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特許7326594複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインにおける圧延材の冷間圧延
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  • 特許-複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインにおける圧延材の冷間圧延 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインにおける圧延材の冷間圧延
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/74 20060101AFI20230807BHJP
   B21B 27/10 20060101ALI20230807BHJP
   B21B 38/00 20060101ALI20230807BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20230807BHJP
   B21C 51/00 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
B21B37/74 A
B21B27/10 A
B21B27/10 B
B21B27/10 C
B21B38/00 C
B21B45/02 310
B21B45/02 320T
B21B45/02 320U
B21C51/00 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022515752
(86)(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2020074901
(87)【国際公開番号】W WO2021048038
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-06-01
(31)【優先権主張番号】19196307.3
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515153152
【氏名又は名称】プライメタルズ・テクノロジーズ・オーストリア・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・ベルクマン
(72)【発明者】
【氏名】コンラート・クリムペルシュテッター
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-202509(JP,A)
【文献】特開平01-218710(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03461566(EP,A1)
【文献】特開2008-105099(JP,A)
【文献】特開平11-297460(JP,A)
【文献】国際公開第2011/067119(WO,A1)
【文献】特開昭62-072412(JP,A)
【文献】特開平07-032006(JP,A)
【文献】特開平08-085825(JP,A)
【文献】特開2005-205432(JP,A)
【文献】特開2005-211963(JP,A)
【文献】特開2013-220471(JP,A)
【文献】特開2000-167614(JP,A)
【文献】特開2009-106975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0345342(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107433284(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延材(2)によって連続して通過される複数の圧延機スタンド(3~7)を有する圧延機トレイン(1)内で前記圧延材(2)を冷間圧延するための方法であって、
少なくとも1つの圧延パスに関して、前記圧延材(2)の圧延材温度の上限温度及び/又は下限温度が予め設定され、
前記圧延材温度は、制御手段によって、少なくとも1つの前記圧延パスにおける前記圧延材温度が、前記圧延パスに関して予め設定された上限温度を超過しないように、及び/又は、前記圧延パスに関して予め設定された下限温度を下回らないように制御され、前記制御手段は、
前記圧延材(2)を第1の圧延パスの前に、加熱装置(19)を用いて送り込み温度まで加熱する手段であって、前記加熱装置(19)の熱出力が設定される手段、
ワークロール(9、10)にロール冷却剤(21)を塗布することによって、少なくとも1つの前記圧延機スタンド(3~7)の前記ワークロール(9、10)を冷却する手段であって、ロール冷却剤(21)のロール冷却剤流量及びロール冷却剤圧力制御され、前記ワークロール(9、10)の冷却の際に、前記ワークロール(9、10)から放出される熱量と、前記圧延材(2)から前記ワークロール(9、10)に放出される熱量と、が特定される手段、
少なくとも2つの連続する前記圧延パスの間で、前記圧延材(2)に圧延材冷却剤(23)を塗布することによって前記圧延材(2)を冷却する手段であって、前記圧延材冷却剤(23)の圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力が制御され、前記圧延材(2)の冷却の際に、前記圧延材(2)から前記圧延材冷却剤(23)に放出される熱量が特定される手段、
少なくとも1つの前記圧延パスにおいて、潤滑剤(29)を前記ワークロール(9、10)又は/及び前記圧延材(2)に塗布する手段であって、前記潤滑剤(29)の潤滑剤流量及び潤滑剤圧力が制御され、前記圧延機スタンド(3~7)それぞれのロールギャップにおける出力の摩擦損失が特定される手段、
前記圧延パスそれぞれのパス圧下に関して、パス順序分布を作成し、実行する手段であって、前記圧延材(2)の塑性変形の際に生じる変形熱が、前記圧延機スタンドそれぞれでのパス圧下から、及び、前記圧延材(2)の材料特性から特定される手段、及び
前記圧延材(2)が前記圧延機トレイン(1)を通過する際の圧延速度を制御する手段であって、前記圧延機スタンド(3~7)それぞれにおいて生じる出力の摩擦損失が特定される手段、
を含み、
前記送り込み温度、前記パス順序分布及び前記圧延速度がオフラインで決定され、
前記ロール冷却剤流量、前記ロール冷却剤圧力、前記圧延材冷却剤流量、前記圧延材冷却剤圧力、前記潤滑剤流量及び前記潤滑剤圧力は、オンラインで制御される、
方法。
【請求項2】
少なくとも1つの前記圧延パスに関して、140℃から250℃の間の範囲で上限温度が予め設定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの前記圧延パスに関して、20℃から140℃の間の範囲で下限温度が予め設定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
全ての前記圧延パスに関して、共通の上限温度が予め設定される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
全ての前記圧延パスに関して、共通の下限温度が予め設定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記加熱装置(19)が、誘導加熱装置として構成されている、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
噴霧装置内で、潤滑剤(29)とキャリアガスとの混合物が形成され、前記混合物が、潤滑剤ノズルで、前記ワークロール(9、10)及び/又は前記圧延材(2)に噴霧されることによって、前記ワークロール(9、10)又は/及び前記圧延材(2)に少なくとも1つの前記圧延パスにおいて、前記潤滑剤(29)が塗布される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
圧延材(2)の冷間圧延のための複数の圧延機スタンド(3~7)及び制御部(39)を有する圧延機トレイン(1)であって、
前記制御部(39)によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な加熱装置(19)であって、第1の圧延パスの前に前記圧延材(2)を加熱するように構成された加熱装置(19)
前記制御部(39)によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な冷却系であって、ロール冷却剤(21)を少なくとも1つの前記圧延機スタンド(3~7)のワークロール(9、10)に、及び/若しくは、圧延材冷却剤(23)を、少なくとも2つの連続する圧延パスの間に、前記圧延材(2)に分配するように構成された冷却系
前記制御部(39)によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な潤滑系であって、少なくとも1つの圧延パスにおいて、潤滑剤(29)を、前記ワークロール若しくは/及び前記圧延材(2)に分配するように構成された潤滑系を含んでおり、並びに
前記制御部(39)は、請求項1からのいずれか一項に記載の方法の少なくとも1つの開ループ制御手段及び閉ループ制御手段を実施するように構成されている圧延機トレイン(1)。
【請求項9】
前記圧延機トレイン(1)の任意の位置において、前記圧延材(2)の圧延材温度を検出するように構成された少なくとも1つの測定ユニット(37)を有する、請求項に記載の圧延機トレイン(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインにおける圧延材の冷間圧延に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機スタンド内では、圧延材、一般的には金属圧延ストリップが、圧延材の厚さを減少させるために、圧延機スタンドの2つのワークロールの間のロールギャップにおいて圧延される。しばしば、いわゆる圧延機トレイン内には、複数の圧延機スタンドが配置され、当該圧延機スタンドは、圧延材の厚さを連続的に減少させるために、圧延材によって連続して通過される。圧延機スタンドの内の1つにおける圧延材の圧延は、圧延パスと呼ばれる。つまり、複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレイン内では、複数の圧延パスが連続して実施される。圧延パスにおける圧延材の厚さの減少は、圧延パスのパス圧下と呼ばれる。冷間圧延の場合、圧延材は、再結晶温度よりも低い圧延材温度で圧延される。
【0003】
特に、エレクトロモビリティの技術分野における使用に関して、高いケイ素含有量を有する電磁鋼板が、より一層重要性を増している。当該電磁鋼板の高い脆性は、特に冷間成形の際に多くの問題をもたらし得る。例えば、頻繁に生じるストリップの亀裂と、それゆえに不安定な冷間圧延に際する製造条件と、である。圧延材の圧延材温度の上昇によって、圧延材の脆性を低下させることが可能である。
【0004】
他方では、冷間圧延の際の圧延材温度は、その原則に基づいて、圧延材の再結晶温度を超えてはならない。加えて、冷間圧延の際の圧延材温度は、一般的に、他の理由からも制限されていた方がよい。例えば、冷間圧延の際、大抵は、圧延材とワークロールとの間における摩擦を減少させるために、潤滑剤が、圧延機スタンドのワークロール及び/又は圧延材に塗布される。潤滑剤は、例えば200℃を超える高温において亀裂を生じ得る圧延油であるか、又は、圧延油を含んでいる。さらに、冷間圧延の下流に、例えば圧延材のコーティング等の、冷間圧延された圧延材を加工するための加工ステップを設けてもよいが、当該加工ステップにとっては、高すぎる圧延材温度は不利である(圧延材のコーティングの場合、例えばコーティングの接着が弱まる)。さらに、高すぎる圧延材温度は、例えば圧延材のためのプラスチックコーティングされた滑車若しくは圧延された圧延材のための保管サドル(storage saddles)等の、設備装置の摩耗の増大、又は、圧延材の平坦性を損なう軸方向におけるワークロール外形の熱変形をもたらし得る。
【0005】
特許文献1は、冷間圧延機スタンドに送り込まれる圧延ストリップを、100℃から500℃までの間の温度まで加熱し、圧延機スタンドのワークロールに、送り込み側において潤滑剤を、送り出し側において冷却剤として水を散布することを提案している。一方では、加熱によって、圧延ストリップの成形抵抗が減少することになり、他方では、冷却水の散布によって、過熱によるワークロール上の潤滑膜の破壊、及び、ワークロールの大きすぎる熱変形が防止されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平01-218710号公報
【文献】欧州特許第2651577号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】F. Hell, ”Grundlagen der Waermeuebertragung”, VDI-Verlag 1982, ISBN number 978-3-18-400529-0, pp.77-85
【文献】H. Hoffmann, ”Handbuch Umformen, 2012, ISBN 978-3-446-42778-5
【文献】J.B.A.F. Smeulders, ”Lubrication in the Cold Rolling ProcessDescribed by a 3D Stribeck Curve, AISTech 2013 Proceedings
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、圧延材を冷間圧延するための方法、及び、圧延材を冷間圧延するための複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインについて記載することにあり、当該圧延機スタンドは、圧延の間及び/又は圧延後における圧延材の温度調節に関して改善されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、本課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法と、請求項11に記載の特徴を有する圧延機トレインと、によって解決される。
【0010】
本発明の有利な態様は、従属請求項の対象である。
【0011】
圧延材によって連続して通過される複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレイン内で圧延材を冷間圧延するための本発明に係る方法では、少なくとも1つの選択された圧延パスに関して、特に各圧延パスに関して、圧延材の圧延材温度の上限温度及び/又は下限温度が予め設定され、圧延材温度は、以下の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の内の少なくとも1つを通じて、選択された各圧延パスにおける圧延材温度が、当該圧延パスに関して予め設定された上限温度を超過しないように、及び/又は、当該圧延パスに関して予め設定された下限温度を下回らないように、開ループ制御及び/又は閉ループ制御され、当該開ループ制御手段又は閉ループ制御手段は、
-圧延材を第1の圧延パスの前に送り込み温度まで加熱する手段、
-ワークロールにロール冷却剤を塗布することによって、少なくとも1つの圧延機スタンドのワークロールを冷却する手段であって、ロール冷却剤のロール冷却剤流量及び/又はロール冷却剤圧力は、開ループ制御又は閉ループ制御される手段、
-少なくとも2つの連続する圧延パスの間で、圧延材に圧延材冷却剤を塗布することによって圧延材を冷却する手段であって、圧延材冷却剤の圧延材冷却剤流量及び/又は圧延材冷却剤圧力は、開ループ制御又は閉ループ制御される手段、
-少なくとも1つの圧延パスにおいて、潤滑剤をワークロール又は/及び圧延材に塗布する手段であって、潤滑剤の潤滑剤流量及び/又は潤滑剤圧力は、開ループ制御又は閉ループ制御される手段、
-各圧延パスのパス圧下に関して、パス順序分布を作成し、実行する手段、
-圧延材が圧延機トレインを通過する際の圧延速度を開ループ制御又は閉ループ制御する手段、
である。
【0012】
すなわち、本発明は、圧延材温度を少なくとも1つの圧延パス内で監視し、圧延材温度が、圧延パス固有の上限温度を超過しない、及び/又は、圧延パス固有の下限温度を下回らないようにするものである。これによって、概して、ストリップの亀裂等の異常を減少させることが可能であり、従って、圧延機トレインの処理能力を増大させることができる。特に、例えば高いケイ素の含有量を有する電磁鋼板等の重要な圧延材の冷間圧延に関する製造条件が改善されるか、又は、初めて設けられる。限界温度を予め適切に設定することによって、さらに、圧延機トレインの出口において、圧延材最終温度に選択的に影響を与えることが可能であり、これによって、冷間圧延された圧延材の柔軟なさらなる加工可能性が得られる。さらに、限界温度を予め設定することによって、圧延機トレインの入口において必要な圧延材の送り込み温度を最小限に抑えることが可能であり、これによって、第1の圧延パスの前に圧延材を加熱するためのエネルギーを節約することができる。さらに、限界温度を予め適切に設定することによって設備装置が保護され、設備装置の摩耗が削減される。
【0013】
上述の開ループ制御又は閉ループ制御は、冷間圧延の間に圧延材温度に影響を与えることに、特に適している。例えば、第1の圧延パスの前に圧延材を加熱することで、圧延材の脆性と、従って圧延材のストリップに亀裂が生じる危険とが減少する。
【0014】
圧延パスの間でワークロール及び/又は圧延材を冷却することによって、圧延材の冷間成形に際するワークロール及び圧延材の加熱が弱められる。ワークロールに分配されたロール冷却剤を用いたロールの冷却の際、ワークロールから放出される熱量は、熱伝達のモデリング(ロール表面とロール冷却剤との間における熱伝達率の決定)から特定され、例えば非特許文献1から知られている。代替的に、熱伝達率は、ローラ冷却剤流量及びローラ冷却剤圧力の関数として、経験的にも特定され得る(いわゆるテーブルモデル)。ここから、ワークロールの温度が決定され、ワークロールの温度から、次に、ロールギャップにおける圧延材とワークロールとの間の熱流量、すなわち圧延材からワークロールに放出される熱量が特定され、ロール冷却剤流量及び/又はロール冷却剤圧力の対応する開ループ制御又は閉ループ制御によって調整可能であり、これによって、ロールギャップ内の圧延材温度が選択的に設定され得る。同様に、圧延材に塗布された圧延材冷却剤を用いた圧延材冷却の際、圧延材から圧延材冷却剤に放出される熱量が、圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力が既知の場合、熱伝達のモデリングを通じて、圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力に依存する、圧延材冷却剤と圧延材冷却剤が供給される圧延材表面との間における熱伝達率の、既に例として挙げたモデルに基づく決定によって、又は、経験に基づく決定によって決定される。ここから、次に、圧延材冷却剤流量及び/又は圧延材冷却剤圧力の対応する開ループ制御又は閉ループ制御によって、圧延材からの熱流量と、結果として圧延材の温度とが、圧延設備の圧延材に圧延材冷却剤が直接供給される領域において、選択的に設定される。
【0015】
少なくとも1つの圧延パスにおいて、ワークロール又は/及び圧延材に潤滑剤を塗布することによって、圧延材とワークロールとの間の摩擦が減少し、これによって、圧延材及び/又はワークロールの加熱が弱められる。潤滑剤が多く塗布されるほど、圧延の際に生じる出力の摩擦損失が小さくなる。後者は、基本的に、加えられた圧延力、摩擦係数、各圧延機スタンドのロールギャップにおける圧延ストリップとワークロールとの間の速度差から算出される。圧延力は、一般的に、該当するスタンドにおいて所望のパス圧下を得るために、圧延機トレインの設備自動化によって、予め決定されているので、既知である。代替的に、例えば厚さを制御する場合、最新の圧延力が、該当する圧延機スタンドにおいて圧延力を発生させる装置(例えば油圧シリンダ)によって持続的に、オンラインで測定され得る。ロールギャップにおける速度差を特定するために、例えば非特許文献2に記載の式(3.13)が知られており、当該式には、圧延機スタンドでの圧延材の送り込み速度又は送り出し速度、及び、ワークロールのロール直径と対応するスタンドにおけるパス圧下とに依存するロールギャップ形状が入力される。ロールギャップにおける摩擦係数の特定に関しては、例えば経験値を用いることができる。例えば、特別な圧延プロセスの際に知られているパラメータである、表面品質、材料特性及び潤滑剤塗布が、摩擦係数を決定する。代替的に、摩擦係数のモデリングも、非特許文献3から知られている。
【0016】
各圧延パスのパス圧下のためのパス順序分布によって、圧延機トレインにおいて得られるべき圧延材の厚さの減少が、各圧延機スタンドに分配される。原則的に、各圧延機スタンドにおいて、圧延材の塑性変形によって、圧延材の加熱が行われる。この際、圧延材に生じる変形熱は、当業者によって容易に、各圧延機スタンドにおけるパス圧下から、及び、圧延材の材料特性から、特定され得る。圧延機トレインのスタンド全体を考慮したパス圧下の適切な選択によって、例えば、圧延材温度に関する所定の温度領域が圧延機トレイン全体にわたって保持されることが得られる。
【0017】
圧延速度は、圧延材が圧延機トレインの圧延機スタンドを通過する速度であると理解される。圧延速度は、各圧延機スタンドにおける上述の出力の摩擦損失に直接影響を与えることが可能である。なぜなら、圧延速度によって、各圧延機スタンド内の速度差も、直接の影響を受けているからである。従って、圧延速度は、各圧延パスにおける圧延材温度にも影響を与える。
【0018】
圧延材が連続して通過する複数の圧延機スタンドを有する圧延機トレインにおける冷間圧延の際に、圧延材温度に影響を与えるために、本発明に係る方法によると、複数の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段が利用可能であり、当該開ループ制御手段又は閉ループ制御手段は、圧延プロセスに、それぞれ対応する動作変数を通じて影響を与え、圧延材が圧延機トレインを通過する間中、圧延材温度を、下限温度及び上限温度によって予め設定された特定の温度領域内で保持することを可能にする。これらの動作変数は、第1の圧延パスの前に圧延ストリップの送り込み温度を設定するための加熱装置の熱出力、圧延材とワークロールとの接触によって、及び、圧延材に塗布された圧延材冷却剤によって圧延材から放出される熱量を設定するための冷却パラメータ、各圧延機スタンドのロールギャップにおける出力の摩擦損失を設定するための潤滑パラメータ、パス圧下に際して各圧延機スタンド内に生じる変形熱を設定するためのパス順序分布、同様に各圧延機スタンド内でのパス圧下に際する出力の摩擦損失に影響を与える圧延速度、を含んでいる
【0019】
上述の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段は、互いから独立して実施され得る。この際、例えば演算処理装置によるシミュレーションに基づいて予め、すなわち圧延プロセスの実際の実施の前に、この際に結果として生じる圧延材温度の特定が行われ得る。当該演算処理装置は、圧延機トレインにおいて開ループ制御手段又は閉ループ制御手段を現実の圧延プロセスの際に実施する制御部と同一であってよい。
【0020】
これは具体的には、例えば各動作変数に関して予め設定された値を基に、まず圧延材の温度推移が、特定の圧延パスにわたって、又は、圧延機トレイン全体を通じて、
-特定されるということを意味している:例えば、
-第1の圧延機スタンドにおいて予め設定された冷却パラメータに基づいて、圧延材からワークロール及び圧延材冷却剤に放出された熱量が特定され、
-さらに、第1の圧延機スタンドにおいて予め設定された潤滑パラメータと、第1の圧延機スタンドにおいて予め設定された圧延速度と、に基づいて、第1の圧延機スタンドのロールギャップにおける出力の摩擦損失が特定され、
-予め設定されたパス順序分布に基づいて、第1の圧延機スタンドに生じる変形熱が、第1の圧延機スタンドにおけるパス圧下から、及び、圧延材の材料特性から特定される。これらの特定された熱流量に基づいて、加熱装置を用いて予め設定された、又は、他の方法で特定された、第1の圧延機スタンドに送り込まれる際の圧延材の送り込み温度を始点として、第1の圧延機スタンドの下流における、圧延材冷却剤を塗布した後の結果として生じる圧延材温度が特定され得る。第1の圧延機スタンドの下流における、このように特定された圧延材温度は、同じように第2の圧延機スタンドの下流における圧延材温度を、第2の圧延機スタンドにおいて予め設定された圧延速度、パス圧下、冷却パラメータ及び潤滑パラメータに基づいて特定するための始点として用いられ得る。この連続的な圧延材温度の特定は、圧延材が圧延機トレインの最後の圧延機スタンドから送り出されるまで継続され得る。
【0021】
上限温度又は下限温度の超過又は未満が確認される場合、上述の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の内の1つが、各動作変数に関する予め設定された値とは異なる値で適用され、圧延材温度が新たに計算によって特定可能であり、これによって、開ループ制御手段又は閉ループ制御手段に関する変更されたパラメータで、所定の限界温度が維持されるかどうかが検査される。適用された動作変数をそれぞれ変更した後で、検査を新たに実施することが可能である。
【0022】
例えば、特定の圧延機スタンドにおいて圧延材温度の超過が確認された場合、当該スタンドに適用される潤滑及び/又は冷却は、出力の摩擦損失を減少させるため、及び/又は、圧延材から輸送される熱量を増大させるために高められ得る。
【0023】
いわゆる「グローバルな最適化問題」では、目的関数を予め設定した上で複数の基準が同時に考慮されるべきである解決法が探求され、目的関数は、各基準を個々に評価し、これらの基準は、例えば、圧延機トレイン全体にわたる所望の温度調整、所望の材料特性に関する最適化されたパス順序、圧延機トレインを通る可能な限り高い処理能力率、特定の圧延力分配の維持、又は、可能な限り少ない冷却剤及び潤滑剤の使用、を含み得る。グローバルな最適化問題の解決法を探求するための計算量は、可変パラメータの数と共に、過度に増大する。
【0024】
上述の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の内の1つ以上を独立して実施することによって、必ずしもこのようなグローバルな最適化問題に関する最適解が供給されるものではないが、上述の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の内の1つ以上の互いに独立した実施の実現は、例えば既存の圧延機トレインの制御部のための追加装備的解決法として適している。なぜなら、適用される開ループ制御手段又は閉ループ制御手段が、限界温度の維持を保証するか否かの検査は、いずれの場合にも、圧延機トレインの圧延機スタンドに比例するのみで、可変パラメータ自体の数には依存しないからである。従って、このような場合に必要とされる計算能力は、圧延機トレインの制御部自体によっても提供され得る。例えば、特定の圧延機スタンドにおいて、冷却パラメータを変更する際、単に、該当する圧延機スタンドの下流に配置された圧延機スタンドの領域において圧延材温度を新たに特定すればよい。しかしまた、それぞれ圧延機トレインの圧延機スタンド全体に作用する、パス順序又は圧延速度の付加的に適用される変更の場合にも、上述した方法で新たに特定されるべき熱量の数は、限界温度の維持を検査するために、圧延機スタンドの総数によって制限されている。
【0025】
本発明の一態様では、圧延材の送り込み温度、冷却及び潤滑パラメータ、パス順序分布及び圧延速度のモデルに基づく算出が、目標関数を予め設定した上で、グローバルな最適化問題の解決法として行われる。この際、グローバルな最適化問題に関して、多数の解決法があり得るが、その内、最適な解決法は、例えばさらなる基準を考慮した上で初めて、例えば圧延速度の付加的な最大化を通じて、又は、圧延機スタンド3~7への特定の圧延力の分配の維持を通じて、同様にモデルに基づいて決定される。
【0026】
本発明の一態様においては、少なくとも1つの圧延パスに関して、上限温度が140℃から250℃の間の範囲で、及び/又は、下限温度が20℃から140℃の間の範囲で、予め設定される。このような上限温度によって、特に上述した、潤滑剤として又は潤滑剤の成分として用いられる圧延油の亀裂が回避され得る。下限温度は、材料に依存し、従って、圧延材に適応している。
【0027】
本発明のさらなる態様では、全ての圧延パスに関して、共通の上限温度及び/又は共通の下限温度が予め設定される。これによって、本発明に係る方法が、圧延パスに依存する限界温度での実施よりも容易になる。
【0028】
本発明のさらなる態様では、圧延材は、第1の圧延パスの前に、加熱装置、特に誘導加熱装置によって、送り込み温度にまで加熱される。圧延材の誘導加熱の場合、圧延材の加熱は、誘導加熱装置の出力、圧延材の速度と加熱装置の全長とから明らかになる効率及び滞留時間、圧延材の材料特性、特にその比熱容量から容易に特定され得る。
【0029】
本発明のさらなる態様では、少なくとも1つの圧延機スタンドのワークロールは、ワークロールにロール冷却剤を送り出し側において塗布することによって冷却される。圧延機スタンドの送り出し側とは、圧延機スタンドの、圧延材が圧延機スタンドを離れる方の側であると理解される。対応して、圧延機スタンドの送り込み側は、圧延機スタンドの、圧延材が圧延機スタンドに入る方の側であると理解される。ワークロールにロール冷却剤を送り出し側において塗布することは、送り込み側において塗布するよりも効果的である。なぜなら、ワークロールの回転方向に基づいて、圧延プロセスによって生成された熱は、即座に放出される一方で、送り込み側におけるロール冷却のためには、ワークロールの該当する箇所が、さらにまず概ね半回転しなければならないからである。
【0030】
本発明のさらなる態様では、噴霧装置内で、潤滑剤とキャリアガスとの混合物が形成され、当該混合物が、潤滑剤ノズルで、ワークロール及び/又は圧延材に噴霧されることによって、ワークロール又は/及び圧延材に少なくとも1つの圧延パスにおいて、潤滑剤が塗布される。このような潤滑剤の塗布は、特許文献2から知られており、例えば潤滑エマルジョンの塗布に対して、潤滑剤を非常に選択的に、経済的に塗布することができるという利点を有している。
【0031】
本発明のさらなる態様では、ワークロール又は/及び圧延材に少なくとも1つの圧延パスにおいて、送り込み側のみで潤滑剤が塗布される。これは特に、冷却剤が送り出し側のみで塗布される圧延パスにおいて有利である。なぜなら、潤滑剤は冷却剤によって洗い落とされないので、潤滑剤が節約されるからである。
【0032】
本発明のさらなる態様では、開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の少なくとも1つのパラメータに関して、パラメータ値が、圧延機トレインの少なくとも一部の計算モデルに基づいてオフラインで特定され、当該パラメータは、圧延機トレインの動作の際に、当該パラメータ値に設定される。計算モデルによって特定され得るパラメータに含まれるのは、圧延材の送り込み温度、冷却パラメータ(例えばロール冷却剤流量、ロール冷却剤圧力、圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力)、潤滑パラメータ(例えば潤滑剤流量及び潤滑剤圧力)、パス順序分布(すなわち各圧延パスのパス圧下)及び圧延速度である。
【0033】
つまり、本発明のこれらの態様では、パラメータの少なくとも1つのサブセットが、圧延材温度の開ループ制御又は閉ループ制御のために、予め特定される(特に算出される)。
【0034】
本発明のさらなる態様では、少なくとも2つのオフラインで特定されたパラメータ値が、グローバルな最適化問題の解決法として、目的関数を予め設定した上で特定される。これによって、上限温度及び下限温度の維持に加えて、圧延材の圧延プロセスに際する少なくとも1つのさらなる基準の考慮が、有利なことに可能になる。
【0035】
本発明のさらなる態様では、圧延機トレインの動作において、圧延材温度の少なくとも1つの測定値が検出され、開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の少なくとも1つのパラメータが、少なくとも1つの測定値に依存してオンラインで設定される。つまり、本発明の当該態様では、圧延材温度の開ループ制御又は閉ループ制御のために、パラメータの少なくとも1つのサブセットが、圧延材の測定された圧延材温度に依存してオンラインで設定される。これは特に、ワークロール及び/又は圧延材の冷却及び潤滑に影響し得る。
【0036】
本発明に係る圧延機トレインは、圧延材の冷間圧延のための複数の圧延機スタンドと、上述の開ループ制御手段又は閉ループ制御手段の内の少なくとも1つを実施するように構成された制御部と、を含んでいる。当該圧延機トレインは、さらに、特に
-制御部によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な加熱装置であって、第1の圧延パスの前に圧延材を加熱するように構成された加熱装置、並びに/又は、
-制御部によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な冷却系であって、ロール冷却剤を少なくとも1つの圧延機スタンドのワークロールに、及び/若しくは、圧延材冷却剤を、少なくとも2つの連続する圧延パスの間に、圧延材に分配するように構成された冷却系、並びに/又は、
-制御部によって開ループ制御若しくは閉ループ制御可能な潤滑系であって、少なくとも1つの圧延パスにおいて、潤滑剤を、ワークロール若しくは/及び圧延材に分配するように構成された潤滑系、並びに/又は、
-圧延機トレインの任意の位置において、圧延材の圧延材温度を検出するように構成された、少なくとも1つの測定ユニット、
を含み得る。
【0037】
このような圧延機トレインの利点は、本発明に係る方法の上述の利点に対応している。
【0038】
本発明の上述の特性、特徴及び利点と、これらを得るための方法と、は以下の図面を用いて詳細に行われる実施例の説明との関連においてより明確になり、明確に理解可能になる。この際、示されているのは以下の図である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明に係る圧延機トレインの実施例を概略的に示した図である。
図2】本発明に係る方法の実施例のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1は、圧延材2の冷間圧延のための5つの圧延機スタンド3~7を有する、本発明に係る圧延機トレイン1の実施例を概略的に示している。各圧延機スタンド3~7は、上下に配置された2つのワークロール9、10を有しており、ワークロール9、10は、ロールギャップ11によって互いに離間している。圧延材2の圧延のために、ワークロール9、10は、モータ駆動によって回転させられ、圧延材2は、回転するワークロール9、10によって、圧延方向13において、ロールギャップ11を通して引っ張られる。
【0041】
圧延機トレイン1の図1に示された実施例では、さらに各圧延機スタンド3~7は、各ワークロール9、10に関して、2つのバックアップロール15~18を有しており、バックアップロール15~18は、各ワークロール9、10の圧延材2に背向する側において上下に配置されており、第1のバックアップロール15、17は、第2のバックアップロール16、18及びワークロール9、10に接触する。
【0042】
各圧延機スタンド3~7によって、圧延パスが実施され、当該圧延パスでは、圧延材2の厚さが、圧延パスのいわゆるパス圧下の分だけ削減される。圧延機トレイン1の入口には、加熱装置19が配置されており、加熱装置19は、第1の圧延機スタンド3によって実施される第1の圧延パスの前に圧延材2を加熱するように構成されている。加熱装置19は、例えば誘導加熱装置として構成されており、加熱装置19によって、圧延材2は誘導加熱され得る。
【0043】
圧延機トレイン3は、さらに冷却系を有しており、当該冷却系は、ロール冷却剤21を、第2、第3及び第4の圧延パスを実施する圧延機スタンド4~6のワークロール9、10に分配し、圧延材冷却剤23を、第2の圧延パスと第3の圧延パスとの間、第3の圧延パスと第4の圧延パスとの間、及び、第4の圧延パスと第5の圧延パスとの間、に圧延材2に分配するように構成されている。当該冷却系は、圧延機スタンド4~6のそれぞれに関して、上側冷却棒25と下側冷却棒27とを含んでいる。上側冷却棒25を用いて、ロール冷却剤21が送り出し側において、各圧延機スタンド4~6の上側ワークロール9に分配可能であり、圧延材冷却剤23が、圧延材2の上側圧延材表面に分配可能である。下側冷却棒27を用いて、ロール冷却剤21が送り出し側において、各圧延機スタンド4~6の下側ワークロール10に分配可能であり、圧延材冷却剤23が、圧延材2の下側圧延材表面に分配可能である。各冷却棒25、27は、例えばロール冷却剤21を各ワークロール9、10に分配する際に用いられ得る複数のロール冷却剤ノズル、及び/又は、圧延材冷却剤23を圧延材2に分配する際に用いられ得る複数の圧延材冷却剤ノズルを含んでいる。
【0044】
ロール冷却剤21は、例えば水又は冷却エマルジョンである。圧延材冷却剤23は、同様に例えば水又は冷却エマルションであり、ロール冷却剤21と同じでもよい。冷却エマルションは、冷却液と潤滑剤とから、例えば冷却液としての水と潤滑剤としての油とから、及び、場合によっては乳化剤とから構成されている。この際、冷却エマルションの主要成分は冷却液である一方で、冷却エマルションに占める潤滑剤の割合は、数%、例えば2%から3%に過ぎない。例えば、リットル毎分の単位の、圧延機スタンド4~6の両方のワークロール9、10に塗布されるロール冷却剤21の量(全体で、つまり両方のワークロール9、10に共に)は、キロワット単位の圧延機スタンド4~6の原動力に概ね相当し、当該原動力は、圧延機スタンド4~6のワークロール9、10を駆動するモータの出力である。
【0045】
圧延機トレイン1はさらに、潤滑系を有しており、当該潤滑系は、全ての圧延機スタンド3~7のワークロール9、10に、送り込み側において潤滑剤29を分配するように構成されている。潤滑系は、各圧延機スタンド3~7に関して、上側潤滑棒31と下側潤滑棒33とを有している。上側潤滑棒31を用いて、潤滑剤29が、送り込み側において、各圧延機スタンド3~7の上側ワークロール9に分配可能である。下側潤滑棒33を用いて、潤滑剤29が、送り込み側において、各圧延機スタンド3~7の下側ワークロール10に分配可能である。例えば、各潤滑棒31、33は、内部で潤滑剤29とキャリアガスとの混合物を形成可能である噴霧装置と、当該混合物を各ワークロール9、10に噴霧する際に用いられ得る複数の潤滑剤ノズルと、を含んでいる。この際、潤滑剤29は、例えば純粋な圧延油であり、キャリアガスは例えば空気である。例えば、最大で毎分2リットルの圧延油が、各ワークロール9、10に分配される。代替的に、潤滑剤29は、潤滑エマルジョンであり、当該潤滑エマルションは、キャリア液と圧延油と、場合によっては乳化剤と、から構成されており、各潤滑棒31、33は、潤滑剤ノズルを有しており、当該潤滑剤ノズルを用いて、潤滑エマルションが各ワークロール9、10に分配され得る。
【0046】
圧延機スタンド3~7の下側には、収集装置35が配置されており、収集装置35は、圧延機スタンド3~7から流れ落ちるロール冷却剤21、圧延材冷却剤23及び潤滑剤29を受け止めるように構成されている。収集装置35によって受け止められたロール冷却剤21、圧延材冷却剤23および潤滑剤29から成る混合物は、好ましくはその成分に分解された後、再利用される。
【0047】
圧延機トレイン1は、さらに、複数の測定ユニット37を有しており、測定ユニット37はそれぞれ、圧延材2の圧延材温度を検出するように構成されている。1つの測定ユニット37が、加熱装置19と第1の圧延機スタンド3との間に配置されており、さらなる測定ユニット37はそれぞれ、2つの隣接する圧延機スタンド3~7の間に配置されており、1つの測定ユニット37が、圧延機トレイン1の最後に、第5の圧延パスを実施する圧延機スタンド7の下流に配置されている。
【0048】
これに加えて、圧延機トレイン1は、制御部39を有しており、制御部39によって、加熱装置19と、冷却系、すなわち冷却棒25、27によってそれぞれ分配されるロール冷却剤流量、ロール冷却剤圧力、圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力と、潤滑系、すなわち潤滑棒31、33によってそれぞれ分配される潤滑剤流量及び潤滑剤圧力と、がそれぞれ開ループ制御又は閉ループ制御可能であり、これによって、圧延材2の圧延材温度が、各圧延パスにおいて開ループ制御又は閉ループ制御される。このために、各圧延パスに関して、圧延材温度の温度ウィンドウが、上限温度と下限温度との間で予め設定され、圧延材温度は、圧延材温度が、各圧延パスにおいて、圧延パスに関して予め設定された温度ウィンドウ内に位置する温度値をとるように開ループ制御及び/又は閉ループ制御される。加熱装置19、冷却系及び潤滑系の開ループ制御又は閉ループ制御の他に、各圧延パスのパス圧下のためのパス順序分布が作成され、実行される。圧延機スタンド3~7、すなわち圧延機スタンド3~7のロールギャップ11のギャップ高さは、パス順序分布に従って設定される。さらに、圧延材2が圧延機トレイン1を通過する際の圧延速度が、開ループ制御又は閉ループ制御され、これによって、圧延パスにおける圧延材温度に影響が加えられる。圧延速度は、ワークロール9、10の回転速度によって設定される。
【0049】
温度の開ループ制御及び/又は閉ループ制御のパラメータは、加熱装置19によって設定されるべき圧延材2の送り込み温度、冷却棒25、27によってそれぞれ分配されるロール冷却剤流量、ロール冷却剤圧力、圧延材冷却剤流量及び圧延材冷却剤圧力(冷却パラメータ)、潤滑棒31、33によってそれぞれ分配される潤滑剤流量及び潤滑剤圧力(潤滑パラメータ)、パス順序分布、並びに、圧延速度である。これらのパラメータは、それぞれ例えば、圧延機トレイン1の少なくとも一部の計算モデルに基づいて、オフラインで特定される。例えば、圧延材2の送り込み温度と冷却及び潤滑パラメータとパス順序分布と圧延速度との、モデルに基づく算定は、グローバルな最適化問題の解決法として、目的関数を予め設定した上で行われる。この際、多数の解決法が存在し得るが、その内、最適な解決法は、例えばさらなる基準を考慮した上で初めて、例えば圧延速度の付加的な最大化を通じて、又は、圧延機スタンド3~7への特定の圧延力の分配の維持を通じて、同様にモデルに基づいて決定される。このように特定されたパラメータ(オフラインパラメータ)はそれぞれ、手動又は制御部39によって設定される。代替的に、いくつか又は全てのパラメータ(オンラインパラメータ)は、測定ユニット37の測定値に依存して、オンラインで、圧延材温度が、各圧延パスにおいて、圧延パスに関して予め設定された温度ウィンドウ内に位置する温度値をとるように制御され得る。例えば、パス順序分布、圧延材2の送り込み温度及び圧延速度がオフラインで決定される一方で、冷却及び潤滑パラメータは、測定ユニット37の測定値に依存して、オンラインで制御される。
【0050】
図2は、圧延材2を圧延機トレイン1内で冷間圧延するための、方法ステップ101~106を有する、本発明に係る方法の実施例のフローチャート100を示している
【0051】
第1の方法ステップ101では、各圧延パスに関して、圧延パス内での圧延材2の圧延材温度の温度ウィンドウが、予め設定される。
【0052】
第2の方法ステップ102では、上述したように、オフラインパラメータが、圧延機トレイン1の少なくとも一部の計算モデルに基づいて決定される。例えば、パス順序分布、圧延材2の送り込み温度及び圧延速度である。
【0053】
第3の方法ステップ103では、圧延機トレイン1内での圧延材2の冷間圧延が、第2の方法ステップ102で決定されたオフラインパラメータと、オンラインパラメータの所定の初期値と、で開始される。
【0054】
第4の方法ステップ104では、各圧延パスに関して、圧延材2の圧延材温度が特定される。例えば、このために、圧延パスに関して、少なくとも1つの測定ユニット37を用いて、圧延材温度が検出されるか、又は、圧延パス内の圧延材温度が、例えば上述したように、熱伝達のモデリングに基づく、ロールギャップ内における圧延材とワークロールとの間の熱流量の算出によって、及び/又は、圧延材の加熱の際に圧延材の塑性変形によって生じる変形熱の算出によって、算出される。
【0055】
第5の方法ステップ105では、圧延材温度が、各圧延パスにおいて、圧延パスに関して予め設定された温度ウィンドウ内に位置する温度値をとるか否かが検査される。検査の結果、圧延材温度が、各圧延パスにおいて、当該圧延パスに関して予め設定された温度ウィンドウ内に位置する温度値をとる場合、再び第4の方法ステップ104が実施される。その他の場合は、第6の方法ステップ106が実施される。
【0056】
第6の方法ステップ106では、少なくとも1つのオンラインパラメータの値が変更され、これによって、圧延材温度が、圧延材温度が圧延パスに関して予め設定された温度ウィンドウの外側に位置している各圧延パスにおいて、所定の温度ウィンドウ内に導かれる。第6の方法ステップ106の後で、第4の方法ステップ104が再び実施される。
【0057】
本発明を、好ましい実施例によって詳細に図示かつ説明してきたが、本発明は、開示された例によって限定されるものではなく、他の変型例が、本発明の保護範囲を離れることなく、当業者によって導出され得る。
【符号の説明】
【0058】
1 圧延機トレイン
2 圧延材
3~7 圧延機スタンド
9、10 ワークロール
11 ロールギャップ
13 圧延方向
15~18 バックアップロール
19 加熱装置
21 ロール冷却剤
23 圧延材冷却剤
25、27 冷却棒
29 潤滑剤
31、33 潤滑棒
35 収集装置
37 測定ユニット
39 制御部
100 フローチャート
101~106 方法ステップ
図1
図2