(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】設計支援装置
(51)【国際特許分類】
G06F 30/13 20200101AFI20230807BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230807BHJP
E04H 1/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
G06F30/13
E04H9/02 321A
E04H1/00
(21)【出願番号】P 2019200650
(22)【出願日】2019-11-05
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】504093467
【氏名又は名称】トヨタホーム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100161230
【氏名又は名称】加藤 雅博
(72)【発明者】
【氏名】森下 俊直
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-026303(JP,A)
【文献】特開2008-297897(JP,A)
【文献】特開2000-096699(JP,A)
【文献】特開2000-235591(JP,A)
【文献】検証3 建築王,パドマガ,第13号,株式会社建築知識,1997年12月25日,pp. 110 - 112
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
E04H 9/02
E04H 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐力壁を備える建物を対象として、その対象建物に前記耐力壁を配置する際の設計支援を行う設計支援装置であって、
前記対象建物に作用する所定の水平力に抵抗するために前記対象建物に必要な前記耐力壁の長さの総和を必要壁長さとして算出する必要壁長さ算出手段と、
前記算出された前記必要壁長さを満たす最低限の前記耐力壁を前記対象建物に仮配置する耐力壁仮配置手段と、
前記対象建物に前記仮配置した前記耐力壁の配置位置に基づいて、当該耐力壁の有効壁長さを算出する有効壁長さ算出手段と、
前記対象建物に前記仮配置した複数の前記耐力壁のうち、前記有効壁長さが比較的大きい前記耐力壁を、当該耐力壁よりも壁長さの大きい前記耐力壁に置き換える耐力壁置換手段と、
を備えることを特徴とする設計支援装置。
【請求項2】
前記耐力壁置換手段は、前記対象建物に前記仮配置した複数の前記耐力壁のうち、前記有効壁長さが最も大きい前記耐力壁を、当該耐力壁よりも壁長さの大きい前記耐力壁に置き換えることを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建物には、建物にかかる地震や風圧等の水平力に抵抗すべく耐力壁が設けられる場合がある。耐力壁を有する建物を設計するにあたっては、耐力壁を建物においてどの位置に配置するかを決定する配置設計が行われる。この配置設計では、建築基準法等で定められる種々の基準を満たすように、耐力壁が建物に配置されることになる。また、近年では、こうした配置設計を自動で行う設計支援システムも一部で提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
耐力壁を有する建物では、建物に作用する地震力や風圧力に抵抗するために必要な耐力壁の長さ(詳しくは耐力壁の長さの総和)が必要壁長さとして予め決まっている。そのため、耐力壁の配置設計に際しては、耐力壁の長さが必要壁長さ以上となるように、耐力壁を建物に配置する必要がある。
【0004】
ここで、耐力壁の配置設計を行う際には、例えば以下のような手順で配置設計を行うことが考えられる。まず、耐力壁の長さが、必要壁長さに余裕度(余裕度は1よりも大きい)を乗じた値よりも大きくなるよう、耐力壁を建物に仮配置する。この場合、安全を見て耐力壁が建物に過剰気味に配置されることになる。耐力壁の仮配置を行った後、耐力壁の配置について詳細設計を行う。この詳細設計では、仮配置した耐力壁の一部を建物から取り除くことで、耐力壁が建物全体においてバランスよく配置されるよう、耐力壁の配置について調整を行う。この詳細設計においては、例えば建物の剛心が建物の重心に近づくように、建物から耐力壁を順次取り除いていくことで、バランスのよい耐力壁の配置を行う。このような手順によれば、耐力壁を建物に最適なバランスで配置することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した耐力壁の配置設計の手順では、まず耐力壁を建物に過剰気味に仮配置し、その後、詳細設計において仮配置した耐力壁の一部を取り除いていくことで、耐力壁の最適配置を行っている。このような手順で耐力壁の配置設計を行う場合、詳細設計時における耐力壁の取り除き方によっては、耐力壁が十分に削減されないことが想定される。その場合、建物において耐力壁が必要以上に配置されることになり、建物コストの増大等の不都合を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、建物に耐力壁を適切に配置することができる設計支援装置を提供することを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、第1の発明の設計支援装置は、耐力壁を備える建物を対象として、その対象建物に前記耐力壁を配置する際の設計支援を行う設計支援装置であって、前記対象建物に作用する所定の水平力に抵抗するために前記対象建物に必要な前記耐力壁の長さの総和を必要壁長さとして算出する必要壁長さ算出手段と、前記算出された前記必要壁長さを満たす最低限の前記耐力壁を前記対象建物に仮配置する耐力壁仮配置手段と、前記対象建物に前記仮配置した前記耐力壁の配置位置に基づいて、当該耐力壁の有効壁長さを算出する有効壁長さ算出手段と、前記対象建物に前記仮配置した複数の前記耐力壁のうち、前記有効壁長さが比較的大きい前記耐力壁を、当該耐力壁よりも壁長さの大きい前記耐力壁に置き換える耐力壁置換手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、耐力壁の配置設計に際し、まず対象建物に耐力壁が仮配置される。この仮配置においては、対象建物に必要壁長さを満たす最低限の耐力壁が仮配置される。したがって、この仮配置では、余裕度が加味されることなく、対象建物に必要最低限の耐力壁が仮配置される。
【0010】
ここで、対象建物に配置される耐力壁は、通常、梁の上に設置されるため、耐力壁に作用する鉛直荷重により梁がたわむこと考えられる。この場合、そのようなたわんだ梁の上に設置される耐力壁はその耐力が低減することになり、換言すると耐力壁の実長さ分の耐力よりも低い耐力しか発揮できないことになる。そこで、本発明では、対象建物に配置された耐力壁について、実際にはどれくらいの壁長さの耐力壁の耐力しか発揮できないかを算出することとしており、つまりは、当該耐力壁の有効壁長さを算出することとしている。
【0011】
具体的には、梁上に仮配置された耐力壁は、梁のたわみが大きいほどその耐力が低減すると考えられ、換言すると、梁のたわみが大きいほどその有効壁長さが小さくなると考えられる。また、梁のたわみの大きさは、梁上に配置される耐力壁の配置位置によって変わると考えられる。例えば、耐力壁が梁を下方から支える柱の真上に位置しているか否か等に応じて、変わると考えられる。そのため、耐力壁の有効壁長さは、結局のところ、対象建物における耐力壁の配置位置に応じて決まると考えられる。そこで、耐力壁の有効壁長さを算出するに際しては、対象建物における耐力壁の配置位置に基づき、当該耐力壁の有効壁長さを算出することとしている。
【0012】
そして、仮配置された複数の耐力壁のうち、有効壁長さが比較的大きい耐力壁を、それよりも壁長さの大きい耐力壁に置き換えるようにしている。この場合、複数の耐力壁のうち、耐力をより発揮する位置に配置された耐力壁が、それよりも大きな耐力を有する耐力壁に置き換えられることになる。このため、その置き換えにより、耐力壁の耐力を大きく向上させることが可能となる。この場合、必要最低限の耐力壁を仮配置した時点から耐力壁の数が大きく増えることなく、対象建物に必要な耐力壁を配置することが可能となる。これにより、対象建物に耐力壁を配置するにあたり、耐力壁が必要以上に配置されるのを抑制することができ、耐力壁を適切に配置することが可能となる。
【0013】
第2の発明の設計支援装置は、第1の発明において、前記耐力壁置換手段は、前記対象建物に前記仮配置した複数の前記耐力壁のうち、前記有効壁長さが最も大きい前記耐力壁を、当該耐力壁よりも壁長さの大きい前記耐力壁に置き換えることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、対象建物に仮配置された複数の耐力壁のうち、有効壁長さが最も大きい耐力壁を、当該耐力壁よりも壁長さの大きい耐力壁に置き換えることとしている。この場合、その置き換えにより、耐力壁の耐力をより効果的に向上させることが可能となる。そのため、必要最低限の耐力壁を仮配置した時点から耐力壁の数が増えるのをより一層抑えながら、対象建物に必要な耐力壁を配置することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】耐力壁の配置調整の流れを説明するための平面図。
【
図6】耐力壁配置再調整処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を具体化した一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、建物に耐力壁を配置する際の設計支援を行う設計支援装置について具体化している。以下においては、設計支援装置の説明を行うに先立ち、まず設計支援装置による設計支援の対象となる建物の一例について説明する。本実施形態では、建物が、鉄製の柱と梁とにより骨組みが構築される鉄骨軸組工法による3階建ての建物とされている。以下では、この建物の概要について
図1を参照しながら説明する。なお、
図1は、建物の構成を示す平面図であり、建物の二階部分を示している。
【0017】
図1に示すように、建物10には、その外周部に設けられる外壁11aと、隣り合う屋内空間を間仕切る間仕切り壁11bとが設けられている。建物10では、これら外壁11a及び間仕切り壁11bにより壁部11が形成されている。また、建物10には、壁部11の内部に耐力壁15が設けられている。耐力壁15は、例えばラチス柱からなり、建物10の各階にそれぞれ複数ずつ配置されている。また、耐力壁15は、建物10において梁の上に立設されており、その下端部が梁に対して接合金物等を用いて接合(固定)されている。
【0018】
なお、建物10において互いに直交する2つの方向をそれぞれX方向及びY方向とした場合、建物10には、X方向に延びる耐力壁15と、Y方向に延びる耐力壁15とがそれぞれ配置されている。
【0019】
建物10には、耐力壁15として、壁長さ(換言すると壁幅)の異なる複数種類(具体的には2種類)の耐力壁15が用いられている。これらの耐力壁15のうち、壁長さの小さい耐力壁15は耐力壁15aであり、壁長さの大きい耐力壁15は耐力壁15bである。本実施形態では、耐力壁15aの壁長さが耐力壁15bの壁長さの半分とされ、例えば耐力壁15aの壁長さが500mm(0.5m)、耐力壁15bの壁長さが1000mm(1.0m)とされている。また、耐力壁15aは、その耐力が耐力壁15bの半分に設定されている。
【0020】
続いて、設計支援装置20について
図2に基づいて説明する。
図2は、設計支援装置20の概略構成を示す図である。
【0021】
図2に示すように、設計支援装置20は、パーソナルコンピュータにより構成され、建物の設計を行うためのCADプログラムを有している。設計支援装置20は、制御部21と、操作部22と、表示部23と、記憶部24とを備える。制御部21は、建物10に耐力壁15を配置する際の設計支援処理等、各種処理を行うものである。操作部22は、設計支援処理に必要な各種情報を入力するためのもので、キーボードやマウス等を備えて構成されている。表示部23は、設計支援処理に関する各種情報を表示するもので、ディスプレイからなる。記憶部24は、設計支援処理に必要な各種情報を記憶するものである。
【0022】
次に、設計支援装置20により行われる設計支援処理の流れについて
図3に基づいて説明する。
図3は設計支援処理を示す機能ブロック図である。なお、
図3中の各ブロックは制御部21により実現されている。また、以下では、上述した建物10を対象に設計支援処理を行うことを想定しており、設計支援装置20の記憶部24には、建物10のCADデータ(設計データ)があらかじめ記憶されているものとする。詳しくは、記憶部24には、建物10に耐力壁15が配置される前のCADデータがあらかじめ記憶されているものとする。なお、建物10が対象建物に相当する。
【0023】
図3に示すように、建物データ取得部31は、記憶部24より建物10のCADデータを読み出して取得する。建物10のCADデータには、建物10の外形や間取りに関するデータや、建物10を構成する各種部材のデータ等が含まれている。本設計支援処理では、この建物データ取得部31により取得した建物10のCADデータ上に耐力壁15を配置していくこととしている。
【0024】
必要壁長さ算出部32は、建物10に作用する所定の水平力に抵抗するために必要な耐力壁15の長さの総和を必要壁長さとして算出する。この算出は、建物データ取得部31により取得した建物10の設計データに基づき行われる。所定の水平力としては、地震力と風圧力が挙げられる。必要壁長さ算出部32では、建物10の各階ごとに、その階において必要な耐力壁15の長さの総和を当該階の必要壁長さL(ha)として算出する。必要壁長さL(ha)の算出は、建物10のX方向に延びる耐力壁15と、Y方向に延びる耐力壁15とのそれぞれについて行われる。つまり、この算出は、各方向(X方向,Y方向)ごとに行われる。
【0025】
具体的には、必要壁長さ算出部32では、建物10の所定階における耐力壁15の必要長さを算出する際、まず、その所定階における各通りごとに、通りにおいて必要な耐力壁15の長さの総和を通りの必要壁長さL(hb)として算出する。そして、各通りの必要壁長さL(hb)を算出した後、それら算出した各通りの必要壁長さL(hb)を積算することで、所定階における耐力壁15の必要壁長さL(ha)を算出する。なお、必要壁長さ算出部32が必要壁長さ算出手段に相当する。
【0026】
耐力壁仮配置部33は、必要壁長さ算出部32により算出された必要壁長さを満たす最低限の耐力壁15を建物10に仮配置する。耐力壁仮配置部33では、建物10の各階ごとに、その階における必要壁長さL(ha)を満たす最低限の耐力壁15を当該階(詳しくはその壁部11内)に仮配置する。具体的には、耐力壁仮配置部33では、耐力壁15の壁長さの総和が当該階の必要壁長さL(ha)以上となる最低限の耐力壁15を当該階に仮配置する。また、耐力壁仮配置部33では、耐力壁15の仮配置が建物10の各方向(X方向及びY方向)ごとに行われる。なお、耐力壁仮配置部33が耐力壁仮配置手段に相当する。
【0027】
図4(a)には、耐力壁仮配置部33により、耐力壁15を建物10に仮配置した状態を示している。なお、
図4(a)では、建物10の二階部分に耐力壁15を仮配置した状態を示している(後述する
図4(b)及び(c)も、(a)と同様、建物10の二階部分が示されている)。
図4(a)に示すように、本実施形態では、耐力壁仮配置部33により、耐力壁15として、壁長さが小さい(詳しくは壁長さが500mmとされた)耐力壁15aを建物10に仮配置することとしている。したがって、本実施形態では、耐力壁仮配置部33により、同じ壁長さの耐力壁15aが建物10において複数箇所に仮配置される。
【0028】
耐力壁配置調整部34は、建物10に仮配置された耐力壁15の配置について調整を行う配置調整処理を実施する。以下、この配置調整処理について
図5に示すフローチャートに基づき説明する。また、配置調整処理は、建物10の各階ごとに行われ、例えば1階→2階→3階の順に行われる。また、配置調整処理は、建物10の各階において、各方向(X方向及びY方向)ごとに行われる。なお、以下の説明では、建物10において配置調整処理を行う対象の階を対象階といい、その対象階の各方向(X方向及びY方向)のうち配置調整処理の対象となっている方向を対象方向という。
【0029】
図5に示すように、まずステップS11では、建物10の対象階において対象方向(X方向又はY方向)に延びる各通りのうち、耐力壁15の配置調整を行う通りを対象通りとして決定する。すなわち、本配置調整処理では、対象階における対象方向の各通りごとに耐力壁15の配置調整を行うこととしており、本ステップでは、その配置調整を行う通りを対象通りとして決定する。
【0030】
また、ここでは、建物10の二階部分が対象階とされ、その二階部分のX方向が対象方向とされた場合の配置調整処理を想定している。そして、その配置調整処理のステップS11において、二階部分におけるX方向の各通りのうち、外壁11aに沿った所定の通りTx(
図4(a)参照)が対象通りTxとして決定されたものとする。
【0031】
続くステップS12では、対象通りTxに仮配置された各耐力壁15(15a)の有効壁長さL(β)を算出する(有効壁長さ算出手段に相当)。ここで、上述したように耐力壁15aは建物10の梁上に設置されるため、耐力壁15に作用する鉛直荷重により梁が下方にたわむことが考えられる。この場合、そのようなたわんだ梁の上に設置される耐力壁15aはその耐力が低減することとなり、換言すると耐力壁15aの実長さ(500mm)分の耐力よりも低い耐力しか発揮できないこととなる。そこで、本ステップS12では、建物10(の梁上)に仮配置された耐力壁15aが実際にはどれくらいの壁長さの耐力壁15aの耐力しか発揮できないかを算出することとしており、その壁長さを有効壁長さL(β)としている。
【0032】
具体的には、梁上に仮配置された耐力壁15aは、梁のたわみが大きいほど耐力が低減すると考えられ、換言すると、梁のたわみが大きいほどその有効壁長さL(β)が小さくなると考えられる。また、梁のたわみの大きさ(たわみ量)は、耐力壁15aの配置位置によって変わると考えられる。例えば耐力壁15aが梁をその下方から支える柱の真上に位置しているか否かや、柱の真上に位置していない場合には柱の真上位置からどれだけ離れた位置に位置しているか、等に応じて変わると考えられる。そのため、耐力壁15aの有効壁長さL(β)は、結局のところ、建物10における当該耐力壁15aの配置位置(詳しくは梁上における配置位置)に応じて決まると考えられる。
【0033】
そこで、本ステップS12では、対象通りTxに仮配置された耐力壁15aの有効壁長さL(β)を算出するに際し、建物10における当該耐力壁15aの配置位置に基づいて算出することとしている。具体的には、本ステップS12では、耐力壁15aの有効壁長さL(β)を、当該耐力壁15aが柱の真上に位置しているか否かや、当該耐力壁15aが柱の真上に位置していない場合には柱の真上位置からどれだけ離れた位置に位置しているか等、柱との位置関係に基づき算出することとしている。より具体的には、耐力壁15aの(梁下の)柱との位置関係と、当該耐力壁15aの有効壁長さL(β)との関係が予め有効壁長さ情報として規定されており、その有効壁長さ情報を参照して、耐力壁15aの柱との位置関係に基づき、当該耐力壁15aの有効壁長さL(β)を算出することとしている。
【0034】
なお、建物10における耐力壁15aの位置情報(上述した耐力壁15aの柱との位置関係の情報を含む)は、建物10のCADデータから把握されるようになっている。また、
図4(a)には、本ステップS12により算出された各耐力壁15aの有効壁長さL(β)をm単位で示している。
【0035】
ステップS13では、対象通りTxに仮配置された耐力壁15aに関する評価を行う。ここでは、(a)耐力壁15aの壁長さに関する評価と、(b)耐力壁15aの梁との接合強度に関する評価とが行われる。(a)の評価では、対象通りTxに仮配置された耐力壁15aの有効壁長さL(β)の総和が、必要壁長さ算出部32により算出された当該対象通りTxの必要壁長さL(hb)以上となっているか否かを判定(評価)する。また、(b)の評価では、耐力壁15aが梁と接合する接合部の強度が予め定められた必要強度を満たしているか否かを判定(評価)する。
【0036】
ステップS14では、ステップS13の(a)及び(b)の各評価がそれぞれOKであったかNGであったかを判定する。(a)及び(b)の評価がいずれもOKであった場合には、ステップS19に進む。一方、(a)及び(b)のいずれかの評価がNGであった場合にはステップS15に進み、耐力壁置換処理を行う(耐力壁置換手段に相当)。この耐力壁置換処理では、対象通りTxに仮配置された各耐力壁15aのうち、有効壁長さL(β)の比較的大きい耐力壁15aを、それよりも壁長さの大きい耐力壁15bに置換する。具体的には、耐力壁置換処理では、対象通りTxに仮配置された各耐力壁15aのうち、有効壁長さL(β)の最も大きい耐力壁15aを、耐力壁15bに置換する。
【0037】
図4(a)の例では、対象通りTxに配置された各耐力壁15aのうち、有効壁長さL(β)が0.48m(480mm)とされた耐力壁15aが最も大きい有効壁長さL(β)を有している。そのため、この例では、
図4(b)に示すように、当該耐力壁15aを耐力壁15bに置換している。
【0038】
続くステップS16では、対象通りTxに配置された各耐力壁15a,15bの有効壁長さL(β)を算出する。つまり、ここでは、耐力壁置換処理により置換された耐力壁15bの有効壁長さL(β)と、仮配置されたままの耐力壁15aの有効壁長さL(β)とをそれぞれ算出する。本ステップS16の処理は、上述したステップS12の処理と同様の手順で行われる。そのため、ここでは、詳細な説明を割愛する。なお、
図4(b)の例では、耐力壁15bの有効壁長さL(β)が0.96m(960mm)として算出されている。
【0039】
続くステップS17では、対象通りTxに配置された耐力壁15(15a,15b)に関する評価を行う。ここでは、上述したステップS13と同様、(a)耐力壁15の壁長さに関する評価と、(b)耐力壁15の梁との接合強度に関する評価とを行う。その評価の手順はステップS13と同様であるため、ここでは詳細な説明を割愛する。
【0040】
続くステップS18では、ステップS17の(a)及び(b)の各評価がそれぞれOKであったかNGであったかを判定する。(a)及び(b)の評価がいずれもOKであった場合には、ステップS19に進む。一方、(a)及び(b)のいずれかの評価がNGであった場合にはステップS21に進む。
【0041】
ステップS21では、対象通りTxに仮配置されたすべての耐力壁15aについて、置換処理(ステップS15)が行われたか否かを判定する。すべての耐力壁15aについて置換処理が行われた場合にはステップS22に進む。この場合、本配置調整処理では、建物10に耐力壁15を適切に配置することが不可であると判定される(つまり、配置NGであると判定される)。その後、本処理を終了する。
【0042】
一方、ステップS21において、置換処理が行われていない耐力壁15aが残っている場合にはステップS15に戻り、再度、置換処理を行う。この場合にも、各耐力壁15aのうち、最も有効壁長さL(β)の大きい耐力壁15aを耐力壁15bに置換する。置換処理の後、ステップS16以降の各処理を行う。
【0043】
なお、置換処理が行われていない耐力壁15aの中に、建物10の構造上や間取り上等の理由で、耐力壁15bに置換できない耐力壁15aが含まれている場合には、その耐力壁15aについては置換処理の対象から除外する。例えば、耐力壁15aを耐力壁15bに置換できない場合としては、当該耐力壁15aに隣接して開口部が存在する場合等が挙げられる。
【0044】
ステップS19では、建物10の対象階における対象方向のすべての通りについて、耐力壁15の配置調整が済んだか否かを判定する。すべての通りについて耐力壁15の配置調整が済んだ場合にはステップS20に進む。この場合、対象階における対象方向について耐力壁15の配置が完了したと判定される(つまり、配置OKと判定される)。その後、本処理を終了する。また、ステップS19にて、耐力壁15の配置調整が済んでいない通りがある場合にはステップS11に戻って、新たな通りを対象通りとして決定する。そして、その新たな対象通りについて、ステップS12以降の処理を行っていく。
【0045】
以上のように、耐力壁配置調整部34では、耐力壁15の配置調整処理が、建物10の各階における各方向(X方向及びY方向)ごとに行われる。そして、建物10の各階における各方向の配置調整処理がいずれも、ステップS20において配置OKと判定された場合には、設計支援処理(
図3)を終了する。これにより、建物10における耐力壁15の配置(配置設計)が完了する。また、この場合、建物10に仮配置された耐力壁15aの一部を耐力壁15bに置換することで、耐力壁15の配置調整を行っているため、耐力壁15の仮配置時から耐力壁15の数が増えることなく、耐力壁15の配置を行うことができる。
【0046】
一方、建物10の各階における各方向の配置調整処理のうち、少なくともいずれかの配置調整処理がステップS22において配置NGと判定された場合には、耐力壁配置再調整部35(
図3)による耐力壁配置再調整処理に進む。耐力壁配置再調整部35では、建物10の各階における各方向の配置調整処理のうち、配置NGとされたものを対象に、耐力壁配置再調整処理を行う。耐力壁配置再調整処理では、上述した耐力壁配置調整処理とは異なる方法で、建物10における耐力壁15の配置について再調整を行う。なお、耐力壁配置再調整処理では、耐力壁配置調整処理(
図5)において配置NGの判定(ステップS22)がされた時点における耐力壁15の配置(配置状態)をベースとして、耐力壁15の配置について再調整を行う。以下、耐力壁配置再調整処理について
図6に示すフローチャートに基づき説明する。なお、ここでは、
図4(b)における耐力壁15の配置状態をベースとして、耐力壁配置再調整処理を行うことを想定している。
【0047】
図6に示すように、まずステップS31では、建物10のCADデータに基づき、建物10の剛心D(建物10の硬さの中心)と重心C(建物10の中心)とを算出する。
図4(b)には、その算出された建物10の剛心D及び重心Cが示されている。なお、
図4(b)の例では、重心Cに対して剛心Dが同図において右上にずれている。
【0048】
ここで、耐力壁配置再調整処理では、建物10の剛心Dが建物10の重心Cに近づくように、耐力壁15を建物10にバランスよく配置することで、耐力壁15の最適配置を実現することとしている。そこでステップS32では、建物10の剛心Dが重心Cに近づくように、建物10に耐力壁15を新たに配置する処理を行う。
図4(c)の例では、(平面視にて)建物10の重心Cを挟んで剛心Dとは反対側の位置に耐力壁15を配置している。具体的には、建物10の二階部分における通りTxに耐力壁15を配置している。これにより、
図4(c)の例では、建物10の剛心Dが、
図4(b)の場合と比べて、建物10の重心C側(図面上では左下の側)に寄っている。
【0049】
ステップS33では、建物10における偏心率を算出する。ステップS34では、その算出した偏心率が基準値を満たしているか否かを判定する。具体的には、算出した偏心率が建築基準法で定める0.15以下となっているか否かを判定する。偏心率が基準値を満たしている場合には本処理を終了する。この場合、耐力壁15の配置(配置設計)が完了する。一方、偏心率が基準値を満たしていない場合にはステップS32に戻り、建物10に新たな耐力壁15を配置する。そして、その後、再びステップS33及びS34の各処理を行う。つまり、本再調整処理では、ステップS34にて偏心率が基準値を満たすまで繰り返しステップS32~S34の処理を繰り返し行う。
【0050】
このように、耐力壁配置再調整部35では、耐力壁配置調整部34による、建物10の各階における各方向の配置調整処理のうち、配置NGとされた各処理ごとに、耐力壁配置再調整処理が行われる。
【0051】
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0052】
建物10における耐力壁15の配置設計に際し、まず耐力壁仮配置部33により建物10に耐力壁15を仮配置するようにした。具体的には、建物10に必要壁長さを満たす最低限の耐力壁15(15a)を仮配置するようにした。これにより、耐力壁15aの仮配置では、余裕度が加味されることなく、建物10に必要最低限の耐力壁15aが仮配置されることになる。
【0053】
そして、耐力壁15の仮配置後、耐力壁配置調整部34により、仮配置された耐力壁15aの配置について調整を行うこととした。この配置調整に際しては、まず仮配置した耐力壁15aの有効壁長さL(β)を算出することとした。ここで、耐力壁15aの有効壁長さL(β)は、建物10に配置される耐力壁15aの配置位置に応じて決まると考えられる。そこで、耐力壁15aの有効壁長さL(β)を算出するに際しては、建物10に仮配置された耐力壁15aの配置位置に基づき、算出することとした。
【0054】
そして、有効壁長さL(β)の算出後、仮配置された複数の耐力壁15a(具体的には、対象通りに仮配置された複数の耐力壁15a)のうち、有効壁長さL(β)が比較的大きい耐力壁15aを、それよりも壁長さの大きい耐力壁15bに置き換えることとした。この場合、複数の耐力壁15aのうち、耐力をより発揮する位置に配置された耐力壁15aが、それよりも大きな耐力を有する耐力壁15bに置き換えられることになる。このため、その置き換えにより、耐力壁15の耐力を大きく向上させることが可能となる。この場合、必要最低限の耐力壁15aを仮配置した時点から耐力壁15の数が大きく増えることなく、建物10に必要な耐力壁15を配置することが可能となる。これにより、建物10に耐力壁15を配置するにあたり、耐力壁15が必要以上に配置されるのを抑制することができ、耐力壁15を適切に配置することが可能となる。
【0055】
また、具体的には、仮配置された複数の耐力壁15aのうち、有効壁長さL(β)が最も大きい耐力壁15aを、耐力壁15bに置き換えることとしたため、その置き換えにより、耐力壁15の耐力をより効果的に向上させることが可能となる。この場合、必要最低限の耐力壁15を仮配置した時点から耐力壁15の数が増えるのをより一層抑えながら、建物10に必要な耐力壁15を配置することが可能となる。
【0056】
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
【0057】
・上記実施形態では、耐力壁置換処理(ステップS15)に際し、建物10に仮配置された複数の耐力壁15aのうち、最も有効壁長さL(β)の大きい耐力壁15aを、それよりも壁長さの大きい耐力壁15bに置き換えるようにしたが、耐力壁15の置き換え方は必ずしもこれに限定される必要はない。例えば、仮配置された複数(3つ以上)の耐力壁15aのうち、2番目に有効壁長さL(β)の大きい耐力壁15aを耐力壁15bに置き換えるようにしてもよい。要するに、仮配置された複数の耐力壁15aのうち、有効壁長さL(β)の比較的大きい耐力壁15aを耐力壁15bに置き換えるようにすればよく、そうすれば、その置き換えにより耐力壁15の耐力を大きく向上させることが可能となる。そのため、必要最低限の耐力壁15aを仮配置した時点から耐力壁15の数が大きく増えることなく、建物10に必要な耐力壁15を配置することが可能となる。
【0058】
・上記実施形態では、耐力壁15としてラチス柱を用いた場合を例に説明を行ったが、耐力壁15として、構造用合板等、ラチス柱以外のものを用いた場合にも、本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10…対象建物としての建物、15…耐力壁、20…設計支援システムとしての設計支援装置、21…制御部、32…必要壁長さ算出手段としての必要壁長さ算出部、33…耐力壁仮配置手段としての耐力壁仮配置部。