IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝電機サービス株式会社の特許一覧

特許7326038部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム
<>
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図1
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図2
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図3
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図4
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図5
  • 特許-部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20230807BHJP
【FI】
G01R31/12 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019112597
(22)【出願日】2019-06-18
(65)【公開番号】P2020204550
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】鷹箸 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇介
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(72)【発明者】
【氏名】宮内 康寿
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-032240(JP,A)
【文献】特開昭58-153183(JP,A)
【文献】特開2008-215864(JP,A)
【文献】国際公開第2019/020225(WO,A1)
【文献】特表2020-528141(JP,A)
【文献】特開昭60-203866(JP,A)
【文献】特開平06-011535(JP,A)
【文献】特開平08-094682(JP,A)
【文献】特開2000-206213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の電気機器から発生した部分放電に関する電気信号の極性を決定する極性決定部と、
前記極性を決定された前記電気信号の波形に基づいて、前記電気信号に関する特徴情報を取得する特徴情報取得部と、
前記特徴情報に基づいて前記電気機器の状態を診断する診断部と、
を備え、
前記特徴情報取得部は、前記電気信号の放電エネルギーを極性毎に算出し、算出された前記放電エネルギーの強度比を前記特徴情報として取得する、
部分放電診断装置。
【請求項2】
前記極性決定部は、前記電気信号の立ち上がり時点の前記電気機器の運転電圧の位相に基づいて、前記電気信号の極性を決定する、
請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項3】
前記極性決定部は、前記電気信号の第1波の波形に基づいて、前記電気信号の極性を決定する、
請求項1に記載の部分放電診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記特徴情報に基づいて前記電気機器における前記部分放電の進展度を診断する
請求項1から3のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項5】
前記診断部は、前記特徴情報と特徴情報に対応付けされた電気機器の状態とに基づいて、前記診断対象の電気機器の状態を診断する
請求項1から4のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項6】
前記診断部は、前記特徴情報と特徴情報に対応付けされた放電源の種類とに基づいて、前記診断対象の電気機器の状態を診断する
請求項1から5のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項7】
前記診断部は、複数のタイミングで取得された前記特徴情報の経時変化に基づいて、前記診断対象の電気機器の状態を診断する
請求項1から6のいずれか一項に記載の部分放電診断装置。
【請求項8】
部分放電診断装置が、診断対象の電気機器から発生した部分放電に関する電気信号の極性を決定する極性決定ステップと、
部分放電診断装置が、前記極性を決定された前記電気信号の波形に基づいて、前記電気信号に関する特徴情報を取得する特徴情報取得ステップと、
部分放電診断装置が、前記特徴情報に基づいて前記電気機器の状態を診断する診断ステップと、
を有し、
前記特徴情報取得ステップでは、前記電気信号の放電エネルギーを極性毎に算出し、算出された前記放電エネルギーの強度比を前記特徴情報として取得する、
部分放電診断方法。
【請求項9】
診断対象の電気機器から発生した部分放電に関する電気信号の極性を決定する極性決定部と、
前記極性を決定された前記電気信号の波形に基づいて、前記電気信号に関する特徴情報を取得する特徴情報取得部と、
前記特徴情報に基づいて前記電気機器の状態を診断する診断部と、
を備え
前記特徴情報取得部は、前記電気信号の放電エネルギーを極性毎に算出し、算出された前記放電エネルギーの強度比を前記特徴情報として取得する
部分放電診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の部分放電診断装置は、センサや電極等によって検出された部分放電信号から放電発生頻度n、放電電荷量q、放電発生位相φ等のパラメータを取得する。部分放電診断装置は、取得されたパラメータの分布(例えば、φ-q分布やφ-q-n分布)に基づいて部分放電の診断を行う。しかしながら、このような診断手法では、診断者には高度な知識及び豊富な経験が求められる。このため、知識及び経験に乏しい診断者にとって、診断することが難しい場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-34696号公報
【文献】特開2005-128699号公報
【文献】特開2017-156239号公報
【文献】特開2011-33538号公報
【文献】特開2009-180747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、より簡単に電気機器の部分放電を診断することができる部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の部分放電診断装置は、極性決定部と、特徴情報取得部と、診断部とを持つ。極性決定部は、診断対象の電気機器から発生した部分放電に関する電気信号の波形に基づいて、前記電気信号の極性を決定する。特徴情報取得部は、前記極性を決定された前記電気信号の波形に基づいて、前記電気信号に関する特徴情報を取得する。診断部は、前記特徴情報に基づいて前記電気機器の状態を診断する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の部分放電診断装置100を用いて、列盤された箱体の内部からの部分放電を検出するための構成を示す概略図。
図2】実施形態の部分放電診断装置100の機能構成を表す機能ブロック図。
図3】実施形態の運転電圧に応じたパルス波形の立ち上がりに関するグラフ。
図4】実施形態の部分放電の進展に伴う電荷量の差を表す図。
図5】実施形態の部分放電信号の経年変化の一具体例を示す散布図。
図6】実施形態の部分放電の診断の処理の流れの一具体例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の部分放電診断装置、部分放電診断方法及び部分放電診断システムを、図面を参照して説明する。
【0008】
図1は、実施形態の部分放電診断装置100を用いて、列盤された箱体の内部からの部分放電を検出するための構成を示す概略図である。図1では、列盤されたn個(nは、2以上の整数)の箱体10a、10b、・・・、10nを用いて構成される。これらn個の箱体10a、10b、・・・、10nは、ほぼ直線状に配置される。これらの箱体10a、10b、・・・、10nには、電気機器に電力を供給する所定の電源系統が設けられる。各々の箱体10は、スイッチギヤ等の電気機器を収納可能な箱である。箱体10a、10b、・・・、10nは、例えば遮断器や主回路導体等の電気機器をそれぞれ収納する。電気機器は、経年劣化等によって部分放電を発生させる。箱体10a、10b、・・・、10nの正面には、電極110a、110b、・・・、110nが接触するように固定される。以下、いずれの箱体であるかを区別しないときは、単に箱体10と称して説明する。以下、いずれの電極であるかを区別しないときは、単に電極110と称して説明する。
【0009】
電極110は、箱体10の表面電位を検出する。電極110は、検出された表面電位を電気信号として部分放電診断装置100に出力する。電極110は、例えば箱体10に半恒久的に接触する状態で設けられていてもよい。電極110は、例えば検査員等が箱体10からの部分放電の有無を判定する作業を行う間だけ一時的に箱体10に接触する形態でもよい。なお、図1に示される構成では1つの電極110が、箱体10に設けられているが、複数の電極110が1つの箱体10に設けられてもよい。1つの箱体10に複数の電極110が設けられることで、部分放電診断装置100は、より高い精度で箱体10の表面電位を検出できる。このため、部分放電診断装置100は、より高い精度で電気機器の状態を診断できる。
【0010】
箱体10の下部には、共通の接地母線20が配設されている。接地母線20は、接地極30に接続されている。箱体10は、正面板、天井板、背面板、床板、側面板を含んで構成される。これら正面板、天井板、背面板、床板、側面板を、箱体10を構成する構成板と総称する。図1に示される例では電極110は正面板に接触固定されているが、電極110は、他の構成板のいずれかに接触固定されていてもよい。構成板は、接地母線20に接続される。
【0011】
なお、図1では、部分放電信号を検出する方式として、電極110による表面電位を検出する方式を示したが、表面電位に限定されない。例えば、部分放電診断装置100は、表面電位の代わりに電磁波を検出してもよい。この場合、部分放電診断装置100は、電極110の代わりにアンテナから電気信号を取得する。アンテナは、電磁波を検出する。アンテナは、検出された電磁波に基づいて電気信号を部分放電診断装置100に出力する。また、部分放電診断装置100は、表面電位の代わりに接地電流を検出してもよい。この場合、部分放電診断装置100は、電極110の代わりに高周波CT(Current Transformer)等のセンサから電気信号を取得する。センサは、接地電流を検出する。センサは、検出された接地電流に基づいて電気信号を部分放電診断装置100に出力する。部分放電診断装置100は、電気機器の部分放電に基づいて得られる物理量であれば、どのような物理量を取得してもよい。物理量は、例えば接地電位、電磁波、接地線電流、振動又は音等である。
【0012】
図2は、実施形態の部分放電診断装置100の機能構成を表す機能ブロック図である。部分放電診断装置100は、パーソナルコンピュータ、スマートフォン又はタブレットコンピュータ等の情報処理装置である。部分放電診断装置100は、電極110から受け付けた電気信号に基づいて、診断対象の電気機器の状態を診断する。具体的には、部分放電診断装置100は、部分放電の進展度と放電源の種類とを診断する。部分放電診断装置100は、部分放電診断プログラムを実行することによって通信部101、入力部102、出力部103、電気信号記憶部104、診断情報記憶部105及び制御部106を備える装置として機能する。なお、電極110については、上記で説明しているため、説明を省略する。
【0013】
通信部101は、ネットワークインタフェースである。通信部101はネットワークを介して、外部の通信装置と通信する。通信部101は、例えば無線LAN(Local Area Network)、有線LAN、Bluetooth(登録商標)又はLTE(Long Term Evolution)(登録商標)等の通信方式で通信してもよい。外部の通信装置は、例えばパーソナルコンピュータ、サーバ等の情報処理装置であってもよいし、クラウドコンピューティングシステムであってもよい。
【0014】
入力部102は、タッチパネル、マウス及びキーボード等の入力装置を用いて構成される。入力部102は、入力装置を部分放電診断装置100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、入力部102は、入力装置において入力された入力信号から入力データを生成し、部分放電診断装置100に入力する。入力データは、例えば、部分放電診断装置100が取得する電気信号を他の電極110に切り替える指示を示す指示情報であってもよい。
【0015】
出力部103は、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、液晶ディスプレイ、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の出力装置である。出力部103は、出力装置を部分放電診断装置100に接続するためのインタフェースであってもよい。この場合、出力部103は、映像データから映像信号を生成し自身に接続されている映像出力装置に映像信号を出力する。
【0016】
電気信号記憶部104は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。電気信号記憶部104は、電極110によって電気信号が取得された日時と電気信号が表す物理量とを対応付けて記憶する。なお、部分放電診断装置100が複数の電極110から電気信号を取得する場合、電気信号記憶部104は電極110の識別情報を、日時及び物理量に対応付けて記憶する。識別情報は、電極110を特定できる情報であればどのような情報であってもよい。
【0017】
診断情報記憶部105は、磁気ハードディスク装置や半導体記憶装置等の記憶装置を用いて構成される。診断情報記憶部105は、複数の診断情報を記憶する。診断情報は、パルス波形の形状と放電源の種類とを対応付けした情報である。パルス波形の形状は、所定の電気機器から発生した放電源の種類に応じたパルス波形の形状を表す。パルス波形の形状は、放電源の種類に応じて異なる。放電源の種類は、部分放電を発生させる原因の種類である。放電源の種類は、例えば絶縁物内部に気泡が発生していること、電気機器表面が汚染していること等である。診断情報は、予め診断情報記憶部105に記憶される。なお、診断情報記憶部105は、パルス波形の形状と放電源の種類と部分放電の種類とを対応付けて記憶していてもよい。部分放電の種類とは、電気機器に発生しうる部分放電の名前を表す。部分放電の種類には、例えば絶縁物内部放電、ボイド放電、沿面放電又はコロナ放電等がある。パルス波形の形状は、部分放電の種類に応じて異なる。
【0018】
制御部106は、部分放電診断装置100の各部の動作を制御する。制御部106は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ及びRAM(Random Access Memory)を備えた装置により実行される。制御部106は、部分放電診断プログラムを実行することによって、電気信号取得部161、部分放電信号検出部162、パルス極性判定部163、パルス波形解析部164及び部分放電診断部165として機能する。
【0019】
電気信号取得部161は、電極110から電気信号を取得する。電気信号取得部161は、電気信号から物理量を取得する。電気信号取得部161は、電気信号が取得された日時と電極110によって取得された物理量とを対応付けた情報を生成する。電気信号取得部161は生成された情報を電気信号記憶部104に記録する。なお、部分放電診断装置100が電極110を複数備える場合、電気信号取得部161は、電気信号が取得された日時と電極110によって検知された物理量と電極110の識別情報とを対応付けた情報を生成する。なお、部分放電診断装置100が電極110を複数備える場合、電気信号取得部161は、入力部102からいずれの電極110から電気信号を取得するかを示す指示情報を受け付ける。電気信号取得部161は、受け付けた指示情報にて指定された電極110から電気信号を取得する。
【0020】
部分放電信号検出部162は、電気信号から部分放電信号を検出する。以下、具体的に説明する。電気信号取得部161によって取得された電気信号は、ノイズ成分を含む。部分放電信号検出部162は、取得された電気信号からノイズ成分を除去する。部分放電信号検出部は、ノイズ成分を除去された電気信号を部分放電信号として検出する。部分放電信号検出部162は、例えば電極110によって取得された電気信号のうち、部分放電信号が含まれる周波数帯域を通過させるバンドパスフィルタであってもよい。部分放電信号検出部162は、ノイズが除去された部分放電信号をパルス極性判定部163に出力する。
【0021】
パルス極性判定部163は、電気機器の運転電圧の位相と部分放電信号とに基づいて、部分放電信号の極性を判定する。以下、具体的に説明する。パルス極性判定部163は、ノイズが除去された部分放電信号から、部分放電を表すパルス信号を含む所定期間の信号を取得する。所定期間とは、例えばパルス信号の前後5μsであってもよい。所定期間とは、例えばパルス信号の前後10μsであってもよい。所定期間とは、例えばパルス信号の前後15μsであってもよい。所定期間とは、パルス信号を含む期間の信号であれば、どのような期間であってもよい。パルス極性判定部163は、取得された信号に基づいてパルス波形を生成する。
【0022】
次に、部分放電に関するパルス波形と運転電圧の位相との関係について説明する。図3は、実施形態の運転電圧に応じたパルス波形の立ち上がりに関するグラフである。図3のグラフでは、横軸は、位相である。縦軸は、放電電圧である。グラフ中の点線40は、電気機器の運転電圧の位相を表す。また、パルス波50は、部分放電信号を表す。領域60は、正極性放電に関するパルス波形群を表す。領域70は、負極性放電に関するパルス波形群を表す。部分放電信号は、運転電圧の立ち上がり又は立ち下がりに発生する。したがって、部分放電に関するパルス波形は、運転電圧の立ち上がり又は立ち下がりに発生する。運転電圧の位相が正極性である場合、部分放電に関するパルス波形は正極側に立ち上がる。この場合、パルス極性判定部163は、部分放電信号の極性を正極性に判定する。運転電圧の位相が負極性である場合、部分放電に関するパルス波形は負極側に立ち上がる。この場合、パルス極性判定部163は、部分放電信号の極性を負極性に判定する。パルス極性判定部163は、このような部分放電に関するパルス波形と運転電圧の位相との関係に基づいて、部分放電信号の極性を判定する。
【0023】
図2に戻って、部分放電診断装置100の説明を続ける。パルス極性判定部163は、判定結果に基づいて、正極性放電又は負極性放電にパルス波形を分類する。部分放電信号の極性が正極性であると判定された場合、パルス極性判定部163は、パルス波形を正極性放電に分類する。部分放電信号の極性が負極性であると判定された場合、パルス極性判定部163は、パルス波形を負極性放電に分類する。パルス極性判定部163は、正極性放電又は負極性放電に分類されたパルス波形をパルス波形解析部164に出力する。パルス極性判定部163は、極性決定部の一具体例である。極性決定部は、診断対象の電気機器から発生した部分放電に関する電気信号の波形に基づいて、電気信号の極性を決定する。
【0024】
パルス波形解析部164は、生成されたパルス波形を解析することで、パルス波形の特徴情報を取得する。特徴情報とは、パルス波形の特徴に関する情報である。特徴情報は、正極性放電に分類されたパルス波形と負極性放電に分類されたパルス波形と、それぞれの極性毎に取得される。特徴情報は、例えばパルス波形の波高値と部分放電の発生品とに基づいて得られる情報であってもよい。特徴情報は、例えば、複数のパルス波形に基づいて算出される統計情報であってもよい。統計情報は、例えばパルス波形の波高値と部分放電の発生品とに基づいて得られる情報であってもよい。統計情報とは、例えばパルス波形の波高値の平均値であってもよい。統計情報とは、例えばパルス波形における部分放電の発生頻度であってもよい。統計情報とは、例えばパルス波形に基づいて得られる放電エネルギーであってもよい。放電エネルギーとは、例えば複数サイクル分の波高値の平均値と、部分放電の発生頻度の積である。具体的には、パルス波形解析部164は、複数のパルス波形(パルス波形群)をパルス極性判定部163から取得する。パルス波形解析部164は、パルス波形群の特徴情報を算出する。パルス波形解析部164は、正極性放電に分類されたパルス波形と、負極性放電に分類されたパルス波形と、それぞれのパルス波形ごとに特徴情報を算出する。パルス波形解析部164は、取得された特徴情報を部分放電診断部165に出力する。なお、特徴情報は、正極性の放電エネルギーを負極性の放電エネルギーで除算した強度比であってもよい。パルス波形解析部164は、特徴情報取得部の一具体例である。特徴情報取得部は、極性を決定された電気信号の波形に基づいて、電気信号に関する特徴情報を取得する。
【0025】
部分放電診断部165は、パルス波形の特徴情報に基づいて、診断対象の電気機器の状態を診断する。部分放電診断部165は、例えばパルス波形の特徴情報に基づいて、部分放電の進展度を診断する。部分放電診断部165は、例えばパルス波形に基づいて、電気機器から生じる部分放電の種類を診断する。部分放電診断部165は、診断結果を出力部103に出力する。以下、具体的に説明する。
【0026】
図4は、実施形態の部分放電の進展に伴う電荷量の差を表す図である。図4のグラフの横軸は、位相(Φ)である。図4のグラフの縦軸は、電荷量(Q)である。正極性の電荷は、位相-30~150度付近で発生しやすい。負極性の電荷は、位相150~330度付近で発生しやすい。部分放電の進展に応じて、正極性の電荷量は、負極性の電荷量よりも大きくなる。このため、部分放電診断部165は、例えば特徴情報から得られる放電エネルギーの強度比に基づいて部分放電の進展度を診断することができる。
【0027】
図5は、実施形態の部分放電信号の経年変化の一具体例を示す散布図である。図5は、加速劣化させた計器用変圧器(6kV-VT)から取得された放電エネルギーの強度比の経年変化を表す。図5の散布図は、計器用変圧器(6kV-VT)に対する課電開始から絶縁破壊直前までの期間に取得した放電エネルギーの強度比の経年変化を表す。計器用変圧器(6kV-VT)は、定格電圧の2倍の電圧を印加されることで、加速劣化する。
【0028】
図5の散布図の横軸は、加速劣化通算時間(年)である。図5の散布図の縦軸は、放電エネルギーの強度比である。加速劣化通算時間(年)は、電気機器を加速劣化させた時間である。図5は、電気機器から発生した部分放電の強度比と加速劣化通算時間(年)との散布図を表す。図5のように、放電エネルギーの強度比は、劣化初期から絶縁破壊直前にかけて大きく増加していることが分かる。図5によると、加速劣化通算時間(年)がNになると、電気機器に絶縁破壊が発生する。絶縁破壊の直前には、放電エネルギーの強度比は1以上の値になる。このため、計器用変圧器等の電気機器は、劣化の進行に応じて正極性放電の放電エネルギーが増加する。したがって、部分放電診断装置100は、放電エネルギーの強度比に基づいて、部分放電の進展度を評価することが可能になる。
【0029】
図2に戻って、部分放電診断装置100の説明を続ける。まず、部分放電診断部165は、パルス波形の特徴情報に基づいて、正極性放電と負極性放電との強度比を算出する。具体的には、部分放電診断部165は、特徴情報に基づいて正極性放電に関する放電エネルギーを算出する。部分放電診断部165は、特徴情報に基づいて負極性放電に関する放電エネルギーを算出する。部分放電診断部165は、正極性放電に関する放電エネルギーを負極性放電に関する放電エネルギーで除算することで強度比を算出する。なお、特徴情報が放電エネルギーの強度比である場合、この処理は省略される。
【0030】
次に、部分放電診断部165は、算出された強度比に基づいて、部分放電の進展度を診断する。例えば、部分放電診断部165は、以下のような手順で部分放電の進展度を診断してもよい。まず、部分放電診断部165は、算出された強度比に基づいて、診断対象となる電気機器の現在の加速劣化通算時間(年)を推定する。例えば、部分放電診断部165は、加速劣化通算時間(年)を推定する数式に強度比を入力する。部分放電診断部165は、数式を解くことで加速劣化通算時間(年)を推定する。部分放電診断部165は、推定された加速劣化通算時間(年)と、絶縁破壊までの時間と、の差分を算出する。部分放電診断部165は、算出された差分を部分放電の進展度として決定する。なお、数式は、例えば、図5の散布図にプロットされた点に基づいて、決定された数式であってもよい。この場合、数式は、散布図にプロットされた点に対して回帰分析等の統計手法を用いて決定されてもよい。数式は、部分放電診断部165によって決定されてもよいし、予め部分放電診断部165に記憶されていてもよい。また、加速劣化通算時間(年)は、予め部分放電診断部165に記憶されていてもよい。
【0031】
また、部分放電診断部165は、パルス波形に基づいて部分放電が発生した放電源の種類を診断する。具体的には、部分放電診断部165は、生成されたパルス波形の形状と診断情報に含まれるパルス波形の形状とに基づいて、放電源の種類を診断する。部分放電診断部165は、診断情報記憶部105から診断情報を取得する。部分放電診断部165は、診断情報に含まれるパルス波形の形状と生成されたパルス波形の形状との形状の相関度を算出する。相関度は、2つの波形の形状がどの程度相関しているかを示す数値である。相関度は、例えば百分率で表されてもよいし、予め定められた数値の範囲で表されてもよい。相関度の算出には公知の手法が用いられてもよい。部分放電診断部165は、算出された相関度が所定の条件を満たす場合、診断情報に含まれるパルス波形に対応付けられた放電源の種類を取得する。所定の条件とは、例えば相関度があらかじめ定められた閾値より大きい場合であってもよい。なお、部分放電診断部165は、複数の診断情報で相関度が所定の条件を満たす場合、相関度が最も大きい診断情報に対応付けられた放電源の種類を取得してもよい。また、部分放電診断部165は、複数の診断情報で相関度が所定の条件を満たす場合、所定の条件を満たす全ての放電源の種類を取得してもよい。部分放電診断部165は、取得された放電源の種類で示される原因によって部分放電が発生していると診断する。なお、部分放電診断部165は、診断情報に部分放電の種類が含まれている場合、放電源の種類に対応付けられた部分放電の種類を取得してもい。部分放電診断部165は、診断部の一具体例である。診断部は、特徴情報に基づいて診断対象の電気機器の状態を診断する。
【0032】
図6は、実施形態の部分放電の診断の処理の流れの一具体例を示すフローチャートである。部分放電の診断は、所定のタイミングで行われる。所定のタイミングとは、箱体10に設置された電極110が電気信号を取得したタイミングであってもよい。所定のタイミングとは、予め指定されたタイミングであってもよい。部分放電の診断は、電気信号が取得された後であればどのようなタイミングであってもよい。電気信号取得部161は、電極110から電気信号を取得する(ステップS101)。部分放電信号検出部162は、電気信号からノイズ成分を除去することで部分放電信号を検出する(ステップS102)。
【0033】
パルス極性判定部163は、部分放電信号に基づいてパルス波形を生成する(ステップS103)。具体的には、パルス極性判定部163は、部分放電信号から、部分放電を表すパルス信号を含む所定期間の信号を取得する。パルス極性判定部163は、取得された信号に基づいてパルス波形を生成する。パルス極性判定部163は、生成されたパルス波形と運転電圧の発生位相とに基づいて、パルス波形の極性を判定する(ステップS104)。パルス極性判定部163は、例えば以下の手段でパルス波形の極性を判定してもよい。パルス極性判定部163は、運転電圧の位相が正極性である場合、パルス波形の極性は正極性であると判定する。パルス波形の極性が正極性であると判定された場合、パルス極性判定部163は、パルス波形を正極性放電に分類する。パルス極性判定部163は、運転電圧の位相が負極性である場合、パルス波形の極性は負極性であると判定する。パルス波形の極性が負極性であると判定された場合、パルス極性判定部163は、パルス波形を負極性放電に分類する。
【0034】
パルス波形解析部164は、生成されたパルス波形を解析することで、パルス波形の特徴情報を取得する(ステップS105)。パルス波形解析部164は、例えば特徴情報として統計情報を算出する。具体的には、パルス波形解析部164は、正極性放電に分類されたパルス波形と、負極性放電に分類されたパルス波形と、それぞれのパルス波形ごとに統計情報を算出する。
【0035】
部分放電診断部165は、特徴情報に基づいて放電エネルギーの強度比を算出する(ステップS106)。部分放電診断部165は、算出された強度比に基づいて部分放電の進展度を診断する(ステップS107)。部分放電診断部165は、パルス波形に基づいて部分放電が発生した放電源の種類を診断する(ステップS107)。出力部103は、部分放電の進展度と放電源の種類とを含む診断結果を出力する(ステップS109)。
【0036】
このように構成された部分放電診断装置100では、パルス極性判定部163が診断対象の電気機器から取得された電気信号の極性を判定する。パルス波形解析部164が、極性を判定された電気信号に含まれるパルス波形を解析して、電気信号の特徴情報を極性毎に取得する。特徴情報は、例えばパルス波形の波高値と部分放電の発生品とに基づいて得られる情報である。部分放電診断部165は、特徴情報に基づいて電気機器の状態を診断する。このように、部分放電診断装置100は、φ-q-nパターンや複数のパラメータを解析する必要がなく、より簡単に電気機器の状態を診断することができる。
【0037】
<変形例>
部分放電診断部165は、放電エネルギーの強度比と部分放電の進展度とを対応付けて予め記憶していてもよい。この場合、部分放電診断部165は、算出された放電エネルギーの強度比に基づいて、部分放電診断部165に記憶された放電エネルギーの強度比を特定する。例えば、部分放電診断部165は、算出された放電エネルギーの強度比と同じ値を持つ放電エネルギーの強度比を部分放電診断部165から特定する。部分放電診断部165は、特定された放電エネルギーの強度比に対応付けされた部分放電の進展度を取得する。部分放電診断部165は、取得された部分放電の進展度を診断結果とする。
【0038】
部分放電診断部165は、予め放電エネルギーの強度比と放電源の種類とを対応付けて記憶していてもよい。この場合、部分放電診断部165は、算出された放電エネルギーの強度比に基づいて、部分放電診断部165に記憶された放電エネルギーの強度比を特定する。例えば、部分放電診断部165は、算出された放電エネルギーの強度比と同じ値を持つ放電エネルギーの強度比をを部分放電診断部165から特定する。部分放電診断部165は、特定された放電エネルギーの強度比に対応付けされた放電源の種類を取得する。部分放電診断部165は、取得された放電源の種類を診断結果とする。
【0039】
部分放電診断部165は、複数の異なるタイミングで取得された特徴情報の経時変化に基づいて、診断対象の電気機器の状態を診断してもよい。以下、具体的に説明する。パルス波形解析部164は、複数の異なるタイミングで取得されたパルス波形に基づいて、複数の異なるタイミング毎の特徴情報を取得する。パルス波形解析部164は、取得された複数の異なるタイミング毎の特徴情報を部分放電診断部165に出力する。部分放電診断部165は、複数の異なるタイミング毎の特徴情報に基づいて、タイミング毎の放電エネルギーの強度比を算出する。部分放電診断部165は、算出された放電エネルギーの強度比の経時変化を推定する。例えば、部分放電診断部165は、回帰分析等の統計手法を用いて、放電エネルギーの強度比を推定するための数式を決定する。部分放電診断部165は、決定された数式に基づいて、放電エネルギーの強度比が所定の閾値よりも大きくなる時期を算出することで、部分放電の進展度を診断してもよい。所定の閾値とは、例えば絶縁破壊が発生する直前の放電エネルギーの強度比であってもよい。所定の閾値とは、放電エネルギーの強度比に関する値であればよい。複数の異なるタイミングとは2以上のタイミングであればいくつであってもよい。なお、タイミング数が多くなるほど、部分放電診断装置100は、部分放電の進展度の診断精度を高めることができる。
【0040】
上述の実施形態では、パルス極性判定部163は、運転電圧に対する発生位相と部分放電に関するパルス波形とに基づいて、部分放電信号の極性を判定した。しかし、部分放電信号の極性の判定は、このような方法に限定されない。例えば、パルス極性判定部163は、部分放電信号のパルス波形に基づいて、部分放電信号の極性を判定するように構成されてもよい。以下、具体的に説明する。パルス極性判定部163は、パルス波形の第1波を特定する。部分放電信号のパルス波形の第1波が正極性である場合、パルス極性判定部163は、部分放電信号の極性を正極性に判定する。部分放電信号のパルス波形の第1波が負極性である場合、パルス極性判定部163は、部分放電信号の極性を負極性に判定する。このように構成されることで、電気機器の運転電圧の位相を取得することが出来ない場合であっても、パルス極性判定部163は、部分放電の極性を判定することができる。また、部分放電診断装置100は、電気機器の部分放電を診断することができる。
【0041】
上記各実施形態では、電気信号取得部161、部分放電信号検出部162、パルス極性判定部163、パルス波形解析部164及び部分放電診断部165はソフトウェア機能部であるものとしたが、LSI等のハードウェア機能部であってもよい。
【0042】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、パルス極性判定部163、パルス波形解析部164及び部分放電診断部165を持つことにより、より簡単に電気機器の部分放電を診断することができる。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
10…箱体、20…接地母線、30…接地極、100…部分放電診断装置、101…通信部、102…入力部、103…出力部、104…電気信号記憶部、105…診断情報記憶部、106…制御部、110…電極、161…電気信号取得部、162…部分放電信号検出部、163…パルス極性判定部、164…パルス波形解析部、165…部分放電診断部
図1
図2
図3
図4
図5
図6