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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/48 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
B29D30/48
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019223860
(22)【出願日】2019-12-11
(65)【公開番号】P2021091162
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷田 弘到
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-099518(JP,A)
【文献】特開昭58-126139(JP,A)
【文献】特開2010-228343(JP,A)
【文献】特開2011-194854(JP,A)
【文献】特開2007-283652(JP,A)
【文献】特開2020-066213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D30/00-30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビード部に埋設された環状のビードコアと、前記ビードコアの外周部に径方向外側に向かって厚みが薄くなるビードフィラーと、を備える空気入りタイヤの製造方法であって、
前記ビードフィラーを押し出して成形し、
前記押し出しにより成形されたビードフィラーを、外径側端部と内径側端部との温度差が25℃以下であって前記外径側端部の温度が39℃以上のときに、前記ビードコアの径方向外周部に圧着して環状のビード部材を作製し、
前記ビード部材を、タイヤ軸線を水平方向に向けて前記ビードフィラーを立てた姿勢で前記ビードフィラーの側面部をセパレータにより支持させて、前記ビードフィラーの前記タイヤ軸線方向への倒れを抑制し、
前記ビード部材を前記セパレータに支持した状態で所定温度まで冷却し、
前記冷却されたビード部材から成形されるグリーンタイヤを用いて空気入りタイヤを製造する、空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ビードフィラーは、タイヤ径方向における高さが80mm以上である、
請求項1に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記セパレータにより前記ビードフィラーを支持するとき、前記ビードフィラーの側面部を前記セパレータに密着させる、
請求項1又は2に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記セパレータの曲げ剛性は、3MPa以上20MPa以下である、
請求項1~3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ビード部材を冷却するとき、複数の前記ビード部材をそれぞれの間に前記セパレータを配置しながら水平方向に積層する、
請求項1~4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記セパレータの厚みは、5mm以下である、
請求項5に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
前記セパレータは、前記ビードフィラーの側面部に対して相補的に沿うように形成されている、
請求項1~6のいずれか1つに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、ビード部に埋設された環状のビードコアと、この外周部に設けられて径方向外側に向かって厚みが薄くなるビードフィラーとを有している。ビードフィラーは、押出成形機から断面略三角形状に押し出された帯状押し出しゴム部材から形成されている。押し出されたビードフィラーを、ドラムの外周部に円筒状に巻回し、この厚肉部側に対して軸方向に隣接するビードコアの外周部に、先端部側を径方向外側へ引き起こすことによって厚肉部側を乗り上げさせつつ、先端部側が起立したビード部材が作製される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-058564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記ビード部材を用いてグリーンタイヤを成形するとき、カーカスプライを含むバンド体の外周にビード部材を設置し、該ビード部材の周りにバンド体の端部を巻き上げる。このとき、折り返されたバンド体とビードフィラーとの間にエア入り不良が生じることがある。エア入り不良を抑制するため、ビードフィラーの高さを増大させることが考えられる。ビードフィラーの高さを増大させることによって、ビードフィラーの先端部側が薄くなるので、バンド体に沿わせやすく段差が小さくなる。
【0005】
しかしながら、ビードフィラーの高さが増大すると、ビード部材を作製するときにビードフィラーを引き起こした際の、先端部の拡張量が大きくなる。この結果、ビードフィラーの先端部側に倒れが発生しやすくなり、該ビード部材を用いてグリーンタイヤを成形するときに、バンド体に沿わせにくく、エア入り不良等の不具合が生じやすい。
【0006】
本発明は、ビード部材におけるビードフィラーの倒れを抑制することによって、空気入りタイヤの製造不良を抑制することができる、空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
ビード部に埋設された環状のビードコアと、前記ビードコアの径方向外周部に径方向外側に向かって厚みが薄くなるビードフィラーと、を備える空気入りタイヤの製造方法であって、
前記ビードフィラーを押し出して成形し、
前記押し出しにより成形されたビードフィラーを、外径側端部と内径側端部との温度差が25℃以下であって前記外径側端部の温度が39℃以上のときに、前記ビードコアの径方向外周部に圧着して環状のビード部材を作製し、
前記ビード部材を、タイヤ軸線を水平方向に向けてビードフィラーを立てた姿勢で前記ビードフィラーの側面部をセパレータにより支持させて、前記ビードフィラーの前記タイヤ軸線方向への倒れを抑制し、
前記ビード部材を前記セパレータに支持した状態で所定温度まで冷却し、
前記冷却されたビード部材から成形されるグリーンタイヤを用いて空気入りタイヤを製造する、空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【0008】
本発明によれば、ビード部材を立てた姿勢で冷却するとき、セパレータによりビードフィラーの倒れを抑制することができるので、該ビード部材を用いてグリーンタイヤを成形するときのビードフィラーの倒れに起因したエア入り不良が抑制される。よって、該グリーンタイヤを用いて製造される空気入りタイヤの製造不良を抑制できる。
【0009】
前記ビードフィラーは、タイヤ径方向における高さが80mm以上であってもよい。
【0010】
本構成によれば、80mm以上の高さを有するため倒れが生じやすいビードフィラーにおいて、本発明の効果が好適に発揮される。
【0011】
前記セパレータにより前記ビードフィラーを支持するとき、前記ビードフィラーの側面部を前記セパレータに密着させてもよい。
【0012】
本構成によれば、セパレータによりビードフィラーを好適に支持できる。
【0013】
前記セパレータの曲げ剛性は、3MPa以上20MPa以下であってもよい。
【0014】
本構成によれば、セパレータによって、ビードフィラーを、倒れを抑制しつつ支持しやすい。セパレータの曲げ剛性が3MPaより小さいと、セパレータによる支持剛性が不足しやすくビードフィラーの倒れを抑制しにくい。セパレータの曲げ剛性が20MPaより大きくなると、セパレータからビードフィラーを引き剥がす作業性が悪化しやすい。
【0015】
前記ビード部材を冷却するとき、複数の前記ビード部材をそれぞれの間に前記セパレータを配置しながら水平方向に積層してもよい。
【0016】
本構成によれば、ビード部材を水平方向に積層することによって、上下方向に積層する場合に比して、多数のビード部材を省スペースで収納することができる。
【0017】
前記セパレータの厚みは、5mm以下であってもよい。
【0018】
本構成によれば、セパレータの厚みが5mm以下であるので、複数のビード部材を水平方向に積層して収容する場合に、水平方向への寸法の増大が抑制される。
【0019】
前記セパレータは、前記ビードフィラーの側面部に対して相補的に沿うように形成されていてもよい。
【0020】
本構成によれば、ビードフィラーを、セパレータに密着させやすいので、セパレータによるビードフィラーの支持剛性がさらに向上する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ビード部材におけるビードフィラーの倒れが抑制されるので、グリーンタイヤにおけるビードフィラー先端部の周辺におけるエア入り不良を抑制しやすいので、空気入りタイヤの製造不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線半断面図。
図2】ビード部材の断面図。
図3】空気入りタイヤの製造工程を示す工程図。
図4】ビード部材の製造工程を示す工程図。
図5】ビードフィラーの圧着装置の作動を示す模式図。
図6】セパレータにビードフィラーを支持させる工程を示す模式図。
図7】セパレータに支持したビードフィラーを複数セット、水平方向に積層した状態を示す図。
図8】変形例に係るセパレータを示す、図7と同様の図。
図9】さらなる変形例に係るセパレータを示す図7と同様の図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。
【0024】
本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤの子午線半断面図である。図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤは、トレッド部11と、トレッド部11のタイヤ幅方向両端部からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール部12と、一対のサイドウォール部12それぞれのタイヤ径方向内側の端部に位置する一対のビード部13とを備える。
【0025】
一対のビード部13の間には、トレッド部11及びサイドウォール部12にわたってカーカスプライ14が掛け渡されている。トレッド部11におけるカーカスプライ14の外周にはベルト層15が設けられている。ベルト層15の外周には接地面をなすトレッドゴム16が設けられている。サイドウォール部12におけるカーカスプライ14の外面側にはサイドウォールゴム17が設けられている。ビード部13におけるリムとの当接部にはリムストリップゴム18が設けられている。カーカスプライ14の内面側には、インナーライナ19が設けられている。
【0026】
一対のビード部13には、一対のビード部材20がそれぞれ埋設されている。図2は、ビード部材20の断面図である。ビード部材20は、環状のビードコア21と、この外周部22に圧着されたビードフィラー30とから構成されている。ビードコア21は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなり、この例では断面形状が略六角形状である。ビードフィラー30は、硬質ゴムからなり、ビードコア21から径方向外側へ向かって厚みが薄くなるゴム部材である。
【0027】
図3は、空気入りタイヤの製造工程を模式的に示す工程図である。タイヤ構成部材形成工程1において形成された、トレッドゴム、サイドウォールゴム、カーカスプライ、インナーライナ、ベルト等のタイヤ構成部材が、グリーンタイヤ成形工程2において成型ドラム上で組み立てられてグリーンタイヤが成形される。次いで、グリーンタイヤがタイヤ加硫工程3においてタイヤ加硫金型で加硫されて空気入りタイヤが製造される。
【0028】
図4は、タイヤ構成部材形成工程1の1つとして、ビード部材20を作製する工程を模式的に示している。ビード部材20は、ビードコア形成工程5と、ビードフィラー形成工程6と、ビード部材一体化工程7と、ビード部材冷却工程8とを有している。
【0029】
ビードコア形成工程5において、1本又は複数本の鋼線が円環状に複数周巻かれて束ねられた収束体をゴム被覆することによって、断面形状が六角形状に形成された環状のビードコア21が作製される。図2に示されるように、ビードコア21は、タイヤ径方向内側の端面がタイヤ幅方向内側に向かってタイヤ径方向内側に傾斜しており、不図示のリムフランジに沿いやすくなっている。なお、本明細書において、タイヤ幅方向内側とは、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道CL(図1参照)に向かう方向を意味し、タイヤ幅方向外側とはタイヤ赤道CLから離れる方向を意味している。
【0030】
ビードフィラー形成工程6において、押出成形機から断面略三角形状で押し出すことによって、帯状のビードフィラー30が形成される。図2に示されるように、ビードフィラー30は、径方向内側に位置する厚肉部31から径方向外側の先端部32に向かって厚みが薄くなる。ビードフィラー30は、ビードコア21に対して圧着される底面35が、断面六角形状をなすビードコア21の外周部22の形状に沿うように凹状に形成されている。
【0031】
本実施形態では、ビードフィラー30は、タイヤ幅方向において、内側に位置する内側面部33と、外側に位置する外側面部34とを有している。内側面部33および外側面部34は、図2に示す断面形状において直線状に形成されているが、凹状又は凸状に湾曲するように形成されてもよい。
【0032】
ビードフィラー30の高さHは、特に限定されないが、80mm以上であることが好ましい。このように高さの大きいビードフィラー30を用いることにより、グリーンタイヤの成形工程におけるエア入りを抑制する上で有利である。高さHの上限は特に限定されず、例えば120mm以下でもよい。好ましくは、空気入りタイヤにおいてビードフィラー30の先端(外周端)がタイヤ最大幅位置(タイヤ断面形状においてタイヤ幅方向寸法が最大になる位置)よりも下方に位置するように、ビードフィラー30の高さHが設定されることである。
【0033】
ここで、ビードフィラー30の高さHとは、図2に示すように、ビードコア21に圧着される根元側から先端までの距離であり、ビードコア21への貼り付け前の段階における帯状ゴムの部品幅である。
【0034】
押出成形されたビードフィラー30の内側面部33と外側面部34との間の角度θは、特に限定されないが、ビードフィラー30の高さを高くすることによって小さくなり、この場合、16.0°以下であることが好ましい。先端部32の角度θが小さいビードフィラー30を用いることにより、グリーンタイヤ成形工程においてビードフィラー30を先端部32において薄くなるので他のタイヤ構成部材に沿わせやすく、先端部32周辺におけるエア入りを抑制しやすい。
【0035】
ここで、先端部32の角度θとは、図2に示すような断面形状における三角形の頂角の角度であり、内側面部33における先端側と根元側を結んだ線分ABと、外側面部34における先端側と根元側を結んだ線分DCとのなす角度である。
【0036】
ビード部材一体化工程7では、押し出しにより形成された帯状のビードフィラー30を、ビードコア21の外周部22に圧着する。これによってビード部材20が作製される。
【0037】
図5は、ビードコア21の外周部22に、ビードフィラー30を引き起こして圧着させる、ビードフィラー圧着装置40の一例を示す模式図である。ビードフィラー圧着装置40は、円筒状の回転ドラム41と、回転ドラム41の軸方向一端側に設けられた回転ドラム41よりも小径の支持リング42とを備える。回転ドラム41の外周には複数の起立片43が伏した状態で配されている。
【0038】
図5(a)に示されるように、ビードフィラー30の貼り付けに際しては、まず支持リング42の外周上にビードコア21を載置する。また、押出成形された帯状のビードフィラー30を回転ドラム41の外周面に寝かせた状態で巻き付け、周方向の端部同士を接合して円筒状とする。このとき、ビードフィラー30は、その底面35がビードコア21の側面に対向するように寝かせた姿勢となっている。
【0039】
その後、図5(b)に示されるように、起立片43を径方向外側へ起立させ、これに伴って円筒状のビードフィラー30を、外周部22の周りで厚肉部31側を起点として先端部32側を起立させて、ビードコア21の外周部22に載せる。これにより、ビードコア21の外周部22にビードフィラー30の底面35を圧着させて、ビードコア21とビードフィラー30を一体化させることができる。
【0040】
なお、このようにメカニカル機構を用いてビードフィラー30を貼り付ける代わりに、ゴム袋状部材であるブラダーを備えた回転ドラムを用いて、ブラダーを膨張させることにより、円筒状のビードフィラー30を起立させてビードコア21の外周部22に貼り付けるようにしてもよい。
【0041】
図2に示されるように、ビードフィラー30は、ビードコア21に圧着された状態で、ビードフィラー30の先端部32は、ビードコア21のタイヤ軸方向の中心線L1よりもタイヤ幅方向内側に位置している。なお、中心線L1は、図2に示す断面において、ビードコア21のタイヤ軸方向の中心点を通りタイヤ軸方向に直交する線を意味している。
【0042】
内側面部33および外側面部34は、ビードコア21のタイヤ軸方向の中心線L1に対して傾斜している。具体的には、内側面部33の中心線L1に対する傾斜角度θ1が、外側面部34の中心線L1に対する傾斜角度θ2よりも小さい。
【0043】
ここで、本実施形態では、ビードフィラー30の厚肉部31と先端部32の温度差が25℃以下の状態で貼り付けを行う。また、該先端部32の温度が39℃以上の状態で貼り付けを行う。
【0044】
押出成形後のビードフィラー30は高温であるが、時間の経過とともに冷却される。その際、断面三角形状をなすビードフィラー30は、厚肉部31と先端部32とで厚みが異なることから、温度の低下速度が異なり、厚みの薄い先端部32ほど早く温度が低下する。厚肉部31と先端部32との温度差が大きいと、ビードコア21に貼り付ける際に両者の剛性差が大きくなって、剛性の高い先端部32側がお辞儀するように撓み変形、即ち倒れやすくなる。これは、未加硫ゴムでは、温度が高いと軟らかく伸びやすい(従って、変形に対して戻ろうとする力が小さい)のに対し、温度が低いと硬く伸びにくい(従って、変形に対して戻ろうとする力が大きい)からである。未加硫のビードコア21において、厚肉部31と先端部32の温度差が大きいと、温度の低い先端部32では伸びにくく戻ろうとする力が大きいので、温度の高い厚肉部31との間でこの戻ろうとする力の差が大きく、倒れが発生しやすくなる。そこで、押出成形後の熱を持った未加硫のビードフィラー30を、その厚肉部31と先端部32との温度差が小さい状態のままビードコア21に貼り付ける。これにより、ビード部材20の作製直後のビードフィラー30の倒れを抑制することができる。
【0045】
ビードフィラー30を貼り付ける際の先端部32の温度は、上記の通り39℃以上であり、先端部32が室温まで冷却される前に貼り付ける。これにより、上記のように温度差を小さくしたことと相俟って、貼り付け時における厚肉部31と先端部32との剛性差を抑えて、倒れを抑制することができる。ビードフィラー30を貼り付ける際の先端部32の温度は、より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは43~70℃である。
【0046】
次に、ビード部材冷却工程8について説明する。ビード部材冷却工程8では、ビード部材一体化工程7で作製されたビード部材20を略室温まで低下させる。図6に示されるように、ビード部材20は、セパレータ50によって、ビードフィラー30の側面部33,34の一方が支持された状態で立てた姿勢で冷却される。
【0047】
なお、本明細書では、ビード部材20を立てた姿勢とは、タイヤ軸線が水平方向に向いている状態を意味し、一対の側面部33,34がタイヤ軸線に直交する方向にタイヤ径方向に延びている。換言すれば、ビード部材20を立てた姿勢とは、ビードコア21の中心線L1が、タイヤ軸線に対して直交する方向を向いていることを意味している。
【0048】
本実施形態では、セパレータ50は、略一定の厚みを有する平らなドーナツ状の板状部材である。ビード部材20をセパレータ50に載置させる場合、まず図6(a)に示されるように、ビード部材20を、セパレータ50に対して、タイヤ幅方向の外側から当接させる。ビード部材20は、内側面部33が中心線L1に対して角度θ1を有しているので、セパレータ50に対して、基端部側のビードコア21において当接すると共に、ビードフィラー30の内側面部33において先端部側へ向かって隙間が拡大する。
【0049】
次いで、図6(b)に示されるように、ビードフィラー30を、タイヤ幅方向内側に押圧して、内側面部33をセパレータ50に密着させる。このとき、ビードフィラー30のタックを利用して、セパレータ50に密着させてもよい。これによって、ビード部材20は、ビードフィラー30がセパレータ50によってタイヤ幅方向に支持される。
【0050】
ここで、セパレータ50は、タイヤ幅方向に密着するビードフィラー30に倒れが生じないように所望の剛性を有するように構成されている。例えば、セパレータ50は、曲げ強度が3MPa以上20MPa以下の樹脂材料を使用できる。例えば、本実施形態では、三共化学東セロ株式会社製の商品名「パロニア(登録商標)スーパーHD」と称する樹脂部材を使用することができる。このほか、セパレータ50を金属製としてもよいが、重量軽減およびコストの観点から、樹脂部材により構成するのが好ましい。
【0051】
曲げ強度が3MPaより小さいと、セパレータ50の剛性が不足しやすく、ビードフィラー30に倒れが生じやすい。一方、曲げ強度が20MPaより大きいと、セパレータ50の剛性が過度に高くなり、冷却後にビードフィラー30をセパレータ50から剥がす際に、セパレータ50を変形させにくくなるため、ビードフィラー30をセパレータ50から剥がす作業性が悪化しやすい。
【0052】
図7に示されるように、ビード部材20を立てた姿勢でセパレータ50に支持させたものを、複数セット、水平方向に積層する。これによって、ビード部材20を横置き(中心線L1をタイヤ軸方向に向ける)に支持する場合に比して多くのビード部材20を効率的に収容することができ収容効率がよい。セパレータ50によって、複数のビード部材20が相互に接触して付着することが防止されている。
【0053】
セパレータ50は、好ましくは5mm以下の厚みであり、本実施形態では3mmの厚みである。セパレータ50の厚みが5mmより厚くなると、複数のビード部材20およびセパレータ50を水平方向に積層する際の収容効率が悪化する。
【0054】
上述したように、ビード部材20は立てた姿勢で略室温まで冷却された後、図3に示されるように、グリーンタイヤ成形工程2において他のタイヤ構成部材と共にグリーンタイヤに組み立てられて、最終的にタイヤ加硫工程3においてタイヤ加硫金型において加硫されて空気入りタイヤが製造される。
【0055】
上記説明した空気入りタイヤの製造方法によれば、次のような効果が得られる。
【0056】
(1)ビード部材20を立てた姿勢で冷却するとき、セパレータ50によりビードフィラー30の倒れを抑制することができるので、ビード部材20を用いてグリーンタイヤを成形するときのビードフィラー30の倒れに起因したエア入り不良が抑制される。よって、該グリーンタイヤを用いて製造される空気入りタイヤの製造不良を抑制できる。
【0057】
(2)タイヤ径方向における高さが80mm以上である背の高いビードフィラー30を使用することによって、グリーンタイヤ形成時のビードフィラー30の先端部におけるエア入り不良を抑制しやすい。さらに、背の高いビードフィラー30を使用することによるビードフィラー30の倒れやすさを、セパレータ50によって対策することができる。よって、空気入りタイヤの製造不良をさらに抑制しやすい。
【0058】
(3)ビードフィラー30は、セパレータ50に対して内側面部33が密着した状態で当該セパレータ50によって支持されている。これによって、セパレータ50によりビードフィラー30を好適に支持しやすい。
【0059】
(4)セパレータ50の曲げ剛性は、3MPa以上20MPa以下に構成されているので、セパレータ50によって、ビードフィラー30を、倒れを抑制しつつ支持しやすい。セパレータの曲げ剛性が3MPaより小さいと、セパレータ50による支持剛性が不足しやすくビードフィラー30の倒れを抑制しにくい。セパレータ50の曲げ剛性が20MPaより大きくなると、セパレータ50からビードフィラー30を引き剥がす作業性が悪化しやすい。
【0060】
(5)ビード部材20を冷却するとき、複数のビード部材20は、それぞれの間にセパレータ50を配置しながら水平方向に積層されている。ビード部材20を水平方向に積層することによって、上下方向に積層する場合に比して、多数のビード部材20を省スペースで収納することができる。
【0061】
(6)セパレータ50の厚みが5mm以下であるので、複数のビード部材20を水平方向に積層して収容する場合に、水平方向への寸法の増大が抑制される。
【0062】
上記実施形態では、略一定厚みの平板状のセパレータ50を使用したが、これに限らない。例えば、図8に示されるように、ビードフィラー30の内側面部33が載置される載置面61が、内側面部33に対して相補的に傾斜した斜面に形成されたセパレータ60を採用してもよい。セパレータ60によれば、ビード部材20をセパレータ60に沿わせるように変形させることなく、載置面61に容易に密着させることができ、セパレータ60による支持剛性が向上する。
【0063】
さらにまた、図9に示されるように、水平方向に積層される一対のビード部材20の間に配置されるセパレータ70を、この両側面部がそれぞれ対向する一対のビード部材20それぞれに対して相補的となるように傾斜した斜面71,72を有するように形成してもよい。
【0064】
具体的には、セパレータ70のうちタイヤ幅方向外側に位置する斜面71は、一対のビード部材20のうちタイヤ幅方向外側に位置するビード部材20Aの内側面部33に対して相補的に形成されている。同様に、セパレータ70のうちタイヤ幅方向内側に位置する斜面72は、一対のビード部材20のうちタイヤ幅方向内側に位置するビード部材20Bの外側面部34に対して相補的に形成されている。
【0065】
セパレータ70によれば、ビード部材20は、タイヤ幅方向内側に位置するセパレータ70に対して、該セパレータ70に沿わせるように変形させることなく斜面71に容易に密着させやすく、タイヤ幅方向外側に位置するセパレータ70によってタイヤ幅方向外側から支持しやくビード部材20の倒れを確実に防止できる。
【0066】
上記実施形態では、ビードフィラー30は、ビードコア21の外周部22に圧着された状態で、一対の内側面部33および外側面部34はいずれも、ビードコア21の中心線L1に対して傾斜している場合を例にとって説明したが、これに限らない。例えば、ビードフィラー30の内側面部33および外側面部34のうち一方がビードコア21の中心線L1に対して傾斜していなくてもよい。この場合、ビードフィラー30のうち当該傾斜しておらず、中心線L1に平行に延びている側面部を、セパレータに対して圧着してもよい。これによって、ビードフィラー30を変形させることなくセパレータ50に容易に圧着させることができる。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 タイヤ構成部材形成工程
2 グリーンタイヤ成形工程
3 タイヤ加硫工程
5 ビードコア形成工程
6 ビードフィラー形成工程
7 ビード部材一体化工程
8 ビード部材冷却工程
20 ビード部材
21 ビードコア
22 外周部
30 ビードフィラー
31 厚肉部
32 先端部
33 内側面部
34 外側面部
40 ビードフィラー圧着装置
50 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9