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特許7326050回転電機、車両の駆動制御システム、回転電機の制御装置で実行させるプログラム、および、プログラムが記憶されている記憶媒体
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  • 特許-回転電機、車両の駆動制御システム、回転電機の制御装置で実行させるプログラム、および、プログラムが記憶されている記憶媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】回転電機、車両の駆動制御システム、回転電機の制御装置で実行させるプログラム、および、プログラムが記憶されている記憶媒体
(51)【国際特許分類】
   H02K 19/12 20060101AFI20230807BHJP
   H02K 11/30 20160101ALI20230807BHJP
   H02P 23/10 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H02K19/12
H02K11/30
H02P23/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019128403
(22)【出願日】2019-07-10
(65)【公開番号】P2020058218
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2018188326
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(74)【代理人】
【識別番号】100172236
【弁理士】
【氏名又は名称】岩木 宣憲
(72)【発明者】
【氏名】桂 斉士
(72)【発明者】
【氏名】北村 太一
(72)【発明者】
【氏名】植村 公貴
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136902(JP,A)
【文献】特開平07-031006(JP,A)
【文献】特開2016-007118(JP,A)
【文献】特開2006-211734(JP,A)
【文献】特開2004-187346(JP,A)
【文献】特開2006-223018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K11/00-11/40
19/00-19/38
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、
前記回転磁界により回転する回転子と、
直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、
前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報と前記回転子の回転状態とを取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記操作情報および前記回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部と、
を備え
前記モータ特性制御部は、
前記取得部で取得された前記操作情報および前記回転状態に基づいて、必要なトルク値と回転速度との組み合わせを実現することが可能なモータ特性が得られる前記直流電流の範囲を推定し、
推定した前記直流電流の範囲において、評価値が最大となる前記直流電流の値である設定値を推定する、回転電機。
【請求項2】
前記評価値は、前記操作情報と前記回転状態とに対応するモータ効率に関する、請求項に記載の回転電機。
【請求項3】
前記評価値は、モータ出力に関する、請求項に記載の回転電機。
【請求項4】
前記回転磁界を制御する回転磁界制御部を更に備える請求項1からのいずれかに記載の回転電機。
【請求項5】
前記回転子は、永久磁石を有する、請求項1からのいずれかに記載の回転電機。
【請求項6】
前記モータ特性制御部は、
前記永久磁石による前記回転子の磁力を増す方向に前記直流電流の印加方向を設定自在である、請求項に記載の回転電機。
【請求項7】
前記モータ特性制御部は、
前記永久磁石による前記回転子の磁力を減じる方向に前記直流電流の印加方向を設定自在である、請求項またはに記載の回転電機。
【請求項8】
車両の駆動制御システムであって、
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、前記回転磁界により回転する回転子と、直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、を備える回転電機と、
前記車両の操作を受け付け可能な操作部と、
前記操作部で受け付けられた操作に基づいて前記回転磁界を制御する回転磁界制御部と、
前記操作部で受け付けられた操作から前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報を取得し、前記回転子から回転状態を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記操作情報および回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部と、を備え
前記モータ特性制御部は、
前記取得部で取得した前記操作情報および回転状態に基づいて、必要なトルク値と回転速度との組み合わせを実現することが可能なモータ特性が得られる前記直流電流の範囲を推定し、
推定した前記直流電流の範囲において、評価値が最大となる前記直流電流の値である設定値を推定する、車両の駆動制御システム。
【請求項9】
前記評価値は、前記操作情報と前記回転状態とに対応するモータ効率に関する、請求項に記載の車両の駆動制御システム。
【請求項10】
前記評価値は、モータ出力に関する、請求項に記載の車両の駆動制御システム。
【請求項11】
前記回転子は永久磁石を有する、請求項から10のいずれか1つに記載の車両の駆動制御システム。
【請求項12】
前記モータ特性制御部は、
前記永久磁石による前記回転子の磁力を増す方向に前記直流電流の印加方向を設定自在である、請求項11に記載の車両の駆動制御システム。
【請求項13】
前記モータ特性制御部は、
前記永久磁石による前記回転子の磁力を減じる方向に前記直流電流の印加方向を設定自在である、請求項11または12に記載の車両の駆動制御システム。
【請求項14】
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、前記回転磁界により回転する回転子と、直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、を備える回転電機を制御する制御装置に、
前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報と前記回転子の回転状態とを取得する取得ステップと、
取得した前記操作情報および前記回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御ステップと、をコンピュータに実行させる、プログラムであって、
前記モータ特性制御ステップは、
取得した前記操作情報および前記回転状態に基づいて、必要なトルク値と回転速度との組み合わせを実現することが可能なモータ特性が得られる前記直流電流の範囲を推定し、
推定した前記直流電流の範囲において、評価値が最大となる前記直流電流の値である設定値を推定する、プログラム。
【請求項15】
前記評価値は、前記操作情報と前記回転状態とに対応するモータ効率に関する、請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
前記評価値は、モータ出力に関する、請求項14に記載のプログラム。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか1つに記載のプログラムが記憶されている、記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機、車両の駆動制御システム、回転電機の制御装置で実行させるプログラム、および、プログラムが記憶されている記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、回転子と固定子から構成される永久磁石同期機が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-105696号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記永久磁石同期機を車両駆動用モータとして使用する場合、永久磁石同期機は永久磁石の磁力に応じたモータ特性となる。ここで、永久磁石同期機(すなわち、回転電機)のモータ特性とは、永久磁石同期機をモータ(すなわち、電動機)として作動させる場合に得られるトルクと回転速度と電流との関係についての出力特性のことである。前記永久磁石同期機は、永久磁石による磁束量を多くするとトルク定数および誘起電圧定数が大きくなるため、出力トルクの最大値が大きくなるが、電源電圧とのバランスから回転速度の最大値が制限される。一方、前記永久磁石同期機は、永久磁石による磁束量を小さくするとトルク定数および誘起電圧定数が小さくなるため、回転速度の最大値を大きくすることができるが、出力トルクの最大値が低下してしまう。したがって、回転速度の最大値と出力トルクの最大値とをともに高めるには、前記永久磁石同期機とともに複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを用いることでモータ特性を等価的に変化させる必要があった。
【0005】
本発明の目的は、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを設けることなく出力特性を変化させることが可能な回転電機、車両の駆動制御システム、回転電機の制御装置で実行させるプログラム、および、プログラムが記憶されている記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0007】
本発明の第1の態様によれば、
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、
前記回転磁界により回転する回転子と、
直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、
前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報と前記回転子の回転状態とを取得する取得部と、
前記取得部で取得した前記操作情報および前記回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部と、
を備えた回転電機を提供する。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、
車両の駆動制御システムであって、
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、前記回転磁界により回転する回転子と、直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、を備える回転電機と、
前記車両の操作を受け付け可能な操作部と、
前記操作部で受け付けられた操作に基づいて前記回転磁界を制御する回転磁界制御部と、
前記操作部で受け付けられた操作から前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報を取得し、前記回転子から回転状態を取得する取得部と、
前記取得部で取得された前記操作情報および回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部と、を備えた、車両の駆動制御システムを提供する。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、
交流電流により回転磁界を発生する固定子と、前記回転磁界により回転する回転子と、直流電流により前記回転子を励磁する界磁コイルと、を備える回転電機を制御する制御装置に、
前記回転子で発生させるトルクに関する操作情報と前記回転子の回転状態とを取得する取得ステップと、
取得した前記操作情報および前記回転状態に基づいて前記直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御ステップと、を実行させる、プログラムを提供する。
【0010】
本発明の第4の態様によれば、
前記態様のプログラムが記憶されている記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の態様の回転電機によれば、交流電流により回転磁界を発生する固定子と、回転磁界により回転する回転子と、直流電流により回転子を励磁する界磁コイルと、回転子で発生させるトルクに関する操作情報と回転子の回転状態とを取得する取得部と、取得部で取得した操作情報および回転状態に基づいて直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部とを備えている。このような構成により、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを設けることなく、モータ特性を変化させて車両としての要求出力特性を満足させることができる回転電機を実現できる。
【0012】
本発明の第2の態様の駆動制御システムによれば、交流電流により回転磁界を発生する固定子、回転磁界により回転する回転子、および、直流電流により回転子を励磁する界磁コイルを備える回転電機と、車両の操作を受け付け可能な操作部と、操作部で受け付けられた操作に基づいて回転磁界を制御する回転磁界制御部と、操作部で受け付けられた操作から回転子で発生させるトルクに関する操作情報を取得し、回転子から回転状態を取得する取得部と、取得部で取得された操作情報および回転状態に基づいて直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御部とを備えている。このような構成により、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを設けることなく、回転電機のモータ特性を変化させることができる車両の駆動制御システムを実現できる。
【0013】
本発明の第3の態様のプログラムによれば、交流電流により回転磁界を発生する固定子、回転磁界により回転する回転子、および、直流電流により回転子を励磁する界磁コイルを備える回転電機を制御する制御装置に、回転子で発生させるトルクに関する操作情報と回転子の回転状態とを取得する取得ステップと、取得した操作情報および回転状態に基づいて直流電流を制御して、モータ特性を制御するモータ特性制御ステップとを実行させる。このような構成により、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを設けることなく、回転電機のモータ特性を変化させることができるプログラムを実現できる。
【0014】
本発明の第4の態様の記憶媒体によれば、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを設けることなく、回転電機のモータ特性を変化させることができるプログラムが記憶された記憶媒体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態の駆動制御システムの構成を示す説明図。
図2図1の駆動制御システムの制御処理を説明するための第1のグラフ。
図3図1の駆動制御システムの制御処理を説明するための第2のグラフ。
図4図1の駆動制御システムの制御処理を説明するための第3のグラフ。
図5図1の駆動制御システムの制御処理を説明するための第4のグラフ。
図6図1の駆動制御システムの制御処理を説明するためのフローチャート。
図7】本発明の第2実施形態の駆動制御システムの構成を示す説明図。
図8】本発明の第3実施形態の駆動制御システムの構成を示す説明図。
図9】本発明の第4実施形態の駆動制御システムの構成を示す説明図。
図10】本発明の第5実施形態の駆動制御システムの構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
【0017】
(第1実施形態)
本発明の駆動制御システムおよび回転電機は、HEV(ハイブリッド電気自動車)、EV(電気自動車)、その他電動機を構成として含む機器に適用できる。第1実施形態では、一例として、EV(電気自動車)用の駆動制御システムおよび回転電機について説明する。
【0018】
第1実施形態の駆動制御システム100は、図1に示すように、回転電機1、駆動制御ユニット2(制御装置の一例)、バッテリ3、および、操作部4を備えている。
【0019】
回転電機1は、図示しない駆動輪に直接またはトランスアクスル等を介して間接的に取り付けられ、駆動輪を駆動して回転させる。この回転電機1は、図1に示すように、交流電流により回転磁界を発生する固定子10と、回転磁界により回転する回転子20と、直流電流により回転子20を励磁する界磁コイル30と、インバータ40とを備えている。
【0020】
固定子10は、回転軸7を中心とした外周に配置され、回転軸7の周りで回転不可に構成される。回転子20は、固定子10の内周に配置され、回転軸7の周りで回転自在に構成される。界磁コイル30は、回転子20に対して、回転子20の回転軸方向の一方側に配置され、回転軸7の周りで回転不可に構成される。
【0021】
固定子10と回転子20との間には、第1エアギャップ13が形成され、固定子10と回転子20との間で磁束を受け渡している。また、界磁コイル30と回転子20との間には、第2エアギャップ14が形成されて、界磁コイル30と回転子20との間で磁束を受け渡している。すなわち、界磁コイル30は、回転子20に対して、第2エアギャップ14を介して回転軸7の軸方向にずらされて並列して配置されている。
【0022】
また、回転子20には、その内部に図示しない永久磁石が配置されている。フェライト磁石、SmCo磁石、AlNiCo磁石、又は、ネオジムボンド磁石などを永久磁石として用いることができる。
【0023】
インバータ40は、バッテリ3の電源電圧を変換して、直流電流および複数相の交流電流を回転電機1に入力させる。このインバータ40は、モータ特性制御部42と回転磁界制御部43とを有するインバータ制御ユニット41を備えている。
【0024】
インバータ制御ユニット41は、演算等を行うCPUと、回転電機1の制御に必要なプログラムあるいはデータ等を記憶しておくROMおよびRAMなどの記憶媒体と、外部とのデータ入出力を行うインターフェース部とを備えて構成される。モータ特性制御部42および回転磁界制御部43は、インバータ制御ユニット41のCPUが所定のプログラムを実行することによりインバータ制御ユニット41で実現される機能である。
【0025】
モータ特性制御部42は、後述する駆動制御ユニット2の取得部50で取得した操作情報および回転子20の回転状態に基づいて直流電流を制御して、モータ特性を制御する。このモータ特性制御部42は、永久磁石による回転子20の磁力を増す方向および/または永久磁石による回転子20の磁力を減じる方向に、直流電流の印加方向を設定自在である。ここで、モータ特性とは、回転電機1をモータ(すなわち、電動機)として作動させる場合に得られるトルクと回転速度と電流との関係についての出力特性をいう。
【0026】
回転磁界制御部43は、取得部50で取得した操作情報と回転子20の回転状態とに基づいて交流電流を制御して、回転電機1の回転磁界を制御する。これにより、回転子20でトルクを発生させる。例えば、回転磁界制御部43が、バッテリ3の電源電圧に対してPWM制御を行うことで、回転電機1に入力させる複数相の交流電流の周波数と振幅を変化させることができる。回転磁界制御部43により固定子10に入力される複数相の交流電流が制御されることで、固定子10が磁化して生じる回転磁界が制御され、回転子20が固定子10に対して回転する速度およびトルクが変化することになる。したがって、回転磁界制御部43は、回転電機1の出力トルクを、取得部50で取得された操作情報に基づいて、操作者(例えば、自動車の運転者)の要求トルクに近づくように変化させることができる。なお、回転磁界制御部43では、複数相の交流電流に対して更にベクトル制御を行うようにして、回転電機1を弱め界磁制御するようにしてもよい。
【0027】
バッテリ3は、回転電機1および駆動制御ユニット2に電力を供給する。
【0028】
操作部4は、運転手のアクセル操作等の操作を受け付ける。
【0029】
駆動制御ユニット2は、操作部4で受け付けた操作などに基づいて、駆動制御システム100を構成する各部に操作指令を出力することでEVの駆動を制御する。この駆動制御ユニット2は、取得部50を備えている。
【0030】
取得部50は、操作部4から操作情報を取得し、回転電機1の近傍に配置された回転子角度センサ5により検出された回転角度などから回転電機1(すなわち、回転子20)の回転状態をインバータ40を介して取得する。詳しくは、取得部50は、操作部4で受け付けた操作などに基づいて運転手のアクセル操作量およびアクセル操作速度などを操作情報として取得し、取得された操作情報から操作者の要求トルクを推定し、推定した要求トルクと回転子20の回転状態とから回転子20で発生させるトルクを決定する。すなわち、取得部50は、回転子20で発生させるトルクに関する操作情報と回転子20の回転状態とを取得する。
【0031】
なお、駆動制御ユニット2は、演算等を行うCPUと、駆動制御システム100の制御に必要なプログラムあるいはデータ等を記憶しておくROMおよびRAMなどの記憶媒体と、外部とのデータ入出力を行うインターフェース部とを備えて構成される。取得部50は、駆動制御ユニット2のCPUが所定のプログラムを実行することにより駆動制御ユニット2で実現される機能である。
【0032】
ここで、図2図5を参照して、駆動制御システム100におけるモータ特性の制御例を説明する。なお、図2図5は、モータ特性制御部42による直流電流の制御によって実現されるモータ特性を例示する線図である。以下、「プラスの直流電流」を「回転子20に設けられている永久磁石による磁力を増す印加方向の直流電流」と定義し、「マイナスの直流電流」を「永久磁石による磁力を減らす印加方向の直流電流」と定義する。
【0033】
図2に示す第1のモータ特性Moは、界磁コイル30に通電する直流電流の値が上限値と下限値と間の中間値(すなわち、設定値)になるように直流電流が制御された場合のモータ特性である。上記回転電機1であれば、例えばモータ特性制御部42が直流電流の値をゼロに設定し、永久磁石のみが回転子20を励磁する状態でのモータ特性である。モータ特性Moの状態において、回転電機1は、回転磁界制御部43での回転磁界の制御、すなわち、回転電機1に入力させる複数相の交流電流の周波数と振幅(実効電流)の制御によって範囲E1内で作動点を変化させることができる。回転電機1の回転速度が比較的低いゼロからV1までの間、出力トルクはゼロから最大値T2までの範囲を採り得る。回転速度がV1を超えて高いと、出力トルクの上限値は最大値T2から次第に減り、回転速度がV4で出力トルクの上限値はT1まで低下する。回転速度がV4を超えて高くなるような場合、出力トルクの上限値はT1から急激にほぼゼロまで低下する。
【0034】
回転電機1の運転効率(すなわち、モータ効率)は範囲E1内の作動点によって異なり、範囲E1内で等高線を描くように分布する。例えば、所定の高い運転効率以上となる範囲E2は、範囲E1内の一部の領域に限定される。通常、回転電機1のモータ特性Moでは、出力トルクの上限値が減り始める回転速度V1よりも高い回転速度V2から、出力トルクの上限値が急激に低下する回転速度V4よりも低い回転速度V3まで間で、より高い運転効率が得られる。なお、回転電機1の運転効率(すなわち、モータ効率)は、回転電機1への入力電力(W)に対する回転電機1からの機械出力(W)の比で表される。
【0035】
図3に示すモータ特性Mmは、直流電流の値が下限値(例えばマイナスの値)になるように直流電流が制御された場合のモータ特性、すなわち、回転子20の磁力を減らした状態におけるモータ特性である。モータ特性Mmは、モータ特性Moに比べて、出力トルクの最大値T2が低下している。一方、モータ特性Moに比べて最高回転速度V4は高くなっている。回転電機1において、界磁コイル30に通電する直流電流をマイナスに制御することで、永久磁石による磁束量を等価的に小さくすることができ、回転電機1のトルク定数および誘起電圧定数が小さくなる。このことにより、モータ特性Mmは、モータ特性Moに比べて、回転電機1の出力トルクの最大値T2が低下する一方で、最大回転速度V4を高くすることができる。
【0036】
また、図4に示すモータ特性Mpは、直流電流の値が上限値(例えばプラスの値)になるように直流電流が制御された場合のモータ特性、すなわち、回転子20の磁力を増やした状態におけるモータ特性である。モータ特性Mpは、モータ特性Moに比べて、最高回転速度V4は低下しているが、出力トルクの最大値T2は高くなっている。回転電機1において、界磁コイル30に通電する直流電流をプラスに制御することで、永久磁石による磁束量を等価的に大きくすることができ、回転電機1のトルク定数および誘起電圧定数が大きくなる。このことにより、モータ特性Mpは、モータ特性Moに比べて、回転電機1の最高回転速度V4は低くなるが、出力トルクの最大値T2は高くすることができる。
【0037】
したがって、モータ特性制御部42は、界磁コイル30に通電する直流電流の値を上限値から下限値までの任意の値に設定し、直流電流の値が設定値になるように直流電流を制御することで、モータ特性を図3に示すモータ特性Mmの波形から、図4に示すモータ特性Mpの波形までの間で変化させられる。したがって、直流電流の制御によって実現される等価的なモータ特性Mxは、図5に示すように、図2図4のモータ特性Mm、Mo、Mpを重ね合せたような、回転速度の最大値と出力トルクの最大値とがともに高いものになる。このように、この駆動制御システム100および回転電機1では、複数の歯車対あるいは機械的な変速機などを用いなくても、モータ特性を変えて車両としての出力特性を変えることができる。
【0038】
次に、図6を参照して、前記駆動制御システム100におけるモータ特性の制御処理の一例を説明する。なお、以下に説明する処理は、駆動制御ユニット2およびインバータ制御ユニット41が所定のプログラムを実行することで実施される。
【0039】
図6に示すように、まず、取得部50が、回転子20で発生させるトルクに関する操作情報と回転子20の回転状態とを取得する(ステップS1)。そして、取得部50は、取得した操作情報と回転子20の回転状態とに基づいて、回転子20で発生させるトルクを示す操作指令(トルク指令)を設定し、設定されたトルク指令をモータ特性制御部42に出力する。
【0040】
次に、モータ特性制御部42は、取得部50から得たトルク指令に基づいて、必要なトルク値と回転速度との組み合わせを実現することが可能なモータ特性が得られる直流電流の範囲を推定する(ステップS2)。ステップS2における直流電力の推定処理は、様々な方法で実現できる。例えば、メモリに予め記憶したマッピングデータとして取得することにより行ってもよく、また、予め定めておいた演算式による演算結果として、あるいは、外部からの情報として取得することによってもよい。また、それらの組み合わせにより取得してもよい。
【0041】
続いて、モータ特性制御部42は、取得部50で取得された操作情報および回転子20の回転状態に対応する直流電流と、評価値との関係を把握し、ステップS2で推定した直流電流の範囲において、評価値が最大となる直流電流の値(すなわち、設定値)を推定する(ステップS3)。評価値は、予め評価によって取得した評価値の集合としてのマップデータや数式などであり、ここでは、取得部50で取得された操作情報と回転子20の回転状態とに対応するモータ効率である。そして、モータ特性制御部42は、界磁コイル30に通電する直流電流が設定値となるようにインバータ40を制御する(ステップS4)。この推定もメモリに予め記憶したマッピングデータとして取得することにより行ってもよく、また、予め定めておいた演算式による演算結果として、あるいは、外部からの情報として取得することによってもよい。また、それらの組み合わせにより取得してもよい。また、最適な直流電流の値が変動するような場合には、学習により最適値に近づけるようにモータ特性制御部42を構成することもできる。更には、評価値として、モータ効率以外の指標を用いてもよく、例えば、モータ出力を指標とすることもできる。モータ出力は、回転電機1が取り得る機械出力(W)の最大値で表され、界磁コイル30に通電する直流電流の値に応じて定められる。また、その他にも、運転手が感じる振動あるいは加速感などの官能性を最大化するような指標を評価値に用いることもできる。
最大化するような指標を評価値に用いることもできる。
【0042】
また、モータ特性制御部42は、ステップS1~S4により設定されるモータ特性を回転磁界制御部43に通知するために、界磁コイル30で生じる回転子20への鎖交磁束量およびインダクタンスを推定し(ステップS5)、推定した鎖交磁束量およびインダクタンスを回転磁界制御部43に出力する。この推定もメモリに予め記憶したマッピングデータとして取得することにより行ってもよく、また、予め定めておいた演算式による演算結果として、あるいは、外部からの情報として取得することによってもよい。なお、モータ特性制御部42は、鎖交磁束量に代えて、直流電流の値、あるいは、モータ特性を示す識別情報などを回転磁界制御部43に出力するようにしてもよい。
【0043】
回転磁界制御部43は、モータ特性制御部42から得られた鎖交磁束量およびインダクタンスから把握されるモータ特性と、トルク指令から把握される回転子20で発生させる必要のある要求トルク値と、回転子角度センサ5から把握される回転速度とに基づいて、交流電流の制御を行う(S6)。ステップS6が終了すると、再び取得ステップS1に戻り、取得ステップ(ステップS1)およびモータ特性制御ステップ(ステップS2~S6)の制御処理が、一定のタイミングで繰り返される。
【0044】
本発明の駆動制御システム100および回転電機1は、上記例示したような制御処理を行うことで実施することができる。また、本発明のプログラムおよび非一過性の記憶媒体は、回転電機1の制御部(例えば、インバータ制御ユニット41)と、駆動制御システムの制御部(例えば、駆動制御ユニット2)とのそれぞれに読み込まれて、上記例示した制御処理を実行させるように構成することができる。なお、記憶媒体として、ROMやRAM、HDD、USBメモリ、コンパクトディスク、磁気メディアなどの各種記憶媒体を適用できる。
【0045】
(その他の実施形態)
回転電機1は、図1に示す構成に限らず、例えば、図7に示す構成を採用することもできる(第2実施形態)。すなわち、界磁コイル30は、回転子20に対して、例えば回転子20の内周に配置するようにしてもよい。
【0046】
なお、図7では、インバータ40および回転子角度センサ5を回転電機1とは別体に設けている。すなわち、インバータ40および回転子角度センサ5は、回転電機1とは別体に構成することもできる。
【0047】
モータ特性制御部42、回転磁界制御部43、および、取得部50は、図1に示す構成に限らない。例えば、図8に示すように、モータ特性制御部42、回転磁界制御部43、および、取得部50は、駆動制御ユニット2に設けられていてもよいし(第3実施形態)、図9に示すように、インバータ制御ユニット41に設けられていてもよいし(第4実施形態)、図10に示すように、駆動制御ユニット2およびインバータ制御ユニット41とは別に設けられる他の制御ユニット102に設けてもよい(第5実施形態)。
【0048】
なお、図10には、一例として、トルクコンバータ併用式のHEV(ハイブリッド電気自動車)に適用した場合の駆動制御システム100および回転電機1を示している。図10では、回転軸7沿いのエンジン8と変速機9との間に、回転電機1が配置されている。第5実施形態の回転電機1は、固定子10と、回転子20と、界磁コイル30と、取得部50およびモータ特性制御部42を有する制御ユニット102とを備えている。回転磁界制御部43は、インバータ40のインバータ制御ユニット41に設けられ、回転電機1に設けられていない。この第5実施形態では、回転子20は、トルクコンバータと一体に構成されてもよい。この場合、回転子20は、例えば、トルクコンバータの筐体に回転子20となる磁極部材を取り付けて構成される。
【0049】
以上の各実施形態において、回転子20は、界磁コイル30により永久磁石と同様の磁力が生じることになるので、必ずしも永久磁石を備えなくてもよい。回転子20に永久磁石が設けられていない場合は、一方向に流れる直流電流の大きさを変えることで、図2図4と同様にモータ特性を変化させることができる。なお、永久磁石を備えた場合、永久磁石を備えない場合と比べて、回転子20で発生させるトルクを相対的に大きくすることができる。
【0050】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば、車両駆動用モータの制御方法、車両駆動用モータを制御するプログラム、車両駆動用モータを制御するプログラムが記憶されている記憶媒体、車両駆動用モータの制御システムに適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1 回転電機
2 駆動制御ユニット
3 バッテリ
4 操作部
5 回転子角度センサ
7 回転軸
10 固定子
13 第1エアギャップ
14 第2エアギャップ
20 回転子
30 界磁コイル
40 インバータ
41 インバータ制御ユニット
42 モータ特性制御部
43 回転磁界制御部
50 取得部
T1、T2 出力トルク
V1、V2、V3、V4 回転速度
E1、E2 範囲
Mo、Mm、Mp モータ特性
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10