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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】粘着テープおよび半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/29 20180101AFI20230807BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20230807BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20230807BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20230807BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230807BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20230807BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
C09J7/29
C09J7/38
C09J7/24
C09J201/00
B32B27/00 M
H01L21/304 621Z
H01L21/304 622J
H01L21/304 631
H01L21/78 P
H01L21/78 M
H01L21/78 Q
H01L21/78 Y
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020508294
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010558
(87)【国際公開番号】W WO2019181733
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2018053335
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】前田 淳
(72)【発明者】
【氏名】西田 卓生
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-185691(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046855(WO,A1)
【文献】特開2014-075560(JP,A)
【文献】特開2016-121231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程と、
前記半導体ウエハの表面に、基材と、粘着剤層と、緩衝層とを含む粘着テープであって、該粘着テープを直径20.32cmの円形に切り出し、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分静置後の、該テープ外周部の浮き量の最大値が6mm以下であり、前記基材は厚さ30μm以上でありヤング率が1000MPa以上の樹脂フィルムであり、前記緩衝層は厚さ8~80μmのポリプロピレンフィルム、LDPEフィルムまたはLLDPEフィルムである粘着テープ、を貼付する工程と、
前記粘着テープが表面に貼付され、かつ前記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、前記溝の底部を除去して複数のチップに個片化させる工程と、
前記半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程と、
前記粘着テープから、チップを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記粘着テープのテープ外周部の浮き量の最大値が4mm以下である、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記粘着テープは、基材の両面に緩衝層が設けられてなり、一方の緩衝層上に粘着剤層を有する粘着テープである、請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘着テープに関し、さらに詳しくはいわゆる先ダイシング法により半導体ウエハをチップ化し、さらにドライポリッシュを行って半導体装置を製造する際に、半導体ウエハやチップを一時的に固定するために使用される粘着テープ、及びその粘着テープを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子機器の小型化、多機能化が進む中、それらに搭載される半導体チップも同様に、小型化、薄型化が求められている。チップの薄型化のために、半導体ウエハの裏面を研削して厚さ調整を行うことが一般的である。また、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削により溝の底部を除去してウエハを個片化し、チップを得る先ダイシング法と呼ばれる工法を利用することもある。先ダイシング法では、ウエハの裏面研削と、ウエハの個片化を同時に行うことができるので、薄型チップを効率よく製造できる。
【0003】
従来、半導体ウエハの裏面研削時や、先ダイシング法によるチップの製造時には、ウエハ表面の回路を保護し、また、半導体ウエハ及び半導体チップを固定しておくために、ウエハ表面にバックグラインドシートと呼ばれる粘着テープを貼付するのが一般的である。
【0004】
先ダイシング法において使用するバックグラインドシートとしては、基材と、基材の一方の面に設けた粘着剤層とを備える粘着テープが使用されている。このような粘着テープの一例として、特開2015-185691号公報(特許文献1)には、基材フィルム上に放射線硬化性粘着剤層を設けた半導体ウエハ加工用粘着テープが提案されている。特許文献1には、基材フィルムとして、少なくともポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンおよびエチレン-酢酸ビニル共重合体から選択された2種類の異なる材料を積層した基材フィルムが開示され、好ましい具体例としては、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの3層からなる基材フィルムが開示されている。
【0005】
また、特開2013-129723号公報(特許文献2)にも同様に、ポリエチレン/ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの3層からなる基材フィルムに粘着剤層が設けられた先ダイシング用のバックグラインドシートが開示されている。このバックグラインドシートは、粘着剤層を上面にして平坦面に静置した際には、上方向に凸状に湾曲する。平坦面に対し凸状に湾曲することで、平坦面とバックグラインドシートとの間で気密性が保たれ、裏面研削時のバックグラインドシートを吸着テーブルに吸着させる際のエア漏れが防止される。
【0006】
上記のような先ダイシング法によるウエハの個片化時には、裏面研削を行う際に、研削時に発生する熱や研削屑を除去するため、研削面に水を供給しながら裏面研削を行う。しかし、このような従来の裏面研削では、チップ裏面に研削痕が残り、チップの抗折強度を損なう要因となることが判明した。特にチップの薄型化の結果、チップは破損しやすくなり、抗折強度の低下は問題視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-185691号公報
【文献】特開2013-129723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のような研削痕(以下、これらを総称して「ダメージ部」と呼ぶことがある)を除去するため、水を用いた裏面研削後に、さらに最終的に水を用いないドライポリッシュによりダメージ部を除去し、チップの抗折強度を向上させることが検討されている。ドライポリッシュとは、水や砥粒のスラリーを用いずに研磨パフにより研磨する工程をいう。
【0009】
ドライポリッシュ時は、バックグラインドシートを貼付したチップ集合体のバックグラインドシート側を吸着テーブルに吸着し、固定する。吸着テーブルとバックグラインドシートとは、略同サイズに設計されている。ドライポリッシュ工程は仕上げ工程であり個片化されたチップは極薄化されている。このため、ウエハ状態に比べて形状保持力が小さく、バックグラインドシートの内部応力などによって、バックグラインドシートが変形することがある。特に特許文献1、2のような多層構造の基材を用いた場合には、各層の残留応力や収縮性が異なるため、バックグラインドシートは変形し易い。
【0010】
バックグラインドシートの外周部が浮き上がるよう(すなわち凹状)に変形すると、吸着テーブルとバックグラインドシートとの間の気密性が低下し、エア漏れにより吸引力が低下し、バックグランドシートの固定が不十分になる。また、ドライポリッシュ時の変形は、上記のようなエア漏れだけではなく、チップの破損、飛散という問題も招来する。バックグラインドシートの変形により端部が浮き上がると、浮き上がった部分に貼付されているチップと、研磨パフの側面とが接触し、この衝撃によりチップが破損したり、飛散することがある。チップの破損、飛散は歩留りの低下を招くだけではなく、剥離したチップが、他のチップに接触して他のチップを破損または汚染し、また研削装置に損傷を与えたり、次工程への搬送不良原因となる。特許文献1、2では、このようなドライポリッシュ工程で懸念される独特の課題については何ら認識されていない。
【0011】
したがって、本発明は、半導体ウエハ等の加工時にウエハやチップ等を安定して保持できる粘着テープを提供することを目的としている。特に、いわゆる先ダイシング法に続いて、ドライポリッシュを行った場合であってもチップを安定して保持できる粘着テープを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このような課題の解決を目的とした本発明の要旨は以下の通りである。
(1)半導体ウエハ表面に溝が形成された半導体ウエハの裏面を研削して、その研削により半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程を含む製造方法によって半導体チップを製造する際に、半導体ウエハの表面に貼付されて使用される粘着テープであって、
基材と、粘着剤層とを含み、
該粘着テープを直径20.32cmの円形に切り出し、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分間平坦面に静置後の、該テープ外周部の平坦面からの浮き量の最大値が6mm以下である、粘着テープ。
(2)前記浮き量の最大値が4mm以下である、(1)に記載の粘着テープ。
(3)前記基材の両面に緩衝層が設けられてなり、一方の緩衝層上に粘着剤層を有する、(1)または(2)に記載の粘着テープ。
(4)半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程と、
前記半導体ウエハの表面に、基材と、粘着剤層とを含む粘着テープであって、該粘着テープを直径20.32cmの円形に切り出し、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分静置後の、該テープ外周部の浮き量の最大値が6mm以下である粘着テープ、を貼付する工程と、
前記粘着テープが表面に貼付され、かつ前記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、前記溝の底部を除去して複数のチップに個片化させる工程と、
前記半導体ウエハを半導体チップに個片化した後、ドライポリッシュを行う工程と、
前記粘着テープから、チップを剥離する工程と、
を備える半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る粘着テープは、平坦面に静置した際の外周部の浮き量の最大値が小さく、ドライポリッシュ時の粘着テープのカールを防止できる。このため、ドライポリッシュ工程を含む先ダイシング法でも高い歩留りで半導体チップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は本発明の粘着テープの断面図である。
図2図2は「浮き量(L)」を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る粘着テープについて、図面を参照しながら具体的に説明する。まず、本明細書で使用する主な用語を説明する。
本明細書において、例えば「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の双方を示す語として用いており、他の類似用語についても同様である。
【0016】
粘着テープとは、基材と、粘着剤層とを含む積層体を意味し、これら以外の他の構成層を含むことを妨げない。たとえば、粘着剤層側の基材表面には基材表面と粘着剤層界面での密着性向上や低分子量成分の移行防止等を目的としプライマー層が形成されていてもよく、粘着剤層の表面には、使用時まで粘着剤層を保護するための剥離シートが積層されていてもよい。また、基材は単層であってもよく、緩衝層などの機能層を備えた多層であってもよい。粘着剤層も同様である。
半導体ウエハの「表面」とは回路が形成された面を指し、「裏面」は回路が形成されていない面を指す。
半導体ウエハの個片化とは、半導体ウエハを回路毎に分割し、半導体チップを得ることを言う。
【0017】
先ダイシング法とは、ウエハの表面側から所定深さの溝を形成した後、ウエハ裏面側から研削を行い、研削によりウエハを個片化する方法を言う。
ドライポリッシュとは、水や砥粒のスラリーを用いずに研磨パフにより研磨する工程を意味する。研磨パフとしては各種汎用の研磨パフが用いられ、市販品としては、ディスコ社の研磨ホイール「Gettering DP」や、「DP08 SERIES」が用いられるが、これらに限定されない。ドライポリッシュによりチップのダメージ部、すなわち研削痕を除去する。
【0018】
バックグラインドテープとは、半導体ウエハの裏面研削時にウエハ回路面を保護するために使用される粘着テープであり、特に本明細書では先ダイシング法に好ましく使用される粘着テープを指す。
【0019】
本発明に係る粘着テープは、上記バックグラインドテープとして用いられる。本発明に係る粘着テープ10は、図1に示すように、基材11と、粘着剤層12とを含む。以下に、本発明の粘着テープ10の各部材の構成をさらに詳細に説明する。
[基材11]
粘着テープ10の基材11には、バックグラインドテープの基材として使用されている各種の樹脂フィルムが用いられる。
【0020】
以下に本発明で用いられる基材11の一例を詳述するが、これらは単に基材の入手を容易するための記載であって、何ら限定的に解釈されるべきではない。
【0021】
本発明の基材は、たとえば比較的硬質の樹脂フィルムであってもよい。また、基材の片面もしくは両面には、比較的軟質の樹脂フィルムからなる緩衝層が積層されていてもよい。
【0022】
好ましい基材は、ヤング率が1000MPa以上である。ヤング率が1000MPa未満の基材を使用すると、粘着テープによる半導体ウエハ又は半導体チップに対する保持性能が低下し、裏面研削時の振動等を抑制することができず、半導体チップの欠けや破損が発生しやすくなる。一方、基材のヤング率を1000MPa以上とすることで、粘着テープによる半導体ウエハ又は半導体チップに対する保持性能が高まり、裏面研削時の振動等を抑制し、半導体チップの欠けや破損を防止できる。また、粘着テープを半導体チップから剥離する際の応力を小さくすることが可能になり、テープ剥離時に生じるチップ欠けや破損を防止できる。さらに、粘着テープを半導体ウエハに貼付する際の作業性も良好にすることが可能である。このような観点から、基材のヤング率は、好ましくは1800~30000MPa、より好ましくは2500~6000MPaである。
【0023】
基材11の厚さ(D1)は特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、15~350μmであることがより好ましく、20~160μmであることがさらに好ましく、また30μm以上であることが特に好ましい。基材の厚さを500μm以下とすることで、粘着テープの剥離力を制御しやすくなる。また、15μm以上とすることで、基材が粘着テープの支持体としての機能を果たしやすくなる。
【0024】
基材11の材質としては、種々の樹脂フィルムを用いることができる。ここで、ヤング率が1000MPa以上の基材として、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等のポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、変性ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、二軸延伸ポリプロピレン等の樹脂フィルムが挙げられる。
これら樹脂フィルムの中でも、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる1種以上を含むフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムを含むことがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルムを含むことがさらに好ましい。
【0025】
また、基材には、本発明の効果を損なわない範囲において、可塑剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、フィラー、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、触媒等を含有させてもよい。また、基材は、粘着剤層を硬化する際に照射されるエネルギー線に対して透過性を有する。
【0026】
また、基材の少なくとも一方の表面には、緩衝層及び粘着剤層の少なくとも一方との密着性を向上させるために、コロナ処理等の接着処理を施してもよい。また、基材は、上記した樹脂フィルムと、樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に被膜された易接着層(プライマー層)とを有しているものでもよい。
【0027】
易接着層を形成する易接着層形成用組成物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等を含む組成物が挙げられる。易接着層形成用組成物には、必要に応じて、架橋剤、光重合開始剤、酸化防止剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等を含有してもよい。
【0028】
易接着層の厚さとしては、好ましくは0.01~10μm、より好ましくは0.03~5μmである。なお、易接着層の厚さは、基材の厚さに対して小さく、材質も柔らかいため、ヤング率に与える影響は小さく、基材のヤング率は、易接着層を有する場合でも、樹脂フィルムのヤング率と実質的に同一である。
【0029】
[緩衝層]
上記基材11の片面もしくは両面には、緩衝層が設けられていても良い。緩衝層は、比較的軟質の樹脂フィルムからなり、半導体ウエハの研削による振動を緩和して、半導体ウエハに割れ及び欠けが生じることを防止する。また、粘着テープを貼付した半導体ウエハは、裏面研削時に、吸着テーブル上に配置されるが、粘着テープは緩衝層を設けたことで、吸着テーブルに適切に保持されやすくなる。
【0030】
緩衝層の厚さ(D2)は、8~80μmであることが好ましく、10~60μmであることがさらに好ましい。また緩衝層の引張ヤング率は、好ましくは10MPa~5000MPa、さらに好ましくは50MPa~3000MPaである。このような緩衝層を設けることで、粘着テープの湾曲を効果的に抑制できる。
【0031】
緩衝層は、ポリプロピレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、LDPEフィルム、LLDPEフィルムが好ましい。また、エネルギー線重合性化合物を含む緩衝層形成用組成物をキャスト製膜し、エネルギー線照射して得られる硬化膜であってもよい。緩衝層を有する基材は、基材と緩衝層とをラミネートして得られる。粘着テープの湾曲を抑制する上では、緩衝層は基材11の両面に設けられることが好ましい。
【0032】
[粘着剤層12]
粘着剤12は、常温において適度な感圧接着性を有する限り特に限定はされないが、23℃における貯蔵弾性率が0.05~0.50MPaであるものが好ましい。半導体ウエハの表面には、回路等が形成され通常凹凸がある。粘着テープは、貯蔵弾性率が上記範囲内となることで、凹凸があるウエハ表面に貼付される際、ウエハ表面の凹凸と粘着剤層とを十分に接触させ、かつ粘着剤層の接着性を適切に発揮させることが可能になる。そのため、粘着テープの半導体ウエハへの固定を確実に行い、かつ裏面研削時にウエハ表面を適切に保護することが可能になる。これらの観点から、粘着剤の貯蔵弾性率は、0.10~0.35MPaであることがより好ましい。なお、粘着剤の貯蔵弾性率とは、粘着剤層がエネルギー線硬化性粘着剤から形成される場合には、エネルギー線照射による硬化前の貯蔵弾性率を意味する。
【0033】
粘着剤層の厚さ(D3)は、200μm未満であることが好ましく、5~35μmがより好ましく、10~30μmがさらに好ましい。粘着剤層をこのように薄くすると、粘着テープにおいて、剛性の低い部分の割合を少なくすることができるため、研削精度の向上が図れる。また、裏面研削時に生じる半導体チップの欠けを一層防止しやすくなる。
【0034】
粘着剤層は、例えば、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等から形成されるが、アクリル系粘着剤が好ましい。
また、粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることが好ましい。粘着剤層は、エネルギー線硬化性粘着剤から形成されることで、エネルギー線照射による硬化前には、23℃における弾性率を上記範囲に設定しつつ、硬化後においては剥離力を1000mN/50mm以下に容易に設定することが可能になる。
【0035】
以下、粘着剤の具体例について詳述するが、これらは非限定的例示であり、本発明における粘着剤層はこれらに限定的に解釈されるべきではない。
エネルギー線硬化性粘着剤としては、例えば、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂(「粘着性樹脂I」ともいう)に加え、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「X型の粘着剤組成物」ともいう)が使用可能である。また、エネルギー線硬化性粘着剤として、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂の側鎖に不飽和基を導入したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂(以下、「粘着性樹脂II」ともいう)を主成分として含み、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物を含まない粘着剤組成物(以下、「Y型の粘着剤組成物」ともいう)も使用してもよい。
【0036】
さらに、エネルギー線硬化性粘着剤としては、X型とY型の併用型、すなわち、エネルギー線硬化性の粘着性樹脂IIに加え、粘着性樹脂以外のエネルギー線硬化性化合物も含むエネルギー線硬化性粘着剤組成物(以下、「XY型の粘着剤組成物」ともいう)を使用してもよい。
これらの中では、XY型の粘着剤組成物を使用することが好ましい。XY型のものを使用することで、硬化前においては十分な粘着特性を有する一方で、硬化後においては、半導体ウエハに対する剥離力を十分に低くすることが可能である。
【0037】
ただし、粘着剤としては、エネルギー線を照射しても硬化しない非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物から形成してもよい。非エネルギー線硬化性の粘着剤組成物は、少なくとも非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂Iを含有する一方、上記したエネルギー線硬化性の粘着性樹脂II及びエネルギー線硬化性化合物を含有しないものである。
【0038】
なお、以下の説明において“粘着性樹脂”は、上記した粘着性樹脂I及び粘着性樹脂IIの一方又は両方を指す用語として使用する。具体的な粘着性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ゴム系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられるが、アクリル系樹脂が好ましい。
以下、粘着性樹脂として、アクリル系樹脂が使用されるアクリル系粘着剤についてより詳述に説明する。
【0039】
アクリル系樹脂には、アクリル系重合体(b)が使用される。アクリル系重合体(b)は、少なくともアルキル(メタ)アクリレートを含むモノマーを重合して得たものであり、アルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む。アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1~20のものが挙げられ、アルキル基は直鎖であってもよいし、分岐であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)メタクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル(メタ)アクリレートは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、アクリル系重合体(b)は、粘着剤層の粘着力を向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含むことが好ましい。該アルキル(メタ)アクリレートの炭素数としては、好ましくは4~12、更に好ましくは4~6である。また、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アルキルアクリレートであることが好ましい。
【0041】
アクリル系重合体(b)において、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクリレートは、アクリル系重合体(b)を構成するモノマー全量(以下単に“モノマー全量”ともいう)に対して、好ましくは40~98質量%、より好ましくは45~95質量%、更に好ましくは50~90質量%である。
【0042】
アクリル系重合体(b)は、アルキル基の炭素数が4以上であるアルキル(メタ)アクレート由来の構成単位に加えて、粘着剤層の弾性率や粘着特性を調整するために、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む共重合体であることが好ましい。なお、該アルキル(メタ)アクリレートは、炭素数1又は2のアルキル(メタ)アクリレートであることが好ましく、メチル(メタ)アクリレートがより好ましく、メチルメタクリレートが最も好ましい。アクリル系重合体(b)において、アルキル基の炭素数が1~3であるアルキル(メタ)アクリレートは、モノマー全量に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは3~26質量%、更に好ましくは6~22質量%である。
【0043】
アクリル系重合体(b)は、上記したアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて、官能基含有モノマー由来の構成単位を有することが好ましい。官能基含有モノマーの官能基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。官能基含有モノマーは、後述の架橋剤と反応し、架橋起点となったり、不飽和基含有化合物と反応して、アクリル系重合体(b)の側鎖に不飽和基を導入させたりすることが可能である。
【0044】
官能基含有モノマーとしては、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、エポキシ基含有モノマー等が挙げられる。これらのモノマーは、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、水酸基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマーが好ましく、水酸基含有モノマーがより好ましい。
【0045】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;ビニルアルコール、アリルアルコール等の不飽和アルコール等が挙げられる。
【0046】
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物、2-カルボキシエチルメタクリレート等が挙げられる。
【0047】
官能基モノマーは、アクリル系重合体(b)を構成するモノマー全量に対して、好ましくは1~35質量%、より好ましくは3~32質量%、更に好ましくは6~30質量%である。
また、アクリル系重合体(b)は、上記以外にも、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリルアミド等の上記のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマー由来の構成単位を含んでもよい。
【0048】
上記アクリル系重合体(b)は、非エネルギー線硬化性の粘着性樹脂I(アクリル系樹脂)として使用することができる。また、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂としては、上記アクリル系重合体(b)の官能基に、光重合性不飽和基を有する化合物(不飽和基含有化合物ともいう)を反応させたものが挙げられる。
【0049】
不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(b)の官能基と結合可能な置換基、及び光重合性不飽和基の双方を有する化合物である。光重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられるが、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
また、不飽和基含有化合物が有する、官能基と結合可能な置換基としては、イソシアネート基やグリシジル基等が挙げられる。したがって、不飽和基含有化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリロイルイソシアネート、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0050】
また、不飽和基含有化合物は、アクリル系重合体(b)の官能基の一部に反応することが好ましく、具体的には、アクリル系重合体(b)が有する官能基の50~98モル%に、不飽和基含有化合物を反応させることが好ましく、55~93モル%反応させることがより好ましい。このように、エネルギー線硬化性アクリル系樹脂において、官能基の一部が不飽和基含有化合物と反応せずに残存することで、架橋剤によって架橋されやすくなる。
なお、アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30万~160万、より好ましくは40万~140万、更に好ましくは50万~120万である。
【0051】
(エネルギー線硬化性化合物)
X型又はXY型の粘着剤組成物に含有されるエネルギー線硬化性化合物としては、分子内に不飽和基を有し、エネルギー線照射により重合硬化可能なモノマー又はオリゴマーが好ましい。
このようなエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-へキサンジオール(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート,ポリエーテル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0052】
これらの中でも、比較的分子量が高く、粘着剤層の弾性率を低下させにくい観点から、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。
エネルギー線硬化性化合物の分子量(オリゴマーの場合は重量平均分子量)は、好ましくは100~12000、より好ましくは200~10000、更に好ましくは400~8000、特に好ましくは600~6000である。
【0053】
X型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは40~200質量部、より好ましくは50~150質量部、更に好ましくは60~90質量部である。
一方で、XY型の粘着剤組成物におけるエネルギー線硬化性化合物の含有量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは1~30質量部、より好ましくは2~20質量部、更に好ましくは3~15質量部である。XY型の粘着剤組成物では、粘着性樹脂が、エネルギー線硬化性であるため、エネルギー線硬化性化合物の含有量が少なくても、エネルギー線照射後、十分に剥離力を低下させることが可能である。
【0054】
(架橋剤)
粘着剤組成物は、さらに架橋剤を含有することが好ましい。架橋剤は、例えば粘着性樹脂が有する官能基モノマー由来の官能基に反応して、粘着性樹脂同士を架橋するものである。架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等、及びそれらのアダクト体等のイソシアネート系架橋剤;エチレングリコールグリシジルエーテル、1,3-ビス(N,N’-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン等のエポキシ系架橋剤;ヘキサ〔1-(2-メチル)-アジリジニル〕トリフォスファトリアジン等のアジリジン系架橋剤;アルミニウムキレート等のキレート系架橋剤;等が挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
これらの中でも、凝集力を高めて粘着力を向上させる観点、及び入手し易さ等の観点から、イソシアネート系架橋剤が好ましい。
架橋剤の配合量は、架橋反応を促進させる観点から、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~7質量部、更に好ましくは0.05~4質量部である。
【0056】
(光重合開始剤)
また、粘着剤組成物がエネルギー線硬化性である場合には、粘着剤組成物は、さらに光重合開始剤を含有することが好ましい。光重合開始剤を含有することで、紫外線等の比較的低エネルギーのエネルギー線でも、粘着剤組成物の硬化反応を十分に進行させることができる。
【0057】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン化合物、アセトフェノン化合物、アシルフォスフィノキサイド化合物、チタノセン化合物、チオキサントン化合物、パーオキサイド化合物、さらには、アミンやキノン等の光増感剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、1-ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロルニトリル、ジベンジル、ジアセチル、8-クロールアンスラキノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。
【0058】
これらの光重合開始剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光重合開始剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~10質量部、より好ましくは0.03~5質量部、更に好ましくは0.05~5質量部である。
【0059】
(その他の添加剤)
粘着剤組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、帯電防止剤、酸化防止剤、粘着付与剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。これらの添加剤を配合する場合、添加剤の配合量は、粘着性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01~6質量部である。
【0060】
また、粘着剤組成物は、基材や剥離シートへの塗布性を向上させる観点から、更に有機溶媒で希釈して、粘着剤組成物の溶液の形態としてもよい。
有機溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサン、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。
なお、これらの有機溶媒は、粘着性樹脂の合成時に使用された有機溶媒をそのまま用いてもよいし、該粘着剤組成物の溶液を均一に塗布できるように、合成時に使用された有機溶媒以外の1種以上の有機溶媒を加えてもよい。
【0061】
[剥離シート]
粘着テープの表面には、剥離シートが貼付されていてもよい。剥離シートは、具体的には、粘着テープの粘着剤層の表面に貼付される。剥離シートは、粘着剤層表面に貼付されることで輸送時、保管時に粘着剤層を保護する。剥離シートは、剥離可能に粘着テープに貼付されており、粘着テープが使用される前(すなわち、ウエハ裏面研削前)には、粘着テープから剥離されて取り除かれる。
剥離シートは、少なくとも一方の面が剥離処理をされた剥離シートが用いられ、具体的には、剥離シート用基材の表面上に剥離剤を塗布したもの等が挙げられる。
【0062】
剥離シート用基材としては、樹脂フィルムが好ましく、当該樹脂フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等のポリエステル樹脂フィルム、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂等が挙げられる。剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
剥離シートの厚さは、特に制限ないが、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~150μmである。
【0063】
[粘着テープ]
本発明に係る粘着テープ10は、基材11と、粘着剤層12とを含む。図2を参照して、本発明における「浮き量」について説明する。
本発明の粘着テープを直径20.32cm(8インチ)の円形に切り出し、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分間平坦面に静置後の、粘着テープ外周部の平坦面からの浮き量の最大値は、6mm以下であり、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは4mm以下である。浮き量の最大値(L)は0mmであってもよく、より好ましい。浮き量の最大値は0.1mm以上であってもよく、0.3mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。
【0064】
基材11には一般に製膜時のテンションが残留している。また、粘着テープは一般にロール状に巻かれて保管、搬送されるが、この際に巻癖が付く。このため粘着テープをロールから巻き出し、円形に切り出した後、平坦面に静置すると粘着テープが湾曲する。この湾曲には2通りのタイプがある。ひとつは、円形の粘着テープの外周部が平坦面から浮くタイプであり、以下ではこれを凹状変形と呼ぶ。他のひとつは、粘着テープの内周部が平坦面から浮くタイプであり、以下ではこれを凸状変形と呼ぶ。図2には凹状変形の一例を示している。
【0065】
本発明の粘着テープでは、浮き量の最大値が0mmであっても良い。これは、粘着テープがまったく湾曲しないか、あるいは凸状変形の場合を意味する。凸状変形の場合には、粘着テープの外周部は平坦面に接地するため、浮き量の最大値は0mmとなる。平坦面に対し凸状に湾曲することで、吸着テーブルの平坦面と粘着テープとの間で気密性が保たれ、ドライポリッシュ時に、粘着テープを吸着テーブルに吸着する際のエア漏れが防止される。このため、粘着テープ上のチップ集合体が平坦に保持されるため、研磨パフの研磨面がチップの裏面側に確実に接触するため、チップの破損、飛散が低減される。
【0066】
また、粘着テープが凹状変形する場合であっても、浮き量の最大値が6mm以下であれば、吸着テーブルの吸引力によって、粘着テープの外周部が吸着テーブルに密着するため、上記と同様にチップの破損、飛散が低減される。また、粘着テープの外周部が浮いていても、研磨パフがチップ上を通過する際に、粘着テープが吸着テーブルに押し付けられるため、粘着テープの外周部が吸着テーブルに密着する。これにより、粘着テープが貼付されたチップ集合体の平坦性が確保され、チップの破損、飛散が低減される。
【0067】
一方、浮き量の最大値が6mmを超えると、粘着シートの外縁近傍に保持されているチップは傾く。傾いたチップに対して、研磨パフの側面が接触し、チップが破損、飛散することがある。
【0068】
浮き量の最大値は、粘着テープを直径20.32cm(8インチ)の円形に切り出し、剥離シートを剥がした後、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分間平坦面に静置後に、23℃50%RHにて測定する。粘着テープの切り出し後、平坦面に静置すると、粘着テープは徐々に湾曲し、30分でほぼ定常状態となる。30分経過後、平坦面に定規を立て、粘着テープの外周部に沿って定規を一周させ、各部位における浮き量を測定し、その最大値を求める。
【0069】
上記の粘着テープの作成法は特に限定はされないが、たとえば以下のように基材の湾曲性を評価した上で、基材の片面に粘着剤層を設けることで得られる。
【0070】
まず、基材の一方の面を第1面とし、他方の面を第2面とする。直径20.32cmに切り出した基材を、第1面が上面、第2面が下面となるように、平坦面に30分静置する。基材に変形が見られない場合あるいは、基材外周の浮き量の最大値が6mm以下の場合には、何れの面に粘着剤層を設けても良い。基材が凸状変形した場合には、第1面側に粘着剤層を設ける。基材が凹状変形した場合には、第2面側に粘着剤層を設ける。
【0071】
基材の湾曲性は、例えば基材の厚みや、緩衝層によって制御できる。基材を比較的厚めにすると、基材の剛性によって、湾曲性が低くなる。また、緩衝層を設ける場合には、基材の両面に緩衝層を設けることが好ましい。基材の片面のみに緩衝層を設けると、基材の内部応力と、緩衝層の内部応力との違いによって、積層基材が湾曲し易い。しかし、基材の両面に緩衝層を設けると、片方の緩衝層の内部応力による湾曲性と、他方の緩衝層の内部応力による湾曲性とが互いに打消すため、積層基材の湾曲性は低くなる。したがって、基材の両面に緩衝層を設ける場合には、両面に同一の緩衝層を設けることが好ましい。
【0072】
(粘着テープ10の製造方法)
本発明の粘着テープ10の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。
例えば、剥離シート上に設けた粘着剤層を、基材の片面(または緩衝層)に貼り合わせ、粘着剤層の表面に剥離シートが貼付された粘着テープを製造することができる。粘着剤層の表面に貼付される剥離シートは、粘着テープの使用前に適宜剥離して除去すればよい。
剥離シート上に粘着剤層を形成する方法としては、剥離シート上に粘着剤組成物を、公知の塗布方法にて、直接塗布して塗布膜から溶媒を揮発させるため加熱乾燥することで、粘着剤層を形成することができる。
【0073】
また、基材の片面(または緩衝層)に、粘着剤(粘着剤組成物)を直接塗布して、粘着剤層を形成してもよい。粘着剤の塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0074】
[半導体装置の製造方法]
本発明の粘着テープ10は、先ダイシング法において、半導体ウエハ回路面を保護しつつ、裏面研削が行い、かつドライポリッシュを行う際に、ウエハ回路面に貼付されるバックグラインドテープとして使用される。バックグラインドテープとしての使用例について、さらに具体的に説明する。
【0075】
半導体装置の製造方法は、具体的には、以下の工程1~工程4を少なくとも備える。
工程1:半導体ウエハの表面側から溝を形成する工程
工程2:上記の粘着テープ10(バックグラインドテープ)を、半導体ウエハの表面に貼付する工程
工程3:粘着テープ10が表面に貼付され、かつ上記溝が形成された半導体ウエハを、裏面側から研削して、溝の底部を除去して、複数のチップに個片化させ、さらにドライポリッシュを行う工程
工程4:チップ集合体を、ピックアップテープに転写し、バックグラインドテープを剥離した後、ピックアップテープから個々のチップを剥離する工程
【0076】
以下、上記半導体装置の製造方法の各工程を詳細に説明する。
(工程1)
工程1では、半導体ウエハの表面側から溝を形成する。
本工程で形成される溝は、半導体ウエハの厚さより浅い深さの溝である。溝の形成は、従来公知のウエハダイシング装置等を用いて行うことが可能である。また、半導体ウエハは、後述する工程3において、溝の底部を除去することで、溝に沿って複数の半導体チップに分割される。
【0077】
本製造方法で用いられる半導体ウエハはシリコンウエハであってもよいし、またガリウム・砒素などのウエハや、サファイアウエハ、ガラスウエハであってもよい。半導体ウエハの研削前の厚さは特に限定されないが、通常は500~1000μm程度である。また、半導体ウエハは、通常、その表面に回路が形成されている。ウエハ表面への回路の形成は、エッチング法、リフトオフ法などの従来汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。
【0078】
(工程2)
工程2では、溝が形成された半導体ウエハ表面に、本発明の粘着テープ10の粘着剤層12を貼付する。
【0079】
(工程3)
工程1及び工程2の後、吸着テーブル上の半導体ウエハの裏面を研削して、半導体ウエハを複数の半導体チップに個片化し、さらにドライポリッシュを行う。
ここで、裏面研削は、半導体ウエハの表面に形成された溝の底部に至る位置まで半導体ウエハを薄くするように行う。この裏面研削により、溝は、ウエハを貫通する切り込みとなり、半導体ウエハは切り込みにより分割されて、個々の半導体チップに個片化される。ドライポリッシュとは、水や砥粒のスラリーを用いずに研磨パフにより研磨する工程を意味する。研磨パフとしては各種汎用の研磨パフが用いられ、市販品としては、ディスコ社の研磨ホイール「Gettering DP」や、「DP08 SERIES」が用いられるが、これらに限定さ
れない。ドライポリッシュによりチップのダメージ部、すなわち研削痕を除去することで、チップの抗折強度は向上する。
【0080】
個片化された半導体チップの形状は、方形でもよいし、矩形等の細長形状となっていてもよい。また、個片化された半導体チップの厚さは特に限定されないが、好ましくは5~100μm程度であるが、より好ましくは10~45μmである。また、個片化された半導体チップの大きさは、特に限定されないが、チップサイズが好ましくは200mm未満、より好ましくは150mm未満、さらに好ましくは120mm未満である。
【0081】
上記工程を経て、粘着テープ(バックグラインドテープ)10上に、チップ集合体が得られる。
【0082】
(工程4)
次に、個片化されたチップ集合体を、バックグラインドテープからピックアップテープに転写し、バックグラインドテープを剥離した後、ピックアップテープから個々のチップを剥離する。本工程は、例えば、以下のように行う。
【0083】
粘着テープ10の粘着剤層12がエネルギー線硬化性粘着剤の場合には、粘着剤層にエネルギー線を照射して粘着剤層を硬化する。次いで、チップ集合体の裏面側に、ピックアップテープを貼付し、ピックアップが可能なように位置及び方向合わせを行う。この際、チップ集合体の外周側に配置したリングフレームもピックアープテープに貼り合わせ、ピックアップテープの外周縁部をリングフレームに固定する。ピックアップテープには、チップ集合体とリングフレームを同時に貼り合わせてもよいし、別々のタイミングで貼り合わせてもよい。次いで、バックグラインドテープ10のみを剥離し、ピックアップテープ上にチップ集合体を転写する。
【0084】
その後、必要に応じピックアップテープをエキスパンドしてチップ間隔を離間し、ピックアップテープ上にある個々の半導体チップをピックアップし、基板等の上に固定化して、半導体装置を製造する。
【0085】
なお、ピックアップテープは、特に限定されないが、例えば、基材と、基材の一方の面に設けられた粘着剤層を備えるダイシングテープと呼ばれる粘着テープによって構成される。ピックアップテープの粘着力は、剥離時におけるバックグラインドテープの粘着力よりも大きければ良い。またピックアップテープからチップを剥離する際には粘着力を低減できる性質を有することが好ましい。したがって、ピックアップテープとしては、エネルギー線硬化性粘着テープが好ましく用いられる。
【0086】
また、ピックアップテープの代わりに、接着テープを用いることもできる。接着テープとは、フィルム状接着剤と剥離シートとの積層体、ダイシングテープとフィルム状接着剤との積層体や、ダイシングテープとダイボンディングテープの両方の機能を有する接着剤層と剥離シートとからなるダイシング・ダイボンディングテープ等が挙げられる。また、ピックアップテープを貼付する前に、個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせてもよい。フィルム状接着剤を用いる場合、フィルム状接着剤はウエハと同形状としてもよい。
【0087】
接着テープを用いる場合やピックアップテープを貼付する前に個片化された半導体ウエハの裏面側にフィルム状接着剤を貼り合わせる場合には、接着テープやピックアップテープ上にある複数の半導体チップは、半導体チップと同形状に分割された接着剤層と共にピックアップされる。そして、半導体チップは接着剤層を介して基板等の上に固定化され、半導体装置が製造される。接着剤層の分割は、レーザーやエキスパンドによって行われる。
【実施例
【0088】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって制限されるものではない。
【0089】
本発明における測定方法、評価方法は以下のとおりである。
[浮き量の最大値]
ロール状に巻かれた粘着テープを直径20.32cm(8インチ)の円形に切り出し、剥離シートを剥がした後、粘着剤層面を上に向けて、23℃50%RHで30分間平坦面に静置する。30分経過後、23℃50%RHの環境下にて平坦面に定規を立て、粘着テープの外周部に沿って定規を一周させ、各部位における浮き量を測定し、その最大値を求める。
【0090】
[剥離評価]
実施例、比較例で得られた剥離シート付粘着テープを、剥離シートを剥がしつつテープラミネーター(リンテック株式会社製、商品名「RAD-3510」)にセットし、先ダイシング法によりウエハ表面に溝を形成した12インチのシリコンウエハ(厚み760μm)に次の条件で貼付した。
ロール高さ:0mm ロール温度:23℃(室温)
テーブル温度:23℃(室温)
得られた粘着テープ付シリコンウエハは、裏面研削(先ダイシング法)により厚さ30μm、チップサイズ1mm×1mmに個片化した。
裏面研削終了後、研削面をディスコ社製DPG8760により研磨した。研磨ホイールには、ディスコ社製「Gettering DP」を用いた。この研磨により、チップのダメージ部(研削痕)を除去した。
ドライポリッシュ終了後、粘着テープの端部に保持されているチップの状態を目視にて観察し、チップ飛散の有無を確認した。チップの飛散が無かった場合を「良好」とし、チップの飛散が有った場合を「不良」とした。
【0091】
なお、以下の実施例、及び比較例の質量部は全て固形分値である。
【0092】
[実施例および比較例]
(複層基材)
基材として厚さ75.0μm、50.0μm、25.0μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ヤング率:2500MPa)を用いた。これらの基材の両面に厚さ27.5μmの緩衝層(LDPE、低密度ポリエチレン)を設けた複層基材1~3を準備した。複層基材1:LDPE(27.5μm)/PET(75μm)/LDPE(27.5μm)
複層基材2:LDPE(27.5μm)/PET(50μm)/LDPE(27.5μm)
複層基材3:LDPE(27.5μm)/PET(25μm)/LDPE(27.5μm)
【0093】
複層基材の一方の面を第1面とし、他方の面を第2面とする。直径20.32cmに切り出した複層基材を、第1面が上面、第2面が下面となるように、平坦面に30分静置する。複層基材が凸状変形した場合には、第1面側に粘着剤層を設けた。複層基材が凹状変形した場合には、第2面側に粘着剤層を設けた。
【0094】
(粘着剤組成物の調製)
ブチルアクリレート(BA)65質量部、メチルメタクリレート(MMA)20質量部、及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)15質量部を共重合して得たアクリル系重合体(b)に、アクリル系重合体(b)の全水酸基のうち80モル%の水酸基に付加するように、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)を反応させて、エネルギー線硬化性のアクリル系樹脂(Mw:50万)を得た。
【0095】
このエネルギー線硬化性のアクリル系樹脂100質量部に、エネルギー線硬化性化合物である多官能ウレタンアクリレート(商品名.シコウUT-4332、日本合成化学工業株式会社製)6重量部、イソシアネート系架橋剤(東ソー株式会社製、商品名:コロネートL)を固形分基準で0.375質量部、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシドからなる光重合開始剤1重量部を添加し、溶剤で希釈することにより粘着剤組成物の塗工液を調製した。
【0096】
(粘着テープの作製)
剥離シート(リンテック株式会社製、商品名:SP-PET381031)の剥離処理面に、上記で得た粘着剤組成物の塗工液を乾燥後の厚さが40μmとなるように塗工し、加熱乾燥させて、剥離シート上に粘着剤層を形成した。この粘着剤層を、積層基材の所定面に貼付して、剥離シート付き粘着テープを得た。得られた粘着テープは長尺であり、これをロール状に巻き取った。
なお、粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率は、0.15MPaであった。
【0097】
実施例および比較例で用いた粘着テープを使用して、浮き量の最大値を測定し、剥離評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
以上の結果から、粘着テープの浮き量の最大値が6mm以下であれば、ドライポリッシュを行ってもチップの飛散がなく、歩留まりの向上が達成されることを確認した。
図1
図2