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特許7326335基材を乾燥させるための方法、空気乾燥モジュールおよび乾燥システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】基材を乾燥させるための方法、空気乾燥モジュールおよび乾燥システム
(51)【国際特許分類】
   F26B 21/12 20060101AFI20230807BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20230807BHJP
   F26B 3/30 20060101ALI20230807BHJP
   F26B 13/02 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
F26B21/12
B05D3/02 D
F26B3/30
F26B13/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020561699
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060582
(87)【国際公開番号】W WO2019211155
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】102018110824.9
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】593129320
【氏名又は名称】ヘレーウス ノーブルライト ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Noblelight GmbH
【住所又は居所原語表記】Heraeusstrasse 12-14, Hanau, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベアンハート グラツィール
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ティトマン
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ビュンゲナー
(72)【発明者】
【氏名】フィンツェント クラフト
(72)【発明者】
【氏名】ラリーザ フォン リーヴェル
【審査官】岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129909(JP,A)
【文献】米国特許第06511015(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 3/02
F26B 21/12
F26B 13/02
F26B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向(5)に移動する基材(3)を少なくとも部分的に乾燥させるための方法であって、
(a)前記基材(3)に向けられる、乾燥のための供給空気流(38)を発生させる方法ステップであって、前記供給空気流が、前記搬送方向(5)の方向成分または前記搬送方向(5)と逆方向の方向成分を有する供給空気流方向を有する、方法ステップと、
(b)前記基材(3)から離れる方向に向けられる排出空気流(39)を発生させるための排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)を提供する方法ステップと、
を含む方法において、
前記排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)は、乾燥空間(26)に面した吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)をそれぞれ有する複数の吸気通路(41,42,43)を備え、前記吸気通路(41,42,43)への分割が、前記乾燥空間(26)内に突出した空気バッフル(30,31)によって行われ、前記空気バッフル(30,31)が、前記吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)の少なくとも一部を前記乾燥空間(26)に向かって画定しかつ規定し、
前記排出空気流(39)が排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)に供給され、それにより複数の副流に分割されて、該副流のそれぞれが個々の吸気通路(41,42,43)に供給され、それぞれの吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)が、それぞれ流入する前記副流のための個々の流入方向を規定し、互いに隣接する副流の前記流入方向が、前記乾燥空間(26)内における位置および向きにおいて互いに異なっており、
供給空気流(38)が前記基材の搬送方向(5)の方向成分を有する場合には、前記供給空気流(38)が前記排出空気流(39)の空間的上流に配置され、供給空気流(38)が前記搬送方向(5)と逆方向の方向成分を有する場合には、前記供給空気流(38)が前記排出空気流(39)の空間的下流に配置される
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記排出空気流(39)が少なくとも3つの副流に分割されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記供給空気流(38)により形成される渦流が、前記吸気通路(41,42,43)に振り分けられることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)が、前記乾燥空間(26)内に突出した空気バッフル(30,31)によって画定され、それぞれの吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)が、それぞれ流入する前記副流のための個々の流入方向を規定し、互いに隣接する副流の前記流入方向が互いに異なっていることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
複数の吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)は、該吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)の個々の流入方向が前記供給空気流(38)の主伝播方向(25a)とほぼ逆方向に延びるように配向されることを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
前記供給空気流が、長手方向のスリット状のノズル開口(25)から流出して、乾燥させるべき前記基材(3)にストリップ状に作用し、前記排出空気流(39)が、スリット状の複数の吸気通路(41,42,43)を介して除去されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記基材(3)に向けられる前記供給空気流(38)が、前記基材(3)の表面に対して10~85度の角度を成す主伝播方向(25a)を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥空間に導入されるガス体積Vinが、プロセスガス量制御システムにより、前記乾燥空間から抜き取られるガス体積Voutよりも少なくなるように調整される、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
乾燥空間(26)を通って搬送方向(5)に移動する基材(3)を乾燥させるための空気乾燥器モジュールであって、
(a)前記基材(3)に向けられ、該基材(3)の表面に対して10~85度の角度を成す主伝播方向(25a)を有する、乾燥のための供給空気流(38)を発生させるための供給空気ノズル(25)を備える供給空気ユニット(13,14,15,25)と、
(b)前記乾燥空間(26)から流出するように前記基材(3)から離れる方向に向けられる排出空気流(39)を発生させるための排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)と、
を備える空気乾燥器モジュールにおいて、
前記排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)が、複数の吸気通路(41,42,43)に分割され前記吸気通路(41,42,43)への分割が、前記乾燥空間(26)内に突出した空気バッフル(30,31)によって行われ、前記空気バッフル(30,31)が、吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)の少なくとも一部を前記乾燥空間(26)に向かって画定しかつ規定し、これにより、前記排出空気流(39)が前記排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)に供給される際に複数の副流に分割され、前記副流のそれぞれが前記吸気通路(41,42,43)の一つに供給され、
前記供給空気ノズル(25)が、前記排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)に面したノズル開口を有し、
互いに隣接する前記吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)の位置および向きが、前記乾燥空間(26)内で互いに異なっている
ことを特徴とする、空気乾燥器モジュール。
【請求項10】
前記排出空気ユニット(16,17,18,41,42,43)が少なくとも3つの吸気通路(41,42,43)を備えることを特徴とする、請求項9記載の空気乾燥器モジュール。
【請求項11】
複数の吸気通路吸込み開口(41a,42a,43a)は、該吸込み開口の個々の流入方向が前記供給空気流(38)の主伝播方向(25a)とほぼ逆方向に延びるように配向されることを特徴とする、請求項9または10記載の空気乾燥器モジュール。
【請求項12】
前記供給空気ユニットと前記排出空気ユニットとが一体化された空気供給ボックスを備えることを特徴とする、請求項9から11までのいずれか1項記載の空気乾燥器モジュール。
【請求項13】
前記供給空気ノズル(25)と前記基材(3)の表面との間の距離が10mm未満であることを特徴とする、請求項9から12までのいずれか1項記載の空気乾燥器モジュール。
【請求項14】
前記乾燥空間(26)が、前記供給空気ノズル(25)が形成される第1の面と、前記吸気通路(41,42,43)が形成される第2の面と、前記基材(3)とによって画定されることを特徴とする、請求項9から13までのいずれか1項記載の空気乾燥器モジュール。
【請求項15】
プロセス空間(9,26)を通って搬送方向(5)に移動する基材(3)を乾燥させるための乾燥器システムであって、
以下の一連の構成要素、つまり、前記基材の搬送方向(5)に見て、前方空気交換器ユニット(6)と、互いに平行に配置された複数の赤外線ランプ(8)を備えた照射空間(9)と、後方空気交換器ユニット(7)とを有する赤外線乾燥器モジュール(1)を備える乾燥器システムにおいて、
前記前方空気交換器ユニットおよび/または前記後方空気交換器ユニットが、それぞれ請求項9から14までのいずれか1項記載の少なくとも1つの空気乾燥器モジュール(6,7)を含むことを特徴とする、乾燥器システム。
【請求項16】
前記後方空気交換器ユニットおよび/または前記前方空気交換器ユニットが、相並んでかつ/または相前後して配置された複数の空気乾燥器モジュール(6,7)を備える、請求項15記載の乾燥器システム。
【請求項17】
少なくとも1つの空気乾燥器モジュール(6)が、前記照射空間(9)の上流に配置され、少なくとも1つの空気乾燥器モジュール(7)が、前記照射空間(9)の下流に配置されることを特徴とする、請求項15または16記載の乾燥器システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材を少なくとも部分的に乾燥させるための方法であって、
(a)基材に向けられる供給空気流を発生させる方法ステップであって、供給空気流が、搬送方向の方向成分または搬送方向と逆方向の方向成分を有する供給空気流方向を有する、方法ステップと、
(b)基材から離れる方向に向けられる排出空気流を発生させる方法ステップと、
を含む方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、乾燥空間を通って搬送方向に移動する基材を乾燥させるための空気乾燥器モジュールであって、
(a)基材に向けられ、この基材の表面に対して10~85度の角度を成す主伝播方向を有する供給空気流を発生させるための供給空気ノズルを備える供給空気ユニットと、
(b)乾燥空間から流出するように基材から離れる方向に向けられる排出空気流を発生させるための排出空気ユニットと、
を備える空気乾燥器モジュールに関する。
【0003】
その上、本発明は、プロセス空間を通って搬送方向に移動する基材を乾燥させるための赤外線乾燥器システムであって、
以下の一連の構成要素、つまり、基材の搬送方向に見て、前方空気交換器ユニットと、互いに平行に配置された複数の赤外線ランプを備えた照射空間と、後方空気交換器ユニットとを有する赤外線乾燥器モジュールを備える赤外線乾燥器システムを含む。
【0004】
このような空気乾燥器モジュールおよび乾燥法は、たとえば基材上の水性の分散体、インク、塗料、ラッカー、接着剤もしくは他の溶剤系の層を乾燥させるために、または不織材料および他の織物材料から製造された湿分を帯びた材料ウェブを乾燥させるために用いられる。赤外線乾燥器システムは、特に被印刷製品、たとえば紙および板紙、ならびにそれらから製造された製品を乾燥させるために使用される。
【背景技術】
【0005】
紙、板紙、フィルムまたは厚紙から製造されたシートタイプまたはウェブタイプの被印刷基材に印刷インクで印刷するために、オフセット印刷機、リソグラフィ印刷機、ロータリー印刷機またはフレキソ印刷機が一般に使用される。
【0006】
印刷インクおよびプリンタ用インクの典型的な原料は、油、樹脂、水および結合剤である。溶剤系、特に水性の印刷インクおよびラッカーには乾燥が必要であり、乾燥は、物理的な乾燥プロセスと化学的な乾燥プロセスの両方に基づくものであってよい。物理的な乾燥プロセスは、溶剤(特に水)の蒸発と、プリント基材への溶剤の拡散とを含む。化学的な乾燥は、印刷インク原料の酸化または重合を意味すると理解される。
【0007】
従来の赤外線乾燥器システムは、赤外線ランプに加えて、他の機能的な構成要素、たとえば冷却、供給空気および排出空気を有しており、これらの構成要素は様々な方法で互いに関連し、空気管理システムにおいて制御される。したがって、たとえば独国特許出願公開第102010046756号明細書には、シート材料またはロール材料に印刷するための印刷機向けの、複数の乾燥器モジュールから構成された乾燥器モジュールおよび乾燥器システムが記載されている。
【0008】
この乾燥器システムは、搬送方向に対して横断方向に配置された複数の赤外線乾燥器モジュールからなり、それぞれの乾燥器モジュールは、乾燥させるべき被印刷基材に位置合わせされた細長い赤外線ランプを有しており、ランプの長手方向軸線は、被印刷基材の搬送方向に対して垂直に延びている。制御可能な換気システムを使用して空気流を発生させ、この空気流が、赤外線ランプと被印刷基材とに作用する。赤外線ランプは、被印刷基材のためのプロセス空間内に配置される。供給空気は、供給空気集合空間に送られ、この供給空気集合空間内で加熱装置を使用して加熱される。
【0009】
さらに、赤外線ランプによって加熱された空気は、ファンを使用して取り出され、加熱された供給空気に加えられ、こうして赤外線ランプを冷却する。
【0010】
加熱された供給空気は、供給空気集合空間から、スリットノズルの形態のガス出口ノズルを介してプロセス空間に流入する。ガス出口ノズルは赤外線ランプの両側に配置され、被印刷基材の搬送方向において前方、つまり、手前もしくは上流側のスリットノズルは、搬送方向とは逆の向きで被印刷基材平面に対して傾斜して延びており、搬送方向において後方、つまり、下流側のスリットノズルは、搬送方向の向きで同じく被印刷基材平面に対して傾斜して延びている。スリットノズルの傾斜の程度は、モータを使用して変えることができる。
【0011】
湿分を含んだ供給空気は、プロセス空間から吸気通路を介して排出空気として除去され、その一部は熱交換器に送られ、別の一部は供給空気集合空間に加えられる。
【0012】
既知の赤外線乾燥器モジュールでは、プロセスガスは、そのためだけに設けられた加熱デバイスを使用して加熱される。加熱されたプロセスガスは、加熱された空気流として被印刷基材に向かって流出して、乾燥させるべき被印刷基材に局所的にまたは多少なりとも規定されていない他の形式で作用し、最終的には湿分を含んだ空気として別の場所において再び抜き取られる。したがって、基材表面から離れる方向に湿分を移送するという意味では、乾燥空気の効果は厳密に再現可能なものではない。
【0013】
カナダ国特許発明第2748263号明細書には、加熱された空気流と、超音波とを使用して乾燥させる方法および装置が記載されている。この目的のために使用される超音波変換器は、乾燥させるべき材料の境界層において120~190dBの範囲の出力レベルを有する超音波を発生させ、ひいては、拡散境界層の破壊に寄与する。一実施形態では、超音波変換器は、圧縮空気による補助を伴って形成される。1つの付加的な超音波変換器と2つの戻り空気入口とを備える傾斜して配置された圧縮空気出口をそれぞれの側に有する中央空気出口を有するケーシングが使用される。
【0014】
国際公開第01/02643号から、コーティングされた紙ウェブを乾燥させるための空中ウェブ乾燥装置のノズルアレイが公知である。このアレイでは、過圧ノズルが、ウェブの進行方向と、ウェブの進行方向と逆方向との両方に乾燥空気を吹き付けるように配置されている。このノズルアレイはさらに、過圧ノズルと組み合わされたダイレクトインピンジメントノズルを備える。ウェブに向かって主に垂直方向に乾燥空気を吹き付けるために、ダイレクトインピンジメントノズルには複数のノズルスロットが形成されている。紙ウェブの搬送方向に相前後して配置された複数のノズルアレイが使用される場合には、2つの隣接するノズルアレイごとに、それらの間に共通の排出通路が配置され、排出空気が排出される。
【0015】
独国特許出願公開第102016112122号明細書には、冷却装置とケーシングとを有するLEDライト基板を備えた、UV印刷インク用のLED硬化装置が記載されている。LEDライト基板の冷却装置の上端からケーシングの上側壁まで、隔壁が延在しており、この隔壁が、ケーシングの内室をLEDライト基板の両側において、複数のガス吸気孔を有するガス吸気室と、複数のガス排出孔を有するガス排出室とに分割する。ガス吸気孔とガス排出孔との両方は、LEDライト基板の垂直中心線に対して45°の角度を成すように傾斜して配置される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明は、特に基材の乾燥の均質性および速度の点で改善された結果に繋がる再現可能で効率のよい乾燥法を提供するという目的に基づく。
【0017】
さらに、本発明は、特に溶剤を含む分散体、特に水性の分散体を乾燥させるための、乾燥の均質性および速度の点で改善された、エネルギー効率のよい空気乾燥器モジュールおよび赤外線乾燥器システムを提供するという目的に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0018】
方法に関して、この目的は、本発明によれば、上述した形態の方法から出発して、排出空気流が複数の副流に分割されて、これらの副流のそれぞれが個々の吸気通路に供給され、供給空気流が基材の移動の方向の方向成分を有する場合には、供給空気流が排出空気流の空間的上流に配置され、供給空気流が基材の移動と逆方向の方向成分を有する場合には、供給空気流が排出空気流の空間的下流に配置されることによって達成される。
【0019】
供給空気流は、拡散せず、主伝播方向を有しており、この主伝播方向において、供給空気流は、空気体積および流量に応じて基材表面に向かって進み、所定の角度で基材表面に衝突し、そこで乾燥させるように、コーティングされた基材に作用する。ここで「作用する」とは、たとえば溶剤が表面層から取り去られて気相になることにより、供給空気流が基材を乾燥させることを意味する。供給空気流の主伝播方向は、好ましくは、基材の表面に対して10~85度の角度を成す。
【0020】
基材に向けられたそれぞれの供給空気流には、基材から離れる方向に向けられ、複数の副流に分割される排出空気流が空間的に割り当てられる。この排出空気流を介して、湿分を含んだプロセスガスと、基材から出る他の気体成分とが、排出空気として乾燥空間から完全にまたは部分的に除去される。排出空気の流れは、吸気通路を介した抜き取りによって発生する。
【0021】
本発明による乾燥法は、特に以下の態様の組合せの点で優れている。
【0022】
(i)移動する基材に連行され、絡みついた流れ境界層が、基材表面に向けられた供給空気流によって破壊される。ここで特に、上流の加熱プロセスにおいて蒸発した水分が、供給空気流とともに運ばれ、基材から除去される。供給空気流の方向が、基材の移動の方向の方向成分または移動の方向と逆方向の方向成分を有する主伝播方向を有するとき、すなわち、基材表面に対して傾斜して延びるとき、流れ境界層の破壊が最良の形で達成される。好ましくは、供給空気流の主伝播方向と基材表面との間の傾斜角度は、10~85度である。これにより、流体力学的な層流境界層が乱されるか、低減されるか、または剥離すらされ、これに伴い、物質移動、特に基材からの湿分の除去が改善される。
【0023】
搬送方向に傾斜して流出する供給空気流の場合、供給空気流は、基材の移動速度によって低減される衝撃速度で基材に衝突する。他の事例では、供給空気流と基材移動との速度ベクトルが合計されて、衝撃速度が得られる。
【0024】
(ii)基材表面に対して傾斜して延びる供給空気流には、抜取りシステムが割り当てられ、この抜取りシステムは、基材の搬送方向に応じて、供給空気流の位置の空間的上流または空間的下流に位置している。したがって、基材表面に対して傾斜して流れる供給空気流は、常に排出空気流に向けられている。供給空気流と排出空気流とを空間的に割り当てることにより、基材表面に対してそれぞれのガス流間で相互作用が生じ、供給空気流によって破壊された流れ境界層の空気を直接抜き取ることができることが確保される。
【0025】
供給空気流が基材の移動と逆方向の方向成分を有する場合には、供給空気流は、排出空気流の空間的下流に配置される。しかし、その結果、基材表面に対して傾斜して延びる供給空気流の方向が原因で、渦流形成のリスクが存在する。この場合に形成される空気渦流の回転方向は、供給空気流の方向の傾斜配向によって決まり、この場合には時計回りに延びる。
【0026】
供給空気流が基材の移動の方向の方向成分を有する他の場合には、供給空気流は、排出空気流の空間的上流に配置され、排出空気流において反時計回りの回転方向を有する渦流が形成されるリスクがある。
【0027】
(iii)渦流が顕著に形成されると、旋回する空気が局所的に安定しかつ結合してしまい、それに伴って、空気の交換が少なくなる、いわゆるデッドゾーンが生じ、これにより、効果的な抜取りが困難になってしまう。したがって、本発明は、排出空気流を複数の副流に分割して、それぞれの副流を個々の吸気通路に供給することを実現している。各副流に正確に1つの吸気通路が割り当てられ、各副流は、正確に1つの吸気通路を介して抜き取られる。
【0028】
排出空気流を複数の副流に分割することにより、渦流形成を低減することができることが判った。形成される空気渦流は吸気通路に振り分けられ、これにより、少なくとも部分的に消失する。これにより、効果的で省エネルギーでの抜取りおよび空気消費量の低減が可能になる。
【0029】
本発明による方法では、こうした手段により、少ないエネルギー消費と併せて、高速かつ効果的な基材の乾燥が実現される。さらに、供給空気と排出空気との体積を制御することにより、ガス乱流の程度が制御可能になり、ひいては、乾燥の効果を再現可能に調整することができる。
【0030】
排出空気流を分割することにより、排出空気流の顕著な渦流における空気の交換が少ない区域の形成が抑制される。排出空気流が少なくとも3つの副流に分割されると、有利であると判った。
【0031】
排出空気流の分割が行われる乾燥空間内の複数の局所的な位置において、副流が「排出空気流の渦流」から分岐する。好ましい事例では、これらの位置は、排出空気流の渦流が通常であれば顕著に形成されてしまう場所に位置する。
【0032】
上記に鑑み、吸気通路がそれぞれ、乾燥空間に面した吸気通路吸込み開口を有し、互いに隣接する吸込み開口の位置および向きが、乾燥空間内で異なっていると、好ましいと判った。その結果、副流は、異なる位置および異なる方向で「排出空気流の渦流」から吸い上げられる。
【0033】
設計の観点から、このことは、好ましくは、吸込み開口が、乾燥空間内に突出した空気バッフルによって画定され、規定されることによって実現される。空気バッフルの位置および配向により、吸気開口が規定され、排出空気流の渦流から複数の副流が分岐され、これらの副流に新しい流れ方向が付与される。これを以下では特定の副流の「流入方向」と呼ぶ。
【0034】
吸込み開口のそれぞれは、独自の流入方向を規定し、吸込み開口は、好ましくは、吸込み開口のそれぞれの吸気方向が互いに異なるように配向される。効果的な乾燥を目的として、複数の吸込み開口、特に好ましくは全ての吸込み開口は、これらの吸込み開口の個々の流入方向と、供給空気流の主伝播方向とが、実質的に逆方向に延びるように、すなわち、たとえば0~45度の角度を成すように配向されると、有利であると判った。
【0035】
方法の特に好ましい変形形態では、供給空気流が、長手方向のスリット状のノズル開口から流出して、乾燥させるべき基材にストリップ状に作用し、排出空気流が、スリット状の複数の吸気通路を介して除去されることが特定される。
【0036】
この変化形態では、乾燥空気は、スリット状の入口開口から基材表面に向かって乾燥空間内に流出する。スリット状の入口開口は、たとえば1つの貫通ギャップまたは連続した複数の個々の開口として設計される。この入口開口は、乾燥させるべき基材にストリップ状の表面領域で作用する。吸気通路も選択的にはスリット状であってよく、ひいては、排出空気の副流もそれぞれ、好ましくはストリップ状に形成され、対応する個数のスリット状の吸気通路によって除去されてよい。したがって、複数の平行なストリップ状の排出空気の副流が、好ましくは、ストリップ状の供給空気流に空間的に割り当てられる。
【0037】
乾燥空間は、基材の進行方向に対して横断方向に配置され、乾燥空間の下を移動する基材の幅全体にわたって延在する。したがって、動的に作用する空気により、基材の幅全体を均質に処理しかつ乾燥させることができる。
【0038】
本発明による方法の特に有利な実施形態は、乾燥空間に導入されるガス体積Vinが、プロセスガス量制御システムを使用して、乾燥器モジュールから抜き取られるガス体積Voutよりも少なくなるように調整され、好ましくは1.2×Vin<Vout<1.5×Vinが当てはまる点で優れている。
【0039】
シミュレーションにより、乾燥空間内の顕著な空気渦流に高い流速の排出空気流が形成され、これにより、著しい量の排出空気が基材の入口側および出口側から漏れ出し、このことが、上流のプロセスステップにおける問題および/または環境の汚染に繋がってしまうことが判っている。
【0040】
排出空気流を副流に分割した結果、上で説明したように、乾燥空間内での顕著な空気渦流の形成が回避される。乾燥空気が乾燥空間から漏れ出すことを許容するのではなく、乾燥空気が乾燥空間に吸い込まれる傾向が幾分かあることが好ましい。一方では排出空気流と、供給空気流を介して乾燥空間に流入する空気の量との間の空気バランスおよび基材入口側と出口側とにおける空気バランスは、好ましくは1.2~1.5の体積比が得られるように調整される。理想的には、これにより、乾燥空気が乾燥空間から外部に漏れ出すことが防止される。乾燥器モジュールは、空気循環の点で外部に対して影響を与えない効果を有しており、これは、湿気を含んだ高温の空気が漏れ出すことによって環境が汚染されないことを意味している。つまり、このモジュールは空気圧により封止されている。
【0041】
空気乾燥器モジュールに関して、上述した目的は、冒頭で述べた形態の本発明による空気モジュールから出発して、排出空気ユニットが、複数の吸気通路を備え、これにより、排出空気流が複数の副流に分割され、供給空気ノズルが、排出空気ユニットに面したノズル開口を有することにより達成される。
【0042】
供給空気流は、供給空気ノズルを介して基材表面に向かって傾斜した状態で流出する。したがって、供給空気ノズルのノズル開口は、基材表面に向けられていると同時に排出空気ユニットに向けられている。
【0043】
乾燥空間では、基材の部分的な乾燥および供給空気と排出空気との間の空気交換が行われる。目的は、乾燥空間を可能な限り小さく保つことおよび乾燥空間からの空気の漏れ出しを可能な限り防ぐことである。
【0044】
本発明による乾燥モジュールは、特に以下の態様の組合せの点で優れている。
【0045】
(i)移動する基材に連行され、絡みついた流れ境界層が、基材表面に向けられた供給空気流によって破壊される。ノズルから流出する供給空気流が、基材表面に対して10~85度の角度を成す主伝播方向を有するとき、流れ境界層の破壊が最良の形で達成される。流れ境界層を効果的に破壊することにより、乾燥空間を小さく保つことが可能になる。したがって、たとえば供給空気流の方向にノズルの長手方向軸線が延びているスリット状の供給空気ノズルの事例では、長手方向軸線は、基材の表面に対して30~90度の角度を成す。
【0046】
(ii)供給空気流には、排出空気ユニットが割り当てられ、この排出空気ユニットは、基材の搬送方向に応じて、供給空気流の位置の空間的上流または空間的下流に位置している。それぞれの事例において、供給空気ノズルのノズル開口は、(排出空気ユニットから離れる方向ではなく)排出空気ユニットに向けられている。したがって、基材表面に対して傾斜して流出する供給空気流は、常に排出空気ユニットに向けられた方向成分を有している。
【0047】
供給空気流が基材の移動と逆方向の方向成分を有する場合には、供給空気ユニットが排出空気ユニットの空間的下流に配置されるように、乾燥器モジュールが配向される。供給空気流が基材の移動の方向の方向成分を有する他の場合には、供給空気ユニットが排出空気ユニットの空間的上流に配置されるように、乾燥器モジュールが配向される。
【0048】
(iii)渦流が顕著に形成され、ひいては、乾燥空間内で旋回する空気が局所的に安定しかつ結合してしまうことを防ぐために、本発明は、排出空気ユニットが複数の吸気通路を備え、これらの吸気通路により、排出空気流を複数の副流、好ましくは少なくとも3つの副流に分割して、それぞれの副流を個々の吸気通路に供給することを実現している。各副流に正確に1つの吸気通路が割り当てられ、各副流は、正確に1つの吸気通路を介して抜き取られる。
【0049】
排出空気流を複数の副流に分割することにより、渦流形成を低減することができることが判った。その結果、効果的で省エネルギーの抜取りを小さい乾燥空間容積内で達成することができ、空気消費量が低減する。したがって、本発明による空気乾燥器モジュールは、本発明による方法での使用に適している。
【0050】
吸気通路への排出空気ユニットの分割は、乾燥空間内に空気バッフルが突出し、この空気バッフルが、抜取り通路の吸込み開口の少なくともいくつかを画定しかつ規定することにより、好ましくは設計的な観点から達成される。
【0051】
空気バッフルの位置および向きにより、副流は乾燥空間内の異なる点において分岐される。それぞれの吸気開口は、個々の面法線によって規定される。面法線の方向は、互いに異なっていてよい。それぞれ個々の面法線が、供給空気流の方向に対して90~200度の角度を成すと、好都合であると判った。
【0052】
これは、排出空気流のそれぞれの副流の流入方向と、供給空気流の方向とが、ほぼ逆方向に延びるように、各吸込み開口が配向されることを意味する。
【0053】
空気乾燥器モジュールの特に好ましい実施形態では、空気乾燥器モジュールが、供給空気ユニットと排出空気ユニットとが一体化された空気供給ボックスを備える。
【0054】
この目的のために、空気供給ボックスでは、たとえば、供給空気接続部を有する供給空気室および供給空気ノズルを備える供給空気ユニットと、排出空気接続部を有する抜取り室および吸気通路を備える排出空気ユニットとが、基材処理用の機器内に乾燥器モジュールとして挿入することができる独立した構成要素を形成するように集成される。なお、この場合、この目的のために、機器の他の領域を設計変更する必要はない。さらに、空気供給ボックスは、供給空気ユニットまたは排出空気ユニットに割り当てられるべきファンを備えていてよい。基材の搬送方向に見て、空気供給ボックスの横方向寸法は、好ましい実施形態では100mm未満である。
【0055】
本発明による空気乾燥器モジュールのさらに有利な実施形態では、乾燥空間が、供給空気ノズルが形成される第1の面と、吸気通路が形成される第2の面と、基材とによって画定される。
【0056】
この事例の乾燥空間は、基材搬送方向に沿った断面で見て、実質的に3つの面によって画定され、おおよそ三角形の形状を有している。この乾燥空間は、供給空気ノズルから流出した供給空気が、部分的な渦流を最初に形成して基材に接触した後、再び上昇することができる空気循環を容易にし、この空気循環で供給空気が吸気通路によって効率的に捕捉され、抜き取られることが可能となる。本発明による乾燥器モジュールでは、この手段により、少ないエネルギー消費と併せて、高速かつ効果的な基材の乾燥を実現することができる。効率的な空気管理を考慮して、空気モジュールは、機械内の空間を節約するコンパクトな乾燥器ユニットを成している。供給空気ノズルと基材の表面との間の距離は、好ましくは10mm未満になるように調整することができる。
【0057】
本発明による乾燥器モジュールは、複数の同一のまたは異なる乾燥器モジュールが集成された乾燥器システムの一構成要素とすることができる。
【0058】
プロセス空間を通って搬送方向に移動する基材を乾燥させるための乾燥器システムに関して、上述した技術的な問題は、本発明によれば、前方空気交換器ユニットおよび/または後方空気交換器ユニットが、それぞれ本発明による少なくとも1つの空気乾燥器モジュールを備えることで解決される。
【0059】
本発明による乾燥器システムは、たとえば赤外線乾燥器モジュールとして設計され、この赤外線乾燥器モジュールでは、実際のプロセス空間が、1つまたは複数の赤外線ランプを備えた照射室を備える。実際のプロセス空間、たとえば照射室は、本発明による少なくとも1つの空気乾燥器モジュールによって画定される。特に好ましい実施形態では、実際のプロセス空間が、本発明による複数の空気乾燥器モジュールによって画定され、これらの乾燥器モジュールが、搬送方向において相並んでかつ/または相前後して配置されてよい。好ましくは、3つの空気乾燥器モジュールが、搬送方向において相前後して配置される。
【0060】
搬送方向においてプロセス室の下流に配置されたそれぞれの後方乾燥器モジュールでは、ノズルからの空気流の方向が、基材の搬送方向と逆方向に向けられる。搬送方向においてプロセス室の上流に配置されたそれぞれの前方乾燥器モジュールでは、ノズルからの空気流の方向が、基材の搬送方向に一致する。
【0061】
乾燥器システムの入口に設けられた前方空気乾燥器モジュールと出口に設けられた後方空気乾燥器モジュールとは、流れ境界層を剥離する機能および基材を乾燥させる機能に加えて、エアカーテンの機能を担い、ひいては、乾燥器システムを空気圧によって外部に対して封止している。照射室と空気乾燥器モジュールとの相互作用により、汚染物質、特に水がプロセス空間に侵入し、乾燥器システムからガスを放出するリスクが低減される。これにより、プロセス空間の含水量を特に低くすることができ、乾燥効果が改善され、最適化される。
【0062】
定義
最も単純な事例では、「供給空気」は、大気から取り込まれる空気である。また、供給空気は、合成により生成された、物理的に水分を吸収することができるガスおよびガス混合物を含んでもよい。また、供給空気は、基材を化学的に乾燥させるための反応性物質を含んでもよい。乾燥効率を向上させるために、好ましくは、供給空気は70~90℃の範囲の温度に予熱される。
【0063】
「吸気通路」により、排出空気は乾燥空間から流出する。吸気通路の「吸込み開口」とは、通路縁部によって画定された面であって、吸い込まれた排出空気が吸気通路に流入する面を意味すると理解される。吸気通路は、共通の抜取り室に通じていてよい。
【0064】
「空間的下流に配置され」および「空間的上流に配置され」という用語は、基材の搬送方向に見たときの配置に関する。
【0065】
基材の搬送方向の方向成分を有する供給空気流は、基材の搬送方向の方向成分を有する主伝播方向を有している。したがって、基材の搬送方向と逆方向の、ゼロよりも大きい方向成分を有する供給空気流は、その主伝播方向が、基材の搬送方向と逆方向の、ゼロよりも大きい方向成分を有する供給空気流である。主伝播方向は、乾燥空間に入った直後に付与される(乾燥空間内の流れ条件による影響をまだ受けていない)供給空気流の流れ方向である。図2に概略的に示す実施形態では、この方向が、供給空気ノズル25の長手方向軸線25aによって付与される。
【0066】
本発明を例示的な実施形態を参照しながら以下でより詳細に説明する。個々の図面には、以下の概略図が示してある。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】処理すべき基材の搬送方向に沿った本発明による空気乾燥器モジュールの実施形態の断面図である。
図2】乾燥空間内部の流れ挙動を詳細に示す空気乾燥器モジュールの断面図である。
図3】処理すべき基材の搬送方向に沿った本発明による空気乾燥器モジュールのさらなる実施形態の断面図である。
図4】被印刷基材の搬送方向の長手方向区分に本発明による空気乾燥器モジュールを備える赤外線乾燥器システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
図4に概略的に示す赤外線乾燥器モジュール1の実施形態では、ケーシング2が、被印刷基材3(=基材)用の処理空間(=プロセス空間)を取り囲んでいて、(搬送方向5に見て)以下の構成要素、すなわち、独自のケーシング10を有する前方の空気交換器ユニット6および付加的な空気バッフル6aと、実質的に搬送方向5に延びる長手方向軸線8aを有しかつ互いに平行に配置された18個の赤外線ランプ8を備えた赤外線照射室9と、独自のケーシング10を有する後方の空気交換器ユニット7とを有している。照射室9内に記してある方向を示す矢印20は、被印刷基材3の表面に向けられた空気流を示し、方向を示す矢印21は、被印刷基材3から離れる方向に向けられた空気流を示し、矢印22は、これらの空気流の間の相互作用を示している。
【0069】
乾燥器システムでは、たとえば複数の乾燥器モジュール1が、搬送方向5に見て相並んでかつ相前後して対を成して配置される。相並んで配置された乾燥器モジュール1の各対は、印刷機の最大サイズ幅をカバーする。被印刷基材の寸法および色の割り当てに応じて、乾燥器モジュール1および個々の赤外線ランプは、電気的に別々に制御されてよい。
【0070】
空気交換器ユニット6,7はそれぞれ独自のケーシング10を備えており、乾燥器モジュール1のケーシングに分離可能に挿入される。空気交換器ユニット6,7は、同一の構造のものであるが、空気交換器ユニット6では、供給空気側が排出空気側の上流にあり、空気交換器ユニット7では、それが逆である。乾燥器モジュール1の出口では、3つの空気交換器ユニット7が1つのグループに集成されており、最後の空気交換器ユニット7には終端空気バッフル7aが設けられる。同時に、空気交換器ユニット6,7は、本発明の意味における空気乾燥器モジュールを形成する。図1図3を参照しながら、これらを以下でより詳細に説明する。これらの図において図4と同じ参照符号が使用される場合、それらの符号は、赤外線乾燥器モジュール1の記載に関して上で説明したのと同一の、またはそれらに等しい構成要素および部品を指す。
【0071】
図1に示す単一の空気乾燥器モジュール6の断面図は、2つに分かれたボックス状のケーシング10を備えており、このケーシング10は、供給空気ライン(供給空気通路)において、上側供給空気室13と、中間供給空気室14と、下側供給空気室15とを取り囲み、排出空気ライン(吸気通路)において、下側排出空気室16と、中間排出空気室17と、上側排出空気室18とを取り囲む。
【0072】
上側の供給空気室13はファン19に接続されており、このファン19により、乾燥した供給空気が体積Vinで制御されながら供給空気ラインに導入される。同様に、上側排出空気室18もファン(図示せず)に接続されており、このファンにより、湿った排出空気が体積Voutで制御されながら排出空気ラインから除去される。ここで、乾燥器モジュール6,7のプロセスガス量制御は、1.2×Vin<Vout<1.5×Vinになるように規定される。これは、乾燥器モジュール6,7が、名目上、抜取りシステム(extraction system)を介して放出されるもの以外のいかなる他の体積のガスも環境中に放出しないという意味で、空気圧的に中立であることを意味する。反対に、ある特定の体積の外部空気(供給空気の体積を基準として約20~50%)が、乾燥モジュールに吸い込まれる。外部空気が流入する効果を、流れ矢印37を用いて図2に示す。
【0073】
上側供給空気室(13)と中間供給空気室(14)との間に、前方孔付き板23が位置しており、中供給空気室(23)と下供給空気室(24)との間に、後方孔付き板24が位置している。前方孔付き板23は、第1の平均開口断面A1を有する第1の数N1の供給空気通過開口を有し、後方孔付き板24には、第2の数N2の供給空気通過開口が設けられており、これらの通過開口は孔付き板24にわたって均一に分配され、第2の平均開口断面A2を有している。なお、N2>N1であり、A1>A2である。前方孔付き板23は、供給空気体積を後方孔付き板24に沿って均一に分配し、次いで、後方孔付き板24は、供給空気をスリット状の空気出口ノズル25に沿って均一に分配する役割を果たす。
【0074】
下側供給空気室15は、スリット状の空気出口ノズル25に接続されており、空気出口ノズルの長手方向軸線25aは、乾燥させる基材(被印刷基材3)の表面に対して30度の角度αを成している。スリット状の空気出口ノズル25により、長手方向軸線25の方向に主伝播方向を有する供給空気流が基材表面に伝わり、乾燥空間26において基材(3)を乾燥させるように作用する。
【0075】
乾燥空間26から、湿分を含んだプロセス空気が下側排出空気室16に流入する。下側排出空気室16と中間排出空気室17との間に、第2の前方孔付き板28が位置しており、中間排出空気室(17)と上側排出空気室(18)との間に、第2の後方孔付き板29が位置している。第2の前方孔付き板28は、第1の平均開口断面A3を有する第1の数N3の排出空気通過開口を有し、第2の後方孔付き板29には、第2の数N4の排出空気通過開口が設けられており、これらの通過開口は孔付き板29にわたって均一に分配され、第2の平均開口断面A4を有している。なお、N4>N3であり、A3>A4である。第2の前方孔付き板28のパーフォレーション孔は、下側排出空気室16の長さにわたって可能な限り均一な内圧が得られるように設計される。
【0076】
移動する基材(3)に連行され、絡みついた流れ境界層が、基材表面に向けられた供給空気流によって破壊される。供給空気流の方向が、基材(3)の移動の方向5の方向成分または移動の方向と逆方向の方向成分を有することにより、流体力学的な層流境界層が乱されるか、低減されるか、または剥離すらされ、これに伴い、物質移動、特に基材(3)および乾燥空間26からの湿分の除去が改善される。
【0077】
このためには、基材3に対して傾斜して流れる供給空気の流れ方向(長手方向軸線25aの方向の主伝播方向)が重要であるとともに、基材の搬送方向に応じて、供給空気流の位置の空間的上流または空間的下流に位置する抜取りシステムによる排出空気流の分割が重要である。それぞれの場合、基材表面に対して傾斜して延びる供給空気流が、排出空気側に向けられている。乾燥空間26は、図示の断面において実質的に三角形の形状を有している。
【0078】
図1は、供給空気流が基材3の搬送方向とは逆の流れ方向成分を有する事例を示している。ここで、供給空気流は、搬送方向において排出空気流よりも空間的下流に配置される。流入角度αと、対向する抜取りシステムとの結果、方向を示す矢印27によって示したように、流入する乾燥空気と流出する乾燥空気との渦流形成が始まる。形成される空気渦流27の回転方向は、時計回りに延びる。顕著な渦流形成を防止するために、排出空気流が、空気バッフル30,31を用いて複数の副流に分割される。図2から判るように、空気バッフル30,31は、形成される空気渦流の回転方向に対向する方向に折り曲げられ、合計3つの副流用の個々の吸気通路41,42,43を形成する。
【0079】
渦流形成は、排出空気流を複数の副流に分割することによって低減され、最初に形成される空気渦流は、吸気通路41,42,43に振り分けられる。乾燥室26内の流れ挙動が、流れ矢印37,38,39によって概略的に示されており、乾燥空間26に流入する供給空気が参照符号38によって示されており、方向転換後の排出空気が参照符号39によって示されている。それらから独立して流入する外部空気は、参照符号37によって示されている。
【0080】
排出空気流を吸気通路41,42,43に振り分けることは、折り曲げられた空気バッフル30,31によって実現され、これらの空気バッフル30,31は、最初に部分的に形成される空気渦流27内に異なる位置で突出している。バッフルは、吸気通路41,42,43の吸込み開口41a,42a,43a(図面中に破線で示す)を規定する。互いに隣接する吸込み開口41a,42a,43aの位置および向きは、乾燥空間26内で異なっている。その結果、副流は、異なる位置および異なる方向で排出空気流の渦流27から吸い上げられる。それぞれの吸込み開口41a,42a,43aは、個々の面法線によって規定される。面法線は、それぞれ関連する副流が吸気通路41,42,43に流入する方向をおおよそ表している。面法線の方向ひいては流入方向は、互いに異なっており、供給空気流の方向(長手方向軸線25a)に対して約180度±30度の角度を成す。
【0081】
排出空気流の分割が行われる乾燥空間26内の局所的な位置は、排出空気流の渦流27が通常であれば顕著に形成されてしまう場所に位置する。これにより、この渦流が少なくとも部分的に消失し、その結果、排出空気流を分割することにより、顕著な排出空気流の渦流の形成が抑制され、効果的で省エネルギーの抜取りが可能になる。本発明による方法では、こうした手段により、少ないエネルギー消費と併せて、高速かつ効果的な基材3の乾燥が実現される。
【0082】
図3は、図1と同様の本発明による空気乾燥器モジュール7を3つ連続して配置した図である。この配置形態は、たとえば図4による赤外線乾燥器モジュール1の出口において利用される。その結果、被印刷基材3が赤外線乾燥器モジュール1から進出するときに、有毒な物質または他の望ましくない物質が、濾過も制御もされずに、気体または液体の形態でプロセス空間から可能な限り流出しなくなる。
図1
図2
図3
図4