(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】軟骨一体化閉塞材キット
(51)【国際特許分類】
A61L 31/12 20060101AFI20230807BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20230807BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20230807BHJP
A61L 31/16 20060101ALI20230807BHJP
A61B 17/24 20060101ALN20230807BHJP
A61F 2/04 20130101ALN20230807BHJP
【FI】
A61L31/12
A61L31/06
A61L31/14 400
A61L31/14 300
A61L31/16
A61B17/24
A61F2/04
(21)【出願番号】P 2019002711
(22)【出願日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】593059773
【氏名又は名称】富士ソフト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲沖▼永 寛子
(72)【発明者】
【氏名】野澤 宏
(72)【発明者】
【氏名】原井 基博
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033780(JP,A)
【文献】特開2010-246920(JP,A)
【文献】特表2004-508140(JP,A)
【文献】特開2013-236737(JP,A)
【文献】特開2017-086665(JP,A)
【文献】Journal of Clinical Trials,2017年,Vol.7, No.3, 1000315,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61L 31/00-31/18
A61F 2/00- 2/97
A61B 17/00-17/94
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性多孔質体からなる足場部材と、ハイドロゲルと、軟骨細胞とを含み、前記足場部材は、固体部と前記固体部の表面及び内部に設けられた気孔部とを有し、それにより前記足場部材は凹凸状の表面を有し、前記軟骨細胞は前記ハイドロゲル中に分散されており、前記軟骨細胞が分散された前記ハイドロゲルは前記足場部材の外表面及び前記気孔部内に配置されている軟骨一体化閉塞材、及び
生分解性物質からなるストッパー部材
を含む、
対象の体内に存在する体腔を閉塞するための軟骨一体化閉塞材キットであって、
前記軟骨細胞は、自家耳介軟骨細胞であり、
前記軟骨一体化閉塞材が前記体腔内に充填されると、前記充填された軟骨一体化閉塞材を包み込むように軟骨膜が形成され、
前記軟骨膜は、前記軟骨一体化閉塞材が充填された前記体腔の内表面と一体化する
該軟骨一体化閉塞材キット。
【請求項2】
前記体腔は、消化管内を除く体内に存在する空洞である請求項
1に記載の軟骨一体化閉塞材キット。
【請求項3】
前記体腔は、腫瘍及び/又は膿瘍を切除又は除去して形成された空洞である請求項
1に記載の軟骨一体化閉塞材キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟骨一体化閉塞材及び軟骨一体化閉塞材キットに関する。
【背景技術】
【0002】
難治性気胸、術後気管支断端瘻及び重症肺気腫等のエアリークを伴う肺疾患の患者数は、高齢化社会の進行に伴い年々増加し、現在では年間約1.5万人に達している。特に、喫煙が主な原因である肺気腫は、不可逆的に肺胞及び末端の気管支を破壊又は脆弱化する疾患であり、治癒させることが困難である。また、これらの疾患の外科的治療は患者への負担が非常に大きい。
【0003】
これらの問題点を克服する治療法の一つとして、シリコンからなる閉塞材でエアリークを起こしている責任気管支を閉塞する治療方法がある。閉塞材は、気管支鏡により責任気管支内に配置され、空気が行き来できないよう気管支を閉塞する。しかしながら、シリコンは気管支内側の粘膜との間の摩擦が少ないため、ずれたり脱落したりしやすく、エアリークが再発しやすいという問題がある。このような状況において、気管支に定着しやすい閉塞材の開発が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1は、充填剤の脱落を防止する鋸歯部が設けられたシリコン製の気管支充填剤を開示している。特許文献2は、閉塞材の脱落を防止する複数の突起を備えるシリコン製の気管支充填剤を開示している。特許文献3では、ゲルポリマー等の膨張性材料からなる閉塞材を開示している。この閉塞材は、配置された生体管腔内の水分で膨張し、脱落が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-033780号公報
【文献】特許第4363904号公報
【文献】特許第5346922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のような閉塞材も依然としてずれ及び脱落が発生する可能性があり、エアリークを根治できるものではない。加えて、非生物由来の材料からなるため、拒絶反応が生じる。拒絶反応は、閉塞材が体内に存在する間はいつでも発生する可能性があり、長期にわたり閉塞材周辺の環境が悪化したり、それによって閉塞材のずれ及び脱落が更に生じやすくなったりするおそれがある。
【0007】
本発明は、拒絶反応による環境悪化を防止し、且つずれ及び脱落が防止された軟骨一体化閉塞材及び軟骨一体化閉塞材キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の軟骨一体化閉塞材は、対象の体内に存在する体腔を閉塞するためのものである。軟骨一体化閉塞材は、生分解性多孔質体からなる足場部材と、ハイドロゲルと、軟骨細胞とを含む。足場部材は、固体部と固体部の表面及び内部に設けられた気孔部とを有し、それにより足場部材は凹凸状の表面を有する。軟骨細胞はハイドロゲル中に分散されている。軟骨細胞が分散されたハイドロゲルは足場部材の外表面及び気孔部内に配置されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の軟骨一体化閉塞材は、生体由来の軟骨細胞及び生分解性材料からなり、導入された体腔内で対象由来の成分から軟骨膜を形成する。そのため、拒絶反応による周辺環境の悪化を防ぐとともに、体腔内表面の粘膜及び周辺組織と一体化することができる。その結果、軟骨一体化閉塞材が体腔に定着し、ずれ及び脱落が防止される。また、体腔の大きさ及び形状に関わらず、体腔を隙間なく閉塞することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、軟骨一体化閉塞材を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、軟骨一体化閉塞方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、軟骨一体化閉塞材の断片化工程を示す模式図である。
【
図5】
図5は、軟骨一体化閉塞方法により気管支が閉塞される過程を示す模式図である。
【
図6】
図6は、軟骨一体化閉塞方法により気管支が閉塞される過程を示す模式図である。
【
図7】
図7は、軟骨一体化閉塞方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、軟骨一体化閉塞方法により体腔が閉塞される過程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態によれば、対象の体内に存在する体腔を閉塞するための軟骨一体化閉塞材及び軟骨一体化閉塞材を含む軟骨一体化閉塞材キットが提供される。以下、これらについて順に説明する。
【0012】
・軟骨一体化閉塞材
図1に実施形態の軟骨一体化閉塞材1の一例を示す斜視図を示す。軟骨一体化閉塞材1は、生分解性多孔質体からなる足場部材2と、ハイドロゲル3と、軟骨細胞4とを含む。
【0013】
足場部材2は、楕円柱をその長手方向と平行な面で切断して得られる柱状の形状(かまぼこ型形状)を有する。足場部材2は、生分解性多孔質体からなる固体であり、固体部2aと、固体部2aの表面及び内部に設けられた気孔部2bとを有する。その結果、足場部材2は、固体部2aによる凸部及び気孔部2bによる凹部を備える凹凸状の表面を有する。
【0014】
軟骨細胞4はハイドロゲル3内に分散されている。軟骨細胞4が分散されたハイドロゲル3は足場部材2の外表面及び気孔部2b内に配置されている。その結果、軟骨細胞4は、ハイドロゲル3を介して足場部材2の外表面及び気孔部2b内に固定されている。
【0015】
各構成について詳細に説明する。
【0016】
足場部材2の材料である生分解性多孔質体は、例えば、生分解性ポリマーを多孔質状(スポンジ状)に加工したものである。生分解性ポリマーは、例えば、ポリL乳酸(Poly-L-lacticacid:PLLA)、ポリグリコール酸(polyglicolicacid:PGA)、乳酸グリコール酸共重合体(copolymeroflacticandglycolacid:PLGA)等であることが好ましい。
【0017】
足場部材2は例えば、連通小孔構造を有し、気孔率は、例えば、85%~91%であり、平均孔径は約150μm~約800μmである。気孔率及び平均孔径をこの範囲とすることによって、足場部材2は、気管支鏡等で担持できる強度を有し、且つメス、剪刀、ハサミ、又はピンセット等で断片化できる程度の堅さも有する。
【0018】
足場部材2の長手方向の長さ(図中「l1」)は、50mmとすることが好ましい。長手方向に直交する足場部材2の幅(図中「w1」)は、6mmとすることが好ましい。足場部材2の高さ(図中「h1」)は、3mmとすることが好ましい。
【0019】
足場部材2の大きさは、上記の値に限定されるものではなく、対象の種類若しくは大きさ、又は軟骨一体化閉塞材1を充填する体腔の大きさ若しくは形状等に依存して選択されればよい。
【0020】
足場部材2の形状は、
図1に示されるものに限定されるものではなく、円柱状、多角柱状、板状、円盤状又はリング状等何れの形状であってもよい。しかしながら、比表面積が大きい形状であれば、体腔内表面の組織に接着する面が増えることで軟骨細胞4の軟骨組織への分化が促進され、足場部材2内部の気孔部2b内等に固定されている軟骨細胞4の栄養不足や排せつ物の蓄積が防止され、軟骨細胞4の細胞死を防止することができるためより好ましい。
【0021】
ハイドロゲル3は、高分子に緩衝液を含ませたものである。ハイドロゲル3は、例えば、低温、即ち2℃~10℃で粘性を有する液体であり、体温付近、即ち35℃~38℃でゲル化する性質を有するハイドロゲルであることが好ましい。また、ハイドロゲル3は、生分解性の原料からなることが好ましい。
【0022】
そのようなハイドロゲル3の原料となる高分子は、例えば、アテロコラーゲン又は他のコラーゲン等である。緩衝液は、例えば、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などを用いることができる。
【0023】
ハイドロゲル3は、高分子及び緩衝液の他に、軟骨細胞4の生存に適した試薬を含んでもよい。軟骨細胞4の生存に適した試薬は、例えば、MEM若しくはDMEM/F12や血清、成長因子などである。
【0024】
軟骨細胞4は、ハイドロゲル3に担持されて足場部材2の外表面及び気孔部2b内に固定されている。軟骨細胞4は、一つの軟骨一体化閉塞材1内に1×107個~10×107個/mL含まれることが好ましい。
【0025】
軟骨細胞4は、例えば、軟骨一体化閉塞材1を導入する対象から採取された軟骨細胞、即ち、自家軟骨細胞であれば拒絶反応がより起こりにくいため好ましい。しかしながら、対象以外の哺乳動物から採取された軟骨細胞、即ち、他家軟骨細胞であってもよい。対象は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0026】
軟骨細胞4として、耳介軟骨細胞、鼻軟骨細胞又は関節軟骨細胞等を用いることが可能である。耳介軟骨細胞であれば、採取しやすく、採取される生体への負担がより少なく、且つ対象の外観を損なわないためより好ましい。また、耳介軟骨細胞は単離した後においても軟骨細胞としての特性を保ちやすいため、より好ましい。
【0027】
・軟骨一体化閉塞材の製造方法
以下に、軟骨一体化閉塞材1の製造方法について説明する。
【0028】
1)足場部材の作製
足場部材2は、何れかの公知の方法により製造することができる。例えば、特開2009-195682号公報に開示されている方法を用いることができる。
【0029】
2)軟骨細胞の調製
まず、対象又は対象以外の哺乳動物の、耳介、鼻又は関節等から軟骨片を外科的に採取する。採取する軟骨片は、例えば、10mm×10mm~20mm×20mmであることが好ましい。
【0030】
次に軟骨片から必要に応じて脂肪、血管及び血液等を除去する。その後、軟骨片を細片化し、必要に応じて所望の消化酵素、例えば、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、トリプシン、ペプシン及び/又はアグリカナーゼ等により処理する。それにより、軟骨細胞群が単離される。単離された軟骨細胞群には、複数の軟骨細胞からなる微細組織片が含まれていてもよい。
【0031】
単離された軟骨細胞を必要に応じて培養により増殖してもよい。培養は、軟骨細胞を培養する際に用いられる公知の方法で行われればよい。培養は、例えば、培養皿での平面及び/又は浮遊培養(単層培養)、ペレット培養等でよく、また、ハイドロゲル等による三次元培養であってもよい。培養培地として、例えば、DMEM、MEM、DMEM/F12及び血清含有DMEM/F12等を用いることができる。培養培地に血清、FGF-2、インスリン等の成長因子を加えてもよい。
【0032】
軟骨細胞の生細胞数は3.5×107細胞以上あることが好ましい。また、生存率は70%以上であることが好ましい。生細胞数及び生存率の確認は、公知の方法により行えばよく、例えば、トリパンブルー染色法によって測定することができる。
【0033】
3)軟骨細胞及びハイドロゲルの混合
次に、ハイドロゲル3を用意する。ハイドロゲル3は、原料である高分子に緩衝液、及び必要に応じて上記の軟骨細胞4の生存に適した試薬を添加して作製することが可能である。ハイドロゲル3の高分子の濃度は、0.5%~2%(重量)であることが好ましい。この時、ハイドロゲル3はこの工程においては液体の状態としておくことが好ましく、そのために、温度は2℃~10℃に維持することが好ましい。ハイドロゲル3に、上記調製された軟骨細胞4を添加し、懸濁して分散させ細胞懸濁ハイドロゲルを得る。細胞懸濁ハイドロゲルは、軟骨細胞を1×107個~10×107個/mLで含むことが好ましい。
【0034】
4)足場部材への細胞懸濁ハイドロゲルの投与とハイドロゲルのゲル化
得られた細胞懸濁ハイドロゲルを足場部材2に投与する。例えば、投与は、足場部材2を培地上に配置し、足場部材2の上から細胞懸濁ハイドロゲルをピペット等により滴下することにより行われる。次いで、細胞懸濁ハイドロゲルを投与した足場部材2を、乾燥が防止される環境下で、36℃~37℃で約1時間~2時間維持することにより、ハイドロゲルをゲル化させる。それにより、軟骨一体化閉塞材1が得られる。
【0035】
5)密封保存
軟骨一体化閉塞材1は、使用されるまでの間、密封容器内で保存することが好ましい。例えば、軟骨一体化閉塞材1は、保存用培地とともに密封容器内に収容して保存することが好ましい。保存用培地は、例えば、DMEM/F12等の基礎培地中に、FGF-2、インスリン等の成長因子、5%以上の血清を含むものである。更に、必要に応じて、ペニシリン及び/又はストレプトマイシン等の抗生物質を含んでもよい。密封容器は、例えば、蓋付きチューブ、プラスチックバッグ等を用いることができる。
【0036】
密閉した容器は、振盪しておくことが好ましい。振盪は、例えば、移動可能なスライド台を内部に配置した恒温振盪器で行うことができる。恒温振盪器の内部は26~37℃に維持されることが好ましく、容器を載せたスライド台の動きは、楕円運動、往復運動及び/又は八の字型運動等であることが好ましい。振盪は、振り幅が直線の場合には、少なくとも一方向に10mm~50mmであり、円方向の場合であってもその直径が10mm~50mmであり、振盪速度15rpm~90rpmの範囲であることが好ましい。或いは、スライド台を例えば傾斜角度0°~15°で繰り返して傾斜させてもよい。恒温振盪器として、例えば、超小型恒温振盪培養機(タイテック社製、V・BR-36)を用いることができる。
【0037】
上記方法に従うと、培地交換を行うことなく、軟骨一体化閉塞材1を少なくとも14日間に亘り保存することが可能である。
【0038】
ここまでの各工程は、無菌的に行われることが好ましい。
【0039】
6)軟骨特性試験、無菌試験
軟骨一体化閉塞材1は、必要に応じて軟骨特性試験及び/又は無菌試験に供してもよい。その場合、同時に同じ材料から複数の軟骨一体化閉塞材1を作製し、そのロットに含まれる一部の軟骨一体化閉塞材1について試験を行えばよい。
【0040】
軟骨特性試験は、例えば、細胞上清に含まれるGFAP、ヒアルロン酸、タイプIIコラーゲン等の含有量を測定することにより行うことができる。
【0041】
無菌試験は、例えば、メンブランフィルター法、及び直接法等によって行うことができる。
【0042】
以上のようにして軟骨一体化閉塞材1を製造及び保存することができる。
【0043】
・軟骨一体化閉塞方法
実施形態によれば、軟骨一体化閉塞材1を用いる軟骨一体化閉塞方法が提供される。軟骨一体化閉塞方法は、対象の体内に存在する体腔を閉塞する方法である。
【0044】
体腔は、例えば、気管支である。或いは、体腔は、腫瘍又は膿瘍等の切除又は除去により体内に形成された空洞である。或いは、体腔は、対象に生まれつき存在する皮下の窪み又は外傷等により形成された皮下の窪み等であってもよい。
【0045】
軟骨一体化閉塞方法は、上記のような体腔内に軟骨一体化閉塞材1を充填することを含む。
【0046】
(気管支閉塞方法)
以下、体腔が気管支である場合の軟骨一体化閉塞方法(気管支閉塞方法)について説明する。当該方法は、例えば、対象の気管支内に軟骨一体化閉塞材1を充填することを含み、それにより気管支を閉塞する。
【0047】
図2は、気管支閉塞方法の一例を示す概略フローチャートである。気管支閉塞方法は、例えば、次の工程を含む。(S1)気管支における軟骨一体化閉塞材1の充填位置(第1の領域)を決定すること、(S2)軟骨一体化閉塞材1を断片化すること、(S3)生分解性物質からなる第1のストッパー部材を第1の領域の肺胞側へ挿入すること、(S4)軟骨一体化閉塞材1を第1の領域に充填すること、及び(S5)生分解性物質からなる第2のストッパー部材を第1の領域の気管側へ挿入すること。
【0048】
気管支閉塞方法の工程及び軟骨一体化閉塞材1を充填することにより気管支が閉塞される原理について
図3~
図5を用いて説明する。
【0049】
(S1)軟骨一体化閉塞材1の充填位置の決定
対象における軟骨一体化閉塞材1の充填位置を決定するために、まず、責任気管支を決定する。責任気管支とは、臓側胸膜のエアリークを起こしている部分又はエアリークを起こすおそれのある部分につながる気管支(肺胞を含む)である。責任気管支は、例えば、気管支鏡又はコンピュータ断層撮影(CT)等を用いて決定することができる。例えば、気管支鏡を用いる場合、エアリークによる空気の流れに起因する気管支粘膜の振動及び/又はエアリークを起こしている穴が見えるか否か等から責任気管支を決定することが可能である。
【0050】
次に、責任気管支内における閉塞されるべき領域、即ち、軟骨一体化閉塞材1が充填されるべき空間(以下、「第1の領域」と称する)の位置を決定する。
【0051】
第1の領域の位置は、例えば、対象の年齢、疾患の進行度、気管支の状態、エアリークの位置等に従って決定される。例えば、第1の領域の位置は、加齢や疾患の進行により気管支が脆弱となっている場合、閉塞による空気の圧に耐えられる気管側の強い気管支内とすることが好ましい。
【0052】
例えば、第1の領域は、気管支の何れかの位置に決定されることが好ましい。例えば、第1の領域は、主気管支、葉気管支、区域気管支、亜区域気管支、小気管支、細気管支、終末細気管支又は呼吸細気管支の何れかの位置に決定される。
【0053】
図3は、第1の領域(図中、「R」)周辺の気管支7の、長手方向に平行な面で切断した断面図を示す。対象が息を吸い込むとき、空気は、図中に示す矢印の方向、即ち、気管側から肺胞側に向かう方向に流れる。以下、
図3以降の図面において、気管支7は同じ向きとする。
【0054】
気管支7の内部表面は、気管支周辺組織8の形状及び気管支粘膜9等に起因する凹凸を有する。また、気管支7の内腔10は、気管側から肺胞側に向かうにつれて狭窄している。また、
図3には便宜上直線的な気管支7を示すが、ほとんどの場合、気管支7は湾曲している。
【0055】
第1の領域Rは、気管支7の内腔10内に位置する。気管支7の長手方向に対応する第1の領域Rの長さ(図中「l2」)は気管支7の太さに従って決定される。
【0056】
第1の領域Rは、気管支の分岐点に位置させてもよい。
【0057】
(S2)軟骨一体化閉塞材1の断片化
次に、例えば、上記した方法により製造及び保存された軟骨一体化閉塞材1を恒温振盪器から取り出す。そして、
図4に示すように、清潔なメス5(又は剪刀、ハサミ、ピンセット等)を用いて軟骨一体化閉塞材1を断片化する。断片化されて得られる断片の大きさは、第1の領域Rの寸法に応じて選択されればよい。例えば、軟骨一体化閉塞材1をその長手方向と直交する方向に切断し、かまぼこ型形状を有する断片6a及び6bに断片化してもよい。例えば、一方の断片6aは、第1の領域Rにおける気管支7の内腔10の太さ、即ち、気管支7の長手方向と直交する方向に切断した際の内腔10の略円形断面の直径に応じて決定された長さを有し、後の工程に用いられる。他方の断片6bは、破棄してもよいし、後述するように断片6aを第1の領域Rに挿入した後にできた隙間を埋めるために用いてもよい。或いは、第1の領域Rをより細い気管支に配置する場合は、軟骨一体化閉塞材1を長手方向の半分程度の長さに切断し、得られた2つのかまぼこ型形状断片の両方を後の工程に用いてもよい。断片化は、衛生的な状態で行うことが好ましい。断片化は、使用直前に行うことが好ましい。
【0058】
(S3)第1のストッパー部材の挿入
次に、第1のストッパー部材を用意する。第1のストッパー部材として、生分解性物質からなり、且つ生体の組織と接着する性質を有する公知の材料を用いることができる。例えば、ストッパー部材は、例えば、シート状、可塑性を有する固体又は液状である。シート状のストッパー部材として、タコシール(登録商標)(CSLベーリング製)を用いることが可能である。
【0059】
図5の(a)に、第1のストッパー部材11としてタコシール(登録商標)を用いた例を示す。タコシール(登録商標)は、シート状の生分解性多孔質体からなる支持体12と、支持体12の表面に配置された成分子融着面13とを有する。第1のストッパー部材11は、気管支7の長手方向に直交する内腔10の略円形の断面の大きさに合わせて加工されている。
【0060】
第1のストッパー部材11を第1の領域Rよりも肺胞側(奥側)に挿入する(
図5の(a))。挿入は、例えば次のように行われる。気管支鏡に先端に鉗子を取り付け、当該鉗子で第1のストッパー部材11を担持し、気管支鏡の先端を対象の口から気管に挿入する。気管支鏡で気管支内部を観察しながら第1のストッパー部材11を第1の領域Rの肺胞側まで運搬し、そこに気管支7の内腔10を塞ぐように配置する。第1のストッパー部材11は、成分子融着面13が第1の領域R側に位置するよう配置される。
【0061】
(S4)軟骨一体化閉塞材1の充填
続いて、第1の領域Rに軟骨一体化閉塞材1の断片6を充填する。まず、気管支鏡の鉗子で断片6を担持し、気管支内部を観察しながら断片6を第1の領域Rまで運搬し、そこに配置する(
図5の(b))。例えば、
図5の(b)に示すように、断片6は気管支7の長手方向と直交する向きで第1の領域Rに挿入される。軟骨一体化閉塞材1は断片化されているため、断片6の端には足場部材2が一部露出している。露出した足場部材2の凸部(固体部2a)を気管支粘膜9や気管支周辺組織8に刺すように充填することにより、断片6のずれ及び脱落が防止される。
【0062】
断片6を挿入した後にできた隙間に、例えば隙間のサイズに対応するサイズの断片6を更に挿入し、隙間を埋めることが好ましい。この工程を第1の領域Rが断片6で満たされるまで繰り返す(
図5の(c))。それによって、凹凸、狭窄及び湾曲等の複雑な形状を有する第1の領域Rを軟骨一体化閉塞材1で隙間なく満たすことができる。
【0063】
断片6の充填量は、気管支7の強度(例えば、対象の年齢、疾患の進行度、気管支の状態、エアリークの位置)等に従って適切に選択される。特に、気管支7の強度が弱い対象の場合、第1の領域Rに軟骨一体化閉塞材1を過度に充填しないようにすることが好ましい。
【0064】
(S5)第2のストッパー部材の挿入
次に、気管支7に第2のストッパー部材14を挿入する(
図6の(d))。第2のストッパー部材14は、例えば、第1のストッパー部材11と同じ材料及び構成からなるものである。
図6の(d)に示す例においては、第2のストッパー部材14はタコシール(登録商標)である。
【0065】
第2のストッパー部材14の挿入は、第1のストッパー部材11と同様に行うことができるが、第1の領域Rよりも気管側(手前側)に配置される。したがって、第2のストッパー部材14は、第1の領域Rの気管側の断面形状に合わせて、加工されていることが好ましい。
【0066】
気管支閉塞方法の実施者が以上の手順を行った後、軟骨一体化閉塞材1と気管支7とが自ずと一体化される。一体化について、以下に説明する。
【0067】
気管支7に断片6を充填した後、例えば、充填された断片6の群(以下、「断片群15」とも称する)に、対象の体内にもともと存在するマクロファージが集積する。マクロファージは、断片群15の周辺で、足場部材2、ハイドロゲル3及び軟骨細胞4等に対して免疫反応を起こす。免疫反応やそれに応じて生じる熱等によりマクロファージが死滅し、その残骸が断片群15の周囲に蓄積する。蓄積物は、マクロファージをはじめとする対象の血液中の成分等を含む。断片群15の周辺に存在する軟骨細胞4は、蓄積物から特定の成分を吸収し、軟骨膜16を形成する(
図6の(e))。
【0068】
軟骨膜16は例えば、粘膜である。軟骨膜16は、気管支粘膜9及び気管支周辺組織8とつながり、一体化する。また、軟骨膜16は、断片群15の周囲に形成され、断片群15全体を包み込み、断片6が第1の領域Rの外へ脱落することを防止する。それにより、軟骨一体化閉塞材1が第1の領域Rに定着し、且つ気管支7を隙間なく閉塞することができる。
【0069】
例えば、軟骨膜16は、軟骨一体化閉塞材1の充填後、約3週間~3ヵ月ほどで形成され始め、一体化は、軟骨一体化閉塞材1の充填後、約1ヵ月~6ヵ月後に完了する。軟骨膜16の内部には次第に毛細血管が形成され、包み込まれた断片6に含まれる軟骨細胞4が生存した状態で維持される。
【0070】
一体化が完了するまでの間、足場部材2の凸部(固体部2a)が気管支粘膜9及び気管支周辺組織8に刺さっていることにより、断片6のずれ及び脱落が防止される。
【0071】
第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14を用いる場合、これらの存在により、ずれ及び脱落が更に防止される。第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14が、タコシール(登録商標)など血液凝固因子を含むものである場合、それらは接触している気管支粘膜9及び気管支周辺組織8内に拡散し、生理的血液凝固過程を開始し、フィブリン塊を形成する。それにより、第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14は、気管支7内に接着される。その結果、軟骨一体化閉塞材1又は断片6のずれ及び脱落が防止される。また、第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14は、生分解性の材料からなるため、約1ヵ月後に分解されて消失する。
【0072】
以上のようにして、軟骨一体化閉塞材1を用いて気管支を閉塞することができる。
【0073】
更なる実施形態において、第1の領域Rの体積が軟骨一体化閉塞材1の1つ分の体積よりも十分に大きい場合、断片化していない軟骨一体化閉塞材1を充填してもよい。その場合、断片化していない軟骨一体化閉塞材1を第1の領域Rに挿入し、第1の領域Rの空いた空間に断片6を更に充填することが好ましい。
【0074】
更なる実施形態において、第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14のどちらか一方を用いてもよいし、ストッパー部材を用いなくともよい。このような実施形態は、気管支7が細い場合又は気管支7の構造上断片6が安定している場合等、ずれ又は脱落が起きる可能性が低い場合に行われ得る。
【0075】
また、一度気管支7内に配置された軟骨一体化閉塞材1並びにストッパー部材を取り除く必要がある場合は、気管支鏡等によりこれらの部材を吸引して除去することが可能である。除去は、一体化が完了する前、例えば、軟骨一体化閉塞材1の充填から24時間以内に行うことが好ましい。
【0076】
また、耳介軟骨細胞を用いれば、軟骨細胞としての特性を維持しやすく、軟骨膜16をより形成しやすい。その結果、軟骨一体化閉塞材1がより定着しやすい。
【0077】
実施形態の気管支閉塞方法は、エアリークが関与する疾患の治療に用いることも可能である。エアリークが関与する疾患は、例えば、気胸、難治性気胸、術後気管支断端瘻、肺気腫等である。しかしながら、疾患の種類はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(体腔閉塞方法)
更なる実施形態において、軟骨一体化閉塞材1を用いて気管支以外の体腔を埋める軟骨一体化閉塞方法が提供される。気管支以外の体腔は、例えば、消化管内を除く体内に存在する空洞である。そのような体腔の例は、腫瘍又は膿瘍等の切除又は除去により体内に形成された空洞等を含む。しかしながら、体腔はこれらに限定されるものではない。例えば体腔は、皮膚の直下に存在し、それに起因する皮膚の窪みにより対象の外観を損なうものである。
【0079】
図7は、体腔閉塞方法の一例を示す概略フローチャートを示す。体腔閉塞方法は、例えば、次の工程を含む。(S11)軟骨一体化閉塞材1を断片化すること、(S12)体腔口を形成することによって体腔を露出させること、(S13)生分解性物質からなる第1のストッパー部材を体腔の内表面上に設置すること、(S14)軟骨一体化閉塞材1を体腔内に充填すること、(S15)生分解性物質からなる第2のストッパー部材で露出した軟骨一体化閉塞材1を被覆すること、及び(S16)体腔口を閉塞すること。
【0080】
体腔閉塞方法の工程及び軟骨一体化閉塞材1を充填することにより体腔が閉塞される原理について
図8を用いて説明する。
図8の(a)は、体腔17周辺の断面図を示す。この例においては、体腔17は皮膚18の直下に存在し、皮膚18は体腔17の存在により窪み19を形成している。
【0081】
(S11)軟骨一体化閉塞材1の断片化
本実施形態において用いられる軟骨一体化閉塞材1は、例えば、上記気管支閉塞方法に用いる軟骨一体化閉塞材1と同様のものである。軟骨一体化閉塞材1は、体腔17のサイズに合わせて上記工程(S2)と同様に断片化することが好ましい。しかしながら、体腔が軟骨一体化閉塞材1よりも十分に大きい場合は、断片化されていない軟骨一体化閉塞材1を用いてもよい。
【0082】
(S12)体腔の露出
次に、メス20等を用いて、体腔17の位置に合わせて皮膚18を切開して、体腔17を露出させる(
図8の(b))。それにより、体腔17を外部へとつなげる体腔口17aが形成される。
【0083】
(S11)と(S12)とは、どちらを先に行ってもよい。
【0084】
(S13)第1のストッパー部材の敷設
次に、第1のストッパー部材11を体腔口17aから体腔17内に挿入し、体腔17の内表面17bに設置する(
図8の(c))。第1のストッパー部材11は、上記気管支閉塞方法で説明したものと同様であればよく、例えば、支持体12及び成分子融着面13を備えるタコシール(登録商標)であってもよい。第1のストッパー部材11は、体腔17の内表面17bの大きさ及び形状に合うように加工されている。第1のストッパー部材11は、成分子融着面13が内側に位置するように配置される。
【0085】
(S14)軟骨一体化閉塞材1の充填
続いて、体腔17内に軟骨一体化閉塞材1の断片6を充填する(
図8の(d))。充填は、例えば、ピンセット等を用いて断片6を体腔口17aから体腔17内に挿入することにより行うことができる。例えば、断片6を挿入し、隙間に対応するサイズの断片6を更に挿入し、体腔17が断片6で満たされるまでこの工程を繰り返す。
【0086】
(S15)第2のストッパー部材による被覆
次に、第2のストッパー部材14で、体腔口17aに露出した断片6を被覆する(
図8の(e))。第2のストッパー部材14の材料は第1のストッパー部材11と同様であるが、第2のストッパー部材14は体腔口17aの大きさに合うように加工されている。第2のストッパー部材14は、成分子融着面13が軟骨一体化閉塞材1側に位置するように配置される。
【0087】
以上の工程により、第1及び第2のストッパー部材11及び14は、断片6の全体を覆うように配置される。
【0088】
(S16)体腔口の閉塞
次に、体腔口17aを閉塞する。例えば、体腔17を覆うように皮膚18を縫合する(
図8の(f))。縫合は、公知の何れかの方法により行われればよい。例えば、縫合には、縫合針21及び縫合糸22、又はステープラー等を用いることができる。
【0089】
体腔17に断片6を充填した後、例えば、約3週間で軟骨膜16が形成され始める(
図8の(g))。軟骨膜16は、例えば、上記気管支閉塞方法で説明したものと同様のメカニズムで形成される。第1及び第2のストッパー部材11及び14は分解されて消失し、軟骨膜16は、体腔17の内表面に存在する粘膜と癒着して皮膚18及び体腔周辺組織23等とつながり、一体化する。例えば、このような一体化が完了するまでの期間は、約1ヵ月~6ヵ月ほどである。一体化までの間、第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14は、軟骨一体化閉塞材1又は断片6が体腔17からずれたり、脱落したり、体腔口17aから排出されたりしないよう保持する。
【0090】
以上のようにして、軟骨一体化閉塞材1を用いて体腔17を閉塞することができる。それにより皮膚18の窪みがなくなり、皮膚18が平滑化される。
【0091】
図8においては、皮膚18で被覆された体腔17を露出させて充填する例を示したが、腫瘍又は膿瘍等を切除又は除去した直後に、それによって形成された空洞に対して工程(S11)、(S13)~(S16)を行ってもよい。
【0092】
更なる実施形態においては、軟骨一体化閉塞材1又は断片6を第1のストッパー部材11と同じ材料及び構成を有する部材で予め梱包し、それを体腔17に充填してもよい。
【0093】
第1及び第2のストッパー部材は、体腔17の大きさ、形状及び/又は状態に応じて、断片6の一部を覆うように形成されてもよいし、或いは用いなくともよい。例えば、ずれや脱落が生じやすい部分及び/又は体腔口17aの直下だけにストッパー部材を配置してもよい。その場合、体腔周辺組織23に接する位置の断片6は、足場部材2の凸部(固体部2a)を体腔周辺組織23に突き刺すように充填していくことが好ましい。それによってずれ及び脱落が防止され、断片6が定着しやすくなる。
【0094】
更なる実施形態において、軟骨一体化閉塞方法は、例えば、対象に生まれつき存在するか、又は外傷等により形成され体表面の窪みを閉塞する場合、或いは、美容整形等において体表面の特定の部分を隆起させる場合等、体腔がもともと存在しない場合にも実施することができる。その場合、軟骨一体化閉塞材1を充填したい部分の皮膚を切開して体腔を形成し、上記体腔閉塞方法と同様に軟骨一体化閉塞材1及び必要に応じてストッパー部材を体腔に導入し、その部分を閉塞すればよい。しかしながら、用途はこれらに限定されるものではない。
【0095】
以上に説明した実施形態の気管支閉塞方法によれば、生体由来の軟骨細胞4を用いるため、拒絶反応が大きく低減される。軟骨一体化閉塞材1に対する免疫反応は、軟骨膜16が形成されるまでの間生じ得るが、軟骨膜16は対象の自己由来の成分からなるため、軟骨膜16形成後においては拒絶反応がほとんど起こらない。それによって、体腔の周辺環境の悪化、例えば、感染や炎症等、或いは軟骨一体化閉塞材1が対象から排除されようとしてずれ及び脱落が生じることが防止される。また、対象から採取された軟骨細胞(自家軟骨細胞)を用いれば、拒絶反応による環境の悪化を更に防止することが可能である。従来の閉塞材は、それが対象の体内に存在する限りにおいて拒絶反応が生じるが、実施形態の軟骨一体化閉塞材1は上記のように免疫反応が生じるのは軟骨膜16が形成されるまでの間(例えば、長くとも3ヵ月程度)であり非常に短い。
【0096】
加えて、軟骨膜の形成により軟骨一体化閉塞材1は対象の体腔周辺組織と一体化してそこに定着する。したがって、対象の生涯にわたって拒絶反応による環境の悪化、軟骨一体化閉塞材1のずれ及び脱落が防止される。
【0097】
また、閉塞するべき体腔、特に気管支の形状は、対象によって大きく異なり、尚且つ凹凸、狭窄及び湾曲等の複雑な構造を有することもある。従来の閉塞材は、大きさや形状を自由自在に変えることはできないため、完全に体腔を閉塞することは困難であった。しかしながら、実施形態の軟骨一体化閉塞材1によれば、体腔の形状に合わせて断片化して充填することにより、体腔を隙間なく閉塞することができ、閉塞する体腔の大きさ及び形状を選ばない。
【0098】
例えば、気管支に用いるのであれば、エアリークを根治することが可能である。閉塞する気管支の大きさ及び形状を選ばないので、対象の気管支が脆弱であり、閉塞できる気管支が制限される場合も、より適切な気管支を選んで閉塞することが可能である。そのため、高齢の対象や、疾患が進んだ対象においても安定して効果的にエアリークを閉塞することが可能である。また、例えば、気管支の分岐した部分等も満足に閉塞することができる。そのため、エアリークを塞ぐ効果及びエアリークに関連する疾患の治療効果が非常に高い。
【0099】
体表面の閉塞に用いるのであれば、外観を改善する効果が高く、かつ対象の生涯にわたって窪みを閉塞したまま維持することが可能である。
【0100】
また、美容整形における皮膚の隆起に用いるのであれば、隆起を効率的に対象のサイズや好みに合わせた所望の形に形成することができ、かつ生涯にわたりその形状を維持することが可能である。従来のような人工材料からなる移植片の埋め込みによる周辺の細胞の壊死又は移植片のずれ及び飛び出し等の弊害が防止され、定期的なメンテナンス等も行う必要がない。
【0101】
・軟骨一体化閉塞材キット
実施形態によれば、軟骨一体化閉塞材を含むキットが提供される。キットは、上記の何れかの軟骨一体化閉塞材1、並びに第1のストッパー部材11及び/又は第2のストッパー部材14を含む。
【0102】
軟骨一体化閉塞材1は、例えば、上記のように密封容器に培養培地とともに含まれた状態でキットに含まれることが好ましい。一つの密封容器に複数の軟骨一体化閉塞材1が含まれていてもよい。第1のストッパー部材11及び/又は第2のストッパー部材14は、例えば、十分な大きさを有する一体の材料としてキットに含まれ、使用者によって第1のストッパー部材11及び第2のストッパー部材14に加工されることが企図されるものであってもよい。ストッパー部材は、無菌状態で、滅菌された密封容器に収容されて提供されることが好ましい。
【符号の説明】
【0103】
1…軟骨一体化閉塞材
2…足場部材
2a…固体部
2b…気孔部
3…ハイドロゲル
4…軟骨細胞
6、6a、6b…断片
7…気管支
11…第1のストッパー部材
14…第2のストッパー部材
16…軟骨膜
17…体腔
17a…体腔口
17b…内表面
19…窪み