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特許7325962タンパク質低吸着性を有するタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用、または輸送用の容器及びタンパク質若しくはタンパク質組成物の製造用器材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】タンパク質低吸着性を有するタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用、または輸送用の容器及びタンパク質若しくはタンパク質組成物の製造用器材
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20230807BHJP
   A61J 1/10 20060101ALI20230807BHJP
   A61K 38/38 20060101ALN20230807BHJP
   A61K 39/395 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61J1/10 331
A61K38/38
A61K39/395 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018563233
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2017045893
(87)【国際公開番号】W WO2018135228
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-10-23
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2017006657
(32)【優先日】2017-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】駒澤 梢
(72)【発明者】
【氏名】樋口 達也
(72)【発明者】
【氏名】木河 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小幡 和哲
(72)【発明者】
【氏名】傳寶 孝之
(72)【発明者】
【氏名】西村 益浩
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】倉橋 紀夫
【審判官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-539044(JP,A)
【文献】特開2009-95978(JP,A)
【文献】特表2007-528871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/00 - 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であり、かつ融点が320℃以下であるフッ素樹脂における、-COF基末端、-COOH基末端、水と会合した-COOH基末端、-CH OH基末端、-CONH 基末端、及び-COOCH 基末端を合計した数が炭素1×10当たり35個以下であり、かつ、-CF H基末端を含まないフッ素樹脂によりタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されており、前記表面へのタンパク質の吸着が抑制されることを特徴とするタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【請求項2】
容器が、バッグであることを特徴とする請求項1記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【請求項3】
タンパク質が抗体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【請求項4】
タンパク質がアルブミンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【請求項5】
製造用器材が、タンパク質製剤の製造用器材であることを特徴とする請求項1記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であり、かつ融点が320℃以下であるフッ素樹脂における非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるフッ素樹脂により、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されていることを特徴とするタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用,または輸送用に用いるための容器及びタンパク質若しくはタンパク質組成物の製造用器材に関する。
【背景技術】
【0002】
医学、薬学、農学、生物学等の研究分野、あるいは医薬品、特に抗体医薬品等のタンパク質製剤の製造技術分野及び再生医療の技術分野においては、タンパク質自体及びタンパク質を含む組成物が頻繁に扱われる。
タンパク質は生体内において情報伝達及び生理活性物質の産生や運搬など生命の維持に欠かせない重要な役割を担っている。しかし、タンパク質及びタンパク質を含む組成物を上記研究分野や上記技術分野において使用する際には、タンパク質の吸着により大きな問題が発生することが多い。例えば、抗体医薬等のタンパク質製剤の製造(培養・精製等)工程、保存・搬送工程において、該タンパク質製剤の器材への吸着によりロスが生じると、製造コストが高くなる。また、抗体医薬等のタンパク質製剤の投与時において、該タンパク質製剤の器材への吸着によりロスが生じると、実際の投与量が容器に記載されている投与量よりも少なくなるために、治療効果に影響を及ぼすこともあり得る。また、再生医療、細胞の研究等を目的とした細胞培養工程において、培地(特に、無血清培地や分化誘導用培地)中に含まれる高価なタンパク質成分(細胞の生育や分化誘導等に必要な成長因子等)が、培養中に器材に吸着することによりロスが生じると、コストアップにつながるという問題がある。更に、タンパク質の不可逆的な吸着はクロマトグラフィーカラムや実験用のチューブにおける汚れの原因となり、また、血液透過膜などでは補体系の活性化を引き起こすとともに、本来の膜透過性が著しく低減し、物質交換などの機能が充分に発揮されなくなる。加えて、細胞の活性化や免疫反応を誘起し、たちまち材料が異物認識を受けることになる。
最近、医薬品の技術分野において、抗体医薬等のタンパク質製剤の重要性が増してきている。一方で、iPS細胞や細胞シートを含む種々の細胞・組織等を利用する再生医療の実用化も進展している。したがって、本質的にタンパク質との相互作用が弱く、タンパク質を吸着させない材料が多くの分野で切望されている。
【0003】
これまでにタンパク質に対する吸着性が低い材料及びそのような材料を用いた医療用・実験用器具(容器、注射器、カテーテル、実験室器具、治療用の装置等)が種々提案されている。例えば、タンパク質等の生体関連物質の吸着防止を目的とした非フッ素化重合体としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体(特許文献1)、ポリ尿素-ウレタンポリマー(特許文献2)、水溶性共重合体と一分子当たり少なくとも2個のヒドラジノ基を有するヒドラジド化合物の混合物(特許文献3)、複数の繰り返し単位からなる共重合体(特許文献4、5)、親水性化油または親水性化コポリマー (特許文献6)、水溶性ポリマー及びマトリックスポリマーのブレンド(特許文献7)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸メチルまたはスチレンとの共重合体であって緩衝液及び生理食塩水に溶解することを特徴とする共重合体(特許文献8)、アルキレングリコール残基を有するエチレン系不飽和重合性モノマー(a)及び生理活性物質を固定化する官能基がアルキレングリコール残基を介して結合しているエチレン系不飽和重合性モノマー(b)から誘導される繰り返し単位を含む共重合体であって、かつ前記共重合体の少なくとも片側の末端に反応性官能基を有することを特徴とする共重合体(特許文献9)、環状オレフィン樹脂(特許文献10)等が提案されている。
【0004】
また、タンパク質に対する吸着性が低い材料としてフッ素樹脂を用いる場合として、耐水性に優れ被覆成分が溶出しにくく、タンパク質が吸着しにくい生体適合性に優れた被覆層を形成できるタンパク質付着防止用化合物、塗布液および該タンパク質付着防止用化合物を用いた医療用デバイスとして、物品表面に、タンパク質の吸着を防ぐ被覆層を形成するためのタンパク質付着防止用化合物であって、含フッ素重合体を含むことを特徴とするタンパク質付着防止用化合物、及び当該タンパク質付着防止用化合物から形成されてなる被覆層を表面に有する医療用デバイスが提案されている(特許文献11)。特許文献11には、「含フッ素重合体のフッ素原子含有率は、5~90質量%が好ましく、10~85質量%がより好ましく、15~80質量%が特に好ましい。フッ素原子含有率が前記下限値以上であれば、耐水性に優れる。フッ素原子含有率が前記上限値以下であれば、タンパク質が吸着しにくい。」と記載されている(段落[0013])。特許文献11には、FEPやPFAを含む数多くの含フッ素樹脂が列挙されており、実施例としてフッ素原子の含有率が76.0%のFEPをクロロホルムに溶解して得られる塗布液を用いてウエル表面に被膜層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-213137号公報
【文献】特開平5-103831号公報
【文献】特許第4941672号公報
【文献】特許第5003902号公報
【文献】特許第5207012号公報
【文献】特表2002-505177号公報
【文献】特表平7-502563号公報
【文献】特許第3443891号公報
【文献】特開2008-1794号公報
【文献】特開2016-155327号公報
【文献】特開2016-26520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~10に記載された非フッ素化ポリマー材料を使用して製造される器材は、耐久性や耐油性が不十分であると言われており、タンパク質低吸着性という所期の効果が実用上の観点から申し分なく発揮されるとは言えない。
また、上記特許文献11に記載されたフッ素化基材を使用して製造される器材は、たとえFEPを用いた場合であっても、タンパク質低吸着性が不十分であるという問題点がある。
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、タンパク質低吸着性を十分に発揮することができるタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用,または輸送用の容器及びタンパク質若しくはタンパク質組成物の製造用器材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であり、かつ融点が320℃以下であるフッ素樹脂における非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるフッ素樹脂により、タンパク質と接触する表面が形成されている容器を用いて、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を投与したり、かかる容器中でタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を保存したり、または運搬または輸送したり、あるいはタンパク質と接触する表面が形成されているタンパク質組成物の製造用部品を用いてタンパク質組成物を製造すると、容器や製造用器材内面へのタンパク質あるいは、タンパク質製剤等のタンパク質を含む組成物の吸着が効果的に抑制され、タンパク質あるいは、タンパク質製剤等のタンパク質を含む組成物の容器や製造用器材への吸着によるロスを著しく防ぐことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であり、かつ融点が320℃以下であるフッ素樹脂における非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるフッ素樹脂によりタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されていることを特徴とするタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
(2)容器であることを特徴とする(1)記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
(3)バッグであることを特徴とする(1)または(2)記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
(4)タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物が抗体(免疫グロブリン)であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
(5)タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物がアルブミンであることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
(6)タンパク質製剤の製造用器材であることを特徴とする(1)記載のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用の容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフッ素樹脂、特に非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるFEP・PFAは、顕著なタンパク質低吸着性を示すため、これらのポリマーによってタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されている本発明の投与用、保存用、運搬用または輸送用容器を用いてタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を投与したり、保存したり、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を運搬または輸送したり、あるいは、これらのポリマーによってタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されている本発明のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材を製造したりすると、下記の利点がある。
(1)抗体医薬品等のタンパク質製剤の製造(培養・精製等)工程、保存・搬送工程や投与時において、該タンパク質製剤の器材への吸着によるロスを防ぐ。
(2)再生医療用途等での細胞培養工程(分化誘導工程を含む)において、培地(特に、無血清培地や分化誘導用培地)中に含まれる高価なタンパク質成分(細胞の増殖や分化誘導等に必要な成長因子等、具体的には、各種のタンパク質(アルブミン、インスリン、トランスフェリン等の細胞増殖因子、アクチビンA、骨形成因子4(BMP-4)、上皮細胞成長因子(EGF)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン類等のサイトカインや成長因子等))が、培養中に器材に吸着することによるロスを防ぐ(コストダウンにつながる)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用容器またはタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造用器材(以下、単に「本発明の容器または器材」あるいは「容器または器材」ということがある)としては、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与、保存、運搬、若しくは輸送に用いるための、あるいは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の製造に用いるためのテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、及びテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル系共重合体から選ばれる少なくとも1つのフッ素樹脂であり、かつ融点が320℃以下であるフッ素樹脂における非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるフッ素樹脂(以下、これらフッ素樹脂を総称して「本件フッ素樹脂」ということがある)によりタンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面が形成されている容器または器材であれば特に制限されず、容器または器材全体が本件フッ素樹脂により形成されていてもよい。本発明の容器または器材は、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する容器または器材表面が本件フッ素樹脂で形成されている点に特徴がある。かかる特徴を有する容器または器材を用いてタンパク質(例えば、抗体(免疫グロブリン))若しくはタンパク質を含む組成物の投与、保存、運搬若しくは輸送を行うと、例えば、抗体医薬品等のタンパク質製剤の製造(培養・精製等)工程、保存・搬送工程や投与時において、該タンパク質製剤の器材への吸着によるロスや、高価なタンパク質成分(例えば、細胞の生育や分化誘導等に必要な成長因子やサイトカイン類等)が、器材に吸着することによるロスを防ぐことができるのでコストダウンにつながる。
【0011】
本発明において、タンパク質とは、L-アミノ酸がアミド結合(ペプチド結合とも言う)によって鎖状に多数連結(重合)してできた単一若しくは複数の高分子化合物を意味し、構成要素であるアミノ酸の数に限定されない。したがって、いわゆるペプチドも本発明のタンパク質に含まれる。また、糖とタンパク質が結合した糖タンパク質、脂質とタンパク質が結合したリポタンパク質も本発明のタンパク質に含まれる。本発明において使用されるタンパク質として、アルブミン、フィブリノーゲン、グロブリン(α1-グロブリン、α2-グロブリン、β-グロブリン、γ-グロブリン)、エリスロポエチン、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、ラクトフェリン、アビジン、カドヘリン、プロテオグリカン、ムチン、LDL(低比重リポタンパク質,Low Density Lipoprotein)、HDL(高比重リポタンパク質,High Density Lipoprotein),VLDL(超低比重リポタンパク質,Very Low Density Lipoprotein)、インスリン、トランスフェリン等の細胞増殖因子、アクチビンA、骨形成因子4(BMP-4)、上皮細胞成長因子(EGF)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン類等のサイトカインや成長因子などが例示されるが、これらに限定されない。
本発明において、タンパク質を含む組成物とは、1種若しくは2種以上のタンパク質及び他の1種若しくは2種以上の物質の混合物若しくは製造物を意味する。本発明において使用されるタンパク質を含む組成物として、抗体医薬品等のタンパク質製剤、血液等の体液、血清、血漿等のタンパク質を含む生体成分、タンパク質成分を含む培地(特に、無血清培地や分化誘導用培地)などが例示されるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明において、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物の投与用、保存用、運搬用若しくは輸送用容器における「投与用容器」、「保存用容器」、「運搬用容器」、「輸送用容器」、「製造用器材」及び「器材」はそれぞれ以下の意味を有する。
「投与用容器」とは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を臨床の場で患者に投与する場合に使用する容器を意味する。
「保存用容器」とは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を一定期間貯蔵する場合に使用する容器を意味する。
「運搬用容器」とは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を人力または機械(ロボットを含む)等により移動する場合に使用する容器を意味する。
「輸送用容器」とは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を車、船、航空機などの輸送手段を利用して移送する場合に使用する容器を意味する。
「製造用器材」とは、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物を製造する場合に使用する器材を意味する。
「器材」とは、器具(簡単な道具類)、器械(人間が直接動かし、比較的小型で小規模な装置や道具(インストルメント))、及び器具・器械を作る材料を意味する。例えば、抗体医薬品等の製造設備の配管・チューブ・容器等、精製用器材(フィルター、カラム等)、が例示される。
【0013】
本件フッ素樹脂は、フッ素樹脂における非フッ素化基末端(例えば、-COF、-COOH、及び水と会合した-COOH、-CHOH、-CONH、-COOCH等の官能基)と-CFH基末端との合計が、炭素1×10当たり70個以下であることが好ましく、炭素1×10当たり35個以下がより好ましい。さらに、炭素1×10当たり20個以下がより好ましく、炭素1×10当たり10個以下が特に好ましい。-CFH基末端を含まないものであってもよく、-CFH基末端を含まない場合は、フッ素樹脂における非フッ素化基末端が炭素1×10当たり70個以下であることが好ましく、炭素1×10当たり35個以下がより好ましい。さらに、炭素1×10当たり20個以下がより好ましく、炭素1×10当たり10個以下が特に好ましい。
【0014】
なお、上記の-COF、-COOH、及び水と会合した-COOH、-CHOH、-CONH、-COOCH、-CFHの、炭素1×10当たりの数は、FT-IRより算出することができる。
【0015】
本発明において、「非フッ素化基末端」とは、反応性を有し、一般に不安定末端といわれる末端を意味し、非フッ素化基末端としては、具体的に-COF、-COOH、水と会合した-COOH、-CHOH、-CONH、-COOCH等の官能基を挙げることができる。
【0016】
本件フッ素樹脂の融点は320℃以下であり、240℃以上である。好ましい融点の範囲としては、例えば、245℃以上315℃以下、250℃以上310℃以下を例示することができる。
本件フッ素樹脂としては、具体的には、テトラフルオロエチレン(TFE)-ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系共重合体(FEP)、TFE-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系共重合体(PFA)を挙げることができる。
上記のうち、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるFEP・PFAは、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いFEP・PFAに対して、顕著なタンパク質低吸着性を示す。即ち、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いFEP・PFAは、十分なタンパク質低吸着性を有していないのに対して、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるFEP・PFAは、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いFEP・PFAよりも顕著に優れたタンパク質低吸着性を示した。かかる特性は、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるFEP・PFAのみが有する特性である。
本発明のフッ素樹脂は、上記の特性以外にも、以下の(1)~(5)の特性を有する。
(1)可塑剤等の溶出が無い。
(2)高温蒸気(オートクレーブ)滅菌可能。
(3)DMSO、DMFに不溶。
(4)優れた極低温特性を有する(-200℃でも脆化しない)。
(5)透明性が高い。
【0017】
上記「TFE-HFP系共重合体」とは、少なくともTFEとHFPとを含む共重合体を意味する。すなわち、「TFE-HFP系共重合体」には、TFEとHFPとの2元共重合体(TFE/HFP共重合体;FEP)の他、TFEとHFPとビニルフルオライド(VF)との共重合体(TFE/HFP/VF共重合体)、TFEとHFPとビニリデンフルオライド(VDF)との共重合体(TFE/HFP/VDF共重合体)、TFEとHFPとパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)との共重合体(TFE/HFP/PAVE共重合体)等の3元共重合体や、TFEとHFPとVFとVDFとの共重合体(TFE/HFP/VF/VDF共重合体)、TFEとHFPとVFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VF/PAVE共重合体)、TFEとHFPとVDFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VDF/PAVE共重合体)等の4元共重合体や、TFEとHFPとVFとVDFとPAVEとの共重合体(TFE/HFP/VF/VDF/PAVE共重合体)等の5元共重合体も含まれる。
【0018】
本件フッ素樹脂のうち、特にFEPの融点は300℃以下であり、240℃以上である。好ましい融点の範囲としては、例えば、245℃以上290℃以下、250℃以上280℃以下を例示することができる。
上記TFE-HFP系共重合体としては、TFE/HFP共重合体やTFE/HFP/PAVE共重合体が好ましい。かかるTFE/HFP共重合体におけるTFEとHFPとの質量比は、80~97/3~20が好ましく、84~92/8~16がより好ましい。また、上記TFE/HFP/PAVE共重合体におけるTFEとHFPとPAVEとの質量比は、70~97/3~20/0.1~10が好ましく、81~92/5~16/0.3~5がより好ましい。
【0019】
上記「TFE-PAVE系共重合体」とは、少なくともTFEとPAVEとを含む共重合体を意味する。すなわち、「TFE-PAVE系共重合体」には、TFEとPAVEとの2元共重合体(TFE/PAVE共重合体;PFA)の他、TFEとPAVEとヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(TFE/PAVE/HFP共重合体)、TFEとPAVEとビニリデンフルオライド(VDF)との共重合体(TFE/PAVE/VDF共重合体)、TFEとPAVEとクロロトリフルオロエチレン(CTFE)との共重合体(TFE/PAVE/CTFE共重合体)等の3元共重合体や、TFEとPAVEとHFPとVDFとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/VDF共重合体)、TFEとPAVEとHFPとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/CTFE共重合体)、TFEとPAVEとVDFとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/VDF/CTFE共重合体)等の4元共重合体や、TFEとPAVEとHFPとVDFとCTFEとの共重合体(TFE/PAVE/HFP/VDF/CTFE共重合体)等の5元共重合体も含まれる。
【0020】
上記PAVE単位を構成するPAVEとしては、特に限定されず、例えば、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)〔PEVE〕、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)〔PPVE〕、パーフルオロ(ブチルビニルエーテル)、パーフルオロ(ペンチルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘキシルビニルエーテル)、パーフルオロ(ヘプチルビニルエーテル)等を挙げることができる。
【0021】
本件フッ素樹脂のうち、特にPFAの融点は320℃以下であり、285℃以上である。好ましい融点の範囲としては、例えば、290℃以上315℃以下、295℃以上315℃以下、及び300℃以上310℃以下、を例示することができる
上記TFE-PAVE系共重合体におけるTFEとPAVEの質量比は、90~98/2~10が好ましく、92~97/3~8がより好ましい。
【0022】
本件フッ素樹脂は、懸濁重合や乳化重合等の定法にしたがって合成したフッ素樹脂の末端基を、フッ素樹脂を溶融押出する前にフッ素樹脂とフッ素含有化合物(例えば、フッ素ラジカル源)とを接触させて安定化処理を行う方法や、フッ素樹脂を溶融押出した後に得られたフッ素樹脂のペレットとフッ素含有化合物とを接触させてフッ素化処理を行う方法等の公知の方法によってフッ素化処理することにより作製することができる。また、フッ素樹脂製造時(重合反応時)、フッ素モノマーと共に末端基を制御できる連鎖移動剤や重合触媒を使用して得ることもできる。そしてまた、本件フッ素樹脂として市販品を用いることもできる。さらに、フッ素樹脂を溶融して成形したフィルムや、該フィルムから成形した容器または器材や、フッ素樹脂から成形した容器または器材等のように、フッ素樹脂より成形した成形物に対してフッ素含有化合物を接触させてフッ素化処理を行うこともできる。また、これらの処理方法を組み合わせることもできる。
すなわち、前記非フッ素化基末端の合計や、非フッ素化基末端と-CFH基末端との合計は、原料となるフッ素樹脂、ペレット、フィルムの各段階において炭素1×10当たり70個以下である必要はなく、最終的な容器または器材のタンパク質と接触する表面において炭素1×10当たり70個以下であればよい。また、-CFの末端基を1つ以上含むフッ素樹脂の場合、原料となるフッ素樹脂、ペレット、フィルムの各段階において-CFの末端基が1つ以上である必要はなく、最終的な容器または器材のタンパク質と接触する表面においてフッ素樹脂が-CFの末端基を1つ以上含んでいればよい。
【0023】
上記フッ素ラジカル源としては、特に限定されないがIF、ClF等のフッ化ハロゲン、Fガス、CoF、AgF、UF、OF、N、CFOFなどを挙げることができる。かかるFガスは、100%濃度のものであってもよいが、安全性の面から不活性ガスと混合し5~50質量%、好ましくは15~30質量%に希釈して使用する。かかる不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等を挙げることができ、費用対効果の観点から窒素ガスが好ましい。
【0024】
上記フッ素化処理は、20~220℃が好ましく、より好ましくは100~200℃の温度下で行う。上記フッ素化処理は、5~30時間が好ましく、より好ましくは10~20時間行う。
【0025】
本発明により得られた容器または器材は、表面粗度の算術平均粗さ(Ra)、表面粗度の二乗平均粗さ(RMS)、及び表面自由エネルギーを調整したものであってもよい。例えば、表面粗度のRaが3.5~6.5nmであり、表面粗度のRMSが4.5~8.0nmであり、かつ表面自由エネルギーが16.5~18.5(mJ/m)の容器または器材内面を備えたもの等が挙げられる。
【0026】
上述のように、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるFEP・PFAは、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いFEP・PFAよりも極めて優れた特性を有するが、特に下記の利点を有する。
(1)抗体医薬品等のタンパク質製剤の製造(培養・精製等)工程、保存・搬送工程や投与時において、該タンパク質製剤の器材への吸着によるロスを防ぐ。
(2)再生医療用途等での細胞培養工程(分化誘導工程を含む)において、培地(特に、無血清培地や分化誘導用培地)中に含まれる高価なタンパク質成分(細胞の増殖や分化誘導等に必要な成長因子やサイトカイン類)が、培養中に器材に吸着することによるロスを防ぐ(コストダウンにつながる)。
本発明のフッ素樹脂は、タンパク質若しくはタンパク質を含む組成物と接触する表面を有する様々な容器、製造設備の部品、精製用器材、実験器具等の器材に使用することができる。
本発明の容器または器材の形態としては、例えば、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等を挙げることができ、本発明の容器がタンパク質投与用容器の場合、シリンジ、(点滴用)バッグ、(点滴用)ボトル、チューブが好ましく、本発明の容器がタンパク質保存用容器の場合、バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアルが好ましく、本発明の容器がタンパク質の運搬及び輸送用容器の場合、バッグ、ボトル、バイアル、チューブが好ましい。特に、バッグ形状の本発明の容器は、タンパク質の投与用、保存用、運搬用及び輸送用の全ての用途に適用できるため、好適に例示することができる。本発明の製造用器材の具体的な用途として、例えば、下記を挙げることができる。
(1)抗体医薬品等のタンパク質製剤関連:
培養容器(バッグ他)、製造設備の配管、反応用または貯蔵用タンク等、精製用器材(フィルター・カラム他)、保存/搬送用容器、投与用容器(シリンジ、投与バッグ他)
(2)再生医療用途等でのタンパク質成分を含む細胞培養関連:
培養容器(バッグ他)(特に、iPS細胞の大量培養用、分化誘導用)、培地容器(増殖・成長因子、サイトカイン類等のタンパク質成分容器も含む)
【0027】
上記バッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等は、圧縮成形、押出成形、トランスファー成形、インフレーション成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、ライニング成形、発泡体押出成形、フィルム成形等の成形方法と、必要に応じてヒートシール、高周波融着、超音波融着等のシール手段を組み合わせて製造することができる。これらの方法により製造する場合、コーティング剤を用いてコーティングする場合に比べて、コーティングの手間が不要であるという利点がある。
【0028】
上記バッグは、具体的には、本件フッ素樹脂素材のフィルム(シート)を重ね合わせた上で、縁部を、インパルスシーラーを用いてヒートシールすることにより製造することができる。
【0029】
上記バッグの成形に用いるフィルムは、単層フィルムでも、二層以上の多層からなる積層フィルムでもよく、多層からなる積層フィルムである場合は、少なくとも哺乳動物細胞と接触する内表面が、本件フッ素樹脂素材の層フィルムとなるようにバッグを成形すればよく、他の層フィルムは、本件フッ素樹脂と異なる素材(例えば、ポリオレフィン系樹脂素材)の層フィルムであってもよい。フィルムの積層は、熱ラミネート法、熱圧縮法、高周波加熱法、溶剤キャスティング法及び押出ラミネーション法等の方法を用いて行う。
【0030】
また、ガラス、金属、樹脂等から製造されたバッグ、ボトル、遠心チューブ、バイアル、シリンジ、チューブ等といった基材に、本件フッ素樹脂からなるコーティング剤で被覆処理を行うことにより本発明の容器または器材を得ることもできる。基材の形態に応じて任意の方法が採用できる。かかる被覆処理としては、スピンコート、スプレーコート、バーコート、ロールコート、浸漬、刷毛塗り、ロトライニング、静電塗装等の方法を挙げることができる。上記フッ素樹脂コーティング剤を基材に被覆した後、乾燥処理及び高温加熱処理によりコーティング層が形成される。また、本件フッ素樹脂を含むコーティング剤をさらに重ね塗りすることにより、任意の膜厚まで厚くしてもよい。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
1.容器の製造
10cm×4cmサイズで厚さ100μmの5種類のフィルムについて、それぞれ2枚を重ね合わせ、インパルスシーラーを用いてシール時間50秒、シール圧力0.2MPa、シール幅4mmの条件でヒートシールすることにより、5種類のパーフルオロポリマー製バッグを製造した(容器A~E)。
なお、ポリエチレンバッグ(容器F)には市販品の70×50×0.04mmサイズのバッグ((株)生産日本社製 ユニパック(登録商標)A-4)、ガラス容器(容器G)には胴径φ21mm×全長45mmサイズの市販品のスクリュー管瓶((株)マルエム製TSスクリュー管瓶 9mL)を用いた。
【0033】
2.非フッ素化基末端数および-CFH末端数の測定
厚み250~300μm程度の当該樹脂のサンプルを作製し、FT-IR Spectrometer 1760X(Perkin-Elmer社製)を用いて分析を行った。
厚み250~300μm程度の当該樹脂のサンプルを作製するにあたっては、バックを構成するフィルム(ペレットから溶融成形により作製)はそのまま、厚みが足りない場合は、フィルムを重ね合わせて測定した。
【0034】
標準サンプル(もはやスペクトルに実質的に差異がみられなくなるまで充分にフッ素化したサンプル)との差スペクトルを取得し、各ピークの吸光度を読み取り、次式に従って炭素数1×10個あたりの非フッ素化基末端数及びCFH末端数を算出した。各バッグそれぞれの、非フッ素化基末端数及びCFH末端数を表2に示す。
【0035】
非フッ素化基末端及び-CFH末端の個数(炭素1×10個あたり)=l・k/t
l:吸光度
k:補正係数(表1参照)
t:サンプル厚み(mm)
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【実施例2】
【0038】
(タンパク質非接着性)
【0039】
(1)発色液、タンパク質溶液の準備
発色液は、ペルオキシダーゼ発色液(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMBZ)、KPL社製)の50mLとTMB Peroxidase Substrate(KPL社製)の50mLとを混合したものを使用した。
タンパク質溶液として、タンパク質(POD-goat anti mouse IgG、Biorad社製)をリン酸緩衝溶液(D-PBS、和光純薬社製)で16,000倍に希釈したものを使用した。
【0040】
(2)タンパク質吸着
容器A~Gに、タンパク質溶液を2mLずつマイクロピペットで分注し(各容器毎に2mLを使用)、室温で1時間放置した。各反応は、すべてN=3で行った。
【0041】
(3)容器洗浄
次いで、各容器からタンパク質溶液を抜き去った後に、各容器を、界面活性剤(Tween20、和光純薬社製)を0.05質量%含ませたリン酸緩衝溶液4mLで4回洗浄した(各容器毎に4mLを4回使用)。
【0042】
(4)発色液分注
次いで、洗浄を終えた各容器に発色液を2mLずつ分注し(各容器毎に2mLを使用)、7分間発色反応を行った。1Mのリン酸溶液を1mL加えることで(各容器毎に1mLを使用)発色反応を停止させた。
ブランクは、3本のガラス容器に発色液を2mLずつ分注した後に(各ガラス容器毎に2mLを使用)、タンパク質溶液を40μL分注した。7分間発色反応を行い、1Mのリン酸溶液を1mL加えることで(各ガラス容器毎に1mLを使用)発色反応を停止させた。
【0043】
(5)吸光度測定準備
次いで、各容器から3mL液を取り出し、分光光度計用のセルに移した。
【0044】
(6)吸光度測定およびタンパク質吸着率Q
吸光度は、紫外分光光度計U-3310(日立製作所社製)により450nmの吸光度を測定した。ここで、ブランクの吸光度(N=3)の平均値をA0とした。各バッグから移動させた液の吸光度をA1とした。
【0045】
タンパク質吸着率Q1を下式により求め、タンパク質吸着率Qはその平均値とした。
Q1=A1/{A0×(2000/ブランクのタンパク質溶液の分注量)}×100
=A1/{A0×(2000/40)}×100 [%]
【0046】
【表3】
【0047】
表3に示すように、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるパーフルオロポリマーを用いた容器B、CおよびEでは、ポリエチレンの容器Fやガラスの容器Gのみならず、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いパーフルオロポリマーを用いた容器AおよびDに比べて、タンパク質が表面に著しく吸着しにくいということが明らかになった。即ち、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いパーフルオロポリマーは、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いパーフルオロポリマーの1/7程度~1/2程度のタンパク質低吸着性を示した。
【実施例3】
【0048】
1.容器Hの製造
容器Hとして、カバーグラス(松浪硝子工業製、C025251、25×25・No.1)の表面に、「スーパーパップペン・リキッドブロッカー」(大道産業製)で10×10mmの枠線を書いたものを用いた。
【0049】
2.蛍光標識BSA溶液の作成
市販のBSA(牛血清アルブミン・シグマ製・A7638)と、Thermo Fisher製の蛍光標識キット(Alexa Fluor(R) 555 NHS Ester (Succinimidyl Ester) A20009)を用いて、本キットに添付されているプロトコールに従って、蛍光(Alexa Fluor(R) 555)標識BSAを作成し、該蛍光標識BSAを、PBSで希釈して10μg/mLとなるように調整したもの(蛍光標識BSA溶液)を、以下の実験に使用した。
【0050】
3.蛍光標識BSAの吸着
容器AおよびBに、蛍光標識BSA溶液(10μg/mL)を1mLずつマイクロピペットで分注し、37℃で1時間放置した。このとき、バッグへの接液面積は約600mmであった。
容器Hについては、「スーパーパップペン・リキッドブロッカー」で作成した枠線内に、蛍光標識BSA溶液を167μL/cmとなるようにマイクロピペットで滴下して、シャーレに入れた後に、37℃で1時間放置した。
各反応は、すべてN=3で行った。
【0051】
4.洗浄
1時間後に、容器A、BおよびHから蛍光標識BSA溶液を除去した後に、各容器を、PBS溶液2mLでそれぞれ4回ずつ洗浄した。
【0052】
5.蛍光強度の測定
容器AおよびBについては、蛍光標識タンパク質溶液と接していた部分の一部(10×10mm程度の正方形)をハサミで切り取り、その上にProLong(R) Diamond 褪色防止用封入剤(Thermo Fisher社製)を滴下した後、カバーグラスをマウントして、蛍光顕微鏡(Zeiss製・LSM700、×20)で撮影した。
容器Hについても同様に、洗浄後にProLong(R) Diamond 褪色防止用封入剤(Thermo Fisher社製)を滴下し、その上に新たなカバーグラスをマウントして、蛍光顕微鏡(Zeiss製・LSM700、×20)で撮影した。
主な撮影条件は下記の通りである;
・対物レンズ:Plan-Apochromat 20X/0.8 M27
・ピンホール:147μm
・ピクセル数:1024×1024
・レーザーパワー:0.5%
撮影後に、Fijiソフトウェアで解析することにより、各サンプルについて、吸着した蛍光標識BSA由来の平均蛍光強度を算定した。(各サンプルにつき5視野ずつ解析)
容器Hの平均蛍光強度を100とした場合の、容器AおよびBの平均蛍光強度の割合(BSA相対吸着率(%))を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示すように、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個以下であるパーフルオロポリマーを用いた容器Bでは、ガラスの容器Hのみならず、非フッ素化基末端と-CFH基末端とを合計した数が炭素1×10当たり70個より多いパーフルオロポリマーを用いた容器Aに比べて、BSAが表面に著しく吸着しにくいということが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のフッ素樹脂は極めて優れたタンパク質低吸着性を示すので、タンパク質またはタンパク質を含む組成物を使用するあらゆる機器に使用することができる。特に、抗体医薬品等のタンパク質製剤に関連する種々の器材、例えば、培養容器(バッグ他)、製造設備の配管等、精製用器材(フィルター・カラム他)、保存/搬送用容器、投与用容器(シリンジ、投与バッグ他)、並びに、再生医療用途等でのタンパク質成分を含む細胞培養に関連する種々の製造用器材、例えば、培養容器(バッグ他)(特に、iPS細胞の大量培養用、分化誘導用)、培地容器(成長因子等のタンパク質成分容器も含む)、等に利用することができる。