(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】構造物の上下動免震方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20230808BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/34 B
(21)【出願番号】P 2019212036
(22)【出願日】2019-11-25
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 吉之
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-125013(JP,A)
【文献】特開2008-231900(JP,A)
【文献】特開平10-338939(JP,A)
【文献】特開2007-046408(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0333451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の直下の地盤において、前記地盤中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、前記地盤に形成される不飽和領域の範囲を調整し、
前記不飽和領域の範囲を調整することで、地震時の前記地盤の上下動の卓越周期を調整し、
前記構造物の上下動の固有周期に対して前記地盤の上下動の卓越周期をずらす、
構造物の上下動免震方法。
【請求項2】
前記地下水に前記空気を注入する空気注入工程と、
前記地下水中の気泡の分布範囲を特定することで、前記不飽和領域の範囲を特定する領域特定工程と、
前記地盤中を伝播する振動の速度を測定する振動測定工程と、
を有し、
前記領域特定工程で得られた前記不飽和領域の範囲と、前記振動測定工程で得られた前記振動の速度と、に基づいて、前記空気注入工程において前記地下水への前記空気の注入範囲を調整する、
請求項1に記載の構造物の上下動免震方法。
【請求項3】
前記振動測定工程で得られた前記振動の速度に基づいて、前記地盤の上下動の卓越周期を推定し、
前記構造物の上下動の固有周期に対して前記地盤の上下動の卓越周期がずれるように、前記空気注入工程において前記地下水への前記空気の注入範囲を調整する、
請求項2に記載の構造物の上下動免震方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の上下動免震方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震時には、構造物に対して水平動(水平方向の振動)及び上下動(上下方向の振動)の双方が入力される。特に、構造物が大スパン建物や工場内の生産設備等である場合には、地震時の上下動の影響が大きくなる。
【0003】
ここで、従来、地震時に構造物に入力される水平動及び上下動の双方に対してそれぞれ免震効果を発揮する種々の3次元免震装置が提案されている。しかし、既存の3次元免震装置は高価であるため、既存の構造物に適用されることは少ないのが実情である。
【0004】
一方で、地盤の飽和度を低下させると、地盤中を伝播するP波の速度が低下することが知られている。例えば特許文献1には、地盤中を伝播するP波の速度を計測することで、地盤の飽和度を推定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている発明は、P波の速度が低下した不飽和領域を地盤中に形成することで、地盤の液状化を防止している。すなわち、地盤に不飽和領域を形成する技術を地盤の液状化対策に適用しており、地盤に不飽和領域を形成する技術を構造物の地震対策に適用した例は従来無かった。
【0007】
本発明は上記事実に鑑み、地盤に不飽和領域を形成することで、構造物と地盤の共振を回避することができる構造物の上下動免震方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の構造物の上下動免震方法は、構造物の直下の地盤において、前記地盤中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、前記地盤に形成される不飽和領域の範囲を調整し、前記不飽和領域の範囲を調整することで、地震時の前記地盤の上下動の卓越周期を調整し、前記構造物の上下動の固有周期に対して前記地盤の上下動の卓越周期をずらす。
【0009】
上記構成によれば、地盤中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、地盤に形成される不飽和領域の範囲を調整することができる。また、地盤に形成される不飽和領域の範囲を調整することで、P波の速度を低下させる範囲を調整し、地盤の上下動の卓越周期の長周期化の度合を調整することができる。
【0010】
これにより、地盤中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、構造物の上下動の固有周期に対して地盤の上下動の卓越周期をずらすことができ、構造物と地盤との共振を回避することができる。
【0011】
請求項2に記載の構造物の上下動免震方法は、請求項1に記載の構造物の上下動免震方法であって、前記地下水に前記空気を注入する空気注入工程と、前記地下水中の気泡の分布範囲を特定することで、前記不飽和領域の範囲を特定する領域特定工程と、前記地盤中を伝播する振動の速度を測定する振動測定工程と、を有し、前記領域特定工程で得られた前記不飽和領域の範囲と、前記振動測定工程で得られた前記振動の速度と、に基づいて、前記空気注入工程において前記地下水への前記空気の注入範囲を調整する。
【0012】
上記構成によれば、領域特定工程で不飽和領域の範囲を特定し、振動測定工程で振動の速度を測定することで、不飽和領域の範囲に対するP波の速度の低下度合を測定することができる。この不飽和領域の範囲に対するP波の速度の低下度合に基づいて、地下水への空気の注入範囲を調整することで、P波の速度を低下させる範囲を調整することができ、地盤の卓越周期を所望の周期に調整することができる。
【0013】
請求項3に記載の構造物の上下動免震方法は、請求項2に記載の構造物の上下動免震方法であって、前記振動測定工程で得られた前記振動の速度に基づいて、前記地盤の上下動の卓越周期を推定し、構造物の上下動の固有周期に対して前記地盤の上下動の卓越周期がずれるように、前記空気注入工程において前記地下水への前記空気の注入範囲を調整する。
【0014】
上記構成によれば、構造物の上下動の固有周期に対して地盤の上下動の卓越周期がずれるように、空気注入工程において地下水への空気の注入範囲を調整することで、構造物と地盤との共振を回避することができ、構造物の上下動を抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る構造物の上下動免震方法によれば、地盤に不飽和領域を形成することで、構造物と地盤の共振を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法における免震対象である構造物を示す全体立面図である。
【
図2】(A)は実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法の空気注入工程を示す立面図であり、(B)はその平面図である。
【
図3】(A)は実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法の領域特定工程を示す立面図であり、(B)はその平面図である。
【
図4】(A)は実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法の振動測定工程を示す立面図であり、(B)はその平面図である。
【
図5】地盤の飽和度と地盤中を伝播するP波の速度との関係を示すグラフである。
【
図6】実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法における地盤中を伝播するP波の速度を示す表である。
【
図7】(A)は実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法における構造物の上下動の固有周期を示すグラフであり、(B)は地盤の上下動の卓越周期を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例に係る構造物の上下動免震方法について、
図1~
図7を用いて説明する。
【0018】
(構造物の構成)
まず、本実施形態に係る構造物の上下動免震方法における免震対象である構造物10について説明する。
図1に示すように、構造物10は、例えば大スパン建物であり、地盤12上に立設されている。構造物10の直下の地盤12は、複数の層(一例として10層)からなり、地下水位HLより下層(一例として上から4層目以深)が、地下水が流れる帯水層となっている。
【0019】
構造物10は、例えば地盤12中に建込まれた図示しない複数の基礎杭によって支持されている。また、構造物10は、所定の固有周期を有している。本実施形態では、
図7(A)のグラフに示すように、一例として、構造物10の固有周期は約0.05(s)となっている。
【0020】
(構造物の上下動免震方法)
次に、本実施形態に係る構造物の上下動免震方法について説明する。本実施形態では、構造物10の直下の地盤12中の地下水への空気の注入範囲を調整して地盤12に形成される不飽和領域M(
図2(A)参照)の範囲を調整することで、地震時の地盤12の上下動の卓越周期を調整し、構造物10の上下動を抑制する。
【0021】
具体的には、構造物の上下動免震方法は、空気注入工程と、領域特定工程と、振動測定工程と、を主に有している。本実施形態では、地盤12の卓越周期が所望の周期になるまで空気注入工程、領域特定工程、及び振動測定工程の各工程を繰り返す。
【0022】
(空気注入工程)
空気注入工程では、構造物10の直下の地盤12中の地下水に空気を注入することで、地盤12に不飽和領域Mを形成する。すなわち、地盤12の飽和度Sr(%)を低下させる(地盤12を不飽和化する)。なお、地盤12の飽和度Srとは、土に含まれる水の体積Vwを空気の体積Vaと水の体積Vwとの和で割って100を掛けたもの(Sr=(Vw/(Va+Vw))×100)である。
【0023】
具体的には、
図2(A)及び
図2(B)に示すように、地盤12には、複数の掘削孔14が形成されている。掘削孔14は、構造物10を挟んで一方側に形成された複数の第1掘削孔14Aと、他方側に形成された複数の第2掘削孔14Bと、からなる。この第1掘削孔14A及び第2掘削孔14Bは、地盤12の調査用に形成されたボーリング孔でもよく、新たに地盤12を掘削することによって形成してもよい。
【0024】
地盤12上にはポンプ16が設置されている。ポンプ16には、複数の揚水管18の一端が接続されており、複数の揚水管18の他端は、各第1掘削孔14Aにそれぞれ挿入されている。また、
図2(B)に示すように、第1掘削孔14Aに挿入された揚水管18の他端には、地盤12中の地下水を地盤12上に汲み上げるための複数の揚水口18Aが形成されている。
【0025】
さらに、ポンプ16には、複数の注水管20の一端が接続されており、複数の注水管20の他端は、各第2掘削孔14Bにそれぞれ挿入されている。また、第2掘削孔14Bに挿入された注水管20の他端には、汲み上げた地下水を地盤12中に注入するための複数の注水口20Aが形成されている。
【0026】
また、地盤12上には、コンプレッサ22が設置されている。コンプレッサ22は、地盤12上において注水管20に接続されており、コンプレッサ22によって圧縮された空気が注水管20内を流れる地下水に注入される。
【0027】
空気注入工程では、第1掘削孔14Aに挿入された揚水管18に形成された揚水口18Aから、ポンプ16によって地盤12中の地下水を地上に汲み上げる。そして、汲み上げた地下水にコンプレッサ22によって圧縮された空気を注入し、空気が注入された地下水を第2掘削孔14Bに挿入された注水管20に形成された注水口20Aから地盤12中に戻すことで、地下水を循環させ、地盤12中の地下水に空気を注入する。本実施形態では、一例として、地盤12の4層目から6層目の3層に空気を注入して、4層目から6層目を不飽和化する。
【0028】
(領域特定工程)
空気注入工程後、領域特定工程では、地下水中の気泡Kの分布範囲を特定することで、不飽和領域Mの範囲(例えば層厚)を特定する。すなわち、空気注入工程における空気の注入によって地盤12が不飽和化された領域の範囲(層厚)を確認する。なお、
図2~
図4では、説明を容易とするため、気泡Kを実際の大きさよりも大きく描いている。
【0029】
具体的には、
図3(A)及び
図3(B)に示すように、一例として、水中スピーカ24及び受信機26を用いて地下水中の気泡Kの分布範囲を特定する。水中スピーカ24は、複数の第1掘削孔14Aのうちの1つに挿入されており、地盤12上に設置された音響増幅器28に接続されている。一方、受信機26は、複数の第2掘削孔14Bのうちの1つに挿入されており、地盤12上に設置された収録機30に接続されている。
【0030】
領域特定工程では、音響増幅器28によって増幅した音波を、水中スピーカ24から発信し、構造物10の直下の地盤12を伝播した音波を受信機26で受信して収録機30に収録する。そして、収録機30に収録された音波の速度や減衰を解析することで、地下水中の気泡Kの分布範囲を特定する。また、気泡Kの分布範囲を特定することで、不飽和領域Mの範囲(層厚)、すなわち空気を注入することによって地盤12が不飽和化された領域の範囲(層厚)を特定する。
【0031】
(振動測定工程)
領域特定工程後、振動測定工程では、地盤12中を伝播する振動(弾性波)の速度を測定する。具体的には、
図4(A)及び
図4(B)に示すように、一例として、PS検層ゾンデ32を用いて振動の速度を測定する。
【0032】
PS検層ゾンデ32は、複数の第1掘削孔14Aのうちの1つに挿入されており、地盤12上に設置された収録機34に接続されている。また、地盤12上におけるPS検層ゾンデ32の近傍には、振動源36が設置されている。振動源36は、地盤12を打撃することで地盤12に振動を与えるハンマー等の図示しない打撃部材を備えている。
【0033】
振動測定工程では、振動源36の図示しない打撃部材で地盤12を打撃して地盤12に振動を与え、地盤12中を伝播した弾性波動をPS検層ゾンデ32で測定して収録機34に収録する。また、収録機34に収録された弾性波(P波及びS波)の波形から、振動源36で発生した弾性波動が地盤12を伝播してPS検層ゾンデ32に到達するまでの伝播時間を読み取ることで、地盤12中を伝播する弾性波(P波及びS波)の速度を求める。そして、地盤12中を伝播する弾性波のうち、P波の速度Vp(m/s)を抽出し、P波の速度Vpから地盤12の上下動の卓越周期を算出する。
【0034】
上述した空気注入工程、領域特定工程、及び振動測定工程の実行後、構造物10の上下動の固有周期と、算出された地盤12の上下動の卓越周期とを比較する。そして、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期が所定値以上ずれている場合には、上記工程を終了する。
【0035】
一方、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期が所定値以上ずれていない場合、すなわち構造物10の上下動の固有周期と地盤12の上下動の卓越周期とが重なっている場合には、再び空気注入工程を実行する。
【0036】
具体的には、例えば上記領域特定工程で特定された不飽和化されていない領域(例えば地盤12の7層目以深)に空気を注入して、地盤12における不飽和領域Mの範囲(層厚)を増加させる。このとき、領域特定工程で得られた不飽和領域Mの範囲と、振動測定工程で得られたP波の速度Vpと、に基づいて、新たに不飽和領域Mを形成する範囲を決める。
【0037】
すなわち、領域特定工程で不飽和領域Mの範囲を特定し、振動測定工程でP波の速度Vpを測定することで、不飽和領域Mの範囲に対するP波の速度Vpの低下度合を測定する。この不飽和領域Mの範囲に対するP波の速度Vpの低下度合に基づいて、空気注入工程における地下水への空気の注入範囲を調整することで、P波の速度Vpを低下させる範囲を調整し、地盤12の卓越周期を調整する。
【0038】
地盤12の卓越周期が所望の周期になるまで、すなわち構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期が所定値以上ずれるまで、上記各工程を繰り返し、地盤12の卓越周期が所望の周期となった場合に上記工程を終了する。
【0039】
なお、上記手順は一例であり、手順が異なっていたり、他の手順が含まれたりしていても構わない。例えば上記手順では、領域特定工程後に振動測定工程を実行していたが、振動測定工程後に領域特定工程を実行しても構わない。また、空気注入工程後に振動測定工程を実行し、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期が所定値以上ずれていることが確認できた場合には、必ずしも領域特定工程を実行する必要はない。
【0040】
(作用効果)
次に、本実施形態に係る構造物の上下動免震方法の作用効果について、
図5及び
図7のグラフと、
図6の表を用いて説明する。なお、
図5中の図形〇、図形□、及び図形△は、粒形の異なる土質試料の結果をそれぞれ表す。
【0041】
図5のグラフに示すように、一般的に、地盤12の飽和度Srが90%以上100%以下の範囲において、地盤12の飽和度Srを低下させると、地盤12中を伝播するP波の速度Vpは急激に低下する。一方、地盤12の飽和度Srが90%未満の範囲において、地盤12の飽和度Srを低下させても、地盤12中を伝播するP波の速度Vpはほとんど低下しない。
【0042】
また、地盤12の上下動の卓越周期は、地盤12の飽和度Srの度合によるP波の速度Vpの低下だけでなく、地盤12に形成される不飽和領域Mの範囲(層厚)によっても変化する。具体的には、不飽和領域Mの範囲(層厚)が広くなると、P波の速度Vpを低下させる範囲(層厚)が広くなり、地盤12の上下動の卓越周期は長周期化する。
【0043】
地盤12の不飽和化前には、地下水位HLより下層(4層目以深)の地盤12は飽和度Srが約100%であり、
図6に示すように、地盤12中を伝播するP波の速度Vp(m/s)は、水中でのP波の伝播速度(約1500m/s)前後となっている。
【0044】
ここで、上述した空気注入工程において、例えば地盤12の4層目から6層目に空気を注入して地盤12を不飽和化した場合、地盤12の4層目から6層目の3層において、地盤12中を伝播するP波の速度Vp(m/s)は600m/s程度まで低下する。
【0045】
このとき、P波の速度Vpの低下に伴って、地盤12の上下動の卓越周期が長周期化する。具体的には、
図7(B)のグラフに示すように、不飽和化前に周期が約0.05(s)であった地盤12の卓越周期が、不飽和後には周期が約0.1(s)となる。すなわち、
図7(A)及び
図7(B)に示すように、不飽和化前には、構造物10の上下動の固有周期と地盤12の上下動の卓越周期が重なっていたのに対し、不飽和後には、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期がずれる。
【0046】
本実施形態によれば、地盤12中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、地盤12に形成される不飽和領域Mの範囲(層厚)を調整することができる。また、地盤12に形成される不飽和領域Mの範囲を調整することで、地震時に地盤12中を伝播するP波の速度Vpを低下せる範囲を調整し、地盤12の上下動の卓越周期の長周期化の度合を調整することができる。
【0047】
このように、地盤12中の地下水への空気の注入範囲を調整することで、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期をずらすことができ、構造物10と地盤12との共振を回避することができる。
【0048】
特に、本実施形態によれば、空気注入工程において、構造物10を挟んで一方側に形成された第1掘削孔14Aから地下水を汲み上げ、他方側に形成された第2掘削孔14Bから地下水を地盤12中に戻している。このように、地下水を循環させることで、構造物10の直下の地盤12における第1掘削孔14Aと第2掘削孔14Bとの間に地下水流動を作ることができ、地盤12中に空気を均一に拡散させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、領域特定工程で不飽和領域Mの範囲を特定し、振動測定工程で振動の速度Vpを測定することで、不飽和領域Mの範囲に対するP波の速度Vpの低下度合を測定する。そして、この不飽和領域Mの範囲に対するP波の速度Vpの低下度合に基づいて、地下水への空気の注入範囲を調整する。これにより、P波の速度Vpの低下度合及びP波を低下させた範囲を確認しながら地盤12中の地下水への空気の注入範囲を調整することができ、地盤12の卓越周期を所望の周期に調整することができる。
【0050】
具体的には、構造物10の上下動の固有周期に対して地盤12の上下動の卓越周期がずれるように、空気注入工程において地下水への空気の注入範囲を調整することで、構造物10と地盤12との共振を回避することができ、構造物10の上下動を抑制することができる。
【0051】
(その他の実施形態)
以上、本発明について実施形態の一例を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、地盤12上に立設される構造物10が一例として大スパン建物とされていたが、構造物10は建物に限らず、生産設備等であってもよく、建物と設備とが併設されているものであってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、空気注入工程において、コンプレッサ22で圧縮された空気を地盤12中に直接注入していたが、これに代えて、発泡剤と反応剤を地盤12中に注入する構成としてもよい。この場合、発泡剤が地盤12中で化学反応することで気泡Kが発生し、この気泡Kを地盤12中に拡散させることができる。
【符号の説明】
【0054】
10 構造物
12 地盤
K 気泡
M 不飽和領域