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特許7326674全身麻酔下の患者における喉頭神経および迷走神経の完全性を評価するための方法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】全身麻酔下の患者における喉頭神経および迷走神経の完全性を評価するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/389 20210101AFI20230808BHJP
   A61B 5/25 20210101ALI20230808BHJP
   A61M 16/04 20060101ALI20230808BHJP
   A61N 1/05 20060101ALI20230808BHJP
   A61N 1/08 20060101ALI20230808BHJP
   A61N 1/36 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61B5/389
A61B5/25
A61M16/04 Z
A61N1/05
A61N1/08
A61N1/36
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019534298
(86)(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 US2017068333
(87)【国際公開番号】W WO2018119454
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-11-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-14
(31)【優先権主張番号】62/552,755
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/438,862
(32)【優先日】2016-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502375437
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディスン アット マウント シナイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア、キャサリン、エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ウルカタン、セダット
(72)【発明者】
【氏名】テレス ガーバヨ、マリア ジョセ
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】伊藤 幸仙
【審判官】渡戸 正義
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-512150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0317956(US,A1)
【文献】特開平3-182230(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0125212(US,A1)
【文献】特表2013-510594(JP,A)
【文献】特表2016-501641(JP,A)
【文献】米国特許第11400279(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喉頭内転筋反応(LAR)を維持する種類のものである深部全身麻酔下にある患者に前記LARを誘発することにより、また電気刺激の印加後に検出される前記LARの反応をモニタリングすることにより、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするシステムであって、
第1の膨張可能部材と、複数の表面ベース電極を含む電極領域とを有する気管内チューブであって、前記複数の表面ベース電極が、前記気管内チューブの第1の側に沿って位置する第1の表面ベース電極と、前記気管内チューブの第2の側に沿って位置する第2の表面ベース電極とを含み、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のそれぞれが左右の声帯のそれぞれと直接接触するように配置され、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のそれぞれは、電気刺激を発して前記LARの反応を記録するように構成される気管内チューブ、および
前記複数の表面ベース電極に電気的に結合され、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のうちの選択された一方に電気刺激を送り、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極の他方から前記LARの前記反応を記録するように構成される信号発生器/受信器
を備えるシステム。
【請求項2】
前記反応は、前記LARの声帯収縮性成分である、早期誘発R1反応および前記早期誘発R1反応より後に発生する可変R2反応を含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1の表面ベース電極が第1の電極アレイを含み、前記第2の表面ベース電極が第2の電極アレイを含む、
請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の電極アレイが電気的に相互接続された複数の平行に離間した電極を含み、前記第2の電極アレイが電気的に相互接続された複数の平行に離間した電極を含む、
請求項に記載のシステム。
【請求項5】
前記気管内チューブの前記電極領域は、前記患者の喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成された略三角形状の断面を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記略三角形状の断面が、第1の側壁と、対向する第2の側壁とによって画定され、前記第1の側壁が、表面ベース電極の第1のアレイを含む前記第1の表面ベース電極を含み、前記第2の側壁が、表面ベース電極の第2のアレイを含む前記第2の表面ベース電極を含む、
請求項に記載のシステム。
【請求項7】
前記患者の喉頭の遠位に配置するための第2の膨張可能部材をさらに備え、前記気管内チューブの前記複数の表面ベース電極が、前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置される、
請求項1からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材のそれぞれが、膨張性のカフまたはバルーンを含む、
請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置された前記複数の表面ベース電極が、双方向電極アレイを含む、
請求項またはに記載のシステム。
【請求項10】
前記第2の膨張可能部材は、前記電気刺激を提供するための少なくとも1つの刺激電極を含み、前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置された前記複数の表面ベース電極は、前記LARの反応を記録するだけの電極を含む、
請求項からのいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記少なくとも1つの刺激電極は前記迷走神経上に配置されることなく、連続的な電気刺激によって連続的な術中神経モニタリングを可能にする、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記複数の表面ベース電極は、ワイヤによって前記信号発生器/受信器に電気的に接続されている、
請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
喉頭内転筋反応(LAR)を維持する種類のものである深部全身麻酔下にある患者に前記LARを誘発することにより、また電気刺激の印加後に検出される前記LARの反対側の反応をモニタリングすることにより、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための気管内チューブであって、
第1の膨張可能部材と、前記患者の喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成された略三角形状の断面を有する電極領域とを有する気管内チューブ本体であって、前記電極領域は複数の表面ベース電極を含み、前記複数の表面ベース電極が、前記気管内チューブの第1の側に沿って位置する第1の表面ベース電極と、前記気管内チューブの第2の側に沿って位置する第2の表面ベース電極とを含み、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のそれぞれが左右の声帯のそれぞれと直接接触するように配置され、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のそれぞれが、電気刺激を発することと、前記LARの前記反対側の反応を記録することと、を行うように構成され、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極の一方が電気刺激を発するとき他方が前記LARの前記反応を記録する、気管内チューブ本体
を備える気管内チューブ。
【請求項14】
前記患者の喉頭の遠位に配置するための第2の膨張可能部材をさらに備え、前記気管内チューブの前記複数の表面ベース電極が、前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置される、
請求項13に記載の気管内チューブ。
【請求項15】
前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材のそれぞれが、膨張性のカフまたはバルーンを含む、
請求項14に記載の気管内チューブ。
【請求項16】
前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置された前記複数の表面ベース電極が、双方向電極アレイを含む、
請求項14または15に記載の気管内チューブ。
【請求項17】
喉頭内転筋反応(LAR)を維持する種類のものである深部全身麻酔下にある患者に前記LARを誘発することにより、また電気刺激の印加後に検出される前記LARの反対側の反応をモニタリングすることにより、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための気管内チューブであって、
第1の膨張可能部材と、前記患者の喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成された略三角形状の断面を有する電極領域とを有する気管内チューブ本体であって、前記電極領域は複数の表面ベース電極を含み、前記複数の表面ベース電極が、前記気管内チューブの第1の側に沿って位置する第1の表面ベース電極と、前記気管内チューブの第2の側に沿って位置する第2の表面ベース電極とを含み、前記第1の表面ベース電極および前記第2の表面ベース電極のそれぞれは、前記LARの前記反対側の反応を記録するように構成される、気管内チューブ本体、
前記患者の喉頭の遠位に配置するための第2の膨張可能部材であって、前記気管内チューブの前記複数の表面ベース電極が、前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置される、第2の膨張可能部材
を備え、
前記第2の膨張可能部材は、前記電気刺激を提供するための少なくとも1つの刺激電極を含み、前記第1の膨張可能部材および前記第2の膨張可能部材の間に配置された前記複数の表面ベース電極は、前記LARの反対側の反応を記録するだけの電極を備える、
気管内チューブ。
【請求項18】
前記少なくとも1つの刺激電極は前記迷走神経上に配置されることなく、連続的な電気刺激によって連続的な術中神経モニタリングを可能にする、
請求項17に記載の気管内チューブ。
【請求項19】
喉頭内転筋反応(LAR)を維持する種類のものである深部全身麻酔下にある患者に前記LARを誘発することにより、また電気刺激の印加後に検出される前記LARの反応をモニタリングすることにより、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための気管内チューブであって、
第1の膨張可能部材と、前記患者の喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成された略三角形状の断面を有する電極領域とを有する気管内チューブ本体であって、前記電極領域は複数の表面ベース記録電極と、複数の刺激電極とを含み、前記複数の表面ベース記録電極が、前記気管内チューブの第1の側に沿って位置する少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極と、前記気管内チューブの第2の側に沿って位置する少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極とを含み、前記少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極および前記少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極のそれぞれが左右の声帯のそれぞれと直接接触するように配置され、前記複数の刺激電極が、前記気管内チューブの第1の側に沿って位置する少なくとも1つの第1の表面ベース刺激電極と、前記気管内チューブの第2の側に沿って位置する少なくとも1つの第2の表面ベース刺激電極とを含み、前記少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極および前記少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極のそれぞれは、前記LARの反応を記録するように構成され、前記複数の刺激電極のそれぞれは電気刺激を発するように構成される、気管内チューブ本体
を備える気管内チューブ。
【請求項20】
前記電極領域が後部と前部とによって画定され、前記後部が略円形の形状を有し、前記前部が前記後部から半径方向外向きに延在する突起を含み、前記電極領域の前記略三角形状の断面を画定する、
請求項19に記載の気管内チューブ。
【請求項21】
前記少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極が、前記気管内チューブの前記第1の側に沿って位置する一対の電極を含み、前記少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極が、前記気管内チューブの前記第2の側に沿って位置する一対の電極を含み、前記少なくとも1つの刺激電極は、前記第1の表面ベース記録電極の前記一対の電極と前記第2の表面ベース記録電極の前記一対の電極との間に位置している、
請求項19または20に記載の気管内チューブ。
【請求項22】
前記第1の表面ベース記録電極、前記第2の表面ベース記録電極、および前記少なくとも1つの刺激電極が、前記気管内チューブの外面に沿って長手方向に延在する、
請求項21に記載の気管内チューブ。
【請求項23】
一対の刺激電極がある、
請求項19から22のいずれか一項に記載の気管内チューブ。
【請求項24】
前記少なくとも1つの刺激電極が、前記少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極が沿って位置する前記第1の側と、前記少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極が沿って位置する前記第2の側との間にある前記電極領域の後方側に沿って位置する、
請求項19から23のいずれか一項に記載の気管内チューブ。
【請求項25】
前記少なくとも1つの刺激電極は、間隔をあけて互いに平行である一対の刺激電極を含み、前記少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極は、間隔をあけて互いに平行である一対の電極を含み、前記少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極は、間隔をあけて互いに平行である一対の電極を含む、
請求項24に記載の気管内チューブ。
【請求項26】
前記第1の表面ベース記録電極のうちの1つが略三角形状の前部に近接し、前記第2の表面ベース記録電極のうちの1つが前記略三角形状の前部に近接している、
請求項25に記載の気管内チューブ。
【請求項27】
前記少なくとも1つの刺激電極は前記迷走神経上に配置されることなく、連続的な電気刺激によって連続的な術中神経モニタリングを可能にする、
請求項19から26のいずれか一項に記載の気管内チューブ。
【請求項28】
第1の膨張可能部材および第2の膨張可能部材をさらに備え、前記電極領域が前記第1の膨張可能部材と前記第2の膨張可能部材との間にあり、前記第2の膨張可能部材が前記患者の喉頭の遠位に配置されるよう位置付けられる、
請求項19から27のいずれか一項に記載の気管内チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照 この出願は、2016年12月23日に出願された米国仮特許出願62/438,862号および2017年8月31日に出願された米国仮特許出願62/552,755号を基礎とし、その優先権を主張する。それらのそれぞれは、あたかもそれらのそれぞれの全体が本明細書に明示的に記載されているかのように参照により組み込まれる。
【0002】
本発明は、喉頭神経および迷走神経の術中神経モニタリングのためのシステムおよび方法に関し、より具体的には、喉頭内転筋反応(反射)(LAR)を利用することによる喉頭神経および迷走神経の術中神経モニタリングに関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトの喉頭は体内で最も複雑な臓器の1つである。呼吸と発声を可能にし、気管気管支樹を吸入された異物から保護する。
【0004】
喉頭は迷走神経の2つの異なる枝、上喉頭神経(SLN)および再発性喉頭神経(RLN)からの複雑な神経供給を有する。声門上および声門喉頭からの求心性感覚入力は、声門での再発性喉頭神経(RLN)と一部重なり合って、上喉頭神経(iSLN)の内枝で運ばれる。RLNは、声門下領域に対する支配的な感覚神経供給である。RLNは、SLN(eSLN)の外部分枝によって供給される輪状甲状腺筋を除いて、喉頭筋系に主要な運動神経支配を提供する。RLN、SLNおよび迷走神経機能のモニタリングは、これらの神経が損傷の危険に曝されている可能性がある外科手術中に重要である。甲状腺および副甲状腺手術では、RLNおよびeSLNは手術範囲内にあり、術後神経合併症を最小限に抑えるための術中神経モニタリング技術の使用を支持する最近のガイドラインが数多くある。RLNに関して最も広く使用されているモニタリング技術は、声帯内転を伴う甲状腺腱様筋収縮から生じる複合筋活動電位(CMAP)を測定するための気管内チューブベースの表面電極に依存している。CMAPは、携帯型神経刺激プローブを用いた直接RLN刺激を介して、または神経が伸張、圧迫などによって刺激されたときに間接的に誘発される。
【0005】
より最近では、再発性喉頭神経の出口点に近い迷走神経を間欠的または連続的に手術中に刺激することが提唱されている。特に、甲状腺摘出術などの頸部手技中の神経損傷を軽減するために、再発性喉頭神経(RLN)のためのいくつかの術中神経モニタリング(IONM)戦略が存在する。これらの処置は、その外面に電極が配置されている気管内チューブを利用する。IONM戦略は、本質的に断続的(IIONM)または連続的(CIONM)であり得る。IIONMの場合、損傷が起こった後に神経機能不全の同定が行われるため、この戦略は理想的というほどのものではない。CIONMは、迷走神経に刺激電極を配置するために頸動脈鞘の開口および内頸静脈と内頸動脈との間の解剖を必要とするという点で、非常に困難で危険な外科手術を必要とする。さらに、電極は容易に外れる可能性がある。
【0006】
喉頭内転筋反射(LAR)は、声門上(および声門)粘膜における感覚受容体刺激によって引き起こされる不随意の防御反応である。喉頭内転筋反射という用語と喉頭内転筋反応という用語は同義語であることが理解されよう。求心性神経活動は、上喉頭神経(iSLN)の内枝を介して脳幹に伝わる。遠心性経路は迷走神経および再発性喉頭神経を介するものであり、その結果、声帯の内転、またそれ故気管気管支気道保護をもたらす。
【0007】
したがって、頸部外科手術などの外科手術中の神経損傷を防止するためのCIONMの代替システムおよび方法、ならびに従来のIONMシステムおよび方法に関連する上記の欠陥を克服するものが必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明のシステムおよび方法は、迷走神経上に電極を配置することなくCIONMのために全身麻酔中に抑制されると以前考えられていた喉頭内転筋反射(LAR)を利用する。
【0009】
より具体的には、そして本開示によれば、喉頭内転筋反射(LAR)は、喉頭神経および迷走神経のための新しいモニタリング方法として実現される。本方法は、喉頭反応を刺激および記録するために気管内チューブ電極に依存し、本方法は、感覚経路、運動経路および脳幹経路を含む迷走神経反射弓全体をモニタリングする。
【0010】
LARは、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための新規の方法を表す。現在のモニタリング技術に対する利点は、単純さ、追加の神経プローブを配置することなく神経機能を継続的にモニタリングする能力、および感覚経路と運動経路の両方の完全性を評価する能力を含む。LARは迷走神経反射弓全体をモニタリングするため、迷走神経の完全性が損なわれる可能性があるすべての手術に適用できる。
【0011】
一実施形態によれば、全身麻酔下にある患者に喉頭内転筋反応(LAR)を誘発すること、すなわちLARを保存する種類によって、また電気刺激の適用後に検出されるLARの反対側の反応をモニタリングすることによって、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための気管内チューブである。気管内チューブは、第1の膨張可能部材を有する気管内チューブ本体と、患者の喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成された略三角形の断面を有する電極領域とを含む。電極領域は、複数の表面ベース記録電極と少なくとも1つの刺激電極とを含む。複数の表面ベース電極は、気管内チューブの第1の側に沿って位置する少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極と、気管内チューブの第2の側に沿って位置する少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極とを含む。第1の表面ベース記録電極および第2の表面ベース記録電極のそれぞれは、LARの反対側の反応を記録するように構成されており、少なくとも1つの刺激電極は電気刺激を発するように構成されている。
【0012】
少なくとも1つの刺激電極が、少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極が沿って位置する第1の側と、少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極が沿って位置する第2の側との間にある電極領域の後方側に沿って位置する。一実施形態では、少なくとも1つの刺激電極は、間隔をあけて互いに平行な一対の刺激電極を備える。少なくとも1つの第1の表面ベース記録電極は、間隔をあけて互いに平行な一対の電極を備え、少なくとも1つの第2の表面ベース記録電極は、間隔をあけて互いに平行な一対の電極を備える。一対の刺激電極は気管内チューブの後部に沿って位置し、三角形の形状は気管内チューブの前側に沿って顕著である(すなわち、三角形の形状は前方を向く)。チューブの後面に沿って電極領域内に刺激電極を配置することは、両側性のCIONMを可能にする。 本発明のさらに別の態様では、LARは、全身麻酔下での電気粘膜刺激を用いた喉頭内転筋反射の誘発に関連するので、喉頭のトポグラフィを規定するために使用される。
【0013】
本発明のなお別の態様において、LARは、刺激および記録の両方の目的のために反射の同側(iR1)成分を使用することによって代替的にモニタリングされ得る。このモニタリングは、本明細書に記載されるような電極を有する気管内チューブを使用して達成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】刺激および記録のために両側に埋め込まれた表面電極を含む気管内チューブを使用することによって、喉頭内転筋反射を誘発するための方法論の概略図である。
図1B】左右の声帯とそれぞれ直接接触する右側の対の電極と左側の対の電極を示す概略図である。
図1C】LARが手術野と反対側の喉頭粘膜の電気刺激によって誘発され、外科手術野と同側の(そして刺激側と反対の)電極が反対側のR1とR2の反応を記録するために使用されることを示す概略図である。
図2】本発明の例示的な一実施形態による表面電極を有する挿管チューブの側面図である。
図3A図2の挿管チューブを貫いて得られた第1の断面図である。
図3B図2の挿管チューブを貫いて得られた第2の断面図である。
図3C図2の挿管チューブを貫いて得られた第3の断面図である。
図3D】さらに別の実施形態による挿管チューブの電極領域を貫いて得られた他の断面図である。
図4】記録電極のセクションを示す図2の挿管チューブの一部の拡大図である。
図5】刺激電極のセクションを示す図2の挿管チューブの一部の拡大図である。
図6】電気刺激を生成し、反応(電気信号)を記録するように構成された、機械に電気的に接続された図2の挿管チューブを示す図である。
図7】TIVAによる全身麻酔下の全15人の患者における喉頭内転筋反射の痕跡を示す1つの例示的試験群の結果を示す概略図である。最大4mAの強度の単一刺激または対刺激(*で印を付けた患者)を適用した。すべての患者において、手術を通してcR1反応が確実に誘発された。手術開始時に10人の患者にcR2反応が誘発された。おそらく気管内チューブの配置による、群全体にわたる反応の振幅の変動性が非常に重要であることに留意されたい。
図8図7の試験群からの患者#8における喉頭内転筋反射の痕跡を示す概略図である。調節を避けるために0.7Hzで誘発された5つの連続した試験が反射の再現性を実証するために表示されている。最初の5つの痕跡は図の下部に重ねて表示されている。この場合、反対側のR1(黒三角)およびR2(白三角)反応は持続的に誘発され、LARはTIVAによる全身麻酔下の患者において首尾よく記録することができる両側性および頑強な反射であることを示した。
図9】ベースラインからのcR1の可逆的変化を示す、右喉頭内転筋反射の15の連続的な痕跡を示す概略図である。これらの変化のタイミングは、伸張または圧迫を直接RLNにかける外科手術的操作と時間的に相関していた。反射は単に組織を弛緩させることによってベースラインに回復した。
図10】その電極セクション分を示す別の実施形態による挿管チューブの側面図であり、簡素にするために、第1のカフおよび任意の第2のカフは示されていない。
図11図10の挿管チューブの電極セクションに焦点を合わせた拡大側面図である。
図12図10の挿管チューブの電極セクションの後方斜視図である。
図13図10の挿管チューブの電極セクションの断面図である。
図14】標的治療部位に配置された図10の挿管チューブを示す部分断面図である。
図15】本発明による挿管チューブの例示的電極セクションの断面図である。
図16】甲状腺葉切除術中のLAR-CIONMの痕跡の経時変化の図解である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書で使用されるとき、用語「近位」は、操作者に近いこと(体内へのより少ない)を意味し、「遠位」は、操作者から離れて(身体内への)遠くを意味するものとする。医療装置を患者の体内に配置する際に、「遠位」は挿入位置から離れる方向を指し、「近位」は挿入位置に近い方向を指す。
【0016】
特記しない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される量、測定値、および他の特性またはパラメータを表すすべての数字は、すべての場合において用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、他に指示がない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載の数値パラメータは近似値であることを理解されたい。最低限でも、同等の教義の適用を添付の特許請求の範囲に限定する試みとしてではなく、報告された有効桁数および通常の丸め技法の適用に照らして数値パラメータを読むべきである。
【0017】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本開示を限定することを意図するものではない。本明細書で使用されるとき、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことを意図している。本明細書で使用されるとき、用語「comprises(備える)」および/または「comprising(備える)」は、記載された特徴、整数、段階、動作、要素、および/または構成要素の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、段階、動作、要素、構成要素、および/またはそれらのグループの存在あるいはその追加を排除しないことがさらに理解される。 また、本明細書で使用されている表現および用語は説明を目的としており、限定と見なされるべきではない。
【0018】
本明細書における「including(含む)」、「comprising(含む)」、「having(有する)」、「containing(含む)」、「involving(含む)」、およびそれらの変形の使用は、その後に列挙される項目およびその等価物、ならびに追加の項目を包含することを意味する。
【0019】
少なくとも1つの例示的実施形態によれば、喉頭内転筋反射(LAR)を利用することによって喉頭神経および迷走神経の完全性を評価するための術中システムおよびモニタリング方法が提供される。
【0020】
前述のように、喉頭内転筋反射(LAR)は声門上(および声門)粘膜における感覚受容体刺激によって引き起こされる不随意の防御反応である。求心性神経活動は、上喉頭神経(iSLN)の内枝を介して脳幹に伝わる。遠心性経路は迷走神経および再発性喉頭神経を介するものであり、その結果、声帯の内転、またそれ故気管気管支気道保護をもたらす。LARの声帯収縮性成分は2つの部分-16から18msの間の潜時を持つ早期誘発R1反応、および後のより多くの可変R2成分-からなる。これまでの研究では、深部全身麻酔下のヒトには同側性のR1反応のみが存在し、対側性のR1および両側性のR2反応は存在しないと結論付けられていた。しかしながら、以下に説明するように、本出願人は最近、対側性のR1反応が全静脈麻酔下で頑健に存在し、R2反応が患者のサブセットにも存在することを、本明細書に記載の装置を用いて示した。また本明細書に記載されるように、LARは、刺激目的および記録目的の両方のために反射の同側(iR1)成分を使用することによって代替的にモニタリングされ得る。このモニタリングは、本明細書に記載されるような電極を有する気管内チューブを使用して達成される。
【0021】
全身麻酔下で反射のすべての要素をうまく引き出すことができないと認識されていないため、LARの詳細な知識を得ることは困難である。起きているヒトにおける研究は、喉頭の接近しやすさの問題、患者の不快感および反射の刺激における不正確さによって制限されてきた。両側間のLARの反応の誘発のための閾値が異なる喉頭のサブサイトの間で異なるかどうかは不明のままである。ネコでは、反射を起こす原因となるほとんどの感覚受容体は、披裂軟骨上の後部喉頭粘膜に位置しているようである(参考文献)。しかし、本発明者らは、ヒトでは非常に乏しいデータしか有しておらず、有しているものは主に感覚神経受容体密度の組織学的研究に基づいている。LARの誘発にトポロジカルな違いがある場合は、この情報を使用して、高齢者の無症状の誤嚥や、場合によっては乳幼児突然死症候群などの、LAR機能障害に関連する状態を理解し、より適切に管理することができる。さらに、喉頭痙攣や誤嚥などの全身麻酔の合併症を予防することは、喉頭の領域がLARの誘発に最も関与しているかを理解することにかかっている。例えば、ヒトの後部喉頭が実際に最高密度の感覚受容体を含む場合、これは局所的局所喉頭麻酔が喉頭痙攣を予防するために適用されるときに標的とされるべき領域である。本発明の一態様によれば、LARは、全身麻酔下での電気粘膜刺激を用いた喉頭内転筋反射の誘発に関連するので、喉頭のトポグラフィを規定するために使用される。
【0022】
本明細書に記載され、かつ少なくとも1つの実施形態による一般的なシステムおよび方法は、LARを抑制しない種類の全身麻酔下にある患者に使用される。言い換えれば、本発明は、LARを維持する全身麻酔方式で実施され、LARを抑制するタイプの全身麻酔での使用を意図していない。例示的な一実施形態では、本システムおよび方法は、全静脈麻酔(TIVA)を受けている患者に使用される。
【0023】
本明細書で論じるように、LARは、甲状腺腱様筋収縮を引き起こし、したがって声帯閉鎖を引き起こすことによって誤嚥を防ぐ保護反射である。それは、iSLNの電気刺激を介して、または空気の吹き込みを伴う喉頭粘膜内の機械受容体(または他の受容体)の刺激によって誘発され得る。最近、LARは、粘膜に達するまで喉頭鏡を通過するワイヤ電極によって喉頭粘膜に直接短い電気刺激を加えることによって誘発されている。起きているヒトでは、LARは早期(R1)と後期(R2)の両側反応からなり、R1反応はこの気道反射の原始的で頑強な性質を証明する意志のある声と呼吸課題の間でさえ存在することが示されている。
【0024】
全身麻酔下で、同側および反対側のR1反応(それぞれ、iR1およびcR1)がヒトにおいて観察されている。しかしながら、cR1反応は、より高い麻酔レベルのハロゲン化剤では消失する傾向がある。本発明は、気管内チューブに基づく表面電極のみに頼る、全身麻酔下でLARを誘発するための非侵襲的、単純かつ再現可能な方法論を提供する。本技法は、声帯の内転だけでなく、感覚経路、運動経路、および脳幹経路を組み込んで、迷走神経反射弓全体をもモニタリングする。
【0025】
本明細書で論じるように、LARは、記録だけでなく刺激もする表面ベースの気管内チューブ電極を使用して、全静脈麻酔(TIVA)下で首尾よく誘発された。これは、気管内チューブ電極が記録するためだけに使用されていたが、刺激はしていなかった以前の方法とは対照的である。本発明は、信号特異性を改善し、電極との組織接触を高め、そして気管内チューブの回転および近位/遠位の移動を防止することにより、IIONMおよびCIONMを改善する気管内チューブ構造を含む。改善された気管内チューブ構造の詳細は、すぐ下で議論される。
【0026】
図2図5は、本発明の例示的な一実施形態による挿管チューブ100を示す。知られているように、気管内挿管(挿管)は、一般に、気道を開いた状態に維持するため、または特定の薬物を投与するための導管として機能するための、気管内への可撓性プラスチックチューブの配置である。挿管は、肺の換気を容易にし、窒息または気道閉塞の可能性を防ぐために、重傷を負った、病気の、または麻酔をかけられた患者に頻繁に行われる。最も一般的な技術(口腔気管と呼ばれる)は、気管内チューブを口、声道具を通して気管に通すことである。挿管は侵襲的かつ不快な医療処置であるため、挿管は通常全身麻酔薬および神経筋遮断薬の投与後に行われる。挿管は通常、従来の喉頭鏡、可撓性光ファイバー気管支鏡、またはビデオ喉頭鏡を使用して声帯を識別し、その声帯間のチューブを食道ではなく気管に通すことによって、容易になる。気管に挿管された後、バルーンカフは典型的には気管内チューブの遠位端の真上で膨張されてそれを適所に固定するのを補助する。
【0027】
図示の挿管チューブ100は、患者の外側に位置付けて位置している近位端(図示せず)と、患者に挿入するための遠位端102とを含む細長い構造(管状本体101)である。挿管チューブ100は、任意の数の異なるサイズに形成することができ、また任意の数の異なる形状を有するように形成することができる。ただし、円形が最も一般的である。本明細書に記載され、図3A図3Cに示されるように、挿管チューブ100は、チューブの1つまたは複数のセクションが1つの形状(例えば円形)を有することができるが、一方で1つまたは複数の別のセクションが別の異なる形状(例えば三角形)を有し得るという点で、可変の断面形状を有し得る。
【0028】
1つまたは複数の膨張可能部材 挿管チューブ100は、第1の膨張可能部材110を含み、任意選択で、第1の膨張可能部材110の近位に間隔を置いて配置された第2の膨張可能部材120を含む。挿管チューブ100の長さに沿ったそれらの相対位置のために、第1の膨張可能部材110は下部バルーンと呼ぶことができ、任意選択の第2の膨張可能部材120は上部バルーンと呼ぶことができる。任意の第2の膨張可能部材120は、喉頭に対して遠位の位置に配置することを目的としており、挿管チューブ100の近位/遠位移動を防止するように構成されている。
【0029】
第1の膨張可能部材110および第2の膨張可能部材120のそれぞれは、所望の膨張レベルまで制御可能かつ選択的に膨張させることができるバルーンカフの形態とすることができる。第1の膨張可能部材110は、第2の膨張可能部材120とは異なる形状および/またはサイズを有することができることが理解されよう。
【0030】
略三角形電極セクション 本明細書に記載されるように、挿管チューブ100の第1の膨張可能部材110と第2の膨張可能部材120との間の領域200は、電極部分の形態であり得る。より具体的には、領域200は、少なくとも1つの第1の電極210と少なくとも1つの第2の電極220とを含む少なくとも記録電極領域である。少なくとも1つの電極210はアクティブ記録電極の形態であり、少なくとも1つの第2の電極220は基準記録電極の形態である。電極210、220は、以下により詳細に説明される。あるいは、少なくとも他の1つの実施形態によれば、領域200は1つまたは複数の刺激電極を含むことができ、したがって、記録機能を実行することだけに限定されない。
【0031】
後述するように、領域200は、正確な用途(例えば、手術部位の位置)に応じて刺激を提供し、かつ組織の反応を記録するように構成された双方向アクティブ電極を含むことが好ましく、したがって少なくとも2つの第1の電極210があり、少なくとも1つの電極210は領域200内の挿管チューブ100の一方の側にあり、他方の電極220は領域200内の挿管チューブ100の他方の側にある。
【0032】
図3A図3Dは、挿管チューブ100の例示的構造を示す。図3Aは、領域200の上(および第1の膨張可能部材110の上)の位置における挿管チューブ100の断面が円形であることを示している。図3Bは、領域200内の位置における挿管チューブ100の断面が、略三角形の形状であることを示している。図3Cは、領域200の下(かつ第2の膨張可能部材120の下)の位置における挿管チューブ100の断面が円形であることを示している。領域200内の挿管チューブ100の外面の略三角形は、喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成され、挿管チューブ100の回転を防止し、一方でまた喉頭組織と接触する挿管チューブ100の表面積を増加させる。挿管チューブ100の略三角形は、三角形状で円形チューブ部分から半径方向外側に延在する一体的な突出部(延長部)によって画定されるという点で、図3Dに示すように挿管チューブの前部に限定され得ることが理解されるであろう。挿管チューブの後面は、示されるように従来の挿管チューブと同様に円形である。(チューブの個別の局所領域に三角形状の突起部を含めることによる)前部の修正は、後方チューブ部分の直径を増大させずに、左右の回転を減少させることを可能にする。後述するように、この表面積の増加は電極-組織接触の増加を可能にする。
【0033】
図2図3B図3Dおよび図4は、電極部200に関する詳細を示している。図3Bに示され、上述されたように、挿管チューブ100は、第1の側の表面(面)230、反対側の第2の側の表面232(面)、第3の側の表面(面)234、および対向する第4の側の表面(面)236によって画定される領域200(電極部)において略三角形の断面を有する。中央の円形の穴も領域200に形成されている。示されるように、第1および第2の側の表面230、232は、互いに対して傾斜した平面であり得る一方、第3および第4の側の表面234、236は、弓形であり得る。第3の側の表面234は、第4の側の表面236より短い円弧状の長さを有する。
【0034】
基準記録電極220は、第3の側の表面234に沿って位置した単一の電極とすることができ、より詳細には、領域200内で挿管チューブ100の長さに沿って長手方向に延在するように垂直に向けることができる。基準記録電極220は、第3の側の表面234内で中央に向けることができる。
【0035】
図示の実施形態では、複数のアクティブ記録電極210がある。複数のアクティブ記録電極210は、図示のように領域200内で挿管チューブ100の長手方向長さに沿って互いに平行にかつ直列に配向することができる。しかし、垂直方向または行および列を含むマトリックスを含む、アクティブ記録電極210の他の配置も同様に可能であり、したがって、本明細書に図示および記載された電極210は本質的に単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではないことが理解される。より具体的には、一実施形態によれば、アクティブ記録電極210は、図3Bに最もよく示されるように、アクティブ記録電極210が、第1の側の表面230に沿って形成される第1のアレイ211と、反対側の第2の側の表面232に沿って形成される第2のアレイ213とで形成され得るという点で、双方向電極アレイの形態である。図4に示すように、第1および第2のアレイ211、213のそれぞれは、挿管チューブ100の外面に沿って配置され、互いに電気的に接続された平行に離間した電極帯によって画定される。示されるように、各電極帯は導線に作動的に結合され、電極帯を電気的に接続し、LAR反応を示す信号をシグナルレシーバー(シグナルプロセッサ/レコーダー)に配信することを可能にし、それは後述のように信号を記録および/または分析することができる。言い換えれば、電極帯は信号受信機に電気的に接続されている。
【0036】
少なくとも1つの実施形態では、第1および第2の電極アレイ211、213のそれぞれは、電気刺激を提供し(したがってアクティブ刺激電極として機能する)、またこの場合は、LARの反対側のR1(cR1)とR2(cR2)の反応の信号を記録するように構成される(したがってアクティブ記録電極として作用する)。したがって、電極アレイ211、213は、以下に記載される信号発生器から電気信号を受信することによって隣接組織に電気刺激を提供するように構成され、これは記録する機械と同じであり得る。本明細書に記載されるように、および本システムおよび方法の1つの例示的な実施態様によれば、LARは、領域200内の気管内チューブ100に取り付けられている、右側または左側表面電極(すなわち、第1および第2の電極アレイ211、213)を用いた、手術野と反対側の喉頭粘膜の電気刺激によって誘発された。
【0037】
図3Dに示されるように、第1および第2の電極アレイ211、213は、挿管の円形の後部から半径方向外側に延在する三角形の突起を画定する面230、232に完全に沿って配置され得ることもまた理解されるであろう。基準電極220もまた、この三角形状部分内に完全に配置することができる。
【0038】
第2の膨張可能部材120が使用されるとき、第1の膨張可能部材(カフ)110および第2の膨張可能部材(カフ)120の間の双方向電極アレイ211、213の配置もまた、信号対雑音比を改善する
【0039】
刺激電極 一実施形態では、第2の膨張可能部材120は、第2の膨張可能部材120の外面に沿って配置された1つまたは複数の刺激電極300を含む。図5および図6を参照のこと。示されるように、各刺激電極300は、第2の膨張可能部材120の外面(円周)の周りに延在する。1つまたは複数の刺激電極300は、第2の膨張可能部材120に沿って緯度方向に配置することができる。
【0040】
一実施形態では、第2の膨張可能部材120に沿って配置された単一の刺激電極300がある。単一の刺激電極300が使用されるとき、それは手術野とは反対側で喉頭粘膜の電気刺激を提供することができ、したがって左声帯と右声帯の両方をカバーするように構成される。本明細書に記載されるように、少なくとも1つの刺激電極300を有する任意の第2の膨張可能部材120が使用されるとき、少なくとも1つの刺激電極300はシステムの刺激電極になり、第1および第2の電極アレイ211、213は記録電極となる。このタイプの構成の1つの利点は、左右の側を同時に記録することができることであり、それは、継続的に記録することができるようになる前に、迷走神経の電極を手術野に対して同側に配置することを必要とする唯一の現在利用可能な連続モニタリング技術では、不可能である。言い換えれば、領域200から活性刺激電極を移動させることによって、領域200内のアクティブ電極、すなわち第1および第2の電極アレイ211、213は記録電極としてのみ機能し、それによって双方向記録範囲を提供する。
【0041】
例示的な一実施形態では、第2の膨張可能部材120は、第2の膨張可能部材120の一方の側に沿って配置される一方の刺激電極300があり、他方の刺激電極300が第2の膨張可能部材120の他方の側に沿って配置されるという点で双方向の電極構成を有する。各刺激電極300は、第2の膨張可能部材120に沿って緯度方向に配向することができる。しかしながら、他の向きも同様に可能である。刺激電極300の位置は、一方の刺激電極300が左の声帯と直接接触するように配置するためのものであり、他方の刺激電極300が右の声帯と直接接触するように配置するためのものである。
【0042】
さらに別の実施形態では、第2の膨張可能部材120が第1の膨張可能部材110と一緒に存在することが理解されよう。しかし、第2の膨張可能部材120は、刺激電極を全く含まず、したがって挿管チューブ100の近位方向および遠位方向への移動を防止するための固定バルーンとしてのみ機能する。この実施形態では、それ故に、刺激電極は挿管チューブ100の領域200内に位置しているアクティブ電極210の一方(例えば、第1および第2の電極アレイ211、213)であり、記録電極はアクティブ電極210の他方である。
【0043】
刺激発生装置/記録装置(機械またはシステム) 図6に最もよく示されているように、挿管チューブ100に関連する電極の各々は、刺激を発生させて加えられた刺激に対する反応(例えば電気信号)を記録するように構成されている機械400に電気的に接続されている。個々の電極と機械400との間の電気的接続は、ワイヤまたは他の種類のコネクタ410などの従来の手段によるものである。したがって、機械400は、電気刺激(電気信号)を生成し、電気信号を記録するように構成されているという点で、本願に適している信号発生器/受信器とすることができる。
【0044】
1つの例示的な機械400は、電気信号(例えば誘発電位モニタリング)をモニタリングおよび検出するマルチチャネル装置を備え、さらに電気信号(刺激信号)を放射するように構成されたAxon Sentinel 4 EP Analyzer装置(Axon Systems Inc、Hauppauge、NY、米国)である。機械400によって受信された信号は、増幅され、フィルタリングされ、次いでデスクトップまたはラップトップなどのコンピュータ装置に格納されるか、またはクラウド(ネットワーク)に格納されることができる。後述するように、機械400は、電気刺激が1つまたは複数の電極に向けられることが可能で、電気刺激の性質がユーザによって制御され得、例えば電気刺激の周波数、持続時間などが、選択して制御できるように構成される。
【0045】
[実施例1-患者の研究]
頸部手術を受けた15人の患者が研究された。表1(以下に記載)は、各患者の人口統計、診断および手術の種類を示す。麻酔のレジメンは、標準体重ベースの用量でプロポフォールとレミフェンタニルを用いた全静脈麻酔(TIVA)で構成された。
【0046】
全身麻酔の導入後、患者に、両側に埋め込まれた導電性銀インク表面電極を含むNerve Integrity Monitor TriVantage気管内チューブ(NIM TriVantage(商標)、Medtronics Xomed Inc.、Jacksonville、FL、米国)を挿管した(図1A図1C参照)。これらの電極は左右の声帯と直接接触する(図1Aおよび1B)。図1Aおよび図1Bにおける挿管チューブ構造ならびに電極構造および配置の両方が、図2図6に示される実施形態とは異なることが理解されるであろう。より具体的には、図1Aおよび図1Bは、第1の膨張可能部材(バルーンカフ)20、チューブ10の一方の側(例えば左側)にある第1の電極対30、およびチューブ10の反対側(例えば、右側)の第2の電極対40を有する挿管チューブ10を示す。
【0047】
最初の挿管に続いて、患者が頸部の手術のために適切に配置された後にチューブの位置が再検査された。刺激および記録のために、Axon Sentinel 4 EP Analyzer機を利用した(Axon Systems Inc.、Hauppauge、NY、米国)。このタイプの装置は、電気信号をモニタリングおよび検出する(誘発電位モニタリング)マルチチャネルデバイスである。他の適切な機械も同様に使用することができる。LARは、気管内チューブに取り付けられた右側または左側表面電極を用いて手術野とは反対側の喉頭粘膜を電気刺激することによって誘発された。
【0048】
したがって、理解されるが、従来の使用とは異なり、図1Aおよび図1Bに示されている挿管チューブ10は、記録だけではなく、特定の電極に対して刺激を発生して送達するように構成されている機械(例えば、Axon Sentinel 4 EP Analyzer機)に、動作可能に接続された。例えば、チューブの一方の側の電極は刺激電極として選択することができ、したがって電極が電気的に接続されている装置は、この電極に電気刺激を供給する。チューブの反対側の電極は、こうして選択され、記録電極として機能する。これは、左右両方の電極が記録電極としてのみ作用する、図示の挿管チューブの従来の使用法とは正反対である。
【0049】
4mAまでの強度の単一刺激(持続時間0.1~1ms)または一対の刺激(ISI 2~4ms)を適用した。刺激アーチファクトを最小にするために、逆極性の刺激によって誘発された2つの反応を平均した。気管内チューブに取り付けられた手術野と同側(および刺激側と反対側)の表面電極を使用して、LARの反対側のR1(cR1)およびR2(cR2)反応を記録した。cR1およびcR2反応は、刺激側と比較して反対側の声帯襞筋においてそれぞれ誘発された短潜時反応および長潜時反応として定義された(図1C)。信号を増幅し(4000)、フィルタリングし(帯域幅1.5~1000Hz)、オフライン分析用にコンピュータに保存した。
【0050】
以上の検討結果は以下の通りである。28~84歳の男性3人、女性12人(55±20、平均±SD)がいた。すべての患者において、LARは両側にうまく引き出された。cR1反応は、すべての場合において手術を通して確実に誘発された(図1A~1C)。cR2反応は10人の患者にも見られた。左右の声帯についてのcR1反応の平均発症潜時および振幅(ピーク間測定)を表2に示す(以下に記載)。誘発されたcR2反応の平均発症潜時もまた提示されている。
【0051】
LARを誘発するのに必要な電流の強度は2mA(0.1msの持続時間)から4mA(1msの持続時間)の間で変動し、信頼できるcR1反応を得るための手術を通して、各患者に対する反射を誘発するのに必要な強度を調整した。潜時の増加およびベースラインからの反応の振幅の減少として現れるLARの可逆的な変化が、すべての手術中に起こることが注目された。すべての手術において、これらの変化のタイミングは、伸張または圧迫を直接RLNに加える手術手技と時間的に相関していた。RLNが手術野の外にあった時間の間、LARは振幅および潜時において一定のままであった。どの患者も術中の全反射喪失を示さず、術後には、どの患者も客観的声帯麻痺を示さなかった。LARの刺激または記録に関連する術中または術後の合併症は、いかなる患者についても認められなかった。
【0052】
上記の研究は、全静脈内全身麻酔下の患者においてLARを誘発することにより、頸部手術中に喉頭神経の感覚経路および運動経路の両方をモニタリングすることの実現可能性を実証している。この新規な方法論は、片側で喉頭粘膜を刺激し、反対側で反対側の声帯反応を記録するために市販の気管内チューブを使用するので(cR1およびcR2)、単純で非侵襲的で広く適用可能である。
【0053】
この方法論を使用して、本出願人は、含まれているすべての頸部手術を通してLAR経路の機能的完全性を首尾よく評価することができた。したがって、この喉頭反射は、迷走神経および再発性喉頭神経機能の継続的なモニタリングのための新しい方法を表す。LARは喉頭を誤嚥から守る脳幹反射である。LARの求心性および遠心性の肢は、迷走神経の2つの異なる枝、SLNおよびRLNによって媒介される。求心性の肢は、声門上および声門の粘膜(おそらく機械受容体および化学受容体)の感覚受容体からの情報を、iSLNを介して伝える。喉頭の声門下部および声門下領域は、表面ベースの気管内チューブ電極による粘膜刺激中の反射にも寄与する可能性がある、RLNからの感覚線維を受け取る。LARの遠心性の肢は、RLNの運動線維によって媒介される。
【0054】
以前の研究は、iSLNの電気刺激が喉頭の内転筋においていくつかの記録可能な反応を誘発することを示した。同側R1(iR1)と呼ばれる初期の同側反応(刺激に対する)は、麻酔をかけられたネコ、イヌ、ブタおよびヒトで広く記録されている。声帯筋の対側内転を伴う短潜時対側性R1反応(cR1)は、麻酔をかけられたネコ、起きているヒト、および低用量の全身麻酔下のヒトにおいて一貫して記録されてきた。両側の声帯の内転を引き起こすより長い潜時のR2反応は、起きているヒトで記録された。起きているヒトおよび麻酔をかけられたヒトにおけるiR1の潜時は、通常13~18ms(ミリ秒)の間である。ヒトcR1反応の潜時はiR1反応の潜時よりも約4ms長いことも注目されており、iR1およびcR1反応について脳幹回路の異なるモデルを提案した。iR1は、iSLNから、同側性核の同側核を介して同側性核の曖昧な運動ニューロンに投射することが提案された。対照的に、cR1は、網様構造内の2~3の追加の介在ニューロンシナプスを介して曖昧な直腸の同側核から反対側の核へ突出し、それにより反射の対側内転をもたらす。cR1反応の存在は中枢性促進により支持され、その結果として用量依存的に麻酔により抑制される。その後、深部全身麻酔下の動物(ネコを除く)およびヒトにて対側反応を引き出すことについて困難であることが知覚されたことにより、LARが両側反射であるにもかかわらず、他の研究はcR1反応に対処していない。本研究では、本出願人は、Sasakiら(2003)が0.5MACのイソフルラン10を誘発することができた(しかし、より高い肺胞濃度ではそうではない)cR1反応と同様に、TIVAによる全身麻酔下の患者においてcR1反応を誘発する可能性の証拠を提供する。TIVA下の100%の患者においてcR1を誘発する能力は、気道保護機構としてのこの反射の強い性質を証明している。
【0055】
RLNの連続的な術中モニタリングのための現在利用可能な方法は、モニタリングプローブの配置のためのRLNおよび/または迷走神経の手術による曝露に依存している。頸部内に追加のモニタリング装置を配置することを必要とせずに刺激および記録の目的で気管内チューブの表面電極を使用できることは、他の現在利用可能な技術を超える大きな利点である。実際の神経曝露なしで連続的な神経完全性フィードバックを得ることができることはまた、RLN(またはiSLN)が危険に曝されているが手術野で必ずしも直接視覚化されるわけではない外科手術へのこの技術の潜在的な用途を広げる。さらに、この方法論は、術中の求心性喉頭神経機能を評価する能力を有し、これは以前の方法論では欠けているものである。脳幹および基底頭蓋骨手術はしばしば迷走神経の完全性に重大な危険をもたらす。手術中モニタリングのための現在の方法論は、迷走神経の脳神経マッピングおよび皮質延髄性運動誘発電位(MEP)を含む。脳神経マッピングは最も利用されている方法論の1つだが、外科医の参加に依存しており、継続的に使用することはできない。皮質延髄MEPは頻繁に使用される場合、神経、核および中心経路の完全性を継続的に評価することができるが、それらは手術を中断する経頭蓋電気刺激による動きを誘発し、したがって適用頻度は制限される。これとは対照的に、LARは簡単に実行でき、動きを誘発したり、外科手術を中断させたりすることはない。しかしながら、迷走神経および核の完全性を曖昧に評価するが、核上経路の完全性を評価することはできないことに留意しなければならない。気管内チューブ上の電極の配置は、この反射の成功にとって極めて重要である。電極は刺激と記録の両方の目的のために声門粘膜に対抗するように配置されなければならない。甲状腺手術中にチューブをどのように配置するかを説明した過去の記事があり、これらのガイドラインは正しいチューブ配置を確実にするのに役立つ。喉頭神経が危険に曝されている手術中に術中の反射の変化(ベースライン記録と比較して振幅の減少または潜時の増加)が生じた場合、いくつかの要因に対処する必要がある。第一に、LARを誘発するための閾値が外科的操作のために変化している可能性があるので、反射強度がベースラインレベルに戻るまで刺激強度を増加させるべきである。強度を上げても基線記録への反射が回復しない場合は、外科医に注意を促し、その時点で神経が伸びているかどうかを尋ねる必要がある。もしそうなら、単に組織を弛緩させることは、反射が回復するのを可能にし得る。組織を解放しても完全に回復しない場合、または外科医がその時点で神経の近くで手術していない場合は、チューブの位置を確認する必要がある。チューブの位置は喉頭鏡を使用することによって最適にチェックされるが、喉頭鏡検査を使用せずにチューブを回転方向または近位-遠位方向に移動させ、新しいチューブの位置ごとに反射をテストすることによってチェックすることもできる。最後に、上記の操作のどれもが反射をベースラインレベルに回復させない場合、切迫した神経損傷による真の反射変化が疑われる可能性がある。LARの喪失は、外科医が手術を中止し、手術野を探索して神経損傷を確認するための警告基準である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
少なくとも前述の研究に基づいて、気管内チューブ表面ベース電極および反対側のR1反応を使用するLARの術中適用は、手術中に再発性の喉頭神経および迷走神経の完全性をモニタリングするための実行可能な方法である。上記の研究からの結果は、各外科的処置の期間中、LARが100%の患者において確実に誘発されたことを示している。cR1反応の平均発症潜時は、22.4±2.5ms(右)および22.2±2.4ms(左)であった。cR2反応は10人の患者で見られた(66.7%)。周術期合併症または有害転帰は観察されなかった。
【0059】
結果として、LARは迷走神経のための新規な神経モニタリング技術であり、特に、喉頭神経および迷走神経を手術中にモニタリングするための新規な方法を表す。LARは迷走神経反射弓全体をモニタリングするため、迷走神経の完全性が損なわれる可能性があるすべての手術に適用できる。単純さ、追加の神経プローブを配置することなく神経機能を継続的にモニタリングする能力、および感覚経路と運動経路の両方の完全性を評価する能力を含む、現在のモニタリング技術に対する利点がある。
【0060】
図10図14は、他の実施形態による代替の挿管チューブ500を示す。挿管チューブ500は、挿管チューブ100と同様であり、患者の外側に位置付けられ、配置される近位端(図示せず)と、患者への挿入のための遠位端とを含む細長い構造(管状体)の形態である。挿管チューブ500は、任意の数の異なるサイズに形成することができ、また任意の数の異なる形状を有するように形成することができる。ただし、円形が最も一般的である。挿管チューブ100と同様に、挿管チューブ500は、チューブの1つまたは複数の部分が1つの形状(例えば円形)を有することができる一方、他の1つまたは複数の部分が別の異なる形状(例えば後述のように三角形)を有することができるという可変断面形状を有することができる。
【0061】
1つまたは複数の膨張可能部材 挿管チューブ100と同様に、挿管チューブ500は、第1の膨張可能部材110(図2参照)を含み、第1の膨張可能部材110に近接して離間している第2の膨張可能部材120(図2参照)を任意に含む。簡単にするために、第1の膨張可能部材110および第2の膨張可能部材120は図10には示されていない。図10図12に示す電極部(電極領域)510は、挿管チューブ500の細長い本体に沿って第1の膨張可能部材と第2の膨張可能部材との間に配置されることが理解されよう。
【0062】
略三角形電極セクション 本明細書に記載されるように、挿管チューブ500の第1の膨張可能部材110と第2の膨張可能部材120(図2)との間に位置し得る電極部分または領域510は、電極部分の形態であり得る。より具体的には、電極領域510は多機能電極部として構成される。特に、刺激電極が第2のカフ(第2の膨張可能部材120)上に配置された前の実施形態とは異なり、電極領域510は、以下で詳細に説明されるように記録電極と刺激電極の両方を含む。
【0063】
示されるように、電極領域510は、前の実施形態の電極部200のように略三角形状である。図12および図13に示すように、挿管チューブ500の電極領域510内に、挿管チューブは、略円形の第1の部分520と、第1の部分520から半径方向外側に突出する隣接する第2の部分530とを有する。
【0064】
図10図12は、挿管チューブ100の例示的構造を示す。前述の実施形態と同様に、領域510の上(および第1の膨張可能部材110の上(図2))の位置における挿管チューブ500の断面は円形であることが理解される。図13は、領域510内の位置における挿管チューブ500の断面が、略三角形の形状であることを示している。前述の実施形態と同様に、領域510の下(および第2の膨張可能部材120の下(図2))の位置における挿管チューブ500の断面は円形であることがさらに理解されよう。領域510内の挿管チューブ500の外面の略三角形は、喉頭の解剖学的構造と嵌合するように構成され、挿管チューブ500の回転を防止し、一方でまた喉頭組織と接触する挿管チューブ500の表面積を増加させる。挿管チューブ500の略三角形は、三角形状で円形チューブ部分から半径方向外側に延在する一体的な突出部(延長部)によって画定されるという点で、図12および図13に示すように挿管チューブの前部に限定され得ることが理解されるであろう。挿管チューブの後面は、示されるように従来の挿管チューブと同様に円形である。(チューブの個別の局所領域に三角形状の突起部を含めることによる)前部の修正は、後方チューブ部分の直径を増大させずに、左右の回転を減少させることを可能にする。後述するように、この表面積の増加は電極-組織接触の増加を可能にする。
【0065】
図10図14は、電極部510に関する詳細を示している。図13に示し上述したように、挿管チューブ500は、領域510(電極部)において、第1の側の表面(面)522、対向する第2の側の表面(面)524、前部である第3の側の表面(面)526、および後部である反対側の第4の側の表面(面)528を含むと一般に考えることができる、略三角形の断面を有する。中央の円形の穴も領域510に形成されている。示されるように、第1および第2の側の表面522、524は、互いに対して傾斜しているわずかに湾曲した面または平面であり得る一方、第3および第4の側の表面526、528は弓形であり得る。第3の側の表面526は、第4の側の表面528より短い円弧状の長さを有する。
【0066】
記録電極 電極領域510は、複数の記録電極を含み、特に、アクティブ記録電極の形態の少なくとも1つの第1の電極530と、基準記録電極の形態の少なくとも1つの第2の電極540とを含む。電極530、540は、以下により詳細に説明される。
【0067】
電極領域510は、正確な用途(例えば、手術部位の位置)に応じて刺激を提供し、かつ組織反応を記録するように構成された双方向アクティブ電極を含むことが好ましく、したがって少なくとも2つの記録電極があり、領域510内の挿管チューブ500の一方の側に少なくとも1つの電極があり、領域510内の挿管チューブ500の他方の側に少なくとも1つの電極がある。
【0068】
図示の実施形態では、1つの記録電極530が第1の側の表面522に位置し、1つの記録電極540が反対側524に位置している。図示のように、第1の側の表面522上に一対の記録電極530と、第2の側の表面524上に一対の電極540とがあることが好ましい。電極530は挿管チューブ500に沿って長手方向に延びて互いに平行であることができ、同様に電極540は挿管チューブ500に沿って長手方向に延びて互いに平行であることができる。図12および図13に最もよく示されているように、一方の電極530は前方(略三角形状)の突起に近接しており、他方の電極530は円形状の本体に沿って後方側に位置している。一対の電極540についても同じことが当てはまり、一方を前方突出部の近くに位置付け、他方を後方側に近づけることができる。
【0069】
図11は、電極領域510の側面(横側)図を示し、側面図から、一対の記録電極(この場合は電極540)が見られることが分かる(他の側面図から、他の対電極530が見られる)。
【0070】
刺激電極 図示の実施形態では、先の実施形態とは対照的に、電極領域510は、図に示すように電極領域510内の挿管チューブ500の外面に沿って配置された1つまたは複数の刺激電極550を含む。図示の実施形態は、挿管チューブ500の第4の側の表面528(後方側)に沿って位置する一対の刺激電極550を含む。記録電極530、540と同様に、刺激電極550は長手方向に延びることができ、(平行に)離間している。
【0071】
記録電極530、540および刺激電極550の長さは概ね等しいように示され、幅は概ね等しいように示されているが、長さおよび/または幅は異なってもよいことが理解されよう。
【0072】
一対の刺激電極550の後方配置および使用の結果として、刺激電極550はシステムの刺激電極となり、第1および第2の電極アレイ230、240は記録電極となる。このタイプの構成の1つの利点は、左右の側を同時に記録することができることであり、それは、継続的に記録することができるようになる前に、迷走神経の電極を手術野に対して同側に配置することを必要とする唯一の現在利用可能な連続モニタリング技術では、不可能である。第1および第2の電極アレイ530、540は記録電極としてのみ機能し、それによって双方向記録範囲を提供する。
【0073】
図示の実施形態では、電極領域510はまた、電極領域510の一方の側に沿って配置された1つの刺激電極550があり、別の刺激電極550が電極領域510の他方の側に沿って配置されるという点で、双方向の電極構成を有する。
【0074】
挿管チューブ500の設計は、信号特異性を改善し、電極との組織接触を高め、そして挿管チューブ500の回転および近位/遠位の移動を防止することにより、IIONMおよびCIONMを改善する。
【0075】
随意的な第2の膨張可能部材(バルーンまたはカフ)120(図2)は、近位/遠位の移動を防止するために、喉頭に対して遠位となる場所で挿管チューブ500に沿って配置することができる。
【0076】
前述のように、カフ(図2の第1の膨張可能部材および第2の膨張可能部材)間の挿管チューブ500の三角形の外側表面は、喉頭の解剖学的構造と噛み合い、したがって回転を防ぎ、電極と組織との接触を増大させる。
【0077】
カフ(図2の第1の膨張可能部材および第2の膨張可能部材)の間に双方向電極アレイ(例えば、双方向記録電極530、540および双方向刺激電極550)を配置することは、信号対雑音比を改善する。
【0078】
図14に示すように、刺激電極550は、図示の実施形態では、後部披裂縁刺激電極であると考えることができる。図示の挿管チューブ500は、両側反射記録を可能にする。したがって、図示の挿管チューブ500は、合計6つの電極(3対)を含み、4つの電極(2対)は記録電極であり、2つの電極(1対)は刺激電極である。
【0079】
[実施例2-患者の研究]
手順 10人の患者が登録された。全患者に、モニターされた気管内チューブ(NIM Trivantageチューブ、Medtronic Inc)を挿管した。直接喉頭鏡検査を行い、喉頭を吊り下げた。双極プローブを使用して、様々な喉頭のサブサイトを刺激した。刺激部位からの電流の広がりを最小限に抑えるために、双極刺激を用いた。サブサイトには、前方および後方の膜性声帯、腱様軟骨の内側表面上の後方声門、中間偽声帯、喉頭蓋葉柄、喉頭蓋先端および声門下が含まれていた。IRBによって承認された最大電流は10mAであり、すべてのサブサイトは最初このレベルで刺激され、声帯の反応は視覚的にも気管内チューブ電極によっても記録された。10mA刺激時に両側反射反応が誘発されたサブサイトを3mAから1mAずつ増加させて刺激し、反射が最初に両側性になった場所を定義した。使用したパルス幅は500μSであった。この研究は、シナイ山のIcahn School of Medicineの治験審査委員会によって承認された。
【0080】
結果 10人の患者が登録された。すべての患者において、声門上後部刺激は、すべての患者における強い両側収縮反応を誘発し、内側腱様軟骨を刺激すると、収縮の強度は上方向から下方向に増加した。心室の襞および喉頭蓋先端は、最も一般的には同側であるがより高い刺激電流で一部の患者において両側になる、様々な反応を誘発した。膜性声帯および喉頭蓋葉柄の葉柄は反射を誘発しなかった。
【0081】
チューブの設計への影響 100%の患者において後方刺激時の強い両側性LAR反応が存在したことは、好ましい実施形態におけるLARチューブ用の刺激電極が後方に配置され、各腱様軟骨の内側表面に隣接していることを意味する。この好ましい実施形態では、外側輪状筋内の反応を記録するために、記録電極を外側管表面のより前方に配置するのが最もよい。ヒトの喉頭に関する反応のこのトポグラフィは以前には調査されておらず、また本出願人によって生成されたデータ以外のデータは存在しない。
【0082】
[実施例3]
図15は、本発明による挿管チューブの例示的な電極のセクションの断面図である。図15は、挿管チューブの一部である様々な種類の電極についての例示的な寸法および例示的な配置を列挙する。この例では、各記録電極は、幅約3mm、長さ約30mmとすることができる。また示されるように、挿管チューブの各側において、隣接する記録電極間の電極間のギャップは約7mmである。各刺激電極は、約2mmの幅および約50mmの長さを有することができる。示されるように、隣接する記録電極間の電極間ギャップは約4mmであり得る。図15の記録電極は図13の記録電極530、540に対応することができ、刺激電極は図13の刺激電極550に対応することができることが理解されよう。
【0083】
図10図11および図14は、声帯に対する装置(挿管チューブ)の位置決めを補助する声帯レベルマーカー(十字の記号)を示す。マーカーは、視覚化のためにチューブ上に形成された線(しるし)であり得る。
【0084】
[実施例4-患者の研究]
手順 甲状腺摘出術(n=91)または副甲状腺摘出術(n=9)を受けている100人の患者が含まれていた。すべての患者は、柔軟な経鼻喉頭鏡検査による術前(1ヶ月以内)および術後(1週間以内)の喉頭検査を受けた。術後の声帯不全麻痺または麻痺の患者は、正常な声帯機能が回復するまで毎月追跡された。80人の患者が術前および術後1週間でVocal Fold Handicap Index-10質問票を記入した。
【0085】
麻酔はプロポフォールとサクシニルコリンで誘発され、プロポフォールとオピオイド(レミフェンタニル)との全静脈内麻酔(TIVA)を用いて維持された。吸入および局所喉頭麻酔薬は避けた。挿管は、Nerve Integrity Monitor TriVantage気管内チューブ(NIM TriVantage(商標)、Medtronics Xomed Inc.、Jacksonville、FL、米国)を用いて行った。ビデオ喉頭鏡検査(GlideScope、Verathon Inc.シアトル、WA、米国)を使用して患者の頸部を伸ばし、ETの位置を再確認して調整し、電極が確実に左右の喉頭粘膜と直接接触するようにする。チューブを標準的なテープで固定し、75%の患者において、経口気管内チューブファスナー(Anchor-Fast(商標)、Libertyville、IL、米国)を用いた。
【0086】
術中モニタリング技術 迷走神経および再発性喉頭神経のIIONM 皮下胸骨基準針を有する単極ハンドヘルド刺激プローブ(Medtronic Xomed、Jacksonville、FL、米国)を用いて神経刺激を行った。反復速度4Hz、最大強度2mAで持続時間0.1msの単一刺激を加えた。反応を刺激し、NIM-Response 3.0装置(Medtronic Xomed、Inc.、Jacksonville、Florida、米国)で記録した。迷走神経刺激およびRLN刺激中の喉頭触診での後輪腱鞘筋攣縮反応がない、100μV未満のEMG振幅反応として、信号消失(LOS)を定義した。LOSは1型(分節性)損傷と2型(びまん性)損傷に分類された。
【0087】
LAR-CIONM LARは、ET電極を用いた手術野とは反対側の喉頭粘膜の電気刺激によって誘発された。最大下刺激に必要な最小電流を使用して15mA以下の強度で単一刺激(持続時間0.1~1ms)を適用した。声帯の内転は、刺激側とは反対側のET電極によって記録された。反応を刺激し、そしてAxon Sentinel 4 EP Analyzer機(Axon Systems Inc.、Hauppauge、NY、米国)またはMedtronic Eclipse(登録商標)システム(Medtronic Xomed、Inc.、Jacksonville、FL、米国)で記録した。シグナルをフィルタリングし(帯域幅1.5~1,000Hz)、オフライン分析用に保存した。
【0088】
分析 術前および術後の喉頭検査の間に声帯機能が低下したすべての患者を分析した。閉鎖時のLAR値は、開き時の値、術後の喉頭検査所見、音声結果および閉鎖時のCMAP値と相関していた。記述分析を行ってRLN麻痺の発生率を決定した。両側のP<0.05を有意と見なした。LAR-CIONMを使用して喉頭機能転帰を予測するための感度、特異度、および陽性および陰性予測値を計算した。
【0089】
結果 この研究では、100人の患者(危険に曝されている134の神経)がIIONMに加えてLAR-CIONMを使用して継続的にモニターされた単一の外科医(CFS)による首内分泌処置を受けた。人口統計、手術適応、手術の種類および病理学は表3に概説されている。すべてのBethesda3/4結節は外科的介入前に分子検査を受けた。LARベースライン値は皮膚切開前に得た。LARを引き出すことができなかった場合は、信頼できる反射が得られるまでET位置を調整した。LAR誘発率は100%であった。正常な術後喉頭機能を有する患者の平均開閉時LAR振幅は、それぞれ313.5±167.4μVおよび270.3±159.3μVであった。比較すると、術中RLN損傷による術後喉頭機能異常を有する患者の平均閉鎖時のLAR振幅は有意に減少した(開口359.1±321.0μV、閉鎖93.1±47.0μV、p=0.04)。すべての甲状腺手術において、RLNに牽引力を加える手術操作中に付随する反射潜時の増加なしに、LAR振幅が一時的に減少した(図16)。組織を解放すると、LAR振幅が回復した。
【0090】
【表3】
表3 患者、疾患および外科人口統計
【0091】
術中RLN損傷患者における術後喉頭機能 表4は、術前神経機能別に分類された神経損傷データを示す。患者1および2は、同側声帯の反対側の襞の50%までの術後の低運動性を伴う、通常の術前喉頭検査を受けた。両方の患者は、術中迷走神経刺激中に触知可能な後輪状筋攣縮を有した。患者1は、甲状腺外進展を伴う後部に位置した右2.2cmの甲状腺乳頭癌を有した。LAR振幅の減少は、腫瘍から神経を鋭く切開している間に生じた(77.6%の減少)。術後5週間で正常な喉頭機能が回復した。患者2は、Zuckerkandlの顕著な結節を伴う甲状腺肥大症を有し、67.4%のLAR振幅減少を示した。彼女は3日目に声帯の運動不全を残し、術後10日目までに正常に戻った。
【0092】
患者3、4および5は、術後の一過性の声帯の麻痺(2.2%の予期せぬ神経麻痺率)を伴う通常の術前喉頭検査を受けた。術後6週間までに全員がベースラインの喉頭機能を回復した。患者3および4は、おそらく牽引による2型CMAPシグナル損失(LOS)を示し、そして患者5は、隣接する焼灼による熱損傷のために1型神経損傷であった。すべての患者は、開き時のLAR値と閉鎖時のLAR値との間で60%超の振幅の減少を示し(表4)、自身のVHI-10質問票(術前の平均0.67、1週術後の平均10.3)で、有意な減少を示した。術後6週間までにベースラインに戻っていた。
【0093】
患者6および7は術前声帯不全麻痺を有し、術後声帯麻痺を伴った。両患者とも甲状腺外進展(ETE)の特徴を有する後部に位置した甲状腺癌を有していた。患者6については、この部位で1型LOSを用いて神経を腫瘍から切り離し、開き時のLAR値と閉鎖時のLAR値との間で60%超の振幅の減少を示した。最終病理は解剖部位で顕微鏡的ETEを示した。声帯は中央の位置で良好な調子を保持するが、臍帯可動性は術後10ヶ月に戻っていない。術前および術後のVHI-10スコアは6.0と同程度である。患者7は腫瘍によるRLNの完全な包み込みを有し、神経が犠牲にされた。LAR値の開き時の値と閉鎖時の値との間に43.1%のLAR振幅の減少があり、閉鎖時の振幅は59.2μVであった。しかし、開き時の振幅はわずか104μVであり、そのため、LAR-CIONM技術により、現在この患者を「モニタリング不可能」と分類している(以下の説明を参照)。RLN神経吻合部に対する頸神経ワナを施行した。術後5ヶ月で、そのVHI-10スコアは15であり、術後即時スコア20から改善した。
【0094】
【表4】
【0095】
LAR-CIONMモニター可能性基準の定義 危険に曝されている134の神経のうち、5つ(3.7%)は外科的処置を通して継続的にモニタリングすることができなかった。これらの患者のうち4人(80.0%)については、反対側の神経(すなわち、「危険ではない」神経)もモニタリングすることができず、ET直径が小さすぎるおよび/またはチューブと粘膜との間の著しい分泌物のいずれかであるために、喉頭粘膜と接触する最適以下の刺激電極を示唆した。これらの患者は、記録電極が機能的であることを確認しながら、IIONM単独で首尾よくモニターされた。他の患者では、「危険に曝されていない」神経を、LARを用いてモニタリングすることができた。これは、チューブの回転の問題または同側の粘膜接触が不十分であることを示唆している。
【0096】
神経離断症例および完全な術後声帯麻痺の症例では、症例の80%で閉鎖時のLARの振幅<100μVが認められ、0である閉鎖の値の症例はなかった。IIONMの基準による、LOSの症例でのこの残存しているLAR活性は、両側の反射の反応中にET電極に対する反対側の声帯筋肉の収縮から得た遠い野の記録を反映している。したがって、LAR-CIONMを使用した信頼性の高いモニタリングのためには、150μV、最適には200μV超最小の開き時の振幅が必要である。開き時の振幅が150μV未満の危険がある神経を分析から除外した場合(n=20)、LAR-CIONMのモニタリング可能性は85.1%であった。
【0097】
切迫したまたは実際の神経損傷に対するLAR-CIONM警告基準の定義 LAR開閉時の振幅の減少60%超または閉鎖時の振幅100μV未満で、有意により多い危険な神経は、これらの知見なしの危険な神経と比較して、術後神経麻痺を示した(p<0.001)。これらの基準を用いたLAR-CIONMの陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、感度および特異度を表5に示す。注目すべきは、150μV未満の開き時の振幅を有する患者が除外された場合(n=20)、術後声帯機能不全を有さなかった60%超の開き時の振幅減少を伴う患者はおらず、60%未満の減少の全患者が、正常な術後声帯機能を有していた。統計的に、これは100%のPPV/NPV/感度/特異性に相応する。
【0098】
【表5】
【0099】
LAR-CIONMによる問題 反射誘発中のいかなる時点においても、患者は血行動態的な不安定性を示さなかった。1人の患者は、LAR-CIONMを使用して同時の徐脈を伴わずに1mAで断続的に迷走神経が刺激されたときに、重度の徐脈(毎分38回の拍動)を示した。モニタリング技術に直接起因する問題はなかった。術前に咳をした1人の患者は、抜管後48時間にわたり咳が悪化し、術前に咳をしていなかった1人の患者は、手術後4日の間に咳を発症し、2日間続いた。1人の患者は、術後4日で良性の位置性めまいの症状を発症したが、それは再位置決め手技で解決した。
【0100】
本方法の利点 本明細書で論じるように、LARは外科的処置中に迷走神経を継続的にモニタリングするための新規な方法を表す。唯一の市販されている迷走神経CIONM技術は、電極を配置するために迷走神経の潜在的に有害な操作を必要とする。電極のずれは、神経操作を繰り返すことを術中必要とし、著しいCMAPの減少を検出するための自動周期刺激(APS(登録商標))システムのコアの分析を妨害する。対照的に、LAR-CIONMは、迷走神経反応を刺激し記録するために、非侵襲性のET電極を単独で使用する。この方法論的な利点により、LAR-CIONMは低侵襲性頸部手術や脳神経外科手術に特に魅力的である。
【0101】
LAR-CIONMとCMAP IONM LAR-CIONMはRLNの伸張または圧迫によって誘発された神経興奮性の変化に非常に敏感であり、観察されたLAR-CIONMの振幅の減少の可逆性を評価するために、外科的処置中に組織の頻繁な弛緩を必要とする。したがって、LAR-CIONMは潜在的な神経損傷の非常に早期の警告を提供でき、2型LOS損傷の予防においてCMAP反応よりも効果的であることが証明され得る。迅速な矯正措置が適用されると牽引傷害を元に戻すことができるからである。この連鎖では、LAR反応の潜時の増加は神経損傷を予測しなかった。これは、CMAP反応に対する術後神経麻痺を予測するための「複合事象」の概念がLARには当てはまらない可能性があることを示唆している。試行で、反射は、LAR-CIONMの間の潜時変動性に寄与し得る異なる伝導速度の異なる軸索線維によって、生理学的に伝導されることが認識されている。また、外科的な組織の操作の間の粘膜に対するチューブのわずかな動きは、断続的に陰極または陽極の軸索脱分極を助長し、それによってLAR潜時の変動性を増大させる可能性がある。
【0102】
LARの同側反応を使用したLARのモニタリング 本発明のさらに別の態様では、本明細書に開示されている装置および方法は、刺激および記録の両方の目的で、反射の同側のiR1成分を使用してLARをモニタリングするように適合させることができる。
【0103】
気管内チューブに取り付けられた外科領域に対して同側の(および刺激側に対して同側の)表面電極を使用して、LARの同側R1(iR1)およびR2(iR2)の反応を記録することができる。iR1およびiR2の反応は、刺激側と比較して同側声帯筋においてそれぞれ誘発された短時間潜時反応および長時間潜伏反応として定義された。例えば、図13に示される装置は、後側電極対550が刺激電極として作用し、それらの後側の位置により、これらの電極550が、電極530および/または540などの同側記録電極によって記録される同側反応を引き出すように、適合および構成することができる。さらに別の電極の配置では、図13の装置は、刺激電極550をなくすか不活性にするように修正することができ、また電極対530、540のそれぞれに対して、対の後方電極が刺激電極として作用しながらも対の前方電極は記録電極として作用するように修正することができる。このようにして、記録電極および刺激電極はチューブの同じ側に位置付けられる。同側のiR1記録は、刺激電極を記録電極の後方に配置した状態で、刺激電極を記録電極から分離することによって達成することができる。理解されることだが、これらの教示は、本明細書に記載の他のチューブのような他の構造を有するチューブにおいても実施可能である。
【0104】
頸部手術中に喉頭神経の感覚経路と運動経路の両方をモニタリングすることは、全静脈内全身麻酔下の患者にLARを誘発することによって達成することができる。この新規な方法論は、片側で喉頭粘膜を刺激し、同じ側で同側声帯反応を記録するために市販の気管内チューブを使用するので(iR1およびiR2)、単純で非侵襲的で広く適用可能である。
【0105】
前述の寸法は本質的に例示にすぎず、したがって本発明を限定するものではないことが理解されよう。したがって、電極のサイズおよびそれらの相対的な配置は、前述の例とは異なり得る。
【0106】
図中の類似の数字は、いくつかの図面を通して類似の要素を表し、図面を参照して図解および図示されたすべての構成要素および/または段階は、すべての実施形態または構成に必要とされるわけではない。
【0107】
上記の主題は例示としてのみ提供されており、限定として解釈されるべきではない。本明細書に記載された主題に対して、図解され説明された例示的な実施形態および応用例に従わずに、また後続の特許請求の範囲に記載される本開示の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な修正および変更がなされ得る。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16