(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-04
(45)【発行日】2023-08-15
(54)【発明の名称】位相同期制御回路およびそれを用いた電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20230807BHJP
H02J 9/06 20060101ALI20230807BHJP
H03L 7/08 20060101ALI20230807BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02J9/06 120
H03L7/08
(21)【出願番号】P 2022560313
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 JP2022024374
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大輝
(72)【発明者】
【氏名】加納 真理
(72)【発明者】
【氏名】真田 和法
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-180538(JP,A)
【文献】特開平9-294051(JP,A)
【文献】特開2000-188544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H03L 7/08
H02J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路であって、
前記第1および第2の交流信号の位相差を検出する位相差検出器と、
前記位相差がなくなるように第1の周波数制御値を生成する周波数制御部と、
前記第1の周波数制御値を第1の制限範囲内に制限して第2の周波数制御値を生成する周波数リミッタと、
前記位相差に基づいて前記第1の制限範囲を設定し、前記位相差が減少したことに応じて前記第1の制限範囲の幅を縮小させるリミッタ制御部と、
前記第2の周波数制御値に応じた値の周波数の前記第2の交流信号を生成する交流信号発生部とを備える、位相同期制御回路。
【請求項2】
前記第1の制限範囲は、第1の制限値と、前記第1の制限値よりも低い第2の制限値との間の範囲であり、
前記第1の制限範囲の幅は前記第1および第2の制限値の差であり、
前記リミッタ制御部は、前記位相差の大きさに基づいて前記第1および第2の制限値を設定し、
前記周波数リミッタは、
前記第1の周波数制御値が前記第1の制限値よりも高い場合には、前記第1の制限値を前記第2の周波数制御値として出力し、
前記第1の周波数制御値が前記第1および第2の制限値の間である場合には、前記第1の周波数制御値を前記第2の周波数制御値として出力し、
前記第1の周波数制御値が前記第2の制限値よりも低い場合には、前記第2の制限値を前記第2の周波数制御値として出力する、請求項1に記載の位相同期制御回路。
【請求項3】
前記リミッタ制御部は、
前記第1の交流信号の周波数に基づいて基準値を求め、
前記位相差の大きさに基づいて第3の制限値を求め、
前記基準値に前記第3の制限値を加算して前記第1の制限値を求め、
前記基準値から前記第3の制限値を減算して前記第2の制限値を求め、
前記位相差の大きさが減少したことに応じて、前記第3の制限値の大きさを最大値から最小値まで減少させ、
前記第3の制限値の最小値は0よりも大きい、請求項2に記載の位相同期制御回路。
【請求項4】
前記周波数リミッタと前記交流信号発生部の間に設けられ、前記第2の周波数制御値の単位時間当たりの変化量を第2の制限範囲内に制限して第3の周波数制御値を生成する変化量リミッタをさらに備え、
前記交流信号発生部は、前記第3の周波数制御値に応じた値の周波数の前記第2の交流信号を生成する、請求項1に記載の位相同期制御回路。
【請求項5】
前記第2の制限範囲は、正側制限値と負側制限値との間の範囲であり、
前記変化量リミッタは、
前記第2の周波数制御値と前記第3の周波数制御値との差を前記第2の周波数制御値の変化量として検出する変化量検出器と、
前記第2の周波数制御値の変化量、前記正側制限値、および前記負側制限値に基づいて、前記単位時間が経過する毎に前記第3の周波数制御値を更新する演算部とを含み、
前記演算部は、前記単位時間が経過する毎に、
前記第2の周波数制御値の変化量が前記正側制限値よりも高い場合には、前記第3の周波数制御値に前記正側制限値を加算し、
前記第2の周波数制御値の変化量が前記正側制限値と前記負側制限値の間である場合には、前記第3の周波数制御値に前記変化量を加算し、
前記第2の周波数制御値の変化量が前記負側制限値よりも低い場合には、前記第2の周波数制御値に前記負側制限値を加算する、請求項4に記載の位相同期制御回路。
【請求項6】
前記交流信号発生部は、
前記第2の周波数制御値に前記第1の交流信号の周波数の定格値を加算して周波数指令値を生成する加算器と、
前記周波数指令値に応じた値の周波数の前記第2の交流信号を生成する発振器とを含む、請求項1に記載の位相同期制御回路。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の位相同期制御回路と、
一方端子が交流電源から供給される第1の交流電圧を受け、他方端子が負荷に接続されるスイッチと、
直流電源から供給される直流電圧を第2の交流電圧に変換して前記負荷に供給する逆変換器と、
前記位相同期制御回路からの前記第2の交流信号に基づいて、前記スイッチおよび前記逆変換器を制御する制御部とを備え、
前記第1の交流信号は前記第1の交流電圧に同期するとともに、前記第2の交流電圧は前記第2の交流信号に同期し、
前記制御部は、
前記交流電源の健全時には、前記スイッチをオンさせて、前記交流電源から前記スイッチを介して前記負荷に交流電力を供給させ、
前記交流電源の停電時には、前記スイッチをオフさせて、前記逆変換器から前記負荷に交流電力を供給させ、
前記交流電源が停電状態から健全状態に復旧した場合には、前記第1および第2の交流電圧の周波数および位相が一致したことに応じて前記スイッチをオンさせる、電力変換装置。
【請求項8】
第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路であって、
前記第1および第2の交流信号の位相差を検出する位相差検出器と、
前記位相差がなくなるように第1の周波数制御値を生成する周波数制御部と、
前記第1の周波数制御値の単位時間当たりの変化量を制限範囲内に制限して第2の周波数制御値を生成する変化量リミッタと、
前記第2の周波数制御値に応じた値の周波数の前記第2の交流信号を生成する交流信号発生部とを備える、位相同期制御回路。
【請求項9】
前記制限範囲は、正側制限値と負側制限値の間の範囲であり、
前記変化量リミッタは、
前記第1の周波数制御値と前記第2の周波数制御値との差を前記第1の周波数制御値の変化量として検出する変化量検出器と、
前記第1の周波数制御値の変化量、前記正側制限値、および前記負側制限値に基づいて、前記単位時間が経過する毎に前記第2の周波数制御値を更新する演算部とを含み、
前記演算部は、前記単位時間が経過する毎に、
前記第1の周波数制御値の変化量が前記正側制限値よりも高い場合には、前記第2の周波数制御値に前記正側制限値を加算し、
前記第1の周波数制御値の変化量が前記正側制限値と前記負側制限値の間である場合には、前記第1の周波数制御値に前記変化量を加算し、
前記第1の周波数制御値の変化量が前記負側制限値よりも低い場合には、前記第1の周波数制御値に前記負側制限値を加算する、請求項8に記載の位相同期制御回路。
【請求項10】
前記交流信号発生部は、
前記第2の周波数制御値に前記第1の交流信号の周波数の定格値を加算して周波数指令値を生成する加算器と、
前記周波数指令値に応じた値の周波数の前記第2の交流信号を生成する発振器とを含む、請求項8に記載の位相同期制御回路。
【請求項11】
請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の位相同期制御回路と、
一方端子が交流電源から供給される第1の交流電圧を受け、他方端子が負荷に接続されるスイッチと、
直流電源から供給される直流電圧を第2の交流電圧に変換して前記負荷に供給する逆変換器と、
前記位相同期制御回路からの前記第2の交流信号に基づいて、前記スイッチおよび前記逆変換器を制御する制御部とを備え、
前記第1の交流信号は前記第1の交流電圧に同期するとともに、前記第2の交流電圧は前記第2の交流信号に同期し、
前記制御部は、
前記交流電源の健全時には、前記スイッチをオンさせて、前記交流電源から前記スイッチを介して前記負荷に交流電力を供給させ、
前記交流電源の停電時には、前記スイッチをオフさせて、前記逆変換器から前記負荷に交流電力を供給させ、
前記交流電源が停電状態から健全状態に復旧した場合には、前記第1および第2の交流電圧の周波数および位相が一致したことに応じて前記スイッチをオンさせる、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、位相同期制御回路およびそれを用いた電力変換装置に関し、特に、第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路と、それを用いた電力変換装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1(特開2021-180538号公報)には、位相差検出器、周波数制御部、周波数リミッタ、リミッタ制御部、および交流信号発生部を備え、第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路が開示されている。
【0003】
位相差検出器は、第1および第2の交流信号の位相差を検出する。周波数制御部は、位相差がなくなるように第1の周波数制御値を生成する。周波数リミッタは、第1の周波数制御値を可変制限範囲内に制限して第2の周波数制御値を生成する。リミッタ制御部は、位相差のゼロクロス点に応答して可変制限範囲の幅を最小値から最大値に変更する。交流信号発生部は、第2の周波数制御値に応じた値の周波数の第2の交流信号を出力する。
【0004】
この位相同期制御回路では、第1および第2の交流信号の位相差のゼロクロス点に応答して周波数リミッタの可変制限範囲の幅を最小値から最大値に拡大するので、第2の交流信号の周波数変動を小さく抑制することができる。
【0005】
また、特許文献1には、第2の交流信号に同期して交流電圧を生成し、その交流電圧を負荷に供給する電力変換装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の位相同期制御回路では、位相差のゼロクロス点が検出されるまで周波数リミッタの可変制限範囲の幅を最小値に設定するので、2つの交流信号の位相および周波数を一致させるために必要な時間が長くなる恐れがある。
【0008】
また、上記電力変換装置では、第2の交流信号の周波数が急激に変化した場合には、負荷に悪影響が発生する恐れがある。
【0009】
それゆえに、本開示の主たる目的は、第2の交流信号の周波数変動を小さく抑制し、かつ第1および第2の交流信号の位相および周波数を迅速に一致させることが可能な位相同期制御回路と、それを用いた電力変換装置とを提供することである。
【0010】
また、本開示の他の目的は、第2の交流信号の周波数が急激に変化することを防止することが可能な位相同期制御回路と、それを用いた電力変換装置とを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る位相同期制御回路は、第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路であって、位相差検出器、周波数制御部、周波数リミッタ、リミッタ制御部、および交流信号発生部を備えたものである。位相差検出器は、第1および第2の交流信号の位相差を検出する。周波数制御部は、位相差がなくなるように第1の周波数制御値を生成する。周波数リミッタは、第1の周波数制御値を第1の制限範囲内に制限して第2の周波数制御値を生成する。リミッタ制御部は、位相差に基づいて第1の制限範囲を設定し、位相差が減少したことに応じて第1の制限範囲の幅を縮小させる。交流信号発生部は、第2の周波数制御値に応じた値の周波数の第2の交流信号を生成する。
【0012】
また、本開示に係る他の位相同期制御回路は、第1の交流信号と同位相の第2の交流信号を生成する位相同期制御回路であって、位相差検出器、周波数制御部、変化量リミッタ、および交流信号発生部を備えたものである。位相差検出器は、第1および第2の交流信号の位相差を検出する。周波数制御部は、位相差がなくなるように第1の周波数制御値を生成する。変化量リミッタは、第1の周波数制御値の単位時間当たりの変化量を制限範囲内に制限して第2の周波数制御値を生成する。交流信号発生部は、第2の周波数制御値に応じた値の周波数の第2の交流信号を生成する。
【発明の効果】
【0013】
本開示に係る位相同期制御回路では、第1および第2の交流信号の位相差が減少したことに応じて、周波数リミッタの制限範囲の幅を縮小させるので、第2の交流信号の周波数のオーバーシュートを小さく抑制することができる。したがって、第2の交流信号の周波数変動を小さく抑制することができ、かつ第1および第2の交流信号の位相および周波数を迅速に一致させることができる。
【0014】
また、本開示に係る他の位相同期制御回路では、周波数制御部と発振器の間に変化量リミッタを設け、周波数制御値の単位時間当たりの変化量を制限範囲内に制限するので、第2の交流信号の周波数が急激に変化することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の実施の形態1に従う電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図2】
図1に示す制御装置の要部を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す制御装置の動作を示すタイムチャートである。
【
図5】
図2に示す位相同期制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図6】
図5に示す周波数リミッタの構成を示すブロック図である。
【
図7】
図6に示す周波数リミッタの動作を示す図である。
【
図8】
図5に示すリミッタ制御部の構成を示すブロック図である。
【
図9】
図8に示す制御値演算部の動作を示す図である。
【
図10】
図8に示すリミッタ制御部の動作を示す図である。
【
図11】
図2~
図10に示す位相同期制御回路と比較例の動作を示すタイムチャートである。
【
図12】本開示の実施の形態2に従う電力変換装置に含まれる位相同期制御回路の構成を示すブロック図である。
【
図13】
図12に示す変化量リミッタの構成を示すブロック図である。
【
図15】
図13に示す変化量リミッタの動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態1]
図1は、本開示の実施の形態1に従う電力変換装置の構成を示す回路ブロック図である。この電力変換装置は、商用交流電源5または双方向コンバータ3から供給される三相交流電圧を負荷6に供給するものであるが、図面および説明の簡単化のため、
図1では一相に関連する部分のみが示されている。
【0017】
図1において、この電力変換装置は、入力端子T1、出力端子T2、直流端子T3、ブレーカB1~B4、高速スイッチ(HSS;High Speed Switch)1、変圧器2、双方向コンバータ3、および制御装置4を備える。
【0018】
入力端子T1は、商用交流電源5から供給される商用周波数の交流電圧VIを受ける。交流電圧VIの瞬時値は、制御装置4によって検出される。出力端子T2は、負荷6に接続される。負荷6は、電力変換装置から供給される交流電圧によって駆動される。直流端子T3は、バッテリ7(直流電源)に接続される。バッテリ7は、直流電力を蓄える。バッテリ7の代わりにコンデンサが接続されていても構わない。
【0019】
この電力変換装置を無停電電源装置として使用する場合には、大容量のバッテリ7(またはコンデンサ)が使用される。この電力変換装置を瞬低補償装置として使用する場合には、小容量のバッテリ7(またはコンデンサ)が使用される。バッテリ7の端子間電圧VBは、制御装置4によって検出される。
【0020】
ブレーカB1~B4の各々は、たとえばVCB(Vacuum Circuit Breaker)である。ブレーカB1は、入力端子T1と出力端子T2との間に接続される。電力変換装置を使用する場合には、ブレーカB1はオフされる。電力変換装置のメンテナンス時には、ブレーカB1はオンされ、商用交流電源5からの交流電圧VIがブレーカB1を介して負荷6に供給される。
【0021】
ブレーカB2は、入力端子T1と高速スイッチ1の一方端子1aとの間に接続される。ブレーカB3は、高速スイッチ1の他方端子1bと出力端子T2との間に接続される。電力変換装置を使用する場合には、ブレーカB2,B3はオンされる。電力変換装置のメンテナンス時には、ブレーカB2,B3はオフされる。
【0022】
高速スイッチ1は、たとえば半導体スイッチング素子によって構成され、制御装置4によって制御される。商用交流電源5の健全時には、高速スイッチ1はオンされ、商用交流電源5からの交流電圧VIがブレーカB2、高速スイッチ1、およびブレーカB3を介して負荷6に供給される。商用交流電源5の停電時には、高速スイッチ1はオフされ、商用交流電源5と負荷6が電気的に切り離される。高速スイッチ1の他方端子1bに現れる交流電圧VOの瞬時値は、制御装置4によって検出される。
【0023】
ブレーカB4は、高速スイッチ1の他方端子1bと変圧器2の一次巻線2aとの間に接続される。電力変換装置を使用する場合には、ブレーカB4はオンされる。電力変換装置のメンテナンス時には、ブレーカB4はオフされる。変圧器2の二次巻線2bは、双方向コンバータ3の交流端子3aに接続される。変圧器2は、高速スイッチ1の他方端子1bと双方向コンバータ3の交流端子3aとの間で交流電力を授受する。双方向コンバータ3の交流端子3aに現れる交流電圧VACの瞬時値は、制御装置4によって検出される。
【0024】
双方向コンバータ3の直流端子3bは、直流端子T3に接続される。双方向コンバータ3は、制御装置4によって制御される。商用交流電源5の健全時には、双方向コンバータ3は、商用交流電源5からブレーカB2、高速スイッチ1、ブレーカB4、および変圧器2を介して供給される交流電力を直流電力に変換してバッテリ7に蓄える。商用交流電源5の停電時には、双方向コンバータ3は、バッテリ7の直流電力を商用周波数の交流電力に変換し、変圧器2およびブレーカB4,B3を介して負荷6に供給する。
【0025】
制御装置4は、交流電圧VI,VO,VACおよびバッテリ電圧VBに基づいて、高速スイッチ1および双方向コンバータ3を制御する。すなわち、制御装置4は、交流電圧VIが下限値よりも高い場合には、商用交流電源5は健全であると判別し、交流電圧VIが下限値よりも低下した場合には、商用交流電源5の停電が発生したと判別する。
【0026】
また、制御装置4は、商用交流電源5の健全時には、高速スイッチ1をオンさせるとともに、バッテリ電圧VBが参照電圧VBrになるように、交流電圧VIに同期して双方向コンバータ3を制御する。バッテリ電圧VBが参照電圧VBrに到達すると、制御装置4は、双方向コンバータ3を制御してバッテリ電圧VBを商用周波数の交流電圧VACに変換させる。
【0027】
双方向コンバータ3の交流出力電圧VACの位相を商用交流電源5からの交流電圧VIの位相よりも進ませると、バッテリ7から双方向コンバータ3を介して負荷6に電力が流れ、バッテリ電圧VBが低下する。交流出力電圧VACの位相を交流電圧VIの位相よりも遅らせると、商用交流電源5から双方向コンバータ3を介してバッテリ7に電力が流れ、バッテリ電圧VBが上昇する。制御装置4は、双方向コンバータ3を制御して交流電圧VACの位相を調整し、バッテリ電圧VBを参照電圧VBrに維持する。
【0028】
また、制御装置4は、商用交流電源5の停電時には、高速スイッチ1をオフさせるとともに、交流電圧VOが参照電圧VOrになるように双方向コンバータ3を制御する。商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧した場合には、制御装置4は、双方向コンバータ3を制御して交流電圧VOの位相および周波数を交流電圧VIの位相および周波数に一致させた後に、高速スイッチ1をオンさせる。
【0029】
次に、この電力変換装置の動作について説明する。電力変換装置を使用する場合には、ブレーカB1がオフされ、ブレーカB2~B4がオンされる。商用交流電源5の健全時には、高速スイッチ1がオンされ、商用交流電源5からの交流電力が高速スイッチ1を介して負荷6に供給されて負荷6が運転される。
【0030】
また、商用交流電源5からの交流電力が高速スイッチ1および変圧器2を介して双方向コンバータ3に供給され、直流電力に変換されてバッテリ7に蓄えられる。バッテリ電圧VBが参照電圧VBrに到達すると、双方向コンバータ3の交流出力電圧VACの位相が制御されてバッテリ電圧VBが参照電圧VBrに維持され、双方向コンバータ3が待機状態にされる。
【0031】
商用交流電源5の停電が発生すると、高速スイッチ1がオフされ、待機状態の双方向コンバータ3から変圧器2を介して負荷6に交流電力が供給される。したがって、バッテリ7に直流電力が蓄えられている限り、負荷6の運転を継続することができる。
【0032】
商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧した場合には、制御装置4は、双方向コンバータ3を制御して交流電圧VOの位相および周波数を交流電圧VIの位相および周波数に一致させた後に、高速スイッチ1をオンさせる。これにより、高速スイッチ1をオンさせたときに商用交流電源5と双方向コンバータ3の間に電流が流れることを防止することができる。
【0033】
また、電力変換装置のメンテナンスを行なう場合には、ブレーカB1がオンされ、ブレーカB2~B4がオフされ、商用交流電源5からブレーカB1を介して負荷6に交流電力が供給され、負荷6が運転される。これにより、高速スイッチ1などを商用交流電源5から電気的に切り離し、負荷6を運転しながら高速スイッチ1などのメンテナンスを行なうことができる。
【0034】
図2は、制御装置4の要部を示すブロック図である。
図2において、制御装置4は、停電検出器11、位相同期制御回路12、同期検出器13、および制御部14を含む。停電検出器11は、商用交流電源5から供給される交流電圧VIに基づいて、商用交流電源5の停電の発生の有無を検出し、その検出結果を示す停電検出信号φ12を位相同期制御回路12および制御部14に出力する。
【0035】
商用交流電源5から交流電圧VIが正常に供給されていない場合、たとえば交流電圧VIの実効値が下限値よりも低い場合には、停電検出器11は、商用交流電源5の停電が発生したと判別し、停電検出信号φ11を活性化レベルの「H」レベルにする。
【0036】
また、商用交流電源5から交流電圧VIが正常に供給されている場合、たとえば交流電圧VIの実効値が下限値よりも高い場合には、停電検出器11は、商用交流電源5は健全である(あるいは商用交流電源5は停電状態から健全状態に復旧した)と判別し、停電検出信号φ11を非活性化レベルの「L」レベルにする。
【0037】
位相同期制御回路12は、停電検出信号φ11と、同期検出信号φ13と、商用交流電源5から供給される交流電圧VIとに基づいて、正弦波状の交流信号vacを生成する。商用交流電源5が健全である場合(停電検出信号φ11が「L」レベルである場合)には、位相同期制御回路12は、商用交流電源5からの交流電圧VIと同じ位相で同じ周波数(すなわち商用周波数fi)の交流信号vacを出力する。
【0038】
商用交流電源5の停電が発生した場合(停電検出信号φ11が「H」レベルになった場合)には、位相同期制御回路12は、停電が発生する前と同じ位相で同じ周波数の交流信号vacを出力し続ける。
【0039】
商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧した場合(すなわち、停電検出信号φ11が「H」レベルから「L」レベルに変化した場合)には、位相同期制御回路12は、交流電圧VIと交流信号vacの位相差がなくなるように交流信号vacの周波数を制御することにより、交流信号vacの周波数および位相を交流電圧VIの周波数および位相に一致させる。交流信号vacは、制御部14に与えられる。位相同期制御回路12については、後で詳細に説明する。
【0040】
同期検出器13は、高速スイッチ1の一方端子に現れる交流電圧VIの周波数および位相と、高速スイッチ1の他方端子に現れる交流電圧VOの周波数および位相とが一致しているか否かを検出し、検出結果を示す同期検出信号φ13を制御部14に出力する。
【0041】
交流電圧VI,VOの周波数および位相が一致している場合には、同期検出信号φ13は活性化レベルの「H」レベルにされる。交流電圧VI,VOの周波数および位相が一致していない場合には、同期検出信号φ13は非活性化レベルの「L」レベルにされる。
【0042】
制御部14は、停電検出信号φ11、交流信号vac、同期検出信号φ13、交流電圧VI,VO,VAC、および直流電圧VBに基づいて、高速スイッチ1および双方向コンバータ3を制御する。
【0043】
商用交流電源5が健全である場合(停電検出信号φ11が「L」レベルである場合)には、制御部14は、高速スイッチ1をオンさせるとともに、直流電圧VBが参照電圧VBrになるように双方向コンバータ3を制御する。このとき、制御部14は、双方向コンバータ3を制御して交流電圧VACの位相を調整し、バッテリ電圧VBを参照電圧VBrに維持する。
【0044】
商用交流電源5の停電が発生した場合(停電検出信号φ11が「H」レベルになった場合)には、制御部14は、高速スイッチ1をオフさせるとともに、双方向コンバータ3を制御して、交流信号vacと同じ位相で同じ周波数の交流電圧VOを出力させる。このとき、交流電圧VOの周波数および位相は、停電発生前の状態に維持される。
【0045】
商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧した場合(すなわち、停電検出信号φ11が「H」レベルから「L」レベルに変化した場合)には、制御部14は、まず双方向コンバータ3を制御して、交流信号vacと同じ位相で同じ周波数の交流電圧VOを出力させる。このとき、交流信号vacの位相および周波数は、位相同期制御回路12により、交流電圧VIと同じ位相および周波数になるように制御される。
【0046】
交流信号vacの位相および周波数が交流電圧VIの位相および周波数に一致すると、交流電圧VOの位相および周波数が交流電圧VIの位相および周波数に一致し、同期検出信号φ13が「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられる。
【0047】
制御部14は、同期検出信号φ13が「H」レベルに立ち上げられると、高速スイッチ1をオンさせる。また、制御部14は、直流電圧VBが参照電圧VBrになるように双方向コンバータ3を制御する。このとき、制御部14は、双方向コンバータ3を制御して交流電圧VACの位相を調整し、バッテリ電圧VBを参照電圧VBrに維持する。
【0048】
図3は、制御装置4の動作を示すタイムチャートである。
図3において、(A)は停電検出信号φ11の波形を示し、(B)は同期検出信号φ13の波形を示し、(C)は高速スイッチ(HSS)1の状態を示している。
【0049】
初期状態(時刻t0)では、商用交流電源5(
図1)は健全であり、停電検出信号φ11は非活性化レベルの「L」レベルにされ、同期検出信号φ13は活性化レベルの「H」レベルにされ、高速スイッチ(HSS)1はオンされているものとする。
【0050】
このとき、停電検出信号φ11が「L」レベルであるので、位相同期制御回路12は、商用交流電源5から供給される交流電圧VIと同じ位相で同じ周波数の交流信号vacを生成する。
【0051】
ある時刻t1において商用交流電源5の停電が発生すると、停電検出信号φ11が活性化レベルの「H」レベルに立ち上げられ、同期検出信号φ13が非活性化レベルの「L」レベルにされ、高速スイッチ(HSS)1がオフされる。同時に、双方向コンバータ3(
図1)から変圧器2を介して負荷6に交流電圧VOが供給され、負荷6の運転が継続される。
【0052】
このとき、停電検出信号φ11が「H」レベルであるので、位相同期制御回路12は、停電発生前の交流電圧VIと同じ位相で同じ周波数の交流信号vacを生成する。制御部14は、双方向コンバータ3を制御して、交流信号vacと同じ位相で同じ周波数の交流電圧VOを生成する。
【0053】
時刻t2において、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧すると、停電検出信号φ11が非活性化レベルの「L」レベルに立ち下げられる。通常、停電発生前の交流電圧VIの位相と復旧後の交流電圧VIの位相とは異なるので、時刻t2においては交流信号vacの位相と交流電圧VIの位相とは異なる。
【0054】
停電検出信号φ11が「L」レベルにされると、位相同期制御回路12は、交流信号vacの周波数を制御することにより、交流信号vacの位相および周波数を交流電圧VIの位相および周波数に一致させる。制御部14は、双方向コンバータ3を制御して、交流信号vacと同じ位相で同じ周波数の交流電圧VOを生成する。
【0055】
時刻t3において、交流電圧VIと交流電圧VOの位相が位相および周波数が一致すると、同期検出信号φ13が非活性化レベルの「L」レベルから活性化レベルの「H」レベルに立ち上げられ、高速スイッチ1がオンされる。これにより、商用交流電源5から高速スイッチ1を介して負荷6に交流電力が供給され、負荷6が運転される。
【0056】
このように、時刻t2~t3では、交流信号vacの位相および周波数が交流電圧VIの位相および周波数に一致するように交流信号vacの周波数が制御され、交流電圧VOの位相および周波数は交流信号vacの位相および周波数に一致する。
【0057】
交流電圧VOの周波数が大きく変動すると、負荷6(
図1)に悪影響が発生する恐れがあるので、交流信号vacの周波数変動を小さく抑制する必要がある。また、時刻t2~t3では、バッテリ7の直流電力が双方向コンバータ3により交流電力に変換されて負荷6に供給されるので、バッテリ7の直流電力の消費を小さく抑制するためには、交流信号vacの位相および周波数を交流電圧VIの位相および周波数に迅速に一致させる必要がある。本実施の形態1では、この問題の解決が図られる。
【0058】
図4は、実施の形態1の原理を説明するためのベクトル図である。
図4において、(A)は交流電圧VIの位相が交流信号vacよりも進んでいる場合を示し、(B)は交流電圧VIの位相と交流信号vacの位相とが一致した場合を示し、(C)は交流電圧VIの位相が交流信号vacよりも遅れている場合を示している。
図4では、回転座標において交流信号vacを示すベクトルが基準とされ、交流電圧VIを示すベクトルが原点を中心として回転する。交流電圧VIを示すベクトルは、交流電圧VIの周波数fiと交流信号vacの周波数foとの差fi-foに応じた値の角速度で回転する。
【0059】
図4(A)に示すように、交流電圧VIの位相が交流信号vacの位相よりも進んでいる場合には、交流信号vacの周波数foを上昇させて交流電圧VIの周波数fiよりも高くする。これにより、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが徐々に減少し、
図4(B)に示すように、交流信号vacを示すベクトルが交流電圧VIを示すベクトルに追い付いて位相差Δθは0(度)となる。
【0060】
理想的には、位相差Δθが0(度)となった時点で、交流電圧VIと交流信号vacの周波数差Δf=fi-foも0となることが望ましい。しかし、実際には、位相差Δθを0にするためには、交流信号vacの周波数foを交流電圧VIの周波数fiよりも高くする必要があるので、
図4(C)に示すように、交流信号vacを示すベクトルが交流電圧VIを示すベクトルを追い越してしまい、位相差Δθのオーバーシュートが発生して位相差Δθが負の値になってしまう。
【0061】
図4(C)に示すように、交流電圧VIの位相が交流信号vacよりも遅れている場合には、交流信号vacの周波数foを下降させて、交流電圧VIの周波数fiよりも低くする。これにより、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが徐々に減少し、
図4(B)に示すように、交流電圧VIを示すベクトルが交流信号vacを示すベクトルに追い付いて位相差Δθは0(度)となる。
【0062】
この場合も、位相差Δθが0となった時点で、交流電圧VIと交流信号vacの周波数差Δf=fi-foも0となることが望ましい。しかし、実際には、位相差Δθを0にするためには、交流信号vacの周波数foを交流電圧VIの周波数fiよりも低くする必要があるので、
図4(A)に示すように、交流電圧VIを示すベクトルが交流信号vacを示すベクトルを追い越してしまい、位相差Δθのオーバーシュートが発生して位相差Δθが正の値になってしまう。このように、位相差Δθのオーバーシュートを繰り返しながら、交流信号vacの周波数foおよび位相は交流電圧VIの周波数fiおよび位相に一致される。
【0063】
そこで、本実施の形態1では、位相差Δθが減少したことに応じて交流信号vacの周波数foの変化幅を縮小させることにより、位相差Δθのオーバーシュートを小さく抑制する。これにより、交流信号vacの周波数変動を小さく抑制し、交流信号vacを交流電圧VIに迅速に同期させる。
【0064】
図5は、位相同期制御回路12の構成を示す回路ブロック図である。
図5において、位相同期制御回路12は、位相差検出器20、周波数制御部21、周波数リミッタ25、リミッタ制御部26、加算器27、および発振器28を含む。
【0065】
位相差検出器20は、停電検出信号φ11が非活性化レベルの「L」レベルである場合に活性化され、商用交流電源5から供給される交流電圧VI(第1の交流信号)と、発振器28から出力される交流信号vac(第2の交流信号)との位相差Δθを検出する。交流電圧VIの位相角度θ1と交流信号vacの位相角度θ2との差が位相差Δθ=θ1-θ2となる。
【0066】
位相差検出器20は、停電検出信号φ11が活性化レベルの「H」レベルである場合には、交流電圧VIがたとえば0Vになるので、実際の位相差Δθを検出することなく、位相差Δθの検出値を0に設定する。
【0067】
周波数制御部21は、位相差Δθが0になるように周波数制御値Fc1(第1の周波数制御値)を生成する。周波数制御部21は、比例項演算部22、積分項演算部23、および加算器24を含む。比例項演算部22は、位相差Δθに比例ゲインを乗じて得られる周波数制御値FPを求める。
【0068】
積分項演算部23は、停電検出信号φ11が非活性化レベルの「L」レベルである場合に活性化され、位相差Δθを積分した値に積分ゲインを乗じて得られる周波数制御値FIを求める。
【0069】
停電検出信号φ11が「L」レベルから「H」レベルに立ち上げられると(商用交流電源5の停電が発生すると)、積分項演算部23は、停電検出信号φ11が「H」レベルにされる前(商用交流電源5の停電が発生する前)の周波数制御値FIを保持および出力する。加算器24は、周波数制御値FPと周波数制御値FIを加算して周波数制御値Fc1を求める。
【0070】
周波数リミッタ25は、周波数制御部21によって生成される周波数制御値Fc1を可変制限範囲内に制限して周波数制御値Fc2(第2の周波数制御値)を生成する。周波数リミッタ25は、リミッタ制御部26から正側制限値FPおよび負側制限値FNを受ける。可変制限範囲は、正側制限値FPと負側制限値FNの間の範囲である。可変制限範囲の幅W1は、正側制限値FPと負側制限値FNの差(FP-FN)である。
【0071】
図6は、周波数リミッタ25の構成を示す回路ブロック図である。
図6において、周波数リミッタ25は、比較器31,32およびセレクタ33を含む。比較器31は、周波数制御値Fc1と正側制限値FPとの高低を比較し、比較結果を示す信号φ31を出力する。Fc1≦FPである場合は、信号φ31は「H」レベルにされる。Fc1>FPである場合は、信号φ31は「L」レベルにされる。
【0072】
比較器32は、周波数制御値Fc1と負側制限値FNとの高低を比較し、比較結果を示す信号φ32を出力する。Fc1≧FNである場合は、信号φ32は「H」レベルにされる。Fc1<FNである場合は、信号φ32は「L」レベルにされる。
【0073】
セレクタ33は、信号φ31,φ32に基づいて、正側制限値FP、周波数制御値Fc1、および負側制限値FNのうちのいずれかの値を選択し、選択した値を周波数制御値Fc2として出力する。すなわち、信号φ31,φ32がともに「H」レベルである場合には、セレクタ33は、周波数制御値Fc1を選択し、選択した周波数制御値Fc1を周波数制御値Fc2として出力する。
【0074】
信号φ31,φ32がそれぞれ「L」レベルおよび「H」レベルである場合には、セレクタ33は、正側制限値FPを選択し、選択した正側制限値FPを周波数制御値Fc2として出力する。信号φ31,φ32がそれぞれ「H」レベルおよび「L」レベルである場合には、セレクタ33は、負側制限値FNを選択し、選択した負側制限値FNを周波数制御値Fc2として出力する。
【0075】
図7は、周波数リミッタ25の動作を示す図である。
図7では、横軸に周波数制御値Fc1が示され、縦軸に周波数制御値Fc2が示されている。
図7において、FN≦Fc1≦FPである場合には、Fc2=Fc1となる。Fc1>FPである場合には、Fc2=FPとなる。Fc1<FNである場合には、Fc2=FNとなる。可変制限範囲の幅W1=FP-FNは、リミッタ制御部26によって制御される。
【0076】
再び
図5を参照して、リミッタ制御部26は、位相差検出器20によって検出された位相差Δθと、商用交流電源5から供給される交流電圧VIとに基づき、正側制限値FPおよび負側制限値FNを生成して周波数リミッタ25に与える。リミッタ制御部26は、位相差Δθが減少したことに応じて可変制限範囲の幅W1=FP-FNを縮小させる。
【0077】
図8は、リミッタ制御部26の構成を示すブロック図である。
図8において、リミッタ制御部26は、絶対値演算部40、制限値演算部41、周波数検出器42、基準値演算部42A、加算器43、減算器44、最大値設定部45、制限値リミッタ46,48、および最小値設定部47を含む。
【0078】
絶対値演算部40は、位相差検出器20(
図5)によって検出された位相差Δθの絶対値|Δθ|を求める。制限値演算部41は、位相差の絶対値|Δθ|に基づいて制限値FWを求め、位相差の絶対値|Δθ|が減少したことに応じて制限値FWを減少させる。
【0079】
図9は、制限値演算部41の動作を示す図である。
図9では、横軸に位相差の絶対値|Δθ|が示され、縦軸に制限値FWが示されている。
図9に示すように、位相差の絶対値|Δθ|が増大すると、制限値FWは、位相差の絶対値|Δθ|に比例して最小値FWminから最大値FWmaxまで増大する。換言すると、位相差の絶対値|Δθ|が減少すると、制限値FWは、位相差の絶対値|Δθ|に比例して最大値FWmaxから最小値FWminまで減少する。
【0080】
なお、最小値FWminは0よりも大きな所定値に設定されている。最小値FWminを0にすると、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθを0にすることができなくなるからである。
【0081】
再び
図8を参照して、周波数検出器42は、商用交流電源5から供給される交流電圧VIの周波数fiを検出する。基準値演算部42Aは、周波数検出器42によって検出される交流電圧VIの周波数fiと、商用周波数の定格値fcrとの差Δfi=fi-fcrを求め、その差Δfiに応じた値の基準値FRを求める。
【0082】
たとえば、発振器28が電圧制御発振器である場合には、基準値FRは電圧値である。たとえば、fi,fcrがともに60Hzである場合には、Δfiは0Hzとなり、FRは0Hzを示す電圧値となる。後述するが、この場合には発振器28は、Δfi=0Hzに定格値fcrを加算した周波数fo=Δfi+fcrの交流信号vacを出力することとなる。
【0083】
加算器43は、基準値FRと制限値FWを加算して正側制限値FPA=FR+FWを生成する。減算器44は、基準値FRから制限値FWを減算して負側制限値FNA=FR-FWを生成する。
【0084】
最大値設定部45は、正側制限値FPの最大値FPmaxを設定する。最大値FPmaxは、発振器28が出力可能な最高周波数fmaxから商用周波数の定格値fcrを減算した値(fmax-fcr)を示す電圧値である。制限値リミッタ46は、正側制限値FPAを最大値FPmax以下に制限して正側制限値FPを生成する。この正側制限値FPは、周波数リミッタ25(
図5)に与えられる。
【0085】
最小値設定部47は、負側制限値FNの最小値FNminを設定する。最小値FNminは、発振器28が出力可能な最低周波数fminから商用周波数の定格値fcrを減算した値(fmin-fcr)を示す電圧値である。制限値リミッタ48は、負側制限値FNAを最小値FNmin以上に制限して負側制限値FNを生成する。この負側制限値FNは、周波数リミッタ25(
図5)に与えられる。
【0086】
図10は、リミッタ制御部26の動作を示す図である。
図10において、(A)は交流電圧VIの周波数fiが商用周波数の定格値fcrである場合(fi=fcr)を示し、(B)は交流電圧VIの周波数fiが商用周波数の定格値fcrよりも低い場合(fi<fcr)を示している。
【0087】
図10(A)(B)において、交流電圧VIの周波数fiは、位相差の絶対値|Δθ|に依らず一定であるものとする。交流電圧VIの周波数fiは、基準値FRに対応している。位相差の絶対値|Δθ|が増大すると、正側制限値FPAが上昇するとともに、負側制限値FNAが下降する。
【0088】
正側制限値FPAが最大値FPmax以下である場合は、正側制限値FPAが正側制限値FPとなり、正側制限値FPAが最大値FPmaxよりも高くなると、最大値FPmaxが正側制限値FPとなる。
【0089】
また、負側制限値FNAが最小値Fmin以上である場合は、負側制限値FNAが負側制限値FNとなり、負側制限値FNAが最小値FNminよりも低くなると、最小値FNminが負側制限値FNとなる。なお、位相差の絶対値|Δθ|に依らず、FPA<FPmax,FNA>FNminであっても構わない。この場合は、FP=FPA,FN=FNAとなる。
【0090】
図10(A)に示すように、fi=fcrである場合には、基準値FRを示す直線を中心線として、正側制限値FPを示す曲線と負側制限値FNを示す曲線とは対称になる。また
図10(B)に示すように、fi<fcrである場合には、負側制限値FNが最小値FNminとなる|Δθ|が、正側制限値FPが最大値FPmaxとなる|Δθ|よりも小さくなる。したがって、fi<fcrである場合には、基準値FRを示す直線を中心線として、正側制限値FPを示す曲線と負側制限値FNを示す曲線とは対称にならない。
【0091】
また図示しないが、fi>fcrである場合には、正側制限値FPが最大値FPmaxとなる|Δθ|が、負側制限値FNが最小値FNminとなる|Δθ|よりも小さくなる。したがって、fi>fcrである場合には、基準値FRを示す直線を中心線として、正側制限値FPを示す曲線と負側制限値FNを示す曲線とは対称にならない。
【0092】
再び
図5を参照して、加算器27は、周波数リミッタ25によって生成される周波数制御値Fc2に商用周波数の定格値fcrを示す電圧値Fcrを加算して周波数指令値Fc3を生成する。発振器28は、周波数指令値Fc3に応じた値の周波数foを有する交流信号vacを出力する。加算器27および発振器28は、周波数制御値Fc2に応じた値の周波数foを有する交流信号vacを生成する交流信号発生部の一実施例を構成する。この交流信号vacは、制御部14(
図2)に与えられるとともに、位相差検出器20にフィードバックされる。
【0093】
次に、この位相同期制御回路12の動作について説明する。停電検出信号φ11が非活性化レベルの「L」レベルである場合(商用交流電源5の健全時)には、位相差検出器20(
図5)および積分項演算部23が活性化される。
【0094】
商用交流電源5から供給される交流電圧VIと、発振器28によって生成される交流信号vacとの位相差Δθが位相差検出器20によって検出され、その検出値が比例項演算部22、積分項演算部23、およびリミッタ制御部26に与えられる。
【0095】
比例項演算部22によって位相差Δθに応じた値の周波数制御値FPが生成され、積分項演算部23によって位相差Δθに応じた値の周波数制御値FIが生成され、加算器24によって周波数制御値FPと周波数制御値FIが加算されて周波数制御値Fc1が生成される。
【0096】
リミッタ制御部26では、絶対値演算部40(
図8)によって位相差の絶対値|Δθ|が求められ、制限値演算部41によって絶対値|Δθ|に応じた値の制限値FWが求められる。また、周波数検出器42によって交流電圧VIの周波数fiが検出され、基準値演算部42Aによって交流電圧VIの周波数fiと商用周波数の定格値fcrとの差Δfi=fi-fcrを示す電圧値である基準値FRが求められる。
【0097】
加算器43によって正側制限値FPA=FR+FWが生成され、減算器44によって負側制限値FNA=FR-FWが生成される。正側制限値FPAは、制限値リミッタ46によって最大値FPmax以下に制限されて正側制限値FPとなる。また、負側制限値FNAは、制限値リミッタ48によって最小値FNmin以上に制限されて負側制限値FNとなる。
【0098】
正側制限値FPは、周波数リミッタ25の比較器31(
図6)およびセレクタ33に与えられる。負側制限値FNは、周波数リミッタ25の比較器32およびセレクタ33に与えられる。周波数制御値Fc1は、周波数リミッタ25の比較器31,32およびセレクタ33に与えられる。
【0099】
比較器31によって周波数制御値Fc1と正側制限値FPの高低が比較され、比較器32によって周波数制御値Fc1と負側制限値FNの高低が比較され、それらの比較結果に基づいて、周波数制御値Fc1、正側制限値FP、および負側制限値FNのうちのいずれかの値がセレクタ33によって選択され、周波数制御値Fc2として出力される。
【0100】
FN≦Fc1≦FPである場合には、Fc2=Fc1となる。Fc1>FPである場合には、Fc2=FPとなる。Fc1<FNである場合には、Fc2=FNとなる。加算器27(
図5)によって周波数制御値Fc2に商用周波数の定格値fcrを示す電圧値Fcrが加算されて周波数指令値Fc3が生成され、発振器28は、周波数指令値Fc3に応じた値の周波数の交流信号vacを生成する。交流信号vacは、位相差検出器20にフィードバックされる。
【0101】
商用交流電源5の健全時には、交流信号vacの位相および周波数foは交流電圧VIの位相および周波数fiに一致しており、位相差Δθは0であり、可変制限範囲の幅W1(
図10)はリミッタ制御部26によって最小値(2×FWmin)に設定されている。交流電圧VIの周波数fiが商用周波数の定格値fcrである場合には、周波数指令値Fc3は定格値fcrを示す電圧値Fcrにされ、交流信号vacの周波数foも定格値fcrにされる。
【0102】
商用交流電源5の停電が発生すると、停電検出信号φ11が非活性化レベルの「L」レベルから活性化レベルの「H」レベルに立ち上げられ、位相差検出器20は、位相差Δθが0であることを示す信号を出力し、積分項演算部23は、停電発生前の値の周波数制御値FIを保持および出力する。
【0103】
たとえば、停電発生前における交流電圧VIの周波数fiが定格値fcrよりも1Hzだけ低い場合には、周波数制御値FIは-1Hzを示す値となる。これにより、商用交流電源5の停電時には、停電発生前の位相および周波数foを有する交流信号vacが発振器28から出力される。
【0104】
次に、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧して、停電検出信号φ11が活性化レベルの「H」レベルから非活性化レベルの「L」レベルに立ち下げられると、位相差検出器20および積分項演算部23が活性化される。このとき、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが大きな値(たとえばπ/2)になっていたものとする。
【0105】
この場合、位相差検出器20によって大きな位相差Δθが検出され、比例項演算部22および積分項演算部23によって大きな周波数制御値FP,FIが生成され、大きな周波数制御値Fc1が生成される。また、制限値演算部41(
図8)によって大きな制限値FWが生成され、周波数リミッタ25の可変制限範囲が大きな幅W1に設定される。
【0106】
このとき、周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1が大きいので、大きな周波数制御値Fc1が周波数リミッタ25を通過して周波数制御値Fc2となり、交流信号vacの周波数foが上昇し、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが減少する。
【0107】
位相差Δθが減少すると、周波数制御部21によって周波数制御値Fc1が減少される。また、制限値演算部41(
図8)によって制限値FWが減少され、周波数リミッタ25の可変制限範囲が小さな幅W1に設定される。
【0108】
このとき、周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1が小さいので、周波数制御値Fc1が周波数リミッタ25によって制限されて周波数制御値Fc2となり、交流信号vacの周波数foが下降し、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが減少し、位相差Δθおよび周波数foのオーバーシュートが抑制される(
図4参照)。
【0109】
図11は、位相同期制御回路12と比較例の動作を示すタイムチャートである。
図11において、(A)は交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθの波形を示し、(B)は交流信号vacの周波数foと周波数リミッタ25の正側制限値FPおよび負側制限値FNの波形を示している。正側制限値FPと負側制限値FNの差が周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1=FP-FNである。
【0110】
また、
図11において、実線は本実施の形態1の位相同期制御回路12の動作を示し、点線は比較例となる位相同期制御回路の動作を示している。比較例の位相同期制御回路が本実施の形態1の位相同期制御回路12と異なる点は、周波数リミッタ25およびリミッタ制御部26が除去され、周波数制御値Fc1が加算器27に直接与えられる点である。
【0111】
まず、本実施の形態1の位相同期制御回路12の動作について説明する。時刻t0において、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧し、停電検出信号φ11が活性化レベルの「H」レベルから非活性化レベルの「L」レベルに立ち下げられたものとする。このとき、交流電圧VIの周波数fiと交流信号vacの周波数foは一致しており(fo=fi)、交流電圧VIの位相が交流信号vacの位相よりも進んでおり、位相差Δθが正の値になっているものとする。
【0112】
停電検出信号φ11が「L」レベルにされると、位相差検出器20および積分項演算部23(
図5)が活性化される。位相差Δθが正の値になっているので、周波数制御部21によって周波数制御値Fc1が上昇される。
【0113】
この時点では、位相差Δθが大きく、周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1=FP-FNが大きいので、周波数制御値Fc1が周波数リミッタ25を通過して周波数制御値Fc2となり、交流信号vacの周波数foが上昇する。交流信号vacの周波数foが上昇するに従って、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが減少し、リミッタ制御部26(
図5)によって周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1が縮小される。
【0114】
時刻t1において、交流信号vacの周波数foが周波数リミッタ25の正側制限値FPに到達し、周波数foは正側制限値FPとともに減少する。時刻t2において、位相差Δθが0に到達し、正側制限値FPは最小値FWminに到達する。
【0115】
このとき、fo>fiであるので、交流信号vacを示すベクトルが交流電圧VIを示すベクトルを追い越してしまい、位相差Δθが負の値にオーバーシュートする。しかし、交流信号vacの周波数foと交流電圧VIの周波数fiとの差が正側制限値FPの最小値FWminに縮小されているので、位相差Δθのオーバーシュートは小さく抑制される。
【0116】
位相差Δθが負の値にオーバーシュートすると、交流信号vacの周波数foが交流電圧VIの周波数fiよりも低下し、位相差Δθが0に向かって上昇する。位相差Δθが0に向かって上昇すると、交流信号vacの周波数foが交流電圧VIの周波数fiに向かって上昇し、位相差Δθが0になり、fo=fiとなる。つまり、交流信号vacの位相および周波数foが交流電圧VIの位相および周波数fiに一致する。
【0117】
これに対して比較例では、周波数リミッタ25がないので、時刻t1を過ぎても交流信号vacの周波数foが上昇し、周波数foが正側制限値FPよりも大きな値になる。周波数foが正側制限値FPよりも大きな値になるので、位相差Δθが実施の形態1よりも早く0に到達し、位相差Δθが大きな負の値にオーバーシュートする。
【0118】
位相差Δθが大きな負の値にオーバーシュートすると、位相差Δθを0に戻すために、交流信号vacの周波数foが大きく下降され、負側制限値FNよりも低くなる。位相差Δθが上昇に転じると、交流信号vacの周波数foも上昇に転じる。位相差Δθが0を通過して正の値にオーバーシュートすると、位相差Δθを0に戻すために、交流信号vacの周波数foが上昇される。このように、比較例では、実施の形態1に比べ、交流信号vacの周波数変動が大きくなり、交流信号vacの位相および周波数foを交流電圧VIの位相および周波数fiに一致させるのに必要な時間が長くなる。
【0119】
なお、上記特許文献1では、商用交流電源5の停電時には、交流信号vacの周波数foを定格値fcrに設定しておき、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧した場合には、位相差Δθが0に到達してから同期制御を開始するので、交流信号vacの位相および周波数foを交流電圧VIの位相および周波数fiに一致させるまでの時間が長くなる恐れがある。
【0120】
以上のように、この実施の形態1では、交流電圧VIと交流信号vacの位相差Δθが減少したことに応じて、周波数リミッタ25の可変制限範囲の幅W1を縮小させるので、交流信号vacの周波数foのオーバーシュートを小さく抑制することができる。したがって、交流信号vacの周波数foの周波数変動を小さく抑制することができ、かつ交流信号vacの位相および周波数foを交流電圧VIの位相および周波数fiに迅速に一致させることができる。
【0121】
このため、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧してから高速スイッチ1をオンさせるまでの期間において、電力変換装置の出力電圧VOの周波数変動を小さく抑制することができ、出力電圧VOの周波数変動によって負荷6に悪影響が発生することを防止することができる。また、商用交流電源5が復旧してから高速スイッチ1をオンさせるまでの期間を短くすることができるので、バッテリ7の直流電力の消費量を小さくすることができ、バッテリ7の小型化、低価格化を図ることができる。
【0122】
[実施の形態2]
実施の形態1で説明したように、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧してから高速スイッチ1をオンさせるまでの期間では、位相同期制御回路12によって生成される交流信号vacと同じ周波数foの交流電圧が双方向コンバータ3によって生成され、変圧器2を介して負荷6に供給される。負荷6の種類(たとえばモータ)によっては、周波数foが急に変化すると負荷6に悪影響が発生する恐れがある。この実施の形態2では、この問題の解決が図られる。
【0123】
図12は、本開示の実施の形態2に従う電力変換装置に含まれる位相同期制御回路50の構成を示すブロック図であって、
図5と対比される図である。
図12において、この位相同期制御回路50が位相同期制御回路12と異なる点は、周波数リミッタ25と加算器27の間に変化量リミッタ51が追加されている点である。
【0124】
変化量リミッタ51は、周波数リミッタ25によって生成される周波数制御値Fc2の単位時間当たりの変化量を所定の制限範囲内に制限して周波数制御値Fc2Aを生成する。加算器27は、周波数制御値Fc2Aに商用周波数の定格値fcrを示す電圧値Fcrを加算して周波数指令値Fc3を生成する。発振器28は、周波数指令値Fc3の応じた値の周波数foの交流信号vacを生成する。
【0125】
図13は、変化量リミッタ51の構成を示すブロック図である。
図13において、変化量リミッタ51は、変化量検出器60、制限値設定部61,62、比較器63,64、セレクタ65、クロック発生器66、および演算部67を含む。
【0126】
変化量検出器60は、周波数リミッタ25(
図12)によって生成される周波数制御値Fc2と、演算部67によって生成される周波数制御値Fc2Aとの差である変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aを検出する。
【0127】
制限値設定部61は、変化量ΔFIの正側制限値ΔFPを設定する。制限値設定部62は、変化量ΔFIの負側制限値ΔFNを設定する。正側制限値ΔFPおよび負側制限値ΔFNは、負荷6の種類に応じた値に設定される。ΔFN=-ΔFPである。
【0128】
比較器63は、正側制限値ΔFPと変化量ΔFIの高低を比較し、比較結果を示す信号φ63を出力する。ΔFI≦ΔFPである場合には、信号φ63は「H」レベルとなる。ΔFI>ΔFPである場合には、信号φ63は「L」レベルとなる。
【0129】
比較器64は、変化量ΔFIと負側制限値ΔFNとの高低を比較し、比較結果を示す信号φ64を出力する。ΔFI≧ΔFNである場合には、信号φ64は「H」レベルとなる。ΔFI<ΔFNである場合には、信号φ64は「L」レベルとなる。
【0130】
セレクタ65は、比較器63,64の出力信号φ63,φ64に基づいて、変化量ΔFI、正側制限値ΔFP、および負側制限値ΔFNのうちのいずれかの値を選択し、選択した値を変化量ΔFOとして出力する。
【0131】
信号φ63,φ64がともに「H」レベルである場合には、ΔFO=ΔFIとなる。信号φ63,φ64がそれぞれ「L」レベルおよび「H」レベル」である場合には、ΔFO=ΔFPとなる。信号φ63,φ64がそれぞれ「H」レベルおよび「L」レベルである場合には、ΔFO=ΔFNとなる。
【0132】
図14は、セレクタ65の動作を示す図である。
図14では、横軸に周波数差ΔFIが示され、縦軸に変化量ΔFOが示されている。
図14において、ΔFN≦ΔFI≦ΔFPである場合には、ΔFO=ΔFIとなる。ΔFP<ΔFIである場合には、ΔFO=ΔFPとなる。ΔFI<ΔFNである場合には、ΔFO=ΔFNとなる。正側制限値ΔFPと負側制限値ΔFNの間の範囲は、変化量制限範囲である。変化量制限範囲の幅W2は、正側制限値ΔFPと負側制限値ΔFNの差である(W2=ΔFP-ΔFN)。
【0133】
再び
図13を参照して、クロック発生器66は、所定周波数のクロック信号CLKを生成する。クロック信号CLKの一周期が、単位時間とされる。演算部67は、クロック信号CLKの各パルスに応答して(すなわち単位時間が経過する毎に)、現在の周波数制御値Fc2Aにセレクタ65からの変化量ΔFOを加算して新しい周波数制御値Fc2Aを生成する。新しい周波数制御値Fc2Aは、変化量検出器60にフィードバックされるとともに、加算器27(
図12)に与えられる。
【0134】
ΔFN≦ΔFI≦ΔFPである場合には、ΔFO=ΔFIとなり、クロック信号CLKのパルスに応答して現在の周波数制御値Fc2Aに変化量ΔFO=ΔFIが加算され、新たな周波数制御値Fc2Aは周波数制御値Fc2に一致する。
【0135】
ΔFP<ΔFIである場合には、ΔFO=ΔFPとなり、クロック信号CLKのパルスに応答して現在の周波数制御値Fc2Aに変化量ΔFO=ΔFPが加算され、新たな周波数制御値Fc2AはΔFPだけ上昇する。この場合は、Fc2A<Fc2となる。
【0136】
ΔFI<ΔFNである場合には、ΔFO=ΔFNとなり、クロック信号CLKのパルスに応答して現在の周波数制御値Fc2Aに変化量ΔFO=ΔFNが加算され、新たな周波数制御値Fc2AはΔFNだけ下降する。この場合は、Fc2A>Fc2となる。
【0137】
図15は、変化量リミッタ51の動作を示すタイムチャートである。
図15において、(A)は周波数制御値Fc2の波形を示し、(B)は周波数制御値Fc2Aの波形を示し、(C)は変化量ΔFoの波形を示している。
【0138】
時刻t0において、周波数制御値Fc2が0で一定であり、Fc2A=Fc2であるものとする。このとき、変化量検出器60(
図13)によって検出される変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aは0であり、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はともに「H」レベルとなり、セレクタ65によって変化量ΔFI=0が選択されて変化量ΔFO=ΔFI=0となる。演算部67において、クロック信号CLKの各パルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=0が加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2が生成される。
【0139】
時刻t1~t2において、周波数制御値Fc2が0から正側制限値FPまで一定速度で緩やかに上昇したものとする。このとき、変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aが正側制限値ΔFPと0の間の一定値となり、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はともに「H」レベルとなり、セレクタ65によって変化量ΔFIが選択されて変化量ΔFO=ΔFIとなる。演算部67において、クロック信号CLKのパルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFIが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFIが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは周波数制御値Fc2に追随して緩やかに上昇する。
【0140】
時刻t2~t3において、周波数制御値Fc2が正側制限値FPから0まで一定速度で緩やかに下降したものとする。このとき、変化量ΔFI=F2-F2Aが0と負側制限値ΔFNの間の一定値となり、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はともに「H」レベルとなり、セレクタ65によって変化量ΔFIが選択されて変化量ΔFO=ΔFIとなる。演算部67において、クロック信号CLKのパルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFIが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFIが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは周波数制御値Fc2に追随して緩やかに下降する。
【0141】
時刻t4において、周波数制御値Fc2が0から正側制限値FPまで急激に上昇したものとする。このとき、変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aが正側制限値ΔFPよりも大きな値となり、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はそれぞれ「L」レベルおよび「H」レベルとなり、セレクタ65によって正側制限値ΔFPが選択されて変化量ΔFO=ΔFPとなる。演算部67において、クロック信号CLKの各パルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFPが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFPが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは正側制限値FPに向かって一定速度で上昇する。
【0142】
変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aが正側制限値ΔFP以下になると、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はともに「H」レベルとなり、セレクタ65によって変化量ΔFIが選択されて変化量ΔFO=ΔFIとなる。演算部67において、クロック信号CLKのパルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFIが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFIが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは、単位時間当たり正側制限値ΔFPの割合で上昇して周波数制御値Fc2=FPに到達する(時刻t5)。
【0143】
時刻t6において、周波数制御値Fc2が正側制限値FPから0まで急激に下降したものとする。このとき、変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aが負側制限値ΔFNよりも負側に大きな値となり、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はそれぞれ「H」レベルおよび「L」レベルとなり、セレクタ65によって負側制限値ΔFNが選択されて変化量ΔFO=ΔFNとなる。演算部67において、クロック信号CLKの各パルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFNが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFNが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは0に向かって一定速度で下降する。
【0144】
変化量ΔFI=Fc2-Fc2Aが負側制限値ΔFN以上になると、比較器63,64の出力信号φ63,φ64はともに「H」レベルとなり、セレクタ65によって変化量ΔFIが選択されて変化量ΔFO=ΔFIとなる。演算部67において、クロック信号CLKのパルスに応答して周波数制御値Fc2に変化量ΔFO=ΔFIが加算され、周波数制御値Fc2A=Fc2+ΔFIが生成される。したがって、周波数制御値Fc2Aは、単位時間当たり負側制限値ΔFNの割合で下降して周波数制御値Fc2=FNに到達する。他の構成および動作は、実施の形態1と同じであるので、その説明は繰り返さない。
【0145】
以上のように、本実施の形態2では、周波数リミッタ25の後段に変化量リミッタ51を設け、周波数制御値Fc2の単位時間当たりの変化量ΔFOを制限範囲内に制限するので、交流信号vacの周波数foが急激に変化することを防止することができる。このため、商用交流電源5が停電状態から健全状態に復旧してから高速スイッチ1をオンさせるまでの期間において、交流電圧VOの周波数foが急激に変化して負荷6に悪影響が発生することを防止することができる。
【0146】
なお、位相同期制御回路50から周波数リミッタ25およびリミッタ制御部26を除去し、周波数制御部21の後段に変化量リミッタ51を設けた場合でも、交流電圧VOの周波数foが急激に変化して負荷6に悪影響が発生することを防止することができる。
【0147】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0148】
T1 入力端子、T2 出力端子、T3 直流端子、B1~B4 ブレーカ、1 高速スイッチ、2 変圧器、3 双方向コンバータ、4 制御装置、5 商用交流電源、6 負荷、7 バッテリ、11 停電検出器、12,50 位相同期制御回路、13 同期検出器、14 制御部、20 位相差検出器、21 周波数制御部、22 比例項演算部、23 積分項演算部、24,27,43 加算器、25 周波数リミッタ、26 リミッタ制御部、28 発振器、31,32,63,64 比較器、33,65 セレクタ、40 絶対値演算部、41 制限値演算部、42 周波数検出器、42A 基準値演算部、44 減算器、45 最大値設定部、46,48 制限値リミッタ、47 最小値設定部、51 変化量リミッタ、60 変化量検出器、61,62 制限値設定部、66 クロック発生器、67 演算部。
【要約】
この位相同期制御回路(12)は、交流電圧(VI)と交流信号(vac)の位相差(Δθ)を検出する位相差検出器(20)と、位相差がなくなるように第1の周波数制御値(Fc1)を生成する周波数制御部(21)と、第1の周波数制御値を可変制限範囲内に制限して第2の周波数制御値(Fc2)を生成する周波数リミッタ(25)と、位相差に基づいて可変制限範囲を設定し、位相差が減少したことに応じて可変制限範囲の幅を縮小させるリミッタ制御部(26)と、第2の周波数制御値に応じた値の周波数の交流信号を生成する発振器(28)とを備える。したがって、交流信号の周波数のオーバーシュートを小さく抑制できる。