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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】藻類抑制剤組成物及び藻類抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/80 20060101AFI20230807BHJP
   A01N 43/40 20060101ALI20230807BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20230807BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20230807BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20230807BHJP
【FI】
A01N43/80 102
A01N43/40 101N
A01P13/00
A01N25/02
C02F1/50 510D
C02F1/50 520A
C02F1/50 520J
C02F1/50 520K
C02F1/50 520L
C02F1/50 520P
C02F1/50 532C
C02F1/50 532H
C02F1/50 540B
C02F1/50 532D
C02F1/50 532J
C02F1/50 532E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019169669
(22)【出願日】2019-09-18
(65)【公開番号】P2021046367
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅代
(72)【発明者】
【氏名】神澤 啓
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 順子
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/246452(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0087978(US,A1)
【文献】特表2015-514765(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0115765(US,A1)
【文献】特開2005-082596(JP,A)
【文献】特開平08-325251(JP,A)
【文献】特表2011-521053(JP,A)
【文献】特開昭56-097598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 43/80
A01N 43/40
A01P 13/00
A01N 25/02
C02F 1/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを含有し、硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない水性製剤であることを特徴とする藻類抑制剤組成物。
【請求項2】
前記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの含有量が、0.001~2質量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の藻類抑制剤組成物。
【請求項3】
さらに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の藻類抑制剤組成物。
【請求項4】
マグネシウム化合物およびカルシウム化合物を実質的に含まないことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物。
【請求項5】
塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まないことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物を処理対象に添加することを特徴とする藻類抑制方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物を処理対象としての水系に添加するに際し、所定日数以上の間隔を置いて繰り返し添加することを特徴とする藻類抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類抑制剤組成物及び藻類抑制方法に関し、特に、長期間安定して効果を発揮することが可能な藻類抑制剤組成物、および、効果を持続させ得る藻類抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環冷却水系、工業用工程水系などの各種の水系において、細菌類や真菌類、藻類などの微生物が原因で、さまざまな障害が発生する。
【0003】
例えば、開放循環式冷却水系においては、ズーグレア状細菌、糸状細菌、鉄バクテリア、イオウ細菌、硝化細菌、硫酸塩還元菌などの細菌類、ミズカビ、アオカビなどの真菌類、藍藻、緑藻、珪藻などの藻類が増殖すると、これらの微生物と土砂などの無機物や塵埃などが混ざりあって形成される軟泥状のスライムやスラッジが発生する。スライムやスラッジは、熱効率の低下や通水の悪化をもたらすばかりでなく、機器、配管などの局部腐食の原因となる。また、製紙工程水系においても、各種の細菌類、真菌類、藻類などが増殖してスライムを形成すると、製品にホール、斑点、目玉などの欠点を発生させて製品品質を落とすとともに、断紙の原因となって生産性を低下させる。
【0004】
従来、上記微生物による障害を防止するために、さまざまな技術が提案されており、スライムコントロール剤として、3-イソチアゾロン系化合物、特に、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンとの混合剤は、低濃度の添加でも有効であり、抗菌スペクトルが広く、さらに水溶性で取扱いが容易なことから広く使われてきた(特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
この組合せの薬剤は、殆どの細菌類、真菌類、藻類に有効なスライムコントロール剤だが、3-イソチアゾロン系化合物は単独では極めて不安定な物質であり、硝酸塩、マグネシウム塩その他の金属塩等の安定化剤によって安定化した水性製剤が汎用されている(特許文献3および特許文献4参照)。しかし、これらの安定化物質は、各々が高分子エマルジョンの不安定化、高コスト、発癌性等の安全性への不安等の問題点を有している。また、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物および硝酸化合物は、水質汚濁防止法上の有害物質に指定されており、これらを含む液体は取扱い上の制約を受ける等の不具合も存在する。
【0006】
上記課題の解決方法として、硝酸塩及び亜硝酸塩化合物を含まず、臭素酸塩により安定化された3-イソチアゾロン系化合物の水溶液組成物(特許文献5)、硝酸塩、亜硝酸塩またはマグネシウム塩を含まず、銅イオンにより安定化された3-イソチアゾロン系化合物の水溶液組成物(特許文献6)、硝酸塩、亜硝酸塩、その他の金属塩類、ホルムアルデヒド、ホルムアルデヒド生成物質および非水溶媒を実質的に含まず、過酸化水素等の酸化剤により安定化された3-イソチアゾロン系化合物の水溶液組成物(特許文献7)等が提案されている。しかし、臭素酸は発がん性が疑われる化学物質であり、飲料水の水質基準では0.01mg/L以下という厳しい基準値が設けられている。また、銅は水質汚濁防止法において3mg/L以下の排水基準が設けられている物質であり、このように毒性の高い物質や重金属類を安定化剤として使用し、スライムコントロール剤と共に環境中に放出することは好ましくない。さらに、過酸化水素等の酸化性の安定化剤は他の物質と反応して濃度減少を起こし安定化の効果を失うため、3-イソチアゾロン系化合物を長期間安定化する物質としては適当でない。
【0007】
3-イソチアゾロン系化合物の安定性を確保する別の方法として、水性製剤ではなくグリコール等の有機溶媒を用いて製剤する方法が古くから知られているが、有機溶媒による製剤では、多量の有機溶媒をスライムコントロール剤と共に環境中に放出することになり、放出した有機溶媒が微生物の餌となり、却って微生物汚染を招いてしまう恐れがある。また、シクロデキストリン等をホスト化合物として包接化合物を形成することで3-イソチアゾロン系化合物を安定化する方法(特許文献8)も提案されているが、包接化合物は固形であるため液体と比較すると取り扱いが容易ではなく、仮に3-イソチアゾロンの包接化合物を水に溶解した場合には、その安定化効果が失われてしまう。また、ホスト化合物は有機物であり、やはり微生物の餌となる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4241214号公報
【文献】特公昭58-4682号公報
【文献】再表2008/146436号公報
【文献】特開2011-12059号公報
【文献】特開平8-319279号公報
【文献】特開平8-165284号公報
【文献】特開平3-188071号公報
【文献】特開平5-247011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、3-イソチアゾロン系化合物を以上の如き従来の方法で製剤化しスライムコントロール剤として使用した場合、細菌類や真菌類には優れた効果を示すが、藻類、特に粒子状(球状)の形態を示す緑藻類に対する効果が弱く、長期間継続して藻類抑制効果が得られないという欠点が存在する。
【0010】
ここで、粒子状(球状)の形態を示す緑藻類(以下、粒状緑藻とも云う)とは、文字通りほぼ球形の細胞からなる緑藻類のことであり、例えば、クロレラ(Chlorella)属やスフェロキスチス(Sphaerocystis)属等に属する藻類が該当する。
本発明は、上記3-イソチアゾロン化合物の欠点を解消し、長期間安定して藻類抑制効果を発揮し得る藻類抑制剤組成物、および、藻類抑制効果を持続させ得る藻類抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、3-イソチアゾロン系化合物の安定化剤とスライムコントロール効果との関係に着目して鋭意研究を重ねた結果、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含有する組成物において、特定の化合物を含まないことで藻類抑制効果が格段にアップすることを見出し、本発明に至った。
【0012】
本発明は、
(1)5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを含有し、硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない水性製剤であることを特徴とする藻類抑制剤組成物。
(2)前記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの含有量が、0.001~2質量%の範囲内であることを特徴とする(1)に記載の藻類抑制剤組成物。
(3)さらに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の藻類抑制剤組成物。
(4)マグネシウム化合物およびカルシウム化合物を実質的に含まないことを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物。
(5)塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まないことを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物。
(6)(1)から(5)のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物を処理対象に添加することを特徴とする藻類抑制方法。
(7)(1)から(5)のいずれかに記載の藻類抑制剤組成物を処理対象としての水系に添加するに際し、所定日数以上の間隔を置いて繰り返し添加することを特徴とする藻類抑制方法。
である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の藻類抑制剤組成物は、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、安定化剤として2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルを含有し、硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない水性製剤とすることで、従来の3-イソチアゾロン系化合物では得られない長期間安定した藻類抑制効果を発揮することが可能となった。また、藻類抑制剤組成物として、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンに加えて2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含有すること、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物を実質的に含まないこと、塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まない配合とすることで、藻類抑制効果をより長期に渡り継続させることが可能となると共に、人体や環境に対する安全性の高い藻類抑制剤組成物とすることが可能となる。
【0014】
一方、本発明の藻類抑制剤を処理対象に添加する本発明の藻類抑制方法によれば、その長期間安定した藻類抑制効果から、藻類抑制効果を持続させることができる。特に、処理対象としての水系に添加するに際し、添加頻度を所定日数以上、例えば4週間以上の間隔とすることができ、この場合、耐性菌の出現を抑えることができるとともに、薬剤補充等の手間の削減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の藻類抑制剤組成物は、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、好ましくは2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン(以下、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを合わせて本発明の3-イソチアゾロン化合物とも云う)を含有し、硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない。本発明の藻類抑制剤組成物は、マグネシウム化合物およびカルシウム化合物を実質的に含まないことが好ましく、さらに塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まないことが好ましい。
【0016】
本発明の藻類抑制剤組成物の処理対象としては、ボイラ水系(蒸気復水系を含む)、冷却水系、冷温水系、用排水系、給湯・給水系、製紙工程水、プール・温浴施設、水景施設等の各種水系の他、切削油、塗料、でんぷん糊、接着剤、パルプ、ラテックス、木材、繊維、皮革、化粧品等が挙げられるが、これらに限定されず、藻類の繁殖を抑制する必要がある処理対象に広く適用することができる。
【0017】
本発明の藻類抑制剤組成物に含有される5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの含有比率としては、0.5~20質量%程度の範囲であることが好ましく、1~15質量%の範囲がより好ましい。一方、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの含有比率としては、0.001~2質量%程度の範囲であることが好ましく、0.01~1.5質量%の範囲がより好ましい。
【0018】
本発明の藻類抑制方法において、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンは、処理対象への添加濃度が3-イソチアゾロン化合物の合計濃度として通常0.1mg/L以上1000mg/L以下となるように添加する。好ましい濃度範囲は0.5mg/L以上500mg/L以下、より好ましくは1mg/L以上100mg/L以下である。これらの添加量が少な過ぎると本発明の効果が十分には得られなくなる恐れがあり、また、逆に過剰に添加しても、添加量の増加に伴う効果の向上は少なく、ランニングコストを上昇させる。
【0019】
本発明の藻類抑制剤組成物として、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物が用いられる際には、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの質量比は、一般に99:1から0.5:99.5、好ましくは95:5から2:98、より好ましくは90:10から70:30である。
【0020】
本発明の藻類抑制剤は、処理対象に添加することで用いる。その長期間安定した藻類抑制効果から、藻類抑制効果を持続させることができる。本発明の藻類抑制剤組成物を、処理対象としての水系に添加する場合の添加方法としては、水系中で3-イソチアゾロン化合物の濃度が一定以上に維持されるように連続的に添加する方法、ある程度高濃度の薬剤を間欠的に添加する方法(以下、高濃度間欠添加方法と云う。)、あるいは両者を併用する方法(例えば、ある程度高濃度の薬剤を連続的に添加して、高濃度側の閾値に達したら添加を停止し、さらに低濃度側の閾値に近づいたら同じ薬剤の添加を開始する操作を繰り返す方法が挙げられる。)を採ることができ、いずれの場合も本発明に含まれる。ただし、耐性菌の出現を極力抑えることができることから、高濃度間欠添加方法とすることが好ましい。添加頻度としては、所定日数以上の間隔とすればよく、具体的には、2週間以上の間隔とすることが好ましく、4週間以上の間隔とすることがより好ましい。この場合の好ましい添加濃度は、3-イソチアゾロン化合物の合計濃度として1mg/L以上100mg/L以下であり、より好ましくは2mg/L以上20mg/L以下である。
【0021】
本発明において、「実質的に含まない」とは、各種原料や希釈溶媒中に不純物として含まれるものを除き、積極的に添加しないことを指す。具体的な添加量としては、例えば、それぞれ以下の通りである。「硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない」とは、藻類抑制剤組成物の質量を基準にして、0.1質量%未満、好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.001質量%未満の濃度でしか硝酸化合物および亜硝酸化合物を含まないことを意味する。また、「マグネシウム化合物およびカルシウム化合物を実質的に含まない」とは、藻類抑制剤組成物の質量を基準にして、0.1質量%未満、好ましくは0.03質量%未満、最も好ましくは0.005質量%未満の濃度でしかマグネシウム化合物およびカルシウム化合物を含まないことを意味する。さらに、「塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まない」とは、藻類抑制剤組成物の質量を基準にして0.1質量%未満、好ましくは0.01質量%未満、最も好ましくは0.001質量%未満の濃度でしかそれぞれの物質を含まないことを意味する。
【0022】
本発明において、実質的に含まない硝酸化合物としては、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸銅、硝酸アンモニウムおよび硝酸アミル等が挙げられ、実質的に含まない亜硝酸化合物としては、亜硝酸、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸リチウム、二亜硝酸銅、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸アミル、亜硝酸エチル、亜硝酸ブチルおよび亜硝酸ヘキシル等が挙げられる。
【0023】
5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、好ましくはさらに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを含有し、硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まず、水性製剤であれば、本発明の藻類抑制剤組成物を構成する。加えて、本発明の藻類抑制剤組成物は、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、を実質的に含まないことが好ましい。
【0024】
本発明において、実質的に含まないことが好ましいマグネシウム化合物としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、実質的に含まないことが好ましいカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0025】
本発明において、実質的に含まないことが好ましい塩素酸化合物としては、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸およびそれらの塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、塩素酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム)等が挙げられ、実質的に含まないことが好ましい臭素酸化合物としては、次亜臭素酸、亜臭素酸、臭素酸、過臭素酸およびそれらの塩(例えば、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウム、臭素酸ナトリウム、過臭素酸ナトリウム)が挙げられ、実質的に含まないことが好ましいヨウ素酸化合物としては、次亜ヨウ素酸、亜ヨウ素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸およびそれらの塩(例えば、次亜ヨウ素酸ナトリウム、亜ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸ナトリウム、過ヨウ素酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0026】
本発明において、実質的に含まないことが好ましい重金属化合物としては、比重が4以上の金属、具体的には銀、鉛、銅、鉄、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、錫などから選ばれる金属の塩化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、炭酸塩、硫酸塩、カルボキシレートあるいはキレート等が挙げられ、具体的には例えば、塩化銅、硫酸銅、酸化銅、シアン化銅、などが挙げられる。
【0027】
本発明において、実質的に含まないことが好ましい有機溶媒としては、ポリオール(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびポリプロピレングリコールといったアルキレンオキシドグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ペンタンジオールおよび1,5-ペンタンジオールといったアルカンジオール、ならびにグリセロールといったアルカントリオール)、メチルセロソルブ、フェニルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルといったグリコールエーテル、酢酸およびプロピオン酸の(C1-C4)アルキルエステル(例えば、メチルアセテート、エチルアセテート、エチルプロピオネートおよびブチルアセテート)またはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートといったエステル、(C2-C4)アルコール(例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびtert-ブチルアルコール)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソホロンといったケトン、トルエン、キシレンといった芳香族、ならびにジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0028】
また、本発明において、実質的に含まないことが好ましい、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物としては、シクロデキストリンの他、テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’-エチリデンビスフェノール、等を挙げることができるが、これに限定されず、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンと包接化合物を形成するホスト化合物は全て本明細書に云うホスト化合物の概念に含まれる。
【0029】
本発明の藻類抑制剤組成物が、従来の3-イソチアゾロン化合物含有組成物と比較して藻類抑制効果に優れる理由は正確には明らかではないが、藻類の必須栄養源である硝酸塩を実質的に含有していないことが大きく影響しているものと推測される。加えて、本発明の藻類抑制剤は、その好ましい形態として細菌類や真菌類にとって栄養源となる有機溶媒や、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物を実質的に含まないので、スライムを形成する生物叢が発達しにくく、それが、長期間の藻類抑制効果に繋がっているものと推定される。
【0030】
本発明の藻類抑制剤組成物には、本発明の効果が妨げられない範囲で、さらにその特性を改良するなどの目的で、公知のスケール防止剤、スライムコントロール剤、防食剤等を適宜配合することができ、その場合も本発明に含まれる。例えば、アクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、リン酸系重合体、有機ホスホン酸、有機ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、あるいは、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド等のアルデヒド類、ヒドラジン、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネート等のチオシアネート系化合物、ピリチオン系化合物、ヨーネンポリマ、ビス型四級アンモニウム塩、ビス型四級アンモニウム塩以外の四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩等のカチオン系化合物などのスライム防止剤、更には、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、グルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の薬剤を併用することが可能である。
【0031】
本発明の条件を満たす5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、および、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、並びに、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合製剤としては、株式会社ケミクレア製のゾーネンNX(ZONEN-NX)を挙げることができる(本願の出願時、詳細成分について未公表)。ゾーネンNXは、硝酸化合物、亜硝酸化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、の全てを実質的に含まない本発明の藻類抑制剤組成物に該当する。
【0032】
ゾーネンNXは、硝酸化合物、亜硝酸化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素、重金属化合物、有機溶媒、および、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物、の全てを実質的に含んでいないにもかかわらず、その保存安定性は、硝酸化合物を安定化剤として含有する汎用の5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合製剤、例えばダウ・ケミカル社製のケーソンWT(KATHON WT)と同レベルであり、一方、藻類抑制効果は、従来の3-イソチアゾロン化合物含有組成物と比較して格段に優れている。
【0033】
表1に、ゾーネンNXの組成と、保存安定性試験の結果を他の3-イソチアゾロン製剤との比較とともに記載する。ここで、比較製剤1は3-イソチアゾロンに硝酸マグネシウムと塩化マグネシウムを配合して安定化させた、従来から存在する水性製剤であり、比較製剤2は比較製剤1において硝酸マグネシウムおよび塩化マグネシウムの配合量を各1%ずつに減少させた水性製剤である。なお、保存安定性試験は、55℃の恒温庫に密閉状態で保存した場合の外観の目視観察結果である。
【0034】
【表1】
【0035】
・CMIT:5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
・TEMPO:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル
・MIT:2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン
・酸化性物質:塩素酸化合物、臭素酸化合物、ヨウ素酸化合物、過酸化水素の合計
・ホスト化合物:5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンをゲスト化合物として包接化合物を形成するホスト化合物
・表中の濃度は全て質量パーセントであり、残部は水である。
・比較製剤1、2の硝酸化合物は安定化剤として添加した硝酸マグネシウム由来であり、全硬度は安定化剤として添加した硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム由来である。
【0036】
表1に示した通り、ゾーネンNXは従来公知の3-イソチアゾロン化合物の安定化剤を配合していないにも関わらず、従来から存在する水性製剤である比較製剤1と同程度の保存安定性を示している。一方、比較製剤2の保存安定性試験結果から明らかなように、従来組成において、単純に硝酸化合物、マグネシウム化合物の濃度を減少させてしまうと、3-イソチアゾロン化合物の安定性を確保することが困難になる。
【0037】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の藻類抑制剤組成物および藻類抑制方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の藻類抑制剤組成物および藻類抑制方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の藻類抑制剤組成物または藻類抑制方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例
【0038】
以下に、本発明の藻類抑制剤組成物の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0039】
<実機冷却水を用いたラボ試験>
各種藻類が冷却塔の上部水槽に繁殖している無処理の冷却水系から冷却水を採取し、これに実施例としてゾーネンNX(株式会社ケミクレア製)を、比較例としてケーソンWT(ダウ・ケミカル社製)を、それぞれ添加濃度を2、5、10mg/Lと変化させて添加して太陽光下で静置した。経時的に試験液の目視観察を行い、藻の発生が認められなかった場合を「-」、藻の発生がわずかに認められた場合を「±」、藻の発生が明らかに認められた場合を「+」、大量の藻の発生が認められた場合を「++」として評価し、各種の藻に対する効果を確認した。ここで、ケーソンWTは5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを10%、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを4%、硝酸マグネシウムを20%含有する3-イソチアゾロンの水性製剤である。
【0040】
主に粒状緑藻が繁殖している冷却水系から採取した冷却水を試験水とした場合(実施例1、比較例1)の結果を表2に、主に珪藻類が繁殖している冷却水系から採取した冷却水を試験水とした場合(実施例2、比較例2)の結果を表3に、主に藍藻類が繁殖している冷却水系から採取した冷却水を試験水とした場合(実施例3、比較例3)の結果を表4に、それぞれ示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
<模擬冷却塔による試験>
冷却塔の模擬試験装置(屋外に設置:水系水量は60Lで、ポンプにより循環)2台を用い、一方の水系(実施例4)にはゾーネンNXを、もう一方の水系(比較例4)にはケーソンWTを、1回当たりの水系への添加濃度が各々20mg/Lとなるように、4週間に1回の頻度で添加する試験を20週間継続して行った。結果、実施例4のゾーネンNX添加水系は、試験期間を通して藻類の発生が認められなかったのに対し、比較例4のケーソンWT添加水系では、8週目から粒状緑藻が観察されるようになり、試験期間の経過とともに系内の藻類の量が徐々に増加する状況が観察された。
【0045】
以上の実施例1~実施例4と比較例1~比較例4の結果より、本発明の硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含まない水性製剤である藻類抑制剤組成物が、従来公知の3-イソチアゾロン化合物含有組成物と比較して藻類抑制効果に優れている点が明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の藻類抑制剤組成物は、長期に藻類抑制効果を有しており、しかも硝酸化合物および亜硝酸化合物を実質的に含有していないので、水質汚濁防止法による規制の制約を受けることなく、各種水系、各種工業製品の藻類抑制剤として幅広く使用することができる。