(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】固形石鹸組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/92 20060101AFI20230808BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20230808BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20230808BHJP
A61K 8/365 20060101ALI20230808BHJP
A61K 8/31 20060101ALI20230808BHJP
A61Q 1/14 20060101ALI20230808BHJP
A61K 8/46 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
A61K8/92
A61Q19/10
A61K8/36
A61K8/365
A61K8/31
A61Q1/14
A61K8/46
(21)【出願番号】P 2018224111
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-06-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100158724
【氏名又は名称】竹井 増美
(72)【発明者】
【氏名】脇田 知寛
(72)【発明者】
【氏名】松藤 孝志
(72)【発明者】
【氏名】村上 大
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-531160(JP,A)
【文献】特開2014-189530(JP,A)
【文献】特開2005-171219(JP,A)
【文献】特開2015-081236(JP,A)
【文献】特開2009-144069(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0082239(US,A1)
【文献】特開2001-226697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す(a)成分を65質量%~95質量%、(b)成分を0.5質量%~5質量%、(c)成分を0.1質量%~5質量%、(d)成分を0.05質量%~3質量%
、(e)成分を0.05質量%~2質量%含有する、固形石鹸組成物
であって、(a)成分が脂肪酸カリウム塩および脂肪酸ナトリウム塩の混合物であり、(a)成分を形成する全脂肪酸のうち、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸の総含有量が98質量%~100質量%である、固形石鹸組成物。
(a)成分:脂肪酸アルカリ金属塩
(b)成分:クエン酸ナトリウム
(c)成分:
オリーブ油
(d)成分:スクワラン
(e)成分:N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-メチルタウリンナトリウム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の洗浄に適する固形石鹸組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
固形石鹸は、従来から皮膚の洗浄剤として広く使用されてきた。近年の固形石鹸には、泡立てやすさに加え、すすぎ後のつっぱり感が少ないことや、タオルドライ後の保湿感が十分に持続することも求められるようになってきており、水溶性保湿剤等を配合した固形石鹸が種々開発されてきた。
例えば、特許文献1には、特定の脂肪酸アルカリ金属塩、特定の脂肪酸、多価アルコール、特定のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルおよび水を、特定の比率で組み合わせて配合することで、速泡性、泡量、泡の弾力性、泡の持続性に加えて、すすぎ後の持続的なうるおい感に優れる固形石鹸を得たことが開示されている。
【0003】
一方、近年ではスキンケアを簡便に済ませたいというニーズが高まってきており、上記のような使用感だけでなく、固形石鹸でメイクアップ化粧料の除去と通常の洗顔を一度に行えることが求められている。
クレンジング力を高めるために、例えば、ポリオキシアルキレン変性ポリシロキサンと特定のアミン化合物を配合した固形石鹸や、α-ヒドロキシ酸および/またはその塩と高融点マイクロクリスタリンワックス、あるいはα-ヒドロキシ酸および/またはその塩とトリ脂肪酸ポリオキシエチレングリセリンを配合した固形石鹸が開示されている(特許文献2、3)が、よりクレンジング力を高めるためには、石鹸濃度が高い状態で顔に塗布し、顔面上で泡立てながら使用するのが好ましい。
しかし、特許文献2、3に開示されている固形石鹸には、皮膚上で泡立てにくく、また泡に厚みがなく伸ばしにくいという課題があった。
【0004】
特許文献4には、炭素数12~24の脂肪酸塩、炭素数12~24の脂肪酸、脂肪酸塩以外の界面活性剤、および水溶性高分子を含有し、顔面上で泡がつぶれにくく、泡によるマッサージ性に優れる固形石鹸が開示されている。
しかし、特許文献4に記載された固形石鹸は、石鹸濃度が高い状態での泡立てやすさが満足できるものではなく、クレンジング力が不十分である場合があった。
【0005】
それゆえ、石鹸濃度が高い状態でも顔面上で泡立てやすく、泡に厚みがあり、クレンジング力に優れ、かつすすぎ後のつっぱり感が無く、タオルドライ後の保湿感が持続する固形石鹸の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-124253号公報
【文献】特開2005-281596号公報
【文献】特開2001-226698号公報
【文献】特開2016-113489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、上記の課題に鑑み、石鹸濃度が高い状態でも顔面上で泡立てやすく、泡に厚みがあり、クレンジング力に優れ、かつすすぎ後のつっぱり感が無く、タオルドライ後の保湿感の持続性にも優れる固形石鹸組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、脂肪酸アルカリ金属塩、クエン酸ナトリウム、25℃で液状の植物油、および25℃で液状の炭化水素油をそれぞれ特定の含有量にて含有する固形石鹸組成物が、石鹸濃度が高い状態でも顔面上で泡立てやすく、泡の厚み、クレンジング力、すすぎ後のつっぱり感の無さ、タオルドライ後の保湿感の持続性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下に関する。
[1]下記に示す(a)成分を65質量%~95質量%、(b)成分を0.5質量%~5質量%、(c)成分を0.1質量%~5質量%、(d)成分を0.05質量%~3質量%含有する、固形石鹸組成物。
(a)成分:脂肪酸アルカリ金属塩
(b)成分:クエン酸ナトリウム
(c)成分:25℃で液状の植物油
(d)成分:25℃で液状の炭化水素油
[2](a)成分が、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸を少なくとも含有する脂肪酸のアルカリ金属塩である、[1]に記載の固形石鹸組成物。
[3](a)成分が、脂肪酸カリウム塩および脂肪酸ナトリウム塩の混合物である、[1]または[2]に記載の固形石鹸組成物。
[4]下記式(1)で表される(e)成分:アシルメチルタウリン型陰イオン性界面活性剤を0.05質量%~2質量%含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の固形石鹸組成物。
【0009】
【0010】
[式(1)中、R2COは炭素数6~20のアシル基を示し、M1はアルカリ金属、1/2アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミンまたは塩基性アミノ酸を示す。]
【発明の効果】
【0011】
本発明の固形石鹸組成物は、石鹸濃度が高い状態でも顔面上で泡立てやすく、泡に厚みがあるとともに、クレンジング力に優れ、かつ、すすぎ後のつっぱり感が無く、タオルドライ後の保湿感の持続性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の固形石鹸組成物(以下、本明細書において「本発明の組成物」とも称する)は、(a)成分:脂肪酸アルカリ金属塩、(b)成分:クエン酸ナトリウム、(c)成分:25℃で液状の植物油、(d)成分:25℃で液状の炭化水素油を含有する。
以下に、各成分について説明する。
【0013】
[(a)成分]
本発明の組成物に(a)成分として含有される脂肪酸アルカリ金属塩を形成する脂肪酸としては、炭素数8~22程度の脂肪酸が挙げられ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等の直鎖または分岐の飽和脂肪酸;パルミトレイン酸、オレイン酸等の不飽和脂肪酸;ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシ脂肪酸等が挙げられ、ヤシ油、パーム核油、パーム油等から誘導される混合脂肪酸であってもよい。
【0014】
本発明においては、(a)成分を形成する脂肪酸としては、飽和脂肪酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸を含有する脂肪酸がより好ましい。さらに好ましくは、(a)成分を形成する全脂肪酸のうち、ラウリン酸の含有量は15質量%~35質量%、より一層好ましくは20質量%~30質量%、ミリスチン酸の含有量は55質量%~75質量%、より一層好ましくは60質量%~70質量%、パルミチン酸の含有量は5質量%~20質量%、より一層好ましくは5質量%~15質量%である。
(a)成分を形成する全脂肪酸に対するラウリン酸の含有量が15質量%よりも少ないと、顔面上での泡立てやすさが低下するおそれがあり、35質量%よりも多いと泡の厚みが損なわれるおそれがある。(a)成分を形成する全脂肪酸に対するミリスチン酸の含有量が55質量%よりも少ないと、顔面上での泡立てやすさおよび泡の厚みが低下するおそれがあり、75質量%よりも多いと固形石鹸の溶解性が低下し、泡立てやすさが低下するおそれがある。(a)成分を形成する全脂肪酸に対するパルミチン酸の含有量が5質量%よりも少ないと、固形石鹸組成物の溶け崩れが生じやすくなり、20質量%よりも多いと顔面上での泡立てやすさが低下し、すすぎ後のつっぱり感が強くなるおそれがある。
また、(a)成分を形成する全脂肪酸のうち、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸の総含有量は、好ましくは95質量%~100質量%であり、より好ましくは98質量%~100質量%である。
(a)成分を形成する全脂肪酸に対するラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸の総含有量が95質量%よりも少ないと、顔面上での泡立てやすさおよび固形石鹸組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0015】
上記したように、(a)成分を形成する脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸以外の他の脂肪酸を含有し得るが、(a)成分を形成する全脂肪酸に対する他の脂肪酸の含有量は、5質量%以下であることが好ましく、特には2質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
なお、本発明においては、(a)成分を形成する脂肪酸として、不飽和脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。
すなわち、本発明において、(a)成分を形成する全脂肪酸に対する不飽和脂肪酸の含有量は1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。
【0017】
上記した脂肪酸と塩を形成するアルカリ金属としては、カリウムおよびナトリウムが好ましい。
本発明の組成物に(a)成分として含有される脂肪酸のアルカリ金属塩としては、カリウム塩とナトリウム塩の混合物がより好ましく、該混合物におけるカリウムとナトリウムの含有質量比(カリウム/ナトリウム)が1/4~3/2であることがさらに好ましく、1/2~1であることがより一層好ましい。
【0018】
脂肪酸のアルカリ金属塩は、該アルカリ金属を成分とするアルカリ剤を用いた油脂鹸化法および脂肪酸中和法、メタノールとのエステル交換反応により脂肪酸メチルエステルに変換した後に鹸化するエステル鹸化法等、公知の製造方法によって製造することができる。
該アルカリ金属を成分とするアルカリ剤としては、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の水酸化物、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸化物等が挙げられる。
本発明の組成物に(a)成分として含有される脂肪酸のアルカリ金属塩としては、カリウム含有石鹸素地等として、各社より提供されている市販の製品を用いることもできる。
【0019】
本発明の組成物には、(a)成分である脂肪酸のアルカリ金属塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
本発明の組成物中における(a)成分の含有量は、65質量%~95質量%であり、好ましくは70質量%~90質量%であり、より好ましくは75質量%~85質量%である。
(a)成分の含有量が65質量%未満であると、顔面上での泡立てやすさ、泡の厚みおよびクレンジング力が低下するおそれがあり、95質量%を超えると、固形石鹸組成物の成形性が低下するおそれがある。
【0020】
[(b)成分]
本発明の組成物に(b)成分として含有されるクエン酸ナトリウムは、一ナトリウム塩、二ナトリウム塩、三ナトリウム塩のいずれも用いることができ、これらの水和物であってもよい。本発明の目的には、二ナトリウム塩および三ナトリウム塩が好ましく、三ナトリウム塩がより好ましい。
クエン酸ナトリウムとしては、各社より提供されている市販の製品を利用することができる。
本発明の組成物には、(b)成分であるクエン酸ナトリウムは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0021】
本発明の組成物中における(b)成分の含有量は、クエン酸のナトリウム塩の総含有量(無水物に換算した量)として、0.5質量%~5質量%であり、好ましくは1質量%~3.5質量%であり、より好ましくは1.5質量%~2.5質量%である。
(b)成分の含有量が0.5質量%未満であると、顔面上での泡立てやすさが低下し、すすぎ後のつっぱり感が増すおそれがあり、5質量%を超えると、泡の厚みが低下するおそれがある。
【0022】
[(c)成分]
本発明の組成物に(c)成分として含有される25℃で液状の植物油は、25℃よりも低い融点を有し、25℃で液体であるか、または流動性を示す油性物質であって、植物から抽出し精製される油(トリグリセリド)またはロウ(高級脂肪酸と一価または二価の高級アルコールとのエステル)である。
具体的には、オリーブ油、ヒマワリ油、ツバキ油、ローズヒップ油、マカデミアナッツ油、アルガン油、トウモロコシ油、サフラワー油、ゴマ油、綿実油、ヒマシ油、米ぬか油、大豆油、ナタネ油、ホホバ油等が挙げられる。中でもオリーブ油およびツバキ油が好ましい。
本発明の組成物に(c)成分として含有される25℃で液状の植物油は、それぞれ植物から圧搾、抽出等により採取し、精製して用いてもよいが、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
本発明の組成物には、(c)成分である25℃で液状の植物油は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0023】
本発明の組成物中における(c)成分の含有量は、0.1質量%~5質量%であり、好ましくは0.3質量%~3質量%であり、より好ましくは0.8質量%~1.5質量%である。
(c)成分の含有量が0.1質量%未満であると、泡の厚み、クレンジング力および保湿感の持続性が低下し、すすぎ後のつっぱり感が増すおそれがあり、5質量%を超えると、顔面上での泡立てやすさおよび泡の厚みが低下するおそれがある。
【0024】
[(d)成分]
本発明の組成物に(d)成分として含有される25℃で液状の炭化水素油は、炭化水素を主成分として含有し、25℃よりも低い融点を有し、25℃で液体であるか、または流動性を示す油性物質である。
具体的には、ミネラルオイル、ポリブテン、水添ポリイソブテン、水添ポリデセン、スクワラン、スクワレン、テトラデセン、イソヘキサデカン、イソドデカン等が挙げられる。中でもスクワランおよび水添ポリイソブテンが好ましい。
本発明の組成物に(d)成分として含有される25℃で液状の炭化水素油は、石油、石炭、天然ガス等から分離、精製等し、または自体公知の方法により化学的に合成して製造して用いることができるが、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
本発明の組成物には、(d)成分である25℃で液状の炭化水素油は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0025】
本発明の組成物中における(d)成分の含有量は、0.05質量%~3質量%であり、好ましくは0.2質量%~1.5質量%であり、より好ましくは0.3質量%~0.8質量%である。
(d)成分の含有量が0.05質量%未満であると、泡の厚み、クレンジング力および保湿感の持続性が低下し、すすぎ後のつっぱり感が増すおそれがあり、3質量%を超えると、顔面上での泡立てやすさおよび泡の厚みが低下するおそれがある。
【0026】
さらに本発明の組成物は、顔面上での泡立てやすさを向上させる目的で、下記式(1)で表されるアシルメチルタウリン型陰イオン性界面活性剤を、(e)成分として含有することができる。
【0027】
【0028】
[式(1)中、R2COは炭素数6~20のアシル基を示し、M1はアルカリ金属、1/2アルカリ土類金属、アンモニウム、有機アミンまたは塩基性アミノ酸を示す。]
【0029】
[(e)成分]
式(1)中、R2COで示されるアシル基は、炭素数6~20のアシル基であり、飽和のアシル基であっても、不飽和のアシル基であってもよく、鎖状のアシル基である場合は、直鎖、分岐鎖のいずれであってもよい。
顔面上での泡立てやすさの観点からは、R2COで示されるアシル基は炭素数8~20のアシル基であることが好ましく、炭素数12~18のアシル基であることがより好ましい。
本発明において、R2COで示されるアシル基は、好ましくは炭素数6~20の直鎖または分岐の脂肪酸に由来するアシル基であり、具体的には、カプロイル、カプリロイル、カプリノイル、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイル、イソステアロイル、アラキジノイル等の飽和脂肪酸に由来するアシル基、ウンデセノイル、パルミトレイノイル、オレオイル、エライジノイル、リノレオイル、リノレノイル等の不飽和脂肪酸に由来するアシル基が挙げられる。また、混合脂肪酸に由来するアシル基であってもよく、かかるアシル基の具体例としては、ヤシ油脂肪酸アシル、パーム油脂肪酸アシル、パーム核油脂肪酸アシル、牛脂脂肪酸アシル等が挙げられる。
中でもより好ましくはカプリノイル、ラウロイル、ヤシ油脂肪酸アシルであり、さらに好ましくはヤシ油脂肪酸アシルである。
【0030】
また、式(1)中、M1で示されるアルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられ、1/2アルカリ土類金属としては、1/2マグネシウムおよび1/2カルシウム等が挙げられ、アンモニウムとしては、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン(ジメチルアミニウムイオン等)等が挙げられ、有機アミンとしてはトリエタノールアミン等が挙げられ、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。好ましくはカリウムおよびナトリウムであり、さらに好ましくはナトリウムである。
【0031】
従って、本発明の組成物に(e)成分として含有され得るアシルメチルタウリン型陰イオン性界面活性剤としては、N-カプリノイル-N-メチルタウリンカリウム、N-カプリノイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ラウロイル-N-メチルタウリンカリウム、N-ラウロイル-N-メチルタウリンナトリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-メチルタウリンカリウム、N-ヤシ油脂肪酸アシル-N-メチルタウリンナトリウム等が好ましく用いられる。
【0032】
本発明の組成物に(e)成分として含有されるアシルメチルタウリン型陰イオン性界面活性剤は、自体公知の方法により化学的に合成し、精製等して製造して用いることができるが、各社より提供されている市販の製品を用いることができる。
本発明の組成物には、(e)成分であるアシルメチルタウリン型陰イオン性界面活性剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。
【0033】
本発明の組成物中における(e)成分の含有量は、好ましくは0.05質量%~2質量%であり、より好ましくは0.5質量%~1.5質量%である。
(e)成分の含有量が上記の範囲内であれば、顔面上での泡立てやすさを好適に向上させることができる。
【0034】
本発明の組成物は、通常水を含有する。水としては、化粧品や医薬品等の製造に一般に使用される水、例えば、イオン交換水、蒸留水などの精製水が好適に使用される。
本発明の組成物中における水の含有量は、好ましくは5質量%~15質量%であり、より好ましくは8質量%~12質量%である。なお、ここでいう水には、石鹸素地等に含有される水も含まれる。
【0035】
本発明の組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、上記(a)成分~(e)成分以外に、洗浄剤組成物に通常使用される添加剤を含有させることも可能である。
かかる添加剤としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸;セチルアルコール、ステアリルアルコール、セトステアリルアルコール等の脂肪族アルコール;環状シリコーン、ジメチルポリシロキサン、アミノ変性ポリシロキサン等のシリコーン油;パルミチン酸2-エチルヘキシル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ミリスチン酸イソプロピルなどのエステル油;エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;グリセリン、ジグリセリン、プロパンジオール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルカノールアミド等の非イオン性界面活性剤;脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、脂肪酸アミドプロピルヒドロキシスルホベタイン、ヒドロキシアルキルヒドロキシエチルサルコシン等の両性界面活性剤;アルキルエーテル硫酸エステル塩、アミドエーテル硫酸エステル塩等の(a)成分および(e)成分以外の陰イオン性界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー等の水溶性高分子;アミノ酸(DL-アラニン、アスパラギン酸ナトリウム、セリン、プロリン等)、ペプチドおよびタンパク質(加水分解シルク、加水分解エラスチン、加水分解コラーゲン、ホエイ等)、糖(グルコース、スクロース、トレハロース等)、ムコ多糖(ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸等)等の保湿剤;コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のpH調整剤;イソプロピルメチルフェノール、グリセリンモノ2-エチルヘキシルエーテル、ヒノキチオール等の殺菌剤;エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム等のキレート剤;アスコルビン酸、トコフェロール等の抗酸化剤;パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール等の防腐剤;パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、オキシベンゾン、サリチル酸ホモメンチル等の紫外線吸収剤;アシタバ抽出物、ブドウ葉抽出物、タチジャコウソウ抽出物等の動植物由来の天然エキス;ベニバナ色素、β-カロテン等の色素;酸化亜鉛、酸化チタン等の顔料;メントール、ダマスクバラ花油、ラベンダーエキス等の香料等が挙げられる。
上記添加剤は、目的に応じて、1種または2種以上を含有させることができる。
【0036】
本発明の組成物は、洗顔石鹸、浴用石鹸等、顔面および身体の洗浄に用いられる化粧石鹸として、好適に提供され得る。
特に、本発明の組成物に殺菌剤を含有させて、薬用石鹸、デオドラント石鹸とすることができ、多価アルコール、スクロース、エタノール等を透明化剤として含有させて、透明性の高い石鹸とすることができる。
また、本発明の組成物は、クレンジング力にも優れることから、メイクアップ化粧料の除去と通常の洗顔を同時に行うための石鹸として、好適に提供され得る。
【0037】
本発明の組成物は、通常の固形石鹸の製造方法に準じて製造することができる。
たとえば、(a)成分を形成する脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂を、アルカリ金属の水酸化物等のアルカリ剤により鹸化する、または、(a)成分を形成する脂肪酸に、(a)成分を形成するアルカリ金属の水酸化物等のアルカリ剤の水溶液を添加し、加熱下に撹拌混合して中和する、あるいは、(a)成分を形成する脂肪酸を構成脂肪酸として含む油脂とメタノールを反応させて脂肪酸メチルエステルとし、次いでアルカリ金属の水酸化物等のアルカリ剤により鹸化して、(a)成分である脂肪酸アルカリ金属塩を形成させた後、必要な添加剤を加えて乾燥し、石鹸素地を調製する。前記石鹸素地に、(b)~(d)成分、さらに必要に応じて(e)成分および他の添加剤を加えてロールミル等で混練した後、プロッダーで棒状に押し出し、型打ち機で成形し、固形石鹸とすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
【0039】
[実施例1~7、比較例1~4]固形石鹸
表1に示す各成分((a)~(e)成分、(b’)、(c’)、(d’)成分、他の添加剤)を用いて、下記製造方法により固形石鹸を調製した。
なお、表1中、各成分についての数値は、固形石鹸組成物中の含有量(質量%)を示す。
また、表1中の(b)~(e)成分、(b’)、(c’)、(d’)成分および他の添加剤、ならびに、下記製造方法にて、石鹸素地の調製に用いられる各成分としては、化粧品製造用として市販されている原料を用い、水としては、精製水を用いた。
【0040】
<製造方法>
5L容の双腕式混錬機(株式会社入江商会製、PNV-5型)に、ラウリン酸225g、ミリスチン酸450g、パルミチン酸75gを量り取り、約80℃に加熱し、28質量%のアルカリ水溶液(水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムを、カリウム/ナトリウム(質量比)=2/3となるように含有)を545g添加して、約80℃で約5分間攪拌混合した後、ラウリン酸10gおよびグリセリン5gを添加して、加熱下に攪拌し、水分が10質量%程度になるまで乾燥し、石鹸素地を調製した。
上記で調製した石鹸素地に、表1に示す(b)~(e)成分、(b’)、(c’)、(d’)成分、その他の成分を所定量添加して、口金に蜂の巣状の金具を付けたプロッダー(日本化工機株式会社製、「ミニソーププロッダー」)とロールミル(アイメックス株式会社製、「BR-150型ベンチロール」)で3回混練した後、プロッダーで棒状に押し出し、これを型打ち機(タマリ機工株式会社製、「P-3 TON」)で成形して固形石鹸を得た。
【0041】
得られた実施例1~7および比較例1~4の各固形石鹸について、(1)顔面上での泡立てやすさ、(2)泡の厚み、(3)クレンジング力、(4)すすぎ後のつっぱり感、(5)保湿感の持続性について、下記の通り評価した。
【0042】
(1)顔面上での泡立てやすさ
メイクアップをした20名の女性(20才代~40才代)をパネラーとして、両手および試料の各固形石鹸(実施例および比較例の各固形石鹸)を濡らさせてから、固形石鹸を手で10回こすらせ軽く泡立たせた後、その泡を顔に塗布させた際の泡立てやすさについて官能評価させ、下記の基準で点数化させた。
<点数化の基準>
2点:非常に泡立てやすいと感じた場合
1点:やや泡立てやすいと感じた場合
0点:泡立てにくいと感じた場合
20名の評価点の合計を求め、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:合計点が35点~40点である場合
○:合計点が25点~34点である場合
△:合計点が15点~24点である場合
×:合計点が14点以下である場合
【0043】
(2)泡の厚み
メイクアップをした20名の女性(20才代~40才代)をパネラーとして、試料の各固形石鹸を、上記(1)に記載した方法に従って泡立たせた際の泡の厚みについて官能評価させ、下記の基準で点数化させた。
<点数化の基準>
2点:泡に十分な厚みがあり、顔面上で伸ばしやすいと感じた場合
1点:泡にやや厚みがあり、顔面上で比較的伸ばしやすいと感じた場合
0点:泡に厚みがなく、顔面上で伸ばしにくいと感じた場合
20名の評価点の合計を求め、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:合計点が35点~40点である場合
○:合計点が25点~34点である場合
△:合計点が15点~24点である場合
×:合計点が14点以下である場合
【0044】
(3)クレンジング力
メイクアップをした20名の女性(20才代~40才代)をパネラーとして、試料の各固形石鹸を上記(1)に記載した方法に従って泡立たせて使用させ、その際のメイクアップ化粧料の落ちやすさについて官能評価させ、下記の基準で点数化させた。
<点数化の基準>
2点:十分にメイクアップ化粧料の汚れが落ちたと感じた場合
1点:ある程度メイクアップ化粧料の汚れが落ちたと感じた場合
0点:メイクアップ化粧料の汚れ落ちが悪いと感じた場合
20名の評価点の合計を求め、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:合計点が35点~40点である場合
○:合計点が25点~34点である場合
△:合計点が15点~24点である場合
×:合計点が14点以下である場合
【0045】
(4)すすぎ後のつっぱり感
メイクアップをした20名の女性(20才代~40才代)をパネラーとして、試料の各固形石鹸を上記(1)に記載した方法に従って泡立たせて使用させ、流水ですすがせた直後のつっぱり感について官能評価させ、下記の基準で点数化させた。
<点数化の基準>
2点:全くつっぱり感を感じなかった場合
1点:わずかにつっぱり感を感じた場合
0点:強いつっぱり感を感じた場合
20名の評価点の合計を求め、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:合計点が35点~40点である場合
○:合計点が25点~34点である場合
△:合計点が15点~24点である場合
×:合計点が14点以下である場合
【0046】
(5)保湿感の持続性
メイクアップをした20名の女性(20才代~40才代)をパネラーとして、試料の各固形石鹸を上記(1)に記載した方法に従って泡立たせて使用させた後流水ですすがせ、タオルで水気を拭き取らせてから2時間後の皮膚の保湿感について官能評価させ、下記の基準で点数化させた。
<点数化の基準>
2点:非常に皮膚が潤っていると感じた場合
1点:わずかに皮膚が潤っていると感じた場合
0点:皮膚が潤っていると感じなかった場合
20名の評価点の合計を求め、下記評価基準により評価した。
<評価基準>
◎:合計点が35点~40点である場合
○:合計点が25点~34点である場合
△:合計点が15点~24点である場合
×:合計点が14点以下である場合
【0047】
上記(1)~(5)の評価結果は、各評価項目について、パネラーの評価点の合計とともに表1に併せて示した。
【0048】
【0049】
表1に示されるように、本発明の実施例1~7の固形石鹸では、顔面上での泡立てやすさ、泡の厚み、クレンジング力、すすぎ後のつっぱり感、保湿感の持続性のいずれについても、良好である(○)または非常に良好である(◎)と評価された。
一方、比較例1~4の固形石鹸では、評価した項目のすべてにおいて、良好である(○)または非常に良好である(◎)との評価は得られなかった。
(b)成分の代わりに塩化ナトリウム((b’)成分)を含有する比較例1の固形石鹸では、顔面上での泡立てやすさ、クレンジング力およびすすぎ後のつっぱり感に関して不十分であると評価された。
(c)成分を過剰に含有する比較例2の固形石鹸では、顔面上での泡立てやすさおよび泡の厚みに関して不十分であると評価された。
(c)成分および(d)成分を含有していない比較例3の固形石鹸では、泡の厚み、クレンジング力、すすぎ後のつっぱり感および保湿感の持続性に関して不十分であると評価された。
(c)成分の代わりに25℃で固体状のパーム油((c’)成分)、(d)成分の代わりに25℃で固体状のワセリン((d’)成分)を含有する比較例4の固形石鹸では、顔面上での泡立てやすさ、泡の厚みおよびクレンジング力に関して不十分であると評価された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明により、石鹸濃度が高い状態においても顔面上で泡立てやすく、泡に厚みがあるとともに、クレンジング力に優れ、すすぎ後のつっぱり感が無く、タオルドライ後の保湿感の持続性にも優れる固形石鹸組成物を提供することができる。