(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】充電式電気化学バッテリーセル用の固体イオン伝導体
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20230807BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230807BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20230807BHJP
H01M 10/0563 20100101ALI20230807BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20230807BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230807BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20230807BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/054
H01M10/0563
H01M10/058
H01M4/13
H01M4/139
H01B1/06 A
(21)【出願番号】P 2020570627
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2018086327
(87)【国際公開番号】W WO2019170274
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】102018105271.5
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】520342747
【氏名又は名称】ハイ パフォーマンス バッテリー テクノロジー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハンビッツァー,ギュンター
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/178543(WO,A1)
【文献】米国特許第04362794(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/054
H01M 10/0563
H01M 10/058
H01M 4/13
H01M 4/139
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式K(ASXX’)
p×qSO
2
(式中、Kは、p=1のアルカリ金属の群、p=2のアルカリ土類金属の群またはp=2の亜鉛族の群のカチオンを表し、
Aは、III族典型元素の元素を表し、
Sは、硫黄、セレンまたはテルルを表し、
XおよびX’はハロゲンを表し、
SO
2は二酸化硫黄を表し、
数値qは、0より大きく100以下である)
を有する充電式非水系電気化学バッテリーセル用の固体イオン伝導体。
【請求項2】
前記二酸化硫黄値qが
50未満である、請求項1に記載の固体イオン伝導体。
【請求項3】
XおよびX’が同一のハロゲンを表す、請求項1または2に記載の固体イオン伝導体。
【請求項4】
化学式KAX
4(式中、K、AおよびXが請求項1のように定義される)の物質を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の固体イオン伝導体。
【請求項5】
負極および正極と、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体イオン伝導体とを含む、充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項6】
前記固体イオン伝導体が、前記負極の中および/または上に含まれない、請求項5に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項7】
前記固体イオン伝導体が、前記正極の中および/または上に含まれない、請求項5に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項8】
最初に、
10%(w/w)未満の前記固体イオン伝導体を液体電解質として含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項9】
遊離SO
2を気体状態でのみ含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項10】
前記バッテリーセルは、前記正極と前記負極との間に配置された絶縁体またはセパレーターに、および/または中空の空間に、前記固体イオン伝導体を含有する、請求項5~9のいずれか1項に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項11】
前記正極または前記負極の多孔度が、
25%未満である、請求項5~10のいずれか1項に記載の充電式非水系電気化学バッテリーセル。
【請求項12】
筐体と、請求項5~11のいずれか1項に記載の少なくとも1つのバッテリーセルとを含む、充電式非水系電気化学バッテリー。
【請求項13】
筐体と、前記筐体内に配置された少なくとも負極と正極一つずつとを備え、
前記負極または前記正極に硫化リチウムが導入された、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体イオン伝導体を有する充電式非水系バッテリーを製造するための方法であって、
前記筐体に、液体電解質を充填することを含む、方法。
【請求項14】
前記液体電解質は、テトラクロロアルミン酸リチウムと二酸化硫黄の溶媒和物を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記硫化リチウムをバインダーと混合する工程と、
前記混合物の層を、少なくとも1つの電極に形成する工程と、
前記層を有する前記電極を、前記バッテリーの前記筐体に導入する工程と、を含む、
請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
筐体と、前記筐体内に配置された少なくとも負極および正極一つずつとを備え、好ましくは前記電極の少なくとも1つの中または上に、硫化リチウムおよび液体電解質の伝導性の塩もしくはそれらの前駆体または塩化アルミニウムが前記筐体に導入された、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体イオン伝導体を有する充電式非水系バッテリーを製造するための方法であって、
前記筐体に、液体の二酸化硫黄を充填することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極を有する、充電式非水系電気化学バッテリーセル用の固体イオン伝導体と、少なくとも1つのバッテリーセルで構成されるバッテリーとに関する。文献では、固体イオン伝導体は、固体電解質と呼ばれることもある。
【背景技術】
【0002】
充電式バッテリーは多くの技術分野で極めて重要であり、携帯電話やノートパソコン、電気自動車などのモバイル用途に用いられることも多い。
【0003】
また、電力系統の安定化、電力系統のバッファリング、分散型エネルギー供給などの据え置き用途のためのバッテリー用としても、大きな需要がある。
【0004】
特に以下の要件を満たす、改良された充電式バッテリーに、大きな需要がある。
【0005】
-不燃性であるがゆえに安全である
-耐用寿命すなわち、寿命の日数が長い
-サイクル寿命が長い、すなわち、取り出せる電流が多い電流密度の高い状態であっても、使用できる充電と放電のサイクル数が極めて多い
-寿命の最初から最後までエネルギー効率が良い
-電気性能データが極めて良好であり、特に比エネルギー量(Wh/kg)が大きいか、または
-同時高出力密度(W/l)でのエネルギー密度(Wh/l)が高い
-温度が高めの環境でも動作可能にするために、室温でのセルの内圧が可能なかぎり低い
-高出力密度を保証するために、低温であっても、内部抵抗が可能なかぎり小さい
-製造コストが可能なかぎり低い、すなわち、コスト効率が良く容易に入手可能な材料を用いるのが好ましい
-バッテリーから取り出されるkWh当たりのコストが低い
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
充電式バッテリー、特に不燃性を達成するために二酸化硫黄を含有する液体電解質を含むものが、WO00/79631から知られている。このようなバッテリーは、特に、WO2015/067795およびWO2005031908に記載され、活性金属としてコバルト酸リチウムまたはリン酸鉄リチウムが提案されている。特に、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)と二酸化硫黄(SO2)から作られる液体溶媒和物(LiAlCl4×nSO2)が電解質として用いられ、溶媒和数n=1.5の場合に、SO2の蒸気圧が0.1bar未満になり、n>=4.5になると、2barを超える。この化学式および以下の化学式において、文字「×」は乗算を意味する。溶媒和数nは、正の実数の要素である。このようなSO2含有電解質は、塩化リチウム、塩化アルミニウムおよび二酸化硫黄から、従来の方法で製造することができる。これに付随する製造方法では、特に得られる液体電解質の乾燥が目標とされている。すなわち、製造される電解質には、化学的に変換される水を含めて、形態を問わず、水分含有量が可能なかぎり少ないことが想定されている。この方法では、製造に必要な物質、特に極めて吸湿性の高い塩化リチウムまたは塩化リチウムと塩化アルミニウムの混合物または溶融物を乾燥させるために、相当に複雑なプロセスが求められる。
【0007】
文献(博士論文Koslowski, Bernd-F.: “Radiographical and vibrational spectroscopic tests on solvates of the type MAlCl4/SO2 [MAlCl-SO] (M=Li, Na) and their interactions with aromatics" (Hannover, Univ., school for mathematics and natural science, diss., 1980)には、LiAlCl4とnSO2の液体溶媒和物が記載され、この溶媒和物は、特定のnおよび規定の温度で、固体溶媒和物としての結晶を形成するため、溶液から析出する。一例がLiAlCl4×3.0SO2であり、これは結晶化したり約29℃で再び溶融したりすることができる。しかしながら、これらのテトラクロロアルミン酸リチウムと二酸化硫黄の固体溶媒和物では、実用上、イオン伝導率をまったく検出できない。
【0008】
テトラクロロアルミン酸リチウムと二酸化硫黄のSO2含有電解液では、金属リチウムに対して(vs.Li/Li+)電位が測定され、これは、液体電解質に浸漬する。
【0009】
WO2017/178543 A1に記載されているように、SO2含有電解液を用いたそのようなバッテリーセルでは、グラファイトの表面などの負極の表面において、3V vs.Li/Li+以下の電位で二酸化硫黄から亜ジチオン酸リチウムへの還元が生じる。亜ジチオン酸リチウムからなるそのようなカバー層は、リチウムが沈殿するまでは安定している。しかしながら、この層の亜ジチオン酸リチウムが化学的に変換されると、二酸化硫黄の還元がゆえ、負極の電位が約3.0V vs.Li/Li+未満であるかぎり、それは負極の表面に再びすみやかに生じる。
【0010】
自己放電反応として知られる、亜ジチオン酸リチウムのこの反応は、溶解した伝導性塩のアニオンの自己解離から始まり、その後、リチウムイオン、電荷量、二酸化硫黄およびテトラクロロアルミ化の消費につながる。そのような従来のバッテリーセルの寿命の最後までバッテリーセルに十分な液体電解質が存在するようにするために、そのような従来のバッテリーには、最初に、それに応じた大量の液体電解質が充填される。
【0011】
上述した自己放電反応には、液体電解質としてLiAlCl4×nSO2が充填されたバッテリーに、最初の充電サイクルから開始して、極めて大きな容量損失が生じるという影響がある。そのような従来のバッテリーでは、前記反応と、これに付随するリチウムイオンまたは電荷量の消費がゆえ、製造時には通常、負の活性質量よりも多い、通常は2倍の量で正の活性質量が導入される。自己放電反応とは、そのような従来のバッテリーの容量が、最初の数サイクルでほぼ半分になることを意味する。このため、このタイプのバッテリーでは、市場で流通する前に充電と放電のサイクルが頻繁に繰り返され、結果的に、事前に充放電されたバッテリーでは、もはや容量の大幅低下が起こることはない。多くの場合、そのような事前に充放電されたバッテリーの残りの容量が、100%または公称容量として規定される。さらに充放電を繰り返す際、50,000サイクルを超えると、公称容量の例えば30%の限界値まで容量が低下する。最初の充電から開始して、バッテリーの内部抵抗は、サイクル全体でわずかに上昇するのみである。
【0012】
本願発明者の知識によれば、容量低下に伴って、以下のトータルグロス(total gross)反応が起こる。
【0013】
時間の経過とともに、沈殿しているアルミン酸リチウム(LiAlO
2)、最初に電解質中で形成されて電解質に溶解したオキソジクロロアルミン酸リチウム(LiAlOCl
2)、電解質に溶解しているテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4)が、次のように平衡状態になる。
【0014】
上記の充放電を繰り返したバッテリーの容量低下の計算から、すべてのテトラクロロアルミン酸イオン(AlCl4
-)が変換されるまで、反応が続くことになる。(式II)によれば、テトラクロロアルミン酸イオンが消費されてしまうと、中程度に溶解性のオキソジクロロアルミン酸は存在しなくなり、完全に、不溶性のアルミン酸リチウムに変換されてしまっている。すべてのテトラクロロアルミン酸イオンの変換による容量の減少を比較的小さく保つために、二酸化硫黄を豊富に含有する液体電解質、例えば、LiAlCl
4×6SO
2が注入される。これは、室温で、二酸化硫黄の蒸気圧が数バールと相応に高い。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従来技術のこれらの欠点から進んで、本発明が対処する課題は、バッテリーセル用の固体電解質としての固体イオン伝導体を提供することであり、これは、先行技術に関連して説明した課題を解決するか、少なくとも軽減する。
【0016】
本発明によれば、この課題は、独立請求項に定義された主題によって解決され、引用請求項には、好ましい実施形態が記載されている。
【0017】
以下、添付の概略図を参照して、本発明がより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、筐体2と、少なくとも1つのバッテリーセル3とを含む充電式バッテリー1の概略図を示し、バッテリーセル3は、正極4および負極5を有する。それぞれの放電要素を介して、電極4および5は、バッテリー技術で一般的な電極接続によって接点7および8に接続され、これにより、バッテリーを充電または放電することができる。さらに、バッテリーセルは、電解質として、少なくとも以下に述べる固体イオン伝導体を含む。
【0020】
固体イオン伝導体は固体であり、そこでは、少なくとも1つのタイプのイオンの移動性が極めて高いため、これらのイオンによって運ばれる電流が流れることができる。固体イオン伝導体は電気的に伝導性であるが、金属とは異なり、電子伝導性はほとんどないか、まったくない。
【0021】
驚くべきことに、二酸化硫黄を含有する固体化合物、特に、好ましい二酸化硫黄含有チオジクロロアルミン酸リチウム(LiAlSCl2×qSO2)には、液体のSO2含有電解質に匹敵する高いリチウムイオン伝導率を有する、優れた固体イオン伝導体があることがわかっている。SO2含有固体イオン伝導体は、SO2の圧力が低く、活性成分の結合が良好で、バッテリーセルを開くときなどに湿気と激しく反応する電解質成分や二酸化硫黄の放出が大幅に少ないため、このような固体イオン伝導体を有するバッテリーセルは、本質的に安全である。
【0022】
正の活性質量は、どのようなタイプであってもよく、好ましくは、LiCoO2、LiNiFeCoO2またはLi3V3O8などのリチウム金属酸化物、あるいはLiFePO4などのリチウム金属リン酸塩、あるいは硫化リチウムすなわち、Li2Sを使用することができ、エネルギー密度が高いことから、硫化リチウムが特に好ましい。負の活性質量も、どのようなタイプであってもよく、好ましくは、グラファイト、別のタイプの炭素、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12、LTO)またはケイ素(Si)を使用することができる。
【0023】
第1の実施形態では、バッテリーセルは、化学式[K(ASX2)p×qSO2]の固体イオン伝導体を含む。第2の実施形態では、バッテリーセルは、化学式[K(ASXX’)p×qSO2]の固体イオン伝導体を含む。どちらの実施形態でも、略字Kは、アルカリ金属(特に、Li、Na、K、Rb、Cs)もしくはアルカリ土類金属(特に、Be、Mg、Ca、Sr、Ba)または亜鉛族(すなわち、周期表の第12族、特にZn、Cd、Hg)の群のカチオンを表す。Kがアルカリ金属の群から選択される場合、p=1である。Kがアルカリ土類金属または亜鉛族の群から選択される場合、p=2である。略字Aは、周期表のIII族典型元素の元素、特にホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウムまたはタリウムを表す。略字Sは、硫黄、セレンまたはテルルを表し、SO2のSは硫黄だけを表す。数値qは、正の実数の要素である。固体イオン伝導体の第1および第2の実施形態のいずれにおいても、X(アポストロフィなし)は、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表す。第2の実施形態の固体イオン伝導体の化学式におけるX’も、ハロゲン、特にフッ素、塩素、臭素またはヨウ素を表すが、ハロゲンX(アポストロフェなし)とは異なるハロゲンであるため、第2の実施形態の固体イオン伝導体は、2種類のハロゲンの組み合わせを有する。
【0024】
どちらの実施形態においても、KがLiを表すことが好ましい。第1の実施形態では、固体イオン伝導体が化学式LiAlSCl2×qSO2であると特に好ましい、すなわち、固体イオン伝導体は、好ましくは、二酸化硫黄を含有する固体のチオジクロロアルミン酸リチウムである。
【0025】
一般性を失うことなく、二酸化硫黄を含有する固体のチオジクロロアルミン酸リチウムの第1の実施形態を使用して、固体イオン伝導体の特徴を以下に説明すべきである。ここで、この説明は、第2の実施形態による固体イオン伝導体にも適用される。
【0026】
驚くべきことに、この固体イオン伝導体は二酸化硫黄を吸収して再び放出するため、この固体イオン伝導体は、二酸化硫黄を可逆的に吸収する。二酸化硫黄を含有する固体のチオジクロロアルミン酸リチウムは、固定の二酸化硫黄値qとの平衡に達するまで、温度と二酸化硫黄の圧力に基づいて二酸化硫黄を吸収または放出する。ここで、qは、圧力と温度に依存する。本発明者の結果によれば、固体イオン伝導体によるSO2の吸収および放出は可逆的であり、固体イオン伝導体の二酸化硫黄値qは、任意の正の値に設定することができる。固体の非イオン伝導性溶媒和物LiAlCl4×nSO2とは対照的に、固体イオン伝導体には、1.0、1.5、3.0などの固定のnがなく、これは、適切な温度で固体として沈殿する。代わりに、先の知見によれば、固体のLiAlSCl2×qSO2の二酸化硫黄値qには、広い範囲で、0より大きくq≒100までのほぼすべての値をとることができると考えられる。
【0027】
一般に、固体イオン伝導体の二酸化硫黄値qは、温度の低下とSO2ガス圧の上昇に伴って大きくなる。LiAlSCl2×qSO2の固相に加えて、イオン含有液体および気体SO2相も、動作時にバッテリーまたはバッテリーセルに存在することができ、イオンは、例えば、Li+イオンおよびAlSCl2イオンであってもよい。したがって、液体および気体のSO2相、すなわち、固体イオン伝導体に結合していない二酸化硫黄は、遊離のSO2である。
【0028】
-10℃の温度では、液相より上の二酸化硫黄の蒸気圧は、約1barである。温度の低下とともに、伝導性の塩であるLiAlSCl2の溶解度が低下する。液相は、5molのSO2中に約0.05molの本質的に沈殿した固体LiAlSCl2×qSO2を含む反応器内に、-30℃の温度でまだ存在するため、最大の二酸化硫黄値qは、q≦100と推定できる。
【0029】
したがって、19℃および約3~4barのSO2圧において、バッテリーセルまたはバッテリーは、純粋な固体イオン伝導体LiAlSCl2×~4SO2を含むことができる。ここで、記号「~」は「約」を意味し、SO2気相およびLiAlSC2の約0.4モルの溶液も意味する。
【0030】
液相がなくなると、一定温度で固定された二酸化硫黄値qで、固体イオン伝導体と気体SO2とが平衡状態になる。気体状のSO2が除去されてSO2の圧力が低下すると、固体イオン伝導体の二酸化硫黄値qも小さくなる。固体イオン伝導体における二酸化硫黄の拡散は比較的遅いため、固体イオン伝導体の層の厚さに応じて、安定した平衡が確立されるまでには数分から数日を要する。19℃および3.1barのSO2ガス圧(すなわち、常圧より2.1bar高い)で、固体イオン伝導体で二酸化硫黄値q=3.2が確立されることが測定された。したがって、この固体イオン伝導体の式は、LiAlSCl2×3.2SO2になる。気相のSO2圧が2.5barまで低下すると、式LiAlSCl2×2.1SO2の固体イオン伝導体が19℃で存在する。19℃で圧力1.3barまで気体状のSO2がさらに除去されると、二酸化硫黄値が1.7に下がり、LiAlSCl2×1.7SO2になる。
【0031】
上記の例で最後に除去された量のSO2を再び追加すると、平衡圧が再び2.5barになり、固体イオン伝導体も再び式LiAlSCl2×2.1SO2になる。SO2の量を変えずに温度を上げると、SO2圧が上昇し、二酸化硫黄値が小さくなる。すなわち、約45℃および圧力3.5barでLiAlSCl2×1.8SO2、100℃および圧力4.2barでLiAlSCl2×1.5SO2である。
【0032】
したがって、二酸化硫黄値qすなわち、対応する気体状の二酸化硫黄の添加または除去によって、液体電解質溶液を含まないバッテリーセルまたはバッテリーの内圧を設定することができる。それに応じて、イオン内部抵抗を変えることもできる。二酸化硫黄値qは、バッテリーの動作温度範囲に固体イオン伝導体および気体状の二酸化硫黄だけが存在するように低く設定されると好ましい。内部抵抗の要件に応じて、バッテリーセルまたはバッテリーの内圧をできるだけ低く保つために、二酸化硫黄値qをできるだけ低くする必要がある。少なくとも動作温度範囲において、理想的にはバッテリーセルの全温度範囲において、例えばセルが保管されているだけの場合であっても、液体二酸化硫黄がなく気体状のSO2だけになる、すなわち、バッテリーに遊離SO2と固体イオン伝導体が存在するように、SO2値qが低く設定されると好ましい。
【0033】
したがって、LiAlSCl2×qSO2の二酸化硫黄値qは、上記の測定からの推定によれば、100以下、好ましくは50未満、より好ましくは10未満、より好ましくは5未満、特に好ましくは2未満であるということになる。バッテリーセルでの値q=1.5の室温では、SO2圧を1bar未満にしておく必要がある、すなわち、もはや過剰な圧力があってはならない。
【0034】
固体イオン伝導体は、元素としての酸素と反応する。分子としての酸素は、チオジクロロアルミン酸リチウムの硫黄を酸化レベル-2から元素の硫黄まで酸化する。
【0035】
十分な酸素が存在する場合、高度に分散した硫黄もさらに酸化されて、二酸化硫黄になる可能性がある。
【0036】
固体イオン伝導体は、O2-アニオンまたはO2-含有物質(以下、O2-イオンと呼ぶ)とも反応する。この場合、テトラクロロアルミ化が存在する場合および存在する限り、これが最初に変換され、続いて、まずは固体イオン伝導体が変換される。
【0037】
バッテリーセル内のO2-イオンの供給源として、多数の酸素含有化合物が考慮されている。O2-イオンのそのような供給源は、例えば、酸化リチウムLi2Oなどの直接酸化物または水酸化物であるが、水であってもよい。また、O2-イオンは、例えば還元的に、例えば最初の充電中に、表面に例えばヒドロキシル基またはカルボニル酸素基が存在するグラファイトを還元することによって生成することができる。
【0038】
熱力学的理由から、O2-イオンは最初にテトラクロロアルミ化と反応してオキソジクロロアルミネートを形成する。これは、反応(式II)によって、アルミン酸リチウムおよびテトラクロロアルミン酸リチウムと平衡状態にある。
【0039】
一実施形態では、固体イオン伝導体を有するバッテリーセルに水酸化物イオンを加えると都合がよい。これは、例えば電極の製造時にグラファイトを添加して微粉末の水酸化リチウムと混合することによって、グラファイト負極の表面に水酸化物イオンを添加するという点で達成可能である。微粉末の水酸化リチウムは、例えば、最初の充電中に炭素を還元することによって水酸化物イオンの供給源として作用する、グラファイト上に存在するヒドロキシル基の量を、かなり大きく超える量で、グラファイトに添加される。(式II)を考慮に入れて、添加される量のLiAlCl4またはAlCl3を適切に寸法決めすることにより、後述するように、バッテリーセルに固体イオン伝導体を充填する後の工程で、存在するすべての水酸化物またはヒドロキシル基が、確実に変換される。
【0040】
次に、水酸化物またはヒドロキシル基の水素原子を、バッテリーセルから除去することができる。この目的のために、特にバッテリーセルまたはバッテリーに固体イオン伝導体を充填する前または充填時に、さらに多くの二酸化硫黄をバッテリーセルに加えるようにすればよい。その上で、バッテリーを最初に充電した後に、この過剰な二酸化硫黄を除去すると好ましい。なぜなら、最初の充電時、水酸化物イオンまたはヒドロキシル基から形成されるプロトンが、水素に還元されるからである。その後、それらはバッテリーセルから除去され、これは、過剰な二酸化硫黄で、例えば-30℃まで冷却される。このようにして、水素原子を分子水素として化合物から除去してバッテリーまたはバッテリーセルから除去することができるため、理想的には、完成したバッテリーセルに、水酸化物またはヒドロキシル基は含まれなくなる。
【0041】
式(1I)によるテトラクロロアルミネートイオンが事実上すべて使い尽くされた場合のみ、O2-イオンによる、固体の二酸化硫黄含有チオジクロロアルミン酸リチウムから硫化リチウム、アルミン酸リチウムおよび塩化リチウムへの変換が、以下のトータルグロス(total gross)式から開始される。
【0042】
このように、二酸化硫黄に難溶性である生成物が形成される。テトラクロロアルミネートが不足しているため、硫化リチウムがさらに反応することはない。
【0043】
特に、少なくともすべてのO2-イオンが使い尽くされた後、バッテリーセルが、化学式KAX4の物質を含まず、特にLiAlCl4を含まない実施形態が好ましい。ここで、略字K、AおよびXは、上述した元素の群に基づく元素を示す。これらの略字で示されて使用される元素がどのような組み合わせであっても、少なくともすべてのO2-イオンが使い尽くされた後、バッテリーには、化学式KAX4を満たす物質がまったく含まれないことが好ましい。あるいは、少なくともすべてのO2-イオンが使い尽くされた後、バッテリーには、少なくとも、二酸化硫黄含有固体イオン伝導体用に選択された元素を入れることによって得られる化学式KAX4の物質が含まれないことが好ましい。
【0044】
また、固体イオン伝導体は、異なる追加の固体を含むことができる。これらの固形物は不純物の可能性がある。しかしながら、驚くべきことに、例えば、完全充放電のサイクルが50,000回を超える上述したバッテリーの場合、アルミン酸リチウムまたは塩化リチウムなどの形成された固体が、二酸化硫黄を含有する固体イオン伝導体に取り込まれても、バッテリーの機能が大幅に損なわれたりはしないことがわかっている。(式I)に従って液体電解質溶液で導入されたテトラクロロアルミン酸リチウムの完全な変換後、二酸化硫黄比が、テトラクロロアルミン酸リチウムあたり6SO2のLiAlCl4×6SO2からチオジクロロアルミン酸あたり11SO2に増加した(式での変換1回あたり1SO2の消費)。例えば、二酸化硫黄を含有する、形成されたチオジクロロアルミン酸リチウムLiAlSCl2×4SO2各々について、不溶性の塩化リチウムが6、不溶性のアルミン酸リチウムが1、形成されているであろう。残りの7のSO2は、気相および液相になるであろう。(式I)による反応中のバッテリーの内部抵抗の変化は実質的に増加しなかったため、全サイクル期間にわたって30分ごとにバッテリーを充放電することができた。
【0045】
塩化リチウムまたはアルミン酸リチウムに加えて、またはその代わりに、固体イオン伝導体は、酸化アルミニウムまたはイオン性添加剤などのさらに追加の固体を含むこともできる。しかしながら、自己解離または化学反応によって塩化アルミニウムを放出し、亜ジチオン酸リチウム層を攻撃する化合物は、除外しなければならない。特に、固体イオン伝導体には、化学式KAX4の物質を含まないようにする必要がある。ここで、K、AおよびXは、上記にて定義した通りであり、XがX’の場合もある。
【0046】
純粋な固体イオン伝導体を製造し、バッテリーセルに純粋な固体イオン伝導体を充填することは、様々な方法で達成できる。WO2017/178543A1に記載されているように、チオジクロロアルミン酸リチウムは、硫化リチウムと塩化アルミニウムとの反応(以下の式Vを参照のこと)あるいは、テトラクロロアルミ化との反応(以下の式VIを参照のこと)から、それぞれ溶媒としての二酸化硫黄中で調製することができる。どちらの反応でも、沈殿する塩化リチウムは、例えば、濾別される。
【0047】
室温で液体の二酸化硫黄1リットルあたり約0.4molというチオジクロロアルミン酸リチウムの溶解度がゆえ、バッテリーセルに飽和溶液を充填し、その後、二酸化硫黄と、反応によって生じた純粋な固体イオン伝導体の沈殿物とを一部除去することにより、バッテリーセルの細孔/中空の空間を埋めることができる。このプロセスを、数回繰り返す必要がある場合もある。液体の二酸化硫黄に対するチオジクロロアルミン酸リチウムの溶解度は温度の上昇とともに高くなるため、高温での充填と、それに伴って大きくなった圧力も、有利になり得る。
【0048】
1つまたは複数の負極または正極が、例えばスタックの形で配置されている筐体内で、バッテリーを充填するとき、電極が互いに電気的に接触していないことを確認しなければならない。すなわち、充填プロセスの前に、電極同士が触れていてはならない。これは、2つの隣接する電極の間に多孔質の絶縁体または多孔質のセパレーターを配置することで実現可能である。これにより、バッテリーに液体電解質を充填するときに、2つの隣接する電極同士を離しておくことができる。バッテリーに、液体すなわち溶解した固体イオン伝導体が充填されると、絶縁体またはセパレーターの細孔も充填され、固体イオン伝導体もそれらの場所に沈殿するため、電極間のイオンの流れが可能になる。絶縁体またはセパレーターとしては、ガラス繊維不織布、細かいまたは粗い多孔質のセラミック物質が好ましい。酸化アルミニウムまたは炭化ケイ素などの細かく粉砕された不活性無機物質、あるいはアルミン酸リチウムなどの反応性物質の層が、特に好ましい。
【0049】
二酸化硫黄中で固体イオン伝導体を製造するための他の例として、例えば、沈殿した塩化リチウムの濾過と、濾過された溶融物によるバッテリーセルまたはバッテリーの細孔/中空の空間の(部分的な)充填を伴う、テトラクロロアルミン酸リチウムの溶融物における式(式V)による生成があろう。溶融物が冷却された後、二酸化硫黄をガス処理することにより、バッテリーセルまたはバッテリーを、所望の値qに設定する。
【0050】
硫化リチウムと塩化アルミニウム(AlCl3)またはテトラクロロアルミン酸リチウムとの反応に基づく上記の固体イオン伝導体の製造に代えて、塩化リチウムとチオ塩化アルミニウム(AlSCl)との反応から固体イオン伝導体を製造することもできる。あるいは、他の方法を使用して、固体イオン伝導体の物質を製造することもできる。例えば、米国特許第4,362,794号には、異なる出発物質を使用して、固体イオン伝導体の物質を製造する2つの方法が記載されている。
【0051】
上述した2つの方法によれば、バッテリーセルの個々の要素のみ、例えば、負極のみまたは正極のみ、あるいは、2つの電極間に位置する中空の空間のみを、純粋な固体イオン伝導体で満たすことも可能である。
【0052】
基本的に、固体イオン伝導体をバッテリーセルに導入するための異なるオプションがある。以下では、二酸化硫黄を含有する固体イオン伝導体をバッテリーセルまたは2つの電極のうちの1つに導入またはそこで生成する方法について、例として、異なる方法a)~d)について説明するものとする。
【0053】
a)電極の製造時に、対応する量の微粉砕された硫化リチウムを、高度に分散された方法で、負極もしくは正極または両方の電極に導入すると好ましい。この目的のために、硫化リチウムの粒径は、好ましくは、それぞれの活性質量の粒径の1/10未満であるべきである。バッテリーセルをバッテリーに取り付けた後、LiAlCl4と二酸化硫黄とからなる液体電解質をバッテリーに充填する。テトラクロロアルミン酸リチウムの量を、少なくとも、上述したLi2Sを用いた変換とO2イオンによる消費に十分であるように決め、二酸化硫黄の量については、少なくとも、(式V)による完全な反応の後、所望の値qが達成されるように決める。結果として、液体電解質は、好ましくはもはや存在しない。
【0054】
最初の充電の前または後に、より大量の二酸化硫黄を除去することができる。後者は、例えば、バッテリーの最初の充電時に、バッテリーでグラファイト上のヒドロキシル基から、または一般に微量の水から、水素が発生する場合に特に有用であり、これは、ほとんどが、バッテリーセルから除去して、過剰の二酸化硫黄で、例えば-30℃まで冷却することができる。
【0055】
バッテリーセルに液体電解質溶液を充填した後、バッテリーセルを約30~40℃まで加熱する。その結果、(式V)による反応が数分または数時間以内に起こり、二酸化硫黄を含有する固体のチオジクロロアルミン酸リチウムが固体イオン伝導体として沈殿する。
【0056】
1つのタイプの電極(たとえば、負の電極)のみが硫化リチウムで満たされている場合、遊離液体二酸化硫黄に対するチオジクロロアルミン酸リチウムの溶解度によって、両方のタイプの電極の実質的にすべての細孔が固体の二酸化硫黄含有チオジクロロアルミン酸リチウムで満たされるように、硫化リチウムと二酸化硫黄の量を決めることができる。拡散経路の長さに応じて、このプロセスには、数時間から数日かかる場合がある。温度が高くなれば溶解度が増すことから、このプロセスは、40℃以上の温度で実施するのが好ましい。
【0057】
b)硫化リチウムと塩化リチウムおよび等モル量の塩化アルミニウムの微粉末混合物(これらはテトラクロロアルミン酸リチウム(すなわち、液体電解質の伝導性の塩)の前駆体、あるいは、テトラクロロアルミン酸リチウム[a)に対応する化学量]である)も、電極の製造時に、バッテリーセルの一方または両方の電極に形成しておくと好ましい。その後、バッテリーセルに適切な量の液体二酸化硫黄を充填し、a)に従って、さらに処理する。
【0058】
c)バッテリーセルまたは一方または両方の電極での(式VI)による硫化リチウムと塩化アルミニウムの反応では、a)による化学量論も観察される。一方または両方のタイプの電極に、硫化リチウムと塩化アルミニウムの微粉末混合物を導入する。その後、バッテリーセルに液体二酸化硫黄を充填し、a)と同様にさらに処理する。
【0059】
d)一方の電極タイプに微粉末の硫化リチウムが含まれているバッテリーセルでは、もう一方の電極タイプの細孔に塩化アルミニウムを塗布するか、両方の電極タイプに微粉末の硫化リチウムが含まれている場合は、c)に従って、大量の塩化アルミニウム微粉末を、例えば、バッテリーの他の中空の空間に導入する。バッテリーセルに液体二酸化硫黄を充填し、c)と同様に処理する。
【0060】
固体イオン伝導体は、負極と正極との間の絶縁体またはセパレーターとしても機能すると好ましい。バッテリーセルの正極と負極の間あるいは、バッテリーセル内の2つのタイプの電極の間の電子的な分離は、固体イオン伝導体または固体を有する固体イオン伝導体からなるか、固体イオン伝導体を含む、電子的に非伝導性の薄いスペーサーによって行われると好ましい。
【0061】
2つのタイプの電極を、粗いまたは細かい多孔質セラミック層、薄いセラミックまたはガラス布、薄いフィルター不織布などによってバッテリーセルで電子的に分離する場合、純粋な固体イオン伝導体を製造および充填するために記載された方法あるいは、固体イオン伝導体を導入するための例a)からd)に記載の方法を、使用することができる。他方、絶縁体またはセパレーターの細孔または体積が満たされるように、上記の方法および例に従って、製造される固体イオン伝導体の量を決めることができる。
【0062】
例a)からd)によれば、微粉末の硫化リチウムまたはそれらの混合物を、一方または両方のタイプの電極に、薄層として直接形成すると好ましい。その後、上記のa)からd)で説明したように、チオジクロロアルミン酸リチウムの二酸化硫黄含有固体イオン伝導体が、液体電解質溶液との反応によって、充填中にそれに応じて形成される。
【0063】
電子的に分離する絶縁体またはセパレーター層を形成するには、少量、例えば4%(w/w)のバインダーを硫化リチウム粉末に塗布するか、上記のa)からd)で説明したように、バッテリーの組み立て時の機械的安定性を高めるために、それらを1つまたは両方のタイプの電極に形成する前に。この目的のために、例えば、アセトンに溶解したTHV(TFE(テトラフルオロエチレン)、HFP(ヘキサフルオロプロピレン)およびVDF(フッ化ビニリデン)からなるターポリマー)に、微粉末の硫化リチウムまたはそれらの混合物を懸濁させたものが適している。この混合物を電極に塗布し、続いてアセトンを蒸発させた後、塗布された混合物から機械的に安定した層が生成する。
【0064】
別の実施形態では、a)からd)で上述した選択肢の反応物、すなわち、微粉砕されたリチウム粉末または増量したバインダーを合わせて、混合物の薄層が硬化後に自立膜を形成するようにすることができる。このような膜は、バッテリーセルの製造時に隣接する電極間に絶縁体またはセパレーター層として配置することができるため、それらの間の電気的接触が防止される。
【0065】
液体電解質がバッテリーセルに注がれると、a)からd)で上述したように電極に導入された、電解質のテトラクロロアルミン酸リチウムと、微粉砕された硫化リチウム、あるいは硫化リチウムおよび塩化リチウムと等モルの量の塩化アルミニウムとの微粉末混合物、あるいは、硫化リチウムと塩化アルミニウムの微粉末混合物との反応中に、固体イオン伝導体が生成する。固体イオン伝導体は、絶縁体またはセパレーターの特性を有する。このため、一実施形態では、バッテリーセルは絶縁体またはセパレーター層を有する。これは、電極上または電極と直接接して液体電解質と硫化リチウムとの反応によって生じたものである。
【0066】
別の実施形態では、バッテリーセルは、別の適切なセパレーター、例えば、Pallという名称で市販されて厚さが0.25mmのガラス繊維フィルターを有することができる。
【0067】
固体イオン伝導体の利点の1つに、実際に一般に使用されているリチウムイオンセルの有機電解質溶液とは対照的に、不燃性だということがある。リチウムイオンセルの既知の安全上のリスクは、特にその有機電解質溶液によって引き起こされる。リチウムイオンセルが発火したり爆発したりすると、電解液の有機溶媒が可燃性物質を形成する。本発明によるバッテリーは、固体イオン伝導体を含むものであり、好ましくは本質的に有機材料を含まない。ここで、「本質的に」とは、存在する可能性のある有機材料の量が非常に少なく、安全上のリスクをもたらさないという事実をいう。
【0068】
本発明による固体イオン伝導体は、上記の式K(ASX2)p×qSO2またはK(ASXX’)p×qSO2に二酸化硫黄を有する。この場合、SO2は可能な限り純粋な形で、すなわち不純物の量を最小限に抑えて使用することができる。
【0069】
バッテリーの完成後もバッテリーセルに少量の余分なKAX4が含まれている場合は、上述した自己放電反応に従って使い尽くされることになる。
【0070】
略字K、AおよびXが、リチウム、アルミニウムまたは塩素を表さない場合、少なくともすべてのO2イオンの消費後、物質KAX4、特にLiAlCl4がバッテリーセルに存在しなくなるとすぐに、上述した式または類似の式による自己放電は驚くほど生じなくなる。したがって、リチウムイオンや電荷量の消費はなく、難溶性または沈殿性の塩も形成されない。
【0071】
このため、バッテリーセルの長期運転には、液体SO2含有電解質が充填された従来のバッテリーセルと比較すると、最初に、大幅に少ない量の二酸化硫黄含有固体イオン伝導体を充填するだけで十分である。液体SO2含有電解質が充填された従来のバッテリーセルと比較して、バッテリーの製造時に導入される二酸化硫黄含有固体イオン伝導体の量を約3分の1に減らすことができるため、バッテリーのエネルギー密度が高くなる。
【0072】
新しい電解質では、上記の式(式I)による反応は生じない。結果として、式(式I)による自己放電を補償するための電荷量またはある量のリチウムイオンの追加導入を、都合よく省略することができる。その結果、電極の容量をより適切に決めることができる。したがって、充電および放電プロセスに関与する二酸化硫黄含有固体イオン伝導体の量は、バッテリーセルの全寿命にわたって、ほぼ完全に保持される。
【0073】
もとの液体量の電解質の還元と二酸化硫黄含有固体イオン伝導体による液体電解質の置換は、特に好ましい実施形態において達成することができ、ここで、正極の多孔度は、25%未満、20%未満、15%未満、あるいは特に12%未満である。上記に代えてまたは上記に加えて、さらに別の実施形態において、負極の多孔度は、25%未満、20%未満、15%未満、あるいは特に12%未満であると好ましい。
【0074】
電極の多孔度の対応する低下は、特に、好ましくは直径Rの粒子で形成されるそれぞれの電極に、同じ材料であるが直径が特にR/3と小さな粒子が比例的に添加される点において、達成することができる。これによって、小さい粒子が大きい粒子間の隙間に配置される。多孔度が低めであることに加えて、そのような電極は通常、機械的安定性が高めである。
【0075】
固体イオン伝導体を使用し、多孔度を例えば30%から12%まで低下させることによって、バッテリーの比エネルギーおよびエネルギー密度を、事前に充放電された従来のバッテリーの65Wh/kgまたは200Wh/lから、155Wh/kgまたは470Wh/lを超えるまで高めることができる。したがって、外寸が130mm×130mm×24.5mmの角柱型バッテリーの公称容量を、例えば、事前に充放電された従来のバッテリーの約22Ahから61Ahを超えるまで大きくすることができる。
【0076】
バッテリーの筐体は一般に、水蒸気や酸素が浸透しないように設計されている。金属製の筐体は、好ましくは、内圧が増加した本発明によるバッテリーに適している。内圧の上昇がほとんどないように動作温度範囲の二酸化硫黄圧力を設定できる場合は、従来のポーチセルも適している。
【0077】
本発明による二酸化硫黄含有固体イオン伝導体を使用することにより、サイクル数に全体にわたる容量の低下が大幅に減少する。自己放電は、実質的に測定できないほどに抑制される。
【0078】
文献(Ohta, N.; Takada, K.; Zhang, L.; Ma, R.; Osada, M.; T. Sasaki, T.: Adv. Mater., 18 (2006) 2226)では、固体イオン伝導体を使用する場合の基本的な問題として、電極と固体イオン伝導体との間の境界層での高いリチウムイオン接触抵抗が説明されている。上記の場合、境界層での高い抵抗は、境界層に沿って生じるいわゆる空間電荷領域に起因していた。その中で、境界層での化学ポテンシャルの平衡を維持するために、固体イオン伝導体側でリチウムイオンの枯渇が発生する。このような好ましくない空間電荷領域は、バッファ層を導入することによって低減または回避できることが証明されている。
【0079】
本発明者の理解によれば、亜ジチオン酸リチウム層は、二酸化硫黄を含有する固体イオン伝導体を有するバッテリーセルのバッファー層として機能する。これは、例えば、セルが最初に充電されるときに二酸化硫黄が還元されることにより、3V vs.Li/Li+未満の電位で負極に形成される。
【0080】
電極の表面に、LiNbO3などの既知のバッファー層を、少なくとも部分的に形成することも可能である。しかしながら、WO2015/06775に記載されているように、安定した亜ジチオン酸リチウム層も、特に正極で生じると好ましい。
【0081】
したがって、本発明による固体イオン伝導体は、所望の亜ジチオン酸リチウム層を攻撃、溶解もしくは破壊または損傷する物質を本質的に含まないと都合がよい。「本質的に含まない」という表現は、物質が、最大でも亜ジチオン酸リチウム層を破壊/損傷しない極めて少ない量でしか存在しないことを示す。存在するとは思えないこのような物質の例として、塩素、塩化チオニル、塩化スルフリルなどの酸化剤がある。
【0082】
特に、塩化チオニルは、負極で不動態化して徐々に増加する塩化リチウムのカバー層の形成を引き起こし、これは、いずれの場合も、亜ジチオン酸リチウム層の所望の形成に悪影響を及ぼす。
【0083】
上記の固体イオン伝導体を有し、バッテリーセルの細孔が負極から充填された電気化学的バッテリーセルは、以下のように製造することができる。好適な正極は、TMAX-LFP-1の商品名で市販されているリン酸鉄リチウム94%(w/w)と、例えば、3Mから商品名Dyneon THV 221 AZで市販されているバインダーTHVを4%と、TIMCALから商品名SUPERP(登録商標)で販売されている伝導性向上剤2%とを、アセトン中で撹拌してペーストを形成して、製造することができる。このペーストを、例えばDuranice Applied Materialsから入手可能なニッケルフォームに導入する。溶媒を気化させた後、ニッケルフォームをペーストと一緒に元の厚さ1.6mmから0.6mmまでプレスし、その後120℃で熱処理をする。
【0084】
一実施形態では、好適な負極は、微粉砕されたすなわち、粒径D50が5μm未満の硫化リチウム15%(w/w)をアセトン中で撹拌し、TIMCALからSLP50の商品名で入手可能なグラファイト85%(w/w)と共にペーストを形成し、Duranice Applied Materialsから市販されているニッケルフォームに貼り付けて、製造することができる。アセトンを気化させた後、硫化リチウムとグラファイトを充填したニッケルフォームを、元の厚さ0.8mmから0.4mmまでプレスする。
【0085】
一実施形態では、続いて、9個の負極と8個の正極を、例えばステンレス鋼の筐体などのバッテリーの筐体の中に交互に配置することができる。ここで、負極と隣接する正極との間にはセパレーターが1つずつ配置される。電極スタックの外側に配置される電極は、負極であると好ましい。続いて、バッテリーの筐体を蓋で閉じることができ、蓋には充填管があり、蓋は、例えばステンレス鋼の筐体であれば溶接することによって、気密な方法で筐体の残りの部分にしっかりと接続される。次に、約-20℃の温度で、筐体に電解質LiAlCl4×8SO2を充填することができ、ここで、前記電解質は、(まだ)液体である。この目的のために、注入される電解質の量は、80%(w/w)、好ましくは80%(w/w)より多く、特に100%の導入されたテトラクロロアルミン酸リチウムが、硫化リチウムの完全な変換に十分であるように寸法決めされる。
【0086】
充填されたバッテリーは、その後、より長期間、例えば7日間、40℃の温度で保管される。この期間中、導入された液体電解質は、硫化リチウムとの反応によって固体イオン伝導体に変換され、液体電解質の一部が液体状態のままであり、これは、この実施形態では通常、最大で固体イオン伝導体20%(w/w)である。次に、前記残りの液体電解質は、上下を逆にしたバッテリーから、蓋の充填管を介して排出される。
【0087】
充電プロセスの前、すなわち初期状態では、完成したバッテリーセルは、電解質として本質的に固体イオン伝導体のみを有し、一実施形態では、液体電解質として10%(w/w)未満の固体イオン伝導体を含む。好ましい実施形態では、液体電解質として5%(w/w)未満の固体イオン伝導体を含み、特に好ましい実施形態では、液体電解質として1%(w/w)未満の固体イオン伝導体を含む。