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特許7326482内視鏡用処置具、内視鏡処置システムおよび内視鏡的治療方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】内視鏡用処置具、内視鏡処置システムおよび内視鏡的治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/14 20060101AFI20230807BHJP
【FI】
A61B18/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021570008
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048466
(87)【国際公開番号】W WO2021140939
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/000451
(32)【優先日】2020-01-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】中村 好翔
(72)【発明者】
【氏名】松尾 伸子
(72)【発明者】
【氏名】梶 国英
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06197026(US,B1)
【文献】特開2017-153698(JP,A)
【文献】特開2017-051615(JP,A)
【文献】実公平01-015362(JP,Y2)
【文献】特開平08-336542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有し、不活性ガスが通る内部空間を有する管路と、
前記管路の先端に取り付けられ、前記不活性ガスを排出可能に前記内部空間と連通する開口を有する先端チップと、
高周波電流が通電可能であり、前記先端チップ内に配置された電極と、
を備え、
前記管路は、外力が作用しない状態において、所定の湾曲形状に復元する湾曲部を有し、
前記湾曲部は、先端湾曲部と基端湾曲部とを有し、
前記基端湾曲部と前記先端湾曲部との間には、曲がり癖が付与されていない先端軟性部が配置されている、
処置具。
【請求項2】
前記基端湾曲部は、仮想平面に沿って湾曲しており、
前記先端湾曲部は、前記仮想平面と交差する方向に湾曲している、
請求項1に記載の処置具。
【請求項3】
前記基端湾曲部および前記先端湾曲部は、仮想平面に沿って湾曲しており、
前記開口は、前記仮想平面上に位置する
請求項1に記載の処置具。
【請求項4】
前記基端湾曲部の軸方向の長さは、前記先端軟性部の軸方向の長さよりも長い、
請求項1に記載の処置具。
【請求項5】
前記基端湾曲部の前記軸方向の前記長さは、前記先端湾曲部の軸方向の長さよりも長い、
請求項4に記載の処置具。
【請求項6】
前記先端湾曲部の曲率は、前記基端湾曲部の曲率より大きい、
請求項1に記載の処置具。
【請求項7】
前記先端湾曲部の曲率半径は、前記先端軟性部の軸方向の長さの半分以下である、
請求項1に記載の処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡用処置具、内視鏡処置システムおよび内視鏡的治療方法に関する。本願は、2020年01月09日に、PCT出願されたPCT/JP2020/000451号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
逆流性食道炎(GERD)に対する治療として、胃酸分泌抑制薬の内服治療や腹腔鏡下Nissen術等の外科手術が知られている。内服治療は根本的な治療ではなく、服用を長期間続ける必要があり、かつ、症状が改善しない場合もある。外科手術は、根治が期待できるが侵襲度が高い。GERDは腫瘍等の悪性疾患ではないため、治療に伴う侵襲は可能な限り小さいことが望ましい。
【0003】
内服治療および外科治療以外の選択肢として、様々な内視鏡的治療が検討されている。内視鏡的治療の一つとして、特許文献1に記載の手技が知られている。この手技では、胃食道接合部付近の粘膜を切除する事により、切除部位に瘢痕を生じさせて狭窄させる。その結果、胃内容物の逆流が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第9592070号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しがしながら、GERDを内視鏡的に治療するためには、噴門部付近の処置領域に処置具をアプローチする必要があるため、内視鏡の撮像画面において処置領域を視認しながら処置領域を焼灼する手技が難しい。現状における内視鏡的治療は、視認作業と焼灼作業とを交互に繰り返しており、作業性が悪い。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、内視鏡的治療において処置領域を視認しながら焼灼しやすい内視鏡用処置具、内視鏡処置システムおよび内視鏡的治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の第一の態様に係る処置具は、電気絶縁性を有し、不活性ガスが通る内部空間を有する管路と、前記管路の先端に取り付けられ、前記不活性ガスを排出可能に前記内部空間と連通する開口を有する先端チップと、高周波電流が通電可能であり、前記先端チップ内に配置された電極と、を備え、前記管路は、外力が作用しない状態において、所定の湾曲形状に復元する湾曲部を有し、前記湾曲部は、先端湾曲部と基端湾曲部とを有し、前記基端湾曲部と前記先端湾曲部との間には、曲がり癖が付与されていない先端軟性部が配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の処置具、内視鏡処置システムおよび内視鏡的治療方法は、内視鏡的治療において処置領域を視認しながら焼灼しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る内視鏡処置システムの全体構成を示す図である。
図2】同処置具の平面図である。
図3】同処置具の先端部の斜視図である。
図4】同処置具の先端部の断面図である。
図5】同処置具の操作部の断面図である。
図6】胃内に挿入した内視鏡で胃食道接合部を観察する状態を示す図である。
図7】内視鏡により観察される噴門周囲の胃食道接合部を示す図である。
図8】胃食道接合部を観察する内視鏡を示す図である。
図9】特定された処置領域にアプローチする同処置具を示す図である。
図10】胃壁の模式断面図を示す。
図11】処置具チャンネルに挿通された同処置具を示す図である。
図12】湾曲した処置具チャンネルに挿通された同処置具を示す図である。
図13】処置具チャンネルの先端から突出された同処置具の先端チップを示す図である。
図14】位置決めされた同処置具の側方開口を撮像した画像である。
図15】正面アプローチにより処置領域を焼灼する位置に配置された同処置具を示す図である。
図16】接線アプローチにより処置領域を焼灼する位置に配置された同処置具を示す図である。
図17】同先端チップの変形例の斜視図である。
図18】本発明の第二実施形態に係る同処置具の斜視図である。
図19】同処置具の先端部の斜視図である。
図20】位置決めされた同処置具の先端開口を撮像した画像である。
図21】同処置具の先端チップの変形例を備えた処置具の斜視図である。
図22】本発明の第三実施形態に係る同処置具の斜視図である。
図23図22におけるB方向から見た同処置具の先端部の正面図である。
図24】位置決めされた同処置具の先端開口を撮像した画像である。
図25】本発明の第四実施形態に係る同処置具の平面図である。
図26】同処置具の平面図である。
図27】同処置具の操作部の断面図である。
図28】処置具の変形例の先端部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態について、図1から図16を参照して説明する。
【0013】
[内視鏡処置システム300]
図1は、第一実施形態に係る内視鏡処置システム300の全体構成を示す図である。内視鏡処置システム300は、内視鏡200と、内視鏡200のチャンネルに挿通される処置具100と、を備えている。
【0014】
[内視鏡200]
内視鏡200は、公知の軟性内視鏡であり、長尺の挿入部210と、挿入部210の基端部に設けられた操作部220と、を備える。挿入部210は、先端部201と、湾曲部204と、軟性部205と、を有する。先端部201と、湾曲部204と、軟性部205とは、挿入部210の先端から順に接続されている。挿入部210の先端部201には、ライトガイド215とCCD等を有する撮像ユニット216が設けられている。
【0015】
挿入部210には、処置具100等の内視鏡用処置具を挿通させるための処置具チャンネル230が形成されている。処置具チャンネル230の先端部230aは、挿入部210の先端部201において開口している。処置具チャンネル230の基端部は、操作部220まで延びている。
【0016】
湾曲部204は、上下方向や左右方向に湾曲自在に構成されている。湾曲部204の先端側に操作ワイヤの先端が固定されている。操作ワイヤは挿入部210内を通して操作部220まで延びている。
【0017】
操作部220の基端側には、操作ワイヤを操作するノブ223や撮像ユニット216等を操作するスイッチ224が設けられている。使用者は、ノブ223を操作することで挿入部210を所望の方向に湾曲させることができる。
【0018】
操作部220の先端側には、処置具チャンネル230に連通する鉗子口222が設けられている。使用者は、鉗子口222から処置具100等の内視鏡用処置具を挿入することができる。
【0019】
図1に示すように、処置具100は、コネクタ401を経由して処置具駆動装置400に取り付けることができる。処置具駆動装置400は、筐体410の内部に、アルゴンガス等の不活性ガスが充填された圧縮ガス源411と、圧縮ガス源411から供給される不活性ガスを調圧して処置具100に供給するための圧力調整器412と、処置具100に供給される高周波電流を発生させるための高周波電源413と、これらを統括制御するためのコントローラ414と、を有する。
【0020】
[処置具100]
図2は、処置具100の平面図である。図3は、処置具100の先端部の斜視図である。図4は、処置具100の先端部の断面図である。処置具100は、全体として細長に形成され、ガス管路1と、電極3と、操作部4と、を備える。
【0021】
ガス管路(管路)1は、図1に示すように、内視鏡200の処置具チャンネル230を挿通可能な外径を有する筒状部材である。筒状部材は、長尺で可撓性を有する。ガス管路1の内部空間L1はアルゴンガス等の不活性ガスが流れるガス流路P1の一部である。ガス管路1はPTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)等の電気絶縁性を有する材料で形成されている。
【0022】
ガス管路1は、基端部11と、先端部12と、を有する。ガス管路1の基端部11は、操作部4に取り付けられている。また、ガス管路1は、先端部12から基端部11までの間に、先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18と、を有する。先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18とは、先端部12から基端部11に向かって順に接続されている。
【0023】
ガス管路1は、図3に示すように、先端部12に側方開口14dを有している。側方開口14dは、不活性ガスを排出可能にガス管路1の内部空間L1と連通する。ガス管路1の内部空間L1は、側方開口14dからガス管路1の基端まで長手軸に沿って延びている。ガス供給管路42の基端に設けられたガス供給口42aから注入された不活性ガスは、ガス管路1の内部空間L1を流れて、ガス管路1の側方開口14dから放出される。以降の説明において、ガス管路1が延びる方向を軸方向Aという。
【0024】
具体的には、ガス管路1の先端部12には、先端チップ14が取り付けられている。先端チップ14は、図3に示すように、円板状の円板フレーム14aと円筒状の円筒フレーム14bとを有する。円板フレーム14aは、先端チップ14の先端側に設けられており、円筒フレーム14bの前方側の開口を塞いでいる。円筒フレーム14bの後方側の開口は、ガス管路1の内部空間L1と連通する。円筒フレーム14bの側方には、側方開口14dが形成されている。
【0025】
先端軟性部16は、曲がり癖が付いていない管路であり、先端に先端部12が取り付けられている。
【0026】
基端湾曲部17は、曲がり癖が付いた管路であり、外力がない状態において、所定の湾曲形状に復元する。曲がり癖(プリカーブ)とは、例えば、熱成型等により樹脂チューブを湾曲した形状に復元するように加工したものである。図2に示す基端湾曲部17の形状は、外力がない状態における所定の湾曲形状である。基端湾曲部17の外力がない状態における所定の湾曲形状を、「初期湾曲形状」ともいう。基端湾曲部17の初期湾曲形状は、一方向に曲がっている。基端湾曲部17の初期湾曲形状は、仮想平面Vに沿って湾曲している。
【0027】
基端軟性部18は、曲がり癖が付いていない管路であり、基端部11を経由して操作部4に取り付けられている。
【0028】
図2に示すように、基端湾曲部17が初期湾曲形状であり、先端軟性部16および基端軟性部18が直線状態である場合、先端部12に設けられた先端チップ14の側方開口14dは、仮想平面Vに対して垂直な方向に開口している。
【0029】
ガス管路1において、基端湾曲部17の軸方向の長さL7は、先端軟性部16の軸方向の長さL6よりも長い方が望ましい。
【0030】
電極3は、ワイヤ状の部材であり、ガス管路1の内部空間L1内に配置されている。電極3は金属素材で形成されており、導電性を有しており、高周波電流が通電可能である。電極3の基端部31の最基端は、高周波電流を供給する高周波電源413に接続されている。
【0031】
電極3の材質としては、可撓性を有し、外力により曲げられても容易に直線状態に復元する弾性を有する材質であることが好ましい。例えば、電極3の材料としては、ステンレス合金、ニッケルチタン合金、コバルトクロム合金、タングステン、タングステン合金などの合金材料を採用することができる。
【0032】
電極3の先端部32は、図3に示すように、軸方向Aに対して垂直な方向から見た側面視において、側方開口14dから見える位置に配置される。図4に示すように、電極3の中心軸O2は、ガス管路1の中心軸O1に略一致する方が好ましい。
【0033】
図5は、操作部4の断面図である。
操作部4は、ガス管路1の基端部11が接続された操作部本体40と、ガス供給管路42と、を有する。
【0034】
操作部本体40の先端部は、ガス管路1の基端部11に固定されている。操作部本体40の基端部は、ガス供給管路42に固定されている。ガス管路1とガス供給管路42は接続されており、ガス管路1の内部空間L1はガス供給管路42の内部空間L4と連通している。
【0035】
ガス供給管路42は、ガス管路1の内部空間L1にアルゴンガス等の不活性ガスを供給する管路である。ガス供給管路42の基端に設けられたガス供給口42aは、コネクタ401を経由して処置具駆動装置400に取り付けることにより、圧力調整器412に接続することができる。
【0036】
電極3は、操作部本体40を貫通している。電極3の基端部31は、ガス供給管路42の内部空間L4を通過して操作部4の外部まで延びている。電極3の基端部31の最基端は、図1に示すように、ガス供給管路42の基端と共に、コネクタ401を経由して処置具駆動装置400に取り付けることにより、高周波電源413に接続することができる。なお、電極3の基端部31の最基端は必ずしも高周波電源413まで延びている必要はない。例えば、電極3の基端部31の最基端が、操作部4内に位置してもよい。この場合、電極3の基端部31の最基端に電気的に接続されたブラグ等を介して別の金属ワイヤで高周波電源413に接続する構成であってもよい。
【0037】
[内視鏡処置システム300の作用]
次に、本実施形態の内視鏡処置システム300の作用について説明する。内視鏡処置システム300を用いた逆流性食道炎(GERD)の内視鏡的治療方法を例として内視鏡処置システム300の作用を説明する。なお、内視鏡処置システム300が適用される内視鏡的治療方法はこれに限定されない。例えば、内視鏡処置システム300は病変部の一部を切除する内視鏡的治療方法等にも適用される。
【0038】
術者は、対象の口や鼻等の自然開口から内視鏡200を挿入し(挿入ステップ)、内視鏡200の先端部201を胃(消化管)内に移動させる。
【0039】
図6は、胃内に挿入した内視鏡200で胃食道接合部を観察する状態を示す図である。
次に術者は、内視鏡200を湾曲させる。術者は、図6に示すように、内視鏡200の先端部201を噴門Coに向け、噴門Co周囲の胃食道接合部を内視鏡200の視野内に捉える。術者は、胃食道接合部を観察しながら、後述する局注処置や焼灼処置の対象である処置領域Rを特定する(処置領域特定ステップ)。
【0040】
図7は、内視鏡200により観察される噴門Co周囲の胃食道接合部を示す図である。
GERDの内視鏡的治療方法における処置領域Rは、例えば、C字型またはU字型の第一領域R11および第二領域R12である。第一領域R11と第二領域R12とは、噴門Coを挟んで向かい合う形状を有する。第一領域R11は、胃の前壁側に位置する。第二領域R12は、胃の後壁側に位置する。第一領域R11および第二領域R12は、胃食道接合部の周方向Cに延びている。例えば、処置領域R(第一領域R11および第二領域R12)のうち、大弯側をR1領域、小弯側をR2領域とする。
【0041】
図8は、胃食道接合部を観察する内視鏡200を示す図である。
内視鏡200の先端部201を噴門Coに向け、胃内の噴門Co周囲の胃食道接合部を観察または処理する場合、内視鏡200の湾曲部204は大きく湾曲して反転していることが望ましい。そのため、術者は、内視鏡200の湾曲部204を、最も湾曲量が大きくなるように湾曲させることができる方向(アップ方向)に湾曲させた状態(いわゆるアップアングル状態)にする。図8に示すように、術者は、湾曲部204をアップアングル状態として、軟性部205を長手軸を中心として回転させることで、内視鏡200の先端部201の位置を、R1領域付近とR2領域付近との間で移動させることができる。
【0042】
図9は、特定された処置領域Rにアプローチする処置具100を示す図である。
処置領域Rにアプローチする方法には、少なくとも正面アプローチAP1と接線アプローチAP2とがある。正面アプローチAP1では、術者は、処置具100もしくは内視鏡200の先端部201を操作することによって、ガス管路1の先端部12が処置領域Rと対向する位置に処置具100を配置する。接線アプローチAP2では、ガス管路1の先端部12の側部が処置領域Rと対向する位置に処置具100を配置する。
【0043】
次に術者は、特定した処置領域Rの粘膜下層Nに液体を局注することによって、処置領域Rを膨隆させる(局注ステップ)。注入する液体は生理食塩水、ヒアルロン酸ナトリウム溶液、グリセリン等である。術者は、内視鏡200の処置具チャンネル230に局注針などの処置具を通す。術者は、処置領域Rに生理食塩液等を注入して、処置領域Rを膨隆させる。なお、処置領域Rを膨隆させる必要がない場合、局注ステップは省略できる。
【0044】
術者は、局注ステップを行う前に、高周波ナイフやヒートプローブなどの処置具を使用して、処置領域Rの周囲にマーキングを形成してもよい(マーキングステップ)。マーキングは、処置領域Rの周縁部において局所的に粘膜を焼灼することにより行う。
【0045】
次に術者は、膨隆させた処置領域Rを焼灼する。このとき、粘膜を切除せず、焼灼のみを行う。焼灼の程度は、粘膜基底層Mがダメージを受ける程度とする。図10に、胃壁の模式断面図を示す。粘膜基底層Mは、粘膜層Lの一部であり、粘膜下層Nに接する境界面を含む層である。粘膜基底層Mを基底膜と称することもある。
【0046】
図11は、処置具チャンネル230に挿通された処置具100を示す図である。
術者は、内視鏡200の処置具チャンネル230に処置具100を通す(挿通ステップ)。次に、術者は、先端チップ14の側方開口14dを処置具チャンネル230の先端部230aから突出させる(突出ステップ)。先端部230aから先端チップ14を突出する方向を「突出方向D」と定義する(図13参照)。
【0047】
図11に示すように、内視鏡200の湾曲部204が湾曲していないとき、処置具チャンネル230も湾曲してない。湾曲しない処置具チャンネル230に挿通された処置具100のガス管路1の基端湾曲部17は、処置具チャンネル230内で蛇行している。
【0048】
図12は、湾曲した処置具チャンネル230に挿通された処置具100を示す図である。術者は、湾曲部204をアップアングル状態とする(湾曲ステップ)。内視鏡200の湾曲部204が湾曲するとき、処置具チャンネル230も湾曲する。湾曲した処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が位置するとき、処置具チャンネル230内に位置する基端湾曲部17の湾曲形状の湾曲方向と基端湾曲部17の初期湾曲形状の湾曲方向とが異なる場合、基端湾曲部17の湾曲形状が処置具チャンネル230の湾曲形状におおむね倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1の中心軸周りに受動的に回動する。
【0049】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が位置するとき、処置具チャンネル230の湾曲形状の湾曲方向と基端湾曲部17の初期湾曲形状の湾曲方向とが異なる場合が多いため、上述した基端湾曲部17の受動的な回動動作が発生しやすい。
【0050】
図13は、処置具チャンネル230の先端から突出された先端チップ14を示す図である。
上述のような基端湾曲部17がガス管路1の中心軸周りに受動的に回転すると、内視鏡200の先端部201に対して側方開口14dが移動する。
【0051】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が通過する際に、図13に示すように、ガス管路1は仮想平面Vに沿って湾曲する。そのとき、側方開口14dは仮想平面Vに垂直な方向を向いた状態で位置決めされる。その際、側方開口14dは先端チップ14の突出方向Dと異なる方向を向いている。基端湾曲部17は必ずしも初期湾曲形状まで復元する必要はなく、初期湾曲形状まで復元しない場合であっても、湾曲部204により湾曲された処置具チャンネルの湾曲形状に倣って湾曲形状に倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1の中心軸周りに受動的に回動する。
【0052】
なお、処置具チャンネル230の湾曲形状の湾曲方向と処置具チャンネル230内に位置する基端湾曲部17の湾曲形状の湾曲方向とが一致する場合、側方開口14dは既に仮想平面Vに垂直な方向を向いた状態に位置決めされている。
【0053】
図14は、位置決めされた側方開口14dを撮像した画像である。
内視鏡200の撮像ユニット216と処置具チャンネル230の先端部230aとの位置関係から、内視鏡200の撮像画像において、処置具チャンネル230の先端から突出された先端チップ14は左下に位置する。位置決めされた側方開口14dは、撮像画像において右側を向いている。そのため、術者は、処置領域Rの直上に先端チップ14Bを配置しなくてよい。
【0054】
図15は、正面アプローチAP1により処置領域R1を焼灼する位置に配置された処置具100を示す図である。正面アプローチAP1において、術者は、処置具100もしくは内視鏡200を操作することによって、ガス管路1の先端部12がR1領域と対向する位置に処置具100を配置する。
【0055】
術者は、ガス供給口42aに不活性ガスを供給する。供給された不活性ガスは、ガス流路P1を経由してガス管路1の先端部12の側方開口14dから処置領域R1の近傍に放出される。術者は、不活性ガスを供給すると共に、電極3に高周波電流を供給する。高周波電流を不活性ガス中で放電させることによって、不活性ガスがイオン化されプラズマPとなる。プラズマPは電気伝導性をもつため、プラズマPを媒体として電極3の先端部32から処置領域R1に向かう放電の安定維持を促進させる。この結果、電極3の先端部32と処置領域R1が接触しない状態で、処置領域R1が焼灼される(焼灼ステップ)。
【0056】
正面アプローチAP1において、術者は、内視鏡200の湾曲部204を湾曲させる操作OP1により、胃内から噴門Coに向かう延びる方向E(図7参照)における焼灼位置を変更する。また、術者は、内視鏡200の軟性部205を捩じる操作OP2により、胃食道接合部の周方向C(図7参照)における焼灼位置を変更する。術者は、焼灼位置を変更しながら処置領域R1の全域を焼灼する。
【0057】
図16は、接線アプローチAP2により処置領域R2を焼灼する位置に配置された処置具100を示す図である。接線アプローチAP2において、術者は、処置具100もしくは内視鏡200を操作することによって、ガス管路1の先端部12の側部がR2領域と対向する位置に処置具100を配置する。
【0058】
接線アプローチAP2においても、術者は、ガス供給口42aに不活性ガスを供給する。供給された不活性ガスは、ガス流路P1を経由してガス管路1の先端部12の側方開口14dから処置領域R2の近傍に放出される。術者は、不活性ガスを供給すると共に、電極3に高周波電流を供給する。高周波電流を不活性ガス中で放電させることによって、不活性ガスがイオン化されプラズマPとなる。プラズマPは電気伝導性をもつため、プラズマPを媒体として電極3の先端部32から処置領域R2に向かう放電の安定維持を促進させる。この結果、電極3の先端部32と処置領域R2が接触しない状態で、処置領域R2が焼灼される(焼灼ステップ)。
【0059】
接線アプローチAP2において、術者は、処置具100の進退操作OP3により、胃内から噴門Coに向かう方向E図7参照)における焼灼位置を変更する。また、術者は、内視鏡200の軟性部205を捩じる操作OP4により、胃食道接合部の周方向C(図7参照)における焼灼位置を変更する。術者は、焼灼位置を変更しながら処置領域R2の全域を焼灼する。
【0060】
側方開口14dは、撮像画像において右側を向く位置に位置決めされている。特に接線アプローチAP2においては、撮像画像において処置領域Rを視認しながら、処置領域Rを焼灼可能な位置に先端チップ14を配置できる。術者は、焼灼作業と視認作業とを交互に繰り返す必要がない。
【0061】
なお、正面アプローチAP1と接線アプローチAP2の順序は入れ替えてもよく、接線アプローチAP2において焼灼した後に、正面アプローチAP1において焼灼しても良い。
【0062】
本実施形態の処置具100によれば、高周波ナイフ等の処置具と比較して、一度に焼灼できる範囲が広いため、広い処置範囲Rに対して素早く焼灼できる。処置領域Rを焼灼する際、電極3の先端部32は、先端チップ14内に配置されている。そのため、焼灼の際に電極3の先端部32と組織が接触することに起因する焦げ付きが発生しにくい。
【0063】
処置領域Rの胃粘膜は、焼灼されたことにより粘膜基底層Mが損傷しているため、その後瘢痕が形成される過程を経て再生する。粘膜の再生時、損傷させた粘膜が治癒する際に瘢痕が形成される過程で処置領域R周辺組織の収縮作用により、処置領域Rの周囲の胃粘膜が処置領域Rに向かって引き寄せられる。その効果を利用して、逆流を防ぐ不完全狭窄を噴門Coに形成することで、GERDの症状が改善される。
【0064】
不完全狭窄を噴門Coに形成する場合、焼灼が必要な処置領域Rにおける粘膜表面の表面積は広い。不活性ガスと高周波電流とを用いて焼灼を行う処置具100は、高周波ナイフ等の処置具と比較して、一度に焼灼できる範囲が広いため、広い処置範囲Rに対して素早く焼灼でき、処置を簡略化でき、処置に必要な時間を短縮できる。
【0065】
噴門Co周囲の胃食道接合部を焼灼処置する場合、図9に示すように、内視鏡200の先端部201をかなり湾曲させる必要がある。処置具100は側方に側方開口14dを有しているため、側方開口14dから不活性ガスを放出させて高周波電流を不活性ガス中で放電することにより、側方に位置する処置領域Rの焼灼を行うことができる。
【0066】
以上、本発明の第一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および以下で示す変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0067】
例えば、上記実施形態において、内視鏡200の撮像ユニット216と処置具チャンネル230の先端部230aとの位置関係は一例である。使用される内視鏡の先端部の構成にあわせて、先端チップ14に設けられる側方開口14dの位置は適宜変更される。
【0068】
(変形例1-1)
例えば、上記実施形態において、先端チップ14は開口として側方開口14dを有する。しかしながら、先端チップ14に設けられる開口の態様はこれに限定されない。図17は、先端チップ14の変形例である先端チップ14Aの斜視図である。先端チップ14Aは、先端開口14cと側方開口14dとを有する。先端チップ14Aは、円環状の円環フレーム14Baと円筒状の円筒フレーム14bとを有する。円環フレーム14Baは、先端チップ14Aの先端側であって円筒フレーム14bの前方側の開口に設けられている。円環フレーム14Baは、先端開口14cを有する。先端開口14cは、軸方向Aに開口している。先端開口14cは、不活性ガスを排出可能にガス管路1の内部空間L1と連通する。先端開口14cを有する先端チップ14Aを用いれば、正面アプローチAP1において、先端チップ14Aの正面に配置された処置領域Rを焼灼しやすい。
【0069】
(第二実施形態)
本発明の第二実施形態について、図18から図20を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。第二実施形態に係る処置具100Bは、第一実施形態に係る処置具100と比較して、ガス管路の構成が異なる。
【0070】
[処置具100B]
図18は、処置具100Bの斜視図である。図19は、処置具100Bの先端部の斜視図である。処置具100Bは、全体として細長に形成され、ガス管路1Bと、電極3と、操作部4と、を備える。
【0071】
ガス管路(管路)1Bは、内視鏡200の処置具チャンネル230を挿通可能な外径を有する筒状部材である。筒状部材は、長尺で可撓性を有する。ガス管路1Bの内部空間L1はアルゴンガス等の不活性ガスが流れるガス流路P1の一部である。ガス管路1BはPTFE等の電気絶縁性を有する材料で形成されている。
【0072】
ガス管路1Bは、基端部11と、先端部12Bと、を有する。ガス管路1Bの基端部11は、操作部4に取り付けられている。また、ガス管路1Bは、先端部12Bから基端部11までの間に、先端湾曲部15と、先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18と、を有する。先端湾曲部15と、先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18とは、先端部12Bから基端部11に向かって順に接続されている。
【0073】
ガス管路1Bは、図19に示すように、先端部12に先端開口14cを有している。先端開口14cは、不活性ガスを排出可能にガス管路1Bの内部空間L1と連通する。ガス管路1Bの内部空間L1は、先端開口14cからガス管路1Bの基端まで長手軸に沿って延びている。ガス供給管路42の基端に設けられたガス供給口42aから注入された不活性ガスは、ガス管路1Bの内部空間L1を流れて、ガス管路1Bの先端開口14cから放出される。以降の説明において、ガス管路1Bが延びる方向を軸方向Aという。
【0074】
具体的には、ガス管路1Bの先端部12Bには、先端チップ14Bが取り付けられている。先端チップ14Bは、円環状の円環フレーム14Baと円筒状の円筒フレーム14Bbとを有する。円環フレーム14Baは、先端チップ14Bの先端側であって円筒フレーム14Bbの前方側の開口に設けられている。円環フレーム14Baは、先端開口14cを有する。先端開口14cは、軸方向Aに開口している。円筒フレーム14Bbの後方側の開口は、ガス管路1Bの内部空間L1と連通する。
【0075】
先端湾曲部15は、曲がり癖が付いた管路であり、外力がない状態において、所定の湾曲形状に復元する。曲がり癖(プリカーブ)とは、例えば、熱成型等により樹脂チューブを湾曲した形状に復元するように加工したものである。図18に示す先端湾曲部15の形状は、外力がない状態における所定の湾曲形状である。先端湾曲部15の外力がない状態における所定の湾曲形状を、「初期湾曲形状」ともいう。先端湾曲部15の初期湾曲形状は、仮想平面Vと交差する方向に湾曲している。本実施形態においては、先端湾曲部15の初期湾曲形状は、仮想平面Vに対して垂直な方向に湾曲している。
【0076】
先端湾曲部15は先端に先端チップ14Bを有する。図18に示すように、先端湾曲部15および基端湾曲部17が初期湾曲形状であり、先端軟性部16および基端軟性部18が直線状態である場合、先端部12Bに設けられた先端チップ14Bの先端開口14cは、仮想平面Vに対して垂直な方向に開口している。
【0077】
ガス管路1Bにおいて、基端湾曲部17の軸方向Aの長さL7は、先端軟性部16の軸方向の長さL6よりも長い方が望ましい。また、基端湾曲部17の軸方向Aの長さL7は、先端湾曲部15の軸方向Aの長さL5よりも長い。
【0078】
先端湾曲部15の曲率は、基端湾曲部17の曲率より大きい。また、先端湾曲部15の曲率半径は、先端軟性部16の軸方向の長さL6の半分以下である。
【0079】
次に、本実施形態の処置具100Bの作用について説明する。処置具100Bは、第一実施形態の処置具100同様、内視鏡200と組み合わせて、逆流性食道炎(GERD)の内視鏡的治療方法に使用することができる。
【0080】
術者は、第一実施形態同様、処置領域Rを特定する(処置領域特定ステップ)。術者は、胃食道接合部を観察および処置するため湾曲部204をアップアングル状態とする。術者は、特定した処置領域Rの粘膜下層Nに液体を局注することによって、処置領域Rを膨隆させる(局注ステップ)。
【0081】
次に術者は、第一実施形態同様、膨隆させた処置領域Rを焼灼する。術者は、内視鏡200の処置具チャンネル230に処置具100Bを通す(挿通ステップ)。次に、術者は、先端チップ14の先端開口14cおよび先端湾曲部15を処置具チャンネル230の先端部230aから突出させる(突出ステップ)。
【0082】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が通過する際に、基端湾曲部17の湾曲形状が処置具チャンネル230の湾曲形状におおむね倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1Bの中心軸周りに受動的に回動する。
【0083】
基端湾曲部17がガス管路1Bの中心軸周りに受動的に回転すると、内視鏡200の先端部201に対して先端開口14cが移動する。
【0084】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が通過する際に、第一実施形態同様、ガス管路1Bは仮想平面Vに沿って湾曲する。そのとき、図18に示すように、先端開口14cは仮想平面Vに垂直な方向を向いた状態で位置決めされる。その際、先端開口14cは先端チップ14Bの突出方向Dと異なる方向を向いている。基端湾曲部17は必ずしも初期湾曲形状まで復元する必要はなく、初期湾曲形状まで復元しない場合であっても、湾曲部204により湾曲された処置具チャンネルの湾曲形状に倣って湾曲形状に倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1Bの中心軸周りに受動的に回動する。
【0085】
図20は、位置決めされた先端開口14cを撮像した画像である。術者が処置具チャンネル230の先端部230aから先端湾曲部15を突出させると、先端湾曲部15は曲がり癖により初期湾曲形状に湾曲する。内視鏡200の撮像ユニット216と処置具チャンネル230の先端部230aとの位置関係から、内視鏡200の撮像画像において、処置具チャンネル230の先端から突出された先端チップ14Bは左下に位置する。位置決めされた先端開口14cは、撮像画像において右側を向いている。そのため、術者は、処置領域Rの直上に先端チップ14Bを配置しなくてよいため、処置領域Rを焼灼する際に、撮像画像において処置領域Rの焼灼状態をより視認しやすい。
【0086】
先端開口14cは、撮像画像において右側を向く位置に位置決めされている。特に接線アプローチAP2においては、撮像画像において処置領域Rを視認できる状態で、先端チップ14Bを処置領域Rを焼灼可能な位置に配置できる。そのため、術者は、焼灼の状態を撮像画像で確認する視認作業を実施しながら、焼灼作業を実施できる。術者は、視認作業と焼灼作業とを交互に繰り返す必要がない。
【0087】
本実施形態の処置具100Bによれば、高周波ナイフ等の処置具と比較して、一度に焼灼できる範囲が広いため、広い処置範囲Rに対して素早く焼灼できる。処置領域Rを焼灼する際、電極3の先端部32は、先端チップ14B内に配置されている。そのため、焼灼の際に電極3の先端部32と組織が接触することに起因する焦げ付きが発生しにくい。
【0088】
処置領域Rの胃粘膜は、焼灼されたことにより粘膜基底層Mが損傷しているため、その後瘢痕が形成される過程を経て再生する。粘膜の再生時、損傷させた粘膜が治癒する際に瘢痕が形成される過程で処置領域R周辺組織の収縮作用により、処置領域Rの周囲の胃粘膜が処置領域Rに向かって引き寄せられる。その効果を利用して、逆流を防ぐ不完全狭窄を噴門Coに形成することで、GERDの症状が改善される。
【0089】
以上、本発明の第二実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0090】
(変形例2-1)
例えば、上記実施形態において、先端チップ14Bは開口として先端開口14cを有する。しかしながら、先端チップ14Bに設けられる開口の態様はこれに限定されない。図21は、先端チップ14の変形例である先端チップ14Aを備えた処置具100BAの斜視図である。先端チップ14A(図17参照)は、先端開口14cと側方開口14dとを有する。先端開口14cが位置決めされたとき、側方開口14dは突出方向Dを向く位置に配置される。先端開口14cと側方開口14dとを有する先端チップ14Aを用いれば、正面アプローチAP1において、先端チップ14Aの正面に配置された処置領域Rを焼灼しやすい。
【0091】
(第三実施形態)
本発明の第三実施形態について、図22から図24を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。第三実施形態に係る処置具100Cは、第一実施形態に係る処置具100と比較して、ガス管路の構成が異なる。
【0092】
[処置具100C]
図22は、処置具100Cの斜視図である。図23は、図22におけるB方向から見た処置具100Cの先端部の正面図である。処置具100Cは、全体として細長に形成され、ガス管路1Cと、電極3と、操作部4と、を備える。
【0093】
ガス管路(管路)1Cは、内視鏡200の処置具チャンネル230を挿通可能な外径を有する筒状部材である。筒状部材は、長尺で可撓性を有する。ガス管路1Cの内部空間L1はアルゴンガス等の不活性ガスが流れるガス流路P1の一部である。ガス管路1CはPTFE等の電気絶縁性を有する材料で形成されている。
【0094】
ガス管路1Cは、基端部11と、先端部12Cと、を有する。ガス管路1Cの基端部11は、操作部4に取り付けられている。また、ガス管路1Cは、先端部12Cから基端部11までの間に、先端湾曲部15Cと、先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18と、を有する。先端湾曲部15Cと、先端軟性部16と、基端湾曲部17と、基端軟性部18とは、先端部12Cから基端部11に向かって順に接続されている。
【0095】
ガス管路1Cは、図23に示すように、先端部12Cに先端開口14cを有している。具体的には、ガス管路1Cの先端部12Bには、先端チップ14B(図19参照)が取り付けられている。先端開口14cは、不活性ガスを排出可能にガス管路1Cの内部空間L1と連通する。ガス管路1Cの内部空間L1は、先端開口14cからガス管路1Cの基端まで長手軸に沿って延びている。ガス供給管路42の基端に設けられたガス供給口42aから注入された不活性ガスは、ガス管路1Cの内部空間L1を流れて、ガス管路1Cの先端開口14cから放出される。以降の説明において、ガス管路1Cが延びる方向を軸方向Aという。
【0096】
先端湾曲部15Cは、曲がり癖が付いた管路であり、所定の湾曲形状に復元する。曲がり癖(プリカーブ)とは、例えば、熱成型等により樹脂チューブを湾曲した形状に復元するように加工したものである。図22に示す先端湾曲部15の形状は、外力がない状態における所定の湾曲形状である。先端湾曲部15Cの外力がない状態における所定の湾曲形状を、「初期湾曲形状」ともいう。図23に示すように、先端湾曲部15Cの初期湾曲形状は、第二仮想平面V2に沿ってC字状に湾曲している。第二仮想平面V2は、直線状態の先端軟性部16の中心軸Cを回転中心として仮想平面Vを回転させた平面であり、回転角度θは0度以上90度以下である。本実施形態においては、先端湾曲部15の初期湾曲形状は、回転角度θは約30度である。なお、回転角度θがゼロ度の場合、仮想平面Vと第二仮想平面V2とは一致する。
【0097】
先端湾曲部15Cは先端に先端チップ14Bを有する。図23に示すように、先端湾曲部15Cおよび基端湾曲部17が初期湾曲形状であり、先端軟性部16および基端軟性部18が直線状態である場合、先端部12Cに設けられた先端チップ14Bの先端開口14cは、仮想平面V上に位置する。
【0098】
ガス管路1Cにおいて、基端湾曲部17の軸方向Aの長さL7は、先端軟性部16の軸方向の長さL6よりも長い方が望ましい。また、基端湾曲部17の軸方向Aの長さL7は、先端湾曲部15の軸方向Aの長さL5よりも長い。
【0099】
先端湾曲部15Cの曲率は、基端湾曲部17の曲率より大きい。また、先端湾曲部15Cの曲率半径は、先端軟性部16および先端湾曲部15Cの長手軸方向の長さL3の半分以下である。
【0100】
次に、本実施形態の処置具100Cの作用について説明する。処置具100Cは、第一実施形態の処置具100同様、内視鏡200と組み合わせて、逆流性食道炎(GERD)の内視鏡的治療方法に使用することができる。
【0101】
術者は、第一実施形態同様、処置領域Rを特定する(処置領域特定ステップ)。術者は、胃食道接合部を観察および処置するため湾曲部204をアップアングル状態とする。術者は、特定した処置領域Rの粘膜下層Nに液体を局注することによって、処置領域Rを膨隆させる(局注ステップ)。
【0102】
次に術者は、第一実施形態同様、膨隆させた処置領域Rを焼灼する。術者は、内視鏡200の処置具チャンネル230に処置具100Cを通す(挿通ステップ)。次に、術者は、先端チップ14の先端開口14cおよび先端湾曲部15Cを処置具チャンネル230の先端部230aから突出させる(突出ステップ)。
【0103】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内に基端湾曲部17が通過する際に、基端湾曲部17の湾曲形状が処置具チャンネル230の湾曲形状におおむね倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1Cの中心軸周りに受動的に回動する。
【0104】
基端湾曲部17がガス管路1Cの中心軸周りに受動的に回転すると、内視鏡200の先端部201に対して先端開口14cが移動する。
【0105】
基端湾曲部17が初期湾曲形状まで復元した場合は、第一実施形態同様、ガス管路1Cは仮想平面Vに沿って湾曲し、先端開口14cは第二仮想平面に沿った方向を向いた状態で位置決めされる。その際、先端開口14cは先端チップ14Bの突出方向Dと異なる方向を向いている。基端湾曲部17は必ずしも初期湾曲形状まで復元する必要はなく、初期湾曲形状まで復元しない場合であっても、湾曲部204により湾曲された処置具チャンネルの湾曲形状に倣って湾曲形状に倣うまで、基端湾曲部17がガス管路1Cの中心軸周りに受動的に回動する。
【0106】
図24は、位置決めされた先端開口14cを撮像した画像である。
術者が処置具チャンネル230の先端部230aから先端湾曲部15Cを突出させると、先端湾曲部15Cは曲がり癖により初期湾曲形状に湾曲する。内視鏡200の撮像ユニット216と処置具チャンネル230の先端部230aとの位置関係から、内視鏡200の撮像画像において、処置具チャンネル230の先端から突出させた先端チップ14Bは左下に位置する。位置決めされた先端開口14cは、撮像画像において右下側を向いている。そのため、術者は、先端チップ14Bを処置領域Rの直上に配置しなくてよい。
【0107】
先端開口14cが撮像画像において右側を向いた状態で位置決めされている。特に接線アプローチAP2においては、撮像画像において処置領域Rを視認できる状態で、先端チップ14Bを処置領域Rを焼灼可能な位置に配置できる。そのため、術者は、焼灼の状態を撮像画像で確認する視認作業を実施しながら、焼灼作業を実施できる。術者は、視認作業と焼灼作業とを交互に繰り返す必要がない。
【0108】
以上、本発明の第三実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0109】
(変形例3-1)
例えば、上記実施形態において、先端チップ14Bは開口として先端開口14cを有する。しかしながら、先端チップ14Bに設けられる開口の態様はこれに限定されない。変形例2-1同様、先端チップ14Bは、先端開口14cが位置決めされたときに突出方向Dを向く位置に配置される開口をさらに有してもよい。
【0110】
(第四実施形態)
本発明の第四実施形態について、図25から図27を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。第四実施形態に係る処置具100Dは、第二実施形態に係る処置具100Bと比較して、シース2をさらに有する点が異なる。
【0111】
[処置具100D]
図25および図26は、処置具100Dの平面図である。
処置具100Dは、全体として細長に形成され、ガス管路1Dと、シース2と、電極3と、操作部4Dと、を備える。
【0112】
ガス管路(管路)1Dは、内視鏡200の処置具チャンネル230およびシース2を挿通可能な外径を有する筒状部材である。筒状部材は、長尺で可撓性を有する。ガス管路1Dの内部空間L1はアルゴンガス等の不活性ガスが流れるガス流路P1の一部である。ガス管路1DはPTFE等の電気絶縁性を有する材料で形成されている。
【0113】
ガス管路1Dは、基端部11と、先端部12Bと、を有する。ガス管路1Dの基端部11は、操作部4に取り付けられている。また、ガス管路1Dは、先端部12Bから基端部11までの間に、先端湾曲部15と、軟性部19と、を有する。ガス管路1Dは、基端湾曲部17を有さない。先端湾曲部15と、軟性部19とは、先端部12Bから基端部11に向かって順に接続されている。
【0114】
軟性部19は、曲がり癖が付いていない管路であり、基端が基端部11を経由して操作部4Dに取り付けられている。
【0115】
シース2は、内視鏡200の処置具チャンネル230を挿通可能な外径を有する筒状部材である。筒状部材は、長尺で可撓性を有する。シース2の基端部2bは、操作部4Dに取り付けられている。シース2は、シース先端軟性部21と、シース湾曲部22と、シース基端軟性部23と、を有する。シース先端軟性部21と、シース湾曲部22と、シース基端軟性部23とは、先端部2aから基端部2bに向かって順に接続されている。
【0116】
シース先端軟性部21は、曲がり癖が付いていない管路である。
【0117】
シース湾曲部22は、第一実施形態の基端湾曲部17と同等の曲がり癖が付いた管路であり、外力がない状態において、所定の湾曲形状に復元する。図25に示すシース湾曲部22の形状は、外力がない状態における所定の湾曲形状である。シース湾曲部22の外力がない状態における所定の湾曲形状を、「初期湾曲形状」ともいうシース湾曲部22の初期湾曲形状は、仮想平面Vに沿って湾曲している。
【0118】
シース基端軟性部23は、曲がり癖が付いていない管路であり、基端部2bを経由して操作部4Dに取り付けられている。
【0119】
図25に示すように、先端湾曲部15およびシース湾曲部22が初期湾曲形状であり、軟性部19、シース先端軟性部21およびシース基端軟性部23が直線状態である場合、先端部12Bに設けられた先端チップ14Bの先端開口14cは、仮想平面Vに対して垂直な方向に開口している。
【0120】
図27は、操作部4Dの断面図である。
操作部4Dは、シース2の基端部2bが接続された操作部本体40Dと、スライダ41と、ガス供給管路42と、を有する。
【0121】
操作部本体40Dの先端部は、シース2の基端部2bに固定されている。操作部本体40Dには、軸方向Aに延びるスリット40aが形成されている。ガス管路1Dとガス供給管路42は接続されており、ガス管路1Dの内部空間L1はガス供給管路42の内部空間L4と連通している。
【0122】
スライダ41は、操作部本体40Dに取り付けられており、スリット40aに沿って軸方向Aに進退可能である。スライダ41は、操作部本体40Dの内部においてガス管路1Dの基端部11に取り付けられている。術者は、スライダ41を操作部本体40Dに対して進退させることで、シース2に対してガス管路1Dを軸方向Aに進退移動させることができる。
【0123】
次に、本実施形態の処置具100Dの作用について説明する。処置具100Dは、第二実施形態の処置具100B同様、内視鏡200と組み合わせて、逆流性食道炎(GERD)の内視鏡的治療方法に使用することができる。
【0124】
術者は、第二実施形態同様、処置領域Rを特定する(処置領域特定ステップ)。術者は、胃食道接合部を観察および処置するため湾曲部204をアップアングル状態とする。術者は、特定した処置領域Rの粘膜下層Nに液体を局注することによって、処置領域Rを膨隆させる(局注ステップ)。次に、術者は、第二実施形態同様、挿通ステップ、突出ステップ、および湾曲ステップを実施する。
【0125】
湾曲部204により湾曲された処置具チャンネル230内にシース湾曲部22が通過する際に、シース湾曲部22の湾曲形状が処置具チャンネル230の湾曲形状におおむね倣うまで、シース湾曲部22がシース2の中心軸周りに受動的に回動する。
【0126】
シース湾曲部22がシース2の中心軸周りに受動的に回転すると、操作部本体40Dが軸方向Aを回転軸として回転する。操作部本体40Dに固定されたガス管路1Dがガス管路1Dの中心軸周りに回転し、内視鏡200の先端部201に対して先端開口14cが移動する。その際、先端開口14cは先端チップ14Bの突出方向Dと異なる方向を向いている。
【0127】
処置具チャンネル230の先端部230aから先端湾曲部15が突出し、先端湾曲部15は曲がり癖により初期湾曲形状に戻る。そのため、術者は、第二実施形態同様、処置領域Rを焼灼する際に、撮像画像において処置領域Rの焼灼状態をより視認しやすい。
【0128】
術者は、図26に示すように、スライダ41を操作部本体40Dに対して後退させることにより、シース2に対してガス管路1Dを軸方向Aに対して後退させ、先端湾曲部15をシース2に格納する。その結果、先端開口14cが向く方向を変えることができる。先端開口14cを突出方向Dを向く位置に配置すれば、術者は正面アプローチAP1において、先端チップ14Aの正面に配置された処置領域Rを焼灼しやすい。
【0129】
本実施形態の処置具100Dによれば、ガス管路1Dが基端湾曲部17を有さない場合であっても、ガス管路1Dが挿通するシース2に曲がり癖が付いたシース湾曲部22を有していれば、第二実施形態の処置具100B等と同様の作用効果を発揮できる。
【0130】
以上、本発明の第四実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。また、上述の実施形態および以下で示す変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0131】
(変形例4-1)
例えば、上記実施形態において、シース2に対してガス管路1Dを軸方向Aに後退させて先端湾曲部15をシース2に格納することによって、先端チップ14Bの向きを変えることができる。しかしながら、先端チップ14Bの向きを変更する方法はこれに限定されない。図28は、処置具100の変形例である処置具100Eの先端部を示す図である。処置具110Eの先端チップ14Bには、操作部4から進退操作可能なワイヤ6が取り付けられている。術者は、ワイヤ6を進退させることで、先端開口14cが向く方向を変えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明は、焼灼処置を好適に行う内視鏡用処置具に適用することができる。
【符号の説明】
【0133】
300 内視鏡処置システム
200 内視鏡
100,100B,100C 処置具
1,1B,1C ガス管路(管路)
11 ガス管路の基端部
12 ガス管路の先端部
14,14B 先端チップ
14d 側方開口(開口)
14c 先端開口(開口)
15 先端湾曲部
17 基端湾曲部
2 シース
3 電極
4,4B 操作部
D 突出方向
V 仮想平面
V2 第二仮想平面
図1
図2
図3
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図5
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図28