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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-07
(45)【発行日】2023-08-16
(54)【発明の名称】多孔質ポリイミド膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20230808BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230808BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230808BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J5/18 CFG
C08G73/10
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019046994
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020147685
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(72)【発明者】
【氏名】大矢 修生
(72)【発明者】
【氏名】番場 啓太
(72)【発明者】
【氏名】松尾 信
(72)【発明者】
【氏名】横山 大
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021356(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/125988(WO,A1)
【文献】特開2013-138416(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146733(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08J 5/18
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層(a)、表面層(b)、及び前記表面層(a)と前記表面層(b)との間に挟まれたマクロボイド層、を有する多孔質ポリイミド膜であって、
前記マクロボイド層は、前記表面層(a)及び(b)に結合した隔壁と、前記隔壁並びに前記表面層(a)及び(b)に囲まれた、膜平面方向の個数平均孔径が10μm~500μmである複数のマクロボイドとを有し、
前記マクロボイド層の前記隔壁の厚みが、0.1μm~50μmであり、
前記表面層(a)及び(b)の各々の厚みが、0.1μm~50μmであり、
前記表面層(a)及び(b)がそれぞれ、面積平均開口径20μm以上の複数の細孔を有し、
前記表面層(a)及び(b)の前記細孔が前記マクロボイドに連通しており、
前記表面層(a)の面積平均開口径Aと前記表面層(b)の面積平均開口径Bとが、下記の関係:
0.80≦A/B≦1.25
を満たし、
前記表面層(a)の表面開口率が5%以上であり、かつ前記表面層(b)の表面開口率が10%以上である、多孔質ポリイミド膜。
【請求項2】
前記表面層(a)の個数平均開口径が20μm以上200μm以下であり、
前記表面層(b)の個数平均開口径が30μm以上200μm以下である、
請求項1に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項3】
総膜厚が5μm~500μmであり、かつ空孔率が50%~95%である、請求項1又は2に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項4】
ガーレー値が1秒以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項5】
パームポロメーターで測定したときの平均流量孔径が5~200μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項6】
前記マクロボイド層の隔壁の厚みが1μm~15μmであり、並びに前記表面層(a)及び(b)の厚みがそれぞれ0.5μm~10μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項7】
前記多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断したときの断面において、膜平面方向の個数平均孔径が10μm~500μmのマクロボイドの断面積が膜断面積の50%以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項8】
前記多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断したときの断面において、前記マクロボイドの総数の60%以上が、膜平面方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比(L/d)0.5~3を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項9】
ガラス転移温度が200℃以上であるか、又は明確なガラス転移温度が観察されない、請求項1~8のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項10】
全光線透過率が25%以上99%以下で、かつヘイズが60%以上95%以下である、請求項1~9のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、
ポリアミック酸と有機溶媒とを含むポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水と良溶媒とを必須に含む凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製する工程、及び
前記工程で得られたポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化する工程、
を含み、
前記良溶媒は、30℃における前記ポリアミック酸の溶解度が水よりも高い溶媒であり、
前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%以上である、多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項12】
前記良溶媒のSP値が、10(cal/cm0.5以上13.5(cal/cm0.5以下である、請求項11に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項13】
前記良溶媒が、20℃の前記良溶媒100gに対して前記ポリアミック酸が10g以上溶解する溶媒である、請求項11又は12に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項14】
前記良溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、請求項11~13のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項15】
前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%~20質量%であり、前記凝固溶媒中の貧溶媒及び非溶媒の合計比率が80質量%~85質量%である、請求項11~14のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項16】
前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%~20質量%であり、前記凝固溶媒中の水の比率が80質量%~85質量%である、請求項15に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項17】
前記ポリアミック酸溶液が、極限粘度1.0~3.0のポリアミック酸3~60質量%と、有機溶媒40~97質量%とからなり、
前記有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、請求項11~16のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項18】
前記ポリアミック酸が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンとから得られる、請求項11~17のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理が、前記ポリアミック酸の多孔質膜を250℃以上まで昇温させることを含む、請求項11~18のいずれか一項に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【請求項20】
前記熱処理を、200℃以上の温度域での昇温速度230℃/分以上にて行う、請求項19に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質ポリイミド膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質ポリイミド膜は、物質分離膜(例えば液体濾過膜、気体分離膜等)、絶縁材料、細胞培養用シート等の用途において用いられている。特許文献1は、2つの表面層と、当該表面層の間に挟まれたマクロボイド層とを有する三層構造の多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、(1)極限粘度数が1.0~3.0であるポリアミック酸3~60質量%と有機極性溶媒40~97質量%とからなるポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水を必須成分とする凝固溶液に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製する工程、及び(2)前記工程で得られたポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化する工程、を含む方法を記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/021356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載される技術では、表面層が閉塞しやすく、多孔質ポリイミド膜の膜厚方向に連通する孔を設けることが困難であるという問題があった。
本発明の課題は、マクロボイドを有し、かつ両表面が良好に開口している多孔質ポリイミド膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 表面層(a)、表面層(b)、及び前記表面層(a)と前記表面層(b)との間に挟まれたマクロボイド層、を有する多孔質ポリイミド膜であって、
前記マクロボイド層は、前記表面層(a)及び(b)に結合した隔壁と、前記隔壁並びに前記表面層(a)及び(b)に囲まれた、膜平面方向の個数平均孔径が10μm~500μmである複数のマクロボイドとを有し、
前記マクロボイド層の前記隔壁の厚みが、0.1μm~50μmであり、
前記表面層(a)及び(b)の各々の厚みが、0.1μm~50μmであり、
前記表面層(a)及び(b)がそれぞれ、面積平均開口径20μm以上の複数の細孔を有し、
前記表面層(a)及び(b)の前記細孔が前記マクロボイドに連通しており、
前記表面層(a)の面積平均開口径Aと前記表面層(b)の面積平均開口径Bとが、下記の関係:
0.80≦A/B≦1.25
を満たし、
前記表面層(a)の表面開口率が5%以上であり、かつ前記表面層(b)の表面開口率が10%以上である、多孔質ポリイミド膜。
[2] 前記表面層(a)の個数平均開口径が20μm以上200μm以下であり、
前記表面層(b)の個数平均開口径が30μm以上200μm以下である、
上記態様1に記載の多孔質ポリイミド膜。
[3] 総膜厚が5μm~500μmであり、かつ空孔率が50%~95%である、上記態様1又は2に記載の多孔質ポリイミド膜。
[4] ガーレー値が1秒以下である、上記態様1~3のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[5] パームポロメーターで測定したときの平均流量孔径が5~200μmである、上記態様1~4のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[6] 前記マクロボイド層の隔壁、並びに前記表面層(a)及び(b)の厚みが略同一である、上記態様1~5のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[7] 前記多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断したときの断面において、膜平面方向の個数平均孔径が10μm~500μmのマクロボイドの断面積が膜断面積の50%以上である、上記態様1~6のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[8] 前記多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断したときの断面において、前記マクロボイドの総数の60%以上が、膜平面方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比(L/d)0.5~3を有する、上記態様1~7のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[9] ガラス転移温度が200℃以上であるか、又は明確なガラス転移温度が観察されない、上記態様1~8のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[10] 全光線透過率が25%以上99%以下で、かつヘイズが60%以上95%以下である、上記態様1~9のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜。
[11] 上記態様1~10のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法であって、
ポリアミック酸と有機溶媒とを含むポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水と良溶媒とを必須に含む凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製する工程、及び
前記工程で得られたポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化する工程、
を含み、
前記良溶媒は、30℃における前記ポリアミック酸の溶解度が水よりも高い溶媒であり、
前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%以上である、多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[12] 前記良溶媒のSP値が、10(cal/cm0.5以上13.5(cal/cm0.5以下である、上記態様11に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[13] 前記良溶媒が、20℃の前記良溶媒100gに対して前記ポリアミック酸が10g以上溶解する溶媒である、上記態様11又は12に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[14] 前記良溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、上記態様11~13のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[15] 前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%~20質量%であり、前記凝固溶媒中の貧溶媒及び非溶媒の合計比率が80質量%~85質量%である、上記態様11~14のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[16] 前記凝固溶媒中の前記良溶媒の比率が15質量%~20質量%であり、前記凝固溶媒中の水の比率が80質量%~85質量%である、上記態様15に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[17] 前記ポリアミック酸溶液が、極限粘度1.0~3.0のポリアミック酸3~60質量%と、有機溶媒40~97質量%とからなり、
前記有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である、上記態様11~16のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[18] 前記ポリアミック酸が、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンとから得られる、上記態様11~17のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[19] 前記熱処理が、前記ポリアミック酸の多孔質膜を250℃以上まで昇温させることを含む、上記態様11~18のいずれかに記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
[20] 前記熱処理を、200℃以上の温度域での昇温速度230℃/分以上にて行う、上記態様19に記載の多孔質ポリイミド膜の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、マクロボイドを有し、かつ両表面が良好に開口している多孔質ポリイミド膜及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1(a)は、本発明の多孔質ポリイミド膜の好ましい一実施態様の平面断面図であり、図1(b)は、図1(a)のB-B線断面図である。
図2図2は、本発明の多孔質ポリイミド膜の好ましい一実施態様の拡大側面断面図である。
図3】実施例2で得られた多孔質ポリイミド膜の走査型電子顕微鏡像を示す一例の図であり、(a)は表面層(a)側表面、(b)は表面層(b)側表面、及び(c)は断面(紙面の上側が表面層(a)側、下側が表面層(b)側である。)を示す。
図4】比較例2で得られた多孔質ポリイミド膜の走査型電子顕微鏡像を示す図であり、(a)は表面層(a)側表面、(b)は表面層(b)側表面、及び(c)は断面(紙面の上側が表面層(a)側、下側が表面層(b)側である。)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の例示の態様を説明するが、本発明はこれら態様に限定されない。なお本開示の各特性値は特記がない限り本明細書の[実施例]の項に記載される方法で測定される値である。
【0009】
<多孔質ポリイミド膜>
本発明の一態様は、表面層(a)及び(b)と、当該表面層(a)及び(b)の間に挟まれたマクロボイド層とを有する多孔質ポリイミド膜を提供する。図1(a)及び(b)を参照し、典型的な態様において、多孔質ポリイミド膜1は、表面層(a)2及び表面層(b)4並びにマクロボイド層3の三層構造を有する。マクロボイド層3は、複数のマクロボイド31と、マクロボイド同士31を隔てる隔壁32とを有する。マクロボイド31は、隔壁32並びに表面層(a)2及び表面層(b)4によって囲まれた空間である。
【0010】
図2を参照し、表面層(a)2及び表面層(b)4はそれぞれ複数の細孔(図2中、表面層(a)2の細孔25及び表面層(b)4の細孔45)を有し、当該細孔はマクロボイド31に連通している。これにより、多孔質ポリイミド膜1の外部とマクロボイド31との間での良好な物質移動が可能であり、特に大流量の気体及び液体を大きな圧力損失無しに透過する事が出来るという特徴を発現することが出来る。このように、多孔質ポリイミド膜は、一方の表面から他方の表面に至る連通孔を有するために物質の充填や移動が容易であり、気体等の物質透過性に優れる。
【0011】
表面層(a)2及び表面層(b)4の厚みはそれぞれ、0.1~50μmであり、多孔質ポリイミド膜1の強度の観点から、好ましくは0.5~10μm、より好ましくは1~9μm、更に好ましくは2~8μm、特に好ましくは2~7μmである。多孔質ポリイミド膜を各種平膜材料として使う観点からは、表面層(a)及び(b)の厚みは略同一であることが好ましい。
【0012】
隣接するマクロボイド31同士を隔てる隔壁32の厚みは、0.1~50μmであり、多孔質ポリイミド膜1の強度及び隣接するマクロボイド31同士の連通性の観点から、好ましくは1~15μm、より好ましくは2~12μm、更に好ましくは3~10μm、特に好ましくは4~8μmである。隔壁32と表面層(a)2及び表面層(b)4との厚みは略同一であることが好ましい。
【0013】
多孔質ポリイミド膜1の総膜厚は5~500μmであり、力学強度の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、更に好ましくは25μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下である。
【0014】
本発明の一態様に係る多孔質ポリイミド膜は、(1)両表面が良好に開口しており、かつ膜の空孔率が大きいために、良好な物質透過性を有し、(2)一方の表面から他方の表面に至る連通孔を有するために、物質の充填や移動が容易であり、(3)マクロボイドを有するために、物質の充填量を大きくすることができる、という利点を有する。加えて、マクロボイドの隔壁がラダー形状を有する場合、かさ密度に比して相対的に強度が高く、高空孔率にもかかわらず膜厚み方向への圧縮応力に対して耐力があり寸法安定性が特に高いという利点も得られる。本発明の一態様に係る多孔質ポリイミド膜は、物質分離膜(例えば液体濾過膜、気体分離膜等)、絶縁材料、更に、例えば細胞培養用シート等としても有用である。
【0015】
また、マクロボイドにより、本開示の多孔質ポリイミド膜は大きな空間を有し、空孔率が高い。そのため、例えば絶縁基板として用いた場合には誘電率を低くすることができ、例えば物質をボイド中に充填する場合にはその充填量を大きくすることができ、また例えば細胞培養用シートとして用いた場合には細胞の培養空間を広くすることができる等、用途に応じた種々の利点が得られる。
【0016】
更に、本開示の多孔質ポリイミド膜は、マクロボイドを有しながら、表面層(a)及び(b)の開口率及び開口径が大きく、かつ表面層(a)と表面層(b)とでの開口径の差が小さい(すなわち膜の両表面の構造差が小さい)という特異な形態を有する。このような膜は、(1)表裏を区別せずに使用できる、(2)ろ過フィルター用途では、ろ過の閾サイズをより明確に規定できる、等の点で有利である。また、表面層(a)及び(b)の両者が大きい開口径を有することは、厚み方向の良好な物質透過性、ひいてはフィルター用途、物質担持用途(例えば、反応デバイス用途)等における高い処理能力の実現に寄与する。また、細胞培養用シートに用いる場合は、両表面からの細胞の膜内部への出入りが容易になり、かつ両表面での易動性に差が無くなり、より円滑で均質な培養が行えると共に取り扱いが容易になる点で有利である。
【0017】
表面層(a)及び(b)のそれぞれにおいて、細孔の面積平均開口径は20μm以上である。本発明者らは、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間での一層良好な物質移動を実現するためには、表面層(a)及び(b)に細孔を存在させることに加え、当該細孔の少なくとも一部を大開口径にすることが重要であることを見出した。本発明者らは更に、上記物質移動の良否と、表面層(a)及び(b)の面積平均開口径とが高い相関関係を有することを見出した。面積平均開口径は面積で重みづけされた平均径であることから、例えば個数平均開口径と比べて、大開口径の細孔のサイズがより大きく反映される。上記面積平均開口径が20μm以上であることは、大開口径の細孔の寄与による良好な物質移動を得る点で有利である。面積平均開口径は、物質移動を良好にする観点から、好ましくは、30μm以上、40μm以上、又は50μm以上であり、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、200μm以下、100μm以下、90μm以下、又は75μm以下である。
【0018】
一態様において、表面層(a)の面積平均開口径Aと表面層(b)の面積平均開口径Bとは、下記の関係:
0.80≦A/B≦1.25
を満たす。上記A/Bが1に近いほど、表面層(a)と表面層(b)とでの開口径の差が小さく、多孔質ポリイミド膜の両表面の構造差が小さいことを意味する。A/Bは、当該構造差を小さくすることによる利点(すなわち、表裏を区別せずに使用できること、ろ過の閾サイズをより明確に規定できること等)を良好に得る観点から、A/Bは、0.80以上1.25以下であり、好ましくは、0.90以上1.12以下、0.91以上1.10以下、又は0.94以上1.07以下である。
【0019】
表面層(a)の細孔の個数平均開口径は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間の物質移動を良好にする観点から、好ましくは、20μm以上、23μm以上、25μm以上、又は30μm以上であり、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、200μm以下、100μm以下、70μm以下、又は50μm以下である。
【0020】
表面層(b)の細孔の個数平均開口径は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間の物質移動を良好にする観点から、好ましくは、25μm以上、30μm以上、35μm以上、又は40μm以上であり、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、200μm以下、150μm以下、100μm以下、又は80μm以下である。
【0021】
表面層(a)及び(b)のそれぞれにおいて、細孔の最大開口径は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間の物質移動を良好にする観点から、好ましくは、80μm以上、90μm以上、100μm以上、又は110μm以上であり、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、又は200μm以下である。
【0022】
表面層(a)及び(b)のそれぞれの表面において、面積1mm2当たりに存在する開口径20μm以上の細孔の個数は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間での良好な物質移動の観点から、好ましくは、20個以上、30個以上、又は50個以上であり、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、500個以下、400個以下、又は300個以下である。
【0023】
表面層(a)及び(b)のそれぞれの表面において、全細孔数に対する、開口径20μm以上の細孔の数の比率は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間での良好な物質移動の観点から、好ましくは、30%以上、50%以上、又は70%以上である。当該比率は、最も好ましくは100%であるが、多孔質ポリイミド膜の製造容易性の観点から、95%以下、又は90%以下であってよい。
【0024】
一態様においては、表面層(a)の表面開口率が5%以上、かつ表面層(b)の表面開口率が10%以上である。このような表面開口率は、表面層(a)及び表面層(b)の両者が多孔質ポリイミド膜表面において良好に開口していることを意味し、膜厚方向に連通する孔によって膜厚方向における良好な物質移動性能を与える。
【0025】
一態様において、表面層(a)の表面開口率は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間の物質移動を良好にする点で、5%以上であり、好ましくは、7%以上、8%以上、10%以上、又は15%以上である。表面層(a)の表面開口率は、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下である。
【0026】
一態様において、表面層(b)の表面開口率は、多孔質ポリイミド膜の外部とマクロボイドとの間の物質移動を良好にする点で、10%以上であり、好ましくは、12%以上、15%以上、19%以上、又は25%以上である。表面層(b)の表面開口率は、多孔質ポリイミド膜の良好な機械強度を得る観点から、好ましくは、90%以下、80%以下、70%以下、又は60%以下である。
【0027】
図1(a)及び(b)を参照し、マクロボイド31の膜平面方向の個数平均孔径は、好ましくは10~500μm、より好ましくは10~100μm、更に好ましくは10~80μmである。一態様において、マクロボイド層を膜平面方向に対して平行に切断したときの断面は、図1(a)に模式的に示すように、ハニカム構造またはそれに類似する構造であり、所定の孔径を有する複数のマクロボイドが隔壁を挟んで密接して存在している。すなわち、多孔質ポリイミド膜は、いわゆる「ハニカムサンドウィッチ構造」を有してよい。なお、本開示における「ハニカム構造」とは、個々に区分された多数の空間部が密集している構造を意味するにすぎず、前記空間部が正確に断面六角形になった構造のみを意味するものではない。
【0028】
図1(a)及び(b)並びに図2を参照し、多孔質ポリイミド膜1は複数の隔壁32を有するが、少なくとも1つの隔壁は、1つまたは複数の孔35を有する。孔35の個数平均開口径は、特に限定されないが、好ましくは0.01~100μmであり、より好ましくは0.01~50μmであり、更に好ましくは0.01~20μmであり、一層好ましくは0.01~10μm、特に好ましくは0.02~2μmである。
【0029】
隔壁は、表面層(a)及び(b)に結合している。隔壁は、マクロボイド同士を隔てる役割を有すると共に、表面層(a)及び(b)を支持する支持部としての役割を有する。このため、多孔質ポリイミド膜は、高空孔率にもかかわらず膜厚み方向への圧縮応力に対して耐力があり、寸法安定性が高い。このような利点は、多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断したときの断面において、隔壁並びに表面層(a)及び(b)がラダー形状に構成されている場合、特に顕著である。なお、ラダー形状とは、隔壁が、ほぼ一定の間隔で、膜平面方向に対してほぼ垂直方向に形成されて表面層(a)及び(b)に結合している形状を意味する。
【0030】
物質透過性の観点から、本発明の多孔質ポリイミド膜を膜平面方向に対して垂直に切断した断面において、膜平面方向の個数平均孔径が10~500μmのマクロボイドの断面積は、膜断面積に対して好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上、特に好ましくは75%以上であり、また、好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。
【0031】
また、図1(b)を参照し、物質透過性、軽量性、及び膜の構造保持性の観点から、多孔質ポリイミド膜1を膜平面方向に対して垂直に切断した断面において、マクロボイド31の総数の好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは75~100%の、膜平面方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比(L/d)が、好ましくは0.5~3、より好ましくはL/d=0.8~3、更に好ましくはL/d=1~3、特に好ましくはL/d=1.2~3の範囲内である。なお、マクロボイドの膜厚み方向の長さ(d)は、マクロボイドの膜厚み方向の最大長さであり、マクロボイドの膜平面方向の長さ(L)は、マクロボイドの膜平面方向の最大長さである。
【0032】
多孔質ポリイミド膜の空孔率は、物質透過性、力学強度、及び膜の構造保持性の観点から、50~95%であり、好ましくは55~90%、より好ましくは60~85%、更に好ましくは60~80質量%の範囲である。
【0033】
一態様において、多孔質ポリイミド膜は、マクロボイドを有しながら両表面の開口率及び開口径が大きいため、低い通気抵抗を有することができる。低い通気抵抗は、フィルター用途、物質担持用途(例えば、反応デバイス用途)等において処理能力を高くできる点で有利である。多孔質ポリイミド膜の通気抵抗は、例えばガーレー値(0.879g/m2の圧力下で100ccの空気が膜を透過するのに要する秒数)で評価する事が出来る。良好な物質移動性を得る観点から、多孔質ポリイミド膜のガーレー値は、好ましくは、1秒以下、0.5秒以下、0.3秒以下、又は0.2秒以下である。ガーレー値は、JIS P8117に準拠して測定される値である。
【0034】
多孔質ポリイミド膜の、パームポロメーターで測定される平均流量孔径は、物質透過性、力学強度、及び膜の構造保持性の観点から、好ましくは5~200μm、より好ましくは10~100μm、更に好ましくは10~50μm、特に好ましくは10~30μmである。
【0035】
多孔質ポリイミド膜の、200℃、15分、0.5MPaの圧縮応力負荷後の膜厚み変化率は、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは0~1%である。また、ASTM D1204に準拠した200℃、2時間での膜平面方向における寸法安定性は、好ましくは±1%以内、より好ましくは±0.8%以内、更に好ましくは±0.5%以内である。
【0036】
多孔質ポリイミド膜は、ポリイミドを含み、典型的には実質的にポリイミドからなる。多孔質ポリイミド膜を製造する際の原料溶液におけるポリイミドまたはポリイミド前駆体ポリマーの極限粘度は、多孔質ポリイミド膜のマクロボイドを良好に形成する観点で、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.3以上であり、多孔質ポリイミド膜の製造容易性の観点から、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.8以下、更に好ましくは2.6以下である。
【0037】
また、多孔質ポリイミド膜、又はその原料としてのポリイミドは、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が、200℃以上であるか、又は明確なガラス転移温度が観察されないことが好ましい。
【0038】
一態様において、多孔質ポリイミド膜は、高い全光線透過率を有することができる。全光線透過率が高い膜は、可視光線又はその近傍の波長域の光を利用する光学顕微鏡(例えば位相差顕微鏡、偏光顕微鏡、微分干渉顕微鏡、蛍光顕微鏡等)により、厚み方向のいずれの箇所の観察も可能である。このことは、例えば、細胞培養用シート用途での顕微鏡観察(すなわち、膜に接着した状態の細胞の顕微鏡観察)等において有利である。多孔質ポリイミド膜の全光線透過率は、好ましくは、25%以上、40%以上、又は50%以上である。当該全光線透過率は高いほど好ましいが、製造容易性の観点から、例えば、99%以下、90%以下、又は80%以下であってよい。
【0039】
一態様において、多孔質ポリイミド膜は低いヘイズを有することができる。ヘイズが低いこともまた上記の光学顕微鏡による観察において有利である。多孔質ポリイミド膜のヘイズは、好ましくは、95%以下、92%以下、又は90%以下である。当該ヘイズは低いほど好ましいが、製造容易性の観点から、例えば、60%以上、70%以上であってよい。
【0040】
<多孔質ポリイミド膜の製造方法>
本発明の別の態様は、前述の本発明の一態様に係る多孔質ポリイミド膜の製造方法を提供する。該方法は、
ポリアミック酸と有機溶媒とを含む(好ましくは、ポリアミック酸と有機溶媒とからなる)ポリアミック酸溶液をフィルム状に流延し、水と良溶媒とを必須に含む凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸の多孔質膜を作製する工程、及び
上記工程で得られたポリアミック酸の多孔質膜を熱処理してイミド化する工程、
を含む。一態様において、水は、当該方法で用いられるポリアミック酸の貧溶媒又は非溶媒である。
【0041】
典型的な態様において、多孔質ポリイミド膜は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドを主たる成分とする多孔質ポリイミド膜であり、好ましくはテトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜である。
【0042】
一態様において、ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとから得られるポリアミック酸のイミド化によって形成される。ポリアミック酸とは、テトラカルボン酸単位及びジアミン単位からなり、ポリイミド前駆体又は部分的にイミド化したポリイミド前駆体である。ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合することで得ることができる。ポリアミック酸を熱イミド化又は化学イミド化することにより、閉環してポリイミドとすることができる。多孔質ポリイミド膜を構成するポリイミドのイミド化率は、好ましくは約80%以上、より好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。
【0043】
テトラカルボン酸二無水物は、任意のテトラカルボン酸二無水物を用いることができ、所望の特性等に応じて適宜選択することができる。テトラカルボン酸二無水物の具体例として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)等のビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p-ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(2,2-ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等を挙げることができる。また、2,3,3’,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族テトラカルボン酸を用いることも好ましい。これらは単独でも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
これらの中でも、特に、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。ビフェニルテトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を好適に用いることができる。
【0045】
ジアミンは、任意のジアミンを用いることができる。ジアミンの具体例として、以下のものを挙げることができる。
1)1,4-ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン等のベンゼン核1つのべンゼンジアミン、
2)4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル等のジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジカルボキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホキシド等のベンゼン核2つのジアミン、
【0046】
3)1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)-4-トリフルオロメチルベンゼン、3,3’-ジアミノ-4-(4-フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’-ジアミノ-4,4’-ジ(4-フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(3-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4-ビス〔2-(4-アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン等のベンゼン核3つのジアミン、
【0047】
4)3,3’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔3-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔3-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等のベンゼン核4つのジアミン。
これらは単独でも、2種以上を混合して用いることもできる。用いるジアミンは、所望の特性等に応じて適宜選択することができる。
【0048】
これらの中でも、芳香族ジアミン化合物が好ましく、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル及びパラフェニレンジアミン、1,3-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェニル)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンを好適に用いることができる。特に、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンが好ましい。
【0049】
多孔質ポリイミド膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、ガラス転移温度が240°C以上であるか、又は300°C以上で明確な転移点がないテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを組み合わせて得られるポリイミドから形成されていることが好ましい。
【0050】
本発明の多孔質ポリイミド膜は、耐熱性、高温下での寸法安定性の観点から、以下の芳香族ポリイミドからなる多孔質ポリイミド膜であることが好ましい。(i)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、(ii)テトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド、及び/又は、(iii)ビフェニルテトラカルボン酸単位及びピロメリット酸単位からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸単位と、ベンゼンジアミン単位、ジアミノジフェニルエーテル単位及びビス(アミノフェノキシ)フェニル単位からなる群から選ばれる少なくとも一種の芳香族ジアミン単位とからなる芳香族ポリイミド。
【0051】
特に好ましい態様において、ポリアミック酸は、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物と、ベンゼンジアミン、ジアミノジフェニルエーテル及びビス(アミノフェノキシ)フェニルからなる群から選ばれる少なくとも一種のジアミンとから得られるものである。
【0052】
ポリアミック酸溶液は、好ましくは、ポリアミック酸3~60質量%と有機溶媒40~97質量%とを含み、好ましくはこれらからなる。ポリアミック酸の含有量が3質量%以上である場合、多孔質ポリイミド膜を作製した際のフィルム強度が良好であり、60質量%以下である場合、多孔質ポリイミド膜の物質透過性が良好である。ポリアミック酸溶液におけるポリアミック酸の含有量は、好ましくは4~40質量%、より好ましくは5~20質量%、更に好ましくは6~15質量%である。ポリアミック酸と有機溶媒とからなるポリアミック酸溶液を用いて多孔質ポリイミド膜を製造することは、前述の全光線透過率が高く、及び/又は前述のヘイズが低い多孔質ポリイミド膜を得る観点から特に有利である。
【0053】
ポリアミック酸を重合するための溶媒としては任意の有機溶媒(典型的には有機極性溶媒)を用いることができ、p-クロロフェノール、o-クロルフェノール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ピリジン、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、フェノール、クレゾール等の有機極性溶媒等を用いることができ、特にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を好ましく用いることができる。
【0054】
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン、及び上記の有機極性溶媒等を用いて任意の方法で製造することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンと略等モルで、好ましくは約100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは0~60℃、特に好ましくは20~60℃の温度で、好ましくは約0.2時間以上、より好ましくは0.3~60時間反応させることで、ポリアミック酸溶液を製造することができる。
【0055】
ポリアミック酸溶液を製造するときに、分子量を調整する目的で、任意の分子量調整成分を反応溶液に加えてもよい。
【0056】
ポリアミック酸の極限粘度は、好ましくは、1.0~3.0、1.3~2.8、又は1.4~2.6であってよい。極限粘度が1.0以上である場合、膜の製造工程で力学強度の不足等による膜の破壊が生じにくく好ましい。また、極限粘度が3.0以下である場合、熱イミド化工程において膜の収縮が大きすぎず破壊が生じにくく好ましい。なお、本開示におけるポリアミック酸の極限粘度は、便宜上、希釈溶媒としてN-メチル-2ピロリドン(NMP)を用いて得られる値である。なお、ポリアミック酸において、分子量と極限粘度とには相関関係があり、分子量が増大すると極限粘度は上昇する。具体的には、マーク-ホーウインク式を用いることにより極限粘度から分子量を求めることが出来る。
【0057】
特に好ましい態様においては、ポリアミック酸溶液が、極限粘度1.0~3.0のポリアミック酸3~60質量%と、有機溶媒40~97質量%とからなり、有機溶媒が、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドからなる群から選択される1種以上である。
【0058】
ポリアミック酸溶液は、有機極性溶媒の存在下でテトラカルボン酸二無水物とジアミンを重合反応させて得られる溶液であってよく、又は、ポリアミック酸を有機極性溶媒に溶解させて得られる溶液であってよい。ポリアミック酸溶液においては、アミック酸の一部が本発明に影響を及ぼさない範囲でイミド化していてもよい。
【0059】
ポリアミック酸溶液の溶液粘度は、流延のしやすさ及びフィルム強度の観点から、好ましくは10~10000ポアズ(1~1000Pa・s)、より好ましくは100~3000ポアズ(10~300Pa・s)、更に好ましくは200~2000ポアズ(20~200Pa・s)、特に好ましくは300~1000ポアズ(30~100Pa・s)である。
【0060】
凝固溶媒は、水と良溶媒とを含む。良溶媒は、30℃におけるポリアミック酸の溶解度が水よりも高い溶媒である。良溶媒を含む凝固溶媒を用いることは、表面層(a)及び(b)の細孔サイズの制御に有利である。すなわち、良溶媒を含む凝固溶媒は、例えば水のみからなる凝固溶媒と比べて、ポリアミック酸との親和性が高い。良溶媒を含む凝固溶媒を用いることで、ポリアミック酸の急激な凝固挙動を低減できるため、細孔サイズが大きい(具体的には表面層(a)及び(b)の面積平均開口径がそれぞれ20μm以上の)多孔質ポリイミド膜構造を形成できる。また、工業的には均質性の高い膜を形成できる。本開示の多孔質ポリイミド膜の表面の所望の開口径(特に面積平均開口径)を得るための有用な手段の1つは、水と良溶媒とを含む本開示の凝固溶媒を用いることである。
【0061】
良溶媒のSP(溶解度パラメータ)値は、ポリアミック酸の凝固の進行が過度に遅くなることによる多孔質構造の乱れを低減する観点から、好ましくは、10(cal/cm0.5以上、又は10.5(cal/cm0.5以上であり、ポリアミック酸の急激な凝固挙動を低減する観点から、好ましくは、13.5(cal/cm0.5以下、13(cal/cm0.5以下、又は12.5(cal/cm0.5以下である。なお本開示において、SP値は、ハンセン法に従って求められる値である。
【0062】
一態様において、良溶媒は、20℃の該良溶媒100gに対してポリアミック酸が10g以上溶解する溶媒である。20℃の良溶媒100gに対するポリアミック酸の溶解量は、ポリアミック酸の急激な凝固挙動を低減する観点から、好ましくは15g以上、20g以上、又は30g以上であり、ポリアミック酸の凝固の進行が過度に遅くなることによる多孔質構造の乱れを低減する観点から、好ましくは、50g以下、40g以下、又は35g以下である。
【0063】
良溶媒の好適例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド、ピリジン等が挙げられる。中でも、ポリアミック酸との親和性が良好である点で、N-メチル-2-ピロリドン、N、N-ジメチルアセトアミド、及びN、N-ジメチルホルムアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンが特に好ましい。
【0064】
凝固溶媒は、ポリアミック酸の貧溶媒(具体的には20℃の該貧溶媒100gに対するポリアミック酸の溶解量が1g未満である溶媒)、例えばエタノール、メタノール等のアルコ-ル類、アセトン等を更に含んでもよい。
【0065】
凝固溶媒中の良溶媒の比率は、凝固溶媒のポリアミック酸との親和性を良好にする観点から、好ましくは、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上、又は18質量%以上であり、ポリアミック酸の凝固の進行が過度に遅くなることによる多孔質構造の乱れを低減する観点から、好ましくは、20質量%以下、19質量%以下、又は18質量%以下である。好ましい態様においては、凝固溶媒中の良溶媒の比率が15質量%~20質量%であり、凝固溶媒中の貧溶媒及び非溶媒の合計比率(一態様においては、水(貧溶媒又は非溶媒として)の比率)が80質量%~85質量%である。
【0066】
以下、各工程のより具体的な手順を例示する。
【0067】
(流延工程)
まず、ポリアミック酸溶液をフィルム状に流延する。流延方法は特に限定されず、例えば、ポリアミック酸溶液をドープ液として使用し、ブレードやTダイ等を用いてガラス板やステンレス板等の上に、ポリアミック酸溶液をフィルム状に流延することができる。また、連続の可動式のベルト又はドラム上に、ポリアミック酸溶液をフィルム状に断続的又は連続的に流延して、連続的に個片又は長尺状の流延物を製造することができる。ベルト又はドラムは、ポリアミック酸溶液及び凝固溶液に影響を受けないものであればよく、ステンレス等の金属製、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂製を用いることができる。また、Tダイからフィルム状に成形したポリアミック酸溶液をそのまま凝固浴に投入することもできる。また、必要に応じて流延物の片面又は両面を、水蒸気等を含むガス(空気、不活性ガス等)と接触させてもよい。
【0068】
(ポリアミック酸の多孔質膜の作製工程)
次に、流延物を、凝固溶媒に浸漬又は接触させて、ポリアミック酸を析出させて多孔質化を行うことで、ポリアミック酸の多孔質膜を作製する。得られたポリアミック酸の多孔質膜は、必要に応じて洗浄及び/又は乾燥を行う。
【0069】
凝固溶媒の温度は、目的に応じて適宜選択すればよく、例えば-30℃~70℃、好ましくは0℃~60℃、更に好ましくは10℃~50℃の範囲である。
【0070】
(イミド化工程)
流延工程の後、得られたポリアミック酸の多孔質膜を熱処理又は化学処理によってイミド化して多孔質ポリイミド膜を製造する。簡便な製造プロセスの観点から、熱イミド化処理が好ましい。熱イミド化処理は、当該処理後の膜の縦方向(長手方向)及び横方向の収縮率を、好ましくはそれぞれ40%以下、より好ましくは30%以下に抑制するように行われる。特に限定されないが、熱イミド化は、例えば、ポリアミック酸の多孔質膜を、ピン、チャック若しくはピンチロール等を用いて支持体に固定し、大気中にて加熱することにより行っても良い。反応条件は、例えば280~600℃、好ましくは300~550℃の加熱温度で、1~120分間、好ましくは2~120分間、より好ましくは3~90分間、更に好ましくは5~30分の加熱時間から適宜選択して行うことが好ましい。好ましい態様において、熱処理は、ポリアミック酸の多孔質膜を250℃以上まで昇温させることを含む。
【0071】
200℃以上の温度域での昇温速度は、好ましくは、200℃/分超、230℃/分以上、240℃/分以上、又は250℃/分以上である。イミド化反応が顕著に起こる200℃以上の温度域において上記の昇温速度で加熱することにより、表面開口率及び開口径が大幅に向上し、気体等の物質透過性が大幅に向上した多孔質ポリイミド膜を得ることができる。昇温速度の上限は、所望の多孔質構造をより安定的に形成する観点から、好ましくは、3000℃/分以下、2000℃/分以下、1500℃/分以下である。
【0072】
上記したように、多孔質ポリイミド膜の製造においては、用いるポリマー及び有機溶媒の種類、ポリマー溶液のポリマー濃度、ポリマー及びポリマー溶液の粘度、凝固条件(凝固溶媒の種類、凝固温度等)等を選択することで、膜厚、面積平均開口径、個数平均開口径、最大開口径、空孔率等を制御できる。なお、多孔質ポリイミド膜には、目的に応じて少なくとも片面にコロナ放電処理、低温プラズマ放電処理、常圧プラズマ放電処理等のプラズマ放電処理、化学エッチング等を施してもよい。
【0073】
<多孔質ポリイミド膜の用途>
ポリイミドは他のプラスチックに比べて耐熱性及び機械強度に優れるため、本開示の多孔質ポリイミド膜は例えば250℃以上のような高温条件下でも好適に使用できる。高温条件の用途の具体例としては、音響部品の保護膜、耐熱フィルタ等が挙げられる。また、本開示の多孔質ポリイミド膜は、マクロボイドを有しながら、機械強度が良好で、かつ高い光線透過率を有する。このような特性は例えば細胞培養用シートとして特に好適である。
【実施例
【0074】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
(多孔質ポリイミド膜の評価)
(1)膜厚
膜厚の測定は、接触式の厚み計で行った。
【0076】
(2)気体透過性(ガーレー値)
ガーレー値(0.879g/m2の圧力下で100ccの空気が膜を透過するのに要する秒数)の測定を、JIS P8117に準拠して行った。
【0077】
(3)平均表面開口率及び孔径
(a)表面層(a)及び(b)の平均表面開口率、個数平均開口径、面積平均開口径及び最大開口径
多孔質ポリイミド膜表面の走査型電子顕微鏡像より、200点以上の開孔部について各々の孔面積Sを測定し、下式(1)に従って孔の形状が真円であるとした際の直径dを計算より求めた。
孔径d=2×(S/π)0.5…(1)
求めた各々の孔径dから、個数平均開口径Sn、及び面積平均開口径Saを、下式(2)、(3)に従って求めた。
個数平均開口径Sn=Σ(d)/n…(2)
(n:孔の総数)
面積平均開口径Sa=Σ(d)/Σ(d)…(3)
また、2.36mm×1.88mmの観察視野内の細孔について、当該観察視野の面積に対する観察視野内の細孔の合計面積の比率を平均表面開口率とし、当該観察視野内での細孔の孔径dの最大値を最大開口径とした。
【0078】
(b)表面層(a)及び(b)における開口径20μm以上の細孔の個数
多孔質ポリイミド膜表面の走査電子顕微鏡像において、2.36mm×1.88mmの観察視野内に存在する、孔径dが20μm以上の細孔の個数から単位面積当たりの個数(単位:個/mm2)を求めた。
【0079】
(4)寸法安定性
寸法安定性の測定は、200℃で2時間の条件で、ASTM D1204に準拠して行った。
【0080】
(5)空孔率
所定の大きさに切り取った多孔質ポリイミド膜の膜厚D、面積E及び質量Wを測定し、目付質量から空孔率Pを下式(4)によって求めた。
空孔率P=(1-(W/(E×D×ρ))×100(%)…(4)
(式中、ρはポリイミドの密度を意味し、ポリイミドの密度は1.37g/cm3として計算した。)
【0081】
(6)ガラス転移温度(℃)
固体粘弾性アナライザーを用いて、引張モード、周波数10Hz、ひずみ2%、窒素ガス雰囲気の条件で動的粘弾性測定を行い、その温度分散プロファイルにおいて損失正接が極大値を示す温度をガラス転移温度とした。
【0082】
(7)平均流量孔径
パームポロメーター(POROMETER 3G zh(カンタクローム社製))を用いて測定した。
【0083】
(8)溶液粘度
溶液粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)製造例で調製したポリイミド溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製、高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式、コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリイミド溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、更に2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
【0084】
(9)ポリアミック酸の極限粘度
希釈溶媒としてN-メチル-2ピロリドン(NMP)を用い、以下の測定手順により極限粘度を求めた。
(i)溶液濃度cが0.1,0.075,0.05,0.025,0.010〔g/dL〕になるように、測定対象のポリアミック酸のNMP溶液を調整した。溶液は、嫌気雰囲気中で1週間の間連続して攪拌操作を施した。
(ii)ウベローデ型希釈粘度計を用いて30℃の恒温槽中で、NMPの流下時間を測定した。続けて(i)で作製した溶液についても各々流下時間を測定した。いずれの測定も3回行い、平均値を採用した。測定時間のばらつきが3%以上であった場合は、更に2回の追加測定を行い小さい値から3点の平均値を取り、採用値とした。
(iii)上記(ii)の測定値から比粘度ηspを算出し、y 軸をηsp/c、x 軸をcにしたグラフを作成した(Hugginsプロット)。プロット点をグラフソフトで直線回帰分析を行い回帰直線の切片から極限粘度を求めた。回帰直線のR2が0.900以下であった場合は、再度溶液を作製し、再測定を行った。
【0085】
(10)全光線透過率(%)及び濁度(ヘイズ)
JIS K7361、7136及び7105、並びにASTM D1003に準拠したヘーズメーター(日本電色工業株式会社製、商品名:NDH5000)を用いて、膜の全光線透過率、及び濁度(ヘイズ)を測定した。
【0086】
[調製例1]
(ポリアミック酸溶液組成物Aの調製)
500mlのセパラブルフラスコに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶媒として用いて、酸無水物として3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)を、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを、酸無水物/ジアミンのモル比0.997、ポリマー濃度が8質量%になる量を測り取って投入した。その後、撹拌翼、窒素導入管、排気管を取り付けたセパラブルカバーで蓋をし、撹拌操作を30時間継続した。撹拌を終了し、フラスコ内のドープを加圧ろ過器(濾紙:アドバンテック東洋(株)製:粘稠液用濾紙No.60)でろ過して、ポリアミック酸溶液組成物A(ポリアミック酸濃度:8質量%)を得た。溶液組成物Aは粘稠な液体であり、溶液粘度は360ポイズ(30℃)であった。また上記ポリアミック酸は、極限粘度2.8を有し、30℃の水100gに対して2g以下、30℃のNMP100gに対して30g以上、及び20℃のNMP100gに対して25g以上溶解するものであった。
【0087】
[調製例2]
(ポリアミック酸溶液組成物Bの調製)
調製例1で得られたポリアミック酸溶液組成物A 100質量部に対してポリアクリロニトリル共重合体(三井化学株式会社製、商品名:バレックス2090S、以下「PAN」ともいう)5質量部を投入した。その後、撹拌翼、窒素導入管、排気管を取り付けたセパラブルカバーで蓋をし、20時間撹拌を継続してポリアミック酸溶液組成物を得た。フラスコ内のドープを加圧ろ過器(アドバンテック東洋株式会社製、粘調液用濾紙No.60使用)でろ過して、ポリアミック酸溶液組成物Bを得た。溶液は粘調な懸濁液体で、溶液粘度は430ポイズ(30℃)であった。
【0088】
[実施例1~4、比較例1~2]
(ポリアミック酸溶液組成物Aを用いる多孔質ポリイミド膜の作製)
室温下で、卓上の自動コーターを用いて、表面に鏡面研磨を施したステンレス製の20cm角の基板上に、調製例1で調製したポリアミック酸溶液組成物Aを厚み約130μmで、均一に流延塗布した。その後、15秒間、温度23℃、湿度40%の大気中に放置し、その後、表1に示すNMP濃度である水とNMPの混合溶媒からなる室温の凝固浴中に基板全体を投入した。投入後4分間静置し、基板上にポリアミック酸膜を析出させた。その後、基板を浴中から取りだし、基板上に析出したポリアミック酸膜を剥離した後に、純水中に3分間浸漬し、ポリアミック酸膜を得た。このポリアミック酸膜を温度40℃、湿度40%以下の大気中で乾燥させた後、10cm角のピンテンタ-に張りつけて四辺を拘束した。電気炉内にセットして約10℃/分の昇温速度で70℃まで加熱し、その後、表1に示す昇温速度で360℃まで加熱し、そのまま3分間保持、その後徐冷して、多孔質ポリイミド膜を得た。得られた多孔質ポリイミド膜の、膜厚、空孔率、ガーレー値を表1に示す。なお、NMPのSP値は、11.2である。
【0089】
[比較例3]
(ポリアミック酸溶液組成物Bを用いる多孔質ポリイミド膜の作製)
ポリアミック酸溶液組成物としてポリアミック酸溶液組成物Bを用いる以外は、実施例1と同様の操作を行い、多孔質ポリイミド膜を得た。得られた多孔質ポリイミド膜の、膜厚、空孔率、ガーレー値を表1に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
(表面開口率、開口径の測定)
実施例1~4、及び比較例1~3の表面開口率、開口径、最大開口径、20μm以上の開口の個数、平均流量細孔径を測定した。結果を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
(全光線透過率(%)及び濁度(ヘイズ)の測定)
実施例1~4、及び比較例1~3の全光線透過率(%)及び濁度(ヘイズ)を測定した。結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例1~4及び比較例1~3の多孔質ポリイミド膜の断面を走査型電子顕微鏡で観察した。いずれの膜も膜横方向の長さ10μm以上のマクロボイドが多数確認でき、
・横方向の長さ5μm以上のボイド中、横方向の長さ(L)と膜厚み方向の長さ(d)との比がL/d=0.5~3の範囲に入るボイドの数が60%以上であることを確認した。
・膜横方向の長さ10μm以上500μm以下のマクロボイドの総断面積が膜断面積の60%以上であることを確認した。
【0096】
実施例1~4及び比較例1~3の多孔質ポリイミド膜のガラス転移温度を測定し、いずれも275℃であることを確認した。また、寸法安定性を測定して、いずれの膜も200℃で0.7±0.1%以内であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の多孔質ポリイミド膜は、物質分離膜(例えば液体濾過膜、気体分離膜等)、絶縁材料、細胞培養用シート等の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 多孔質ポリイミド膜
2 表面層(a)
25,45 細孔
3 マクロボイド層
31 マクロボイド
32 隔壁
35 孔
4 表面層(b)
図1
図2
図3
図4