容体を介したシグナル伝達を誘発するのを低減または阻害する。PD-1受容体に結合し、抑制シグナルの伝達を誘発するリガンドの数及び/または量を減らすことによって、PD-1シグナル伝達によって送られる負のシグナルによって減衰する細胞が減少し、より強力な免疫応答を得ることができる。
【0107】
一実施形態において、PD-1受容体アンタゴニストは、抗PD-L1抗体またはその抗原結合断片であり、PD-L1に特異的に結合し、PD-L1のPD-1への結合を阻止する。抗PD-L1抗体は、モノクローナル抗体であり得る。抗PD-L1抗体は、ヒト抗体またはアテゾリズマブ(MPDL3280A)などのヒト化抗体であり得る。
【0108】
本発明はまた、抗CD25抗体と、T細胞活性化共刺激経路のアゴニストである抗体とを対象に投与することを含む、がんを治療する方法を提供する。T細胞活性化共刺激経路のアゴニスト抗体には、限定するものではないが、ICOS、GITR、OX40、CD40、LIGHT及び4-1BBに対するアゴニスト抗体が挙げられる。
【0109】
本発明者らは、驚くべきことに、抑制型Fc受容体であるFcγRIIb(CD32b)のレベルが固形腫瘍で上昇し得ることを特定した。したがって、がんを治療する更なる方法は、抗CD25抗体と、FcγRIIb(CD32b)を減少、妨害、阻害及び/または遮断する化合物とを投与することを含む。このようなFcγRIIbアンタゴニストは、FcγRIIbによって誘導される細胞内シグナル伝達を妨害する小分子、抑制型FcγRIIb受容体に結合しない修飾抗体、または抗ヒトFcγRIIb(抗CD32b抗体であり得る。例えば、抗ヒトFcγRIIbアンタゴニスト抗体は、その抗腫瘍特性に関しても特徴付けられている(Roghanian A et al.,2015,Cancer Cell.27,473-488;Rozan C et al.,2013,Mol Cancer Ther.12:1481-91;WO2015173384;WO2008002933)。
【0110】
更なる態様において、本発明は、
(a)CD25に結合する第1の抗原結合部分と、
(b)免疫チェックポイントタンパク質、腫瘍関連抗原に結合するか、抗ヒト活性化型Fc受容体抗体(例えば、抗FcgRI、抗FcgRIIa、抗FcgRIII)であるか(または当該抗体をベースにするか)、抗ヒトFcγRIIbアンタゴニスト抗体である(または当該抗体をベースにする)、第2の抗原結合部分と
を含む、二重特異性抗体であって、
二重特異性抗体は、好ましくは、少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である、二重特異性抗体を提供する。
【0111】
本明細書で使用されるとき、「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞上に発現され、隣接する非がん細胞との区別を可能にする抗原を指し、限定するものではないが、CD20、CD38、PD-L1、EGFR、EGFRV3、CEA、TYRP1及びHER2が挙げられる。関係する腫瘍関連抗原及びそれに対応する治療的に有用な抗腫瘍抗体薬について記載する様々な総説論文が公開されている(例えば、Sliwkowski&Mellman(2013)Science 341,192-8参照)。このような抗原及び対応する抗体には、限定するものではないが、CD22(ブリナツモマブ)、CD20(リツキシマブ、トシツモマブ)、CD56(ロルボツズマブ)、CD66e/CEA(ラベツズマブ)、CD152/CTLA-4(イピリムマブ)、CD221/IGF1R(MK-0646)、CD326/Epcam(エドレコロマブ)、CD340/HER2(トラスツズマブ、ペルツズマブ)及びEGFR(セツキシマブ、パニツムマブ)が挙げられる。
【0112】
一態様において、本明細書に記載される本発明による二重特異性抗体は、ADCC、または、一態様において、向上したADCCをもたらす。
【0113】
二重特異性抗体は、CD25上の特定のエピトープと、本明細書に定義される免疫チェックポイントタンパク質または腫瘍関連抗原上の特定のエピトープに結合することができる。好ましい実施形態において、第2の抗原結合部分は、PD-L1に結合する。好ましい一態様において、本発明は、
(a)CD25に結合する第1の抗原結合部分と、
(b)腫瘍細胞上に発現される免疫チェックポイントタンパク質に結合する第2の抗原結合部分と
を含む、二重特異性抗体を提供する。
【0114】
具体的な実施形態において、腫瘍細胞上に発現される免疫チェックポイントタンパク質は、PD-L1、VISTA、GAL9、B7H3またはB7H4である。更に好ましくは、抗CD25抗体は、Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である。
【0115】
当業者であれば、既知の方法を使用して、二重特異性抗体を作製することができる。本発明による二重特異性抗体は、本明細書に記載される本発明の態様のいずれにおいても使用することができる。好ましくは、本発明による二重特異性抗体内の第2の抗原結合部分は、ヒトPD-1、ヒトPD-L1またはヒトCTLA-4に結合する。
【0116】
一態様において、二重特異性抗体は、CD25と、腫瘍浸潤Treg上に高レベルで発現される免疫調節受容体、例えば、CTLA4、ICOS、GITR、4-1BBまたはOX40に結合することができる。
【0117】
本発明はまた、本明細書に記載される抗CD25抗体と、本明細書で論じられる免疫チェックポイント阻害薬、好ましくは、PD-1アンタゴニスト(抗PD1抗体を使用して直接的に、または抗PD-L1抗体を使用して間接的に)とを含むキットを提供する。一態様において、免疫チェックポイント阻害薬は、抗PD-L1である。代替的な実施形態において、キットは、本明細書に記載される抗CD25抗体と、T細胞活性化共刺激経路のアゴニストである抗体とを含む。キットは、使用のための説明書を含み得る。
【0118】
更なる態様において、キットは、本明細書に記載される抗CD25抗体と、FcγRIIb(CD32b)を減少、妨害、阻害及び/または遮断する化合物とを含み得るか、あるいは、本明細書に記載される抗CD25抗体と、抗ヒト活性化型Fc受容体抗体(抗FcγRI、抗FcγRIIcまたは抗FcγRIIIa)とを含み得る。
【0119】
本明細書に記載される本発明の任意の態様は、追加のがん療法と組み合わせて実施されてもよい。特に、本発明による抗CD25抗体及び任意選択による免疫チェックポイント阻害薬(または任意の他の併用療法)は、共刺激抗体、化学療法及び/もしくは放射線治療、標的療法またはモノクローナル抗体療法と組み合わせて投与することができる。
【0120】
本明細書で使用される化学療法薬実体は、細胞にとって有害である実体を指し、すなわち、当該実体は、細胞の生存能力を低下させる。化学療法薬実体は、細胞傷害性薬であり得る。企図される化学療法薬には、限定するものではないが、アルキル化剤、アントラサイクリン、エポチロン、ニトロソ尿素、エチレンイミン/メチルメラミン、スルホン酸アルキル、アルキル化剤、代謝拮抗物質、ピリミジンアナログ、エピポドフィロトキシン、L-アスパラギナーゼなどの酵素;IFNα、IFN-γ、IL-2、IL-12、G-CSF及びGM-CSFなどの生体応答調節剤;シスプラチン、オキサリプラチン及びカルボプラチンなどの白金配位錯体、アントラセンジオン、ヒドロキシウレアなどの置換ウレア、N-メチルヒドラジン(MIH)及び誘導体を含むメチルヒドラジン誘導体、ミトタン(o,p’-DDD)及びアミノグルテチミドなどの副腎皮質抑制薬;プレドニゾン及び同等物、デキサメタゾン及びアミノグルテチミドなどの副腎皮質ステロイドアンタゴニストを含むホルモン及びアンタゴニスト;ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル酢酸メゲストロールなどのプロゲスチン;ジエチルスチルベストロール及びエチニルエストラジオール同等物などのエストロゲン;タモキシフェンなどの抗エストロゲン;プロピオン酸テストステロン及びフルオキシメステロン/同等物を含むアンドロゲン;フルタミド、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ及びロイプロリドなどの抗アンドロゲン;ならびにフルタミドなどの非ステロイド性抗アンドロゲンが挙げられる。
【0121】
追加のがん療法はまた、がんワクチンの投与を含み得る。本明細書で使用される「がんワクチン」は、患者自身の免疫応答を強化することによってがん細胞を根絶するように設計され、がん患者に投与される治療用がんワクチンを指す。がんワクチンには、腫瘍細胞ワクチン(自己及び同種)、樹状細胞ワクチン(ex vivo生成及びペプチド活性化によるもの)、タンパク質/ペプチドをベースにしたがんワクチン及び遺伝子ワクチン(DNA、RNA及びウイルスをベースにしたワクチン)が挙げられる。したがって、治療用がんワクチンは、基本的に、進行がん、ならびに/または手術、放射線療法及び化学療法などの従来の治療法に対して不応性である再発腫瘍の更なる増殖を阻害するために利用することができる。腫瘍細胞ベースのワクチン(自己及び同種)には、サイトカイン(IL2、IFN-g、IL12、GMCSF、FLT3L)などの可溶性免疫刺激剤、免疫調節受容体(PD-1、CTLA-4、GITR、ICOS、OX40、4-1BB)に対する単鎖Fv抗体を分泌するように、かつ/または免疫刺激性受容体に対するリガンド、特に、ICOS-リガンド、4-1BBリガンド、GITR-リガンド及び/もしくはOX40リガンドなどをその膜上に発現するように遺伝子改変されたものが含まれる。
【0122】
追加のがん療法は、腫瘍微小環境の周辺及び腫瘍微小環境内で免疫制御を低下させる他の抗体または小分子試薬、例えば、TGFb経路、IDO(インドールアミンデオキシゲナーゼ)、アルギナーゼ及び/またはCSF1Rを標的にする分子であり得る。
【0123】
「組み合わせて」は、本発明による任意の態様の実施前、それと同時、またはその後における追加療法の実施を指し得る。
【0124】
本発明を以下の実施例により図面を参照して更に記述する。実施例は、本発明を実施する際に当業者の助けとなることが意図され、いかなる場合であれ、本発明の範囲を限定する意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0125】
図1】血液及びリンパ節に対するCD25+制御性T細胞の発現を示す。(A)異なる腫瘍モデルのリンパ節(LN)及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に存在するT細胞サブセット表面上のCD25の発現(検出抗体クローン7D4;抗マウスCD25、IgMアイソタイプ)。ヒストグラムは、各腫瘍モデルの1匹のマウスのものを示す。(B)MCA205腫瘍モデルを使用した個々の実験でプールされたデータ(n=10)から得たPBMC及びT細胞サブセットにおけるCD25陽性細胞のパーセンテージ及びCD25のMFI。(C)及び(D)では、同じ評価(T細胞サブセットに限定)をMC38、B16及びCT26腫瘍モデルで実施した。エラーバーは、平均の標準誤差(SE)を示す。CD4陽性Foxp3陽性細胞と、CD8陽性またはCD4陽性/Foxp3陰性細胞との間の統計的関連性が示されている。
図2】MCA205腫瘍モデルにおける、血液及びリンパ節に対するCD25陽性制御性T細胞の抗CD25(αCD25)媒介性枯渇の制限を示す。(A)CD4陽性T細胞におけるCD25(検出抗体クローン7D4;抗マウスCD25、IgMアイソタイプ)及びFoxP3の発現。(B)Treg(CD4陽性FoxP3陽性T細胞でゲーティング)上のCD25の平均蛍光強度。腫瘍担持マウスに、5×10個のMCA205細胞をs.c.接種してから5及び7日目に、200μgの抗CD25-r1(αCD25-r1;抗CD25ラットIgG1)、抗CD25-m2a(αCD25-m2a;抗CD25ネズミIgG2a)、抗CTLA-4(αCTLA-4;抗CTLA4クローンB56)を注射するか、処置なしとした(処置なし)。9日目に、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ節(LN)及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を採取し、フローサイトメトリー解析用に処理し、染色した。
図3図2のMCA205腫瘍モデルのT細胞サブ集団に対する抗CD25(αCD25)媒介性作用を示す。(A)総CD4陽性T細胞に対するFoxP3陽性細胞のパーセンテージ。(B)PBMC(細胞数/mL)、LN(3つの流入領域リンパ節中の細胞総数)及びTIL(細胞数/g腫瘍)におけるCD4陽性FoxP3陽性T細胞の絶対数をCD4陽性FoxP3陰性T細胞と並列して示す。(C)エフェクターCD4陽性FoxP3陽性T細胞(Treg細胞)の比。(D)エフェクターCD8陽性T細胞/Treg細胞の比(CD4陽性FoxP3陰性T細胞とCD8陽性T細胞でゲーティング)。
図4】腫瘍移植から10日後に無処置MCA205腫瘍モデル(図2参照)でフローサイトメトリーによって評価した、B細胞(CD19陽性)、T細胞(CD3陽性CD5陽性)、NK細胞(NK1.1陽性)、顆粒球(CD11b+Ly6G+)、通常型樹状細胞(cDC;CD11c高MHCII陽性)及び単球/マクロファージ(Mono/Mφ;CD11b陽性Ly6G陰性NK1.1陰性CD11c低/陰性)上のFcγR発現に関する代表的なヒストグラムを示す。エラーバーは、SEM(n=3)を示す。データは、3つの個別の実験のうちの1つに対応するが、結果は実験全体で一致した。
図5】Treg枯渇が活性化型Fc-γ受容体の発現にどのように依存するかを示す。C57BL/6野生型マウス(wt)及びFcer1g-/-マウスに5×10個のMCA205細胞を0日目に皮下注射し、次いで、5及び7日目に200μgの抗CD25を注射した。9日目に、腫瘍、流入領域リンパ節及び血液を採取し、フローサイトメトリー解析用に処理し、染色した。PBMC、LN及びTILにおける制御性T細胞は、CD4及びFoxP3発現によって特定された。総CD4+細胞に対するFoxp3+のパーセンテージを(A)に示す。同一のアプローチを野生型(wt)、Fcgr3-/-、Fcgr4-/-またはFcgr2b-/-に適用し、FcγRIIbによる腫瘍内αCD25-r1媒介性Treg枯渇の阻害を示す。プロットは、総CD4+T細胞に対するTreg(CD4+Foxp3+)のパーセンテージの定量を示す(TILのみ)(B)。
図6】抗CD25-m2aと抗PD-1の組み合わせの相乗作用により、定着腫瘍の根絶がもたらされることを示す。個々のマウスの成長曲線(A)及び各処置群の経時的なMCA205腫瘍体積の平均(B)を示す。100日後の無腫瘍生存数または統計的有意性を各グラフに示す。エラーバーは、平均のSEを示す。2つの個別の実験の累積データを用いたカプランマイヤー生存曲線も示す。MC38(C)またはCT26(D)腫瘍細胞を注射し、MCA205モデルに記載されるように処置されたマウス(条件当たりn=10)の生存曲線も示す。マウスに5×10個のMCA205、MC38またはCT26細胞を皮下注射し、次いで、5日目に指定の抗CD25(200μg i.p.)で処置し、6、9及び12日目に抗PD-1(αPD-1、抗PD1、クローンRMP1-14;100μg i.p.)の投与を続けた(またはしなかった)。腫瘍サイズを週2回測定し、いずれかの直交直径が150mmに達したら、マウスを安楽死させた。
図7】14日目に採取した免疫細胞を使用して、図6に記載するように確立したMCA205腫瘍モデルの機能解析を示す。MCA205腫瘍中の腫瘍浸潤CD4+Foxp3-及びCD8+T細胞におけるKi67+細胞の割合(%)(A)と、腫瘍中のCD4陽性FoxP3陰性Teff/Treg比及びCD8陽性/Treg比(B)を各処置群について示す。PMA及びイオノマイシンを用いてex vivoで再刺激した後のIFNg発現に関する腫瘍浸潤リンパ球の細胞内染色(C)と、インターフェロンガンマ(IFNγ)産生エフェクターT細胞の頻度(D)もCD4陽性細胞及びCD8陽性細胞の同じ処置群について示す。(B)のヒストグラムは、処置群当たりの代表的なマウスに対応する。(A)、(B)及び(D)には、2つの個別の実験(n=10)から得た代表的なプロット及び統計的有意性を示す。
図8】抗CD25-m2a/抗PD1による腫瘍排除がCD8+T細胞依存であることを示す。個々のマウスのMCA205腫瘍増殖曲線であって、処置なし(処置なし、A)、抗CD25-m2aと抗PD-1の組み合わせによる処置(αPD-1+αCD25-m2a;B)、または同一の組み合わせに抗CD8を更に含むものでの処置(αPD-1+αCD25-m2a+αCD8;C)のMCA205腫瘍増殖曲線。各処置群(n=7)に関する40日後の生存数を各グラフに示す。対応するカプランマイヤー生存曲線も生成した(D)。マウスに5×10個のMCA205細胞をs.c.注射し、5日目に200μgの抗CD25-m2a(αCD25-m2a、クローンPC61、マウスIgG2aアイソタイプ)で処置し、6、9及び12日目に100μgの抗PD-1(αPD-1、クローンRMP1-14)でi.p.処置した。マウスの指定群において、4、9、12及び17日目に、200μgの抗CD8(αCD8、クローン2.43)をi.p.注射することによって、CD8陽性細胞を枯渇させた。腫瘍サイズを週2回測定し、いずれかの直交直径が150mmに達したら、マウスを安楽死させた。
図9】抗CD25-m2a/抗PD-1療法がB16黒色腫腫瘍に対して少なくとも部分的な腫瘍制御を誘導することを示す。図6(A)に定義されるように、Gvax単独または指定の抗体との組み合わせで処置した個々のマウスのB16腫瘍増殖曲線。対応するカプランマイヤー生存曲線も生成した(B)。マウスに5×10個のB16黒色腫細胞を皮内(i.d.)注射し、次いで、5日目に200μgの抗CD25(αCD25-r1、クローンPC61ラットIgG1アイソタイプまたはαCD25-m2a、クローンPC61マウスIgG2aアイソタイプ)で処置し、6、9及び12日目に200μgの抗PD-1(αPD-1、クローンRMP1-14)でi.p.処置し、1×10個の放射線照射(150Gy)B16-Gvaxでi.d.処置した。腫瘍増殖を追跡し、いずれかの直交直径が150mmに達するか、試験80日目のいずれか早い時点で、マウスを安楽死させた。種々の群(n、マウス数)の生存日数の中央値は、Gvaxのみ(n=14)で21日、Gvax+αPD-1(n=15)で27日、Gvax+αCD25-r1(n=7)で21日、Gvax+αCD25-m2a(n=8)で33日、Gvax+αPD-1+αCD25-r1(n=13)で29日、Gvax+αPD-1+αCD25-m2a(n=12)で39日であった。
図10】個々のマウスのCT26腫瘍増殖曲線であって、処置なし(PBS、ビヒクルのみ)、IgG1(PC61m1;マウスIgG1アイソタイプ、したがって、低いFc受容体媒介性殺傷活性、低いADCC及びCDC活性)を有する抗マウスCD25またはIgG2a(PC61m2;マウスIgG2a、したがって、高いFc受容体媒介性活性、高いADCC及びCDC活性)を有する抗マウスCD25による処置、及び抗マウスPD1(αPD1 RMP1-14)を更に組み合わせた処置またはなしでのCT26腫瘍増殖曲線を示す。移植に使用したCT26細胞を対数増殖期中に回収し、冷却PBS中に再懸濁した。試験の1日目に、各マウスに細胞懸濁液0.1mL中の3×10細胞を右脇腹に皮下注射した。6日目(触診可能な腫瘍が検出される時点)に、抗マウスCD25をi.p.注射した(10mg/kg)。7日目、10日目、14日目及び17日目に、抗マウスPD1をi.p.注射した(100μg/注射)。増殖をモニタリングするために、腫瘍を週2回、キャリパーで二次元計測した。腫瘍サイズ(mm)を次のように算出した。腫瘍体積=(w2×l)/2(式中、w=腫瘍の幅、l=腫瘍の長さ(mm))試験のエンドポイントは、腫瘍体積2000mmまたは60日目のいずれか早い時点とした。
図11】個々のマウスのCT26腫瘍増殖曲線であって、処置なし(PBS、ビヒクルのみ)、IgG1またはIgG2aのいずれかを有する抗マウスCD25による処置(それぞれPC61m1及びPC61m2)、及び抗マウスPD-L1クローン10F.9G2(aPDL1 10F.9G2)を更に組み合わせた処置またはなしでのCT26腫瘍増殖曲線を示す。図10のαPD1による組み合わせ実験と同様に、モデル、レジメン及び分析を実施した。
図12図10のCT26腫瘍モデルについて記載されるように、個々のマウスのMC38腫瘍増殖曲線であって、処置なし(PBS、ビヒクルのみ)、IgG1またはIgG2aのいずれかを有する抗マウスCD25による処置(それぞれPC61m1及びPC61m2)、及び抗マウスPD1クローンRMP1-14(aPD1 RMP1-14)を更に組み合わせた処置またはなしでのMC38腫瘍増殖曲線を示す。移植に使用したMC38結腸癌細胞を対数増殖期中に回収し、冷却PBS中に再懸濁した。各マウスに細胞懸濁液0.1mL中の5×10腫瘍細胞を右脇腹に皮下注射した。腫瘍体積が100~150mmの標的範囲に近づくように、腫瘍をモニタリングした。腫瘍移植から22日後の試験1日目に、個々の腫瘍体積が63~196mmの範囲である動物を、群平均腫瘍体積が104~108mmになるように9つの群に分けた(n=10)。定着MC38腫瘍を担持するマウスにおいて、処置をD1に開始した。1日目、2日目、5日目、9日目及び12日目にPBSを腹腔内(i.p.)投与されたビヒクル処置対照群と各処置の作用を比較した。抗PD1は、2日目から始めて、100μg/動物で週2回、2週間、i.p.投与した。PC61-m1及びPC61-m2aを1日目に200μg/動物で1回i.p.投与した。腫瘍測定を45日目まで週2回行い、個々の動物が1000mmの腫瘍体積エンドポイントに達した時点で試験を終了した。
図13】個々のマウスのMC38腫瘍増殖曲線であって、処置なし(PBS、ビヒクルのみ)、IgG1またはIgG2aのいずれかを有する抗マウスCD25による処置(それぞれPC61m1及びPC61m2)、及び抗マウスPD-L1クローン10F.9G2(aPDL1 10F.9G2)を更に組み合わせた処置またはなしでのMC38腫瘍増殖曲線を示す。図12のαPD1による組み合わせ実験と同様に、モデル、レジメン及び分析を実施した。
図14】異なるヒトがん種から得たサンプル中の腫瘍局在免疫細胞の外面におけるCD25発現を示す。代表的なヒストグラムは、ステージIVのヒト卵巣癌(腹膜転移;A)及びヒト膀胱癌(B)のTILサブセットにおけるCD25発現を示す。他のがん種から単離したPBMC及びTIL内の個々のCD8陽性、CD4陽性FoxP3陰性及びCD4陽性FoxP3陽性のT細胞サブセットについても、代表的なヒストグラムを得た(C)。また、各試験患者コホート内の個々のT細胞サブセットに関するCD25発現のパーセンテージ(%)での定量及び平均蛍光強度(MFI)を、黒色腫(上のパネル)、NSCLC(中央のパネル)及びRCC(下のパネル)について示す(D)。
図15】抗PD-1で治療した患者のCD25発現に関するデータを示す。抗PD-1療法を受ける前(「ベースライン」)と2回の注射後(「6週目」)の黒色腫皮下転移のマルチプレックス免疫組織化学(IHC)分析を、患者2名のベースライン時と6週目におけるCD8及びFoxP3 IHC染色の定量と並列して示す。6週目において、1名は治療に応答し、1名は応答しなかった(B;40倍の高倍率視野当たりの平均計数値を示す)。ベースライン時及び治療中(6週目)におけるCD8陽性CD25陽性及びFoxP3陽性CD25陽性の二重染色細胞のパーセンテージ(%)を、抗PD1で治療した黒色腫患者及びRCC患者について示す(C)。
図16】いずれもヒトIgG1アイソタイプを有し、特定のアミノ酸を変異させた(PC61-IgG1の場合K409R及びS70-IgG1の場合F405L)、抗マウスCD25(PC61)及び抗マウス/ヒトPD-L1(クローンS70)の抗原結合領域を使用して作製した二重特異性抗IgG1抗PD-L1ベースデュオボディ(bs CD25/PD-L1)の構造及び結合活性を示す(A)。マウスCD25(CD25+細胞株)またはマウスPD-L1(PD-L1+細胞株)のいずれかを発現するベクターをトランスフェクトした細胞株(SUP-T1細胞、ヒトTリンパ芽球;SUP-T1[VB]ATCC(登録商標)CRL-1942(登録商標))を使用して、CD25に対するbs CD25/PD-L1の特異性を試験した。元の細胞株及び得られた2つの他の細胞株を使用して、bs CD25/PD-L1の結合能力と、関連する単一特異性抗体(aCD25、クローンPC61;aPD-L1、クローンS70)の結合と比較した。CD25+細胞株及びPD-L1+細胞株を互いに1:1の比で(またはそれぞれ個別にトランスフェクトされていない対照細胞とともに)混合し、次いで、bsCD25/PD-L1、aCD25、aPD-L1とともに、またはいかなる抗体も含めずに(抗体なし)30分間インキュベートした。インキュベーション後、3つの細胞サンプル群をフローサイトメトリーで解析し、種々の細胞サンプルにおける二重陽性細胞のパーセンテージを算出する(B)。bs CD25/PD-L1(BsAb)の特異性は、CD25+細胞株及びPD-L1+細胞株を個別に使用して確認した。各細胞株を、一次抗体としてbsCD25/PDL1またはそれぞれの単一特異性Ab(MsAb、CD25+細胞には抗マウスCD25IgG1及びPD-L1+細胞には抗マウスPD-L1)のいずれかで標識するか、緩衝液のみとした。次いで、細胞を、FACS緩衝液中の二次抗体aHuman AF647(aHuman)とともに30分間インキュベートし、固定可能な生死判定色素も同様にした。二次抗体(aHuman AF647)とのみインキュベートした細胞または一次抗体とも二次抗体ともインキュベートしていない細胞(無染色)を陰性対照として使用した。次いで、細胞をフローサイトメトリーによって解析し、BsAbにより得られた陽性細胞のパーセンテージ(各パネルの右側に示される)を算出し、MsAbと比較した(C)。
図17】MCA205腫瘍マウスモデル(図3に記載のとおりに確立;各群4または5匹のマウス)のLN及び腫瘍中のエフェクター細胞及び制御性T細胞に対する、図16に記載される二重特異性IgG1ベースデュオボディ(Bs CD25PD-L1)、抗マウスCD25(aCD25)IgG1及び抗マウスPD-L1(aPD-L1)IgG1単一特異性抗体のそれぞれもしくは一緒に混合したもの(aCD25&aPD-L1)、またはアイソタイプIgG1コントロールの影響を示す。サンプルを使用して腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を単離するか、リンパ節細胞(LN)を単離し、FoxP3、CD3及びCD4陽性に基づいた各処置群におけるエフェクター細胞及び制御性T細胞の存在(A)またはCD8陽性/Treg(FoxP3陽性CD4陽性)比(B)について解析した。また、刺激に応答する腫瘍浸潤CD4陽性T細胞の能力に対する各治療のin vivo作用についても評価した。Golgi plugタンパク質阻害剤の存在下でPMA及びイオノマイシンを使用してin vitroでTILを再刺激し、次いで、インターフェロン-γ(IFNg)の細胞内固定後に、CD5及びCD4を細胞外染色した。IFNgも陽性であるCD5陽性CD4陽性T細胞のパーセンテージをフローサイトメトリーによって解析した(C)。
【実施例
【0126】
材料及び方法
マウス
C57BL/6及びBALB/cマウスをCharles River Laboratoriesから得た。Fcer1g-/-及びFcgr3-/-マウスは、S.Beers氏(University of Southampton,UK)の好意により提供された。Fcgr4-/-及びFcgr2b-/-マウスは、J.V.Ravetch氏(The Rockefeller University,New York,USA)から寄贈された。動物実験は全て、University College of London及び英国内務省の倫理審査承認及び規則の下で実施された。
【0127】
細胞株及び組織培養
MC38、B16、CT26及びMCA205腫瘍細胞(3-メチルコラントレンにより誘導された弱免疫原性の線維肉腫細胞;G.Kroemer氏(Gustave Roussy Cancer Institute)より)及びレトロウイルス産生に使用する293T細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS、Sigma)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン及び2mML-グルタミン(全てGibco製)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)中で培養した。抗体産生に使用するK562細胞を、10%IgG枯渇FCSを添加したフェノールレッド不含イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(Life Technologies)中で培養した。B16(マウス皮膚黒色腫細胞)及びCT26(N-ニトロソ-N-メチルウレタンにより誘導された未分化結腸癌細胞株)の各細胞及び関連培養条件は、ATCCから入手可能である。
【0128】
抗体産生
抗CD25の重鎖及び軽鎖の可変領域の配列をcDNA末端高速増幅(RACE)によってPC-61.5.3ハイブリドーマから分離し、次いで、pFUSEss-CHIg-mG2A及びpFUSE2ss-CLIg-mkプラスミド(Invivogen)に由来するネズミIgG2a及びκ鎖の定常領域にクローニングした。次いで、各抗体鎖をネズミ白血病ウイルス(MLV)由来レトロウイルスベクター中にサブクローニングした。予備実験のために、重鎖と軽鎖の両方をコードするベクターを形質導入したK562細胞を使用して、抗体を産生した。
再クローニングされたPC-61.5.3抗体由来の抗CD25重鎖可変DNA配列は、次のタンパク質配列をコードする。
METDTLLLWVLLLWVPGSTGEVQLQQSGAELVRPGTSVKLSCKVSGDTITAYYIHFVKQRPGQGLEWIGRIDPEDDSTEYAEKFKNKATITANTSSNTAHLKYSRLTSEDTATYFCTTDNMGATEFVYWGQGTLVTVSS
【0129】
再クローニングされたPC-61.5.3抗体由来の抗CD25軽鎖可変DNA配列は、次のタンパク質配列をコードする。
METDTLLLWVLLLWVPGSTGQVVLTQPKSVSASLESTVKLSCKLNSGNIGSYYMHWYQQREGRSPTNLIYRDDKRPDGAPDRFSGSIDISSNSAFLTINNVQTEDEAMYFCHSYDGRMYIFGGGTKLTVL
【0130】
プロテインG HiTrap MabSelectカラム(GE Healthcare)を使用して抗体を上清から精製し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で透析し、濃縮し、滅菌濾過した。更なる実験のために、抗体産生をEvitria AGに外注した。市販の抗CD25クローンPC-61は、BioXcellから購入した。
公開されている抗PDL1(MPDL3280A/RG7446)の可変重鎖及び可変軽鎖のDNA配列は、組み換え抗体として再クローニング及び発現されている。
【0131】
in vivo腫瘍実験
培養した腫瘍細胞をトリプシン処理し、洗浄し、PBS中に再懸濁し、脇腹に皮下注射(s.c.)した(C57BL/6マウスのMCA205及びMC38モデルには5×10細胞;C57BL/6マウスのB16モデルには2.5×10細胞、BALB/cマウスのCT26モデルには5×10細胞)細胞)。抗体は、図の凡例に記載される時点で、腹腔内(i.p.)注射した。機能実験のために、10日後、腫瘍、流入領域リンパ節及び組織を採取し、Simpson et al.(2013)J Exp Med 210,1695-710に記載されているフローサイトメトリーによる解析用に処理した。治療実験のために、腫瘍を週2回測定し、3つの直行する直径の積として体積を算出した。いずれかの直径が150mmに達したら、マウスを人道的に安楽死させた。腫瘍担持マウスを、5及び7日目に、200μgの抗CD25-r1(αCD25-r1)、抗CD25-m2a(αCD25-m2a)または抗CTLA-4(αCTLA-4)により処置し、6、9及び12日目に、100μgの抗PD-1により処置した。治療実験の場合は、マウスを5日目にのみ処置し、表現型決定及び枯渇の場合には、5日目及び7日目にのみ処置した。腫瘍サイズを週2回測定し、いずれかの腫瘍直径が150mmに達したら、マウスを安楽死させた。9日目に、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ節(LN)及び腫瘍(TIL)を採取し、フローサイトメトリー解析用に処理し、染色した。
【0132】
フローサイトメトリー
データ収集は、BD LSR II Fortessa(BD Biosciences)を用いて実施した。次の直接コンジュゲート抗体:抗CD25(7D4)-FITC、CD4(RM4-5)-v500(BD Biosciences);抗IFNγ(XMG1.2)-AlexaFluor488、抗PD-1(J43)-PerCP-Cy5.5、抗Foxp3(FJK-16s)-PE、抗CD3(145-2C11)-PE-Cy7、抗Ki67(SolA15)-eFluor450、抗CD5(53-7.3)-eFluor450、固定可能な生死判定色素-eFluor780(eBioscience);抗CD8(53-6.7)-BrilliantViolet650(BioLegend);及び抗グランザイムB(GB11)-APC(Invitrogen)を使用した。次の抗体:抗CD25(BC96)-BrilliantViolet650(Biolegend)、抗CD4(OKT4)-AlexaFluor700(eBioscience)、抗CD8(SK1)-V500、抗Ki67(B56)-FITC(BD Biosciences);抗FoxP3(PCH101)-PerCP-Cy5.5(eBioscience);抗CD3(OKT3)-BrilliantViolet785(Biolegend)を使用して、ヒト細胞を染色した。Foxp3の核内染色は、Foxp3 Transcription Factor Staining Buffer Set(eBioscience)を使用して行った。サイトカインの細胞内染色のために、細胞を、ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA、20ng/mL)及びイオノマイシン(500ng/mL)(Sigma Aldrich)を用いて、GolgiPlug(BD Biosciences)の存在下、37℃で4時間、再刺激し、次いで、Cytofix/Cytoperm緩衝液セット(BD Biosciences)を使用して染色した。細胞の絶対数を定量するために、データ取得の前に所定数の蛍光ビーズ(Cell Sorting Set-up Beads for UV Lasers,ThermoFisher)を各サンプルに添加し、計数基準として使用した。
【0133】
ヒト組織
進行性黒色腫(n=10、12の病変)、早期非小細胞肺癌(NSCLC)(n=8)及び腎細胞癌(RCC)(n=5)の3つの異なる患者コホートにおいて、末梢血(PBMC)及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を調査した。示されるヒトデータは、倫理審査承認を受けた3つの異なる並行試験(黒色腫REC no.11/LO/0003、NSCLC-REC no.13/LO/1546、RCC-REC no.11/LO/1996)から得た。全ての症例において、書面によるインフォームドコンセントを得た。
【0134】
腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の単離
腫瘍は、手術室から病理部門に直接持ち込まれ、腫瘍の代表領域が切り出された。続いて、サンプルを滅菌条件下で細断し、酵素分解(Liberase TL試験等級(Roche)及びDNAse I(Roche)含有RPMI-1640(Sigma))を37℃で30分間行い、その後、gentleMACS(Miltenyi Biotech)を使用して機械的分散を行った。得られた単一細胞懸濁液を濾過し、Ficoll-paque(GE Healthcare)勾配に通して白血球を濃縮した。生細胞を計数し、10%ジメチルスルホキシド含有ヒトAB血清(Sigma)中に-80℃で凍結させた後、液体窒素に移した。
【0135】
マルチパラメータフローサイトメトリーによるTIL及びPBMCの表現型分析
腫瘍サンプル及びPBMCを解凍し、完全RPMIで洗浄し、FACS緩衝液(500mL PBS、2%FCS、2nM EDTA)中に再懸濁し、丸底96ウェルプレートに入れた。表面抗体のマスターミックスを製造元の推奨希釈:CD8-V500、SK1クローン(BD Biosciences)、PD-1-BV605、EH12.2H7クローン(Biolegend)、CD3-BV785で調製した。固定可能な生死判定色素(eFlour780、eBioscience)も表面マスターミックスに含めた。細胞内固定・透過処理緩衝液セット(eBioscience)を使用して透過処理を20分間行った後、製造元の推奨希釈で使用される次の抗体:グランザイムB-V450、GB11クローン(BD Biosciences)、FoxP3-PerCP-Cy5.5、PCH101クローン(eBioscience)、Ki67-FITC、クローンB56(BD Biosciences)及びCTLA-4-APC、L3D10クローン(Biolegend)からなる細胞内染色パネルを適用した。
【0136】
マルチプレックス免免疫組織化学
腫瘍サンプルを緩衝ホルマリン中に固定し、パラフィンに包理した。2~5μmの組織切片を切り出し、次の免疫組織化学用抗体:抗CD8(SP239)、抗CD4(SP35)(Spring Biosciences Inc.)、抗FoxP3(236A/E7)(G.Roncador CNIO博士(Madrid,Spain)からの寄贈)及び抗CD25(4C9)(Leica Biosystems)で染色した。多重染色のために、細胞コンディショニング1試薬(Ventana Medical Systems、Inc.)及び内因性ペルオキシダーゼ不活化用過酸化水素を使用して抗原を賦活化した後、パラフィン包理組織切片を一次抗体とともに30分間インキュベートした。検出は、ペルオキシダーゼベースの検出試薬(OptiView DAB IHC Detection Kit Ventana Medical Systems,Inc.)及びアルカリホスファターゼ検出試薬(UltraView Universal Alkaline Phosphatase Red Detection Kit、Ventana Medical Systems,Inc.)を使用して実施した。免疫アルカリホスファターゼの更なるサイクルを、別の基質(先にFast Redを使用した場合はFast Blue;逆もまた同様)を使用して実施した。免疫組織化学及びタンパク質反応パターンを評価した。多重免疫染色のスコアリングも実施した。本試験の承認は、National Research Ethics Service,Research Ethics Committee 4から得た(REC参照番号09/H0715/64)。
【0137】
抗CD25及び抗PD-L1をベースにした二重特異性デュオボディの構築及び検証
Bs CD25 PD-L1デュオボディは、文献に記載されている技術に従って、CH3ドメイン中に、Fab交換を可能にする1つの対応する点変異を含有する2つの親IgG1から開始して、作製及び産生されている(Labrijn AF et al.,Nat Protoc.2014,9:2450-63)。簡潔に述べれば、抗マウスCD25(上記のPC61;マウスIgG1アイソタイプ)及び抗マウス/ヒトPD-L1(クローンS70(アテゾリズマブ、MPDL3280A、RG7446またはクローンYW243.55.S70としても知られる);WO2010077634及びHerbst R et al.,2014,Nature 515:563-7参照)のそれぞれを、軽鎖は同一のままであるが、CH3ドメイン中にK409R変異(PC61-IgG1)及びF405L変異(S70-IgG1)を含めて、哺乳動物発現ベクター(504865|UCOE(登録商標)発現ベクター-マウス3.2kb Puro Set-Novagen)にクローニングし、哺乳動物細胞において別々の組み換えタンパク質として産生させる。半分子の組み換えを可能にするために、これらの親IgG1を、許容される酸化還元条件下(例えば、75mM 2-MEA;インキュベーション5時間)、等モル量でin vitroで混合する。還元剤を除去して鎖間ジスルフィド結合の再酸化を可能にした後、得られたヘテロマータンパク質を、SDS-PAGEクロマトグラフィーまたは質量分析に基づく方法を使用して、交換効率について分析する。Bs CD25 PD-L1の場合、質量分析により、ヘテロ二量体タンパク質の分子量は151Kdであることが確認され、これは、クローンS70の単一の重鎖及び軽鎖の分子量(74Kd)とPD61-IgG1の単一の重鎖及び軽鎖の分子量(77Kd)を加算したものに対応し、各親IgG1の半分が組み合わされて単一分子になったことを示している。
【0138】
Bs CD25 PD-L1の特異性は、実施例5に記載されるフローサイトメトリーによって、文献及び製造元の説明書に従ってFACS緩衝液(PBS+2%FCS+2mM EDTA)中に希釈して使用される、対照の親抗体及びIgG1認識検出抗体(aHuman、Alexa Fluor(登録商標)647、AffiniPureヤギ抗ヒトIgG、Fcγ断片特異的;Jackson Labs 109-605-098)を使用して更に確認した。更なるフローサイトメトリー及び細胞生物学の材料は、固定可能な生死判定色素eFluor780(Ebioscience 65086514)、PMA(50ng/ml;Santa Cruz Biotechnology、sc-3576)及びイオノマイシン(400ng/ml;Sigma I0634)及びGolgi plugタンパク質阻害剤(BD Bioscience、512301KZ)である。
【0139】
MCA205モデルにおけるBs CD25 PD-L1の検証は、先の実施例に示されるのと同じアプローチを使用して実施し、アイソタイプコントロール、単一特異性抗体(各100μg)または二重特異性デュオボディ(各200μg)をMCA205注射後の7日目に投与し、10日目にマウス組織を取得及び調製した。
【0140】
実施例1-TregのCD25高発現は、その枯渇の好適な標的となる。
インターロイキン2高親和性受容体アルファ(IL2Rα)であるCD25は、Tregの誠実な表面マーカーとしてこれまで使用されており、したがって、抗体媒介性Treg枯渇の標的である。抗CD25(aCD25)が活性化エフェクターT細胞も排除し得るかどうかについては、議論があることから、CD25の発現を腫瘍及び末梢リンパ器官のリンパ球サブ集団で解析した。
【0141】
マウスにMCA205(5×10細胞、C57BL/6マウス)、B16(2.5×10細胞、C7BL/6マウス)またはCT26(5×10細胞、BALB/cマウス)の各細胞を脇腹に皮下(s.c.)注射し、10日後、腫瘍(TIL)及び流入領域リンパ節を採取し、フローサイトメトリーによる解析のために処理した。
【0142】
腫瘍移植から10日後、CD25の相対発現を、腫瘍担持マウスの腫瘍、流入領域リンパ節及び血液中の個々のTリンパ球サブ集団ごとに評価することにした。結果を図1に示す。移植可能な腫瘍細胞株(MCA205肉腫、MC38結腸腺癌、B16黒色腫及びCT26大腸癌を含む)の種々のモデル間で、CD25発現は、先に記載されているように(Sakaguchi et al.1995.J Immunol;Shimizu et al.1999.J Immunol)、CD4陽性Foxp3陽性T細胞(Treg)で一貫して高く、CD4+Foxp3-T細胞及びCD8+T細胞では最小であった(図1(A))。その免疫原性及びより高いT細胞浸潤から、MCA205腫瘍モデルにおけるTreg枯渇への作用を更に試験した(図1(B~C))。in vitro試験とは対照的に、エフェクター区画(CD4FoxP3T細胞及びCD8T細胞)におけるCD25の最小発現がin vivoで観察されたが、腫瘍浸潤CD8及びCD4FoxP3Tエフェクター細胞(Teff)におけるCD25は、わずかに上方制御された。CD25陽性細胞のパーセンテージ(CD8+細胞3.08%~8.35%、CD4陽性Foxp3陰性細胞14.11~26.87%)及び細胞当たりの発現レベル(平均蛍光強度(MFI):CD8陽性細胞166.6、CD4陽性Foxp3陰性細胞134)は、Treg(83.66~90.23%、MFI 1051.9;p<0.001)よりも大幅に低かった。最後に、平均蛍光強度(MFI)に基づく発現レベルは、腫瘍浸潤Tregでより高かったが、CD25は、流入領域リンパ節及び血液中に存在するTreg上にも発現した。Teff細胞上のCD25発現がTreg細胞と比較して大幅に低いということは、Tregの発現レベルが有意に高い腫瘍におけるTreg枯渇にとって、CD25が好適かつ魅力的な標的であることを示している。
【0143】
実施例2-抗CD25による効果的かつ安全な腫瘍内Treg枯渇にはアイソタイプスワッピングが必要である。
従来から、抗CD25抗体(αCD25)クローンPC-61(ラットIgG1,κ)(αCD25-r1)は、マウスモデルでのTreg枯渇に使用されており、マウスモデルでは、末梢リンパ器官中のTregが排除されることが繰り返し示されている。FcγR結合における種間の相違を避けるために、PC-61の定常領域をマウスIgG2a,κ(αCD25-m2a)(典型的なマウス枯渇アイソタイプ)に交換し、Treg数を末梢と腫瘍の両方で定量し、腫瘍浸潤Tregの枯渇をもたらすことが知られている抗CTLA4(αCTLA4、クローン9H10)の作用と比較した。
【0144】
免疫調節抗体の活性を共定義することで腫瘍内Treg枯渇の重要性を示している先の証拠に基づき、その免疫原性が高いことから、また抗CD25が腫瘍内の活性化Teffに対して負の影響を与える可能性を評価するために、MCA205マウスモデルにおいて、血液、流入領域リンパ節(LN)及び腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のTeff及びTregの頻度に対するαCD25-r1の作用を比較することにした。
【0145】
腫瘍担持マウスに、5×10個のMCA205細胞をs.c.接種してから5及び7日目に、200μgの抗CD25-r1(αCD25-r1)、抗CD25-m2a(αCD25-m2a)または抗CTLA-4(αCTLA-4)を注射した。9日目に、末梢血単核細胞(PBMC)、リンパ節(LN)及び腫瘍(TIL)を採取し、フローサイトメトリー解析用に処理し、染色した。結果を図2及び3に示す。
【0146】
αCD25のin vivo投与は、抗体アイソタイプに関係なく、リンパ節、特に血液中のCD25+細胞数を減少させた。特徴的な転写因子であるFoxp3の発現によってTreg数を定量すると、両アイソタイプは、末梢においても同様に等しく有効であったが、驚くべきことに、マウスIgG2aアイソタイプだけが腫瘍浸潤Tregの頻度及び絶対数をαCTLA4で観察されたレベルに匹敵するレベルまで有意に減少させた。CD25発現は、腫瘍浸潤エフェクターT細胞のわずかな部分で上昇制御されるが(実施例1参照)、CD8+及びCD4+Foxp3-の数の有意な減少は末梢でも腫瘍でも観察されなかった。その結果、両αCD25アイソタイプは、末梢において、Teff/Treg比が上昇した。しかしながら、αCD25-m2aだけが、末梢ではなく腫瘍部位でTregを優先的に枯渇させることが知られている抗CTLA4と同じように、Teff/Treg比を上昇させた。これは、先の試験において、定着腫瘍に対して観察された有効性の欠如を潜在的に説明するものである。したがって、抗CD25(マウスIgG2a)だけがリンパ節及び血液中のTreg数を減少させ、腫瘍浸潤Tregを枯渇させる。重要なことに、循環Treg及びLN在住Tregの数が減少したにもかかわらず、αCD25-m2aの複数回投与後、毒性の全般的な証拠は、皮膚、肺及び肝臓において観察されなかった。このタイプの抗CD25療法は、異なる処置群で、全身の健康状態及び総体重、ならびに乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)及び肝臓酵素(AST、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ;ALT、アラニンアミノトランスフェラーゼ)の血清レベルに統計的に関連する差異が示されなかったことから、マウスにおいて、当該実験中の毒性に起因する他の重大な問題を伴わなかった。
【0147】
皮下にMCA205腫瘍を担持するマウスの血液、脾臓、LN及び腫瘍中の異なる白血球サブ集団における活性化型及び抑制型の両方のFcγRの発現レベルも求めた(図4)。FcγRは、試験した他の全ての器官と比較して、腫瘍浸潤骨髄細胞(顆粒球、通常型樹状細胞及び単球/マクロファージ)上でより発現しているようであった。抗CD25の2つのFcバリアントのFcγRに対する結合親和性についても表面プラズモン共鳴によって決定した(表1)。
【表1】
【0148】
これらのデータは、mIgG2aアイソタイプが全てのFcγRサブタイプに結合し、抑制型に対する活性化型の比(A/I)が高いことを示している。対照的に、rIgG1アイソタイプは、1つの活性化型FcγR(FcγRIII)及び抑制型FcγRIIbに同等の親和性で結合することから、A/I比が低い(<1)。
【0149】
どの特定のFcγRが抗CD25媒介性Treg枯渇に関与しているのかを判別するために、種々のFcγR発現を欠くマウスにおける腫瘍浸潤Tregの数を異なるマウスモデルで定めた(図5)。C57BL/6対照マウス及びFcer1g-/-マウスにMCA205細胞を皮下注射し、腫瘍、流入領域リンパ節及び血液を採取し、フローサイトメトリー解析用に処理し、染色した。制御性T細胞は、CD4及びFoxP3発現によって特定された。総CD4陽性細胞に対するFoxp3陽性のパーセンテージは、抗CD25の作用がFcer1g遺伝子の発現によるものであることを示す。いずれの活性化型FcγR(I、III及びIV)も発現しないFcer1g-/-マウスの解析は、Treg枯渇の完全な不在を示した。したがって、末梢におけるαCD25-r1によるTreg排除と、末梢及び腫瘍におけるαCD25-m2aによるTreg排除は、IL-2のCD25への結合を遮断することによるものではなく、FcγR媒介性ADCCに起因する。αCD25-m2aによる枯渇は、いかなる個々の活性化型FcγRに依存せず、Fcgr3-/-及びFcgr4-/-マウスの両方でTreg排除が維持された。このように、αCD25-r1による末梢Tregの枯渇は、この受容体の腫瘍内発現が高いにもかかわらず、腫瘍内の枯渇をもたらさない。しかしながら、腫瘍内におけるTreg枯渇は、抑制型受容体FcγRIIbの発現を欠くマウスにおいて効果的に回復した。この設定において、腫瘍内Treg枯渇は、αCD25-r1とαCD25-m2aとの間で同等である。したがって、αCD25-r1による腫瘍内Treg枯渇の欠如は、A/I結合比が低く、FcγRIIbの腫瘍内発現が高いことで、このアイソタイプが結合する唯一の活性化型受容体によって媒介されるADCCが阻害されることにより、説明され得る。
【0150】
実施例3-抗CD25療法は、抗PD-1と相乗作用を示し、定着腫瘍を根絶し、腫瘍担持マウスの生存を延ばす。
腫瘍内Treg枯渇の効率がより良いことから、αCD25-m2aは、定着腫瘍の治療において良好な治療成果を有し得ると仮定された。定着腫瘍に対するαCD25-m2a及びαCD25-r1の抗腫瘍活性を、腫瘍が定着した、MCA205細胞の皮下移植から5日後に、単回用量のαCD25を投与することによって評価した。結果を図6に記載する。
【0151】
腫瘍内Tregを枯渇させる能力の欠如が観察されたことと一致して、定着腫瘍(5日目)を有するマウスに投与した単回用量のαCD25は、αCD25-r1では防御をもたらさなかった。他方、αCD25-m2aを投与したマウスでは、増殖遅延及び長期生存が観察された(15.4%)。免疫療法標的として共抑制型受容体PD-1を標的にする薬剤の臨床的意義及び腫瘍微小環境内においてT細胞制御を支配するPD-1の重要な役割から、CD25Treg細胞の枯渇とPD-1遮断は、組み合わせると、相乗作用を有し得ると仮定された。同一モデルにおいて、αCD25と、抗PD-1を使用するPD-1遮断(αPD-1、クローンRMP1-14;3日ごとに100μgの用量)の組み合わせを試験した。単剤療法でのαPD-1は、確立されたMCA205腫瘍モデルの治療において有効でなく、αCD25-r1との組み合わせは、その作用を改善しなかった。一方、αCD25-m2aの単回投与とそれに続くαPD-1療法は、マウスの78.5%で定着腫瘍を根絶し、これにより、100日を超える長期生存をもたらした。同様の結果がMC38及びCT26腫瘍モデルでも観察され、これらの腫瘍において腫瘍浸潤Tregを枯渇させなかったαCD25-r1との組み合わせとは対照的に、αCD25-m2aは、αPD-1療法との相乗作用を示した部分的治療効果をもたらした。したがって、この併用投与は、有効な腫瘍排除を可能にし、異なる腫瘍マウスモデルの長期生存を劇的に改善した。
【0152】
αCD25-m2aとαPD-1の組み合わせによる相乗作用の根底にある作用機序を理解するために、αPD-1の3回目の投与から24時間後の治療プロトコル終了時に、MCA205腫瘍微小環境に存在する腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の表現型及び機能を評価した(図7)。αPD-1による単剤療法は、Teff増殖にも腫瘍内Teff浸潤の程度にも影響を与えなかったが、治療活性の欠如に対応して、Tregの持続的な高頻度(データ示さず)と低いTeff/Treg比が観察された。逆に、αCD25-m2aによる腫瘍内Tregの枯渇により、腫瘍内において、CD4FoxP3T細胞の増殖及びインターフェロン-γ(IFN-γ)産生の比率が高くなった。これは、高いTeff/Treg比と抗腫瘍応答に対応している。この作用は、抗PD-1と組み合わせると更に増強され、抗CD25-m2aによる単剤療法と比較して、更に高い増殖と、IFN-γ産生CD4陽性FoxP3陰性T細胞数の1.6倍の増加をもたらした。対照的に、抗CD25-r1によるTreg枯渇の観察された欠如は、単剤療法または抗PD-1との組み合わせで使用した場合、Teff増殖にもIFN-γ産生にも変化を与えなかった。
【0153】
元のマウスIgG1アイソタイプまたは有効なTreg枯渇を可能にするマウスIgG2aアイソタイプのいずれかを有するPC61によって生成されたデータは、当該抗CD25が、単独で、または抗がん抗体と組み合わせて、定着腫瘍、特に、有効な腫瘍内Treg枯渇を要する腫瘍を拒絶するのに有効であり得ることを示唆している。
【0154】
上に示されるように、単回用量のαCD25-m2a投与とそれに続くαPD-1治療は、MCA205マウスモデルにおいて、腫瘍サイズとマウス生存の両方に良い効果があった。抗CD8抗体を更に投与すると、無処置動物で観察されたレベルの腫瘍サイズとマウス生存になったことから、抗CD25-m2a/抗PD1によるこの治療効果は、CD8陽性T細胞の活性に依存する(図8)。したがって、MCA205腫瘍排除は、CD8陽性細胞集団及びTreg細胞集団に対するαPD-1/αCD25相乗作用の効果に依存し、全体的なエフェクターT細胞応答は、枯渇する抗CD25抗体による負の影響を受けない。
【0155】
このような相乗作用は、αCD25-m2a及びαPD-1をGM-CSF発現全腫瘍細胞ワクチンGvaxと組み合わせると、免疫原性の低いB16黒色腫腫瘍モデルにおいても観察された(図9)。この系において、Gvax療法単独及びGvaxとαPD-1またはαCD25-r1の組み合わせはいずれも、腫瘍増殖を阻止することも、腫瘍担持マウスの生存も延長できなかった。この設定において、GvaxとαCD25-m2aの組み合わせのみ(単独またはαPD-1とともに)。このような改善は、αCD25-r1を投与したいずれの処置群においても、観察されなかった。
【0156】
MC38腫瘍モデルでは、αPD-1(図10)またはαPD-L1(図11)を投与した場合のいずれでも、免疫チェックポイント阻害薬とαCD25-m2aの相乗作用について同様の結果が観察された。また、CT26腫瘍モデルは、これらの組み合わせの治療効果を立証した(図12及び13)。したがって、αCD25-m2aは、Treg枯渇に起因する部分的治療効果を既に有するが、この有利な特性は、免疫チェックポイント阻害薬に基づく治療法に対する応答を驚くほど改善する可能性を与えるものである。
【0157】
実施例4-CD25は、ヒト腫瘍浸潤Treg上で高発現され、抗PD-1療法は、ヒト腫瘍において、CD25発現Tregの浸潤を誘導する。
CD25は、マウスモデルに基づくTreg枯渇及び併用免疫療法アプローチの魅力的な標的であると考えられる。ヒトにおいてTreg枯渇を可能にする標的としてCD25を検証するために、末梢血及び腫瘍浸潤リンパ球におけるその発現レベルを、卵巣癌、膀胱癌、黒色腫、非小細胞癌(NSCS)及び腎細胞癌(RCC)患者から得た生体サンプルを使用して、フローサイトメトリー及び免疫組織化学(IHC)によって比較した。ペンブロリズマブによるαPD-1療法を受ける前と後のRCC患者の腫瘍サンプルにおけるTreg及びCD25発現の数もまた定量した。結果を図14及び15に示す。
【0158】
解剖学的位置、腫瘍の種類または病期とは関係なく、TregのCD25発現は、CD4+Foxp3-(10~15%)及びCD8+(<5%)の各T細胞よりも有意に高い(50~85%)ことが観察された。ネズミモデルと同様に、CD25発現のレベルは、MFIによって評価したとき、試験した全ての腫瘍サブタイプのなかで、CD4+FoxP3-及びCD8+Teffに比べてCD4+FoxP3+Tregで有意に高かった。
【0159】
これらの観察結果は、マルチプレックス免疫組織化学(IHC)によって更に裏付けられた。同じ患者コホートから得た黒色腫、NSCLC及びRCC腫瘍の分析では、CD8陽性T細胞の浸潤が高密度である領域においても、CD25発現が依然としてFoxP3陽性細胞に限定されることを示した。驚くべきことに、この発現プロファイルは、腫瘍サブタイプ、病期、切除部位、現在の療法または以前の療法に関係なく一貫しており、マウスモデルで得られたデータと一致している。
【0160】
加えて、ネズミ皮下腫瘍において観察されたTregの高割合とは対照的に、RCCサンプルでは、治療を受けなかった腫瘍で、Treg数が減少した。しかしながら、抗PD-1療法は、CD8+T細胞及びTreg(Foxp3陽性細胞)の両方による有意な浸潤をもたらした。更に、黒色腫及びRCCサンプルから生成されたデータにより、CD25は、Foxp3陽性細胞によって高発現されるが、その発現は、Foxp3陰性CD8陽性細胞では最小であることが確認される。
【0161】
CD25発現が治療的免疫調節の状況で評価される場合。進行腎癌及び進行黒色腫の患者のそれぞれにおいて、ベースライン時と、ニボルマブ4サイクルまたはペンブロリズマブ2サイクル)の後に、同じ病変のコア生検を実施した。全身性免疫調節にもかかわらず、マルチプレックスIHCによって評価すると、CD25発現は、CD8陽性T細胞の浸潤が高密度である領域であっても、依然としてFoxP3陽性Tregに限定された。
【0162】
これらの所見は、記載される前臨床データの翻訳値を裏付けるものであり、ヒトがんにおけるCD25を介したTregの選択的治療標的のコンセプトを更に支持するものである。更に、抗PD1治療との関連におけるヒト固形癌のCD25発現プロファイルは、PD-1アンタゴニストなどの免疫チェックポイント阻害薬と合わせた抗マウスCD25 PC61(IgG2a)に関して示されたものと同等のCD25結合及びFcγ受容体特異性を有する抗ヒトCD25抗体の治療的組み合わせに対する根拠を提供する。
【0163】
実施例5-抗CD25及び抗PD-L1をベースにした二重特異性抗体と抗体の組み合わせは、有効なTreg枯渇及びサイトカイン誘導特性を示す。
これまでの実施例により、PC61をベースにし、かつ適切なアイソタイプを有する抗体のTreg枯渇CD25結合特性は、PD-1アンタゴニスト(抗PD-1または抗PD-L1抗体)などの免疫チェックポイントタンパク質を標的にする抗体などの他の抗がん化合物と組み合わせて利用できることが示された。これらの所見は、2つの抗原結合特性及び関連するアイソタイプ(例えば、IgG1)を組み合わせた二重特異性抗体の構築を示唆するものである。
【0164】
個別に産生された2つの別個の単一特異性抗体に由来する単一の重鎖及び軽鎖を単一のヘテロマータンパク質中で有効に結合することができるデュオボディ技術を使用して、このアプローチを検証した(Bs CD25 PD-L1と命名)(図16A)。この抗体の結合特異性を、マウスCD25またはマウスPD-L1のいずれかをそれぞれ発現する2つの遺伝子改変ヒト細胞株を使用して検証し、当初の単一特異性抗体の結合特異性と比較した(図16B及びC)。これらの細胞株を個別にまたは等量で混合してフローサイトメトリーによって試験したところ、Bs CD25 PD-L1は、CD25とPD-L1の二重特異性を維持することを示し、更に、Bs CD25 PD-L1がCD25陽性細胞とPD-L1陽性細胞の両方に同時に結合することによって形成される二重陽性細胞複合体の複合体を更に検出することも可能であった。
【0165】
先の実施例においてPC61を検証するために使用した細胞相互作用及び枯渇の各モデルを使用して、BsAb CD25 PD-L1の機能的特性をin vivoで評価した。腫瘍及びLNにおけるエフェクター細胞と制御性T細胞に対するBsAbの影響を評価するために、MCA205モデルを使用した。このモデルにおいて、BsAb CD25 PD-L1は、抗CD25(PC61-m2a)または単一特異性抗CD25抗体と抗PD-L1抗体の組み合わせと同等の有効性で、CD4陽性Foxp3陽性制御性T細胞を認識して枯渇させることができ、腫瘍及びLNにおけるCD8陽性Foxp3陽性制御性T細胞の比を上げることができる(図17AB)。更に、BsAb CD25 PD-L1は、インターフェロンγ発現CD4陽性CD5陽性細胞の数を、単一特異性抗CD25と抗PD-L1の組み合わせと少なくとも同等のレベルに増加させ、場合により抗CD25m2a抗体単独のうちの1つよりも大きく増加させる(図17C)。
【0166】
データは、がんを治療するためのPC61ベースのTreg枯渇抗ヒトCD25抗体の使用が、適切なアイソタイプを選択することによって改善されることに加え、他の抗がん剤、特に、異なる細胞表面抗原に結合する抗がん抗体と効果的に組み合わせることができることを示している。このアプローチは、2つの産物を、単一特異性抗体の新規混合物として、またはTreg枯渇、CD25結合及び親モノクローナル抗体の他の結合特性を維持するように結合され産生された新規二重特異性抗体として、作製し、投与することによって行うことができる。
【0167】
本明細書で参照される文献は全て、参照される主題に特に注意し、その全体が参照により本明細書に援用される。本発明の記載の方法及びシステムの様々な変更及び変形形態は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態との関連で記載してきたが、特許請求される本発明は、このような特定の実施形態に不当に限定されるものではないことを理解されたい。実際に、分子生物学、細胞免疫学または関連分野の当業者に明らかである、本発明を実施するために記載された形態の様々な変更は、以下の特許請求の範囲内であることが意図される。
項1
がんを有するヒト対象を治療する方法であって、抗CD25抗体を対象に投与するステップを含み、前記対象は、固形腫瘍を有し、前記抗CD25抗体は、FcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaから選択される少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である、前記方法。
項2
前記抗CD25抗体が、CD25に対して、10 -8 M未満の解離定数(K )を有し、かつ/または少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に対して、約10 -6 M未満の解離定数を有する、項1に記載の方法。
項3
前記抗CD25抗体が、
(a)抑制型に対する活性化型の比(A/I)が1を上回る状態でFcγ受容体に結合し、かつ/または
(b)FcγRIIbに対する結合よりも高い親和性でFcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaのうちの少なくとも1つに結合する、
項1または2に記載の方法。
項4
前記抗CD25抗体がモノクローナル抗体である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5
前記抗CD25抗体が、ヒト抗体、キメラ抗体またはヒト化抗体である、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
項6
前記抗CD25抗体が、向上したCDC、ADCC及び/またはADCP応答、好ましくは、増大したADCC及び/またはADCP応答、より好ましくは、増大したADCC応答を誘導する、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
項7
前記抗CD25抗体が、定着腫瘍を有する対象に投与される、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
項8
固形腫瘍を有する対象を特定するステップを更に含む、項1~7のいずれか一項に記載の方法。
項9
前記対象に免疫チェックポイント阻害薬を投与することを更に含む、項1~8のいずれか一項に記載の方法。
項10
前記免疫チェックポイント阻害薬がPD-1アンタゴニストである、項9に記載の方法。
項11
前記PD-1アンタゴニストが抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体である、項10に記載の方法。
項12
項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体。
項13
ヒト対象のがんの治療に使用するための、項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体であって、前記対象は、固形腫瘍を有する、前記抗CD25抗体。
項14
ヒト対象のがんを治療するための薬剤の製造のための、項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体の使用であって、前記対象は、固形腫瘍を有する、前記使用。
項15
免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて投与するためのものである、項13に記載の使用または項13に記載の使用のための抗CD25抗体。
項16
前記免疫チェックポイント阻害薬がPD-1アンタゴニストである、項15に記載の使用または項14に記載の使用のための抗CD25抗体。
項17
ヒト対象のがんの治療に使用するための、項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体と、項9~11のいずれか一項に定義される免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせであって、前記対象は、固形腫瘍を有し、前記抗CD25抗体及び前記PD-1アンタゴニストは、同時に、個別に、または連続して投与される、前記組み合わせ。
項18
項1~6のいずれか一項に定義される抗CD25抗体と、項9~11のいずれか一項に定義される免疫チェックポイント阻害薬とを含む、がんの治療に使用するためのキット。
項19
薬学的に許容される媒体中に、抗CD25抗体及び免疫チェックポイント阻害薬を含む、医薬組成物。
項20
(a)CD25に結合する第1の抗原結合部分と、
(b)免疫チェックポイントタンパク質に結合する第2の抗原結合部分と
を含む、二重特異性抗体であって、
前記二重特異性抗体は、FcγRI、FcγRIIc及びFcγRIIIaから選択される少なくとも1つの活性化型Fcγ受容体に高親和性で結合し、かつ腫瘍浸潤制御性T細胞を枯渇させる、IgG1抗体である、前記二重特異性抗体。
項21
前記免疫チェックポイントタンパク質が、PD-1、CTLA-4、BTLA、KIR、LAG3、VISTA、TIGIT、TIM3、PD-L1、B7H3、B7H4、PD-L2、CD80、CD86、HVEM、LLT1、GAL9、GITR、OX40、CD137及びICOSからなる群から選択される、項20に記載の二重特異性抗体。
項22
前記免疫チェックポイントタンパク質が腫瘍細胞上に発現される、項21に記載の二重特異性抗体。
項23
前記免疫チェックポイントタンパク質がPD-L1である、項21または22に記載の二重特異性抗体。
項24
PD-L1に結合する前記第2の抗原結合部分がアテゾリズマブ中に含まれているものである、項23に記載の二重特異性抗体。
項25
項20~24のいずれか一項に定義される二重特異性抗体を対象に投与するステップを含む、がんを治療する方法。
項26
前記対象が固形腫瘍を有する、項25に記載の方法。
項27
対象のがんの治療に使用するための、項19~24のいずれか一項に定義される二重特異性抗体。
項28
前記対象が固形腫瘍を有する、項27に記載の使用のための二重特異性抗体。
項29
対象の固形腫瘍中の制御性T細胞を枯渇させる方法であって、前記対象に抗CD25抗体を投与するステップを含み、前記抗体は、項1~6のいずれか一項に定義されるも」のである、前記方法。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
【配列表】
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