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特許7326588コバルトフリー層状正極材料及びその製造方法、正極シート並びにリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】コバルトフリー層状正極材料及びその製造方法、正極シート並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230807BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230807BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230807BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230807BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230807BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 C
H01M10/0566
H01M10/052
C01G53/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022509609
(86)(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-10
(86)【国際出願番号】 CN2020132906
(87)【国際公開番号】W WO2021143374
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】202010054701.9
(32)【優先日】2020-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522057847
【氏名又は名称】蜂巣能源科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100142365
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100146064
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 玲子
(72)【発明者】
【氏名】喬斉斉
(72)【発明者】
【氏名】江衛軍
(72)【発明者】
【氏名】許▲しん▼培
(72)【発明者】
【氏名】施澤涛
(72)【発明者】
【氏名】馬加力
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-228706(JP,A)
【文献】特開2012-234648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
H01M 10/0566
H01M 10/052
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料であって、
LiNi0.75Mn0.25結晶と、
前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記リチウムイオン伝導体の質量百分率は0.1%~2%であり、
ここで、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1m/g~0.8m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料のD50粒径は1μm~10μmであることを特徴とするコバルトフリー層状正極材料。
【請求項2】
リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料であって、
LiNiMn結晶であって、x+y=1、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45であるLiNiMn結晶と、
前記LiNiMn結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、
比表面積が0.1m /g~0.8m /gであること、及び
50 粒径が1μm~10μmであることのうちの少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とするコバルトフリー層状正極材料。
【請求項3】
前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、
任意選択に、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.1%~1%であり、
任意選択に、前記リチウムイオン伝導体はマンガン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記マンガン酸リチウムの質量百分率は0.1%~2%であることを特徴とする請求項2に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項4】
記xが0.75で、前記yが0.25であることを特徴とする請求項2又は3に記載のコバルトフリー層状正極材料。
【請求項5】

請求項2~4のいずれか1項に記載のコバルトフリー層状正極材料を製造する方法であって、
LiNiMn結晶を提供するステップと、
前記LiNiMn結晶と、前記リチウムイオン伝導体を形成する材料とを混合して第1の混合物を得るステップと、
600℃~800℃の条件で、前記第1の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で5h~10h第1の焼成処理を行い、前記コバルトフリー層状正極材料を得るステップとを含む方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン伝導体を形成する材料は、
第1のリチウム源と、
チタン源又は第1のマンガン源のうちの少なくとも1種とを含み、
任意選択に、前記チタン源はチタン酸テトラブチル又は酸化チタンのうちの少なくとも1種を含み、
任意選択に、前記第1のマンガン源は炭酸マンガン、酢酸マンガン又は酸化マンガンのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記LiNiMn結晶は、
第2のリチウム源、ニッケル源及び第2のマンガン源を混合して第2の混合物を得るステップ、及び
750℃~1000℃の条件で、前記第2の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で10h~15h第2の焼成処理を行い、前記LiNiMn結晶を得るステップによって提供され、
任意選択に、前記第1のリチウム源及び前記第2のリチウム源にはLiOH、LiCO、CHCOOLi又はLiNOのうちの少なくとも1種がそれぞれ独立して含まれ、
任意選択に、前記ニッケル源及び前記第2のマンガン源にはNiMn(OH)がそれぞれ独立して含まれ、ここで、0.55≦a≦0.95、0.05≦b≦0.45であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のコバルトフリー層状正極材料を含むことを特徴とする正極シート。
【請求項9】
負極と、
請求項1~4のいずれか1項に記載のコバルトフリー層状正極材料又は請求項8に記載の正極シートを含む正極と、
電池セパレータと、
電解液とを含むことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項10】
0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電比容量が205.1mAh/g以上であること、
0.1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が181.9mAh/g以上であること、
0.1Cの充放電レートの条件で、初回充放電効率が88.7%以上であること、
1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の前記リチウムイオン電池の容量維持率が98.3%以上であること、
0.5Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が170.2mAh/g以上であること、
1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が164.8mAh/g以上であること、
2Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が155.7mAh/g以上であること、
3Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が149.7mAh/g以上であること、
4Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が145.1mAh/g以上であることのうちの少なくとも1つの条件を満たすことを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池技術の分野に関し、具体的には、コバルトフリー層状正極材料及びその製造方法、正極シート並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、新エネルギー自動車業界の急速な発展に伴い、人間のリチウムイオン電池に対する要求はますます高まっている。リチウムイオン電池の4つの主要材料の中で、正極活物質が重要な役割を果たしている。関連技術の正極活物質のうち、三元正極活物質は比較的高い容量、電圧、サイクル安定性を有することから広く用いられている。しかしながら、三元正極活物質には、コバルト元素が一定量含まれているため、高価である。このため、三元正極活物質におけるコバルト含有量を低減して初めて正極活物質のコストを好適に削減させることができ、ただし、当該正極活物質にコバルト元素が全く含まれていない場合、そのコストが最も低くなり、すなわちコバルトフリー層状正極材料である。残念ながら、関連技術のコバルトフリー層状正極材料には、コバルト元素を含有していないため、導電性に劣り、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度も遅い。
したがって、従来のコバルトフリー層状正極材料の関連技術をさらに改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、関連技術における技術的問題の1つを少なくともある程度解決することを目的とする。このため、本発明の1つの目的は、コストが低く、表面抵抗が低く、導電性に優れ、その中におけるリチウムイオンの拡散速度が速く、電気化学活性が高く、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ又はレート性能に優れているコバルトフリー層状正極材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様では、本発明は、リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、当該コバルトフリー層状正極材料は、LiNi0.75Mn0.25結晶と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体は、チタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記リチウムイオン伝導体の質量百分率は0.1%~2%であり、ここで、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1m/g~0.8m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料のD50粒径は1μm~10μmである。発明者らは、当該コバルトフリー層状正極材料のコストが低く、表面抵抗が低く、導電性に優れ、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が速く、電気化学活性が高く、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れていることを発見した。
【0005】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、当該コバルトフリー層状正極材料は、LiNiMn結晶であって、x+y=1、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45であるLiNiMn結晶と、前記LiNiMn結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含む。発明者らは、当該コバルトフリー層状正極材料のコストが低く、表面抵抗が低く、導電性に優れ、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が速く、電気化学活性が高く、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れていることを発見した。
【0006】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン伝導体は、チタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含む。
【0007】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.1%~1%である。
【0008】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン伝導体はマンガン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記マンガン酸リチウムの質量百分率は0.1%~2%である。
【0009】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料は、比表面積が0.1m/g~0.8m/gであること、D50粒径が1μm~10μmであること、及び前記xが0.75で、前記yが0.25であることのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【0010】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、上記のコバルトフリー層状正極材料を製造する方法を提供する。本発明の実施例によれば、当該方法は、LiNiMn結晶を提供するステップと、前記LiNiMn結晶と、前記リチウムイオン伝導体を形成する材料とを混合して第1の混合物を得るステップと、600℃~800℃の条件で、前記第1の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で5h~10h第1の焼成処理を行い、前記コバルトフリー層状正極材料を得るステップとを含む。発明者らは、当該方法の操作が簡便であり、実現しやすく、工業的に生産しやすく、且つ上記のコバルトフリー層状正極材料を効果的に製造できることを発見した。
【0011】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン伝導体を形成する材料は、第1のリチウム源と、チタン源又は第1のマンガン源のうちの少なくとも1種とを含む。
【0012】
本発明の実施例によれば、前記チタン源は、チタン酸テトラブチル又は酸化チタンのうちの少なくとも1種を含む。
【0013】
本発明の実施例によれば、前記第1のマンガン源は、炭酸マンガン、酢酸マンガン又は酸化マンガンのうちの少なくとも1種を含む。
【0014】
本発明の実施例によれば、前記LiNiMn結晶は、第2のリチウム源、ニッケル源及び第2のマンガン源を混合して第2の混合物を得るステップ、及び750℃~1000℃の条件で、前記第2の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で10h~15h第2の焼成処理を行い、前記LiNiMn結晶を得るステップによって提供される。
【0015】
本発明の実施例によれば、前記第1のリチウム源及び前記第2のリチウム源にはLiOH、LiCO、CHCOOLi又はLiNOのうちの少なくとも1種がそれぞれ独立して含まれる。
【0016】
本発明の実施例によれば、前記ニッケル源及び前記第2のマンガン源には、NiMn(OH)がそれぞれ独立して含まれ、ここで、0.55≦a≦0.95、0.05≦b≦0.45である。
【0017】
本発明のさらに1つの態様では、本発明は正極シートを提供する。本発明の実施例によれば、当該正極シートは上記のコバルトフリー層状正極材料を含む。発明者らは、当該正極シートのコストが低く、導電性に優れ、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れ、且つ当該正極シートが上記のコバルトフリー層状正極材料の全ての特徴及び利点を有することを発見し、ここでは繰り返さない。
【0018】
本発明のさらに1つの態様では、本発明はリチウムイオン電池を提供する。本発明の実施例によれば、当該リチウムイオン電池は、負極と、上記のコバルトフリー層状正極材料又は上記の正極シートを含む正極と、電池セパレータと、電解液とを含む。発明者らは、当該リチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れ、且つ当該リチウムイオン電池が上記のコバルトフリー層状正極材料又は上記の正極シートの全ての特徴及び利点を有することを発見し、ここでは繰り返さない。
【0019】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電比容量が205.1mAh/g以上であること、0.1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が181.9mAh/g以上であること、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充放電効率が88.7%以上であること、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の前記リチウムイオン電池の容量維持率が98.3%以上であること、0.5Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が170.2mAh/g以上であること、1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が164.8mAh/g以上であること、2Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が155.7mAh/g以上であること、3Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が149.7mAh/g以上であること、4Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が145.1mAh/g以上であることのうちの少なくとも1つの条件を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本願の一部を構成する添付図面は、本発明の更なる理解を提供するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は、本発明を解釈するためのものであり、本発明を不適切に限定するものではない。
【0021】
図1】本発明の一実施例のコバルトフリー層状正極材料の製造方法の概略フローチャートを示す。
図2】本発明の一実施例のLiNiMn結晶を提供するステップの概略フローチャートを示す。
図3】本発明の実施例1及び実施例2におけるLiNiMn結晶の走査型電子顕微鏡写真を示す(a図中の縮尺は2μmであり、b図中の縮尺は200nmである)。
図4】本発明の実施例1におけるコバルトフリー層状正極材料の走査型電子顕微鏡写真を示す(a図中の縮尺は2μmであり、b図中の縮尺は200nmである)。
図5】本発明の実施例2におけるコバルトフリー層状正極材料の走査型電子顕微鏡写真を示す(a図中の縮尺は2μmであり、b図中の縮尺は200nmである)。
図6】本発明の実施例1、実施例2及び比較例1におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線を示す(a線は実施例1におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線であり、b線は実施例2におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線であり、c線は比較例1におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線である)。
図7】本発明の実施例1、実施例2及び比較例1におけるリチウムイオン電池のサイクル性能の試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
なお、以下の説明は、本発明を説明するためのみに用いられ、本発明を限定するものとして理解することはできず、ここでは具体的な技術又は条件を明記しない限り、本分野における文献に記載された技術又は条件に基づいて又は製品明細書に基づいて行われる。メーカーの指示なしに使用される試薬又は機器はすべて、市場で購入できる従来の製品である。
【0023】
本発明の一態様では、本発明は、リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、当該コバルトフリー層状正極材料は、LiNi0.75Mn0.25結晶と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体は、チタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムのうちの少なくとも1種を含み、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記リチウムイオン伝導体の質量百分率は0.1%~2%であり、ここで、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1m/g~0.8m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料のD50粒径は1μm~10μmである。発明者らは、当該コバルトフリー層状正極材料のコストが低く、表面抵抗が低く、導電性に優れ、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が速く、電気化学活性が高く、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れていることを発見した。
【0024】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、リチウムイオン電池用のコバルトフリー層状正極材料を提供する。本発明の実施例によれば、当該コバルトフリー層状正極材料は、LiNiMn結晶であって、x+y=1、0.55≦x≦0.95、0.05≦y≦0.45であるLiNiMn結晶と、前記LiNiMn結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含む。発明者らは、当該コバルトフリー層状正極材料のコストが低く、表面抵抗が低く、導電性に優れ、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が速く、電気化学活性が高く、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れていることを発見した。
【0025】
本発明の実施例によれば、前記xは具体的には0.75であってもよく、それに対応し、前記yは具体的には0.25であってもよい。当業者は実際の必要に応じて上記のx及びyの値を選択することができる。さらに、本発明のいくつかの実施例では、前記LiNiMn結晶の化学式はLiNi0.75Mn0.25である。発明者らは、前記LiNiMn結晶が上記の化学組成を有する場合には、他の化学組成のLiNiMn結晶に比べて、その表面の少なくとも一部にリチウムイオン結晶が付着した後、当該コバルトフリー層状正極材料の表面抵抗が著しく低下し、導電性が著しく向上することを発見した。
【0026】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記LiNiMn結晶の質量百分率は98%~99.5%であってもよい。具体的には、本発明のいくつかの実施例では、前記LiNiMn結晶の質量百分率は具体的には99.3%であってもよい。前記LiNiMn結晶の質量百分率が上記の範囲内であることにより、当該コバルトフリー層状正極材料の電気化学的活性を高めることができ、リチウムイオン電池での使用に適している。
【0027】
本発明の実施例によれば、さらに、発明者らは、リチウムイオン伝導体の具体的な種類について詳細な調査及び多数の実験的検証を実施し、前記リチウムイオン伝導体の具体的な種類がチタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムなどを含んでもよいことを発見した。前記リチウムイオン伝導体がチタン酸リチウム又はマンガン酸リチウムである場合、当該コバルトフリー層状正極材料の表面抵抗がより低く、導電性がより優れ、電気化学活性がより高い。
【0028】
本発明の実施例によれば、具体的には、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであってもよく、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.1%~1%である。具体的には、本発明のいくつかの実施例では、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%又は1%などであってもよい。このように、当該コバルトフリー層状正極材料におけるチタン酸リチウムの質量百分率が上記の範囲内にあるため、チタン酸リチウムの含有量が低いことにより当該コバルトフリー層状正極材料の導電性が劣ることはなく、チタン酸リチウムの含有量が多すぎることにより当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が遅くなることもない。
【0029】
本発明の実施例によれば、また、前記リチウムイオン伝導体はさらにマンガン酸リチウムであってもよく、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記マンガン酸リチウムの質量百分率は0.1%~2%である。具体的には、本発明のいくつかの実施例では、前記マンガン酸リチウムの質量百分率は0.1%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.7%、0.8%、0.9%、1%、1.1%、1.2%、1.3%、1.4%、1.5%、1.6%、1.7%、1.8%、1.9%又は2%などであってもよい。このように、当該コバルトフリー層状正極材料におけるマンガン酸リチウムの質量百分率が上記の範囲内にあるため、マンガン酸リチウムの含有量が低いことにより当該コバルトフリー層状正極材料の導電性が劣ることはなく、マンガン酸リチウムの含有量が多すぎることにより当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が遅くなることもない。
【0030】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料は、比表面積が0.1m/g~0.8m/gである。具体的には、本発明のいくつかの実施例では、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1m/g、0.2m/g、0.3m/g、0.4m/g、0.5m/g、0.6m/g、0.7m/g又は0.8m/gなどであってもよく、コバルトフリー層状正極材料は上記の範囲内の比表面積を有することにより、当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度をより速くすることができ、さらに電気化学活性をより高くすることができる。
【0031】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料のD50粒径は1μm~10μmであってもよい。具体的には、本発明のいくつかの実施例では、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm又は10μmなどであってもよい。発明者らは、上記のコバルトフリー層状正極材料のD50粒径が上記の範囲内にある場合に、その電気化学的活性がよりよく、さらに、それから製造されたリチウムイオン電池のあらゆる方面の性能をよりよくすることを発見した。
【0032】
本発明の実施例によれば、前記コバルトフリー層状正極材料は塩基性を呈する。本発明のいくつかの実施例では、前記コバルトフリー層状正極材料のpH値は11≦pH≦12である。このように、当該コバルトフリー層状正極材料はリチウムイオン電池の正極により適している。
【0033】
本発明の実施例によれば、当該コバルトフリー層状正極材料において、不可避的に一定量の不純物を含有する可能性があり、前記不純物は、当該コバルトフリー層状正極材料の製造プロセス中の残留アルカリであり、又は当該コバルトフリー層状正極材料が空気に放置されるときに緩やかに生成されたアルカリである可能性があり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記不純物の質量百分率が0.5%以下であり、当業者であれば、前記コバルトフリー層状正極材料の性能に影響を及ぼさないことを理解することができ、ここでは繰り返さない。
【0034】
本発明のもう1つの態様では、本発明は、上記のコバルトフリー層状正極材料を製造する方法を提供する。本発明の実施例によれば、図1を参照すると、当該方法はステップS100~S300を含む。
S100において、LiNiMn結晶を提供する。
【0035】
本発明の実施例によれば、具体的には、図2を参照すると、前記LiNiMn結晶はステップS110及びS120によって提供される。
S110において、第2のリチウム源、ニッケル源及び第2のマンガン源を混合して第2の混合物を得る。
【0036】
本発明の実施例によれば、具体的には、前記第2のリチウム源は、LiOH、LiCO、CHCOOLi又はLiNOなどを含んでもよい。このように、材料由来が広く、入手しやすく、コストが低く、且つリチウム源をよりよく提供してLiNiMn結晶を形成することができる。
【0037】
本発明の実施例によれば、具体的には、前記ニッケル源は、NiMn(OH)を含んでもよく、ここで、0.55≦a≦0.95、0.05≦b≦0.45である。具体的には、前記aは0.55、0.65、0.75、0.85又は0.95などであってもよく、前記bは0.05、0.15、0.25、0.35又は0.45などであってもよい。このように、材料由来が広く、入手しやすく、コストが低く、且つニッケル源をよりよく提供してLiNiMn結晶を形成することができる。
【0038】
本発明の実施例によれば、具体的には、前記第2のマンガン源は、NiMn(OH)を含んでもよく、ここで、0.55≦a≦0.95、0.05≦b≦0.45である。具体的には、前記aは0.55、0.65、0.75、0.85又は0.95などであってもよく、前記bは0.05、0.15、0.25、0.35又は0.45などであってもよい。このように、材料由来が広く、入手しやすく、コストが低く、且つマンガン源をよりよく提供してLiNiMn結晶を形成することができる。
【0039】
本発明の実施例によれば、当業者であれば、前記ニッケル源及び前記第2のマンガン源がいずれもNiMn(OH)である場合、前記ニッケル源及び前記第2のマンガン源を同時に上記の体系に加え、前記第2の混合物を得ることができることを理解することができる。このように、操作が簡便であり、実現しやすく、工業的に生産しやすい。
【0040】
本発明の実施例によれば、具体的には、上記の原料を混合するとき、高速混合機器を用いて混合してもよく、前記高速混合機器の回転数は800rpm/min~900rpm/minであってもよく、具体的には800rpm/min、820rpm/min、840rpm/min、860rpm/min、880rpm/min、900rpm/minなどであってもよく、混合時間は5min~20minであってもよく、具体的には5min、10min、15min又は20minなどであってもよい。このように、混合効果が優れている。
【0041】
S120において、750℃~950℃の条件で、前記第2の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で10h~15h第2の焼成処理を行い、前記LiNiMn結晶を得る。
【0042】
本発明の実施例によれば、上記の第2の焼成処理の温度は具体的には、750℃、800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃などであってもよい。このように、上記の温度範囲は比較的適切な温度範囲であり、焼成処理をよりよく行うことができ、それによりLiNiMn結晶を効果的に製造することができる。
【0043】
本発明の実施例によれば、上記の第2の焼成処理の時間は具体的には、10h、11h、12h、13h、14h又は15hなどであってもよい。このように、上記の時間範囲は比較的適切な時間範囲であり、焼成処理をよりよく行うことができ、それによりLiNiMn結晶を効果的に製造することができる。
【0044】
本発明の実施例によれば、上記の酸素含有雰囲気において、前記酸素の体積分率が90%より大きく、具体的には、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%などであってもよい。このように、焼成処理をよりよく行うことができ、それによりLiNiMn結晶を効果的に製造することができる。
【0045】
本発明の実施例によれば、当業者であれば、LiNiMn結晶を得た後に、それに対して粉砕処理及び篩い分け処理を行うことができ、前記粉砕処理は、従来技術における従来の粉砕処理の方式を含み、例えばロール対粉砕、機械的粉砕又は気流粉砕などであってもよく、粒径の大きい不純物粒子を除去するように前記篩い分け処理は300メッシュ~400メッシュの篩いで篩過してもよく、その具体的なプロセスについてここでは繰り返さない。
【0046】
S200において、前記LiNiMn結晶と、前記リチウムイオン伝導体を形成する材料とを混合して第1の混合物を得る。
【0047】
本発明の実施例によれば、具体的には、前記リチウムイオン伝導体を形成する材料は、第1のリチウム源と、チタン源又は第1のマンガン源のうちの少なくとも1種とを含む。本発明のいくつかの実施例では、製造されたリチウムイオン伝導体がチタン酸リチウムである場合に、前記チタン源は、具体的にはチタン酸テトラブチル又は酸化チタンなどを含んでもよく、本発明のほかのいくつかの実施例では、製造されたリチウムイオン伝導体がマンガン酸リチウムである場合に、前記第1のマンガン源は、具体的には炭酸マンガン、酢酸マンガン又は酸化マンガンなどを含んでもよい。また、本発明のいくつかの実施例では、前記第1のリチウム源は、LiOH、LiCO、CHCOOLi又はLiNOなどを含んでもよい。このように、材料由来が広く、入手しやすく、コストが低く、上記のコバルトフリー層状正極材料を効果的に製造することができる。
【0048】
本発明の実施例によれば、さらに、前記LiNiMn結晶と前記リチウムイオン伝導体を形成する材料とを混合したとき、LiNiMn結晶、第1のリチウム源及びチタン源又は第1のマンガン源のモル比は、(4~1):1であってもよい。具体的には、3:1、2:1であってもよい。このように、上記の材料供給比によって上記のより優れた性能を有するコバルトフリー層状正極材料を効果的に製造することができるため、リチウムイオン伝導体の含有量が低いことにより当該コバルトフリー層状正極材料の導電性が劣ることはなく、リチウムイオン伝導体の含有量が多すぎることにより当該コバルトフリー層状正極材料におけるリチウムイオンの拡散速度が遅くなることもない。
【0049】
S300において、600℃~800℃の条件で、前記第1の混合物に対して、酸素を含む雰囲気中で5h~10h第1の焼成処理を行い、前記コバルトフリー層状正極材料を得る。
【0050】
本発明の実施例によれば、上記の第1の焼成処理の温度は、具体的には、600℃、650℃、700℃、750℃又は800℃などであってもよい。このように、上記の温度範囲は、比較的適切な温度範囲であり、焼成処理をよりよく行うことができ、それにより前記コバルトフリー層状正極材料を効果的に製造することができる。
【0051】
本発明の実施例によれば、上記の第1の焼成処理の時間は、具体的には、5h、6h、7h、8h、9h又は10hなどであってもよい。このように、上記の時間範囲は比較的適切な時間範囲であり、焼成処理をよりよく行うことができ、それにより前記コバルトフリー層状正極材料を効果的に製造することができる。
【0052】
本発明の実施例によれば、上記の酸素含有雰囲気において、前記酸素の体積分率が90%より大きく、具体的には、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%などであってもよい。このように、焼成処理をよりよく行うことができ、それによりコバルトフリー層状正極材料を効果的に製造することができる。
【0053】
本発明の実施例によれば、当業者であれば、コバルトフリー層状正極材料を得た後に、それに対して篩い分け処理を行ってもよく、粒径の大きい不純物粒子を除去するように前記篩い分け処理は300メッシュ~400メッシュの篩いで篩過してもよく、その具体的なプロセスについてここでは繰り返さない。
【0054】
本発明のさらに1つの態様では、本発明は正極シートを提供する。本発明の実施例によれば、当該正極シートは、上記のコバルトフリー層状正極材料を含む。発明者らは、当該正極シートのコストが低く、導電性に優れ、それから製造されたリチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れ、且つ当該正極シートが上記のコバルトフリー層状正極材料の全ての特徴及び利点を有することを発見し、ここでは繰り返さない。
【0055】
本発明の実施例によれば、上記のコバルトフリー層状正極材料以外、当業者であれば、当該正極シートはさらに従来の正極シートの他の成分、例えば基板、導電剤、接着剤及び増粘剤などを含んでもよく、ここでは繰り返さない。
【0056】
上記リチウムイオン電池では、負極、電池セパレータ、電解液などは、当該分野における一般的なタイプであってもよく、例えば、電池セパレータは、ポリプロピレンミクロポーラスフィルム(Celgard2400)であってもよく、電解液成分は、LiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)/EC(エチレンカーボネート)-DMC(ジメチルカーボネート)であってもよい。
【0057】
本発明のさらに1つの態様では、本発明はリチウムイオン電池を提供する。本発明の実施例によれば、当該リチウムイオン電池は、負極と、上記のコバルトフリー層状正極材料又は上記の正極シートを含む正極と、電池セパレータと、電解液とを含む。発明者らは、当該リチウムイオン電池の充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高く、サイクル性能に優れ、レート性能に優れ、且つ当該リチウムイオン電池が上記のコバルトフリー層状正極材料又は上記の正極シートの全ての特徴及び利点を有することを発見し、ここでは繰り返さない。
【0058】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電比容量が205.1mAh/g以上である。このように、当該リチウムイオン電池の充電比容量が高くなる。
【0059】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量が181.9mAh/g以上である。このように、当該リチウムイオン電池の放電比容量が高くなる。
【0060】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充放電効率が88.7%以上である。このように、当該リチウムイオン電池の初回効率が高くなる。
【0061】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の前記リチウムイオン電池の容量維持率が98.3%以上である。このように、当該リチウムイオン電池のサイクル性能が優れている。
【0062】
本発明の実施例によれば、前記リチウムイオン電池は、0.5Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量は170.2mAh/g以上であり、1Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量は164.8mAh/g以上であり、2Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量は155.7mAh/g以上であり、3Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量は149.7mAh/g以上であり、4Cの充放電レートの条件で、初回放電比容量は145.1mAh/g以上である。このように、当該リチウムイオン電池のレート性能が優れている。
【0063】
本発明の実施例によれば、上記の構造以外に、当該リチウムイオン電池の他の構造及び部品の形状、構造、製造工程などはいずれも従来の形状、構造、製造工程であってもよく、ここでは繰り返さない。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0064】
(実施例1)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.75Mn0.25結晶(走査型電子顕微鏡写真を図3に示す)と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.2%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.7m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は3μmである。
【0065】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.40gのLiOHと100gの前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が930℃であり、反応時間が10hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
【0066】
ステップ2、ステップ1で得られたニッケルマンガン酸リチウム(100g)を高速ミキサーで0.07gのLiOH及び0.17gのTiOと均一に混合して予備混合物を獲得し、次に予備混合物を700℃で5時間反応させ、ここで、反応雰囲気中の酸素濃度は90%であり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、コバルトフリー層状正極材料を獲得し、ここで、コバルトフリー層状正極材料内のチタン酸リチウムの質量含有量は0.2%であった。
【0067】
当該コバルトフリー層状正極材料の走査型電子顕微鏡写真を図4に示す。図3及び図4から分かるように、コバルトフリー層状正極材料の表面の少なくとも一部にチタン酸リチウムが付着しているが、LiNi0.75Mn0.25結晶の表面は平滑であり、他の材料が付着していない。
【0068】
当該コバルトフリー層状正極材料を均質化し、コーティングして正極シートを作成し、続いてリチウムイオン電池を組み立て、負極は金属リチウムシートを用い、電池セパレータはCelgard2400マイクロポアポリプロピレンフィルムを用い、電解液はLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)/EC(エチレンカーボネート)-DMC(ジメチルカーボネート)を用い、電池型番はR2032であり、以下も同じである。
【0069】
(実施例2)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.75Mn0.25結晶(走査型電子顕微鏡写真を図3に示す)と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はマンガン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記マンガン酸リチウムの質量百分率は0.15%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.70m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は3μmである。
【0070】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、実施例1と同じである。
【0071】
ステップ2、ステップ1で得られたニッケルマンガン酸リチウム(100g)を高速ミキサーで0.035gのLiOH及び0.14gのMnOと均一に混合して予備混合物を獲得し、次に予備混合物を700℃で5時間反応させ、ここで、反応雰囲気中の酸素濃度は90%であり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、コバルトフリー層状正極材料を獲得し、ここで、コバルトフリー層状正極材料内のチタン酸リチウムの質量含有量は0.15%である。
当該コバルトフリー層状正極材料の走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。図3及び図5から分かるように、コバルトフリー層状正極材料の表面の少なくとも一部にマンガン酸リチウムが付着しているが、LiNi0.75Mn0.25結晶の表面は平滑であり、他の材料が付着していない。
実施例1と同じ方法により、リチウムイオン電池を得た。
【0072】
(実施例3)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.75Mn0.25結晶と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.1%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.1m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は10μmである。
【0073】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.40gのLiOHと100gの前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が1000℃であり、反応時間が15hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
【0074】
ステップ2、ステップ1で得られたニッケルマンガン酸リチウム(100g)を高速ミキサーで0.035gのLiOH及び0.085gのTiOと均一に混合して予備混合物を獲得し、次に予備混合物を700℃で5時間反応させ、ここで、反応雰囲気中の酸素濃度は90%であり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、コバルトフリー層状正極材料を獲得し、ここで、コバルトフリー層状正極材料内のチタン酸リチウムの質量含有量は0.1%である。
【0075】
(実施例4)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.75Mn0.25結晶と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は2.0%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.8m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は1μmである。
【0076】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.40gのLiOHと100gの前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が880℃であり、反応時間が20hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
【0077】
ステップ2、ステップ1で得られたニッケルマンガン酸リチウム(100g)を高速ミキサーで0.7gのLiOH及び1.7gのTiOと均一に混合して予備混合物を獲得し、次に予備混合物を700℃で5時間反応させ、ここで、反応雰囲気中の酸素濃度は90%であり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、コバルトフリー層状正極材料を獲得し、ここで、コバルトフリー層状正極材料内のチタン酸リチウムの質量含有量は2.0%である。
【0078】
(実施例5)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.75Mn0.25結晶と、前記LiNi0.75Mn0.25結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は3.0%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は1.0m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は0.5μmである。
【0079】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.40gのLiOHと100gの前駆体Ni0.75Mn0.25(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が850℃であり、反応時間が10hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
【0080】
ステップ2、ステップ1で得られたニッケルマンガン酸リチウム(100g)を高速ミキサーで1.05gのLiOH及び2.55gのTiOと均一に混合して予備混合物を得、次に予備混合物を700℃で5時間反応させ、ここで、反応雰囲気中の酸素濃度は90%であり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、コバルトフリー層状正極材料を獲得し、ここで、コバルトフリー層状正極材料内のチタン酸リチウムの質量含有量は3.0%である。
【0081】
(実施例6)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.55Mn0.45結晶と、前記LiNi0.55Mn0.45結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.2%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.7m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は3μmである。
【0082】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.0gのLiOHと100gの前駆体Ni0.55Mn0.45(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が980℃であり、反応時間が10hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
ステップ2、実施例1と同じである。
【0083】
(実施例7)
当該コバルトフリー層状正極材料は、
LiNi0.95Mn0.05結晶と、前記LiNi0.95Mn0.05結晶の表面の少なくとも一部に付着しているリチウムイオン伝導体とを含み、前記リチウムイオン伝導体はチタン酸リチウムであり、前記コバルトフリー層状正極材料の総質量に基づき、前記チタン酸リチウムの質量百分率は0.2%であり、前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.7m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は3μmである。
【0084】
当該コバルトフリー層状正極材料の具体的な製造方法は次のとおりである。
ステップ1、高速混合装置を用いて47.80gのLiOHと100gの前駆体Ni0.95Mn0.05(OH)を混合し、混合時間が10分間であり、回転数が800rpmであり、混合材料を酸素雰囲気(濃度90%以上)で反応し、反応温度が800℃であり、反応時間が10hであり、反応した後に、自然に冷却させて400メッシュの篩に掛けることで、単結晶形態の層状ニッケルマンガン酸リチウムを得る。
ステップ2、実施例1と同じである。
【0085】
(比較例1)
当該コバルトフリー層状正極材料はLiNi0.55Mn0.45結晶を含む。前記コバルトフリー層状正極材料の比表面積は0.7m/gであり、前記コバルトフリー層状正極材料の粒径は3μmである。
ステップ1、実施例6と同じである。
【0086】
性能試験結果は次のとおりである。
(1)実施例1、実施例2及び比較例1におけるリチウムイオン電池の初回充放電曲線を図6に示す。図6から分かるように、比較例1におけるリチウムイオン電池は0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電の比容量が200.7mAh/gであり、初回放電の比容量が172.5mAh/gであり、初回効率が85.9%であり、実施例1におけるリチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電の比容量が205.1mAh/gであり、初回放電の比容量が181.9mAh/gであり、初回効率が88.7%であり、実施例2におけるリチウムイオン電池は、0.1Cの充放電レートの条件で、初回充電の比容量が209.1mAh/gであり、初回放電の比容量が185.7mAh/gであり、初回効率が88.9%である。このように、本発明に記載のコバルトフリー層状正極材料により製造されたリチウムイオン電池は、充電比容量が高く、放電比容量が高く、初回効率が高い。
【0087】
(2)実施例1、実施例2及び比較例1におけるリチウムイオン電池のサイクル性能試験結果を図7に示し、ここで、試験時温度は25℃であり、充電レートは0.5Cであり、放電レートは1Cであり、電位範囲は3.0V~4.3Vである。図7から分かるように、比較例1におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が96.9%のみであり、実施例1におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が99.2%であり、実施例2におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が98.3%である。実施例3におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が97.6%であり、実施例4におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が98.9%であり、実施例5におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が96.3%であり、実施例6におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が97.5%であり、実施例7におけるリチウムイオン電池は、1Cの充放電レートの条件で、50回の充放電サイクル後の容量維持率が95.1%である。このように、本発明に記載のコバルトフリー層状正極材料はサイクル性能に優れている。
【0088】
(3)実施例1、実施例2及び比較例1におけるリチウムイオン電池のレート性能試験結果を表1に示す。表1から分かるように、実施例1及び実施例2は、比較例1に比べて、レート性能が著しく向上している。例えば、充放電レートが1Cの条件で、比較例1の放電比容量は155.3mAh/gのみであり、実施例1の放電比容量は164.8mAh/gに達し、充放電レートが4Cの条件で、比較例1の放電比容量は136.3mAh/gのみであり、実施例1の放電比容量は145.1mAh/gに達し、実施例2の放電比容量は147.4mAh/gに達する。このように、本発明に記載のコバルトフリー層状正極材料はレート性能に優れている。他の実施例におけるリチウムイオン電池のレート性能試験結果は表1に示すとおりである。
【0089】
【表1】
【0090】
本発明の説明において、「第1」及び「第2」という用語は、説明の目的でのみ使用され、相対的な重要性を示す又は暗示するか、又は示された技術的特徴の数を暗黙的に示すと理解できないことを理解されたい。このように、「第1」及び「第2」が限定されている特徴は、1つ又は複数の当該特徴を明示的又は暗黙的に含んでもよい。本発明の説明において、「複数」とは、特に明記しない限り、2つ以上を意味する。
【0091】
本明細書の説明において、「一実施例」、「いくつかの実施例」、「例」、「具体的な例」、又は「いくつかの例」などの用語を参照する説明は、当該実施例や例を結び合わせて説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施例や例に含まれることを意味する。本明細書では、上記の用語に対する概略的な説明は、必ずしも同じ実施例や例を指すとは限らない。また、説明された具体的な特徴、構造、材料又は特性は、いずれか1つ又は複数の実施例や例において適切な方式で結び合わせることができる。さらに、当業者は、互いに矛盾することなく、本明細書に記載されている異なる実施例や例及び異なる実施例や例の特徴に対して結び合わせと組み合わせを行うことができる。
【0092】
以上、本発明の実施例について示し、説明したが、上記の実施例は例示的であり、本発明を限定するものとして理解されるべきではなく、当業者は、本発明の範囲内で、上記の実施例に対して変更、修正、置換及び変形を行うことができることを理解されたい。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7