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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】材料を電解加工するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/08 20060101AFI20230807BHJP
   B23H 3/06 20060101ALI20230807BHJP
   B23H 3/02 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B23H3/08
B23H3/06
B23H3/02 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020565894
(86)(22)【出願日】2019-05-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 EP2019063242
(87)【国際公開番号】W WO2019224262
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】102018208299.5
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ユンカー ニルス
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02939825(US,A)
【文献】特開2003-089886(JP,A)
【文献】特開平02-109635(JP,A)
【文献】特公昭48-006376(JP,B1)
【文献】特公昭49-008998(JP,B1)
【文献】特開昭47-026337(JP,A)
【文献】特表2003-512189(JP,A)
【文献】特開昭62-208823(JP,A)
【文献】特開2009-131949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質相及びバインダー相を含む材料を電解加工する方法であって、
a) 直流電源の第1の極に接続された電極を含む水性アルカリ電解質を用意すること;
b) 加工される材料と前記水性アルカリ電解質とを少なくとも部分的に接触させること、但し前記材料が硬質相及びバインダー相を含む;
c) 前記電源の第2の極と前記材料とを電気的に接触させること;
d) 前記材料の電気化学的酸化のために前記直流電源を介して前記材料に、特定のパルスシーケンスを有するパルス電流を供給すること;
前記水性アルカリ電解質は、前記バインダー相の少なくとも1つの金属イオンを錯化するのに適した錯化剤を含有することを特徴とし
前記直流電源が、1ms~50msの範囲のパルス間のパルス休止を有するパルスを供給し、
前記直流電源によって供給される前記パルス電流の前記パルスシーケンスは、前記加工される材料中の前記バインダー相の量に合わせて調整され、これにより、前記水性アルカリ電解質中の前記錯化剤が前記バインダー相上に生成された前記金属イオンを錯体化させる時間が得られ、前記材料を除去する間、前記硬質相からの除去と前記バインダー相からの除去との間の平衡を乱す生成物膜が形成されないようにし、両相を均一に除去する、
方法。
【請求項2】
前記加工される材料は、
i) ビッカース硬度HV10が少なくとも750である前記硬質相を含みさらに/又は
ii) 電気化学的酸化によってアルカリ水溶液中で金属水酸化物を形成するのに適した金属を含む、又はこれからなる前記バインダー相を含
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性アルカリ電解質は、
i) 水酸化物、炭酸塩、アンモニア、アルコラート、アルコールアミン、ケイ酸塩及びこれらの混合物からなる群より選択される塩基を含み;さらに/又は
ii) 前記水性アルカリ電解質の粘度を増加させるための添加剤を含み;さらに/又は
iii) ハロゲン化物を含まない、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水性アルカリ電解質が浴中に設けられるとともに、前記水性アルカリ電解質が前記浴の少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を介して循環される、
請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
電極が使用されることを特徴とし、前記電極が、
i) 金属、金属合金、炭素、導電性プラスチック材料及びこれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含むか、又はそれらからなり;さらに/又は
ii) 機械的に振動する
請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記直流電源が、
i) 0.1 V~50 Vの範囲の電圧を供給し;さらに/又は
ii) 最大400 A/cm 2 範囲の電流密度を供給し;
iii) 最大50 msのパルス長のパルスを供給し;
iv) 1ms~40msの範囲のパルス間のパルス休止を有するパルスを供給する、
請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記錯化剤が、アルコールアミン、アルキルカーボネート、カルボン酸、アンモニア、無機アンモニウム塩、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及びこれらの混合物からなる群から選択される物質、又はそれらからなることを特徴とする、
請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
硬質相及びバインダー相を含む材料を電解加工するための装置であって、
a) 水性アルカリ電解質であって、直流電源の電極と接触し、少なくとも硬質相及びバインダー相を含む材料と領域で接触可能な水性アルカリ電解質;
b)前記電極に電気的に接続される第1の極と、前記材料に電気的に接続され得る第2の極とを有する直流電源であって、前記材料の電気化学的酸化のために、特定のパルスシーケンスを有するパルス電流を前記材料に供給するように調節される直流電源;
を備え、
前記水性アルカリ電解質は、前記バインダー相の少なくとも1つの金属イオンを錯化するのに適した錯化剤を含むことを特徴とし
前記直流電源が、1ms~50msの範囲のパルス間のパルス休止を有するパルスを供給し、
前記直流電源は、前記材料中の前記バインダー相の量に合わせられたパルスシーケンスでパルス電流を供給し、これにより、前記水性アルカリ電解質中の前記錯化剤が前記バインダー相上に生成された前記金属イオンを錯体化させる時間が得られ、前記材料を除去する間、前記硬質相からの除去と前記バインダー相からの除去との間の平衡を乱す生成物膜が形成されないようにし、両相を均一に除去する、
装置。
【請求項9】
前記材料が下記の特性を有する、
i) ビッカース硬度HV10が少なくとも750である前記硬質相を含みさらに/又は
ii) 電気化学的酸化によってアルカリ水溶液中で金属水酸化物を形成するのに適した金属を含む、又はこれからなる前記バインダー相を含
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記水性アルカリ電解質が、
i) 水酸化物、炭酸塩、アンモニア、アルコラート、アルコールアミン、ケイ酸塩及びこれらの混合物からなる群より選択される塩基を含み;さらに/又は
ii) 前記水性アルカリ電解質の粘度を増加させるための添加剤を含み;さらに/又は
iii) ハロゲン化物を含まない、
請求項8又は9に記載の装置。
【請求項11】
前記水性アルカリ電解質が浴中に設けられるとともに、前記水性アルカリ電解質が前記浴の少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を介して循環される、
請求項8~10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記電極が、
i) 金属、金属合金、炭素、導電性プラスチック材料及びこれらの組み合わせからなる群より選択される材料を含むか、又はそれらからなり;さらに/又は
ii) 機械的に振動する
請求項8~11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記直流電源が、
i) 0.1 V~50 Vの範囲の電圧を供給し;さらに/又は
ii) 最大400 A/cm 2 範囲の電流密度を供給し;
iii) 最大50 msのパルス長のパルスを供給し;
iv) 1ms~40msの範囲のパルス間のパルス休止を有するパルスを供給する、
請求項8~12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記錯化剤が、アルコールアミン、アルキルカーボネート、カルボン酸、アンモニア、無機アンモニウム塩、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、及びこれらの混合物からなる群から選択される物質、又はそれらからなることを特徴とする、
請求項8~13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
材料の電気化学的加工のための請求項8~14のいずれかに記載の装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬質相とバインダー相を含む材料を電解加工するための方法及び装置を提供する。本方法は、水性で、アルカリ性で、錯化剤を含む電解質を提供することと、電解質と被加工物を少なくとも部分的に電源に接触させることとからなる。材料の電気化学的酸化のために、電源を介してパルス状の電流が材料に供給され、供給される電流のパルスシーケンスは、加工される材料中のバインダー相の量に適合する。この方法及び装置により、材料の硬質相とバインダー相との両方を均一に除去しながら、バインダー相を含有する材料を加工できる。
【背景技術】
【0002】
硬質金属材料は、機械的方法(切削、研削、研磨)と熱的方法(放電加工、レーザー加工)により加工できることが知られている。
【0003】
このクラスの材料は硬度が高いため(HV10≒750~2800)、機械加工には、主にダイアモンドでコーティングされた工具とダイヤモンドを含有する研磨剤を使用する必要がある。機械加工では、材料に高いエネルギーを投入する。冷却が不十分な場合は材料が変性し、その結果、材料の挙動が損なわれる可能性がある。
【0004】
特に、熱処理中に材料の挙動が損なわれるリスクがある。材料の溶融による除去は、一般に硬質金属材料上に、微小な亀裂を有するとともに単相で固化した溶融物を残す。また、固化した溶融物は、硬質相とバインダー相とからなる硬質で同時に強靭な材料であるという利点をもはや有していない。そのため、通常、熱処理の後に機械研磨による仕上げが行われる。
【0005】
これまで、合金鋼やニッケル基合金には、電解加工(Electrochemical Machining,ECM)を用いることが知られている。
【0006】
しかしながら、硬質金属材料の電解加工の際には、硬質相とバインダー相とが同一部分で材料から除去される、すなわち硬質相とバインダー相との陽極溶解工程を同時に行うという問題がある。硬質相(多くの場合、炭化物、主にタングステンカーバイドからなる)をアルカリ性媒体中で電気化学的に溶解することは可能であるが、バインダー相(多くの場合、金属、主にコバルト、ニッケル又は鉄からなる)を溶解するためには酸性媒体が必要である。
【0007】
これまでに、交流によるいわゆるバイポーラパルスが知られているが、これは交流による周期的な極性反転により、被加工物表面のpH値を周期的に変化させるものである。これにより二相材料の同時溶解ではなく交互の溶解を可能にする。この方法のさらなる欠点は、バイポーラ変調パルスの実行には、正の分極相の間にそれらの陽極溶解を避けるために、不活性材料(例えば黒鉛、白金、金)で作られた対向電極を必要とすることである。
【0008】
又はハロゲン化物又はそのハロゲンガス(例えばCl又は塩素)の酸化作用を介して硬質金属材料から材料を除去するために、ハロゲン含有電解質溶液(例えばNaClを含む電解質溶液)が材料の電解加工に使用されることも知られている。しかし、この方法にも欠点があり、同時に活性化されている電解プロセスによってバインダー相が優先的に溶解されることで、バインダー相に対して非常に集中して溶解が進む。このためバインダー相が硬質相よりも早く溶解し、その結果、後者が粒子の形で溶解マトリックスから溶解する。これにより粗い微細構造が残るため通常は所望の表面仕上げを達成するために機械的に再研磨しなければならない。
【0009】
ハロゲン化物を含まない純粋アルカリ性電解質(例えば、ハロゲン化物を含まないアルカリ水酸化物又はアルカリ炭酸塩の水溶液)のみが使用されている場合、これにより最初に硬質相の陽極溶解が優勢となる。しかし、続く工程ではバインダー相上に電子伝導性の不動態層が形成され、これが水の陽極分解をもたらす結果、特にバインダー相上での材料除去が妨げられ、又は完全に防止される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、硬質相とバインダー相を含む材料の電解加工のための方法及び装置を提供することを課題とし、またこの方法及び装置を用いることで、材料の硬質相とバインダー相を可能な限り長い時間にわたって均等にかつ強力に除去することを可能とする(すなわち,材料の均一な除去が可能となる)ことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題は、請求項1の特徴を有する方法、請求項7の特徴を有する装置、及び請求項15の特徴を有する使用によって解決される。従属請求項は、有利な態様を示すさらなる訓練を示す。
【0012】
本発明によれば、硬質相とバインダー相とを含む材料の電解加工する方法が提供される。この方法は以下のステップからなる。
【0013】
a)電源の第1極に接続された電極を含む、水性の、アルカリ性電解質を準備し;
【0014】
b)被加工材料を水性の、アルカリ性電解質と少なくとも部分的に接触させるが、ここで前記材料が硬質相とバインダー相とを含むものであり;
【0015】
c)電源の第2の極と材料とを電気的に接触させ;
【0016】
d)材料を電気化学的に酸化するための電源を介して材料にパルス状の電流を供給するが、ここでパルス状の電流は特定のパルスシーケンスを有する。
【0017】
この方法では、電解質に錯化剤が含まれており、錯化剤はバインダー相の少なくとも1つの金属イオンを錯化させるのに適しており、このため電源から供給されるパルス電流のパルスシーケンスが、被加工材料中のバインダー相の量(例えば、被加工材料中のバインダー相の体積分率)に適合している。
【0018】
本発明によれば、電解液中の錯化剤の存在により、工程中にバインダー相上に電子伝導性の不動態層が形成されることが防止され、これにより材料の除去が停止される。その結果、錯化剤は、材料の硬質相及びバインダー相からの材料除去を基本的に長期間にわたって確実に行うことができる。
【0019】
また、錯化剤の存在だけでは、長時間にわたって硬質相とバインダー相からの材料の均等な強さの除去を確実にするのに十分ではないことも判明した。特にバインダー相の含有量が多い硬質金属材料では不均一な溶解が観察された。これは、バインダー相上に形成された金属イオンが水とともに生成膜を形成するため、その生成と同じ速度で錯化剤に溶解させることができないためである。
【0020】
本発明による方法では、パルス状に材料に供給される電流と、この方法を実行する間に電源によって供給されるパルスシーケンスとが、加工される材料中のバインダー相の量に合わせて調整されることが、この問題の解決策となる。この方法によって、電解質中の錯化剤がバインダー相上に生成された金属イオンを錯体化するのに十分な時間が得られるため、材料を除去する間、硬質相からの除去とバインダー相からの除去との間の平衡を乱す生成物膜が形成されないようになる。
【0021】
すなわち、本発明の方法により、硬質相とバインダー相の溶解速度を互いに適合することができるため、バインダー相の含有量が多い場合でも、両相を均一に除去できる。パルス変調による電源の分極と電解質中の錯化剤の組み合わせは、材料除去時の相乗効果をもたらす。加工される材料の粗加工と微細加工は、1つの製造工程で実現できる。材料の熱加工プロセスと比較して、本発明による方法は、材料が電解質によって冷却され(例えば、電解質対流及び/又は電解質リンスを介して強化され)、その結果、熱エネルギーの入力が非常に弱く、材料の表面側の溶融が起こらず、溶融物の凝固によるクラックの形成が起こらないという付加的な利点を有する。
【0022】
この方法では、少なくとも750のビッカース硬度HV10、好ましくは750~2,800のビッカース硬度HV10を有する硬質相を含む材料を機械加工に供することができ、この硬質相は、特に好ましくは硬質金属、特に好ましくは炭化タングステン、炭化チタン、窒化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム及びそれらの混合物からなる群から選択される硬質金属、特に炭化タングステンを含むか、又はそれらからなる材料を含む。
【0023】
さらに、この方法では、電気化学的酸化によってアルカリ性水溶液中で金属水酸化物を形成するのに適した金属を含むか、又はそれからなるバインダー相を含む材料を加工するために使用することができ、その金属は、好ましくは遷移金属、特に好ましくはコバルト、ニッケル、鉄又はそれらの混合物、特に好ましくはコバルトを含むか、又はそれからなる。
【0024】
特に、材料は硬質金属材料である。
【0025】
この方法の好ましい実施形態では、塩基を含む水性アルカリ電解質が使用され、この塩基は、水酸化物、炭酸塩、アンモニア、アルコラート、アルコールアミン、ケイ酸塩、及びそれらの混合物からなる群から選択され、水酸化物は、好ましくはアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びこれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくはNaOH、KOH及びその混合物からなる群から選択され、及び/又は炭酸塩は、好ましくはアルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩及びこれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくはNa2CO3、K2CO3及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0026】
この方法では、水性アルカリ電解質を使用することができ、水性アルカリ電解質の粘度を高めるための添加剤、好ましくはポリアルコール、アルコールアミン及びそれらの混合物からなる群から選択される添加剤を含む。添加剤を使用することにより、被加工物の表面の表面粗さを低減できる。
【0027】
好ましい実施形態に係る方法において、ハロゲン化物を含まない水性アルカリ電解質を使用する。このような工程は、電解加工中に電解質からハロゲンガス(例えば、塩素又はフッ素)が放出されないため、より環境負荷が小さく、また工程の実行者のリスクも低減される利点がある。
【0028】
この方法で使用される水性アルカリ電解質は、浴中に導入され、浴の少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を介して循環させることができる。この実施形態は、材料が加工されている場所を冷却することができ、材料から除去された物質を加工が行われている場所から迅速に運び出すことができるという利点がある。
【0029】
この方法では好ましくは、pHが13より高く、特にpHが14以上の水性アルカリ電解質が使用される。ここでの利点は、電解質中に非常に高いOH--濃度が存在することであり、これにより、硬質相上での酸化物形成を防止するための熱力学的条件が確実に得られる。したがって、電流-電圧領域を介した完全な電気化学的制御の下、同時除去ができる。
【0030】
好ましい実施形態では、温度が60℃以下、好ましくは50℃以下、特に好ましくは0℃より高く40℃以下、最も好ましくは10℃~30℃の範囲の温度を有する水性アルカリ電解質が使用され、電解質は、その工程の間、特に電解質の温度制御のための温度制御ユニットを介して前記範囲の温度に維持されることが好ましい。
【0031】
この方法において、金属、金属合金、炭素、導電性プラスチック材料及びこれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むか又はそれからなる電極を使用することができ、ここで、材料は、好ましくは、貴金属、銅、合金鋼、黒鉛、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0032】
さらに、この方法では、機械的に、好ましくはパルス電流のパルスシーケンスに同期して振動する電極(対向電極)を使用することができる。パルスシーケンスに同期して機械的に振動する対向電極によって、電極間隔を調整し、また電解質の対流を起こすことで、高精度で材料の均一な除去を達成することができる。
【0033】
この方法で使用される電源は、直流電源、好ましくはパルス直流電源とすることができ、電極は特に電源の負極に接続され、材料は特に電源の正極に接続されている。
【0034】
直流電源とは、電極が同一極性、すなわち単極性を有する電源のことである。この点では、直流電源は電極が交流極性を持つ交流電源とは異なる。この方法では直流源から放出されるパルス状の電流は、長方形の形状を有することができ、すなわち、長方形のパルスが供給される。
【0035】
本方法に用いられる電源は、0.1~50V、好ましくは2~40V、特に好ましくは4~30V、最も好ましくは6~20V、特に好ましくは8~15Vの範囲の電圧を供給するように設定することができる。
【0036】
さらに、本方法に用いられる電源は、最大400 A/cm2、好ましくは1 A/cm2~300 A/cm2、特に好ましくは10 A/cm2~200 A/cm2、特に好ましくは100 A/cm2~150 A/cm2の範囲の電流密度となるように調整される。
【0037】
また、工程で使用する電源は、最大50 ms、好ましくは0.1 ms~50 ms、特に好ましくは1 ms~40 ms、特に好ましくは10 ms~30 msの範囲のパルス長でパルスを供給するように設定することができる。
【0038】
これとは別に、本方法で使用される電源は、少なくとも0.1 ms、好ましくは1 ms~50 ms、特に好ましくは1 ms~40 ms、特に好ましくは10 ms~30 msの範囲のパルス間のパルス休止を有するパルスを供給するように設定することができる。
【0039】
本方法の好ましい実施形態では、錯化剤は、アルコールアミン、アルキルカーボネート、カルボン酸、アンモニア、無機アンモニウム塩、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン及びそれらの混合物からなる群から選択される物質を含むか、又はそれらから構成される。好ましくは、錯化剤は、アルコールアミンを含むか、又はそれらからなる。
【0040】
本発明によれば、硬質相とバインダー相とを含む材料を電解加工するための装置も提供される。当該装置は、以下を備える。
【0041】
a)電流減の電極に接触し、少なくとも一部の領域において、硬質相及びバインダー相を含む材料と接触可能な(又は接触した)、水性アルカリ性電解質;及び
【0042】
b)電極に電気的に接続された第1の極と、材料に電気的に接続可能な(又は接続された)第2の極とを有する電源であって、前記電源は、材料の電気化学的酸化のために、材料に特定のパルスシーケンスを有するパルス状の電流を供給するように適合されていることを特徴とる電源。
【0043】
装置では、電解液が、バインダー相の少なくとも1つの金属イオンを錯化させることができる錯化剤を含み、電源が、上記加工されるべき材料中のバインダー相の量に適合するパルスシーケンスにてパルス電流を供給するように適合している。
【0044】
材料は、少なくとも750のビッカース硬度HV10、好ましくは750~2,800のビッカース硬度HV10を有する硬質相を含んでもよく、硬質相は、特に好ましくは硬質金属を含むか、又は硬質金属からなり、非常に好ましくは、炭化タングステン、炭化チタン、窒化チタン、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化ジルコニウム、炭化バナジウム、及びそれらの混合物、特に炭化タングステンからなる群から選択される硬質金属を含むか、又は硬質金属からなる。
【0045】
さらに、材料は、電気化学的酸化によってアルカリ性水溶液中で金属水酸化物を形成するのに適した金属を含むか、又はそれらからなるバインダー相を含んでいてもよく、その金属は、好ましくは遷移金属、特に好ましくはコバルト、ニッケル、鉄、又はそれらの混合物、特にコバルトを含むか、又はそれらからなる。
【0046】
特に、材料は硬質金属材料である。
【0047】
水性アルカリ電解質は、水酸化物、炭酸塩、アンモニア、アルコラート、アルコールアミン、ケイ酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択される塩基を含んでもよく、ここで、水酸化物は、好ましくは、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物及びそれらの混合物からなる群から選択される。特に好ましくは、NaOH、KOH及びそれらの混合物からなる群から選択される。さらに/又は炭酸塩は、好ましくは、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択され、特に好ましくは、Na2CO3、K2CO3及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0048】
さらに、上記水性アルカリ電解質は、水性アルカリ電解質の粘度を増加させるための添加剤、好ましくは、ポリアルコール、アルコールアミン及びそれらの混合物からなる群から選択される添加剤を含んでいてもよい。
【0049】
好ましい実施形態では、水性アルカリ性電解質はハロゲン化物を含まない。
【0050】
前記水性アルカリ電解質は、少なくとも1つの流体入口及び少なくとも1つの流体出口を有し、前記水性アルカリ電解質を循環させるように構成された浴に含まれていてもよい。
【0051】
好ましくは、水性アルカリ電解質のpHは13より大きく、特にpH14以上である。その利点は、電解液中に非常に高いOH--濃度が存在することで、硬相への酸化物形成を防止するための熱力学的条件が確実に存在することである。これは、電流-電圧領域を介した同時除去の完全な電気化学的制御を提供します。
【0052】
好ましい実施形態において、水性アルカリ電解質は、60℃以下の範囲の温度、好ましくは50℃以下の範囲の温度、特に好ましくは0℃より高く40℃以下の範囲の温度、特に好ましくは10℃から30℃の範囲の温度を有する。これは、電解質の構成要素(例えば錯化剤)の熱分解が起こらないという利点と関連しており、装置にはより安定した工程を実行させることで、材料を電解加工できる。装置が電解質の性質を調整するための温度制御装置を備えている場合には、この利点がさらに高まる。
【0053】
装置の電極は、金属、金属合金、炭素、導電性プラスチック、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される材料を含むか、又はそれらから構成されてもよく、ここで、材料は、好ましくは、貴金属、銅、合金鋼、黒鉛、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0054】
さらに、装置の電極は、好ましくはパルス電流のパルス列と同期して、機械的に振動可能であってもよい。
【0055】
装置の電源は直流源、好ましくはパルス直流源であり、電極は特に電源の負極に接続され、材料は特に電源の正極に接続されている。直流電源は、矩形状のパルス電流を供給するように構成され、すなわち、矩形状のパルスが供給される。
【0056】
装置の電源は、0.1~50 V、好ましくは2~40 V、特に好ましくは4~30 V、最も好ましくは6~20 V、特に好ましくは8~15 Vの範囲の電圧を供給するように設定されていてもよい。
【0057】
さらに、装置の電源は、最大400 A/cm2、好ましくは1 A/cm2~300 A/cm2、特に好ましくは10 A/cm2~200 A/cm2、特に好ましくは100 A/cm2~150 A/cm2の範囲の電流密度を供給するように設定されていてもよい。
【0058】
また、装置の電源は、最大50 ms、好ましくは0.1 ms~50 ms、特に好ましくは1 ms~40 ms、特に好ましくは10 ms~30 msの範囲のパルス長でパルスを発するように設定されていてもよい。
【0059】
これとは別に、装置の電源は、少なくとも0.1 ms、好ましくは1 ms~50 ms、特に好ましくは1 ms~40 ms、特に好ましくは10 ms~30 msの範囲内のパルス間のパルス休止時間でパルスを放出するように設定されていてもよい。
【0060】
装置の電解質中の錯化剤は、アルコールアミン、アルキルカーボネート、カルボン酸、アンモニア、無機アンモニウム塩、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン及びそれらの混合物からなる群から選択される物質を含むか、又はそれらから構成されていてもよい。好ましくは、錯化剤は、アルコールアミンを含むか、又はそれらからなる。
【0061】
本発明に従った装置の使用は、材料の電解加工に用いられる。
【0062】
以下の図及び以下の実施例に基づいて、本発明の主題を、ここに示された特定の実施形態に限定することを望まずに、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】パルス変調と電解質組成の異なる組み合わせで得られた材料表面の4枚のFESEM(BSE)画像を示す。被加工物はWC30Co、すなわち70wt%のタングステンカーバイドを硬質相として、30wt%のコバルトをバインダー相として混合したものである。直流電圧11ボルトを使用した。図1A及び図1Bは、バインダー相の金属イオンを錯化させるための錯化剤を用いないアルカリ電解質中での加工を示す。図1Aは非パルス直流で WC30Co を加工した結果であり、図1Bはパルス直流でWC30Coを加工した結果である。図1Cに示す結果では、錯化剤入り電解質を使用したが、加工には非パルス直流のみを使用した。図1Dのみが本発明に沿ったWC30Coの加工結果を示しており、WC30Coを、錯化剤を含む電解液に曝露し、パルス直流で加工したものである。
【0064】
図2】電解液中に錯化剤を使用した場合と、直流の種類(「パルス変調」はパルス直流、「直流電圧」は非パルス直流)による炭化物の除去量の違いを示している。
【発明を実施するための形態】
【0065】
実施例-超硬質コバルト系硬質金属を電解加工する工程
【0066】
以下では、硬質相として炭化タングステン(WC)を含有し、バインダー相としてコバルトを含有する硬質金属材料を水性アルカリ電解質中で陽極溶解させる際の化学反応について説明する。
【0067】
硬質相は、反応(1)を介してタングステン酸塩と二酸化炭素に酸化されると仮定することができる(Schubert et al. (2014) Int. Journal of Refractory Metals and Hard Materials, issue 47, p. 54-60)。
【0068】
WC + 7H2O -> WO4 2- + CO3 2- + 14H+ + 10e- (1)
【0069】
WCの過不動態域での(transpassive)溶解の結果、水の分解でWCの単位当たり14倍量のプロトンが発生する。
【0070】
また、バインダー相の溶解も過不動態域でのものと考えられ、この場合の行程は二段階である。アルカリ性媒体中では、まず、反応(2)を介してバインダー相上に薄い電子伝導性の水酸化コバルト(II)層が形成される。
【0071】
Co + 2H2O -> Co(OH)2 + 2H+ + 2e- (2)
【0072】
この不動態層はアルカリ環境下では不溶性であるため、(3)の反応で水が酸素に変換される。
【0073】
2H2O -> 02 + 4H+ + 4e- (3)
【0074】
局所的な酸性化、すなわちH濃度の局所的な増加により、反応(4)に従って不動態層が溶解することがある。
【0075】
Co(OH)2 + 2H+ -> Co2+ + 2H2O (4)
【0076】
実際には、硬質相及びバインダー相の酸化により、電解質溶液が材料との界面で局所的に酸性化する(上記反応(1)及び(2)参照)。しかし、実際の実施形態では、このような局所的な酸性化は、電解質の対流によって防止されており、これは除去工程に必要であり、したがってこれを避けることはない。電解質の対流により、材料との界面は永続的にアルカリ化され、したがって、不動態層を溶解するために必要なH濃度に達しない。
【0077】
したがって、本発明に従う工程及び装置では、例えば反応(5)(ここでの錯化剤はNHである)を介して、不動態層(すなわち、酸化されたバインダー相)の金属イオンを錯化し、それに伴い溶解する電解質が使用される。
【0078】
Co(OH)2 + 6NH3 -> [Co(NH3)6]2+ + 2OH- (5)
【0079】
しかし、水酸化物層からの金属イオンの錯形成には一定の速度が必要である。
【0080】
そのため、硬質相とバインダー相の除去率を調和させるためには、陽極溶解工程を一定時間中断する必要がある。本発明によれば、電源が材料にパルス状の電流を供給し、電源が供給するパルス状の電流のパルスシーケンスが、被加工材料中のバインダー相の量に適合することによって達成される。
【0081】
このように材料の分極がパルス変調によりなされることで、パルス持続時間<ton>及びパルス休止<toff>、ならびにパルス中の電圧振幅<Uon>からなるパルス分極固有のパラメータを適切に調整したものであるか、又はパルスの間、又は電流振幅<Ion>の間、電圧休止<Uoff>又は電流休止<Ioff>の間、除去行程は、それぞれの材料特性(例えば、バインダー相の含有量、硬質相の粒径)に適合させることができる。電圧又は電流(すなわち交流電流)のバイポーラ変調が、錯化添加剤のために必要なわけではない。
図1
図2