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特許7326324質量分析における抗体のトップダウン分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】質量分析における抗体のトップダウン分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20230807BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020555107
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 IB2019052906
(87)【国際公開番号】W WO2019197983
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】62/655,540
(32)【優先日】2018-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/813,877
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇
(72)【発明者】
【氏名】リューミン, パヴェル
(72)【発明者】
【氏名】ロイド, ウィリアム エム.
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-129368(JP,A)
【文献】特表2013-528387(JP,A)
【文献】特表2005-509872(JP,A)
【文献】特表2012-517585(JP,A)
【文献】特表2016-502085(JP,A)
【文献】特表2009-516842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
H01J 49/00 - H01J 49/48
G01N 33/48 - G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するためのシステムであって、
相同性検索のためのゲノムデータベースと、
分離デバイスと、
イオン源デバイスと、
解離デバイスと、質量分析器とを含む、質量分析計と、
プロセッサ
を備え、
前記プロセッサは、
サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように前記分離デバイスに命令することと、
前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するように前記イオン源デバイスに命令することと、
前記解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析に命令することと、
前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記1つ以上の候補配列への合致に関して前記ゲノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を行う、システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、N末端生成イオンの理論的生成イオンピークを除去することによって、前記計算された理論的生成イオンピークを除去する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プロセッサは、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルの残留C生成イオンに適用し、1つ以上の候補配列を生成する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記プロセッサは、前記1つ以上の生成イオンスペクトルからピークリストを計算する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プロセッサは、1価の生成イオンピークに変換される前記1つ以上の生成イオンスペクトルからピークリストを計算する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサは、前記ピークリストから前記理論的生成イオンピークを除去することによって、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、差異ピークリストを生成する、請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記プロセッサは、デノボシークエンシングを前記差異ピークリストに適用することによって、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用する、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記還元mAbサブユニットを分離および脱塩するように前記分離デバイスに命令する前に、化膿連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素(IdeS)消化を前記知の無傷mAbに適用し、前記還元mAbサブユニットを生成することをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記分離デバイスが、前記mAbサブユニットを分離および脱塩するにつれて、ジチオスレイトール(DTT)を、前記知の無傷mAbを伴う溶液の中および前記分離デバイスの中に注入することをさらに含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記解離デバイスは、電子捕捉解離(ECD)デバイスを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
前記プロセッサは、0~3eVの電子エネルギーを使用し、前記ECDデバイスを使用して前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化するように前記質量分析計に命令する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記質量分析計は、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの電子およびイオンを前記ECDデバイスの中に同時に注入する、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記ECDデバイスは、四重極、六重極、または八重極解離デバイスを備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項14】
未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するための方法であって、
プロセッサを使用して、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令することと、
前記プロセッサを使用して、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令することと、
前記プロセッサを使用して、質量分析計の解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析計に命令することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
前記プロセッサを使用して、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上の候補配列への合致に関してノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を含む、方法。
【請求項15】
プログラムが記憶された非一過性の有形コンピュータ可読記憶媒体あって、前記プログラムは、プロセッサによって実行されると、未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を前記プロセッサに実施させ、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の明確に異なるソフトウェアモジュールを備え、前記明確に異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備える、ことと、
前記制御モジュールを使用して、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令することと、
前記制御モジュールを使用して、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令することと、
前記制御モジュールを使用して、質量分析計の解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析計に命令することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記分析モジュールを使用して、前記1つ以上の候補配列への合致に関してノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を含む、非一過性の有形コンピュータ可読記憶媒体
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願)
本願は、両方の内容が参照することによってその全体として本明細書に組み込まれる、2018年4月10日に出願された米国仮特許出願第62/655,540号、および2019年3月5日に出願された米国仮特許出願第62/813,877号の利益を主張する。
【0002】
(導入)
本明細書の教示は、未知のモノクローナル抗体(mAb)の可変部分を配列決定するための質量分析システムおよび方法に関する。より具体的には、電子捕捉解離(ECD)デバイスが、無傷、消化された、または還元された未知のmAbを断片化し、生成質量スペクトルを生成するために使用される。mAbクラスの一定部分に関して計算される理論的生成イオンピークは、生成質量スペクトルから除去され、差異生成質量スペクトルを生成する。デノボシークエンシングが、差異生成イオンスペクトルに適用され、mAbの可変部分に関して候補配列を生成する。ゲノムデータベースが、いわゆる相同性検索を使用して、1つ以上の候補配列への合致に関して検索され、可変部分に関して合致した配列を生成する。
【0003】
本明細書に開示されるシステムおよび方法はまた、図1のコンピュータシステム等のプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、またはコンピュータシステムと併せて実施される。
【0004】
(モノクローナル抗体識別)
mAbは、免疫細胞によって作製されるタンパク質である。これらの抗体は、ある抗体が単一の結合部位またはパラトープのみに結合するであろうという点で、モノクローナルである。抗体は、一般に、除去のために異または罹患組織をマークするために、生物の免疫系によって使用される。逆に、自己免疫疾患では、抗体は、正常な組織に誤って付着し、その組織も除去または損傷させる。
【0005】
mAbは、多くの異なる種に関して、研究室内で大量に生成されることができる。これらの研究室で生成されるmAbは、ヒトにとって極めて効果的かつ耐容性良好な生物学的製剤となっている。それらは、多くの異なるタイプの癌および自己免疫疾患と闘うことに用途を見出しており、現在、アルツハイマー病を含む、他の疾患で試験されている。Cotham et al.,Anal.Chem.,2016,88,4004-4013(以降では「Cotham論文」)によると、300を超える療法的mAb候補およびそれらの誘導体が、ようやく2016年になって臨床薬の開発を受けた。
【0006】
図2は、IgG mAbの例示的略図200である。図2のmAbは、2つの同じ長い重鎖210と、2つの同じより短い軽鎖220とを含む。重鎖210および軽鎖220はそれぞれ、一定および可変部分を含む。mAbの一定または固定部分のアミノ酸配列は、多くの変形を有していない。例えば、mAbのIgGクラスは、4つの異なるサブクラスを有する。これらの4つの異なるサブクラス毎に、IgG mAbの一定部分は、変動し得る。したがって、IgGクラス全体に関して一定部分の4つだけの異なる変形が存在する。
【0007】
対照的に、mAbの可変部分は、有意に変動し、mAbに、数十億もの異なるタイプの異または罹患組織を見出し、それらに付着する、それらの一意の能力を与えることができる。これらの可変部分は、mAbの結合部位またはパラトープを含む。ヒトゲノムは、20,000未満の遺伝子を含むが、身体は、数十億もの異なる可変部分、より具体的には、数十億もの異なるパラトープを用いて抗体を生成することができる。Dr.Susumu Tonegawa(利根川進博士)は、遺伝子の異なる部分が、これらの数十億もの異なる可変部分を生成するように選択され、組み合わせられ得ることを発見したことにより、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。
【0008】
図2のIgG mAbの各重鎖210は、一定部分211、212、および213と、1つの可変部分214とを含む。各軽鎖220は、1つの一定部分221と、1つの可変部分222とを含む。各重鎖210の可変部分214は、結合部位215を含み、各軽鎖220の可変部分222は、結合部位223を含む。
【0009】
療法的mAbの使用の増加は、それらのアミノ酸配列を実験的に識別する必要性を増加させた。質量分析/質量分析(MS/MS)は、多くの場合、ペプチドおよびタンパク質のアミノ酸配列を判定するために使用される。近年、トップダウンおよびミドルダウンMS/MS方法が、既知の療法的mAbの配列を識別するために使用されている。
【0010】
例えば、Fornelli et al.,Mol Cell Proteomics,2012 Dec;11(12):1758-67(以降では「第1のFornelli論文」)は、無傷mAbを配列決定するためのトップダウンMS/MSアプローチを提案した。本アプローチは、mAbおよびそれらの翻訳後修飾(PTM)を特性評価するために選定された。
【0011】
図3は、第1のFornelli論文で使用されたトップダウンMS/MSアプローチを示す、概略図300である。図3のステップ310では、サンプルが、溶液中の既知の無傷mAbの多くの複製から調製される。ステップ320では、液体クロマトグラフィ(LC)が、mAbを分離および脱塩するように溶液に実施される。
【0012】
ステップ330では、MS/MSが、分離されたmAbに実施される。例えば、分離されたmAbが、イオン源デバイスを使用してイオン化され331、mAb前駆イオンが、線形イオントラップ(LTQ)内で電子伝達解離(ETD)を使用して断片化される332。第1のFornelli論文は、電子捕捉解離(ECD)およびETDが、還元型PTM損失を伴ってポリペプチド断片化を可能にする、イオン活性化技法であることを説明する。最後に、前駆および生成イオンが、オービトラップフーリエ変換質量分析計(FT-MS)を使用して検出され333、複数の生成イオンスペクトル334を生成する。
【0013】
ステップ340では、複数の生成イオンスペクトル334内の断片化パターンの分析が、トップダウンMS/MS分析ソフトウェアを使用して実施される。検索が、既知のmAbの軽および重鎖の両方の既知の配列を組み込む、カスタム配列データベース341に対して実施される。これらの検索から、第1のFornelli論文は、無傷の既知のmAbの約33%包括度を伴う合致する配列342を報告した。
【0014】
Fornelli et al.,Anal.Chem.,2014,86,3005-3012(以降では「第2のFornelli論文」)は、mAbを配列決定するためのミドルダウンMS/MSアプローチを提案した。第2のFornelli論文は、療法としてのmAbの成功が、これらのmAbが、それらの安全性、効率、バッチ間一貫性、および安定性を確実にするように、構造的に十分に特性評価されることを要求していることを説明する。結果として、第1のFornelli論文の方法の33%配列包括度は、改良される必要があった。これを行うために、第2のFornelli論文は、MS/MS分析の前に、mAbを大型断片またはサブユニットに化学的に還元することを提案した。本還元型mAbサブユニットの使用は、ミドルダウンMS/MS分析と称される。
【0015】
図4は、第2のFornelli論文で使用されたミドルダウンMS/MSアプローチを示す、概略図400である。図4のステップ410では、サンプルが、溶液中の既知の無傷mAbの多くの複製から調製される。しかしながら、ステップ420では、mAbの化膿連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素(IdeS)消化およびジスルフィド結合還元剤を使用する消化されたmAbの還元421が、LCの前に実施される。ステップ430では、LCが、mAbサブユニットを分離および脱塩するようにmAbサブユニットに実施される。
【0016】
ステップ440では、MS/MSが、分離されたmAbサブユニットに実施される。例えば、分離されたmAbサブユニットが、イオン源デバイスを使用してイオン化され441、mAbサブユニット前駆イオンが、線形イオントラップ(LTQ)内で電子伝達解離(ETD)を使用して断片化される442。最後に、前駆および生成イオンが、オービトラップFT-MSを使用して検出され443、複数の生成イオンスペクトル444を生成する。
【0017】
ステップ450では、複数の生成イオンスペクトル444内の断片化パターンの分析が、MS分析ソフトウェアを使用して実施される。検索が、既知のmAbの軽および重鎖の両方の既知の配列を組み込む、データベース451に対して実施される。これらの検索から、第2のFornelli論文は、無傷の既知のmAbの約50%包括度を伴う合致する配列452を報告した。
【0018】
第2のFornelli論文のように、Cotham論文は、mAbの療法的有効性が、一次配列に関する構造的完全性およびPTMの存在ならびに存在量によって調整されることを説明する。結果として、Cotham論文は、抗体一次配列の特性評価が、PTM識別および部位の位置特定に加えて、mAbの安全性および有効性を確実にするために重要であることを見出している。Cotham論文は、第1のFornelli論文および第2のFornelli論文の方法を精査し、第2のFornelli論文のようであるが、193nm紫外線光解離(UVPD)によって置換されるETD断片化を伴う、ミドルダウンアプローチを提案する。
【0019】
図5は、Cotham論文で使用されたミドルダウンMS/MSアプローチを示す、概略図500である。図5のステップ510では、サンプルが、溶液中の既知の無傷mAbの多くの複製から調製される。ステップ520では、mAbのIdeS消化および消化されたmAbの還元ならびに変性が、LCの前に実施される。ステップ530では、LCが、mAbサブユニットに実施される。
【0020】
ステップ540では、MS/MSが、分離されたmAbサブユニットに実施される。例えば、分離されたmAbサブユニットが、イオン源デバイスを使用してイオン化され541、mAbサブユニット前駆イオンが、高エネルギー衝突解離(HCD)セル内でUVPDを使用して断片化される542。最後に、前駆および生成イオンが、オービトラップFT-MSを使用して検出され543、複数の生成イオンスペクトル544を生成する。
【0021】
ステップ550では、複数の生成イオンスペクトル544が、MS分析ソフトウェアを使用して分析される。図5の方法を使用して、Cotham論文は、既知のmAbの約60%全体配列包括度を報告した。
【0022】
ステップ550では、複数の生成イオンスペクトル544から平均される、単一のスペクトル545の断片化パターンの分析が、MS分析ソフトウェアを使用して実施される。検索が、既知のmAbの軽および重鎖の両方の既知の配列を組み込む、データベース551に対して実施される。これらの検索から、Cotham論文は、無傷の既知のmAbの約60%包括度を伴う合致する配列552を報告した。
【0023】
第1のFornelli論文、第2のFornelli論文、およびCotham論文は全て、サンプル溶液中の既知のmAbを識別することを対象とする。第2のFornelli論文によって説明されるように、これらの方法は、製造されたmAbが、革新製品のものに類似する物理化学特性、機能的性質、および臨床効率を有することを示すために、mAb薬物開発で使用されることができる。
【0024】
第1のFornelli論文、第2のFornelli論文、およびCotham論文の方法は、未知のmAbを配列決定することを対象としていない。換言すると、これらの方法は、mAb創薬を対象としていない。未知のmAbの配列を判定することは、溶液中の既知のmAbの配列を識別または確認することよりもはるかに困難な問題である。これは、上記に説明されるように、mAbの可変部分が数十億もの異なる可能性として考えられる配列を有し得るため、はるかに困難な問題である。
【0025】
結果として、未知のmAbの配列を判定するためのシステムおよび方法の必要性が存在する。より具体的には、未知のmAbの可変部分の配列を判定するためのシステムおよび方法の必要性が存在する。
【0026】
(質量分析背景)
質量分析(MS)は、それらの化合物から形成されるイオンのm/z値の分析に基づく、化学化合物の検出および定量化のための分析技法である。MSは、サンプルからの1つ以上の着目化合物のイオン化、前駆イオンの生成、および前駆イオンの質量分析を伴う。
【0027】
タンデム質量分析または質量分析/質量分析(MS/MS)は、サンプルからの1つ以上の着目化合物のイオン化、1つ以上の化合物の1つ以上の前駆イオンの選択、生成イオンへの1つ以上の前駆イオンの断片化、および生成イオンの質量分析を伴う。
【0028】
MSおよびMS/MSは両方とも、定性的および定量的情報を提供することができる。測定された前駆または生成イオンスペクトルは、着目分子を識別するために使用されることができる。前駆イオンおよび生成イオンの強度もまた、サンプルに存在する化合物の量を定量化するために使用されることができる。
【0029】
(断片化技法背景)
電子ベースの解離(ExD)、紫外線光解離(UVPD)、赤外線光解離(IRMPD)、および衝突誘発解離(CID)が、多くの場合、タンデム質量分析(MS/MS)のための断片化技法として使用される。ExDは、限定ではないが、電子捕捉解離(ECD)または電子伝達解離(ETD)を含むことができる。CIDは、タンデム質量分析計における解離のための最も従来的技法である。
【0030】
上記に説明されるように、トップダウンおよびミドルダウンプロテオミクスでは、無傷または消化されたタンパク質が、イオン化され、タンデム質量分析を受ける。例えば、ECDは、ペプチドおよびタンパク質骨格を優先的に解離する解離技法である。結果として、本技法は、トップダウンおよびミドルダウンプロテオミクスアプローチを使用して、ペプチドまたはタンパク質配列を分析するための理想的なツールである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0031】
(要約)
システム、方法、およびコンピュータプログラム製品が、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するために開示される。本システムは、ゲノムデータベースと、分離デバイスと、イオン源デバイスと、1つ以上の解離デバイスを伴う質量分析計と、プロセッサとを含む。
【0032】
プロセッサは、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令する。プロセッサは、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令する。質量分析計は、解離デバイスと、質量分析器とを含む。解離デバイスは、好ましくは、ECDデバイスである。プロセッサは、解離デバイスを使用して、イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように質量分析器に命令する。
【0033】
プロセッサは、既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算する。プロセッサは、1つ以上の生成イオンスペクトルから計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成する。プロセッサは、デノボシークエンシングを1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成する。プロセッサは、1つ以上の候補配列への合致に関してゲノムデータベースを検索し(相同性検索)、1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成する。
【0034】
出願者の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するためのシステムであって、
相同性検索のためのゲノムデータベースと、
分離デバイスと、
イオン源デバイスと、
解離デバイスと、質量分析器とを含む、質量分析計と、
プロセッサと
を備え、
前記プロセッサは、
サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように前記分離デバイスに命令することと、
前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するように前記イオン源デバイスに命令することと、
前記解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析計に命令することと、
前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記1つ以上の候補配列への合致に関して前記ゲノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を行う、システム。
(項目2)
前記プロセッサは、N末端生成イオンの理論的生成イオンピークを除去することによって、前記計算された理論的生成イオンピークを除去する、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記プロセッサは、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルの残留C生成イオンに適用し、1つ以上の候補配列を生成する、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記プロセッサは、前記1つ以上の生成イオンスペクトルからピークリストを計算する、項目1に記載のシステム。
(項目5)
前記プロセッサは、1価の生成イオンピークに変換される前記1つ以上の生成イオンスペクトルからピークリストを計算する、項目4に記載のシステム。
(項目6)
前記プロセッサは、前記ピークリストから前記理論的生成イオンピークを除去することによって、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、差異ピークリストを生成する、項目4に記載のシステム。
(項目7)
前記プロセッサは、デノボシークエンシングを前記差異ピークリストに適用することによって、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用する、項目6に記載のシステム。
(項目8)
前記プロセッサが、前記還元された未知のmAbを分離および脱塩するように前記分離デバイスに命令する前に、化膿連鎖球菌の免疫グロブリンG分解酵素(IdeS)消化を前記無傷の未知のmAbに適用し、前記還元された未知のmAbを生成することをさらに含む、項目1に記載のシステム。
(項目9)
前記分離デバイスが、前記IdeS消化される還元された未知のmAbを分離および脱塩するにつれて、ジチオスレイトール(DTT)を、前記無傷の未知のmAbを伴う溶液の中および前記分離デバイスの中に注入することをさらに含む、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記解離デバイスは、電子捕捉解離(ECD)デバイスを備える、項目1に記載のシステム。
(項目11)
前記プロセッサは、0~3eVの電子エネルギーを使用し、前記ECDデバイスを使用して前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化するように前記質量分析計に命令する、項目10に記載のシステム。
(項目12)
前記質量分析計は、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの電子およびイオンを前記ECDデバイスの中に同時に注入する、項目10に記載のシステム。
(項目13)
前記ECDデバイスは、四重極、六重極、または八重極解離デバイスを備える、項目10に記載のシステム。
(項目14)
未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するための方法であって、
プロセッサを使用して、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令することと、
前記プロセッサを使用して、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令することと、
前記プロセッサを使用して、質量分析計の解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析計に命令することと、
前記プロセッサを使用して、前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
前記プロセッサを使用して、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記プロセッサを使用して、前記1つ以上の候補配列への合致に関してゲノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を含む、方法。
(項目15)
非一過性の有形コンピュータ可読記憶媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、そのコンテンツは、未知のモノクローナル抗体(mAb)の1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を実施するように、プロセッサ上で実行されている命令を伴うプログラムを含み、前記方法は、
システムを提供することであって、前記システムは、1つ以上の明確に異なるソフトウェアモジュールを備え、前記明確に異なるソフトウェアモジュールは、制御モジュールと、分析モジュールとを備える、ことと、
前記制御モジュールを使用して、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令することと、
前記制御モジュールを使用して、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令することと、
前記制御モジュールを使用して、質量分析計の解離デバイスを使用して、前記イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、前記質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように前記質量分析計に命令することと、
前記分析モジュールを使用して、前記既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算することと、
前記分析モジュールを使用して、前記1つ以上の生成イオンスペクトルから前記計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成することと、
前記分析モジュールを使用して、デノボシークエンシングを前記1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、前記未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成することと、
前記分析モジュールを使用して、前記1つ以上の候補配列への合致に関してゲノムデータベースを検索し、前記1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成することと
を含む、コンピュータプログラム製品。
【0035】
当業者は、下記に説明される図面が例証目的のみのためであることを理解するであろう。図面は、いかようにも本教示の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステムを図示するブロック図である。
【0037】
図2図2は、IgGモノクローナル抗体(mAb)の例示的略図である。
【0038】
図3図3は、第1のFornelli論文で使用されたトップダウンMS/MSアプローチを示す、概略図である。
【0039】
図4図4は、第2のFornelli論文で使用されたミドルダウンMS/MSアプローチを示す、概略図である。
【0040】
図5図5は、Cotham論文で使用されたミドルダウンMS/MSアプローチを示す、概略図である。
【0041】
図6図6は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するためのシステムを示す、例示的概略図である。
【0042】
図7図7は、種々の実施形態による、電子捕捉解離(ECD)デバイスの概略図である。
【0043】
図8図8は、種々の実施形態による、ECDデバイスおよび衝突誘発解離(CID)衝突セルの切断3次元斜視図である。
【0044】
図9図9は、種々の実施形態による、ECD解離を使用して非還元型無傷mAbを断片化することによって生成される例示的生成イオンスペクトルである。
【0045】
図10図10は、種々の実施形態による、1価の変換された生成イオンピークの計算されたリストから、mAbsクラスの一定部分に関する理論的生成イオンピークを除去または減算することによって生成される、差異生成イオンピークリストを示し、差異生成イオンピークリストに対応するデノボ配列のリストを示す、例示的表である。
【0046】
図11図11は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を示す、フローチャートである。
【0047】
図12図12は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を実施する、1つ以上の明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本教示の1つ以上の実施形態が、詳細に説明される前に、当業者は、本教示が、それらの用途において、以下の詳細な説明に記載される、または図面に図示される、構造の詳細、構成要素の配列、およびステップの配列に限定されないことを理解するであろう。また、本明細書で使用される表現法および用語は、説明の目的のためであり、限定的と見なされるべきではないことを理解されたい。
【0049】
様々な実施形態の説明
(コンピュータ実装システム)
図1は、本教示の実施形態が実装され得る、コンピュータシステム100を図示するブロック図である。コンピュータシステム100は、情報を通信するためのバス102または他の通信機構と、情報を処理するためのバス102と結合されるプロセッサ104とを含む。コンピュータシステム100はまた、プロセッサ104によって実行されるべき命令を記憶するために、バス102に結合されるランダムアクセスメモリ(RAM)または他の動的記憶デバイスであり得る、メモリ106も含む。メモリ106はまた、プロセッサ104によって実行されるべき命令の実行の間にテンポラリ変数または他の中間情報を記憶するために使用されてもよい。コンピュータシステム100はさらに、プロセッサ104のための静的情報および命令を記憶するためのバス102に結合される読取専用メモリ(ROM)108または他の静的記憶デバイスを含む。磁気ディスクまたは光ディスク等の記憶デバイス110が、情報および命令を記憶するために提供され、バス102に結合される。
【0050】
コンピュータシステム100は、情報をコンピュータユーザに表示するために、バス102を介して陰極線管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD)等のディスプレイ112に結合されてもよい。英数字または他のキーを含む、入力デバイス114が、情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するためにバス102に結合される。別のタイプのユーザ入力デバイスは、方向情報およびコマンド選択をプロセッサ104に通信するため、かつディスプレイ112上のカーソル移動を制御するためのマウス、トラックボール、またはカーソル方向キー等のカーソル制御116である。本入力デバイスは、典型的には、本デバイスが平面内の位置を規定することを可能にする、2つの軸、すなわち、第1の軸(すなわち、x)および第2の軸(すなわち、y)において2つの自由度を有する。
【0051】
コンピュータシステム100は、本教示を実施することができる。本教示のある実装と一致して、結果が、プロセッサ104がメモリ106内に含有される1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを実行することに応答して、コンピュータシステム100によって提供される。そのような命令は、記憶デバイス110等の別のコンピュータ可読媒体からメモリ106に読み込まれてもよい。メモリ106内に含有される命令のシーケンスの実行は、プロセッサ104に、本明細書に説明されるプロセスを実施させる。代替として、配線回路が、本教示を実装するために、ソフトウェア命令の代わりに、またはそれと組み合わせて、使用されてもよい。したがって、本教示の実装は、ハードウェア回路とソフトウェアのいずれの具体的組み合わせにも限定されない。
【0052】
種々の実施形態では、コンピュータシステム100は、ネットワーク化されたシステムを形成するように、ネットワークを横断して、コンピュータシステム100のような1つ以上の他のコンピュータシステムに接続されることができる。ネットワークは、私設ネットワークまたはインターネット等の公衆ネットワークを含むことができる。ネットワーク化されたシステムでは、1つ以上のコンピュータシステムは、データを記憶し、他のコンピュータシステムに供給することができる。データを記憶および供給する、1つ以上のコンピュータシステムは、クラウドコンピューティングシナリオでは、サーバまたはクラウドと称されることができる。1つ以上のコンピュータシステムは、例えば、1つ以上のウェブサーバを含むことができる。データをサーバまたはクラウドに送信する、およびそこからデータを受信する、他のコンピュータシステムは、例えば、クライアントまたはクラウドデバイスと称されることができる。
【0053】
本明細書で使用されるような用語「コンピュータ可読媒体」は、実行のために命令をプロセッサ104に提供することに関与する、任意の媒体を指す。そのような媒体は、限定ではないが、不揮発性媒体、揮発性媒体、および伝送媒体を含む、多くの形態をとってもよい。不揮発性媒体は、例えば、記憶デバイス110等の光または磁気ディスクを含む。揮発性媒体は、メモリ106等の動的メモリを含む。伝送媒体は、バス102を備えるワイヤを含む、同軸ケーブル、銅線、および光ファイバを含む。
【0054】
コンピュータ可読媒体またはコンピュータプログラム製品の一般的形態は、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、または任意の他の磁気媒体、CD-ROM、デジタルビデオディスク(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク、任意の他の光学媒体、サムドライブ、メモリカード、RAM、PROM、およびEPROM、FLASH(登録商標)-EPROM、任意の他のメモリチップまたはカートリッジ、もしくはコンピュータが読み取り得る任意の他の有形媒体を含む。
【0055】
コンピュータ可読媒体の種々の形態が、実行のために1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスをプロセッサ104に搬送することに関与し得る。例えば、命令は、最初に、遠隔コンピュータの磁気ディスク上で搬送されてもよい。遠隔コンピュータは、命令をその動的メモリの中にロードし、モデムを使用して、電話線を経由して命令を送信することができる。コンピュータシステム100にローカルのモデルが、電話線上でデータを受信し、赤外線伝送機を使用して、データを赤外線信号に変換することができる。バス102に結合される赤外線検出器が、赤外線信号内で搬送されるデータを受信し、バス102上にデータを設置することができる。バス102は、メモリ106にデータを搬送し、そこから、プロセッサ104が、命令を読み出し、実行する。メモリ106によって受信される命令は、随意に、プロセッサ104による実行の前または後のいずれかに記憶デバイス110上に記憶されてもよい。
【0056】
種々の実施形態によると、方法を実施するためにプロセッサによって実行されるように構成される命令が、コンピュータ可読媒体上に記憶される。コンピュータ可読媒体は、デジタル情報を記憶するデバイスであり得る。例えば、コンピュータ可読媒体は、ソフトウェアを記憶するための当技術分野内で公知であるようなコンパクトディスク読取専用メモリ(CD-ROM)を含む。コンピュータ可読媒体は、実行されるように構成される命令を実行するために好適なプロセッサによってアクセスされる。
【0057】
本教示の種々の実装の以下の説明が、例証および説明の目的のために提示された。これは、包括的ではなく、本教示を開示される精密な形態に限定しない。修正および変形例が、上記の教示を踏まえて可能である、または本教示の実践から入手され得る。加えて、説明される実装は、ソフトウェアを含むが、本教示は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせとして、またはハードウェア単独で実装され得る。本教示は、オブジェクト指向および非オブジェクト指向プログラミングシステムの両方を用いて実装され得る。
【0058】
(MABS可変部分判定)
上記に説明されるように、モノクローナル抗体(mAb)のトップダウンおよびミドルダウン分析は、mAbのアミノ酸配列が把握されるときのみ実証された。未知のmAbの配列を判定することは、既知のmAbの配列を識別または確認することよりもはるかに困難な問題である。これは、上記に説明されるように、mAbの可変部分が数十億もの異なる可能性として考えられる配列を有し得るため、はるかに困難な問題である。
【0059】
結果として、未知のmAbの配列を判定するためのシステムおよび方法の必要性が存在する。より具体的には、未知のmAbの可変部分の配列を判定するためのシステムおよび方法の必要性が存在する。
【0060】
種々の実施形態では、システムおよび方法が、未知のmAbの可変部分を配列決定するように提供される。トップダウンまたはミドルダウンLC-MS/MSが、使用される。トップダウンLC-MS/MSが、無傷mAbに適用される。ミドルダウンLC-MS/MSが、還元型mAbサブユニットに適用される。
【0061】
既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関する理論的生成イオンピークが、計算される。これらの計算された理論的生成イオンピークは、トップダウンまたはミドルダウンLC-MS/MSによって生成される1つ以上の生成イオンスペクトルから、除去または減算される。デノボシークエンシングが、1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用され、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成する。最後に、ゲノムデータベースが、1つ以上の候補配列への合致に関して検索され(相同性検索)、未知のmAbの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成する。種々の実施形態では、従来的なトップダウンまたはミドルダウンMS/MSが、1つ以上の合致した配列の正当性を立証するように、再び実施される。
【0062】
(未知のmAbの可変部分を配列決定するためのシステム)
図6は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するためのシステムを示す、例示的概略図600である。図6のシステムは、ゲノムデータベース610と、分離デバイス620と、イオン源デバイス630と、質量分析計640と、プロセッサ650とを含む。
【0063】
プロセッサ650は、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイス620に命令する。種々の実施形態では、プロセッサ650は、分離デバイス620、イオン源デバイス630、および質量分析計640を制御する、またはそれらに命令を提供する、ゲノムデータベース610を検索する、ならびに収集されるデータを分析するために使用される。プロセッサ650は、例えば、1つ以上の電圧、電流、または圧力源(図示せず)を制御することによって、制御する、または命令を提供する。プロセッサ650は、図6に示されるような別個のデバイスであり得る、または質量分析計640の1つ以上のデバイスのプロセッサまたはコントローラであり得る。プロセッサ650は、限定ではないが、コントローラ、コンピュータ、マイクロプロセッサ、図1のコンピュータシステム、または制御信号およびデータを送信および受信し、データを分析することが可能な任意のデバイスであり得る。
【0064】
種々の実施形態では、プロセッサ650は、ステップ601に示されるようなトップダウン方法で無傷の未知のmAbを分離するように分離デバイス620に命令する。溶液603内の無傷の未知のmAbが、本トップダウン方法では分離デバイス620に供給され、無傷の未知のmAb621が、分離デバイス620によって脱塩および分離される。
【0065】
種々の代替実施形態では、プロセッサ650は、ステップ602に示されるようなミドルダウン方法で消化された未知のmAbを分離するように分離デバイス620に命令する。消化溶液603内の無傷の未知のmAbが、IdeSを溶液603に適用することによって消化される。消化された未知のmAbは、次いで、本ミドルダウン方法では分離デバイス620に供給され、消化された未知のmAb622は、分離デバイス620によって脱塩される。
【0066】
種々の実施形態では、ジチオスレイトール(DTT)が、消化された未知のmAbを還元するために使用される。例えば、DTTは、オンライン還元のために分離デバイス620の中に注入される。分離デバイス620は、未知のmAbの還元型IdeS消化物を分離している。
【0067】
分離デバイス620は、限定ではないが、液体クロマトグラフィ(LC)デバイスまたはキャピラリ電気泳動デバイスであり得る。好ましい実施形態では、分離デバイス620は、経時的に未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを分離および脱塩する、LCカラムである。
【0068】
プロセッサ650は、未知の無傷mAb621または還元型mAbサブユニット622をイオン化するようにイオン源デバイス630に命令する。イオン源デバイス630は、エレクトロスプレーイオン源(ESI)デバイスであり得る。イオン源デバイス630は、図6では質量分析計640の一部として示される。
【0069】
質量分析計640は、いくつかあるデバイスの中でも、解離デバイス641と、質量分析器643とを含む。プロセッサ650は、解離デバイス641を使用して、イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、質量分析器643を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトル644を生成するように質量分析器640に命令する。質量分析器643は、限定ではないが、飛行時間(TOF)質量分析器、四重極、イオントラップ、線形イオントラップ、オービトラップ、磁気セクタ質量分析器、ハイブリッド四重極飛行時間(Q-TOF)質量分析器、またはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析器を含むことができる。好ましい実施形態では、質量分析器643は、TOF質量分析器である。
【0070】
解離デバイス641は、例えば、ExD、IRMPD、CID、またはUVPDを使用して、イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化する。好ましい実施形態では、解離デバイス641は、ECDデバイスである。
【0071】
図7は、種々の実施形態による、ECDデバイスの概略図700である。ECDデバイスは、電子エミッタまたはフィラメント710と、電子ゲート720とを含む。電子が、イオン流730と垂直および磁場の方向740と平行に放出される。
【0072】
図6に戻ると、解離デバイスを含む質量分析計は、典型的には、CIDのためのQ2解離デバイス642のような別の解離デバイスを含む。Q2解離デバイス642は、例えば、タンパク質またはペプチド以外の化合物を断片化するために使用される。タンパク質またはペプチドの分析の間に、Q2解離デバイス642は、イオンガイドとして作用し、単に、生成イオンを解離デバイス641から質量分析器643に伝送する。
【0073】
図8は、種々の実施形態による、ECDデバイスおよびCID衝突セルの切断3次元斜視図800である。図8は、イオンの断片化が、ECDデバイス814内の場所811で、またはCID衝突セル815内の場所812で選択的に実施され得ることを示す。
【0074】
図6に戻ると、種々の実施形態では、プロセッサ650は、0~3eVの電子エネルギーを使用し、ECD解離デバイス641を使用してイオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化するように質量分析計640に命令する。質量分析計640は、同時に、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの電子およびイオンをECD解離デバイス641の中に注入する。
【0075】
種々の実施形態では、ECD解離デバイス641は、四重極、六重極、または八重極解離デバイスである。
【0076】
プロセッサ650は、既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピーク651を計算する。mAbクラスは、限定ではないが、IgG、IgE、IgD、IgM、およびIgAを含むことができる。
【0077】
プロセッサ650は、1つ以上の生成イオンスペクトル644から計算された理論的生成イオンピーク651を除去または減算し、1つ以上の差異生成イオンスペクトル652を生成する。
【0078】
プロセッサ650は、デノボシークエンシングを1つ以上の差異生成イオンスペクトル652に適用し、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列653を生成する。プロセッサ650は、1つ以上の候補配列653への合致に関してゲノムデータベース610を検索し(相同性検索)、1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列654を生成する。
【0079】
デノボシークエンシングでは、1つ以上のアミノ酸配列が、例えば、生成イオンスペクトル内の生成イオンに割り当てられる。デノボシークエンシングは、配列を見出すために第1のFornelli論文、第2のFornelli論文、およびCotham論文によって実施されるデータベース検索と異なることに留意されたい。デノボシークエンシングにおいて候補配列を判定するためのデータベース検索は存在しない。
【0080】
種々の実施形態では、プロセッサ650は、C末端生成イオンの理論的生成イオンピークを除去することによって、計算された理論的生成イオンピーク651を除去する。プロセッサ650は、デノボシークエンシングを1つ以上の差異生成イオンスペクトル652の残留N末端生成イオンに適用し、1つ以上の候補配列653を生成する。
【0081】
下記に説明されるように、図6のシステムは、未知のmAbの70~80%配列包括度を生成することが見出された。種々の実施形態では、プロセッサ650は、1つ以上の合致した配列を未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の生成イオンスペクトルとさらに比較することによって、配列包括度を判定し、1つ以上の合致した配列を確認する。
【0082】
種々の実施形態では、プロセッサ650は、1つ以上の生成イオンスペクトル644からピークリストを計算する。例えば、プロセッサ650は、1価の生成イオンピークに変換される1つ以上の生成イオンスペクトル644からピークリストを計算することができる。プロセッサ650は、次いで、ピークリストから理論的生成イオンピーク651を除去し、差異ピークリストを生成することによって、1つ以上の生成イオンスペクトルから計算された理論的生成イオンピーク651を除去する。プロセッサ650は、デノボシークエンシングを差異ピークリストに適用することによって、デノボシークエンシングを1つ以上の差異生成イオンスペクトル652に適用する。
【0083】
図9は、種々の実施形態による、ECD解離を使用して非還元型無傷mAbを断片化することによって生成される例示的生成イオンスペクトル900である。ECD生成イオンスペクトル900では、1価の生成イオンが、約500~1,500m/zの間に出現する。多価前駆イオンが、約2,100~4,500m/zの間に出現する。
【0084】
図10は、種々の実施形態による、1価の変換された生成イオンピークの計算されたリストから、mAbsクラスの一定部分に関する理論的生成イオンピークを除去または減算することによって生成される、差異生成イオンピークリストを示し、差異生成イオンピークリストに対応するデノボ配列のリストを示す、例示的表1000である。表1000では、既知のmAbクラスの一定部分に関する理論的生成イオンピークのリスト1020の生成イオンピークが、1価の生成イオンのリスト1010の生成イオンと比較される。合致するピークが、リスト1010から除去され、差異ピークリスト1030を生成する。デノボシークエンシングが、差異ピークリスト1030の生成イオンピークに適用され、未知のmAbの可変部分のデノボ候補配列のリスト1040を生成する。
【0085】
(未知のmAbの可変部分を配列決定するための方法)
図11は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するための方法1100を示す、フローチャートである。
【0086】
方法1100のステップ1110では、分離デバイスが、プロセッサを使用して、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように命令される。
【0087】
ステップ1120では、イオン源デバイスが、プロセッサを使用して、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するように命令される。
【0088】
ステップ1130では、質量分析計が、プロセッサを使用して、質量分析計の解離デバイスを使用して、イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化し、質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように命令される。
【0089】
ステップ1140では、理論的生成イオンピークが、プロセッサを使用して、既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して計算される。
【0090】
ステップ1150では、計算された理論的生成イオンピークが、プロセッサを使用して、1つ以上の生成イオンスペクトルから除去され、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成する。
【0091】
ステップ1160では、デノボシークエンシングが、プロセッサを使用して、1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用され、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成する。
【0092】
ステップ1170では、ゲノムデータベースが、プロセッサを使用して、1つ以上の候補配列への合致に関して検索され、1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成する。
【0093】
種々の実施形態において、付加的ステップ1180では、1つ以上の合致した配列は、1つ以上の合致した配列を確認するように、かつ1つ以上の合致した配列の包括度を判定するように、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の生成イオンスペクトルと比較される。例えば、ステップ1180は、図6の1つ以上の合致した配列654の70~80%配列包括度を判定するように実施される。
【0094】
(未知のmAbの可変部分を配列決定するためのコンピュータプログラム製品)
種々の実施形態では、コンピュータプログラム製品は、そのコンテンツが、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を実施するように、プロセッサ上で実行されている命令を伴うプログラムを含む、有形コンピュータ可読記憶媒体を含む。本方法は、1つ以上の明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システムによって実施される。
【0095】
図12は、種々の実施形態による、未知のmAbの1つ以上の可変部分を配列決定するための方法を実施する、1つ以上の明確に異なるソフトウェアモジュールを含む、システム1200の概略図である。システム1200は、制御モジュール1210と、分析モジュール1220とを含む。
【0096】
制御モジュール1210は、サンプルから未知の無傷mAbまたは既知のmAbクラスの還元型mAbサブユニットを分離するように分離デバイスに命令する。制御モジュール1210は、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットをイオン化するようにイオン源デバイスに命令する。制御モジュール1210は、質量分析計の解離デバイスを使用して、イオン化された未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットを断片化するように質量分析計に命令する。制御モジュール1210はまた、質量分析計の質量分析器を使用して、結果として生じる生成イオンを質量分析し、1つ以上の生成イオンスペクトルを生成するように質量分析計に命令する。
【0097】
分析モジュール1220は、既知のmAbクラスの1つ以上の一定部分に関して理論的生成イオンピークを計算する。分析モジュール1220は、1つ以上の生成イオンスペクトルから計算された理論的生成イオンピークを除去し、1つ以上の差異生成イオンスペクトルを生成する。分析モジュール1220は、デノボシークエンシングを1つ以上の差異生成イオンスペクトルに適用し、未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の候補配列を生成する。最後に、分析モジュール1220は、1つ以上の候補配列への合致に関してゲノムデータベースを検索し、1つ以上の可変部分に関して、1つ以上の合致した配列を生成する。
【0098】
種々の実施形態では、分析モジュール1220はさらに、1つ以上の合致した配列を確認するように、かつ1つ以上の合致した配列の包括度を判定するように、1つ以上の合致した配列を未知の無傷mAbまたは還元型mAbサブユニットの1つ以上の生成イオンスペクトルと比較する。
【0099】
(実験データ)
ECDは、トップダウンシークエンシング、デノボシークエンシング,グリコシル化分析、および有益なジスルフィド結合開裂等の一意の特徴を提供し、無傷抗体を分析するための理想的なツールである。RFイオントラップに基づく小型および高スループットECDデバイスが、いくつかの実験で使用された。本技術は、本研究では、無傷mAbに適用された。これはまた、新規のオンラインジスルフィド結合還元技法を使用して還元された、mAbサブユニットに適用された。
【0100】
ECDセルが、四重極TOFシステム内のQ1とQ2との間に配設された。ECDデバイスの中への電子ビームおよび前駆イオンの同時注入である、同時捕獲ECDモードが、高スループット分析に使用された。典型的電子ビーム照射時間は、10ミリ秒であり、電子ビーム強度は、適切な解離効率を取得するように調整された。TOFの質量分解能は、最大Z~30+まで断片の同位体パターンを分解した、35,000~47,000であった。脱塩LCカラム(Waters)が、脱塩、オンライン還元、およびLC分離に使用された。ヒト化モノクローナルIgG(NIST-mAb)が、実証目的のためにNISTから取得された。
【0101】
ECD-TOFシステムを使用して、トップダウン分析において最良の配列包括度を取得するために、(1)低荷電前駆体が、低断片荷電状態分布を取得するように選択されてもよく、(2)ECDが、0~3eVの電子エネルギーを用いて実施されてもよく、(3)30~50%の前駆体消費が、高荷電状態における大型断片を検出するために使用されてもよい。より長い電子線照射(またはより強い電子ビーム)を使用することは、大型断片を除去し、シークエンシングのために有益ではない内部断片を生成する、一次ECD断片の二次解離を誘発することが見出された。
【0102】
無傷NIST-mAbが、LC-ECD-TOF質量分析計によって分析された。単一のLC起動によって取得された無傷ECDスペクトルへのデノボシークエンシングは、3つの配列を示し、それらのうちの2つは、ヒトゲノムで見出される軽鎖および重鎖内の可変部分のN末端部分配列に合致した。無傷ECDスペクトルは、提案される完全配列(完全配列は、NISTによって提供される)を使用して、トップダウン様式でさらに分析され、データは、mAbの軽鎖および重鎖の可変部分を網羅した。3eVにおけるECDは、タンパク質内のジスルフィド結合環を開裂しなかった。
【0103】
ほぼ完全な配列包括度を取得するために、IdeS酵素(Genovis)が、供給された。ジスルフィド結合のオンライン還元に関して、DTTが、無傷mAbの中に注入され、IdeS消化物が、1分にわたって脱塩カラム上で捕獲された。還元を適用することによって、軽鎖に関しては84.7%、重鎖の可変部分(Fd’)に関しては78.3%、重鎖の固定部分(scFc)に関しては84.7%の配列包括度が、取得された。さらに、ECDは、scFc内のグリコシル化部位およびその質量を示し、CIDは、グリカン組成を知らせた。
【0104】
本教示は、種々の実施形態と併せて説明されるが、本教示がそのような実施形態に限定されることは意図されない。対照的に、本教示は、当業者によって理解されるであろうように、種々の代替物、修正、および均等物を包含する。
【0105】
さらに、種々の実施形態を説明する際に、本明細書は、ステップの特定のシーケンスとして、方法および/またはプロセスを提示している場合がある。しかしながら、方法またはプロセスが本明細書に記載されるステップの特定の順序に依拠しない限りにおいて、方法またはプロセスは、説明されるステップの特定のシーケンスに限定されるべきではない。当業者が理解するであろうように、ステップの他のシーケンスも、可能であり得る。したがって、本明細書に記載されるステップの特定の順序は、請求項上の限定として解釈されるべきではない。加えて、方法および/またはプロセスを対象とする請求項は、書かれる順序でのそれらのステップの実施に限定されるべきではなく、当業者は、シーケンスが変動され、依然として、種々の実施形態の精神および範囲内に留まり得ることを容易に理解することができる。
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図12