(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボの製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/06 20060101AFI20230807BHJP
C03B 20/00 20060101ALI20230807BHJP
C30B 15/10 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C30B29/06 502B
C03B20/00 H
C30B15/10
(21)【出願番号】P 2019104368
(22)【出願日】2019-06-04
【審査請求日】2021-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127287(JP,A)
【文献】特開平07-053295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/06
C03B 20/00
C30B 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するモールド内に積層された石英ガラスの原料粉末をアーク放電によって加熱溶融し、その後、冷却することによって製造される、少なくとも合成シリカガラス層と天然シリカガラス層を備える石英ガラスルツボの製造方法において、
前記モールドの表面に、天然シリカガラスからなる第1原料粉末を積層
し、前記第1原料粉末はメッシュ値が80未満の粒度である第1積層工程と、
前記第1原料粉末層の表面に、前記第1原料粉末よりも粒度が細かい天然シリカガラスからなる第2原料粉末を積層
し、前記第2原料粉末はメッシュ値が80以上200未満の粒度である第2積層工程と、
前記第2原料粉末層の表面に、合成シリカガラスからなる第3原料粉末を積層する第3積層工程と、
前記第3原料粉末層から前記第1原料粉末の層の一部までをアーク放電によって加熱溶融し、その後冷却し、少なくとも、第3原料粉末の合成シリカガラス層と前記第2原料粉末の天然シリカガラス層を形成する、溶融・冷却工程と、
を含
み、
前記第1積層工程では、前記第1原料粉末を石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置まで積層することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項2】
前記第1原料粉末は、メッシュ値が
60以上80未満の粒度であることを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項3】
前記第2原料粉末は、メッシュ値が80以上
150未満の粒度であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
前記溶融・冷却工程の後、石英ガラスルツボの外周面に付着した、前記第1原料粉末層の未溶融粉末を除去する工程が含まれることを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれかに記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の引上げにおいて用いられる石英ガラスルツボの製造方法に関し、特に、外形寸法のばらつきを抑制することができる石英ガラスルツボの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の製造においては、チョクラルスキー法が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ内に収容された原料シリコン融液の表面に種結晶を接触させ、石英ガラスルツボを回転させるとともに、種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引上げることにより、種結晶の下端に単結晶インゴットを育成していくものである。
この原料シリコン融液を収容するための石英ガラスルツボには、熱性に優れた天然シリカガラスにより形成された外側層と、高純度の合成シリカガラスにより形成された内側層とを有する2層構造の石英ガラスルツボが用いられるのが一般的である。
【0003】
このような石英ガラスルツボの製造方法の例として、回転モールド法が知られている。
この回転モールド法では、回転するルツボ成型用モールドの側壁及び底面に、合成シリカガラスおよび天然シリカガラスの原料粉末の夫々を遠心力で積層形成し、これを石英ガラスルツボの内側からアーク放電で加熱溶融した後、冷却することにより、合成シリカガラス層および天然シリカガラス層が形成される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、石英ガラスルツボは、シリコン単結晶の製造時に、別のカーボンルツボにはめ込まれた状態で使用されるため、石英ガラスルツボの外形寸法は高精度で形成することが求められている。
【0006】
しかしながら、回転モールド法では石英ガラスルツボの内側から加熱溶融することにより、合成シリカガラス層および天然シリカガラス層が形成されるため、石英ガラスルツボの径方向(厚さ方向)の溶融度合いによって、石英ガラスルツボの外形寸法にはバラツキが生じるという技術的課題があった。
【0007】
本発明者は、上記技術的課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、石英ガラスルツボの外形寸法にバラツキが生じるのは、アーク放電の加熱溶融時間のバラツキや、原料粉末の熱分布のバラツキなどによって、石英ガラスルツボの内側から溶融される厚みにバラツキが生じることに起因することを知見した。
【0008】
そして、本発明者は、石英ガラスルツボの内側から溶融される厚みのバラツキを抑制する方法として、ルツボ成型用モールドの表面を高精度に作製し、ルツボ成型用モールドの表面に接する原料粉末まで溶融することで、ルツボの外形寸法の精度の向上を図ることを考えた。
しかしながら、ルツボ成型用モールドの表面に接する原料粉末まで溶融した際、ルツボ成型用モールドまで高温に晒されることになり、ルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボへ不純物が拡散し、またルツボ成型用モールドが損傷する等、新たな課題を招来させるものであった。
【0009】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、ルツボ成型用モールドを保護し、またルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボへ不純物の拡散を抑制し、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できる石英ガラスルツボの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法は、回転するモールド内に積層された石英ガラスの原料粉末をアーク放電によって加熱溶融し、その後、冷却することによって製造される、少なくとも合成シリカガラス層と天然シリカガラス層を備える石英ガラスルツボの製造方法において、前記モールドの表面に、天然シリカガラスからなる第1原料粉末を積層する第1積層工程と、前記第1原料粉末層の表面に、前記第1原料粉末よりも粒度が細かい天然シリカガラスからなる第2原料粉末を積層する第2積層工程と、前記第2原料粉末層の表面に、合成シリカガラスからなる第3原料粉末を積層する第3積層工程と、前記第3原料粉末層から前記第1原料粉末の層の一部までをアーク放電によって加熱溶融し、その後冷却し、少なくとも、第3原料粉末の合成シリカガラス層と前記第2原料粉末の天然シリカガラス層を形成する、溶融・冷却工程と、を含むことを特徴としている。
【0011】
本発明に係る石英ガラスルツボの製造方法では、第3原料粉末層から第1原料粉末の層の一部までをアーク放電によって加熱溶融する際、第1原料粉末が第2原料粉末よりも粒度が粗い(第2原料粉末が第1原料粉末よりも粒度が細かい)ため、第1原料粉末層と第2原料粉末層との境界で、溶融の進行速度が遅くなる。
その結果、アーク放電の加熱溶融時間のバラツキ、原料粉末の熱分布のバラツキ等の作業条件のバラツキ、原料粉末のバラツキを吸収することができ、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できる。
また、第1原料粉末層が形成されているため、ルツボ成型用モールドを保護し、またルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボへ不純物の拡散を抑制することができる。
【0012】
ここで、前記第1原料粉末は、メッシュ値が80未満の粒度であることが望ましく、また、前記第2原料粉末は、メッシュ値が80以上200未満の粒度であることが望ましい。
前記第1原料粉末は、メッシュ値が35以上70未満の粒度であることがより望ましく、50以上70未満の粒度であることが更に望ましい。
【0013】
また、前記第1積層工程では、前記第1原料粉末を石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置まで積層することが望ましい。
このように積層することにより、石英ガラスルツボの外形寸法の設計値を超えた位置で溶融の進行が遅くなるため、外形寸法が設計値に近い石英ガラスルツボを得ることができる。
【0014】
更に、前記溶融・冷却工程の後、石英ガラスルツボの外周面に付着した、前記第1原料粉末層の未溶融粉末を除去する工程が含まれることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ルツボ成型用モールドを保護し、またルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボへ不純物の拡散を抑制し、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できる石英ガラスルツボの製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法に用いる製造装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法の手順を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1積層工程の状態を示す図である。
【
図4】
図4は、第2積層工程の状態を示す図である。
【
図5】
図5は、第3積層工程の状態を示す図である。
【
図6】
図6は、アーク放電による加熱溶融の状態を示す図である。
【
図7】
図7は、アーク放電による加熱溶融の状態を示す模式図であって、(a)第1原料粉末が積層されていない場合、(b)第1原料粉末が積層されている場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法につき、
図1乃至
図7に基づいて説明する。ただし、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボが以下で説明する実施形態に限定されるものではない。添付の図面は模式的なものであり、各要素の寸法や比率などが実際と異なる場合がある。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法に用いる製造装置の概略構成を示す図である。図に示すように、この製造装置10は、ルツボ成型用モールド11を備えており、ルツボ成型用モールド11は、原料粉末層が形成される内側部材12と、内側部材12を保持する保持体14とを備えている。また、ルツボ成型用モールド11は、回転軸15を矢印方向に回転可能に構成されている。
【0019】
前記内側部材12は、例えば、多数の貫通孔が設けられた金型、もしくは高純化した多孔質カーボン型などのガス透過性部材で構成されている。
また、前記内側部材12と保持体14との間には、前記貫通孔(多孔質の孔)が連通する通気路13が形成されている。この通気路13は吸引部16および排気路17を介して、ポンプ等の減圧機構18に接続されている。
【0020】
この製造装置10は、ルツボ成型用モールド11の上方に一対のアーク電極19と、第1原料粉末供給ノズル20と、第2原料粉末供給ノズル21と、第3原料粉末供給ノズル22とを備えている。
前記アーク電極19は、ルツボ成型用モールド11内に積層された石英ガラスの原料粉末を加熱溶融するためのものであり、例えばカーボン電極が用いられる。
【0021】
第1原料粉末供給ノズル20は、天然シリカガラスからなる第1原料粉末をルツボ成型用モールド11内に供給するためのものである。また、第2原料粉末供給ノズル21は、天然シリカガラスからなる第2原料粉末をルツボ成型用モールド11内に供給するためのものである。
前記第1原料粉末および第2原料粉末は、どちらも天然シリカガラスからなる粉末であるが、第1原料粉末の方が第2原料粉末よりも粒度が粗い(大きい)。
また、第3原料粉末供給ノズル22は、合成シリカからなる第3原料粉末をルツボ成型用モールド11内に供給するためのものである。
【0022】
例えば、第1原料粉末は、メッシュ値が60以上80未満の粒度とし、第2原料粉末は、メッシュ値が80以上200未満の粒度とする。
ここで、メッシュ値とは、ふるいの目開きの大きさで粒度を示す値であり、1インチ当たりの網目数を示している。したがって、例えばメッシュ値が60以上80未満の粉末は、メッシュ値が60(公称目開き250μm)のふるいを通過し、メッシュ値が80(公称目開き180μm)を通過しない粉末として得ることができる。
【0023】
本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法は、これら3種類の原料粉末を順次積層し、アーク放電によって加熱溶融することで石英ガラスルツボを製造する。
図2は、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法の手順を示すフローチャートである。
図3から
図6は、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法の各工程を示す図である。
【0024】
図2に示すように、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法は、第1積層工程にてルツボ成型用モールド11の表面に天然シリカガラスからなる第1原料粉末2を積層する(ステップS1)。
【0025】
図3に示すように、第1積層工程では、第1原料粉末供給ノズル20から第1原料粉末2が供給される。
第1原料粉末供給ノズル20から供給される第1原料粉末2は、回転するルツボ成型用モールド11の遠心力および内側部材12を介した減圧機構18の吸引などその他の成型手段によって崩落しない程度の固さでルツボ成型用モールド11の表面に積層される。
具体的には、第1原料粉末2を石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置まで積層することが好ましい。
【0026】
次に、第2積層工程にて第1原料粉末2の層(第1原料粉末層)の表面に天然シリカガラスからなる第2原料粉末3を積層する(ステップS2)。
図4に示すように、この第2積層工程では、第2原料粉末供給ノズル21から第2原料粉末3が供給される。第2原料粉末供給ノズル21から供給される第2原料粉末3は、回転するルツボ成型用モールド11の遠心力および内側部材12を介した減圧機構18の吸引などその他の成型手段によって崩落しない程度の固さで第1原料粉末2の層の表面に積層される。
【0027】
前記第1原料粉末2及び前記第2原料粉末3は、どちらも天然シリカガラスからなる粉末であるが、第2原料粉末3は第1原料粉末2よりも粒度が細かい。
【0028】
続いて、
図2に示すように、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法は、第3積層工程にて第2原料粉末3の層(第2原料粉末層)の表面に合成シリカガラスからなる第3原料粉末4を積層する(ステップS3)。
図5に示すように、この第3積層工程では、第3原料粉末供給ノズル22から第3原料粉末4が供給される。第3原料粉末供給ノズル22から供給される第3原料粉末4は、回転するルツボ成型用モールド11の遠心力および内側部材12を介した減圧機構18の吸引などその他の成型手段によって崩落しない程度の固さで第2原料粉末3の層の表面に積層される。
【0029】
前記第3原料粉末4は、第1原料粉末2および第2原料粉末3とは異なり、合成シリカガラスからなる。
ここで、天然シリカガラスとは、水晶等の天然質原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味し、合成シリカガラスとは、例えばシリコンアルコキシドの加水分解により合成された合成原料を溶融して製造されるシリカガラスを意味する。
完成後の石英ガラスルツボにおいて、第3原料粉末4から形成される合成シリカガラス層は最内面となるため、不純物が少ない第3原料粉末4(合成シリカ粉末)が用いられる。
【0030】
更に、
図2に示すように、溶融工程にて、第3原料粉末4の層(第3原料粉末層)から、第2原料粉末3の層と第1原料粉末2の層の界面(設計値)あるいは第1原料粉末2の層の一部まで溶融する(ステップS4)。
図6に示すように、溶融工程では、アーク電極19を用いたアーク放電の発熱によって、ルツボ成型用モールド11の内側から第3原料粉末4の層を加熱し、積層された原料粉末の層を順次加熱溶融する。
このとき、アーク放電による加熱時間は、少なくとも、第2原料粉末3の層と第1原料粉末2の層の界面(設計値)まで溶融する時間とする。即ち、第3原料粉末の層から第1原料粉末の層の一部までが溶融する時間とする。
【0031】
上記したように、第1原料粉末2の層を形成し、第2原料粉末3の層と第1原料粉末2の層の界面(設計値)あるいは第1原料粉末2の層の一部まで溶融するため、第1原料粉末2の層を形成しない場合に比べて、ルツボ成型用モールド(内側部材)の表面が高温に晒されるのが抑制され、ツボ成型用モールドの損傷が抑制される。
また、ルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボ(第2原料粉末3の層)へ不純物が拡散するのを抑制できる。
【0032】
その後、冷却(ステップS5)や適切な後処理(ステップS6)を行うことによって、本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法が完了する。
尚、前記後処理(ステップS6)として、前記冷却工程(ステップS5)の後、石英ガラスルツボの外周面に付着した、前記第1原料粉末層の未溶融粉末を除去するのが好ましい。
具体的には、石英ガラスルツボの外周面に付着した、前記第1原料粉末層の未溶融粉末を石英粉あるいは氷を含む、高圧の空気あるいは水を吹き付けることで除去する。
【0033】
次に、前記第1原料粉末2の層を形成した上で、第2原料粉末3の層、第2原料粉末3の層を溶融、冷却して、石英ガラスルツボを製造することによって、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できることを、
図7に基づいて説明する。
尚、
図7は、アーク放電による加熱溶融の状態を示す模式図であって、(a)第1原料粉末が積層されていない場合(従来の方法)、(b)第1原料粉末が積層されている場合(本発明にかかる方法)を示している。
【0034】
図7(a)に示すように、ルツボ成型用モールド11の表面の上に第2原料粉末3と第3原料粉末4が積層されている場合には、第2原料粉末3は、石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dを含んで積層される。
そして、第3原料粉末4から、第2原料粉末3における石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dまで溶融し、石英ガラスルツボを製造する。
このとき、作業者による、アーク放電(アーク電極19)からの加熱時間のバラツキ、また第2原料粉末3のバラツキ(原料粉末のバラツキ)による溶け易さの差などによって、溶融範囲のバラツキが生じ、例えば図中R1領域のように、設計値を超えて溶融し、石英ガラスルツボの外形寸法にバラツキが生じる。
【0035】
特に、第2原料粉末3が、石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dを含んで積層されているため、石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dの内側及び外側は、同一の第2原料粉末3が存在する。
そのため、石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dの内側及び外側の溶融速度(溶融の進行度)は同じであり、僅かな加熱時間のバラツキが、石英ガラスルツボの外形寸法のバラツキの原因になる。
【0036】
一方、
図7(a)に示すように、ルツボ成型用モールド11の表面の上に第1原料粉末2と第2原料粉末3と第3原料粉末4が積層され、第2原料粉末3が第1原料粉末2よりも粒度が細かい場合には、第1原料粉末2は、第2原料粉末3よりも溶け難い。
即ち、第1原料粉末2の溶融速度(溶融の進行度)は、第2原料粉末3溶融速度(溶融の進行度)よりも遅いため、加熱時間にバラツキが生じても、第1原料粉末2が溶融する度合いは小さい。
【0037】
したがって、第1原料粉末2を石英ガラスルツボの外形寸法の設計値に相当する位置Dまで積層すれば、設計値を超える溶融はその進行が遅くなるため、図中R2領域のように、設計値を超える溶融を抑制でき、石英ガラスルツボの外形寸法にバラツキを抑制することができる。
【0038】
次に、第1原料粉末の粒度が石英ガラスルツボの外形寸法に与える影響について実験を行った。
実験条件:
第1原料粉末の粒度を、メッシュ値が#60以上80未満(実施例)、メッシュ値が#80以上150未満(参考例)とし、第1原料粉末を7mm積層した。また、前記第1原料粉末層の上に、粒度(メッシュ値)#80以上150未満の第2原料粉末を21mm積層した。また、前記第2原料粉末層の上に、粒度(メッシュ値)#40以上325以下の第3原料粉末を2.5mm積層し、成形体を得た。
【0039】
また、実施例、参考例共に、同一作業条件下において第3原料粉末、第2原料粉末を溶融し、その後に冷却し、石英ガラスルツボを製造した。そして、直胴部における外径を測定した。この時、第2原料粉と第3原料粉のみが溶融された場合の外径は809mmとなる。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
上記表1の標準偏差は、ルツボ外形寸法(実施例5個、参考例5個の)それぞれの標準偏差を示している。
【0041】
上記表から解るように、メッシュ値が#80以上150未満である原料粉末の場合の溶融後の外径を基準にすると、メッシュ値が#60以上80未満の原料粉末の場合は、平均0.3mm(811.3-811.0)溶融の進行度が遅く、溶融のばらつきは標準偏差から55%(0.072/0.130)抑制されているとわかる。
同じ溶融条件でも外径の狙い値809mmを超えた外径を基準として、メッシュ値が#60以上80未満である原料粉末は、メッシュ値が#80以上150未満である原料粉末よりも、溶融の進行速度が遅い。
よって、第1原料粉末を第2原料粉末よりも粗いものとすれば、第1原料粉末の層と第2原料粉末の層との境界で溶融の進行速度が遅くなるので、作業条件、原料粉末のバラツキを吸収し、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できる。
【0042】
以上のように本発明の実施形態に係る石英ガラスルツボの製造方法によれば、石英ガラスルツボの外形寸法のばらつきを抑制できる石英ガラスルツボの製造方法を得ることができる。
また、第2原料粉末とルツボ成型用モールド(内側部材)の間に、第1原料粉末が存在することにより、ルツボ成型用モールド(内側部材)を保護でき、またルツボ成型用モールドから石英ガラスルツボへ不純物の拡散を抑制することができる。
【0043】
なお、上記実施形態の説明では天然シリカガラスからなる層と合成シリカからなる層との2層構造の石英ガラスルツボの製造方法を用いたが、本発明の実施は2層構造の石英ガラスルツボに限らず、別途の中間層を備える多層構造の石英ガラスルツボの製造方法にも適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
2 第1原料粉末
3 第2原料粉末
4 第3原料粉末
10 製造装置
11 ルツボ成型用モールド
12 内側部材
13 通気路
14 保持体
15 回転軸
16 吸引部
17 排気路
18 減圧機構
19 アーク電極
20 第1原料粉末供給ノズル
21 第2原料粉末供給ノズル
22 第3原料粉末供給ノズル