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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20230807BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
G01N33/18 Z
A01K63/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019198169
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021071385
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000110778
【氏名又は名称】ニシム電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】大熊 康彦
(72)【発明者】
【氏名】横尾 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大薮 隆樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩幸
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-138653(JP,A)
【文献】特開平11-125625(JP,A)
【文献】国際公開第2016/203671(WO,A1)
【文献】特開2000-065710(JP,A)
【文献】特開昭58-052558(JP,A)
【文献】特開平01-260363(JP,A)
【文献】特開平03-176640(JP,A)
【文献】特開平08-189925(JP,A)
【文献】特開2009-168464(JP,A)
【文献】特開2016-129514(JP,A)
【文献】特開2008-268154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
G01N 33/18
A01K 63/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも気体の流通を可能とする流通領域と、液体及び気体の流通を不能とする非流通領域とから形成される筐体と、
前記筐体内に配設され、前記流通領域に接触する液体に含まれる溶存物質の前記筐体内の物質量を測定する測定センサと、
前記測定センサで測定された前記物質量の情報に基づいて、前記液体中における当該溶存物質の濃度を演算する演算手段とを備え
前記演算手段が、前記筐体内における前記溶存物質の物質量が収束する前の状態における前記物質量の所定時間当たりの変化量に基づいて、前記溶存物質の濃度を演算することを特徴とする測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の測定システムにおいて、
前記液体中における前記溶存物質の濃度に応じて、前記筐体内における前記溶存物質の物質量が収束するまでの前記所定時間当たりの前記物質量の変化が記憶された記憶手段を備え、
前記演算手段が、測定された前記物質量の所定時間当たりの変化量に相当する前記溶存物質の濃度情報を前記記憶手段から抽出する測定システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の測定システムにおいて、
前記筐体内の温度を測定する温度センサを備え、
前記演算手段が、前記温度センサで測定された温度に基づいて、当該温度における測定された前記物質量の所定時間当たりの変化量から前記溶存物質の濃度を演算する測定システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記筐体内の気圧を測定する気圧センサを備え、
前記演算手段が、前記気圧センサで測定された気圧に基づいて、当該気圧における測定された前記物質量の所定時間当たりの変化量から前記溶存物質の濃度を演算する測定システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記非流通領域に開閉可能に設けられる開口部を備える測定システム。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記流通領域に透湿防水シートが配設されている測定システム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の測定システムにおいて、
前記筐体の一部又は全部を前記液体に沈めた場合の浮力よりも大きい値の重さを有する錘を備える測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中の溶存物質の濃度を気体の環境下で測定する測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば魚の養殖などにおいて、養殖している水中の状態は魚の成育環境に大きく影響する。一例として、水中のアンモニア濃度が上昇してしまうと魚の成長が止まったり、最悪の場合は死滅する可能性もある。そのため、水中のアンモニアを測定するセンサが知られているが、水中での測定になるとセンサがすぐに劣化してしまい、メンテナンスに非常に多くの手間とコストが掛かってしまうという問題がある。
【0003】
また、例えば水中のアンモニア性窒素をアンモニアガスで測定する技術として特許文献1ないし3に示す技術が開示されている。特許文献1に示す技術は、アンモニア態窒素を含む水試料を強アルカリ性にすることによりアンモニア態窒素をアンモニアガスとして揮散させ、そのアンモニアを定量することからなる水中のアンモニア態窒素の分析方法において、試料を強アルカリによりpH12以上に調整するとともに80℃以下の温度に加温することによってアンモニアガスを揮散させ、生じたアンモニアガスを不活性キャリアガスによりアンモニア検出部に導出し、アンモニアを検出定量するものである。
【0004】
特許文献2に示す技術は、試料水供給路を通じて供給された試料水をアルカリ性にして該試料水中のアンモニウムイオンからアンモニアガスを生じさせるアルカリ化手段と、アルカリ化手段にて生じたアンモニアガスを取り込んで、該アンモニアガスをアンモニウムイオンと水酸基とに解離し、この水酸基の濃度に基づき、該試料水に含有されるアンモニウムイオンの濃度を検出するアンモニアセンサを有する測定器と、を具備するものである。
【0005】
特許文献3に示す技術は、検出器は、検水とアルカリを混合器内で混合接触させ当該検水中に含まれるアンモニア性窒素をアンモニアガスとして遊離させた後、分離カラムアンモニアガス透過分離カラム内でアンモニアガスを分離し、さらにこれとキャリアタンクから供給したキャリア(酸)と反応させ、この反応に伴うキャリアの内部電位変化量(電圧)の測定を行い、測定電圧は、アンモニア性窒素濃度算出のために図外の演算処理部に供給され、測定性能の維持を図るべく、検出器は恒温槽内に格納され、検水供給系は前記カラム洗浄のための洗浄液供給機能と前記検出器校正のための校正液供給機能とを備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭58-47254号公報
【文献】特開平8-189925号公報
【文献】特開2001-50932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記各特許文献に示す技術は、測定対象となる試料をアルカリ性に調整したり加熱する必要があり、作業に手間が掛かってしまうという課題を有する。また、例えば魚の養殖場における水中のアンモニア濃度測定のような場合には、養殖場の中央部分の試料を採取するのに採取者が水中に入水する等の前作業が必要となり、養殖場全体におけるアンモニア濃度の分布などを得るには非常に大きな手間が掛かってしまうという課題を有する。
【0008】
本発明は、液体中における測定対象となる溶存物質の濃度を、気体中の物質の量を測定することで求める測定システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る測定システムは、少なくとも気体の流通を可能とする流通領域と、液体及び気体の流通を不能とする非流通領域とから形成される筐体と、前記筐体内に配設され、前記流通領域に接触する液体に含まれる溶存物質の前記筐体内の物質量を測定する測定センサと、前記測定センサで測定された前記物質量の情報に基づいて、前記液体中における当該溶存物質の濃度を演算する演算手段とを備えるものである。
【0010】
このように本発明に係る測定システムにおいては、少なくとも気体の流通を可能とする流通領域と、液体及び気体の流通を不能とする非流通領域とから形成される筐体と、流通領域に接触する液体に含まれる溶存物質の筐体内の物質量を測定する測定センサと、測定された前記物質量の情報に基づいて、液体中における溶存物質の濃度を演算する演算手段とを備えるため、測定センサを液体に浸漬させることなく当該液体中における溶存物質の濃度を検出することが可能となり、測定センサを長持ちさせてメンテナンスの手間とコストを最小限に抑えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る測定システムのシステム構成を示す図である。
図2】第1の実施形態に係る測定システムにおけるセンサ部の構造を示す模式図である。
図3】第1の実施形態に係る測定システムにおける演算装置のハードウエア構成の一例を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る測定システムの原理を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る測定システムの第1の機能ブロック図である。
図6】第1の実施形態に係る測定システムのシミュレーション結果を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る測定システムの第2の機能ブロック図である。
図8】第1の実施形態に係る測定システムの第3の機能ブロック図である。
図9】第2の実施形態に係る測定システムにおけるセンサ部の構造を示す模式図である。
図10】第3の実施形態に係る測定システムにおけるセンサ部の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0013】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る測定システムについて、図1ないし図8を用いて説明する。本実施形態に係る測定システムは、液体中に含まれる溶存物質の濃度を気体の状態で検出するものである。なお、本実施形態においては、例えば鯰の養殖場におけるアンモニア濃度を密閉された筐体内で気体の状態で検出する測定システムについて具体的に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る測定システムのシステム構成を示す図である。測定システム1は、鯰が養殖されている養殖場に設置されるセンサ部10と、センサ部10で測定された情報を受信して養殖場におけるアンモニア濃度を演算する演算装置20とを備え、センサ部10と演算装置20とは相互に無線又は有線によるデータ通信が可能な状態になっている。センサ部10は、少なくとも一部が養殖場の水中に浸漬された状態で設置され、養殖場の水分が気化する過程における気体中のアンモニアの物質量(又は分子数でもよい)を検知する。検知された物質量の情報はリアルタイム又は一括して演算装置20に送信され、演算装置20において養殖場の水中のアンモニア濃度が演算される。
【0015】
図2は、本実施形態に係る測定システムにおけるセンサ部の構造を示す模式図である。センサ部10は、少なくとも気体を流通可能とする流通領域としての矩形状の上面部11Aと、液体及び気体を流通不可とする非流通領域としての矩形状の側面部11B及び底面部11Cとからなる筐体11と、筐体11内に収納され、測定対象となる水分(養殖場の水であって様々な成分を含むもの)が気化したガス中に含まれるアンモニアの物質量を測定するアンモニアセンサ12と、アンモニアセンサ12が測定した結果を演算装置20に送信する送信機13とを備える。
【0016】
流通領域である上面部11Aには、少なくとも気体の水蒸気は透過し、液体の水は透過しない透湿防水シート14が貼付されており、筐体11内部に水分が流入するのを防止すると共に、上面部11Aから蒸発する水蒸気が筐体11内部に貯留される。
【0017】
なお後述するように、センサ部10は使用状態において上面部11A側から水中に浸漬される。そのため、状態が安定している場合は透湿防水シート14を貼付しなくても空気圧により水分が筐体11内に流入することはないが、波や振動などで筐体11が傾いたり魚により水流が発生した場合には、筐体11のバランスが崩れて筐体11内に水分が流入してしまう。したがって、透湿防水シート14は必ずしも流通領域に貼付されていなくてもよいが、筐体11内への水分の流入をより確実に防止するためには、流通領域に透湿防水シート14が貼付されることが望ましい。
【0018】
また、本実施形態において上面部11Aを流通領域、側面部11B及び底面部11Cを非流通領域としているが、流通領域と非流通領域とは任意の部分に配置することが可能であり、複数領域に及んでもよい。すなわち、筐体11の一部又は全部を沈めたときに、少なくとも筐体11の内部が密閉された状態で、且つ透湿防水シート14を介して又は直接的に筐体11の内部の気体と水中の水とが接触するように流通領域と非流通領域とが設けられればよい。
【0019】
筐体11内にはアンモニアセンサ12が配設されており、流通領域を介して水中から水蒸気と共に筐体11内に気化したアンモニアの物質量を測定する。筐体11内は密閉された空間になっているため、所定時間を掛けて気液平衡状態となり、いずれ飽和する。詳細を後述するが、本発明においては、流通領域が水中に浸漬されてからアンモニアが飽和するまでのアンモニアセンサ12のセンシング結果から水中のアンモニア濃度が演算される。
【0020】
送信機13は、アンモニアセンサ12がセンシングした結果を演算装置20に送信する。また、後述するように、筐体11内に温度センサや気圧センサを設置した場合には、それらの情報もまとめて演算装置20に送信する。なお、図2においては、アンモニアセンサ12と送信機13とを別体の部品として記載しているが、それらを一体的な構成にして通信機能付きのアンモニアセンサ12としてもよい。
【0021】
図3は、演算装置20のハードウエア構成の一例を示す図である。演算装置20は、例えば一般的なパーソナルコンピュータ(PC)、タブレット型端末、携帯端末等を用いることができる。図3において、演算装置20は、CPU210、RAM220、ROM230、ハードディスク(HDとする)240、通信I/F250及び入出力I/F260を備える。ROM230やHD240には、オペレーティングシステム、プログラム、データベース等が格納されており、必要に応じてプログラムがRAM220に読み出され、CPU210により実行される。
【0022】
通信I/F250は、例えば送信機13からの情報を受信するような通信を行うためのインタフェースである。入出力I/F260は、タッチパネル、キーボード、マウス等の入力機器からの入力を受け付けたり、プリンタやディスプレイ等にデータを出力するためのインタフェースである。この入出力I/F260は、必要に応じて光磁気ディスク、CD-R、DVD-R等のリムーバブルディスク等に対応したドライブを接続することができる。各処理部はバスを介して接続され、情報のやり取りを行う。なお、上記ハードウェアの構成はあくまで一例であり、必要に応じて変更可能である。
【0023】
図4は、本実施形態に係る測定システムの原理を示す図である。図4(A)は、センサ部10の一部が水中に浸漬している場合、図4(B)は、センサ部10の全体が水中に浸漬している場合を示す。使用状態においては、図4に示すように、流通領域である上面部11Aを下にして測定対象となる水中に筐体11を浸漬する。このとき、少なくとも流通領域の空間において液体と気体とが境界(透湿防水シート14を有する場合は当該透湿防水シート14)を挟んで介在できるように水中に設置される。
【0024】
流通領域の境界部分では、図4(A)及び図4(B)のいずれの場合においても蒸発と凝縮が行われ、いずれ気液平衡状態(飽和状態)となる。養殖場の水中においては様々な成分が溶存しており、その一つにアンモニアが含まれる。このとき、水中におけるアンモニア濃度が高ければ筐体11内でアンモニアが飽和するまでの時間が短くなり、水中のアンモニア濃度が低ければ筐体11内でアンモニアが飽和するまでの時間が長くなる。本実施形態においては、筐体11内における所定の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化を測定することで、水中のアンモニア濃度を求める。
【0025】
図5は、本実施形態に係る測定システムの第1の機能ブロック図である。センサ部10は、アンモニアセンサ12と送信機13とを備え、アンモニアセンサ12のセンシング結果が送信機13により演算装置20に送信される。このとき、例えば、送信機13が予め定められた単位時間(例えば、数秒~数分程度)ごとにアンモニアセンサ12のセンシング結果を演算装置20に送信するようにしてもよいし、アンモニアセンサ12が予め定められた単位時間ごとにセンシングを行い、その結果を送信機13に渡すようにしてもよいし、アンモニアセンサ12のセンシング結果を送信機13がリアルタイムに常時送信するようにしてもよい。
【0026】
演算装置20は、センサ部10から送信された測定結果から水中のアンモニア濃度を算出する演算部21と、演算結果をディスプレイ30などに出力する出力制御部22とを備える。前述したように、演算装置20では、センサ部10から送信された単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化に基づいて、水中におけるアンモニア濃度が算出される。具体的には、以下のような算出方法により水中におけるアンモニア濃度を算出することが可能である。
【0027】
【数1】
【0028】
m(t)は筐体11内の時間tにおけるアンモニア物質量、αが計測環境の補正係数、βがオフセット値である。これにより、時間tにおける筐体11内のアンモニア物質量の変化から水中におけるアンモニア濃度が得られる。なお、α及びβは装置の特性や測定環境に応じて任意に設定される。ここで、上記演算に基づいたシミュレーション結果を図6に示す。図6において、横軸が時間で縦軸が筐体11内の飽和率(飽和状態を1とした場合に、筐体11内におけるアンモニア量の飽和状態に対する割合を示すもの)であり、水中のアンモニア濃度が1ppm~10ppmのそれぞれの場合における時間と筐体11内の飽和率との関係を示している。図6から明らかなように、水中のアンモニア濃度が高い程、短時間で筐体11内が飽和している。すなわち、筐体11内が飽和に至るまでのアンモニアの物質量の変化から水中のアンモニア濃度を求めることが可能である。なお、図6に示すシミュレーション結果はあくまで一例として示すものであり、実測においては環境パラメータなどの違いにより異なる結果になり得るものである。
【0029】
このようにして算出された水中のアンモニア濃度がディスプレイ30に表示される。このとき、出力制御部22は、予め設定した濃度以上(これ以上濃度が濃くなると養殖している魚に影響が出る可能性があるような濃度以上)である場合には、警告と共に出力するようにしてもよい。警告は音、色、点滅等の視覚や聴覚に訴える態様であることが望ましい。
【0030】
図7は、本実施形態に係る測定システムの第2の機能ブロック図である。図5の構成と異なるのは、水中におけるアンモニアの濃度に応じて、筐体11内におけるアンモニアの物質量が収束するまでの単位時間あたりの物質量の変化が記憶された記憶部23を新たに備え、演算部21が、センサ部10から送信されたセンシング結果に対応するアンモニア濃度を記憶部23から抽出することである。すなわち、記憶部23には、水中のアンモニア濃度がX%の場合には、筐体11内の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化がYmolといった情報が格納されており、センサ部10の測定で得られたYmolの情報からアンモニア濃度X%を抽出することが可能となる。
【0031】
ここで、筐体11内における単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化は、飽和蒸気圧に依存することから、温度及び気圧によって異なる。すなわち、測定時に温度及び/又は気圧を測定し、それぞれの温度及び/又は気圧における筐体11内の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化から水中のアンモニア濃度を算出することで、より正確に求めることが可能となる。図8は、本実施形態に係る測定システムの第3の機能ブロック図である。図7の構成と異なるのは、筐体11内に当該筐体11内の温度を測定する温度センサ15と、気圧を測定する気圧センサ16とを備え、送信機13がアンモニアセンサ12のセンシング結果と共に、温度センサ15及び気圧センサ16の測定結果も演算装置20に送信する。演算装置20では、記憶部23に所定温度T℃及び所定気圧PhPaにおける水中のアンモニア濃度X%に応じた筐体11内の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化Ymolが記憶されており、演算部21が、センサ部10から送信された温度、気圧及びアンモニアの物質量の変化に基づいて、それらに対応するアンモニア濃度を記憶部23から抽出する。
【0032】
このように、温度や気圧も考慮することでより正確なアンモニア濃度を求めることが可能となる。なお、図8においては、記憶部23に所定温度及び所定気圧における水中のアンモニア濃度に応じた筐体11内の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化を記憶する構成としたが、図5の場合と同様に以下の演算により水中のアンモニア濃度を求めるようにしてもよい。
【0033】
【数2】
【0034】
m(t)は筐体11内の時間tにおけるアンモニア物質量、τが温度係数、ρが圧力係数、αが計測環境の補正係数、βがオフセット値である。これにより、時間tにおける筐体11内のアンモニア物質量の変化に加えて、測定時の温度及び気圧を考慮した水中における濃度が得られる。
【0035】
また、図8においては、センサ部10に温度センサ15及び気圧センサ16を備える構成としたが、いずれか一方のみを備える構成であってもよい。その場合、記憶部23には所定温度又は所定気圧のいずれか一方における水中のアンモニア濃度に応じた筐体11内の単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化を記憶するようにしてもよい。
【0036】
このように、本実施形態に係る測定システムにおいては、少なくとも気体の流通を可能とする流通領域と、液体及び気体の流通を不能とする非流通領域とから形成される筐体11と、流通領域に接触する水に含まれるアンモニアの筐体11内の物質量を測定するアンモニアセンサ12と、測定された前記物質量の情報に基づいて、水中におけるアンモニアの濃度を演算する演算部21とを備えるため、アンモニアセンサ12を水中に浸漬させることなく当該水中におけるアンモニアの濃度を検出することが可能となり、アンモニアセンサ12を長持ちさせてメンテナンスの手間とコストを最小限に抑えることができる。
【0037】
また、筐体11内におけるアンモニアの物質量が収束(又は飽和)する前の状態における物質量の所定時間当たりの変化量に基づいて、アンモニアの濃度を演算するため、筐体11内においてアンモニアが飽和するまでの物質量の変化(水中におけるアンモニアの濃度が高い場合は短時間に飽和に向かい、低い場合は長時間を要する)を利用して水中におけるアンモニアの濃度を推定することが可能になる。
【0038】
さらに、水中におけるアンモニアの濃度に応じて、筐体11内におけるアンモニアの物質量が収束するまでの所定時間当たりの物質量の変化が記憶された記憶部23を備えるため、筐体11内においてアンモニアが飽和するまでの物質量の変化を利用して、対応する水中におけるアンモニアの濃度を記憶部23から抽出し、アンモニアの濃度を容易に求めることができる。
【0039】
さらにまた、筐体11内の温度を測定する温度センサ15を備え、温度センサ15で測定された温度に基づいて、当該温度における測定された物質量の所定時間当たりの変化量からアンモニアの濃度を演算するため、温度に応じて変化する飽和蒸気圧に基づいた物質量の変化を考慮することができ、アンモニアの濃度を正確に求めることができる。
【0040】
さらにまた、筐体11内の気圧を測定する気圧センサ16を備え、気圧センサ16で測定された気圧に基づいて、当該気圧における測定された物質量の所定時間当たりの変化量からアンモニアの濃度を演算するため、気圧に応じて変化する飽和蒸気圧に基づいた物質量の変化を考慮することができ、アンモニアの濃度を正確に求めることができる。
【0041】
なお、上記の実施形態においては鯰の養殖場におけるアンモニア濃度の測定を一例として説明したが、アンモニアの濃度に限らず他の物質の濃度を測定するようにしてもよく、また、水中における濃度に限らず任意の液体に溶存している溶存物質の濃度であれば本実施形態に係る測定システムを適用して算出することが可能である。
【0042】
(本発明の第2の実施形態)
本実施形態に係る測定システムについて、図9を用いて説明する。本実施形態に係る測定システムは、前記第1の実施形態に係る測定システムの変形例であり、非流通領域に開閉可能に設けられる開口部を備えるものである。なお、本実施形態において前記第1の実施形態と重複する説明は省略する。
【0043】
図9は、本実施形態に係る測定システムのセンサ部の構造を示す図である。前記第1の実施形態における図2の構造と異なるのは、筐体11の非流通領域である側面部分の対向する2面に開閉可能な開口部17a,17bが設けられていることである。本発明においては、筐体11内が飽和状態になる前における単位時間あたりのアンモニアの物質量の変化を測定する必要があるため、例えば、水中のアンモニア濃度が濃い場合、筐体11の容積が小さい場合、上面部11Aの表面積が大きいような場合には、極めて短時間に筐体11内が飽和してしまう可能性がある。筐体11内が飽和してしまうと、それ以上筐体11内のアンモニアの物質量が変化しないため水中の濃度を求めることができない。このような場合に、上記の開口部17a,17bを水面より上の位置で開放することで筐体11内の環境を大気下に初期化し、再び開口部17a,17bを閉じた時点から筐体11内のアンモニアの物質量の変化を測定することで、改めて水中のアンモニア濃度を再測定することが可能となる。
【0044】
なお、上述したように、開口部17a,17bを開放する場合は水面より上の位置で行わないと筐体11内に水が浸水してしまうため、図4(A)に示す場合のように、センサ部10の一部のみが水中に浸漬している場合に特に有効的となる。
【0045】
また、本実施形態にように筐体11内を大気で初期化しなくても、温度や気圧(飽和状態に関連するパラメータ)に変化が生じることで筐体11内の状態が変化し、その変化に伴ってアンモニア濃度が変わることで、前記第1の実施形態の場合と同様に筐体11内におけるアンモニアの物質量の変化から水中のアンモニア濃度を求めることが可能である。
【0046】
(本発明の第3の実施形態)
本実施形態に係る測定システムについて、図10を用いて説明する。本実施形態に係る測定システムは、前記各実施形態に係る測定システムを用いたものであり、任意の深さにおける溶存物質の濃度を求めるものである。なお、本実施形態において前記各実施形態と重複する説明は省略する。
【0047】
図10は、本実施形態に係る測定システムのセンサ部の構造を示す図である。前記第1の実施形態における図2の構造や第2の実施形態における図9の構造と異なるのは、測定時に下側になる筐体11の上面部11Aの四方から、筐体11に掛かる浮力よりも大きい値の重さを有する錘18が吊設されている点である。すなわち、筐体11を水中に投入した場合に錘18の重さにより筐体11が沈み、水中の底に錘18が到着した時点でその重さによりある程度位置が固定される。また、錘18と筐体11との間の距離は任意に変更することが可能となっており、水中の底から任意の距離(高さ)におけるアンモニア濃度を求めることが可能となっている。
【0048】
なお、測定時に上側になる筐体11の底面部11cの四方から、錘18の重さよりも大きい浮力を有する浮きを配設することで、水面から任意の距離(高さ)におけるアンモニア濃度を求めることも可能である。この場合、水中の底ではなく水面の高さが基準となるため、水中の底が凹凸状で不安定であるような環境であっても、安定した高さの測定を行うことが可能となる。
【0049】
また、演算装置20は、平面状に複数の位置で測定した情報と複数の深さで測定した情報とを用いて3次元のアンモニア濃度のマップを作成し、出力するようにしてもよい。
【0050】
このように本実施形態に係る測定システム1においては、筐体11の一部又は全部を水中に沈めた場合の浮力よりも大きい値の重さを有する錘18を備えるため、水中に沈めた状態で濃度を求めることが可能となり、深さ方向の濃度分布を得ることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 測定システム
10 センサ部
11 筐体
11A 上面部
11B 側面部
11C 底面部
12 アンモニアセンサ
13 送信機
14 透湿防水シート
15 温度センサ
16 気圧センサ
17a,17b 開口部
18 錘
20 演算装置
21 演算部
22 出力制御部
23 記憶部
30 ディスプレイ
210 CPU
220 RAM
230 ROM
240 HD(HARD DISK)
250 通信I/F
260 入出力I/F
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10