(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク、部品、及びブランクを部品に熱間成形する方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230807BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230807BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20230807BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230807BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230807BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230807BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20230807BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230807BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/58
C22C18/04
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C23C2/06
C23C2/40
C21D9/46 G
(21)【出願番号】P 2020503872
(86)(22)【出願日】2018-07-23
(86)【国際出願番号】 EP2018069939
(87)【国際公開番号】W WO2019020575
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-21
(32)【優先日】2017-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2017-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ラダカンタ、ラナ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/174530(WO,A1)
【文献】特開2015-151615(JP,A)
【文献】特開2017-025353(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111431(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/58
C22C 18/04
C21D 9/00
C21D 1/18
C23C 2/06
C23C 2/40
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼ストリップ、シート又はブランクから製造された熱間成形された部品であって、
前記鋼ストリップ、シート又はブランクが、質量%で、以下の組成:
C:0.03~0.17
Mn:0.65~2.50
Cr:0.2~2.0
Ti:0.01~0.10
Nb:0.01~0.10
B:0.0005~0.005
N:0.01以下
場合により、
Si:0.1以下
Mo:0.1以下
Al:0.1以下
Cu:0.1以下
P:0.03以下
S:0.025以下
O:0.01以下
V:0.15以下
Ni:0.15以下
Ca:0.15以下
から選択される1種又は2種以上の元素
を有し、残部が鉄及び不可避的不純物であり、Ti/Nが、3.42以上であり、ここで、Ti/Nは、Nの量に対するTiの量の質量比を表し、
前記熱間成形された部品の引張強度が、750MPa以上かつ1400MPa以下であり、
前記熱間成形された部品がミクロ組織を有し、
前記ミクロ組織が、60%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである、熱間成形された部品。
【請求項2】
全伸び(TE)が、5%以上であり、かつ/あるいは、厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)が、100°以上である、請求項1に記載の熱間成形された部品。
【請求項3】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクが、以下の元素:
C:0.05~0.17、及び/又は
Mn:1.00~2.10、及び/又は
Cr:0.5~1.7、及び/又は
Ti:0.015~0.07、及び/又は
Nb:0.02~0.08、及び/又は
B:0.0005~0.004、及び/又は
N:0.001~0.008、
Ca:0.01以下
を含む、請求項1又は2に記載の熱間成形された部品。
【請求項4】
Mn及びCrの合計量が、2.7未満である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱間成形された部品。
【請求項5】
Mn、Cr及びBが、(B/(Mn+Cr))×1000
が0.185~2.5の範囲となる量で使用され、ここで、B/(Mn+Cr)は、Mn及びCrの合計量に対するBの量の質量比を表す、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱間成形された部品。
【請求項6】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱間成形された部品。
【請求項7】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティングが設けられており、前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0質量%のAl、0.2~5.0質量%のMg、場合により、0.3質量%以下の1種又は2種以上の追加の元素を含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱間成形された部品。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクであって、
前記鋼ストリップ、シート又はブランクが、質量%で、以下の組成:
C:0.03~0.17
Mn:0.65~2.50
Cr:0.2~2.0
Ti:0.01~0.10
Nb:0.01~0.10
B:0.0005~0.005
N:0.01以下
場合により、
Si:0.1以下
Mo:0.1以下
Al:0.1以下
Cu:0.1以下
P:0.03以下
S:0.025以下
O:0.01以下
V:0.15以下
Ni:0.15以下
Ca:0.15以下
から選択される1種又は2種以上の元素
を有し、
残部が鉄及び不可避的不純物であり、
Ti/Nが、3.42以上であり、ここで、Ti/Nは、Nの量に対するTiの量の質量比を表す、鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項9】
C:0.05~0.17、及び/又は
Mn:1.00~2.10、及び/又は
Cr:0.5~1.7、及び/又は
Ti:0.015~0.07、及び/又は
Nb:0.02~0.08、及び/又は
B:0.0005~0.004、及び/又は
N:0.001~0.008、
Ca:0.01以下
である、請求項8に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項10】
Mn及びCrの合計量が、2.7未満である、請求項8又は9に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項11】
Mn、Cr及びBが、(B/(Mn+Cr))×1000が0.185~2.5の範囲となる量で使用され、ここで、B/(Mn+Cr)は、Mn及びCrの合計量に対するBの量の質量比を表す、請求項8~10のいずれか一項に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項12】
亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、請求項8~11のいずれか一項に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項13】
前記鋼ストリップ、シート又はブランクに、亜鉛系コーティングが設けられており、前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0質量%のAl、0.2~5.0質量%のMg、場合により、0.3質量%以下の1種又は2種以上の追加の元素を含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、請求項12に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項14】
車両のホワイトボディの構造部品としての、請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間成形された部品の使用。
【請求項15】
鋼ブランク又は予備成形された部品を、
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱間成形された部品に熱間成形する方法であって、
a.請求項8~13のいずれか一項に記載のブランク又は前記ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T1に加熱し、前記加熱されたブランクを温度T1に時間t1の間保持する工程であって、温度T1が前記鋼のAc3温度よりも高く、かつ、時間t1が10分以下である工程、
b.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を、熱間成形器具に搬送時間t2の間に搬送する工程であって、前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t2の間に、温度T1から温度T2に低下し、かつ、前記搬送時間t2が20秒以下である工程、
c.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を部品に熱間成形する工程、及び
d.前記熱間成形器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度で、前記鋼のMf温度より低い温度に冷却する工程
を含む方法。
【請求項16】
工程(a)における温度T1が、Ac3温度よりも50~100℃高く、かつ/あるいは、温度T2が、Ar3温度より高い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
工程(a)における時間t1が、1分以上7分以下であり、かつ/あるいは、工程(b)における時間t2が、12秒以下である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記部品が、工程(d)において、30~150℃/sの範囲の冷却速度で冷却される、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項1~7のいずれか一項に記載の少なくとも1つの部品を備える車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク;熱間成形された部品;及び熱間成形された部品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費を削減するために自動車部品の軽量化を可能にし、同時に、乗客の保護を改善する鋼合金の需要が増加している。
【0003】
機械的特性の改善、例えば、引張強度、エネルギー吸収性、加工性、延性及び靭性の改善という観点から自動車産業の要求を満たすために、これらの要求を満たす鋼を製造するための冷間成形及び熱間成形プロセスが開発されてきた。
【0004】
冷間成形プロセスにおいて、鋼は、室温付近で製品に成形される。このようにして製造された鋼製品は、例えば、フェライト-マルテンサイトミクロ組織を有する二相(DP)鋼である。これらのDP鋼は、高い最大引張強度(ultimate tensile strength)を示すが、それらの曲げ性及び降伏強度は低く、これは、圧壊特性(crash performance)が低下するために望ましくない。
【0005】
熱間成形プロセスにおいて、鋼は、再結晶化温度を超えて加熱され、通常はマルテンサイト変態により、所望の材料特性を得るために急冷される。熱間成形技術及びそのための使用に適した鋼組成の基礎は、英国特許第1490535号に以前から記載されていた。
【0006】
通常、熱間成形に使用される鋼は、22MnB5鋼である。このボロン鋼は、炉で加熱可能であり、通常870~940℃でオーステナイト化され、炉から成形器具に移され、所望の部品形状にスタンプ(stamp)され、同時に部品が冷却される。このようにして製造されたボロン鋼部品の利点は、それらの完全なマルテンサイトミクロ組織により、耐侵入性の耐衝撃性(anti-intrusive crashworthiness)に関連する高い最大引張強度を示すことであるが、同時に、それらは、低い延性及び曲げ性を示し、それにより、靭性が制限され、衝撃エネルギー吸収性の耐衝撃性(impact energy absorptive crashworthiness)が低くなる。
【0007】
破壊靭性の測定は、鋼の衝突エネルギー吸収性(crash energy absorption)を示す便利な手段である。破壊靭性パラメータが高い場合、一般に、良好な圧壊挙動(crash behavior)が得られる。
【0008】
上記のことを考慮すると、優れた最大引張強度と同時に、優れた延性及び曲げ性、ひいては、優れた衝突エネルギー吸収性を示す鋼部品が必要であることは明らかであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、部品に熱間成形可能な鋼ストリップ、シート又はブランクを提供することであり、該部品は、従来の冷間成形及び熱間成形された鋼と比較した場合、優れた最大引張強度、延性及び曲げ性の組み合わせを有し、それにより、優れた衝突エネルギー吸収性を実現する。
【0010】
本発明の別の主題は、該鋼ストリップ、シート又はブランクから製造される熱間成形された部品と、車両の構造部品としての、該熱間成形された部品の使用とを提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、鋼ブランクを部品に熱間成形する方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明による方法の実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、軸圧壊試験のためのドロップタワーの断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
炭素、マンガン、クロム、チタン及び窒素に加えて、比較的少量のニオブ及びホウ素を含む、低合金鋼を使用すると、これらの目的が達成可能であることが今回見出された。
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]重量%で、以下の組成:
C:0.03~0.17
Mn:0.65~2.50
Cr:0.2~2.0
Ti:0.01~0.10
Nb:0.01~0.10
B:0.0005~0.005
N:0.01以下
場合により、
Si:0.1以下
Mo:0.1以下
Al:0.1以下
Cu:0.1以下
P:0.03以下
S:0.025以下
O:0.01以下
V:0.15以下
Ni:0.15以下
Ca:0.15以下
から選択される1種又は2種以上の元素
を有し、
残部が鉄及び不可避的不純物であり、
Ti/Nが、3.42以上である、熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランク。
[2]C:0.05~0.17、好ましくは0.07~0.15、及び/又は
Mn:1.00~2.10、好ましくは1.20~1.80、及び/又は
Cr:0.5~1.7、好ましくは0.8~1.5、及び/又は
Ti:0.015~0.07、好ましくは0.025~0.05、及び/又は
Nb:0.02~0.08、好ましくは0.03~0.07、及び/又は
B:0.0005~0.004、好ましくは0.001~0.003、及び/又は
N:0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005
Ca:0.01以下
である、[1]に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
[3]Mn及びCrの合計量が、2.7未満、好ましくは0.5~2.5、さらに好ましくは2.0~2.5である、[1]又は[2]に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
[4]Mn、Cr及びBが、(B×1000)/(Mn+Cr)が0.185~2.5の範囲、好ましくは0.2~2.0の範囲、さらに好ましくは0.5~1.5の範囲となる量で使用される、[1]~[3]のいずれか一つに記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
[5]亜鉛系コーティング又はアルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている、[1]~[4]のいずれか一つに記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
[6]前記亜鉛系コーティングが、0.2~5.0重量%のAl、0.2~5.0重量%のMg、場合により、0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素を含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングである、[5]に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
[7][1]~[6]のいずれか一つに記載の鋼ストリップ、シート又はブランクから製造された熱間成形された部品であって、引張強度が、750MPa以上、好ましくは800MPa以上、さらに好ましくは900MPa以上、かつ、1400MPa以下である、熱間成形された部品。
[8]全伸び(TE)が、5%以上、好ましくは5.5%以上、さらに好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上であり、かつ/あるいは、厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)が、100°以上、好ましくは115°以上、さらに好ましくは130°以上、最も好ましくは140°以上である、[7]に記載の熱間成形された部品。
[9]前記部品がミクロ組織を有し、
前記ミクロ組織が、60%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトであり、
前記ミクロ組織が、好ましくは50%以下のベイナイトを含み、さらに好ましくは40%以下のベイナイトを含む、[7]又は[8]に記載の熱間成形された部品。
[10]車両のホワイトボディの構造部品としての、[7]~[9]のいずれか一つに記載の熱間成形された部品の使用。
[11]鋼ブランク又は予備成形された部品を、部品に熱間成形する方法であって、
a.[1]~[3]のいずれか一つに記載のブランク又は前記ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T1に加熱し、前記加熱されたブランクを温度T1に時間t1の間保持する工程であって、温度T1が前記鋼のAc3温度よりも高く、かつ、時間t1が10分以下である工程、
b.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を、熱間成形器具に搬送時間t2の間に搬送する工程であって、前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t2の間に、温度T1から温度T2に低下し、かつ、前記搬送時間t2が20秒以下である工程、
c.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を部品に熱間成形する工程、及び
d.前記熱間成形器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度で、前記鋼のMf温度より低い温度に冷却する工程
を含む方法。
[12]工程(a)における温度T1が、Ac3温度よりも50~100℃高く、かつ/あるいは、温度T2が、Ar3温度より高い、[11]に記載の方法。
[13]工程(a)における時間t1が、1分以上7分以下であり、かつ/あるいは、工程(b)における時間t2が、12秒以下、好ましくは2~10秒である、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]前記部品が、工程(d)において、30~150℃/sの範囲の冷却速度、好ましくは30~100℃/sの冷却速度で冷却される、[11]~[13]のいずれか一つに記載の方法。
[15][7]~[9]のいずれか一つに記載の少なくとも1つの部品、及び/又は[11]~[14]のいずれか一つに記載の方法に従って製造された少なくとも1つの部品を備える車両。
【0014】
したがって、本発明は、重量%で、以下の組成:
C:0.03~0.17
Mn:0.65~2.50
Cr:0.2~2.0
Ti:0.01~0.10
Nb:0.01~0.10
B:0.0005~0.005
N:0.01以下
場合により、
Si:0.1以下
Mo:0.1以下
Al:0.1以下
Cu:0.1以下
P:0.03以下
S:0.025以下
O:0.01以下
V:0.15以下
Ni:0.15以下
Ca:0.05以下
から選択される1種又は2種以上の元素
を有し、
残部が鉄及び不可避的不純物であり、
Ti/Nが、3.42以上である、熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクに関する。
【0015】
本発明による鋼ストリップ、シート又はブランクから製造された熱間成形された部品は、従来の熱間成形されたボロン鋼と比較した場合、引張強度、延性及び曲げ性の組み合わせ、ひいては衝撃靭性の改善を示した。
【0016】
この鋼に関連して2つの自動車部品、すなわち、フロントの長手方向のバー、及びBピラーを念頭に置いている。フロントの長手方向のバーには、現在、冷間成形された二相鋼(DP800)が使用され、Bピラーには、ホットスタンプされた22MnB5鋼が使用されている。DP鋼のエネルギー吸収性はより低く、高強度鋼(最大引張強度が800MPaより高い)を使用することで、ダウンゲージ(downgauging)による重量の削減と、より高い衝突エネルギー吸収性による乗客の安全性の向上とが可能になるであろう。一方、Bピラーに対して現在使用されているソリューションの1つは、2種類の鋼、すなわち、上部に超高強度(約1500MPa)鋼22MnB5、及び下部に低強度(500MPa)鋼を使用することである。2つの鋼ブランクは、ホットスタンプの前にレーザー溶接によって接合され、複合ブランクは、Bピラーへとスタンプされる。このソリューションを使用することにより、衝突時に上部が侵入に抵抗し、下部が高い延性によりエネルギーを吸収する。本発明は、より優れた性能及び軽量化の可能性を提供する。すなわち、本発明の高強度鋼は、より高いエネルギー吸収性能によって、下部の低強度鋼に置き換わることができる。
【0017】
好ましくは、上記のように熱間成形された部品を製造するための鋼ストリップ、シート又はブランクは、重量%で、以下の組成、
C:0.05~0.17、好ましくは0.07~0.15、及び/又は
Mn:1.0~2.1、好ましくは1.2~1.8、及び/又は
Cr:0.5~1.7、好ましくは0.8~1.5、及び/又は
Ti:0.015~0.07、好ましくは0.025~0.05、及び/又は
Nb:0.02~0.08、好ましくは0.03~0.07、及び/又は
B:0.0005~0.004、好ましくは0.001~0.003、及び/又は
N:0.001~0.008、好ましくは0.002~0.005、
場合により、
Si:0.1以下、好ましくは0.05以下、
Mo:0.1以下、好ましくは0.05以下、
Al:0.1以下、好ましくは0.05以下、
Cu:0.1以下、好ましくは0.05以下、
P:0.03以下、好ましくは0.015以下、
S:0.025以下、好ましくは0.01以下、
O:0.01以下、好ましくは0.005以下、
V:0.15以下、好ましくは0.05以下、
Ca:0.01以下
から選択される1種又は2種以上の元素
を有し、
残部が鉄及び不可避的不純物である。
【0018】
炭素は、良好な機械的特性を確保するために添加される。Cは、0.03重量%以上の量で添加され、それにより、高強度を達成し、鋼の焼入れ性を高める。過度の炭素が添加されると、鋼シートの靭性及び溶接性が、低下する可能性がある。そのため、本発明に従って使用されるC量は、0.03~0.17重量%の範囲、好ましくは0.05~0.17重量%の範囲、さらに好ましくは0.07~0.15重量%の範囲である。
【0019】
マンガンは、焼入れ性を高め、固溶強化を施すために使用される。Mn含有量は、0.65重量%以上であり、それにより、適切な置換型固溶強化及び適切な焼入れ硬化性(quench hardenability)を実現し、さらに、鋳造中のMnの偏析(segregation)を最小限に抑え、その上、自動車用の抵抗スポット溶接技術にとって十分に低い炭素当量を維持する。さらに、Mnは、Ac3温度を低下させるのに有用な元素である。より高いMn含有量は、ホットプレス成形に必要な温度を低下させるのに有利である。Mn含有量が2.5重量%を超えると、鋼シートの溶接性並びに熱間及び冷間圧延特性が低下し、これが鋼の加工性に影響を及ぼす可能性がある。本発明に従って使用されるMn量は、0.65~2.5重量%の範囲、好ましくは1.0~2.1重量%の範囲、さらに好ましくは1.2~1.8重量%の範囲である。
【0020】
クロムは、鋼の焼入れ性を改善し、プレス焼入れ中のフェライト及び/又はパーライトの形成を防止するのに役立つ。これに関連して、ミクロ組織中のフェライト及び/又はパーライトの存在は、本発明における目的のミクロ組織の機械的特性に有害であることが見出されている。本発明において使用されるCrの量は、0.2~2.0重量%の範囲、好ましくは0.5~1.7重量%の範囲、さらに好ましくは0.8~1.5重量%の範囲である。
【0021】
好ましくは、マンガン及びクロムは、Mn+Crが2.7より小さくなるような量で使用され、Mn+Crは、好ましくは0.5~2.5の範囲、さらに好ましくは2.0~2.5の範囲である。
【0022】
チタンは、溶鋼を冷却する間にTiN析出物を形成させ、高温でNを除去するために添加される。TiNの形成によって、低温におけるB3N4の形成は阻害され、その結果、本発明にとって必須元素でもあるBは、より効果的になる。化学量論的には、TiのNに対する添加の比率(Ti/N)は、3.42より大きくあるべきである。本発明によれば、チタンの量は、0.01~0.1重量%の範囲、好ましくは0.015~0.07重量%の範囲、さらに好ましくは0.025~0.05重量%の範囲である。
【0023】
ニオブは、強化析出物を形成し、ミクロ組織を微細化する効果を有する。Nbは、結晶粒微細化及び析出硬化により強度を高める。結晶粒微細化により、特に、高度に局在化したひずみが導入されている場合、より均質なミクロ組織を生じ、熱間成形挙動を改善する。微細かつ均質なミクロ組織により、曲げ挙動も改善される。本発明において使用されるNbの量は、0.01~0.1重量%の範囲、好ましくは0.02~0.08重量%の範囲、さらに好ましくは0.03~0.07重量%の範囲である。
【0024】
ホウ素は、鋼シートの焼入れ性を高め、焼入れ後の強度を安定的に確保する効果をさらに高めるために重要な元素である。本発明によれば、Bは、0.0005~0.005重量%、好ましくは0.0005~0.004重量%の範囲、さらに好ましくは0.001~0.003重量%の範囲である。
【0025】
窒素は、Cと同様の効果を有する。Nはチタンと適切に結合してTiN析出物を形成する。本発明によるNの量は、0.01重量%以下である。好ましくは、Nの量は、0.001~0.008重量%の範囲にある。好適には、Nは、0.002~0.005重量%の範囲の量で存在する。
【0026】
本発明によれば、Mn、Cr及びBは、(B×1000)/(Mn+Cr)が、0.185~2.5の範囲、好ましくは0.2~2.0の範囲、さらに好ましくは0.5~1.5の範囲であるような量で使用される。本発明に従って適用される(B×1000)/(Mn+Cr)比は、鋼の適切な焼入れ性を達成する。
【0027】
Si、Mo、Al、Cu、P、S、O、V、Ni及びCaの量は、存在する場合、すべて低い必要がある。
【0028】
ケイ素は、また、焼入れ性及び適切な置換型固溶強化を高めるために添加される。本発明において使用されるSi量は、0.1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下である。
【0029】
アルミニウムは、鋼を脱酸素するために添加される。Al量は、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下である。
【0030】
モリブデンは、鋼の焼入れ性を改善し、ベイナイトの形成を促進するために添加される。本発明に従って使用されるMo量は、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下である。
【0031】
銅は、焼入れ性を改善し、鋼の強度を高めるために添加される。存在する場合、Cuは、本発明に従って、0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下の量で使用される。
【0032】
Pは、鋼の変態区間の温度範囲(intercritical temperature range)を広げることが知られている。Pも、所望の残留オーステナイトを維持するために有用な元素である。しかしながら、Pは、鋼の加工性を低下させる場合がある。本発明によれば、Pは、0.03重量%以下、好ましくは0.015重量%以下の量で存在すべきである。
【0033】
硫黄の量は、有害な非金属介在物を減少させるために、最小限に抑える必要がある。Sは、MnS等の硫化物系介在物を形成し、これが、亀裂を生じさせ、加工性を低下させる。したがって、S量を可能な限り少なくすることが望ましい。本発明によれば、Sの量は、0.025重量%以下、好ましくは0.01重量%以下の量である。
【0034】
鋼製品は、脱酸素される必要があり、それは、酸素が、様々な特性、例えば、引張強度、延性、靭性及び/又は溶接性を低下させるためである。したがって、酸素が存在することは防止されるべきである。本発明によれば、Oの量は、0.01重量%以下、好ましくは0.005重量%以下である。
【0035】
バナジウムは、V(C、N)析出物を形成させて、鋼製品を強化するために、添加される場合がある。バナジウムの量は、存在する場合、0.15重量%以下、好ましくは0.05重量%以下である。
【0036】
ニッケルは、0.15重量%以下の量で添加されてもよい。Niを、鋼の強度及び靭性を高めるために添加することができる。
【0037】
カルシウムは、0.05重量%以下、好ましくは0.01重量%以下の量で存在してもよい。Caは、硫黄含有介在物を球状化し、細長い介在物(elongated inclusions)の量を最小限に抑えるために、添加される。しかしながら、CaS介在物の存在は、依然としてマトリックスの不均一性につながる。したがって、Sの量を少なくすることが最善である。
【0038】
好ましい実施形態によれば、1000*BをMn及びCrの合計で割った値は、0.185~2.5、好ましくは0.5~1.5である必要がある。この制限により、鋼の焼入れ性が向上する。
【0039】
好ましくは、鋼ストリップ、シート又はブランクには、亜鉛系コーティング、アルミニウム系コーティング又は有機系コーティングが設けられている。そのようなコーティングは、熱間成形プロセス中の酸化及び/又は脱炭を低減する。
【0040】
亜鉛系コーティングは、0.2~5.0重量%のAl、0.2~5.0重量%のMg、場合により、0.3重量%以下の1種又は2種以上の追加の元素を含み、残部が亜鉛及び不可避的不純物であるコーティングであることが好ましい。追加の元素は、Pb又はSb、Ti、Ca、Mn、Sn、La、Ce、Cr、Ni、Zr、又はBiを含む群から選択可能である。Pb、Sn、Bi、及びSbは、通常、スパングルを形成するために添加される。
【0041】
好ましくは、亜鉛合金中の追加の元素の総量は、0.3重量%以下である。これらの少量の追加の元素は、通常の用途のために、コーティングの特性も浴の特性も有意な程度には変化させない。
【0042】
好ましくは、亜鉛合金コーティング中に1種又は2種以上の追加の元素が存在する場合、それぞれが0.03重量%以下の量、好ましくは0.01重量%以下の量で存在する。追加の元素は、通常、溶融亜鉛めっきのための、溶融亜鉛合金を含む浴中でドロスが形成されるのを防止するため、あるいは、コーティング層中にスパングルを形成させるためにのみ添加される。
【0043】
本発明による鋼ストリップ、シート又はブランクから製造された熱間成形された部品は、ミクロ組織を有し、そのミクロ組織は、60%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。好ましくは、ミクロ組織は、50容量%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。さらに好ましくは、ミクロ組織は、40容量%以下のベイナイトを含み、残部がマルテンサイトである。マルテンサイトは、高強度を提供するが、より柔軟なベイナイトは、延性を改善する。マルテンサイト及びベイナイトのわずかな強度の違いは、弱い相界面を欠くことにより、高い曲げ性を維持するのに役立つ。
【0044】
本発明による熱間成形された部品は、優れた機械的特性を示す。該部品の引張強度(TS)は、750MPa以上、好ましくは800MPa以上、さらに好ましくは900MPa以上、かつ、1400MPa以下である。
【0045】
好適には、該部品の全伸び(TE)は、5%以上、好ましくは5.5%以上、さらに好ましくは6%以上、最も好ましくは7%以上であり、かつ/あるいは、該部品の厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)は、100°以上、好ましくは115°以上、さらに好ましくは130°以上、最も好ましくは140°以上である。
【0046】
本発明による鋼製品が、優れた衝突エネルギー吸収性を示すことは明らかであろう。
【0047】
本発明はまた、車両のホワイトボディの構造部品としての、上記のように熱間成形された部品の使用に関する。該部品は、本発明の鋼ストリップ、シート又はブランクで製造されている。これらの部品は、高強度、高延性及び高曲げ性を有している。特に車両の構造部品としての部品は、非常に魅力的であり、それは、従来の熱間成形されたボロン鋼及び冷間成形された多相鋼の使用と比較して、優れた衝突エネルギー吸収性、ひいては耐衝撃性に基づくダウンゲージ及び軽量化の機会を示すためである。
【0048】
また、本発明は、本発明によって部品を製造する方法に関する。
【0049】
したがって、本発明はまた、鋼ブランク又は予備成形された部品を、部品に熱間成形する方法であって、
a.上記のブランク又は前記ブランクから製造された予備成形された部品を、温度T1に加熱し、前記加熱されたブランクを温度T1に時間t1の間保持する工程であって、温度T1が前記鋼のAc3温度よりも高く、かつ、時間t1が10分以下である工程、
b.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を、熱間成形器具(hot-forming tool)に搬送時間t2の間に搬送する工程であって、前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品の温度が、搬送時間t2の間に、温度T1から温度T2に低下し、かつ、搬送時間t2が20秒以下である工程、
c.前記加熱されたブランク又は前記予備成形された部品を加熱された物品に熱間成形する工程、及び
d.前記熱間成形器具内の前記部品を、30℃/s以上の冷却速度(V3)で、前記鋼のMf温度より低い温度に冷却する工程
を含む方法に関する。
【0050】
本方法によれば、加熱されたブランクを上記のように部品に成形することにより、機械的特性が向上した複雑な形状の部品を得ることができることを見出した。特に、得られた部品は、従来の熱間成形されたボロン鋼及び冷間成形された多相鋼の使用と比較して、優れた衝突エネルギー吸収性を示すため、耐衝撃性に基づいたダウンゲージ及び軽量化の機会を与える。
【0051】
部品をMf温度より低い温度に冷却した後、部品を、例えば、空気中で室温までさらに冷却するか、あるいは、強制的に室温まで冷却することができる。
【0052】
本発明による方法では、工程(a)において加熱されるブランクが、後続の工程のための中間体として提供される。ブランクを製造する材料となる鋼ストリップ又はシートは、標準的な鋳造プロセスによって取得可能である。好ましい実施形態において、鋼ストリップ又はシートは、冷間圧延される。鋼ストリップ又はシートは、鋼ブランクに適切に切断可能である。予備成形された鋼部品もまた使用され得る。予備成形された部品は、部分的又は全体的に所望の形状に、好ましくは周囲温度で成形することができる。
【0053】
鋼ブランクは、工程(a)において時間t1の間、温度T1に加熱される。好ましくは、工程(a)において、温度T1は、鋼のAc3温度よりも50~100℃高く、かつ/あるいは、温度T2は、Ar3温度よりも高い。温度T1がAc3温度より50~100℃高い場合、鋼は、時間t1内に完全又はほぼ完全にオーステナイト化され、工程(b)の間の冷却は、容易に可能である。ミクロ組織が、均質なオーステナイトミクロ組織である場合、成形性が向上する。
【0054】
好ましくは、時間t1は、1分以上7分以下である。時間t1が長すぎると、オーステナイト粒が粗くなり、最終的な機械的特性が低下する可能性がある。
【0055】
工程(a)において使用される加熱装置は、例えば、電気又はガス駆動の炉、電気抵抗加熱装置、赤外線誘導加熱装置であってもよい。
【0056】
工程(b)において、加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品は、搬送時間t2の間に熱間成形器具に搬送される。加熱された鋼ブランク又は予備成形された部品の温度は、搬送時間t2の間に温度T1から温度T2に低下し、搬送時間t2は20秒以下である。時間t2は、加熱されたブランクが加熱装置から熱間成形器具(例えば、プレス)に搬送され、熱間成形装置が閉じられるまでに必要な時間である。搬送の間、ブランク又は予備成形された部品は、自然空冷及び/又は他の利用可能な冷却方法の作用により、温度T1から温度T2に冷却することができる。加熱されたブランク又は予備成形された部品は、自動ロボットシステム又は他の任意の搬送方法により、加熱装置から成形器具に搬送することができる。成形及び焼入れの開始時に鋼のミクロ組織の進展を制御するために、時間t2も、温度T1、時間t1及び温度T2と組み合わせて選択することができる。好適には、時間t2は、12秒以下、好ましくは10秒以下、さらに好ましくは8秒以下、最も好ましくは6秒以下である。工程(b)において、ブランク又は予備成形された部品を、温度T1から温度まで10℃/s以上の冷却速度V2で冷却することができる。速度V2は、好ましくは10~15℃/sの範囲である。ブランク又は予備成形された部品を予冷する(precool)必要がある場合、冷却速度をより速く、例えば、20℃/s以上50℃/s以下、又はそれ以上にする必要がある。
【0057】
工程(c)において、加熱されたブランク又は予備成形された部品は、所望の形状を有する部品に成形される。成形された部品は、好ましくは車両の構造部品である。
【0058】
工程(d)において、熱間成形器具において成形された部品は、鋼のMf温度より低い温度に、30℃/s以上の冷却速度V3で冷却される。好ましくは、工程(d)における冷却速度V3は、30~150℃/sの範囲、さらに好ましくは30~100℃/sの範囲である。
【0059】
本発明は、熱間成形操作中に所望のベイナイト相を鋼のミクロ組織に導入する改良された方法を提供する。本方法は、高強度、高延性及び高曲げ性の優れた組み合わせを示す熱間成形鋼部品の製造を可能にする。
【0060】
本発明による方法の1つ又は2つ以上の工程は、鋼の酸化及び/又は脱炭を防止するために、水素、窒素、アルゴン又は他の不活性ガスの制御された不活性雰囲気中で実施可能である。
【0061】
図1は、本発明による方法の実施形態の概略図である。
【0062】
図2は、軸圧壊試験のためのドロップタワーの断面を示す。
【0063】
図1において、横軸は時間tを表し、縦軸は温度Tを表す。時間t及び温度Tは、
図1に概略的に示されている。
図1から値を導き出すことはできない。
【0064】
図1において、鋼ブランク又は予備成形された部品を、特定の(再)加熱速度でAc1を超えるオーステナイト化温度まで(再)加熱する。Ac1温度を超えると、ブランク又は予備成形された部品がAc3温度よりも高い温度に達するまで、(再)加熱速度は低くされる。次に、ストリップ、シート又はブランクを、この特定の温度に一定時間保持する。続いて、加熱されたブランクを、炉から熱間成形器具に搬送し、その間に、空気によるブランクの冷却が、ある程度起きる。次に、ブランク又は予備成形された部品を、部品に熱間成形し、30℃/s以上の冷却速度で冷却(又は急冷)する。鋼のMf温度より低い温度に達した後、熱間成形器具を開き、成形された物品を室温まで冷却する。
【0065】
本出願全体で使用される様々な温度について、以下に説明する。
Ac1:加熱中にオーステナイトが形成され始める温度。
Ac3:加熱中にフェライトのオーステナイトへの変態が終了する温度。
Ar3:冷却中にオーステナイトからフェライトへの変態が開始する温度。
Ms:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度。
Mf:冷却中にオーステナイトからマルテンサイトへの変態が終了する温度。
【実施例】
【0066】
本発明は、以下の非限定的な実施例により説明される。
【0067】
(本発明による)組成Aを有する鋼
表1に示す組成を有する冷間圧延鋼シートから、寸法220mm×110mm×1.5mmの鋼ブランクを作製した。これらの鋼ブランクを、溶融アニーリングシミュレータ(HDAS)及びSMGプレス(SMG press)において、熱間成形熱サイクル(hot forming thermal cycles)に供した。HDASを、より遅い冷却速度(30~80℃/s)に使用し、SMGプレスを、最も速い冷却速度(200℃/s)に使用した。鋼ブランクを、それぞれ900℃(Ac3温度より36℃高い)及び940℃(Ac3温度より76℃高い)の温度T1に再加熱し、表面の劣化を最小限に抑えるために窒素雰囲気下で5分間均熱した。次いで、ブランクを、10秒で120℃の温度降下、従って、約12℃/sの冷却速度V2で、搬送冷却(transfer cooling)し、次いで、以下の冷却速度V3:30、40、50、60、80、200℃/sで、160℃まで冷却した。熱処理した試料から、ゲージ長50mm、幅12.5mm(A50試験片形状)の長手方向引張試験片を作製し、準静的なひずみ速度で試験した。ミクロ組織を、RD-ND平面から特性を明らかにした。圧延方向に対して平行及び横断方向からの曲げ試験片(40mm×30mm×1.5mm)を、各条件から作製し、VDA238-100規格に記載されている3点曲げ試験により破壊まで試験した。曲げ方向が圧延方向に平行な試料を、長手方向(L)曲げ試験片として識別し、曲げ方向が圧延方向に垂直な試料を、垂直方向(T)曲げ試験片として表した。厚み1.5mmで測定された曲げ角度も、厚み1mmの角度に変換した(=元の曲げ角度×元の厚みの平方根)。各タイプの試験について、3回の測定を行い、3回の試験からの平均値を、各条件について示す。
【0068】
選択された条件(940℃で再加熱したSMGプレスの試料)について、J積分による破壊靭性試験及びドロップタワーの軸圧壊試験を実施した。NFMT76J規格に準拠したコンパクトな(compact)引張試験片を、破壊靭性試験用に長手方向及び横断方向の両方から作製した。横断試験片の場合、亀裂は、圧延方向に沿って走り、荷重(loading)は、圧延方向に対して横断方向であるが、長手試験片の場合は逆になる。試験片を、ASTM E1820-09規格に従って室温で試験した。予亀裂を、疲労荷重(fatigue loading)によって導入した。最終試験を、シート材料に対する面内応力を維持するために、座屈防止プレート(anti-buckle plate)を使用した引張荷重によって実施した。各条件について3回の試験が行われ、BS7910規格のガイドラインに従って、様々な破壊靭性パラメータに関する3つの等価な最小値(minimum values of three equivalents)(MOTE値)を示す。
【0069】
破壊靭性パラメータの簡単な説明を以下に記載する。CTODは、亀裂先端開口変位(crack tip opening displacement)であり、破損(failure)(脆性破損の場合)又は最大荷重のいずれかで亀裂が開く程度の尺度である。Jは、J積分であり、エネルギーを考慮した靭性の尺度であるため、曲線の下の領域から破損又は最大荷重まで計算される。KJは、J積分から決定される応力拡大係数であり、その決定には、KJ=[J(E/(1-v2))]0.5で与えられる確立された式を使用する。ここで、Eはヤング率(=207GPa)及びvはポアソン比(=0.03)である。Kqは、荷重Pqで測定された応力拡大係数の値である。ここで、Pqは、荷重線(loading line)のうち、弾性状態にある傾きを選び、次いで、傾きが5%小さい直線を引き、この直線が荷重線と交差する荷重としてPqを定義することによって決定される。
【0070】
ドロップタワーの軸圧壊試験を、SMGプレスされた条件において実施し、重さ200kg、荷重速度50km/時間の荷重を、閉じられたシルクハット形状を有するクラッシュボックス(crash box)(
図2)に、高さ500mm(圧延方向に対して横断方向)で衝突させた。ドロップタワーの断面の寸法を、
図2にミリメートルで記載する(t=1.5mm、R
0=3mm)。クラッシュボックスを準備するために、幅100mmのバックプレートを外面(profile)にスポット溶接した。
【0071】
いくつかの選択された条件では、試料に焼付塗装の熱サイクル(paint bake thermal cycle)も実施され、結果から直接反映されるように試験を実施した。
【0072】
(本発明によらない)組成B及びCを有する鋼
比較の理由から、市販の冷間成形されたCR590Y980T-DP(組成Bを有する鋼、一般にDP1000鋼として知られている)も試験した。これは、組成Bを有する鋼が、本発明による鋼ブランクと同様の強度レベルを有するためである。さらに、比較の理由から、規格の熱間成形22MnB5鋼製品(組成Cを有する鋼)も試験した。
【0073】
表1に、組成A~Cを有する鋼の重量%における化学組成が明記されている。
【0074】
表2に、組成Aを有する鋼の変態温度を示す。
【0075】
様々な試験の結果を表3~8に示す。
【0076】
表3に、様々な冷却速度V3後の組成Aを有する鋼に関する、降伏強度(YS)、最大引張強度(UTS)、均一伸び(UE)、及び全伸び(TE)を示す。さらに、表3は、マルテンサイト(M)及びベイナイト(B)の観点でミクロ組織を示す。表3から、様々な冷却速度V3で800MPaを超える最大引張強度が達成されたことが明らかである。
【0077】
表4に、様々な冷却速度V3後に得られた組成Aを有する鋼に関する厚み1.0mmでの曲げ角度(BA)を示す。表4から、長手方向(L)及び横断方向(T)の両方で、少なくとも130°を超える優れた曲げ角度が達成されたことが明らかである。
【0078】
表5に、組成Aを有する鋼を熱間成形と、自動車製造中に使用される焼付塗装処理をシミュレートした焼付け処理とに供した後の組成Aを有する鋼に関する、様々な機械的特性を示した。組成Aを有する鋼を900℃に加熱し、5分間均熱し、その後、搬送冷却に続いて200℃/sのV3で冷却する。焼付け処理は、180℃で20分間実施した。表5から、降伏強度(YS)、最大引張強度(UTS)、最大伸び(UE)、全伸び(TE)及び曲げ角度(BA)のほぼ同一の最小レベルが、組成Aを有する鋼を焼付け処理に供した後も達成されることが明らかである。これは、焼付塗装後の自動車製造において、要求される特性が、使用条件で保証されることを意味する。
【0079】
表6に、組成Bを有する鋼(DP1000)及び組成Cを有する鋼(22MnB5)に関する様々な機械的特性を示す。これらの組成B及びCを有する鋼を、組成Aを有する鋼と同一の試験条件下で試験した。表4及び6の内容を比較すると、本発明(組成Aを有する鋼)による鋼部品が、従来の冷間成形された鋼製品DP1000(組成Bを有する鋼)及び従来の熱間成形された鋼製品22MnB5(組成Cを有する鋼)と比較した場合の曲げ性に関しての大幅な改善をもたらすことが直ちに明白になる。
【0080】
表7から、本発明(組成Aを有する鋼)による鋼部品の破壊靭性パラメータも、DP1000(組成Bを有する鋼)から製造されたブランクの破壊靭性パラメータよりも高いことも明らかである。
【0081】
表8に、組成A及びBを有する鋼の圧壊挙動を示す。表8から、組成Aを有する鋼の圧壊挙動が、ホットプレス条件と、ホットプレス及び焼付け条件との両方で、DP1000(組成Bを有する鋼)の圧壊挙動よりも優れていることが明らかである。焼付け条件は、上記の説明と同一である。組成Aを有する鋼のクラッシュボックスは、試験後に亀裂の兆候を示さなかったが、DP1000(組成Bを有する鋼)のクラッシュボックスは、折り曲げ箇所(fold)に重大な亀裂を示した。さらに、組成Aを有する鋼は、より高いエネルギー吸収能力を示す。
【0082】
同様の強度を有する従来の鋼製品と比較した場合の、本発明による組成Aを有する熱間成形された鋼の優れた圧壊挙動の改善は、より優れた曲げ角度特性及びより優れた破壊靭性特性によるものである。この点で、衝突中、鋼部品は、折り曲げられる必要があり、これは曲げ性によって決定される。一方で、破損前のエネルギー吸収性能は、破壊靭性パラメータによって決定される。
【0083】
上記を考慮すると、本発明による鋼製品は、従来知られている冷間成形及び熱間成形された鋼製品に対して大幅な改善をもたらすことが当業者には明らかであろう。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】