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特許7326162複合構造体および同複合構造体を形成する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】複合構造体および同複合構造体を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20230807BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20230807BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C01B32/05
B01J20/02 A
B01J20/30
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019563734
(86)(22)【出願日】2018-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 SG2018050235
(87)【国際公開番号】W WO2018212712
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】10201704083X
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】503231882
【氏名又は名称】エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】リー、シュー
(72)【発明者】
【氏名】ヤップ、チン チョン レイ
(72)【発明者】
【氏名】ホー、ジアティン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、シュー イー
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/190815(WO,A1)
【文献】特表2013-508130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B01J 20/02
B01J 20/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の複合構造体を形成する方法であって、前記方法は、
水熱プロセスを介して炭素源から1つ以上の炭素構造体を形成することと、
前記1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入して、炭素と、鉄を含む1つ以上のナノ構造体と、を含む1つ以上の複合構造体を形成することと、
を含み、
前記炭素源から前記1つ以上の炭素構造体を形成することは前記炭素源にシード添加剤を導入することをさらに含み、前記シード添加剤はカリウム塩またはリン酸塩であり、かつ
前記1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入して前記1つ以上の複合構造体を形成することは、
鉄塩を適切な溶媒に溶解して前駆体溶液を形成することと、
前記前駆体溶液と前記1つ以上の炭素構造体を含む懸濁液とを混合して、得られる混合物を形成することと、
前記鉄塩および前記1つ以上の炭素構造体を含む前記得られる混合物を乾燥させることと、
記得られる混合物を乾燥する前に同得られる混合物に凝集防止添加剤を加えることと、
を含み、
前記凝集防止添加剤は、前記1つ以上のナノ構造体の各ナノ構造体が透過型電子顕微鏡を用いて測定されたときに20nm未満のサイズまたは直径を有することとなるように同1つ以上のナノ構造体の集合体または凝集体を低減するように構成されており、かつ前記凝集防止添加剤は、グルコサミン、メラミン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである方法。
【請求項2】
前記1つ以上の炭素構造体の各炭素構造体は炭素粒子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素源はバイオマス材料である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記バイオマス材料は、D-(+)-グルコース、D-(+)-グルコサミン塩酸塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記シード添加剤はリン酸一カリウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記シード添加剤を前記炭素源に導入することは、
前記炭素源を含む溶液を形成することと、
前記炭素源を含む前記溶液に前記シード添加剤を加えることと、
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シード添加剤は、前記炭素源に対して0.1重量%~10重量%の範囲から選択されるいずれか1つの値である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水熱プロセスは、180℃~210℃の任意の温度範囲で実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の複合構造体に含まれる鉄は、前記1つ以上の複合構造体に含まれる炭素に対して1重量%~80重量%の範囲から選択される任意の1つの値である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記凝集防止添加剤は、炭素粒子に対して1重量%~50重量%の範囲から選択されるいずれか1つの値である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
鉄を前記1つ以上の炭素構造体に導入して、前記1つ以上の複合構造体を形成することは、さらに
熱分解プロセスにて前記得られた混合物を加熱することにより前記鉄塩を還元することを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記得られた混合物は、窒素、アルゴン、および水素と窒素との混合物からなる群から選択されるいずれかの環境で加熱される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記得られた混合物は、水素と窒素との混合物の環境で加熱され、かつ
水素は、窒素に対して1体積%~10体積%のいずれか1つの値である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
水素は窒素に対して5体積%である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記熱分解プロセスの温度は、500℃~900℃の範囲から選択されるいずれか1つの値である、請求項1114のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
複合構造体であって、
炭素を含むマトリックスと、
鉄を含む1つ以上のナノ構造体と、
を含み、
前記1つ以上のナノ構造体は、前記マトリックスに少なくとも部分的に埋め込まれており、
前記1つ以上のナノ構造体の各ナノ構造体は、透過型電子顕微鏡を用いて測定されたときに20nm未満のサイズまたは直径を有し
前記複合構造体はシード添加剤を含み、前記シード添加剤はカリウム塩またはリン酸塩であり、前記複合構造体は凝集防止添加剤を含み、前記凝集防止添加剤は前記1つ以上のナノ構造体の集合体または凝集体を低減するように構成され、それにより前記1つ以上のナノ構造体の各ナノ構造体は20nm未満のサイズまたは直径を有することとなり、かつ前記凝集防止添加剤は、グルコサミン、メラミン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つである、複合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の種々の態様は、複合構造体を形成する方法に関する。本開示の種々の態様は、複合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素(O)は、食品の腐敗を引き起こす主な要因の1つである。酸素の存在は、品質の低下、色の変化、栄養素の損失、および微生物の成長をもたらす。
そのため、製造業では、真空包装やガス置換包装(MAP)のようなさまざまな技術を利用して、包装内のO濃度を制限している。これらの技術は費用のかかる投資を必要とし、包装された食品中のOを完全に除去することはいまだに不可能であり得る。通常、パッケージの残留濃度は約0.5%~3%であり、時間とともに外部環境からOがパッケージ内に浸透することを完全に防ぐことは不可能である。酸素捕捉剤は、包装内のO濃度を低減し、そして低レベルのO濃度を維持するために必要である。
【0003】
酸素捕捉剤の大部分は、鉄粉、アスコルビン酸、および不飽和炭化水素捕捉剤に基づいている。他の種類の酸素捕捉剤は、酸化セリウム粒子、酵素などを含んでいる。これらの酸素捕捉剤の中で、鉄ベースの酸素捕捉剤は、その高い捕捉効率と低コストにより、最もよく知られ、市場で容易に入手可能な製品である。有機および不飽和炭化水素捕捉剤は比較的不安定で、酸化プロセス後に副産物として臭気を発する場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
種々の実施形態は、1つ以上の複合構造体(composite structure)を形成する方法を提供し得る。同方法は、水熱プロセス(hydrothermal process)を介して炭素源から1つ以上の炭素構造体(carbon structure)を形成することを含み得る。同方法は、炭素構造体上に鉄を導入して、炭素および鉄を含む1つ以上の複合構造体を形成することも含み得る。
【0005】
種々の実施形態は、本明細書に記載される任意の方法によって形成される複合構造体を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】種々の実施形態に従う1つ以上の複合構造体を形成する方法を図示する概略図を示す。
図2】種々の実施形態に従う複合構造体の一般的な図を示す。
図3A】種々の実施形態に従う1つ以上の複合構造体を形成する方法を図示する概略図を示す。
図3B】種々の実施形態に従う水熱プロセスで使用されるParr撹拌高圧反応器(3.75リットル)の画像を示す。
図4A】種々の実施形態に従う高圧反応器内のグルコース分子を示す概略図である。
図4B】種々の実施形態に従う、脱水および重合を使用して図4Aに示されるグルコース分子から形成された炭素ナノ粒子を示す概略図である。
図4C図4Bに示される炭素ナノ粒子の集合体を示し、種々の実施形態に従って炭素粒子を形成している。
図4D図4Cに示される集合した炭素ナノ粒子からの種々の実施形態に従う成長または炭素粒子もしくは炭素球を示す。
図4E】種々の実施形態に従う複合粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図5】種々の実施形態に従う、0分~30分の滞留時間について、200℃および210℃での炭素粒子のサイズおよび炭素(C)収率を示す表である。
図6】種々の実施形態に従うリン酸一カリウム(KHPO)の添加の効果を示す、リン酸一カリウム(KHPO)の重量パーセント(wt%)の関数としての炭素球(carbon sphere)のサイズ(ナノメートルまたはnm)のプロットである。
図7】種々の実施形態に従う、異なる水熱条件下で、リン酸一カリウム(KHPO)の添加した場合と添加しない場合の、炭素粒子の収率を示す表である。
図8A】種々の実施形態に従う、40重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8B】種々の実施形態に従う、50重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8C】種々の実施形態に従う、60重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8D】種々の実施形態に従う、80重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8E】種々の実施形態に従う、80重量%の鉄および鉄の20%のグルコサミン含有量を含む、鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の透過型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8F】種々の実施形態に従う、グルコサミンを添加せずに調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
図8G】種々の実施形態に従う、グルコサミンを添加せずに調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図9】種々の実施形態に従う、複合粒子の捕捉能力(scavenging capacities)(鉄(Fe)のグラム(g)当たり)を列記する表を示す。
図10】種々の実施形態に従う、異なる鉄含有量を有する複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。
図11】時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、5日間にわたる種々の実施形態に従う異なる鉄含有量を有する複合粒子の酸素捕捉性能を示す。
図12】時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う異なるサイズの複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示している。
図13】種々の実施形態に従う、種々の異なる温度および持続時間でのアニーリングによって調製された複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。
図14】時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う種々の異なる温度および持続時間でアニーリングすることにより調製された複合粒子の捕捉特性を示す。
図15】種々の実施形態に従って、500℃および800℃にてフォーミングガス中でアニールされた複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。
図16】時間(時間またはhrs)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う異なる温度にてフォーミングガス中でのアニーリングによって調製された複合粒子の酸素捕捉特性を示す。
図17】種々の実施形態に従う、異なる湿度での複合粒子の鉄(Fe)のグラム(g)当たりの最大捕捉能力を示す表である。
図18】種々の実施形態に従う、複合粒子に対するリン酸カリウムおよびグルコサミンの添加の影響を示す概略図である。値は、約300nmの直径の複合粒子に基づいている。
図19A】時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示している。
図19B】種々の実施形態に従う複合粒子の酸素(O)吸着能力を(鉄のグラム当たりの立方センチメートルまたはcc/gFeで)示す表である。
図20】時間(時間)の関数としての吸収された酸素(鉄のグラム当たりの立方センチメートルまたはcm/gFe)のプロットであり、種々の実施形態に従う複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、非限定的な実施例および添付の図面と併せて考慮されるとき、詳細な説明を参照してよりよく理解されるであろう。
以下の詳細な説明は、例示として、本発明を実施することができる特定の詳細および実施形態を示す添付図面を参照する。これらの実施形態は、当業者が本発明を実施できるように十分詳細に説明されている。本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用して構造的および論理的変更を行うことができる。いくつかの実施形態を1つ以上の他の実施形態と組み合わせて新しい実施形態を形成することができるため、種々の実施形態は必ずしも相互排他的ではない。
【0008】
方法または複合構造体のいずれかの文脈で説明されている実施形態は、他の方法または複合構造体についても同様に有効である。同様に、方法の文脈で説明された実施形態は、複合構造体に対しても同様に有効であり、逆も同様である。
【0009】
一実施形態の文脈で説明される特徴は、他の実施形態の同じまたは類似の特徴に対応して適用可能であり得る。実施形態の文脈で説明される特徴は、これらの他の実施形態で明示的に説明されていなくても、他の実施形態に対応して適用可能であり得る。さらに、実施形態の文脈において特徴について説明された追加および/または組み合わせおよび/または代替は、他の実施形態の同じまたは類似の特徴に、対応して適用可能であり得る。
【0010】
側面または表面の「上に(over)」形成される堆積材料に関して使用される「上に」という用語は、本明細書において、堆積材料が、含意される側面または表面の「上に直接」形成されること、例えば、含意される側面または表面に直接接触して形成されることを意味するために使用されてもよい。側面または表面の「上に」形成される堆積材料に関して使用される「上に」という用語は、本明細書において、1つ以上の追加の層が含意される側面または表面と堆積材料との間に配置された状態で、堆積材料が、同含意される側面または表面の「上に間接的に」形成され得ることを意味するために使用されてもよい。言い換えれば、第2の層の「上に」ある第1の層は、第2の層上に直接配置される第1の層を参照するか、または第1の層および第2の層は、1つ以上の介在層によって分離されることを参照する。
【0011】
本明細書で説明される複合構造体は、種々の方向で動作可能であってもよく、したがって、以下の説明で使用される場合、用語「上部(top)」、「最上部(topmost)」、「下部(bottom)」、「最下部(bottommost)」といった用語は、利便性および相対的な位置もしくは方向の理解を支援するためのものであり、複合構造体の方向を制限することを意図したものではないことが理解されるべきである。
【0012】
種々の実施形態の文脈において、特徴または要素に関して使用される冠詞「a」、「an」および「the」は、特徴または要素の1つ以上への参照を含む。
種々の実施形態の文脈において、数値に適用される「約」または「およそ」という用語は、正確な値と合理的な分散とを包含する。
【0013】
本明細書で使用される「および/または」という用語は、関連する列記された事項の1つ以上の任意のおよび全ての組み合わせを含む。
アクティブ包装(Active packaging)とは、外部環境に対する不活性バリア以外の望ましい機能を備えた包装システムを指し、それにより包装された食品の品質、保存期間、安全性が向上する。
【0014】
酸素は食品腐敗の主な要因の1つであるため、酸素捕捉剤はプラスチック包装市場の57%を占める可能性がある。酸素吸収剤の需要は、包装された生鮮食品の需要の増加によって刺激される可能性がある。鉄粉捕捉剤(iron powder scavenger)は広く受け入れられており、酸素捕捉剤(oxygen scavenger)として広く市販されている。鉄粉捕捉剤は、酸素捕捉能力が高く、無毒かつ低コストであり、有機捕捉剤とは異なり、副産物としての臭気がない。しかしながら、鉄粉捕捉剤はそのサイズが大きく(ミリメートルスケール)、捕捉効率が比較的低く、小袋包装に制限されている。
【0015】
鉄ベースの酸素捕捉剤の効率は、吸収能力(吸収されるOのcm/鉄のグラム)と吸収率に依存し得る。集合体を伴わない担体または支持体上の鉄粒子の良好な分散(均一性)は、その吸収能力を高めると仮定されている。さらに、ナノサイズの安定した鉄粒子と高い表面積の支持体は、優れた吸収能力を備えた酸素捕捉剤を製造するための重要な要因である。
【0016】
本願の発明者らは、バイオマス材料に由来する炭素粒子を調製し、それをナノ構造化されたゼロ価の鉄粒子のための支持体、保護剤および還元剤として使用する方法を以前に考え出していた。鉄粒子は、炭素支持体の表面に均一に成長し、周囲条件下で良好な均一性と高い安定性を示した。開発された鉄/炭素ナノ構造体は、包装用途において有望な酸素捕捉特性を示している。鉄/炭素ナノ構造体は小規模では準備されていた。これらのFe/Cハイブリッドナノ粒子の製造プロセスをスケールアップすることは困難な場合がある。
【0017】
電気化学キャパシタセルに適用する炭素粒子を調製する従来の方法の1つは、圧力容器内で前駆体として炭水化物ベースの材料(キシロース、セルロース、グルコースなど)を使用することである。このような方法は、40nm~1235nmの範囲のサイズの炭素粒子を得るのに少なくとも30時間という非常に長い時間を要する場合がある。
【0018】
別の従来の方法は、二段階反応によりバイオマスから水熱炭素材料を調製することに関する。アクリル酸およびアクリルアミドプロピルスルホン酸のような共重合可能な化合物をバイオマス材料に組み込んで、水熱炭化プロセスを制御してもよい。バイオマス前駆体から炭素粒子を得るには12時間かかる。合成される炭素粒子は、典型的には1~10μmの範囲であり得る。
【0019】
さらに別の従来の方法は、酸素捕捉粒子を調製することに関する。酸素捕捉剤は、マイクロサイズの鉄粒子、塩化ナトリウム、および塩化アルミニウムなどの酸性化成分で構成されていてもよい。そのような酸素捕捉剤を調製するために、すべての成分が機械的混合機に加えられ、成分の均一な混合が達成される。しかしながら、酸素捕捉粒子の捕捉性能は報告されていない。
【0020】
さらなる従来の方法は、元素がドープされた酸化セリウム粒子を酸素捕捉剤として調製する方法に関する。イットリウム(Y)、カルシウム(Ca)、およびプラセオジム(Pr)のうちの少なくとも1つの元素でドープされた酸化セリウム粒子が開示されている。これらの酸化セリウム粒子は、ドーパント元素を含む酸化セリウムの複合体酸化物を1400℃以上の温度で約1時間焼成することにより形成される。還元ガス(水素)ストリームで1000℃にて1時間活性化した後、酸化セリウム粒子は良好な酸素捕捉性能を示す。酸化セリウム粒子の調製プロセスは、危険でかつ費用がかかる場合がある。
【0021】
種々の実施形態は、1つ以上の複合構造体を形成する方法を提供し得る。種々の実施形態は1つ以上の複合構造体を形成する方法を提供し、同1つ以上の複合構造体のそれぞれが炭素(C)および鉄(Fe)を含み得る。種々の実施形態は、食品包装への適用のためのFe/Cナノ粒子の大量生産のための方法を提供し得る。種々の実施形態は、炭素ナノ粒子の大規模合成時に、適切な比率のリン酸一カリウム(KHPO)の添加を伴い、それは、1時間以内に高い生産収率で望ましいナノ粒子をもたらし得る。種々の実施形態は、噴霧乾燥機の使用およびグルコサミンの添加を伴い、それはより高い鉄含有量を有するFe/Cを生成し得る。グルコサミンは、炭素支持体上でナノサイズ化されたFe粒子を達成し、酸素を捕捉する(scavenging)ための望ましい構造体を生成するのにも役立つ。
【0022】
図1は、種々の実施形態に従って1つ以上の複合構造体を形成する方法を図示する概略図を示す。同方法は、102において、水熱プロセスを介して炭素源から1つ以上の炭素構造体を形成することを含み得る。同方法はまた、104で、炭素構造体上に鉄を導入して、炭素および鉄を含む1つ以上の複合構造体を形成することを含み得る。
【0023】
言い換えれば、この方法は、水熱プロセスを使用して1つ以上の炭素構造体、すなわち炭素担体を形成することを包含し得る。1つ以上の炭素構造体の炭素は、炭素源に由来し得る。同方法は、炭素構造体上に鉄を提供して複合構造体を形成することをさらに含み得る。
【0024】
水熱プロセスは、高温蒸気圧にて、高温水溶液または混合物からの物質(例えば炭素粒子または炭素球)の結晶化を包含し得る。
種々の実施形態において、複合構造体は形状が実質的に球形であってもよい。複合構造体は、粒子、例えばナノ粒子であってもよい。現在の文脈において、ナノ粒子は、1000nm未満の直径を有する粒子であり得る。
【0025】
1つ以上の炭素構造体の各炭素構造体は、炭素粒子、例えば炭素ナノ粒子であり得る。種々の実施形態において、各炭素粒子は球形であってもよく、炭素球(carbon sphere)と称されてもよい。
【0026】
炭素源はバイオマス材料であってもよい。バイオマス材料は、D-(+)-グルコース、D-(+)-グルコサミン塩酸塩、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれかであり得る。バイオマス材料は、任意の単糖類または任意の単糖類を含む混合物であり得る。
【0027】
種々の実施形態において、炭素源から1つ以上の炭素構造体を形成することは、炭素源にシード添加剤(seeding additive)を導入することをさらに含んでもよい。シード添加剤は、カリウム塩またはリン酸塩であり得る。種々の実施形態において、シード添加剤はリン酸一カリウム(KHPO)であってもよい。リン酸一カリウムなどのシード添加剤は、炭素粒子または炭素球のような炭素構造体を生成する触媒として機能し、各炭素構造体のサイズを縮小しながら、1つ以上の炭素構造体の収率を向上させることができる。
【0028】
炭素源へのシード添加剤の導入は、炭素源を含む混合物または溶液(例えばグルコース溶液)の形成、および炭素源を含む混合物または溶液へのシード添加剤の添加を含み得る。例えば、D-(+)-グルコースを溶液に溶解し、D-(+)-グルコースを含む溶液にリン酸一カリウムを加えてもよい。
【0029】
種々の実施形態において、この方法は、添加剤混合物または溶液を形成すること、および添加剤溶液と炭素源を含む混合物または溶液とを混合することを含み得る。例えば、D-(+)-グルコースおよびリン酸一カリウムは、それぞれ溶液に溶解してもよい。
【0030】
種々の実施形態において、炭素源を含む混合物または溶液は、水(例えば脱イオン水)のような適切な溶媒をさらに含んでもよい。炭素源は適切な溶媒に溶解してもよい。
シード添加剤は、100重量パーセントとみなされる炭素源(例えば、グルコース源)の質量に対して、0.01重量パーセント(wt%)~10重量パーセント(wt%)の範囲、例えば0.1重量パーセント~0.5重量パーセントの範囲から選択される任意の1つの値の濃度を有してもよい。言い換えれば、シード添加剤は、炭素源に対して0.01重量%~10重量%、または0.1重量%~0.5重量%の範囲から選択される任意の1つの値であり得る。シード添加剤の質量の1つ以上の炭素源の質量に対する比は、0.01:100~10:100(例えば0.1:100~0.5:100)の範囲であり得る。例えば、グルコース源への0.1重量%~0.5重量%の添加物は、100グラムのグルコースあたり0.1グラム~0.5グラムの添加物を指す。
【0031】
水熱プロセスは、180℃~210℃の任意の温度範囲で実施することができる。水熱プロセスの滞留時間は1時間以下(0~1時間)である。水熱プロセスは、Parr撹拌高圧反応器を使用して実施され得る。炭素源を含む混合物または溶液を攪拌してもよい。撹拌速度は、より均一な球状炭素粒子を提供するために、毎分0回転(rpm)~毎分100回転(rpm)、好ましくは10~100rpm、さらに好ましくは10~50rpmの範囲から選択される任意の1つの値であり得る。
【0032】
水熱プロセスまたは水熱反応ごとに加熱または処理される混合溶液の量は、1リットル~3リットル、好ましくは1.5リットル~2.5リットルの範囲から選択される任意の1つの値であり得る。
【0033】
他の圧力反応器も水熱プロセスに使用でき、処理される溶液の量は10ミリリットル(ml)~10リットル、さらには100リットル以上である。
180℃で測定される圧力は、約135ポンド毎平方インチ(PSI)(0.93MPa)~約150ポンド毎平方インチ(PSI)(1.03MPa)であり得る。210℃で測定された圧力は、約265ポンド毎平方インチ(PSI)(1.82MPa)~約280ポンド毎平方インチ(PSI)(1.93MPa)であり得る。
【0034】
各炭素粒子は、50ナノメートル(nm)~1マイクロメートル(m)の範囲から選択された任意の1つの値のサイズまたは直径を有してもよい。炭素粒子の収率は、20%以上、たとえば20%~80%、たとえば約50%であってもよい。
【0035】
種々の実施形態において、1つ以上の複合構造体に含まれる鉄は、100重量パーセントとみなされる1つ以上の複合構造体に含まれる炭素に対して、1重量パーセント~80重量パーセントの範囲から選択される任意の1つの値であり得る。言い換えれば、鉄と炭素の比率は1:100~80:100の範囲であり得る。1つ以上の複合構造体に含まれる鉄は、炭素に対して1重量%~80重量%の範囲から選択される任意の1つの値であり得る。
【0036】
1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入して1つ以上の複合構造体を形成することは、鉄塩を適切な溶媒に溶解して前駆体溶液を形成することを含み得る。1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入して1つ以上の複合構造体を形成することは、前駆体溶液と1つ以上の炭素構造体を含む懸濁液または混合物を混合して、結果として得られる混合物を形成することをさらに含み得る。1つ以上の炭素構造体を含む懸濁液または混合物は、1つ以上の炭素構造体および適切な溶媒もしくは液体の添加により形成され得る。鉄塩は、硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、グルコン酸鉄、クエン酸鉄、およびシュウ酸鉄からなる群から選択される1つまたは複数であり得る。
【0037】
1つ以上の複合構造体を形成するために1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入することは、鉄塩および1つ以上の炭素構造体を含む得られた混合物を乾燥することをさらに含み得る。得られた混合物を乾燥することは、噴霧乾燥、回転蒸発、凍結乾燥、風乾または室温での真空乾燥により行われ、乾燥したまたは部分的に乾燥した複合構造体を形成する。乾燥したまたは部分的に乾燥した複合構造体は、60℃~80℃の範囲から選択される任意の1つの温度でさらにまたは完全に乾燥させてもよい。
【0038】
同方法は、得られた混合物を乾燥する前に、得られた混合物に凝集防止添加剤(anti-agglomeration additive)を添加することも含み得る。凝集防止添加剤は、グルコサミン、メラミン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるいずれか1つであり得る。凝集防止添加剤は、炭素粒子への鉄の高負荷(loading)を達成するのに役立ち、集合体(agglomeration)または凝集体(aggregation)を回避または低減するのに役立つ。
【0039】
凝集防止添加剤は、100重量パーセントとみなされる炭素粒子の質量に対して、1重量パーセント~50重量パーセントの範囲から選択される任意の1つの値の濃度を有してもよい。言い換えれば、炭素の量に対する凝集防止添加剤の量は、1:100~50:100の範囲であり得る。凝集防止添加剤は、炭素粒子に対して1重量%~50重量%の範囲から選択される任意の1つの値であり得る。
【0040】
種々の実施形態において、1つ以上の炭素構造体上に鉄を導入して1つ以上の複合構造体を形成することは、熱分解プロセスで得られた混合物を加熱することにより鉄塩を還元することをさらに含み得る。
【0041】
得られた混合物は、窒素、アルゴン、および水素と窒素の混合物からなる群から選択されるいずれか1つの環境で加熱してもよい。
種々の実施形態において、得られた混合物は、水素と窒素の混合物の環境で加熱されてもよい。水素は、100%とみなされる窒素に対して1体積%~10体積%の任意の1つの値であり得る。言い換えれば、水素と窒素の比率は1:100~10:100の範囲であり得る。種々の実施形態において、水素は窒素に対して5体積%であってもよい。
【0042】
種々の実施形態において、熱分解プロセスの温度は、500℃~900℃の範囲から選択される任意の1つの値である。
種々の実施形態は、本明細書に記載の任意の1つの方法に従って形成された複合構造体を提供し得る。
【0043】
図2は、種々の実施形態に従う複合構造体200の一般的な図を示す。複合構造体200は複合粒子であってもよい。複合構造体は、炭素を含むマトリックスまたは支持体202と、鉄を含む1つ以上のナノ構造体204と、を含み得る。1つ以上のナノ構造体204は、マトリックスまたは支持体202上に接着されるか、少なくとも部分的に埋め込まれてもよい。1つ以上のナノ構造体204は、ナノ粒子であり得る。1つ以上のナノ構造体204は、マトリックスまたは支持体204の表面上にあってもよい。
【0044】
種々の実施形態において、複合構造体200は形状が実質的に球形であってもよい。複合構造体200は、粒子、例えばナノ粒子であってもよい。種々の実施形態において、1つ以上のナノ構造体204の各ナノ構造体は、形状が実質的に球形であってもよい。種々の実施形態において、複合構造体200は、孤立した鉄ナノ粒子(isolated iron nanoparticles)204を有する炭素球マトリックスまたは支持体202を含み得る。
【0045】
1つ以上のナノ構造体204に含まれる鉄は、金属鉄であり得る。言い換えれば、1つ以上のナノ構造体204に含まれる鉄は、価数が0であってもよい。支持体またはマトリックス202の中またはそれらの上に含まれる炭素はまた、原子価が0であってもよい。
【0046】
種々の実施形態において、複合構造体200は、50nm~1μmの範囲から選択されるいずれか1つの値のサイズまたは直径を有していてもよい。種々の実施形態において、複合構造体200は、約300nmのサイズまたは直径を有し得る。
【0047】
種々の実施形態において、1つ以上のナノ構造体204の各ナノ構造体は、50nm未満、例えば20nm未満のサイズまたは直径を有し得る。1つ以上のナノ構造体204の各ナノ構造体は、0.1nmを超えるサイズまたは直径を有し得る。
【0048】
図3Aは、種々の実施形態に従う1つ以上の複合構造体を形成する方法を示す概略図を示す。同方法は、302において、炭素ナノ粒子の大規模な合成のための水熱プロセスまたは水熱反応を含み得る。同方法は、304において、噴霧乾燥プロセスも含み得る。同方法は、306において、炭化または熱分解ステップも含み得る。
【0049】
図3Bは、種々の実施形態に従う水熱プロセスで使用されるParr撹拌高圧反応器(3.75リットル)の画像を示す。
水熱処理プロセスは、0~1時間の滞留時間で180~210℃の温度範囲で起こり得る。加熱時間を除く合成時間は、0分~30分であり得る。撹拌速度は、均一な球状粒子を提供するために、0rpm~200rpm、好ましくは10~100rpm、さらに好ましくは10~50rpmであり得る。反応あたりの溶液の量は、1~3リットル、好ましくは1.5~2.5リットルであり得る。種々の実施形態は、10ml~10リットル規模の、または100リットル以上のその他の同様の圧力反応器を使用してもよい。180℃で測定される圧力は、約135PSI(0.93MPa)~約150PSI(1.03MPa)であり得る。210℃で測定される圧力は、約265PSI(1.82MPa)~約280PSI(1.93MPa)であり得る。
【0050】
図4A図4Dは、種々の実施形態に従う炭素粒子の形成を示す。図4Aは、種々の実施形態に従う高圧反応器内のグルコース分子を示す概略図である。図4Bは、種々の実施形態に従う脱水および重合を使用して図4Aに示されるグルコース分子から形成された炭素ナノ粒子を示す概略図である。図4Cは、種々の実施形態に従って炭素粒子を形成するべく、図4Bに示される炭素ナノ粒子の集合体を示す。図4Dは、図4Cに示される凝集した炭素ナノ粒子からの種々の実施形態に従う成長または炭素粒子もしくは炭素球を示す。いくつかの炭素ナノ粒子が集合して、より大きな炭素粒子を形成する場合がある。図4Eは、種々の実施形態に従う複合粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。複合粒子は鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子として参照される。
【0051】
炭素粒子の成長を制御する要因には、温度、時間、および/または炭素源(たとえばグルコース)の濃度が含まれ得る。
グルコース分子はD-(+)-グルコースであってもよい。種々の実施形態において、D-(+)-グルコースは一定に維持されてもよく、リン酸一カリウム(0.1%~1重量%)などのシード添加剤が添加されてもよい。形成された炭素粒子はそれぞれ、サイズまたは直径範囲が50nm~1μmの球状であり、収率は20%を超え、例えば20%~80%、例えば約50%である。種々の実施形態において、250nm未満のサイズまたは直径を有する炭素粒子を得るために、リン酸一カリウム(KHPO)の添加がない場合、炭素ナノ粒子の収率は10%未満であり得る。
【0052】
同じ炭素粒子サイズにおいて、より短い滞留時間内にKHPOを添加すると、炭素粒子の収率が23%超に増加する可能性がある。図5は、種々の実施形態に従う、0分~30分の滞留時間について、200℃および210℃での炭素粒子のサイズおよび炭素(C)収率を示す表である。
【0053】
反応は、反応器の温度が設定温度に達するとすぐに停止させる(即ち、滞留時間については0分間の滞留時間)か、あるいは、さらに20分間または30分間滞留させる(即ち、保持する)。滞留時間は、反応器の温度が設定温度に達する時間から開始する保持時間として定義できる。反応器の温度は設定温度まで上昇し、滞留時間に等しい期間の間、その設定温度に留めてもよい。設定温度は、炭素粒子を形成するために反応器が設定される温度であってもよい。
【0054】
収率は、水熱プロセスの炭素収率に基づいて計算され得る。収率は、乾燥炭素粒子の重量を炭素源または炭素前駆体の炭素の理論重量で除算し、100を掛けた値に等しくなり得る。
【0055】
炭素ナノ粒子のサイズおよび収率は、KHPOの含有量に関係している可能性があることが明らかにされた。
図6は、種々の実施形態に従うリン酸一カリウム(KHPO)の添加の効果を実証する、リン酸一カリウム(KHPO)の重量パーセント(wt%)の関数としての炭素球のサイズ(ナノメートルまたはnm)のプロットである。リン酸一カリウム(KHPO)が0重量パーセント(wt%)の場合、リン酸一カリウム(KHPO)を添加せずに炭素球が形成され、一般に低収率でより大きなものとなる。図6は、同じプロセス条件で、KHPO塩の炭素球のサイズに調整する影響の傾向を示している。KHPOを0.1重量%添加すると、すべてのシナリオで炭素球のサイズが小さくなる。KHPOは、炭素球形成に対してより多くの種を生成するための触媒として働き、したがってサイズを縮小し、収率を改善し得る。高収率で小さな炭素ナノ粒子を達成するための範囲が存在し得る。同様のサイズの炭素ナノ粒子の生産収率におけるKHPOの影響を図7に示す。図7は、種々の実施形態に従う、異なる水熱条件下で、リン酸一カリウム(KHPO)を添加する、または添加しない場合の、炭素粒子の収率を示す表である。KHPOの添加による収率の増加率(%)は、少なくとも20%、特定の水熱条件下では少なくとも60%になる場合がある。
【0056】
Fe/Cハイブリッドナノ粒子を達成するために、鉄粒子は炭素粒子に均一に吸着され得る。鉄粒子は一般に50nm未満、特に20nm未満のサイズを有することが望ましい場合がある。鉄粒子の濃度は、炭素粒子の乾燥重量%に基づいて、10~90重量%の範囲、好ましくは30~80重量%の範囲、さらに好ましくは40~50重量%であり得る。鉄塩は、硝酸鉄、塩化鉄、硫酸鉄、グルコン酸鉄、クエン酸鉄およびシュウ酸鉄からなる群から選択される1つまたは複数を含んでもよい。鉄塩は、水のような溶媒に溶解することが好ましい場合がある。鉄塩を炭素粒子懸濁液に溶解することにより、鉄を炭素表面に含浸させることも好ましい場合がある。十分に浸漬した後、乾燥プロセスによって溶媒を除去してもよい。乾燥プロセスは、噴霧乾燥、回転蒸発、凍結乾燥、風乾、または室温での真空乾燥によって実施されてもよい。部分的に乾燥した炭素粒子は、60℃~80℃でさらに完全に乾燥させてもよい。
【0057】
種々の実施形態において、製造業で広く使用されている噴霧乾燥アプローチは、乾燥プロセスで好適に使用され得る。種々の実施形態において、50%のFeを含む1gの炭素の乾燥プロセスは、20~60L/分の範囲の流量で、約100℃にて噴霧乾燥することを包含し得る。炭素ナノ粒子への鉄の高負荷(loading)を達成し、その上での鉄ナノ粒子の凝集を回避するために、噴霧乾燥プロセスの前にグルコサミンを炭素粒子と鉄塩との混合物に添加してもよい。添加されるグルコサミンの重量は、炭素粒子の重量の5%~50%、好ましくは10%~40%、より好ましくは約20%の任意の値であり得る。図8Aは、種々の実施形態に従って、40重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図8Bは、種々の実施形態に従って、50重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図8Cは、種々の実施形態に従って、60重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図8Dは、種々の実施形態に従って、80重量パーセントの鉄でグルコサミンを添加して調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図8A~8Dに示されるサンプルの炭素の重量パーセントは100重量%とみなされ得る。添加されるグルコサミンの重量は、炭素粒子(100%として取得)の重量に対して約20%である。鉄含有量の重量が炭素粒子の重量に対して最大80%増加した場合でも、凝集のない均一なFe/Cナノ粒子を得ることができる。
【0058】
図8Eは、種々の実施形態に従う、80重量%の鉄および鉄の20重量%のグルコサミン含有量を含む、鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の透過型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【0059】
図8Eに示すように、Feナノ粒子は炭素球の表面に均一に分布し得る。
図8Fは、種々の実施形態に従って、グルコサミンを添加せずに調製された鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図8Gは、種々の実施形態に従って、グルコサミンを添加しない鉄-炭素(Fe/C)ハイブリッド粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。図8Fおよび8Gに示されている粒子には、80重量パーセントの鉄が含まれている。図8Eおよび8GのTEM画像は、グルコサミンの添加に伴い、より小さな鉄ナノ粒子が得られることを示している。
【0060】
種々の実施形態に従うナノ構造化されたFe/C粒子を調製する方法では、鉄塩を完全に還元してゼロ価の鉄粒子にする必要があり得る。400~1000℃、好ましくは500~900℃、特に好ましくは約500℃の高温で実施されてもよい。種々の実施形態において、熱分解プロセスは、窒素ガスまたはアルゴンガスまたはフォーミングガス(forming gas)下で実行されてもよい。種々の実施形態において、鉄塩をゼロ価の鉄粒子に完全に還元するために、500℃での熱分解期間は約12時間でなければならない場合がある。種々の実施形態において、時間および温度は、フォーミングガス条件を使用する熱分解プロセスで減少または低減し得る。
【0061】
調整可能なサイズと改善された収率を備えた炭素粒子の調製
KHPOを使用しない対照実験:Sigma Aldrich社から入手した180gのD-(+)-グルコース(>99.5%、GC)を1500mlの脱イオン水に溶解し、室温で30分間攪拌した。次に、混合溶液をParr高圧反応器(容量3.75リットル)に移した。反応器を30~180分の間、180℃~200℃に加熱し、次に室温まで冷却した。次に、それぞれが9000rpmで15分間の遠心分離により、粒子を脱イオン水で3回洗浄した。
【0062】
KHPOを使用した実験:Sigma Aldrich社から入手した180gのD-(+)-グルコース(>99.5%、GC)を1500mlの脱イオン水に溶解し、室温で30分間撹拌した。0.05重量%~0.5重量%のKHPOを添加し、さらに5分間撹拌した。次に、混合溶液をParr高圧反応器(容量3.75リットル)に移した。反応器を0分間~30分の間、200℃~210℃に加熱して、次いで、室温まで冷却した。次に、それぞれが9000rpmで15分間の遠心分離により、粒子を脱イオン水で3回洗浄した。
【0063】
いくつかのサンプルのサイズと収率の結果を図5~7に示す。
KHPOを添加した場合と添加しない場合のFe/Cハイブリッド粒子の酸素捕捉性能。
【0064】
炭素粒子は上記の方法に従って調製された。反応物を200℃に加熱し、20分間保持した。5回の反応(KHPOの0%、0.05%、0.1%、0.3%、0.5%を用いた炭素粒子)後、合計で5つの異なる炭素粒子が調製された。次に、硝酸鉄(III)九水和物溶液を炭素粒子懸濁液に加え、700rpmで一晩撹拌した。3.6gの硝酸鉄(III)九水和物を含む1gの炭素粒子は、50%のFeを生成する。噴霧乾燥プロセスにより水を除去した。次に、Fe/Cの粉末を管状炉内の石英管に入れ、不活性環境下で5℃/分のランプ速度(ramp rate)で800℃に加熱した。サンプルは800℃で3時間保持された。その後、サンプルを不活性環境下で周囲温度まで冷却してから、管状炉より取り出した。合成されたままのナノ構造化Fe/C粒子を、0.01gのNaClを含む水溶液と混合し、サンプルを不活性環境下、オーブン内で乾燥した。サンプルの酸素捕捉試験は、100%の相対湿度で行われ、その性能は図9に示されている。
【0065】
図9は、種々の実施形態に従う複合粒子の捕捉能力(鉄(Fe)のグラム(g)当たり)を列記する表を示す。複合粒子は、0%、0.05%、0.1%、0.3%、および0.5%のKHPOを含み得る。
【0066】
異なる鉄含有量のFe/Cハイブリッド粒子の調製
炭素粒子上のFe濃度を変更することにより、異なる捕捉速度および捕捉能力を備えたFe/Cを調製した。直径300nmの炭素ナノ粒子は、0.1%のKHPOを使用して210℃での水熱プロセスによって調製した。遠心分離による精製後、調製されたままの炭素粒子を、硝酸鉄(III)九水和物を含む水溶液に加え、室温で30分間撹拌した。グルコサミン(Feの20重量%)を混合物に加え、懸濁液を700rpmで一晩撹拌した。噴霧乾燥機を使用してサンプルを乾燥させた。次に、異なるFe含有量のFe/Cを管状炉に入れ、不活性環境下で5℃/分のランプ速度で800℃まで加熱した。サンプルを約800℃で3時間保持した。
【0067】
その後、サンプルを不活性環境下で周囲温度まで冷却してから、管状炉から取り出した。合成されたままのナノ構造化Fe/C粒子を、NaCl(Fe/Cの7.5wt%)を含む水溶液と混合し、サンプルを不活性環境下、オーブン内で乾燥した。酸素捕捉試験は、100%の相対湿度で実施した。
【0068】
図10は、種々の実施形態に従う、異なる鉄含有量を有する複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。
図11は、時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、5日間にわたり種々の実施形態に従う異なる鉄含有量を有する複合粒子の酸素捕捉性能を示す。
【0069】
図12は、時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う異なるサイズの複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示す。図12から、サイズが約300nmのFe/C粒子の酸素捕捉性能は、それらが酸素をより多く吸着できるため、100または200nmのものの酸素捕捉性能よりも優れていることがわかる。一方、サイズが約300nmのFe/C粒子は、フィルムに組み込まれた場合、500nmのサイズのものと比較してより良好な透明性を呈し得る。したがって、サイズが約300nmの炭素球が好ましい。
【0070】
異なる炭素熱温度でのFe/Cハイブリッド粒子の酸素捕捉性能
300nmの炭素ナノ粒子を硝酸鉄(III)九水和物溶液と混合し(Feの供給率は50重量%)、噴霧乾燥プロセスを使用して乾燥した。次に、不活性環境下で、異なる温度(500~900℃)にて、異なる期間(3~12時間)の間、管状炉内でサンプルをアニールした。
【0071】
炉のランプ速度は5℃/分に設定した。その後、サンプルをアルゴン下で周囲温度まで冷却してから、管状炉から取り出した。合成されたままのナノ構造化Fe/C粒子を、塩化ナトリウム(NaCl)(Fe/Cの7.5wt%)を含む水溶液と混合し、サンプルを不活性環境下、オーブン内で乾燥させた。酸素捕捉試験は100%の相対湿度で実施され、その性能は図13~14に示されている。図13は、種々の実施形態に従う、種々の異なる温度および持続時間でのアニーリングによって調製された複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。図14は、時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う種々の異なる温度および持続時間でアニーリングすることにより調製された複合粒子の捕捉特性を示す。アニーリング時間で示されていない線は、3時間の間アニーリングされたサンプルを表す。
【0072】
フォーミングガスでアニールされたFe/Cハイブリッド粒子の酸素捕捉性能
300nmの炭素ナノ粒子を硝酸鉄(III)九水和物溶液と混合し(Feの供給率は50重量%)、噴霧乾燥プロセスを使用して乾燥させた。次に、異なるFe含有量のFe/Cを管状炉に入れ、フォーミングガス中で5℃/分のランプ速度で800℃まで加熱した。
【0073】
サンプルは800℃で3時間保持した。その後、サンプルをアルゴン下で周囲温度まで冷却してから、管状炉から取り出した。合成されたままのナノ構造化Fe/C粒子をNaCl(Fe/Cの7.5wt%)を含む水溶液と混合し、不活性環境下、オーブン内でサンプルを乾燥した。酸素捕捉試験は異なる湿度で実施され、性能を図15に示す。図15は、種々の実施形態に従って、500℃および800℃でのフォーミングガス中でアニールされた複合粒子の酸素濃度(パーセントまたは%)を時間(時間またはHrs)とともに示す表である。図16は、(時間またはhrs)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う異なる温度にてフォーミングガス中でのアニーリングによって調製された複合粒子の酸素捕捉特性を示す。
【0074】
異なる湿度でのFe/Cハイブリッド粒子の酸素捕捉性能
300nmの炭素ナノ粒子を硝酸鉄(III)九水和物溶液と混合し(Feの供給率は50重量%)、噴霧乾燥プロセスを使用して乾燥した。次に、不活性環境下で、異なる温度(500~900℃)で異なる期間(3~12時間)、管状炉でサンプルをアニールした。炉のランプ速度は5℃/分に設定されている。その後、サンプルをアルゴン下で周囲温度まで冷却してから、管状炉から取り出した。合成されたままのナノ構造化Fe/C粒子をNaCl(Fe/Cの7.5wt%)を含む水溶液と混合し、不活性環境下、オーブン内でサンプルを乾燥した。酸素捕捉試験は、100%に対して異なる湿度で実施し、その性能を図17に示す。図17は、種々の実施形態に従う、異なる湿度での複合粒子の鉄(Fe)のグラム(g)当たりの最大捕捉能力を示す表である。
【0075】
図18は、種々の実施形態に従う複合粒子に対するリン酸カリウムおよびグルコサミンの添加の影響を示す概略図である。値は、約300nmの直径の複合粒子に基づいている。
【0076】
図19Aは、時間(時間)の関数としての酸素濃度(パーセントまたは%)のプロットであり、種々の実施形態に従う複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示している。図19Bは、種々の実施形態に従う複合粒子の酸素(O)吸着能力を(鉄のグラム当たりの立方センチメートルまたはcc/gFeにて)示す表である。
【0077】
図19A~Bは、約20重量%のグルコサミンの添加がより高い酸素捕捉性能につながる可能性があることを示している。
図20は、時間(時間)の関数としての吸収された酸素(鉄のグラム当たりの立方センチメートルまたはcm/gFeにて)のプロットであり、種々の実施形態に従う複合粒子の酸素捕捉性能を経時的に示している。図20は、リン酸カリウム(KHPO)を使用しない場合、Fe/C粒子が最大捕捉性能に達するのに約2日かかり、Fe/C粒子が捕捉性能に達するのに8時間しかかからないことを示している。
【0078】
種々の実施形態は、非常に効率的な酸素捕捉のための調整可能なサイズを有する鉄/炭素ハイブリッド粒子を提供し得る。種々の実施形態は、炭素粒子上の均一な鉄分布および高収率を有するハイブリッド鉄/炭素ナノ粒子の大量生産の方法を提供し得る。
【0079】
種々の実施形態は、サイズを調整可能な、かつ大規模な量にて、ナノ構造化された鉄/炭素の生産を最大化するためのプロセスに関するものであり、工業生産に適している。種々の実施形態は、高温処理中にリン酸カリウムを導入することを包含し、これにより、より小さなサイズの炭素球がより高い収率、なおかつ性能を損なうことなく生成できる。種々の実施形態は、短時間(例えば、1時間未満)でハイブリッド粒子を形成でき、生産性を向上させることができる。種々の実施形態は、残留酸素を迅速に除去するための加速された捕捉速度を達成することができる。
【0080】
種々の実施形態は、グルコサミンを添加した噴霧乾燥プロセスを使用して、炭素球上に孤立した鉄ナノ粒子を備える理想的な構造体を形成できる。
種々の実施形態は、酸素捕捉に関連して、食品、飲料、および医薬品の包装に潜在的な用途を有し得る。
【0081】
種々の実施形態は、非常に効率的な酸素捕捉剤として、小袋、透過性バッグ、シート状マット、および積層シートなどの種々の容器に固定することができる。ボトル内のポリマーおよびプラスチック化合物にさまざまな実施形態を使用することができる。プラスチックフィルムの多層コーティングにさまざまな実施形態を使用することができる。さまざまな実施形態をエネルギーの収穫および貯蔵に使用することができる。
【0082】
特定の実施形態を参照して本発明を特に示し説明したが、当業者は、添付の特許請求の範囲にて定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、形態および詳細の種々の変更を行うことができることを理解すべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲と同等の意味および範囲内にあるすべての変更が含まれることが意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20