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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】車両用の動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 41/24 20060101AFI20230807BHJP
   F16H 41/02 20060101ALI20230807BHJP
   B60L 15/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
F16H41/24 Z
F16H41/02
B60L15/00 H
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019087750
(22)【出願日】2019-05-07
(65)【公開番号】P2020024035
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018148812
(32)【優先日】2018-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】松岡 佳宏
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-161483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 41/24
F16H 41/02
B60L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機と、
前記電動機に接続され前記電動機のトルクを出力部材に伝達するトルクコンバータと、
を備え、
トルクコンバータ用の特性線は、前記トルクコンバータの容量係数に基づいて求められ、前記トルクコンバータの各回転速度に対する前記トルクコンバータのトルクを示し、
電動機用の特性線は、前記電動機の各回転速度に対する前記電動機の最大出力トルクを示し、
第1範囲は、前記電動機の基底回転速度以上、且つ前記電動機の前記基底回転速度及び前記電動機の最大回転速度の平均である第1平均回転速度以下である範囲に、対応し、
前記トルクコンバータは、前記第1範囲において前記トルクコンバータ用の特性線が前記電動機用の特性線と常に交差するような前記容量係数を、有し、
前記基底回転速度は、1500(r/min)以上且つ3000(r/min)以下に設定される、
車両用の動力伝達装置。
【請求項2】
第2範囲は、前記電動機の基底回転速度以上、且つ前記電動機の前記基底回転速度及び前記電動機の前記第1平均回転速度の平均である第2平均回転速度以下である範囲に、対応し、
前記トルクコンバータは、前記第2範囲において前記トルクコンバータ用の特性線が前記電動機用の特性線と交差するような前記容量係数を、有する。
請求項1に記載の車両用の動力伝達装置。
【請求項3】
前記容量係数は、前記トルクコンバータの速度比がゼロである場合の容量係数である、
請求項1又は2に記載の車両用の動力伝達装置。
【請求項4】
前記電動機は、ステータと、永久磁石を有し前記ステータに対して回転可能に構成されるロータとを、有する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両用の動力伝達装置。
【請求項5】
前記基底回転速度は、2000(r/min)以上且つ2500(r/min)以下に設定される、
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両用の動力伝達装置。
【請求項6】
前記トルクコンバータ用の特性線は、前記基底回転速度に基づいて設定される、
請求項1から5のいずれか1項に記載の車両用の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用の動力伝達装置は、モータジェネレータ(電動機)と、トルクコンバータとを、備えている(特許文献1を参照)。この構成では、モータジェネレータの駆動力が、トルクコンバータを介して、出力軸に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-231857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、従来の車両用の動力伝達装置では、図4に示すように、トルクコンバータ用の特性線TLJが、基底回転速度Na未満の範囲RLで、モータジェネレータの各回転速度に対するモータジェネレータの最大出力トルクを示す電動機用の特性線MLと、交差するように、トルクコンバータの容量係数YJが設定される。
【0005】
この理由は、基底回転速度Na未満の範囲RLにおいてトルクコンバータ用の特性線TLJが電動機用の特性線MLと交差するようにトルクコンバータの容量係数YJを設定することによって、基底回転速度Na未満の範囲RLにおけるモータジェネレータの最大出力トルクTmを、利用することができるからである。
【0006】
しかしながら、トルクコンバータ用の特性線TLJを電動機用の特性線MLと交差させるためには、トルクコンバータの容量係数YJ、例えばトルクコンバータのサイズ(代表径φJ)が、大きくなるおそれがある。また、この場合、図4に示すように、トルクコンバータ用の特性線TLJが、モータジェネレータの効率マップにおいて低効率領域を通過するので、モータジェネレータを効率良く利用できないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、トルクコンバータの小型化を図ることができる車両用の動力伝達装置を、提供することにある。また、本発明の更なる目的は、電動機を効率良く利用することができる車両用の動力伝達装置を、提供することにある。
【発明が解決しようとする手段】
【0008】
本発明の一側面に係る車両用の動力伝達装置は、電動機と、トルクコンバータとを、備える。トルクコンバータは、電動機に接続され、電動機のトルクを出力部材に伝達する。
【0009】
ここで、トルクコンバータ用の特性線は、トルクコンバータの容量係数に基づいて求められる。トルクコンバータ用の特性線は、トルクコンバータの各回転速度に対するトルクコンバータのトルクを、示す。電動機用の特性線は、電動機の各回転速度に対する電動機の最大出力トルクを、示す。
【0010】
第1範囲は、電動機の基底回転速度以上、且つ電動機の基底回転速度及び電動機の最大回転速度の平均である第1平均回転速度以下である範囲に、対応する。トルクコンバータは、第1範囲においてトルクコンバータ用の特性線が電動機用の特性線と交差するような容量係数を、有する。
【0011】
本車両用の動力伝達装置では、第1範囲が、電動機の基底回転速度以上且つ第1平均回転速度以下である範囲に、対応している。具体的には、第1範囲は、基底回転速度未満の範囲より大きく、第1平均回転速度以下である。また、電動機用の特性線によって定義される第1範囲の最大出力トルクは、電動機用の特性線によって定義される低回転速度範囲(0≦回転速度≦基底回転速度)での最大出力トルク以下である。
【0012】
第1範囲においてトルクコンバータ用の特性線が電動機用の特性線と交差する第1ケースと、基底回転速度未満の範囲においてトルクコンバータ用の特性線が電動機用の特性線と交差する第2ケース(従来のケース)とを、比較すると、第1ケースの方が第2ケースより容量係数が小さくなる。
【0013】
このように第1範囲においてトルクコンバータ用の特性線を電動機用の特性線と交差させることによって、従来のトルクコンバータの容量係数と比較して、トルクコンバータの容量係数を小さくすることができる。すなわち、トルクコンバータの小型化を図ることができる。また、上記のように構成することによって、トルクコンバータ用の特性線が電動機の高効率領域(第1領域又は第2領域)を通過することができるので、電動機を効率良く利用することができる。
【0014】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置は、以下のように構成することが好ましい。第2範囲は、電動機の基底回転速度以上、且つ電動機の基底回転速度及び電動機の第1平均回転速度の平均である第2平均回転速度以下である範囲に、対応する。トルクコンバータは、第2範囲においてトルクコンバータ用の特性線が電動機用の特性線と交差するような容量係数を、有する。
【0015】
この構成では、第2範囲が、電動機の基底回転速度以上且つ第2平均回転速度以下である範囲に、対応している。具体的には、第2範囲は、基底回転速度未満の範囲より大きく、且つ第2平均回転速度以下である範囲に、対応している。
【0016】
この第2範囲においてトルクコンバータ用の特性線を電動機用の特性線と交差させることによって、従来のトルクコンバータの容量係数と比較して、トルクコンバータの容量係数を小さくすることができる。すなわち、トルクコンバータの小型化を図ることができる。また、上記のように構成することによって、トルクコンバータ用の特性線が電動機の高効率領域(第1領域又は第2領域)を通過することができるので、電動機を効率良く利用することができる。
【0017】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置では、容量係数が、トルクコンバータの速度比がゼロである場合の容量係数であることが好ましい。このように構成しても、トルクコンバータ用の特性線が電動機の高効率領域を通過することができるので、電動機を効率良く利用することができる。
【0018】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置では、電動機が、ステータと、永久磁石を有しステータに対して回転可能に構成されるロータとを、有することが、好ましい。
【0019】
この構成によって、電動機の高効率領域の少なくとも一部が上記の第1領域又は上記の第2領域に形成されるので、トルクコンバータ用の特性線が電動機の高効率領域を確実に通過することができる。これにより、電動機を効率良く利用することができる。
【0020】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置では、基底回転速度は、1500(r/min)以上且つ3000(r/min)以下に設定されることが好ましい。このように構成することによって、トルクコンバータを好適に小型化することができる。
【0021】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置では、基底回転速度は、2000(r/min)以上且つ2500(r/min)以下に設定されることが好ましい。このように構成することによって、トルクコンバータをより好適に小型化することができる。
【0022】
本発明の他の側面に係る車両用の動力伝達装置では、トルクコンバータ用の特性線は、基底回転速度に基づいて設定されることが好ましい。このように構成することによって、トルクコンバータを電動機に好適にマッチングすることができる。すなわち、トルクコンバータを好適に小型化することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、車両用の動力伝達装置において、トルクコンバータの小型化を図ることができ、電動機を効率良く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る車両の全体構成を示す模式図。
図2】本実施形態の動力伝達装置の断面図。
図3A】本実施形態の動力伝達装置におけるモータの特性及びトルクコンバータの特性を示すグラフ。
図3B】本実施形態の動力伝達装置におけるモータの特性及びトルクコンバータの特性を示すグラフ。
図4】本実施形態及び従来技術の動力伝達装置におけるモータの特性及びトルクコンバータの特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<全体概要>
図1は、本発明の動力伝達装置1が配置された車両の全体構成を示す模式図である。図1を用いて、動力伝達装置1に関係する構成について、簡単に説明する。
【0026】
図1に示すように、車両には、例えば、動力伝達装置1と、制御ユニット2と、バッテリユニット3とが、配置される。なお、ここでは、制御ユニット2及びバッテリユニット3が、動力伝達装置1に含まれない場合の例を示すが、制御ユニット2及び/又はバッテリユニット3は、動力伝達装置1に含まれていてもよい。
【0027】
動力伝達装置1は、駆動輪4を駆動するためのものである。動力伝達装置1は、車両本体(図示しない)に装着される。動力伝達装置1は、バッテリユニット3からの電力によって動作し、第1出力軸5(出力部材の一例)及び第2出力軸6を介して駆動輪4を駆動する。第1出力軸5には、第1ギア部7が設けられている。第2出力軸6には、第2ギア部8が設けられている。第2ギア部8は、第1ギア部7に噛み合う。第2出力軸6及び駆動輪4の間には、差動機構9が配置されている。
【0028】
この構成によって、動力伝達装置1から第1出力軸5に駆動力が伝達されると、この駆動力は、差動機構9を介して、第2出力軸6から駆動輪4の駆動軸へと伝達される。このようにして、駆動輪4は、動力伝達装置1によって駆動される。
【0029】
なお、駆動力は、トルクを含む文言である。上述した動力伝達経路は一例であって、他の出力軸やギア部をさらに用いて、動力伝達装置1の駆動力を駆動輪4に伝達してもよい。動力伝達装置1の詳細については、後述される。
【0030】
制御ユニット2は、動力伝達装置1及びバッテリユニット3を、制御する。制御ユニット2は、車両本体に装着される。制御ユニット2は、バッテリユニット3からの電力によって、動作する。
【0031】
バッテリユニット3は、動力伝達装置1及び制御ユニット2に電力を供給する。バッテリユニット3は、車両本体に装着される。バッテリユニット3は、外部電源によって充電可能である。また、バッテリユニット3は、動力伝達装置1において発生した電力を用いて、充電可能である。
【0032】
<動力伝達装置>
動力伝達装置1は、第1出力軸5に駆動力を伝達するためのものである。図2に示すように、動力伝達装置1は、モータ13(電動機の一例)と、トルクコンバータ15とを、備える。詳細には、動力伝達装置1は、筐体10と、モータ13と、トルクコンバータ15とを、備える。動力伝達装置1は、回転伝達構造17を、さらに備える。動力伝達装置1は、ロックアップ構造19をさらに備える。筐体10は、車両本体に取り付けられる。筐体10は、内部空間Sを有する。
【0033】
(モータ)
モータ13は、動力伝達装置1の駆動部である。図2に示すように、モータ13は、筐体10の内部空間Sに配置される。モータ13は、第1ステータ21(ステータの一例)と、ロータ22とを、有する。第1ステータ21は、筐体10に固定される。第1ステータ21には、コイル部21aが設けられている。
【0034】
ロータ22は、第1ステータ21に対して回転可能に構成される。ロータ22は、第1出力軸5に対して回転可能に支持されている。詳細には、ロータ22は、回転伝達構造17を介して、第1出力軸5に対して回転可能に支持されている。
【0035】
ロータ22は、位置決め部材34によって軸方向に位置決めされている。位置決め部材34は、ロータ22と一体回転可能なようにロータ22に取り付けられ、且つ第1出力軸5に対して回転可能なように第1出力軸5に支持されている。
【0036】
ロータ22は、永久磁石を有する。詳細には、ロータ22には、N極及びS極が周方向に交互に配置された磁石部22aが、設けられている。磁石部22aは、永久磁石から構成される。
【0037】
第1ステータ21のコイル部21aにはバッテリユニット3(図1を参照)から電流が供給され、コイル部21a及び磁石部22aの間に磁界が発生すると、ロータ22は、第1出力軸5の回転軸心まわりに第1ステータ21に対して回転する。ロータ22の回転は、バッテリユニット3からの電流を制御ユニット2によって制御することによって、制御される。
【0038】
ここで、本実施形態では、永久磁石を有する磁石部22aがロータ22に含まれているので、モータ13は、永久磁石同期モータとして機能する。このようにモータ13を構成することによって、モータ13は、例えば、中央部に高効率領域E1,E2(後述する図4を参照)を有する効率マップ(後述する図3A及び図3Bを参照)を、形成する。
【0039】
(トルクコンバータ)
トルクコンバータ15は、モータ13に接続される。トルクコンバータ15は、モータ13の駆動力を第1出力軸5に伝達する。詳細には、トルクコンバータ15は、ロータ22が駆動方向R1(図1を参照)に回転する場合に、ロータ22の回転を第1出力軸5に伝達する。ここで、駆動方向R1は、車両を前進させるためにロータ22を回転させる方向である。
【0040】
図2に示すように、トルクコンバータ15は、筐体10の内部すなわち筐体10の内部空間Sに、配置される。トルクコンバータ15は、インペラ25と、タービン27と、第2ステータ29とを、有する。トルクコンバータ15は、作動油を介してインペラ25、タービン27、及び第2ステータ29を回転させることによって、インペラ25に入力されたトルクを、タービン27に伝達する。
【0041】
インペラ25は、ロータ22と一体回転可能に構成される。例えば、インペラ25例えばインペラシェル25aはカバー部32に固定されている。インペラシェル25aと、ロータ22に固定されるカバー部32とによって、トルコンケースが形成されている。トルコンケースは、非磁性体である。
【0042】
タービン27は、第1出力軸5に連結される。ここでは、タービン27は、第1出力軸5と一体回転可能に連結される。タービン27のタービンシェル27aは、インペラシェル25aとカバー部32との間に配置される。第2ステータ29は、筐体10に対して回転可能に構成される。例えば、第2ステータ29は、ワンウェイクラッチ30を介して、筐体10に対して回転可能に配置される。
【0043】
(回転伝達構造)
回転伝達構造17は、ロータ22の回転を第1出力軸5に選択的に伝達する。図2に示すように、回転伝達構造17は、筐体10の内部空間Sにおいて、ロータ22と第1出力軸5との間に配置される。例えば、回転伝達構造17は、ワンウェイクラッチ17aを、有する。
【0044】
例えば、ロータ22が駆動方向R1に回転する場合には、ワンウェイクラッチ17aは、ロータ22の回転を第1出力軸5には伝達しない。一方で、ロータ22が反駆動方向R2(図1を参照)に回転する場合には、ワンウェイクラッチ17aは、ロータ22の回転を第1出力軸5に伝達する。ここで、反駆動方向R2は、駆動方向R1とは反対の回転方向である。
【0045】
(ロックアップ構造)
ロックアップ構造19は、筐体10の内部空間Sに配置される。ロックアップ構造19は、インペラ25とタービン27とを一体回転可能に連結する。
【0046】
ここでは、図2に示すように、ロックアップ構造19は、遠心クラッチ31を有している。遠心クラッチ31の遠心子31aは、タービン27例えばタービンシェル27aに、設けられる。詳細には、遠心クラッチ31を構成する複数の遠心子31aそれぞれは、周方向(回転方向)に間隔を隔てて配置され、タービンシェル27aに対して径方向に移動可能、且つタービンシェル27aと一体回転可能なように、タービンシェル27aに保持されている。
【0047】
複数の遠心子31aは、インペラシェル25aの径方向外側部25bに対向して配置されている。複数の遠心子31aそれぞれには、摩擦部材31bが設けられている。各遠心子31aの摩擦部材31bは、インペラシェル25aの径方向外側部25bと間隔を隔てて配置される。
【0048】
詳細には、複数の遠心子31aに遠心力が作用していない場合、又は複数の遠心子31aに作用する遠心力が所定の遠心力未満の場合、複数の遠心子31a(摩擦部材31b)はインペラシェル25aの径方向外側部25bと間隔を隔てて配置される。この状態が、クラッチオフ状態である。
【0049】
一方で、各遠心子31aの摩擦部材31bがインペラシェル25aの径方向外側部25bに当接した状態が、クラッチオン状態である。詳細には、複数の遠心子31aに作用する遠心力が所定の遠心力以上の場合、複数の遠心子31a(摩擦部材31b)はインペラシェル25aの径方向外側部25bに当接する。これにより、インペラ25とタービン27とが、一体回転可能に連結される。この状態が、クラッチオン状態である。
【0050】
<モータ及びトルクコンバータの特性>
図3A及び図3Bは、横軸を回転速度V(r/min)とし、縦軸をトルクT(Nm)として、モータ13及びトルクコンバータ15の特性を示したグラフである。
【0051】
(モータ用の特性)
図3A及び図3Bの実線は、モータ13を単体で動作させた場合のモータ用の特性線MLを示し、モータ13における回転速度V及び出力トルクTとの関係を、示している。すなわち、実線は、モータ13を単体で動作させた場合のモータ用の特性線MLを示し、モータ13における各回転速度Vに対する出力トルクTを、示している。なお、“モータ13を単体で動作させた場合”とは、“モータ13を増減速させずに単体で動作させた場合”という意味を、含んでいる。
【0052】
モータ用の特性線MLにおいて、低回転速度範囲、例えば、回転速度Vが0以上且つ基底回転速度Na以下(0≦回転速度≦基底回転速度Na)では、電流制限によって、モータ13の最大出力トルクTmが実質的に一定である。
ここで、基底回転速度は、1500(r/min)以上且つ3000(r/min)以下に設定されることが好ましい。詳細には、基底回転速度は、2000(r/min)以上且つ2500(r/min)以下に設定されることが好ましい。
【0053】
一方で、モータ用の特性線MLにおいて、基底回転速度Naより大きい回転速度Vを有する回転速度範囲RM(基底回転速度Na<回転速度V<最大回転速度Nm)では、モータ13の回転速度Vが大きくなるにつれて、逆起電圧によって第1ステータ21のコイル部21aに流れる電流が減少する。このため、モータ13の最大出力トルクT(T<Tm)は減少する。
【0054】
図4に示すように、モータ13の効率マップは、モータ13の効率の分布を示す。モータ13の効率は、モータ13に入力される入力電力(W)に対する、モータ13からの機械出力(W)の比によって、定義される。
【0055】
例えば、モータ13の効率は、「モータ効率={機械出力(W)/入力電力(W)}×100(%)」によって表現される。ここで、入力電力は「入力電力(W)=電圧(V)×電流(A)」によって表現され、機械出力は「機械出力(W)=回転速度(r/min)×トルク(Nm)」によって表現される。
【0056】
(トルクコンバータ用の特性)
図3A及び図3Bの一点破線は、トルクコンバータ用の特性線TLを示し、トルクコンバータ15における回転速度V及びトルクTとの関係を示している。すなわち、一点破線は、トルクコンバータ15における容量係数Y(後述するY1及びY2)に対応している。
【0057】
ここで、トルクコンバータ15の入力回転速度Vは、モータ13からトルクコンバータ15への入力回転速度である。トルクコンバータ15の入力トルクTは、モータ13からトルクコンバータ15への入力トルクである。
【0058】
トルクコンバータ用の特性線TL(後述するTL1及びTL2)は、容量係数Yに基づいて、求められる。例えば、トルクコンバータ用の特性線TLにおいて、トルクTは、回転速度Vの2乗に比例する。容量係数Yは、比例係数である。すなわち、トルクコンバータ用の特性線TLは、「T=Y×(V)」によって表現される。これにより、トルクコンバータ用の特性線TLは、容量係数Yが大きくなるにつれて縦軸に接近し、容量係数Yが小さくなるにつれて縦軸から離れる。
【0059】
ここで、トルクコンバータ15のサイズ例えば代表径φは、容量係数Yに基づいて定義される。代表径φは、トーラス(流体作動室)の外径である。例えば、容量係数Yは、トルクコンバータ15のサイズ例えば代表径φの5乗に、比例する。すなわち、容量係数Yは、「Y=A×(φ)」によって表現される。ここで、Aは比例係数であり、所定値に設定される。これにより、トルクコンバータ15の代表径φが小さくなると、容量係数Yは小さくなる。言い換えると、容量係数Yが小さくなると、トルクコンバータ15の代表径φが小さくなる。
【0060】
上記をまとめると、容量係数Yが小さくなるにつれて、トルクコンバータ15の代表径φが小さくなる。また、容量係数Y例えばトルクコンバータ15の代表径φが小さくなると、トルクコンバータ用の特性線TLは縦軸から離れる。
【0061】
(モータ及びトルクコンバータの関係)
図3Aに示す特性グラフにおいて、トルクコンバータ15は、第1範囲RAにおいてトルクコンバータ用の特性線TL1がモータ用の特性線MLと交差するような容量係数Y1を、有する。容量係数Y1は、トルクコンバータ15の速度比がゼロである場合の容量係数であることが好ましい。速度比は、例えば、インペラ25の回転速度に対するタービン27の回転速度の比によって、定義される。以下では、トルクコンバータ用の特性線TL1及びモータ用の特性線MLの交差点は、黒丸で示される。
【0062】
第1範囲RAは、モータ13の基底回転速度Na以上且つ第1平均回転速度N1以下である範囲に、対応する。第1平均回転速度N1は、モータ13の基底回転速度Na及びモータ13の最大回転速度Nmの平均によって、求められる。モータ13の基底回転速度Naは、トルクが一定の状態から、上記の機械出力が一定の状態に切り替わる速度である。
【0063】
ここでは、トルクコンバータ用の特性線TL1は、容量係数Y1に基づいて求められる。詳細には、第1範囲RAにおいてトルクコンバータ用の特性線TL1がモータ用の特性線MLと交差するように、容量係数Y1例えばトルクコンバータ15の代表径φ1が、決定される。
【0064】
これにより、第1範囲RAにおいてトルクコンバータ用の特性線TL1がモータ用の特性線MLと交差する場合(図3Aを参照)では、従来技術のように基底回転速度Na未満の範囲RLにおいてトルクコンバータ用の特性線TLJがモータ用の特性線MLと交差する場合(図4を参照)と比較して、トルクコンバータ用の特性線TL1は縦軸から離れる。
【0065】
すなわち、第1範囲RAにおいてトルクコンバータ用の特性線TL1がモータ用の特性線MLと交差する場合(図3Aを参照)では、従来技術のように基底回転速度Na未満の範囲RLにおいてトルクコンバータ用の特性線TLJがモータ用の特性線MLと交差する場合(図4を参照)と比較して、トルクコンバータ用の特性線TL1が縦軸から離れる。
【0066】
この場合、容量係数Y1は、従来技術の容量係数YJより小さい。すなわち、代表径φ1は、従来技術の代表径φJより小さい。このように、本動力伝達装置1では、トルクコンバータ15の小型化を図ることができる。
【0067】
なお、図3Bに示すように、トルクコンバータ15は、第2範囲RBにおいてトルクコンバータ用の特性線TL2がモータ用の特性線MLと交差するような容量係数Y2を、有していてもよい。容量係数Y2は、トルクコンバータ15の速度比がゼロである場合の容量係数であることが好ましい。
【0068】
第2範囲RBは、モータ13の基底回転速度Na以上且つ第2平均回転速度N2以下である範囲に、対応する。第2平均回転速度N2は、モータ13の基底回転速度Na及びモータ13の第1平均回転速度N1の平均によって、求められる。
【0069】
ここでは、トルクコンバータ用の特性線TL2は、容量係数Y2に基づいて求められる。詳細には、第2範囲RBにおいてトルクコンバータ用の特性線TL2がモータ用の特性線MLと交差するように、容量係数Y2例えばトルクコンバータ15の代表径φ2が、決定される。
【0070】
これにより、第2範囲RBにおいてトルクコンバータ用の特性線TL2がモータ用の特性線MLと交差する場合(図3Bを参照)では、従来技術のように基底回転速度Na未満の範囲RLにおいてトルクコンバータ用の特性線TLJがモータ用の特性線MLと交差する場合(図4を参照)と比較して、トルクコンバータ用の特性線TL2が縦軸からさらに離れる。
【0071】
この場合、容量係数Y2は、従来技術の容量係数YJより小さい。すなわち、代表径φ2は、従来技術の代表径φJより小さい。このように構成しても、本動力伝達装置1では、トルクコンバータ15の小型化を図ることができる。
【0072】
トルクコンバータ15として、図3Aに示した特性線TL1(容量係数Y1・代表径φ1)を有するトルクコンバータ15を用いるか、図3Bに示した特性線TL2(容量係数Y2・代表径φ2)を有するトルクコンバータ15を用いるかについては、モータ13の効率マップの分布に応じて、選択することが好ましい。
【0073】
図3A及び図3Bのようにトルクコンバータ用の特性線TL1,TL2をモータ用の特性線MLに交差させた場合、トルクコンバータ用の特性線TL1,TL2は、モータ13の効率マップにおける第1領域E1を、通過する。
【0074】
詳細には、トルクコンバータ用の特性線TL1,TL2それぞれは、第1範囲RA又は第2範囲RBにおいて、モータ用の特性線MLに交差した状態で、モータ13の効率マップにおける第1領域E1及び第2領域E2を、通過する。
【0075】
ここで、第1領域E1は、例えば、モータ13の効率マップにおいてモータ13の効率が85%以上である領域を、示している。第2領域E2は、モータ13の効率マップにおいてモータ13の効率が90%以上である領域を、示している。
【0076】
すなわち、トルクコンバータ用の特性線TL1,TL2それぞれが、モータ13の効率マップの第1領域E1(85%の領域)、又は効率マップの第1領域E1(85%の領域)及び第2領域E2(90%の領域)を、通過するような容量係数Y1,Y2を、トルクコンバータ15は有している。
【0077】
このように、モータ13の効率マップにおける高効率領域E1,E2(第1領域E1及び/又は第2領域E2)を、トルクコンバータ用の特性線TLに通過させることによって、モータ13を効率良く利用することができる。すなわち、トルクを動力伝達装置1から第1出力軸5へと効率良く出力することができる。
【0078】
ここで、トルクコンバータ15の容量係数は、5~30×10-6(Nm/{r/min})とすることが好ましい。このような特性を有するトルクコンバータ15を用いて、モータ13及びトルクコンバータ15を構成することによって、トルクコンバータ15の小型化を図りながら、モータ13を効率良く利用することができる。すなわち、トルクコンバータ15の小型化を図りながら、トルクを動力伝達装置1から第1出力軸5へと効率良く出力することができる。
【0079】
〔他の実施形態〕
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0080】
(A)動力伝達装置1の構成は、前記実施形態の構成に限定されず、モータ13のトルク及び回転をトルクコンバータ15に伝達することができれば、どのように構成してもよい。
【0081】
(B)前記実施形態では、回転伝達構造17がロータ22の回転を第1出力軸5に選択的に伝達する場合の例を示した。この回転伝達構造17を回転支持構造に代えて、ロータ22が駆動方向R1又は反駆動方向R2に回転する場合に、ロータ22の回転が、トルクコンバータ15を介して、第1出力軸5に伝達されてもよい。
【0082】
(C)前記実施形態では、ロックアップ構造19が遠心クラッチ31を有する場合の例を示したが、インペラ25とタービン27とを一体回転可能に連結することができれば、ロックアップ構造19はどのように構成してもよい。
【0083】
(D)前記実施形態では、トルクコンバータ用の特性線TL1,TL2が、モータ13の効率マップにおける第1領域E1及び第2領域E2の両方を通過する場合の例を、示したが、トルクコンバータ用の特性線TL1,TL2が、少なくとも第1領域E1(85%の領域)を通過するように、容量係数Y1,Y2を決定すればよい。
(E)前記実施形態では、図3A図3B、及び図4に示すように、トルクコンバータ用の特性線TL3は、モータ13の基底回転速度Naに基づいて設定される。例えば、トルクコンバータ用の特性線TL3は、モータ13の基底回転速度Na(又はモータ13の基底回転速度Naの近傍)において、モータ用の特性線MLに交差する。
この場合、基底回転速度Naは、所定の範囲DNa内に設定される。例えば、所定の範囲DNaは、1500(r/min)以上且つ3000(r/min)以下に設定されることが好ましい。具体的には、所定の範囲DNaは、2000(r/min)以上且つ2500(r/min)以下に設定されることが好ましい。
詳細には、基底回転速度Naが所定の範囲DNa内に含まれるように、モータ13が選択される。一方で、基底回転速度Naが所定の範囲DNaに含まれていないモータ13が、選択された場合、基底回転速度DNaが所定の範囲DNaに含まれるように、モータ13が調整される。
このモータ13の基底回転速度Na(又は基底回転速度Naの近傍)に基づいて、トルクコンバータ用の特性線TL3が設定される。すなわち、上記の基底回転速度Naを有するモータ13に対して、トルクコンバータ用の特性線TL3を有するトルクコンバータ15を、用意することによって、トルクコンバータ15をモータ13に好適にマッチングすることができる。すなわち、トルクコンバータ15を好適に小型化することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 動力伝達装置
13 モータ
15 トルクコンバータ
21 第1ステータ
22 ロータ
TL1,TL2 トルクコンバータ用の特性線
TLJ 従来のトルクコンバータ用の特性線
ML モータ用の特性線ML
RA 第1範囲
RB 第2範囲
E1 第1領域
E2 第2領域
Y1,Y2 容量係数
YJ 従来の容量係数
φ1,φ2 代表径
φJ 従来の代表径
図1
図2
図3A
図3B
図4