(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】表示媒体、ならびに表示媒体の作成方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20230808BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20230808BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20230808BHJP
B42D 25/40 20140101ALI20230808BHJP
B42D 25/309 20140101ALI20230808BHJP
B42D 25/328 20140101ALI20230808BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/32
B42D25/324
B42D25/40 100
B42D25/309
B42D25/328 100
(21)【出願番号】P 2018218323
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前平 誠
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雅美
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/164237(WO,A1)
【文献】特開2011-093153(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0090139(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0195823(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/32
B42D 25/324
B42D 25/40
B42D 25/309
B42D 25/328
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸構造を有するレリーフ構造形成層と、前記レリーフ構造形成層の少なくとも一部を覆うように形成された金属反射層と、受像層と、前記受像層に設けられた画像形成部と、支持体とを少なくともこの順に有する表示媒体であって、
前記金属反射層の少なくとも一部には、前記金属反射層を万線状に設けた顕像模様領域が形成されてなり、
前記凹凸構造は、前記受像層の平面と平行であるレリーフ構造形成層上の面を基準面とし、前記基準面と深さあるいは高さが異なり、かつ前
記基準面に対して平行な複数の面からなり、少なくとも一群の前記面の基準面に対する深さあるいは高さが同等であり、
前記画像形成部には、少なくとも可視画像領域と、潜像画像領域とが、形成されてなり、前記顕像模様領域と、前記潜像画像領域とは、少なくとも互いの一部同士が重なり合い、
前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が波状万線として設けられ、その振幅の高さは、潜像画像領域に設けられる扁平画像の高さと同じ、あるいはそれ以下であり、
前記顕像模様領域を介して、顕像画像が観察され、
前記潜像画像領域において、前記顕像画像を特定の方向に圧縮した扁平画像を2つ以上、前記圧縮方向に繰り返して含むことを特徴とする表示媒体。
【請求項2】
前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が曲線からなることを特徴とする請求項1に記載の表示媒体。
【請求項3】
前記顕像画像が、文字、数字、記号から選ばれる1つ以上を少なくとも含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表示媒体。
【請求項4】
前記画像形成部において、前記可視画像領域と前記潜像画像領域とが隣接あるいは、前記可視画像領域の少なくとも一部に前記潜像画像領域が含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の表示媒体。
【請求項5】
前記可視画像領域が、個人認証画像領域を含み、前記個人認証画像領域の少なくとも一部が、前記潜像画像領域を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の表示媒体。
【請求項6】
前記個人認証画像領域に設けられる情報が、顔写真情報であることを特徴とする請求項5に記載の表示媒体。
【請求項7】
中間転写フィルム基材上に、表面に凹凸構造を有するレリーフ構造形成層と、前記レリーフ構造形成層の少なくとも一部を覆うように形成された金属反射層と、受像層とが、少なくともこの順に形成されてなる中間転写フィルムを準備する工程と、
熱転写シート基材上に、色素を含む2つ以上のインキ層を面順次に形成してなる熱転写シートを準備する工程と、
前記中間転写フィルムの前記受像層を有する面と、前記熱転写シートの前記インキ層を有する面とを対向配置し、サーマルヘッドを用いて、少なくとも前記色素を前記受像層に転移させて可視画像領域と潜像画像領域とからなる画像形成部を形成する工程と、
前記中間転写フィルムの画像が形成された前記受像層を有する面と、支持体とを対向配置し、前記中間転写フィルム基材側から熱圧を加えて、前記レリーフ構造形成層、前記金属反射層、前記受像層を、前記支持体上に転写する工程と、を有する表示媒体の作成方法であって、
前記金属反射層が、万線状に形成された顕像模様領域を有し、
前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が波状万線として設けられ、その振幅の高さは、潜像画像領域に設けられる扁平画像の高さと同じ、あるいはそれ以下であり、
前記凹凸構造は、前記受像層の平面と平行である特定の面を基準面に対して平行な複数の面からなり、少なくとも一群の前記面の基準面に対する深さあるいは高さが同等であり、
前記顕像模様領域と重なる前記受像層上に、前記顕像模様領域を介して観察した際に顕像画像が観察される前記潜像画像領域を形成してなり、
前記潜像画像領域において、前記顕像画像を特定の方向に圧縮した扁平画像を2つ以上、前記圧縮方向に繰り返して形成してなることを特徴とする表示媒体の作成方法。
【請求項8】
前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が曲線からなることを特徴とする請求項7に記載の表示媒体の作成方法。
【請求項9】
前記顕像画像が、文字、数字、記号から選ばれる1つ以上を少なくとも含むように形成されることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の表示媒体の作成方法。
【請求項10】
前記画像形成部において、前記可視画像領域と前記潜像画像領域とが隣接あるいは、前記可視画像領域の少なくとも一部に前記潜像画像領域が含まれるように形成されることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載の表示媒体の作成方法。
【請求項11】
前記可視画像領域が、個人認証画像領域を含み、前記個人認証画像領域の少なくとも一部が、前記潜像画像領域を含むように形成されることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載の表示媒体の作成方法。
【請求項12】
前記個人認証画像領域に設けられる情報が、顔写真情報であることを特徴とする請求項11に記載の表示媒体の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスポートや査証などの冊子、カード等の表示媒体において、偽造防止効果の高い画像を有する表示媒体、ならびに表示媒体の作成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パスポートや査証用ステッカー、あるいはカード類といった表示媒体においては、従来、色々なセキュリティ手法が提案されてきている。
【0003】
例えば、パスポートにおいては、現在使用されているパスポートあるいはICAOの規定によれば、目視および光学文字識別方式の両方で読めなければならないとされている。(ICAOは、International Civil Aviation Organizationの略)
ICAOの規定によれば、パスポートに使用する材質やセキュリティに関しては各国の自由裁量であり、セキュリティ機能として一般に使われているものは、有機溶剤等で反応する化学反応体、虹彩色のパールチップ、ファイバー(絹もしくは合成繊維、可視もしくは不可視、蛍光もしくは非蛍光)、ホログラムやマイクロ文字の印刷されたフィルムのセキュリティ糸、透かし模様等を盛り込んだ用紙や退色性インキ、蛍光インキ、感熱インキ、光学的に変化するインキ(いわゆるOVIなど)等の各種インキ、細線印刷、レインボー印刷、凹版印刷、ピクセル印刷等の様々な技法を盛り込んだセキュリティと美観の同時向上を図っている。
【0004】
パスポートの目視確認情報としての顔写真は、従来写真を貼りあわせたものであったが、近年では写真情報をデジタル化し、これをパスポートに再現する傾向にある。パスポートへの画像再現方法としては、顔料を分散させた樹脂型溶融タイプやワックス溶融タイプ、更には染料の昇華・拡散を用いた昇華タイプなどの転写リボンによる感熱転写記録法、電子写真法、インクジェット法、などが検討されている。
【0005】
この種の個人認証データの入った表示媒体としては、画像データに基づいて形成された画像パターンをポリ塩化ビニルやポリカーボネート等の基材上に備えたものや、紙基材上に備えたもの、更には上記画像パターンに加えてホログラムや回折格子を具備するもの等が知られている。
【0006】
パスポートやIDカードなどの個人認証データを含む表示媒体において、顔写真などの画像パターンに加えて、ホログラムや回折格子を形成する方法として、例えば特許文献1に示すように、顔写真などの画像パターンが形成される受像シートとして、ホログラム層を有する中間転写フィルムを用いた中間転写方法による画像形成法などを例示することができる。
【0007】
しかし、パスポートやIDカードなどの個人認証データを含む表示媒体の分野では、常に新たな技術が求められており、デザイン性などの高い意匠性やセキュリティ性などの高度化が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来の技術的問題点に鑑みてなされた発明であり、従来に無い優れたデザイン性を有するとともに、高い偽造防止性を備えた表示媒体、ならびに表示媒体の作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものである。
すなわち、請求項1に記載の発明は、表面に凹凸構造を有するレリーフ構造形成層と、前記レリーフ構造形成層の少なくとも一部を覆うように形成された金属反射層と、受像層と、前記受像層に設けられた画像形成部と、支持体とを少なくともこの順に有する表示媒体であって、前記金属反射層の少なくとも一部には、前記金属反射層を万線状に設けた顕像模様領域が形成されてなり、前記画像形成部には、少なくとも可視画像領域と、潜像画像領域とが、形成されてなり、前記顕像模様領域と、前記潜像画像領域とは、少なくとも互いの一部同士が重なり合い、前記顕像模様領域を介して、顕像画像が観察され、前記潜像画像領域において、前記顕像画像を特定の方向に圧縮した扁平画像を2つ以上、前記圧縮方向に繰り返して含むことを特徴とする表示媒体である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が曲線からなることを特徴とする請求項1に記載の表示媒体である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記顕像画像が、文字、数字、記号から選ばれる1つ以上を少なくとも含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表示媒体である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、前記画像形成部において、前記可視画像領域と前記潜像画像領域とが隣接あるいは、前記可視画像領域の少なくとも一部に前記潜像画像領域が含まれることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の表示媒体である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、前記可視画像領域が、個人認証画像領域を含み、前記個人認証画像領域の少なくとも一部が、前記潜像画像領域を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の表示媒体である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、前記個人認証画像領域に設けられる情報が、顔写真情報であることを特徴とする請求項5に記載の表示媒体である。
【0016】
請求項7に記載の発明は、中間転写フィルム基材上に、表面に凹凸構造を有するレリーフ構造形成層と、前記レリーフ構造形成層の少なくとも一部を覆うように形成された金属反射層と、受像層とが、少なくともこの順に形成されてなる中間転写フィルムを準備する工程と、熱転写シート基材上に、色素を含む2つ以上のインキ層を面順次に形成してなる熱転写シートを準備する工程と、前記中間転写フィルムの前記受像層を有する面と、前記熱転写シートの前記インキ層を有する面とを対向配置し、サーマルヘッドを用いて、少なくとも前記色素を前記受像層に転移させて可視画像領域と潜像画像領域とからなる画像形成部を形成する工程と、前記中間転写フィルムの画像が形成された前記受像層を有する面と、支持体とを対向配置し、前記中間転写フィルム基材側から熱圧を加えて、前記レリーフ構造形成層、前記金属反射層、前記受像層を、前記支持体上に転写する工程と、を有する表示媒体の作成方法であって、前記金属反射層が、万線状に形成された顕像模様領域を有し、前記顕像模様領域と重なる前記受像層上に、前記顕像模様領域を介して観察した際に顕像画像が観察される前記潜像画像領域を形成してなり、前記潜像画像領域において、前記顕像画像を特定の方向に圧縮した扁平画像を2つ以上、前記圧縮方向に繰り返して形成してなることを特徴とする表示媒体の作成方法である。
【0017】
請求項8に記載の発明は、前記金属反射層が、万線状に設けられた前記顕像模様領域において、前記万線が曲線からなることを特徴とする請求項7に記載の表示媒体の作成方法である。
【0018】
請求項9に記載の発明は、前記顕像画像が、文字、数字、記号から選ばれる1つ以上を少なくとも含むように形成されることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の表示媒体の作成方法である。
【0019】
請求項10に記載の発明は、前記画像形成部において、前記可視画像領域と前記潜像画像領域とが隣接あるいは、前記可視画像領域の少なくとも一部に前記潜像画像領域が含まれるように形成されることを特徴とする請求項7から請求項9のいずれかに記載の表示媒体の作成方法である。
【0020】
請求項11に記載の発明は、前記可視画像領域が、個人認証画像領域を含み、前記個人認証画像領域の少なくとも一部が、前記潜像画像領域を含むように形成されることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれかに記載の表示媒体の作成方法である。
【0021】
請求項12に記載の発明は、前記個人認証画像領域に設けられる情報が、顔写真情報であることを特徴とする請求項11に記載の表示媒体の作成方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の表示媒体、ならびに表示媒体の作成方法を用いることにより、従来にないデザイン性を有するモアレ画像を有し、高い偽造防止性を有する身分証明書、運転免許証、パスポート、各種カード類等の表示媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】本発明の表示媒体を作成するための印画装置の例を示す概念図である。
【
図3】本発明の中間転写フィルムの例を示す断面図である。
【
図7】拡大モアレの原理を説明するための概念図である。
【
図8】本発明の顕像模様領域の例を示す平面図である。
【
図9】顕像模様領域の万線形状と顕像画像の例を示す概念図である。
【
図11】従来型のモアレ表現を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明において適宜図面を参照するが、図面に記載された態様は本発明の例示であり、本発明はこれらの図面に記載された態様に制限されない。
【0025】
図1は、本発明の表示媒体の例を示す断面図である。
図1では、表示媒体(10)は、保護層(11)、顕像模様領域(13)を設けたレリーフ構造形成層(12)、潜像画像領域(15)ならびに可視画像領域(16)からなる画像形成部(17)が設けられた受像層(14)の各層が支持体(18)の表面に設けられた構成となっている。
【0026】
(表示媒体の作成方法と媒体の材料構成)
本発明の表示媒体(10)を説明するにあたり、まずその作成方法と、媒体を構成する
各材料について、はじめに説明する。
【0027】
図2は、本発明の表示媒体を作成するための印画装置の例を示す概念図である。
【0028】
印画装置(20)は、中間転写フィルム搬送部(21)と熱転写シート搬送部(22)とを有し、中間転写フィルム巻出部(21a)から巻き出された中間転写フィルム(30)と熱転写シート巻出部(22a)から巻き出された熱転写シート(40)とを対向配置して、サーマルヘッド(23)を用いて、中間転写フィルム(30)に印画を行った後、熱ローラ(25)によって、中間転写フィルム(30)から支持体(18)に転写されることにより、最終印画物である表示媒体(10)が得られる。
【0029】
ここで用いられる中間転写フィルム(30)としては、例えば、
図3に示すような構成を例示することができる。
【0030】
中間転写フィルム(31)は、中間転写フィルム基材(31)の表面に、剥離性の保護層(32)、表面に凹凸構造を有するレリーフ構造形成層(12)、パターン状に設けられた金属反射層(34)、ならびに、透過性反射層(35)が設けられ、熱転写シートから色素を受容して画像が形成される受像層(36)などが積層された構成となっている。
【0031】
中間転写フィルム基材(31)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリイミド、トリアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル樹脂などからなるプラスチックフィルムを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0032】
保護層(32)は、上述のような中間転写フィルム基材(31)からの剥離を容易にすると共に、支持体(18)に対して転写を行い、最終的な印画物となる表示媒体(10)の表面を保護する機能を有するもので、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂などのビニル系樹脂、ニトロセルロースやトリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂、ノルボルネン樹脂などを例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0033】
これらの樹脂は、単独あるいは2種類以上の混合物や積層物などの複合物として用いられても良く、更には、必要に応じて、硬化剤などや、シリコーンオイル類、植物系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックスなどの各種ワックス類などの滑剤、シリカやタルクなどのフィラー類などが添加されてあっても良い。
【0034】
レリーフ構造形成層(33)は、その表面に光学効果を有する凹凸構造を形成する層であり、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、放射線硬化樹脂などを用いることができる。
【0035】
熱可塑性樹脂を用いる場合には、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂などや、これらの混合物、またはこれらの共重合体などを使用することができる。
【0036】
レリーフ構造形成層(33)として、熱硬化性樹脂を用いる場合には、例えば、アクリル系ポリオール樹脂やポリエステル系ポリオール樹脂などのポリオール系樹脂とポリイソシアネート化合物との架橋反応によって形成されるウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂などや、これらの混合物、またはこれらの共重合物を使用することができる。
【0037】
また、放射線硬化樹脂を用いる場合には、放射線硬化樹脂は、典型的には、重合性化合物と開始剤とを含んでいる。
【0038】
重合性化合物としては、例えば、光ラジカル重合が可能な化合物を使用する。具体的には、エチレン性不飽和結合またはエチレン性不飽和基を有したモノマー、オリゴマーまたはポリマーを使用することができる。あるいは光ラジカル重合が可能な化合物として、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエイスリトールペンタアクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のモノマー、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートおよびポリエステルアクリレート等のオリゴマー、またはウレタン変性アクリル樹脂およびエポキシ変性アクリル樹脂等のポリマーなどを使用してもよい。
【0039】
重合性化合物として光ラジカル重合が可能な化合物を使用する場合、開始剤としては、光ラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0040】
この光ラジカル重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテルおよびベンゾインエチルエーテル等のベンゾイン系化合物、アントラキノンおよびメチルアントラキノン等のアントラキノン系化合物、アセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、α-アミノアセトフェノンおよび2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モリホリノプロパン-1-オン等のフェニルケトン系化合物、ベンジルジメチルケタール、チオキサントン、アシルホスフィンオキサイド、または、ミヒラーズケトンなどを使用することができる。
【0041】
あるいは、重合性化合物として、光カチオン重合が可能な化合物を使用してもよい。光カチオン重合が可能な化合物としては、例えば、エポキシ基を備えたモノマー、オリゴマーもしくはポリマー、キセタン骨格含有化合物、または、ビニルエーテル類を使用する。
【0042】
重合性化合物として光カチオン重合が可能な化合物を使用する場合、開始剤としては、光カチオン重合開始剤を使用する。この光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ホスホニウム塩または混合配位子金属塩を使用する。
【0043】
あるいは、重合性化合物として、光ラジカル重合が可能な化合物と光カチオン重合が可能な化合物との混合物を使用してもよい。
【0044】
この場合、開始剤としては、例えば、光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤との混合物を使用する。あるいは、この場合、光ラジカル重合および光カチオン重合の双方の開始剤として機能しうる重合開始剤を使用してもよい。
【0045】
このような開始剤としては、例えば、芳香族ヨードニウム塩または芳香族スルホニウム塩を使用する。
【0046】
また、重合開始剤を使用しない例として、電子線照射により重合性化合物の重合反応を引き起こす方法を用いてもよい。
【0047】
前記放射線硬化樹脂は、増感色素、染料、顔料、重合禁止剤、レベリング剤、消泡剤、タレ止め剤、付着向上剤、塗面改質剤、可塑剤、含窒素化合物、エポキシ樹脂等の添加剤、離型剤またはこれらの組合せを更に含んでいてもよい。
【0048】
また、上述のような各種樹脂は、単独または混合物として用いることができ、例えば、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の組み合わせや、放射線硬化樹脂と熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂の組み合わせなど、各種の混合物を用いることができる。
【0049】
このようにして得られたレリーフ構造形成層(24)に対し、凹凸構造を形成する際には、凹凸パターンを有するニッケルなどの金属からなるプレス版を加熱押圧することによって、凹凸構造を成形し、必要に応じて、紫外線や電子線などの放射線を照射して、プレス版を剥がすことにより、形成することができる。
【0050】
凹凸構造としては、平坦面を含めて、マット面、ホログラムなどの回折格子構造、マイクロレンズアレイやフレネルレンズなどのレンズ構造、あるいはレリーフ構造形成層(33)の表面からの距離が異なる複数の面からなる凹凸構造、光の半波長以上の格子が一方向に並んだ一次元格子や、光の波長以下で、2方向の交差する方向に配列された二次元格子などの凹凸構造を例示することができるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0051】
レリーフ構造形成層(33)の表面からの距離が異なる複数の面とは、受像層(36)の平面と平行である特定の面を基準面とし、この面と深さあるいは高さが異なり、かつ平行な複数の面からなり、少なくとも一群の基準面に対する深さあるいは高さが同等のものである。
【0052】
このような複数の面を構成することにより、深さあるいは高さに応じて、特定の色を表現することが可能となる。
【0053】
また、上述の一次元格子の場合には、格子の並ぶ方向に応じて回折光を一方向に回折することができ、上述の二次元格子の場合には、光を吸収しやすくなる特性を有する。
【0054】
このような構造をレリーフ構造形成層(33)の表面に任意に配置することにより、より高い意匠性やセキュリティ性を付与することが可能となる。
【0055】
金属反射層(34)としては、例えば、Al、Sn、Cu、Au、Ag、Cr、Feなどの金属からなる薄膜、あるいはこれら金属薄膜を鱗片状にしたものや金属を微粒子化して、インキ化した高輝度インキなどを例示することができる。
【0056】
金属薄膜を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的気相成長法や、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法などの化学的気相成長法などを例示することができる。
【0057】
金属反射層(34)の形成に先立って、レリーフ構造形成層(33)の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、イオンボンバード処理などの表面処理が施されても何ら問題ない。
【0058】
高輝度インキを用いる場合には、グラビア印刷法やオフセット印刷法、インクジェット印刷法などの従来公知の印刷法を用いて形成することができる。
【0059】
また、金属薄膜からなる金属反射層(34)をパターン状に形成する方法としては、金属薄膜形成後に、従来公知のオフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などによって、任意のパターン状にマスク層の印刷を施した後、エッチング加工を実施することにより、マスク層が設けられた部分の金属薄膜を残して、他の部分を除去する事ができ
、パターン状の金属反射層(34)を形成することができる。
【0060】
金属薄膜からなる金属反射層(34)をパターン状に設ける手法は、必ずしもこれらの手法に限定されるものではなく、反射層(25)を除去したい部分に予め水溶性インキを設け、水洗することにより、水溶性インキと共に、金属薄膜を除去する方法や、レリーフ構造形成層(13)に設けられる特殊なレリーフ構造と、金属薄膜層表面に設けられる誘電体層との組合せなどにより、パターン状のエッチングを可能にする方法など、従来公知の手法を用いることができる。
【0061】
透過性反射層(35)は、必要に応じて、任意に形成することができる。透過性反射層(35)としては、レリーフ構造形成層(33)とは屈折率の異なる誘電体で、例えば、Sb2S3、Fe2O3、TiO2、CdS、CeO2、ZnS、PbCl2、CdO、SbO3、WO3、SiO、Si2O3、In2O3、PbO、Ta2O3、ZnO、Cd2O3、Al2O3、MgF2などの無機材料からなる透過性薄膜や、これら無機材料からなる透過性薄膜を複数の層に組み合わせたものなどを用いることができる。
【0062】
受像層(36)としては、例えば、線状飽和ポリエステル等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニルや塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸-2-メトキシエチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸-2-ナフチル、ポリアクリル酸イソボルニル、ポリメタクリロメチル、ポリアクリロニトリル、ポリメチルクロロアクリレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸-tert-ブチル、ポリメタクリル酸イソブチル、ポリメタクリル酸フェニル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸アルキル(但し、アルキル基の炭素数は2~6)の共重合樹脂等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリジビニルベンゼン、ポリビニルベンゼン、スチレン-ブタジエン共重合樹脂、スチレンとメタクリル酸アルキル(但し、アルキル基の炭素数は2~6)等のビニル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、このような樹脂は、単独あるいは2種以上の混合物として用いることが出来る。
【0063】
また、受像層(36)には、紫外線吸収剤や、フィラー類などの各種添加剤が添加されてあっても何ら問題ない。
【0064】
また、中間転写フィルム(30)のいずれかの層間には、紫外線領域から赤外線領域に至る特定の波長の光を吸収するインキや、同じく紫外線領域から赤外線領域に至る特定の波長の光を吸収して、吸収した波長域とは異なる波長域の光を発するインキなどを用いて印刷した特殊印刷層などが設けられていても何ら問題ない。
【0065】
図4は、上述のような中間転写フィルム(30)に対して、画像を形成するための熱転写シート(40)の例を示す平面図である。
【0066】
熱転写シート(40)は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリイミドなどのフィルムからなる熱転写シート基材(41)表面に、イエローインキ層(Y)、マゼンタインキ層(M)、シアンインキ層(C)、ブラックインキ層(Bk)などの各色インキ層(42)が面順次に設けられている。
【0067】
ここで、熱転写シート基材(41)は、いずれかの面に、帯電防止処理、離型処理、易接着処理などの各種表面処理が施されていても良いし、インキ層(42)が設けられている面とは反対側の面上に、耐熱滑性層などが設けられていても何ら問題ない。
【0068】
図4では、4色のインキ層(42)が示されているが、必要に応じて、ブラックインキ層を除く3色のインキ層であっても良いし、特色インキ層や蛍光インキ層などが、更に設けられてあっても良い。
【0069】
また、支持体(18)側に、接着性を向上するためのプライマ層などが設けられていない場合には、熱転写シート(40)に、プライマインキ層が設けられてあっても良い。
【0070】
各色インキ層は、いわゆる昇華型インキ層や溶融転写型インキ層のいずれも用いることができるが、インキ層を用いて形成される画像の耐久性等を考慮すると溶融転写型インキ層を好適に用いることができる。
【0071】
一般に、溶融転写型インキ層は、色材、バインダ樹脂を少なくとも含むインキ組成物からなり、色材は従来公知の染料あるいは顔料をいずれも用いることができるが、顔料を好適に用いることができる。
【0072】
溶融転写型インキ層に用いられる顔料としては、例えば、フタルイミド系イエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、スルホアミドイエロー、ベンズイミダゾロンイエロー等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ジケトピロロピロール、キノフタロン、イソインドリノン、ジアミノジアントラキノン、カーボンブラックなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば、いずれも用いることができるが、例えば、ブチラール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニルや酢酸ビニルなどのビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ロジン系誘導体等を挙げることができ、これらの樹脂は単独あるいは2種以上の混合物や共重合体などの複合物として使用することができる。
【0074】
また、各色インキ層には、必要に応じて、染料、分散剤、レベリング剤、粘度調整剤、植物系ワックス、鉱物系ワックス、合成ワックスなどのワックス類、シリカなどのフィラー類などが添加されてあっても何ら問題ない。
【0075】
また、プライマインキ層を設ける場合には、熱可塑性樹脂を好適に用いることができ、例えば、ブチラール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニルや酢酸ビニルなどのビニル系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル-エチレン共重合体等を用いることができ、これらの樹脂は、単独で用いられてもよいし、2種以上の混合物として用いられても良い。
【0076】
また、プライマインキ層には、シリカやタルクなどのフィラー類が添加されてあっても良いが、その添加量は、表示媒体(10)の光透過性を損なわない範囲であることが望ましい。
【0077】
このようなプライマインキ層は、予め支持体(18)に塗布されて設けられてあっても良い。
【0078】
上述のようにして得られた熱転写シート(40)と中間転写フィルム(30)は、互いの機能層すなわち、各色インキ層(42)と受像層(36)とが対向配置され、サーマルヘッド(23)を用いて印字することにより、潜像画像領域(15)や可視画像領域(16)などの画像形成部(17)が形成される。
【0079】
その後、熱ローラ(25)によって、支持体(18)に対して、保護層(32)、レリ
ーフ構造形成層(33)、金属反射層(34)や透過性反射層(35)、画像形成部を有する受像層(36)の各層を転写することによって、表示媒体(10)が形成される。
【0080】
ここで、支持体(18)は、特に限定されるものではないが、パスポートなどの冊子類やIDカードなどのカード類などに用いられる従来公知の素材を任意に用いることができ、例えば、紙類をはじめとして、ポリ塩化ビニル樹脂などのビニル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ乳酸などの生分解性樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などのプラスチック材料を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
上述のようなプラスチック材料は、例えば、酸化チタン、タルク、シリカ、炭酸カルシウムなどのフィラー類や、気泡などのボイドを含んでいても良い。
【0082】
また、これらの支持体(18)に用いられる材料は、単独で用いられても良いし、混合物や、2層以上の積層物として用いられても何ら問題ない。
【0083】
更には、支持体(18)のいずれかの層には、各種の印刷層などが形成されていても何ら問題ない。
【0084】
(表示媒体)
図5には、以上のようにして形成される表示媒体(10)の例を平面図で示している。
【0085】
表示媒体(10)は、可視画像領域として、顔写真情報(52)を含む個人認証画像領域(51)や文字情報領域(54)などが、熱転写シート(40)を用いて形成されている。
【0086】
但し、熱転写シート(40)によって形成される画像は、必ずしもこれらに限定されるものではなく、意匠性などを目的とした絵柄画像などが形成されていても良い。
【0087】
また、顔写真情報(52)を含む個人認証画像領域(51)内には、潜像画像領域(15)が、熱転写シート(40)を用いて形成されており、この潜像画像領域(15)と重なる領域には、金属反射層(34)によって形成された顕像模様領域(13)が設けられている。
【0088】
この顕像模様領域(13)を介して、潜像画像領域(15)を観察することにより、顕像画像(53)が観察される。
【0089】
ここで、顕像模様領域(13)は、先に示した金属反射層(34)が、万線状に形成されており、また潜像画像領域(15)においては、顕像画像(53)として視認される文字、数字、記号から選ばれる1つ以上を少なくとも含む画像に対して、特定の方向に圧縮された扁平画像を2つ以上繰り返して含むように形成されている。
【0090】
図6には、扁平画像(60)の例を示しており、顕像画像(53)として視認される画像を縦方向に圧縮された扁平画像(60)の例を示している。
【0091】
この扁平画像(60)を任意のピッチ幅(d)で分割した分割領域(61)を、例えば、それぞれ分割領域(a)、分割領域(b)、分割領域(c)として、ほぼ同等のライン幅で形成された万線状の顕像模様領域(13)を介して観察することにより、モアレ画像として、扁平画像(60)が拡大された拡大モアレによる顕像画像(53)を視認することが可能となる。
【0092】
図7は、拡大モアレの原理を説明するための概念図である。
【0093】
潜像画像領域(15)に設けられている扁平画像(60)は、任意のピッチ幅(d)に分割された分割領域(a,b,c)をそれぞれ有しており、
図7では、ピッチ数が3個に分割された様子を示している。
【0094】
このような潜像画像領域(15)に対して、ほぼ同等のライン幅を有する万線状の顕像模様領域(13)を重ねて、観察が実施される。
図7では、万線状の顕像模様領域(13)のピッチ数を2とした場合を例示している。
【0095】
上述のような潜像画像領域(15)と顕像模様領域(13)とを重ね合わせることにより、扁平画像(60)内の分割領域(a,b,c)の内、いずれかの領域が万線によって覆い隠され、観察が困難となる領域が発生する。
【0096】
このため、それぞれ同じピッチ幅(d)で分割可能な複数の扁平画像(60)を設けることにより、観察される顕像画像(53)は、万線のスペース領域で観察可能となる複数の扁平画像(60)の分割領域(a,b,c)の組合せによって、形成される。
【0097】
従って、顕像画像(53)は、扁平画像(60)を拡大した拡大モアレ画像として認識される。
【0098】
この時、観察される顕像画像(53)のピッチ数すなわち画像サイズは、下記式(1)によって、規定することができる。
【0099】
【0100】
図7では、顕像画像(53)が、扁平画像(60)に対して、上下反転した状態で示されているが、これは、扁平画像(60)のピッチ数に対して、顕像模様領域(13)すなわち万線のピッチ数が小さい場合に、生じる現象であり、万線のピッチ数の設定状況に応じて、必ずしも扁平画像(60)に対して上下反転するとは限らない。
【0101】
ここで、潜像画像領域(15)に設けられる扁平画像(60)の高さ(D1)は、目視による視認が困難であることが望ましく、1mm未満、更に望ましくは500μm以下程度であることが望ましい。
【0102】
また、本発明において、潜像画像領域(15)は、サーマルヘッド(23)を用いた熱転写方式によって形成されることから、サーマルヘッド(23)による印画解像度を600dpi程度とした場合に、例えば文字として認識可能な顕像画像(53)を得るためには、扁平画像(60)の高さ(D1)は、300μm以上500μm以下程度であることが望ましく、より好ましくは、360μm以上480μm以下とすることができる。
【0103】
これに対して、顕像模様領域(13)に設けられる万線のライン幅ならびにスペース幅は、任意に設定することができるが、ライン幅ならびにスペース幅は、20μm以上300μm以下程度であることが望ましく、更には、潜像画像領域(15)がサーマルヘッド(23)によって形成されることを考慮すると、ライン幅ならびにスペース幅は、40μm以上250μm以下程度であることが望ましい。
【0104】
また、ライン幅とスペース幅は、ともに同じ値であっても良いし、それぞれ異なる値で
設計されていても何ら問題ない。
【0105】
顕像画像(53)の高さ(D2)は、式(1)に示すように、扁平画像(60)のピッチ数と、顕像模様領域(13)のピッチ数によって表現される顕像画像(53)のピッチ数が定まり、また設定されるピッチ幅(d)によって、顕像画像(53)の高さ(D2)が定まるが、具体的には、扁平画像(60)の高さ(D1)と、顕像模様領域(13)に設けられた万線のライン幅ならびにスペース幅の値に応じて、顕像画像(53)の高さ(D2)が定まると言える。
【0106】
また、扁平画像(60)の単一画像(例えば、一文字)の幅は、特に限定されるものではないが、顕像画像(53)とした時に、視認可能であることが望ましく、例えば、1mm以上程度とすることができる。
【0107】
上述のような顕像模様領域(13)に設けられる万線は、直線であっても良いが、例えば、
図8に示すような曲線とすることができる。
【0108】
図9では、同一の潜像画像領域(15)に対して、顕像模様領域(13)に設けられる万線が、直線(I)の場合と、曲線(II)の場合とで、観察される顕像画像(53)の変化の様子を概念的に示している。
【0109】
図9から判るとおり、サーマルヘッド(23)によって形成される潜像画像領域(15)の扁平画像(60)形成方法を特に変更することなく、顕像模様領域(13)に設けられる万線を変更することにより、観察される顕像画像(53)の形態を変化させることが可能となる。
【0110】
すなわち、潜像画像領域(15)に設けられる扁平画像(60)を一定の繰り返しパターンとして形成した際に、顕像模様領域(13)に設けられる万線が、直線(I)の場合には、顕像画像(53)も直線的な配列画像として観察される。
【0111】
これに対して、顕像模様領域(13)に設けられる万線が、曲線(II)の場合には、顕像画像(53)も、万線の曲線に沿って、曲線的な画像として観察することが可能となり、表示される画像のデザイン性の面からも種々の工夫を凝らすことが可能となり、またセキュリティ性の面からも偽造困難性が向上するため、好ましいと言える。
【0112】
この様な曲線(II)的な万線は、特にその形状を限定するものではないが、例えば、
図10に示すような波状万線(70)を例示することができる。
【0113】
波状万線(70)として設けられている場合には、その振幅(Am)の高さは、特に限定されるものではないが、例えば、潜像画像領域(15)に設けられる扁平画像(60)の高さ(D1)と同程度、あるいはそれ以下程度であることが望ましいと言える。
【0114】
波状万線(70)の振幅(Am)を扁平画像(60)の高さ(D1)と同程度、あるいはそれ以下程度とすることで、違和感の無い顕像画像(53)を視認することが可能となる。
【0115】
また、この様な曲線状の万線は、微視的に観察した際に、少なくとも一部が階段状に形成されていても何ら問題ない。
【0116】
図11は、従来型の万線モアレによる画像形成を模式的に示したものである。従来型の万線モアレによる画像形成方式では、一部の印画ドットの配置位置をずらした印画画像(
80)と、直線万線からなる検証具(81)とからなり、これを重ねて観察することにより、顕像画像が観察される。
【0117】
しかし、この方法では、印画画像(80)と検証具(81)とのわずかな位置ズレによって、例えば、ポジ型顕像画像(Ip)、ネガ型顕像画像(In)、判別不能な顕像画像画像(NG)が、視認され得る。
【0118】
従って、サーマルヘッドを用いて、印画画像(80)を形成しようとする場合には、検証具(81)との精密な位置合わせを実施しながら、印画を実施しないと、安定した顕像画像を得ることが困難となる。
【0119】
これに対して、本発明の表示媒体ならびに表示媒体の作成方法では、潜像画像領域(15)に形成される扁平画像(60)を、サーマルヘッド(23)を用いて形成する際に、顕像模様領域(13)との精密な位置合わせを必要とせず、また顕像模様領域(13)を変化させることによって、任意の顕像画像(53)を表現することが可能となり、高いデザイン性と偽造困難性を有する表示媒体を提供することができる。
【実施例】
【0120】
以下に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。
【0121】
また、以下の実施例において、「部」と記載されている内容は、特別の説明が無い限り、質量基準である。
【0122】
(熱転写シートの作成)
まず、下記組成のインキ層用塗布液を調整した。
【0123】
<シアンインキ層用塗布液>
顔料 : フタロシアニンブルー 7部
樹脂 : エポキシ樹脂 20部
染料 : C.I.ソルベントブルー63 2部
無色微粒子: シリカ 4部
溶剤 : メチルエチルケトン 67部
【0124】
上記組成のインキ層用塗布液を、裏面に耐熱滑性層を設けた厚さ4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルムに、乾燥膜厚が0.7μmになるように塗布及び乾燥して、熱転写シートを得た。
【0125】
(実施例1)
(1)中間転写フィルムの作成
まず、中間転写フィルムとして、中間転写フィルム基材表面に、順次、保護層、レリーフ構造形成層、パターン状に形成した金属反射層、受像層を有するものを作成した。
【0126】
中間転写フィルム基材としては、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。
【0127】
保護層としては、下記組成の保護層用塗布液を中間転写フィルム基材の全面にグラビアコーティング法により、形成した。乾燥後の保護層の厚みは、1.5μmである。
【0128】
<保護層用塗布液>
アクリル樹脂 30部
トルエン 40部
メチルエチルケトン 40部
メチルイソブチルケトン 20部
【0129】
レリーフ構造形成層は、以下の組成からなるレリーフ構造形成層用塗布液を、上記保護層の全面にグラビアコーティング法により形成した。乾燥後のレリーフ構造形成層の厚みは、2.0μmとした。
【0130】
尚、レリーフ構造形成層を印刷形成した後、ホログラムの干渉縞や回折格子などの表面凹凸の形態で形成されたニッケル製スタンパを使用して、加熱加圧することにより、レリーフ構造形成層の表面に凹凸構造を形成することができるが、本実験では、凹凸構造形成を省略した。
【0131】
<レリーフ構造形成層用塗布液>
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とウレタン樹脂との混合物 25部
メチルエチルケトン 70部
トルエン 30部
【0132】
金属反射層は、レリーフ構造形成の全面に、アルミニウム(Al)を真空蒸着することによって、膜厚は約400Åで形成し、その後、下記組成のマスク層用塗布液を用いて、グラビア印刷法により、線幅230μm、スペース幅100μmとなる万線模様のマスク層を印刷形成し、アルカリエッチング溶液に浸して、マスク層が形成されていない領域のアルミニウムを除去して、顕像模様領域を形成した。
【0133】
<マスク層用塗布液>
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 25部
メチルエチルケトン 70部
トルエン 30部
【0134】
受像層は、下記組成の受像層用塗布液を、パターン状に形成された金属反射層からなる顕像模様領域を有するレリーフ構造形成層の全面にグラビアコーティング法により、形成した。乾燥後の受像層の厚みは、2.0μmである。
【0135】
<受像層用塗布液>
ポリエステル樹脂 40部
塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体 5部
メチルエチルケトン 40部
トルエン 40部
【0136】
(2)潜像模様領域の形成
上述のようにして得られた中間転写フィルムの受像層表面の顕像模様領域と重なる領域に対して、解像度が600dpiのサーマルヘッドにより、先に作成した熱転写シートを用いて、高さ(D1)が360μmとなる扁平画像からなる潜像領域と、高さ(D1)が400μmとなる扁平画像からなる潜像領域と、高さ(D1)が440μmとなる扁平画像からなる潜像領域と、をそれぞれ形成した。
【0137】
(3)表示媒体の作成
次に、紙を支持体として、この表面に、ウレタン樹脂エマルジョンからなるプライマ層を塗布した後、扁平画像を形成した中間転写フィルムを重ね、熱ローラにて加熱加圧し、
中間転写フィルムの中間転写フィルム基材を剥離して、表示媒体サンプル1を得た。
【0138】
(実施例2)
金属反射層表面に形成するマスク層を、線幅250μm、スペース幅80μmの万線模様とした以外は、実施例1と同様にして、表示媒体サンプル2を得た。
【0139】
(実施例3)
金属反射層表面に形成するマスク層を、線幅260μm、スペース幅100μmの万線模様とした以外は、実施例1と同様にして、表示媒体サンプル3を得た。
【0140】
(表示媒体の評価)
実施例1から実施例3によって得られた各表示媒体サンプル1~3について、顕像模様領域を介して、潜像画像領域の観察を実施し、観察された顕像画像の高さ(D2)を測定した。各評価結果を表1に示した。
【0141】
【0142】
実施例1と実施例2の比較より、万線模様のピッチが同等の場合には、顕像画像の高さ(D2)も同等となるが、スペース幅が狭い方が、鮮明な画像を得やすいことが判った。
【0143】
また、実施例1と実施例3の比較により、万線模様のピッチ、すなわち線幅とスペース幅を制御することにより、顕像画像の高さ(D2)を変化させることが可能であることが判った。
【0144】
以上の結果より、本発明の表示媒体ならびに表示媒体の作成方法を用いることにより、従来にない、デザイン性に優れ、かつ高い偽造防止性を有する表示媒体を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0145】
10 … 表示媒体
11、32 … 保護層
12、33 … レリーフ構造形成層
13 … 顕像模様領域
14、36 … 受像層
15 … 潜像画像領域
16 … 可視画像領域
17 … 画像形成部
18 … 支持体
20 … 印画装置
21 … 中間転写フィルム搬送部
21a… 中間転写フィルム巻出部
21b… 中間転写フィルム巻取部
22 … 熱転写シート搬送部
22a… 熱転写シート巻出部
22b… 熱転写シート巻取部
23 … サーマルヘッド
24 … プラテンローラ
25 … 熱ローラ
30 … 中間転写フィルム
31 … 中間転写フィルム基材
34 … 金属反射層
35 … 透過性反射層
40 … 熱転写シート
41 … 熱転写シート基材
42 … インキ層
51 … 個人認証画像領域
52 … 顔写真情報
53 … 顕像画像
54 … 文字情報領域
60 … 扁平画像
61、a、b、c … 分割領域
70 … 波状万線
80 … 印画画像
81 … 検証具
Am … 振幅
d … ピッチ幅
D1 … 扁平画像の高さ
D2 … 顕像画像の高さ
Y … イエローインキ層
M … マゼンタインキ層
C … シアンインキ層
Bk … ブラックインキ層
Ip … ポジ型顕像画像
In … ネガ型顕像画像
NG … 判別不能な顕像画像