(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】水素に富むC1含有基質を使用した代謝物生成方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C12P 7/06 20060101AFI20230807BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20230807BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20230807BHJP
C12P 5/02 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/00 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/16 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/18 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/26 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/28 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/42 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/52 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/54 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20230807BHJP
C12P 7/64 20220101ALI20230807BHJP
【FI】
C12P7/06
C12N1/00 C
C12N1/00 Q
C12N1/00 R
C12N1/20 D
C12N1/20 F
C12P5/02
C12P7/00
C12P7/04
C12P7/16
C12P7/18
C12P7/26
C12P7/28
C12P7/42
C12P7/52
C12P7/54
C12P7/56
C12P7/64
(21)【出願番号】P 2020513745
(86)(22)【出願日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 US2018049723
(87)【国際公開番号】W WO2019051069
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-02
(32)【優先日】2017-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518403425
【氏名又は名称】ランザテク,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】コンラド,ロバート ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ウォーターズ,ガイ ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】パグリシ,マシュー
(72)【発明者】
【氏名】コノリー,ジョシュア ジェレミー
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0115505(US,A1)
【文献】特開2012-205530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00- 41/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の発酵生成物の生成方法であって、
a.COに富むC1含有ガス状基質を、1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する液体栄養培地を含む接種リアクタに提供することと、
b.前記COに富むC1含有ガス状基質を発酵させて、接種材料を生成することと、
c.前記接種材料の少なくとも一部分を、バイオリアクタシステム
であって、液体栄養培地中に1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する少なくとも1つのバイオリアクタを備える
バイオリアクタシステムに送ることと、
d.H
2に富むC1含有ガス状基質を、前記バイオリアクタシステムに送ることと、
e.前記H
2に富むC1含有ガス状基質を発酵させて、少なくとも1つの発酵生成物を生成することと、を含み、
ここで、前記COに富むC1含有ガス状基質は、1
未満:
1のH
2:COモル比で、H
2を含み、前記H
2に富むC1含有ガス状基質は、少なくとも1.1:1のH
2:COモル比で、H
2を含む、方法。
【請求項2】
前記COに富むC1含有ガス状基質が、0.5
未満:
1のH
2:COモル比で、H
2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記H
2に富むC1含有ガス状基質が、1.1:1~6:1のH
2:COモル比で、H
2を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記C1固定微生物が、カルボキシド栄養性細菌である、請求項1
に記載の方法。
【請求項5】
前記カルボキシド栄養性細菌が、ムーレラ(Moorella)、クロストリジウム(Clostridium)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、ユーバクテリウム(Eubacterium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)、オキソバクター(Oxobacter)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、およびデスルホトマキュラム(Desulfotomaculum)からなる群から選択される、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記カルボキシド栄養性細菌が、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)である、請求項
4に記載の方法。
【請求項7】
前記バイオリアクタシステムが、1つ以上の二次バイオリアクタに連結された1つ以上の一次バイオリアクタを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの発酵生成物が、エタノール、アセテート、ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ラクテート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、モノエチレングリコール、イソブテン、およびC6~C14アルコールからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ以上の発酵生成物が、ディーゼル燃料、ジェット燃料、ガソリン、プロピレン、ナイロン6-6、ゴム、および/または樹脂のうちの少なくとも1つの成分にさらに変換される、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの発酵生成物が、微生物バイオマスである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記微生物バイオマスが処理されて、動物用飼料の少なくとも1つの成分を生成する、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年9月8日に出願された米国仮特許出願第62/556,099号の利益を主張し、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、接種リアクタおよび少なくとも1つのバイオリアクタを含む多段階ガス発酵プロセスを介する1つ以上の発酵生成物の生成方法に関する。具体的には、本発明は、COに富むC1含有ガス状基質が接種リアクタに供給されて、接種材料を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
二酸化炭素(CO2)は、人間の活動による世界全体の温室効果ガス排出量の約76%を占め、メタン(16%)、亜酸化窒素(6%)、およびフッ素化ガス(2%)が残りを占めている(米国環境保護庁(the United States Environmental Protection Agency))。温室効果ガス排出、特にCO2の削減は、地球温暖化の進行ならびにそれに伴う気候および天候の変動を食い止めるのに重要である。
【0004】
フィッシャー-トロプシュ法などの触媒プロセスを使用して、産業廃ガスまたは合成ガスなどの二酸化炭素(CO2)、一酸化炭素(CO)、および/または水素(H2)を含有するガスを様々な燃料および化学物質に変換できることが長い間認識されている。しかしながら、最近、ガス発酵がそのようなガスの生物学的固定のための代替プラットフォームとして浮上している。特に、C1固定微生物は、CO2、CO、および/またはH2を含有するガスをエタノールおよび2,3-ブタンジオールなどの生成物に変換することが示されている。
【0005】
このようなガスは、例えば、炭水化物発酵からのガス、セメント製造からのガス、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス(バイオマス、廃液流、固形廃棄流、都市流、天然ガス、石炭および石油を含む化石資源を含むがこれらに限定されない供給源から誘導される)、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセス(水蒸気メタン改質、水蒸気ナフサ改質、石油コークスガス化、触媒再生-流動触媒分解、触媒再生-ナフサ改質、および乾式メタン改質を含むがこれらに限定されない水蒸気源から誘導される)を含む、工業的プロセスから誘導され得る。
【0006】
特定の工業的プロセスでは、ガスの組成は、発酵に理想的ではない場合がある。ガスの組成が理想的でない場合、細胞増殖、生成物選択性、および安定性が最適ではない場合がある。
【0007】
したがって、下流の発酵プロセスにおいて、細胞増殖、生成物選択性、および安定性を促進するために、工業的プロセスからのガスの組成を最適化する発明が依然として必要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、1つ以上の発酵生成物の生成方法を提供し、COに富むC1含有ガス状基質が、1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する液体栄養培地を含む接種リアクタに送られ、そこで、COに富むC1含有ガス状基質は発酵して、接種材料を生成し、接種材料の少なくとも一部分は、バイオリアクタシステムに送られ、バイオリアクタシステムは、液体栄養培地中に1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する少なくとも1つのバイオリアクタを定義し、H2に富むC1含有ガス状基質が、バイオリアクタシステムに送られ、そこで、H2に富むC1含有ガス状基質は発酵して、少なくとも1つの発酵生成物を生成する。
【0009】
特定の実施形態では、接種リアクタに送られるCOに富むC1含有ガス状基質は、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0010】
特定の例では、接種リアクタに送られるCOに富むC1含有ガス状基質は、0.5未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0011】
好ましくは、接種リアクタに送られるCOに富むC1含有ガス状基質は、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む。特定の実施形態では、H2:COモル比は、0.05:1~1:1、または0.15:1~1:1、または0.25:1~1:1、または0.35:1~1:1、または0.45:1~1:1、または0.55:1~1:1、または0.65:1~1:1、または0.75:1~1:1、または0.85:1~1:1、または0.95:1~1:1である。
【0012】
特定の実施形態では、バイオリアクタシステムに送られるH2に富むC1含有ガス状基質は、少なくとも1.1:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0013】
好ましくは、バイオリアクタシステムに送られるH2に富むC1含有ガス状基質は、1.1:1~6:1のH2:COモル比で、H2を含む。特定の実施形態では、H2:COモル比は、1.5:1~6:1、または2:1~6:1、または2.5:1~6:1、または3:1~6:1、または3.5:1~6:1、または4:1~6:1、または4.5:1~6:1、または5:1~6:1である。
【0014】
少なくとも1つの実施形態では、接種リアクタまたはバイオリアクタシステムのいずれか、または両方のC1固定微生物は、カルボキシド栄養性細菌である。
【0015】
C1固定微生物がカルボキシド栄養性である実施形態では、カルボキシド栄養性細菌は、ムーレラ(Moorella)、クロストリジウム(Clostridium)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、ユーバクテリウム(Eubacterium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)、オキソバクター(Oxobacter)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、およびデスルホトマキュラム(Desulfotomaculum)からなる群から選択され得る。
【0016】
好ましくは、カルボキシド栄養性細菌は、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)である。
【0017】
少なくとも1つの実施形態では、バイオリアクタシステムは、1つ以上の二次バイオリアクタに連結された1つ以上の一次バイオリアクタを備える。
【0018】
好ましくは、本方法は、C1含有ガス状基質の少なくとも一部分を接種リアクタに送ることと、C1含有ガス状基質の少なくとも一部分をバイオリアクタに送ることと、を提供し、接種リアクタ内のC1含有ガス状基質は発酵して、接種材料を生成し、接種材料の少なくとも一部分は、少なくとも1つのバイオリアクタに送られ、バイオリアクタ内のC1含有ガス状基質は発酵して、少なくとも1つの発酵生成物を生成し、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、接種リアクタに送られる前に、少なくとも1つのH2除去プロセスに供される。
【0019】
特定の実施形態では、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0020】
特定の例では、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、0.8未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0021】
特定の例では、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、0.5未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。
【0022】
好ましくは、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む。特定の実施形態では、H2:COモル比は、0.05:1~1:1、または0.15:1~1:1、または0.25:1~1:1、または0.35:1~1:1、または0.45:1~1:1、または0.55:1~1:1、または0.65:1~1:1、または0.75:1~1:1、または0.85:1~1:1、または0.95:1~1:1である。
【0023】
特定の実施形態では、H2除去プロセスは、少なくとも1つの圧力スイング吸着プロセスを含む。
【0024】
特定の実施形態では、H2除去プロセスは、少なくとも1つの膜分離モジュールを含む。
【0025】
好ましくは、C1含有ガス状基質の少なくとも一部分は、工業的供給源から誘導される。
【0026】
特定の例では、C1含有ガス状基質の少なくとも一部分は、炭水化物発酵、ガス発酵、セメント製造、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅、および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセスからなる群から選択される、少なくとも1つの工業的供給源から誘導され得る。
【0027】
好ましくは、本方法は、エタノール、アセテート、ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ラクテート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、モノエチレングリコール、イソブテン、およびC6~C14アルコールからなる群から選択される、少なくとも1つの発酵生成物を生成する。
【0028】
少なくとも1つの実施形態では、1つ以上の発酵生成物は、ディーゼル燃料、ジェット燃料、ガソリン、プロピレン、ナイロン6-6、ゴム、および/または樹脂のうちの少なくとも1つの成分にさらに変換される。
【0029】
特定の実施形態では、少なくとも1つの発酵生成物は、微生物バイオマスである。特定の例では、微生物バイオマスはさらに処理されて、動物用飼料の少なくとも1つの成分を生成し得る。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】水素除去プロセス、接種リアクタ、およびバイオリアクタシステムの統合を示す概略フローチャートである。
【
図2】本発明の一態様による、水素除去プロセス、接種リアクタ、およびバイオリアクタシステムの統合を示す概略フローチャートであり、水素除去プロセスは、接種リアクタおよびバイオリアクタシステムの両方の上流にある。
【
図3】本発明の一態様による、バイオリアクタシステムの上流の2つの水性ガスシフトプロセス、および圧力スイング吸着プロセスをさらに示す概略フローチャートであり、1つの水性ガスシフトプロセスは、バイパスされる。
【
図4】本発明の一態様による、バイオリアクタシステムの上流の2つの水性ガスシフトプロセス、および圧力スイング吸着プロセスをさらに示す概略フローチャートである。
【
図5】本発明の一態様による、接種リアクタの上流の追加の水素除去プロセスをさらに示す概略フローチャートである。
【
図6】
図6aおよび
図6bは、実施例1による第1のバイオリアクタにおける代謝物生成およびガス摂取を示すグラフである。
【
図7】
図7aおよび
図7bは、実施例1による第2のバイオリアクタにおける代謝物生成およびガス摂取を示すグラフである。
【
図8】
図8aおよび
図8bは、実施例2による第1のバイオリアクタにおける代謝物生成およびガス摂取を示すグラフである。
【
図9】
図9aおよび
図9bは、実施例2による第2のバイオリアクタにおける代謝物生成およびガス摂取を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、接種リアクタに供給されるガス流の組成を最適化することによって、接種リアクタおよび後続のバイオリアクタシステムの両方で細胞増殖、生成物選択性、および安定性が最適化されることを特定した。具体的には、本発明者らは、接種リアクタに供給されるガス流が、低減した水素量を含む場合に、最適な細胞増殖、生成物選択性、および安定性を見出した。
【0032】
定義
別段の定めがない限り、本明細書全体で使用される以下の用語は、以下のように定義される。
【0033】
「C1」は、1炭素分子、例えば、CO、CO2、CH4、またはCH3OHを指す。「C1酸素化物」は、少なくとも1つの酸素原子も含む1炭素分子、例えば、CO、CO2、またはCH3OHを指す。「C1炭素源」は、本発明の微生物のための部分的または唯一の炭素源として機能する1炭素分子を指す。例えば、C1炭素源は、CO、CO2、CH4、CH3OH、またはCH2O2のうちの1つ以上を含み得る。好ましくは、C1炭素源は、COまたはCO2のうちの一方または両方を含む。「C1固定微生物」は、C1炭素源から1つ以上の生成物を生成する能力を有する微生物である。典型的には、本発明の微生物は、C1固定微生物である。
【0034】
「C1含有ガス状基質」は、C1を含む工業的プロセスから出る任意のガスを含む。様々な例では、C1含有ガス状基質は、CO、H2、CO2、またはこれらの組み合わせを含む。ガス状基質は、典型的には、かなりの割合のCO、好ましくは少なくとも約5体積%~約100体積%のCOを含有する。ガス状基質は、かなりの割合の水素を含有し得る。例えば、特定の実施形態では、基質は、概ね2:1、または1:1、または1:2のH2:CO比を含み得る。一実施形態において、基質は、約30体積%以下のH2、20体積%以下のH2、約15体積%以下のH2、または約10体積%以下のH2を含む。基質はまた、例えば、約1体積%~約80体積%のCO2、または1体積%~約30体積%のCO2をなど、ある程度のCO2を含有し得る。一実施形態において、基質は約20体積%以下のCO2を含む。特定の実施形態において、基質は、約15体積%以下のCO2、約10体積%以下のCO2、約5体積%以下のCO2を含むか、または実質的にCO2を含まない。加えて、C1含有ガス状基質は、酸素(O2)、窒素(N2)、および/またはメタン(CH4)のうちの1つ以上を含有し得る。
【0035】
基質は典型的にはガス状であるが、基質はまた、代替的な形態で提供されてもよい。例えば、基質は、マイクロバブル分散物発生装置を使用して、CO含有ガスで飽和した液体中に溶解されてもよい。さらなる例として、基質は、固体支持体上に吸着されてもよい。
【0036】
「共基質」という用語は、必ずしも生成物合成のための一次エネルギーおよび材料供給源ではないが、主要な基質などの別の基質に添加された場合に生成物合成に利用され得る物質を指す。
【0037】
基質および/またはC1炭素源は、自動車の排出ガスまたはバイオマスガス化からなど、工業的プロセスの副生成物として得られるか、または何らかの他の供給源からの廃ガスであってもよい。特定の実施形態において、工業的プロセスは、炭水化物発酵からのガス排出、ガス発酵、セメント製造からのガス排出、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス(バイオマス、廃液流、固形廃棄流、都市流、天然ガス、石炭および石油を含む化石資源を含むがこれらに限定されない供給源から誘導される)、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセス(水蒸気メタン改質、水蒸気ナフサ改質、石油コークスガス化、触媒再生-流動触媒分解、触媒再生-ナフサ改質、および乾式メタン改質を含むがこれらに限定されない水蒸気源から誘導される)からなる群から選択される。これらの実施形態では、基質および/またはC1炭素源は、任意の簡便な方法を使用して、それが大気中に排出される前に工業的プロセスから捕捉されてもよい。
【0038】
「ガス流」は、例えば、あるモジュールから別のモジュールへ、あるモジュールからバイオリアクタへ、あるモジュールから接種リアクタへ、あるプロセスから別のプロセスへ、および/またはあるモジュールから炭素捕捉手段へ、送られ得る基質の任意の流れを指す。
【0039】
本明細書で使用される場合、「炭素捕捉」という用語は、CO2および/もしくはCOを含む流れからのCO2および/もしくはCOを含む炭素化合物の隔離、ならびに
CO2および/もしくはCOを生成物に変換すること、または
CO2および/もしくはCOを長期貯蔵に好適な物質に変換すること、または
CO2および/もしくはCOを長期貯蔵に好適な物質中に閉じ込めること、または
これらのプロセスの組み合わせのいずれかを指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「反応物質」は、化学反応中の変化に関与し、化学反応中に変化する物質を指す。特定の実施形態では、反応物質としては、COおよび/またはH2が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
「水素除去プロセス」などは、C1含有ガス状基質から水素を除去および/または分離することができる技術を含む。特定の実施形態では、圧力スイング吸着プロセスおよび/または膜分離プロセスが、水素除去プロセスとして使用される。
【0042】
「バイオリアクタ」「バイオリアクタシステム」などの用語は、連続撹拌槽反応器(Continuous Stirred Tank Reactor(CSTR))、固定化細胞リアクタ(Immobilized Cell Reactor(ICR))、トリクルベッドリアクタ(Trickle Bed Reactor(TBR))、気泡塔(Bubble Column)、ガスリフト発酵槽(Gas Lift Fermenter)、スタティックミキサ(Static Mixer)、循環ループリアクタ、中空繊維膜バイオリアクタ(Hollow Fibre Membrane Bioreactor (HFM BR))などの膜リアクタ、または気液接触に好適な他の槽もしくは他の装置を含む、1つ以上の槽および/もしくは塔、または配管配置からなる発酵装置を含む。バイオリアクタは、好ましくは、COもしくはCO2もしくはH2またはこれらの混合物を含むガス状基質を受容するように適合されている。バイオリアクタは、並列または直列のいずれかで、複数のリアクタ(段階)を備え得る。好ましくは、バイオリアクタは、起動リアクタから接種材料を受容するように構成されている。好ましくは、バイオリアクタは、発酵生成物の大部分が生成される生成リアクタとして構成されている。
【0043】
「接種リアクタ」、「接種装置」、「シードリアクタ」などの用語は、細胞増殖を確立および促進するための発酵装置を含む。接種リアクタは、好ましくは、COもしくはCO2もしくはH2またはこれらの混合物を含むガス状基質を受容するように適合されている。好ましくは、接種リアクタは、細胞増殖が最初に開始されるリアクタである。様々な実施形態では、接種リアクタは、すでに増殖した細胞が復活する場所である。様々な実施形態では、接種装置は、1つ以上の微生物の細胞増殖を開始して、接種材料を生成し、次いで、接種材料は、各バイオリアクタが1つ以上の発酵生成物の生成を促進するように構成されているバイオリアクタシステムに移され得る。特定の例では、接種装置は、後続の1つ以上のバイオリアクタと比較した場合、容積が小さい。
【0044】
「栄養培地(Nutrient media)」または「栄養培地(Nutrient medium)」は、細菌増殖培地を説明するために使用される。一般に、この用語は、培養微生物の増殖に適した栄養素および他の成分を含有する培地を指す。「栄養素」という用語は、微生物の代謝経路において利用され得る任意の物質を含む。例示的な栄養素には、カリウム、ビタミンB、微量金属、およびアミノ酸が含まれる。
【0045】
「発酵ブロス」または「ブロス」という用語は、栄養培地および培養物または1つ以上の微生物を含む成分の混合物を包含することを意図している。微生物という用語と細菌という用語は、本明細書を通して互換的に使用されることに留意されたい。
【0046】
「接種材料」という用語は、接種リアクタ内で最初に増殖した発酵ブロスを包含することを意図しており、次いで、1つ以上の後続のバイオリアクタに接種するために1つ以上の後続のバイオリアクタに送られる。好ましくは、接種材料は、1つ以上のバイオリアクタによって利用されて、1つ以上の発酵生成物を生成する。
【0047】
「所望の組成」という用語は、例えばガス流などの物質中の成分の望ましい濃度および種類を指すために使用される。より具体的には、ガスは、それが特定の成分(例えば、CO、H2、および/またはCO2)を含有する、および/または特定の成分を特定の割合で含有する、および/または特定の成分(例えば、微生物に有害な構成成分)を含有しない、および/または特定の成分を特定の割合で含有しない場合、「所望の組成」を有すると考えられる。ガス流が所望の組成を有しているかどうかを判断する場合、2つ以上の成分が考慮され得る。1つ以上の実施形態では、C1含有ガス状基質の「所望の組成」は、H2:COモル比に換算して定義される。様々な実施形態では、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質の所望の組成は、バイオリアクタシステムに送られるC1含有ガス状基質の所望の組成とは異なる。
【0048】
「効率を高める」、「効率が高まる」などの用語は、発酵プロセスに関して使用される場合、発酵を触媒する微生物の増殖速度、上昇した生成物濃度における増殖および/または生成物生成速度、消費される基質の体積当たりに生成される所望の生成物の体積、所望の生成物の生成速度または生成レベル、ならびに発酵の他の副生成物と比較して生成される所望の生成物の相対的割合のうちの1つ以上を増加させることを含むがこれらに限定されない。
【0049】
文脈上別段の要求がない限り、本明細書で使用される場合、「発酵」、「発酵プロセス」、または「発酵反応」などの句は、ガス状基質の増殖期および生成物生合成期の両方を包含することを意図している。
【0050】
「微生物」は、顕微鏡生物、特に細菌、古細菌、ウイルス、または真菌である。本発明の微生物は、典型的には細菌である。本明細書で使用される場合、「微生物」の引用は、「細菌」を網羅するものと解釈されるべきである。
【0051】
「親微生物」は、本発明の微生物を生成するために使用される微生物である。親微生物は、天然に存在する微生物(例えば、野生型微生物)、または以前に修飾された微生物(例えば、変異体または組換え微生物)であってもよい。本発明の微生物は、親微生物において発現または過剰発現していなかった1つ以上の酵素を発現または過剰発現するように修飾され得る。同様に、本発明の微生物は、親微生物が含有しなかった1つ以上の遺伝子を含有するように修飾され得る。本発明の微生物は、また、親微生物において発現した1つ以上の酵素を発現しないか、またはより少ない量を発現するように修飾され得る。一実施形態において、親微生物は、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウムユングダーリー(Clostridium ljungdahlii)、またはクロストリジウムラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)である。好ましい実施形態では、親微生物は、2010年6月7日に、Inhoffenstraβ 7B,D-38124 Braunschweig,Germanyに所在するDeutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)に、ブダペスト条約の条項下で、2010年6月7日に寄託され、受託番号DSM23693を付与された、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum) LZ1561である。この菌株は、WO2012/015317として公開されている国際特許出願第PCT/NZ2011/000144号に記載されている。
【0052】
「~由来する」という用語は、核酸、タンパク質、または微生物が異なる(例えば、親または野生型)核酸、タンパク質、または微生物から修飾または適合されて、新しい核酸、タンパク質、または微生物を生成することを示す。そのような修飾または適合は、典型的には、核酸または遺伝子の挿入、欠失、変異、または置換を含む。一般に、本発明の微生物は、親微生物に由来する。一実施形態では、本発明の親微生物は、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウムユングダーリー(Clostridium ljungdahlii)、またはクロストリジウムラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)に由来する。好ましい実施形態において、本発明の微生物は、DSMZ受託番号DSM23693の下で寄託される、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)LZ1561に由来する。
【0053】
「Wood-Ljungdahl」は、すなわち、Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008に記載されているような炭素固定のWood-Ljungdahl経路を指す。「Wood-Ljungdahl微生物」は、予想通り、Wood-Ljungdahl経路を含む微生物を指す。一般に、本発明の微生物は天然のWood-Ljungdahl経路を含有する。本明細書では、Wood-Ljungdahl経路は、天然の未修飾のWood-Ljungdahl経路であってもよく、またはCO、CO2、および/もしくはH2をアセチル-CoAに変換するように依然として機能する限り、ある程度の遺伝子修飾(例えば、過剰発現、異種発現、遺伝子欠損など)を有するWood-Ljungdahl経路であってもよい。
【0054】
「嫌気性細菌」は、増殖のために酸素を必要としない微生物である。嫌気性細菌は、酸素が特定の閾値を超えて存在する場合、負の反応を示し得るか、または死滅し得る。しかしながら、いくつかの嫌気性細菌は、低濃度の酸素(例えば、0.000001~5体積%の酸素)を許容し得る。典型的には、本発明の微生物は嫌気性細菌である。
【0055】
「アセトゲン」は、省エネルギーのため、ならびにアセテートなどのアセチル-CoAおよびアセチル-CoA由来生成物の合成のために、それらの主要機構として、Wood-Ljungdahl経路を使用する、偏性嫌気性細菌である(Ragsdale,Biochim Biophys Acta,1784:1873-1898,2008)。具体的には、アセトゲンは、Wood-Ljungdahl経路を、(1)CO2からのアセチル-CoAの還元合成のための機構、(2)末端電子受容、省エネルギープロセス、(3)細胞炭素の合成におけるCO2の固定(同化)のための機構として使用する(Drake,Acetogenic Prokaryotes,In:The Prokaryotes,3rd edition,p.354,New York,NY,2006)。天然に存在する全てのアセトゲンは、C1固定、嫌気性、独立栄養性、および非メタン資化性である。典型的には、本発明の微生物は、アセトゲンである。
【0056】
「エタノロゲン」は、エタノールを生成する、または生成することができる微生物である。典型的には、本発明の微生物は、エタノロゲンである。
【0057】
「独立栄養生物」は、有機炭素の不在下で増殖することができる微生物である。代わりに、独立栄養生物は、COおよび/またはCO2などの無機炭素源を使用する。典型的には、本発明の微生物は、独立栄養生物である。
【0058】
「カルボキシド栄養生物」は、炭素およびエネルギーの唯一の供給源としてCOを利用することができる微生物である。典型的には、本発明の微生物は、カルボキシド栄養生物である。
【0059】
本発明の微生物は、1つ以上の生成物を生成するようにガス流と共に培養され得る。例えば、本発明の微生物は、エタノール(WO2007/117157)、アセテート(WO2007/117157)、ブタノール(WO2008/115080およびWO2012/053905)、ブチレート(WO2008/115080)、2,3-ブタンジオール(WO2009/151342およびWO2016/094334)、ラクテート(WO2011/112103)、ブテン(WO2012/024522)、ブタジエン(WO2012/024522)、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(WO2012/024522およびWO2013/185123)、エチレン(WO2012/026833)、アセトン(WO2012/115527)、イソプロパノール(WO2012/115527)、脂質(WO2013/036147)、3-ヒドロキシプロピオネート(3-HP)(WO2013/180581)、イソプレンを含むテルペン(WO2013/180584)、脂肪酸(WO2013/191567)、2-ブタノール(WO2013/185123)、1,2-プロパンジオール(WO2014/036152)、1-プロパノール(WO2014/0369152)、コリスメート由来生成物(WO2016/191625)、3-ヒドロキシブチレート(WO2017/066498)、および1,3-ブタンジオール(WO2017/0066498)を生成することができるか、または生成するように操作され得る。1つ以上の目標生成物に加えて、本発明の微生物はまた、エタノール、アセテート、および/または2,3-ブタンジオールも生成し得る。特定の実施形態において、微生物バイオマス自体が生成物と見なされ得る。これらの生成物はさらに変換されて、ディーゼル、ジェット燃料、および/またはガソリンのうちの少なくとも1つの成分を生成し得る。加えて、微生物バイオマスはさらに処理されて、単細胞タンパク質(SCP)を生成し得る。
【0060】
「単細胞タンパク質」(SCP)は、タンパク質が豊富なヒトおよび/または動物用飼料に使用され得る微生物バイオマスを指し、多くの場合、大豆または魚粉などの従来のタンパク質補給源に取って代わる。単細胞タンパク質または他の生成物を生成するために、本方法は、追加の分離、加工、または処理の工程を含み得る。例えば、本方法は、微生物バイオマスを滅菌すること、微生物バイオマスを遠心分離すること、および/または微生物バイオマスを乾燥させることを含み得る。特定の実施形態では、微生物バイオマスは、噴霧乾燥またはパドル乾燥を使用して乾燥される。核酸含有量の高い食事を摂取すると、核酸分解生成物の蓄積および/または胃腸障害が生じ得るため、本方法は、当技術分野で公知の任意の方法を使用して、微生物バイオマスの核酸含有量を低減させることも含み得る。単細胞タンパク質は、家畜やペットなどの動物への給餌に好適であり得る。具体的には、動物用飼料は、1頭以上の肉用牛、乳用牛、豚、羊、山羊、馬、ラバ、ロバ、鹿、バッファロー/バイソン、ラマ、アルパカ、トナカイ、ラクダ、バンテン、ガヤル、ヤク、鶏、七面鳥、アヒル、ガチョウ、ウズラ、ホロホロ鳥、ひなバト/ハト、魚、エビ、甲殻類、猫、犬、およびげっ歯類に給餌するのに好適であり得る。動物用飼料の組成は、異なる動物の栄養要件に合わせて調整され得る。さらに、本方法は、微生物バイオマスを1つ以上の賦形剤と混合することまたは組み合わせることを含み得る。
【0061】
「賦形剤」は、動物用飼料の形態、特性、または栄養含有量を強化または変更するために、微生物バイオマスに添加され得る任意の物質を指し得る。例えば、賦形剤は、炭水化物、繊維、脂肪、タンパク質、ビタミン、ミネラル、水、香料、甘味料、酸化防止剤、酵素、防腐剤、プロバイオティクス、または抗生物質のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、干し草、わら、貯蔵生牧草、穀物、油もしくは脂肪、または他の植物材料であってもよい。賦形剤は、Chiba,Section 18:Diet Formulation and Common Feed Ingredients,Animal Nutrition Handbook、第3版、575~633項、2014に特定されている、任意の飼料構成成分であってもよい。
【0062】
「天然生成物」は、遺伝子組み換えされていない微生物によって生成される生成物である。例えば、エタノール、アセテート、および2,3-ブタンジオールは、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)、クロストリジウムユングダーリー(Clostridium ljungdahlii)、およびクロストリジウムラグスダレイ(Clostridium ragsdalei)の天然生成物である。「非天然生成物」は、遺伝子組み換えされた微生物によって生成されるが、遺伝子組み換えされた微生物が由来する遺伝子組み換えされていない微生物によって生成されない生成物である。
【0063】
「選択性」は、微生物によって生成される全発酵生成物の生成に対する目標生成物の生成の比率を指す。本発明の微生物は、特定の選択性で、または最小の選択性で生成物を生成するように操作され得る。一実施形態では、目標生成物は、本発明の微生物によって生成される全ての発酵生成物の少なくとも約5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、30重量%、50重量%、75重量%、または90重量%を占める。一実施形態では、目標生成物は、本発明の微生物が、目標生成物に対して少なくとも10重量%の選択性を有するように、本発明の微生物によって生成される全ての発酵生成物の少なくとも10重量%を占める。別の実施形態では、目標生成物は、本発明の微生物が、目標生成物に対して少なくとも30重量%の選択性を有するように、本発明の微生物によって生成される全ての発酵生成物の少なくとも30重量%を占める。一実施形態では、目標生成物は、本発明の微生物が、目標生成物に対して少なくとも90重量%の選択性を有するように、微生物によって生成される全ての発酵生成物の少なくとも90重量%を占める。
【0064】
目標生成物は、例えば、分留、蒸発、浸透気化、ガス除去、相分離、および、例えば、液-液抽出を含む抽出発酵を含む、当該技術分野で既知の任意の方法または方法の組み合わせを使用して、発酵ブロスから分離または精製され得る。特定の実施形態において、目標生成物は、ブロスの一部分をバイオリアクタから連続的に取り出し、微生物細胞をブロスから(濾過により簡便に)分離し、1つ以上の目標生成物をブロスから回収することによって、発酵ブロスから回収される。アルコールおよび/またはアセトンは、例えば、蒸留によって回収され得る。酸は、例えば、活性炭上での吸着によって回収され得る。分離された微生物細胞は、好ましくは、バイオリアクタに戻される。目標生成物が取り出された後に残っている無細胞透過液も、好ましくは、バイオリアクタに戻される。追加の栄養素(ビタミンBなど)が、無細胞透過液に添加されて、培地を補充した後に、バイオリアクタに戻され得る。
【0065】
培養/発酵は、望ましくは、目標生成物の生成に適切な条件下で実施されるべきである。典型的には、培養/発酵は、嫌気性条件下で実施される。考慮する反応条件は、圧力(または分圧)、温度、ガス流量、液体流量、培地pH、培地酸化還元電位、撹拌速度(連続撹拌槽反応器を使用する場合)、接種レベル、液相中のガスが制限されないことを確実にするための最大ガス基質濃度、および生成物阻害を回避するための最大生成物濃度を含む。具体的には、基質の導入速度は、生成物がガス制限条件下での培養によって消費され得るため、液相中のガスの濃度が制限されないことを確実にするために制御されてもよい。
【0066】
上昇した圧力でバイオリアクタを操作することにより、気相から液相へのガス物質移動の速度を速めることができる。したがって、概して、大気圧よりも高い圧力で培養/発酵を実施することが好ましい。また、所与のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であり、かつ保持時間がバイオリアクタの必要な容積を示すため、加圧システムの使用は、必要なバイオリアクタの容積、およびその結果として培養/発酵装置の資本コストを大幅に削減することができる。これはさらに、バイオリアクタ中の液体体積を入力ガス流量で除算したものとして定義される保持時間が、バイオリアクタが大気圧よりも上昇した圧力に維持されるときに減少され得ることを意味する。最適反応条件は、使用される特定の微生物に部分的に依存する。しかしながら、一般的には、大気圧より高い圧力で発酵を行うことが好ましい。また、所与のガス変換速度が部分的に基質保持時間の関数であり、かつ所望の保持時間を達成することが同様にバイオリアクタの必要な容積を示すため、加圧システムの使用は、必要なバイオリアクタの容積、およびその結果として発酵装置の資本コストを大幅に削減することができる。
【0067】
説明
接種装置および/またはバイオリアクタに供給されるC1含有ガス状基質の組成を制御することは、接種リアクタおよび後続のバイオリアクタの両方で、細胞増殖、生成物選択性、および安定性を促進するのに特に有用であることが判明した。好ましくは、C1含有基質は、接種リアクタに供給される前に組成制御され、1つ以上の下流のリアクタに供給するための接種材料を生成する。好ましくは、接種リアクタは、液体栄養培地中の1つ以上のC1固定微生物の培養物を含み、組成制御C1含有ガス状基質を受容して、発酵を介して接種材料を生成し得る。
【0068】
本発明者らは、水素に富むC1含有ガス状基質が発酵に使用される場合、発酵プロセスは、多くの場合長期の生成物選択性および安定性に欠けることを見出した。驚くべきことに、発明者は、水素に富む条件下で発酵プロセスを行い、代替の一酸化炭素(CO)に富むC1含有流を接種リアクタに供給する場合、バイオマス増殖およびバイオマス増殖速度が増加するだけでなく、エタノールに対する選択性の向上および下流のバイオリアクタ内での安定性の向上をももたらすことを見出した。
【0069】
本発明は、少なくとも3:1のH2:COモル比で、H2を含む、工業用ガス流を利用する発酵プロセスに特に適用性があるが、本発明はまた、2:1または1.5:1または1.1:1のH2:COモル比を有するガス流などのより低いH2組成物を含む工業用流に有益であると考えられる。一実施形態では、本発明は、1つ以上の発酵生成物の生成方法を提供し、本方法は、(a)C1含有ガス状基質の少なくとも一部分を、接種リアクタに、C1含有ガス状基質の少なくとも一部分を、バイオリアクタに送ることと、(b)C1含有ガス状基質を、接種リアクタ内で発酵させて、接種材料を生成することと、(c)接種材料の少なくとも一部分を、少なくとも1つのバイオリアクタに送ることと、(d)C1含有ガス状基質を、バイオリアクタ内で発酵させて、少なくとも1つの発酵生成物を生成することと、を含み、ここで、接種リアクタに送られるC1含有ガス状基質は、接種リアクタに送られる前に、少なくとも1つのH2除去プロセスに供される。
【0070】
特定の実施形態では、バイオリアクタは、1つ以上の二次リアクタに連結された1つ以上の一次リアクタを備える。特定の実施形態では、一次リアクタ(複数可)は、バイオマス生成を促進する条件で作動し、二次リアクタ(複数可)は、代謝物生成を促進する条件で作動する。様々な実施形態では、一次および二次リアクタに提供されるH2に富むC1含有ガス状基質は、同じ工業的供給源からのものであり、実質的に同じ組成を有する。
【0071】
一実施形態において、COに富むC1含有ガス状基質、およびH2に富むC1含有ガス状基質は、同じ工業的供給源から誘導される。様々な実施形態において、H2に富むC1含有ガス状基質の少なくとも一部分は、接種リアクタに提供される前に水素除去プロセスに送られ、水素除去プロセスは、H2に富むC1含有ガス状基質から水素の少なくとも一部分を分離し、COに富むC1含有ガス状基質を生成するように構成されている。特定の実施形態では、処理ゾーンは、H2膜分離モジュールおよび/または圧力スイング吸着(PSA)プロセスを含む。好ましくは、水素除去プロセスは、膜分離モジュールを含む。
【0072】
1つ以上の実施形態において、H2に富むC1含有ガス状基質は、工業的プロセスから誘導される。
【0073】
代替の実施形態では、COに富むC1含有ガス状基質は、ボンベに充填されたCOガス流を含む。一実施形態では、ボンベに充填されたCOガスは、窒素および/または二酸化炭素などの1つ以上のガス状成分と混合される。さらなる実施形態では、COに富むC1含有ガス状基質は、H2に富むC1含有ガス状基質とは異なる供給源から誘導されたCOに富むガス状流である。一実施形態では、COに富むC1含有ガス状基質は、CO2電気分解プロセスから誘導される。
【0074】
水素分離
場合によっては、必要なガス量によって、コストのためにボンベに充填されたガスの使用が禁止され得る。したがって、H2に富むC1含有ガス状基質が処理されて、基質から水素の少なくとも一部分を除去し、COに富むC1含有ガス状基質を生成することが好ましい。H2に富むC1含有ガス状基質を処理するための好適な方法としては、膜分離技術、および圧力スイング吸着技術を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0075】
膜分離モジュールは、ガス状基質から水素の少なくとも一部分を除去するために、低コストで比較的容易な手段を提供する。例えば、72体積%のH2、14体積%のCO、7体積%のCO2、および7体積%のCH4の組成を有する改質装置の合成ガスを、25バールの圧力で実証的な膜分離モジュールに通過させると、高圧のCOに富む流れおよび低圧のH2に富む流れをもたらす。高圧のCOに富む流れは、25バールのままで、50体積%のCO、16体積%のH2、25体積%のCH4、および9体積%のCO2を含有する。低圧のH2に富む流れは、1バールに低減され、92体積%のH2、6体積%のCO2、ならびにそれぞれ1体積%のCOおよびCH4を含有する。高圧のCOに富む流れは、COに富むC1含有ガス状基質として接種装置に提供され得る。高圧のCOに富む流れは、さらなる圧縮を必要としないという追加の利点を提供し、したがって、接種リアクタ用の追加圧縮装置ユニットに関連する資本コストを省く。
【0076】
圧力スイング吸着プロセス技術は、ガス状基質から水素の少なくとも一部分を除去するためのより複雑でありながら効果的な手段である。圧力スイング吸着プロセスを利用する場合、得られるCOに富む流れは低圧である。圧力スイング吸着プロセスの使用は実現可能であるが、COに富むC1含有ガス状基質は、接種リアクタまたは任意のバイオリアクタに提供される前に圧縮される必要があり得、それによって接種リアクタに関連する資本コストが増加する。しかしながら、これは、圧力スイング吸着プロセスによって生成される水素流が高圧であり、製品として販売され得るという事実を考慮すると、少なくとも部分的に相殺され得る。
【0077】
CO2電気分解
COに富むC1含有ガス状基質を提供する代替の方法は、CO2電気分解の使用を介することである。CO2電気分解プロセスは、CO2供給原料をCOおよびO2に変換する。接種装置にCOに富む流れを提供するためのCO2電気分解プロセスの使用は、O2に富む流れに加えてCO2に富む流れを含む工業的現場における、関心対象であり得る。加えて、CO2に富む接種リアクタおよび/またはバイオリアクタシステムからの排ガスは、CO2電気分解ユニットへの供給原料として使用され得るとさらに考えられる。
【0078】
図1は、本発明の一実施形態の概略フローチャートを示す。C1含有ガス状基質の一部分は、配管手段110を介して接種リアクタ130に送られ、そこで、C1含有基質は発酵して、接種材料を生成する。接種材料の少なくとも一部分は、配管手段131を介してバイオリアクタシステム140、150に送られ、そこで、C1含有ガス状基質の一部分はまた、配管手段110を介して送られて、発酵して、少なくとも1つの生成物141、151を生成する。接種リアクタ130に送られるC1含有ガス状基質は、接種リアクタ130に送られる前に、少なくとも1つの水素除去プロセス120に供される。水素除去プロセス120は、配管手段110を介してC1含有ガス状基質を受容し、C1含有ガス状基質から水素121の少なくとも一部分を除去して、COに富むC1含有ガス状基質を生成し、COに富むC1含有ガス状基質は、配管手段122を介して接種リアクタ130に供給される。
【0079】
好ましくは、接種リアクタ130に送られるC1含有ガス状基質は、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。特定の実施形態では、接種リアクタ130に送られるC1含有ガス状基質は、0.8未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。好ましくは、接種リアクタ130に送られるC1含有ガス状基質は、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む。様々な例では、水素除去プロセス120は、少なくとも1つの膜分離モジュールの使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。様々な例では、水素除去プロセス120は、少なくとも1つの圧力スイング吸着プロセスの使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。様々な実施形態では、水素除去プロセス120は、膜分離モジュールおよび圧力スイング吸着プロセスの両方の使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。
【0080】
特定の例では、接種リアクタ130およびバイオリアクタシステム140、150に供給されるC1含有ガス状基質は、少なくとも部分的に工業的供給源から誘導される。好ましくは、工業的供給源は、炭水化物発酵、ガス発酵、セメント製造、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅、および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセスからなる群から選択される。
【0081】
好ましくは、バイオリアクタシステム140、150によって生成される発酵生成物141、151は、エタノール、アセテート、ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ラクテート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、モノエチレングリコール、イソブテン、およびC6~C14アルコールからなる群から選択される。様々な例では、生成物141、151の少なくとも一部分は、ディーゼル燃料、ジェット燃料、ガソリン、プロピレン、ナイロン6-6、ゴム、および/または樹脂のうちの少なくとも1つの成分にさらに変換される。様々な例では、少なくとも1つの発酵生成物141、151は、微生物バイオマスである。場合によっては、この微生物バイオマスはさらに処理されて、動物用飼料の少なくとも1つの成分を生成し得る。
【0082】
様々な実施形態では、あるバイオリアクタ140からの発酵ブロスは、配管手段142を介してバイオリアクタシステム140、150内の別のバイオリアクタ150に送られ得る。
【0083】
図2は、本発明の一実施形態の概略フローチャートを示す。C1含有ガス状基質の一部分は、配管手段210を介して接種リアクタ230に送られ、そこで、C1含有基質は発酵して、接種材料を生成する。接種材料の少なくとも一部分は、配管手段231を介してバイオリアクタシステム240、250に送られ、そこで、C1含有ガス状基質の一部分はまた、配管手段210を介して送られて、発酵して、少なくとも1つの生成物241、251を生成する。接種リアクタ230およびバイオリアクタシステム140,150に送られるC1含有ガス状基質は、接種リアクタ230に送られる前に、少なくとも1つの水素除去プロセス220に供される。水素除去プロセス220は、配管手段210を介してC1含有ガス状基質を受容し、C1含有ガス状基質から水素221の少なくとも一部分を除去して、COに富むC1含有ガス状基質を生成し、COに富むC1含有ガス状基質は、配管手段222を介して接種リアクタ230、配管手段223を介してバイオリアクタシステム140、150に供給される。
【0084】
好ましくは、接種リアクタ230およびバイオリアクタシステム240、250に送られるC1含有ガス状基質は、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。特定の実施形態では、接種リアクタ230およびバイオリアクタシステム240、250に送られるC1含有ガス状基質は、0.8未満:1のH2:COモル比で、H2を含む。好ましくは、接種リアクタ230およびバイオリアクタシステム240、250に送られるC1含有ガス状基質は、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む。様々な例では、水素除去プロセス220は、少なくとも1つの膜分離モジュールの使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。様々な例では、水素除去プロセス220は、少なくとも1つの圧力スイング吸着プロセスの使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。様々な実施形態では、水素除去プロセス220は、膜分離モジュールおよび圧力スイング吸着プロセスの両方の使用を介して、水素の少なくとも一部分を除去する。
【0085】
特定の例では、接種リアクタ230およびバイオリアクタシステム240、250に供給されるC1含有ガス状基質は、少なくとも部分的に工業的供給源から誘導される。好ましくは、工業的供給源は、炭水化物発酵、ガス発酵、セメント製造、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅、および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセスからなる群から選択される。
【0086】
好ましくは、バイオリアクタシステム240、250によって生成される発酵生成物241、251は、エタノール、アセテート、ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ラクテート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、モノエチレングリコール、イソブテン、およびC6~C14アルコールからなる群から選択される。様々な例では、生成物241、251の少なくとも一部分は、ディーゼル燃料、ジェット燃料、ガソリン、プロピレン、ナイロン6-6、ゴム、および/または樹脂のうちの少なくとも1つの成分にさらに変換される。様々な例では、少なくとも1つの発酵生成物241、251は、微生物バイオマスである。場合によっては、この微生物バイオマスはさらに処理されて、動物飼料の少なくとも1つの成分を生成し得る。
【0087】
様々な実施形態では、あるバイオリアクタ240からの発酵ブロスは、配管手段242を介してバイオリアクタシステム240、250内の別のバイオリアクタ250に送られ得る。
【0088】
図3、
図4、および
図5は、H
2に富むC1含有ガス状基質の工業的供給源として、精製工程の水素生成プロセスを使用する、本発明の様々な実施形態を示す。典型的な水素生成プロセスは、
図3、
図4、および
図5に示されるように、以下の段階、(i)CH
4含有供給原料が、COおよびH
2を含む合成ガス流に変換される、改質プロセスと、(ii)COの一部分が水と反応して、H
2およびCO
2を生成する、少なくとも1つの水性ガスシフトプロセスと、(iii)ガス流から水素を回収するように適合されている圧力スイング吸着(PSA)モジュールと、を含む。
【0089】
図3は、改質プロセス310からのH
2に富むC1含有ガス状基質を利用する本発明の一実施形態を示す。H
2に富むC1含有ガス状基質の少なくとも一部分は、配管手段312を介して膜分離モジュール350に流される。膜分離モジュール350は、C1含有ガス状基質を、高圧のCOに富む流れ、および低圧のH
2に富む流れに分離する。低圧のCOに富む流れの少なくとも一部分は、配管手段352を介して接種リアクタ370に送られる。低圧のH
2に富む流れの少なくとも一部分は、配管手段351を介して圧力スイング吸着プロセス360に送られる。少なくとも1つの実施形態では、ガス状基質は、圧力スイング吸着プロセス360に送られる前に圧縮装置に送られる。一実施形態では、COに富む流れは、少なくとも40%のCO、または少なくとも50%のCO、または少なくとも60%のCOを含む。一実施形態では、COに富むC1含有流の圧力は、少なくとも15バール、または少なくとも20バール、または少なくとも25バールである。
【0090】
様々な実施形態では、本プロセスは、複数の水性ガスシフトプロセス320、330および/または複数の水素除去プロセス350、340、360を含み得る。
図3に示されるように、C1含有ガス状基質は、最初に配管手段311を介して、改質プロセス310から、水性ガスシフトプロセス320に送られて、CH
4の少なくとも一部分を、COおよびH
2を含む合成ガス流に変換し得る。このガス流は、任意に、配管手段321を介して1つ以上のさらなる水性ガスシフトプロセス330をバイパスし、1つ以上の水素除去プロセス340に供給されて、ガス流から水素341の少なくとも一部分を分離し得る。次いで、この流れは、配管手段342を介して1つ以上のさらなる水素除去プロセス360に送られ得る。1つ以上のさらなる水素除去プロセス360からの流れは、発酵のために、配管手段361を介してバイオリアクタ380に送られ得る。バイオリアクタに送られない基質の少なくとも一部分は、任意に、配管手段362を介して改質プロセス310に送られ得る。様々な例において、バイオリアクタ380は、ガス状基質を受容し、1つ以上の発酵生成物381を生成する。任意に、接種リアクタ370およびバイオリアクタ380の両方からの排ガスは、別個の配管手段372、382および/または混合流378を介して改質プロセス310に送り戻され得る。
【0091】
様々な実施形態では、接種リアクタ370およびバイオリアクタ380は、段階的な様式で構成され、それによって、接種リアクタ370は、COに富むC1含有ガス状基質を発酵させて、接種材料を生成し、接種材料は、次いで、配管手段371を介してバイオリアクタ380に供給される。この接種材料をバイオリアクタ380内で利用することによって、発酵プロセスの生成物選択性および安定性が改善される。
【0092】
別の実施形態では、
図4に示されるように、改質プロセス410からのH
2に富むC1含有流は、接種リアクタ470の上流に設けられた配管手段412を介して圧力スイング吸着プロセス450に流される。圧力スイング吸着プロセス450は、C1含有流を、高圧のH
2に富む流れ、および低圧のCOに富む流れに分離する。低圧のCOに富む流れは、配管手段452を介して接種リアクタ470に送られる前に、圧縮装置に送られ得る。一実施形態では、接種リアクタ470に送られるCOに富む流れは、少なくとも30%のCO、または少なくとも40%のCO、または少なくとも50%のCO、または少なくとも60%のCOを含む。分離された水素は、圧力スイング吸着プロセス450から、配管手段451を介して別の圧力スイング吸着プロセス460に送られ得る。様々な実施形態では、本プロセスは、複数の水性ガスシフトプロセス420、430および/または複数の水素除去プロセス450、440、460を含み得る。
【0093】
図4に示されるように、C1含有ガス状基質は、最初に配管手段411を介して、改質プロセス410から、水性ガスシフトプロセス420に送られて、CH
4の少なくとも一部分を、COおよびH
2を含む合成ガス流に変換し得る。次いで、このガス流は、配管手段421を介して1つ以上のさらなる水性ガスシフトプロセス430に送られ、1つ以上の水素除去プロセス440に配管手段431を介して供給されて、ガス流から水素441の少なくとも一部分を分離し得る。次いで、この流れは、配管手段442を介して1つ以上のさらなる水素除去プロセス460に送られ得る。1つ以上のさらなる水素除去プロセス460からの流れは、発酵のために、配管手段461を介してバイオリアクタ480に送られ得る。バイオリアクタに送られない基質の少なくとも一部分は、任意に、配管手段462を介して改質プロセス410に送られ得る。様々な例において、バイオリアクタ480は、ガス状基質を受容し、1つ以上の発酵生成物481を生成する。任意に、接種リアクタ470およびバイオリアクタ480の両方からの排ガスは、別個の配管手段472、482および/または混合流478を介して改質プロセス410に送り戻され得る。
【0094】
様々な実施形態では、接種リアクタ470およびバイオリアクタ480は、段階的な様式で構成され、それによって、接種リアクタ470は、COに富むC1含有ガス状基質を発酵させて、接種材料を生成し、接種材料は、次いで、配管手段471を介してバイオリアクタ480に供給される。この接種材料をバイオリアクタ480内で利用することによって、発酵プロセスの生成物選択性および安定性が改善される。
【0095】
別の実施形態では、
図5に示されるように、改質プロセス510からのC1含有流は、接種リアクタ570および/またはバイオリアクタ580のいずれかに送られる前に、複数の水素除去プロセス540、550、560、590に送られ得る。様々な例では、C1含有流は、水素除去プロセスの前および/または水素除去プロセスの間に圧縮装置に送られ得る。C1含有流を複数の水素除去プロセスに送ることによって、C1含有流中のCO組成物は、さらに濃縮され得る。
【0096】
様々な実施形態では、本プロセスは、複数の水性ガスシフトプロセス520、530を、複数の水素除去プロセス540、550、560と組み合わせて含み得る。
図5に示されるように、C1含有ガス状基質は、最初に配管手段511を介して、改質プロセス510から、水性ガスシフトプロセス520に送られて、CH
4の少なくとも一部分を、COおよびH
2を含む合成ガス流に変換し得る。次いで、このガス流は、配管手段521を介して1つ以上のさらなる水性ガスシフトプロセス530に送られ、1つ以上の水素除去プロセス540に配管手段531を介して供給されて、ガス流から水素541の少なくとも一部分を分離し得る。次いで、この流れは、配管手段542を介して1つ以上のさらなる水素除去プロセス560に送られ得る。1つ以上のさらなる水素除去プロセス560からの流れは、発酵のために、配管手段561を介してバイオリアクタ580に送られ得る。バイオリアクタに送られない基質の少なくとも一部分は、任意に、配管手段562を介して後続の水素除去プロセス550に、かつ任意に、配管手段551を介してさらなる水素除去プロセス590に送られ、最終的に配管手段591を介して接種リアクタ570に送られて、接種材料を生成し得る。
【0097】
様々な例において、バイオリアクタ580は、ガス状基質を受容し、1つ以上の発酵生成物581を生成する。任意に、接種リアクタ570およびバイオリアクタ580の両方からの排ガスは、別個の配管手段572、582および/または混合流578を介して改質プロセス510に送り戻され得る。
【0098】
様々な実施形態では、接種リアクタ570およびバイオリアクタ580は、段階的な様式で構成され、それによって、接種リアクタ570は、COに富むC1含有ガス状基質を発酵させて、接種材料を生成し、接種材料は、次いで、配管手段571を介してバイオリアクタ580に供給される。この接種材料をバイオリアクタ580内で利用することによって、発酵プロセスの生成物選択性および安定性が改善される。
【0099】
図3、
図4、および
図5は、水素生成プロセスとの統合の代表例であるが、現在の用途は、水素生成プロセスとの統合に限定されるものではないことを理解されたい。
【実施例】
【0100】
以下の実施例は、本発明をさらに例示するが、当然のことながら、いかなる方法によってもその範囲を制限すると解釈されるべきではない。
【0101】
実施例1
この実施例は、68体積%のH
2、3.8体積%のCO、26体積%のCO
2、および1体積%のN
2を、18:1のH
2:COモル比で含むガス状基質が提供された2つのリアクタの比較性能を実証する。2つのリアクタの操作パラメーターの唯一の違いは、各リアクタの接種材料が生成される条件であった。
図6aおよび
図6bは、COが豊富な条件下で生成された接種材料を受容した第1のバイオリアクタの代謝物およびガスのプロファイルを示す。
図7aおよび
図7bは、H
2が豊富な条件下で生成された接種材料を受容した第2のバイオリアクタの代謝物およびガスのプロファイルを示す。どちらのリアクタも、同様の効率でH
2、CO、およびCO
2を消費するが、H
2に富む接種リアクタから接種材料を受容したリアクタ(
図7a)は、エタノールに対する選択性が低減した。
【0102】
実施例2
この実施例は、異なるガス条件下で作動する接種リアクタから接種材料が提供されたリアクタの比較性能を実証する。
図8aおよび
図8bは、以下のガス組成、48体積%のH
2、40体積%のCO、2体積%のCO
2、および10体積%のN
2を用いて生成された接種材料から受容された培養物が接種された発酵の代謝物およびガスのプロファイルを示す。
図9aおよび
図9bは、COが豊富な条件下で生成された接種材料から受容された培養物が接種された発酵の代謝物およびガスのプロファイルを示す。COに富むガス接種リアクタ(
図9a)から供給された、リアクタによって実証されたエタノール選択性は、H
2に富む接種リアクタ(
図8a)から接種材料を受容したリアクタよりもはるかに高い。
【0103】
本明細書に列挙される公表文献、特許出願、および特許を含む全ての参考文献は、各参考文献があたかも参照により組み込まれることが個々にかつ具体的に示され、かつその全体が本明細書中に記載された場合と同じ程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書における任意の先行技術への言及は、その先行技術が任意の国の努力傾注分野において共通の一般知識の一部をなすという認識ではなく、かつそのように解釈されるべきではない。
【0104】
本発明を説明する文脈において(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」および「an」および「the」ならびに同様の指示語の使用は、本明細書中に他に指示がない限り、または文脈と明らかに相反することがない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるものとする。用語「備える(comprising)」、「有する」、「含む(including)」、および「含有する(containing)」は、特に断りのない限り、非限定的な用語(すなわち、「~を含むがこれらに限定されない」ことを意味する)と解釈されるものとする。「から本質的になる」という用語は、組成物、プロセス、または方法の範囲を、特定の材料もしくは工程、または組成物、プロセス、もしくは方法の基本的かつ新規の特性に実質的に影響しないものに限定する。選択詞の使用(例えば「または」)は、選択詞の一方、両方、またはこれらの任意の組み合わせを意味すると理解されるべきである。本明細書で使用される場合、「約」という用語は、別段の指示がない限り、指示された範囲、値、または構造の±20%を意味する。
【0105】
本明細書の値の範囲の列挙は、本明細書で別段の指示がない限り、範囲内に入る各別個の値を個々に言及する簡略法としての機能を果たすことを単に意図し、各別個の値は、あたかも本明細書に個々に列挙されたかのように、本明細書中に組み込まれる。例えば、任意の濃度範囲、パーセント範囲、比率範囲、整数範囲、サイズ範囲、または厚さ範囲は、別段の指示がない限り、列挙された範囲内の任意の整数の値、および適切な場合、その分数(整数の10分の1、および100分の1など)を含むと理解されるべきである。
【0106】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り、または文脈と明らかに相反することがない限り、任意の好適な順序で実施され得る。本明細書に提供されるありとあらゆる例または例示的な言葉(例えば、「など」)の使用は、本発明をよりよく解明することを単に意図し、別段の請求がない限り、本発明の範囲を制限しない。本明細書におけるいかなる言葉も、本発明の実施に不可欠な任意の非請求要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0107】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変化形は、上記の説明を読むことによって当業者に明らかとなり得る。本発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変化形を採用することを予想し、本発明者らは、本発明が本明細書に具体的に記載されるものとは別の方法で実施されることを意図する。したがって、本発明は、適用法によって許可された通り、本明細書に添付される特許請求の範囲に記載される主題の全ての修正物および均等物を含む。さらに、好ましい実施形態の全ての考えられる変化形における上記の要素の任意の組み合わせは、本明細書で別段の指示がない限り、または文脈と明らかに相反することがない限り、本発明によって包含される。
本願明細書に記載の発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
1つ以上の発酵生成物の生成方法であって、
a.COに富むC1含有ガス状基質を、1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する液体栄養培地を含む接種リアクタに提供することと、
b.前記COに富むC1含有ガス状基質を発酵させて、接種材料を生成することと、
c.前記接種材料の少なくとも一部分を、バイオリアクタシステムに送ることであって、前記バイオリアクタシステムが、液体栄養培地中に1つ以上のC1固定微生物の培養物を含有する少なくとも1つのバイオリアクタを備える、送ることと、
d.H2に富むC1含有ガス状基質を、前記バイオリアクタシステムに送ることと、
e.前記H2に富むC1含有ガス状基質を発酵させて、少なくとも1つの発酵生成物を生成することと、を含む、方法。
[2]
前記COに富むC1含有ガス状基質が、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[1]に記載の方法。
[3]
前記COに富むC1含有ガス状基質が、0.5未満:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[1]に記載の方法。
[4]
前記COに富むC1含有ガス状基質が、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[1]に記載の方法。
[5]
前記H2に富むC1含有ガス状基質が、少なくとも1.1:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[1]に記載の方法。
[6]
前記H2に富むC1含有ガス状基質が、1.1:1~6:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[1]に記載の方法。
[7]
前記C1固定微生物が、カルボキシド栄養性細菌である、上記[1]記載の方法。
[8]
前記カルボキシド栄養性細菌が、ムーレラ(Moorella)、クロストリジウム(Clostridium)、ルミノコッカス(Ruminococcus)、アセトバクテリウム(Acetobacterium)、ユーバクテリウム(Eubacterium)、ブチリバクテリウム(Butyribacterium)、オキソバクター(Oxobacter)、メタノサルシナ(Methanosarcina)、およびデスルホトマキュラム(Desulfotomaculum)からなる群から選択される、上記[7]に記載の方法。
[9]
前記カルボキシド栄養性細菌が、クロストリジウムオートエタノゲヌム(Clostridium autoethanogenum)である、上記[7]に記載の方法。
[10]
前記バイオリアクタシステムが、1つ以上の二次バイオリアクタに連結された1つ以上の一次バイオリアクタを備える、上記[1]に記載の方法。
[11]
1つ以上の発酵生成物の生成方法であって、
a.C1含有ガス状基質の少なくとも一部分を、接種リアクタに、かつ前記C1含有ガス状基質の少なくとも一部分を、バイオリアクタに送ることと、
b.前記C1含有ガス状基質を、前記接種リアクタ内で発酵させて、接種材料を生成することと、
c.前記接種材料の少なくとも一部分を、少なくとも1つのバイオリアクタに送ることと、
d.前記C1含有ガス状基質を、前記バイオリアクタ内で発酵させて、少なくとも1つの発酵生成物を生成することと、を含み、
e.前記接種リアクタに送られる前記C1含有ガス状基質が、前記接種リアクタに送られる前に、少なくとも1つのH2除去プロセスに供される、方法。
[12]
前記接種リアクタに送られる前記C1含有ガス状基質が、1未満:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[11]に記載の方法。
[13]
前記接種リアクタに送られる前記C1含有ガス状基質が、0.8未満:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[11]に記載の方法。
[14]
前記接種リアクタに送られる前記C1含有ガス状基質が、0.5未満:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[11]に記載の方法。
[15]
前記接種リアクタに送られる前記C1含有ガス状基質が、0.02:1~1:1のH2:COモル比で、H2を含む、上記[11]に記載の方法。
[16]
前記H2除去プロセスが、少なくとも1つの圧力スイング吸着プロセスを含む、上記[11]に記載の方法。
[17]
前記H2除去プロセスが、少なくとも1つの膜分離モジュールを含む、上記[11]に記載の方法。
[18]
前記C1含有ガス状基質の少なくとも一部分が、工業的供給源から誘導される、上記[11]に記載の方法。
[19]
前記工業的供給源が、炭水化物発酵、ガス発酵、セメント製造、パルプ製紙、製鋼、石油精製および関連プロセス、石油化学製造、コークス製造、嫌気性または好気性消化、合成ガス、天然ガスの抽出、石油の抽出、アルミニウム、銅、および/または合金鉄の製造および/または精製のための冶金プロセス、地質学的貯留池、ならびに触媒プロセスからなる群から選択される、上記[18]に記載の方法。
[20]
少なくとも1つの発酵生成物が、エタノール、アセテート、ブタノール、ブチレート、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ラクテート、ブテン、ブタジエン、メチルエチルケトン、エチレン、アセトン、イソプロパノール、脂質、3-ヒドロキシプロピオネート、イソプレン、脂肪酸、2-ブタノール、1,2-プロパンジオール、1-プロパノール、モノエチレングリコール、イソブテン、およびC6~C14アルコールからなる群から選択される、上記[11]に記載の方法。
[21]
前記1つ以上の発酵生成物が、ディーゼル燃料、ジェット燃料、ガソリン、プロピレン、ナイロン6-6、ゴム、および/または樹脂のうちの少なくとも1つの成分にさらに変換される、上記[20]に記載の方法。
[22]
少なくとも1つの発酵生成物が、微生物バイオマスである、上記[11]に記載の方法。
[23]
前記微生物バイオマスが処理されて、動物用飼料の少なくとも1つの成分を生成する、上記[22]に記載の方法。