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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】ダイシング用基体フィルム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
H01L21/78 M
H01L21/78 W
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019095260
(22)【出願日】2019-05-21
(65)【公開番号】P2020191362
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150072
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 賢司
(74)【代理人】
【識別番号】100185719
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太地
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-291283(JP,A)
【文献】特開2003-080649(JP,A)
【文献】特表2006-513056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成を含むダイシング用基体フィルムであって、
A層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなり、
B層は、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、アイオノマー樹脂を90重量%~30重量%、及びポリオレフィン系樹脂を10重量%~70重量%含み、
C層は、アイオノマー樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、
B層には、A層と同じアイオノマー樹脂が使用され、A層及びB層に使用されるアイオノマー樹脂は、メルトフローレート、密度及び融点が同じである、
ダイシング用基体フィルム。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂は、分岐鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、プロピレン-α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載のダイシング用基体フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のダイシング用基体フィルムの片面に、粘着剤層を有するダイシングフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハをチップ状にダイシングする際に、半導体ウェハに貼着して固定し使用される、ダイシング用基体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを製造する方法として、半導体ウェハを予め大面積で製造し、次いでその半導体ウェハをチップ状にダイシング(切断分離)し、最後にダイシングされたチップをピックアッップする方法がある。半導体ウェハの切断方法として、近年、レーザー加工装置を用い、半導体ウェハに接触することなく半導体ウェハを切断(分断)するステルスダイシングが知られている。
【0003】
ダイシングフィルム用基材フィルムとして、特許文献1には、基材層と表面層とを含み、前記基材層は低密度ポリエチレンを含有し、前記表面層はアイオノマー樹脂を含有するダイシングフィルム用基材フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開番号WO2016/080324
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、良好なエキスパンド性を示すダイシング用基体フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。本発明者は、ダイシング用基体フィルムが、下記の少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成を含むことで、良好なエキスパンド性を示すダイシング用基体フィルムとなることを見出した。
【0007】
項1.
少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成を含むダイシング用基体フィルムであって、
A層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなり、
B層は、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、
前記樹脂組成物は、アイオノマー樹脂を90重量%~30重量%、及びポリオレフィン系樹脂を10重量%~70重量%含み、
C層は、アイオノマー樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなる、
ダイシング用基体フィルム。
【0008】
項2.
前記ポリオレフィン系樹脂は、分岐鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、プロピレン-α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記項1記載のダイシング用基体フィルム。
【0009】
項3.
前記項1又は2に記載のダイシング用基体フィルムの片面に、粘着剤層を有するダイシングフィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイシング用基体フィルムは、良好なエキスパンド性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ダイシング用基体フィルムに関する。
【0012】
本発明は、更に、ダイシング用基体フィルム上に粘着剤層とダイボンド層をこの順に設けたダイシングフィルムに関する。
【0013】
(1)ダイシング用基体フィルム
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成を含む。
【0014】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、A層は、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0015】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、B層は、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなり、前記樹脂組成物は、アイオノマー樹脂を90重量%~30重量%、及びポリオレフィン系樹脂を10重量%~70重量%含む。
【0016】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、C層は、アイオノマー樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0017】
以下、本発明のダイシング用基体フィルムを構成する各層について詳細に説明する。
【0018】
(1-1)A層
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、A層は、外面に位置する層であり、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなり、ダイシングフィルムとした場合に、粘着剤層と接する層となる。
【0019】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、A層が、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなることで、フィルム全体が均一に伸び、エキスパンド性が良好であるという効果を発揮する。本発明のダイシング用基体フィルムでは、ダイシング時の切削屑の低減という効果も発揮する。
【0020】
A層は、アイオノマー樹脂に加えて、ポリエチレン系樹脂を含んでも良い。PE系樹脂として、分岐鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、及び、エチレン-メタクリル酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を用いることができる。
【0021】
アイオノマー樹脂
アイオノマー樹脂とは、エチレン及び(メタ)アクリル酸を重合体の構成成分とする2元共重合体、或は、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルを重合体の構成成分とする3元共重合体を、金属イオンで架橋した樹脂である。
【0022】
前記金属イオンとして、好ましくは、カリウムイオン(K+)、ナトリウムイオン(Na+)、リチウムイオン(Li+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、亜鉛イオン(Zn2+)等が挙げられる。
【0023】
前記エチレン及び(メタ)アクリル酸を重合体の構成成分とする2元共重合体、若しくは、エチレン、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルを重合体の構成成分とする3元共重合体のカルボキシル基における陽イオンによる中和度は、好ましくは40 mol%~75mol%である。
【0024】
アイオノマー樹脂の融点は80℃以上であることが好ましい。これにより表面層の耐熱性が向上し、好ましい。アイオノマー樹脂の融点の上限値は特に限定されないが、実質的には100℃程度である。
【0025】
アイオノマー樹脂の、ISO 1133:2011に示される試験方法における試験温度190℃、試験荷重21.18NでのMFR(メルトフローレート)は、3g/10min以下であることが好ましい。これにより、ダイシングフィルムの切削屑発生を抑制することができる。前記アイオノマー樹脂のMFRの下限値は特に限定されないが、実質的には0.8g/10minである。
【0026】
アイオノマー樹脂の密度は930Kg/m3~960Kg/m3であることが好ましい。密度は、ISO 1183:2004に準拠して求めた値である。
【0027】
アイオノマー樹脂を構成する(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、炭素原子数が3以上~8以下であるアルキルエステルが好ましく用いられる。前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、好ましくは、具体的には、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-メチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-エチルプロピル、(メタ)アクリル酸2-メチルブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルブチル、(メタ)アクリル酸2-メチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸1,2-ジメチルブチル等が挙げられる。
【0028】
帯電防止剤
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、A層及びC層の少なくとも1つの層(層を構成する樹脂組成物)は、帯電防止剤を含んでも良い。
【0029】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、A層及びC層の少なくとも1つの層は、帯電防止剤を含むので、半導体チップを剥離する際に、剥離帯電が生じず、チップの回路が破損しないという効果を発揮する。
【0030】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、帯電防止剤として、ポリエーテルエステルアミド樹脂(PEEA樹脂)及び親水性ポリオレフィン樹脂(親水性PO樹脂)からなる群から選ばれる少なくとも1種の成分を用いることが好ましい。
【0031】
帯電防止剤の含有量は、層中(層を構成する樹脂組成物中)に、10重量%~30重量%程度好ましく、15重量%~25重量%程度がより好ましい。帯電防止剤を前記範囲で配合することにより、本発明のフィルムの特性を損なうことなく、有効に、発生する静電気を素早く除電することができる。
【0032】
ポリエステルエーテルアミド樹脂(PEEA樹脂)
ポリエーテルエステルアミド樹脂は、親水性付与の主たるユニット成分であるポリエーテルエステルと、ポリアミドユニットとから構成されるポリマーである。ポリエーテルエステルアミド樹脂は、市販されているものも用いることや、公知の方法で容易に製造することができる。
【0033】
ポリエーテルエステルアミド樹脂として、例えば、三洋化成工業株式会社のペレスタットNC6321等が例示される。また、特開昭64-45429号公報、特開平6-287547号公報には、ポリエーテルエステルアミド樹脂の製造方法が記載されている。
【0034】
ポリエーテルエステルアミド樹脂は、例えば、主鎖中にエーテル基を有するポリジオール成分にジカルボン酸成分を反応させて末端エステルに変え、これにアミノカルボン酸又はラクタムを反応させて製造することできる。本発明のダイシング用基体フィルムでは、ポリエーテルエステルアミド樹脂は、アクリル系樹脂との相溶性が良く、ブリードアウトするような現象は一切ないことから、好ましく用いることができる。
【0035】
親水性ポリオレフィン樹脂(ポリエーテル/ポリオレフィンブロック共重合体)
本発明のダイシング用基体フィルムでは、親水性PO樹脂(ポリエーテル/ポリオレフィンブロック共重合体)として、例えば、親水性ポリエチレン(親水性PE)、親水性ポリプロピレン(親水性PP)等を、少なくとも1種の成分を、好ましく用いることができる。
【0036】
親水性PE及び親水性PP樹脂は、基本的にはポリエチレン鎖又はポリプロピレン鎖とポリオキシアルキレン鎖とがブロック結合したものである。親水性PE及び親水性PPは、高い除電作用が発揮されるので、静電気の蓄積をなくすことができる。前記ブロック結合は、エステル基、アミド基、エーテル基、ウレタン基等によって行われている。本発明のダイシング用基体フィルムでは、フィルム樹脂との相溶性の点から、前記ブロック結合は、エステル基又はエーテル基であることが好ましい。
【0037】
ポリエーテル/ポリオレフィンブロック共重合体として、例えば、三洋化成工業株式会社のペレスタット、ペレクトロン等が例示される。
【0038】
(1-2)B層
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、B層は、所謂、中心層であり、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0039】
本発明のダイシング用基体フィルムでは、B層が、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂(PO樹脂)を含む樹脂組成物からなることで、フィルム全体が均一に伸び、エキスパンド性が良好であるという効果を発揮する。本発明のダイシング用基体フィルムでは、ヒートシュリンク性が良好であるという効果も発揮する。
【0040】
アイオノマー樹脂は、前記A層で使用するアイオノマー樹脂を用いることができる。
【0041】
ポリオレフィン系樹脂
ポリオレフィン系樹脂としては、好ましくは、例えば、分岐鎖状低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン共重合体等が例示され、1種類を用いることや、又は2種類以上を適宜組合せて用いることができる。
【0042】
前記α-オレフィンとしては、好ましくは、炭素数2以上(但し、炭素数3は除く)のα-オレフィンを挙げることができ、より好ましくは、例えば、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン等が例示できる。これらのα-オレフィンは、前記成分の中から、1種類を用いることや、又は2種類以上を適宜組合せて用いることができる。
【0043】
ポリオレフィン系樹脂としては、中でも、分岐鎖状低密度ポリエチレン及び/又は直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0044】
分岐鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンを重合して得られた熱可塑性樹脂である。分岐鎖状低密度ポリエチレンの数平均分子量は、10,000~1,000,000程度が好ましく、50,000~500,000程度がより好ましい。分岐鎖状低密度ポリエチレンの数平均分子量を10,000程度以上とすることで、フィルムへの成形がより良好である。一方、分岐鎖状低密度ポリエチレンの数平均分子量を1,000,000程度以下とすることで、樹脂の押出し成形がより良好となる。
【0045】
分岐鎖状低密度ポリエチレンの密度は、915Kg/m3~935Kg/m3程度が好ましく、917Kg/m3~935Kg/m3程度がより好ましい。密度はISO 1183-1:2004に準拠して求めたものである。
【0046】
分岐鎖状低密度ポリエチレンの融点は、100℃~130℃程度が好ましい。
【0047】
分岐鎖状低密度ポリエチレンのISO 1133:2011に準拠した温度190℃、荷重21.18Nで測定したMFR(メルトフローレート)は、0.3g/10分~20g/10分程度が好ましく、0.5g/10分~10g/10分程度がより好ましい。分岐鎖状低密度ポリエチレンのMFRを上記範囲とすることで、安定した製膜が可能となる。
【0048】
直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンとα-オレフィンとの共重合体であり、α-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が例示できる。
【0049】
直鎖状低密度ポリエチレンの数平均分子量は、10,000~1,000,000程度が好ましく、50,000~500,000程度がより好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンの数平均分子量を10,000程度以上とすることで、フィルムへの成形がより良好である。一方、低密度ポリエチレンの数平均分子量を1,000,000程度以下とすることで、樹脂の押出し成形より良好となる。
【0050】
直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、880Kg/m3~940Kg/m3程度が好ましく、900Kg/m3~935Kg/m3程度がより好ましい。密度はISO 1183-1:2004に準拠して求めたものである。
【0051】
直鎖状低密度ポリエチレンの融点は、100℃~130℃程度が好ましい。
【0052】
直鎖状低密度ポリエチレンのISO 1133:2011に準拠した温度190℃、荷重21.18Nで測定したMFR(メルトフローレート)は、0.3g/10分~20g/10分程度が好ましく、0.5g/10分~10g/10分程度がより好ましい。直鎖状低密度ポリエチレンのMFRを上記範囲とすることで、安定した製膜が可能となる。
【0053】
B層の樹脂組成
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、B層は、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含み、アイオノマー樹脂を90重量%~30重量%含み、及びポリオレフィン系樹脂を10重量%~70重量%含む樹脂組成物からなる。B層は、アイオノマー樹脂を75重量%~35重量%含み、及びポリオレフィン系樹脂を25重量%~65重量%含む樹脂組成物からなることが好ましい。
【0054】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、B層に含まれるアイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を、前記範囲の配合組成とすることにより、樹脂の押出し成形がより良好であること、フィルムへの成形がより良好であること、安定した製膜が可能となること等の効果を発揮する。
【0055】
(1-3)C層
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、C層は、B層を挟んでA層の反対面に位置する。C層は、アイオノマー樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなる。
【0056】
アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂は、前記A層及びB層で使用するアイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を用いることができる。
【0057】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、C層は、エキスパンドリングと接する面であり、C層を構成する樹脂組成物として、アイオノマー樹脂又はポリオレフィン系樹脂を含むことで、エキスパンドリングとの良好な滑り性を得ることができ好ましい。
【0058】
(1-4)ダイシング用基体フィルムの層構成
本発明のダイシング用基体フィルムは、少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成を含む。
【0059】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、A層は、表面に位置する層であり(表面層)、アイオノマー樹脂を含む樹脂組成物からなる。A層及びC層の少なくとも1つの層(層を構成する樹脂組成物)は、帯電防止剤を含んでも良い。
【0060】
本発明のダイシング用基体フィルムの全体の厚さとしては、20μm~300μm程度が好ましく、30μm~250μm程度がより好ましく、40μm~220μm程度が更に好ましい。ダイシング用基体フィルムの全体の厚さを20μm以上に設定することにより、半導体ウェハをダイシングする際に、半導体ウェハを衝撃から保護することが可能となる。
【0061】
ダイシング用基体フィルムの具体例として、その全厚さが20μm~150μm程度の場合を説明する。
【0062】
A層の厚さは、2μm~100μm程度が好ましく、5μm~75μm程度がより好ましく、8μm~50μm程度がさらに好ましい。
【0063】
B層の厚さは、7μm~100μm程度が好ましく、10μm~75μm程度がより好ましく、13μm~50μm程度がさらに好ましい。
【0064】
C層の厚さは、2μm~100μm程度が好ましく、5μm~75μm程度がより好ましく、8μm~50μm程度がさらに好ましい。
【0065】
(2)ダイシング用基体フィルムの製法
本発明において、少なくともA層/B層/C層の順に積層された3層構成のダイシング用基体フィルムは、A層、B層、及びC層の各層に用いる樹脂組成物を多層共押出成形して製造することができる。具体的には、各層を形成するための樹脂組成物を、A層/B層/C層の順に積層されるよう共押出成形することにより製造することができる。
【0066】
本発明において、ダイシング用基体フィルムのA層は、表面に位置する層である。
【0067】
上記した各層用樹脂を、夫々この順でスクリュー式押出機に供給し、180~240℃で多層Tダイからフィルム状に押出し、これを30~70℃の冷却ロ-ルに通しながら冷却して、実質的に無延伸で引き取る。或いは、各層用樹脂を一旦ペレットとして取得した後、上記の様に押出成形してもよい。
【0068】
引き取りの際に実質的に無延伸とするのは、ダイシング後に行うフィルムの拡張を有効に行う利点がある為である。この実質的に無延伸とは、無延伸、或いは、ダイシングフィルムの拡張に悪影響を与えない程度の僅少の延伸を含むものである。通常、フィルム引き取りの際に、たるみの生じない程度の引っ張りであれば良い。
【0069】
(3)ダイシングフィルムの製造
本発明のダイシングフィルムは、周知の技術に沿って製造することができる。例えば、粘着剤層を構成する粘着剤を有機溶剤等の溶媒に溶解させ、これをダイシング用基体フィルム上に塗布し、溶媒を除去することにより基体フィルム/粘着剤層の構成のフィルムを得ることができる。
【実施例
【0070】
以下に、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(1)ダイシング用基体フィルムの原料
表1にダイシング用基体フィルムの原料を示した。
【0072】
【表1】
【0073】
[略称の説明]
IO:アイオノマー樹脂
PO:ポリオレフィン系樹脂(分岐鎖状低密度ポリエチレン)
【0074】
(2)A層/B層/C層のダイシング用基体フィルムの製造
表2に記載のA層/B層/C層(3層)となるように、各成分及び組成で樹脂組成物を配合し、ダイシング用基体フィルムを作製した。
【0075】
各層を構成する樹脂組成物を、220℃に調整された夫々の押出機に投入しA層/B層/C層の順序になるように、220℃のTダイスにより押出し、積層し、30℃の冷却水が循環するチルロール上に共押出しせしめて、フラット状の3層フィルムを得た。
【0076】
【表2】
【0077】
(3)ダイシング用基体フィルムの評価
(3-1)層間剥離強度
<評価方法>
実施例及び比較例で得られたフィルムを、長さ150mm×幅10mm(長さ方向がMD方向)の短冊状にカットし試験用サンプルとした。得られた測定用サンプルを、離着性強度試験機(新東科学社製 HEIDON TYPE17)を用い、引張速度200mm/minで、フィルムのA層とB層間との層間剥離強度を測定した。なお、層間剥離強度は4回測定し、その平均値を算出し、以下の基準で評価した。
【0078】
<評価基準>
○:0.4N/10mm以上である。
【0079】
×:0.4N/10mm未満である。
【0080】
(3-2)均一エキスパンド性
<評価方法>
実施例及び比較例で得られたフィルムを、長さ120mm×幅10mmの短冊状にカットし測定用サンプルとした。測定用サンプルをストログラフVE1D(東洋精機製作所製)に標線間間距離40mmでセットし、引張読度200mm/minで引張試験を行い、応力-歪み曲線を得た。得られた応力-歪み曲線から、伸び率30%における応力値を読取った。測定はMD方向及びTD方向の両方向についてそれぞれ5回行い、夫々の平均値を、30%伸長時の応力値とし、応力比(MD/TD)を求めた。
【0081】
<評価基準>
〇:応力比(MD/TD)が1.5未満である。
【0082】
×:応力比(MD/TD)が1.5以上である。
【0083】
【表3】
【0084】
本発明のダイシング用基体フィルムにおいて、B層は、中心層であり、アイオノマー樹脂及びポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物からなることで、フィルム全体が均一に伸び、エキスパンド性が良好である共に、フィルムのA層とB層間との層間剥離強度が良好であるという効果を発揮した。
【0085】
本発明のダイシング用基体フィルムは、良好なエキスパンド性を示すと共にフィルムの層間剥離強度が良好であると評価できる。